説明

インクセット、並びに記録方法、記録装置、記録システム及び記録物

【課題】本発明は、色再現範囲が広く、彩度が高く、ドット表現による粒状性が目立つことなく、光沢感のある記録画像を得ることができ、特に、塗工層を有するメディアに適用した場合にドット表現による粒状性を極めて抑制でき、普通紙に適用した場合に発色性の極めて優れた記録画像を得ることのできるインクセットを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、イエローインク(Y)、マゼンタインク(M)、シアンインク(C)及びレッドインク(R)を少なくとも備えるインクセットであって、前記各インクの1000倍希釈水溶液のCIEで規定のLab表示系におけるL*値が、下記の範囲内にあるインクセットを提供するものである。(Y);89以上94以下、(M);76以上93以下、(C);74以上87以下、(R);55以上74以下。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた色再現性とメタメリズム低減とを実現したインクセット、記録方法、記録装置、記録システム及び記録物、詳細には、イエロー、マゼンタ及びシアンインク(YMCインク)以外のレッドインクやヴァイオレットインク等の特色インクを使用しなくても、記録画像の色再現性に優れ、ドット表現による粒状性が目立つことなく、メタメリズムを低減することのできるインクセット、モノクロもカラーも高品質で出力でき、記録画像の色再現性に優れ、ドット表現による粒状性が目立つこともなく、メタメリズムを低減することができ、さらにグレーバランスの安定性が得られるインクセット、又は、大幅に色再現域が減少することなく、簡易な構成でメタメリズムを改善することが可能なインクセット、記録方法、記録装置、記録システム及び記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インク(インク組成物)の小滴を飛翔させ、これを紙等の記録媒体に付着させて記録を行う印刷方法である。この方法は、比較的安価な装置を用いながら、解像度が高く鮮明な画像を高速に印刷することができるという特徴を有する。このようなインクジェット記録方法に用いられるインクセットとしては、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各インクを備えたものや、これにブラック(K)を加えたもの等がある。例えば耐光性および耐水性に加え、良好な画像、とりわけ良好な色相の画像を得ることができるシアン、マゼンタ、イエローインクと組み合わされたインクセットが開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
近年では、より広い色再現性範囲を得ることと、画像をドットにより表現した際に粒状性の目立ち(ドットが肉眼で粒状に視認できる程度の状態)を抑制することの両立を実現するために、相互に同一色でありながら色の濃度の異なる濃淡インクを備えたインクセットが開発されている。例えば、濃インクとしてC、M、Y、Kの四色の各インクを備え、淡インクとしてライトシアン(Lc)、ライトマゼンタ(Lm)、ライトイエロー(Ly)、ライトブラック(Lk)の4色の各インクを備えたものがある。
【0004】
この濃淡インクを備えたインクセットを用い、記録媒体の単位面積当りに着弾する色材の量(dutyの高低)を変化させて記録することにより、インクドットによる粒状感が低減し、銀塩写真に匹敵する高画質のカラー画像の出力が可能となる。
【0005】
しかしながら、このような従来の顔料インクセットを用いて形成された記録物の画像は、照明となる光源が変わると記録画像の色相が変化する現象、即ちメタメリズム(光源依存症)を起こすという問題があった。このメタメリズムを低減させる技術として、例えば、C.I.ピグメントイエロー110を含むイエローインクを備えるインクセットや、コーティングを施した特殊媒体に対して、鮮明で高品質な画像と優れた耐光性を与えるインクジェット記録用インクセットが開発されている。しかし、これらのインクセットによって画像を形成した場合には、緑色の色再現性が不十分である(特許文献2、3参照)。
【0006】
また、ドット表現による粒状性の抑制と、色再現範囲の向上と、メタメリズムの低減のために、イエロー、マゼンタ及びシアンインク以外に、グリーンインクやレッドインク、ヴァイオレットインク等の特色インクを備えるインクセットや、が報告されており、例えばバイオレットインクおよびレッドインクを備えるインクセットが開示されている(特許文献4参照)。
【0007】
このような特色インクは明度が低いが、720×720dpi以上のような高解像度では、メディア上での着弾ドットの半径が小さいため、明度の低い特色インクを高明度部分に積極的に印字した場合でもドット表現による粒状性は許容できる。しかし、720×360dpiのような低解像度では、メディア上での着弾ドットの半径が大きいために、明度の低い特色インクを高明度部分に積極的に印字した場合、ドット表現による粒状性が目立ち、許容できない。このため、高明度部分のメタメリズム低減と粒状性抑制の両立は、明度の低い特色インクを備えたインクセットでは困難である。そこで特色インクを高明度化して、高明度部分のメタメリズム低減と粒状性抑制の両立をさせることも考えられるが、この場合には、高彩度低明度な色の再現性が低下してしまうという問題がある。
【0008】
さらに、モノクロ画像の印刷の高品質化とグレーバランスの安定性が求められる。モノクロ画像の再現性を高めるために2〜3種の異なる顔料濃度のブラックインクを使用する記録装置(特許文献5)、少なくとも1種のカラーインクと濃度種類がカラーよりも多いカラー出力とモノクロ出力を切り分けて行う記録装置(特許文献6)等も提案されているが、カラー画像とモノクロ画像をともに良好に出力するものではない。さらに、インクジェットプリンタがインクという液体を使用している関係上、インクの粘度を変化させる外部環境の変化の影響から、微妙な色変化の要因になりえる。そのためグレーバランスの安定性が求められる。
【0009】
また、従来、この種のインクセットには、シアンとマゼンタとイエローの3種類の1次色インクCMYの混合で得られる特定の3次色と等価な色を有するとともに、どの特定の3次色の分光反射率よりも平坦な分光反射率を有するメタメリズム改善用インクが準備されていた。そして、カラー画像内の少なくとも1つの色を、メタメリズム改善用インクと、3種類の1次色インクCMYの少なくとも1つとを用いて再現し、これによって、再現される無彩色の分光反射率特性を3種類の1次色インクCMYの混合で再現される場合よりも平坦にしていた(例えば、特許文献7を参照。)。
【0010】
上述した従来のインクセットにおいては、メタメリズム改善用のインクを用意しなければならないため、インクセットの構造が大きくなるとともに、インク制御も複雑になるという課題があった。また、CMYインクセットの組み合わせのうち、Yインクを変更することで、メタメリズムを低減する方法もあるが、その場合、高明度域のグリーン方向の色再現域が大きく減少するという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−120956号公報
【特許文献2】特開2002−332440号公報
【特許文献3】特開平11−228888号公報
【特許文献4】特開2001−354886号公報
【特許文献5】特開11−48502号公報
【特許文献6】特開11−320924号公報
【特許文献7】特開2002−225317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、優れた色再現性とメタメリズム低減とを実現したインクセットを提供することにある。
【0013】
また、本発明の別の目的は、YMCインク以外の特色インクを使用しなくても、色再現性に優れ、ドット表現による粒状性が目立つことなく、メタメリズムの低減された記録画像を得ることのできるインクセット、記録方法及び記録システム、特に、上記の優れた性能に加えて、加圧による色変化を生じない記録画像を得ることのできるインクセット、インクジェット記録用インクセットとしての信頼性の高いインクセットを提供すること、更には、良好な色再現性を有し、ドット表現による粒状性が目立たず、メタメリズムが低減された、優れた記録画像を有する記録物を提供することにある。
【0014】
また、本発明の更に別の目的は、モノクロもカラーも高品質で出力でき、YMCインク以外の特色インクを使用しなくても、色再現性に優れ、ドット表現による粒状性が目立つことなく、メタメリズムの低減された記録画像を得ることができ、さらにグレーバランスの安定性が得られるインクセット及び記録装置を提供することにある。
【0015】
また、本発明の更に別の目的は、大幅に色再現域が減少することなく、簡易な構成でメタメリズムを改善することが可能なインクセット、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、鋭意研究した結果、イエローインク、マゼンタインク及びシアンインクからなるインクセットにおいて、メタメリズムを低減した場合でも、該シアンインクの色相角が225度〜270度の近傍にある限り、該イエローインクがb*軸近傍である程、該マゼンタインクがa*軸近傍である程、色再現性に優れる(3色のベクトルバランスが優れる)ことの第1の知見を得た。
【0017】
そして、本発明者は、この第1の知見に基づいて、更に研究したところ、色再現性を低下させることなく、メタメリズムを低減させる観点から、特定の表色を有するマゼンタインク、具体的には所定条件下でのCIEで規定のXYZ表示系におけるY値が55である場合に、同Z値が小さいマゼンタインクを用いたYMCインクからなるインクセットが、前記目的を達成し得ることの第2の知見を得た。
【0018】
本発明は、前記第2の知見に基づきなされたもので、色材濃度0.01重量%以下のインク希釈水溶液の紫外可視透過スペクトルから算出される、CIEで規定のXYZ表示系におけるY値が55である場合に、同Z値が83以下であり、且つ重量1000倍希釈水溶液のCIEで規定のL*a*b*表示系におけるL*値が70以下であるマゼンタインク(M)と、重量1000倍希釈水溶液のCIEで規定のL*a*b*表示系におけるL*値が95以下のイエローインク(Y)と、重量1000倍希釈水溶液のCIEで規定のL*a*b*表示系におけるL*値が70以下のシアンインク(C)と、を備えるインクセット(以下、この発明を実施形態Aのインクセットとする。)を提供するものである。
【0019】
本発明のインクセットは、前記の構成からなるものであるため、YMCインク以外の特色インクを使用しなくても、色再現性に優れ、ドット表現による粒状性が目立つことなく、メタメリズムの低減された記録画像を得ることができる。
【0020】
また、本発明は、前記インクセットを用いて画像を形成する記録方法を提供するものである。この記録方法によれば、YMCインク以外の特色インクを使用しなくても、色再現性に優れ、ドット表現による粒状性が目立つことなく、メタメリズムの低減された記録画像を得ることができる。
【0021】
また、本発明は、前記インクセットを用いて画像を形成する記録システムを提供するものである。この記録システムによれば、YMCインク以外の特色インクを使用しなくても、色再現性に優れ、ドット表現による粒状性が目立つことなく、メタメリズムの低減された記録画像を得ることができる。
【0022】
また、本発明は、前記インクセットを用いて画像が形成されてなる記録物を提供するものである。この記録物は、高い色再現性を有し、ドット表現による粒状性が目立たず、メタメリズムが低減された記録画像を有するものである。
【0023】
本発明者はまた、鋭利研究した結果、下記の構成を採用することによっても、前記の課題の解決を可能にし、前記目的を達成した。
(1)色材として顔料を含む複数のインクからなるインクセットにおいて、該複数のインクが、少なくともイエローインク(Y)、マゼンタインク(M)及びシアンインク(C)であり、且つ該イエローインク中の顔料がC.I.ピグメントイエロー74であり、該マゼンタインク中の顔料がC.I.ピグメントヴァイオレット19であり、該シアンインク中の顔料がC.I.ピグメントブルー15:3である、インクセット(以下、この発明を実施形態Bのインクセットとする。)。
(2)前記イエローインク中に含まれる顔料含有量が4〜7重量%であり、前記マゼンタインク中に含まれる顔料含有量が4〜7重量%であり、前記シアンインク中に含まれる顔料含有量が3〜6重量%である、前記(1)記載のインクセット。
(3)さらに前記マゼンタインク及びシアンインクと同種の顔料を含み且つ色濃度の異なる淡マゼンタインク(Lm)及び淡シアンインク(Lc)を有し、該淡マゼンタインク中の顔料がC.I.ピグメントヴァイオレット19であり、該淡シアンインク中の顔料がC.I.ピグメントブルー15:3である、前記(1)または(2)記載のインクセット。
(4)前記淡マゼンタインク中に含まれる顔料含有量が0.5〜2重量%であり、前記淡シアンインク中に含まれる顔料含有量が0.5〜2重量%である、前記(3)記載のインクセット。
(5)さらに顔料濃度の異なる3種以上のブラックインクを含む、前記(1)〜(4)のいずれかに記載のインクセット。
(6)前記ブラックインク中の顔料がカーボンブラックである、前記(5)記載のインクセット。
(7)前記顔料濃度の異なる3種以上のブラックインクが、顔料濃度1.5重量%以上の高濃度ブラックインク、0.4重量%以上1.5重量%未満の中濃度ブラックインク、及び0.01重量%以上0.4重量%未満の低濃度ブラックインクである、前記(5)または(6)記載のインクセット。
(8)前記(1)〜(7)のいずれかに記載のインクセットを備えたインクジェット記録装置。
【0024】
本発明ではまた、上述の課題の少なくとも一部を解決するため、インクジェトプリンタにて使用され、少なくともマゼンタインクとイエローインクとシアンインクとを備えるインクセットについて、マゼンタインクの分光反射率特性に、少なくともイエローインクの分光反射率と上記シアンインクの分光反射率とが交差する波長にて分光反射率が0.4以下となる特性を備えさせる(以下、この発明を実施形態Cのインクセットとする。)。尚、本明細書において、「インクの分光反射率」とは、インクを記録媒体に吐出して形成される記録画像の分光反射率を示す。イエローインクとシアンインクの分光反射率が交差する波長においては、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクとを混合させて生成する略無彩色の分光反射率特性が他の波長領域に比較して大きくなる。従って、メタメリズムが大きくなる。そこで、本発明は、この波長にて、分光反射率が0.4以下となる特性を備えるマゼンタインクを採用する。このように、当該波長における分光反射率が0.4以下のマゼンタインクを使用して略無彩色を生成した場合、当該波長における略無彩色の分光反射率を抑制することが可能となり、当該略無彩色の分光反射率特性を可視波長領域全体において、略平坦に形成することが可能になる。
【0025】
より好ましいマゼンタインクの分光反射率特性の一例として、少なくとも上記交差する波長から波長550nmの範囲にて分光反射率が0.4以下となる波長領域を形成する特性が勘案できる。上述したようにシアンインクとイエローインクの分光反射率が交差する波長にてマゼンタインクの分光反射率を0.4以下にすると、略無彩色の分光反射率特性を可視波長領域全体において略平坦にすることができて好適である。上述した本発明にかかるマゼンタインクの分光反射率の特性をシアンインクおよびイエローインクの分光反射率に対して絶対値的に把握しても良い。
【0026】
一方、かかるマゼンタインクの分光反射率の特性は、シアンインクおよびイエローインクの分光反射率特性に対して相対的に把握することもできる。そこで、インクジェトプリンタにて使用され、少なくともマゼンタインクとイエローインクとシアンインクとを備えるインクセットについて、マゼンタインクの分光反射率特性に、イエローインクと上記シアンインクとの分光分布が交差する波長にて、同波長におけるイエローインクおよびシアンインクの分光反射率より0.4以下となる分光反射率を形成する特性を備えさせる(以下、この発明を実施形態Dのインクセットとする。)。これによって、上述と同様の効果(略無彩色の分光反射率特性を可視波長領域全体にて略平坦にすることができる効果。)を奏することが可能になる。
【0027】
かかる場合のより好ましいマゼンタインクの分光反射率特性の一例として、少なくとも上記交差する波長から波長550nmの範囲にて分光反射率が上記イエローインクの分光反射率より0.4以下となる分光反射率を形成する特性が勘案できる。ここで、上述してきた分光反射率特性を実現可能なマゼンタインクの組成の一例として、マゼンタインクは、少なくとも0.7重量%のスチレン−アクリル酸共重合体と、少なくとも15重量%のグリセリンと、少なくとも5重量%のエチレングリコールと、少なくとも2重量%の2−ピロリドンと、少なくとも5重量%の1,2ヘキサンジオールと、少なくとも0.5重量%のアセチレングリコール系化合物とを有する組成とする。
【0028】
上述と同様の分光反射率特性を実現可能なマゼンタインクの組成の一例として、マゼンタインクが少なくとも5%以上の多価アルコール系化合物と糖類から選ばれる1種または2種以上の高沸点化合物を含むようにしても良い。また、マゼンタインクが少なくとも1%以上のグリコールエーテル系化合物とアルキルジオール系化合物から選ばれる1種または2種以上の極性溶媒を含むようにしても良い。また、マゼンタインクが少なくとも0.1%以上のアセチレングリコール系化合物とアセチレンアルコール系化合物とポリシロキサン系化合物から選ばれる1種または2種以上の界面活性剤を含むようにしても良い。
【0029】
また、マゼンタインクが少なくとも5%以上の多価アルコール系化合物と糖類から選ばれる1種または2種以上の高沸点化合物を含み、かつ、上記マゼンタインクは、少なくとも1%以上のグリコールエーテル系化合物とアルキルジオール系化合物から選ばれる1種または2種以上の極性溶媒を含み、かつ、上記マゼンタインクは、少なくとも0.1%以上のアセチレングリコール系化合物とアセチレンアルコール系化合物とポリシロキサン系化合物から選ばれる1種または2種以上の界面活性剤を含むようにしても良い。さらに、マゼンタインクが少なくとも0.1%以上の樹脂を含むようにしても良い。
【0030】
本発明のインクセットに採用して好適なイエローインクおよびシアンインクの組成の一例として、イエローインクは、少なくとも、1重量%のスチレン−アクリル酸共重合体と、15重量%のグリセリンと、5重量%のエチレングリコールと、2重量%の2−ピロリドンと、5重量%の1,2ヘキサンジオールと、0.5重量%のアセチレングリコール系化合物とを有する組成とする。そして、シアンインクは、少なくとも、0.5重量%のスチレン−アクリル酸共重合体と、15重量%のグリセリンと、5重量%のエチレングリコールと、2重量%の2−ピロリドンと、少なくとも5重量%の1,2ヘキサンジオールと、少なくとも0.5重量%のアセチレングリコール系化合物とを有する組成とする。
【0031】
さらに、本発明のインクセットに採用して好適なシアンインク、イエローインクおよびマゼンタインクの色材の一例として、シアンインクの色材を「C.I.ピグメントブルー15:3」にて構成し、イエローインクの色材を「C.I.ピグメントイエロー74」にて構成する。そして、マゼンタインクの色材を「C.I.ピグメントバイオレット19」にて構成する。
【0032】
また、上述してきたインクセットを使用して、マゼンタインクとイエローインクとシアンインクとにより混色部分を形成するインクジェット記録方法およびインクジェット記録方法を実現するためのインクジェット記録装置としても本発明が成立することは言うまでもない。
【0033】
さらに、本発明は、前記インクセットを用いて画像を形成する記録方法、前記インクセットにおけるマゼンタインクとイエローインクとシアンインクとにより混色部分を形成するインクジェット記録方法、前記記録方法を実現するための記録装置、前記インクセットを備えたインクジェット記録装置、前記インクセットを用いて画像を形成する記録システム、前記インクセットを用いて画像が形成されてなる記録物を、それぞれ提供する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第1図は、インクセットの色再現性を評価するために、濃マゼンタインク(M1とM2)による記録物のC*とL*との関係を示すグラフである。
【図2】第2図は、インクセットの色再現性を評価するために、淡マゼンタインク(Lm1とLm2)による記録物のC*とL*との関係を示すグラフである。
【図3】第3図は、第1図及び第2図の濃淡両マゼンタインクによる記録物のC*とL*との関係を併せて示すグラフである。
【図4】第4図は、印刷装置を構成するシステムの概略ハードウェア構成を示す図である。
【図5】第5図は、プリンタの概略ハードウェア構成を示す図である。
【図6】第6図は、コンピュータにて実現される印刷装置の主な制御系の概略構成図である。
【図7】第7図は、印刷処理のフローチャートである。
【図8】第8図は、画像を印刷する際の動作を示す動作概念図である。
【図9】第9図は、人間の目における色の見え方を説明する説明図である。
【図10】第10図は、CMYインクの分光反射率を示す図である。
【図11】第11図は、インク組成を示した図である。
【図12】第12図は、L*=70付近の色再現域を示した図である。
【図13】第13図は、L*=50付近の色再現域を示した図である。
【図14】第14図は、色変換処理の処理内容を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明について、その好ましい実施形態に基づき説明する。
【0036】
(実施形態A)
〔インクセット〕
実施形態Aのインクセットは、前記の通り、特定のマゼンタインク(M)、特定のイエローインク(Y)、及び特定のシアンインク(C)の三種のインク(YMCインク)を必須構成要素として具備するものである。
【0037】
本実施形態Aに用いられるマゼンタインク(M)は、その色材濃度0.01重量%以下のインク希釈水溶液の紫外可視透過スペクトルから(例えば、D65光源で視野角2度の条件で)算出される、CIE(Commission Internationale d'Eclairage;国際照明委員会)で規定のXYZ表示系におけるY値が55である場合に、同Z値が83以下である。本発明の効果を向上し得る点、特にメタメリズムの解消性が大きい点で、同Z値が80以下のものが好ましく、78以下のものが更に好ましい。
【0038】
ここで、前記Z値は、例えば、日立製作所社製のU3300等を用いて、スキャンスピード600nm/min、測定波長範囲380〜800nm、スリット幅2.0nmの条件で透過率測定し、D65光源、視野角2度において算出することにより得ることができる(後述の淡マゼンタインクでも同様)。
【0039】
また、前記マゼンタインクは、その重量1000倍希釈水溶液のCIEで規定のL*a*b*表示系におけるL*値が70以下である。本発明の効果を向上し得る点、特に発色性向上、メタメリズム解消性大及びL*70〜80の画像のドット表現による粒状性の目立ち低減の点で、同L*値が50〜70のものが好ましく、60〜70のものが更に好ましい。
【0040】
ここで、前記L*値は、例えば、日立製作所社製のU3300等を用いて、スキャンスピード600nm/min、測定波長範囲380〜800nm、スリット幅2.0nmの条件で透過率測定し、D65光源、視野角2度において算出することにより得ることができる(以下、その他のインクでも同様)。
【0041】
本実施形態Aに用いられるイエローインク(Y)は、その重量1000倍希釈水溶液のCIEで規定のL*a*b*表示系におけるL*値が95以下である。特に、本発明の効果を向上し得る点、特に色再現性の点で、同L*値が70〜95のものが好ましく、85〜95のものが更に好ましい。
【0042】
本実施形態Aに用いられるシアンインク(C)は、その重量1000倍希釈水溶液のCIEで規定のL*a*b*表示系におけるL*値が70以下である。特に、本発明の効果を向上し得る点、特に発色性向上、メタメリズム解消性大及びL*70〜80の画像のドット表現による粒状性の目立ち低減の点で、同L*値が50〜70のものが好ましく、60〜70のものが更に好ましい。
【0043】
本実施形態Aのインクセットが備えるM、Y、Cの各インクに含まれる色材(着色剤)としては、記録物の画像堅牢性に優れる等の観点から顔料が好ましい。また、顔料としては、無機顔料及び有機顔料を使用することができ、それぞれ単独又は複数種混合して用いることができる。前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン及び酸化鉄の他に、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラック等が使用できる。また、前記有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料等)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等が使用できる。
【0044】
具体的には、以下に説明するように、各色インクに応じて所望の顔料が用いられる。
【0045】
マゼンタインクの顔料としては、当該マゼンタインクが所定のZ値及び所定のL*値を有する限り特に制限されず、例えば、C.I.ピグメントレッド5,7,12,48(Ca),48(Mn),57(Ca),57:1,112,122,123,168,184,202,207,209;C.I.ピグメントヴァイオレット19等の1種又は2種以上が挙げられる。中でも、C.I.ピグメントヴァイオレット19が、メタメリズムと粒状性の一層低減された高品質な画像を得ることができるため好ましい。
【0046】
また、イエローインクの顔料としては、当該イエローインクが所定のL*値を有する限り特に制限されず、例えば、C.I.ピグメントイエロー1,2,3,12,13,14,16,17,73,74,75,83,93,95,97,98,109,110,114,128,129,138,139,147,150,151,154,155,180,185等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0047】
また、シアンインクの顔料としては、当該シアンインクが所定のL*値を有する限り特に制限されず、例えば、C.I.ピグメントブルー1,2,3,15:3,15:4,15:34,16,22,60;C.I.バットブルー4,60等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0048】
本実施形態Aのインクセットは、特に、マゼンタインクの顔料がC.I.ピグメントヴァイオレット19であり、イエローインクの顔料がC.I.ピグメントイエロー74であり、シアンインクの顔料がC.I.ピグメントブルー15:3であるYMCインクの組合わせが、混合したときに、より一層平滑な可視吸収スペクトルが得られるため好ましい。
【0049】
顔料の含有量は、発色性及び目詰まり防止性の向上の点で、Y,M,Cの各インク中に3重量%以上、10重量%以下であることが好ましい。特に好ましい顔料の含有量は、特に高解像度(720×720dpi)の画像のドット表現による粒状性の目立ちを低減させる点で、マゼンタインク中においては3〜7重量%、イエローインク注においては3〜7重量%、シアンインク中においては3〜7重量%である。
【0050】
本実施形態Aのインクセットは、前述した各インク、即ち、マゼンタ、イエロー及びシアンの各インクを少なくとも備えるものであるが、更に、重量1000倍希釈水溶液のCIEで規定のL*a*b*表示系におけるL*値が70を超える淡マゼンタインク(Lm)を備えることが、特に低解像度(360×360dpi程度)の画像のドット表現による粒状性の目立ちを低減させる点で好ましい。
【0051】
淡マゼンタインクに係る前記L*値は、更に、70超90以下、特に80〜90の範囲内にあることが上記効果を一層向上し得る点で好ましい。
【0052】
淡マゼンタインクは、所定の前記L*値を有することに加えて、特にメタメリズムの解消性を向上させる点で、その色材濃度0.01重量%以下のインク希釈水溶液の紫外可視透過スペクトルから算出される、CIEで規定のXYZ表示系におけるY値が55である場合に、同Z値が83以下、特に80以下、とりわけ78以下であるものが好ましい。
【0053】
また、淡マゼンタインクの色材としては、当該淡マゼンタインクが所定のL*値を有する限り特に制限されず、例えば、前述したマゼンタインク(M)に用いられる顔料として例示されるものの1種又は2種以上が挙げられる。
【0054】
また、淡マゼンタインクにおける顔料の含有量は、該淡マゼンタインク中に3重量%未満、特に1重量%以上3重量%未満であることが好ましい。
【0055】
本実施形態Aのインクセットは、更に、重量1000倍希釈水溶液のCIEで規定のL*a*b*表示系におけるL*値が70を超える淡シアンインク(Lc)を備えることが、特に低解像度の画像のドット表現による粒状性の目立ちを低減させる点で好ましい。
【0056】
淡シアンインクに係る前記L*値は、更に、70超90以下、特に80〜90の範囲内にあることが上記効果を一層向上し得る点で好ましい。
【0057】
淡シアンインクの色材としては、当該淡シアンインクが所定のL*値を有する限り特に制限されず、例えば、前述したシアンインク(C)に用いられる顔料として例示されるものの1種又は2種以上が挙げられる。
【0058】
淡シアンインクにおける顔料の含有量は、該マゼンタインク中に3重量%未満、特に0.5〜2.5重量%であることが好ましい。
【0059】
本実施形態Aのインクセットは、更に、重量1000倍希釈水溶液のCIEで規定のL*a*b*表示系におけるL*値が50以上80以下、a*値が35以上85以下、b*値が−5以上55以下にあるインク(A)を備えることが、マゼンタインクとイエローインクの2色を混合して画像を形成する場合よりも、低明度且つ高彩度な色も再現できるので色再現範囲の更に広い画像を得ることができる点で好ましい。
【0060】
インク(A)に係る前記L*値は、さらに65〜80の範囲内にあることが上記効果を一層向上し得る点で好ましい。特にL*70〜80の画像のドット表現による粒状性の目立ち低減の点で、インク(A)に係る前記L*値は、65〜75の範囲内が好ましい。
【0061】
インク(A)は、前記のL*、a*、b*値を有するように、その色材種及び含有量が適宜選定される。
【0062】
インク(A)の色材としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ5,43及び62並びにC.I.ピグメントレッド17,49:2,112,149,177,178,188,255及び264等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0063】
また、インク(A)における色材の含有量は、該インク(A)中に1.5〜5.5重量%、特に2.0〜3.0重量%であることが好ましい。
【0064】
本実施形態Aのインクセットは、更に、重量1000倍希釈水溶液のCIEで規定のL*a*b*表示系におけるL*値が20〜60、a*値が50〜90、b*値が−90〜―50の範囲内にあるインク(B)を備えることが、マゼンタインクとシアンインクの2色を混合して画像を形成する場合よりも、低明度且つ高彩度な色も再現できるので色再現範囲の更に広い画像を得ることができる点で好ましい。
【0065】
インク(B)に係る前記L*値は、更に、30〜50の範囲内にあることが上記効果を一層向上し得る点で好ましい。特にL*70〜80の画像のドット表現による粒状性の目立ち低減の点で、インク(B)に係る前記L*値は、40〜50の範囲内が好ましい。
【0066】
インク(B)は、前記のL*、a*、b*値を有するように、その色材種及び含有量が適宜選定される。
【0067】
インク(B)の色材としては、例えば、C.I.ピグメントブルー60並びにC.I.ピグメントヴァイオレット3,19,23,32,36及び38等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0068】
また、インク(B)における顔料の含有量は、該インク(B)中に1.0〜7.0重量%、特に1.5〜3.0重量%であることが好ましい。
【0069】
本実施形態Aのインクセットは、更に、必要に応じてブラックインク(K)を備えることもできる。
【0070】
ブラックインクとしては、その色材として、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄顔料等の無機顔料;アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料等を含むものが挙げられる。これらの顔料の中でも、特にカーボンブラックを用いることが好ましく、好ましいカーボンブラックの例として、三菱化学製のNo.2300, No.900, MCF88, No.33, No.40, No.45, No.52, MA7, MA8, MA100, No.2200B等、コロンビア社製の Raven5750, Raven5250, Raven5000, Raven3500, Raven1255, Raven700等、キャボット社製の Regal 400R, Regal 1660R, Mogul L, Monarch 700, Monarch 800, Monarch 880, Monarch 900, Monarch 1000, Monarch 1100, Monarch 1300, Monarch 1400 等、テグッサ社製の Color Black FW1, Color Black FW2, Color Black FW2V, Color Black FW18, Color Black FW200, Color Black S150, Color Black S160, Color Black S170, Printex 35, Printex U, Printex V, Printex 140U, Special Black 6, Special Black 5, Special Black 4A, Special Black 4等が挙げられる。
ブラックインク中における顔料の含有量は、好ましくは0.1〜10.0重量%、更に好ましくは1.0〜8.0重量%である。
【0071】
さらに、本実施形態Aのインクセットは、前記のインク以外にも、例えば、淡ブラックインク、透明インク、白インク等の他のインクを1種又は2種以上で備えていてもよい。
【0072】
本実施形態Aのインクセットが備える各インクは、色材として顔料を使用するとともに、該顔料を分散するための分散剤を含有するものが好ましい。分散剤としては、この種の顔料インクにおけるものと同様のものを特に制限なく用いることができ、例えば、カチオン性分散剤、アニオン性分散剤、ノニオン性分散剤や界面活性剤等が挙げられる。アニオン性分散剤の例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸−アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体等が挙げられる。また、アニオン性界面活性剤の例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩等が挙げられ、ノニオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。特に、顔料の分散安定性を高める観点から、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体を用いることが好ましい。
【0073】
前記分散剤は、前記各インク中において、前記顔料の重量を基準として、固形分換算で、通常140重量%以下で含まれる。
【0074】
特に、マゼンタインク、イエローインク、シアンインク、淡マゼンタインク、淡シアンインク、インク(A)、インク(B)等のインクにおいては、前記分散剤は、前記顔料の重量を基準として、固形分換算で好ましくは10〜140重量%、更に好ましくは10〜100重量%、更に一層好ましくは20〜40重量%含まれる。
【0075】
また、各インク量に対する分散剤の含有量は、固形分換算で好ましくは0.1〜10重量%、更に好ましくは0.3〜6重量%である。
【0076】
また、本実施形態Aのインクセットが備える各インクは、インクジェット記録用に用いた場合に、インクの乾燥を防いでインクジェットプリンタのヘッドでの目詰まりを防止する観点から、高沸点有機溶媒を含むものが好ましい。高沸点有機溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールのアルキルエーテル類;尿素、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、トリエタノールアミン等の有機アルカリ、糖アルコール等の糖類等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。特に、グリセリンとともに、トリエタノールアミン等の有機アルカリを添加することが、目詰まり防止の向上と、色材の分散性を安定させ、記録画像の光沢を向上させるため好ましい。
【0077】
前記高沸点有機溶媒は、前記各インク中、好ましくは0.1〜30重量%、更に好ましくは0.5〜20重量%含有される。
【0078】
また、これらの高沸点有機溶媒のうちトリエタノールアミンは、インクのpH調整剤及び分散安定剤としての機能をも有するものであり、その機能を良好に発揮する点で、該トリエタノールアミンを各インク中において0.1〜10重量%の範囲内で使用することが好ましい。
【0079】
また、本実施形態Aのインクセットが備える各インクは、記録媒体への濡れ性を高めてインクの浸透性を高める観点から、浸透促進剤を含有させることができる。浸透促進剤としては、例えば、メタノール、エタノール、iso−プロピルアルコール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル;1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール等のジオール等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。特に、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル又は1,2−ヘキサンジオールを用いることが好ましい。
【0080】
前記浸透促進剤は、前記インク中、好ましくは1〜20重量%、更に好ましくは1〜10重量%含有される。
【0081】
また、本実施形態Aのインクセットが備える各インクは、前記浸透促進剤と同様に、記録媒体への濡れ性を高めてインクの浸透性を高める観点から、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の各種界面活性剤を用いることもでき、特に、アセチレングリコール系化合物やシリコーン系化合物を用いることが好ましい。該アセチレングリコール系化合物としては、市販されているものを用いることができ、例えば、オルフィンY、サーフィノール82,440,465,485,STG,E1010(何れも商品名、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社製)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。特に、E1010、サーフィノール465を用いることが好ましい。また、該シリコーン系化合物としては、市販品としてBYK348(ビックケミージャパン製)等のポリシロキサン系化合物を用いることができる。該アセチレングリコール系化合物及び/又は該シリコーン系化合物は、前記インク中、好ましくは0.01〜5重量%、更に好ましくは0.1〜1.0重量%、特に好ましくは0.1〜0.5重量%含有される。
【0082】
また、本実施形態Aのインクセットが備える各インクは、インクの乾燥時間を短縮する観点から、低沸点有機溶媒を含むことができる。該低沸点有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロプルアルコール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、iso−ブタノール、n−ペンタノール等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。特に、一価アルコールが好ましい。
【0083】
本実施形態Aのインクセットが備える各インクは、前述した顔料、分散剤、高沸点有機溶媒、浸透促進剤、アセチレングリコール系化合物及び/又はシリコーン系化合物等の成分を含有し、通常、バランスとして水を含有するものである。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間に亘ってカビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。
【0084】
本実施形態Aのインクセットが備える各インクには、更に必要に応じて、水溶性ロジン類等の定着剤、安息香酸ナトリウム等の防黴剤・防腐剤、アロハネート類等の酸化防止剤・紫外線吸収剤、キレート剤、酸素吸収剤、pH調整剤等の添加剤を含有させることができ、これらの1種又は2種以上が用いられる。
【0085】
本実施形態Aのインクセットが備える各インクは、従来公知の装置、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、バスケットミル、ロールミル等を使用して、従来の顔料インクと同様に調製することができる。調製に際しては、メンブレンフィルターやメッシュフィルター等を用いて粗大粒子を除去することが好ましい。
【0086】
本実施形態Aのインクセットは、その用途に特に制限はないが、ノズルからインクの液滴を吐出させ、該液滴を記録媒体に付着させて文字や図形等の画像を形成する記録方法であるインクジェット記録方法に用いられることが好ましく、特にオンデマンド型のインクジェット記録方法に用いられることが好ましい。オンデマンド型のインクジェット記録方法としては、例えば、プリンターヘッドに配設された圧電素子を用いて記録を行う圧電素子記録方法、プリンターヘッドに配設された発熱抵抗素子のヒーター等による熱エネルギーを用いて記録を行う熱ジェット記録方法等が挙げられ、何れのインクジェット記録方法にも好適に使用できる。
【0087】
また、本実施形態Aのインクセットは、前記のようにインクジェット記録方法に用いた場合に、インクジェット記録用インクセットとして信頼性が高いものであり、特に、インクセット中の各インクを、インクジェットプリンタのノズルの目詰り等を起こさない程度の顔料濃度とすることにより、色再現性が広いにもかかわらず、インクジェット記録用インクセットとして信頼性が更に高いものとなる。
【0088】
本実施形態Aのインクセットは、画像を形成するための記録媒体として、インクジェット記録方法等において通常用いられる記録媒体に制限なく適用できるが、塗工層を有するメディアや普通紙(被記録面に繊維が露呈している記録媒体)等に好適に適用される。特に、本実施形態Aのインクセットを、塗工層を有するメディアに適用すれば、画像を形成した際のドット表現による粒状性の目立ちの抑制を顕著に得ることができる。
【0089】
本明細書において、「塗工層を有するメディア」とは、前述したインクセットを用いて画像を形成する面(被記録面)が少なくとも塗工層で被覆されているものの全てを意味する。この塗工層を有するメディアは、通常、85度光沢度が120以下のものが用いられる。ここで、85度光沢度は、日本電色工業株式会社製の「PG1M」等を用いて測定される。尚、測定に際しては、標準光沢板の85度光沢度が100を示すように予め測定装置を調整しておく。
【0090】
塗工層を有するメディアとしては、85度光沢度が70〜120である鏡面調メディア、例えば、1m以上離れたところから蛍光灯を当てた場合に該蛍光灯の写像の輪郭が目視で確認できるような樹脂コート層を有するメディア等が挙げられ、その代表的な一例として、85度光沢度が81であるセイコーエプソン社製の「PGPP(Premium Glossy Photo Paper)」が挙げられる。
【0091】
また、塗工層を有するメディアの別の例としては、85度光沢度が10〜70であるセミグロス調メディアや、85度光沢度が10以下であるマット調メディア等が挙げられる。
【0092】
また、本実施形態Aのインクセットは、L版等の比較的小さなサイズのメディア(好ましくは塗工層を有するメディア)に対して低解像度で記録しても、ドット表現による粒状性を極めて抑制できる。このため、本実施形態Aのインクセットは、L版等の比較的小さなサイズのメディアに対して特に有用である。
【0093】
〔記録方法〕
次に、本発明の記録方法について説明する。
本発明は、前述したインクセットを用いて画像を形成する記録方法、即ち前述した所定のZ値及びL*値を有するマゼンタインク(M)、前述した所定のL*値を有するイエローインク(Y)、及び前述した所定のL*値を有するシアンインク(C)を少なくとも備えるインクセットを用いて画像を形成する実施形態の方法を提供でき、特に、前述した実施形態のインクセットを用いる記録方法が好適である。尚、本実施形態の記録方法は、前記インクセットを用いる点以外については、通常のインクジェット記録方法等と同様にして実施される。
【0094】
本実施形態の記録方法としては、特に、複数色の前記インクの液滴をそれぞれ吐出させ、記録媒体上に、YMCのうち1色(単色)を形成する場合には、その色に対応するインクにより画像を形成し、2次色以上の混色部分(YMCインク単独では形成できない色)を形成する場合には、YMCインクのうち少なくとも2種により、該混色部分を形成するインクジェット記録方法を好適に提供するものである。また、YMCインクのうち少なくとも2種と、Lmインク、Lcインク、インク(A)、及び/又はインク(B)により、該混色部分を形成するインクジェット記録方法によれば、色再現性の一層向上した画像を得ることができる。更にこれらに加えてブラックインク(K)により該混色部分を形成するインクジェット記録方法も提供することができる。
【0095】
本実施形態の記録方法においては、Duty100%のインク重量が、7〜13mg/inch2となるように画像を形成することが好ましい。
【0096】
また、混合色は、Duty120%のインク重量が、8〜16mg/inch2となるように画像を形成することが好ましい。
【0097】
尚、本明細書において、「Duty」とは、下記式で定義され、算出される値Dの単位を示すものである。
【0098】
D=〔実印字ドット数/(縦解像度×横解像度)〕×100
また、Duty100%とは、画素に対する単色の最大インク重量を意味する。
【0099】
〔記録システム〕
本発明は、前述したインクセットを用いて画像を形成する実施形態の記録システムを提供でき、特に、前述した実施形態のインクセットを用いるインクジェットプリンタ等の記録装置その他の記録システムが好適である。
【0100】
〔記録物〕
本発明は、前述したインクセットを用いて画像が形成されてなる実施形態の記録物を提供でき、特に、前述した実施形態のインクセットを用いたものが好適である。
【0101】
(実施形態B)
実施形態Bのインクセットは、前記の通り、特定のイエローインク(Y)、特定のマゼンタインク(M)、及び特定のシアンインク(C)の三種のインク(YMCインク)を必須構成要素として具備するものである。
【0102】
前記インクセットは、イエローインク中の顔料がC.I.ピグメントイエロー74であり、マゼンタインク中の顔料がC.I.ピグメントヴァイオレット19であり、シアンインク中の顔料がC.I.ピグメントブルー15:3であるYMCの組み合わせによって、メタメリズムの低減された高品質な画像を得ることができる。
【0103】
前記インク中の顔料の含有量は、発色性と高解像度での粒状性の許容レベルの点で、Y、M、Cの各インク中に3重量%以上であることが好ましい。特に好ましい顔料の含有量は、イエローインク中においては4〜7重量%、マゼンタインク中においては4〜7重量%、シアンインク中においては3〜6重量%である。
【0104】
また前記インクセット中の顔料含有量は、より改善された色相を有する画像を得ることができる点で、シアンインク中の前記シアン顔料の含有量が、イエローインク及びマゼンタインク中の前記イエロー顔料及びマゼンタ顔料のそれぞれの含有量よりも少ないものが好ましい。
【0105】
本実施形態Bのインクセットは、前述した各インク、即ち、イエロー、マゼンタ及びシアンの各インクを備えるものであるが、更に、低解像度における粒状性の改善の点で、淡マゼンタインク(Lm)を備えることが好ましい。
【0106】
淡マゼンタインクの色材としては、低解像度における粒状性とメタメリズムの低減の点で、C.I.ピグメントヴァイオレット19が好ましい。
【0107】
また淡マゼンタインク中の顔料の含有量は、3重量%未満、特に0.5〜2重量%であることが好ましい。
【0108】
本実施形態Bのインクセットは、更に、淡シアンインク(Lc)を備えることが、低解像度の粒状性の改善の点で好ましい。
【0109】
淡シアンインクの色材としては、低解像度における粒状性とメタメリズムの低減の点で、C.I.ピグメントブルー15:3が好ましい。
【0110】
また淡シアンインク中の顔料の含有量は、3重量%未満、特に0.5〜2重量%であることが好ましい。
【0111】
さらに、本実施形態Bのインクセットは、少なくとも2種以上、好ましくは3種以上の顔料濃度の異なるブラックインクを備えることが、モノクロ画像の高品質化と、明度の低い部分の階調性の改善、グレーバランスが安定してばらつきが減少するという点で好ましい。
【0112】
前記顔料濃度の異なるブラックインクは、カーボンブラック濃度1.5重量%以上の高濃度ブラックインク、0.4重量%以上1.5重量%未満の中濃度ブラックインク、及び0.01重量%以上0.4重量%未満の低濃度ブラックインクの3つのグループに分けたときに、異なるグループから均等に選ばれることが好ましい。
【0113】
ブラックインクに含有されるカーボンブラックとしては、例えば、コンタクト法、ファーネスト法、又はサーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。具体的には、前述した実施形態Aのインクセットで好ましく用いられるカーボンブラックの例として挙げたものと同様のもの、即ち、三菱化学製のNo.2300等をはじめとする種々のカーボンブラックを使用することができる。
【0114】
同じインクセットにおいて、各ブラックインクが含有するカーボンブラックは、それぞれ同じであることも異なることもできる。
【0115】
さらに、本実施形態Bのインクセットは、前記のインク以外にも、透明インク、白インク等の他のインクを1種又は2種以上備えていても良い。
【0116】
本実施形態Bのインクセットが備える各インクは、色材としての顔料を使用するとともに、該顔料を分散するための分散剤を含有するものが好ましい。分散剤の種類及び含有量としては、前記実施形態Aで用いられるものと同様である。
【0117】
特に、本実施形態Bのインクにおいては、前記分散剤は、前記顔料の重量を基準にして、固形分換算で好ましくは20〜80重量%、更に好ましくは25〜60重量%含まれる。
【0118】
また、本実施形態Bのインクセットが備える各インクは、実施形態Aと同様の理由で、高沸点有機溶剤を含むものが好ましく、該高沸点有機溶剤の種類及び含有量は、前記実施形態Aで用いられるものと同様である。
【0119】
また、本実施形態Bのインクセットが備える各インクは、実施形態Aと同様の理由で、浸透促進剤、各種界面活性剤、低沸点有機溶媒、水、その他の添加剤等を用いることができ、これらの種類及び含有量は、前記実施形態Aで用いられるものと同様である。
【0120】
特に、界面活性剤としてのアセチレングリコール系化合物としては、例えば、オルフィンE1010、STG、Y(何れも商品名、日信化学社製)、サーフィノール82、104、440、465、485(何れも商品名、Air Products and Chemicals Inc.製)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。特にE1010、サーフィノール465を用いることが好ましい。また、該シリコーン系化合物としては、市販品として下記の一般式(1)で表される化合物等を用いることができる。
【0121】
【化1】

【0122】
上記式中、R1〜R7は、独立して、C1-6アルキル基、好ましくはメチル基を表し、j、k、gは独立して1以上の整数を表し、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜4、さらに好ましくは1又は2である。EOはエチレンオキシ基を表し、POはプロピレンオキシ基を表す。p及びqは0以上の整数を表し、好ましくは1〜5であるが、但しp+qは1以上の整数を表し、好ましくは2〜4である。EO及びPOは[ ]内においてその順序は問わず、ランダムであってもブロックであってもよい。
【0123】
本実施形態Bの好ましい態様によれば、式(I)の化合物として、j=k=g=1〜3を満足するものが好ましく、より好ましくは1又は2であるものが好ましい。
【0124】
また、本実施形態Bの別の好ましい形態によれば、式(I)の化合物として、R1〜R7が全てメチル基を表し、j=k=g=1であり、pが1以上の整数、好ましくは1〜5であり、qが0を表すものが好ましい。
【0125】
一般式(1)で表される化合物は市販されており、それらを利用することが可能である。例えば、ビックケミー・ジャパン(株)のシリコーン系界面活性剤BYK−345、BYK−346、BYK−347、BYK−348等が好適である。
【0126】
該アセチレングリコール系化合物及び/又は、該シリコーン系化合物は、前記インク中、好ましくは0.01〜5重量%、更に好ましくは0.1〜1.0重量%含有される。
【0127】
さらに本実施形態Bに係るインクには、ポリマー微粒子(樹脂エマルジョン)を含有させることもできる。尚、「エマルジョン」とは、分散媒が水であり、分散質がポリマー微粒子である該ポリマー微粒子の水系分散液をいう。
【0128】
本実施形態Bに係るインクには光沢性向上及び記録画像の安定性向上の観点から、(i)スルホン酸基含有重合体(ゾル型樹脂)、(ii)変性ポリプロピレンエマルジョン、(iii)アルカリ可溶型エマルジョンの3種のエマルジョンを含有する。
【0129】
(i)樹脂エマルジョン1
前記スルホン酸基含有重合体は、ジエン系スルホン酸基含有重合体及び/又は非ジエン系スルホン酸基含有重合体であることが好ましい。
【0130】
前記スルホン酸基含有重合体は、以下のモノマーを単独又は共重合して得た重合体又は共重合体をスルホン化処理して得たもの(特開平11−217525号公報を参照)、または、スルホン化されたモノマーを単独又は共重合して得た重合体であり、ジエン系モノマーを必須成分とするジエン系スルホン酸基含有重合体とジエンモノマーを必須成分としない非ジエン系スルホン酸基含有重合体とがある。
【0131】
前記ジエン系スルホン酸基含有重合体を得るために使用されるモノマーとしては、ジエン系モノマーと、ジエン系モノマーと併用できる他のモノマーとがある。
【0132】
ジエン系モノマーとしては、炭素数が4〜10のジエン系化合物で、例えば、1,3−ブタジエン、1,2−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,2−ペンタジエン、2,3−ペンタジエン、イソプレン、1,2−ヘキサジエン、1,3−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、2,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,2−ヘプタジエン、1,3−ヘプタジエン、1,4−ヘプタジエン、1,5−ヘプタジエン、1,6−ヘプタジエン、2,3−ヘプタジエン、2,5−ヘプタジエン、3,4−ヘプタジエン、3,5−ヘプタジエン、シクロヘプタジエン等を挙げることができる。これらのジエン系モノマーは1種または2種以上を併用して用いることができる。
【0133】
ジエン系モノマーと併用できる他のモノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、ビニルナフタレンなどの芳香族モノマー、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等のモノ或いはジカルボン酸またはジカルボン酸の無水物、(メタ)アクリロニトリルなどのビニルシアン化合物、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ビニルメチルエチルケトン、酢酸ビニル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸グリシジルなどの不飽和化合物が挙げられる。これらの他のモノマーは1種または2種以上を併用して用いることができる。これらの他のモノマーを併用する場合には、ジエン系モノマーの使用量は、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上、更に好ましくは5重量%以上である。
【0134】
上記のジエン系モノマー又はジエン系モノマーと併用できる他のモノマーとを共重合して得られるジエン系共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体を含め如何なる共重合体であっても良い。
【0135】
好ましい重合体としては、例えば、イソプレン単独重合体、ブタジエン単独重合体、イソプレン−スチレンランダム共重合体、イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン三元ブロック共重合体、ブタジエン−スチレンランダム共重合体、ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン三元ブロック共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元ブロック共重合体等が挙げられる。より好ましい共重合体としては、例えば、イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン三元ブロック共重合体、ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン三元ブロック共重合体等が挙げられる。
【0136】
本実施形態Bで使用されるジエン系スルホン酸基含有重合体は、上記のジエン系重合体及び/又はその前駆モノマーに基づく残存二重結合の一部又は全部を水添して得られる重合体を、公知のスルホン化方法、例えば、日本化学会編集、新実験化学講座(14巻III.1773頁)又は特開平2−227403号公報等に記載された方法によってスルホン化されたものであってもよい。
【0137】
スルホン化剤としては、無水硫酸、硫酸、クロルスルホン酸、発煙硫酸、亜硫酸水素塩(Li塩,Na塩,K塩,Rb塩,Cs塩等)等が挙げられる。スルホン化剤の量は、上記重合体1モルに対して、好ましくは、無水硫酸換算で0.005〜1.5モル、より好ましくは、0.01〜1.0モルである。
【0138】
前記ジエン系スルホン酸基含有重合体は、次に、上記のようにしてスルホン化された生成物に水及び/又は塩基性化合物を作用させて得られた状態で使用されるのが好ましい。塩基性化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属のアルコキシド、アルカリ金属の炭酸塩、アンモニア水、有機金属化合物、アミン類などが挙げられる。塩基性化合物は、1種または2種以上を併用して用いることができる。塩基性化合物の使用量は、使用したスルホン化剤1モルに対して、2モル以下、好ましくは、1.3モル以下である。
【0139】
非ジエン系スルホン酸基含有重合体を得るために使用されるモノマーとしては、例えば、アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、又はイソブチレンと三酸化イオウとを反応させて得られるメタクリルスルホン酸等のビニルモノマー、あるいはp−スチレンスルホン酸ナトリウム等のスチレン系単量体(例えば、東ソ(株)製、スピロマー)、あるいは一般式CH2=C(CH3)−COO(AO)nSO3Na(A:低級アルキレン基)で表わされるメタクリル酸エステル系単量体(例えば、三洋化成(株)製、エレミノール RS-30)のようなスルホニル基を有するモノマー、及び前記モノマーのナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等が挙げられる。
【0140】
非ジエン系スルホン酸基含有重合体は、上記スルホン酸基を有するモノマーにスルホン酸基を含有しないモノマーを共重合させることによっても得られる。
【0141】
共重合可能な他のモノマーとしては、スチレン、エチルビニルベンゼン、α−メチルスチレン、フルオロスチレン、ビニルピリン等の芳香族モノビニル化合物、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、β−メタクリロイルオキシエチルハイドロジエンフタレート、N,N'−ジメチルアミノエチルアクリレート等のアクリル酸エステルモノマー、2−エチルヘキシルメタクリレート、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、N,N'−ジメチルアミノエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステルモノマー、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、シリコン変性モノマー、マクロモノマー等を挙げることができる。更に、ブタジエン、イソプレンなどの共役二重結合化合物や酢酸ビニル等のビニルエステル化合物、4−メチル−1−ペンテン、その他のα−オレフィン化合物が挙げられる。共重合可能なモノマーのうちでは、スチレン、メチルメタクリレート、アクリロニトリルが好ましい。共重合可能なモノマーの使用量は、重合性モノマーの通常1〜93重量%、好ましくは、5〜80重量%である。
【0142】
非ジエン系スルホン酸基含有重合体は、上記のスルホン酸基含有モノマー又は、スルホン酸基含有モノマーと共重合可能な他のモノマーとを、例えば、水あるいは有機溶媒などの重合用溶媒の中で、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤等を使用してラジカル重合する。
【0143】
上記の非ジエン系モノマーを共重合して得られる非ジエン系スルホン酸基含有重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体を含め如何なる共重合体であっても良い。非ジエン系スルホン酸基含有重合体としては、特に、アクリル系スルホン酸基含有重合体が好ましい。
【0144】
前記ポリマー微粒子は、光沢性向上及び記録画像の安定性向上の観点からは、酸価が100以上であることが好ましい。
【0145】
前記ポリマー微粒子は、光沢性向上及び記録画像の安定性向上の観点からは、重量平均分子量(Mw)が8000以上、2万以下であり、ガラス転移温度(Tg;JIS K6900に従い測定)が5℃以上、50℃以下であることが好ましい。
【0146】
前記ポリマー微粒子の最低造膜温度(MFT)は、光沢性向上及び記録画像の安定性向上の観点からは、20℃以下であることが好ましい。
【0147】
前記ポリマー微粒子の粒子径は70nm以下であることが好ましい。より好ましくは、20nm以上、70nm以下である。ポリマー微粒子径がこの範囲内であると、水中においてポリマー微粒子がエマルジョンを形成し易くなり、安定性の高いインクが得られ、高品位な記録画像が得られる。
【0148】
(ii)樹脂エマルジョン2
前記変性ポリプロピレンエマルジョンは、光沢性向上及び記録画像の安定性向上の観点からは、重量平均分子量(Mw)が1000以上、50000以下のポリプロピレンを不飽和カルボン酸又はその無水物で変性させた後、これを塩基性化合物及び乳化剤の存在下で水中に分散させて得たものであることが好ましい。
【0149】
前記不飽和カルボン酸は、マレイン酸及び/又は無水マレイン酸であることが好ましい。
【0150】
本実施形態Bに用いることのできる変性ポリプロピレンエマルジョンとしては、低分子量ポリプロピレンを、加熱反応又は有機過酸化物を用いた公知の方法等で変性して得られたものが挙げられる。例えば、不活性ガス雰囲気中、低分子量ポリプロピレンを芳香族系溶剤又は塩素系溶剤の存在下で、あるいは、パーオキシド類ラジカル発生触媒の存在下で、加熱溶解し、不飽和カルボン酸又はその無水物をグラフトさせて変性して得られる。
【0151】
変性ポリプロピレンエマルジョンとしては、例えばAQUACER593(ビッグケミー・ジャパン社商品名)等が使用可能である。
【0152】
(iii)樹脂エマルジョン3
前記アルカリ可溶性エマルジョンは、光沢性向上及び記録画像の安定性向上の観点からは、アクリル樹脂がインク中においてコロイド分散して形成されるエマルジョンであることが好ましい。
【0153】
アクリル樹脂としては、エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びこれと共重合可能なその他の単量体をアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物又は共重合性界面活性剤の存在下で重合して得られる共重合体であることが好ましい。
【0154】
前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸単量体;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ブテントリカルボン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸単量体;フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ−2−ヒドロキシプロピル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル単量体;無水マレイン酸、無水シストラコン酸等の多価カルボン酸無水物等を挙げることができる。
【0155】
前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体と共重合可能なその他の単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレンなどの芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル酸エステル単量体;(メタ)アクリロニトリル等のシアノ基含有エチレン性不飽和単量体;アリルグリシジルエーテル等のエチレン性不飽和グリシジルエーテル単量体;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のエチレン性不飽和アミド単量体;1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン等の共役ジエン単量体;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル単量体などが挙げられる。
【0156】
前記アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物としては、水溶性高分子化合物のうち、分子量1000当たりアルコール性水酸基を5〜25個含有しているものが好ましく、例えば、ポリビニルアルコールやその各種変性物等のビニルアルコール系重合体;酢酸ビニルとアクリル酸、メタクリル酸又は無水マレイン酸との共重合体の鹸化物;アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロース等のセルロース誘導体;アルキル澱粉、カルボキシメチル澱粉、等の澱粉誘導体;アラビアゴム、トラガントゴム;ポリアルキレングリコール等を挙げることができる。
【0157】
前記共重合性界面活性剤としては、分子中に1個以上の重合可能なビニル基を有する界面活性剤であり、例えば、プロペニル−2−エチルヘキシルスルホコハク酸エステルナトリウム、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレン硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンエステル燐酸エステル等のアニオン性重合性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルベンゼンエーテル(メタ)アクリル酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(メタ)アクリル酸エステル等のアニオン性重合性界面活性剤を挙げることができる。
【0158】
前記アルカリ可溶性エマルジョンのアルカリ可溶性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、光沢性向上及び記録画像の安定性向上の観点からは、好ましくは8000以上、20000以下であり、より好ましくは9000以上、10000以下である。
【0159】
前記アルカリ可溶性エマルジョンのアルカリ可溶性樹脂の酸価は、光沢性向上及び記録画像の安定性向上の観点からは、好ましくは40mgKOH/G以下である。
【0160】
当該アルカリ可溶性樹脂は、光沢性向上及び記録画像の安定性向上の観点からは、アルカリ金属水酸化物やアルカリ土類金属水酸化物等の無機塩基によってpHが8〜11(より好ましくはpHが9〜10)に調整した後、インク中にコロイド分散してエマルジョンを形成させることが好ましい。
【0161】
前記ポリマー微粒子の含有量は、光沢性向上及び記録画像の安定性向上の観点からは、各インク中0.05重量%以上、10.0重量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.1重量%以上、5.0重量%以下であり、さらに好ましくは0.1重量%以上、2.0重量%以下である。なお、ここでいうポリマー微粒子の重量は、固形分換算量である。
【0162】
ポリマー微粒子は一種添加してもよく、あるいは、これらのうち二種以上を混合して添加してもよい。混合して添加する場合には、これらの合計含有量がインク中0.05重量%以上、10.0重量%以下が好ましく、より好ましくは0.1重量%以上、5.0重量%以下(さらに好ましくは0.1重量%以上、2.0重量%以下)である。
【0163】
本実施形態Bのインクセットが備える各インクは、従来公知の装置、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、バスケットミル、ロールミル等を使用して、従来の顔料インクと同様に調整することができる。調製に際しては、メンブレンフィルターやメッシュフィルター等を用いて粗大粒子を除去することが好ましい。
【0164】
本実施形態Bのインクセットは、ノズルからインクの液滴を吐出させ、該液滴を記録媒体に付着させて文字及び/又は画像を形成する記録方法であるインクジェット記録方法に用いられることが好ましく、特にオンデマインド型のインクジェット記録方法に用いられることが好ましい。オンデマインド型のインクジェット記録方法としては、例えば、プリンターヘッドに配設された圧電素子を用いて記録を行う圧電素子記録方法、プリンターヘッドに配設された発熱抵抗素子のヒーター等による熱エネルギーを用いて記録を行う熱ジェット記録方法などが挙げられ、いずれのインクジェット記録方法にも好適に使用できる。
【0165】
本発明は、前述した実施形態Bのインクセットを備えた記録装置を特に制限なく提供でき、好ましくは前記のようなインクジェット記録方式の記録装置である。
【0166】
本実施形態Bのインクセットは、イエロー、マゼンタ及びシアンの減法混色の3原色のインク以外に、淡マゼンタインク、淡シアンインクと、顔料濃度の異なる2種以上のブラックインクを備えているので、色再現範囲が広く、ドット表現による粒状性が良好になり、さらに特定の顔料種を用いることでメタメリズムを低減することができる。さらにモノクロもカラーも高画質で安定して出力でき、温度などの出力環境の条件に左右されにくくなり、その結果グレーバランスの安定性が得られる。
【0167】
インクジェットプリンタはいつでもどこでも同じ出力が得られるように設計されているが、インクという液体を使用している関係上、インクの粘度を変化させる温度などの外部環境の変化の影響を受ける可能性がある。圧力でヘッドからインクを吐出させるインクジェットプリンタでは、インクの粘度が変わると吐出量も変化するためである。この影響を小さくするため、ヘッド駆動は出力時の温度補正機能を備えているが、現実には微小な影響を受けている可能性がある。また、温度以外にも、湿度や記録媒体(インクジェットメディア)などの影響も受け、微妙な色変化の要因になる。
【0168】
本実施形態Bにおいては、無彩色であるブラックをなるべく多く出力させ、薄いブラックを画像の中に出力させることで、出力される色が環境によってばらつくのを抑えることができる。
【0169】
(実施形態C及びD)
ここでは、下記の順序に従って本実施形態C及びDについて説明する。
(1)実施形態C及びDにかかるインクセットを適用する印刷システムの構成:
(2)印刷処理:
(3)画像の印刷:
(4)光源依存性(メタメリズム)低減:
(5)まとめ:
【0170】
(1)実施形態C及びDにかかるインクセットを適用する印刷システムの構成:
第4図は、本実施形態C及びDにかかるインクセットを適用する印刷システムの概略ハードウェア構成を示している。また、第5図は、プリンタの概略ハードウェア構成を示しており、第6図はコンピュータにて実現される印刷装置の主な制御系の概略構成図を示している。図において、コンピュータ10は、演算処理の中枢をなすCPU11を備えており、このCPU11はシステムバス12を介してBIOSなどの記載されたROM13やRAM14にアクセス可能となっている。
【0171】
また、システムバス12には、外部記憶装置としてのハードディスクドライブ(HDD)15とフレキシブルディスクドライブ16とCD−ROMドライブ17とが接続されており、HDD15に記憶されたOS20やアプリケーションプログラム(APL)25等がRAM14に転送され、CPU11はROM13とRAM14に適宜アクセスしてソフトウェアを実行する。すなわち、RAM14を一時的なワークエリアとして種々のプログラムを実行する。
【0172】
コンピュータ10にはシリアル通信用I/O19aを介してキーボード31やマウス32等の操作用入力機器が接続されており、図示しないビデオボードを介して表示用のディスプレイ18も接続されている。さらに、プリンタ40とはパラレル通信用I/O19bを介して接続が可能である。尚、本コンピュータ10の構成は簡略化して説明しているが、パーソナルコンピュータとして一般的な構成を有するものを採用することができる。むろん、本実施形態C及びDが適用されるコンピュータはパーソナルコンピュータに限定されるものではない。この実施形態はいわゆるデスクトップ型コンピュータであるが、ノート型であるとか、モバイル対応のものであっても良い。また、コンピュータ10とプリンタ40の接続インタフェースも上述のものに限る必要はなくシリアルインタフェースやSCSI,USB接続など種々の接続態様を採用可能であるし、今後開発されるいかなる接続態様であっても同様である。
【0173】
この例では各プログラムの類はHDD15に記憶されているが、記録媒体はこれに限定されるものではない。例えば、フレキシブルディスク16aであるとか、CD−ROM17aであってもよい。これらの記録媒体に記録されたプログラムはフレキシブルディスクドライブ16やCD−ROMドライブ17を介してコンピュータ10にて読み込まれ、HDD15にインストールされる。そして、HDD15を介してRAM14上に読み込まれてコンピュータを制御することになる。また、記録媒体はこれに限らず、光磁気ディスクなどであってもよい。また、半導体デバイスとしてフラッシュカードなどの不揮発性メモリなどを利用することも可能であるし、モデムや通信回線を介して外部のファイルサーバにアクセスしてダウンロードする場合には通信回線が伝送媒体となって本実施形態C及びDが利用される。
【0174】
一方、第5図に示すように、プリンタ40内部に設けられたバス40aには、CPU41、ROM42、RAM43、ASIC44、コントロールIC45、パラレル通信用I/O46、イメージデータや駆動信号などを送信するためのインターフェイス(I/F)47、等が接続されている。そして、CPU41が、RAM43をワークエリアとして利用しながらROM42に書き込まれたプログラムに従って各部を制御する。ASIC44は図示しない印刷ヘッドを駆動するためにカスタマイズされたICであり、CPU41と所定の信号を送受信しつつ印刷ヘッド駆動のための処理を行う。また、ヘッド駆動部49に対して印加電圧データを出力する。
【0175】
ヘッド駆動部49は、専用ICと駆動用トランジスタ等からなる回路である。同ヘッド駆動部49は、ASIC44から入力される印加電圧データに基づいて印刷ヘッドに内蔵されたピエゾ素子への印加電圧パターンを生成する。印刷ヘッドには、本実施形態C及びDにかかるインクセットとして、6色の顔料系インクが充填されたインクカートリッジ48a〜48fを搭載可能なカートリッジホルダ48とインク別のチューブで接続されており、各インクの供給を受けるようになっている。
【0176】
そして、チューブから吐出口まで連通するインク室でピエゾ素子が駆動されることにより、インクを吐出する。なお、本実施形態においては汎用的なCMYKインクとRVインクとが使用される構成を採用している。また、本実施形態C及びDによる効果は顔料系インクの方が顕著に現れるが、染料系インクであっても良い。
【0177】
印刷ヘッドのインク吐出面には、6色のインクのそれぞれを吐出する6組のノズル列が印刷ヘッドの主走査方向に並ぶように形成され、ノズル列のそれぞれは複数のノズル(例えば、48個)が副走査方向に一定の間隔で配置されている。
【0178】
カートリッジホルダ48はインク供給針を備えており、同インク供給針がインクカートリッジ48a〜48fに設けられた図示しないインク供給口と接触してインクの供給経路を形成することにより、インクカートリッジ内のインクがチューブを介して印刷ヘッドに供給される。コントロールIC45は、各インクカートリッジ48a〜48fに搭載された不揮発性メモリであるカートリッジメモリを制御するために搭載されたICである。インクカートリッジがカートリッジホルダ48に装着されると、カートリッジメモリはコントロールIC45と電気的に接続されるようになっている。CPU41は、コントロールIC45と所定の信号を送受信し、カートリッジメモリに記録されたインクの色や残量の情報の読み出しや、インク残量の情報の更新等を行う。
【0179】
パラレル通信用I/O46はコンピュータ10のパラレル通信用I/O19bと接続されており、プリンタ40はパラレル通信用I/O46を介してコンピュータ10から送信されるデータ、例えばCMYKRVのドット形成密度を指定したデータやページ記述言語等からなる印刷ジョブを受信する。また、コンピュータ10から各種要求を受信したとき、通信I/OはコントロールIC45からのインクの色や装着状態を示す情報をコンピュータ10に出力する。I/F47には、キャリッジ機構47aと紙送り機構47bとが接続されている。紙送り機構47bは、紙送りモータや紙送りローラなどからなり、印刷用紙などの印刷記録媒体を順次送り出して副走査を行う。キャリッジ機構47aは、印刷ヘッドを搭載するキャリッジと、このキャリッジをタイミングベルトなどを介して走行させるキャリッジモータなどからなり、印刷ヘッドを主走査させる。副走査方向に複数のノズルが設けられた印刷ヘッドにおいては、ビット列からなるヘッドデータに基づいてヘッド駆動部49が出力する駆動信号にてピエゾ素子を駆動し、各ノズルからドット単位でインク滴を吐出させる。
【0180】
このプリンタ40はコンピュータ10にインストールされたプリンタドライバに制御されて印刷を実行する。第6図に示すように本実施形態にかかるコンピュータ10では、プリンタドライバ(PRTDRV)21と入力機器ドライバ(DRV)22とディスプレイドライバ(DRV)23とがOS20に組み込まれている。ディスプレイDRV23はディスプレイ18における画像データ等の表示を制御するドライバであり、入力機器DRV22はシリアル通信用I/O19aを介して入力される上記キーボード31やマウス32からのコード信号を受信して所定の入力操作を受け付けるドライバである。APL25は、カラー画像のレタッチ等を実行可能なアプリケーションプログラムであり、利用者は当該APL25の実行下において上記操作用入力機器を操作して当該カラー画像をプリンタ40にて印刷させることができる。すなわち、APL25は利用者の指示によりHDD15に記録された画像データ15aをRAM14に読み出して、ディスプレイDRV23を介して当該画像データ15aに基づく画像をディスプレイ18上に表示させる。利用者が上記入力機器を操作するとその操作内容が入力機器DRV22を介して取得されて内容が解釈されるようになっており、APL25はその操作内容に応じて印刷指示やレタッチなど種々の処理を行う。
【0181】
APL25にて印刷指示がなされると上記PRTDRV21が駆動され、PRTDRV21はディスプレイDRV23にデータを送出して印刷に必要な情報を入力させるための図示しないUIを表示する。利用者は当該図示しないUIにて印刷部数やページ数等種々のパラメータを設定可能であり、PRTDRV21が入力機器DRV22を介してこれらのパラメータを受け付ける。PRTDRV21がこれらのパラメータを受け付けると、後述するLUT15bを参照してsRGBにて色を指定した上記画像データ15aをCMYKRVの各色データに色変換しつつ印刷データを作成し、上記プリンタ40に印刷データを送出することによって印刷を実行する。
【0182】
(2)印刷処理:
本実施形態において、上記PRTDRV21は、LUT15bを使用して色変換を行いつつ、プリンタ40に印刷を実行させる。このPRTDRV21は印刷を実行するために第6図に示す画像データ取得モジュール21aと色変換モジュール21bとハーフトーン処理モジュール21cと印刷データ生成モジュール21dとを備えている。PRTDRV21は利用者が上記APL25にて印刷実行を指示すると、第7図に示すフローチャートに従って印刷処理を実行する。印刷処理が開始されるとステップS100において上記画像データ取得モジュール21aは上記RAM14に格納された画像データ15aを取得する。
【0183】
すると、ステップS105にて画像データ取得モジュール21aは上記色変換モジュール21bを起動する。色変換モジュール21bは、RGB階調値をCMYKRV階調値に変換するモジュールであり、当該色変換モジュール21bは同ステップS105にて上記画像データ15aの各ドットデータをCMYKRVのドットデータに変換する。色変換モジュール21bが色変換を行ってCMYKRVの階調データを生成すると、ステップS110にて同色変換モジュール21bによって上記ハーフトーン処理モジュール21cが起動され、当該CMYKRVの階調データが上記ハーフトーン処理モジュール21cに受け渡される。
【0184】
ハーフトーン処理モジュール21cは、各ドットのCMYKRV階調値を変換してインク滴の記録密度で表現するためのハーフトーン処理を行うモジュールであり、当該ハーフトーン処理モジュール21cは同ステップS110にて変換後の記録密度でインクを付着させるためのヘッド駆動データを生成する。印刷データ生成モジュール21dは、かかるヘッド駆動データを受け取って、ステップS115にてプリンタ40で使用される順番に並べ替える。すなわち、プリンタ40においてはインク吐出デバイスとして図示しない吐出ノズルアレイが搭載されており、当該ノズルアレイでは副走査方向に複数の吐出ノズルが並設されるため、副走査方向に数ドット分離れたデータが同時に使用される。
【0185】
そこで、印刷データ生成モジュール21dは主走査方向に並ぶデータのうち同時に使用されるべきものがプリンタ40にて同時にバッファリングされるように順番に並べ替えるラスタライズを行う。このラスタライズの後、画像の解像度などの所定の情報を付加して印刷データを生成し、印刷データ生成モジュール21dはステップS120にて上記パラレル通信用I/O19bを介してプリンタ40に出力する。プリンタ40においては当該印刷データに基づいて上記ディスプレイ18に表示された画像を印刷する。このプリンタ40においては、上述のようにCMYKRV階調値データに基づいてCMYKRVの各色インクを印刷媒体に付着させる。以上の処理を全ラスタについて実行する(ステップS125)。
【0186】
ここで、上述したLUT15bは、sRGBデータとCMYKRVデータとを対応させたテーブルであり、ステップS105においては、これらの参照点に基づいて補間演算を行うことによって任意のRGB階調値とCMYKRV階調値とを対応づけているが、補間演算の手法としては公知の種々の技術が適用可能である。例えば、線形補間演算やスプライン補間演算等を採用可能である。また、LUT15bに備えられた参照点を補間演算によってより多数の参照点に展開し、当該展開された参照点をRAM14にバッファリングするとともに当該RAM14内の参照点を参照してさらに補間演算を実行するように構成すること等も可能である。むろん、色変換テーブルを使用して色変換を行う構成の他、予め変換マトリックスを定義するプロファイル等の色変換を行っても良い。
【0187】
(4)画像の印刷:
次に、上記構成において画像を印刷する際の動作を第8図に示す動作概念図に基づいて説明する。同図において、ディスプレイ18の表示画面は、上述したAPL25の実行画面を示しており、APL25で画像データ15aを読み出すと当該画像データ15aがRAM14に格納され、ディスプレイDRV23の処理によって画像データ15aに基づく画像Aがディスプレイ18上に表示される。本実施形態C及びDによる効果は特に低彩度の略無彩色で顕著に現れることから、背景が暗く略無彩色を多く含む画像Aを例にして説明する。APL25においてはディスプレイ18に表示した画像Aに対して種々のレタッチ等を実行可能であるとともに当該画像Aの印刷実行指示を行うことが可能である。同図の実行画面はHDD15に格納されている画像データ15aを読み出して印刷実行指示を行う状態の画面であり、マウス32の操作によってファイルメニュー内の印刷タブを選択することによって印刷実行指示を行うことができる。
【0188】
画像Aに含まれる略無彩色は、可視光の全波長についての分光反射率が略一定であることが理想であるが、略無彩色における色味の変化は人間の目に視認されやすく、分光反射率に一定ではない波長領域が存在すると、光源が変化して特定の波長のエネルギーが強くなったときに反射光のエネルギー変化がより際だって特定の色味を帯びることがある(いわゆる、メタメリズム)。しかし、CMYインクの分光反射率の組み合わせを適宜調整すると、略無彩色の分光反射率が可視光の全波長に渡ってより一定、すなわち、略平坦に近づけることができるので、光源変化の影響を受けにくくなる。
【0189】
本実施形態においては、LUT15bによってsRGBデータをCMYKRVデータに変換し、プリンタ40にCMYKRVインクを充填したインクカートリッジ48a〜48fを搭載している。そして、CYインクの分光反射率の変化に対して、特有の性質を有する分光反射率を備える後述するMインクをインクカートリッジに搭載することによって、プリンタ40において印刷を行って得られた画像Bを光源C(室内灯),光源D(太陽光)のいずれの下で視認したとしても光源による色の変化が少なく、略無彩色に色味が生じることはない効果を奏するようにした。
【0190】
(5)光源依存性(メタメリズム)低減:
以下、本実施形態にかかる構成によって色の光源依存性が低減する仕組みを説明する。まず、人間の目における色の見え方を説明する。第9図は人間の目における色の見え方を説明する説明図である。人間の目は光の波長によって色の差異を識別するので、人間の目に入射する光の中にどの波長の光がどれぐらい含まれているかを規定すると共に、どの波長の光に対して人間の目がどのように反応するかを規定することによって色の見え方を規定することができる。
【0191】
印刷物から人間の目に入射する光の波長は光源に含まれる波長の分布すなわち光源の分光分布L(λ)と印刷物からの反射光に含まれる波長の分布すなわち印刷物の分光反射率R(λ)とに規定される。人間の目が光の波長にどのように反応するかは等色関数x(λ),y(λ),z(λ)で規定される。ここで、x(λ)は赤色成分の感度、y(λ)は緑色成分の感度、z(λ)は青色成分の感度を示している。尚各等色関数には通常その文字の上に「横線」を付してエックスバーなどと表現するが、本明細書では簡単のために「横線」を省略して示す。また、本実施形態におけるプリンタ40の様なインクジェットプリンタにおいて、分光反射率R(λ)は印刷用紙が露出する部分における印刷用紙の分光反射率とインクの分光反射率とを重畳(面積比を係数とした線形結合)して生成される。
これらの式において上記λは光の波長である。
【0192】
色の見え方は上記光源の分光分布L(λ)と分光反射率R(λ)と等色関数x(λ),y(λ),z(λ)とを乗じて波長で積分することによって三刺激値XYZとして計算される。すなわち、下記式(1)にて三刺激値XYZが計算される。
【0193】
【数1】

【0194】
人間の目において色の見え方はこの三刺激値XYZによって規定される。すなわち、三刺激値XYZの値の組み合わせによって色が一義的に決定する。この三刺激値を規定する要因のうち、上記等色関数x(λ),y(λ),z(λ)は人間の目の特性の平均値であって人為的に変更不可能であり、上記光源の分光分布L(λ)は光源の変化によって当然に変動する。光源依存性を低減する本実施形態C及びDは、この光源の分光分布L(λ)が変動したときの対策を行うものである。三刺激値を規定する要因のうち、上記分光反射率R(λ)の大部分はインクの分光反射率が担っているので、インクの量やインクの色数を変更することによって人為的に変更可能である。そこで、本実施形態C及びDはこの分光反射率R(λ)を好ましい分布にするために、CYインクの分光反射率の特性に対して、特有の性質を有するMインクを採用している。
【0195】
以下、かかるMインクを採用することによって光源依存性を低減する仕組みを説明する。本実施形態C及びDによる効果が最も顕著に現れる無彩色を例として説明する。第10図は、本実施形態において使用するCMYインク(Cインク:○にて連結される折れ線、Mインク:▲にて連結される折れ線、Yインク:△にて連結される折れ線)の分光反射率、および、このCMYインクを混合させることによって形成される無彩色Gray(◆にて連結される折れ線)の分光反射率を示している。同図において縦軸が分光反射率(%)であり、横軸が波長(nm)である。このCYインクの分光反射率は、従来のプリンタと同様の特性を備えるものである。同図に示すようにCインクの分光反射率は、波長400nmから波長の増大とともに上昇し、波長450nm〜500nm程度ではほぼ85%で推移し、波長500nm〜600nmで波長の増大とともに下降し、波長600nm〜700nmでは20%〜30%の間で推移する。
【0196】
Yインクの分光反射率は、波長450nm程度から波長の増大とともに急激に上昇し、波長500nm〜700nmではほぼ85%で推移する。ここで、Cインクの分光反射率とYインクの分光反射率とは、波長500nm〜550nmの中間より波長500nmの方向に偏った波長にて交わっている。そして、Mインクの分光反射率は、波長400nmから波長の増大とともに一旦上昇し、波長400nm〜450nmの中間にて増大するとともに下降し、波長550nm〜550nmにて下方に凸形状を形成し、波長550nmを超えた波長から増大するとともに上昇し、波長600nm以上ではほぼ80%にて推移する。これらのCMYインクにて略無彩色を作成する場合には、これらのCMYインクの総てを印刷用紙に吐出する。
【0197】
ここで、上述した本実施形態にかかるMインクの分光反射率の形状の特徴点を挙げる。
実施形態Cの特徴点:
(1)少なくともYインクの分光反射率と、Cインクの分光反射率とが交差する波長にて分光反射率が0.4以下となる特性を有する。
(2)少なくともCYインクの分光反射率が交差する波長から波長550nmの範囲にて分光反射率が0.4以下となる波長領域を形成する特性を有する。
実施形態Dの特徴点:
(1)CYインクの分光分布が交差する波長にて、同波長におけるCYインクの分光反射率より0.4以下となる分光反射率を形成する特性を有する。
(2)少なくともCYインクの分光反射率が交差する波長から波長550nmの範囲にて分光反射率がYインクの分光反射率より0.4以下となる分光反射率を形成する特性を有する。
【0198】
第10図のGrayは、このような分光反射率を形成するCMYインクの総てを印刷用紙に吐出した場合の重畳された分光反射率R(λ)を示している。無彩色の分光反射率R(λ)は全波長に渡って一定、すなわち、第10図のGrayが横軸に平行な直線に近い程理想的である。本実施形態においては、上述した分光反射率を備えるMインクを採用することによって、無彩色の分光反射率R(λ)の凹凸を減少させ、より略平坦に近づけることを可能にしている。
【0199】
ここで、本実施形態にて採用したCMYKRVインクのインク組成の一例(実施形態CとDの何れにも該当)を第11図に示す。同図において、Cインクは、色材として「CIピグメントブルー15:3」を使用し、0.5重量%のスチレン−アクリル酸共重合体と、15重量%のグリセリンと、5重量%のエチレングリコールと、2重量%の2−ピロリドンと、5重量%の1,2ヘキサンジオールと、0.5重量%のオルフェンE1010とを有する構成とし、残りの重量%をイオン交換水としている。色材量は1.5重量%である。Yインクは、色材として「CIピグメントイエロー74」を使用し、1重量%のスチレン−アクリル酸共重合体と、15重量%のグリセリンと、5重量%のエチレングリコールと、2重量%の2−ピロリドンと、5重量%の1,2ヘキサンジオールと、0.5重量%のオルフェンE1010とを有する構成とし、残りの重量%をイオン交換水としている。色材量は3重量%である。
【0200】
Kインクは、色材として「CIピグメントブラック7」を使用し、1.5重量%のスチレン−アクリル酸共重合体と、15重量%のグリセリンと、5重量%のエチレングリコールと、2重量%の2−ピロリドンと、5重量%の1,2ヘキサンジオールと、0.5重量%のオルフェンE1010とを有する構成とし、残りの重量%をイオン交換水としている。色材量は1.5重量%である。Rインクは、色材として「CIピグメントレッド178」を使用し、0.7重量%のスチレン−アクリル酸共重合体と、15重量%のグリセリンと、5重量%のエチレングリコールと、2重量%の2−ピロリドンと、5重量%の1,2ヘキサンジオールと、0.5重量%のオルフェンE1010とを有する構成とし、残りの重量%をイオン交換水としている。色材量は2重量%である。
【0201】
Vインクは、色材として「CIピグメントバイオレット23」を使用し、0.7重量%のスチレン−アクリル酸共重合体と、15重量%のグリセリンと、5重量%のエチレングリコールと、2重量%の2−ピロリドンと、5重量%の1,2ヘキサンジオールと、0.5重量%のオルフェンE1010とを有する構成とし、残りの重量%をイオン交換水としている。色材量は2重量%である。そして、本実施形態において採用したMインクは、色材として「CIピグメントバイオレット19」を使用し、0.7重量%のスチレン−アクリル酸共重合体と、15重量%のグリセリンと、5重量%のエチレングリコールと、2重量%の2−ピロリドンと、5重量%の1,2ヘキサンジオールと、0.5重量%のオルフェンE1010とを有する構成として、残りの重量%をイオン交換水としている。
【0202】
色材量は2重量%である。一方、従来は、色材が「CIピグメントレッド202」であり、0.5重量%のスチレン−アクリル酸共重合体と、15重量%のグリセリンと、5重量%のエチレングリコールと、2重量%の2−ピロリドンと、5重量%の1,2ヘキサンジオールと、0.5重量%のオルフェンE1010とを有する構成であり、残りの重量%をイオン交換水とするとともに、色材量を1.5重量%としたMインクを採用していた。
【0203】
本実施形態において採用して好適なMインクの他の組成を以下に提示する。
(1)少なくとも5%以上の多価アルコール系化合物と糖類から選ばれる1種または2種以上の高沸点化合物を含む組成。
(2)少なくとも1%以上のグリコールエーテル系化合物とアルキルジオール系化合物から選ばれる1種または2種以上の極性溶媒を含む組成。
(3)少なくとも0.1%以上のアセチレングリコール系化合物とアセチレンアルコール系化合物とポリシロキサン系化合物から選ばれる1種または2種以上の界面活性剤を含む組成。
(4)少なくとも5%以上の多価アルコール系化合物と糖類から選ばれる1種または2種以上の高沸点化合物を含み、かつ、少なくとも1%以上のグリコールエーテル系化合物とアルキルジオール系化合物から選ばれる1種または2種以上の極性溶媒を含み、かつ、少なくとも0.1%以上のアセチレングリコール系化合物とアセチレンアルコール系化合物とポリシロキサン系化合物から選ばれる1種または2種以上の界面活性剤を含む組成。
(5)少なくとも0.1%以上の樹脂を含む組成。
【0204】
ここで、本実施形態C及びDにかかるインクセットの色再現域を第12図および第13図に示す。
【0205】
図おいては、上方向がY方向であり、向かって左側方向がG方向であり、図向かって右側方向がR方向を示している。そして、点線で示した色再現域は、従来のCMYインクのインクセットによる色再現域を示し、一点破線で示した色再現域は、メタメリズムの低減に効果のあるYインクを用いたCMYインクのインクセットによる色再現域を示している。また、実線で示した色再現域が本実施形態C及びDにかかるCMYインクのインクセットによる色再現域を示している。このように、メタメリズムの低減に効果のあるYインクを用いたCMYインクのインクセットでは、G方向の色再現域が顕著に狭くなっている(Y方向に対しては広くなっているが、総合的には狭いと把握できる。)。
【0206】
一方、本実施形態C及びDにかかるCMYインクのインクセットでは、従来のCMYインクのインクセットと同様に、GY方向およびR方向に色再現域が広くなっている。
【0207】
このため、メタメリズムの低減に効果のあるYインクを使用したCMYインクのインクセットの色再現域と比較して総合的に広くなっていると把握できる。さらに、R方向においては、従来のCMYインクのインクセットより色再現域が広くなっている。すなわち、発明にかかるCMYインクのインクセットは、メタメリズムを低減できることに加え、従来のCMYインクのインクセットより色再現域を拡大することを可能にしている。このとき、特に、L*=70のような高明度では、GY方向の色再現域が広くなっていることが分かる。この高明度におけるGは、芝生や若葉の色を再現する場合に重要な色であり、本実施形態C及びDにかかるインクセットは、この重要な色を特に正確に色再現できるという点でも大変優れている。このように、本実施形態C及びDにかかるCMYインクのインクセット、特に新規な組成にて形成したMインクを採用することによって、略無彩色の光源依存性を低減することができるとともに、色再現域を拡大させることが可能になると言う有用な効果を得ることができる。
【0208】
ここで、本実施形態において、インクセットを着脱可能なプリンタ40を採用した場合、上述した従来の色再現域を備えるインクセットを装着して印刷を行う場合もあるし、本実施形態にかかる色再現域を備えるインクセットを装着して印刷を行う場合もある。かかる場合、プリンタ40に装着したインクセットの色再現域に応じて、色変換モジュール21bにて実行される色変換処理にて使用するLUT15bを変更することができると好ましい。
【0209】
従って、LUT15bとして、従来のインクセットをプリンタ40に装着した場合に色変換に使用して好ましいLUTと、本実施形態C及びDにかかるインクセットをプリンタ40に装着した場合に色変換に使用して好ましいLUTとを用意しておく。
【0210】
そして、かかる場合においては、プリンタ40とPRTDRV21との双方向通信にて送受信可能なステータスにインクセットの種別(色再現域の違いを認識可能な種別)を示すIDを組み込み、印刷に際して、PRTDRV21がこのステータスをプリンタ40側から取得して、色変換に使用するLUT15bを変更すれば良い。ここで、この手法を適用した場合に色変換モジュール21bにて実行される色変換処理の概略フローチャートを第14図に示す。
【0211】
同図において、プリンタ40との双方向通信によってステータスを取得し、プリンタ40に記憶されているインクセットのIDを取得する(ステップS205)。そして、このIDに基づいて、最適なLUTを選択し(ステップS210)、この選択したLUTを使用してsRGBデータからCMYKRVデータに色変換する(ステップS215)。これによって、インクセットが備える色再現の特性に適した色変換処理を行うことが可能となる。上述した実施形態では、2つのインクセットに基づいて色変換処理に使用するLUTを切り換える構成について説明したが、むろん、かかる構成に限定されるものではなく、2以上のインクセットについて、そのIDに基づいて適宜色変換処理に使用するLUTを切り換えるようにしても良いことは言うまでもない。
【0212】
(5)まとめ:
このように、Mインクの分光反射率特性を少なくともYインクの分光反射率と、Cインクの分光反射率とが交差する波長にて分光反射率が0.4以下となるように構成すること(実施形態C)、又は、少なくともYインクとCインクとの分光分布が交差する波長にて、同波長におけるYインクおよびCインクの分光反射率より0.4以下となるように構成すること(実施形態D)によって、可視波長領域全体において、Grayの分光反射率特性を略平坦にすることが可能となり、当該Grayの光源依存性(メタメリズム)を低減することが可能になる。
【0213】
(実施形態E)
本発明はまた、記録画像の階調性と粒状性抑制の両立したインクセットを提供でき、例えば、イエローインク(Y)、マゼンタインク(M)、淡マゼンタインク(Lm)、シアンインク(C)、淡シアンインク(Lc)、2種のブラックインク(K)(高濃度ブラックインク)、2種の淡ブラックインク(Lk)(中濃度ブラックインクと低濃度ブラックインク)からなるインクセット(以下、この発明を実施形態Eという。)を提供できる。
【0214】
本実施形態Eのインクセットの具体的な一実施例は、以下の通りである。
・Yインク;
C.I.ピグメントイエロー74 5.0重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 1.5重量%
グリセリン 16.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
トリエタノールアミン 0.9重量%
BKY348 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
・Mインク;
C.I.ピグメントヴァイオレット19 6.0重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 1.8重量%
グリセリン 10.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
トリエタノールアミン 0.9重量%
BKY348 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
・Lmインク;
C.I.ピグメントヴァイオレット19 1.0重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 0.3重量%
グリセリン 26.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
トリエタノールアミン 0.9重量%
BKY348 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
・Cインク;
C.I.ピグメントブルー15:3 4.0重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 1.2重量%
グリセリン 11.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
トリエタノールアミン 0.9重量%
BKY348 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
・Lcインク;
C.I.ピグメントブルー15:3 1.0重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 0.3重量%
グリセリン 24.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
トリエタノールアミン 0.9重量%
BKY348 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
・Kインク(MK:マットブラックインク);
カーボンブラック 6.0重量%
グリセリン 12.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
トリエタノールアミン 0.9重量%
BKY348 1.0重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
・Kインク(PK:フォトブラックインク);
カーボンブラック 1.5重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 1.5重量%
グリセリン 20.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
トリエタノールアミン 0.9重量%
BKY348 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
・Lkインク(中濃度ブラックインク);
カーボンブラック 0.76重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 0.76重量%
グリセリン 22.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
トリエタノールアミン 0.9重量%
BKY348 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
・Lkインク(低濃度ブラックインク);
カーボンブラック 0.24重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 0.24重量%
グリセリン 22.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
トリエタノールアミン 0.9重量%
BKY348 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
【0215】
このような実施形態Eのインクセットは、YMCインクに加えてレッドインク、ヴァイオレットインクなどの特色インクを備えるインクセットよりも、階調性及び粒状性抑制効果を更に向上させることができる。
【0216】
本実施形態Eのインクセットにおいては、高a*領域において、高彩度且つ優れた粒状性抑制効果を実現するだけでなく、メタメリズムを抑制する点で、マゼンタインクの色材として、C.I.ピグメントヴァイオレット19が好適に用いられる。
【0217】
また、本実施形態Eのインクセットにおいては、色材濃度の低いインク(淡インク)を含むことが好ましい。この淡インクの色材量(重量基準)は、濃インクの色材量に対して、0.12〜0.3が好ましく、0.16〜0.26がより好ましい。この割合にすることで、濃インクの色材濃度を3重量%以上8重量%以下としても、中間明度(L*60〜70近傍)における粒状性抑制効果を損なうことなく記録することができる。
【0218】
更に、高彩度部分の明度をコントロールして、粒状性とメタメリズムの抑制効果を両立させる場合には、本実施形態Eに係る前記実施例のように、色材濃度(顔料固形分)が1.5重量%未満の、分光反射率ピークを実質的に有さない淡ブラックインクを同時に用いることが好ましい。この淡ブラックインクは、その色材濃度が1重量%以下であることが好ましい。また、淡ブラックインクとしては、色材濃度0.5重量%以上1.0重量%未満の中濃度ブラックインクと、同0.5重量%未満の低濃度ブラックインクの2種類を用いることが更に好ましい。
【0219】
(変更実施形態)
本発明は、前述した各実施形態を好適に提供するものであるが、これらの実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
【0220】
〔実施例〕
以下に、本発明の実施例及び試験例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、斯かる実施例により何等制限されるものではない。
【0221】
〔実施例A〕
(インクセットの調製)
表1に示す実施例及び比較例の各インクセットに備えられる下記組成のイエローインク(Y1),(Y2)、マゼンタインク(M1),(M2)、シアンインク(C1)、淡マゼンタインク(Lm1),(Lm2)、淡シアンインク(Lc1)、インクA(A1)及びインクB(B1)を、それぞれ常法に従い調製した。即ち、色材成分を分散剤成分と共に分散させた後、他の成分を加えて混合し、一定以上の大きさの不溶成分を濾過して、インクを調製した。得られた各インクを組み合わせて、各実施例及び比較例のインクセットとした。
<イエローインク(Y1)>
C.I.ピグメントイエロー74 5.0重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 1.5重量%
グリセリン 15.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
トリエタノールアミン 0.5重量%
オルフィンE1010 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
<イエローインク(Y2)>
C.I.ピグメントイエロー74 3.0重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 0.9重量%
グリセリン 15.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
トリエタノールアミン 0.5重量%
オルフィンE1010 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
<マゼンタインク(M1)>
C.I.ピグメントヴァイオレット19 6.0重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 1.8重量%
グリセリン 15.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
トリエタノールアミン 0.5重量%
オルフィンE1010 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
<マゼンタインク(M2)>
C.I.ピグメントレッド202 6.0重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 1.8重量%
グリセリン 15.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
トリエタノールアミン 0.5重量%
オルフィンE1010 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
<シアンインク(C1)>
C.I.ピグメントブルー15:3 4.0重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 1.2重量%
グリセリン 15.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
トリエタノールアミン 0.5重量%
オルフィンE1010 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
<淡マゼンタインク(Lm1)>
C.I.ピグメントヴァイオレット19 2.0重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 0.6重量%
グリセリン 15.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
トリエタノールアミン 0.5重量%
オルフィンE1010 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
<淡マゼンタインク(Lm2)>
C.I.ピグメントレッド202 2.0重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 0.6重量%
グリセリン 15.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
トリエタノールアミン 0.5重量%
オルフィンE1010 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
<淡シアンインク(Lc1)>
C.I.ピグメントブルー15:3 1.5重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 0.5重量%
グリセリン 15.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
トリエタノールアミン 0.5重量%
オルフィンE1010 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
<インクA(A1)>
C.I.ピグメントレッド177 2.5重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 0.6重量%
グリセリン 15.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
トリエタノールアミン 0.5重量%
オルフィンE1010 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
<インクB(B1)>
C.I.ピグメントヴァイオレット23 2.0重量%
分散剤(スチレン−アクリル酸共重合体) 0.6重量%
グリセリン 15.0重量%
1,2−ヘキサンジオール 5.0重量%
トリエタノールアミン 0.5重量%
オルフィンE1010 0.5重量%
イオン交換水 残量
計 100.0重量%
【0222】
実施例及び比較例のインクセットに使用するインク及びそれらの各インクに使用する顔料種とその含有量(重量%)を表1に示す。
【0223】
【表1】

【0224】
(インクの重量1000倍希釈水溶液のL*値の測定)
実施例及び比較例の各インクセットに用いられる各色インクの重量1000倍希釈水溶液のCIEで規定のL*a*b*表示系におけるL*値を、日立製作所社製のU3300を用いて、次のように測定した。
【0225】
即ち、縦1cm×横1cm×高さ4cmの4mL容量のセキエイセルを二つ用意し、これをサンプル側のセルとリファレンス側のセルに分け、両セルに純水を加えて、ベースラインを測定し、設定しておいた。リファレンス側のセルをそのままにする一方、サンプル側のセルには、純水に替えてインクの重量1000倍希釈水溶液を入れた。インクの重量1000倍希釈水溶液は、実施例及び比較例の各インクセットにおける各インク1.00gを1Lビーカーに移し、直ちに純水を加えて、合計1000.00gにすることにより調製した。
【0226】
そして、サンプル側のセル及びレファレンス側のセルを測定部にセットし、光源ランプのスリット幅を2.0mmとし、測定間隔のスキャン・スピードを600nm/minとし、透過率が0.0〜100.0%T、380〜800nmの範囲内で、ホトマル電圧200V、光源ランプを340nm切り替えでD2ランプとWIランプとする条件下で紫外可視透過スペクトルを測定した。これにより算出した各インクの重量1000倍希釈水溶液のL*値を下記に示す。また、インク(A)及び(B)については、同様にしてa*値、b*値を算出し、その値も下記に示す。
【0227】
L*値(Y1);88、(M1);63、(C1);65、(Lm1);81、(Lc1);80、(Y2);91、(A1);68、(B1);49、(M2);58、(Lm2);80
a*値(A1);52、(B1);67
b*値(A1);−2、(B1);−66
【0228】
このように、インクの重量1000倍希釈水溶液のCIEで規定のL*a*b*表示系におけるL*値を設定することによって、選択された顔料種に応じて顔料含有量が決定される。
【0229】
(マゼンタインク及び淡マゼンタインクに係る前記Y値・Z値)
実施例及び比較例の各インクセットに用いられるマゼンタインクの、紫外可視透過スペクトルから算出されるCIEで規定のXYZ表示系におけるY値が55になるように、純水で希釈して、顔料固形分濃度0.01重量%以下の希釈水溶液を調製した。
【0230】
実際には、顔料含有量0.0010重量%、0.0015重量%、0.0020重量%、0.0025重量%、0.0030重量%の希釈溶液を調製した。具体的に、Lm1の場合の調製方法を記すと、Lm1を0.5g、0.75g、1.00g、1.25g、1.50gを1リットルビーカーにそれぞれ入れ、直ちに1000.00gにすることにより調製した。Lm2の場合も同様にして調製した。また、具体的に、M1の場合の調製方法を記すと、M1を0.167g、0.250g、0.333g、0.417g、0.500gを1リットルビーカーにそれぞれ入れ、直ちに1000.00gにすることにより調製した。M2の場合も同様にして調製した。
【0231】
これらの各水溶液を、日立製作所製のU3300を用いて、次のように測定した。即ち、縦1cm×横1cm×高さ4cmの4ml容量の石英セルを二つ用意し、これをサンプル側とリファレンス側のセルに分け、両セルに純水を加えて、この両セルを測定部にセットし、ベースラインを測定し、ベースラインとして設定した。測定条件は、光源ランプのスリット幅を2mmとし、測定間隔のスキャンスピードを600nm/minとし、透過率が0.0〜100.0%T、380〜800nmの範囲内でホトマル電圧200V、光源ランプを340nm切り替えでD2ランプとWIランプとして、紫外可視透過スペクトルを測定した。
【0232】
次に、リファレンス側のセルをそのままにする一方、サンプル側のセルには、純水に替えて上記した、各水溶液を入れ、紫外可視透過スペクトルをそれぞれ測定し、CIEで規定のXYZ表示系における、Y値とZ値を、D65光源、視野角2度の条件で算出した。
【0233】
これらの値を、横軸にY値、縦軸にZ値をとったグラフにプロットし、曲線で結び、曲線Lm1、曲線Lm2、曲線M1、曲線M2、を得た。この曲線から、Y値が55のときのZ値を決定し、次ぎに示す。
(M1);Z値:77 (Lm1);Z値:77
(M2);Z値:84 (Lm2);Z値:84
このように、インクのY値が55のときのZ値を設定することによって、それに応じた顔料種が決定される。
【0234】
(粒状性の評価)
実施例及び比較例に使用している各インクを下記するように選択し、インクジェットプリンタPM900C(セイコーエプソン社製)で、解像度720×720と解像度720×360の両方の場合について、表2〜4に示すインク重量表2、3及び4に従い、塗工層を有するメディアの一例である、PM写真用紙に印刷し、記録物を得た。この記録物を、目視によって下記の基準に従い評価した(粒状性(I))。
【0235】
また、同様にして、解像度720×720と解像度720×360の両方の場合について、ISO規定のISO/JIS−SCIDのN1Aポートレートの画像を、PM写真用紙に印刷し、記録物を得た。この記録物の肌色部分を、目視によって以下のように判定した(粒状性(II))。
(インク組合せの名称)
実施例1からの選択 → M1、C1及びY1(実施例1)
実施例2からの選択 → Lm1、Lc1及びY1(実施例2−1)
実施例3からの選択 → Lm1、Lc1及びY2(実施例3−1)
Lm1、Lc1及びB1(実施例3−2)
Lm1、Y2及びA1(実施例3−3)
比較例1からの選択 → M2、C1及びY1(比較例1)
比較例2からの選択 → Lm2、Lc1及びY1(比較例2−1)
比較例3からの選択 → Lm2、Lc1及びY2(比較例3−1)
Lm2、Lc1及びB1(比較例3−2)
Lm2、Y2及びA1(比較例3−3)
【0236】
【表2】

【0237】
【表3】

【0238】
【表4】

【0239】
〈粒状性(I)の評価基準〉
A;解像度720×360dpiの記録物は、解像度720×720dpiの記録物と比較して粒状性の劣化がない。
B;解像度720×360dpiの記録物は、解像度720×720dpiの記録物と比較して粒状性の多少の劣化がある。
C;解像度720×360dpiの記録物は、解像度720×720dpiの記録物と比較して粒状性の著しい劣化がある。
〈粒状性(I)の評価結果〉
(実施例)1;C、2−1;A、3−1;A、3−2;B、3−3;B
(比較例)1;C、2−1;B、3−1;B、3−2;C、3―3;C
【0240】
上記評価結果に示すように、淡インクを使用しない場合で、M1を使用すると評価Bであるが、M2を使用すると評価Cであった。インクA、インクBを使用しない場合は、使用したときよりも、粒状性の劣化は少なかった。また、Lm1を使用した場合は、Lm2を使用した場合よりも、粒状性の劣化は少なかった。これは、塗工層を有するメディアの一例である、PM写真用紙に、2.5mg/inch2印刷した場合のL*が(グレタグ社製グレタグマクベスSPM50を用いて、視野角2度で、同一部分をD50光源で測定)、Lm1は75であり、Lm2は70であることに起因していると思われる。
【0241】
〈粒状性(II)の評価基準〉
A;解像度720×360dpiの記録物は、解像度720×720dpiの記録物と比較して肌色部分の粒状性の劣化がない。
B;解像度720×360dpiの記録物は、解像度720×720dpiの記録物と比較して肌色部分の粒状性の多少の劣化がある。
C;解像度720×360dpiの記録物は、解像度720×720dpiの記録物と比較して肌色部分の粒状性の著しい劣化がある。
〈粒状性(II)の評価結果〉
(実施例)1;B、2−1;A、3−1;A、3−2;B、3−3;B
(比較例)1;C、2−1;B、3−1;B、3−2;C、3―3;C
【0242】
このように、最もメタメリズムや粒状性が問われる、肌色の部分において、M1やLm1を使用した場合は、M2やLm2を使用した場合よりも、粒状性の劣化が少なかった。
【0243】
(メタメリズムの評価)
実施例及び比較例に使用している、各インクを下記するように選択し、インクジェットプリンタPM900Cにより、解像度720×720で、表5に示すインク重量表5に従い、塗工層を有するメディアの一例である、PM写真用紙に印刷し、記録物を得た。得られた記録物を、グレタグ社製グレタグマクベスSPM50を用いて、視野角2度で、同一部分をD50光源とA光源で測定し、CIEで規定するL*a*b*を得た。次に、同一部分のΔL*、Δa*、Δb*を下記式により求めた。この各値から、ΔE*を下記式により求め、以下の様に判定した。
ΔL*=A光源の場合のL*―D50光源の場合のL*
Δa*=A光源の場合のa*―D50光源の場合のa*
Δb*=A光源の場合のb*―D50光源の場合のb*
ΔE*=(ΔL*2+Δa*2+Δb*21/2
(インク組合せの名称)
実施例1からの選択 → M1、C1及びY1(実施例1)
実施例2からの選択 → Lm1、Lc1及びY1(実施例2−1)
実施例3からの選択 → Lm1、Lc1及びY2(実施例3−1)
比較例1からの選択 → M2、C1及びY1(比較例1)
比較例2からの選択 → Lm2、Lc1及びY1(比較例2−1)
比較例3からの選択 → Lm2、Lc1及びY2(比較例3−4)
【0244】
【表5】

【0245】
〈メタメリズムの判定基準〉
A・・・・・ΔE*が、7.0以下である。
B・・・・・ΔE*が、7.0より大きく、8.0以下である。
C・・・・・ΔE*が、8.0より大きく、10.0以下である。
D・・・・・ΔE*が、10.0より大きい。
〈メタメリズムの評価結果〉
上記判定基準によるメタメリズムの評価結果を表6に示す。
【0246】
【表6】

【0247】
上記評価結果に示す様に、M1を使用した場合の方が、M2を使用した場合よりも、メタメリズムは良好であった。これは、A光源とD50光源の350〜500nmの相対強度差がZ値の強度分布に一致する為と思われる。また、Lm1を使用した場合の方が、Lm2を使用した場合よりも、メタメリズムは良好であった。淡インクの方が、濃インクよりもΔE*が大きいのは、塗工層を有するメディアの一例である、PM写真用紙上での発色
が低い為に、記録物の分光反射スペクトルの起伏が激しくなる為と思われる。
【0248】
(色再現性の評価)
色再現性の評価は、ガマット体積の大きさ及び低明度高彩度色画像の再現を判定することにより行った。
【0249】
〈ガマット体積〉
実施例及び比較例の各インクセットをインクジェットプリンタPM900Cにより、解像度720×720で、塗工層を有するメディアの一例として、PM写真用紙に印刷し、各記録物を得た。この際、単色のDuty100%を13mg/inch2とし、混合色のDutyを120%、16mg/inch2とした。これらの各Dutyを最高Dutyとし、各単色インクのDutyが0%〜100%の範囲内で、Dutyを3%毎に変化させ、且つ、各インクの総組合せを行うことによって、各インクセットで再現可能な色を全て印刷し、各記録物を得た。
【0250】
この各記録物の各色を、グレタグ社製グレタグマクベスSPM50を用いて、視野角2度、D50光源で測定し、CIEで規定する、L*a*b*を得た。
【0251】
このようにして得られた値から、CIEで規定する、L*a*b*値が全て1であるときをガマット体積1として、ガマット体積(=色再現性)を求めた。この値から、以下の様に判定した。
【0252】
〈ガマット体積の判定基準〉
A・・・・・ガマット体積が、730.000より大きい。
B・・・・・ガマット体積が、700.000より大きく730.000以下。
C・・・・・ガマット体積が、680.000より大きく700.000以下。
D・・・・・ガマット体積が、680.000以下。
【0253】
〈低明度かつ高彩度な色の評価〉
また、実施例及び比較例に使用している、各インクを下記するように選択し、インクジェットプリンタPM900Cにより、解像度720×720で前記表5に示すインク重量表5に従い、塗工層を有するメディアの一例である、PM写真用紙に印刷し、記録物を得た。
(インク組合せの名称)
実施例1からの選択 → M1、C1及びY1(実施例1)
実施例2からの選択 → M1、C1及びY2(実施例2−2)
実施例3からの選択 → Lm1、Lc1及びY2(実施例3−1)
比較例1からの選択 → M2、C1及びY1(比較例1)
比較例2からの選択 → M2、C1及びY1(比較例2−2)
比較例3からの選択 → Lm2、Lc1及びY2(比較例3−4)
【0254】
得られた記録物を、グレタグ社製グレタグマクベスSPM50を用いて、視野角2度、D50光源で測定し、CIEで規定するL*a*b*を得た。この値から、C*を下記式から求め、横軸にC*、縦軸にL*をとったグラフにプロットした。得られたグラフの一例として、濃マゼンタインク(M1及びM2)によるグラフを図1に示し、淡マゼンタインク(Lm1及びLm2)によるグラフを図2に示す。また、濃淡両マゼンタインクによるグラフを併せたものを図3に示す。これらのグラフから、以下の様に判定した。
式C*=(a*2+b*21/2
【0255】
〈低明度かつ高彩度な色の判定基準〉
A…彩度95且つ明度55近傍の色を、ブラックインクを使用せずに発色できる。
B…彩度95且つ明度55近傍の色を、ブラックインクを使用せずに発色できない。
【0256】
〈色再現性の評価結果〉
ガマット体積及び低明度高彩度色の評価結果を表7に示す。
【0257】
【表7】

【0258】
〈総合評価結果〉
以上の評価結果をまとめるとともに、実施例1〜3及び比較例1〜3のインクセットとしての評価も併せて、総合評価結果として表8に示す。尚、粒状性については、前記の粒状性(I)と(II)の結果から、総合的に評価した結果である。
【0259】
【表8】

【0260】
上記評価結果に示すように、M1、Lm1を使用することで、低明度且つ高彩度な色を再現できるようになり、ガマット体積も増加した。この様に、各実施例のインクセットを用いて、これに備えられている各インクの使用方法を制御する等により、本発明の効果を享受することができる。
【0261】
以上の結果から明らかなように、本発明のインクセットによれば、YMCインク以外の特色インクを使用しなくても、記録画像の色再現性に優れ、ドット表現による粒状性が目立つことなく、メタメリズムを低減することができることが判る。
【0262】
〔実施例B〕
(インクの調整)
表9に示す各インクを備えたインクセットを用意した。各インクセットに使用したインクの組成は表10に示した。
【0263】
なお、以下において、BYK−348はビッグケミー・ジャパン(株)製のポリシロキサン系界面活性剤である。
【0264】
【表9】

【0265】
【表10】

【0266】
上記のそれぞれにおいて、顔料と分散剤と純水とを混合し、サンドミル(安川製作所製)中でガラスビーズとともに2時間分散させた後に、ガラスビーズ(直径1.7mm、混合物の1.5倍量(重量))を取り除き、各顔料分散液を調製した。
【0267】
また樹脂エマルジョン1は、以下のようにして調製した。
(1)ガラス製反応容器にジオキサン100gを入れ、これに無水硫酸11.8gを内温を25℃に保ちながら添加し、2時間攪拌して、無水硫酸−ジオキサン錯体を得た。
(2)次に、スチレン/イソプレン/スチレン3元ブロック共重合体(10/80/10重量比、Mw=100000)100gのTHF溶液(濃度=15%)中に上記(1)で得られた錯体全量を、内温を25℃に保ちながら添加し、さらに2時間攪拌を続けた。
(3)水1200g、水酸化ナトリウム7.1g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1gをフラスコに入れ、内温を40℃に保った。この中に、(2)の溶液全量を40℃に内温を保ちつつ1時間で滴下した。滴下後、40℃で2時間攪拌した後、減圧蒸留により、水を残しつつ溶剤を除去し、濃度15%のスルホン化ポリマーエマルジョンCを得た。固形分中のスルホン酸含量は1.2mmo1/gであった。
【0268】
樹脂エマルジョン2は、変性ポリプロピレンワックスのノニオン系水性エマルジョン;AQUACER593(ビッグケミー・ジャパン社商品名)の30%aqである。
さらに樹脂エマルジョン3は、以下のようにして調製した。
エチルアクリレート55部、メチルアクリレート37部、メタクリル酸6部、分子量調整剤としてチオグリコール酸オクチル3部、ポリビニルアルコール2.5部及びイオン交換水を280部を攪拌混合して、単量体混合物の分散物を調整した。
次に、攪拌機付き反応器にイオン交換水130部と過硫酸カリウム2部を仕込み、80℃に昇温し、上記単量体混合物の分散物を4時間かけて連続添加して重合させた。連続添加終了後、80℃で30分間反応を行った。
次いで、仕込みのメタクリル酸と当モルの水酸化ナトリウムに相当する量の10%水酸化ナトリウム水溶液を反応器に添加し、さらに80℃で1時間熱処理した後に、適量のイオン交換水を加えて固形分濃度15%の樹脂を得た。該樹脂の酸価は40mgKOH/g、pHは9.2であった。得られたアルカリ可溶性エマルジョン中の該樹脂について、Mwは11000、ガラス転移温度(JIS K6900に従い測定)は25℃、平均粒子径は50nm以下、最低造膜温度は15℃、濁度は(日本電色工業社製WATER−ANALYZER2000にてセル幅10mmで測定)が30g/L以下であった。
【0269】
顔料及び分散剤を除く溶剤、及び上記で作成した樹脂エマルジョンを混合してインク溶媒を作製し、前記の調製した各顔料分散液をそれぞれ添加し、常温で20分攪拌した。5μmのメンブランフィルターで濾過し、各インクを得、インクセットA〜Hを得た。
【0270】
(1)粒状性評価
各インクセットを用い、インクジェットプリンタPM−4000PX(商品名、セイコーエプソン社製)を使用して、インクジェット専用記録紙(セイコーエプソン社製、PM写真用紙)に対して解像度720×720と解像度720×360の両方にて画像印字を行い記録物を得た。なお、本機は7色までしか印刷できないため、7色を越えるインクセットについては2度に分けて印刷を行った。この記録物を、目視によって以下の様に判定した。
【0271】
<判定基準>
A 解像度720×360の記録物は、解像度720×720の記録物と比較して粒状性の著しい劣化がない。
B 解像度720×360の記録物は、解像度720×720の記録物と比較して粒状性の劣化がある。
C 解像度720×360の記録物は、解像度720×720の記録物と比較して粒状性の著しい劣化がある。
【0272】
(2)メタメリズムの評価
各インクセットを用い、インクジェットプリンタPM−4000PX(商品名、セイコーエプソン社製)を使用して、インクジェット専用記録紙(セイコーエプソン社製、PM写真用紙)に対して解像度720×720にて画像印字を行い記録物を得た。なお、本機は7色までしか印刷できないため、7色を越えるインクセットについては2度に分けて印刷を行った。得られた記録物を、グレタグ社製グレタグマクベスSPM50を用いて、視野角2度で、同一部分をD50光源とF11光源で測定し、CIEで規定するL*a*b*を得た。次ぎに、同一部分のΔL*、Δa*、Δb*を下記式により求めた。この各値から、ΔE*を下記式により求め、以下の様に判定した。
ΔL*=F11光源の場合のL*―D50光源の場合のL*
Δa*=F11光源の場合のa*―D50光源の場合のa*
Δb*=F11光源の場合のb*―D50光源の場合のb*
ΔE*=(ΔL*2+Δa*2+Δb*21/2<判定基準>
AΔE*が、4.0以下である。
BΔE*が、4.0より大きく、5.0以下である。
CΔE*が、5.0より大きく、6.0以下である。
DΔE*が、7.0より大きい。
【0273】
(3)色再現性の評価
実施例及び比較例の各インクセットをインクジェットプリンタPM−4000PX(商品名、セイコーエプソン社製)を使用して、インクジェット専用記録紙(セイコーエプソン社製、MC写真用紙)に対して解像度720×720にて画像印字を行い記録物を得た。なお、本機は7色までしか印刷できないため、7色を越えるインクセットについては2度に分けて印刷を行った。この際、単色のDuty100%を13mg/inch2とし、混合色のDutyを120%、16mg/inch2とした。これらの各Dutyを最高Dutyとし、各単色インクのDutyが0%〜100%の範囲内で、Dutyを3%毎に変化させ、且つ、各インクの総組み合わせを行うことによって、各インクセットで再現可能な色を全て印刷し、各記録物を得た。
【0274】
この各記録物の各色を、グレタグ社製グレタグマクベスSPM50を用いて、視野角2度、D50光源で測定し、CIEで規定する、L*a*b*を得た。
このようにして得られた値から、CIEで規定する、L*a*b*値が全て1であるときをガマット体積1として、ガマット体積(=色再現性)を求めた。この値から、以下の様に判定した。
【0275】
<判定基準>
A ガマット体積が、680.000より大きい。
B ガマット体積が、650.000以上、680.000以下
C ガマット体積が、650.000より小さい。
【0276】
(4) グレーバランスの安定性(色ばらつき評価)
各インクセットを用い、インクジェットプリンタPM−4000PX(商品名、セイコーエプソン社製)を使用して、インクジェット専用記録紙(セイコーエプソン社製、PM写真用紙)に対して解像度1440×720にて印刷を行い記録物を得た。なお、本機は7色までしか印刷できないため、7色を越えるインクセットについては2度に分けて印刷を行った。印刷パターンは、各出力色を適宜調整し、グレーの無彩色パターンを絶対白(データ0)から絶対黒(データ255)までのグラデーションパッチを10段階に区切って出力した。
【0277】
インクセットC、Dでは、特にインク12は出力濃度の低いところから(パッチ1)、中段濃度(パッチ5)まで最大で40%Dutyまで、さらにインク11についてはパッチ4から高濃度のパッチ10まで最大で40%Dutyまで出力させた。インクセットG,Hでは、この限りになく、適宜出力色を制御した。
【0278】
さらに各インクにおいて、インク重量を10%ずつ変化させて、それぞれ同様のグレー無彩色パターンを10段階のパッチで出力した。(変動時の印刷)出力した各パッチを、グレタグ社製グレタグマクベスSPM50を用いて、CIEで規定されている色差表示法のL*a*b*を表色系で、基準の印刷、変動時の印刷について測色した。測色条件は、光源D50、光源フィルタなしで白色基準は絶対白とし、視野角は2度とした。
基準の印刷と変動時の印刷の色差ΔEを算出し、以下の基準で評価した。
A 全てのパッチにおいて三角形Eが二以下
B 3個以内のパッチにおいてΔEが2を越えるが、他のパッチは2以下
C 6個以内のパッチにおいてΔEが2を越えるが、他のパッチは2以下
D 7個以上のパッチにおいてΔEが2を越える
【0279】
上記評価基準にて評価した結果を表11に示す。
【0280】
【表11】

【0281】
表11に示すように、マゼンタ、淡マゼンタの顔料種にPR−122を用いたインクセットE,F(比較例)では、粒状性、メタメリズム、色再現性で評価結果がよくないのに対し、マゼンタ、淡マゼンタの顔料種にPV−19を用いたインクセットA,B(実施例)では、いずれの評価においても優れていることが分かる。さらに淡マゼンタ、淡シアンインクを備えるインクセットBではさらに改善され良好な結果だった。
【0282】
また、ブラックインクを1種または2種を備えるインクセットG,H,I(比較例)では、色ばらつきが見られたのに対して、顔料濃度の異なる3種のブラックインクを備えるインクセットC,D(実施例)では、色ばらつきも小さく優れていることがわかる。
【0283】
以上説明したように、本発明によれば、モノクロもカラーも高品質で出力でき、記録画像の色再現性に優れ、ドット表現による粒状性が目立つこともなく、メタメリズムを低減することができ、さらに温度などの外部環境に左右されずにいつでも同じように出力を行える。
【産業上の利用可能性】
【0284】
本発明は、優れた色再現性とメタメリズム低減とを実現したインクセット、記録方法、記録装置、記録システム及び記録物として、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0285】
10…コンピュータ 11,41…CPU 12…システムバス 13,42…ROM 14,43…RAM 15…HDD 15a…画像データ 15b…LUT 16…フレキシブルディスクドライブ 17…CD−ROMドライブ 18…ディスプレイ 20…OS 21…PRTDRV 21a…画像データ取得モジュール 21b…色変換モジュール 21c…ハーフトーン処理モジュール21d…印刷データ生成モジュール 22…入力機器DRV 23…ディスプレイDRV 25…アプリケーションプログラム 31…キーボード 32…マウス 40…プリンタ 44…ASIC 45…コントロールIC 47a…キャリッジ機構 47b…紙送り機構 48a〜48f…インクカートリッジ 49…ヘッド駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材濃度0.01重量%以下のインク希釈水溶液の紫外可視透過スペクトルから算出される、CIEで規定のXYZ表示系におけるY値が55である場合に、同Z値が83以下であり、且つ重量1000倍希釈水溶液のCIEで規定のL*a*b*表示系におけるL*値が70以下であるマゼンタインク(M)と、重量1000倍希釈水溶液のCIEで規定のL*a*b*表示系におけるL*値が95以下のイエローインク(Y)と、重量1000倍希釈水溶液のCIEで規定のL*a*b*表示系におけるL*値が70以下のシアンインク(C)と、を備えるインクセット。
【請求項2】
前記各インクが顔料を含み、該顔料の含有量が各インク中に3重量%以上10重量%以下である、請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記各インクが顔料を含み、前記マゼンタインクの顔料がC.I.ピグメントヴァイオレット19であり、前記イエローインクの顔料がC.I.ピグメントイエロー74であり、前記シアンインクの顔料がC.I.ピグメントブルー15:3である、請求項1又は2に記載のインクセット。
【請求項4】
更に、重量1000倍希釈水溶液のCIEで規定のL*a*b*表示系におけるL*値が70を超える淡マゼンタインク(Lm)、及び重量1000倍希釈水溶液のCIEで規定のL*a*b*表示系におけるL*値が70を超える淡シアンインク(Lc)を備える、請求項1〜3の何れかに記載のインクセット。
【請求項5】
前記淡マゼンタインク(Lm)は、その色材濃度0.01重量%以下のインク希釈水溶液の紫外可視透過スペクトルから算出される、CIEで規定のXYZ表示系におけるY値が55である場合に、同Z値が83以下である、請求項4に記載のインクセット。
【請求項6】
前記淡マゼンタインク及び前記淡シアンインクが、それぞれ顔料を3重量%未満で含む、請求項4又は5に記載のインクセット。
【請求項7】
更に、重量1000倍希釈水溶液のCIEで規定のL*a*b*表示系におけるL*値が50〜80、a*値が35〜85、b*値が−5〜55の範囲内あるインク(A)、及び重量1000倍希釈水溶液のCIEで規定のL*a*b*表示系におけるL*値が20〜60、a*値が50〜90、b*値が−90〜―50の範囲内にあるインク(B)を備える、請求項1〜6の何れかに記載のインクセット。
【請求項8】
前記各インクが、色材としての顔料とともに、該顔料を分散するための分散剤を該顔料に対して10〜140重量%含む、請求項1〜7の何れかに記載のインクセット。
【請求項9】
前記各インクが、高沸点有機溶媒を0.1〜30重量%含む、請求項1〜8の何れかに記載のインクセット。
【請求項10】
前記各インクが、浸透促進剤を1〜20重量%含む、請求項1〜9の何れかに記載のインクセット。
【請求項11】
前記各インクが、アセチレングリコール系化合物及び/又はシリコーン系化合物を0.1〜5重量%含む、請求項1〜10の何れかに記載のインクセット。
【請求項12】
色材として顔料を含む複数のインクからなるインクセットにおいて、該複数のインクが、少なくともイエローインク(Y)、マゼンタインク(M)及びシアンインク(C)であり、且つ該イエローインク中の顔料がC.I.ピグメントイエロー74であり、該マゼンタインク中の顔料がC.I.ピグメントヴァイオレット19であり、該シアンインク中の顔料がC.I.ピグメントブルー15:3である、インクセット。
【請求項13】
前記イエローインク中に含まれる顔料含有量が4〜7重量%であり、前記マゼンタインク中に含まれる顔料含有量が4〜7重量%であり、前記シアンインク中に含まれる顔料含有量が3〜6重量%である、請求項12に記載のインクセット。
【請求項14】
更に、前記マゼンタインク及びシアンインクと同種の顔料を含み且つ色濃度の異なる淡マゼンタインク(Lm)及び淡シアンインク(Lc)を有し、該淡マゼンタインク中の顔料がC.I.ピグメントヴァイオレット19であり、該淡シアンインク中の顔料がC.I.ピグメントブルー15:3である、請求項12又は13に記載のインクセット。
【請求項15】
前記淡マゼンタインク中に含まれる顔料含有量が0.5〜2重量%であり、前記淡シアンインク中に含まれる顔料含有量が0.5〜2重量%である、請求項14に記載のインクセット。
【請求項16】
更に、顔料濃度の異なる3種以上のブラックインクを含む、請求項12〜15の何れかに記載のインクセット。
【請求項17】
前記ブラックインク中の顔料がカーボンブラックである、請求項16に記載のインクセット。
【請求項18】
前記顔料濃度の異なる3種以上のブラックインクが、顔料濃度1.5重量%以上の高濃度ブラックインク、0.4重量%以上1.5重量%未満の中濃度ブラックインク、及び0.01重量%以上0.4重量%未満の低濃度ブラックインクである、請求項16又は17に記載のインクセット。
【請求項19】
インクジェトプリンタにて使用され、少なくともマゼンタインクとイエローインクとシアンインクとを備えるインクセットであって、
前記マゼンタインクは、
少なくとも前記イエローインクの分光反射率と前記シアンインクの分光反射率とが交差する波長にて分光反射率が0.4以下となる特性を有するインクセット。
【請求項20】
前記マゼンタインクは、少なくとも前記交差する波長から波長550nmの範囲にて分光反射率が0.4以下となる波長領域を形成する特性を有する、請求項19に記載のインクセット。
【請求項21】
インクジェトプリンタにて使用され、少なくともマゼンタインクとイエローインクとシアンインクとを備えるインクセットであって、
前記マゼンタインクは、
前記イエローインクと前記シアンインクとの分光分布が交差する波長にて、同波長におけるイエローインクおよびシアンインクの分光反射率より0.4以下となる分光反射率を形成する特性を有する、インクセット。
【請求項22】
前記マゼンタインクは、少なくとも前記交差する波長から波長550nmの範囲にて分光反射率が前記イエローインクの分光反射率より0.4以下となる分光反射率を形成する特性を有する、請求項21に記載のインクセット。
【請求項23】
請求項1〜22の何れかに記載のインクセットを用いて画像を形成する記録方法。
【請求項24】
請求項1〜22の何れかに記載のインクセットにおけるマゼンタインクとイエローインクとシアンインクとにより混色部分を形成するインクジェット記録方法。
【請求項25】
請求項23又は24に記載の記録方法を実現するための記録装置。
【請求項26】
請求項1〜22の何れかに記載のインクセットを備えたインクジェット記録装置。
【請求項27】
請求項1〜22の何れかに記載のインクセットを用いて画像を形成する記録システム。
【請求項28】
請求項1〜22の何れかに記載のインクセットを用いて画像が形成されてなる記録物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2009−102661(P2009−102661A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28640(P2009−28640)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【分割の表示】特願2005−501856(P2005−501856)の分割
【原出願日】平成15年11月4日(2003.11.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】