説明

インクヘッド、インクヘッドの製造方法、および液滴吐出装置

【課題】複数の基板を貼り合わせるインクヘッドとインクヘッドの製造方法において、基板相互を押圧することなく基板を貼り合わせ、接着剤が接合面以外に流出しない気密性の高い接合ができるインクヘッドの製造方法と、これを用いた液滴吐出装置を提供することにある。
【解決手段】貼り合わせられる基板に接着剤を塗布し接着剤層を形成する塗布工程と、形成された接着剤層を介して複数の基板を貼り合せる貼り合せ工程と、接着剤層を仮硬化させる複数の照射ポイントからなる仮硬化領域に光を照射する仮硬化工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクヘッド、インクヘッドの製造方法、および液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液滴が吐出されるノズル孔と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、当該振動板を静電吸引により駆動(振動)させて圧力発生室内のインクを加圧し、ノズル孔から液滴として吐出させる液滴吐出装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、ノズル板(基板)と流路板(基板)との接合工程を含むインクジェットヘッドの組立方法において、流路板と接する弾性変形部がノズル板に形成されている。ノズル板と流路板とを積層し、押圧ピンで弾性変形部を押圧することで、弾性変形部を構成する負圧形成部内の容積が縮小し、負圧形成部を環状に囲むリップが押圧に抗して変形する。変形した負圧形成部内の空気は、リップより負圧形成部の外部に放出される。押圧ピンによる押圧力が開放されたリップは、自らの弾性力により変形が復元され、これによって、負圧形成部内と大気圧との圧力差によって生じる負圧により吸引力を発生し流路板を吸引吸着する接合方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、ノズル孔が形成された記録素子基板(ノズル基板)と、当該記録素子基板を保持する支持部材とを有し 、紫外線硬化性と、熱硬化性とを兼ね備えた接着剤を支持部材の接合面に塗布し、記録素子基板と支持部材とを押圧することによって、塗布した接着剤を基板の周縁部にはみ出させ、はみ出た接着剤に紫外線を照射することで接着剤を硬化させ、基板の仮止めをおこなう基板接着方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−56084号公報
【特許文献2】特開2007−182027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1の接着方法では、ノズル基板に弾性変形部を形成することが困難であるという課題があった。詳しくは、一般的にこれらの基板にはエッチングによって複雑な形状を加工し難いシリコン基板が用いられることが多く、弾性変形部の形成に高度なエッチング技術等を要するため、生産効率が低下してしまうという課題もあった。さらに、ノズル基板に形成された弾性変形部を押圧するため、押圧によってノズル基板を破損させてしまうという課題もあった。
【0007】
また、特許文献2の接着方法では、基板相互が押圧されることで塗布された接着剤が押し伸ばされ、ノズル基板に形成されたノズル孔など、接着剤が入ると支障がある部分にまで接着剤が侵入してしまう恐れがあった。このため、ノズル孔の閉塞が生じ、歩留まりが低下してしまうという課題があった。また、はみ出した接着剤を処理する工程を要するという課題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
(適用例1)本適用例に係るインクヘッドは、インク流路とノズル孔とを備えたインクヘッドであって、インクヘッドは、複数の基板が接着剤層によって接合された積層構造を備え、接着剤層の少なくとも一部の領域はスポット照射された照射光によって硬化された接着剤であり、領域がアブレーションを有しないように硬化された接着剤であることを特徴とする。
【0010】
このようなインクヘッドによれば、接着剤層にスポット照射された照射光によって硬化される領域にアブレーションが無ければ、該アブレーションを通過することによるインクの漏出が防止できることを発見した。よって、送液されるインクが流路近くのアブレーションを通過して流路の外に漏出してしまう品質トラブルを防止することができる。従って、歩留まりが良く品質信頼性に優れたインクヘッドを提供できる。
【0011】
(適用例2)上記適用例に係るインクヘッドにおいて、基板の少なくとも一部はシリコン基板であり、接着剤は赤外波長領域の照射光で加熱されて硬化する接着剤であることが好ましい。
【0012】
このようなインクヘッドによれば、基板がシリコンであれば、汎用の微細加工技術を用いることができる。また、赤外波長領域の照射光で加熱されて硬化される接着剤を用いていることにより、シリコン基板を通して赤外波長領域の照射光で硬化できるので作業性が良い製造をおこなうことができる。
【0013】
(適用例3)上記適用例に係るインクヘッドにおいて、基板は3枚のシリコン基板であり、基板は第1基板と第2基板と第3基板であり、第2基板は第1基板と第3基板とに挟持され、第1基板と第2基板は第1の接合面で接合され、第3基板と第2基板は第2の接合面で接合され、積層構造の主面の垂直方向において、第1の接合面の接着剤層のスポット照射された照射光によって硬化された領域が投影される第2の接合面の領域に接着剤層を有せず、且つ第2の接合面の接着剤層のスポット照射された照射光によって硬化された領域が投影される第1の接合面の領域に接着剤層を有しないことが好ましい。
【0014】
このようなインクヘッドによれば、照射された光が照射領域となる第1接合面を透過し、第2接合面の接着剤層に到達した場合に、第2接合面の接着剤層において不十分な硬化が生じることを抑制することができる。
【0015】
(適用例4)本適用例に係るインクヘッドの製造方法において、複数のシリコン基板が接着剤層によって接合された積層構造であるインクヘッドの製造方法であって、基板の少なくとも一方の接合面に赤外波長領域の照射光で加熱されて硬化する接着剤を塗布して接着剤層を形成する塗布工程と、基板の接合面を互いに貼りあわせて互いの位置を調整する、貼りあわせ工程と、基板同士の位置を保持するように接着剤層の少なくとも一部の領域をスポット照射された照射光によって硬化する仮硬化工程と、接着剤層の概ね全体を硬化する本硬化工程とを含み、仮硬化工程において、複数のスポット形状の照射光を非連続に照射することを特徴とする。
【0016】
このようなインクヘッドの製造方法によれば、基板相互の貼り合せ位置を調整するピン孔の形成と、基板相互を押圧することなく接着するため、ピン孔の形成工程と、ピン孔に挿通されるピンを備えた案内板等の治具を要しない。また、接着剤が所定の領域から流出することが抑制され、はみ出した接着剤を除去する工程を要しない。
【0017】
さらに、平面的な間隔を開けて第1接着剤層に光を照射するので、第1基板または第2基板に光が透過する際に生じる発熱を分散し、発熱による第1接着剤層内での気泡の発生と変質を抑制することができる。従って、歩留まりが良く生産効率に優れた基板接着方法を実現できる。
【0018】
(適用例5)上記適用例に係るインクヘッドの製造において、照射光はスポット形状に集光される光であって、照射光の焦点は接合面と一致しない位置とし、照射光はマトリックス状の複数の位置に間断して照射されることが好ましい。
【0019】
このようなインクヘッドの製造方法によれば、接着剤層に照射される光の面積を大きくすることができる。このことで、接着剤層が硬化される面積が増し、硬化の接着力を高めることができる。
【0020】
(適用例6)上記適用例に係るインクヘッドの製造において、間断してマトリックス状に照射される前記照射光は不規則な照射位置に順次照射されること、を特徴とする。
【0021】
このようなインクヘッドの製造方法によれば、互いに隣接する照射位置に照射することによる熱の偏在によるアブレーションを防止することができる。少なくとも照射位置が互いに広い間隔を保つことにより、熱の偏在が低減でき、アブレーションも発生しにくい。
【0022】
(適用例7)本適用例に係る液滴吐出装置は、上述したインクヘッドを備えたことを特徴とする。
【0023】
このような液滴吐出装置によれば、アブレーションの無い接着剤層を有するインクヘッドを備えることにより、インクの流路外への漏出の恐れが無い液滴吐出装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態に係るインクヘッドを示す模式図。
【図2】第1実施形態に係るインクヘッドを構成する基板の接合工程を示す模式図。
【図3】第1実施形態に係る仮硬化工程で照射する光の焦点を示す模式図。
【図4】第1実施形態に係る仮硬化工程で照射する光の照射順番を示す模式図。
【図5】第1実施形態に係る仮硬化工程で光が照射された後の基板表面を示す図。
【図6】第1実施形態に係る仮硬化条件の実験条件と結果とを示す図。
【図7】第1実施形態に係る仮硬化条件の実験条件を示す模式図。
【図8】第2実施形態に係る液滴吐出装置を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施形態を図面に基づいて説明をする。なお、以下に示す各図においては、各構成要素を図面上で認識され得る程度の大きさとするため、各構成要素の寸法や比率を実際の構成要素とは適宜に異ならせて記載をしている。また、各図には、XYZ直交座標系を設定し、水平面内における基板の1辺の延在方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向およびY軸方向のそれぞれに直交する方向、即ち鉛直方向をZ軸方向とする。
【0026】
(第1実施形態)
(インクヘッドの構造)
先ず本実施形態のインクヘッド1の構造について説明する。図1は、本実施形態のインクヘッド1を模式的に示す図である。
インクヘッド1は、ノズル孔112が形成されるノズル基板110と、圧力発生室122とリザーバ123とオリフィス124と振動板125とが形成されるキャビティ基板120(インク流路基板)と、電極132が形成されるアクチュエーター基板130とで構成されている。
【0027】
ノズル基板110は、インクが吐出するノズル孔112が複数形成されている。また、後述するアライメント工程において、キャビティ基板120と貼り合わせる位置調整に用いるアライメントマーク301を備える。
【0028】
キャビティ基板120は、ノズル孔112から吐出するインク(不図示)が溜められるリザーバ123と、リザーバ123に溜められたインクを圧力発生室122に供給するインクの流路となるオリフィス124とを複数形成されている。圧力発生室122は、その底部に後述するアクチュエーター基板130に形成される電極132に電位が与えられることによって、吸引され撓む振動板125が形成されている。また、インクによるキャビティ基板120の浸食を防止する絶縁膜126が形成されている。さらに、後述するアライメント工程でノズル基板110およびアクチュエーター基板130と貼り合わせる位置調整に用いるアライメントマーク301を備える。
【0029】
アクチュエーター基板130は、前述のキャビティ基板120に形成された振動板125を撓ませる電極132が複数形成されている。また、後述するアライメント工程でキャビティ基板120と貼り合わせる位置調整に用いるアライメントマーク301を備える。
【0030】
インクヘッド1は、図1に示すようにノズル基板110、第1接着剤層210、キャビティ基板120、第2接着剤層220、アクチュエーター基板130の順番で積み重ねるように接合して積層構造基板100として構成される。なお、本実施形態のインクヘッド1を構成する各基板は、シリコンを主成分とした基板を用いている。
【0031】
(インクヘッドの製造方法)
本実施形態のインクヘッド1の製造方法について説明をする。
インクヘッド1の製造方法は、ノズル基板110とキャビティ基板120とアクチュエーター基板130とを形成する基板形成工程と、これら基板を貼り合わせる接合工程とを含む。
【0032】
(基板形成工程)
基板形成工程は、フォトリソ工程と、エッチング工程と、成膜工程とを含み、ノズル基板110と、キャビティ基板120と、アクチュエーター基板130とにノズル孔112や、貼り合わせ位置の調整に用いるアライメントマーク300等を形成する工程である。なお、基板形成工程で用いられる各技術は公知技術(例えば、特許文献「特開2005−225059号公報」)であるため詳述は省略する。
【0033】
(接合工程)
接合工程は、塗布工程と、貼り合わせ工程と、仮硬化工程と、本硬化工程とを含み、基板形成工程で形成されたノズル基板110と、キャビティ基板120と、アクチュエーター基板130とを接合する工程である。
【0034】
図2は、本実施形態のインクヘッド1を構成する基板の接合工程を示す模式図である。図2に示すインクヘッド1を構成する積層構造基板101は、接合工程を説明するため各基板に形成されているノズル孔112、圧力発生室122、電極132などの図示を省略している。また、ノズル基板110を第1基板111と図示及び称し、キャビティ基板120を第2基板121と図示及び称し、アクチュエーター基板130を第3基板131と図示及び称する。さらに、第1接着剤層210は、符番を211と図示及び称し、第2接着剤層220は、符番を221と図示及び称し、アライメントマーク300は、符番を301と図示及び称し、積層構造基板100は、符番を101と図示及び称する。
【0035】
(塗布工程)
塗布工程は、図2(a)に示す様に、第1基板111と第2基板121とが対向する面のいずれか一方の第1の接合面に接着剤200を塗布し、第1接着剤層211を形成する。また、第2基板121と第3基板131とが対向する面のいずれか一方の第2の接合面に接着剤200を塗布し、第2接着剤層221を形成する。
【0036】
塗布工程による接着剤200の塗布は、ノズル基板110(第1基板111)に形成されているノズル孔112と、キャビティ基板120(第2基板121)に形成されている圧力発生室122、リザーバ123、オリフィス124との構成部分に接着剤200が塗布されない様にすることを要する。また、アクチュエーター基板130(第3基板131)に形成されている電極132に接着剤200が塗布されないようにすることも要する。
【0037】
また、塗布工程による接着剤200の塗布は、後述する仮硬化工程によって、第1接着剤層211または第2接着剤層221に光311が照射される照射ポイント401の第2基板121を介した反対側の接着剤層の部分に接着剤200を塗布しない空間201(図3参照)を設ける。そこで、これら構成部分および接着剤200を塗布しない空間201にマスクを施したスクリーン版(不図示)を用いるスクリーン印刷法によって接着剤200の塗布を行う。
【0038】
なお、接着剤200の塗布は、前述の構成部、および空間201に接着剤200が塗布されない方法であれば他の方法を用いても良い。また、塗布工程で塗布する接着剤200は、後述する仮硬化工程で、所定の赤外波長域の照射光(光311)を吸収して発熱し、その熱で熱硬化する熱硬化性の接着剤200を塗布する。
【0039】
(貼り合わせ工程)
貼り合わせ工程は、第1基板111と第2基板121とが対向する第1の接合面に形成された第1接着剤層211を介して、第1基板111と第2基板121とを貼り合わせる工程である。また、第2基板121と第3基板131とが対向する第2の接合面に形成された第2接着剤層221を介して、第2基板121と第3基板131とを貼り合わせる工程である。
【0040】
貼り合わせ工程は、第1基板111と第2基板121と、第2基板121と第3基板131とのそれぞれを貼り合わせる位置を調整するアライメント工程を含み構成されている。
【0041】
図2(b)は、第1基板111と、第2基板121と、第3基板131との貼り合わせを行う貼り合せ工程と、貼り合わせ位置の調整を行うアライメント工程とを示す模式図である。
【0042】
先ず、貼り合わせ工程は、第1貼り合わせ工程と、第2貼り合わせ工程とを含む。第1貼り合わせ工程は、第1接着剤層211を介して第1基板111と、第2基板121とを重ねるように貼り合わせる。また、第2貼り合わせ工程は、第2接着剤層221を介して第1貼り合わせ工程で貼り合わせた第1基板111と第2基板121と、第3基板131とを重ねるように貼り合わせる。なお、貼り合わせ工程は、第2基板121と第3基板131とを貼り合わせる第2貼り合わせ工程を先に行っても良い。
【0043】
次に、アライメント工程は、第1アライメント工程と、第2アライメント工程とを含む。第1アライメント工程は、第1貼り合わせ工程で貼り合わせた第1基板111と第2基板121との平面的な貼り合わせ位置の調整を行う。また、第2アライメント工程は、第2貼り合わせ工程で貼り合わせた第1基板111及び第2基板121と、第3基板131との平面的な貼り合わせ位置の調整を行う。
【0044】
アライメント工程による貼り合わせ位置の調整は、予め、第1基板111と第2基板121と第3基板131とに赤外光で判別可能なアライメントマーク301を基板形成工程によってエッチング法などを用いて形成する。貼り合わせ位置の調整は、図示しない赤外顕微鏡を用いて貼り合わせる基板に形成されたアライメントマーク301を撮像し、撮像されたアライメントマーク301の像が重なるように貼り合わせる基板を移動させて行う。
【0045】
アライメントマーク301は、十字状のアライメントマーク301を第1基板111と、第2基板121と、第3基板131とのそれぞれ対角線上の2箇所に形成している。なお、アライメントマーク301の形状、および形成する位置と数とは、前述した形状、および位置と、数とに限定されること無く、平面的な貼り合わせ位置の調整、即ちアライメント工程を実行ができれば良い。
【0046】
(仮硬化工程)
図2(c)は、仮硬化工程を示す模式図である。図2(c)は、図2(b)に示す積層構造基板101の線分A−AにおけるX軸方向の断面をY軸方向から図示している。
仮硬化工程は、光311を第1接着剤層211に第1基板111を介して照射することで、光311がスポット照射された領域(照射ポイント401)の第1接着剤層211を硬化させる工程である。また、光311を第2接着剤層221に第3基板131を介して照射することで、光311がスポット照射された領域(照射ポイント401)の第2接着剤層221を硬化させる工程である。
【0047】
仮硬化工程による第1接着剤層211の硬化は、第1基板111と第2基板121とが対向する第1の接合面と反対の第1基板111面の方向から光311の照射し、光311が照射された領域である照射ポイント401の接着剤200を仮硬化させる。また、第2接着剤層221の硬化は、第2基板121と第3基板131とが対向する第2の接合面と反対の第3基板131面の方向から光311の照射し、光311が照射された領域である照射ポイント401の接着剤200を仮硬化させる。
【0048】
仮硬化工程で用いる光311は、1300nm以上9000nm未満の波長域の赤外線を用いている。かかる赤外線は、シリコンを主成分とする第1基板111と、第2基板121と、第3基板131とを透過する性質を有する。また、光311は、接着剤200(第1接着剤層211、第2接着剤層221)に吸収される複数の波長を有する。これにより、照射された光311は、第1基板111もしくは第3基板131を透過し、第1接着剤層211、もしくは第2接着剤層221に到達し、接着剤200に光311が有するエネルギーが吸収される。接着剤200は、光311が有する波長(エネルギー)を吸収することで発熱し、発熱することで硬化する熱硬化性を備える。
【0049】
図2(d)は、仮硬化工程によって仮硬化される仮硬化領域400と、光311がスポット照射される照射ポイント401とを示す模式図である。図2(d)は、図2(c)に示すC点を拡大し、Z軸方向から示した平面図である。
図2(d)に示す仮硬化領域400は、光311が照射される複数の照射ポイント401によって構成され、第1接着剤層211を仮硬化させ第1基板111と第2基板121とを接合する接合面となる。また、仮硬化領域400は、第2接着剤層221を仮硬化させ第2基板121と第3基板131とを接合する接合面となる。
【0050】
(光の焦点位置)
図3は、仮硬化工程で照射する光311の焦点を示す模式図である。図3は、図2(c)の仮硬化工程を示す図の破線Dで囲まれた部分を拡大した模式図である。図3を用いて仮硬化工程における光311の焦点について、第2接着剤層221を仮硬化させる場合を代表して説明をする。なお、第1接着剤層211を仮硬化させる場合も同様の工程である。
【0051】
仮硬化工程における光311は、図3(a1)に示す様に、第2接着剤層221を仮硬化させる光311の焦点を、光311の進行方向にずらして(シフト)第2接着剤層221へ照射をする。光311が照射された第2接着剤層221と第2基板121を介して相対する第1接着剤層211には、接着剤200が塗布されない空間201が形成されているため、光311は、空間201と第1基板111とに吸収および発熱することなく透過する。
【0052】
図3(a2)は、図3(a1)の第2接着剤層221をZ軸方向から見た平面図である。また、図3(b1)は、光311の焦点を第2接着剤層221に合わせて照射した場合の仮硬化工程を示す模式図である。さらに、図3(b2)は、図3(b1)の第2接着剤層221をZ軸方向から見た平面図である。
【0053】
図3(b1)に示す仮硬化工程では、光311の焦点を第2接着剤層221に合わせて照射をおこなっている。焦点が第2接着剤層221へ合焦しているため、図3(b2)に示す接着剤200が光311を吸収することによって照射ポイント401bは、後述する焦点をシフトした場合と比べて小さくなる。
【0054】
一方、図3(a1)に示す本実施形態の仮硬化工程では、光311焦点をその進行方向にシフトして合焦させる。焦点が光311の進行方向にシフトしているため、第2接着剤層221に照射される光311の透過面積が拡大し、図3(b2)に示す第2接着剤層221に合焦させた照射ポイント401bと比較して、図3(a2)に示す照射ポイント401aは大きくなる。照射ポイント401aを大きくすることで、接着剤200の硬化面積を広げ、仮硬化工程による接合力を高めることが可能となる。本実施形態では、接合力を確保し、後述するアブレーション402を抑制するため、照射ポイント401の直径を1mm程度となるように、光311の焦点をかかる進行方向にシフトさせている。
【0055】
(照射ポイントの行列数)
照射ポイント401は、光311を行(X軸)方向、または列(Y軸)方向に順番に照射し、その行、または列における所定の照射ポイント401を形成(照射)した後は、1行または1列空けた行または列において、順番に光311を照射する。これによって、複数の照射ポイント401からなる仮硬化領域400を形成し、接着剤200(第1接着剤層211、第2接着剤層221)を仮硬化させる。より詳細には、図4を用いて説明する。
【0056】
図4は、仮硬化工程によって光311が照射される照射順番を示す模式図である。本実施形態では、4行4列で2mmの間隔Pで配列(マトリックス)された16箇所の照射ポイント401からなる仮硬化領域400を形成する場合を説明する。図4においては、光311が照射された照射ポイント401を黒丸で示し、未照射の照射ポイント401を白丸で示す。また、照射ポイント401の位置を示すため、行にaからdの符号を、列に1から4の符番を、付して説明をする。
【0057】
光311の照射は、先ず図4(a)に示すc行1列の照射ポイント401からc行4列の照射ポイント401へ矢印の方向に向かって順番に照射する。次に、図4(b)に示す様に、c行から1行飛ばしたa行1列の照射ポイント401からa行4列の照射ポイント401に向かって前述のc行と同様に、光311を照射する。
【0058】
次に、図4(c)に示す様に、a行から1行飛ばしたd行1列の照射ポイント401からd行4列の照射ポイント401に向かって前述のc行と同様に、光311を照射する。最後に、図4(d)に示す様に、d行から1行飛ばしたb行1列の照射ポイント401からb行4列の照射ポイント401に向かって前述のc行と同様に、光311を照射する。上述した図4(a)から(d)の光311の照射によって、仮硬化領域400を形成する。
【0059】
(アブレーション)
図5は、第1接着剤層211に光311が照射された後の第1基板111の表面を示す図(写真)である。
光311を照射して、第1接着剤層211を硬化させる場合、照射された光311を接着剤200が吸収して発熱するが、硬化するときに生じた熱が基板や第1接着剤層210に蓄積(蓄熱)される。そのため、蓄積された熱に耐えきれなくなった場合には、基板の焼損であるアブレーション402や、第1接着剤層211(接着剤200)に気泡(空洞)生じる。
【0060】
図5(a)は、適切な条件で光311が照射された場合の第1基板111の表面を示す図であり、破線で示す円は、第1接着剤層211を硬化する照射ポイント401を示す。
一方、図5(b)は、不適切な照射条件、例えば、過大な照射光量で光311を照射した場合の第1基板111の表面を示す図であり、破線で示す円は、第1接着剤層211を硬化する照射ポイント401を示す。
【0061】
図5(b)中央部に示す黒点のように、接着剤200が硬化する際に生じる熱に耐えきれなくなった場合は、照射ポイント401の中心部にかかる熱による基板の焼損であるアブレーション402が生じる。また、この様な焼損が基板表面に生じた場合には、図示はされていないが第1接着剤層210または第2接着剤層220を構成する接着剤200に気泡が生じてかかる接着層に空洞が生じることとなる。
【0062】
仮硬化領域400を構成する照射ポイント401にアブレーション402が生じると、第1基板111と第2基板121とを接合する第1接着剤層211に、接着剤200が硬化(仮硬化)する際に気泡や空洞が生じ、接合力および気密性の低下を招来し、インクヘッド1から吐出されるインクが漏洩することとなる。インクヘッド1において第1接着剤層211を硬化させる際にアブレーション402を生じさせないことは重要な条件である。なお、第2基板121と第3基板131とを接合する第2接着剤層221においても同様である。
【0063】
本発明のインクヘッド1の製造方法において、上述した光311の焦点位置をシフトすることで接合力を保つことが可能となる。また、上述した光311の照射順番とする仮硬化条件とすることで、接着剤200が硬化する際の発熱によって生じるアブレーション402を抑制することが可能となる。このような仮硬化条件は、発明者等の実験によって知らしめたものであり、以下に仮硬化条件を知らしめた実験について説明する。
【0064】
(発明者等による仮硬化条件の実験)
図6は、仮硬化条件について発明者等が行った実験条件と、結果とを示した図表である。
仮硬化条件の実験は、仮硬化工程における光311の光量と、焦点位置(フォーカス)dfと、照射順番と、仮硬化領域400を構成する照射ポイント401の行列数と、間隔Pを変化させた8つの条件で行った。かかる条件で仮硬化工程を行った後の第1基板111もしくは第3基板131表面に生じるアブレーション402の有無と、第1接着剤層211、もしくは第2接着剤層221が仮硬化した際の接合力について実験を行ったものである。
【0065】
先ず、実験条件について説明をする。
光311の照射光量は、4.5ワットから9.0ワットまで段階的に変化をさせる条件とした。光311のフォーカスdfは、硬化させる接着剤層の厚み方向の中心に合焦させる場合(0mm)と、硬化をさせる接着剤層の厚み方向の中心から光311の進行方向に50mmシフトさせる2つの条件から選択をした。
【0066】
図7は、光311の照射順番と、仮硬化領域400を構成する照射ポイント401の行列数を示す図である。
光311の照射順番の条件である順列(a)は、図7(a)に示す様に2行3列の照射ポイント401で仮硬化領域400を構成し、照射ポイント401への光311の照射は、a行1列から矢印の方向に順番に行う。
【0067】
順列(b)は、図7(b)に示す様に3行3列の照射ポイント401で仮硬化領域400を構成し、照射ポイント401への光311の照射は、a行1列から矢印の方向に順番に行う。
【0068】
順列(c)は、図7(c)に示す様に4行4列の照射ポイント401で仮硬化領域400を構成し、照射ポイント401への光311の照射は、a行1列から矢印の方向に順番に行う。
【0069】
順列(d)は、図7(d)に示す様に4行4列の照射ポイント401で仮硬化領域400を構成する。照射ポイント401への光311の照射は、c行1列から矢印の方向に順番に行い、1行飛ばしたa行、d行、b行の順番で行う。
【0070】
照射ポイント401の間隔Pは、1ミリメートルもしくは2ミリメートルとした。また、かかる実験に用いた第1基板111と、第2基板121と、第3基板131とは厚さ0.7mmのシリコン基板を用いた。
【0071】
次に、図6に戻って、各条件における実験結果について説明をする。なお、第1接着剤層211への光311の照射を代表して説明するが、第2接着剤層221へ照射した場合も同様の結果が得られたものである。
【0072】
実験番号1は、照射ポイント401の照射順番および行列を順列(a)とし、照射光量4.5ワット、フォーカスdfを50mmシフトさせ、照射ポイント401の間隔Pを2ミリメートルの条件として光311を第1接着剤層211へ照射した。実験番号1における結果は、光311が透過する第1基板111の表面が焼損するアブレーション402は生じることなく接合力も良好で、本条件は採用出来ることが判明した。
【0073】
実験番号2は、前述の実験番号1の条件のうち照射光量を9.0ワットの条件に変更して光311を第1接着剤層211へ照射した。実験番号2における結果は、接合力は良好であったが、第1基板111の表面にアブレーション402が生じる結果となり、本条件は採用出来ないことが判明した。
【0074】
実験番号3は、照射ポイント401の照射順番および行列を順列(b)とし、照射光量6.0ワット、フォーカスdfを50mmシフトさせ、照射ポイント401の間隔Pを2ミリメートルの条件として光311を第1接着剤層211へ照射した。実験番号3における結果は、光311が透過する第1基板111の表面が焼損するアブレーション402は生じることなく接合力も良好で、本条件は採用出来ることが判明した。
【0075】
実験番号4は、前述の実験番号3の条件のうち照射ポイント401の間隔を1ミリメートルの条件として光311を第1接着剤層211へ照射した。実験番号4における結果は、接合力は良好であったが、第1基板111の表面にアブレーション402が生じる結果となり、本条件は採用出来ないことが判明した。
【0076】
実験番号5は、照射ポイント401の照射順番および行列を順列(c)とし、照射光量6.0ワット、フォーカスdfを50mmシフトさせ、照射ポイント401の間隔Pを2ミリメートルの条件として光311を第1接着剤層211へ照射した。実験番号5における結果は、接合力は良好であったが、第1基板111の表面にアブレーション402が生じる結果となり、本条件は採用出来ないことが判明した。
【0077】
実験番号6は、照射ポイント401の照射順番とおよび行列を順列(d)とし、照射光量6.0ワット、フォーカスdfを50mmシフトさせ、照射ポイント401の間隔Pを2ミリメートルの条件として光311を第1接着剤層211へ照射した。実験番号6における結果は、光311が透過する第1基板111の表面が焼損するアブレーション402は生じることなく接合力も良好で、本条件は採用出来ることが判明した。
【0078】
実験番号7は、フォーカスdfを0mmとし、照射ポイント401の照射順番および行列を順列(a)とし、照射光量4.5ワット、照射ポイント401の間隔Pを2ミリメートルの条件として光311を第1接着剤層211へ照射した。実験番号7における結果は、光311が透過する第1基板111の表面が焼損するアブレーション402は生じることが無かったが接合力が不足し、本条件は採用出来ないことが判明した。
【0079】
実験番号8は、前述の実験番号7の条件のうち、照射ポイント401の照射順番および行列を順列(a)とし、照射光量6.0ワットの条件として光311を第1接着剤層211へ照射した。実験番号8における結果は、実験番号7と同様に光311が透過する第1基板111の表面が焼損するアブレーション402は生じることが無かったが接合力が不足し、本条件は採用出来ないことが判明した。
【0080】
上述した発明者等の行った実験番号1から実験番号8の実験結果より、光311の照射光量が大きい場合には、接合力は得られるが、光311の波長が吸収される第1接着剤層211(接着剤200)の発熱が大きく、アブレーション402が生じる結果を得た(実験番号2)。
【0081】
また、照射ポイント401への光311の照射を、隣り合う照射ポイント401へ連続して行った場合には、接合力は得られるが第1接着剤層211(接着剤200)の発熱が第1基板111に蓄積されアブレーション402が生じる結果を得た(実験番号4、5)。
【0082】
また、光311の焦点を第1接着剤層211の中心部にフォーカスさせた場合には、第1接着剤層211(接着剤200)が硬化する面積が小さいことから接合力が不足する結果を得た(実験番号7,8)。
【0083】
(仮硬化条件)
上述した発明者等の実験結果に基づき、仮硬化工程における仮硬化条件を次のように決定し、上述の仮硬化工程を行った。
基板内の構造物がない限られた領域で一定の強度を出すには、照射ポイント401の間隔を詰めて照射する必要がある、ただし、硬化に伴う熱を放散しながら十分な強度まで照射ポイント401を形成するには、照射ポイント401の間隔を2mm空ける必要があった。また、照射光量が6ワットの場合、10点以上の照射ポイント401を形成すると、硬化に伴う熱の影響によるアブレーション402の発生が確認されたため、照射ポイント401の間隔(列間)を4mmとしたところ、アブレーション402が改善された。ただし、縦横ではスペースを広くとってしまうため、1行とばしにして列間の照射時間を空けることでスペースを有効活用することにした。
【0084】
光311の焦点は、接着剤200を硬化させる照射ポイント401の直径を1mm程度とし、接合力を確保するため、光311の進行方向に50mmシフトさせ照射する仮硬化条件とした。また、光311の照射光量は、接合力を維持し、アブレーション402が生じない6.0ワットとする仮硬化条件とした。
【0085】
なお、照射光量は、光311の焦点位置によって、照射ポイント401の面積が異なるため、上述の条件より焦点位置を硬化対象の接着層に近づける場合は、照射光量を低下させることでアブレーション402の発生を抑制することができる。また、上述の条件より焦点位置を光311の進行方向にシフトする場合は、照射光量を増加させることで硬化対象の接着層で吸収される光311が不足して接合力不足を抑制することができる。
【0086】
(本硬化工程)
本硬化工程は、前述の仮硬化工程で第1接着剤層211と、第2接着剤層221とを仮硬化させて接合した積層構造基板101に熱を加えて本硬化させる工程である。
本硬化工程は、積層構造基板101を加熱することで、熱によって硬化する性質を有する接着剤200からなる第1接着剤層211と、第2接着剤層221とを硬化させ、第1基板111と第2基板121、および第2基板121と第3基板131とを接合する。積層構造基板101の加熱は、積層構造基板101を加熱炉(オーブン)内に載置し、接着剤200に熱を与える。なお、積層構造基板101の加熱は、接着剤200に熱を与えることが出来れば加熱炉に限定されること無く、他の加熱手段を用いても良い。
【0087】
上述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
本実施形態のインクヘッド1の製造方法は、光311を照射することによって第1接着剤層210を介してノズル基板110と、キャビティ基板120との接合をすることができる。また、第2接着剤層220を介してキャビティ基板120と、アクチュエーター基板130とを接合することができる。このことによって、基板相互を押圧して貼り合わせることを要しないため、塗布された接着剤200が所定の領域からはみ出すこと無く、キャビティ基板120に形成された振動板125など駆動を伴う構成部分に接着剤200が侵入することを抑制することができる。
【0088】
また、基板相互を押圧して貼り合わせることを要しないため、押圧のための治具が不要となる。さらに、光311を照射することで接着剤200を硬化させ基板相互の接合を行うため、接合のための構造物(弾性変形部)の形成が不要となる。
従って、押圧によって接合される各基板の破損を抑制し、押圧にかかる治具と、はみ出した接着剤200を処理する工程を削減できる生産効率の高いインクヘッド1の製造方法を実現することができる。
【0089】
本実施形態のインクヘッド1は、接着剤200を硬化させる照射ポイント401への光311の照射は、間隔もって照射することで、接着剤200が光311を吸収して発熱し、硬化する際の熱を放散することができる。このことによって、硬化する接着剤200に生じる気泡を抑制、および各基板に焼損が生じるアブレーション402を抑制し、接合される各基板間の気密を高めることができる。
従って、各基板の接合面からインクが漏出することを抑制することができるインクヘッド1を実現することができる。
【0090】
(第2実施形態)
図8は、第2実施形態にかかる液滴吐出装置2を示す模式図である。本実施形態は、第1実施形態で説明したインクヘッド1、ならびにインクヘッド1の製造方法を用いて液滴(不図示)を吐出する液滴吐出装置2を形成した実施例である。
【0091】
図8(a)は、液滴吐出装置2を構成する積層構造基板100を示す斜視図であって、駆動回路141が図示されていないものである。図8(b)は、液滴吐出装置2を構成する積層構造基板100の断面図であって、図8(a)の線分A−AにおけるX軸方向の断面をY軸方向から示す模式図である。また、図8(b)では、駆動回路141を簡略して図示している。図8を用いて第1実施形態で説明をしたインクヘッド1の製造方法を用いて形成された液滴吐出装置2について説明する。
【0092】
図8に示す本実施形態の液滴吐出装置2は、静電気力により駆動される静電駆動方式の液滴吐出装置2である。かかる液滴吐出装置2は、ノズル基板110(第1基板111)に形成したノズル孔112から液滴を吐出するフェイスイジェクトタイプである。
【0093】
液滴吐出装置2は、積層構造基板100として、ノズル基板110と、圧力発生室122、リザーバ123、オリフィス124、振動板125を形成したキャビティ基板120(第2基板121)と、電極132を形成したアクチュエーター基板130(第3基板131)とを備え、第1実施形態で説明をしたインクヘッド1の製造方法によってこれら基板を接合し、構成されている。また、アクチュエーター基板130に形成された電極132と、キャビティ基板120とに駆動回路141が接続される。
【0094】
(液滴吐出装置の構成)
液滴吐出装置2の構成について積層構造基板100を構成する基板ごとに説明をする。
ノズル基板110には、液滴を吐出するノズル孔112が複数形成され、キャビティ基板120と接合される接合面230とは反対の方向に液滴が吐出される。本実施形態のノズル基板110は、シリコン基板を用いているがシリコン基板に限定されるもので無く、ノズル孔112の形成が可能な基板であれば良い。
【0095】
キャビティ基板120には、底面が振動板125である凹状の圧力発生室122が複数形成されている。また、圧力発生室122と連通し、対応するリザーバ123と、圧力発生室122とリザーバ123との間を連通する凹状のオリフィス124とが一対で複数形成されている。
【0096】
さらに、キャビティ基板120の全面には、酸化膜からなる絶縁膜126が形成されている。絶縁膜126は、圧力発生室122やリザーバ123等に接するインクによってキャビティ基板120が浸食されることを抑制する。なお、複数の圧力発生室122は、図8(a)のY軸手前からY軸奥にかけてX軸方向に平行に並んで形成されているものとする。
【0097】
本実施形態のキャビティ基板120は、シリコン基板で形成されている。シリコン基板に限定されるもので無く、圧力発生室122などの形成が可能な基板であれば良い。
【0098】
アクチュエーター基板130は、キャビティ基板120に形成されている圧力発生室122の底面である振動板125に相対する面に接合されている。アクチュエーター基板130には、振動板125と相対して電極132が形成されている。また、接合面230と反対の端部を封止材133で封止し、電極132と、振動板125とが吸引される空隙を保持している。また、アクチュエーター基板130には、リザーバ123と連通するインク流路142が形成されている。インク流路142は、リザーバ123の底壁と連通し、ノズル孔112から吐出させる液滴(インク)をリザーバ123へ供給するために設けられている。
【0099】
駆動回路141は、アクチュエーター基板130に形成された電極132と、キャビティ基板120とに接続されている。駆動回路141は、例えば数十KHzで発振し、電極132に0ボルトから数十ボルト程度のパルス電位を印加する回路である。
【0100】
(液滴吐出装置2の動作)
ここで、図8に示す液滴吐出装置2の動作について説明する。
キャビティ基板120と、アクチュエーター基板130の電極132とには、駆動回路141が接続されている。駆動回路141によってキャビティ基板120と、電極132との間に電圧が印加されると、振動板125は、電極132に静電吸引されることで撓み、リザーバ123の内部に溜まっているインクが圧力発生室122に流れ込む。
【0101】
次に、キャビティ基板120と、電極132との間に印加されていた電圧がなくなると、振動板125は、電極132の静電吸引が解かれ元の位置に戻ることで、圧力発生室122の内部の容積が縮小することで圧力が高まり、ノズル孔112からインクの液滴が吐出される。駆動回路141は、パルス波形の電位を電極132と、キャビティ基板120とに印加することで、繰り返し前述の振動板125を動作させインクの液滴を吐出することができる。
【0102】
なお、本実施形態では、実施形態1ならびに実施形態2で説明をしたインクヘッド1およびインクヘッド1の製造方法を用いた静電駆動方式の液滴吐出装置2を説明したが、圧電駆動方式、バブルジェット(登録商標)方式等の液滴吐出装置2にも適用することができる。
【0103】
上述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
本実施形態の液滴吐出装置2は、かかる液滴吐出装置2に用いられるインクヘッド1を構成する基板を押圧して接合しないため、ノズル基板110や、アクチュエーター基板130に塗布された接着剤200が駆動を伴う構成部分(例えば、振動板125。)や、インクの流路となる構成部分(例えば、ノズル孔112。)などに流入することを抑制できる。また、基板相互を押圧しないため、外圧に弱い微細な構成部分(例えば、ノズル孔112。)を損傷することなく接合したインクヘッド1を液滴吐出装置2を実現することができる。
【0104】
また、本実施形態の液滴吐出装置2は、インクヘッド1を構成するノズル基板110と、キャビティ基板120と、アクチュエーター基板130との貼り合せ位置を調整するアライメント工程を実行した後に、各基板に接触すること無く仮硬化を行う。このため、アライメント工程で貼り合わせる平面的な位置調整を行った精度を維持した精度の高いインクヘッド1を液滴吐出装置2に用いることができる。
【0105】
また、本実施形態の液滴吐出装置2は、ノズル基板110と、キャビティ基板120と、アクチュエーター基板130とを接合する第1接着剤層210および第2接着剤層220に気泡や、各基板に焼損が生じるアブレーション402を抑制し、接合される各基板間の気密を高めたインクヘッド1を液滴吐出装置2に用いることができる。
【0106】
従って、接合される各基板間の気密を高め、インクの漏液、気泡の侵入を抑制し、貼り合わせ位置精度の高いたインクヘッド1を用いた液滴吐出装置2を実現出来る。
【符号の説明】
【0107】
1…インクヘッド、2…液滴吐出装置、100…積層構造基板、101…積層構造基板、110…ノズル基板、111…第1基板、112…ノズル孔、120…キャビティ基板、121…第2基板、122…圧力発生室、123…リザーバ、124…オリフィス、125…振動板、126…絶縁膜、130…アクチュエーター基板、131…第3基板、132…電極、133…封止材、141…駆動回路、142…インク流路、200…接着剤、201…空間、210…第1接着剤層、211…第1接着剤層、220…第2接着剤層、221…第2接着剤層、221…第2接着剤層、230…接合面、230…接合される接合面、300…アライメントマーク、301…アライメントマーク、311…光、400…仮硬化領域、401…照射ポイント、402…アブレーション。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク流路とノズル孔とを備えたインクヘッドであって、
前記インクヘッドは、複数の基板が接着剤層によって接合された積層構造を備え、
前記接着剤層の少なくとも一部の領域はスポット照射された照射光によって硬化された接着剤であり、
前記領域がアブレーションを有しないように硬化された前記接着剤であることを特徴とするインクヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載のインクヘッドにおいて、
前記基板の少なくとも一部はシリコン基板であり、
前記接着剤は赤外波長領域の前記照射光で加熱されて硬化する前記接着剤であること、
を特徴とするインクヘッド。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のインクヘッドにおいて、
前記基板は3枚のシリコン基板であり、
前記基板は第1基板と第2基板と第3基板であり、
前記第2基板は、前記第1基板と前記第3基板とに挟持され、
前記第1基板と前記第2基板は、第1の接合面で接合され、
前記第3基板と前記第2基板は、第2の接合面で接合され、
前記積層構造の主面の垂直方向において、前記第1の接合面の前記接着剤層のスポット照射された前記照射光によって硬化された領域が投影される前記第2の接合面の領域に前記接着剤層を有せず、且つ前記第2の接合面の前記接着剤層のスポット照射された前記照射光によって硬化された領域が投影される前記第1の接合面の領域に前記接着剤層を有しないこと、
を特徴とするインクヘッド。
【請求項4】
複数のシリコン基板が接着剤層によって接合された積層構造であるインクヘッドの製造方法であって、
前記シリコン基板の少なくとも一方の接合面に赤外波長領域の照射光で加熱されて硬化する接着剤を塗布して接着剤層を形成する塗布工程と、
前記シリコン基板の前記接合面を互いに貼りあわせて互いの位置を調整する、貼りあわせ工程と、
前記シリコン基板同士の位置を保持するように前記接着剤層の少なくとも一部の領域をスポット照射された前記照射光によって硬化する仮硬化工程と、
前記接着剤層の概ね全体を硬化する本硬化工程と、を含み、
前記仮硬化工程において、複数のスポット形状の前記照射光を非連続に照射することを特徴とするインクヘッドの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のインクヘッドの製造方法において、
前記照射光はスポット形状に集光される光であって、
前記照射光の焦点は前記接合面と一致しない照射位置とし、
前記照射光はマトリックス状の複数の照射位置に間断して照射されること、
を特徴とするインクヘッドの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のインクヘッドの製造方法において、
間断してマトリックス状に照射される前記照射光は不規則な照射位置に順次照射されること、を特徴とするインクヘッドの製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のインクヘッドを備えたこと、を特徴とする液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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