説明

インクセット、インクカートリッジ及びインクジェット記録方法

【課題】各色の画像の発色性に優れ、かつ、各インクを重ね合わせて記録したコンポジットブラックの画像の耐ガス性に優れるインクセットを提供する。
【解決手段】シアンインクが下記一般式(1)を含有し、マゼンタインク、及び、イエローインクがそれぞれスルホン酸あるいはスルホン酸塩を有する特定のモノアゾ化合物を含有する、複数の色材の組み合わせが特定してなるインクジェット用のインクセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセット、インクカートリッジ及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録方法により得られる記録物の画質向上は著しく、インターネットのウェブ画面などを普通紙に印刷する機会が増えている。また、インクジェット記録方法により得られる記録物を展示するなどして長期間保存することも増えてきている。このため、発色性だけでなく画像保存性にも優れた画像を形成可能なインクが求められるようになっている。先ず、発色性に関しては、インクに特定の色材を含有させることによって、普通紙などの記録媒体に記録した画像の発色性を向上することについての提案がある(特許文献1参照)。
【0003】
また、画像保存性としては、耐ガス性及び耐光性、耐湿性、耐水性などの様々な特性が挙げられるが、記録物の展示を想定すると、画像保存性の中でも耐ガス性を向上することが必要とされている。画像の耐オゾン性を向上するために、各インクに画像堅牢性に優れる特定の染料を含有させたインクセットに関する提案がある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭60−33145号公報
【特許文献2】特開2003−238850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
耐ガス性に優れる画像を与えるインクを得るためには、例えば、インクに含有させる色材として、高い堅牢性を有する色材を用いるというアプローチがある。しかし、イエロー、マゼンタ、及びシアンのそれぞれの原色に相当する色材について、いたずらに堅牢性が良好である色材を用いても、これらのインクを用いて記録したフルカラー画像の耐ガス性は必ずしも良好であるとは限らないことがわかってきた。一方、普通紙に記録した画像の発色性を向上するためには、例えば、インクに含有させる色材として、高い発色性を有する色材を用いるというアプローチがある。しかし、発色性が良好である色材の分子構造と、耐ガス性が良好である色材の分子構造とは、一般的には両立が困難である。
【0006】
また、シアン、マゼンタ及びイエローの各インクには、それぞれのインクとして要求される画像の耐ガス性及び発色性のレベルは互いに異なる。しかし、このようなインクをバランスよく組み合わせ、フルカラー画像の全体としての耐ガス性及び発色性を向上することが必要である。
【0007】
したがって、本発明の目的は、各色の画像の発色性に優れ、かつ、各インクを重ね合わせて記録したコンポジットブラックの画像の耐ガス性に優れるインクセット、該インクセットを用いたインクカートリッジ及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明にかかるインクセットは、シアンインク、マゼンタインク、及び、イエローインクを含むインクジェット用のインクセットであって、前記シアンインクが、第1の色材として下記一般式(1)で表される化合物、第2の色材として下記一般式(2)で表される化合物、及び、第3の色材としてC.I.アシッドブルー9を含有し、前記マゼンタインクが、第1の色材として下記一般式(3)で表される化合物、第2の色材として下記一般式(4)で表される化合物、及び、第3の色材としてC.I.アシッドレッド289を含有し、前記イエローインクが、第1の色材としてC.I.ダイレクトイエロー132、及び、第2の色材として下記一般式(5)で表される化合物を含有することを特徴とする。
【0009】
【化1】

【0010】
(一般式(1)中、A、B、C、及びDはそれぞれ独立に芳香性を有する6員環であり、かつ、A、B、C、及びDの少なくともひとつは含窒素芳香環である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。Rはアルキレン基である。Rは、スルホ置換アニリノ基、カルボキシ置換アニリノ基、又はホスホノ置換アニリノ基であり、該置換アニリノ基はさらに、スルホン酸基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、アセチルアミノ基、ウレイド基、アルキル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン、アルキルスルホニル基、及びアルキルチオ基からなる群から選ばれる少なくともひとつの置換基を1乃至4個有してもよい。Rはヒドロキシ基又はアミノ基である。l(エル)、m、及びnは、0≦l(エル)≦2.0、0≦m≦3.0、0.1≦n≦3.0であり、かつ、1.0≦l(エル)+m+n≦4.0である。)
【0011】
【化2】

【0012】
(一般式(2)中、銅フタロシアニン骨格は、少なくともひとつベンゼン環における3位及び3’位の少なくとも一方に置換基を有する。Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、スルホン酸基、又はカルボキシ基であるが、R及びRは同時に水素原子とはならない。Rは塩素原子、ヒドロキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、又は、ジアルキルアミノ基である。l(エル)、m、及びnは、0≦l(エル)≦2.0、1.0≦m≦3.0、1.0≦n≦3.0であり、かつ、2.0≦l(エル)+m+n≦4.0である。)
【0013】
【化3】

【0014】
(一般式(3)中、R、R、R、及びRはそれぞれ独立にアルキル基である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【0015】
【化4】

【0016】
(一般式(4)中、Rはヒドロキシ基又は炭素数1乃至2のアルコキシ基である。Rは水素原子又はメチル基である。nは1又は2である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【0017】
【化5】

【0018】
(一般式(5)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルカノイルアミノ基、アルコキシアルコキシ基、スルホン酸基、カルボキシ基、又はウレイド基である。mはそれぞれ独立に1又は2である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、各色の画像の発色性に優れ、かつ、各インクを重ね合わせて記録したコンポジットブラックの画像の耐ガス性に優れるインクセット、該インクセットを用いたインクカートリッジ及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のインクカートリッジの一実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。なお、本発明においては、化合物(色材)が塩である場合は、インク中では塩の少なくとも一部はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。
【0022】
<インクセット>
本発明のインクセットは、シアンインク、マゼンタインク、及び、イエローインクを含み、インクジェット用として使用するものである。具体的には、各インクに、後述する特定の組み合わせの色材をそれぞれに含有させるという構成のインクセットにより、発色性に優れ、耐ガス性のカラーバランスが優れた画像を得ることができる。本発明におけるインクセットとは、複数のインクをそれぞれ独立に収容してなるインクカートリッジの状態や、複数のインクをそれぞれ収容してなる複数のインク収容部を組み合わせて一体的に構成されてなるインクカートリッジの状態、を含むものである。インクカートリッジには、記録ヘッドが一体的に形成されていてもよい。勿論、本発明のインクセットは、これらの形態に限られるものではない。
【0023】
(シアンインクの色材)
本発明のインクセットを構成するシアンインクは、第1の色材として下記一般式(1)で表される化合物、第2の色材として下記一般式(2)で表される化合物、及び、第3の色材としてC.I.アシッドブルー9を含有する。なお、フタロシアニン化合物は通常、置換基の置換位置や置換基数が異なる複数の異性体の混合物であるが、これらの異性体を単離することは困難であり、また、これらの異性体を分析して特定することも困難である。したがって、フタロシアニン化合物は通常混合物として用いられるため、置換基数を数値範囲や小数値として表現している。なお、異性体を含む状態であっても、本発明の効果は何ら変わらずに得られるため、ここでは異性体を区別することなく記載する。
【0024】
【化6】

【0025】
(一般式(1)中、A、B、C、及びDはそれぞれ独立に芳香性を有する6員環であり、かつ、A、B、C、及びDの少なくともひとつは含窒素芳香環である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。Rはアルキレン基である。Rは、スルホ置換アニリノ基、カルボキシ置換アニリノ基、又はホスホノ置換アニリノ基であり、該置換アニリノ基はさらに、スルホン酸基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、アセチルアミノ基、ウレイド基、アルキル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン、アルキルスルホニル基、及びアルキルチオ基からなる群から選ばれる少なくともひとつの置換基を1乃至4個有してもよい。Rはヒドロキシ基又はアミノ基である。l(エル)、m、及びnは、0≦l(エル)≦2.0、0≦m≦3.0、0.1≦n≦3.0であり、かつ、1.0≦l(エル)+m+n≦4.0である。)
【0026】
【化7】

【0027】
(一般式(2)中、銅フタロシアニン骨格は、少なくともひとつベンゼン環における3位及び3’位の少なくとも一方に置換基を有する。Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、スルホン酸基、又はカルボキシ基であるが、R及びRは同時に水素原子とはならない。Rは塩素原子、ヒドロキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、又は、ジアルキルアミノ基である。l(エル)、m、及びnは、0≦l(エル)≦2.0、1.0≦m≦3.0、1.0≦n≦3.0であり、かつ、2.0≦l(エル)+m+n≦4.0である。)
一般式(1)の化合物の好ましい具体例としては、下記の例示化合物C1やC2が挙げられる。また、一般式(2)の化合物の好ましい具体例としては、下記の例示化合物C3やC4が挙げられる。なお、下記の例示化合物は遊離酸の形で記載する。勿論、本発明は、前記一般式(1)や(2)の構造及びその定義に包含されるものであれば、下記の例示化合物に限られるものではない。
【0028】
【化8】

【0029】
(例示化合物C1は、A、B、C、及びDの4つの芳香環のうち、3つがピリジン環で1つがベンゼン環である化合物、2つがピリジン環で2つがベンゼン環である化合物、及び、1つがピリジン環で3つがベンゼン環である化合物の混合物である。0≦l(エル)≦2.0、0≦m≦3.0、0.1≦n≦3.0、かつ、1.0≦l(エル)+m+n≦4.0である。)
【0030】
【化9】

【0031】
(例示化合物C2において、m=2.4、n=0.6である。)
【0032】
【化10】

【0033】
(例示化合物C3の銅フタロシアニン骨格は、少なくともひとつベンゼン環における3位及び3’位の少なくとも一方に置換基を有する。また、0≦l(エル)≦2.0、1.0≦m≦3.0、1.0≦n≦3.0であり、かつ、2.0≦l(エル)+m+n≦4.0である。)
【0034】
【化11】

【0035】
(例示化合物C4の銅フタロシアニン骨格は、少なくともひとつベンゼン環における3位及び3’位の少なくとも一方に置換基を有する。また、m=2.0、n=2.0である。)
本発明においては、シアンインク中の各色材の含有量が以下の条件を満たすことが好ましい。なお、各色材の含有量はインク全質量を基準とした値である。シアンインク中、第1の色材の含有量(質量%)は、第1の色材、第2の色材及び第3の色材の合計の含有量(質量%)に対する質量比率で、30%以上90%以下、さらには50%以上80%以下であることが好ましい。第1の色材の含有量の質量比率を上記範囲とすることで、耐ガス性及びシアンインクとして好ましい発色性を両立させることができる。前記質量比率が30%未満であると、好ましいレベルの耐ガス性が十分に得られない場合がある。一方、前記質量比率が90%超であると、シアンインクとして好ましい発色性が十分に得られない場合がある。
【0036】
シアンインク中、第3の色材の含有量(質量%)は、第1の色材、第2の色材及び第3の色材の合計の含有量(質量%)に対する質量比率で、1%以上20%以下、さらには1%以上5%以下であることが好ましい。第3の色材の含有量の質量比率を上記範囲とすることで、耐ガス性及びシアンインクとして好ましい発色性を両立させることができる。前記質量比率が1%未満であるとシアンインクとして好ましい発色性が十分に得られない場合がある。一方、前記質量比率が20%超であると好ましいレベルの耐ガス性が十分に得られない場合がある。
【0037】
シアンインク中、第1の色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。シアンインク中、第2の色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。シアンインク中、第3の色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.01質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。
【0038】
シアンインク中、第1の色材、第2の色材及び第3の色材の合計の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下、さらには0.5質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。合計の含有量が0.1質量%未満であると、耐ガス性及びシアンインクとして好ましい発色性を十分に両立させることができない場合があり、合計の含有量が20.0質量%超であると、耐固着性などのインクジェット特性が十分に得られない場合がある。
【0039】
(マゼンタインクの色材)
本発明のインクセットを構成するマゼンタインクは、第1の色材として下記一般式(3)で表される化合物、第2の色材として下記一般式(4)で表される化合物、及び、第3の色材としてC.I.アシッドレッド289を含有する。
【0040】
【化12】

【0041】
(一般式(3)中、R、R、R、及びRはそれぞれ独立にアルキル基である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【0042】
【化13】

【0043】
(一般式(4)中、Rはヒドロキシ基又は炭素数1乃至2のアルコキシ基である。Rは水素原子又はメチル基である。nは1又は2である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
一般式(3)の化合物の好ましい具体例としては、下記の例示化合物M1が挙げられる。また、一般式(4)の化合物の好ましい具体例としては、下記の例示化合物M2が挙げられる。なお、下記の例示化合物は遊離酸の形で記載する。勿論、本発明は、前記一般式(3)や(4)の構造及びその定義に包含されるものであれば、下記の例示化合物に限られるものではない。
【0044】
【化14】

【0045】
【化15】

【0046】
本発明においては、マゼンタインク中の各色材の含有量が以下の条件を満たすことが好ましい。なお、各色材の含有量はインク全質量を基準とした値である。マゼンタインク中、第1の色材の含有量(質量%)は、第1の色材、第2の色材及び第3の色材の合計の含有量(質量%)に対する質量比率で、30%以上90%以下、さらには40%以上70%以下であることが好ましい。第1の色材の含有量の質量比率を上記範囲とすることで、耐ガス性及びマゼンタインクとして好ましい発色性を両立させることができる。前記質量比率が30%未満であると好ましいレベルの耐ガス性が十分に得られない場合がある。一方、前記質量比率が90%超であるとマゼンタインクとして好ましい発色性が十分に得られない場合がある。
【0047】
マゼンタインク中、第3の色材の含有量(質量%)は、第1の色材、第2の色材及び第3の色材の合計の含有量(質量%)に対する質量比率で、1%以上20%以下、さらには5%以上15%以下であることが好ましい。第3の色材の含有量の質量比率を上記範囲とすることで、耐ガス性及びマゼンタインクとして好ましい発色性を両立させることができる。前記質量比率が1%未満であるとマゼンタインクとして好ましい発色性が十分に得られない場合がある。一方、前記質量比率が20%超であると好ましいレベルの耐ガス性が十分に得られない場合がある。
【0048】
マゼンタインク中、第1の色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。マゼンタインク中、第2の色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。マゼンタインク中、第3の色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.01質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。
【0049】
マゼンタインク中、第1の色材、第2の色材及び第3の色材の合計の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下、さらには0.5質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。合計の含有量が0.1質量%未満であると、耐ガス性及びマゼンタインクとして好ましい発色性を十分に両立させることができない場合があり、合計の含有量が20.0質量%超であると、耐固着性などのインクジェット特性が十分に得られない場合がある。
【0050】
(イエローインクの色材)
本発明のインクセットを構成するイエローインクは、第1の色材としてC.I.ダイレクトイエロー132、及び、第2の色材として下記一般式(5)で表される化合物を含有する。
【0051】
【化16】

【0052】
(一般式(5)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルカノイルアミノ基、アルコキシアルコキシ基、スルホン酸基、カルボキシ基、又はウレイド基である。mはそれぞれ独立に1又は2である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
一般式(5)の化合物の好ましい具体例としては、下記の例示化合物Y1が挙げられる。なお、下記の例示化合物は遊離酸の形で記載する。勿論、本発明は、前記一般式(5)の構造及びその定義に包含されるものであれば、下記の例示化合物に限られるものではない。
【0053】
【化17】

【0054】
本発明においては、イエローインク中の各色材の含有量が以下の条件を満たすことが好ましい。なお、各色材の含有量はインク全質量を基準とした値である。イエローインク中、第1の色材の含有量(質量%)は、第1の色材及び第2の色材の合計の含有量(質量%)に対する質量比率で、30%以上90%以下、さらには50%以上80%以下であることが好ましい。第1の色材の含有量の質量比率を上記範囲とすることで、耐ガス性及びイエローインクとして好ましい発色性を両立させることができる。前記質量比率が30%未満であるとイエローインクとして好ましい発色性が十分に得られない場合がある。一方、前記質量比率が90%超であるとシアンインク及びマゼンタインクとの耐ガス性のバランスが崩れる場合がある。
【0055】
イエローインク中、第2の色材の含有量(質量%)は、第1の色材及び第2の色材の合計の含有量(質量%)に対する質量比率で、10%以上50%以下、さらには20%以上40%以下であることが好ましい。第2の色材の含有量の質量比率を上記範囲とすることで、耐ガス性及びイエローインクとして好ましい発色性を両立させることができる。前記質量比率が10%未満であるとシアンインク及びマゼンタインクとの耐ガス性のバランスが崩れる場合がある。一方、前記質量比率が50%超であるとイエローインクとして好ましい発色性が十分に得られない場合がある。
【0056】
イエローインク中、第1の色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。イエローインク中、第2の色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0057】
イエローインク中、第1の色材及び第2の色材の合計の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下、さらには0.5質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。合計の含有量が0.1質量%未満であると、耐ガス性及びイエローインクとして好ましい発色性を十分に両立させることができない場合があり、合計の含有量が20.0質量%超であると、耐固着性などのインクジェット特性が十分に得られない場合がある。
【0058】
(水性媒体)
本発明のインクセットを構成する各インクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、10.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましい。また、水溶性有機溶剤としては、1価ないしは多価のアルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができる。これらの水溶性有機溶剤は、1種又は2種以上をインクに含有させることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、5.0質量%以上90.0質量%以下、さらには10.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。
【0059】
本発明のインクセットを構成する各インクには、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、2−ピロリドン、尿素、エチレン尿素、及び、1、5−ペンタンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有させることが好ましい。このような成分を含有するインクとすることで、様々な環境下におけるインクの吐出特性や記録ヘッドの吐出口における耐固着性を向上することができる。特に、上記の水溶性有機溶剤から選ばれる少なくとも3種を併用することで、インクの粘度の上昇を効果的に抑制することができ、高速な記録にも適用可能なインクとすることができる。
【0060】
(添加剤)
本発明のインクセットを構成する各インクは、エチレン尿素などの尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類など、常温で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。また、本発明のインクセットを構成する各インクには、上記で説明した成分以外にも必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、水溶性ポリマーなど、種々の添加剤を含有させてもよい。本発明においては、インクに長期信頼安定性などの特性を持たせるために、クエン酸3ナトリウムやプロキセルGXL(防腐剤;アビシア製)などの添加剤をインクに含有させることが特に好ましい。
【0061】
(インクの物性)
本発明のインクセットを構成する各インクは、高速記録にも適用可能とするために、25℃における粘度が1.0mPa・s以上5.0mPa・s以下、さらには2.0mPa・s以上2.6mPa・s以下の範囲内にあることが特に好ましい。また、本発明のインクセットを構成する各インクは、25℃における表面張力が20mN/m以上60mN/m以下であることが好ましい。また、本発明のインクセットを構成する各インクは、25℃におけるpHが5以上8以下であることが好ましい。
【0062】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、複数のインクをそれぞれに収容する複数のインク収容部を備えてなり、該複数のインク収容部に、上記で説明した本発明のインクセットを構成する各インクがそれぞれに収容されてなるものである。インクカートリッジは、複数のインク収容部と記録ヘッドとを有するように構成されていてもよい。以下にインクカートリッジの構成を説明する。
【0063】
図1は、本発明のインクカートリッジの一実施形態を示す分解斜視図である。このインクカートリッジには記録ヘッドが一体に形成されている。インクカートリッジ1000は、インクジェット記録装置の本体に載置されているキャリッジの位置決め手段及び電気的接点によって支持されるとともに、キャリッジに着脱可能となっている。インクカートリッジ1000の筺体1100の内部には、複数のインク(図示せず)がそれぞれに充填されている。そして、充填されているインクが消費されると、インクカートリッジは交換される。
【0064】
図1に示すインクカートリッジ1000の筺体1100には、記録ヘッド1200が一体に形成されている。この記録ヘッド1200は、電気信号に応じてインクに膜沸騰を生じさせるための熱エネルギーを生成する電気熱変換体を用いたサーマル方式の記録ヘッドである。筺体1100は、その内部にインクを保持する負圧を発生させるインク吸収体1301、1302及び1303を収容するための空間が形成されている。筺体1100は、記録ヘッド1200インク供給口にインクを導くための独立したインク流路を形成するインク供給機能を備えている。
【0065】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、上記で説明した本発明のインクセットを構成する各インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて記録媒体に画像を記録する方法である。インクを吐出する方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式や、インクに熱エネルギーを付与する方式が挙げられ、本発明においては、熱エネルギーを利用するインクジェット記録方法を採用することが特に好ましい。本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。
【0066】
本発明のインクセットを構成する各インクを用いて画像を記録する際に用いる記録媒体は、インクを付与して記録を行う記録媒体であればいずれのものでも用いることができる。本発明においては、普通紙や、色材をインク受容層の多孔質構造を形成する微粒子に吸着させる、光沢紙などのインクジェット用の記録媒体を用いることが好ましい。光沢紙としては、支持体上のインク受容層に形成された空隙によりインクを吸収する、所謂、隙間吸収タイプのインク受容層を有する記録媒体を用いることが好ましい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。以下、「部」又は「%」とあるのは、特に指定のない限り、質量基準である。
【0068】
<色材の合成>
特開2009−57540号公報の記載に準じて、シアンインクの第1の色材として用いる、ナトリウム塩型の例示化合物C2を合成した。また、特開2004−323605号公報の記載に準じて、シアンインクの第2の色材として用いる、ナトリウム塩型の例示化合物C4を合成した。なお、特開2004−323605号公報に記載の方法によりフタロシアニン骨格に置換基を導入する反応を行って得られた一般式(2)の化合物は銅フタロシアニン骨格の少なくともひとつのベンゼン環における3位及び3’位の少なくとも一方に置換基を有する。
【0069】
特開2006−143989号公報の記載に準じて、マゼンタインクの第1の色材として用いる、リチウム塩型の例示化合物M1を合成した。また、特許第3966390号公報の記載に準じて、マゼンタインクの第2の色材として用いる、ナトリウム塩型の例示化合物M2を合成した。国際公開第2005/033211号パンフレットの記載に準じて、イエローインクの第1の色材として用いる、ナトリウム塩型の例示化合物Y1を合成した。
【0070】
<インクの調製>
表1に示す各成分(単位:%)を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズが0.2μmであるメンブレンフィルターにて加圧ろ過を行って、各インクを調製した。なお、アセチレノールE100は川研ファインケミカル製のノニオン性界面活性剤である。
【0071】
【表1】

【0072】
<インクセットの構成、評価>
上記で得られた各インクを、表2の左側に示す組み合わせのインクセットとし、インクセットを構成する各インクをそれぞれ、図1に示す構成のインクカートリッジに充填した。このインクカートリッジをインクジェット記録装置PIXUS MP480(キヤノン製)を改造したものに搭載した。
【0073】
(普通紙の単色ベタ画像の光学濃度)
上記記録装置を用いて、普通紙(PBペーパーGF500;キヤノン製)に、各インクをそれぞれ単独で用い、600dpi×600dpi当たりに11.4ngのインクを付与する条件で単色のベタ画像を記録した。得られた画像について、分光光度計(Spectrolino;Gretag Macbeth製)を用いて光学濃度を測定し、普通紙の単色ベタ画像の光学濃度の評価を行った。評価基準は以下の通りである。結果を表2に示す。
A:インクセットを構成する全てのインクについて光学濃度が0.7以上であった
B:インクセットを構成するインクのうち少なくとも一部のインクについての光学濃度が0.7未満であった。
【0074】
(光沢紙の褪色カラーバランス)
上記記録装置を用いて、光沢紙(キヤノン写真用紙・光沢 ゴールド GL101;キヤノン製)に、各インクを重ね合わせて、光学濃度(試験前)が1.0であるコンポジットブラックのベタ画像を記録した。ガス腐食試験機GH−180(山崎精機製)の試験槽内に1.2ppmのオゾン、1.25ppmのNO、0.3ppmのSOの混合ガスを流量2L/分として流し、槽内温度24℃、相対湿度60%の条件で、画像を432時間暴露した。暴露前後のベタ画像について、上記と同じ分光光度計を用い、分光感度特性;ISO ステータスAにより規定されたイエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分の光学濃度を測定した。得られたシアン、マゼンタ、及びイエローの各波長領域での光学濃度から、濃度残存率={光学濃度(試験後)/光学濃度(試験前)}×100の式に基づいて、各成分の濃度残存率を求めた。
【0075】
このようにして得られた、イエロー成分、マゼンタ成分及びシアン成分の濃度残存率の最大値及び最小値の差をΔOD値として、このΔOD値から光沢紙の褪色カラーバランスの評価を行った。評価基準は以下の通りである。結果を表2に示す。なお、ΔOD値が大きいことは、イエロー成分、シアン成分、マゼンタ成分のいずれかに色相が大きくずれ、褪色カラーバランスが低いことを意味する。
A:ΔOD値が10未満であった
B:ΔOD値が10以上15未満であった
C:ΔOD値が15以上であった。
【0076】
【表2】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアンインク、マゼンタインク、及び、イエローインクを含むインクジェット用のインクセットであって、
前記シアンインクが、第1の色材として下記一般式(1)で表される化合物、第2の色材として下記一般式(2)で表される化合物、及び、第3の色材としてC.I.アシッドブルー9を含有し、
前記マゼンタインクが、第1の色材として下記一般式(3)で表される化合物、第2の色材として下記一般式(4)で表される化合物、及び、第3の色材としてC.I.アシッドレッド289を含有し、
前記イエローインクが、第1の色材としてC.I.ダイレクトイエロー132、及び、第2の色材として下記一般式(5)で表される化合物を含有することを特徴とするインクセット。
【化1】


(一般式(1)中、A、B、C、及びDはそれぞれ独立に芳香性を有する6員環であり、かつ、A、B、C、及びDの少なくともひとつは含窒素芳香環である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。Rはアルキレン基である。Rは、スルホ置換アニリノ基、カルボキシ置換アニリノ基、又はホスホノ置換アニリノ基であり、該置換アニリノ基はさらに、スルホン酸基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、アセチルアミノ基、ウレイド基、アルキル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン、アルキルスルホニル基、及びアルキルチオ基からなる群から選ばれる少なくともひとつの置換基を1乃至4個有してもよい。Rはヒドロキシ基又はアミノ基である。l(エル)、m、及びnは、0≦l(エル)≦2.0、0≦m≦3.0、0.1≦n≦3.0であり、かつ、1.0≦l(エル)+m+n≦4.0である。)
【化2】


(一般式(2)中、銅フタロシアニン骨格は、少なくともひとつベンゼン環における3位及び3’位の少なくとも一方に置換基を有する。Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、スルホン酸基、又はカルボキシ基であるが、R及びRは同時に水素原子とはならない。Rは塩素原子、ヒドロキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、又は、ジアルキルアミノ基である。l(エル)、m、及びnは、0≦l(エル)≦2.0、1.0≦m≦3.0、1.0≦n≦3.0であり、かつ、2.0≦l(エル)+m+n≦4.0である。)
【化3】


(一般式(3)中、R、R、R、及びRはそれぞれ独立にアルキル基である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【化4】


(一般式(4)中、Rはヒドロキシ基又は炭素数1乃至2のアルコキシ基である。Rは水素原子又はメチル基である。nは1又は2である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【化5】


(一般式(5)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルカノイルアミノ基、アルコキシアルコキシ基、スルホン酸基、カルボキシ基、又はウレイド基である。mはそれぞれ独立に1又は2である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【請求項2】
複数のインクをそれぞれに収容する複数のインク収容部を備えてなるインクカートリッジであって、
前記複数のインク収容部にそれぞれに収容されているインクが、請求項1に記載のインクセットを構成する各インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項3】
複数のインクをそれぞれにインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法であって、
前記複数のインクとして、請求項1に記載のインクセットを構成する各インクを用いることを特徴とするインクジェット記録方法。


【図1】
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【公開番号】特開2013−35922(P2013−35922A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171998(P2011−171998)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】