説明

インク廃液の処理方法および装置

【課題】インク廃液の処理にナノフィルトレーション膜を適用するに際し、膜モジュールの洗浄時に、インク成分により着色した排液を大量に発生させず、洗浄排液の処理設備や処理費用を大幅に低減可能な、インク廃液の処理方法および装置を提供する。
【解決手段】インク廃液をナノフィルトレーション膜装置に通液し、第1の濃縮液と第1の透過液に分離するインク廃液濃縮工程と、該第1の透過液を上記ナノフィルトレーション膜装置に通液してナノフィルトレーション膜を洗浄しつつ第2の濃縮液と第2の透過液に分離するナノフィルトレーション膜洗浄工程とを交互に実行するとともに、第2の濃縮液を、インク廃液と合流させて上記インク廃液濃縮工程で処理することを特徴とするインク廃液の処理方法および装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク廃液の処理方法および装置に関し、特に、長期間安定して運転することが可能となるインク廃液の処理方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
逆浸透膜装置やナノフィルトレーション膜装置は、使用に伴い、膜面の汚染により、透過流束の低下や阻止率の低下を生じてくる。この汚染を取り除くために、通常、酸洗浄やアルカリ洗浄が行われている。また、膜面に付着、析出した汚染物質は、被処理水よりも低濃度の水を用いて通水することにより、膜面より徐々に溶解あるいは分散し、除去することができることも知られている(たとえば、特許文献1)。
【0003】
しかし、インク廃液の処理にナノフィルトレーション膜を適用する際に、膜モジュールの洗浄を水を用いて行った場合、インク成分により着色した排液が大量に発生する。この洗浄排液は、着色しているためにそのままでは放流することができず、適切な処理を行った後に放流するか、あるいは産業廃棄物として引取り処分することが必要となる。しかし、これらの処理は、多大な設備や、多大な処分コストが必要となるため、常にコストダウンを要求される工業装置として適当なものとは言えない。
【0004】
一方、インク廃液の処理方法として、たとえば特許文献2には、濃厚インク廃液を希釈することなく高塩除去率の逆浸透膜によって処理することにより、インク廃液中の色度成分を阻止し、その濃縮液を凝集剤を用いて凝集沈澱処理する技術が提案されている。
【0005】
ところが、この処理では一般に透過液量が少ないため液量確保のために高圧で運転する必要があり、消費電力が大きい、高価な高圧部品を使用しなければならない、高圧のため危険である、等の問題がある。
【0006】
そのため、より低圧運転が可能なナノフィルトレーション膜をインク廃液の処理に適用することが考えられるが、単にナノフィルトレーション膜装置を用いると、前述したような、膜モジュールの洗浄の際に、インク成分により着色した排液が大量に発生するという問題が生じ、この洗浄排液の処理に、多大な設備や多大な処分コストが必要となる。
【特許文献1】特開2002−210335号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平8−164389号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の課題は、インク廃液の処理にナノフィルトレーション膜を適用するに際し、膜モジュールの洗浄時に、インク成分により着色した排液を大量に発生させず、洗浄排液の処理設備や処理費用を大幅に低減可能な、インク廃液の処理方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係るインク廃液の処理方法は、インク廃液をナノフィルトレーション膜装置に通液し、第1の濃縮液と第1の透過液に分離するインク廃液濃縮工程と、該第1の透過液を前記ナノフィルトレーション膜装置に通液してナノフィルトレーション膜を洗浄しつつ第2の濃縮液と第2の透過液に分離するナノフィルトレーション膜洗浄工程とを交互に実行するとともに、前記第2の濃縮液を、前記インク廃液と合流させて前記インク廃液濃縮工程で処理することを特徴とする方法からなる。
【0009】
このインク廃液の処理方法においては、前記ナノフィルトレーション膜洗浄工程において、前記第1の透過液を前記ナノフィルトレーション膜装置に、前記インク廃液濃縮工程における前記インク廃液の導入側とは反対側に導入するようにすることもできる。
【0010】
本発明に係るインク廃液の処理装置は、インク廃液をナノフィルトレーション膜装置に通液し、第1の濃縮液と第1の透過液に分離するインク廃液濃縮系と、該インク廃液濃縮系からの第1の透過液の少なくとも一部を貯留可能な透過液タンクと、該透過液タンクに貯留された第1の透過液を前記ナノフィルトレーション膜装置に通液し、ナノフィルトレーション膜を洗浄しつつ第2の濃縮液と第2の透過液に分離するナノフィルトレーション膜洗浄系とを有し、かつ、前記第2の濃縮液を、前記インク廃液に合流可能な合流系を有することを特徴とするものからなる。
【0011】
このインク廃液の処理装置においては、ナノフィルトレーション膜洗浄系において、前記第1の透過液を前記ナノフィルトレーション膜装置に、前記インク廃液濃縮系における前記インク廃液の導入側とは反対側に導入するようにした構成とすることもできる。
【0012】
上記のような本発明に係るインク廃液の処理方法および装置においては、インク廃液濃縮工程で得られた低濃度の第1の透過液が循環使用されて膜面の洗浄に有効に利用されるため、従来の専用の洗浄水を供給する場合に比べ、余分な要処理排液を発生させることなく、所定の膜面洗浄が可能となり、インク廃液濃縮工程とナノフィルトレーション膜洗浄工程を交互に繰り返すことにより、膜面の閉塞による透過流束の低下を生じることなく、長期間安定して運転することが可能となる。
【0013】
そして、膜面の洗浄に使用した処理液(第2の濃縮液)を、インク廃液に合流させて再度インク廃液濃縮工程に供することにより、洗浄排液量を一層低減させることが可能となる。すなわち、ナノフィルトレーション膜洗浄工程で得られた第2の濃縮液は、インク廃液濃縮工程で得られた第1の濃縮液よりも低濃度であるため、第2の濃縮液をそのまま引取り処分とするのは、コスト面から不利であり、この第2の濃縮液を再度インク廃液濃縮工程で処理することにより、要処理排液量の減少し、水回収率が向上され、コスト面での改善が可能となる。
【0014】
さらに、インク廃液濃縮工程においてはナノフィルトレーション膜装置の通液下流側が最も速く膜面閉塞しようとするが、ナノフィルトレーション膜洗浄工程において、第1の透過液を、インク廃液濃縮工程におけるインク廃液の導入側とは反対側から通液するようにすれば、閉塞の進んだ膜面側から洗浄することになり、洗浄効果を向上できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るインク廃液の処理方法および装置によれば、インク廃液の処理にナノフィルトレーション膜を適用するに際し、膜モジュールの洗浄時に、インク成分により着色した排液を大量に発生させず、洗浄排液の処理設備や処理費用を大幅に低減することができるとともに、膜の透過流束の保持率を高く維持することができ、長期間安定して運転することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1および図2は、本発明の一実施態様に係るインク廃液の処理方法および装置における、インク廃液濃縮工程(図1)とナノフィルトレーション膜洗浄工程(図2)を示している。図1、図2においては、太線が通液ラインを示している。
【0017】
図1において、1はインク廃液の処理装置全体を示しており、図1に示したインク廃液濃縮工程では、インク廃液原液タンク2に溜められたインク廃液3は、ポンプ4によりナノフィルトレーション膜装置5に送られ、ナノフィルトレーション膜(以下、NF膜と略称することもある。)5aによって第1の透過液6と第1の濃縮液7に分離される。したがって、ここまでの系は、本発明で言う、インク廃液をナノフィルトレーション膜装置5に通液し、第1の濃縮液7と第1の透過液6に分離するインク廃液濃縮系8を構成する。
【0018】
第1の透過液6は透過液タンク9に送られ、タンク9の水位に応じて適宜、廃液処理あるいは排液回収のために排出される。この透過液タンク9には、次に述べるNF膜洗浄工程に必要な量の第1の透過液6が常に保持される。一方、第1の濃縮液7は、インク廃液原液タンク2に戻される分と、系外に排出され引取り処分されて乾燥や再濃縮等などに供される分とに分けられる。その比率は回収率により適宜調整すればよい。
【0019】
図2に示すナノフィルトレーション膜洗浄工程では、バルブ10を閉め、バルブ11を開けて、透過液タンク9とポンプ4を連通させ、透過液タンク9に貯留されていた第1の透過液6をNF膜装置5に供給し、NF膜5a(膜モジュール)の洗浄を行う。第1の透過液6は、インク廃液原液よりも低濃度であるため、インク廃液濃縮工程により膜面に蓄積された汚染物質は、徐々に溶解あるいは分散し、膜面の汚染が解消される。洗浄に使用された第1の透過液6は、NF膜5aで第2の透過液12と第2の濃縮液13とに分離される。第2の透過液12は、透過液タンク9に送られ、洗浄工程の間、NF膜装置5と透過液タンク9との間を循環される。一方、第2の濃縮液13は、NF膜5aの洗浄に供された洗浄廃液とさえ呼べるものであるが、インク廃液濃縮工程で分離される第1の濃縮液7よりも低濃度の廃液であるため、系外に排出することなくインク廃液原液タンク2に戻され(つまり、インク廃液と合流され)、再度インク廃液濃縮工程に供される。この透過液タンク9からポンプ4を介して、透過液タンク9に貯留されていた第1の透過液6および循環されてきた第2の透過液12を、NF膜5aの洗浄のためにNF膜装置5に供給し、第2の透過液12と第2の濃縮液13をそれぞれの行き先に送液する系は、本発明で言う、透過液タンクに貯留された第1の透過液をナノフィルトレーション膜装置に通液し、ナノフィルトレーション膜を洗浄しつつ第2の濃縮液と第2の透過液に分離するナノフィルトレーション膜洗浄系14を構成する。
【0020】
インク廃液濃縮工程とナノフィルトレーション膜洗浄工程の切替は、NF膜5aの透過流束の低下が起こった際に実施すればよいが、阻止率や透過流束の経時的低下を最小限に抑制するためには、たとえば、インク廃液濃縮工程を27分間程度、ナノフィルトレーション膜洗浄工程を3分間程度というように、短期間の間に頻繁に実施した方が良い。
【0021】
このように定期的に図1に示した濃縮工程と図2に示した洗浄工程を交互に繰り返し実行することによって、低濃度の第1の透過液6によってNF膜5aが適切なインターバルにて洗浄され、膜の汚染が回復されて、長期間安定してインク廃液処理の運転を行うことが可能となる。洗浄に使用された処理液である第2の濃縮液13はインク廃液原液に合流されて再処理に供されるので、系外に洗浄排液として排出されないので、この第2の濃縮液13に関しては、基本的に洗浄排液処理設備が不要となり、処理コストが大幅に低減されることになる。
【0022】
また、この上記の方法および装置においては、NF膜5aの洗浄をより効果的に行うために、図3、図4に示すような系統を採用することもできる。図3は、インク廃液濃縮工程、図4はNF膜洗浄工程を示しており、図3、図4に示すインク廃液の処理装置21においては、図1、図2に示したインク廃液の処理装置1に比べ、ナノフィルトレーション膜装置5への通液形態に工夫が加えられている。図3に示すインク廃液濃縮工程の通液ライン構成は実質的に図1に示したものと同じであるが、図4に示すナノフィルトレーション膜洗浄工程においては、透過液タンク9からの第1の透過液6をNF膜装置5に、インク廃液濃縮工程におけるインク廃液の導入側とは反対側に導入するように構成されている。本実施態様では、バルブ24、25が切り替えられて、透過液タンク9からポンプ4を介して供給されてくる第1の透過液が、第1の透過液供給ライン23、およびインク廃液濃縮工程において第1の濃縮液排出ラインとして用いられていたライン26が第1の透過液供給ラインとして用いられて、NF膜装置5に、インク廃液濃縮工程におけるインク廃液の導入側とは反対側に導入される。NF膜装置5からの排出側においては、第2の透過液は透過液タンク9へと循環されるが、バルブ28、29が切り替えられて、第2の濃縮液は、インク廃液濃縮工程においてインク廃液導入ラインとして用いられていたライン22が第2の濃縮液導出ラインとして用いられるとともに、第2の濃縮液導出ライン27を介して、インク廃液原液タンク2へと戻される。
【0023】
図4に示したような系統を採用すれば、NF膜装置5のNF膜5aの洗浄時に、汚染、閉塞のより進んだ、インク廃液濃縮工程におけるインク廃液の導入側とは反対側から第1の透過液6を導入することができるので、より効率よくNF膜5aを洗浄することができるようになる。その他の作用、効果は図1、図2に示した系統と実質的に同じである。
【0024】
なお、上記ナノフィルトレーション膜の素材としては、たとえばポリビニルアルコール系樹脂、ポリアミド系樹脂、スルホン化ポリエーテルスルホン系樹脂等の合成高分子や、セルロース系高分子を用いることができる。たとえば、日東電工(株)製NTR−7250、NTR−7450,NTR−7410、東レ(株)製SU−600シリーズ、SU−200シリーズ、ダイセン・メンブレン・システムズ(株)製PES10などが挙げられる。さらに、本発明の実施においては、NaCl阻止率60%以下で、色度除去率が90%以上のものが好適に用いられる。
【実施例】
【0025】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明する。
インク廃液原液の水質としては以下のものを用いた。
・pH:7.9
・電気伝導率:1200μS/cm(25℃)
・色度:60000(度)
・CODMn:8500mgO/L
・BODS :7800mgO/L
・TOC:7500mgC/L
【0026】
運転条件として下記の条件に設定した。
NF膜として、日東電工(株)製NTR−7250(NaCl阻止率55%)を使用し、インク廃液原液をHClにてpH8.0程度に調整後、下記条件にて運転した。
・回収率:80%
・運転圧力:1.0MPa
【0027】
図5に、本発明に係る方法および装置(図1、図2に示した装置)で運転したときの結果を示す。各工程の処理時間は以下の通りである。
・インク廃液濃縮工程 :27分間
・ナノフィルトレーション膜洗浄工程: 3分間
【0028】
結果、図5に示すように、本発明に係るナノフィルトレーション膜洗浄工程を繰り返し実行する場合には、従来の洗浄工程なしの場合に比べ、透過流束の保持率を高く維持することができ、長期間安定して運転することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係るインク廃液の処理方法および装置は、特に長期間安定して安価に運転することが要求されるインク廃液の処理に好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施態様に係るインク廃液の処理装置のインク廃液濃縮工程を示す機器系統図である。
【図2】図1の装置におけるナノフィルトレーション膜洗浄工程を示す機器系統図である。
【図3】図1の変形例に係るインク廃液の処理装置のインク廃液濃縮工程を示す機器系統図である。
【図4】図3の装置におけるナノフィルトレーション膜洗浄工程を示す機器系統図である。
【図5】本発明に係る方法および装置における実施例の結果を示す透過流束保持率の経時特定図である。
【符号の説明】
【0031】
1 インク廃液の処理装置
2 インク廃液原液タンク
3 インク廃液
4 ポンプ
5 ナノフィルトレーション膜装置
5a ナノフィルトレーション膜
6 第1の透過液
7 第1の濃縮液
8 インク廃液濃縮系
9 透過液タンク
10、11 バルブ
12 第2の透過液
13 第2の濃縮液
14 ナノフィルトレーション膜洗浄系
21 インク廃液の処理装置
22 ライン(インク廃液濃縮工程におけるインク廃液供給ライン兼ナノフィルトレーション膜洗浄工程における第2の濃縮液排出ライン)
23 第1の透過液供給ライン
24、25、28、29 切替バルブ
26 ライン(インク廃液濃縮工程における第1の濃縮液導出ライン兼ナノフィルトレーション膜洗浄工程における第1の透過液供給ライン)
27 第2の濃縮液導出ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク廃液をナノフィルトレーション膜装置に通液し、第1の濃縮液と第1の透過液に分離するインク廃液濃縮工程と、該第1の透過液を前記ナノフィルトレーション膜装置に通液してナノフィルトレーション膜を洗浄しつつ第2の濃縮液と第2の透過液に分離するナノフィルトレーション膜洗浄工程とを交互に実行するとともに、前記第2の濃縮液を、前記インク廃液と合流させて前記インク廃液濃縮工程で処理することを特徴とするインク廃液の処理方法。
【請求項2】
前記ナノフィルトレーション膜洗浄工程において、前記第1の透過液を前記ナノフィルトレーション膜装置に、前記インク廃液濃縮工程における前記インク廃液の導入側とは反対側に導入する、請求項1に記載のインク廃液の処理方法。
【請求項3】
インク廃液をナノフィルトレーション膜装置に通液し、第1の濃縮液と第1の透過液に分離するインク廃液濃縮系と、該インク廃液濃縮系からの第1の透過液の少なくとも一部を貯留可能な透過液タンクと、該透過液タンクに貯留された第1の透過液を前記ナノフィルトレーション膜装置に通液し、ナノフィルトレーション膜を洗浄しつつ第2の濃縮液と第2の透過液に分離するナノフィルトレーション膜洗浄系とを有し、かつ、前記第2の濃縮液を、前記インク廃液に合流可能な合流系を有することを特徴とするインク廃液の処理装置。
【請求項4】
前記ナノフィルトレーション膜洗浄系において、前記第1の透過液を前記ナノフィルトレーション膜装置に、前記インク廃液濃縮系における前記インク廃液の導入側とは反対側に導入する、請求項3に記載のインク廃液の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−137008(P2008−137008A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2360(P2008−2360)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【分割の表示】特願2003−116833(P2003−116833)の分割
【原出願日】平成15年4月22日(2003.4.22)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】