説明

インクジェット記録装置

【課題】インク滴を水平方向に吐出するインクジェットヘッドであっても、インク滴が霧状になることを抑制しつつインク受け機構でのインクの固着を防止できるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インク滴2を水平方向に吐出して記録媒体に印字するインクジェットヘッド4と、インクジェットヘッド4から空吐出されたインク滴2を受けるインク受け機構8とを備えるインクジェット記録装置において、インク受け機構8は、空吐出されたインク滴2の吐出範囲21より広く、インク滴2が着弾されるとともに親水性で略鉛直に設けられた受け面22aを有する無孔質のインク受け板22と、このインク受け板22の下方に設けられるとともにインク受け板22に着弾されて滴下されたインク滴2が回収される回収タンク24とを備え、インクジェットヘッド4とインク受け板22の受け面22aとの距離はインク滴2が霧状になる距離よりも短い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、複写機、プリンタ装置、ファクシミリ装置、複合機等に用いられるインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ノンインパクト記録方法は、記録時における騒音が無視し得る程度に小さいという点において有利である。その中でも、高速印字が可能で、しかも普通紙に特別な定着処理を施さずに印字を行えるインクジェット記録方法は、極めて有用な記録方法である。近年では、インクジェット記録方法においてカラーインクを用いたカラー記録方式も種々提案され、また改良が加えられている。
【0003】
従来のこの種のインクジェット記録方法として、複数色のインク滴を飛翔させ、記録媒体に付着させて記録を行うものがある。このインクジェット記録方法を利用するインクジェット記録装置は、水平方向に搬送される記録媒体の上方に設けられるとともにインク滴を真下に噴射するインクジェットヘッドと、インクジェットヘッドを記録媒体に対して幅方向に往復移動させるキャリッジとを備えている。
【0004】
また、このインクジェット記録装置では、記録媒体に印字を行う印字範囲の幅方向外方、すなわち印字範囲外にインク受け機構が設けられている。インク受け機構は、真下を向いたインクジェットヘッドのノズルに対向する水平な多孔質シートと、この多孔質シートの下方に設けられた回収タンクとを備えている。
【0005】
インク受け機構では、インクジェット記録装置の稼働中、不使用のノズルに付着したインクの増粘による吐出不良を防止するために、定期的にノズルからインク滴の空吐出が行われるようになっている。近年では、例えば、数秒ごとに1ノズルあたり数十ショットの空吐出がなされる場合もある。この空吐出は、クリーニング操作後に混色防止のために、または印刷開始時等に実行されることもある。
【0006】
このような空吐出によりノズルに付着して増粘したインクが捨てられるので、増粘したインクが乾燥してノズルを詰らせてしまうことを防止できる。また、このインク受け機構では、インク滴の吐出方向が真下で重力方向と同じであるので、インク滴は速度の速いまま多孔質シートに着弾し、インク滴が霧状になるという問題は発生しない。
【0007】
その一方、記録媒体の搬送方向を鉛直にして、ノズルのインク吐出方向を真下では無く水平方向にしたインクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置が普及しつつある。このようなインクジェット記録装置では、インク受け機構に上述したような水平な多孔質シートを用いると、水平に空吐出されたインク滴が水平な多孔質シートに落下するまでの距離が上述の真下に吐出する場合に比べて長くなってしまうため、ノズルから噴射されたインク滴の速度が遅くなり霧状になって周囲に拡散してしまうという問題があった。
【0008】
すなわち、インク滴が長い距離を飛ぶと、インク滴は空気抵抗によって空気に浮遊してしまい、それが霧状になってしまう。霧状のインク滴は、周囲に拡散しノズル面に周り込んで、キャリッジの往復移動により生じた機内乱気流によって機内に飛散加速される。これにより、霧状のインク滴によって機内が汚染されてしまうという問題があった。
【0009】
これを解決するためには、インク滴が霧状になる前にインク受け機構に着弾させる必要がある。このため、例えば図12に示すように、水平方向に向いたノズル100に対向して多孔質シート101を鉛直になるように配置したインク受け機構102が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
このインク受け機構102は、中央部で130度程度の角度をもって屈曲された第1筒体103および第2筒体104よりなるケース105と、ケース105の開口部105aに取り付けられた四角形状の多孔質シート101とを備えている。多孔質シート101は、その周縁がケース105の開口部105aによって囲まれて固定されている。
【0011】
このインク受け機構102では、ノズル100から水平方向に空吐出されたインク滴106は、多孔質シート101で吸収され、図12に矢印で示すように、多孔質シート101の内部を下方に流れて多孔質シート101の下端部から滴下する。さらに、滴下したインクは、ケース105の内部を伝わって回収タンクに回収されるように構成されている。
【0012】
一方、空吐出時にインク滴が霧状になることを抑制するために、駆動プーリと、駆動プーリと水平な位置に設けられた従動プーリと、これら駆動プーリおよび従動プーリに水平に巻き掛けられたベルトと、ベルトの下側に一辺の縁部をベルトに接触させて設けられた回収タンクと、を備えたインク受け機構が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0013】
このインク受け機構では、インクジェットヘッドからインク滴が真下に向けて空吐出され、インク滴はインクジェットヘッドの真下に位置するベルトの上面に付着される。そして、ベルトの上面にインク滴が堆積すると、駆動ローラを回転させてベルト上のインク滴をベルトとともに移動させる。そして、インク滴がベルトの下側に回り込んで回収タンクの縁部で掻き取られることにより、インクが回収タンクに回収されるようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述した多孔質シート101を鉛直になるように配置したインク受け機構102にあっては、空吐出されたインク滴106を多孔質シート101に吸収させている。このため、一部のインク滴106は多孔質シート101を通過して霧状になってしまい、通過した霧状のインク滴が機内汚染するという問題があった。また、多孔質シート101が鉛直に設けられているので、吸収されたインク滴106の一部は多孔質シート101の下端部から落下せずに下端部に残留してしまい、そのまま増粘して固まってしまう場合がある。このため、固まったインクにより霧状化防止の効果が低下したり、多孔質シート101の吸収性が劣化したり、固まったインクが多孔質シート101の下端部から滴下しようとするインクの妨げになるという問題があった。
【0015】
また、上述した空吐出されたインク滴を水平なベルトにより受けるインク受け機構にあっては、ベルトの下側に配置された回収タンクの縁部でベルトに付着したインク滴を掻き取っている。このため、インクジェットヘッドから空吐出されてベルト上に付着されたインク滴は、ベルトの下側に移動するまで掻き取られない。これにより、インクの付着範囲が広がってベルトの縁から回収タンクの外に滴下してしまったり、あるいはインクの水分が蒸発してインクがベルトに固着してこびり付いてしまうという問題があった。また、このインク受け機構を水平方向にインク滴を空吐出するインジェットヘッドに適用するために、インク受け機構のベルトを単に垂直にして設けた場合でも、同様の問題が発生してしまう。
【0016】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、インク滴を水平方向に吐出するインクジェットヘッドであっても、インク滴が霧状になることを抑制しつつインク受け機構でのインクの固着を防止できるインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係るインクジェット記録装置は、上記目的達成のため、インク滴を水平方向に吐出して記録媒体に印字するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドから空吐出された前記インク滴を受けるインク受け機構とを備えるインクジェット記録装置において、前記インク受け機構は、空吐出された前記インク滴の吐出範囲より広く、前記インク滴が着弾されるとともに親水性で略鉛直に設けられた受け面を有する無孔質のインク受け板と、前記インク受け板の下方に設けられるとともに前記インク受け板に着弾されて滴下されたインク滴が回収される回収タンクとを備え、前記インクジェットヘッドと前記インク受け板の前記受け面との距離は前記インク滴が霧状になる距離よりも短いことを特徴とするものである。
【0018】
この構成により、インクジェットヘッドと受け面との距離はインク滴が霧状になる距離よりも短いとともにインクジェットヘッドから空吐出されたインク滴は霧状になる前に全てインク受け板の受け面で捕集されるので、従来の多孔質シートに吸収させた時のように多孔質シートを霧状のインク滴が通過することはなく、通過した霧状のインク滴が機内汚染することを防止できる。
【0019】
また、インク受け板の受け面がインク滴の吐出範囲より広く無孔質で親水性で略鉛直になるように設けられているので、インクジェットヘッドから水平方向に空吐出されたインク滴はインク受け板の受け面に着弾され、インク受け板に吸収されることなく、かつインク受け板の最下部に留まることなく流れ落ちて回収タンクに回収される。このため、インクジェットヘッドから空吐出されたインク滴を従来の多孔質シートに吸収させた時のようにインクが下端部に残留して固まってしまうことはなく、長期間の使用によるインク受け板の性能低下が防止される。
【0020】
ここで、インク受け板でのインク滴の吸収を阻害するためには、受け面を親水性以外に撥水性にすることも考えられるが、撥水性のある受け面ではインク滴が滴状に付着したまま固化する可能性がある。これに対し、本発明のインクジェット記録装置では、受け面を親水性にしているので、インク滴が受け面において滴にならずに液体膜となることから、インク滴が受け面上で滴状に付着したまま固化することを抑制できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、インクジェットヘッドから水平に空吐出されたインク滴が略鉛直に設けられた親水性のインク受け板に着弾するとともに、インク滴の飛距離が霧状になる距離より短いので、インク滴が霧状になることを抑制しつつインク受け機構でのインクの固着を防止できるインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るインクジェット記録装置の全体を示す概略の正面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るインクジェット記録装置のインクジェットヘッドおよびインク受け機構を示す概略の側面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るインクジェット記録装置のインクジェットヘッドおよびインク受け板を示す概略の平面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るインクジェット記録装置の主要部を示す斜視図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るインクジェット記録装置のホルダからインク受け板を取り外した状態を示す斜視図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係るインクジェット記録装置のホルダにインク受け板を装着した状態を示す斜視図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係るインクジェット記録装置の記録媒体の経路を示す側面図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係るインクジェット記録装置の他の例のインクジェットヘッドおよびインク受け機構を示す概略の側面図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係るインクジェット記録装置のクリーニング手段においてインクジェットヘッドがインク受け板の正面から離れて位置する状態を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図10】本発明の第1の実施の形態に係るインクジェット記録装置のクリーニング手段においてインクジェットヘッドがインク受け板の正面に位置する状態を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図11】本発明の第1の実施の形態に係るインクジェット記録装置のインク受け板の他の例を示す概略の平面図であり、(a)は受け面が凸状の曲面であるもの、(b)は受け面が凹状の曲面であるものをそれぞれ示す。
【図12】従来のインクジェット記録装置のインク受け機構を示す縦断面図である。
【図13】本発明の第2の実施の形態に係るインクジェット記録装置の全体を示す概略の正面図である。
【図14】本発明の第2の実施の形態に係るインクジェット記録装置の主要部を示す斜視図である。
【図15】本発明の第2の実施の形態に係るインクジェット記録装置のインク受け機構を示す図であり、(a)は図13中のA−A線で切断した断面図、(b)は回転手段の側面図である。
【図16】本発明の第2の実施の形態に係るインクジェット記録装置のインク受け機構の動作を示すフローチャートである。
【図17】本発明の他の実施の形態に係る上端縁部の幅と下端縁部の幅とが同等である形状のスクレイパを示す正面図であり、(a)は全体がホームベース形状のもの、(b)は下端縁部がW字形状のもの、(c)は全体がV字形状のもの、(d)は下端縁部が半円形状のもの、(e)は全体が右側に偏倚した頂点を有する三角形状のものである。
【図18】本発明の第2の実施の形態に係るインクジェット記録装置のインク受け機構の主要部を図13中のA−A線で切断した断面図である。
【図19】本発明の第2の実施の形態に係るスクレイパおよびインク受けベルトにおけるインクの流れを示す正面図である。
【図20】本発明の他の実施の形態に係るインクジェット記録装置のインク受け機構を示す図であり、(a)はインク受け機構の縦断面図、(b)は(a)の主要部を拡大した縦断面図である。
【図21】本発明の他の実施の形態に係る上端縁部の幅が下端縁部の幅より長い形状のスクレイパを示す正面図であり、(a)は下端縁部がホームベース形状のもの、(b)は下端縁部がW字形状のもの、(c)は下端縁部がV字形状のもの、(d)は下端縁部が半円形状のもの、(e)は下端縁部が右側に偏倚した頂点を有する三角形状のものである。
【図22】本発明の他の実施の形態に係るV型のスクレイパおよびインク受けベルトにおけるインクの流れを示す正面図である。
【図23】本発明の他の実施の形態に係るW型のスクレイパおよびインク受けベルトにおけるインクの流れを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0024】
(第1の実施の形態)
まず、図1を参照して本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置1について説明する。
【0025】
インクジェット記録装置1は、インク滴2を水平方向に吐出して記録媒体3に印字するインクジェットヘッド4と、このインクジェットヘッド4を保持するキャリッジ5と、このキャリッジ5を記録媒体3の幅方向である主走査方向Xに移動させるキャリッジ移動機構7と、記録媒体3への印字領域を除いた非印字領域の主走査方向Xの一方に設けられるとともにインクジェットヘッド4から空吐出されたインク滴2を受けるインク受け機構8と、記録媒体3への印字領域を除いた非印字領域の主走査方向Xの他方に設けられるとともにインクジェットヘッド4のノズル9の状態を維持し回復する信頼性維持機構10と、記録媒体3を供給および排出する記録媒体搬送機構11とを備えている。
【0026】
本実施の形態では、主走査方向Xの左右方向は、図1に示すようにキャリッジ5側から記録媒体3を見た時の左右方向としている。また、インクジェットヘッド4に対向する記録媒体3は図1において下方から上方に搬送されるものであり、この搬送方向を副走査方向Yとしている。
【0027】
インクジェットヘッド4は、図1〜図3に示すように、各々2本のノズル列9y,9m,9c,9kを有する第1のヘッド12と第2のヘッド13とを鉛直にして備えている。すなわち、インクジェットヘッド4は、キャリッジ5に対して各ノズル9を主走査方向Xと鉛直に直交して配列されるとともに、インク滴吐出方向を水平方向に向けて装着されている。
【0028】
第1のヘッド12は、イエロー(Y)のインク滴2を吐出する多数のノズル9からなるノズル列9yと、マゼンタ(M)のインク滴2を吐出する多数のノズル9からなるノズル列9mとを有する。第2のヘッド13は、シアン(C)のインク滴2を吐出する多数のノズル9からなるノズル列9cと、ブラック(Bk)のインク滴2を吐出する多数のノズル9からなるノズル列9kとを有する。すなわち、このインクジェット記録装置1では、複数色のインクを吐出可能としている。
【0029】
インクジェットヘッド4としては、圧電素子等の圧電アクチュエータ、発熱抵抗体等の電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータ等をインク滴2の吐出のエネルギー発生手段として備えたもの等を使用できる。本実施の形態では、ここでは圧電アクチュエータである圧電素子をエネルギー発生手段に用いたインクジェットヘッド4を搭載している。
【0030】
また、キャリッジ5には、インクジェットヘッド4の各ノズル列9y,9m,9c,9kにそれぞれ各色のインクを供給するための各色のインク容器14y,14m,14c,14kが設けられている。すなわち、キャリッジ5には、イエロー(Y)のインクを入れたインク容器14yと、マゼンタ(M)のインクを入れたインク容器14mと、シアン(C)のインクを入れたインク容器14cと、ブラック(Bk)のインクを入れたインク容器14kとが設けられている。
【0031】
キャリッジ移動機構7は、左右の側板15,16に横架されるとともにキャリッジ5を主走査方向Xに摺動可能に支持する2本のガイドロッド80,81と、主走査方向Xの右側に設けられた主走査モータ17と、この主走査モータ17に設けられた駆動プーリ18と、主走査方向Xの左側に設けられた従動プーリ19と、これら駆動プーリ18および従動プーリ19に掛け渡されるとともにキャリッジ5に固着された無端の駆動ベルト20とを備えている。
【0032】
主走査モータ17の駆動により、駆動ベルト20が回転して、キャリッジ5がガイドロッド80,81に沿って主走査方向Xに移動する。そして、インクジェットヘッド4のノズル9からインク滴2を噴射することにより、記録媒体3の記録面に印字が行われる。また、モノクロの印字を行う場合には、第2のヘッド13のみを駆動してノズル列9kからインク滴2を吐出する。
【0033】
インク受け機構8は、図1〜図6に示すように、主走査方向Xの左側の非印字領域に配置されている。インク受け機構8は、空吐出されたインク滴2の吐出範囲21より広く、インク滴2が着弾されるとともに親水性で略鉛直に設けられた受け面22aを有する無孔質のインク受け板22と、このインク受け板22を保持して左側板15に支持させるホルダ23と、インク受け板22の下方に設けられるとともにインク受け板22に着弾されて滴下されたインク滴2が回収される回収タンク24とを備えている。
【0034】
インク受け機構8は、印字中に印字で使用されていないノズル9が乾燥して詰るのを防止するため、ノズル9において増粘したインクが空吐出により捨てられるようになっている。そして、インク受け板22の受け面22aがインク滴2の吐出範囲21より広く親水性で略鉛直になるように設けられているので、インクジェットヘッド4から空吐出されたインク滴2はインク受け板22の受け面22aに着弾され、インク受け板22に吸収されることなく、かつインク受け板22の最下部に留まることなく流れ落ちて回収タンク24に回収される。
【0035】
ホルダ23は、図5および図6に示すように、略コ字形の枠状の本体23aと、本体23aのコ字形状の開口側からインク受け板22を着脱可能に保持する保持溝23bと、装着されたインク受け板22の係合孔22bが係合、すなわち引っ掛かって脱落が防止される係合突起23cと、本体23aの外側に突出するとともに記録媒体搬送機構11のガイド部材25に係合、すなわち嵌合可能なガイド部材側突起23dと、本体23aの外側に突出するとともに左側板15に係合、すなわち掛け止め可能な側板側突起23eとを備えている。本体23aは、平行な左側部および右側部と、左側部および右側部の一端部同士を連結する奥部とを備えて、左側部および右側部の他端部側を開放した枠状に形成されている。インク受け板22は、左側部および右側部の他端部側から本体23aに対して着脱可能になっている。
【0036】
ここで、保持溝23bは、インク受け板22の受け面22aが、図2に示すように、上部をインクジェットヘッド4に近接する側に位置させるとともに、下部をインクジェットヘッド4から離隔する側に位置させるよう傾斜して設けられている。このため、受け面22aに着弾したインク滴2は、速やかに下方に流れて受け面22aの最下部から滴下するようになる。
【0037】
また、本願発明者は、直径20μmのインク滴を所定の密度で水平に噴射した場合、噴射口から5mm以内では霧状にならないという知見を実験により得るに至った。この知見に基づき、インク受け板22とインクジェットヘッド4との距離としては、最上部で3mm、最下部で5mmとしている。このため、インクジェットヘッド4と受け面22aとの間隔は3〜5mmとなるので、インク滴2が霧状、すなわちミストになる前に着弾されるようになり、ミストの発生を抑えることができる。
【0038】
インク受け板22は、平板状で受け面22aを平面とするとともに、ホルダ23の係合突起23cに係合、すなわち引っ掛かる係合孔22bを備えている。インク受け板22の受け面22aは親水性とされている。本実施の形態では、インク受け板22は二酸化チタンのコーティングが施されている。親水性を満たすコーティングとしては、二酸化チタンに限られず、テフロン(登録商標)樹脂系、ガラス繊維(被膜)系の親水性コーティング剤等を使用してもよい。
【0039】
また、インク受け板22は、インク接液性を満たす材質からなる。本実施の形態では、インク受け板22は透明材のPET樹脂製としている。インク接液性を満たす材質としては、PET樹脂に限られず、透明材であればアクリル(PMMA)等を使用してもよく、あるいは透明材にも限られず、ポリアセタール(POM)やエポキシ樹脂(PE)等であってもよい。これにより、インク受け板22がインクと長時間接しても、インク成分に対して化学反応を起こすことは抑制される。
【0040】
回収タンク24は、左側板15に対して着脱可能とされている。これにより、回収タンク24は移動可能となり、回収タンク24がインクで満たされた時にインクを容易に回収することができるようになる。
【0041】
ここで、インク受け機構8は印字領域を挟んで信頼性維持機構10と反対側に設けられている。このため、キャリッジ5が噴射の回復のために信頼性維持機構10まで戻って予備噴射を行うことを不要にして、印字速度が低下するのを防止できる。
【0042】
信頼性維持機構10は、図1に示すように、キャリッジ5の主走査方向Xの右側の非印字領域でキャリッジ5の待機位置に対向するように設けられている。信頼性維持機構10は、インク滴2を正常に吐出できなかったインクジェットヘッド4のノズル9を吸引するための吸引キャップ26と、吸引キャップ26に連結された吸引ポンプ27と、吸引ポンプ27により吸引キャップ26から吸引されたインクを回収する廃液タンク28と、ノズル9の乾燥を防止するために各ノズル面をキャピングする保湿キャップ29と、ノズル9のインク汚れ、紙屑、塵等をワイピングにより清掃するワイパーブレード30と、ワイパーブレード30で除去したインクを吸収する不織布等からなる吸収部材31とを備えている。そして、信頼性維持機構10は、インクジェットヘッド4からインク滴2を正常に吐出できない時、吸引ポンプ27を作動してノズル9から吸引キャップ26を介してインクを吸引し、インクジェットヘッド4の機能回復処理を行う。
【0043】
記録媒体搬送機構11は、図7に示すように、記録媒体3を供給する給紙部31と、給紙部31から供給された記録媒体3をインクジェットヘッド4に対向する位置で搬送する搬送部32と、記録後の記録媒体3を排出する排紙部33とを備えている。給紙部31は、供給する記録媒体3が積載される給紙トレイ34と、給紙トレイ34から記録媒体3を1枚ずつ分離して給送する給紙ローラ35とを備えている。
【0044】
搬送部32は、給紙部31から供給された記録媒体3を真上である副走査方向Yに向けて略90度方向転換させる搬送ガイド36と、記録媒体3を静電吸着して搬送する無端状の搬送ベルト37と、搬送ベルト37を回転させる搬送ローラ38と、この搬送ローラ38とともに搬送ベルト37を支持するテンションローラ39と、搬送ローラ38を回転させる図4に示す回転手段40と、加圧板41により搬送ベルト37側に付勢、すなわち押圧される先端コロ42と、搬送ベルト37の加圧板41と反対側を加圧する両面加圧コロ43と、搬送ベルト37の表面を帯電させる帯電ローラ44と、インクジェットヘッド4による印写領域に対応して搬送ベルト37の裏側に設けられるガイド部材25と、テンションローラ39に押圧されるレジストローラ45と、搬送ベルト37の下流側に設けられる搬送コロ46とを備えている。搬送ローラ38は、ローラ軸70に取り付けられるとともに、ローラ軸70と一体回転するようになっている。
【0045】
回転手段40は、図4に示すように、副走査方向Yの下流側に設けられた副走査モータ47と、この副走査モータ47に設けられた駆動プーリ48と、副走査方向Yの上流側に設けられるとともに搬送ローラ38にローラ軸70を介して一体回転するように取り付けられた従動プーリ49と、これら駆動プーリ48および従動プーリ49に掛け渡される無端の駆動ベルト50とを備えている。
【0046】
ガイド部材25は、図7に示すように、キャリッジ5側の面25aが搬送ローラ38およびテンションローラ39の接線よりもキャリッジ5側に突出している。これにより、搬送ベルト37は印写領域ではガイド部材25により突き出されて案内されるので、高精度な平面性を維持される。
【0047】
また、ガイド部材25のキャリッジ5側の面25aには、主走査方向X、すなわち搬送方向と直交する方向に複数の溝を有している。これにより、ガイド部材25と搬送ベルト37との接触面積を少なくし、搬送ベルト37がスムーズにガイド部材25の表面に沿って移動できるようにしている。帯電ローラ44は、搬送ベルト37の表層に接触し、搬送ベルト37の回動に従動して回転するように配置されている。
【0048】
排紙部33は、給紙トレイ34の上方に水平に設けられた排紙トレイ51と、搬送コロ46を経て上昇する記録媒体3を水平に向けて略90度方向転換させて排紙トレイ51に案内する排出ガイド52と、記録媒体3を円滑に案内する排紙コロ53および拍車54とを備えている。
【0049】
また、上述したインクジェット記録装置1の各部は、図示しない制御部により制御されて作動するようになっている。制御部は、CPU(Central Processing Unit)と、固定されたデータの記憶を行うROM(Read Only Memory)と、一時的にデータを記憶するRAM(Random Access Memory)と、書き替え可能な不揮発性のメモリからなるバックアップメモリと、入力インターフェース回路と、駆動回路等を有する出力インターフェース回路とを備えている。
【0050】
次に、作用について説明する。
インク受け機構8をインクジェット記録装置1に設置する際は、図5及び図6に示すように、インク受け板22をホルダ23の保持溝23bに装着して係合孔22bを係合突起23cに係合、すなわち引っ掛ける。そして、図1に示すように、ホルダ23のガイド部材側突起23dをガイド部材25に係合、すなわち嵌合するとともに、側板側突起23eを左側板15に係合、すなわち掛け止めして装着する。さらに、回収タンク24を左側板15に取り付ける。
【0051】
インクジェット記録装置1の電源をオンすると、主走査モータ17が駆動して、キャリッジ5が主走査方向Xに移動する。これにより、キャリッジ5およびインクジェットヘッド4が信頼性維持機構10に対向する待機位置から印刷する位置まで移動されるようになる。
【0052】
そして、給紙トレイ34から記録媒体3が1枚ずつ分離して供給されて搬送ガイド36で案内されて、副走査方向Yに搬送される。さらに、記録媒体3は、搬送ベルト37により搬送され、先端コロ42で搬送ベルト37に押し付けられる。
【0053】
このとき、帯電ローラ44に対してプラス出力とマイナス出力とが交互に繰り返すように、つまり交番する電圧が印加され、搬送ベルト37が交番する帯電電圧パターン、すなわち周回方向である副走査方向Yに、プラスとマイナスが所定の幅で帯状に交互に帯電されたものとなる。このプラスとマイナスが交互に帯電した搬送ベルト37上に記録媒体3が給送されると、記録媒体3が搬送ベルト37に静電的に吸着され、搬送ベルト37の周回移動によって記録媒体3が副走査方向Yに搬送される。記録媒体3は所定位置で停止される。
【0054】
そして、キャリッジ5を主走査方向Xに移動させながら画像信号に応じてインクジェットヘッド4を駆動することにより、停止している記録媒体3にインク滴2を吐出して1行分を記録し、記録媒体3を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号または記録媒体3の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、記録媒体3を排紙トレイ51に排出する。
【0055】
また、印字待機中にはキャリッジ5は信頼性維持機構10に移動されて、キャップ26,29でノズル9をキャッピングされ、ノズル9を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止し、また、記録開始前や記録途中等に記録と関係しないインクを吐出する回復動作を行って安定した吐出性能を維持する。
【0056】
また、インクジェット記録装置1の稼働中に、定期的にキャリッジ5をインク受け機構8に対向する位置に移動させる。そして、インク受け板22に対して、インクジェットヘッド4のノズル9から一斉にインク滴2を噴射する。噴射されたインク滴2は、ミストになることなく全てインク受け板22の受け面22aに到達し、付着して流れ落ちて回収タンク24に回収される。一方、キャリッジ5は、インク滴2の噴射後に記録媒体3に対向する位置に移動して、印写を再開する。
【0057】
そして、長期間の使用によりインク受け板22の受け面22aが汚れた場合は、インク受け板22を取り付けたまま紙や綿棒等で汚れを拭き取る等して清掃をしたり、あるいはインク受け板22をホルダ23から取り外して受け面22aを清掃もしくはインク受け板22を交換するようにする。また、回収タンク24のインク貯留量が多くなってきた時は、回収タンク24を取り外して溜まったインクを捨てて再び装着するようにする。
【0058】
以上のように、本実施の形態に係るインクジェット記録装置1によれば、インク受け板22の受け面22aがインク滴2の吐出範囲21より広く無孔質で親水性で略鉛直になるように設けられ、尚かつインクジェットヘッド4と受け面22aとの距離が3〜5mmであるので、インクジェットヘッド4から空吐出されたインク滴2はミストになる前にインク受け板22の受け面22aに着弾され、インク受け板22に吸収されることなく、かつインク受け板22の最下部に留まることなく流れ落ちて回収タンク24に回収される。
【0059】
このため、インクジェットヘッド4から空吐出されたインク滴2は全てインク受け板22の受け面22aで捕集されるので、インク滴2が浮遊することを防止してミストの発生を抑えることができる。また、インクジェットヘッド4から空吐出されたインク滴2を従来の多孔質シートに吸収させた時のように下端部に残留して固まったインクが多孔質シートの性能を劣化させるようなことはなく、長期間の使用によるインク受け板22の性能低下を防止することができる。
【0060】
また、本実施の形態のインクジェット記録装置1によれば、受け面22aを親水性にしているので、インク滴2が受け面22aにおいて滴にならずに液体膜となることから、受け面22a上で滴状に付着したまま固化することを抑制できる。
【0061】
さらに、本実施の形態に係るインクジェット記録装置1によれば、受け面22aは、上部をインクジェットヘッド4に近接する側に位置させるとともに、下部をインクジェットヘッド4から離隔する側に位置させるよう傾斜して設けられているので、受け面22aに着弾したインク滴2は、より速やかに下方に流れて受け面22aの最下部から滴下するようになる。したがって、インク滴2の固着によるインク受け板22の性能低下を防止することができる。
【0062】
また、本実施の形態に係るインクジェット記録装置1によれば、受け面22aは平面であるので、形状が簡素であり、インク受け板22の製造が容易で製造コストを抑えることができる。
【0063】
さらに、本実施の形態に係るインクジェット記録装置1によれば、インク受け板22はインク接液性を満たす材質からなるので、インク受け板22がインクと長時間接してもインク成分に対して化学反応を起こすことが抑制される。これにより、受け面22aが化学的に分解されて微小な凹凸が形成されることを防止できるので、受け面22aに微小な凹凸が形成されることによりインク滴2がミスト化し易くなる現象や、インク滴2が凹凸に溜まって固着し易くなる現象の発生を抑制することができる。
【0064】
また、本実施の形態に係るインクジェット記録装置1によれば、インク受け板22はホルダ23に対して着脱可能であるので、インク受け板22が汚れたり劣化した場合に容易に交換することができる。
【0065】
そして、本実施の形態に係るインクジェット記録装置1によれば、回収タンク24は着脱可能であるので、回収タンク24がインクで満たされた時に回収タンク24ごと交換することができ、インクを容易に回収できるようになる。
【0066】
なお、本実施の形態に係るインクジェット記録装置1においては、本発明におけるインクジェット記録装置1のインク受け機構8のインク受け板22がホルダ23に対して着脱可能としたが、これに限定されず、ホルダ23とインク受け板22とが一体であるようにしてもよい。この場合、構造をより簡易化することができるので、部品の製造コストを低減することができる。
【0067】
また、本実施の形態に係るインクジェット記録装置1においては、本発明におけるインクジェット記録装置1のインク受け板22が傾斜したものとしたが、これに限定されず、例えば図8に示すように、インク受け板22が鉛直に設けられたものとしてもよい。この場合、インクジェットヘッド4とインク受け板22との距離は5mm以下であることが好ましい。これによれば、インク受け板22の厚さ方向の設置スペースを小さくすることができるので、インクジェット記録装置1の小型化を図ることができる。
【0068】
さらに、本実施の形態に係るインクジェット記録装置1においては、本発明におけるインクジェット記録装置1のインク受け板22の受け面22aが汚れた場合は適宜清掃をしたりインク受け板22を交換するようにしたが、これに限定されず、インク受け板22の受け面22aをクリーニングするクリーニング手段60を備えるようにしてもよい。
【0069】
例えば、図9および図10に示すように、クリーニング手段60は、図9に示す原位置61aと図10に示す旋回位置61bとの間を旋回可能なワイパー61と、ワイパー61に一体的に設けられるとともにインクジェットヘッド4の移動方向の片端面に係合、すなわち接触可能な係合部材62と、ワイパー61を原位置61aに戻す方向に付勢、すなわち復元力を与える例えばねじりコイルばね等からなる付勢ばね等の付勢部材63とを備えたものとすることができる。
【0070】
ここで、図9に示すように、キャリッジ5およびインクジェットヘッド4がインク受け板22の正面から離れて位置してキャリッジ5が係合部材62から離れている時は、ワイパー61は付勢部材63の付勢、すなわち復元力を与えることにより原位置61aに位置する。また、図10に示すように、キャリッジ5およびインクジェットヘッド4がインク受け板22の正面に位置してキャリッジ5が係合部材62に当接する時は、ワイパー61が付勢部材63に抗して旋回位置61bに位置する。
【0071】
そして、キャリッジ5およびインクジェットヘッド4が、図9に示すインク受け板22の正面から離れた位置から、図10に示すインク受け板22の正面に向かって移動することにより、ワイパー61が原位置61aから旋回位置61bに旋回する。また、キャリッジ5およびインクジェットヘッド4が、図10に示すインク受け板22の正面から、図9に示すインク受け板22の正面から離れた位置に向かって移動することにより、ワイパー61が旋回位置61bから原位置61aに旋回する。
【0072】
このように、ワイパー61が原位置61aと旋回位置61bとの間で旋回することにより、ワイパー61がインク受け板22の受け面22aに付着したインク滴2を拭き落としてクリーニングすることができる。この構成により、インクジェットヘッド4がインク受け機構8を利用して空吐出を行う度に受け面22aがワイパー61によりクリーニングされるので、受け面22aにおけるインク滴2の増粘や固着をより確実に防止できるようになる。しかも、クリーニングは自動的に行われるので、操作性を損ねることなく、メンテナンスを容易にすることができる。
【0073】
また、本実施の形態に係るインクジェット記録装置1においては、本発明におけるインクジェット記録装置1のインク受け板22の受け面22aを平面としたが、これに限定されるものではなく、受け面22aを曲面としてもよい。例えば、図11(a)に示すように、受け面22aのノズル9に対向する部位に凸状の曲面22cを形成したり、あるいは図11(b)に示すように、受け面22aのノズル9の対向する部位に凹状の曲面22dを形成するようにしてもよい。これらの場合、いずれもノズル9からの距離は5mm以内であることが好ましい。これらによれば、受け面22aが平面である場合に比べてインク滴2の着弾する面積を広くすることができるので、インク滴2の捕集をより効果的に行うことができるようになる。
【0074】
また、本実施の形態に係るインクジェット記録装置1においては、本発明におけるインクジェット記録装置1のインク受け板22の受け面22aとインクジェットヘッド4との間隔をミストが発生しない距離に合わせて3〜5mmとしたが、これに限定されず、ミストが発生しない距離は、例えばインク滴2の密度、半径、吐出速度によって変化するものであり、適宜設定することができる。
【0075】
(第2の実施の形態)
本実施の形態は、上述の第1の実施の形態と略同様の全体構成を有している。本実施の形態に係るインクジェット記録装置201においては、インク受け機構208の構成が異なっているが、他の構成は同様に構成されている。したがって、同一の構成については、図1〜図8に示した第1の実施の形態と同一の符号を用いて説明し、特に相違点についてのみ詳述する。
【0076】
図13〜図15に示すように、本実施の形態のインク受け機構208は、主走査方向Xの左側の非印字領域に配置されている。インク受け機構208は、インク受けベルト210と、支持手段220と、回転手段230と、掻取手段240と、回収タンク250とを有している。
【0077】
インク受けベルト210は、表面側をインクを受ける受け面210aとしている。インク受けベルト210は、無端で無孔質の材料により形成されている。ここでは、インク受けベルト210は、例えばPET樹脂からなるようにしている。PET樹脂はインク接液性を満たすので、インク受けベルト210がインクと長時間接しても、インク成分に対して化学反応を起こすことは抑制され、インク成分に対する耐腐食性を高めることができる。また、PET樹脂は柔軟性と曲げ強さと引っ張り強さ等に優れているため、インク受けベルト210の機械的強度や耐久性を高めることができる。インク接液性や柔軟性と曲げ強さと引っ張り強さ等を満たす材質としては、PET樹脂に限られず、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂であってもよい。PPS樹脂であっても、PET樹脂と同様に、インク接液性と、柔軟性と曲げ強さと引っ張り強さ等を得ることができる。
【0078】
インク受けベルト210は撥水性を有している。このため、インク受けベルト210の受け面210に付着したインクは、後述するように掻取手段240により容易に掻き取られる。また、インク受けベルト210の厚さとしては、例えば約0.075mmとしている。ただし、インク受けベルト210の厚さは、曲げやすさやコスト等に応じて適宜設定することができる。
【0079】
支持手段220は、駆動側ローラ軸221と、駆動側ローラ222と、従動側ローラ軸223と、従動側ローラ224と、ベルトホルダ225と、押圧ばね226と、を備えている。
【0080】
駆動側ローラ軸221は、搬送ローラ38のローラ軸70の近傍にローラ軸70と平行に設けられている。駆動側ローラ軸221は、両端部をガイド部材25と左側の側板15とにより、回転可能に支持されている。駆動側ローラ222は、駆動側ローラ軸221に取り付けられるとともに、駆動側ローラ軸221と一体回転するようになっている。
【0081】
従動側ローラ軸223は、駆動側ローラ軸221の真上に駆動側ローラ軸221と平行に設けられている。従動側ローラ軸223は、両端部をガイド部材25と左側の側板15とにより、回転可能に支持されている。また、ガイド部材25に形成された従動側ローラ軸223を支持する支持部25bは、縦長の凹みにより形成されるとともに、従動側ローラ軸223は上下方向に僅かに移動可能となっている。さらに、左の側板15に形成された従動側ローラ軸223を支持する支持部15aは、縦長の貫通孔により形成されるとともに、従動側ローラ軸223は上下方向に僅かに移動可能となっている。
【0082】
従動側ローラ224は、従動側ローラ軸223に取り付けられるとともに、従動側ローラ軸223に対して回転可能に設けられている。駆動側ローラ222と従動側ローラ224とには、インク受けベルト210が巻き回されている。これにより、インク受けベルト210のインクジェットヘッド4に対向する部位の下方には、回転手段230の駆動側ローラ222により湾曲される湾曲部位210bが形成されている。
【0083】
ベルトホルダ225は、平板状の合成樹脂製で、駆動側ローラ222および従動側ローラ224の間で鉛直に設けられている。ベルトホルダ225は、ベルト支持部225aと、ベルト案内部225bと、ばね保持部225cと、支持突起225dとを備えている。
【0084】
ベルト支持部225aは、ベルトホルダ225のキャリッジ5側の側面部であり、平面状でインク受けベルト210を背面から押圧してインク受けベルト210の平面性を担保している。ここで、インクジェットヘッド4のノズル面とインク受けベルト210との間隔は2mmとしている。これにより、インクジェットヘッド4から吐出されたインク滴2は、ミストになることなくインク受けベルト210に着弾されるようになる。
【0085】
ベルト案内部225bは、ベルト支持部225aに連続してベルトホルダ225の上部に形成されるとともに、上方が前後方向に薄くなるように傾斜面を備えた形状になっている。ベルト案内部225bの角部は、角取りされている。これにより、ベルト案内部225bは、従動側ローラ224とベルト支持部225aとの間でインク受けベルト210を滑らかに案内するようになっている。
【0086】
ばね保持部225cは、ベルト案内部225bの先端に設けられている。ばね保持部225cには、押圧ばね226が支持されている。支持突起225dは、ベルトホルダ225のガイド部材25側の側部に2本設けられている。各支持突起225dは、ガイド部材25に形成された支持孔部25cにより支持されている。
【0087】
押圧ばね226は、圧縮コイルばねからなり、ベルトホルダ225の上端部と従動側ローラ軸223との間に2本設けられている。押圧ばね226は、ベルトホルダ225に対して従動側ローラ軸223を支持するとともに、上方に押圧するようになっている。これにより、従動側ローラ224は、インク受けベルト210を内側から上方に向けて押圧し、インク受けベルト210に張力を与えるテンショナとして機能するようになっている。
【0088】
回転手段230は、第1のギヤ231と、第2のギヤ232と、クラッチ233と、ソレノイド234とを備えている。第1のギヤ231は、ローラ軸70に取り付けられるとともに、ローラ軸70と一体回転するようになっている。第2のギヤ232は、駆動側ローラ軸221に回転可能に取り付けられている。
【0089】
クラッチ233は、駆動側ローラ軸221に第2のギヤ232に隣接して設けられている。クラッチ233は、外部に設けられた凸状のストッパ233aと、図示しない内蔵された捩りコイルばねとを備えている。
【0090】
クラッチ233は、外部から回転を制限されずに自由に回転可能である場合は、第2のギヤ232が図中矢印方向に回転するのに伴って捩りコイルばねが巻き締まり、クラッチ233と駆動側ローラ軸221とが共に回転するようになっている。このように、クラッチ233が回転可能な状態をクラッチ233のオン状態とする。クラッチ233がオン状態であることにより、第2のギヤ232および駆動側ローラ軸221がクラッチ233を介して一体回転するようになっている。
【0091】
また、クラッチ233は、外部から回転を制限されて回転不能である場合は、第2のギヤ232が図中矢印方向に回転しても捩りコイルばねが巻き締まることはなく、クラッチ233と駆動側ローラ軸221とが共に回転することはないようになっている。このように、クラッチ233が回転不能な状態をクラッチ233のオフ状態とする。クラッチ233がオフ状態であることにより、クラッチ233および駆動側ローラ軸221は停止したまま第2のギヤ232のみが空転するようになっている。
【0092】
ソレノイド234は、クラッチ233の近傍に配置されている。ソレノイド234は、電圧印加の有無によりピン234aを出没可能としている。ここでは、ソレノイド234は、電圧の印加されていない通常時にはピン234aが突出した状態になるとともに、電圧が印加された通電時にはピン234aが引き込まれた状態になるものとしている。
【0093】
図15(b)に示すように、通常時においては、ソレノイド234がピン234aを突出させている。このときは、クラッチ233のストッパ233aがピン234aに突き当たって回転できない状態となり、クラッチ233の回転が停止される。また、通電時においては、ソレノイド234がピン234aを引き込んでいる。このときは、ストッパ233aはピン234aに突き当たることなく回転できる状態となり、クラッチ233の回転が続行される。
【0094】
掻取手段240は、スクレイパ241と、支持フレーム242とを備えている。スクレイパ241は、長方形の薄板状で、インク受けベルト210のキャリッジ5側の下部に設けられている。
【0095】
掻取手段240のスクレイパ241は、平板状で、上端縁部241aと、下端縁部241bと、掻取面241cとを有している。上端縁部241aは、受け面210に接してインク滴2を掻き取るようになっている。掻取面241cは、上端縁部241aに連続するとともに掻き取ったインク滴2を流通させるようになっている。下端縁部241bは、掻取面241cを経たインク滴2を滴下させるようになっている。
【0096】
スクレイパ241は、インク接液性を満たす材質からなり、例えば透明材のPET樹脂製からなるようにしている。インク接液性を満たす材質としては、PET樹脂に限られず、透明材であればアクリル(PMMA)等を使用してもよく、あるいは透明材にも限られず、ポリアセタール(POM)やエポキシ樹脂(PE)等であってもよい。これにより、スクレイパ241がインクと長時間接しても、インク成分に対して化学反応を起こすことは抑制され、インク成分に対する耐腐食性を高めることができる。
【0097】
スクレイパ241の厚さとしては、約0.1mm、例えば0.125mmとしている。ただし、スクレイパ241の厚さは、インク滴2を掻き取るための機械的強度やコスト等に応じて適宜設定することができる。
【0098】
スクレイパ241の上端縁部241aは、インク受けベルト210に水平に接触している。このため、スクレイパ241に接触するインク受けベルト210が下方に回転すると、スクレイパ241の表面に付着しているインク滴2がスクレイパ241に乗り上げて掻き取られる。
【0099】
スクレイパ241の下端縁部241bは、回収タンク250に入り込んでいる。このため、上端縁部241aで掻き取られたインク滴2は、スクレイパ241の表面である掻取面241cを伝わって下端縁部241bに達し、下端縁部241bから回収タンク250に滴下される。ここで、スクレイパ241はPET樹脂製であるので撥水性を有している。このため、インク受けベルト210からスクレイパ241により掻き取られたインク滴2は、スクレイパ241の表面である掻取面241cを伝わって容易に流れ落ちる。
【0100】
また、スクレイパ241は、上端縁部241aから下端縁部241bに向けてインク受けベルト210から離れる方向に20度だけ傾斜している。このため、スクレイパ241は、上端縁部241aにおいて、インク受けベルト210に対して20度の鋭角に位置するようになる。すなわち、掻取面241cはインク受けベルト210の受け面210aに対して鋭角を形成するように、掻取手段240は設けられている。よって、インク受けベルト210に着弾したインク滴2をくさび効果により効果的に掻き取ることができる。
【0101】
図18に示すように、スクレイパ241の上端縁部241aは、インク受けベルト210のベルトホルダ225の下部により裏打ちされている平面状の部位に接触されている。スクレイパ241のインク受けベルト210への接触角θは、例えば20度としている。この接触角θは、インク滴2の粘度やスクレイパ241およびインク受けベルト210の硬度やインク接液性等に応じて適宜設定可能であるが、インク滴2を掻き取る効果の観点から10度〜30度が好ましく、20度が最も好ましい。
【0102】
スクレイパ241の支持フレーム242の上端縁より上端縁部241a側に突出する突出長Tは、例えば8.7mmとしている。また、スクレイパ241の上端縁部241aがインク受けベルト210をベルトホルダ225側に押圧することによりインク受けベルト210が変形される深さは、例えば0.8mmとしている。ここで、これらのスクレイパ241の突出長Tやインク受けベルト210の変形される深さは、スクレイパ241の上端縁部241aのインク受けベルト210への押圧力に関連する。スクレイパ241の突出長Tやインク受けベルト210の変形される深さは、インク滴2の粘度やスクレイパ241およびインク受けベルト210の硬度やインク接液性等に応じて適宜設定可能である。
【0103】
支持フレーム242は、スクレイパ241の下側に設けられるとともに、スクレイパ241を下方から支持している。支持フレーム242は、図示しないフレームにより支持されている。
【0104】
回収タンク250は、スクレイパ241の下端縁部241bの下方に設けられるとともに、スクレイパ241の下端縁部241bから滴下されるインク滴2を回収するようになっている。また、回収タンク250は、下部フレーム71に対して着脱可能に取り付けられている。
【0105】
次に、本実施の形態におけるインク受け機構208の動作について、図16に示すフローチャートを参照して説明する。インク受け機構208は、制御部に記録されたプログラムに基づいて作動するものとしている。
【0106】
インクジェット記録装置1の稼働中に、定期的にキャリッジ5をインク受け機構8に対向する位置に移動させる。ここでは、毎回同じ場所に位置するようにしている。そして、インク受けベルト210の吐出範囲21に対して、インクジェットヘッド4のノズル9から一斉にインク滴2を噴射して空吐出を行う。噴射されたインク滴2は、ミストになることなく全てインク受けベルト210に到達して付着する。これにより、空吐出が完了する(ステップS1)。
【0107】
空吐出が完了した後、キャリッジ5は、記録媒体3に対向する位置に移動して、再び印写を開始する。また、空吐出が完了した時点では、ソレノイド234には通電されておらず、ピン234aが突出している。これにより、ピン234aの先端がストッパ233aに突き当たるので、クラッチ233は回転できない。このため、第2のギヤ232は空転するとともに駆動側ローラ軸221および駆動側ローラ222は回転しないので、インク受けベルト210は停止している。
【0108】
一方、空吐出が完了した後、ソレノイド234に通電される。これにより、ピン234aが引き込まれ、ピン234aの先端がストッパ233aから外れる。そして、クラッチ233が第2ギヤ232により回転し、クラッチ233がオン状態となる(ステップS2)。よって、第2のギヤ232と駆動側ローラ軸221とが一体回転するようになる。また、ローラ軸70と駆動側ローラ軸221とが、第1のギヤ231および第2のギヤ232を介して連結されて連動する(ステップS3)。
【0109】
ここで、制御部は、インク受けベルト210を回転させた時間を計測するための駆動時間タイマTを0にリセットする(ステップS4)。そして、インク受けベルト210が回転する(ステップS5)。
【0110】
制御部により、タイマTが予め設定した設定時間を超えているか否か判断される(ステップS6)。ここでの設定時間は、インク受けベルト210に吐出されたインク滴2が全てスクレイパ241により掻き取られる長さだけインク受けベルト210が回転する時間としている。制御部により駆動時間タイマTが設定時間を超えていないと判断された場合は(ステップS6;NO)、インク受けベルト210の回転が続行される(ステップS5)。
【0111】
図19に示すように、インク受けベルト210が下方に回転することにより、インク受けベルト210に吐出されたインク滴2がスクレイパ241の上端縁部241aにより掻き取られる。スクレイパ241により掻き取られたインク滴2は、スクレイパ241の表面上を流下してスクレイパ241の下端縁部241bに沿って拡がり、下端縁部241bの適宜な箇所から回収タンク250に滴下する。
【0112】
図16に示すように、制御部により駆動時間タイマTが設定時間を超えていると判断された場合は(ステップS6;YES)、インク受けベルト210に吐出されたインク滴2が全てスクレイパ241により掻き取られたと判断される。そして、ソレノイド234への通電が停止され、ピン234aが突出し、ピン234aの先端がストッパ233aに突き当たる。そして、クラッチ233の回転が停止され、ピン234aの先端がストッパ233aに突き当たるので、クラッチ233は回転できず、クラッチ233がオフ状態となる(ステップS7)。このため、第2のギヤ232は空転し、ローラ軸70と駆動側ローラ軸221との連結が解除される(ステップS8)。そして、駆動側ローラ軸221および駆動側ローラ222は回転しなくなるので、インク受けベルト210は停止する(ステップS9)。
【0113】
以上のように、本実施の形態に係るインクジェット記録装置201によれば、略鉛直に設けた無孔質のインク受けベルト210にインクジェットヘッド4を対向させて空吐出を行っているとともに、インクジェットヘッド4とインク受けベルト210との距離が2mmであるようにしている。このため、インクジェットヘッド4から空吐出されたインク滴2はミストになる前にインク受けベルト210に着弾され、インク受けベルト210に吸収されることがない。
【0114】
しかも、インク滴2が着弾されたインク受けベルト210は下方に移動するとともに、インク受けベルト210の下部にはスクレイパ241が設けられている。このため、従来のようにインク受けベルトのインク滴の着弾側とは反対側でインク滴を掻き取る場合に比べて、吐出直後のインク滴2を掻き取ることができる。これにより、インクの付着範囲が広がってインク受けベルト210の側縁から滴下することを抑制できる。また、吐出された直後の水分が蒸発する前のインクを掻き取ることができるので、インクがインク受けベルト210にこびりつくことを抑制できる。
【0115】
また、本実施の形態に係るインクジェット記録装置201によれば、インク受けベルト210を回転させる駆動側ローラ224の駆動源としてローラ軸70を利用している。このため、インク受けベルト210を回転させるために専用の駆動源を用意する必要がないので、部品点数やコストの増加を最小限に抑えることができる。
【0116】
また、本実施の形態に係るインクジェット記録装置201によれば、空吐出後にインク受けベルト210を回転させる長さを、吐出されたインク滴2が全てスクレイパ241により掻き取られる長さだけとしている。このため、インク受けベルト210の回転回数を最小限に抑えることができるので、インク受け機構208の寿命を長期化することができる。
【0117】
そして、本実施の形態に係るインクジェット記録装置201によれば、回収タンク250は着脱可能であるので、回収タンク250がインクで満たされた時に回収タンク250ごと交換することができ、インクを容易に回収できるようになる。
【0118】
本実施の形態に係るインクジェット記録装置201によれば、インク受けベルト210はインク接液性を満たす材質からなるので、インク受けベルト210がインクと長時間接してもインク成分に対して化学反応を起こすことが抑制される。これにより、インク受けベルト210が化学的に分解されて微小な凹凸が形成されることを防止できる。よって、インク受けベルト210に微小な凹凸が形成されることによりインク滴2がミスト化し易くなる現象や、インク滴2が凹凸に溜まって固着し易くなる現象の発生を抑制することができる。
【0119】
また、本実施の形態のインクジェット記録装置201によれば、インク受けベルト210は撥水性を有している。このため、インク受けベルト210に付着したインクはスクレイパ241により容易に掻き取られるので、インク受けベルト210の表面側にインクが付着したまま残存してしまうことを抑制できる。
【0120】
また、本実施の形態のインクジェット記録装置201によれば、スクレイパ241は長方形状であるので、下端縁部241bは水平な直線状となっている。このため、スクレイパ241の縦方向の長さを短くすることができる。ここで、スクレイパ241の縦方向の長さは、支持フレーム242の設置位置や支持フレーム242の縦方向の長さにより適宜設定可能であるが、インク滴2の流下を促進して堆積を抑制するために短い方が好ましい。このため、本実施の形態のインクジェット記録装置201によれば、スクレイパ241を小型化できるので、インク滴2の流下を促進してインク滴2の堆積を抑制することができる。しかも、スクレイパ241の縦方向の長さが短いことにより、部品コストを削減することができるとともに、インクジェット記録装置201の大型化を抑制することができる。
【0121】
上述した本実施の形態に係るインクジェット記録装置201においては、スクレイパ241の上端縁部241aは、インク受けベルト210のベルトホルダ225の下部により裏打ちされている平面状の部位に接触されている。しかしながら、本発明に係るインクジェット記録装置においては、これに限られず、例えば、図20(a)に示すように、スクレイパ241の上端縁部241aをインク受けベルト210の曲面状の湾曲部位210bに接触させるようにしてもよい。この場合、スクレイパ241の掻取面241cが斜め下方に向けて設けられるようになる。このため、掻取面241cが斜め上方を向いて設けられている場合に比べて、掻取面241cに付着したインク滴2の流下を促進することができ、インク滴2の堆積をより抑制することができる。
【0122】
この場合も、図20(b)に示すように、スクレイパ241のインク受けベルト210への接触角θは、インク滴2を掻き取る効果の観点から10度〜30度が好ましく、20度が最も好ましい。また、スクレイパ241の支持フレーム242の上端縁より上端縁部241a側に突出する突出長Tは、例えば8.7mmとしている。また、スクレイパ241の上端縁部241aがインク受けベルト210をベルトホルダ225側に押圧することによりインク受けベルト210が変形される深さは、例えば0.8mmとしている。スクレイパ241の突出長Tやインク受けベルト210の変形される深さは、インク滴2の粘度やスクレイパ241およびインク受けベルト210の硬度やインク接液性等に応じて適宜設定可能である。
【0123】
また、上述した本実施の形態に係るインクジェット記録装置201においては、スクレイパ241を平板状にしている。しかしながら、本発明に係るインクジェット記録装置においては、これに限られず、例えば、くさび形状としてもよい。
【0124】
上述した本実施の形態に係るインクジェット記録装置201においては、スクレイパ241は長方形状であるので、下端縁部241bは水平な直線状としている。しかしながら、本発明に係るインクジェット記録装置においては、これに限られず、例えば、下端縁部241aの一部を下方に突出させるようにしてもよい。例えば、図21(a)に示すようにホームベース形状の下端縁部342cとしたり、図21(b)に示すようにW字形状の下端縁部442cとしたり、図21(c)に示すようにV字形状の下端縁部542cとすることができる。あるいは、例えば、図21(d)に示すように半円形状の下端縁部642cとしたり、図21(e)に示すように右側あるいは左側に偏倚した頂点を有する三角形状の下端縁部742cとすることができる。これらはいずれも、上端縁部342a,442a,542a,642a,742aの幅が、下端縁部342b,442b,542b,642b,742bの幅より広くなっている。
【0125】
また、例えば、上端縁部と下端縁部との幅を同等にするようにしてもよい。例えば、図17(a)に示すように全体をホームベース形状としたり、図17(b)に示すように下端縁部441bをW字形状としたり、図17(c)に示すように全体をV字形状とすることができる。あるいは、例えば、図17(d)に示すように下端縁部641bを半円形状としたり、図17(e)に示すように全体を右側あるいは左側に偏倚した頂点を有する三角形状とすることができる。これらはいずれも、上端縁部341a,441a,541a,641a,741aの幅が、下端縁部341b,441b,541b,641b,741bの幅と同等になっている。
【0126】
これらの場合、下端縁部341b,342b,441b,442b,541b,542b,641b,642b,741b,742bが下方に向かっているとともに、多量のインクが細い先端部分に集中するので、インクが滴下し易くなる。このため、水平な直線状の下端縁部241bよりも、インクの滴下を促進して、インクの堆積を抑制することができる。
【0127】
また、上述した本実施の形態に係るインクジェット記録装置201においては、空吐出の際にインクジェットヘッド4をインク受けベルト210に対して毎回同じ場所に位置するようにしている。しかしながら、本発明に係るインクジェット記録装置においては、これに限られず、空吐出の際にインクジェットヘッド4の位置を適宜変更するようにしてもよい。
【0128】
すなわち、通常のインクジェットヘッドでは、例えば4〜6種類の異なる複数色のインクを用いる。これらのインクの粘性は、色によって異なる。このため、例えば粘性の高いインクがスクレイパ241の同じ箇所で掻き取られ続けると、スクレイパ241のその箇所に粘性の高いインクが溜まってインクの流れが悪くなってしまう可能性がある。そこで、インクジェットヘッド4の空吐出を行う位置を適宜変更することにより、粘性の高いインクがスクレイパ241の一カ所に集中しないようにすることができる。この場合、スクレイパ241で、インクの流れを円滑にすることができる。
【0129】
ここで、本願発明者が実験を重ねた結果、例えば、黒色、黄色、シアン色、マゼンダ色の各色のインクでは、黒色インクが最も乾燥し易く、かつ最も粘度が高いことが判明した。同時に、シアン色インクが最も乾燥しにくく、かつ最も粘度が低いことが判明した。このため、各色のインクをインク受けベルト210に吐出して単独のままで放置すると、黒色インクは比較的短時間で流動性が低下して堆積してしまう可能性がある。そこで、黒色インクは、インク受けベルト210の受け面210aへの吐出後、早期に他の色のインクに混合することが望ましい。すなわち、受け面210aにおいて、流動性の低い色のインク滴2と流動性の高い色のインク滴2とを混合するようにする。
【0130】
具体的には、例えば、図19に示すように、黒色インクのノズル列9kとシアン色インクのノズル列9cとを隣接させて第2のヘッド13に設けるようにできる。すなわち、流動性の低い色のインク滴を吐出するノズル列と、流動性の高い色のインク滴を吐出するノズル列とを隣接して配置する。
【0131】
これにより、黒色インクのノズル列9kから受け面210aに吐出された黒色インクは、吐出直後に、隣接するシアン色インクのノズル列9cから吐出されたシアン色インクに混合される。このため、黒色インクがシアン色インクに混合することにより黒色インクの流動性が低下しにくくなり、混合したインクが受け面210aを容易に流下して、受け面210aでのインクの堆積を抑制することができる。
【0132】
また、例えば、図22に示すように、黒色インクのノズル列9kとシアン色インクのノズル列9cとを近接させて第2のヘッド13に設けるとともに、スクレイパ542がV字形状の下端縁部542bを有するようにできる。この場合は、下端縁部542bの下端部において、受け面210aを流下した4色のインクが混合するようになる。これにより、特に黒色インクの流動性の低下を抑制することができるとともに、多量のインクが一点に集中して滴下し易くなる。このため、受け面210aでのインクの堆積を抑制することができる。
【0133】
また、例えば、図23に示すように、黒色インクのノズル列9kとシアン色インクのノズル列9cとを近接させて第2のヘッド13に設けるとともに、スクレイパ442がW字形状の下端縁部442bを有するようにできる。この場合は、黒色インクがシアン色インクに混合することにより黒色インクの流動性が低下しにくくなり、混合したインクが受け面210aを容易に流下するとともに、インクが下端縁部442bの細い先端部に集中して滴下し易くなる。また、下端縁部442bはW字形状であるので、V字形状の下端縁部542bに比べて、スクレイパ442の縦方向の長さが短くなる。このため、部品コストを削減することができるとともに、インクジェット記録装置201の大型化を抑制することができる。
【0134】
また、例えば、黒色インクのノズル列9kとシアン色インクのノズル列9cとを近接させていなくても、黒色インクを吐出した直後にインクジェットヘッド4を移動させて、黒色インクに重ねてシアン色インクを吐出するようにしてもよい。この場合も、黒色インクがシアン色インクに混合することにより、黒色インクの流動性が低下しにくくなる。
【0135】
また、上述した本実施の形態に係るインクジェット記録装置201においては、インクジェットヘッド4は黒色とシアン色のインクを隣接して有している。しかしながら、本発明に係るインクジェット記録装置においては、これに限られず、他の色の組み合わせとしてもよい。また、インクジェットヘッド4は黒色、黄色、シアン色、マゼンダ色の4色のインクを吐出するようになっているが、他の色の組み合わせとしてもよい。
【0136】
また、上述した本実施の形態に係るインクジェット記録装置201においては、インクジェットヘッド4のノズル面とインク受けベルト210との間隔は2mmとしているが、本発明に係るインクジェット記録装置においては、これに限られない。インクジェットヘッド4のノズル面とインク受けベルト210との間隔は、インク受けベルト210に付着したインクとインクジェットヘッド4とが接触しない距離であること、およびインクジェットヘッド4から吐出されたインク滴2がミストにならない距離であること等の条件により適宜決定することが好ましい。
【0137】
例えば、インク受けベルト210に付着したインクの厚さが0.5mm程度である場合は、インク受けベルト210に付着したインクとインクジェットヘッド4とが接触しないように、インクジェットヘッド4のノズル面とインク受けベルト210との間隔を1.5mm以上にすることが好ましい。また、インクジェットヘッド4から吐出されたインク滴2がミストにならないように、インクジェットヘッド4のノズル面とインク受けベルト210との間隔を2mm以下にすることが好ましい。また、ミストが発生しない距離は、例えばインク滴2の密度、半径、吐出速度によって変化するものであり、適宜設定することができる。
【0138】
また、上述した本実施の形態に係るインクジェット記録装置201においては、空吐出後にインク受けベルト210を回転させる長さを、吐出されたインク滴2が全てスクレイパ241により掻き取られる長さだけにしている。しかしながら、本発明に係るインクジェット記録装置においては、これに限られず、例えば空吐出後にインク受けベルト210を1回転させてもよく、あるいは第2のギヤ232と駆動側ローラ軸221とを一体化して、記録媒体3の搬送時にはインク受けベルト210が常に回転するようにしてもよい。
【0139】
また、上述した本実施の形態に係るインクジェット記録装置201においては、空吐出が完了した後(ステップS1)、制御部は常にインク受けベルト210を回転させてインクの掻き取りを行うようにしている。しかしながら、本発明に係るインクジェット記録装置においては、これに限られず、例えば、空吐出の完了により制御部がカウンタをアップし、カウンタが所定回数を超えた時に制御部がインク受けベルト210を回転させてインクの掻き取りを行うようにしてもよい。この場合、インクの掻き取り作業を必要最低限の回数で済ますことができるので、スクレイパ241やインク受けベルト210等の寿命を長期化することができる。
【0140】
また、上述した本実施の形態に係るインクジェット記録装置201においては、インク受けベルト210の表面側は撥水性を有している。しかしながら、本発明に係るインクジェット記録装置においては、これに限られず、インク受けベルト210の表面側に親水性コーティングを施すようにしてもよい。親水性コーティングは、例えばテフロン(登録商標)樹脂系のコーティング剤や、二酸化チタンやガラス繊維(被膜)系の親水性コーティング剤等の使用により形成されるようにできる。この場合、インク受けベルト210の表面側に付着したインクが滴にならずに液体膜となるので、インク受けベルト210の表面側でインクが滴状に付着したまま固化することを抑制できる。
【0141】
また、上述した本実施の形態に係るインクジェット記録装置201においては、スクレイパ241の表面側は撥水性を有している。しかしながら、本発明に係るインクジェット記録装置においては、これに限られず、スクレイパ241の表面側に親水性コーティングを施すようにしてもよい。親水性コーティングは、テフロン(登録商標)樹脂系のコーティング剤や、二酸化チタンやガラス繊維(被膜)系の親水性コーティング剤等の使用により形成されるようにできる。この場合、スクレイパ241の表面側に付着したインクが滴にならずに液体膜となるので、スクレイパ241の表面側でインクが滴状に付着したまま固化することを抑制できる。
【符号の説明】
【0142】
1,201 インクジェット記録装置
2 インク滴
3 記録媒体
4 インクジェットヘッド
5 キャリッジ
8 インク受け機構
9c シアン色インクのノズル列
9k 黒色インクのノズル列
9m マゼンダ色インクのノズル列
9y 黄色インクのノズル列
21 インク滴の吐出範囲
22 インク受け板
22a 受け面
22c 凸状の曲面
22d 凹状の曲面
24、250 回収タンク
60 クリーニング手段
61 ワイパー
61a ワイパーの原位置
61b ワイパーの旋回位置
62 係合部材
63 付勢部材
210 インク受けベルト
210a 受け面
210b 湾曲部位
220 支持手段
230 回転手段
240 掻取手段
241,341,342,441,442,541,542,641,642,741,742 スクレイパ
241a,341a,342a,441a,442a,541a,542a,641a,642a,741a,742a 上端縁部
241b,341b,342b,441b,442b,541b,542b,641b,642b,741b,742b 下端縁部
241c 掻取面
【先行技術文献】
【特許文献】
【0143】
【特許文献1】特許第3707274号公報
【特許文献2】特開2001−162836号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク滴を水平方向に吐出して記録媒体に印字するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドから空吐出された前記インク滴を受けるインク受け機構とを備えるインクジェット記録装置において、
前記インク受け機構は、空吐出された前記インク滴の吐出範囲より広く、前記インク滴が着弾されるとともに親水性で略鉛直に設けられた受け面を有する無孔質のインク受け板と、前記インク受け板の下方に設けられるとともに前記インク受け板に着弾されて滴下されたインク滴が回収される回収タンクとを備え、
前記インクジェットヘッドと前記インク受け板の前記受け面との距離は前記インク滴が霧状になる距離よりも短いことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記受け面は、上部を前記インクジェットヘッドに近接する側に位置させるとともに、下部を前記インクジェットヘッドから離隔する側に位置させるよう傾斜して設けられていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記受け面は、平面であることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記受け面は、曲面であることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記インク受け板は、前記インク受け機構に対して着脱可能であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記インク受け機構は、前記インク受け板の前記受け面をクリーニングするクリーニング手段を備えるとともに、
前記クリーニング手段は、原位置と旋回位置との間を旋回可能であるとともに前記旋回により前記インク受け板の前記受け面に付着した前記インク滴を拭き落としてクリーニング可能なワイパーと、前記ワイパーに一体的に設けられるとともに前記インクジェットヘッドの移動方向の片端面に係合可能な係合部材と、前記ワイパーを原位置に戻す方向に付勢する付勢部材とを有し、
前記インクジェットヘッドが前記インク受け板の正面から離れて位置して前記インクジェットヘッドが前記係合部材から離れる時は前記ワイパーが付勢部材の付勢により前記原位置に位置するとともに、前記インクジェットヘッドが前記インク受け板の正面に位置して前記インクジェットヘッドが前記係合部材に当接する時は前記ワイパーが前記付勢部材に抗して前記旋回位置に位置し、
前記インクジェットヘッドが移動することにより、前記ワイパーが前記原位置と前記旋回位置との間で旋回して前記受け面をクリーニングすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
インク滴を水平方向に吐出して記録媒体に印字するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドの印字領域外で前記インクジェットヘッドから空吐出された前記インク滴を受けるインク受け機構とを備えるインクジェット記録装置において、
前記インク受け機構は、
略鉛直で前記インクジェットヘッドに対向するとともに、空吐出された前記インク滴の吐出範囲より広く、前記インクジェットヘッドとの距離が前記インク滴の霧状になる距離よりも短い領域に設けられる受け面を有する無孔質のインク受けベルトと、
前記インク受けベルトを回転可能に支持する支持手段と、
前記受け面の下方へ向けて前記インク受けベルトを回転させる回転手段と、
前記受け面の下方に配置されるとともに、前記受け面が移動する際に前記受け面に付着した前記インク滴を掻き取る掻取手段と、
前記掻取手段の下方に設けられるとともに、前記掻取手段により前記受け面から掻き取られたインクを回収する回収タンクと、
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記記録媒体を搬送する記録媒体搬送機構を備え、
前記回転手段は、前記記録媒体搬送機構に連結されるとともに、前記記録媒体搬送機構により駆動されることを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記回転手段は、前記インクジェットヘッドが前記インク滴を空吐出した後、前記受け面に付着した前記インク滴が前記掻取手段により全て掻き取られる分だけ前記インク受けベルトを回転させることを特徴とする請求項7又は8に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記掻取手段は、前記受け面に接して前記インク滴を掻き取る上端縁部と、前記上端縁部に連続するとともに掻き取った前記インク滴を流通させる掻取面とを有し、
前記掻取面は前記受け面に対して鋭角を形成して設けられることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記インク受けベルトは、前記インクジェットヘッドに対向する部位の下方に、前記回転手段により湾曲される湾曲部位を有するとともに、
前記掻取手段は、前記上端縁部を前記湾曲部位に接触させるとともに、前記掻取面を斜め下方に向けて設けられることを特徴とする請求項7〜10のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項12】
前記インクジェットヘッドから空吐出される前記インク滴は複数色であるとともに、前記掻取手段の下端縁部はV字形状を形成することを特徴とする請求項7〜11のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項13】
前記受け面において、流動性の低い色の前記インク滴と流動性の高い色の前記インク滴とを混合することを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項14】
前記インクジェットヘッドは前記インク滴を吐出するノズル列を有するとともに、
流動性の低い色の前記インク滴を吐出する前記ノズル列と、流動性の高い色の前記インク滴を吐出する前記ノズル列とは隣接して配置されることを特徴とする請求項13に記載のインクジェット記録装置。
【請求項15】
前記回収タンクは、移動可能であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2013−67155(P2013−67155A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249481(P2011−249481)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】