説明

インクセット、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、及びインクジェット記録装置

【課題】光沢ムラ及び耐光ムラが共に低減された画像を形成することが可能となるインクセットなどを提供すること。
【解決手段】少なくとも相対的に顔料の含有量が低い第1のインクと相対的に顔料の含有量が高い第2のインクとを有するインクセットにおいて、該第1のインク中に含まれる顔料の散乱光強度分布をAとし、第2のインク中に含まれる顔料の散乱光強度分布をBとした時に、Aの全面積における、粒子径が小さい方からの累積の面積が20%となる粒子径が、Bの全面積における、粒子径が小さい方からの累積の面積が90%となる粒子径と、同一又はより大きいことを特徴とするインクセットなど。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料を含有するインクを複数有するインクセットなどに関し、より詳しくはインクジェット記録方式による画像記録に好適なインクセットなどに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット用インクを用いて形成された画像には、銀塩写真と同レベルの堅牢性(耐光性・耐ガス性)が求められている。このような状況の中、色材として顔料を含むインク(以下「顔料インク」という場合がある)を用いれば、堅牢性に優れた画像が得られることが知られている。また、銀塩写真並みのより高品位な画像を得るために、色材の含有量の異なる同一色相の2種のインクを用いることも知られている。
【0003】
しかし、色材の含有量の異なる同一色相の2種の顔料インク(濃淡顔料インクセット)を用いて画像を形成させた場合、インクの付与量が異なる領域間において、光沢性や耐光性の違いに起因するムラ(光沢ムラや耐光ムラ)といった課題が生じてしまう。
【0004】
上記のような光沢ムラを解決させるための方法としては以下のような提案がされている。例えば、インク中の顔料の含有量が相対的に高いインク(濃インク)と、インク中の顔料の含有量が相対的に低いインク(淡インク)とを用いて画像を形成させる。その際に、濃インク中の樹脂の酸価を淡インク中の樹脂の酸価よりも低くさせる提案がされている(特許文献1参照)。
【0005】
また、耐光ムラを解決させるための方法としては、淡インク中の樹脂の含有量を濃インク中よりも多くし、淡インクを付与する領域の耐光性を向上させることが提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
また、別の方法として、淡インク中の顔料の平均粒子径を濃インク中の顔料の平均粒子径よりもある一定以上大きくさせることも提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2004−268275公報
【特許文献2】国際公開第01/48100号パンフレット
【特許文献3】特開2004−107427公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によると、従来より提案されている方法では、光沢ムラ及び耐光ムラという2つの課題を同時に解決することはできないことが判明した。例えば、樹脂の酸価が耐光性に与える影響は低いため、特許文献1で記載されている方法では、耐光性のムラが解消されることがなかった。
【0008】
また、特許文献3で記載されている方法によって、光沢ムラを解消させることは可能であった。しかしながら、インク中の樹脂量を増加させる程、淡インクを付与する領域の表面の平滑性が低下してしまう。その結果、淡インクが付与された領域と濃インクが付与された領域の凹凸の差が拡大してしまい、光沢ムラがさらに悪化してしまう場合があった。
【0009】
したがって、本発明者らは、光沢ムラ及び耐光ムラの2点の問題を同時に解決する手段を構築することが、顔料インクを用いて高品位な画像を形成するために、重要であるとの結論に至った。
【0010】
したがって、本発明の目的は、光沢ムラ及び耐光ムラが共に低減された画像を形成することが可能となるインクセットなどを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、少なくとも相対的に顔料の含有量が低い第1のインクと相対的に顔料の含有量が高い第2のインクとを有するインクセットにおいて、該第1のインク中に含まれる顔料の散乱光強度分布をAとし、第2のインク中に含まれる顔料の散乱光強度分布をBとした時に、Aの全面積における、粒子径が小さい方からの累積の面積が20%となる粒子径が、Bの全面積における、粒子径が小さい方からの累積の面積が90%となる粒子径と、同一又はより大きいことを特徴とするインクセットを提供する。
【0012】
また、本発明は、上記本発明のインクセットを構成しているインクを、インクジェット法で吐出する工程を有することを特徴とするインクジェット記録方法、上記本発明のインクセットを収容していることを特徴とするインクカートリッジ、上記本発明のインクセットを収容しているインク収容部と、上記インクセットを構成するインクを吐出させるためのインクジェット記録ヘッドとを具備していることを特徴とする記録ユニット、及び上記本発明のインクセットを収容しているインク収容部と、上記インクセットを構成するインクを吐出させるためのインクジェット記録ヘッドとを具備していることを特徴とするインクジェット記録装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のインクセットを用いて画像を形成させることで、光沢ムラ及び耐光ムラが低減した画像を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に好ましい実施形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明によって、インクセットを前記構成とすることで、形成された画像の光沢ムラ及び耐光ムラが低減した理由を以下に推測する。
従来の濃淡顔料インクセットを用いて、光沢を有する記録媒体(光沢媒体)上に画像を形成させた場合、記録した領域によって、画像の表面の平滑性が大きく異なる場合がある。平滑性が大きく異なる領域では、光の反射の状態が極端に異なるため、光沢ムラとして認識されてしまう問題があった。
【0015】
そこで本発明者らは、上記光沢ムラという問題に対して、インクが光沢媒体上に付与された時の顔料の凝集状態に着目して検討を進めた。その結果、淡インクを付与した領域の平滑性を低減させる一方、濃インクを付与した領域の平滑性を可能な限り向上させることで、光沢ムラを低減させることが可能となるという結論に至った。すなわち、本発明の思想は、一定の光沢性を維持しつつ、形成された画像のあらゆる領域の光の反射を極力同じにさせるものである。なお、インクを光沢媒体上に付与した領域の平滑性の差は、光の干渉を利用したマイクロマップなどで確認することが可能である。
【0016】
本発明者らの検討によると、濃インクと淡インクで記録された領域の平滑性は、各インク中の顔料の散乱光強度分布を制御することでコントロールすることができる。本発明の最大の特徴は、インク中の顔料の散乱光強度分布に着目し、該散乱光強度分布の状態を特定した濃淡顔料インクセットを用いる点にある。インク中の顔料は、その分散状態や凝集状態によって、粒子径に大きなばらつきがある。単に淡インクと濃インクとに含まれている顔料の平均粒子径だけ規定しても本発明における光沢ムラを低減することができない理由はここにある。すなわち、例え平均粒子径を規定したとしても、インク中には大小様々な粒子径の顔料が存在するため、光沢ムラを低減することができる、顔料の粒子径を実質的に規定したことにはならない。その結果、光沢媒体上での凹凸の差には、殆ど影響を与えないため、光沢ムラを低減する効果を得るまでには至っていない。
【0017】
本発明者らの検討によると、上記したマイクロマップを使用することで、顔料の粒子径が大きい程、記録媒体に付与された後の顔料凝集物が嵩高くなることが確認されている。そこで、本発明者らは、上記特性を利用することで、光沢ムラを解決できると確信した。
【0018】
さらに、本発明のインクセットを用いることで、従来のインクセットよりも耐光ムラを低減することが可能となった。理由は定かではないが、本発明者らは以下のように推測する。すなわち、淡インクを付与した領域の方が、濃インクを付与した領域よりも、相対的に粒子径が大きい顔料で凝集物が形成されている。その結果、淡インクで形成された画像の光に対する劣化速度が、濃インクで形成された画像の光に対する劣化速度に近くなるためであると思われる。以上のことから、濃淡顔料インクセットの各インクの粒度分布を規定することで、本発明の課題である光沢ムラ及び耐光ムラを同時に抑制できることが判明し、本発明に至った。
【0019】
次に、本発明のインクセットの構成により、光沢ムラ及び耐光ムラを同時に抑制するという本発明の目的を達成するに至った経緯について説明する。本発明においては、インクセットを構成する複数のインクのうち、相対的に顔料の含有量が低いインクを第1のインク、また、相対的に顔料の含有量が高いインクを第2のインクとする。また、第1のインク中に含まれる顔料の散乱光強度分布をAとし、第2のインク中に含まれる顔料の散乱光強度分布をBとする。このとき、Aの全面積における、粒子径が小さい方からの累積の面積が20%となる粒子径を、Bの全面積における、粒子径が小さい方からの累積の面積が90%となる粒子径と、同一又はより大きくする。
【0020】
本発明者らは、散乱光強度分布と光沢ムラの関係を明確にするために、様々な検討を行った。先ず、本発明者らは、インク全質量に対する顔料の含有量が4質量%以上の数種類のインク(I群)と、インク全質量に対する顔料の含有量が1.5質量%以下の数種類のインク(II群)を用意した。さらに、I群から任意に選択した1種のインク(インクC)と、II群から任意に選択した1種のインク(インクD)とを用いて、光沢媒体上にインクの付与量を変化させた画像を形成させた。その後、インクDのみを用いて形成させた記録デューティが10%の領域(1)と、インクCのみを用いて形成させた記録デューティが100%の領域(2)の反射光強度をグロスメーターで測定して比較した。さらに、インクC、D以外のインクについても、同様な測定を行った。なお、上記I群、II群に属する各インクは、分散時間、分散メディアの充填量、遠心分離の条件などを変更させることで、様々な散乱光強度分布を持つものを調製した。なお、以下の記載において、顔料の散乱光強度分布の全面積において、粒子径が小さい方からの累積の面積がX%となる粒子径を、「累積X%粒子径」と表記する。
【0021】
II群に属するインクの累積60%の粒子径がI群に属するインクの累積90%の粒子径とほぼ同じであるインクセットを用いた場合、(1)と(2)の反射光強度の差が大きく、目視でも光沢の差が認識できた。さらに、II群に属するインクの累積粒子径を60%から徐々に減少させていくと、(1)と(2)の反射光強度の差が減少していく傾向にあった。このとき、II群に属するインクの累積20%の粒子径がI群に属するインクの累積90%粒子径とが同一になった時点で、光沢の差は大幅に減少した。その結果、従来の濃淡顔料インクを用いて画像を形成させた場合と比較して、はるかに光沢ムラが解消された。また、耐光性においても同様の傾向が確認できた。以上の結果から、顔料の散乱光強度分布において、淡インクの累積20%の粒子径が、濃インクの累積90%の粒子径と、同一又はより大きくすることで、本発明の課題を解決することが可能という結論に至った。
【0022】
耐光ムラが発生する原因は、上記したように、淡インクを付与した領域の方が、濃インクを付与した領域よりも、相対的に粒子径が大きい顔料で凝集物が形成されている。その結果、淡インクで形成された画像の光に対する劣化速度が、濃インクで形成された画像の光に対する劣化速度に近くなるためであると考えられる。したがって、より効果的に耐光ムラを低減するためには、さらに、顔料の散乱光強度分布において、淡インク中の顔料の最小粒子径を濃インク中の最大の粒子径よりも大きくすることが好ましい。なお、顔料の散乱光強度分布において、前記淡インクの最小粒子径は、累積1%の粒子径で実質的に表すことが可能である。同様に、前記濃インク中の顔料の最大粒子径は累積100%の粒子径で実質的に表すことが可能である。さらに、第1のインクの平均粒子径が第2のインクの平均粒子径よりも大きいことが好ましい。
【0023】
本発明における顔料の散乱光強度分布とは、動的光散乱法を利用した大塚電子(株)製「ELS−8000」により測定した値である。ここで、顔料の散乱光強度分布の関係の一例を示す図8を用いて説明する。図8において、93及び94は、それぞれ顔料の散乱光強度の分布の一例である。累積20%粒子径とは、散乱光強度分布の全面積において、粒子径が小さい方からの累積の面積が20%となる粒子径(図8における91)である。また、累積90%粒子径とは、散乱光強度分布の全面積において、粒子径が小さい方からの累積の面積が90%となる粒子径(図8における92)である。本発明のように、顔料の散乱光強度分布において、第1のインクの累積20%粒子径が、第2のインクの累積90%粒子径よりも大きいこととは、図8に示すような状態のことである。なお、本発明における平均粒子径とは、顔料を分散した状態での体積平均粒子径である。顔料を分散した状態での体積平均粒子径とは、上記した、動的光散乱法を利用した大塚電子(株)製「ELS−8000」により測定することが可能である。勿論、本発明はこれに限られるものではなく、同様の測定ができる装置であればいずれのものも用いることができる。
【0024】
また、本発明は少なくとも2種のインクによって形成される画像の耐光ムラが低減することを特徴としている。本発明における耐光性を示す指標としては、ΔEを用いることが可能である。ΔEとは、CIELAB色空間における、初期画像と退色後の該画像との色の差を示すものである。ΔEの差とは、2色の画像間における退色の差異を表すもので、ΔEの値が大きくなると、2色間の退色の差異は大きくなる。すなわち、本発明における“光沢ムラを低減させる”とは、ΔEの差が記録箇所によって少ないことを意味している。なお、ΔEは以下の式で表される。ここで、L*1及びL*2はそれぞれ、初期及び退色後の明度であり、a*1、a*2、また、b*1、及びb*2はそれぞれ、初期及び退色後の色度である。
ΔE=[(L*1−L*22+(a*1−a*22+(b*1−b*221/2
【0025】
本発明では、以下の構成をとるインクセットを、実質的に「インクセット」であることとする。シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、レッド、グリーン、ブルー、ライトシアン、ライトマゼンタ、ライトイエロー、ライトブラック、の各インクが一体となったインクタンク、又は記録ヘッドつきインクタンクで構成されるインクセット。シアン、マゼンタ、イエロー、の各インクが一体となったインクタンク、又は、記録ヘッドつきインクタンクで構成されるインクセット。さらには、インクジェット記録装置に対して、これらのインクセットを構成する個別のインクタンクが脱着可能であるように用いられることも、実質的に「インクセット」と称する。いずれにしても、本発明においては、使用される(プリンタ内で又はインクタンクとして)他のインクに対して、本発明のインク単体の特性を相対的に規定するもので、これらの上記形態に限らず、どのような変形の形態であってもよい。
【0026】
[水溶性有機溶剤]
本発明にかかるインクセットを構成する各インクは、少なくとも、水、顔料、水溶性有機溶剤を含んでなるが、水としては種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。水と混合して使用される水溶性有機溶剤としては、例えば、以下のものが挙げられる。メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコールなどの炭素数1乃至4のアルキルアルコール類。ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類。アセトン、ジアセトンアルコールなどのケトン又はケトアルコール類。テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類。エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコールなどの炭素数2乃至6のアルキレン基を含むアルキレングリコール類。グリセリン。エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテルなどの多価アルコールのアルキルエーテル類。N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなど。これらの多くの水溶性有機溶剤の中でも、ジエチレングリコールなどの多価アルコール、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテルなどの多価アルコールのアルキルエーテルが好ましい。
【0027】
本発明にかかるインクセットを構成する各インク中における、前記したような水溶性有機溶剤の含有量は、一般的にはインク全質量の3から50質量%の範囲とし、好ましくは3から40質量%の範囲とする。また、使用される水の含有量としては、インク全質量の10から90質量%、好ましくは30から80質量%の範囲とする。
【0028】
[顔料]
次に、本発明にかかるインクを構成する顔料について説明する。
本発明にかかるインクを構成する顔料としては、その分散方式に関わらず、例えば、分散剤を用いる樹脂分散タイプの顔料(樹脂分散型顔料)や、界面活性剤分散タイプの顔料であってもよい。また、顔料自体の分散性を高めて分散剤などを用いることなく分散可能とした、マイクロカプセル型顔料や、顔料の表面に親水性基を導入した自己分散タイプの顔料(自己分散型顔料)を用いることができる。勿論、これらの分散方法の異なる顔料を組み合わせて使用することも可能である。
【0029】
本発明にかかるインクセットを構成する各インク中における、前記したような顔料の含有量は、一般的にはインク全質量の0.1から10質量%の範囲とし、好ましくは0.1から6質量%の範囲とする。
【0030】
本発明にかかるインクにおいて使用することのできる顔料は特に限定されず、下記に挙げるようなものをいずれも使用することができる。
ブラックインクに使用される顔料としては、カーボンブラックが好適である。例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックなどのカーボンブラックをいずれも使用することができる。具体的には、例えば、以下の市販品を使用することができる。レイヴァン:7000、5750、5250、5000ULTRA、3500、2000、1500、1250、1200、1190ULTRA−II、1170、1255(以上、コロンビア社製)。ブラックパールズL、リーガル:400R、330R、660R、モウグルL、モナク:700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、2000、ヴァルカンXC−72R(以上、キャボット社製)。カラーブラック:FW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリンテックス:35、U、V、140U、140V、スペシャルブラック:6、5、4A、4(以上、デグッサ社製)。No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上、三菱化学社製)。また、本発明のために別途新たに調製されたカーボンブラックを使用することもできる。しかし、本発明は、これらに限定されるものではなく、従来公知のカーボンブラックをいずれも使用することができる。また、カーボンブラックに限定されず、マグネタイト、フェライトなどの磁性体微粒子や、チタンブラックなどを黒色顔料として用いてもよい。
【0031】
有機顔料としては、具体的には、例えば、以下のものが挙げられる。トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、ピラゾロンレッドなどの不溶性アゾ顔料。リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2Bなどの水溶性アゾ顔料。アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーンなどの建染染料からの誘導体。フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料。キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタなどのキナクリドン系顔料。ペリレンレッド、ペリレンスカーレットなどのペリレン系顔料。イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジなどのイソインドリノン系顔料。ベンズイミダゾロンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッドなどのイミダゾロン系顔料。ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジなどのピランスロン系顔料。インジゴ系顔料。縮合アゾ系顔料。チオインジゴ系顔料。ジケトピロロピロール系顔料。フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレットなどが挙げられる。勿論、これらに限定されず、その他の有機顔料であってもよい。
【0032】
また、本発明で使用することのできる有機顔料を、カラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、例えば、以下のものが挙げられる。C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、97、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、150、151、153、154、166、168、180、185。C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、71。C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180。また、同192、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272。C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50。C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64。C.I.ピグメントグリーン7、36。C.I.ピグメントブラウン23、25、26など。
【0033】
[樹脂分散型顔料]
本発明にかかるインク中に含有される顔料としては、先に述べたように、分散剤を用いた樹脂分散型顔料も使用可能であるが、この場合には、上記に列挙したような疎水性の顔料を分散させるための化合物が必要となる。このようなものとしては、いわゆる分散剤、界面活性剤、樹脂分散剤などを用いることができる。分散剤又は界面活性剤としては、特に限定はないが、中でも、アニオン系、ノニオン系のものを好適に使用できる。
【0034】
例えば、アニオン系の界面活性剤としては、例えば、以下のものが挙げられる。脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩。また、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、及びこれらの置換誘導体など。ノニオン系の界面活性剤としては、例えば、以下のものが挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなど。また、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー、及びこれらの置換誘導体など。
【0035】
樹脂分散剤としては、下記に挙げるような少なくとも2つの単量体(このうち少なくとも1つは親水性単量体)からなるブロック共重合体、ランダム共重合体及びグラフト共重合体、並びにこれらの塩などを挙げることができる。単量体は例えば、以下のものが挙げられる。スチレン及びその誘導体、ビニルナフタレン及びその誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステルなど、アクリル酸及びその誘導体、マレイン酸及びその誘導体など。また、イタコン酸及びその誘導体、フマール酸及びその誘導体、酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びその誘導体など。
【0036】
[マイクロカプセル型顔料]
本発明にかかるインク中に含有される顔料としては、先に述べたように、顔料を有機高分子類で被覆してマイクロカプセル化してなるマイクロカプセル型顔料を使用することもできる。顔料を有機高分子類で被覆してマイクロカプセル化する方法としては、化学的製法、物理的製法、物理化学的製法、機械的製法などが挙げられる。具体的には、界面重合法、in−situ重合法、液中硬化被膜法、コアセルベーション(相分離)法、液中乾燥法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法、酸析法、転相乳化法などが挙げられる。
【0037】
マイクロカプセルの壁膜物質を構成する材料として使用される有機高分子類としては、例えば、以下のものが挙げられる。ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリウレア、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂など。また、多糖類、ゼラチン、アラビアゴム、デキストラン、カゼイン、タンパク質、天然ゴム、カルボキシポリメチレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、セルロースなど。また、エチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、酢酸セルロース、ポリエチレン、ポリスチレン、(メタ)アクリル酸の重合体又は共重合体、(メタ)アクリル酸エステルの重合体又は共重合体など。また、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アルギン酸ソーダ、脂肪酸、パラフィン、ミツロウ、水ロウ、硬化牛脂、カルナバロウ、アルブミンなどが挙げられる。
【0038】
これらの中ではカルボン酸基又はスルホン酸基などのアニオン性基を有する有機高分子類を使用することが可能である。また、ノニオン性有機高分子としては、例えば、以下のものが挙げられる。ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート又はそれらの(共)重合体、2−オキサゾリンのカチオン開環重合体などが挙げられる。特に、ポリビニルアルコールの完全ケン化物は、水溶性が低く、熱水には解け易いが冷水には解けにくいという性質を有しており特に好ましい。
【0039】
マイクロカプセル化の方法として転相法又は酸析法を選択する場合は、マイクロカプセルの壁膜物質を構成する有機高分子類としては、アニオン性有機高分子類を使用する。転相法は、有機溶媒相に水を投入するか、或いは水中に該有機溶媒相を投入して、自己分散化(転相乳化)しながらマイクロカプセル化する方法である。前記有機溶媒相は、水に対して自己分散能又は溶解能を有するアニオン性有機高分子類と、自己分散性有機顔料又は自己分散型カーボンブラックなどの色材との複合物又は複合体を用いることができる。或いは、自己分散性有機顔料又は自己分散型カーボンブラックなどの色材、硬化剤及びアニオン性有機高分子類との混合体を用いることができる。上記転相法において、有機溶媒相中に、インクに用いられる水溶性有機溶剤や添加剤を混入させて製造しても何等問題はない。特に、直接インク用の分散液を製造できることからいえば、インクの液媒体を混入させる方がより好ましい。
【0040】
一方、酸析法は、以下のような方法である。先ず、アニオン性基含有有機高分子類のアニオン性基の一部又は全部を塩基性化合物で中和し、自己分散性有機顔料又は自己分散型カーボンブラックなどの色材と、水性媒体中で混練する工程を行う。そして、酸性化合物でpHを中性又は酸性にしてアニオン性基含有有機高分子類を析出させて、顔料に固着する工程を行うことによって含水ケーキを得る。さらに、塩基性化合物を用いて前記アニオン性基の一部又は全部を中和することによりマイクロカプセル化する。このようにすることによって、微細で顔料を多く含むアニオン性マイクロカプセル化顔料を製造することができる。
【0041】
また、上記に挙げたようなマイクロカプセル化の際に用いられる溶剤としては、例えば、以下のものが挙げられる。メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルキルアルコール類。ベンゾール、トルオール、キシロールなどの芳香族炭化水素類。酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;クロロホルム、二塩化エチレンなどの塩素化炭化水素類。アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類。テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類。メチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ類などが挙げられる。なお、上記の方法により調製したマイクロカプセルを遠心分離又は濾過などによりこれらの溶剤中から一度分離して、これを水及び必要な溶剤とともに撹拌、再分散を行い、目的とするマイクロカプセル型顔料とすることもできる。以上の如き方法で得られるマイクロカプセル化顔料の平均粒子径は50nmから180nmであることが好ましい。
【0042】
[自己分散型顔料]
本発明にかかるインク中に含有される顔料としては、先に述べたように、顔料自体の分散性を高めた、分散剤などを用いることなく分散可能とした自己分散型の顔料を使用することもできる。自己分散型顔料としては、顔料の表面に、親水性基が直接又は他の原子団を介して化学的に結合しているものが挙げられる。例えば、顔料の表面に導入された親水性基が、−COOM1、−SO3M1及び−PO3H(M1)2(式中のM1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表す。)からなる群から選ばれるものなどを好適に用いることができる。さらに、上記他の原子団が、炭素原子数1乃至12のアルキレン基、置換若しくは未置換のフェニレン基又は置換若しくは未置換のナフチレン基であるものなどを好適に用いることができる。その他にも、顔料を次亜塩素酸ソーダで酸化処理する方法、水中オゾン処理で顔料を酸化する方法、オゾン処理を施した後に酸化剤により湿式酸化し、顔料表面を改質する方法などによって得られる、表面酸化処理タイプの自己分散型顔料も好適に用いることができる。
【0043】
[その他の成分]
本発明にかかるインクは、保湿性維持のために、上記した成分の他に、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの保湿性固形分をインク成分として用いてもよい。尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパンなどの、保湿性固形分のインク中の含有量は、一般には、インクに対して0.1から20.0質量%の範囲とすることが好ましく、より好ましくは3.0から10.0質量%の範囲である。
【0044】
さらに、本発明にかかるインクには、上記成分以外にも必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤などの、種々の添加剤を含有させてもよい。
【0045】
上記で説明したような構成成分からなる本発明で使用するインクは、インクジェット記録ヘッドから良好に吐出できる特性を有することが好ましい。このため、インクの特性が、例えば、その粘度が1から15mPa・s、表面張力が25mN/m以上、さらには、粘度が1から5mPa・s、表面張力が25から50mN/mとすることが好ましい。
【0046】
[インクジェット記録方法、記録ユニット、カートリッジ及び記録装置]
次に、本発明にかかるインクジェット記録装置の一例について説明するが、該装置は、先に説明した本発明にかかるインクセットが収容されていることを特徴とする。先ず、熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置の主要部であるヘッド構成の一例を、図1及び図2に示す。図1は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図2は図1のA−B線での切断面図である。ヘッド13はインクを通す流路(ノズル)14を有するガラス、セラミック、シリコン又はプラスチック板などと発熱素子基板15とを接着して得られる。
【0047】
発熱素子基板15は、保護層16、電極17−1及び17−2、発熱抵抗体層18、蓄熱層19、基板20よりなっている。前記保護層16は、酸化シリコン、窒化シリコン、炭化シリコンなどで形成される。前記電極17−1及び17−2は、アルミニウム、金、アルミニウム−銅合金などで形成される。前記発熱抵抗体層18は、HfB2、TaN、TaAlなどの高融点材料から形成される。前記蓄熱層19は、熱酸化シリコン、酸化アルミニウムなどで形成される。前記基板は、シリコン、アルミニウム、窒化アルミニウムなどの放熱性のよい材料で形成される。
【0048】
上記ヘッド13の電極17−1及び17−2にパルス状の電気信号が印加されると、発熱素子基板15のnで示される領域が急速に発熱する。そして、この表面に接しているインク21に発生する気泡の圧力でメニスカス23が突出し、インク21がヘッドのノズル14を通して吐出し、吐出オリフィス22よりインク滴24となり、記録媒体25に向かって飛翔する。図3には、図1に示したヘッドを多数並べたマルチヘッドの一例の外観図を示す。このマルチヘッドは、マルチノズル26を有するガラス板27と、図1に説明したものと同じような発熱ヘッド28を接着して作られている。
【0049】
図4に、このヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。図4において、61はワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持固定されており、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は記録ヘッド65による記録領域に隣接した位置に配置され、また、図示した例の場合、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0050】
62は記録ヘッド65の突出口面のキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配置され、記録ヘッド65の移動方向と垂直な方向に移動して、インク吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。さらに、63はブレード61に隣接して設けられるインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。上記ブレード61、キャップ62及びインク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によって吐出口面に水分、塵埃などの除去が行われる。
【0051】
65は、吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66はガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部はモーター68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これによりキャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。
【0052】
51は記録媒体を挿入するための給紙部、52は不図示のモーターにより駆動される紙送りローラーである。これらの構成により記録ヘッド65の吐出口面と対向する位置へ記録媒体が給紙され、記録の進行につれて排紙ローラー53を配した排紙部へ排紙される。以上の構成において記録ヘッド65が記録終了してホームポジションへ戻る際、吐出回復部64のキャップ62は記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。その結果、記録ヘッド65の吐出口がワイピングされる。
【0053】
なお、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出するように移動する。記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は上記したワイピングのときの位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。上述の記録ヘッドのホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッドが記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
【0054】
図5は、記録ヘッドにインク供給部材、例えば、チューブを介して供給されるインクを収容したインクカートリッジの一例を示す図である。ここで40は供給用インクを収納したインク収容部、例えば、インク袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、インク袋40中のインクをヘッドに供給可能にする。44は廃インクを受容するインク吸収体である。インク収容部としてはインクとの接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが好ましい。
【0055】
本発明で使用されるインクジェット記録装置としては、上述のようにヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、図6に示すようなそれらが一体になったものにも好適に用いられる。図6において、70は記録ユニットであり、この中にはインクを収容したインク収容部、例えば、インク吸収体が収納されており、かかるインク吸収体中のインクが複数オリフィスを有するヘッド部71からインク滴として吐出される構成になっている。インク吸収体の材料としてはポリウレタンを用いることが本発明にとって好ましい。また、インク吸収体を用いず、インク収容部が内部にバネなどを仕込んだインク袋であるような構造でもよい。72はカートリッジ内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は図4に示す記録ヘッド65に換えて用いられるものであって、キャリッジ66に対して着脱自在になっている。
【0056】
次に、力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置の好ましい一例について説明する。力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置としては、以下の構成を有するものが挙げられる。複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備え、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクの小液滴をノズルから吐出させる。その記録装置の主要部である記録ヘッドの構成の一例を図7に示す。
【0057】
ヘッドは、インク室に連通したインク流路80、オリフィスプレート81、インクに圧力を作用させる振動板82、振動板82に接合され電気信号により変位する圧電素子83、オリフィスプレート81や振動板82などを支持固定する基板84とから構成される。
【0058】
図7において、インク流路80は、感光性樹脂などで形成される。オリフィスプレート81は、ステンレス、ニッケルなどの金属を電鋳やプレス加工による穴あけなどにより吐出口85が形成され、振動板82はステンレス、ニッケル、チタンなどの金属フィルム及び高弾性樹脂フィルムなどで形成される。圧電素子83は、チタン酸バリウム、PZTなどの誘電体材料で形成される。以上のような構成の記録ヘッドは、圧電素子83にパルス状の電圧を与えることで歪み応力を発生させる。そして、そのエネルギーが圧電素子83に接合された振動板を変形させ、インク流路80内のインクを垂直に加圧しインク滴(不図示)をオリフィスプレート81の吐出口85より吐出して記録を行うように動作する。このような記録ヘッドは、図4に示したものと同様なインクジェット記録装置に組み込んで使用される。インクジェット記録装置の細部の動作は、先述と同様に行うもので差しつかえない。
【実施例】
【0059】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例によって限定されるものではない。なお、文中「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0060】
「シアン顔料分散体の調製」
先ず、下記のようにして、シアン顔料分散体C1〜C10を調製した。
(シアン顔料分散体C1〜C10の調製)
顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)10部、アニオン系高分子P−1(スチレン−アクリル酸共重合体、酸価200)20部、純水70部を混合し、ジルコニアビーズとバッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に仕込み、分散して、分散体を得た。このとき、分散処理時間、ジルコニアビーズの充填量を変更することで、顔料の含有量10%の顔料分散体C1〜C3を得た。また、上記分散体を遠心分離機にかけ、遠心分離の条件を各種変更し、顔料の散乱光強度がそれぞれ異なる、顔料の含有量10%の顔料分散体C4〜C10を調製した。
【0061】
(シアン顔料分散体C11の調製)
顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)10部、アニオン系高分子P−1(スチレン−アクリル酸共重合体、酸価100)20部、純水70部を混合し、ジルコニアビーズとバッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に仕込み、分散処理を行った。このようにして、顔料の含有量10%の顔料分散体C11を調製した。
【0062】
「シアン顔料インクの調製」
下記表1−1及び表1−2に示す成分を混合して十分に攪拌した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧濾過して、シアンインク1〜18を作成した。なお、下記表1−1及び表1−2中、アセチレノールEHとあるのは、川研ファインケミカル製の界面活性剤である。
【0063】

【0064】

【0065】
(インク中の顔料の散乱光強度分布における累積粒子径の測定方法)
調製したインク1〜18の各インクをイオン交換水で適度に希釈し、大塚電子(株)製「ELS−8000」により顔料の散乱光強度分布及び各累積%粒子径を測定した。また、前記散乱光強度分布からキュムラント法により平均粒子径を算出した。評価結果を下記表2−1及び表2−2に示す。上記に示したように調製したシアンインク1〜18を用いて、実施例1〜6及び比較例1〜3の各インクセットとした(表2−1及び表2−2)。なお、第1のインクの累積20%粒子径をD20、第2のインクの累積90%粒子径をD90と表す。
【0066】

【0067】

【0068】
[評価]
表2−1及び表2−2で示した実施例及び比較例のインクセットを構成する第1のインク及び第2のインクを用いて画像を形成し、光沢ムラ及び耐光ムラの評価を行った。評価は、記録信号に応じて熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させるオンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置BJF−900を用いて、記録媒体上に画像形成することによって行った。このとき、記録媒体には、以下の3種の光沢媒体を使用した。また、印刷モードは、以下の通りに設定した。
A:キヤノン(株)製、PR−101
B:セイコーエプソン社製、フォト光沢紙/顔料専用
C:富士フィルム社製、写真仕上げAdvance Hi厚手
【0069】
(印刷モード)
・用紙の種類:プロフォトペーパー
・印刷品質:きれい
・色調整:自動
【0070】
[光沢ムラの評価基準及び結果]
光沢ムラの評価は、各インクセットを構成する第1のインク及び第2のインクをそれぞれ用いて、以下のように行った。第2のインクを用いて、記録デューティ100%のベタ画像(10cm×10cm)、また、第1のインクを用いて記録デューティ10%のベタ画像(10cm×10cm)をそれぞれ記録した。各インクセットを用いて上記のようにして得られた各画像の光沢性を、グロスメーターによる反射光強度の測定及び目視で観察した。そして、第1のインク及び第2のインクでそれぞれ記録した画像間における光沢ムラを、下記の基準で評価した。その結果を表3に示した。
【0071】
(光沢ムラの評価基準)
◎:比較例1〜3のインクセットに比べて、3種全ての光沢媒体において反射光強度差が少なく、目視評価でもかなり光沢ムラが少ない。
○:比較例1〜3のインクセットに比べて、3種全ての光沢媒体において反射光強度差が少ないが、目視評価で光沢ムラが少ない。
△:比較例1〜3のインクセットに比べて、少なくとも1種の光沢媒体において反射光強度差がかなり少なく、目視評価でもかなり光沢ムラが少ない。
×:比較例1〜3のインクセットと同等の光沢ムラを有した。
【0072】

【0073】
[耐光ムラの評価基準及び結果]
耐光ムラの評価は、各インクセットを構成する第1のインク及び第2のインクをそれぞれ用いて、以下のように行った。第2のインクを用いて、記録デューティ100%のベタ画像(10cm×10cm)、また、第1のインクを用いて記録デューティ10%のベタ画像(10cm×10cm)をそれぞれ記録した。各インクセットを用いて上記のようにして得られた各画像を、以下の耐光試験前後で測色を行い、ΔEを用いて退色の度合いを確認した。退色の度合いを確認する指標として行う測色は、グレタグマクベス社製Spectrolinoを用いて、光源はD50、視野角は2度の条件で測色を行った。測色は画像を完全に乾燥させるために、記録後24時間自然乾燥させてから行った。耐光試験機として、アトラス社製キセノンフェードメーターCi4000を用いて行った。試験条件は、ブラックパネル温度63℃、相対湿度70%、及び波長340nm紫外光の照射照度0.39W/m2の条件下で、100時間曝露を行った。上記で示した画像の耐光試験前後の測色を行い、測色結果からΔEを算出した。そして、第1のインク及び第2のインクでそれぞれ記録した画像間のΔEを評価した。その結果、実施例1〜6は比較例1〜3に比べて、全て耐光ムラが低減していた。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】記録ヘッドの縦断面図。
【図2】記録ヘッドの横断面図。
【図3】図1に示した記録ヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図。
【図4】インクジェット記録装置の一例を示す斜視図。
【図5】インクカートリッジの縦断面図。
【図6】記録ユニットの一例を示す斜視図。
【図7】記録ヘッドの構成の一例を示す図。
【図8】顔料の散乱光強度分布の関係の一例を示す図。
【符号の説明】
【0075】
13:ヘッド
14:インクノズル
15:発熱素子基板
16:保護層
17−1、17−2:電極
18:発熱抵抗体層
19:蓄熱層
20:基板
21:インク
22:吐出オリフィス(微細孔)
23:メニスカス
24:インク滴
25:記録媒体
26:マルチノズル
27:ガラス板
28:発熱ヘッド
40:インク袋
42:栓
44:インク吸収体
45:インクカートリッジ
51:給紙部
52:紙送りローラー
53:排紙ローラー
61:ブレード
62:キャップ
63:インク吸収体
64:吐出回復部
65:記録ヘッド
66:キャリッジ
67:ガイド軸
68:モーター
69:ベルト
70:記録ユニット
71:ヘッド部
72:大気連通口
80:インク流路
81:オリフィスプレート
82:振動板
83:圧電素子
84:基板
85:吐出口
91:累積20%粒子径の一例
92:累積90%粒子径の一例
93:顔料の散乱光強度分布の一例
94:顔料の散乱光強度分布の一例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも相対的に顔料の含有量が低い第1のインクと相対的に顔料の含有量が高い第2のインクとを有するインクセットにおいて、
該第1のインク中に含まれる顔料の散乱光強度分布をAとし、第2のインク中に含まれる顔料の散乱光強度分布をBとした時に、Aの全面積における、粒子径が小さい方からの累積の面積が20%となる粒子径が、Bの全面積における、粒子径が小さい方からの累積の面積が90%となる粒子径と、同一又はより大きいことを特徴とするインクセット。
【請求項2】
請求項1に記載のインクセットを構成しているインクを、インクジェット法で吐出する工程を有することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項3】
請求項1に記載のインクセットを収容していることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項4】
請求項1に記載のインクセットを収容しているインク収容部と、上記インクセットを構成するインクを吐出させるためのインクジェット記録ヘッドとを具備していることを特徴とする記録ユニット。
【請求項5】
請求項1に記載のインクセットを収容しているインク収容部と、上記インクセットを構成するインクを吐出させるためのインクジェット記録ヘッドとを具備していることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−179678(P2008−179678A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−13069(P2007−13069)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】