説明

インクセット、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置

【課題】画像の色再現範囲の拡大を図り、また、画像品位を向上するために、顔料を色材として含有する複数のインクをインクセットとして使用する場合に顕著に生じる、吐出不良を抑制することができるインクセットを提供する。
【解決手段】色材として顔料を含有する複数のインクで構成されるインクジェット用のインクセットであって、各インク中の顔料の含有量に応じて、インク群を2つ2A,2Bに分け、各群のインクのうち少なくとも1種のインクに、それぞれ特定の成分を含有させたことを特徴とするインクセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料を含有する複数のインクで構成されるインクセット、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式では、記録ヘッドの吐出口から記録媒体に向けてインクを吐出する。記録ヘッドから吐出されたインクは記録媒体に当たって跳ね返ったり、吐出の際に主インク滴の他に微小なインク滴(サテライト)が発生し、雰囲気中に漂ったりすることがある。これらはインクミストとなって、記録ヘッドの吐出口の周囲に付着することがある。また、空気中の塵埃などが記録ヘッドの周囲に付着することもある。すると、主インク滴がこれらの付着物により引っ張られることで、インクの吐出方向がよれ、主インク滴の直進性が妨げられることがある。このような問題を解決するために、インクジェット記録装置では所定のタイミングで、ゴムなどの弾性材料で構成されたワイパー部材で記録ヘッドの吐出口を有する面(以下、吐出口面と呼ぶ)を拭い、付着物を除去すること(ワイピング操作)が行われる。
【0003】
また、近年、インクで記録した画像の濃さ(画像濃度)、耐水性、耐光性などの画像特性を向上するために、色材として顔料を含有する顔料インクが使用されることが多くなってきている。顔料インクは、元来固体である色材を、樹脂分散剤や、顔料粒子の表面に官能基を導入するなどして分散させてなるものである。したがって、インク中の液体成分が蒸発し、乾燥することで生じた顔料インクの乾燥物が吐出口面に付着すると、色材が分子レベルで溶解している染料を含有するインクの乾燥物と比べ、吐出口面に与える影響は大きい。また、顔料をインク中に分散させるために用いている樹脂分散剤などの高分子化合物は、吐出口面に吸着しやすいという性質もある。このような樹脂の吸着という問題は、インクの粘度調整や、画像の耐光性向上などの目的でインクに反応剤を添加するなどによりインク中に樹脂などの高分子化合物が存在する場合には、顔料インクではなくても生じる。そして、高分子化合物の吸着が生じると、記録ヘッドの吐出口面にインク中の顔料や樹脂分散剤が付着することになり、吐出口面の表面特性が吸着していない場合とは異なるため、吐出不良がより発生しやすくなる場合がある。さらに、吐出不良が発生すると、インクが意図した位置とは異なる位置に着弾するヨレなどが発生して、画像品位が低下する場合がある。
【0004】
近年、色再現範囲を拡大するなどの目的のために、多色の顔料インクを用いることが多くなってきている(特許文献1参照)。しかし、このような場合には、全てのインクについて吐出不良を抑制することは特に困難になる。これは、インク数が増えれば増えるほど、各インクの特性にばらつきが生じてしまうためであり、したがって、インク数の多いインクセットを用いた場合には、吐出不良はより顕著に発生することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−221527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、画像の色再現範囲の拡大を図り、また、画像品位を向上するために、顔料を色材として含有する複数のインクをインクセットとして使用する場合に顕著に生じる、吐出不良を抑制することができるインクセットを提供することにある。また、本発明の別の目的は、前記インクセットを構成する各インクを用いたインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明にかかるインクセットは、色材として顔料を含有する複数のインクで構成されるインクジェット用のインクセットであって、前記複数のインクが、Y(イエロー)インク、R(レッド)インク、G(グリーン)インク、B(ブルー)インク、顔料含有量が互いに異なる4種のブラックインク、顔料含有量が互いに異なる2種のシアンインク、顔料含有量が互いに異なる2種のマゼンタインクを含み、前記顔料含有量が互いに異なる4種のブラックインクを顔料含有量が多い順にBk1インク、Bk2インク、Bk3インク及びBk4インク、前記顔料含有量が互いに異なる2種のシアンインクを顔料含有量が多い順にC1インク及びC2インク、前記顔料含有量が互いに異なる2種のマゼンタインクを顔料含有量が多い順にM1インク及びM2インクとしたとき、前記Yインク、前記Rインク、前記Gインク、前記Bインク、前記Bk1インク、前記Bk2インク、前記Bk3インク、前記C1インク、前記M1インクのうち少なくとも1種のインクが、下記式(1)で表される化合物、下記式(2)で表される化合物、及び、下記式(3)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の変性シロキサン化合物、並びに、
酸価が90mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であり、かつ、樹脂を構成するモノマーの溶解度パラメーターより算出される樹脂の水素結合項が1.0cal0.5/cm1.5以上3.7cal0.5/cm1.5以下である樹脂A、及び、酸価が150mgKOH/gを超えて200mgKOH/g以下であり、かつ、樹脂を構成するモノマーの溶解度パラメーターより算出される樹脂の水素結合項が1.0cal0.5/cm1.5以上1.5cal0.5/cm1.5以下である樹脂B、の少なくとも1種の樹脂を含有し、前記Bk4インク、前記C2インク、及び、前記M2インクのうち少なくとも1種のインクが、下記一般式(I)で表されるノニオン性ユニット及びポリシロキサン構造を有するユニットを含むグラフトポリマーを含有することを特徴とする。
【0008】
【化1】

【0009】
(式(1)で表される化合物の重量平均分子量は8,000以上30,000以下である。式(1)中、Rは炭素数1以上20以下のアルキレン基であり、Rは水素原子又は炭素数1以上20以下のアルキル基であり、mは1以上250以下、nは1以上100以下、aは1以上100以下、bは0以上100以下である。)
【0010】
【化2】

【0011】
(式(2)で表される化合物の重量平均分子量は8,000以上50,000未満である。式(2)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上20以下のアルキル基であり、Rはそれぞれ独立に、炭素数1以上20以下のアルキレン基であり、pは1以上450以下、cは1以上250以下、dは0以上100以下である。)
【0012】
【化3】

【0013】
(式(3)で表される化合物は、重量平均分子量が8,000以上50,000未満、かつHLBが1以上7未満である。式(3)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上20以下のアルキル基である。Rはそれぞれ独立に、炭素数1以上20以下のアルキレン基であり、qは1以上100以下、rは1以上100以下、eは1以上100以下、fは0以上100以下である。)
【0014】
【化4】

【0015】
(一般式(I)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rはエステル結合又はエーテル結合であり、xは1又は2の整数である。ただし、Rがメチル基の場合、Rがエーテル結合となることはない。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、画像の色再現範囲の拡大を図り、また、画像品位を向上するために、顔料を色材として含有する複数のインクをインクセットとして使用する場合に顕著に生じる、吐出不良を抑制することができるインクセットを提供することができる。また、本発明の別の実施態様によれば、前記インクセットを構成する各インクを用いたインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】インクジェット記録装置の記録部の斜視図である。
【図2】記録ヘッド及び回復ユニットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、好適な実施の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明のインクセットは、インクジェット用として使用するものであり、色材として顔料を含有する複数のインクで構成される。そして、前記複数のインクとして、イエローインク、レッドインク、グリーンインク、ブルーインク、顔料含有量が互いに異なる4種のブラックインク、顔料含有量が互いに異なる2種のシアンインク、顔料含有量が互いに異なる2種のマゼンタインクを含む。このような構成のインクセットとすることで、画像の色再現範囲の拡大が図られ、また、画像品位を向上することができる。以下、これらの各インクを後述するように呼ぶことがある。Yインク(イエローインク)、Rインク(レッドインク)、Gインク(グリーンインク)、Bインク(ブルーインク)。顔料含有量が互いに異なる4種のブラックインクを顔料含有量が多い順にBk1インク、Bk2インク、Bk3インク及びBk4インク。顔料含有量が互いに異なる2種のシアンインクを顔料含有量が多い順にC1インク及びC2インク。顔料含有量が互いに異なる2種のマゼンタインクを顔料含有量が多い順にM1インク及びM2インク。
【0020】
さらに、本発明のインクセットにおける最大の特徴は、各インク中の顔料の含有量に応じて、インク群を2つに分け、各群のインクのうち少なくとも1種のインクに、それぞれ特定の成分を含有させる。すなわち、顔料の含有量が相対的に高いインク群、つまり、Y、R、G、B、Bk1、Bk2、Bk3、C1、M1の各インクの少なくとも1種に、後述する特定の樹脂及び特定の変性シロキサン化合物を含有させる。一方、顔料の含有量が相対的に低いインク群、つまり、Bk4、C2、M2の各インクの少なくとも1種に、後述する特定のシリコーングラフトポリマーを含有させる。そして、このような構成のインクセットとすることで、顔料を含有する複数のインクで構成されるインクセットを使用した場合に特に顕著となる吐出不良の発生を抑制することができる。
【0021】
ここで、上記特徴を有する本発明のインクセットの構成を見出した経緯を説明する。上記で述べたように、インクジェット用のインクセットに要求される重要な課題の1つとして、吐出不良を抑制することが挙げられる。そして、吐出不良は、インクの色材が顔料である場合にはより発生しやすく、さらに、インク数が多いと特に顕著に発生する。インク数が多いインクセットにおいては、各インクに要求される性能はそれぞれ異なることが一般的である。このため、顔料、樹脂分散剤、水溶性有機溶剤などの種類をインクによって異ならせることが多くなり、インクセットを構成する全てのインクの信頼性を同等のレベルとするのが難しくなるからである。例えば、2種のインクにそれぞれ同じ樹脂分散剤を使用した場合においても、顔料の種類が異なれば、その特性も違ってくるため、インク中の水性媒体などが蒸発した場合の固着性の程度には大きな違いが生じる。
【0022】
そこで、本発明者らが検討を行った結果、上記構成とすることで、インクセットを構成する複数のインクにおいて、全体的に吐出不良の発生を抑制することができるという知見を得た。このような効果が得られる理由について、本発明者らは以下のように推測している。
【0023】
吐出不良が発生する要因のひとつとしてインクの付着による吐出口面の表面特性の変化が挙げられる。ここで、上記で述べた通り、インクセットを構成するインク数が多くなると、どうしても吐出口面に強固に付着してしまうインクが存在することになる。そのため、通常のワイピング操作などを行っても、付着物を除去しづらい場合が生じ得る。このとき、シロキサン構造を有する材料がインク中に存在することによって、付着物の界面特性の変化が起こり、また、シロキサン構造の特性である弾力によってその除去も容易になると考えられる。
【0024】
本発明においては、顔料の含有量が相対的に高いインク群と顔料の含有量が相対的に低いインク群で、シロキサン構造を有する材料を使い分ける構成により、インクセットを構成する複数のインクにおいて、全体的に吐出不良の発生を抑制することができる。このような構成とすることが有効であることは、本発明者らの検討により見出された事実であり、かかる構成が有効である理由は現時点では明らかではないが、インク中の顔料の含有量との関係に大きく依存していると推測される。また、顔料の含有量が相対的に高いインク群のインクに含有させる特定の樹脂と特定の変性シロキサン化合物の組み合わせとすることで、界面特性の変化と弾力のバランスが効率的に発現すると考えられる。一方、顔料の含有量が相対的に低いインク群のインクに含有させるシリコーングラフトポリマーはノニオン性ユニット及びポリシロキサン構造を有するユニットを有し、かつグラフト構造である。このため、機能分離がなされ、付着物の界面特性の変化と弾力のバランスが効率的に発現すると考えられる。
【0025】
なお、上述のメカニズムから考えると、シロキサン構造を有する材料は、インクセットを構成する全てのインクに含有させることでより高い効果が得られることは想定できる。しかし、インクミストなどによっても吐出口面にインクが付着し得るため、各群のインクの少なくとも1種に含有させれば、十分な効果が得られることがわかった。
【0026】
<インクセット>
本発明におけるインクセットとは、複数のインクを含むものであり、さらに、これら以外のインクを有してもよい。本発明におけるインクセットの形態は、上記各インクをそれぞれ独立に収容してなる複数のインクカートリッジのセットや、複数のインクをそれぞれ収容してなる複数のインク収容部を組み合わせて一体的に構成されたインクカートリッジの状態、を含むものである。なお、さらに記録ヘッドが一体的に形成された構成のインクカートリッジであってもよい。さらに、前記複数のインクをそれぞれ独立に収容してなるインクカートリッジが、1のインクジェット記録装置に対して着脱可能に構成されてなる状態も、本発明のインクセットに含まれる。本発明のインクセットは、少なくともイエローインク及びマゼンタインクとを組み合わせて用いることができるように構成されていれば、上記の形態に限られるものではなく、どのような形態であってもよい。
【0027】
本発明のインクセットを構成するインクを収容するインクカートリッジは、インクを収容するインク収容部を備えてなり、前記インク収容部に、上記で説明した本発明のインクセットを構成するインクがそれぞれ収容されてなるものである。インクカートリッジの構造としては、インク収容部が、液体のインクを収容するインク収容室、及び負圧によりその内部にインクを保持する負圧発生部材を収容する負圧発生部材収容室で構成されるものが挙げられる。または、液体のインクを収容するインク収容室を持たず、収容量の全量を負圧発生部材により保持する構成のインク収容部であるインクカートリッジであってもよい。さらには、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【0028】
インクセットを構成する各インクのうち、シロキサン構造を有する材料を含有させないインクについては、後述するような各成分を適宜に選択してインク組成を決定することができる。本発明においては、顔料の含有量が相対的に低いインク群の全てのインクが後述する特定のシリコーングラフトポリマーを含有することが特に好ましい。また、顔料の含有量が相対的に高いインク群の少なくとも2種のインクが後述する特定の樹脂及び特定の変性シロキサン化合物を含有することが特に好ましい。
【0029】
以下、本発明のインクセットを構成する各インクに含有させることができる成分について説明する。なお、本発明においては、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルのことを意味するものとする。また、以下の記載において簡単のために、顔料の含有量が相対的に高いインク群の少なくとも1種のインクのことを濃インク、顔料の含有量が相対的に低いインク群の少なくとも1種のインクのことを淡インク、と記載する。
【0030】
(変性シロキサン化合物)
濃インクに用いる変性シロキサン化合物は、下記式(1)で表される化合物、下記式(2)で表される化合物、及び下記式(3)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0031】
なお、下記の、式(1)、式(2)、及び式(3)で表される化合物中において、(CO)はエチレンオキサイドユニット、(CO)はプロピレンオキサイドユニットをそれぞれ示している。また、各変性シロキサン化合物中において、エチレンオキサイドユニットとプロピレンオキサイドユニットとがその構造中に存在する形態は、どのような形態であってもよい。しかし、本発明において、これらは、ランダムの形態又はブロックの形態で存在していることが好ましい。ここで、上記各ユニットが、ランダムの状態で存在することとは、エチレンオキサイドユニットとプロピレンオキサイドユニットとが不規則に配列していることを意味している。また、上記各ユニットがブロックの状態で存在することとは、エチレンオキサイドユニット又はプロピレンオキサイドユニットの繰り返し単位がそれぞれブロックを構成し、このように構成された各ブロックが規則的に配列していることを意味している。
【0032】
〔式(1)で表される化合物〕
【0033】
【化5】

【0034】
(式(1)で表される化合物の重量平均分子量は8,000以上30,000以下である。式(1)中、Rは炭素数1以上20以下のアルキレン基であり、Rは水素原子又は炭素数1以上20以下のアルキル基であり、mは1以上250以下、nは1以上100以下、aは1以上100以下、bは0以上100以下である。)
【0035】
は、炭素数1以上10以下のアルキレン基であることが好ましく、さらには、エチレン基、プロピレン基、及びブチレン基などが特に好ましい。Rは、炭素数1以上10以下のアルキル基であることが好ましく、さらには、エチル基、又はプロピル基などが特に好ましい。mは、1以上250以下、さらには1以上100以下、特には1以上50以下であることが好ましい。nは、1以上100以下、さらには1以上50以下であることが好ましい。aは、1以上100以下、さらには1以上50以下であることが好ましい。bは、0以上100以下、さらには1以上50以下であることが好ましい。
【0036】
本発明で使用できる上記式(1)で表される化合物は、下記式で表されるような2種の化合物の付加反応で得られる。すなわち、n個のSiに結合したn個の水素原子を有するポリシロキサンと、末端に1のアルケン基とエチレンオキサイドユニット及び/又はプロピレンオキサイドユニットとをもつ構造の化合物との付加反応で得られる。具体的には、ポリシロキサンの水素原子に、アルケン基が付加することで得られる。なお、下記式中のmは1以上250以下、nは1以上100以下、aは1以上100以下、bは0以上100以下である。Rは、炭素数1以上20以下のアルケン基である。
【0037】
【化6】

【0038】
【化7】

【0039】
〔式(2)で表される化合物〕
【0040】
【化8】

【0041】
(式(2)で表される化合物の重量平均分子量は8,000以上50,000未満である。式(2)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上20以下のアルキル基であり、Rはそれぞれ独立に、炭素数1以上20以下のアルキレン基であり、pは1以上450以下、cは1以上250以下、dは0以上100以下である。)
【0042】
は、水素原子又は炭素数1以上10以下のアルキル基であることが好ましく、さらには、水素原子、エチル基、又はプロピル基などが特に好ましい。また、Rは、炭素数1以上10以下のアルキレン基であることが好ましく、さらには、エチレン基、プロピレン基、及びブチレン基などが特に好ましい。pは、1以上450以下、さらには1以上100以下、特には1以上50以下であることが好ましい。
【0043】
本発明で使用できる上記式(2)で表される化合物は、下記式で表されるような2種の化合物の付加反応で得られる。すなわち、両末端のSiに水素原子を有するポリシロキサンと、末端に1のアルケン基とエチレンオキサイドユニット及び/又はプロピレンオキサイドユニットとをもつ構造の化合物との付加反応で得られる。具体的には、ポリシロキサンの水素原子に、アルケン基が付加することで得られる。これらの式中のpは1以上450以下、cは1以上250以下、dは0以上100以下である。Rは、炭素数1以上20以下のアルケン基である。
【0044】
【化9】

【0045】
【化10】

【0046】
〔式(3)で表される化合物〕
【0047】
【化11】

【0048】
(式(3)で表される化合物は、重量平均分子量が8,000以上50,000未満、かつHLBが1以上7未満である。式(3)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上20以下のアルキル基である。Rはそれぞれ独立に、炭素数1以上20以下のアルキレン基であり、qは1以上100以下、rは1以上100以下、eは1以上100以下、fは0以上100以下である。)
【0049】
は、水素原子又は炭素数1以上10以下のアルキル基であることが好ましく、さらには、水素原子、エチル基、又はプロピル基などが特に好ましい。また、Rは、炭素数1以上10以下のアルキレン基であることが好ましく、さらには、エチレン基、プロピレン基、及びブチレン基などが特に好ましい。eは、1以上100以下、さらには1以上50以下であることが好ましい。fは、1以上100以下、さらには1以上50以下であることが好ましい。
【0050】
本発明で使用できる上記式(3)で表される化合物は、下記式で表されるような2種の化合物の付加反応で得られる。すなわち、両末端のSiに水素原子を有するポリシロキサンと、両末端のアルケン基と、エチレンオキサイドユニット及び/又はプロピレンオキサイドユニットとをもつ構造の化合物との付加反応で得られる。具体的には、ポリシロキサンの水素原子に、アルケン基が付加することで得られる。これらの式中のqは1以上100以下、rは1以上100以下、eは1以上100以下、fは0以上100以下である。Rは、炭素数1以上20以下のアルケン基である。
【0051】
【化12】

【0052】
【化13】

【0053】
本発明者らの検討の結果、上記の、式(1)、式(2)、及び式(3)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の変性シロキサン化合物として、以下の重量平均分子量を有する変性シロキサン化合物を用いることが特に好ましい。具体的には、上記式(1)で表される化合物の場合、その重量平均分子量(MW)は、8,000以上30,000以下であるが、さらには、8,500以上30,000以下であることが特に好ましい。上記式(2)又は上記式(3)で表される化合物の場合、これらの重量平均分子量(MW)は、8,000以上50,000未満であるが、さらには、8,500以上30,000以下であることが特に好ましい。なお、前記重量平均分子量(MW)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布における、ポリスチレン換算の重量平均分子量である。なお、本発明で使用できる上記の、式(1)、式(2)、及び式(3)で表される化合物は、それぞれ、前記したようにして得られるが、原料として使用するポリシロキサンやアルケン基を有する化合物は、種々の分子量をもつものの混合物である。このため、これらの変性シロキサン化合物の分子量は、平均分子量として求められる。
【0054】
また、本発明者らの検討の結果、上記式(1)で表される化合物の中でも、特定のHLB(グリフィン法により算出された値)を有する変性シロキサン化合物を用いることが好ましいことがわかった。すなわち、上記式(1)で表される化合物は、そのHLBが1以上11以下、さらには5以上11以下であることが好ましい。
【0055】
本発明において、濃インクに上記式(1)で表される化合物を用いる場合、その重量平均分子量を、さらにはHLBを上記範囲とすることで、効率的に表面特性を変化させることができる。そのため、インク中の上記式(1)で表される化合物の含有量が少ない場合であっても、吐出不良を抑制する効果が十分に発揮される。前記条件を満たし、本発明において特に好ましく用いることができる上記式(1)で表される化合物としては、下記のものが挙げられる。例えば、FZ−2104、FZ−2130、FZ−2191(以上、東レ・ダウコーニング製)、KF−615A(信越化学製)、TSF4452(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製)などが挙げられる。勿論、本発明はこれらに限られるものではない。
【0056】
本発明において、濃インク上記式(2)で表される化合物を用いる場合、その重量平均分子量を上記範囲とすることで、効率的に表面特性を変化させることができる。そのため、インク中の上記式(2)で表される化合物の含有量が少ない場合であっても、吐出不良を抑制する効果が十分に発揮される。前記条件を満たし、本発明において特に好ましく用いることができる上記式(2)で表される化合物としては、例えば、BYK333(ビックケミー製)などが挙げられる。勿論、本発明はこれらに限られるものではない。
【0057】
本発明者らの検討の結果、上記式(3)で表される化合物として、特定のHLB(グリフィン法により算出された値)を有する変性シロキサン化合物を用いることが好ましいことがわかった。すなわち、上記式(3)で表される化合物は、そのHLBが1以上7未満であるものを使用する。
【0058】
本発明において、濃インク上記式(3)で表される化合物を用いる場合、その重量平均分子量を、さらにはHLBを上記範囲とすることで、効率的に表面特性を変化させることができる。そのため、インク中の上記式(3)で表される化合物の含有量が少ない場合であっても、吐出不良を抑制する効果が十分に発揮される。前記条件を満たし、本発明において特に好ましく用いることができる上記式(3)で表される化合物としては、下記のものが挙げられる。例えば、FZ−2203、FZ−2207、FZ−2222、FZ−2231(以上、東レ・ダウコーニング製)などが挙げられる。勿論、本発明はこれらに限られるものではない。
【0059】
上記で述べたように、変性シロキサン化合物の重量平均分子量(MW)は、テトラヒドロフランを移動相としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。なお、本発明で使用した測定方法は、以下の通りである。しかし、本発明に適用できる、フィルター、カラム、標準ポリスチレン試料及びその分子量などの測定条件は、下記に限られるものではない。
【0060】
先ず、測定対象の試料をテトラヒドロフランに入れて数時間静置して溶解し、溶液を調製する。その後、ポアサイズ0.45μmの耐溶剤性メンブランフィルター(例えば、商品名:TITAN2 Syringe Filter、PTFE、0.45μm;SUN−SRi製)で前記溶液をろ過して試料溶液とする。なお、試料溶液中の試料の濃度は、変性シロキサン化合物の含有量が0.1質量%以上0.5質量%以下になるように調整する。
【0061】
GPCには、RI検出器(Refractive Index Detector)を用いる。また、10乃至2×10の分子量の範囲を正確に測定するために、市販のポリスチレンジェルカラムを複数本組み合わせることが好ましい。例えば、Shodex KF−806M(昭和電工製)を4本組み合わせて用いることや、これに相当するものを用いることができる。40.0℃のヒートチャンバー中で安定化したカラムに移動相としてテトラヒドロフランを流速1mL/minで流し、上記の試料溶液を約0.1mL注入する。試料の重量平均分子量は、標準ポリスチレン試料で作成した分子量検量線を用いて決定する。標準ポリスチレン試料は、分子量が10乃至10程度のもの(例えば、Polymer Laboratories製)を用い、また、少なくとも10種程度の標準ポリスチレン試料を用いるのが適切である。
【0062】
本発明において、濃インク中における、上記の、式(1)、式(2)、及び式(3)で表される化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.2質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。さらには0.5質量%以上3.0質量%未満であることがより好ましい。
【0063】
(変性シロキサン化合物と併用する樹脂)
本発明者らの検討の結果、上記変性シロキサン化合物との兼ね合いから、濃インクには、以下のような特性を有する樹脂A及び樹脂Bの少なくとも1種の樹脂を用いることが必要であることがわかった。すなわち、上記式(1)、式(2)、及び式(3)で表される化合物と併用して濃インクに含有させる樹脂としては、以下の、樹脂群A及び樹脂群Bから選ばれる少なくとも1種の樹脂が挙げられる。樹脂群A:酸価が90mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であり、かつ、樹脂を構成するモノマーの溶解度パラメーターより算出される樹脂の水素結合項が1.0cal0.5/cm1.5以上3.7cal0.5/cm1.5以下である樹脂。樹脂群B:酸価が150mgKOH/gを超えて200mgKOH/g以下であり、かつ、樹脂を構成するモノマーの溶解度パラメーターより算出される樹脂の水素結合項が1.0cal0.5/cm1.5以上1.5cal0.5/cm1.5以下の樹脂。以下、樹脂群Aに該当する樹脂を樹脂Aと呼び、樹脂群Bに該当する樹脂を樹脂Bと呼ぶ。
【0064】
本発明で使用できる前記樹脂を規定する「樹脂を構成するモノマーの溶解度パラメーターより算出される樹脂の水素結合項」は、具体的には、下記のようにして求めた値である。先ず、対象とする樹脂を構成する各モノマーについて、モノマー固有の溶解度パラメーターより、樹脂を構成する各モノマーの水素結合項を算出する。次に、上記で得られた樹脂を構成する各モノマーの水素結合項に、樹脂を構成する各モノマーの組成(質量)比(合計を1とした組成比)をかけた値をそれぞれ求め、得られた値を足し合わせることによって樹脂の水素結合項を求めることができる。
【0065】
濃インクに含有させる樹脂は、その酸価が90mgKOH/gを下回ると、樹脂をアルカリで溶解できない場合や、インクを長期間保存する際に、樹脂が析出する場合がある。このため、樹脂の酸価は90mgKOH/g以上とすることが好ましい。一方、樹脂の酸価が150mgKOH/gを超える場合、親水性が高まり、シロキサン化合物との関係から、インクの表面特性を変化させにくくなる場合がある。したがって、樹脂の酸価が150mgKOH/gを超える場合は、樹脂を構成するモノマーの溶解度パラメーターより算出される樹脂の水素結合項を1.5cal0.5/cm1.5以下とすることが好ましい。しかし、樹脂の酸価が200mgKOH/gを上回ると、樹脂の水素結合項をどのように規定しても、本発明が目的とする吐出不良を抑制する効果が発揮されない場合がある。このため、樹脂の酸価は200mgKOH/g以下とすることが好ましい。
【0066】
さらに、濃インクに含有させる樹脂Aや樹脂Bは、樹脂を構成するモノマーの溶解度パラメーターより算出される樹脂の水素結合項が1.0cal0.5/cm1.5を下回ると、樹脂に起因して耐固着性の低下が生じる場合がある。このため、樹脂A及び樹脂Bを構成するモノマーの溶解度パラメーターより算出される樹脂の水素結合項は1.0cal0.5/cm1.5以上とすることが好ましい。一方、樹脂を構成するモノマーの溶解度パラメーターより算出される樹脂の水素結合項が3.7cal0.5/cm1.5を上回ると、樹脂の親水性が高くなりすぎる。この場合、樹脂の酸価をどのように規定しても、本発明が目的とする吐出不良を抑制する効果が発揮されない場合がある。
【0067】
これらのことをまとめると、濃インクに含有させる樹脂としては、以下に挙げる範囲内の、酸価及び水素結合項を組み合わせた特性を有する樹脂A及び樹脂Bの少なくとも1種の樹脂を用いる。樹脂Aは、酸価が90mgKOH/g以上150mgKOH/g以下のものである。そして、樹脂Aは、これに加えて、樹脂を構成するモノマーの溶解度パラメーターより算出される樹脂の水素結合項が1.0cal0.5/cm1.5以上3.7cal0.5/cm1.5以下の範囲内であるという特性を有するものである。さらに好適な樹脂Aとしては、樹脂を構成するモノマーの溶解度パラメーターより算出される樹脂の水素結合項が1.0cal0.5/cm1.5以上3.2cal0.5/cm1.5以下のものが挙げられる。特には、樹脂Aは、樹脂を構成するモノマーの溶解度パラメーターより算出される樹脂の水素結合項が1.2cal0.5/cm1.5以上1.8cal0.5/cm1.5以下のものであることが好ましい。これに対し、樹脂Bは、酸価が150mgKOH/gを超えて200mgKOH/g以下のものである。そして、樹脂Bは、これに加えて、樹脂を構成するモノマーの溶解度パラメーターより算出される樹脂の水素結合項が1.0cal0.5/cm1.5以上1.5cal0.5/cm1.5以下の範囲内であるという特性を有するものである。さらに好適な樹脂Bとしては、樹脂を構成するモノマーの溶解度パラメーターより算出される樹脂の水素結合項が1.2cal0.5/cm1.5以上1.5cal0.5/cm1.5以下のものが挙げられる。
【0068】
濃インクに含有させる樹脂を構成するモノマーは、樹脂の酸価及び樹脂の水素結合項の値が、上述のよう特性を有する樹脂とすることができるものであれば、いずれのものも用いることができる。具体的には、樹脂を構成するモノマーとしては、以下に挙げるモノマーなどを用いることができる。スチレン、α−メチルスチレン、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、ベンジルメタクリレートなどの疎水性モノマー。(メタ)アクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、フマール酸、スチレンスルホン酸、スルホン酸−2−プロピルアクリルアミド、アクリル酸−2−スルホン酸エチル、メタクリル酸−2−スルホン酸エチル、ブチルアクリルアミドスルホン酸、メタクリル酸−2−ホスホン酸エチル、アクリル酸−2−ホスホン酸エチルなどの親水性モノマーなど。
【0069】
本発明においては、前記樹脂Aを用いる場合、上記で挙げたモノマーの中でも、スチレン、n−ブチルアクリレート、及びベンジルメタクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを含むことが好ましい。さらには、樹脂Aを構成するモノマーが、スチレン及びn−ブチルアクリレートを共に有することがより好ましい。このとき、樹脂Aを構成するモノマーの中で、スチレンを基準としたn−ブチルアクリレートの質量比率(n−ブチルアクリレート/スチレン)が、0.2を超えて0.35未満であることが特に好ましい。また、前記樹脂Bを用いる場合、上記で挙げたモノマーの中でも、スチレン、及びα−メチルスチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを含むことが好ましい。さらには、樹脂Bを構成するモノマーがスチレン及びα−メチルスチレンを共に有することがより好ましい。このとき、樹脂Bを構成するモノマーの中で、スチレンを基準としたα−メチルスチレンの質量比率(α−メチルスチレン/スチレン)が、0.90以下であることが特に好ましい。
【0070】
濃インクに含有させる樹脂(樹脂A及び樹脂Bの少なくとも1種の樹脂)の重量平均分子量は、5,000以上15,000以下、さらには6,000以上9,000以下であることが好ましい。重量平均分子量が上記範囲外である樹脂は、変性シロキサン化合物が立体障害の影響を受けやすい。このため、界面特性の変化を起こしにくくなり、吐出不良を抑制する効果が十分に発揮されない場合がある。
【0071】
本発明において、濃インクに含有させる樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.5質量%以上5.0質量%以下、さらには2.5質量%以上4.0質量%以下であることが好ましい。
【0072】
なお、上記で挙げた樹脂A及び樹脂Bは顔料の分散剤(樹脂分散剤)としても用いることができる。しかし、本発明においては、分散剤として用いる樹脂は、上記で挙げたもの以外の樹脂を用いることがより好ましい。このとき、分散剤は、一般的なインクジェット用のインクに適用可能なものであればいずれのものも用いることができる。分散剤を構成するモノマーは、具体的には、以下のものが挙げられ、これらのうち少なくとも2つのモノマーで構成される樹脂が挙げられる。このとき、少なくとも1つは親水性のモノマーであることが好ましい。スチレン、ビニルナフタレン、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマール酸、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、アクリルアミド、又はこれらの誘導体など。また、樹脂の形態は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、又はこれらの塩などが挙げられる。さらに、ロジン、シェラック、デンプンなどの天然樹脂を用いても良い。これらの樹脂は、塩基を溶解した水溶液に可溶であり、アルカリ可溶型樹脂である。上記樹脂(分散剤)は、その重量平均分子量が、1,000以上30,000以下、さらには3,000以上15,000以下のものであることが好ましい。また、インク中の上記樹脂(分散剤)の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0073】
(シリコーングラフトポリマー)
淡インクに含有させるシリコーングラフトポリマーは、少なくとも、下記一般式(I)で表されるノニオン性ユニットと、ポリシロキサン構造を有するユニットとを有するものである。なお、本発明において、以下、「ユニット」と記載した場合には、ユニットを構成する繰り返し単位が1つ又は複数の場合のどちらも含むものとする。
【0074】
【化14】

【0075】
(一般式(I)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rはエステル結合又はエーテル結合であり、xは1又は2の整数である。ただし、Rがメチル基の場合、Rがエーテル結合となることはない。)
【0076】
また、本発明におけるグラフトポリマーとは、「一本の幹ポリマー(主鎖)に枝ポリマー(側鎖)が結合した構造を有するポリマー」のことである。そして、あるポリマーの構造がグラフトポリマーとなっているか否かを判別する方法としては、例えば、以下のような方法が挙げられる。すなわち、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーと多角度光散乱検出器とを組み合わせて、絶対分子量と分子サイズを測定することにより、あるポリマーの構造がグラフトポリマーとなっていることを判別することができる。具体的には、これらの方法により測定される絶対分子量と分子サイズの測定値が乖離すればするほど、そのポリマーは、分岐度が高いことを示しており、グラフトポリマーの形態をとっていると判断することができる。
【0077】
淡インクに含有させるグラフトポリマーは、ポリシロキサン構造を有するユニットと上記ノニオン性ユニットにおける各機能が効率よく発揮されるようにするため、その分子中において、明確に機能分離した構造のものであることが好ましい。具体的には、これらのユニットの機能分離をより明確にするために、上記グラフトポリマーは、側鎖にノニオン性ユニットとポリシロキサン構造を有するユニットが含まれた構造であることが好ましい。すなわち、上記ノニオン性ユニットやポリシロキサン構造を有するユニットの片方の末端が、グラフトポリマーの主鎖の一部を構成していることが好ましい。さらには、側鎖が上記ノニオン性ユニットとポリシロキサン構造を有するユニットのみで構成されているグラフトポリマーであることがより好ましい。このような構造のグラフトポリマーを用いることで、吐出不良を抑制する効果が十分に発揮される。また、上記ノニオン性ユニットとして、高分子量のユニットではなく低分子量のユニットを用いることが好ましい。具体的には、上記ノニオン性ユニットの分子量が、重量平均分子量で、70以上190以下、さらには110以上190以下の範囲であることが好ましい。この場合、上記グラフトポリマーの主鎖から上記ノニオン性ユニットをまんべんなく分岐させること、つまりは、該主鎖から分岐する上記ノニオン性ユニットを非局在化させることが可能となり、本発明の効果を得るうえで特に好適である。本発明において、淡インク中の上記グラフトポリマーの含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下、さらには、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。以下、淡インクに含有させる上記グラフトポリマーを構成する各ユニットについてより詳細に説明する。
【0078】
〔ノニオン性ユニット〕
淡インクに含有させる上記グラフトポリマーを構成するノニオン性ユニットは、下記一般式(I)で表される構造を有するものである。この構造のノニオン性ユニットは、エチレンオキサイド基の繰り返し単位の数が1又は2であり、末端に重合性を持つ官能基を有する、下記一般式(I’)のモノマーが共重合されたものである。さらには、本発明に用いるグラフトポリマーは、下記一般式(I’)で表されるモノマーのビニル基又はビニリデン基がグラフトポリマーの主鎖の一部となり、RからRまでの部分が分岐してグラフトポリマーの側鎖となる構造であることが好ましい。
【0079】
【化15】

【0080】
(一般式(I)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rはエステル結合又はエーテル結合であり、xは1又は2の整数である。ただし、Rがメチル基の場合、Rがエーテル結合となることはない。)
【0081】
【化165】

【0082】
(一般式(I’)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rはエステル結合又はエーテル結合であり、xは1又は2の整数である。ただし、Rがメチル基の場合、Rがエーテル結合となることはない。)
【0083】
本発明においては、上記一般式(I)で表されるノニオン性ユニットにおいて、エチレンオキサイド基の繰り返し単位の数が1又は2である、すなわち、上記一般式(I)におけるxが1又は2であるものを用いることが必要である。上記一般式(I)におけるxが3以上であると、上記ノニオン性ユニットがグラフトポリマーの主鎖から分岐する場合において、ノニオン性を有する部位が局在化して存在する傾向が大きくなり、グラフトポリマーの全体としての親水性が高くなる。このため、吐出不良を抑制する効果が発揮されない場合がある。また、上記のように、上記グラフトポリマーの全体としての親水性が高くなると、インク中で上記グラフトポリマーが界面活性剤のような作用を有するようになり、インクの界面特性を変化させることができない。
【0084】
なお、グラフトポリマーに、一般式(I)で表されるノニオン性ユニットとは異なる構造の、エチレンオキサイド基を有するユニットをさらに含ませる場合には、該ユニットにおけるエチレンオキサイド基の繰り返し単位の数を1又は2とすることが好ましい。
【0085】
また、本発明者らの検討の結果、上記ノニオン性ユニットの代わりに、イオン性ユニットを構成成分とするシリコーングラフトポリマーをインク中に含有させても、吐出不良を抑制する効果が発揮されないことがわかった。本発明者らは、この理由を以下のように推測している。例えば、上記ノニオン性ユニットを有さず、代わりに、アニオン性ユニットを有するシリコーングラフトポリマーを含有するインクの場合、以下のような現象が生じる。すなわち、インク中の水性媒体などが蒸発する過程において、塩析などが生じることにより、シリコーングラフトポリマーの親水性が極端に低くなり、凝集してしまう。このような場合、界面特性を変化させることができなくなり、吐出不良を抑制する効果が得られなくなるものと考えられる。
【0086】
上記一般式(I)で表されるノニオン性ユニットとしては、具体的には、(メタ)アクリレート系モノマーやビニルエーテル系モノマーが共重合されたものが挙げられる。また、淡インクに含有させる上記グラフトポリマーにおいて、上記ノニオン性ユニットは、1種又は2種以上を組み合わせて構成させてもよい。
【0087】
(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、メトキシジエチレングリコール−モノメタクリレート、メトキシジエチレングリコール−モノアクリレートなどが挙げられる。このような(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、ブレンマーPE−90、AE−90、PME−100(以上、日油製)、BHEA、HEMA(日本触媒製)などの市販品を用いることができる。ビニルエーテル系モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテルなどが挙げられる。このようなビニルエーテル系モノマーとしては、例えば、HEVE、DEGV(以上、丸善石油化学製)などの市販品を用いることができる。本発明において、これらのモノマーの中では、特に、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メトキシジエチレングリコール−モノメタクリレートを用いることが好ましい。
【0088】
〔ポリシロキサン構造を有するユニット〕
淡インクに含有させる上記グラフトポリマーを構成するポリシロキサン構造を有するユニットとしては、ポリシロキサン構造を有するユニットであればいずれのものであってもよい。本発明においては、ポリシロキサン構造を有するユニットの中でも、下記一般式(II)で表されるユニットを用いることが特に好ましい。この一般式(II)で表されるユニットは、片方の末端に重合性を持つ官能基を有する、下記一般式(II’)で表されるモノマーが共重合されたものである。さらに、上記グラフトポリマーは、下記一般式(II’)で表されるモノマーのビニル基又はビニリデン基がグラフトポリマーの主鎖の一部となり、エステル結合からR11までの部分が分岐してグラフトポリマーの側鎖となる構造であることが好ましい。また、淡インクに含有させる上記グラフトポリマーにおいて、ポリシロキサン構造を有するユニットは、1種又は2種以上を組み合わせて構成させてもよい。
【0089】
【化17】

【0090】
(一般式(II)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1乃至6のアルキレン基であり、R10はそれぞれ独立にメチル基又はフェニル基であり、R11は炭素数1乃至6のアルキル基、又はフェニル基であり、mは1以上150以下である。)
【0091】
【化18】

【0092】
(一般式(II’)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1乃至6のアルキレン基であり、R10はそれぞれ独立にメチル基又はフェニル基であり、R11は炭素数1乃至6のアルキル基、又はフェニル基であり、mは1以上150以下である。)
【0093】
また、本発明において、上記一般式(II’)で表されるモノマーとしては、例えば、サイラプレーンFM−0711、FM−0721、FM−0725(以上、チッソ製)などの市販品を用いることができる。
【0094】
〔その他のユニット〕
淡インクに含有させる上記グラフトポリマーは、上述した、上記一般式(I)で表されるノニオン性ユニット及びポリシロキサン構造を有するユニットを少なくとも有し、さらに酸性基を有するユニットを有することが好ましい。また、淡インクに含有させる上記グラフトポリマーは、これらのユニットの他に、その他のユニットをさらに有してもよい。その他のユニットとしては、酸モノマー、カルボキシル基を有するモノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマーや、これらの無水物、塩、エステル化合物などのモノマーが共重合されたものが挙げられる。また、本発明に用いる上記グラフトポリマーにおいて、上記のその他のユニットは、1種又は2種以上を組み合わせて構成させてもよい。
【0095】
その他のユニットを構成するモノマーとしては、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシメチルコハク酸など。(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステルなど。スチレンスルホン酸、無水マレイン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリル酸エステル、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステルなど。ビニルホスホ酸、ビニルホスフェート、ビス(〔メタ〕アクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェートなど。また、ジブチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジブチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジオクチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェートなどが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチルが好ましい。
【0096】
(顔料)
本発明のインクセットを構成する各インクには、分散剤を用いて顔料を分散する樹脂分散タイプの顔料(樹脂分散型顔料)や、顔料粒子の表面に親水性基を導入した自己分散タイプの顔料(自己分散型顔料)を用いることができる。また、顔料粒子の表面に高分子を含む有機基を化学的に結合した顔料(樹脂結合型自己分散顔料)、顔料の分散性を高めて分散剤などを用いることなく分散可能としたマイクロカプセル型顔料なども用いることができる。勿論、これらの分散方法の異なる顔料を組み合わせて用いても良い。インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として0.1質量%以上15.0質量%以下、さらには1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。顔料の種類としては、有機顔料やカーボンブラックなどの無機顔料が挙げられ、インクの色調に合わせて、一般的なインクジェット用のインクに適用可能なものから適宜選択して用いることができる。また、主として含有させる顔料に加えて、他の1種又は2種以上の顔料を併用して調色を行ってもよい。
【0097】
(水性媒体)
本発明のインクセットを構成する各インクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。水としては脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、インクジェット用のインクに使用可能なアルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などのいずれのものも用いることができ、1種又は2種以上をインクに含有させることができる。
【0098】
(その他の成分)
本発明のインクセットを構成する各インクには、上記成分の他に、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの常温で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。このような水溶性有機化合物のインク中の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下、さらには3.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。また、必要に応じて所望の物性値を有するインクとするために、塩、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤などの種々の添加剤を含有してもよい。
【0099】
<インクジェット記録方法、インクジェット記録装置>
本発明のインクジェット記録方法は、複数のインクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法である。そして、前記複数のインクとして、上記で説明した本発明のインクセットを構成する各インクを用いる。本発明においては、インクを吐出させるエネルギーとして、熱エネルギーを特に好ましく用いることができる。
【0100】
また、本発明のインクジェット記録装置は、複数のインクをそれぞれ収容するインク収容部と、複数のインクをそれぞれ吐出するための記録ヘッドとを備えたインクジェット記録装置である。そして、前記複数のインクとして、上記で説明した本発明のインクセットを構成する各インクを用いる。本発明においては、インクを吐出させる手段として、熱エネルギーを利用した記録ヘッドを特に好ましく用いることができる。
【0101】
以下、本発明のインクジェット記録方法を好適に実施することができる、本発明のインクジェット記録装置の主要な構成について説明する。図1はインクジェット記録装置の記録部の斜視図、図2は記録ヘッド及び回復ユニットの断面図である。先ず、インクジェット記録装置の全体の構成について簡単に説明する。インクジェット記録装置の本体はスタンドに搭載され、その内部には、記録媒体を搬送するための搬送ユニット、記録媒体に所定の記録を行うためのキャリッジユニット1、記録ヘッド2A及び2Bの機能を回復するための回復ユニットなどを有している。
【0102】
本発明のインクジェット記録装置では、キャリッジユニット1に第1の記録ヘッド2A及び第2の記録ヘッド2B、の2つの記録ヘッド2が搭載され、記録部が構成される。図1において、第1の記録ヘッド2Aは第1のヘッドホルダ5Aに、また、第2の記録ヘッド2Bは第2のヘッドホルダ5Bに搭載される。以下、上記2つの記録ヘッドは同様の構成とすることができるため、第1の記録ヘッドについて説明する。第1の記録ヘッド2Aは、第1のヘッドレバー3Aと第2のヘッドレバー4Aとを開閉することにより、ヘッドホルダ5Aに対して着脱可能に構成されている。キャリッジユニット1は、第1のレール6A及び第2のレール6Bに沿って主走査方向に往復移動を行い、また、不図示の記録媒体搬送部により主走査方向と直交する副走査方向に記録媒体が搬送されることで、画像の記録が行われる。
【0103】
本発明においては、1つの記録ヘッドあたり6種のインクを吐出することができる記録ヘッドを2つ用い、12種のインクで構成されるインクセットにより画像を記録する構成のインクジェット記録装置とすることができる。図2において、記録ヘッド2には、記録素子21及びインク供給結合部22nが設けられ、記録素子21には各インクを吐出するための吐出口(不図示)が吐出口列として開口している。そして、各吐出口から、電気熱変換素子により生じる熱エネルギーの作用によりインクが吐出される。22nはインク供給結合部であり、インクジェット記録装置の本体内部に設置されたインクカートリッジ(不図示)とチューブ(不図示)を介して結合しており、該インクカートリッジのインク収容部に収容されていたインクが記録ヘッド2に対して供給される。さらに、記録ヘッド2の内部には、インク種ごとに、記録素子43nにインクを供給する通路(不図示)が設けられ、吐出口44nまで連通している。なお、符号にnを付した部材は、同様の構成を有する複数の部材群で構成されることを意味する。
【0104】
上記では、6種のインクを吐出する記録ヘッドを2つ使用することで、上記本発明のインクセットに含まれる12種のインクを用いて画像の記録を行う構成について説明したが、記録ヘッドの数やキャリッジの構成はこれに限られるものではない。すなわち、12種のインクを用いて記録を行うことが可能であれば、どのような構成であってもよい。
【0105】
記録が行われていない場合、図1のキャリッジユニット1はホームポジションに位置するが、その位置において、記録ヘッド2の吐出口が開口された面(吐出口面)に対向するように、すなわち、図1の下方に回復ユニット(図2)が設けられている。回復ユニットはキャリッジユニット1に設けられた記録ヘッド2の吐出口面に付着したインクの清掃や吐出口の目詰まりを解消するなどのクリーニングを行うために備えられているものである。また、インクカートリッジに収容されていたインクを記録ヘッドに充填する際にも、気泡の存在などによる吐出不良を事前に回避するなどのために使用される。このため、本発明のインクジェット記録装置は、これらのワイパー71及び吸引キャップ72nを含む回復ユニットを具備する。
【0106】
以下、図2を参照して回復ユニットの構成と動作を説明する。図2は記録ヘッド2と回復ユニットを、図1の右方向からみた断面図である。71はワイパーであり、矢印の方向に移動可能な支持部材(不図示)にゴムなどの弾性部材で構成されたワイパー部材が設けられた構成となっている。ワイパー71は71Aのような状態となって矢印の方向に向かって移動することで、記録ヘッド2の吐出口面を拭い、付着物を除去するワイピング操作を行う。また、73nは吸引キャップであり、記録ヘッド2の吐出口面に接近するように移動し、その外周部が記録素子43n(吐出口面)と接触することで、吐出口面を覆う。吸引チューブ53nには吸引機構(不図示)が連結されている。吸引機構による吸引圧により、記録ヘッドの吐出口近傍にまでインクカートリッジに収容されていたインクを充填し、また、インク中の気泡や吐出口の目詰まりに起因する吐出不良などからインクの吐出を正常な状態とするための吸引操作を行う。
【実施例】
【0107】
以下、実施例、及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、「部」又は「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0108】
<シリコーングラフトポリマーの合成>
以下の手順にしたがって、シリコーングラフトポリマーであるグラフトポリマー1〜3を以下の重合方法によりそれぞれ合成した。先ず、撹拌機、温度計、窒素導入管を備えたフラスコに、下記表1に示す組成の各モノマーと重合開始剤を仕込み、溶媒として1−メトキシ−2−プロパノール500部を用いて、窒素ガス還流下、温度110℃で4時間重合反応を行った。このようにして得られた共重合体を含む溶液を減圧乾燥させて、共重合体を得た。得られた共重合体に、溶媒としてメチルエチルケトン25部を加えて溶解させた後、30%の水酸化カリウム水溶液2部を加えて共重合体の塩生成基の一部を中和し、さらにイオン交換水300部を加えて撹拌した。その後、減圧下、温度60℃で溶媒を除去し、さらに水の一部を除去することにより濃縮して、固形分の含有量が20.0%の、グラフトポリマーの水溶液を得た。このようにしてそれぞれ得られたグラフトポリマー1〜3について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(島津製作所製)と多角度光散乱検出器(昭工通商製)とを組み合わせて絶対分子量と分子サイズを測定した。その結果、絶対分子量と分子サイズの測定値は大きく乖離しており、グラフトポリマーの構造を有するものであることが確認できた。
【0109】
なお、下記表1中、(*1)〜(*3)はそれぞれ以下のモノマーを示す。
(*1):サイラプレーンFM−0711(チッソ製;前記一般式(V’)に示されるポリシロキサン構造を有するモノマー、数平均分子量約1,000)
(*2):HEMA(製品名:日本触媒製;前記一般式(I’)におけるRが水素原子、Rがメチル基、Rがエステル結合、xが1であるノニオン性モノマー)
(*3):ブレンマーPME−100(製品名:日油製;前記一般式(I’)におけるR及びRがメチル基、Rがエステル結合、xが2であるノニオン性モノマー)
【0110】
【表1】

【0111】
<顔料分散液の調製>
先ず、下記の特性を有する樹脂1及び2を常法により合成し、10.0%の水酸化カリウム水溶液で中和した。
樹脂1:スチレン/n−ブチルアクリレート/アクリル酸、組成(質量)比=18:68:14、重量平均分子量6,000、酸価109mgKOH/g、樹脂の水素結合項3.2cal0.5/cm1.5
樹脂2:スチレン/α−メチルスチレン/アクリル酸、組成(質量)比=48:34:18、重量平均分子量9,000、酸価140mgKOH/g、樹脂の水素結合項1.0cal0.5/cm1.5
【0112】
下記表2に示す種類の顔料:10.0部及び樹脂:5.0部、さらにイオン交換水:85.0部を混合し、バッチ式縦型サンドミルで3時間分散した後、ポアサイズが2.5μmであるフィルター(製品名:HDCII;日本ポール製)にて加圧ろ過を行った。これにイオン交換水を加え、顔料の含有量が10.0%、樹脂の含有量が5.0%の各顔料分散液を得た。
【0113】
【表2】

【0114】
<インクの調製>
下記表3及び4に示す各成分を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズが1.2μmであるポリプロピレンフィルター(ポール製)にて加圧ろ過を行い、各インクを調製した。なお、下記表3及び4中、グラフトポリマー及び樹脂は固形分としての含有量の値で示してあり、ポリエチレングリコールは平均分子量1,000のものである。アセチレノールE100はノニオン性界面活性剤(川研ファインケミカル製)である。また、「FZ−」で始まる各化合物は東レ・ダウコーニング製、また、BYK333はビックケミー製の、それぞれ上記で説明した構造を有する変性シロキサン化合物であり、重量平均分子量(MW)及びHLB値を併記した。
【0115】
【表3】

【0116】
【表4】

【0117】
<インクセットの構成、評価>
上記で得られた各インクを下記表5の左側に示すように組み合わせてインクセットとした。インクセットを構成する各インクをそれぞれ充填したインクカートリッジを、大判のインクジェット記録装置(商品名:iPF5000;キヤノン製)を改造したものにセットした。オフィスプランナー(キヤノン製)に、記録デューティが10%で18cm×24cmの画像を、デフォルトモードで50,000枚記録した。この際、20枚記録するごとに1回の割合でワイパーにより吐出口面のクリーニング操作を行った。このときの吐出口面の状態を目視で確認して、吐出口面の状態の評価を行った。吐出口面の状態の評価基準は下記の通りである。評価結果を表5に示した。また、50,000枚の記録の後、iPF5000のノズルチェックパターンを記録した。得られたノズルチェックパターンを目視で確認して、吐出安定性の評価を行った。吐出安定性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表5に示した。下記の評価基準のいずれもがB以上である場合は吐出不良の発生が抑制されていることを示し、いずれかひとつの項目でもCがある場合は吐出不良が抑制されておらず、許容できないレベルとした。
【0118】
〔吐出口面の状態の評価基準〕
A:吐出口の周辺にインクがほとんど存在しなかった
B:吐出口の周辺にインクが少し存在していた
C:吐出口の周辺に帯状にインクが存在していた。
【0119】
〔吐出安定性の評価基準〕
A:ノズルチェックパターンに乱れがなく、正常に記録できた
B:ノズルチェックパターンに若干の乱れがあったが、不吐出はなかった
C:ノズルチェックパターンにはっきりとした不吐出や乱れがあり、正常に記録できなかった。
【0120】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材として顔料を含有する複数のインクで構成されるインクジェット用のインクセットであって、
前記複数のインクが、Y(イエロー)インク、R(レッド)インク、G(グリーン)インク、B(ブルー)インク、顔料含有量が互いに異なる4種のブラックインク、顔料含有量が互いに異なる2種のシアンインク、顔料含有量が互いに異なる2種のマゼンタインクを含み、前記顔料含有量が互いに異なる4種のブラックインクを顔料含有量が多い順にBk1インク、Bk2インク、Bk3インク及びBk4インク、前記顔料含有量が互いに異なる2種のシアンインクを顔料含有量が多い順にC1インク及びC2インク、前記顔料含有量が互いに異なる2種のマゼンタインクを顔料含有量が多い順にM1インク及びM2インクとしたとき、
前記Yインク、前記Rインク、前記Gインク、前記Bインク、前記Bk1インク、前記Bk2インク、前記Bk3インク、前記C1インク、前記M1インクのうち少なくとも1種のインクが、下記式(1)で表される化合物、下記式(2)で表される化合物、及び、下記式(3)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の変性シロキサン化合物、並びに、
酸価が90mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であり、かつ、樹脂を構成するモノマーの溶解度パラメーターより算出される樹脂の水素結合項が1.0cal0.5/cm1.5以上3.7cal0.5/cm1.5以下である樹脂A、及び、酸価が150mgKOH/gを超えて200mgKOH/g以下であり、かつ、樹脂を構成するモノマーの溶解度パラメーターより算出される樹脂の水素結合項が1.0cal0.5/cm1.5以上1.5cal0.5/cm1.5以下である樹脂B、の少なくとも1種の樹脂を含有し、
前記Bk4インク、前記C2インク、及び、前記M2インクのうち少なくとも1種のインクが、下記一般式(I)で表されるノニオン性ユニット及びポリシロキサン構造を有するユニットを含むグラフトポリマーを含有することを特徴とするインクセット。
【化1】


(式(1)で表される化合物の重量平均分子量は8,000以上30,000以下である。式(1)中、Rは炭素数1以上20以下のアルキレン基であり、Rは水素原子又は炭素数1以上20以下のアルキル基であり、mは1以上250以下、nは1以上100以下、aは1以上100以下、bは0以上100以下である。)
【化2】


(式(2)で表される化合物の重量平均分子量は8,000以上50,000未満である。式(2)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上20以下のアルキル基であり、Rはそれぞれ独立に、炭素数1以上20以下のアルキレン基であり、pは1以上450以下、cは1以上250以下、dは0以上100以下である。)
【化3】


(式(3)で表される化合物は、重量平均分子量が8,000以上50,000未満、かつHLBが1以上7未満である。式(3)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上20以下のアルキル基である。Rはそれぞれ独立に、炭素数1以上20以下のアルキレン基であり、qは1以上100以下、rは1以上100以下、eは1以上100以下、fは0以上100以下である。)
【化4】


(一般式(I)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rはエステル結合又はエーテル結合であり、xは1又は2の整数である。ただし、Rがメチル基の場合、Rがエーテル結合となることはない。)
【請求項2】
複数のインクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法であって、前記複数のインクとして、請求項1記載のインクセットを構成する各インクを用いることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項3】
複数のインクをそれぞれ収容するインク収容部と、複数のインクをそれぞれ吐出するための記録ヘッドとを備えたインクジェット記録装置であって、前記複数のインクとして、請求項1に記載のインクセットを構成する各インクを用いることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−168668(P2011−168668A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32694(P2010−32694)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】