説明

インクジェット転写印刷法、転写シート及びその製造方法

【課題】デジタル画像を皮革表面へ転写するインクジェット転写印刷用転写シートを提供する。
【解決手段】プラスチックフィルム上に剥離可能に貼り付けられた透明又は半透明な伸縮性を有するポリウレタンラバーフィルムの表面側に水性ウレタン系樹脂エマルジョンの乾燥皮膜を形成し、該水性ウレタン系樹脂エマルジョンの乾燥皮膜の表面に水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜を形成した。水性インク受容層形成剤は、炭素数4〜12のアルキル基を有する1種又は2種以上の(メタ)アクリル酸エステルとビニル系モノマーとを共重合させて得られる弱酸性の水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の水性媒体中に水溶性ポリカチオンを溶解させたものである。この転写シートに水性染料インクまたは水性顔料インクでインクジェット印刷し、印刷した転写シートを皮革等に転写すると、にじみなく、発色の優れた皮革等への染着ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷方式により水性染料インクまたは水性顔料インクで形成したデジタル画像を皮革(天然皮革、合成皮革、人工皮革、再生皮革等を含む。)の表面に強固に転写することができるインクジェット転写印刷法と、該インクジェット転写印刷法に用いる転写シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットカラープリンターの性能が飛躍的に向上しており、紙と印刷対象としたインクジェット方式印刷においては、特に、表面に顔料やバインダーを含むインク受容層を形成した専用紙を用いることにより、写真画質に迫る高画質のカラー印刷物を手軽に得ることが可能になっている。
【0003】
一方、インクジェット方式の印刷技術を皮革へ適用する試みも様々なされているが(特許文献1参照)、次のような問題点を抱えている。
【0004】
すなわち、インクジェット方式により皮革を印刷をする場合、溶剤インクが一般的に使われている。溶剤インクは高粘度でそれ自体に接着力があるため、皮革および全ての被着色材に滲みなく着色できる。また着色後は、被着色材に対して厚い膜を形成し、強く堅牢性があり着色が剥がれにくい。一般的な印刷方法は溶剤インクに適したインク受容層形成剤を受容層とした転写シートを使う。転写シートに溶剤インクを使ってインクジェット方式の印刷を行い、それを被着色材である皮革に水や熱を使って転写する。
【0005】
しかし、皮革に対して溶剤インクを用いる場合、溶剤インクを扱えるインクジェットプリンターが高価格であり業務用であることから、皮革へのインクジェット方式の印刷が普及していない。そのため、皮革製品のプリントは市場には普及せず、プリント皮革製品は高価な皮革製品とされる。また、溶剤インクを使う印刷環境は異臭等で大変悪く、家庭で皮革製品を気軽にプリントすることは難しい。
【0006】
もともと天然皮革は動物の種類毎に特徴があり、さらに同じ動物でも部位によって特徴があるため、多種多様な液剤を使って加工されている。皮革すべてを同一のインク受容層形成剤を使って滲みなく、鮮明にインクジェット方式の印刷するのは難しい。たとえインクジェット方式の印刷ができたとしても、印刷品質において耐水性が弱い。
【0007】
このため、家庭で手軽に皮革等をインクジェット方式で印刷することは困難である。
【0008】
【特許文献1】特表2003−512958
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は、従来型の業務用でかつ多大な設備投資がかかる溶剤インク型インクジェットプリンターではなく、家庭に普及している水性染料インク又は水性顔料インク及びインクジェットプリンターを用いて形成したデジタル画像を皮革(天然皮革、合成皮革、人工皮革、再生皮革又はそれらの複合材料を含む)の表面に強固に転写することができ、しかも、印刷品質は多色刷りで発色もよく、インクの滲みも少なく、風合いも損なわず剥がれにくい画像転写印刷物を得ることができるインクジェット転写印刷法と、該インクジェット転写印刷法に用いる転写シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、プラスチックフィルム上に剥離可能に貼り付けられた透明又は半透明な伸縮性を有するポリウレタンラバーフィルムの表面側に水性ウレタン系樹脂エマルジョンの乾燥皮膜を形成し、該水性ウレタン系樹脂エマルジョンの乾燥皮膜の表面に水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜を形成したインクジェット転写印刷用転写シートであって、前記水性インク受容層形成剤は、炭素数4〜12のアルキル基を有する1種又は2種以上の(メタ)アクリル酸エステルとビニル系モノマーとを共重合させて得られる弱酸性の水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の水性媒体中に水溶性ポリカチオンを溶解させたものであることを特徴とするインクジェット印刷用転写シートを提供する。
【0011】
また、本発明は、剥離紙上に剥離可能に貼り付けられた透明又は半透明な非伸縮性のウレタン系フィルムの表面側に水性ウレタン系樹脂エマルジョンの乾燥皮膜を形成し、該水性ウレタン系樹脂エマルジョンの乾燥皮膜の表面に水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜を形成したインクジェット転写印刷用転写シートであって、前記水性インク受容層形成剤は、炭素数4〜12のアルキル基を有する1種又は2種以上の(メタ)アクリル酸エステルとビニル系モノマーとを共重合させて得られる弱酸性の水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の水性媒体中に水溶性ポリカチオンを溶解させたものであることを特徴とするインクジェット印刷用転写シートを提供する。
【0012】
さらに、本発明は、プラスチックフィルム上に剥離可能に貼り付けられた透明又は半透明な伸縮性を有するウレタン系ラバーフィルムの表面側に水性ウレタン系樹脂エマルジョンを塗布し乾燥させて該水性ウレタン系樹脂エマルジョン乾燥皮膜を形成する工程と、該水性ウレタン系樹脂エマルジョンの乾燥皮膜の表面に水性インク受容層形成剤を塗布し乾燥させて該水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜を形成する工程とを有し、前記水性インク受容層形成剤は、炭素数4〜12のアルキル基を有する1種又は2種以上の(メタ)アクリル酸エステルとビニル系モノマーとを共重合させて得られる弱酸性の水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の水性媒体中に水溶性ポリカチオンを溶解させたものであることを特徴とするインクジェット印刷用転写シートの製造方法を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、剥離紙上に剥離可能に貼り付けられた透明又は半透明な非伸縮性のウレタン系フィルムの表面側に水性ウレタン系樹脂エマルジョンを塗布し乾燥させて該水性ウレタン系樹脂エマルジョン乾燥皮膜を形成する工程と、該水性ウレタン系樹脂エマルジョンの乾燥皮膜の表面に水性インク受容層形成剤を塗布し乾燥させて該水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜を形成する工程とを有し、前記水性インク受容層形成剤は、炭素数4〜12のアルキル基を有する1種又は2種以上の(メタ)アクリル酸エステルとビニル系モノマーとを共重合させて得られる弱酸性の水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の水性媒体中に水溶性ポリカチオンを溶解させたものであることを特徴とするインクジェット印刷用転写シートの製造方法を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、請求項1記載のインクジェット印刷用転写シートにおける水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜表面に、インクジェットプリンターにより水性インクによる転写画像を形成する工程と、前記水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜表面上の転写画像を皮革の表面に接触させた状態でインクジェット印刷用転写シートをプラスチックフィルムの上から加熱及び加圧する工程と、前記転写シートのプラスチックフィルムをウレタン系フィルムから剥がして除去する工程とを有することを特徴とするインクジェット転写印刷法を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、請求項2記載のインクジェット印刷用転写シートにおける水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜表面に、インクジェットプリンターにより水性インクによる転写画像を形成する工程と、前記水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜表面上の転写画像を皮革の表面に接触させ且つ皮革表面及び前記転写シートを水に浸した状態で、前記転写シートの剥離紙を剥がして除去する工程と、前記転写シートを前記ウレタン系フィルムの上から加熱及び加圧する工程とを有することを特徴とするインクジェット転写印刷法を提供する。
【0016】
上記構成のインクジェット印刷用転写シートにおいて、好ましくは、前記インク受容層形成剤の前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は、固形分が約50%のエマルジョン状態における粘度が4000〜20000mPa・s/30℃であり、且つ、その乾燥皮膜の柄ガラス転移温度(Tg)が−10〜−50℃の範囲内にある。
【0017】
前記インク受容層形成剤は、インクによる着色(例えば染色、印刷、ペインティング等)がなされる被着色用基材のインク受容面に予め付与されることにより、被着色用基材のインク受容面に透明な乾燥皮膜を形成し、インクが顔料タイプ又は染料タイプの何れであっても各種基材に対し、画像鮮明性、耐水性、耐候性及び発色性に優れた着色適正を付与することができる。しかも、軟らかい基材においてはその風合いやしなやかさを保ちつつ画像鮮明性、耐水性、耐候性及び発色性に優れた着色適正を付与することができる。
【0018】
前記インク受容層形成剤における水溶性カチオンポリマーは水分の存在下で、被着色用基材に対するアクリル系粘着剤のエマルジョン粒子の吸着力を高める役割を果たすとともに、アクリル系粘着剤の乾燥皮膜上へのアニオン性色剤の吸着力を高める役割を果たすものと考えられる。前記インク受容層形成剤の乾燥皮膜は、アニオン性色剤を含むインクが水性インクの場合であっても、また、レーザープリンター、カラーコピー機等で印刷する場合であっても、効果的である。
【0019】
前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は、固形分が約50%のエマルジョン状態における粘度が4000mPa・s/30℃よりも小さい場合においても、また、20000mPa・s/30℃よりも大きい場合においても、被着色用基材及びインクのアニオン性色剤に対する吸着力が低下し、粘着力若しくは接着力が不十分となる。さらに、固形分が約50%のエマルジョン状態における粘度が20000mPa・s/30℃よりも大きい場合は、皮革等への浸透性が低下するとともに、皮革等のしなやかさが損なわれる原因となる。したがって、より好ましくは、固形分が約50%のエマルジョン状態における前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の粘度が10000〜15000mPa・s/30℃である。
【0020】
前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は、その乾燥皮膜のガラス転移温度(Tg)が−10℃よりも高い場合においても、また、−50℃よりも低い場合においても、被着色用基材及びインクのアニオン性色剤に対する吸着力が低下し、粘着力若しくは接着力が不十分となる。また、乾燥皮膜のガラス転移温度(Tg)が−10℃よりも高い場合は、被着色用基材として布を対象とする場合に、その繊維表面に形成される乾燥皮膜が布の風合いを損ねる原因となる。また、乾燥皮膜のガラス転移温度(Tg)が−50℃よりも低いと、被着色用基材に形成される乾燥皮膜が5〜30℃の温度環境において手で触った
ときに不快な粘着感を生じるようになる。したがって、より好ましくは、前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤はその乾燥皮膜のガラス転移温度(Tg)が−10℃〜−50℃の範囲内となるものである。
【0021】
好ましくは、前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は、ノニオン性界面活性剤の存在下、又は、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤の存在下に、炭素数4〜12のアルキル基を有する1種又は2種以上の(メタ)アクリル酸エステルとビニル系モノマーとを共重合させたものである。前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤がノニオン性界面活性剤の存在下でエマルジョン重合されている場合であっても、また、前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤がノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤の存在下でエマルジョン重合されている場合であっても、弱酸性(pHが4〜6)の水性媒体中で、該水性エマルジョン型アクリル系粘着剤と前記水溶性カチオンポリマーとの混合物が実用上支障を来たすほどの凝集物を生成することはなく、該水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は長期間にわたり、実用上十分な分散性を維持し得る。
【0022】
好ましくは、前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の固形分の含有量が0.5〜5wt%であり、前記水溶性カチオンポリマーの含有量が0.1〜3wt%であり、残りが水系媒体である。前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の固形分の含有量が5wt%よりも多い場合は、特に布の繊維間へのエマルジョン粒子の浸透性が悪くなる。前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の固形分の含有量が0.5wt%よりも少ない場合は、インクによる着色濃度を確保するためには、被着色用基材への前記インク受容層形成剤の付与を繰り返す回数を増やす必要が生じ、非効率的になる。前記水溶性カチオンポリマーの含有量が0.1wt%よりも少ないと、インクに含まれる色剤に対する吸着力若しくは接着力が低下し、水洗堅牢度、洗濯堅牢度等が悪化する原因となる。一方、前記水溶性カチオンポリマーの含有量が3wt%よりも多いと、前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の固形分の含有量に対して過剰となり、着色(染色、印刷、ペインティング等)をした後に被着色用基材が水に濡れたとき、過剰な水溶性カチオンポリマーが流れ出て周囲を汚染する原因となる。
【0023】
好ましくは、前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は、その数平均分子量(Mn)が3000〜20000の範囲内にあり、且つ、重量平均分子量(Mw)が10000〜100000の範囲内にある。
【0024】
好ましくは、前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の平均粒子径が、レーザー拡散法による測定において0.1〜3μmの範囲内にある。
【0025】
好ましくは、前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は、その乾燥皮膜の最低造膜温度(MFT)が0℃以下である。
【0026】
好ましくは、前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は、アクリル酸2−エチルヘキシルと、アクリル酸ブチルと、酢酸ビニルとをエマルジョンとを共重合させたものである。
【0027】
好ましくは、前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤における共重合体全体に対する酢酸ビニルの含有量が20〜30wt%である。
【0028】
好ましくは、前記水溶性カチオンポリマーは、第4級アンモニウム塩の重合体である。
【0029】
好ましくは、前記水溶性カチオンポリマーは、一般式が、
CH2=CH−CH2−NHR
(式中Rは水素又は炭素数1〜18のアルキル基、置換アルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基を表す)
で示されるモノアリルアミン誘導体又はその塩の重合体、又は、前記モノアリルアミン誘導体又はその塩の重合体と、それらと共重合可能な不飽和二重結合を持つモノマーとの共重合体からなる。
【0030】
好ましくは、前記水溶性カチオンポリマーは、重量平均分子量(Mw)が1000〜5000の範囲内にあるポリアリルアミン塩酸塩である。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、従来型の業務用でかつ多大な設備投資がかかる溶剤インク型インクジェットプリンターではなく、家庭に普及している水性染料インク又は水性顔料インク及びインクジェットプリンターを用いて形成したデジタル画像を皮革(天然皮革、合成皮革、人工皮革、再生皮革又はそれらの複合材料を含む)の表面に強固に転写することができ、しかも、印刷品質は多色刷りで発色もよく、インクの滲みも少なく、風合いも損なわず剥がれにくい画像転写印刷物を得ることができるインクジェット転写印刷法を提供することができる。
【0032】
さらに発明によれば、上記インクジェット転写印刷法に用いて品質の良好な転写印刷物を得ることができる転写シートを提供することができる。
【0033】
さらに本発明によれば、上記転写シートを効率的且つ経済的に製造することができる転写シートの造方法を提供することができる。
【0034】
皮革の表面に鮮明にプリントされたフィルムは、耐水性や摩擦に対して堅牢性があり、ポリウレタンフィルムは柔軟性があるので、被着色材である皮革の風合いが変わらない。さらに、被着色材である皮革の表面をポリウレタンフィルムが被膜するので、防水性にも富む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例】
【0036】
図1は本発明によるインクジェット印刷用転写シートの一実施形態を示す断面図である。図において、1はプラスチックフィルム、2はウレタン系ラバーフィルム、3は水性ポリウレタンエマルジョンの乾燥皮膜、4は水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜である。
【0037】
この転写シートは、プラスチックフィルム1に剥離可能に貼り付けられた半透明な伸縮性を有するウレタン系ラバーフィルム2の表面側に水性ウレタン系樹脂エマルジョンを塗布し乾燥させて該水性ウレタン系樹脂エマルジョン乾燥皮膜3を形成した後、該水性ウレタン系樹脂エマルジョンの乾燥皮膜3の表面に水性インク受容層形成剤を塗布し乾燥させて該水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜4を形成してなる。プラスチックフィルム1は特に限定はされないが、例えばポリプロピレン(PP)フィルムを用いることができる。ウレタン系ラバーフィルム2は厚さが数μm〜数100μmのものを用いることができるが、皮革のしなやかさを低下させないためには、薄い方がよい。水性インク受容層形成剤は、アクリル酸2−エチルヘキシルと、アクリル酸ブチルと、酢酸ビニルとをエマルジョンとを共重合させて得られる弱酸性の水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の水性媒体中に次の構造式を有するポリアリルアミン塩酸塩(日東紡績株式会社のDanfix-723)を溶解させたものである。
【0038】
【化1】

【0039】
使用した水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は、固形分が約50%のエマルジョン状態における粘度が4000〜20000mPa・s/30℃であり、且つ、その乾燥皮膜の柄ガラス転移温度(Tg)が−10〜−50℃の範囲内にあるものである。また、水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の固形分の含有量が0.5〜5wt%であり、水溶性カチオンポリマーの含有量が0.1〜3wt%であり、残りが水系媒体である。さらに、使用した水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は、その数平均分子量(Mn)が3000〜20000の範囲内にあり、且つ、重量平均分子量(Mw)が10000〜100000の範囲内にあるものである。また、使用した水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は、平均粒子径が、レーザー拡散法による測定において0.1〜3μmの範囲内にあるものである。さらに、使用した水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は、その乾燥皮膜の最低造膜温度(MFT)が0℃以下であるものである。
【0040】
図2は上記転写シートを用いたインクジェット転写印刷法の一実施形態を示すものである。同図を参照すると、本発明のインクジェット転写印刷法によれば、先ず図1に示す転写シートにおける水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜4の表面に、インクジェットプリンター(図示省略)により水性インクによる転写画像(例えば多色カラーデジタル画像)15が形成される(図2(a)参照)。次に、水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜4の表面上の転写画像15を皮革16の表面に接触させた状態で転写シートがプラスチックフィルム11の上から加熱及び加圧(アイロン掛け)される(図2(b)参照)。次に、転写シートのプラスチックフィルム11がウレタン系ラバーフィルム12から剥がされて除去される(図2(c)、(d)参照)。なお、加熱加圧処理法としては、ローラー型加熱加圧装置を用いてもよい。
【0041】
こうのようにして、皮革の表面に鮮明にプリントされたフィルムは、耐水性や摩擦に対して堅牢性があり、ポリウレタンフィルムは柔軟性があるので、被着色材である皮革の風合いが変わらない。さらに、被着色材である皮革の表面をポリウレタンフィルムが被膜するので、防水性にも富む。
【0042】
次に、上記実施形態の転写シート及びインクジェット転写印刷法による実施例を比較例と共に説明する。
【0043】
実施例1
(1)転写シート
プラスチックフィルム(セパレータ)上に剥離可能に貼り付けられた伸縮性のポリウレタンラバーフィルム(保護フィルム)の表面側に水性ウレタン系樹脂エマルジョンを塗布し乾燥させて該水性ウレタン系樹脂エマルジョン乾燥皮膜を形成した後、該水性ウレタン系樹脂エマルジョンの乾燥皮膜の表面に水性インク受容層形成剤を塗布し乾燥させて該水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜を形成した。このとき、水性インク受容層形成剤としては、モノマー成分としてアクリル系樹脂及び酢酸ビニルを含む共重合体の水性エマルジョンの水性媒体中に水溶性ポリカチオンを溶解させたものを用いた。
【0044】
(2)インクジェット印刷
水性染料インクを用い、インクジェットプリンターで転写シートの水性インク受容層形成剤乾燥皮膜の表面に多色カラー画像を印刷した。水性染料インクジェットプリンターとして、キヤノン社製PIXUSiP4100、エプソン社製PM‐G720を使用した。また、水性顔料インクジェットプリンターとして、キヤノン社製W8400とエプソン社製PX−9000を使用した。
【0045】
(3)転写処理
被転写物として天然皮革、人工皮革及び剛性皮革を用いた。各皮革の表面側に転写シートの印刷面側を密着させ、プラスチックフィルム(セパレータ)の上から約100〜150℃の温度で数分間、加熱加圧処理(アイロン掛け)を行った。
【0046】
上記加熱加圧処理後、天然皮革、人工皮革及び剛性皮革が常温まで自然冷却させてから、プラスチックフィルム(セパレータ)をポリウレタンラバーフィルムの表面から剥がし取り除いて画像の転写を完了した。
【0047】
実施例2
実施例1と同じ転写シートを用い、実施例1と同じ方法でインクジェット印刷を実施した。また、実施例1と同じ方法で転写を行った。但し、加熱加圧処理は、プラスチックフィルム(セパレータ)の上から約100〜150℃の温度で数分間、加熱加圧処理(アイロン掛け)を行った後、さらに約150〜200℃の温度で数十秒間、アイロン掛けを行った。
【0048】
実施例3
実施例1と同じ転写シートを用いた。また、インクジェット印刷に顔料系水性インクを用いた点を除き、インクジェット印刷及び転写処理を、それぞれ実施例1と同じ方法で実施した。
【0049】
実施例4
実施例1と同じ転写シートを用いた。また、インクジェット印刷に顔料系水性インクを用いた点を除き、インクジェット印刷及び転写処理を、それぞれ実施例2と同じ方法で実施した。
【0050】
比較例1
転写シートとして、プラスチックフィルム(セパレータ)上に伸縮性のポリウレタンラバーフィルムが剥離可能に貼り付けられたものを用いた。この転写シートのポリウレタンラバーフィルムの表面に実施例1と同じ方法でインクジェット印刷を行い、天然皮革、人工皮革及び剛性皮革への転写を試みた。
【0051】
比較例2
転写シートとして、プラスチックフィルム(セパレータ)上に剥離可能に貼り付けられた伸縮性のポリウレタンラバーフィルムの表面側に水性ウレタン系樹脂エマルジョンを塗布し乾燥させて該水性ウレタン系樹脂エマルジョン乾燥皮膜を形成したものを用いた。この転写シートの水性ウレタン系樹脂エマルジョン乾燥皮膜の表面に実施例1と同じ方法でインクジェット印刷を行い、天然皮革、人工皮革及び剛性皮革への転写を試みた。
【0052】
比較例3
転写シートとして、プラスチックフィルム(セパレータ)上に剥離可能に貼り付けられた伸縮性のポリウレタンラバーフィルムの表面側に水性インク受容層形成剤を塗布し乾燥させて該水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜を形成したものを用いた。このとき、水性インク受容層形成剤は、モノマー成分としてアクリル系樹脂及び酢酸ビニルを含む共重合体の水性エマルジョンの水性媒体中に水溶性ポリカチオンを溶解させたものを用いた。この転写シートの水性インク受容層形成剤乾燥皮膜の表面に実施例1と同じ方法でインクジェット印刷を行い、天然皮革、人工皮革及び剛性皮革への転写を試みた。
【0053】
比較例4
実施例1と同じ転写シートを用い、インクジェット印刷及び転写を実施例1と同じ方法で実施した。しかし、転写後の加熱加圧処理(アイロン掛け)は行わず、常温で自然乾燥させた。
【0054】
実施例1〜4及び比較例1〜4につき、次の評価確認試験を行った。評価は何れも「◎:極めて優れている」、「○:優れている」、「△:やや劣る」、「×:劣る」の4段階評価とした。なお、表中「−」は評価確認試験ができなかったことを示す。
【0055】
1.転写シートに対する水性インクの定着性
インクジェット印刷直後の転写シートに対する水性インクの定着性を目視にて確認し評価した。
【0056】
2.転写シートに対するインクドットの滲み
インクジェット印刷後に転写シート上のインクドットに滲みの発生の有無及び発生度合いを目視にて確認し評価した。
【0057】
3.皮革への転写画像の接着性
天然皮革、人工皮革及び合成皮革の表面への転写画像の接着性(剥がれにくさ)を確認し評価した。
【0058】
4.転写画像の鮮明度
天然皮革、人工皮革及び合成皮革の表面に転写された転写画像の鮮明度を目視にて確認し評価した。
【0059】
5.転写後の耐水性
画像の転写をした天然皮革、人工皮革及び合成皮革を10時間流水に晒し、転写画像及び保護フィルムの接着性(剥がれにくさ)を確認し評価した。
【0060】
6.転写後の耐候性
画像の転写をした天然皮革、人工皮革及び合成皮革を30日間戸外に晒し、転写画像及び保護フィルムの接着性(剥がれにくさ)及び発色性の劣化の度合いを確認し評価した。
【0061】
以上の評価試験結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
上記表に示す通り、実施例1〜4においては、何れの評価試験においても良好な結果が得られることを確認した。特に、転写時に保護フィルムの上から約100〜150℃の温度で数分間加熱加圧処理(アイロン掛け)を行った後、さらに約150〜200℃の温度で数十秒間加熱加圧処理(アイロン掛け)を行った場合に、皮革への転写画像の接着性、転写後の耐水性及び転写後の耐候性がより優れたものになるとともに、プラスチックフィルム(セパレータ)がポリウレタンラバーフィルム(保護フィルム)の表面から剥がれ易くなることを確認した。
【0064】
図3は本発明によるインクジェット印刷用転写シートの他の実施形態を示す断面図である。図において、11は剥離紙、12は水溶性糊(PVA)、13はポリウレタンフィルムシート、14は水性ポリウレタンエマルジョンの乾燥皮膜、15は水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜である。
【0065】
この転写シートは、剥離紙11の剥離面上に水溶性糊層12を介して剥離可能に貼り付けられた透明な非伸縮性のポリウレタンフィルムシート13の表面側に水性ウレタン系樹脂エマルジョンを塗布し乾燥させて該水性ウレタン系樹脂エマルジョン乾燥皮膜14を形成した後、該水性ウレタン系樹脂エマルジョンの乾燥皮膜14の表面に水性インク受容層形成剤を塗布し乾燥させて該水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜15を形成してなる。プラスチックフィルム1は特に限定はされないが、例えばポリプロピレン(PP)フィルムを用いることができる。ウレタン系ラバーフィルム2は厚さが数μm〜数100μmのものを用いることができるが、皮革のしなやかさを低下させないためには、薄い方がよい。水性インク受容層形成剤は、アクリル酸2−エチルヘキシルと、アクリル酸ブチルと、酢酸ビニルとをエマルジョンとを共重合させて得られる弱酸性の水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の水性媒体中にポリアリルアミン塩酸塩(日東紡績株式会社のDanfix-723)を溶解させたものである。
【0066】
使用した水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は、固形分が約50%のエマルジョン状態における粘度が4000〜20000mPa・s/30℃であり、且つ、その乾燥皮膜の柄ガラス転移温度(Tg)が−10〜−50℃の範囲内にあるものである。また、水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の固形分の含有量が0.5〜5wt%であり、水溶性カチオンポリマーの含有量が0.1〜3wt%であり、残りが水系媒体である。さらに、使用した水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は、その数平均分子量(Mn)が3000〜20000の範囲内にあり、且つ、重量平均分子量(Mw)が10000〜100000の範囲内にあるものである。また、使用した水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は、平均粒子径が、レーザー拡散法による測定において0.1〜3μmの範囲内にあるものである。さらに、使用した水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は、その乾燥皮膜の最低造膜温度(MFT)が0℃以下であるものである。
【0067】
図4は図3に示す転写シートを用いたインクジェット転写印刷法の一実施形態を示すものである。同図を参照すると、本発明のインクジェット転写印刷法によれば、先ず図3に示す転写シートにおける水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜15の表面に、インクジェットプリンター(図示省略)により水性インクによる転写画像(例えば多色カラーデジタル画像)16が形成される(図4(a)参照)。次に、水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜15の表面上の転写画像16を皮革17の表面に接触させるとともに、皮革17の表面及び転写シートを剥離紙11の上から水に浸すと、水溶性糊(PVA)12が溶け出し、剥離紙11がポリウレタンフィルム13の上を滑るようにして剥がれて除去される(図4(b)、(c)参照)。さらに、転写シートのポリウレタンフィルム13の上に残っている水溶性糊12はきれいに拭き取られる(図4(d)、(e)参照)。皮革17及び転写シートが自然乾燥した後、転写シートがポリウレタンフィルム13の上から加熱及び加圧(アイロン掛け)される。
【0068】
皮革の表面に鮮明にプリントされたフィルムは、耐水性や摩擦に対して堅牢性があり、ポリウレタンフィルムは柔軟性があるので、被着色材である皮革の風合いが変わらない。さらに、被着色材である皮革の表面をポリウレタンフィルムが被膜するので、防水性にも富む。
【0069】
特に、水性染料インク16で図3に示す転写シート(水転写タイプ)をインクジェット印刷した場合は、ポリウレタンフィルム13の内側に画像が格納され、染料ならではの発色を保つことができる。また、摩擦、耐水、耐光の堅牢性に優れる。
【0070】
転写シートのポリウレタンフィルム13に代えてポリエステル、ポリエチレン、ポリ乳酸等あらゆるフィルム素材を用いることができるが、熱に強い、かつ柔軟性がある、という条件においては、ポリウレタンフィルムは好適である。
【0071】
転写シートを加熱加圧処理(アイロン掛け)するときは、ポリウレタンフィルムシート13の上にシリコンシートを被せてその上から加熱加圧処理(アイロン掛け)をするのが好ましい。なぜなら、シリコンシートが滑りやすいので、シリコンシートの上からポリウレタンフィルムを熱処理しても、水溶性糊(PVA)がシリコンシートにくっつかないからである。
【0072】
次に、上記実施形態の転写シート及びインクジェット転写印刷法による実施例を比較例と共に説明する。
【0073】
実施例5
(1)転写シート
剥離紙(セパレータ)の剥離面側に水溶性糊剤(PVA)を介して剥離可能に貼り付けられた透明な非伸縮性のポリウレタンフィルム(保護フィルム)の表面側に水性ウレタン系樹脂エマルジョンを塗布し乾燥させて該水性ウレタン系樹脂エマルジョン乾燥皮膜を形成した後、該水性ウレタン系樹脂エマルジョンの乾燥皮膜の表面に水性インク受容層形成剤を塗布し乾燥させて該水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜を形成した。このとき、水性インク受容層形成剤としては、モノマー成分としてアクリル系樹脂及び酢酸ビニルを含む共重合体の水性エマルジョンの水性媒体中に水溶性ポリカチオンを溶解させたものを用いた。
【0074】
(2)インクジェット印刷
水性染料インクを用い、インクジェットプリンターで転写シートの水性インク受容層形成剤乾燥皮膜の表面に多色カラー画像を印刷した。 水性染料インクジェットプリンターとして、キヤノン社製PIXUSiP4100、エプソン社製PM‐G720を使用した。また、水性顔料インクジェットプリンターとして、キヤノン社製W8400とエプソン社製PX−9000を使用した。
【0075】
(3)転写処理
被転写物として天然皮革、人工皮革及び剛性皮革を用いた。各皮革に対しその表面側を水で濡らした状態で、転写シートの印刷面側を皮革の表面に密着させ、転写シートの剥離紙をその背面側から水で浸して水溶性糊剤を溶解させた、剥離紙を横にスライドさせて保護フィルムの上から取り除いた。そして、保護フィルムの上に残る水溶性糊剤を拭き取った。これにより、各皮革の表面に外側が保護フィルムで被覆された転写画像が得られた。
【0076】
(4)後処理
各皮革を常温で自然乾燥させた後、保護フィルムの上から約100〜150℃の温度で数分間加熱加圧処理(アイロン掛け)を行った。
【0077】
実施例6
実施例5と同じ転写シートを用いた。また、インクジェット印刷及び転写を実施例5と同じ方法で実施した。さらに、後処理として、実施例5と同じ温度で保護フィルムの上から数分間アイロン掛けを行った後、さらに約150〜200℃の温度で数十秒間アイロン掛けを行った。
【0078】
実施例7
実施例5と同じ転写シートを用いた。また、インクジェット印刷に顔料系水性インクを用いた点を除き、インクジェット印刷、転写及び後処理を、それぞれ実施例5と同じ方法で実施した。
【0079】
実施例8
実施例5と同じ転写シートを用いた。インクジェット印刷に顔料系水性インクを用いた点を除き、インクジェット印刷、転写及び後処理を、それぞれ実施例6と同じ方法で実施した。
【0080】
比較例5
転写シートとして、剥離紙の剥離面側に水溶性糊剤(PVA)を介して透明な非伸縮性のポリウレタンフィルムが貼り付けられたものを用いた。この転写シートのポリウレタンフィルム表面に実施例1と同じ方法でインクジェット印刷を行い、天然皮革、人工皮革及び剛性皮革への転写を試みた。
【0081】
比較例6
転写シートとして、剥離紙の剥離面側に水溶性糊剤(PVA)を介して貼り付けられた透明な非伸縮性のポリウレタンフィルムの表面側に水性ウレタン系樹脂エマルジョンを塗布し乾燥させて該水性ウレタン系樹脂エマルジョン乾燥皮膜を形成したものを用いた。この転写シートの水性ウレタン系樹脂エマルジョン乾燥皮膜の表面に実施例1と同じ方法でインクジェット印刷を行い、天然皮革、人工皮革及び剛性皮革への転写を試みた。
【0082】
比較例7
転写シートとして、剥離紙の剥離面側に水溶性糊剤(PVA)を介して貼り付けられた透明な非伸縮性のポリウレタンフィルムの表面側に水性インク受容層形成剤を塗布し乾燥させて該水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜を形成したものを用いた。このとき、水性インク受容層形成剤は、モノマー成分としてアクリル系樹脂及び酢酸ビニルを含む共重合体の水性エマルジョンの水性媒体中に水溶性ポリカチオンを溶解させたものを用いた。この転写シートの水性インク受容層形成剤乾燥皮膜の表面に実施例5と同じ方法でインクジェット印刷を行い、天然皮革、人工皮革及び剛性皮革への転写を試みた。
【0083】
比較例8
実施例5と同じ転写シートを用い、インクジェット印刷及び転写を実施例5と同じ方法で実施した。しかし、転写後の加熱加圧処理(アイロン掛け)は行わず、常温で自然乾燥のみ行った。
【0084】
実施例5〜8及び比較例5〜8につき、次の評価確認試験を行った。評価は何れも「◎:極めて優れている」、「○:優れている」、「△:やや劣る」、「×:劣る」の4段階評価とした。なお、表中「−」は評価確認試験ができなかったことを示す。
【0085】
1.転写シートに対する水性インクの定着性
インクジェット印刷直後の転写シートに対する水性インクの定着性を目視にて確認し評価した。
【0086】
2.転写シートに対するインクドットの滲み
インクジェット印刷後に転写シート上のインクドットに滲みの発生の有無及び発生度合いを目視にて確認し評価した。
【0087】
3.皮革への転写画像の接着性
天然皮革、人工皮革及び合成皮革の表面への転写画像の接着性(剥がれにくさ)を確認し評価した。
【0088】
4.転写画像の鮮明度
天然皮革、人工皮革及び合成皮革の表面に転写された転写画像の鮮明度を目視にて確認し評価した。
【0089】
5.保護フィルムの接着性
天然皮革、人工皮革及び合成皮革の表面に転写された転写画像の表側を覆っている保護フィルムの接着性(剥がれにくさ)を確認し評価した。
【0090】
6.転写後の耐水性
画像の転写をした天然皮革、人工皮革及び合成皮革を10時間流水に晒し、転写画像及び保護フィルムの接着性(剥がれにくさ)を確認し評価した。
【0091】
7.転写後の耐候性
画像の転写をした天然皮革、人工皮革及び合成皮革を30日間戸外に晒し、転写画像及び保護フィルムの接着性(剥がれにくさ)及び発色性の劣化の度合いを確認し評価した。
【0092】
以上の評価試験結果を表2に示す。
【0093】
【表2】

【0094】
上記表に示す通り、実施例5〜8においては、何れの評価試験においても良好な結果が得られることを確認した。特に、転写後の後処理として保護フィルムの上から約100〜150℃の温度で数分間加熱加圧処理(アイロン掛け)を行った後、さらに約150〜200℃の温度で数十秒間加熱加圧処理(アイロン掛け)を行った場合に、皮革への転写画像の接着性、保護フィルムの接着性、転写後の耐水性及び転写後の耐候性がより優れたものになることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によるインクジェット転写印刷法は、天然皮革、合成皮革、人工皮革、再生皮革又はそれらの複合材料に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明によるインクジェット印刷用転写シートの一実施形態を示す断面図である。
【図2】(a)〜(d)は、図1に示す転写シートを用いたインクジェット転写印刷法の一実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明によるインクジェット印刷用転写シートの他の実施形態を示す断面図である。
【図4】(a)〜(e)は、図3に示す転写シートを用いたインクジェット転写印刷法の一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0097】
1 プラスチックフィルム
2 ポリウレタンラバーフィルム
3 水性ポリウレタンエマルジョンの乾燥皮膜
4 水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜
5 水性インク
6 皮革
11 剥離紙
12 水溶性糊層
13 ポリウレタンフィルムシート
14 水性ポリウレタンエマルジョンの乾燥皮膜
15 水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜
16 水性インク
17 皮革

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルム上に剥離可能に貼り付けられた透明又は半透明な伸縮性を有するポリウレタンラバーフィルムの表面側に水性ウレタン系樹脂エマルジョンの乾燥皮膜を形成し、該水性ウレタン系樹脂エマルジョンの乾燥皮膜の表面に水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜を形成したインクジェット転写印刷用転写シートであって、前記水性インク受容層形成剤は、炭素数4〜12のアルキル基を有する1種又は2種以上の(メタ)アクリル酸エステルとビニル系モノマーとを共重合させて得られる弱酸性の水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の水性媒体中に水溶性ポリカチオンを溶解させたものであることを特徴とするインクジェット印刷用転写シート。
【請求項2】
剥離紙上に剥離可能に貼り付けられた透明又は半透明な非伸縮性のウレタン系フィルムの表面側に水性ウレタン系樹脂エマルジョンの乾燥皮膜を形成し、該水性ウレタン系樹脂エマルジョンの乾燥皮膜の表面に水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜を形成したインクジェット転写印刷用転写シートであって、前記水性インク受容層形成剤は、炭素数4〜12のアルキル基を有する1種又は2種以上の(メタ)アクリル酸エステルとビニル系モノマーとを共重合させて得られる弱酸性の水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の水性媒体中に水溶性ポリカチオンを溶解させたものであることを特徴とするインクジェット印刷用転写シート。
【請求項3】
前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は、固形分が約50%のエマルジョン状態における粘度が4000〜20000mPa・s/30℃であり、且つ、その乾燥皮膜のガラス転移温度が−10〜−50℃の範囲内にあることを特徴とするインク請求項1又は2記載のインクジェット印刷用転写シート。
【請求項4】
前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は、ノニオン性界面活性剤の存在下に炭素数4〜12のアルキル基を有する1種又は2種以上の(メタ)アクリル酸エステルとビニル系モノマーとを共重合させたものであることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット印刷用転写シート。
【請求項5】
前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤の存在下に炭素数4〜12のアルキル基を有する1種又は2種以上の(メタ)アクリル酸エステルとビニル系モノマーを共重合させたものであることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット印刷用転写シート。
【請求項6】
前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の固形分の含有量が0.5〜5wt%であり、前記水溶性カチオンポリマーの含有量が0.1〜3wt%であり、残りが水系媒体であることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット印刷用転写シート。
【請求項7】
前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は、その数平均分子量が3000〜20000の範囲内にあり、且つ、重量平均分子量が10000〜100000の範囲内にあることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット印刷用転写シート。
【請求項8】
前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の平均粒子径が0.1〜3μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット印刷用転写シート。
【請求項9】
前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は、その乾燥皮膜の最低造膜温度が0℃以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット印刷用転写シート。
【請求項10】
前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤は、アクリル酸2−エチルヘキシルと、アクリル酸ブチルと、酢酸ビニルとをエマルジョンとを共重合させたものであることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット印刷用転写シート。
【請求項11】
前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤における共重合体全体に対する酢酸ビニルの含有量が20〜30wt%であることを特徴とする請求項8記載のインク受容層形成剤。
【請求項12】
前記水溶性カチオンポリマーは、第4級アンモニウム塩の重合体であることを特徴とする請求項1記載のインク受容層形成剤。
【請求項13】
前記水溶性カチオンポリマーは、一般式が、
CH2=CH−CH2−NHR
(式中Rは水素又は炭素数1〜18のアルキル基、置換アルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基を表す)
で示されるモノアリルアミン誘導体又はその塩の重合体、又は、前記モノアリルアミン誘導体又はその塩の重合体と、それらと共重合可能な不飽和二重結合を持つモノマーとの共重合体からなることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット印刷用転写シート。
【請求項14】
前記水溶性カチオンポリマーは、重量平均分子量が1000〜5000の範囲内にあるポリアリルアミン塩酸塩であることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット印刷用転写シート。
【請求項15】
プラスチックフィルム上に剥離可能に貼り付けられた透明又は半透明な伸縮性を有するウレタン系ラバーフィルムの表面側に水性ウレタン系樹脂エマルジョンを塗布し乾燥させて該水性ウレタン系樹脂エマルジョン乾燥皮膜を形成する工程と、該水性ウレタン系樹脂エマルジョンの乾燥皮膜の表面に水性インク受容層形成剤を塗布し乾燥させて該水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜を形成する工程とを有し、前記水性インク受容層形成剤は、炭素数4〜12のアルキル基を有する1種又は2種以上の(メタ)アクリル酸エステルとビニル系モノマーとを共重合させて得られる弱酸性の水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の水性媒体中に水溶性ポリカチオンを溶解させたものであることを特徴とするインクジェット印刷用転写シートの製造方法。
【請求項16】
剥離紙上に剥離可能に貼り付けられた透明又は半透明な非伸縮性のウレタン系フィルムの表面側に水性ウレタン系樹脂エマルジョンを塗布し乾燥させて該水性ウレタン系樹脂エマルジョン乾燥皮膜を形成する工程と、該水性ウレタン系樹脂エマルジョンの乾燥皮膜の表面に水性インク受容層形成剤を塗布し乾燥させて該水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜を形成する工程とを有し、前記水性インク受容層形成剤は、炭素数4〜12のアルキル基を有する1種又は2種以上の(メタ)アクリル酸エステルとビニル系モノマーとを共重合させて得られる弱酸性の水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の水性媒体中に水溶性ポリカチオンを溶解させたものであることを特徴とするインクジェット印刷用転写シートの製造方法。
【請求項17】
請求項1記載のインクジェット印刷用転写シートにおける水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜表面に、インクジェットプリンターにより水性インクによる転写画像を形成する工程と、前記水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜表面上の転写画像を皮革の表面に接触させた状態でインクジェット印刷用転写シートをプラスチックフィルムの上から加熱及び加圧する工程と、前記転写シートのプラスチックフィルムをウレタン系フィルムから剥がして除去する工程とを有することを特徴とするインクジェット転写印刷法。
【請求項18】
請求項2記載のインクジェット印刷用転写シートにおける水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜表面に、インクジェットプリンターにより水性インクによる転写画像を形成する工程と、前記水性インク受容層形成剤の乾燥皮膜表面上の転写画像を皮革の表面に接触させ且つ皮革表面及び前記転写シートを水に浸した状態で、前記転写シートの剥離紙を剥がして除去する工程と、前記転写シートを前記ウレタン系フィルムの上から加熱及び加圧する工程とを有することを特徴とするインクジェット転写印刷法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−111867(P2007−111867A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−302486(P2005−302486)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(505389455)
【Fターム(参考)】