説明

インク注入部材、インク注入装置及びインク注入方法

【課題】インクの周辺への飛散を抑えることができるインクタンクへのインク注入部材を提供する。
【解決手段】インク供給部200は、弾性を有する吸収体の収納されたインクタンクの内部にインクを注入する。インク注入部材200は、インクを注入するインク注入方向に対して斜めに傾いて形成された傾斜面201aを先端部に有すると共に、インクを注入可能な注入口201bが傾斜面201aに形成されたインク注入針201を有している。また、インク供給部200は、注入口201bの周囲を覆う位置に配置されることが可能であると共に、注入口201bの周囲を覆う位置と注入口201bが露出される位置との間で注入針201に対して相対的に移動可能な下筒203を有している。そして、インク供給部200は、インク注入針201のインク注入方向に交差する方向への移動を規制する下筒203のフランジ部分203aを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクタンクにインクを注入するためのインク注入部材、インク注入装置及びそれらを用いたインク注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクを貯留するためのインクタンクにインクを注入する方法としては、これまで種々提案されている。インクタンクへインクを注入する方法としては、例えば特許文献1に記載されているように、インクタンクに形成された開口によって注入針の移動を規制した状態で吸収体へ注入針を吸収体に挿入し、インクを吸収体へ注入する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003―54002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクタンクには、インクタンクの内部に負圧を形成するためにインクタンクの内部にスポンジ状の吸収体が配置され、吸収体によってインクを保持する形式のものがある。そのような形式のインクタンクにインクを注入する場合には、吸収体の内部までインクを注入するために、注入口の形成された先端が鋭利に形成されている注入針を用いてインクタンクへのインクの注入を行うインク注入装置が採用されることがある。注入針の先端が鋭利に形成されているので、注入針の先端部分に形成されたインクの注入口を吸収体の内部まで挿入した状態でインクタンクへのインクの注入を行うことができる。このような形式のインクタンクへのインクの注入装置においては、先端をより鋭利に形成するために、針先が斜めに傾いた傾斜面を有して竹槍状に形成された注入針によってインクタンクへのインクの注入が行われるインク注入装置が採用されることがある。
【0005】
しかしながら、針先が斜めに形成されて鋭利に形成されたインクの注入装置が用いられる場合、針先を吸収体の内部に挿入するために押し進めていく際に、吸収体から注入針にかかる反力が非対称となる。そのため、注入針の挿入方向に交差する方向に力が注入針に作用しながら、注入針の挿入が行われていく。また、吸収体の内部に挿入された注入針が引き抜かれる際にも、吸収体から注入針が抜ける瞬間に注入針にかかる非対称な力が開放されることから、注入針の挿入方向に交差する方向に力が作用する。このため、注入針が吸収体から引き抜かれたときに注入針の針先の揺動が生じる可能性がある。このとき、注入針の内部にインクが残っている場合には、そのインクが注入針の周囲に飛散する可能性がある。
【0006】
特許文献1に開示されている方法によってインクが注入される場合には、吸収体から注入針を引き抜くときに注入針の移動を制限することができる。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、注入針が通るための開口が必要となる。また、開口が形成されるための蓋が必要となる。そのため、インクタンクの形状が制限される可能性がある。また、インクタンクの製造時にインクを注入する場合には、インクタンクに蓋が取り付けられていない段階でインクの注入が行われる場合がある。この段階では、注入針の移動を制限するための開口を形成するための部材が無いので、注入針の移動を制限することができない。
【0007】
そこで、本発明は上記の事情に鑑み、インクタンクへのインクの注入の際に、周辺へのインクの飛散を抑えることができるインクタンクへのインク注入部材、インク注入装置及びインク注入方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のインク注入部材は、弾性を有する吸収体の収納されたインクタンクの内部にインクを注入するためのインク注入部材において、インクを注入するインク注入方向に対して斜めに傾いて形成された傾斜面を先端部に有すると共に、インクを注入可能な注入口が前記傾斜面に形成されたインク注入針と、前記注入口の周囲を覆う位置に配置されることが可能であると共に、前記注入口の周囲を覆う位置と前記注入口が露出される位置との間で前記インク注入針に対して相対的に移動可能なカバー部材と、前記インク注入針の前記インク注入方向に交差する方向への移動を規制する規制部材を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インクタンクへのインクの注入において、インクを供給する注入針がインクタンク内部の吸収体から引き抜かれる際に生じるインクの周辺への飛散を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第一実施形態に係るインク注入装置におけるインク供給部について拡大して示した断面図である。
【図2】図1のインク注入装置の全体構成について説明するための説明図である。
【図3】図1のインク注入装置におけるインク供給部によってインクの注入が行われる製造過程のインクタンクについて示した断面図である。
【図4】図3の製造過程にあるインクタンクに蓋が取り付けられて製造工程が完了した後のインクタンク及びそのインクタンクを搭載するためのキャリッジについて示した斜視図である。
【図5】図4のインクタンク及びキャリッジが取り付けられたインクジェット記録装置について示した斜視図である。
【図6】(a)は図1のインク注入装置におけるインク供給部においてインク注入前の待機状態にあるときのインク供給部の断面図であり、(b)はインクの注入が行なわれているときのインク供給部の断面図であり、(c)は注入針が吸収体から引き抜かれるときのインク供給部の断面図である。
【図7】(a)は注入針を吸収体に挿入する際に、注入針に作用する力について説明するための説明図であり、(b)は注入針の周囲に上筒及び下筒の無い場合に生じる注入針の揺動によってインクが飛散する状態について説明するための説明図である。
【図8】本発明の第二実施形態に係るインク注入装置におけるインク供給部について拡大して示した断面図である。
【図9】本発明の第三実施形態に係るインク注入装置におけるインク供給部に用いられる下筒について拡大して示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係るインクタンクへインクの注入を行うインク注入装置について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
(第一実施形態)
図1(a)、(b)は、本発明の第一実施形態に係るインクタンクへ行うインク注入装置のインク供給部の構成を示す模式的な断面図である。図1(a)は、インク注入の行われていない待機状態にあるインク注入装置のインク供給部を示し、図1(b)は、インクをインクタンクに供給している状態のインク注入装置のインク供給部を示している。
【0013】
弾性を有する吸収体の収納されたインクタンクの内部にインクを注入するためのインク注入手段であるインク注入装置1は、インク供給部(インク注入部材)200が支持部材300に固定されている。インク供給部200は、注入針(インク注入針)201と円筒状の上筒202、下筒(カバー部材)203、及びバネ204を有して構成されている。本実施形態では、上筒202及び下筒203は、インク注入針201の周囲を覆うように配置され、それぞれが一端部にフランジ部分202a、203aを有する筒状体として形成されている。
【0014】
上筒202及び下筒203は、それぞれ管状部分202b、203bとフランジ部分202a、203aを有して形成されている。上筒202の管状部分202bは、下筒203の管状部分203bよりも径が小さく、上筒202の管状部分202bの一部が下筒203の管状部分の内側に入り込むように配置されている。上筒202の管状部分202bの一部と下筒203の管状部分203bの一部とが互いに重なって配置され、それらが摺動可能に配置されている。
【0015】
上筒202は、フランジ部分202aが接着、ロウ付け等によって支持部材300に固定されている。これによってインク注入部200の上筒202及び下筒203が支持部材300に固定されており、本実施形態では支持部材300が上筒202及び下筒203を上方から支持している。上筒202の内部にはバネ204が配置されている。バネ204の一端が、上筒202のフランジ部分の内面に接着、ロウ付け等によって固定されている。またバネ204の他端が、下筒203のフランジ部分203aの内面に接着、ロウ付け等によって固定されている。下筒203は、バネ204を介して上筒202に支持されている。従って、バネ204の変形可能な範囲で上筒202のフランジ部分202aと下筒203のフランジ部分203aとの間の距離を変えることができる。
【0016】
注入針201は、支持部材300に固定されている。本実施形態では、注入針201におけるインクを供給する先端とは逆側の端部側の一部が支持部材300に埋めこまれて固定されている。注入針201は、上筒202を貫通するように、上筒202のフランジ部分202aに形成された開口部202cを通して配置されている。また、下筒203のフランジ部分203aには、注入針201の挿通可能な挿通孔203cが形成されており、挿通孔203cの内部で注入針201が下筒203に対して相対的に移動できる。注入針201の内部には、インクを流通させるためのインク流路が形成されている。注入針201は、インクを注入するインク注入方向に対して斜めに傾いて形成された傾斜面201aを先端部に有して鋭利に形成されている。また、斜めに形成された傾斜面201aの一部からインクが外部に供給されるように、注入針201内部のインク流路が注入針201の先端の傾斜面201aで外部と連通している。すなわち、インクを注入可能な注入口201bが、注入針201の先端の斜めに形成された傾斜面に形成されて開口されている。
【0017】
図1(a)に示されるインク注入装置1の待機状態では、注入針201におけるインクの供給を行う注入口201bが、下筒203の内部に収められて配置されている。このように下筒203は、注入口201bの周囲を覆う位置に配置されることが可能である。一方、図1(b)に示されるようにインクをインクタンクに供給している状態では、注入針201の注入口が、下筒203から突出するように配置されている。このように、下筒203は、注入口201bの周囲を覆う位置と注入口201bが露出される位置との間で注入針201に対して相対的に移動可能である。つまり、下筒203のフランジ部分203aは、注入針201の先端の周縁を覆う位置と注入針201の先端が露出される位置との間で注入針201に対して相対的に移動する。また、本実施形態では、図1(a)に示される待機状態では、インクの注入が行われる注入口201bは下筒203の内部に収められているが、注入針201の鋭利な先端の一部は下筒203のフランジ部分203aから下方に突出するように配置されている。
【0018】
なお、本実施形態では、インク注入装置1におけるインク供給部200を構成する注入針201、上筒202及び下筒203は、全てステンレス等の金属が用いられて形成されている。しかしながら、加工性、動作時の摺動性を考慮し、上筒202及び下筒203に関しては、ポリアセタール、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂によって形成されてもよい。
【0019】
インク注入装置1についての全体の構成を示した概略図を図2に示す。インク供給部200は供給路を介してインクが貯留されるインク貯留部400に接続されている。インク貯留部400からインクが供給路401を介してインク供給部200にインクが供給される。供給路401には、ポンプ500が配置されており、ポンプ500を駆動することで、インク貯留部400からインク供給部200へインクを供給する。注入針201の内部に形成されたインク流路は、インク貯留部400からインク供給部200にインクが供給される供給路401に連通している。図2に示されるように、供給路401は、注入針201の先端側とは逆側の端部に連通して接続されている。このように、インク供給部200に所定量のインクを供給可能なインク供給機構が構成されている。支持部材300は、インクタンク100に対して相対的に移動可能に形成されている。従って、インク注入装置1におけるインク供給部200をインクタンク100に対して、接離可能とされている。
【0020】
上述のようなインク注入装置1が用いられてインクタンク100の内部にインクの注入が行われる。次に、インクの注入が行われるインクタンク100の構成について説明する。
【0021】
図3にインクタンク100についての断面図を示す。図3のインクタンク100は、製造過程にあり、インクはまだ内部に注入されてなく、蓋が取り付けられる前の状態である。この状態のインクタンク100に対して、上方からインク注入装置1によってインクが注入される。本実施形態では、インクタンク100は、インクを保持するインクタンクユニット101とインクを吐出する記録ヘッドの取り付けられるヘッドユニット105を有している。そのため、インクタンク100に記録ヘッドが取り付けられて、インクカートリッジとして機能する。インクタンクユニット101にはインクを保持するために吸収体102がインクタンク容器103に収納されている。本実施形態では、吸収体102は、ポリプロピレンを主とする繊維を圧縮したもので構成されている。なお、吸収体102は、他の材料によって形成されても良く、ウレタンなどの発泡体で形成されても良い。インクタンクユニット101とヘッドユニット105との境目にはヘッドユニット105へのゴミの侵入を防ぐためにフィルター104がインクタンクに溶着されている。また、フィルター104の下部には、インクタンクユニット101から記録ヘッドへ連通するインク流路が形成されている。従って、インクタンク100がキャリッジに取り付けられたときには、インクタンク100のヘッドユニット105に形成されたインク流路がキャリッジ側に形成されたインク流路と連通する。このインク流路が記録ヘッドに連通するようにインク流路が形成されており、このインク流路によって記録ヘッドにインクが供給可能なようにインク流路が形成されている。この状態のインクタンクに対して、インク注入装置1によってインクの注入が行われ、それからインクタンクの蓋が取り付けられ、内部にインクの充填されたインクタンクが製造される。
【0022】
図4(a)、(b)に、インクタンク100についての斜視図が示されている。図4(a)は、インクタンク100がキャリッジ7に搭載されたときのインクタンク100及びキャリッジ7の斜視図であり、図4(b)は、インクタンク100がキャリッジ7から取外された状態のインクタンク100及びキャリッジ7の斜視図である。図4(a)、(b)に示されるインクタンク100は、製造が完了したものであり、既に蓋が取り付けられている。キャリッジ7にはマゼンタ(M)、シアン(C)、イエロー(Y)、ブラック(K)のインクをそれぞれ収容した4つのインクタンク100a〜100dが搭載されている。これら4つのインクタンク100は、それぞれ独立してキャリッジ7に着脱可能である。
【0023】
図5に、本実施形態のインクタンク100が用いられるインクジェット記録装置9について模式的に示した斜視図を示す。キャリッジ7がキャリッジモータによって駆動され、キャリッジ7は主走査方向に往復移動する。その往復移動の間にキャリッジ7に搭載された記録ヘッド8から記録媒体にインクを吐出することで記録媒体Pの全幅にわたって記録が行われる。
【0024】
図5に示される記録装置9は、キャリッジ7に4つのインクタンク100が搭載されていることから、4色のインクを吐出することができ、カラー記録が可能である。
【0025】
本実施形態では、記録ヘッド8は、記録信号に応じてエネルギーを内部のインクに印加することにより、複数の吐出口からインクを選択的に吐出して記録を行う。特に、本実施形態の記録装置9に用いられている記録ヘッド8は、熱エネルギーを利用してインクを吐出する方式を採用している。記録ヘッド8は、熱エネルギーを発生するための電気熱変換体を備え、その電気熱変換体に印加される電気エネルギーを熱エネルギーに変換させる。そして、その熱エネルギーをインクに与えることによりインクに膜沸騰を生じさせ、これによって生じる気泡の成長、収縮による圧力変化を利用して、吐出口よりインクを吐出させる。この電気熱変換体は各吐出口のそれぞれに対応して設けられ、記録信号に応じて対応する電気熱変換体にパルス電圧を印加することによって対応する吐出口からインクを吐出する。
【0026】
なお、本実施形態では、記録ヘッド8として熱エネルギーを利用してインクを吐出する方式が採用されているが、本発明はこの方式の記録ヘッド8に用いられるインクタンクに限定されない。本発明は、着脱可能なインクタンクに用いられるのであれば、ピエゾ素子を用いた圧力室内の体積変化によって記録ヘッドからインクを吐出する方式の記録装置に用いられるインクタンクに採用されても良い。また、その他の方式の記録装置に用いられたインクタンクに採用されても良い。
【0027】
図5に示されるように、キャリッジ7はキャリッジモータの駆動力を伝達する伝達機構としての駆動ベルト10の一部に連結されている。これにより、キャリッジ2は、ガイドシャフト11に沿って矢印A方向に摺動自在に案内支持されるようになっている。さらに、記録装置9は、記録媒体Pを搬送するために搬送モータによって駆動される搬送ローラ12を有している。搬送モータの回転により、搬送ローラ12が駆動される。
【0028】
なお、本実施形態におけるインクタンク6は、記録ヘッド8の主走査方向の移動と、記録媒体の副走査方向の搬送と、を伴って画像を記録するいわゆるシリアルスキャンタイプの記録装置に用いられている。しかしながら、本発明は記録媒体の幅方向の全域に亘って延在する記録ヘッドを用いるフルラインタイプの記録装置に用いられるインクタンクにも適用可能である。
【0029】
次に、インクタンク100へインク供給部200を用いて吸収体102へインクを注入する方法について図6を用いて説明する。図6(a)はインク注入動作前の待機状態の際のインク供給部200について示している。また、図6(b)は、インク注入状態にあるインク供給部200について示している。図6(c)は、インク注入が完了しインク供給部200をインクタンク100の吸収体102から脱抜する状態(吸収体102から離れる直前状態)について示している。
【0030】
本実施形態の注入針ユニット200によってインクが注入される際には、図6(a)に示されるように、インク供給部200は、通常の待機状態で下方に移動してインクタンク内に配置されている吸収体102に近接し、吸収体102と下筒203とが接触する。このときの注入針ユニット200の移動は、注入針ユニット200を支持する支持部材300が下方に移動することによって行われる。注入針ユニット200が吸収体102に接触した状態でさらに注入針ユニット200がインクタンク側への移動を行うと、下筒203のフランジ部分203aを吸収体102に圧接させることで上筒202に対して下筒203が相対的に移動する。これにより、上筒202のフランジ部分202aと下筒203のフランジ部分203aとの間の距離が短くなる。下筒203のフランジ部分203aが上筒202に近づき支持部材300に近づくことから、図6(b)に示されるように支持部材300に一部が埋め込まれている注入針201の先端が下筒203から突出して露出される。このように、下筒203のフランジ部分203aを、注入口が露出される位置まで注入針201に対して相対的に移動させる。このとき、下筒203は吸収体102に接触していることから、下筒203から突出して露出された注入針201の先端は吸収体102の内部に挿入される(注入針挿入ステップ)。注入針201を吸収体102の内部に挿入する際には、注入針201の先端が斜めに形成されていることから吸収体102から注入針201の受ける力が斜面で分解されて非対称となる。そのため、注入針201には、注入針201の吸収体102への挿入方向に対して交差する方向に、一方に力が作用した状態で吸収体102への挿入が行われる。すなわち、注入針201による吸収体102への挿入が行われると、図7(a)に示されるように注入針が移動するような力が注入針201に作用する。注入針201の先端の位置が吸収体102の内部の注入位置に到達したところで支持部材300の下方への移動が止められ、そこで注入針201からインクタンクの内部へのインクの供給が行われる。このとき、インクの注入は、注入針201の先端に形成された注入口201bから行われるので、吸収体102内部の所望の位置でインクの供給を行うことができる。
【0031】
この状態で、インクタンク内部に所定量のインクが注入されるまで、インク注入針の注入口からインクタンクにインクの注入が行われる(インク注入ステップ)。そして、所定量のインクの注入が完了したところで、支持部材300が上方に移動することで注入針201が上方に移動し、注入針201が吸収体102から引き抜かれる。ここで、注入針201が引き抜かれる際には、注入針201の先端が斜めに形成されていることから注入針201を吸収体102の内部に挿入する際に作用していた注入針201の吸収体102への挿入方向に対して交差する方向への力が開放されることになる。そのため、仮に上筒202及び下筒203の無い状態でインクの挿入、注入、引き抜きが行われた場合には、注入針201が吸収体から出るときに、図7(b)に示されるように、注入針201の揺動が生じる可能性がある。このような揺動が生じると、注入針の内部に残留したインクが注入針の周囲に飛散し、インクタンクの周囲及びインクタンクと蓋との間の接合面を汚してしまう可能性がある。もし、インクタンクと蓋との間の接合面が汚れた状態のまま蓋がインクタンクに取り付けられた場合、インクタンクの機密性が保たれない虞があり、製造された後、流通過程でインクがインクタンクから漏れる可能性がある。
【0032】
しかしながら、本実施形態のインク供給部200は、上筒202及び下筒203を有している。そのため、注入針201がインクタンク100内部の吸収体102から引き抜かれる際には、注入針201の先端に形成されたインクの注入口201bが下筒203の内部に収められることになる。すなわち、下筒203が注入口201bの周囲を覆う位置に、注入針201に対して相対的に移動し、下筒203によって周囲を覆われながら注入針201が吸収体102から引き抜かれる(注入針引き抜きステップ)。従って、注入針201が吸収体102から出たときに注入針201が揺動して注入口201bから注入針201の内部に残ったインクが飛散したとしても、インクは下筒203の内壁に受け止められる。従って、インクがインクタンク100の周辺に飛散することが抑えられる。また、注入針201から飛散したインクがインクタンクと蓋との接合面に付着して、インクタンクと蓋との間の機密性が損なわれることを抑えることができる。注入針201の内部に残ったインクは、下筒203のフランジ部分の挿通孔203cを通って落下し、吸収体102に吸収される。
【0033】
また、注入針201は、下筒203のフランジ部分(規制部材)203aに形成された挿通孔を通るように配置されているので、インク注入針201による吸収体102へのインク注入方向に交差する方向(図6(c)に示される横方向)への移動を規制している。すなわち、下筒203のフランジ部分203aが、注入針201の周縁を囲み、注入針201の動作を規制している。本実施形態では、注入針201は、下筒203のフランジ部分203aに形成された挿通孔203cの壁面に接触している。従って、注入針201が吸収体102から引き抜かれたときに、注入針201に力が作用したとしても、注入針201が下筒203のフランジ部分203aに形成された挿通孔203cの壁面に当接する。注入針201は、それ以上、挿入方向に交差する方向へ移動できない。このように、下筒203のフランジ部分203aによってインク注入針201のインク注入方向に交差する方向への移動が規制されながら、注入針201の吸収体からの引き抜きが行われる。つまり、下筒203のフランジ部分203aが、注入針201を吸収体から引き抜く際の挿通方向に交差する方向への注入針201の振動を規制する。これにより、吸収体102への挿入方向に交差する方向への注入針201の揺動が生じることを抑えることができる。従って、注入針201内に残っているインクが飛散することを抑えることができる。
【0034】
なお、下筒203は、インク供給部200が待機状態にあるときに、必ずしも注入針201の全周を覆って配置されなくても良く、注入針201の周囲を部分的に覆うように配置されても良い。注入針が吸収体から引き抜かれたときに、注入針の針先に生じる揺動によって飛散するインクを受け止めることのできる位置に、下筒203が配置されていれば良い。また、注入針201の傾斜面201aの向いている方向によって注入針201の揺動する方向が決まり、それによってインクの飛散する方向が概ね決まっているのであれば、注入針を覆う下筒203の壁面は、少なくてもその方向を覆うように配置されていれば良い。
【0035】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態に係るインクタンクへインクの注入を行なうインク注入装置について説明する。なお、上記第一実施形態と同様に構成される部分については図中同一符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0036】
第一実施形態では、上筒のフランジ部分がバネを支持するようにバネが上筒のフランジ部分に取り付けられ、そのバネに下筒のフランジ部分が取り付けられることで、バネを介して上筒が下筒を支持するように下筒が上筒に取り付けられている。これに対して第二実施形態のインク注入装置のインク供給部600では、上筒602のフランジ部分602aとは逆側の端部に管状部分602bよりも外側に突出した突出部602cが形成されている。また、下筒603には管状部分603bから内側に突出した突出部603cが形成されている。そして、下筒603の内側への突出部603cが上筒602の外側への突出部602cを越えて上筒602と下筒603とが重なる部分が生じるように配置されてこれらが係合することで上筒602に下筒603が摺動可能に取り付けられている。
【0037】
図8は、本発明の第二実施形態に係るインクタンクへインクの注入を行なうインク注入装置のインク供給部600について示した模式的な断面図である。図8に示されるように、第二実施形態のインクの注入装置においてはバネがない構成になっている。従って、注入針ユニット300の下筒303の下方への移動は、重量によってのみなされる。
【0038】
(第三実施形態)
次に、本発明の第三実施形態に係るインクタンクへインクの注入を行なうインク注入装置について説明する。なお、上記第一実施形態及び第二実施形態と同様に構成される部分については図中同一符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0039】
第一実施形態及び第二実施形態では、下筒における注入針の先端側に形成されたフランジ部分は、管状部分の端部に形成されている。これに対して第三実施形態のインク注入装置においては、下筒における注入針の先端側に形成されたフランジ部分は、フランジ部分が管状部分の端部ではない部分に形成されている。
【0040】
図9に、第三実施形態におけるインク注入装置に用いられる下筒703の模式的な断面図を示す。下筒703のフランジ部分703aは管状部分703bの端部ではない部分に形成されており、これによって注入針の針先の先端部分を収納する部分にスペース703dが形成されている。これにより、注入針の針先が吸収体から引き抜かれたときに注入針に揺動が生じたとしても、注入針の揺動はスペース703dの内部で行われる。そして、飛散するインクは、下筒703のスペース703dを形成する壁面によって受け止められる。そして、スペース703dを形成する壁面で受け止められたインクは、下筒703から落下して吸収体102に吸収される。
【0041】
本実施形態では、注入針と下筒703の挿通孔703cの内壁面との間にある摺動のために必要なクリアランスによって発生する微細な針先の揺れによりインクの飛散が生じたとしても、この飛散するインクをスペース703dによって受け止めることができる。このように飛散するインクに対応できるため、第一実施形態及び第二実施形態のインク注入装置に比べてさらに効率的にインクの回収を行なうことができる。
【0042】
なお、本明細書において、「記録」とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わずに用いられる。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または記録媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0043】
また、「記録装置」とは、プリンタ、プリンタ複合機、複写機、ファクシミリ装置などのプリント機能を有する装置、ならびにインクジェット技術を用いて物品の製造を行なう製造装置を含む。
【0044】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものを表すものとする。
【0045】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきものである。記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【符号の説明】
【0046】
200 インク供給部
201 注入針
202、602 上筒
203、603、703 下筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性を有する吸収体の収納されたインクタンクの内部にインクを注入するためのインク注入部材において、
インクを注入するインク注入方向に対して斜めに傾いて形成された傾斜面を先端部に有すると共に、インクを注入可能な注入口が前記傾斜面に形成されたインク注入針と、
前記注入口の周囲を覆う位置に配置されることが可能であると共に、前記注入口の周囲を覆う位置と前記注入口が露出される位置との間で前記インク注入針に対して相対的に移動可能なカバー部材と、
前記インク注入針の前記インク注入方向に交差する方向への移動を規制する規制部材を有することを特徴とするインク注入部材。
【請求項2】
前記カバー部材は、前記インク注入針の周囲を覆うように配置された筒状体であって、
前記規制部材は、前記インク注入針の挿通可能な挿通孔が形成され、前記筒状体の有するフランジであることを特徴とする請求項1に記載のインク注入部材。
【請求項3】
インクの貯留されたインク貯留部からインクが供給され、弾性を有する吸収体の収納されたインクタンクの内部にインクを注入するためのインク注入装置において、
インクを注入するインク注入方向に対して斜めに傾いて形成された傾斜面を先端部に有すると共に、インクを注入可能な注入口が前記傾斜面に形成されたインク注入針と、
前記インク注入針が取り付けられ、前記インクタンクに対して接離可能な支持部材と、
前記インク注入針に所定量のインクを供給可能なインク供給機構と、
前記注入口の周囲を覆う位置に配置されることが可能であると共に、前記注入口の周囲を覆う位置と前記注入口が露出される位置との間で前記インク注入針に対して相対的に移動可能なカバー部材と、
前記インク注入針の前記インク注入方向に交差する方向への移動を規制する規制部材を有することを特徴とするインク注入装置。
【請求項4】
弾性を有する吸収体の収納されたインクタンクの内部にインクを注入するためのインク注入部材であって、インクを注入するインク注入方向に対して斜めに傾いて形成された傾斜面を先端部に有すると共に、インクを注入可能な注入口が前記傾斜面に形成されたインク注入針と、前記注入口の周囲を覆う位置に配置されることが可能であると共に、前記注入口の周囲を覆う位置と前記注入口が露出される位置との間で前記インク注入針に対して相対的に移動可能なカバー部材と、前記インク注入針の前記インク注入方向に交差する方向への移動を規制する規制部材とを有するインク注入部材によってインクタンクにインクを注入するインク注入方法において、
前記カバー部材を前記吸収体に圧接させて、前記カバー部材を前記注入口が露出される位置に前記インク注入針に対して相対的に移動させつつ、露出された前記インク注入針を前記吸収体に挿入する注入針挿入ステップと、
前記インク注入針の前記注入口からインクを前記インクタンクの内部に注入するインク注入ステップと、
前記規制部材によって前記インク注入針の前記インク注入方向に交差する方向への移動が規制されながら、前記カバー部材が前記注入口の周囲を覆う位置に前記インク注入針に対して相対的に移動し、前記カバー部材によって周囲を覆われながら前記インク注入針が前記吸収体から引き抜かれる注入針引き抜きステップとを有することを特徴とするインク注入方法。
【請求項5】
インク貯留部と、
該インク貯留部と連通して、吸収体が収納されたインクタンクの吸収体に挿通され前記インクタンクにインクを注入するのに用いられるインク注入針と、
前記インク貯留部から前記インク注入針を介して前記インクタンクにインクを供給するインク供給機構と、
を具備するインク注入装置において、
前記インク注入針の周縁を囲み動作を規制する規制部材を具備しており、この規制部材は前記インク注入針の先端の周縁を覆う位置と前記インク注入針の先端が露出される位置との間で前記インク注入針に対して相対的に移動する構成であり、前記インク注入針を吸収体から引き抜く際の挿通方向に交差する方向への振動を規制することを特徴とするインク注入装置。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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