説明

インク組成物、インクカートリッジ、これらを用いた記録方法および記録物

【課題】起泡発生が少なく消泡性が良好であるとともに、印字安定性が優れ、高い画像堅牢性と美麗な発色を可能にしたインク組成物と、該インク組成物を用いたインクジェット記録方法と、該記録方法で得られる記録物とを提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるマゼンタ染料と、下記一般式(2)で表されるベタイン系界面活性剤と、下記一般式(3)で表される消泡剤と、を含有することを特徴とするインク組成物。
【化1】


【化2】


【化3】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物、これを用いた記録方法および記録物に関し、特に、起泡が少なく、消泡性が良好であり、従って信頼性(目詰まり回復性及び吐出安定性等)に優れ、美麗な発色を可能にするとともに、その画像堅牢性(耐光性、耐湿性など)にも優れ、且つ長期間に亘ってプリンタの性能を維持することができるインク組成物と、かかる特性を有するインク組成物を用いたインクジェット記録方法と、該記録方法で得られる美麗な発色状態を長期間に亘って維持する記録物とに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インクの小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて印刷を行う印刷方法である。インクとしては、例えば、着色剤である顔料や染料を、界面活性剤や樹脂微粒子と共に使用した組成物として利用することで、印刷品質や印刷物の保存性を向上させる提案がなされている。
【0003】
しかしながら、このような界面活性剤の利用は、その特性から高い起泡性と低い消泡性をインクにもたらすため、界面活性剤を含有するインク組成物は、吐出安定性や目詰まり回復性等の信頼性に欠けるという問題があった(特許文献1参照)。そこで、界面活性剤を含有するインク組成物の起泡を抑制し、消泡性を向上させる技術が求められている。
【0004】
一方において、近年のインクジェットプリンタに対する高い印刷品質や印刷物の保存性への希求により、さらに多様な界面活性剤(例えばベタイン系界面活性剤など)や樹脂微粒子の利用が検討されている(特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−315739号公報
【特許文献2】特開2005−187790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の諸点を考慮し、起泡発生が少なく消泡性が良好であるとともに、印字安定性が優れ、高い画像堅牢性と美麗な発色を可能にしたインク組成物と、かかる特性を有するインク組成物を用いたインクジェット記録方法と、該記録方法で得られる高画質な記録物とを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行ったところ、少なくとも、特定のマゼンタ染料、特定のベタイン系界面活性剤および特定の消泡剤とを含有するインク組成物が、起泡性や消泡性において飛躍的な改良効果を示すとの知見を得た。
【0008】
本発明はかかる知見に基づきなされたものであり、以下の発明を提供するものである。
[1]下記一般式(1)で表されるマゼンタ染料と、下記一般式(2)で表されるベタイン系界面活性剤と、下記一般式(3)で表される消泡剤と、を含有することを特徴とするインク組成物;
【0009】
【化1】

(上記式中、Aは5員複素環ジアゾ成分A−NH2の残基を表す。B1およびB2は、各々−CR1=、−CR2=を表すか、あるいはいずれか一方が窒素原子、他方が−CR1=または−CR3=を表す。R5、R6は、各々独立に、水素原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、またはスルファモイル基を表す。各基はさらに置換基を有していてもよい。G、R1、R2は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキル基またはアリール基または複素環基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ニトロ基、アルキルおよびアリールチオ基、アルキルおよびアリールスルホニル基、アルキルおよびアリールスルフィニル基、スルファモイル基、スルホ基、またはヘテロ環チオ基を表す。各基は更に置換されていてもよい。また、R1とR5、あるいはR1とR3が結合して5〜6員環を形成してもよい。)
【0010】
【化2】

(上記式中、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、またはヘテロ環基を表す。Lは2価以上の連結基を表す。Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム基、プロトン化された有機アミンもしくは含窒素へテロ環基、4級アンモニウムイオン基を表し、上記式中のN原子からなるアンモニウムイオンの対イオンとなる場合は、カチオンとして存在しない基を表す。qは1以上の整数を表し、rは1以上4以下の整数を表す。pは0以上4以下の整数を表し、p+rは3もしくは4である。p+rが4である場合Nは4級アミンを構成する窒素原子となる。pが2以上の時Rは同じでも異なっていてもよい。qが2以上の時COOMは同じでも異なっていてもよい。rが2以上の時はL−(COOM)qは同じでも異なっていてもよい。)
【0011】
【化3】

(上記式中、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数1〜8のアルキル基を表し、R3はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、−O−R4−はそれぞれ独立にオキシエチル、オキシプロピル、オキシブチルのいずれかを表し、R5は2価の連結基を表し、k、l、m、nはそれぞれ1〜100の整数を表す。)
【0012】
[2]前記消泡剤の含有量が、0.1〜1.0重量%であることを特徴とする[1]に記載のインク組成物;
【0013】
[3]前記ベタイン系界面活性剤に対する、前記消泡剤の含有割合が、重量比で、1:0.1〜1:1.7であることを特徴とする[1]又は2に記載のインク組成物;
【0014】
[4]前記一般式(1)で表されるマゼンタ染料が、下記一般式(4)で表されるマゼンタ染料であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれか1に記載のインク組成物。
【0015】
【化4】

(上記式中、R11およびR12は各々独立に、アルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を表すが、R11およびR12が共にアルキル基である時は、そのアルキル基を構成する炭素数の合計が3以上であって、それらはさらに置換されていてもよい。R13、R14、R15は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、複素環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、複素環アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルフアモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ニトロ基、アルキルもしくはアリールチオ基、アルキルもしくはアリールスルホニル基、アルキルもしくはアリールスルフィニル基、スルファモイル基、スルホ基、または複素環チオ基を表す。各基は更に置換されていてもよい。また、R11とR15、または、R12とR13で互いに縮環していてもよい。Xは、水素原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基を表し、YおよびZは、各々独立に、水素原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、またはスルファモイル基を表す。各基はさらに置換基を有していてもよい。)
【0016】
[5]前記一般式(1)で表されるマゼンタ染料が、下記一般式(5)で表されるマゼンタ染料であることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれか1に記載のインク組成物;
【0017】
【化5】

(上記式中、R1およびR2は各々独立に、アルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を表すが、R1およびR2が共にアルキル基である時は、そのアルキル基を構成する炭素数の合計が3以上であって、それらはさらに置換されていてもよい。R3、R4、R5は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、複素環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、複素環アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルフアモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ニトロ基、アルキルもしくはアリールチオ基、アルキルもしくはアリールスルホニル基、アルキルもしくはアリールスルフィニル基、スルファモイル基、スルホ基、または複素環チオ基を表す。各基は更に置換されていてもよい。また、R1とR5、または、R2とR3で互いに縮環していてもよい。R11およびR12は各々独立に、アルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を表すが、R11およびR12が共にアルキル基である時は、そのアルキル基を構成する炭素数の合計が3以上であって、それらはさらに置換されていてもよい。R13、R14、R15は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、複素環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、複素環アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルフアモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ニトロ基、アルキルもしくはアリールチオ基、アルキルもしくはアリールスルホニル基、アルキルもしくはアリールスルフィニル基、スルファモイル基、スルホ基、または複素環チオ基を表す。各基は更に置換されていてもよい。また、R11とR15、または、R12とR13で互いに縮環していてもよい。Mは、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム又は有機アミンを表す。)
【0018】
[6]前記一般式(1)で表されるマゼンタ染料が、下記式(6)で表されるマゼンタ染料であることを特徴とする、[1]〜[5]のいずれか1に記載のインク組成物;
【0019】
【化6】

【0020】
[7]前記マゼンタ染料の含有量が、インク組成物の全量に対して0.50〜5.00重量%である[1]〜[6]のいずれか1に記載のインク組成物;
【0021】
[8]前記一般式(2)で表されるベタイン系界面活性剤が、下記一般式(7)で表される化合物であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれか1に記載のインク組成物;
【0022】
【化7】

(上記式中、R1〜R3は、炭素数が1〜20のアルキル基を表し、Xは、2価の連結基を表す。)
【0023】
[9]前記一般式(2)で表されるベタイン系界面活性剤が、下記式(8)で表される化合物であることを特徴とする[1]〜[8]のいずれか1に記載のインク組成物;
【0024】
【化8】

【0025】
[10]前記ベタイン系界面活性剤に対する、前記マゼンタ染料の含有量が、重量比で、1:10〜1:0.13であることを特徴とする[1]〜[9]の何れか1項に記載のインク組成物。
【0026】
[11]インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録方法において用いられることを特徴とする、[1]〜[10]の何れか1に記載のインク組成物;
【0027】
[12]前記インクジェット記録方法が、圧電素子の機械的変形によりインク滴を形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法であることを特徴とする、[11]に記載のインク組成物;
【0028】
[13][1]〜[10]の何れか1に記載のインク組成物を充填したインクカートリッジ:
【0029】
[14]インクジェット記録方法であって、インク組成物として[1]〜[10]の何れか1に記載のインク組成物を使用すること、または[13]に記載のインクカートリッジを使用することを特徴とするインクジェット記録方法;
【0030】
[15][14]に記載のインクジェット記録方法により記録されたことを特徴とする記録物。
【発明の効果】
【0031】
本発明のインク組成物は、画像堅牢性(耐光性、耐湿性など)にも優れ、かつ泡立ち性が少なく泡消え性に優れているとともに、印字安定性が良好であるため、インクジェットプリンタ用インクとして好適に用いることができる。このため、本発明のインク組成物は、一般的なインクジェット記録方法において、高画質な記録物を提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の好ましい形態について説明する。
【0033】
[マゼンタ染料]
本実施形態のインク組成物に用いられるマゼンタ染料は、下記の一般式(1)で表されるマゼンタ染料である。
【0034】
【化9】

【0035】
上記式中、Aは5員複素環ジアゾ成分A−NH2の残基を表す。B1およびB2は、各々−CR1=、−CR2=を表すか、あるいはいずれか一方が窒素原子、他方が−CR1=または−CR3=を表す。
【0036】
5、R6は、各々独立に、水素原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、またはスルファモイル基を表す。各基はさらに置換基を有していてもよい。
【0037】
G、R1、R2は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキル基またはアリール基または複素環基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ニトロ基、アルキルおよびアリールチオ基、アルキルおよびアリールスルホニル基、アルキルおよびアリールスルフィニル基、スルファモイル基、スルホ基、またはヘテロ環チオ基を表す。各基は更に置換されていてもよい。
【0038】
また、R1とR5、あるいはR1とR3が結合して5〜6員環を形成してもよい。
【0039】
前記一般式(1)で表されるマゼンタ染料は、耐光性および耐オゾン性の観点から、下記一般式(4)で表されるマゼンタ染料であることが好ましい。
【0040】
【化10】

【0041】
上記式中、R11およびR12は各々独立に、アルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を表すが、R11およびR12が共にアルキル基である時は、そのアルキル基を構成する炭素数の合計が3以上であって、それらはさらに置換されていてもよい。R13、R14、R15は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、複素環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、複素環アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルフアモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ニトロ基、アルキルもしくはアリールチオ基、アルキルもしくはアリールスルホニル基、アルキルもしくはアリールスルフィニル基、スルファモイル基、スルホ基、または複素環チオ基を表す。各基は更に置換されていてもよい。また、R11とR15、または、R12とR13で互いに縮環していてもよい。
【0042】
Xは、水素原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基を表し、YおよびZは、各々独立に、水素原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、またはスルファモイル基を表す。各基はさらに置換基を有していてもよい。
【0043】
また、前記一般式(1)で表されるマゼンタ染料は、更に耐光性、耐オゾン性の観点から、下記一般式(5)で表されるマゼンタ染料であることがより好ましい。
【0044】
【化11】

【0045】
上記式中、R1およびR2は各々独立に、アルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を表すが、R1およびR2が共にアルキル基である時は、そのアルキル基を構成する炭素数の合計が3以上であって、それらはさらに置換されていてもよい。R3、R4、R5は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、複素環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、複素環アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルフアモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ニトロ基、アルキルもしくはアリールチオ基、アルキルもしくはアリールスルホニル基、アルキルもしくはアリールスルフィニル基、スルファモイル基、スルホ基、または複素環チオ基を表す。各基は更に置換されていてもよい。また、R1とR5、または、R2とR3で互いに縮環していてもよい。
【0046】
11およびR12は各々独立に、アルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を表すが、R11およびR12が共にアルキル基である時は、そのアルキル基を構成する炭素数の合計が3以上であって、それらはさらに置換されていてもよい。R13、R14、R15は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、複素環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、複素環アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルフアモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ニトロ基、アルキルもしくはアリールチオ基、アルキルもしくはアリールスルホニル基、アルキルもしくはアリールスルフィニル基、スルファモイル基、スルホ基、または複素環チオ基を表す。各基は更に置換されていてもよい。また、R11とR15、または、R12とR13で互いに縮環していてもよい。Mは水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム又は有機アミンを表す。
【0047】
また、前記一般式(1)で表されるマゼンタ染料は、耐光性、耐オゾン性および水に対する溶解性の観点から、下記式(6)で表されるマゼンタ染料であることがさらに好ましい。
【0048】
【化12】

【0049】
前記マゼンタ染料の含有量は、十分な発色濃度を得、且つ目詰まり信頼性を維持する観点から、インク組成物の全量に対して0.50〜5.00重量%であることが好ましい。また、前記マゼンタ染料とベタイン系界面活性剤とを、重量比で、1:1.2〜1:0.2の割合で配合することにより、画像堅牢性(耐光性、耐湿性など)にも優れ、且つ充分な目詰まり回復性を持つというバランスの良いインク組成物を得ることができる。
【0050】
[ベタイン系界面活性剤]
本実施形態のインク組成物に用いられるベタイン系界面活性剤は、下記一般式(2)の化合物で表されるベタイン系界面活性剤である。
【0051】
【化13】

【0052】
上記式中、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、またはヘテロ環基を表す。
Lは2価以上の連結基を表す。Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム基、プロトン化された有機アミンもしくは含窒素へテロ環基、4級アンモニウムイオン基を表し、上記式中のN原子からなるアンモニウムイオンの対イオンとなる場合は、カチオンとして存在しない基を表す。
【0053】
qは1以上の整数を表し、rは1以上4以下の整数を表す。pは0以上4以下の整数を表し、p+rは3もしくは4である。p+rが4である場合Nは4級アミンを構成する窒素原子となる。pが2以上の時Rは同じでも異なっていてもよい。qが2以上の時COOMは同じでも異なっていてもよい。rが2以上の時はL−(COOM)qは同じでも異なっていてもよい。
【0054】
本実施形態のインク組成物に用いられるベタイン系界面活性剤としては、上記一般式(1)で表される染料を用いたインク組成物の被印刷物への定着性向上及び、耐光性、耐オゾン性の点から、下記式(7)の一般式で表されるベタイン系界面活性剤が好ましい。下記式(7)の一般式で表される化合物は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0055】
【化14】

【0056】
上記式中、R1〜R3は、炭素数が1〜20のアルキル基を表し、Xは、2価の連結基を表す。
【0057】
本実施形態のインク組成物に用いられるベタイン系界面活性剤としては、インク組成物の被印刷物への定着性向上の点から、下記式(8)で表されるベタイン系界面活性剤がより好ましい。
【0058】
【化15】

【0059】
本実施形態のインク組成物に用いられるベタイン系界面活性剤の含有量は、インク組成物の全量に対して0.6〜1.0重量%であることが好ましい。
【0060】
[消泡剤]
本実施形態のインク組成物に使用される消泡剤は、サーフィノールMD20、BYK−1660、スターファクタント(Starfactant)20、BYK−020、BYK−080AおよびBYK−1650からなる群から選択された1種または2種以上である。
【0061】
ここで、上記サーフィノールMD20(Lot. 170824)は、エアープロダクツジャパン社製のジアセチレンテトラオール系消泡剤である。上記BYK−020(Lot. 0110016500),BYK−080A(Lot. 0110046810),BYK−1650(Lot. 0110108980)およびBYK−1660(Lot. 0110014860)は、ビックケミー・ジャパン社製のシリコーン系消泡剤である。上記スターファクタント(Starfactant)20(Lot. 10228)は、コグニス ジャパン社製の破泡性ポリマー系消泡剤である。
【0062】
上記消泡剤の中でも、起泡抑制効果及び消泡性の点、さらにインクジェットプリンタ用インク組成物に用いた場合の、インク滴の飛翔安定性から、ジアセチレンテトラオール系消泡剤が最も好ましい。なお、前記インク滴の飛翔安定性は、インク滴の飛翔開始時もしくは飛翔中にインク滴が安定して飛翔できる速度の範囲で評価される。
【0063】
上記ジアセチレンテトラオール系消泡剤の一般式を下記式(3)で表す。下記一般式(3)で表されるジアセチレンテトラオール系消泡剤としては、例えば、エアープロダクツジャパン社製のサーフィノールMD20が挙げられる。
【0064】
【化16】

【0065】
上記式中、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数1〜8のアルキル基を表し、R3はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、−O−R4−はそれぞれ独立にオキシエチル、オキシプロピル、オキシブチルのいずれかを表し、R5は2価の連結基を表し、k、l、m、nはそれぞれ1〜100の整数を表す。
【0066】
消泡剤の配合量は、少なすぎるとインク組成物に十分な起泡抑制効果や消泡向上性が得られず、多すぎても印字安定性(インク滴の飛翔安定性など)が損なわれる。このため、本実施形態では、インク組成物中に0.1〜1.0重量%の範囲で含有されることが好ましい。
【0067】
ベタイン系界面活性剤と消泡剤とを、重量比で1:0.1〜1:1.7の配合割合で配合することにより、インク組成物全体として、十分な起泡抑制効果や消泡向上性が得られ、印字安定性に優れるというバランスの良いインク組成物を得ることができる。
【0068】
本実施形態におけるインク組成物の静的表面張力は、小さすぎると、安定した吐出量及び飛翔形状を得られない場合があり、大きすぎると、発生した気泡が消えにくい場合があるため、20〜40mN/mの範囲内が好ましく、26〜34mN/mであることがより好ましい。なお、本発明における静的表面張力は、JIS K 3362に準拠する方法により、市販のウィルヘルミ式表面張力計を用いて測定した値である。
【0069】
さらに、本実施形態におけるインク組成物の20℃における粘度は、小さすぎても大きすぎても吐出安定性が低下するため、2〜10mPa・sの範囲内が好ましく、3.5〜4.5mPa・sであることがより好ましい。なお、この粘度は、市販の粘度計等により測定することができる。
【0070】
[その他のインク成分]
さらに、本実施形態においては、前述のベタイン系界面活性剤のほかに、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤およびカチオン系界面活性剤を含有してもよく、中でも、適当な静的表面張力のインク組成物を得るという観点からノニオン系界面活性剤を含有することが特に好ましい。
【0071】
ノニオン系界面活性剤のさらなる具体例として、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系、ジメチルポリシロキサン等のシリコン系界面活性剤、その他フッ素アルキルエステル、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等の含フッ素系界面活性剤等が挙げられる。
【0072】
なお、これらのノニオン系界面活性剤は、適当な静的表面張力のインク組成物を得るという観点から、インク組成物中に0.1〜5重量%含まれることが好ましい。
【0073】
また、上記ノニオン系界面活性剤の中でも特にアセチレンアルコール系界面活性剤が起泡も少なく、また優れた消泡性能を有する点で好ましい。
【0074】
アセチレンアルコール系界面活性剤の更なる具体例としては、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールなどが挙げられるが、市販品で入手も可能で、例えば、エアープロダクツ社のサーフィノール104,82,465,485,TGや日信化学社製のオルフィンSTG、オルフィンE1010等が挙げられる。
【0075】
さらに、本実施形態のインク組成物は、浸透促進剤を含有してもよい。本実施形態のインク組成物で使用される浸透促進剤としては、特に限定されないが、中でもグリコールエーテル類が好ましい。
【0076】
グリコールエーテル類の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0077】
なお、これらの浸透促進剤は、インク組成物の適正な物性値(粘度等)の確保、印刷品質、信頼性の確保という観点で、インク組成物に対して、0.25〜10重量%の範囲の量添加することが好ましい。
【0078】
以上のような本実施形態のインク組成物には、必要に応じて、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐・防カビ剤等を添加することが出来る。
【0079】
pH調整剤としては、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等のアミン類等を用いることが出来る。また、必要に応じて、コリジン、イミダゾール、燐酸、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ほう酸等をpH緩衝剤として用いることが出来る。
【0080】
酸化防止剤・紫外線吸収剤としては、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸およびその塩等、チバガイギー社製のTinuvin328、900、1130、384、292、123、144、622、770、292、Irgacor252、153、Irganox1010、1076、1035、MD1024など、あるいはランタニドの酸化物等が用いられる。
【0081】
防腐剤・防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(Avecia社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)等が挙げられる。
【0082】
また、本実施形態のインク組成物に含有される主溶媒は水である。この水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水などを用いることができる。特に紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水を用いることが、カビやバクテリアの発生を防止してインク組成物の長期保存を可能にする点で好ましい。
【0083】
[インクジェット記録方法]
本実施形態のインク組成物は、ペン等の筆記具類、スタンプ等に好適に使用することができるが、インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録方法においてさらに好適に使用できる。ここで、「インクジェット記録方法」とは、インク組成物を微細なノズルより液滴として吐出して、その液滴を記録媒体に付着させる方法を意味する。具体例を以下に説明する。
【0084】
第一の方法としては、静電吸引方式があり、この方式はノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印加し、ノズルからインクを液滴状で連続的に噴射させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する方式、またはインク滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して噴射させる方式である。
【0085】
第二の方法としては、小型ポンプでインク液に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインク滴を噴射させる方式である。噴射したインク滴は噴射と同時に帯電させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する。
【0086】
第三の方法は圧電素子(ピエゾ素子)を用いる方式であり、インク液に圧電素子で圧力と印刷情報信号を同時に加え、インク滴を噴射・記録させる方式である。
【0087】
第四の方式は熱エネルギーの作用によりインク液を急激に体積膨張させる方式であり、インク液を印刷情報信号に従って微小電極で加熱起泡させ、インク滴を噴射・記録させる方式である。
【0088】
以上のいずれの方式も本実施形態のインクを用いたインクジェット記録方法に使用することができ、それぞれの方式のインクジェットカートリッジに充填することができる。
【0089】
また、本実施形態における「記録媒体」とは、例えば、紙(ゼロックスP(商品名:富士ゼロックス社製)、Xerox 4024(商品名:Xerox Co.(米国))、写真用紙クリスピア<高光沢>(商品名:セイコーエプソン社製)など)等が挙げられるが、特にこれに限定されるものではない。
【0090】
[記録物]
実施形態の記録物は、前述のインク組成物を用いて、上記インクジェット記録方法により記録が行われたものである。この記録物は、前述のインク組成物を用いて上記インクジェット記録方法により得られたものであるため、印字品質が良好で、優れた印字安定性を示し、美麗な発色状態を呈し、しかもこの美麗な発色状態を長期間に亘って維持することができる。
【実施例】
【0091】
[インク組成物の調製]
表1および表2に示す配合割合で各成分を混合して溶解させ、孔径1μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン製)フィルターにて加圧濾過を行って、各インク組成物(実施例1〜24及び比較例1〜22)を調製した。
【0092】
なお、表1および2中に示すインク組成物の各成分はインク組成物全量に対する各成分の重量%を示し、残量は水である。
【0093】
表1および2において、〔1〕は式(5)で表すマゼンタ染料、〔2〕は下記式(8)に表すマゼンタ染料、〔3〕は式(7)で表すベタイン系界面活性剤、〔4〕はトリエチレングリコールモノブチルエーテル、〔5〕は日信化学社製アセチレンジオール系界面活性剤、〔6〕はアーチケミカルズジャパン社製防腐・防かび剤、〔7〕はエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム二水和物、〔8〕はビックケミー・ジャパン株式会社製消泡剤、〔9〕は日進化学工業社製消泡剤、〔10〕はエアープロダクツ社製消泡剤、〔11〕はコグニス ジャパン社製消泡剤、をそれぞれ表す。
【0094】
【化17】

【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
[試験例1]起泡性・消泡性試験
泡立ち性(起泡性)、泡消え性(消泡性)の測定は、目視および泡高さを経時にて観測することで実施した。具体的には、各実施例及び比較例の配合のインク組成物10gを直径2cm×高さ10cmの円筒状ガラス容器に封入して50回振り混ぜ、泡と液体との界面から、泡の最高高さまでの高さ(H)を測定して、インク組成物の泡立ちやすさを示す「起泡性」の値とした。引き続き、当該泡と液体との界面から泡の最高高さまでの高さ(H)が半減(0.5H)するまでに要した時間(分)を測定して、インク組成物の泡消えやすさを示す「消泡性」の値とした(実験は23〜24℃の気温の下で行った。)。結果を表3及び4に示す。
【0098】
[試験例2]静的表面張力の測定
静的表面張力の測定は、いわゆるウィルヘルミ・プレート法を利用して行った。測定に用いた白金プレートは接触長28mmとし、サンプル液に浸漬したこの白金プレートを引き出す時の抵抗を測定した。表3及び4に記載した測定結果は、純水の測定値を基準値72mN/mとして算出したものである。なお、詳細な条件はJIS K 3362に準拠する条件で行った。結果を表3及び4に示す。
【0099】
[試験例3]インク滴の飛翔安定性試験
各インク組成物をインクジェットプリンタ用インクカートリッジに充填し、インクジェットプリンタPM−A700(セイコーエプソン社製PM−A750、25℃環境下、Smallドット波形)を使用し、ピエゾ素子の歪率を変化させることにより、インク滴の飛翔速度を変化させて記録媒体に記録した。
【0100】
ここで、インク滴の飛翔開始時もしくは飛翔中にインク滴が分離して3滴以上の多滴にならないインク滴の最高飛翔速度を最高案定飛翔速度(m/s)とし、同様に3滴以上の多滴にならないインク滴の最低飛翔速度を最低安定飛翔速度(m/s)として記録し、前記最高安定飛翔速度と最低安定飛翔速度との差を安定範囲とした。結果を表3及び4に示す。
【0101】
【表3】

【0102】
【表4】

【0103】
上記の実施例に記載のインク組成物を、インクジェットプリンタPM−A700(セイコーエプソン株式会社製)を用いて、この専用カートリッジに充填し、インクジェット専用記録媒体(写真用紙クリスピア<高光沢>(セイコーエプソン株式会社製))に印字した結果、良好に印刷を行うことができた。
【0104】
上記のような優れた起泡性・消泡性を発揮するインク組成物のうち、広い安定飛翔領域を与える消泡剤として、サーフィノールMD20が特に優れていることが判明した。一方、比較例中のアセチレンジオール系の消泡剤であるオルフィンSPCを用いたインク組成物(比較例5,10)は、十分な安定飛翔領域を確保していたが、起泡・消泡効果が劣っていた。
【0105】
[試験例4]耐光性の評価
インクジェットプリンタPM−A750(商標)(商品名、セイコーエプソン株式会社製)を用いて印刷試験を行った。このプリンタ用のマゼンタインク専用カートリッジに実施例1〜24及び比較例1〜22のインク組成物をそれぞれ充填し、インクジェット専用記録媒体(写真用紙クリスピア<高光沢>(セイコーエプソン株式会社製))に印刷を行って記録物を得た。印刷は、マゼンタ単色にて印刷される構成として、得られた画像の光学濃度:Optical Density(以下「OD」と称する。)が0.9〜1.1の範囲に入るように濃度を調整して行った。得られた記録物を室温下にて約1日乾燥させることにより、所望の記録物を得た。
【0106】
耐光性試験は、蛍光灯耐光性試験機SFT−II(商品名、スガ試験機株式会社製)を使用し、温度が24℃ 、湿度が60RH%、照度70000luxの条件下で、前記記録物に光照射した。このように光照射した記録物について、反射濃度計Spectrolino(商標)(商品名、GRETAG社製)を使用して、光照射前及び光照射後の記録物のOD値を測定した。そして、得られたOD値から、下記計算式により光学濃度残存率:Relict Optical Density (以下「ROD」と称する。)を算出した。なお、OD値の測定は、光源がD50、光源フィルタなし、絶対白を白色標準とし、視野角は2°で行った。
【0107】
ROD(%) = (Dn/Do) × 100
(式中、Dnは光照射試験終了後の画像のOD値、Doは光照射試験開始前の画像のOD値を表す。)
【0108】
さらに、上記試験の結果に基づき、下記の判定基準を用いて、記録物に記録された各色の耐光性の評価を行った。結果を表3及び表4に示す。なお、本試験においては、RODの低下が少ない記録物ほど蛍光灯に長時間曝露しても画像の劣化が少ないことを意味する。
【0109】
(判定基準)
評価1:RODが11日経過時までに70%まで減少する。
評価2:RODが70%まで減少するのが11日を超え、21日以下である。
評価3:RODが70%まで減少するのが22日を超え、32日以下である。
評価4:RODが70%まで減少するのが33日を超え、43日以下である。
評価5:RODが70%まで減少するのが44日を超え、54日以下である。
評価6:RODが70%まで減少するのが55日を超え、65日以下である。
評価7:RODが70%まで減少するのが66日を超え、76日以下である。
評価8:RODが70%まで減少するのが77日を超える。
【0110】
[試験例5]耐湿性の評価
インクジェットプリンタPM−A750(商標)(商品名、セイコーエプソン株式会社製)を用いて印刷試験を行った。このプリンタ用のマゼンタインク専用カートリッジに実施例1〜32及び比較例1〜66のインク組成物をそれぞれ充填し、インクジェット専用記録媒体(写真用紙クリスピア<高光沢>(セイコーエプソン株式会社製))に印刷を行って記録物を得た。印刷は、マゼンタ単色にて最大の光学濃度を得られる構成とした。このように得られたサンプルを用いて、耐湿性の評価を行った。各サンプルを光の当たらない40℃、85%RHの環境下に4日間静置した後、文字及び白抜き文字の滲みの程度を目視により観察した。そして、以下の判定基準に基づいて各サンプルの耐湿性を評価した。結果を表3及び表4に示す。
【0111】
(判定基準)
評価1:着色剤の滲み出しが顕著に観察され、文字及び白抜き文字が判読不明。
評価2:着色剤の滲み出しが観察され、文字太りがあり、白抜き文字が全体に染まっている。
評価3:着色剤の滲み出しが観察され、文字の輪郭が崩れている。
評価4:着色剤の滲み出しが若干あり、文字の輪郭がやや崩れている。
評価5:着色剤の滲み出しが殆ど観察されない。
評価6:着色剤の滲み出しが全く観察されない。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明のインク組成物は、インクジェットプリンタに特に好適なインク組成物として利用することができる。また、本発明のインクジェット記録方法は、種々の記録媒体に記録するインクジェット記録方法として利用できる。さらに、本発明の記録物は、種々の情報を記録しておく記録物として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるマゼンタ染料と、
下記一般式(2)で表されるベタイン系界面活性剤と、
下記一般式(3)で表される消泡剤と、
を含有することを特徴とするインク組成物。
【化1】

(上記式中、Aは5員複素環ジアゾ成分A−NH2の残基を表す。B1およびB2は、各々−CR1=、−CR2=を表すか、あるいはいずれか一方が窒素原子、他方が−CR1=または−CR3=を表す。R5、R6は、各々独立に、水素原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、またはスルファモイル基を表す。各基はさらに置換基を有していてもよい。G、R1、R2は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキル基またはアリール基または複素環基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ニトロ基、アルキルおよびアリールチオ基、アルキルおよびアリールスルホニル基、アルキルおよびアリールスルフィニル基、スルファモイル基、スルホ基、またはヘテロ環チオ基を表す。各基は更に置換されていてもよい。また、R1とR5、あるいはR1とR3が結合して5〜6員環を形成してもよい。)
【化2】

(上記式中、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、またはヘテロ環基を表す。Lは2価以上の連結基を表す。Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム基、プロトン化された有機アミンもしくは含窒素へテロ環基、4級アンモニウムイオン基を表し、上記式中のN原子からなるアンモニウムイオンの対イオンとなる場合は、カチオンとして存在しない基を表す。qは1以上の整数を表し、rは1以上4以下の整数を表す。pは0以上4以下の整数を表し、p+rは3もしくは4である。p+rが4である場合はNは4級アミンを構成する窒素原子となる。pが2以上の時Rは同じでも異なっていてもよい。qが2以上の時COOMは同じでも異なっていてもよい。rが2以上の時はL−(COOM)qは同じでも異なっていてもよい。)
【化3】

(上記式中、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数1〜8のアルキル基を表し、R3はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、−O−R4−はそれぞれ独立にオキシエチル、オキシプロピル、オキシブチルのいずれかを表し、R5は2価の連結基を表し、k、l、m、nはそれぞれ1〜100の整数を表す。)
【請求項2】
前記消泡剤の含有量が、0.1〜1.0重量%であることを特徴とする請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記ベタイン系界面活性剤に対する、前記消泡剤の含有割合が、重量比で、1:0.1〜1:1.7であることを特徴とする請求項1又は2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)で表されるマゼンタ染料が、下記一般式(4)で表されるマゼンタ染料であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインク組成物。
【化4】

(上記式中、R11およびR12は各々独立に、アルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を表すが、R11およびR12が共にアルキル基である時は、そのアルキル基を構成する炭素数の合計が3以上であって、それらはさらに置換されていてもよい。R13、R14、R15は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、複素環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、複素環アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルフアモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ニトロ基、アルキルもしくはアリールチオ基、アルキルもしくはアリールスルホニル基、アルキルもしくはアリールスルフィニル基、スルファモイル基、スルホ基、または複素環チオ基を表す。各基は更に置換されていてもよい。また、R11とR15、または、R12とR13で互いに縮環していてもよい。Xは、水素原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基を表し、YおよびZは、各々独立に、水素原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、またはスルファモイル基を表す。各基はさらに置換基を有していてもよい。)
【請求項5】
前記一般式(1)で表されるマゼンタ染料が、下記一般式(5)で表されるマゼンタ染料であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のインク組成物。
【化5】

(上記式中、R1およびR2は各々独立に、アルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を表すが、R1およびR2が共にアルキル基である時は、そのアルキル基を構成する炭素数の合計が3以上であって、それらはさらに置換されていてもよい。R3、R4、R5は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、複素環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、複素環アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルフアモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ニトロ基、アルキルもしくはアリールチオ基、アルキルもしくはアリールスルホニル基、アルキルもしくはアリールスルフィニル基、スルファモイル基、スルホ基、または複素環チオ基を表す。各基は更に置換されていてもよい。また、R1とR5、または、R2とR3で互いに縮環していてもよい。R11およびR12は各々独立に、アルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を表すが、R11およびR12が共にアルキル基である時は、そのアルキル基を構成する炭素数の合計が3以上であって、それらはさらに置換されていてもよい。R13、R14、R15は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、複素環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、複素環アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルフアモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ニトロ基、アルキルもしくはアリールチオ基、アルキルもしくはアリールスルホニル基、アルキルもしくはアリールスルフィニル基、スルファモイル基、スルホ基、または複素環チオ基を表す。各基は更に置換されていてもよい。また、R11とR15、または、R12とR13で互いに縮環していてもよい。Mは、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム又は有機アミンを表す。)
【請求項6】
前記一般式(1)で表されるマゼンタ染料が、下記式(6)で表されるマゼンタ染料であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のインク組成物。
【化6】

【請求項7】
前記マゼンタ染料の含有量が、インク組成物の全量に対して0.50〜5.00重量%である請求項1〜6のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項8】
前記一般式(2)で表されるベタイン系界面活性剤が、下記一般式(7)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のインク組成物。
【化7】

(上記式中、R1〜R3は、炭素数が1〜20のアルキル基を表し、Xは、2価の連結基を表す。)
【請求項9】
前記一般式(2)で表されるベタイン系界面活性剤が、下記式(8)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のインク組成物。
【化8】

【請求項10】
前記マゼンタ染料に対する、前記ベタイン系界面活性剤の含有量が、重量比で、1:10〜1:0.13であることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載のインク組成物。
【請求項11】
インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録方法において用いられることを特徴とする、請求項1〜10の何れか1項に記載のインク組成物。
【請求項12】
前記インクジェット記録方法が、圧電素子の機械的変形によりインク滴を形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法であることを特徴とする、請求項11に記載のインク組成物。
【請求項13】
請求項1〜10の何れか1項に記載のインク組成物を充填したインクカートリッジ。
【請求項14】
インクジェット記録方法であって、インク組成物として請求項1〜10の何れか1項に記載のインク組成物を使用すること、または請求項13に記載のインクカートリッジを使用することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項15】
請求項14に記載のインクジェット記録方法により記録されたことを特徴とする記録物。

【公開番号】特開2008−120974(P2008−120974A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309416(P2006−309416)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】