説明

インクセット、記録装置、及び該インクセットを用いた記録物

【課題】本発明は、種々の記録媒体(普通紙、マット紙、光沢紙、印刷本紙など)に対して優れた発色性を有し、又光沢を有する記録媒体に対して優れた光沢感を得ることが可能であると同時に、廃液系の詰まりによるシステムメンテナンス不良が生じにくい、特にインクジェット記録方式に用いるのに好適な顔料インクセットを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、イエローインク組成物、濃マゼンタインク組成物、濃シアンインク組成物、淡マゼンタインク組成物及び淡シアンインク組成物を少なくとも含むインクセットであって、それぞれのインク組成物が顔料を含み、前記イエロー、前記濃マゼンタ、前記濃シアン、前記淡マゼンタ、前記淡シアンインク組成物を等量ずつ含む混合液において、前記顔料100重量部に対して25重量部〜60重量部のトリアルカノールアミンが含まれる、インクセットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の記録媒体(普通紙、マット紙、光沢紙、印刷本紙など)に対して優れた発色性を有し、又光沢を有する記録媒体に対して優れた光沢感を得ることが可能であると同時に、廃液詰まりを緩和できるインクセット等に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、インクの小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて印刷を行う印刷方法である。近年のインクジェット記録技術の革新的な進歩により、これまで写真やオフセット印刷の分野であった高精細な画像記録(印刷)にもインクジェット記録方法が用いられるようになってきており、一般に用いられる普通紙やインクジェット記録用の専用紙(マット系、光沢系)に対してのみならず、印刷本紙等の記録媒体にも高品質な記録が求められてきている。
【0003】
近年では、より一層の高画質を得るために、相互に同一色でありながら色の濃度の異なる濃淡インクを備えたインクセットが開発されている。例えば、濃インクとしてシアン、マゼンタ、イエローの各インク組成物を備え、淡インクとしてライトシアン、ライトマゼンタの各インク組成物を備えたものがある。
【0004】
この濃淡インクを備えたインクセットを用い、記録媒体の単位面積当りに着弾する着色剤の量を変化させて記録することにより、インクドットによる粒状感が低減し、銀塩写真に匹敵する高画質のカラー画像の出力が可能となる。
【0005】
インクジェット記録に用いられるインクとしては、一般に着色剤となる色材と水と水溶性有機化合物、界面活性剤等を含むインク組成物が知られている。色材としては、染料あるいは顔料が用いられ、特にカラーインクは色の彩度の高さ、透明性、水への溶解性が高い等の理由から染料が使用される場合が多い。しかし、染料は一般的に耐光性や耐ガス性の点が不十分であり、また、水溶性であることから、耐水性にも問題があるため、染料を用いたインクにより記録された記録物は、記録画像の保存性に劣る傾向がある。これに対して、顔料はこうした耐光性、耐ガス性、耐水性に優れた色材であるため、この色材特性を活かした顔料インクの開発が進められてきており、例えば、顔料を界面活性剤や高分子分散剤で分散した水性顔料インクや、顔料表面に水分散可能な官能基を付与させた自己分散顔料を用いた水性顔料インク、顔料を水分散可能な樹脂で被覆した着色微粒子を用いた水性顔料インクなどが提案されている。
【0006】
このような顔料インクは、インクジェットプリンタに用いる際にインクカートリッジの交換や目詰まりによるクリーニングなどのシステムメンテナンスによって、プリンタ内部あるいは専用の廃液部に廃棄される。インクは、時間とともに水分や揮発性の溶剤類が蒸発することによる粘度の上昇に伴って安定分散系が崩れ、顔料の凝集が起こりやすくなる。特に、2種類以上の異なる色のインク組成物で構成される顔料インクセットの場合、廃液系(廃棄されるインクが通るヘッドキャップ、ポンプ、経路のチューブなど)でこれらのインクが混合されるため、異なる色が混じりあうことにより分散安定性が変化し、単色の場合より水分や揮発性溶剤の蒸発に伴う増粘や凝集が激しい。そのため、廃液系の経路において詰まりを発生し、システムメンテナンス機能が不具合を起こしやすいというという問題があった。
【0007】
このような不具合をなくすために、廃液系では水分蒸発率が小さくなるような材料で部品を構成したり、ポンプの吸引能力を上げたり、未使用時にも定期的にインクを排出して乾燥を抑制するなどの方策がとられていた。しかしながら、これらの方法はプリンタの製造コストやインクのランニングコストが高くなるという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、種々の記録媒体(普通紙、マット紙、光沢紙、印刷本紙など)に対して優れた発色性を有し、又光沢を有する記録媒体に対して優れた光沢感を得ることが可能であると同時に、廃液系の詰まりによるシステムメンテナンス不良が生じにくい、インクジェット記録方式に用いるのに好適な顔料インクセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑みて、本発明者が検討を重ねた結果、イエローインク組成物、濃マゼンタインク組成物、濃シアンインク組成物、淡マゼンタインク組成物及び淡シアンインク組成物を少なくとも含むインクセットにおいて、イエロー、濃マゼンタ、濃シアン、淡マゼンタ、淡シアンインク組成物の少なくとも一つにトリアルカノールアミンを添加し、これら各色のインク組成物を等量ずつ混合したときに、当該混合液におけるトリアルカノールアミンの含量を全顔料に対して所定の範囲とすることによって、種々の記録媒体(普通紙、マット紙、光沢紙、印刷本紙など)に対して優れた発色性を有し、又光沢を有する記録媒体に対して優れた光沢感を得ることが可能であると同時に、廃液系の詰まりを抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち本発明は、
〔1〕イエローインク組成物、濃マゼンタインク組成物、濃シアンインク組成物、淡マゼンタインク組成物及び淡シアンインク組成物を少なくとも含むインクセットであって、それぞれのインク組成物が顔料を含み、前記イエロー、濃マゼンタ、濃シアン、淡マゼンタ及び淡シアンインク組成物を等量ずつ混合したとき、当該混合液に前記顔料100重量部に対して25重量部〜60重量部のトリアルカノールアミンが含まれる、インクセット。
【0011】
〔2〕前記トリアルカノールアミンの含有量が、前記イエロー、濃マゼンタ、濃シアン、淡マゼンタ及び淡シアンインク組成物の合計量に対して0.1重量%〜5重量%である、上記〔1〕に記載のインクセット。
【0012】
〔3〕前記淡マゼンタ及び淡シアンインク組成物に含まれるトリアルカノールアミンの含有量が、前記イエロー、濃マゼンタ、濃シアンインク組成物に含まれるトリアルカノールアミンの含有量の2倍以上である上記〔1〕又は〔2〕に記載のインクセット。
【0013】
〔4〕前記トリアルカノールアミンが、トリエタノールアミン及び/又はトリプロパノールアミンである、上記〔1〕〜〔3〕に記載のインクセット。
【0014】
〔5〕前記顔料は、それぞれの前記インク組成物において、同一又は類似の水不溶性ビニルポリマーに含有されている、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載のインクセット。
【0015】
〔6〕前記水不溶性ビニルポリマーが、(1)下記の式1、式2、式3及び式4で表されるモノマーからなる群より選ばれた1種以上のモノマーAと、(2)塩生成基含有モノマーと、(3)前記モノマーA及び前記塩生成基含有モノマーと共重合可能なモノマーと、を重合させてなる、上記〔5〕のいずれか1項に記載のインクセット。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

【0019】
【化4】

【0020】
〔7〕前記(3)の共重合可能なモノマーが、(メタ)アクリル酸エステル類、芳香環含有モノマー及びマクロマーからなる群より選ばれた少なくとも1種以上である、上記〔6〕に記載のインクセット。
【0021】
〔8〕前記芳香環含有モノマーが、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン及びビニルナフタレンからなる群より選ばれた1種以上である、上記〔7〕に記載のインクセット。
【0022】
〔9〕前記マクロマーが、片方の末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマーである、上記〔7〕又は〔8〕に記載のインクセット。
【0023】
〔10〕前記水不溶性ビニルポリマーの重量平均分子量が3000〜300000である、上記〔5〕〜〔9〕のいずれか1項に記載のインクセット。
【0024】
〔11〕前記顔料の添加量が、それぞれのインク組成物に対して0.5重量%〜15重量%である、上記〔1〕〜〔10〕のいずれか1項に記載のインクセット。
【0025】
〔12〕前記イエローインク組成物が顔料としてC.I.ピグメントイエロー74を含み、濃マゼンタインク組成物及び淡マゼンタインク組成物が顔料としてC.I.ピグメントバイオレット19を含み、濃シアンインク組成物及び淡シアンインク組成物が顔料としてC.I.ピグメントブルー15:4を含む、上記〔1〕〜〔11〕のいずれか1項に記載のインクセット。
【0026】
〔13〕さらに、前記のそれぞれのインク組成物が、下記の式5と式6で表される化合物を少なくとも含む、上記〔1〕〜〔12〕のいずれか1項に記載のインクセット。
【0027】
【化5】

【0028】
【化6】

【0029】
〔14〕さらに、前記のそれぞれのインク組成物が、グリコール系ブチルエーテル及び/又は1,2−アルカンジオールを含む、上記〔1〕〜〔13〕のいずれか1項に記載のインクセット。
【0030】
〔15〕インクを記録媒体に付着させて印刷を行う記録方法に用いられる、上記〔1〕〜〔14〕のいずれか1項に記載のインクセット。
【0031】
〔16〕インクジェット記録方法に用いられる、上記〔1〕〜〔15〕のいずれか1項に記載のインクセット。
【0032】
〔17〕上記〔1〕〜〔16〕のいずれか1項に記載のインクセットを搭載した記録装置。
【0033】
〔18〕上記〔1〕〜〔16〕のいずれか1項に記載のインクセットを用いて、インクジェット記録方法により記録が行われた記録物、に関する。
【0034】
本発明に係るインクセットは、種々の記録媒体(普通紙、マット紙、光沢紙、印刷本紙など)に対して優れた発色性を有し、又光沢を有する記録媒体に対して優れた光沢感を得ることが可能であると同時に、異なる色のインク組成物の混和性がよく、廃液においても分散安定性を維持することができ、廃液系の経路において詰まりが生じにくい。従って、システムメンテナンス機能も不具合をおこしにくく、インクジェット記録方式に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に本発明に係るインクセットについて、その好ましい実施態様に基づき説明する。
【0036】
本発明のインクセットは、既述の通り、少なくともイエローインク組成物、濃マゼンタインク組成物、濃シアンインク組成物、淡マゼンタインク組成物及び淡シアンインク組成物を含み、各インク組成物が顔料を含む。当該インクセットのうち、イエローインク組成物、濃マゼンタインク組成物、濃シアンインク組成物、淡マゼンタインク組成物、及び淡シアンインク組成物を等量ずつ混合すると、当該混合液は、顔料100重量部に対してトリアルカノールアミンが25重量部〜60重量部の範囲で含まれている。
【0037】
トリアルカノールアミンは、イエロー、濃マゼンタ、濃シアン、淡マゼンタ及び淡シアンインク組成物のうち少なくとも一種に含まれていればよく、5種類のインク組成物を等量ずつ含む混合液としたときに、当該混合液中で、顔料100重量部に対して25重量部〜60重量部の範囲となればよい。
【0038】
又、淡マゼンタ及び淡シアンインク組成物に含まれるトリアルカノールアミンの含有量が、前記イエロー、濃マゼンタ、濃シアンインク組成物に含まれるトリアルカノールアミンの含有量の2倍以上であれば、イエロー、濃マゼンタ、濃シアンインクの普通紙発色を損なうことなく、光沢を有する記録媒体に対して優れた光沢感を得ることが出来る。
【0039】
本発明に係るインクセットは、このような構成により、異なる色のインク組成物の混和性が向上するので、廃液タンク等において異なる色のインク組成物が混合されても分散安定性が維持され、廃液系経路に詰まりをおこしにくい。記録装置においても、廃液には、各色のインク組成物がほぼ等量ずつ含まれるので、上記5種類のインク組成物を等量ずつ混合した混合液におけるトリアルカノールアミン量を所定の範囲としておくことによって、廃液系で詰まりを抑制する効果を好適に得ることが可能である。
【0040】
上記5種類のインク組成物を等量ずつ含む混合液におけるトリアルカノールアミン含量は、顔料100重量部に対して25重量部〜60重量部、好ましくは、25重量部〜55重量部、さらに好ましくは30重量部〜50重量部である。
【0041】
また、トリアルカノールアミンの含量は、廃液系の詰まりを抑制する効果に加え、プリンタに用いる部材への侵食、インク粘度及び光沢等を考慮すると、上記5色のインク組成物の合計量を基準とした場合、0.1重量%〜5重量%であることが好ましく、0.1重量%〜3重量%がより好ましい。
【0042】
本発明に用いられるトリアルカノールアミンは特に限定されないが、廃液系の詰まりを抑制する効果に加え、印字安定性及び光沢性等を考慮すると、トリエタノールアミン及び/又はトリプロパノールアミンであることが好ましい。
【0043】
また、本発明のインクセットは、顔料が、それぞれのインク組成物において同一又は類似の水不溶性ビニルポリマーに含有されていることが好ましい。このような構成により、記録媒体の種類によらず、発色性、光沢性、定着性、メタメリズム(光源依存性)に優れた印刷品質を実現することができる。特に、光沢を有する記録媒体に対して均一な光沢性を形成した画像を得ることができる。
【0044】
本発明に用いられる水不溶性ビニルポリマーとしては、(1)下記の式1、式2、式3及び式4で表されるモノマーからなる群より選ばれた1種以上のモノマーA、(2)塩生成基含有モノマー、及び(3)前記モノマーA及び前記塩生成基含有モノマーと共重合可能なモノマーを含有するモノマー組成物を重合させて得られるものが、発色性、光沢性及び定着性を向上できる点で好ましい。
【0045】
【化7】

【0046】
【化8】

【0047】
【化9】

【0048】
【化10】

【0049】
モノマー組成物における含有量の割合は、(1)モノマーAが5重量%〜45重量%、(2)塩生成基含有モノマーが3重量%〜40重量%、及び(3)共重合可能なモノマーが0重量%〜87重量%であることが好ましい。
【0050】
水不溶性ビニルポリマーの重量平均分子量は、印字濃度と印字安定性に優れる点から、好ましくは3000〜300000、より好ましくは5000〜200000である。
【0051】
水不溶性ビニルポリマーに式1のモノマーが用いられている場合、印刷画像の光沢に優れたインクを得ることができるという利点がある。また、水不溶性ビニルポリマーに式2のモノマーが用いられている場合、吐出性に優れたインクを得ることができる。また、水不溶性ビニルポリマーに、式2、式3又は式4のモノマーが用いられている場合、優れた分散安定性を着色剤に付与できる。
【0052】
式1〜4において、R1は水素原子又はメチル基である。R2は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜9のアルキルフェニル基である。これらの中では、オクチル基及びノニルフェニル基が耐水性及び耐擦過性の観点から好ましい。
【0053】
mは1〜30の数である。吐出性及び印字濃度の観点から、mは2〜25の数が好ましい。nは1〜30の数である。吐出性及び印字濃度の観点から、nは2〜25の数が好ましい。式3のモノマーにおいて、オキシエチレン基及びオキシプロピレン基は、ブロック付加又はランダム付加している。式4のモノマーにおいて、オキシプロピレン基及びオキシテトラメチレン基は、ブロック付加又はランダム付加している。
【0054】
式1のモノマーの代表例としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0055】
式2のモノマーの具体例としては、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0056】
式3のモノマーの具体例としては、エチレングリコール・プロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0057】
式4のモノマーの具体例としては、プロピレングリコール・テトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコール・ポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール・ブチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0058】
モノマーAの中では、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エチレングリコール・プロピレングリコール(メタ)アクリレート及びポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレートは、インク粘度及び吐出性の観点から好ましい。
【0059】
商業的に入手しうるモノマーAの具体例としては、新中村化学(株)製のNKエステルM−20G、40G、90G、230G、日本油脂(株)のブレンマーPEシリーズ、PME−100、200、400、1000、PP−1000、PP−500、PP−800、AP−150、AP−400、AP−550、AP−800、50PEP−300、70PEP−350B、AEPシリーズ、30PPT−800、50PPT−800、70PPT−800、APTシリーズ、10PPB−500B、10APB−500B、50POEP−800B、50AOEP−800B、ASEPシリーズ、PNEPシリーズ、PNPEシリーズ、43ANEP−500、70ANEP−550等が挙げられる。
【0060】
(2)の塩生成基含有モノマーとしては、アニオン性モノマー及びカチオン性モノマーが好ましい。アニオン性モノマー及びカチオン性モノマーは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0061】
アニオン性モノマーとしては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー及び不飽和リン酸モノマーからなる群より選ばれた1種以上が挙げられる。
【0062】
不飽和カルボン酸モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0063】
不飽和スルホン酸モノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリル酸エステル、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0064】
不飽和リン酸モノマーとしては、例えば、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0065】
アニオン性モノマーの中では、インク粘度及び吐出性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0066】
カチオン性モノマーとしては、不飽和3級アミン含有ビニルモノマー及び不飽和アンモニウム塩含有ビニルモノマーからなる群より選ばれた1種以上が挙げられる。
【0067】
不飽和3級アミン含有モノマーとしては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアリールアミン、ビニルピロリドン、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−メチル−6−ビニルピリジン、5−エチル−2−ビニルピリジン等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0068】
不飽和アンモニウム塩含有モノマーとしては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級化物、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級化物、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート四級化物等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0069】
カチオン性モノマーの中では、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド及びビニルピロリドンが好ましい。
【0070】
(3)の共重合可能なモノマーは、(メタ)アクリル酸エステル類、芳香環含有モノマー及びマクロマーからなる群より選ばれた少なくとも1種であることが、耐水性及び耐擦過性の点で好ましい。
【0071】
(メタ)アクリル酸エステル類としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等のエステル部分が炭素数1〜18のアルキル基である(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられ、これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0072】
尚、前記(イソ又はターシャリー)及び(イソ)は、これらの基が存在している場合とそうでない場合の双方を意味し、これらの基が存在していない場合には、ノルマルを示す。
【0073】
芳香環含有モノマーは、耐水性の観点から、スチレン、ビニルナフタレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、4−ビニルビフェニル、1,1−ジフェニルエチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−アクリロイロキシエチルフタル酸及びネオペンチルグリコールアクリル酸安息香酸エステルからなる群より選ばれた1種以上が好ましい。これらの中ではスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン及びビニルナフタレンからなる群より選ばれた1種以上が、耐水性及び耐擦過性の観点からより好ましい。
【0074】
マクロマーの代表例としては、片方の末端に重合性官能基を有し、数平均分子量が好ましくは500〜500000、より好ましくは1000〜10000であるマクロマーが挙げられる。
【0075】
マクロマーの具体例としては、片方の末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマー、片方の末端に重合性官能基を有するシリコーン系マクロマー、片方の末端に重合性官能基を有するメチルメタクリレート系マクロマー、片方の末端に重合性官能基を有するスチレン・アクリロニトリル系マクロマー、片方の末端に重合性官能基を有するブチルアクリレート系マクロマー、片方の末端に重合性官能基を有するイソブチルメタクリレート系マクロマー等が挙げられる。これらの中では、水不溶性ビニルポリマーに着色剤を十分に含有させる観点から、片方の末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマーが好ましい。
【0076】
片方の末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマーとしては、片方の末端に重合性官能基を有するスチレン単独重合体及び片方の末端に重合性官能基を有する、スチレンと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0077】
片方の末端に重合性官能基を有する、スチレンと他のモノマーとの共重合体において、他のモノマーとしては、アクリロニトリル等が挙げられる。また、そのスチレンの含有量は、顔料が十分にビニルポリマーに含有されるようにする観点から、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。
【0078】
片方の末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマーの中では、片方の末端に重合性官能基としてアクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有するスチレン系マクロマーが好ましい。
【0079】
商業的に入手しうるスチレン系マクロマーとしては、例えば、東亜合成(株)製のAS−6,AS−6S,AN−6,AN−6S,HS−6S,HS−6等が挙げられる。
【0080】
尚、マクロマーの数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミン含有クロロホルムを用いたゲルクロマトグラフィーにより、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
【0081】
また、水不溶性ビニルポリマーにおける芳香環含有モノマーの含有量は、耐水性、耐擦過性、インク粘度及び吐出安定性の観点から、好ましくは0.1重量%〜70重量%、より好ましくは1重量%〜50重量%である。
【0082】
水不溶性ビニルポリマーにおけるマクロマーの含有量は、耐水性及び耐擦過性の観点から、好ましくは0.1重量%〜40重量%、より好ましくは1重量%〜30重量%である。
【0083】
本発明のインクセットに含まれる各インク組成物に用いられる顔料としては、従来からインクジェット用のインク組成物に使用されている有機顔料及び無機顔料のいずれであってもよい。また、必要に応じて、それらに体質顔料を併用することもできる。具体的には、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料、ニトロ顔料、ニトロソ顔料等が挙げられる。
【0084】
イエローインク組成物は、その着色剤としてイエロー顔料が使用され、該イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー74、93、109、110、128、138、150、151、154、155、180、185等が挙げられる。中でも、C.I.ピグメントイエロー74、110が好ましい。
【0085】
濃マゼンタインク組成物及び淡マゼンタインク組成物は、その着色剤としてマゼンタ顔料が使用され、該マゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド122、202、209及びC.I.ピグメントバイオレット19等が好ましく用いられ、特に、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントバイオレット19が好ましい。
【0086】
濃シアンインク組成物及び淡シアンインク組成物は、その着色剤としてシアン顔料が使用され、該シアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、16及び60等が好ましく用いられ、特に、C.I.ピグメントブルー15:3及び15:4が好ましい。
【0087】
これらのシアン顔料、マゼンタ顔料及びイエロー顔料は、それぞれ一種単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0088】
特に好ましい態様としては、イエローインク組成物が顔料としてC.I.ピグメントイエロー74を含み、濃マゼンタインク組成物及び淡マゼンタインク組成物が顔料としてC.I.ピグメントバイオレット19を含み、濃シアンインク組成物及び淡シアンインク組成物が顔料としてC.I.ピグメントブルー15:4を含むことが、発色性とカラー画像のメタメリズムを抑制できる点から好ましい。
本発明において用いられる、顔料を含有した同一又は類似の水不溶性ビニルポリマーは、ポリマー粒子を形成する。かかるポリマー粒子は、該ポリマー粒子の分散液としてインク組成物に配合されることが好ましい。顔料を包含したポリマー粒子分散液は、具体的には、特開2001−247810号公報に記載の方法によって調製することができ、例えば、以下の工程、すなわち、
(1)水溶性有機溶媒に溶解したポリマー溶液と、顔料と、必要により中和剤とを混合して、溶剤分散液を調製する工程
(2)この分散液を水相に展開して水性の懸濁液を調製する転送乳化工程
(3)溶剤分散液調整時に添加してある水溶性有機溶媒を蒸留して除き、顔料をポリマー粒子で包含する工程、により好ましく調製することができる。
【0089】
中和剤は、適宜決定することができるが、アルカリとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどの三級アミン類、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどがあげられる。また、酸としては、塩酸、硫酸などの無機塩基、酢酸、プロピオン酸、乳酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、グリセリン酸などの有機酸が利用可能である。
【0090】
有機溶媒としては、水溶性有機溶媒が好ましく、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類などが挙げられる。
【0091】
また、顔料をポリマーで包含する工程は分散機を利用出来、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテーターミル、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ジェットミル、オングミルなどの分散機を用いて分散する。より好ましくは、分散メディアの破砕片等が混入しにくい高圧ホモジナイザーが挙げられる。
【0092】
このようにして得られたポリマー粒子の粒径は、好ましくは25nm〜250nm程度であり、より好ましくは下限が30nm程度であり、上限が175nm程度である。
【0093】
これらの顔料と、それを包含するポリマーの重量比は、5:95〜95:5が好ましく、10:90〜90:10がより好ましい。顔料の添加量は、ポリマーに包含された形態で、かつ顔料のみの重量基準で、好ましくは、インク組成物全量に対して、0.5重量%以上15重量%以下であり、より好ましい上限値は10重量%であり、より好ましい下限値は1重量%である。
【0094】
本発明のインクセットにおけるそれぞれのインク組成物は、下記の式5と式6で表される化合物を少なくとも含むことが、発色性及び印字安定性の点で好ましい。
【0095】
【化11】

【0096】
【化12】

【0097】
式5の化合物としては、オルフィンSTG(商品名、日信化学社製)、サーフィノール104(商品名、Air Products and Chemicals Inc.製)等の市販品を用いることができる。式6の化合物としては、サーフィノール400シリーズ(商品名、Air Products and Chemicals Inc.製)、オルフィンE1010(商品名、日信化学社製)等の市販品を用いることができる。式5と式6の化合物の総含有量は、インク組成物に対して、0.03重量%〜5重量%であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%〜3重量%である。
【0098】
また、それぞれのインク組成物は、グリコール系ブチルエーテルを含むことが、優れた印刷品質を形成できる点で好ましい。グリコール系ブチルエーテルとしては、例えばグリコールモノ−n−ブチルエーテルが特に好ましいものとして挙げられる。このようなグリコールモノ−n−ブチルエーテルとしては、例えば、エチレングルコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、又はジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテルから選ばれるものが好ましいものとして挙げられる。これらは二種以上を併用しても良い。グリコール系ブチルエーテルは、インク組成物に対して、0.05重量%〜15重量%であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%〜10重量%である。
【0099】
本発明のインクセットにおけるそれぞれのインク組成物は、1,2−アルカンジオールをさらに含むことが好ましい。このような1,2−アルカンジオールとしては、その炭素数が4〜10の1,2−アルカンジオールからなる群より選択されるものが好ましい。この場合、1,2−アルカンジオールは混合して添加してもよい。
【0100】
本発明の好ましい態様において、1,2−アルカンジオールは、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、及びそれらの混合物からなる群より選択される。これらは、記録媒体への浸透性に優れている点でより好ましい。
【0101】
本発明のより好ましい態様においては、前記1,2−アルカンジオールは、1,2−ヘキサンジオール、又は1,2−ペンタンジオールであるのが好ましく、さらに好ましくは、1,2−ヘキサンジオールである。
【0102】
1,2−アルカンジオールの添加量は、好ましくは、インク組成物の全量に対して、0.25重量%以上15重量%以下であり、より好ましい上限値は10重量%であり、より好ましい下限値は0.5重量%である。
【0103】
本発明のインクセットにおけるそれぞれのインク組成物は、主溶媒として水を含む。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。また、紫外線照射、又は過酸化水素添加などにより滅菌した水を用いることにより、インク組成物を長期保存する場合にカビ又はバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
【0104】
本発明の好ましい態様によれば、それぞれのインク組成物は、インクジェット記録ヘッドのノズルの目詰まりをより効果的に防止するために、さらにポリオール類を含むことが好ましい。このようなポリオール類としては、水溶性のあるポリオール類が好ましく、その例としてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1、3−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1、4−ブタンジオール、1、3−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、グリセリン、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール、チオジグリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0105】
また、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ε−カプロラクタム等のラクラム類、尿素、チオ尿素、エチレン尿素、1,3−ジメチルイミダゾリジノン類等の尿素類を用いることもできる。さらに、単糖類、二糖類、オリゴ糖類及び多糖類として、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール、(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオースなどを添加することもできる。さらにこれらの糖類の誘導体も用いることができ、例えば、前記した糖類の還元糖、酸化糖、アミノ酸、チオ糖などが挙げられる。このうち特に糖アルコールが好ましく、具体例としてはマルチトール、ソルビットなどが挙げられる。また、市販品である、HS−500、HS−300等(林原生物化学研究所製)を入手して使用してもよい。これらは、二種以上を混合して使用してもよい。
【0106】
これらの目詰まり防止成分の添加量は、好ましくは、インク組成物の全量に対して、5重量%以上40重量%以下であり、より好ましい上限値は30重量%であり、より好ましい下限値は10重量%である。
【0107】
また、これらの成分は、他のインク添加剤と合わせてインク粘度が25℃で8cPs以下になる添加量で加えることが好ましい。
【0108】
本発明のインクセットにおけるそれぞれのインク組成物は、その諸特性を改善するために、その他の任意成分、例えば、防腐剤、防かび剤、トリアルカノールアミン以外のpH調整剤(好ましくはインク組成物のpHが8〜11に調整される程度の量)、酸化防止剤、導電率調整剤、表面張力調整剤、又は酸素吸収剤などをさらに含むことができる。
【0109】
本発明のインクセットにおけるそれぞれのインク組成物は、上記した成分を、分散/混合機(例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、バスケットミル、ロールミル等)に供給し、分散させることにより調製されてよい。本発明の好ましい態様によれば、上記した分散/混合機により得られたインク原液をメンブランフィルターやメッシュフィルター等のフィルターを用いて濾過し、粗大粒子を除去することが好ましい。
【0110】
また、インクセットを構成するすべてのインク組成物を等量ずつ含む混合液において、前記顔料100重量部に対してトリアルカノールが25重量部〜60重量部含まれるようにするためには、すべてのインク組成物を所定の量で混合した場合に含まれる顔料の重量を求め、インクセットに添加すべきトリアルカノールの総重量を求めてから、一種類のインク組成物に求めた総重量分のトリアルカノールを添加するか、二種類以上のインク組成物に合計で求めた総重量となるようにトリアルカノールを添加すればよい。どのインク組成物にどのような量のトリアルカノールアミンを添加するかは、当業者であれば適宜選択することができる。
【0111】
本発明によるインクセットは、インク組成物を用いた記録方式に用いられる。インク組成物を用いた記録方式とは、例えば、インクジェット記録方式、ペン等による筆記具による記録方式、その他各種の印刷方式が挙げられる。本発明によるインクセットは、インク組成物を記録媒体に付着させて印刷を行う記録方法に用いられ、好ましくはインクジェット記録方法に用いられる。
【0112】
本発明の別の態様によれば、インク組成物の液滴を吐出し該液滴を記録媒体に付着させて印刷を行うインクジェット記録方法であって、インク組成物として、互いに組み合わせることにより無彩色を印刷可能な少なくともイエロー、濃マゼンタ、濃シアン、淡マゼンタ及び淡シアンインク組成物を用いる。本発明の好ましい態様によれば、このようなインクセットとして、上記した本発明によるインクセットを用いる。このようなインクジェット記録方法により、光沢紙に印刷した場合に生ずることがある光沢ムラ(不均一な光沢性)やメタメリズムの発生を防止することが出来る。
【0113】
また、本発明によれば、前述したインクセットを用いて、インクジェット記録方法により記録が行われた記録物を提供することができる。かかる記録物は、発色性、光沢性、定着性、メタメリズム(光源依存性)に優れた印刷品質を有する。
【実施例1】
【0114】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何等制限されるものではない。
【0115】
〔1〕水不溶性ビニルポリマーの調製
(1)モノマー組成物
以下の組成のモノマーを用意した。
ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(n=9) 15重量%
〔商品名=ブレンマー PP−500:日本油脂(株)製〕
ポリエチレングリコールモノメタクリレート(n=23) 10重量%
〔商品名=NK エステル M−230G:新中村化学(株)製〕
メタクリル酸 14重量%
スチレンモノマー 36重量%
スチレンマクロマー 15重量%
〔スチレン−アクロニトリル共重合マクロマー;スチレン含量=75重量%;数平均分子量=6,000;重合性官能基=メタクリロイル基;商品名=AN−6;東亞合成(株)製〕
n−ブチルメタクリレート 10重量%
【0116】
(2)ポリマーの調製
反応容器に、メチルエチルケトン20重量部、重合連鎖移動剤(2−メルカプタンエタノール)0.03重量部、及び上記のモノマーの全量の10重量%を充填し、混合した。その後、容器を窒素ガス置換した。一方、滴下装置に上記モノマー組成の残り90重量%を充填した。
【0117】
重合連鎖移動剤(2−メルカプタンエタノール)0.27重量%、メチルエチルケトン60重量%、及び2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)を次いで滴下装置に加え、混合した。その後、滴下装置を窒素ガス置換した。
【0118】
反応容器内の混合物の温度を、窒素雰囲気下、撹拌しながら65℃まで上げ、滴下装置内の混合物を反応容器に3時間かけて滴下した。65℃下での滴下終了後2時間経過した後に2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.3重量%をメチルエチルケトン5重量%に溶解した溶液を加えた。混合物を65℃で2時間、更に70℃で2時間熟成させ、ポリマー溶液を得た。
【0119】
上記のようにして得たポリマー溶液の一部を、減圧留去して溶媒を除いて乾燥させて単離し、本発明に係る水不溶性ポリマー(以下、「ポリマー(I)」という。)として以下の分散液の調製に用いた。
【0120】
ポリマー(I)の重量平均分子量を、ポリスチレンを標準物質とし、濃度1mmL/Lのドデシルジメチルアミンを含むクロロホルムを溶媒としたゲルパーシエーションクロマトグラフィーにより決定した。その結果、重量平均分子量は、70,000であった。
【0121】
〔2〕顔料分散液の調製
(1)イエロー分散液の調製
イエロー顔料を含有するポリマー粒子分散液を以下の通りに製造した。すなわち、上記〔1〕(2)で製造したポリマー(I)をメチルエチルケトンに溶解して50%溶液とし、この溶液50重量部、C.I.ピグメントイエロー74 75重量部、0.05%の水酸化カリウム300重量部、及びメチルエチルケトン60重量部を混合し、ホモジナイザーで30分間撹拌した。その後、イオン交換水300重量部を添加して、更に2時間撹拌した。ロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンの全量と水の一部を留去した後、0.3μmのメンブレンフィルターでろ過して、固形分が20重量%のイエロー分散液を得た。
【0122】
(2)マゼンタ分散液の調製
顔料としてC.I.ピグメントバイオレット19 80重量部を用い、ポリマー(I)のメチルエチルケントン50%溶液を40重量部とすること以外は、イエロー分散液と同様に処理して、マゼンタ分散液を得た。
【0123】
(3)シアン分散液の調製
顔料としてC.I.ピグメントブルー15:4 50重量部を用い、ポリマー(I)のメチルエチルケントン50%溶液を100重量部とすること以外は、イエロー分散液と同様に処理して、シアン分散液を得た。
【0124】
〔3〕カラーインク組成物の調製
下記の表1に示した組成となるように、〔2〕で得たイエロー分散液、マゼンタ分散液、又はシアン分散液と、溶剤類及び超純水とを混合して、2時間攪拌した。続いて、孔経約1.2μmのメンブランフィルタ(商品名)(日本ミリポア・リミテッド製)を用いて濾過して、カラーインクを調製した。表1中、各組成物の添加量は重量%である。
【0125】
【表1】

【0126】
サーフィノール465は、アセチレングリコール系の界面活性剤で、AIR PRODUCTS社の製品である。オルフィンE1010はアセチレンアルコール系の界面活性剤で、日信化学工業社の製品である。
【0127】
〔4〕インクセットの調製
前項〔3〕で得たイエロー、濃マゼンタ、濃シアン、淡マゼンタ及び淡シアンインクを、以下の表2の通りに組み合わせて、インクセットとした。尚、ブラックインクとしては、物性評価例に使用するプリンタ(PM−G700)の標準ブラックインクを使用した。
【0128】
【表2】

【0129】
表2のインクセットにしたがって各インクをインクジェットプリンタ〔PM−G700(商品名):セイコーエプソン株式会社製〕用のインクカートリッジに充填した。その後各カートリッジをインクジェットプリンタPM−G700に装着して、以下の評価を行った。
【0130】
(試験1)光沢性試験
インクセットA1〜A5について、前記プリンタを用いて、写真用紙<光沢>(商品名:セイコーエプソン株式会社製)に、濃インクのみで印刷した各イエロー、マゼンタ、シアン色の100%DUTYパターンと、同様に淡インクのみで印刷した40%DUTYパターンを印刷した。25℃で24時間放置後、光沢度計GM−268(コニカミノルタ社製)を用いて20度鏡面光沢度(Gs20)を測定して、各イエロー、マゼンタ、シアン色の平均値を求め、下記の基準に基づき判定した。
A:Gs20の平均値が70以上
B:Gs20の平均値が40以上70未満
C:Gs20の平均値が40未満
【0131】
(試験2)普通紙発色性試験
インクセットA1〜A5について、前記プリンタを用いて、Xerox−4024(商品名:Xerox社製)に、濃インクのみで印刷した各イエロー、マゼンタ、シアン色の100%DUTYパターンを印刷した。25℃で24時間放置後、印字物のOD値をSpectrolino(商品名:Gretag社製)を用いて測色し、各イエロー、マゼンタ、シアン色の平均値を求め、下記の基準に基づき判定した。
A:ODの平均値が1.1以上
B:ODの平均値が1.1未満
【0132】
(試験3)廃液詰まり試験
インクセットA1〜A5について、前記プリンタを用いて、40℃及び20%相対湿度の環境下で、24時間ごとに廃液クリーニングを繰り返し、廃液が堆積して、廃液チューブが詰まるまでの回数を測定した。
【0133】
以下に示す4段階の判断基準によって評価した結果を表3に示す。
【0134】
AA:51回以上廃液クリーニングしても廃液チューブが詰まらない。
A:廃液チューブが詰まるまでのクリーニング回数が36回〜50回
B:廃液チューブが詰まるまでのクリーニング回数が21回〜35回
C:20回以下の廃液クリーニングで廃液チューブが詰まる。
【0135】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イエローインク組成物、濃マゼンタインク組成物、濃シアンインク組成物、淡マゼンタインク組成物及び淡シアンインク組成物を少なくとも含むインクセットであって、それぞれのインク組成物が顔料を含み、前記イエロー、前記濃マゼンタ、前記濃シアン、前記淡マゼンタ及び前記淡シアンインク組成物を等量ずつ混合したとき、当該混合液に前記顔料100重量部に対して25重量部〜60重量部のトリアルカノールアミンが含まれることを特徴とするインクセット。
【請求項2】
前記トリアルカノールアミンの含有量が、前記イエロー、前記濃マゼンタ、前記濃シアン、前記淡マゼンタ及び前記淡シアンインク組成物の合計量に対して0.1重量%〜5重量%であることを特徴とする請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記淡マゼンタ及び前記淡シアンインク組成物に含まれるトリアルカノールアミンの含有量が、前記イエロー、前記濃マゼンタ、前記濃シアンインク組成物に含まれるトリアルカノールアミンの含有量の2倍以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクセット。
【請求項4】
前記トリアルカノールアミンが、トリエタノールアミン及び/又はトリプロパノールアミンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項5】
前記顔料は、前記イエロー、前記マゼンタ、前記シアン、前記淡マゼンタ及び前記淡シアンインク組成物において、同一又は類似の水不溶性ビニルポリマーに含有されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項6】
前記水不溶性ビニルポリマーが、(1)下記の式1、式2、式3及び式4で表されるモノマーからなる群より選ばれた1種以上のモノマーAと、(2)塩生成基含有モノマーと、(3)前記モノマーA及び前記塩生成基含有モノマーと共重合可能なモノマーと、を重合させてなることを特徴とする請求項5のいずれか一項に記載のインクセット。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【請求項7】
前記(3)の共重合可能なモノマーが、(メタ)アクリル酸エステル類、芳香環含有モノマー及びマクロマーからなる群より選ばれた少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項6に記載のインクセット。
【請求項8】
前記芳香環含有モノマーが、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン及びビニルナフタレンからなる群より選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項7に記載のインクセット。
【請求項9】
前記マクロマーが、片方の末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマーであることを特徴とする請求項7又は8に記載のインクセット。
【請求項10】
前記水不溶性ビニルポリマーの重量平均分子量が3000〜300000であることを特徴とする請求項5〜9のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項11】
前記顔料の添加量が、前記イエロー、前記濃マゼンタ、前記濃シアン、前記淡マゼンタ及び前記淡シアンインク組成物に対して0.5重量%〜15重量%であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項12】
前記イエローインク組成物が顔料としてC.I.ピグメントイエロー74を含み、濃マゼンタ及び淡マゼンタインク組成物が顔料としてC.I.ピグメントバイオレット19を含み、濃シアン及び淡シアンインク組成物が顔料としてC.I.ピグメントブルー15:4を含むことを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項13】
前記イエロー、前記濃マゼンタ、前記濃シアン、前記淡マゼンタ及び前記淡シアンインク組成物が、下記の式5と式6で表される化合物を少なくとも含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載のインクセット。
【化5】

【化6】

【請求項14】
前記イエロー、前記濃マゼンタ、前記濃シアン、前記淡マゼンタ及び前記淡シアンインク組成物が、グリコール系ブチルエーテル及び/又は1,2−アルカンジオールを含むことを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項15】
インクを記録媒体に付着させて印刷を行う記録方法に用いられることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項16】
インクジェット記録方法に用いられることを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に記載のインクセットを搭載したことを特徴とする記録装置。
【請求項18】
請求項1〜16のいずれか一項に記載のインクセットを用いて、インクジェット記録方法により記録が行われたことを特徴とする記録物。

【公開番号】特開2008−231342(P2008−231342A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76131(P2007−76131)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】