説明

インクジェット記録装置

【課題】自己分散型顔料及びアンモニウムイオン等を含有するインクと、樹脂及びアルカリ金属イオンを含有するインクとを用いて画像を形成した場合において、ヨレ現象の発生を抑制するとともに、発色性、文字品位、耐擦過性、及び耐水性に優れた画像を形成可能なインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インクを吐出する複数のノズル列n1〜n4が配列された記録ヘッドと、第一のインク及び第二のインクをそれぞれ一以上有するインクセットとを備えたインクジェット記録装置である。第一のインクは、自己分散型顔料及びアンモニウムイオン等を含有し、第二のインクは、樹脂及びアルカリ金属イオンを含有し、アンモニウムイオン等の濃度が最も高い第一のインクを吐出するノズル列と、樹脂の濃度が最も高い第二のインクを吐出するノズル列とが、相互に隣接しない位置に配列されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた品位を有する画像を形成することが可能なインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録には、水溶性染料を水性媒体に溶解させた染料インクが汎用されている。また、近年では、染料インクに比して耐水性や耐光性により優れた画像を形成可能な、顔料を水性媒体に分散させた顔料インクが提供されている。分散剤として樹脂を使用して分散させる顔料は、一般的に「樹脂分散型顔料」と呼ばれている。この樹脂分散型顔料を用いた場合には、通常の顔料を用いた場合に比して、耐擦過性や光沢性に優れた画像を形成可能であるとされている。形成される画像の擦過性を高めるために、顔料インクに樹脂が添加されることがある。さらに、色材を含まないクリアインクを用いることで、画像の擦過性をより高める工夫もなされている。
【0003】
また、粒子表面に親水性基を結合させて分散させる顔料は、一般的に「自己分散型顔料」と呼ばれている。この自己分散型顔料を用いた場合には、画像濃度を高めることができる。さらに、自己分散型顔料を用いると、ブリーディングが起こりにくく、文字品位を高めることができる。このため、例えば、自己分散型顔料を含有させたインクを使用して、文字や図形を普通紙に記録する提案がなされている(特許文献1及び2参照)。
【0004】
自己分散型顔料の粒子表面に結合した親水性基には、通常、カウンターイオンが結合している。カウンターイオンとしては、揮発性成分であるアンモニウムイオンや有機アンモニウムイオンが、記録画像の耐水性を向上可能であるため好適に用いられている。このように記録画像の耐水性が向上するのは、記録媒体にインクが付与されるとカウンターイオンが揮発し、色材が不溶化するためと考えられる。カウンターイオンとして、アルカリ金属イオン等を用いることもできる。ただし、アルカリ金属イオン等のカウンターイオンは不揮発性であるので、アンモニウムイオン等の揮発性カウンターイオンを用いた場合のような、記録画像の耐水性の向上はさほど期待できない。
【0005】
近年、記録媒体の種類によらずに良好な画像品位を得るために、種類の異なる複数の顔料インクを併用することについての提案がある。例えば、樹脂分散型顔料を色材とする樹脂分散型顔料インクと、自己分散型顔料を色材とする自己分散型顔料インクの二種類をインクジェット記録装置に搭載して、画像を形成することが提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−198955号公報
【特許文献2】特開2001−089688号公報
【特許文献3】特開2003−213180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
記録媒体の種類によらずに良好な画像品位を得ることを目的として、本発明者らは、自己分散型顔料インクと樹脂分散型顔料インクの二種類のインクを搭載したインクジェット記録装置を用いて様々な検討を行った。具体的には、形成した画像の画像品位、耐水性、及び耐擦過性を確認及び検討した。また、インクジェット記録装置の記録耐久性等についても検討した。なお、自己分散型顔料インクの色材には、耐水性に優れた画像を形成可能とされている−COONH4基が粒子表面に結合した自己分散型顔料を用いた。また、樹脂分散型顔料インクの色材には、1当量の水酸化カリウムで中和されたアクリル系樹脂により顔料を分散させた顔料分散体を用いた。
【0008】
しかしながら、インクジェット記録装置の記録耐久性の試験を行ったところ、以下に示す現象が生ずることが確認された。すなわち、自己分散型顔料インクを用いて記録したノズルチェックパターンにおいて、「ヨレ」が発生するとともに、画像品位が低下した。この「ヨレ」は、記録媒体にインクが付与される位置がずれることによって生ずる現象(以下、「ヨレ現象」とも記す)である。なお、インクの種類によっては、二種類のインクをインクジェット記録装置に搭載した直後、単に吸引回復動作を行っただけでもヨレ現象が生ずる場合があった。
【0009】
本発明の課題は、自己分散型顔料、及びアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンを含有するインクと、樹脂及びアルカリ金属イオンを含有するインクとを用いて画像を形成した場合において、ヨレ現象の発生を抑制するとともに、発色性、文字品位、耐擦過性、及び耐水性に優れた画像を形成可能なインクジェット記録装置を提供することにある。なお、顔料インクを用いる本来の目的は、普通紙等の記録媒体に対しても発色性や文字品位に優れた画像を形成可能とする点にあるといえる。また、耐擦過性に優れた画像とは、光沢紙等の特殊な記録媒体を用いた場合であっても、耐擦過性が極めて損なわれにくい画像を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下に示す構成を採用することで上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明によれば、以下に示すインクジェット記録装置が提供される。
【0011】
[1]インクを吐出する複数のノズル列が配列された記録ヘッドと、第一のインク及び第二のインクをそれぞれ一以上有するインクセットとを備えたインクジェット記録装置であって、前記第一のインクは、自己分散型顔料、及びアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンを含有し、前記第二のインクは、樹脂、及びアルカリ金属イオンを含有し、前記アンモニウムイオン又は前記有機アンモニウムイオンの濃度が最も高い前記第一のインクを吐出するノズル列と、前記樹脂の濃度が最も高い前記第二のインクを吐出するノズル列とが、相互に隣接しない位置に配列されていることを特徴とするインクジェット記録装置(以下、「第一のインクジェット記録装置」とも記す)。
【0012】
[2]インクを吐出する複数のノズル列が配列された記録ヘッドと、第一のインク及び第二のインクをそれぞれ一以上有するインクセットとを備えたインクジェット記録装置であって、前記第一のインクは、自己分散型顔料、及びアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンを含有し、前記第二のインクは、樹脂、及びアルカリ金属イオンを含有し、前記アンモニウムイオン又は前記有機アンモニウムイオンの濃度が最も高い前記第一のインクを吐出するノズル列と、下記式(1)で算出される凝集物強度の値が最も大きい前記第二のインクを吐出するノズル列とが、相互に隣接しない位置に配列されていることを特徴とするインクジェット記録装置(以下、「第二のインクジェット記録装置」とも記す)。
凝集物強度=樹脂の含有量比×吐出時に生ずるアルカリ金属イオンのミスト量比
・・・(1)
【0013】
[3]前記第一のインクを吐出するノズル列の吐出状態と、前記第二のインクを吐出するノズル列の吐出状態が、相互に独立した回復機構によって回復される前記[1]又は[2]に記載のインクジェット記録装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明のインクジェット記録装置は、自己分散型顔料及びアンモニウムイオン等を含有するインクと、樹脂及びアルカリ金属イオンを含有するインクとを用いて画像を形成する場合であっても、顔料インクのノズルからの不吐出が抑制され、ヨレ現象の発生が低減される。このため、本発明のインクジェット記録装置を用いれば、発色性、文字品位、耐擦過性、及び耐水性に優れた画像を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のインクジェット記録装置に用いられる記録ヘッドの一例を模式的に示す平面図である。
【図2】実施例1で用いた記録ヘッドのノズル列の配列を示す模式図である。
【図3】キャップユニットの構成例を示す模式図である。
【図4】実施例2で用いた記録ヘッドのノズル列の配列を示す模式図である。
【図5】実施例3で用いた記録ヘッドのノズル列の配列を示す模式図である。
【図6】比較例1で用いた記録ヘッドのノズル列の配列を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0017】
アンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンを生じうる自己分散型顔料を含有する第一のインクと、アルカリ金属イオンを生じうる樹脂を含有する第二のインクとを用いて画像を形成(記録)した場合に、本発明者らは以下のようなメカニズムによってインクの不吐出やヨレ現象が発生するものと推測した。すなわち、顔料の分散剤等として第二のインクに含有される樹脂は、そのアルカリ金属イオンが、第一のインクに含有されるアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンに置換されると、樹脂はH体を形成して不溶化すると考えられる。そして、その置換の程度が大きいほど樹脂の不溶化も顕著となり、ノズルが詰まったり、記録ヘッドの表面に凝集物が付着したりする。これにより、インクの不吐出やヨレ現象が発生すると考えられる。
【0018】
そこで、本発明者らは、樹脂の不溶化を生じやすい組み合わせのインク同士を、相互に隣接しないノズル列から吐出するように記録ヘッドを構成することで、樹脂の不溶化を回避し、インクの不吐出やヨレ現象の発生を抑制可能であることを見出した。具体的には、以下に示す(1)〜(3)のいずれかの条件を満たすように、第一のインクを吐出するノズル列と、第二のインクを吐出するノズル列とを配列した。
【0019】
条件(1):アンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンの濃度が最も高い第一のインクを吐出するノズル列と、樹脂の濃度が最も高い第二のインクを吐出するノズル列とが、相互に隣接しない位置に配列される(第一のインクジェット記録装置)。
【0020】
条件(2):アンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンの濃度が最も高い第一のインクを吐出するノズル列と、吐出時に生ずるアルカリ金属イオンのミスト量が最も多い第二のインクを吐出するノズル列とが、相互に隣接しない位置に配列される。
【0021】
条件(3):アンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンの濃度が最も高い第一のインクを吐出するノズル列と、凝集物強度の値が最も大きい前記第二のインクを吐出するノズル列とが、相互に隣接しない位置に配列される(第二のインクジェット記録装置)。なお、凝集物強度は下記式(1)によって算出される。
凝集物強度=樹脂の含有量比×吐出時に生ずるアルカリ金属イオンのミスト量比
・・・(1)
【0022】
なお、条件(2)における「吐出時に生ずるアルカリ金属イオンのミスト量」は、日本画像学会 2006年度第1回技術研究会(通算93回)、「インクジェットに関する研究会会報」、1〜15頁における「インクジェット微小液滴挙動及び気流のPIV計測」に記載の方法に従って実測される物性値である。具体的には、以下に示す手順に従って「吐出時に生ずるアルカリ金属イオンのミスト量」を算出することができる。
【0023】
走査型IJプリンタを使用し、Position SensorによってCCD Cameraの撮影タイミングを同期させ、印字部分(着弾媒体とヘッド間)にキャリッジ移動方向と平行にYAG Laserにてレーザー照射する。下記の撮影間隔にて撮影された画像をPCで解析することで、インクミストをドットとして画像表示(可視化)することができる。そして、画像表示されたドットの数(ドット数)をカウントすることで、「吐出時に生ずるアルカリ金属イオンのミスト量」を定量化することができる。なお、具体的な条件は以下に示す通りである。
・Nd:YAG Laser
・最大出力:50mJ/pulse
・ビーム径:7mm
・レーザーシート幅:0.29mm
・CCD Camera:1280×1024 pixel、12bit
・撮影間隔:Δt=70〜140μs
【0024】
また、条件(3)における「凝集物強度」は、顔料の分散剤等として第二のインクに含有される樹脂の「凝集しやすさ」の目安となるパラメータである。この「凝集物強度」の値が大きいほど、アンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンを含有する第一のインクと接触等した場合に、不溶化して凝集物を生成しやすい。
【0025】
さらに、条件(3)における「樹脂の含有量比」(以下、「樹脂含有量比」とも記す)は、第二のインクに含有される樹脂の量(樹脂濃度)の相対値である。すなわち、第二のインクを複数種類用いる場合には、いずれかの第二のインクの樹脂含有量を基準(1)とした場合における相対値として算出される。
【0026】
なお、条件(3)における「吐出時に生ずるアルカリ金属イオンのミスト量比」(以下、「ミスト量比」とも記す)は、日本画像学会 2006年度第1回技術研究会(通算93回)、「インクジェットに関する研究会会報」、1〜15頁における「インクジェット微小液滴挙動及び気流のPIV計測」に記載の方法に従い、いずれかの第二のインクのミスト量を「1」とした場合における相対値として算出される。
【0027】
[記録ヘッドの構成]
本発明のインクジェット記録装置は、インクを吐出する複数のノズル列が配列された記録ヘッドを備える。図1は、本発明のインクジェット記録装置に用いられる記録ヘッドの一例を模式的に示す平面図である。図1に示す記録ヘッドはライン方式の記録ヘッドであり、インクを吐出するための複数のノズル列n1,n2,n3,n4が配列されている。これらのノズル列n1,n2,n3,n4に対応するインクが供給されるように、それぞれのノズル列と、インクカートリッジ(不図示)との間には、インク流路(不図示)が形成されている。
【0028】
図1においてはノズル列をいずれも直線で示しているが、図1中の左側に拡大したように、それぞれのノズル列n1,n2,n3,n4は、複数の吐出口nが配列されることで構成されている。吐出口nの開口径は同一であっても異なっていてもよい。また、一のノズル列内に吐出口nが複数列に配列されていてもよい。さらに、隣接する吐出口n同士の間隔は等間隔でなくてもよく、吐出口nは直線的に配列されていなくてもよい。また、複数のノズル列n1,n2,n3,n4の長さは不均一であってもよい。なお、図1では、全てのノズル列n1,n2,n3,n4がメディア搬送方向に沿って等間隔に配列されているが、隣接するノズル列同士の間隔は必要に応じて任意に設定すればよい。
【0029】
図1に示す記録ヘッドにおいては、インク吐出用の4つのノズル列が形成されている(n1〜n4)。このため、この記録ヘッドからは、4色の顔料インクを吐出することできる。ただし、吐出可能な顔料インクの色数は4色のみに限定されない。すなわち、所望の色数分のノズル列を配置することも可能である。さらには、同色の顔料インクが供給されるノズル列を複数配置してもよい。
【0030】
図1では、四種類のインクにそれぞれ対応する四つのノズル列が一の記録ヘッドに配列された形態のものを示している。ただし、本発明のインクジェット記録装置を構成する記録ヘッドは、図1に示す形態のものに限定されない。例えば、複数種類のインクのうち、一種類以上のインクを吐出するノズル列を第一の記録ヘッドに設け、その他のインクを吐出するノズル列を第二の記録ヘッドに設けてもよい。また、複数種類のノズル列を、それぞれ独立して異なる記録ヘッドに設けてもよい。
【0031】
[インクセット]
本発明のインクジェット記録装置は、第一のインク及び第二のインクをそれぞれ一以上有するインクセットを備える。なお、インクセットには、第一のインクと第二のインクのいずれかが複数以上含まれる。第一のインクには、自己分散型顔料と、アンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンとが含有されている。また、第二のインクには、樹脂と、アルカリ金属イオンとが含有されている。以下、単に「インク」というときは、第一のインクと第二のインクのいずれをも意味する。
【0032】
[第一のインク]
第一のインクに含有される顔料は、少なくとも一種の親水性基が顔料の粒子表面に直接又は他の原子団を介して結合している自己分散型顔料である。他の原子団の具体例としては、アルキレン基、芳香環等を挙げることができる。なお、アルキレン基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等を挙げることができる。また、芳香環の具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環等を挙げることができる。自己分散型顔料を構成する顔料としては、カーボンブラック等の無機顔料や、有機顔料を用いることができる。なかでも、自己分散型顔料としては自己分散型カーボンブラックが好ましい。
【0033】
自己分散型カーボンブラックとしては、アニオン性基がカーボンブラックの粒子表面に結合したアニオン性カーボンブラックを例示することができる。アニオン性基の具体例としては、−COOM、−SO3M、−PO3HM、及び−PO32等の一般式(Mは水素原子、アンモニウム、又は有機アンモニウムを示す)で表される基を挙げることができる。なかでも、−COOM基や−SO3M基がカーボンブラックの粒子表面に直接又は他の原子団を介して結合したアニオン性カーボンブラックは、第一のインク中での分散性が良好であるために好ましい。なお、前記一般式中の「M」で表される基のうち、有機アンモニウムの具体例としては、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、メタノールアンモニウム、ジメタノールアンモニウム、トリメタノールアンモニウム等を挙げることができる。
【0034】
本発明のインクジェット記録装置は、第一のインクに含有されるアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンと、第二のインクに含有される樹脂及びアルカリ金属イオンに起因して生成すると考えられる凝集物を抑制することを目的としている。このため、第一のインクには、アンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンが含有されている。なお、アニオン性基のカウンターイオンがアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンである自己分散型顔料を用いると、第一のインク中ではアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンが生ずる。このため、自己分散型顔料の粒子表面に結合したアニオン性基のカウンターイオンがアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンであれば、他の成分を添加することなく、第一のインク中にアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンを含有させることができる。
【0035】
第一のインクには、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、又は有機アンモニウムイオンを生じうる塩を含有させてもよい。このような塩を含有させると、記録媒体に着弾した第一のインクが速やかに凝集しやすくなる。このため、記録媒体の種類による画像品位の変動が小さくなるとともに、画像濃度がより高く、さらに優れた画像品位を安定して得ることができる。自己分散顔料のカウンターイオンがアルカリ金属イオンである場合には、アンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンを生じうる塩を含有させればよい。一方、自己分散顔料のカウンターイオンがアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンである場合には、アルカリ金属イオンを生じうる塩を含有させればよい。なお、第一のインク中の塩の形態は、その一部が解離した状態であってもよく、完全に解離した状態であってもよい。第一のインクに含有させることができる塩の具体例としては、(M2)NO3、CH3COO(M2)、C65COO(M2)、C24(COO(M2))2、C64(COO(M2))2、(M2)2SO4等(M2はアルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを示す)を挙げることができる。
【0036】
[カーボンブラック]
カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等を用いることができるが、これらに限定されるものではなく、公知のカーボンブラックを用いることができる。なお、マグネタイトやフェライト等の磁性体微粒子や、チタンブラック等を用いてもよい。
【0037】
カーボンブラックの市販品としては、以下商品名で、レイヴァン:7000、5750、5250、5000、3500、2000、1500、1250、1200、1190ULTRA−II、1170、1255(以上、コロンビア製);ブラックパールズ:L、リーガル:400R、330R、660R、モウグル:L、モナク:700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、ヴァルカン:XC−72R(以上、キャボット製);カラーブラック:FW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリンテックス:35、U、V、140U、140V、スペシャルブラック:6、5、4A、4(以上、デグッサ製);No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上、三菱化学製)等を挙げることができる。
【0038】
[第二のインク]
第二のインクには、樹脂と、アルカリ金属イオンとが含有される。第二のインクは、色材をさらに含有するインクであってもよく、色材を含有しないクリアインクであってもよい。色材としては、分散剤として樹脂を使用して顔料を分散させた樹脂分散型顔料を用いることができる。また、顔料等の色材を含有するインクに、後から樹脂を添加してもよい。
【0039】
第二のインクに含有される樹脂の酸価は特に限定されないが、80〜200mgKOH/gであることが好ましい。樹脂の酸価が上記数値範囲であると、第二のインクの安定性がより向上するとともに、形成される画像(文字)の品位もさらに向上する。第二のインクに含有される樹脂を構成するモノマー成分、及びそれぞれのモノマー成分の構成比率等は特に限定されない。モノマー成分の具体例としては、芳香族モノマー、アクリル酸エステル系モノマー、メタクリル酸エステル系モノマー、アニオン性基含有モノマー、ポリエチレンオキシド基含有モノマー、炭化水素系モノマー等を挙げることができる。モノマー成分のさらなる具体例としては、スチレン、ベンジルメタクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート等を挙げることができる。また、アクリル酸、メタクリル酸等の酸モノマーをモノマー成分として用いることもできる。
【0040】
第二のインクに含有される樹脂の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、3,000〜10,000であることが好ましい。樹脂の重量平均分子量(Mw)が上記の数値範囲であると、第二のインクの安定性がより向上するとともに、形成される画像の耐擦過性もさらに向上する。第二のインクに含有される樹脂の量は、第二のインクの全質量を基準として0.5〜5.0質量%であることが好ましい。樹脂の含有量が上記の数値範囲であると、十分な量の樹脂が記録媒体上に付与されるので、形成される画像の耐擦過性がさらに向上する。
【0041】
樹脂は、アルカリ金属塩により中和された状態のものを用いる。なお、アルカリ金属塩で樹脂を中和すると、中和された樹脂が不溶化しにくいといった利点がある。アルカリ金属塩の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属の水酸化物等を挙げることができる。
【0042】
[有機顔料]
第一及び第二のインクに用いることができる有機顔料の具体例としては、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、ピラゾロンレッド等の水不溶性アゾ顔料;リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の水溶性アゾ顔料;アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料;キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料;ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料;イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料;ベンズイミダゾロンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料;ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料の他、インジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、チオインジゴ系顔料、フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等を挙げることができる。
【0043】
また、有機顔料の具体例をカラーインデックス(C.I.).ナンバーで示すと、C.I.ピグメントイエロー:12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、151、153、154、166、168;C.I.ピグメントオレンジ:16、36、43、51、55、59、61;C.I.ピグメントレッド:9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、170、192、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240;C.I.ピグメントバイオレット:19、23、29、30、37、40、50;C.I.ピグメントブルー:15、15:3、15:1、15:4、15:6、22、60、64;C.I.ピグメントグリーン:7、36;C.I.ピグメントブラウン:23、25、26等を挙げることができる。勿論、上記以外の公知の有機顔料を用いることもできる。
【0044】
[水性媒体]
第一のインク及び第二のインクには、いずれも、水と水溶性有機溶剤との混合溶媒である水性媒体が含有されることが好ましい。水としては、脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。
【0045】
水溶性有機溶剤の具体例としては、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール等のアルカンジオール類;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類;エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第3ブタノール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド類;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類;グリセリン;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等のアルキレングリコール類;チオジグリコール;1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体等の多価アルコール類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルモルホリン等の複素環類;ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物等を挙げることができる。
【0046】
インクに含有される水の量は、インクの全質量を基準として50.0〜95.0質量%であることが好ましい。また、インクに含有される水溶性有機溶剤の量は、インクの全質量を基準として3.0〜50.0質量%であることが好ましい。
【0047】
[その他の成分]
第一のインク及び第二のインクは、いずれも上記の成分以外として、必要に応じて各種の添加剤を含有してもよい。添加剤の具体例としては、保湿性固形分、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、水溶性樹脂の中和剤、塩等を挙げることができる。なお、水溶性樹脂の中和剤として塩基を用いてもよい。そのような塩基として、無機アルカリ剤を用いることができる。無機アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属塩の水和物等を挙げることができる。
【0048】
[回復機構]
本発明のインクジェット記録装置は、第一のインクを吐出するノズル列の吐出状態と、第二のインクを吐出するノズル列の吐出状態が、相互に独立した回復機構によって回復されるように構成されていることが好ましい。図3は、本発明のインクジェット記録装置に用いられるキャップユニットの構成例を示す模式図である。図3に示すように、キャップユニットは、ノズル列n1,n2,n3,n4,n5(図1参照)に対応するキャップ部材a1,a2,a3,a4と、ワイパーブレードb1,b2,b3,b4とを備える。そして、ワイパーブレードb1は、ノズル列n1に対応する。以降、ワイパーブレードb2,b3,b4は、ノズル列n2,n3,n4にそれぞれ対応する。ワイパーブレードb1,b2,b3,b4は、例えばゴム等の部材で構成される。図3に示すように、ノズル列ごとに独立してキャップ部材とワイパーブレードを備える構成とすることで、第一のインクを吐出するノズル列の吐出状態と、第二のインクを吐出するノズル列の吐出状態を、別個に回復させることができる。このように、複数のノズル列の吐出状態を相互に独立した回復機構によって回復させるように構成することで、第一のインクと、凝集物強度の値が最も大きい第二のインクとの接触をより確実に防止することができる。このため、ノズルからのインクの不吐出がさらに効果的に抑制されるとともに、ヨレ現象の発生もより確実に防止することができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、単に「部」及び「%」とあるものは、特に断らない限り質量基準である。
【0050】
(1)顔料分散液の調製
(アンモニウムイオンを含有する顔料分散液1)
濃塩酸5gを水5.5gに溶解させて得た塩酸を容器に入れ、5℃に冷却した4−アミノフタル酸1.5gを加えた。容器をアイスバスに入れて内容物を撹拌し、内容物の液温を10℃以下に保った状態で、亜硝酸ナトリウム1.8gを5℃の水9gに溶解させて得た亜硝酸ナトリウム水溶液を加えた。さらに15分間撹拌後、比表面積が220m2/g、DBP吸油量が105mL/100gであるカーボンブラック6gを撹拌下で加えた。さらに15分間撹拌した後、得られたスラリーをろ紙(商品名「標準用濾紙No.2」、アドバンテック製)でろ過した。得られた粒子を十分に水洗した後、110℃のオーブンで乾燥して自己分散型カーボンブラックを得た。得られた自己分散型カーボンブラックを塩酸で処理した後、アンモニア水で中和処理することで、カーボンブラックの粒子表面に−C63−(COONH42基が導入された自己分散型カーボンブラックAを得た。得られた自己分散型カーボンブラックAに水を添加し、顔料濃度が10.0%となるように分散させて顔料分散液1を得た。
【0051】
(アルカリ金属イオンを含有する顔料分散液2)
濃塩酸5gを水5.5gに溶解させて得た塩酸を容器に入れ、5℃に冷却した4−アミノフタル酸1.5gを加えた。容器をアイスバスに入れて内容物を撹拌し、内容物の液温を10℃以下に保った状態で、亜硝酸ナトリウム1.8gを5℃の水9gに溶解させて得た亜硝酸ナトリウム水溶液を加えた。さらに15分間撹拌後、比表面積が220m2/g、DBP吸油量が105mL/100gであるカーボンブラック6gを撹拌下で加えた。さらに15分間撹拌した後、得られたスラリーをろ紙(商品名「標準用濾紙No.2」、アドバンテック製)でろ過した。得られた粒子を十分に水洗した後、110℃のオーブンで乾燥して自己分散型カーボンブラックを得た。得られた自己分散型カーボンブラックを塩酸で処理した後、水酸化カリウムで中和処理することで、カーボンブラックの粒子表面に−C63−(COOK)2基が導入された自己分散型カーボンブラックBを得た。得られた自己分散型カーボンブラックBに水を添加し、顔料濃度が10.0%となるように分散させて顔料分散液2を得た。
【0052】
(アルカリ金属イオンと樹脂を含有する顔料分散液3)
比表面積が220m2/g、DBP吸油量が105mL/100gであるカーボンブラック10.0部、分散剤としてのスチレン/メトキシトリエチレングリコールメタクリレート/アクリル酸のブロック共重合体4.0部、及びイオン交換水86.0部を混合し、ペイントシェーカーを用いて3時間分散処理した。なお、上記のブロック共重合体は、酸価が80mgKOH/gであり、重量平均分子量が9,600であり、1当量の水酸化カリウムで中和したものである。分散処理後、遠心分離によって粗大粒子を除去した。さらに、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)を用いて加圧ろ過して、樹脂分散型カーボンブラックBを得た。得られた樹脂分散型カーボンブラックBに水を添加し、顔料濃度10.0%、樹脂濃度4.0%の顔料分散液3を得た。
【0053】
(アルカリ金属イオンと樹脂を含有する顔料分散液4〜6)
カーボンブラックに代えて、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントレッド122、又はC.I.ピグメントブルー15:3を用いたこと以外は、前述の顔料分散液3の場合と同様にして顔料分散液4〜6を得た。
【0054】
(2)インクの調製
表1に示す配合で合計100部となるように各成分を混合することにより、ブラック顔料インクBk1、ブラック顔料インクBk2、グレー顔料インクGy1、イエロー顔料インクY1、マゼンタ顔料インクM1、シアン顔料インクC1、ライトマゼンタ顔料インクLM1、及びライトシアン顔料インクLC1を調製した(以下、単に「Bk1」、「Bk2」、「Gy1」、「Y1」、「M1」、「C1」、「LM1」、及び「LC1」とも記す)。
【0055】

【0056】
第二のインク(Bk2、Gy1、Y1、M1、C1、LM1、LC1)の「樹脂含有量比」、「ミスト量比」、及び「凝集物強度」を表2に示す。なお、「樹脂含有量比」は、C1の樹脂含有量を「1」とした場合における相対値として算出した。また、「ミスト量比」は、日本画像学会 2006年度第1回技術研究会(通算93回)、「インクジェットに関する研究会会報」、1〜15頁における「インクジェット微小液滴挙動及び気流のPIV計測」に記載の方法に従い、C1のミスト量を「1」とした場合における相対値として算出した。
【0057】

【0058】
[実施例1]
図2は、実施例1で用いた記録ヘッドのノズル列の配列を示す模式図である。図2に示す記録ヘッドは、4つのノズル列n1,n2,n3,n4が配列されている。それぞれのノズル列には、1インチ当たり1200個の密度(1200dpi)で複数の吐出口が形成されている。そして、それぞれの吐出口からは約8ngのインクを吐出することができる。ノズル列n1からは、第一のインクであるブラック顔料インクBk1が吐出される。そして、ノズル列n2〜n4からは第二のインクがそれぞれ吐出される。ノズル列n2からはイエロー顔料インクY1が吐出され、ノズル列n3からはマゼンタ顔料インクM1が吐出され、ノズル列n4からはシアン顔料インクC1が吐出される。
【0059】
図2に示す記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置を使用して普通紙であるPB用紙(キヤノン製)100枚に印刷して画像を記録した。印刷終了後に記録ヘッドの表面を観察したところ、凝集物の付着は認められず、ノズルの詰まりも生じていなかった。なお、記録された画像は、アンモニウムイオンを含む自己分散型顔料を含有するBk1(第一のインク)と、樹脂分散型顔料を含有するY1、M1、及びC1(第二のインク)を使用したので、耐水性及び耐擦過性に優れている。
【0060】
[実施例2]
図4は、実施例2で用いた記録ヘッドのノズル列の配列を示す模式図である。ノズル列n1からは、第一のインクであるブラック顔料インクBk1が吐出される。そして、ノズル列n2〜n4からは第二のインクがそれぞれ吐出される。ノズル列n2からはシアン顔料インクC1が吐出され、ノズル列n3からはマゼンタ顔料インクM1が吐出され、ノズル列n4からはイエロー顔料インクY1が吐出される。図4に示す記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置を使用して、前述の実施例1の場合と同様にして印刷し、画像を記録した。印刷終了後に記録ヘッドの表面を観察したところ、凝集物の付着は認められず、ノズルの詰まりも生じていなかった。なお、記録された画像は、アンモニウムイオンを含む自己分散型顔料を含有するBk1(第一のインク)と、樹脂分散型顔料を含有するC1、M1、及びY1(第二のインク)を使用したので、耐水性及び耐擦過性に優れている。
【0061】
[実施例3]
図5は、実施例3で用いた記録ヘッドのノズル列の配列を示す模式図である。ノズル列n1からは、第一のインクであるブラック顔料インクBk1が吐出される。そして、ノズル列n2〜n8からは第二のインクがそれぞれ吐出される。ノズル列n2からはブラック顔料インクBk2が吐出され、ノズル列n3からはグレー顔料インクGy1が吐出され、ノズル列n4からはイエロー顔料インクY1が吐出される。また、ノズル列n5からはライトマゼンタ顔料インクLM1が吐出され、ノズル列n6からはマゼンタ顔料インクM1が吐出され、ノズル列n7からはライトシアン顔料インクLC1が吐出され、ノズル列n8からはシアン顔料インクC1が吐出される。図5に示す記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置を使用して、前述の実施例1の場合と同様にして印刷し、画像を記録した。印刷終了後に記録ヘッドの表面を観察したところ、凝集物の付着は認められず、ノズルの詰まりも生じていなかった。なお、記録された画像は、アンモニウムイオンを含む自己分散型顔料を含有するBk1(第一のインク)と、樹脂分散型顔料を含有するBk2、Gy1、Y1、LM1、M1、LC1、及びC1(第二のインク)を使用したので、耐水性及び耐擦過性に優れている。
【0062】
[比較例1]
図6は、比較例1で用いた記録ヘッドのノズル列の配列を示す模式図である。ノズル列n1からは、第一のインクであるブラック顔料インクBk1が吐出される。そして、ノズル列n2〜n4からは第二のインクがそれぞれ吐出される。ノズル列n2からはマゼンタ顔料インクM1が吐出され、ノズル列n3からはシアン顔料インクC1が吐出され、ノズル列n4からはイエロー顔料インクY1が吐出される。図6に示す記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置を使用して、前述の実施例1の場合と同様にして印刷し、画像を記録した。印刷終了後に記録ヘッドの表面を観察したところ、凝集物の付着が認められた。また、ノズルの詰まりが生じており、インクの不吐出及びヨレ現象も発生していた。
【0063】
実施例及び比較例の評価結果をまとめたものを表3に示す。
【0064】

【符号の説明】
【0065】
n:吐出口
n1,n2,n3,n4,n5,n6,n7,n8:ノズル列
a1,a2,a3,a4:キャップ部材
b1,b2,b3,b4:ワイパーブレード
Bk1,Bk2:ブラック顔料インク
Gy1:グレー顔料インク
Y1:イエロー顔料インク
M1:マゼンタ顔料インク
LM1:ライトマゼンタ顔料インク
C1:シアン顔料インク
LC1:ライトシアン顔料インク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数のノズル列が配列された記録ヘッドと、第一のインク及び第二のインクをそれぞれ一以上有するインクセットとを備えたインクジェット記録装置であって、
前記第一のインクは、自己分散型顔料、及びアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンを含有し、
前記第二のインクは、樹脂、及びアルカリ金属イオンを含有し、
前記アンモニウムイオン又は前記有機アンモニウムイオンの濃度が最も高い前記第一のインクを吐出するノズル列と、前記樹脂の濃度が最も高い前記第二のインクを吐出するノズル列とが、相互に隣接しない位置に配列されていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
インクを吐出する複数のノズル列が配列された記録ヘッドと、第一のインク及び第二のインクをそれぞれ一以上有するインクセットとを備えたインクジェット記録装置であって、
前記第一のインクは、自己分散型顔料、及びアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンを含有し、
前記第二のインクは、樹脂、及びアルカリ金属イオンを含有し、
前記アンモニウムイオン又は前記有機アンモニウムイオンの濃度が最も高い前記第一のインクを吐出するノズル列と、下記式(1)で算出される凝集物強度の値が最も大きい前記第二のインクを吐出するノズル列とが、相互に隣接しない位置に配列されていることを特徴とするインクジェット記録装置。
凝集物強度=樹脂の含有量比×吐出時に生ずるアルカリ金属イオンのミスト量比
・・・(1)
【請求項3】
前記第一のインクを吐出するノズル列の吐出状態と、前記第二のインクを吐出するノズル列の吐出状態が、相互に独立した回復機構によって回復される請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−63604(P2013−63604A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204100(P2011−204100)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】