説明

インク組成物、インクセット、及び画像形成方法

【課題】低温環境下での経時安定性に優れ、耐擦過性の良好な画像が形成されるインク組成物を提供する。
【解決手段】顔料と、組成物全量に対する含有比率が2質量%以上であって、純水(25℃)に対する溶解度が5g/l以上8g/l以下である重合開始剤と、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアセトアミド、N−エチルピロリドン、1−シクロヘキシル−2−ピロリドン、1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、及びγバレロラクトンからなる化合物群より選ばれる化合物と、2つ以上のエチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物と、組成物全量に対する含有比率が50質量%以上の水とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物、インクセット、及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット技術は、種々の被記録媒体に所望の画像形成が可能であることから、オフィスプリンタ、ホームプリンタ等の分野及び商業分野において広く期待されている画像記録方法である。
【0003】
インクジェット記録に用いるインクとしては、溶剤系のほか、地球環境や作業環境に配慮する点から水系のインクが注目されている。その中でも、水性顔料インクに重合性のモノマー成分を含ませて硬化させることにより、擦り傷など擦過耐性の高い画像を形成する技術が検討されている。
【0004】
このような画像形成技術の1つとして、例えば、記録媒体に、インク組成物と接触して凝集物を生成する反応剤と光重合開始剤を含んだ反応液と、アクリレートモノマーや樹脂エマルジョンを含むインク組成物を付着させて印字を行なうインクジェット記録方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、特定のカチオン性オリゴマーと光重合開始剤を色材及び水とともに含むインクジェット記録に用いる1液型のインクが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
一方、重合性モノマーの重合を開始させる開始剤としては、現在では種々の化合物が知られており、目的や必要に応じて適宜選択することができる。ところが、開始剤の水系溶媒に対する溶解性については、必ずしも充分に得られないものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3642152号
【特許文献2】特許第3576862号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の技術では、水性の顔料インクにおいて、光重合開始剤が用いられているが、
開始剤の溶解性については考慮されておらず、充分な溶解性が得られないときには、インク安定性に劣るほか、充分な画像の耐擦過性を得ることは難しい。また、画像面同士が接触して経時した際に局部的に画像が貼り付いて剥がれない場合がある。これは、特に低温環境下でインクを経時させた場合に顕著に現れる。また、このようなインクは、高速記録にも適さない。
また、特許文献1に記載の方法は、反応液とインクを反応させてインクを固定化する方法であるが、画像の固定化の点でも不充分である。
【0008】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、低温環境を含む種々の温度環境下で経時安定性に優れ、耐擦過性の良好な画像が形成されるインク組成物及びインクセット、並びに耐擦過性に優れた画像を形成する画像形成方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> (1)顔料と、(2)組成物全量に対する含有比率が2質量%以上であって、純水(25℃)に対する溶解度が5g/l以上8g/l以下である重合開始剤と、(3)ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアセトアミド、N−エチルピロリドン、1−シクロヘキシル−2−ピロリドン、1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、及びγバレロラクトンからなる化合物群より選ばれる化合物と、(4)2つ以上のエチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物と、(5)組成物全量に対する含有比率が50質量%以上の水とを含むインク組成物である。
【0010】
<2> 前記重合性化合物が、2つ以上の(メタ)アクリルアミド基を有する化合物である前記<1>に記載のインク組成物である。
<3> 前記化合物群より選ばれる化合物が、ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアセトアミド、N−エチルピロリドン、及び1−シクロヘキシル−2−ピロリドンから選ばれる少なくとも1種である前記<1>又は前記<2>に記載のインク組成物である。
<4> 前記重合性化合物が、下記一般式(1)で表される前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載のインク組成物である。下記一般式(1)において、Qは、n価の連結基を表し、Rは、水素原子又はメチル基を表す。nは、2以上の整数を表す。
【0011】
【化1】



【0012】
<5> 前記化合物群より選ばれる化合物の含有量が、組成物全量に対して、0.5質量%以上40質量%以下である前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載のインク組成物である。
<6> 前記顔料は、その表面の少なくとも一部がポリマー分散剤で被覆された水分散性顔料である前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載のインク組成物である。
<7> 前記顔料は、その表面の少なくとも一部がカルボキシル基を有するポリマー分散剤で被覆された水分散性顔料である前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載のインク組成物である。
<8> 前記<1>〜前記<7>のいずれか1つに記載のインク組成物と、前記インク組成物と接触したときに凝集体を形成する凝集成分を含む処理液と、を有するインクセットである。
<9> 前記<1>〜前記<7>のいずれか1つに記載のインク組成物をインクジェット法により記録媒体に付与し、画像を形成するインク付与工程を有する画像形成方法である。
<10> 更に、前記インク組成物と接触したときに凝集体を形成する凝集成分を含む処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程を有する前記<9>に記載の画像形成方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低温環境を含む種々の温度環境下で経時安定性に優れ、耐擦過性の良好な画像が形成されるインク組成物及びインクセットが提供される。また、
本発明によれば、耐擦過性に優れた画像を形成する画像形成方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】画像形成の実施に用いるインクジェット記録装置の構成例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のインク組成物、並びにこれを用いたインクセット及び画像形成方法について詳細に説明する。
【0016】
<インク組成物>
本発明のインク組成物は、(1)顔料と、(2)組成物全量に対する含有比率が2質量%以上4質量%以下であって、純水(25℃)に対する溶解度が5g/l以上8g/l以下である重合開始剤と、(3)ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアセトアミド、N−エチルピロリドン、1−シクロヘキシル−2−ピロリドン、1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、及びγバレロラクトンからなる化合物群より選ばれる化合物(以下、「特定化合物」ともいう。)と、(4)2つ以上のエチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物と、(5)組成物全量に対する含有比率が50質量%以上の水とを用いて構成されたものである。
本発明のインク組成物は、必要に応じて、更に、ポリマー粒子や界面活性剤、水溶性有機溶剤、湿潤剤などの他の成分を用いて構成することができる。
【0017】
紫外線硬化させて画像形成する技術は、従来から溶剤系のインクを用いた系が広く知られているが、環境や作業上の観点から、近年では、水系のインクが主流になりつつある。インクを水系に調製する場合、重合性モノマー等の重合反応に用いられる重合開始剤の溶解性が充分保てない場合があり、結果的にインクの安定性や形成画像の強度が損なわれやすくなる傾向がある。インクの安定性や画像の耐擦過性の悪化は、特に低温環境下に曝された場合に顕著に現れる。
上記に対して本発明においては、水に対する溶解性が比較的低い(25℃の純水に対する溶解度=5〜8g/l)重合開始剤を用いてインク組成物を硬化性に調製する場合において、重合開始剤とともに特定の化合物を併用することで、保存ないし使用時の温度環境に関わらず、水中での重合開始剤の溶解度が保たれ、更に2官能の重合性化合物を含むので、従来に比べて、インク組成物の経時安定性がより向上し、画像形成したときには耐擦過性により優れた画像が得られる。
【0018】
以下、本発明のインク組成物を構成する各成分について詳述する。
(1)顔料
本発明のインク組成物は、着色剤として、顔料の少なくとも1種を含有する。顔料は、水や有機溶媒等に分子分散状態で溶解させて使用する染料とは異なり、溶媒中に分子集合体等の固体粒子として微細に分散させて用いられる。
【0019】
顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機顔料、無機顔料のいずれであってもよい。顔料は、水に殆ど不溶であるか又は難溶である顔料であることが、インク着色性の点で好ましい。
【0020】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、多環式顔料などがより好ましい。
【0021】
更には、前記アゾ顔料として、下記一般式(2)で表される顔料及びその互変異性体が好適である。
【化2】

【0022】
前記一般式(2)で表される化合物は、その特異的な構造により分子間相互作用を形成しやすく、水又は有機溶媒等に対する溶解性が低い。この化合物も、溶媒中に分子集合体等の固体粒子として微細に分散させて用いられる。アゾ顔料には、一般式(2)で表されるアゾ顔料の互変異性体もその範囲に含まれる。したがって、前記一般式(2)は、化学構造上取りうる数種の互変異性体の中から極限構造式の形で示しているが、記載された構造以外の互変異性体であってもよく、複数の互変異性体を含有した混合物として用いてもよい。
【0023】
前記一般式(2)で表される顔料及びその互変異性体の詳細については、特開2011−052105号公報の段落番号[0054]〜[0105]の記載を参照することができ、該アゾ顔料の本発明における好ましい態様も同公報の記載と同様である。
【0024】
前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラックなどが挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックが特に好ましい。
【0025】
また、有機顔料の平均粒子径は、透明性・色再現性の観点からは小さい方がよいが、耐光性の観点からは大きい方が好ましい。これらの両立には、前記平均粒子径は10〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、10〜120nmがさらに好ましい。また、有機顔料の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。また、単分散の粒径分布を持つ有機顔料を2種以上混合して使用してもよい。
【0026】
顔料の含有量としては、インク組成物の全質量に対して、1〜25質量%が好ましく、2〜20質量%がより好ましく、5〜20質量%が更に好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。
【0027】
−分散剤−
本発明のインク組成物は、顔料を分散させる分散剤の少なくとも1種を含有することができる。前記顔料の分散剤としては、ポリマー分散剤、又は低分子の界面活性剤型分散剤のいずれでもよい。また、ポリマー分散剤は、水溶性の分散剤、又は非水溶性の分散剤のいずれでもよい。
【0028】
前記低分子の界面活性剤型分散剤は、インクを低粘度に保ちつつ、顔料を水溶媒に安定に分散させることができる。低分子の界面活性剤型分散剤は、分子量2,000以下の低分子分散剤である。また、低分子の界面活性剤型分散剤の分子量は、100〜2,000が好ましく、200〜2,000がより好ましい。
【0029】
前記低分子の界面活性剤型分散剤は、親水性基と疎水性基とを含む構造を有している。また、親水性基と疎水性基とは、それぞれ独立に1分子に1以上含まれていればよく、また、複数種類の親水性基、疎水性基を有していてもよい。また、親水性基と疎水性基とを連結するための連結基も適宜有することができる。
【0030】
前記親水性基は、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、あるいはこれらを組み合わせたベタイン型等である。前記アニオン性基は、マイナスの電荷を有するものであればいずれでもよいが、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基又はカルボン酸基であることが好ましく、リン酸基、カルボン酸基であることがより好ましく、カルボン酸基であることがさらに好ましい。前記カチオン性基は、プラスの荷電を有するものであればいずれでもよいが、有機のカチオン性置換基であることが好ましく、窒素又はリンのカチオン性基であることがより好ましい。また、ピリジニウムカチオン又はアンモニウムカチオンであることがさらに好ましい。前記ノニオン性基は、ポリエチレンオキシドやポリグリセリン、糖ユニットの一部等が挙げられる。
【0031】
前記親水性基は、アニオン性基であることが好ましい。アニオン性基は、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、又はカルボン酸基であることが好ましく、リン酸基、カルボン酸基であることがより好ましく、カルボン酸基であることがさらに好ましい。
【0032】
また、低分子の界面活性剤型分散剤がアニオン性の親水性基を有する場合、酸性の処理液と接触させて凝集反応を促進させる観点から、pKaが3以上であることが好ましい。低分子の界面活性剤型分散剤のpKaは、テトラヒドロフラン−水(3:2=V/V)溶液に低分子の界面活性剤型分散剤1mmol/Lを溶解した液を酸あるいはアルカリ水溶液で滴定し、滴定曲線より実験的に求めた値のことである。低分子の界面活性剤型分散剤のpKaが3以上であると、理論上pH3程度の液と接したときにアニオン性基の50%以上が非解離状態になる。したがって、低分子の界面活性剤型分散剤の水溶性が著しく低下し、凝集反応が起こる。すなわち、凝集反応性が向上する。かかる観点からも、低分子の界面活性剤型分散剤は、アニオン性基としてカルボン酸基を有する場合が好ましい。
【0033】
前記疎水性基は、炭化水素系、フッ化炭素系、シリコーン系等の構造を有しており、特に炭化水素系であることが好ましい。また、疎水性基は、直鎖状構造又は分岐状構造のいずれであってもよい。また、疎水性基は、1本鎖状構造又はこれ以上の鎖状構造でもよく、2本鎖状以上の構造である場合は、複数種類の疎水性基を有していてもよい。
また、疎水性基は、炭素数2〜24の炭化水素基が好ましく、炭素数4〜24の炭化水素基がより好ましく、炭素数6〜20の炭化水素基がさらに好ましい。
【0034】
前記ポリマー分散剤のうち、水溶性分散剤としては、親水性高分子化合物が挙げられる。例えば、天然の親水性高分子化合物では、アラビアガム、トラガンガム、グアーガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクトン、ペクチン、クインスシードデンプン等の植物性高分子、アルギン酸、カラギーナン、寒天等の海藻系高分子、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン等の動物系高分子、キサンテンガム、デキストラン等の微生物系高分子等が挙げられる。
【0035】
また、天然物を原料に修飾した親水性高分子化合物では、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素系高分子、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等のデンプン系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の海藻系高分子等が挙げられる。
【0036】
更に、合成系の親水性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子、非架橋ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸又はそのアルカリ金属塩、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアルカリ金属塩、四級アンモニウムやアミノ基等のカチオン性官能基の塩を側鎖に有する高分子化合物、セラック等の天然高分子化合物等が挙げられる。
【0037】
これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンアクリル酸のホモポリマーや、他の親水基を有するモノマーとの共重合体などのように、カルボキシル基が導入された水溶性分散剤が親水性高分子化合物として好ましい。
【0038】
ポリマー分散剤のうち、非水溶性分散剤としては、疎水性部と親水性部の両方を有するポリマーを用いることができる。例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0039】
ポリマー分散剤の重量平均分子量は、3,000〜100,000が好ましく、より好ましくは5,000〜50,000であり、更に好ましくは5,000〜40,000であり、特に好ましくは10,000〜40,000である。
【0040】
ポリマー分散剤は、自己分散性、及び処理液が接触したときの凝集速度の観点から、カルボキシル基を有するポリマーを含むことが好ましく、カルボキシル基を有し、酸価が100mgKOH/g以下のポリマーであることが好ましく、25〜100mgKOH/gのポリマーを含むことがより好ましい。特に本発明のインク組成物をインク組成物中の成分を凝集させる処理液(詳細は後述)と組み合わせて用いる場合には、カルボキシル基を有し、かつ酸価が25〜100mgKOH/gのポリマー分散剤が有効である。
【0041】
顔料(p)と分散剤(s)との混合質量比(p:s)としては、1:0.06〜1:3の範囲が好ましく、1:0.125〜1:2の範囲がより好ましく、更に好ましくは1:0.125〜1:1.5である。
【0042】
本発明において顔料に代えて染料を用いる場合には、染料を水不溶性の担体に保持したものを用いることができる。染料としては公知の染料を特に制限なく用いることができ、例えば、特開2001−115066号公報、特開2001−335714号公報、特開2002−249677号公報等に記載の染料を本発明においても好適に用いることができる。また、担体としては、水に不溶または水に難溶であれば特に制限なく、無機材料、有機材料及びこれらの複合材料を用いることができる。具体的には、特開2001−181549号公報、特開2007−169418号公報等に記載の担体を本発明においても好適に用いることができる。
染料を保持した担体(水不溶性着色粒子)は、分散剤を用いて水系分散物として用いることができる。分散剤としては上述した分散剤を好適に用いることができる。
【0043】
本発明においては、画像の耐光性や品質などの観点から、顔料と分散剤とを含むことが好ましく、有機顔料とポリマー分散剤とを含むことがより好ましく、有機顔料とカルボキシル基を含むポリマー分散剤とを含むことが特に好ましい。また、顔料は、凝集性の観点から、カルボキシル基を有するポリマー分散剤に被覆され、水不溶性であることが好ましい。
【0044】
分散状態での顔料の平均粒子径としては、10〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。平均粒子径は、200nm以下であると色再現性が良好になり、インクジェット法で打滴する際の打滴特性が良好になり、10nm以上であると耐光性が良好になる。また、色材の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布を持つ色材を2種以上混合して使用してもよい。
ここで、分散状態での顔料の平均粒子径は、インク化した状態での平均粒子径を示すが、インク化する前段階のいわゆる濃縮インク分散物についても同様である。
【0045】
なお、分散状態での顔料の平均粒子径及び、ポリマー粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
【0046】
顔料は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
顔料のインク組成物中における含有量としては、画像濃度の観点から、インク組成物に対して、1〜25質量%であることが好ましく、2〜20質量%がより好ましく、5〜20質量%がさらに好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。
【0047】
(2)重合開始剤
本発明のインク組成物は、純水(25℃)に対する溶解度が5g/l以上8g/l以下である重合開始剤の少なくとも1種(以下、「本発明における重合開始剤」ともいう。)を含有する。該溶解度の重合開始剤は、後述する特定化合物を用いることにより水への溶解性が保たれるので、水性インク中において析出等し難く、インク組成物としたときの経時安定性(特に低温領域での安定性)が向上する。また、画像の耐擦過性も向上する。
【0048】
溶解度が5g/l以上8g/l以下であるとは、純水に対する溶解性を有するがその溶解度が低いことを意味し、溶解度がこの範囲であるときに本発明の効果がより奏される。
【0049】
本発明における重合開始剤のインク組成物中における含有比率は、インク組成物の全量に対して、2質量%以上の範囲である。本発明における重合開始剤の含有比率が2質量%以上であることは、重合開始剤の量がインク中に析出を起こしやすい範囲であることを示し、後述の特定化合物を含めることによる効果が高い。
上記のうち、重合開始剤の含有比率は、2質量%以上4質量%以下の範囲が好ましく、2質量%以上3.5質量%以下がより好ましく、2質量%以上3質量%以下が更に好ましい。本発明における重合開始剤の含有比率が4質量%以下に抑えることで、後述の特定化合物を含めることによる向上効果がより期待できる。
【0050】
溶解度が5g/l以上8g/l以下の本発明における重合開始剤は、効果の点から溶解度のほかは特に制限されるものではなく、公知のものを適宜選択すればよい。重合開始剤は、基本的には活性エネルギー線により重合反応を開始し得る化合物から適宜選択すればよく、例えば、放射線もしくは光、又は電子線により活性種(ラジカル、酸、塩基など)を発生する開始剤(例えば光重合開始剤等)を用いることができる。
【0051】
本発明における重合開始剤の例としては、ヒドロキシアルキルフェノン系開始剤、アセトフェノン系開始剤、ベンゾフェノン系開始剤、ベンゾインもしくはベンゾインエーテル系開始剤、アミノアルキルフェノン系開始剤、キサントン系開始剤、オキシム系開始剤等が挙げられる。
例えば、前記ヒドロキシアルキルフェノン系開始剤の例としては、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン等が挙げられる。また、上市されている市販品として、例えばイルガキュア2959(BASFジャパン社製)等を挙げることができる。
前記アセトフェノン系開始剤の例としては、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェン等が挙げられる。
前記ベンゾフェノン系開始剤の例としては、ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、p,p’−ジクロロベンゾフェン、p,p’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン等が挙げられる。
前記ベンゾインもしくはベンゾインエーテル系開始剤の例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn−プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインn−ブチルエーテル等が挙げられる。
【0052】
前記本発明における重合開始剤は、1種単独での使用のほか2種以上を併用してもよい。また、溶解度が5〜8g/lの本発明における重合開始剤に加え、他の重合開始剤を併用してもよい。
重合開始剤のインク組成物中における総量としては、重合性を有する化合物(後述するジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、及びジエチルアクリルアミドを含む)の量に対して、1〜40質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。重合開始剤の含有量は、1質量%以上であると、画像の耐擦過性がより向上し、高速記録に有利であり、40質量%以下であると、吐出安定性の点で有利である。
【0053】
重合開始剤は、増感剤とともに使用してもよい。増感剤としては、アミン系(脂肪族アミン、芳香族基を含むアミン、ピペリジンなど)、尿素(アリル系、o−トリルチオ尿素など)、イオウ化合物(ナトリウムジエチルジチオホスフェート、芳香族スルフィン酸の可溶性塩など)、ニトリル系化合物(N,N,ジ置換p−アミノベンゾニトリルなど)、リン化合物(トリn−ブチルホスフィン、ネトリウムジエチルジチオホスフィードなど)、窒素化合物(ミヒラーケトン、N−ニトリソヒドロキシルアミン誘導体、オキサゾリジン化合物、テトラヒドロ1,3オキサジン化合物、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドとジアミンの縮合物など)、塩素化合物(四塩化炭素、ヘキサクロロエタンなど)、エポキシ樹脂とアミンの反応生成物の高分子化アミン、トリエタノールアミントリアクリレート、等が挙げられる。
増感剤は、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0054】
(3)特定化合物群より選ばれる化合物
本発明のインク組成物は、前記本発明における重合開始剤と共に、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアセトアミド、N−エチルピロリドン、1−シクロヘキシル−2−ピロリドン、1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、及びγバレロラクトンからなる化合物群(以下、化合物群Aともいう。)より選ばれる化合物(本明細書中において「特定化合物」ともいう。)を含有する。該化合物は、化合物群Aから選ばれる1種のみで用いられるほか、2種以上を併用してもよい。
【0055】
化合物群Aから選ばれる特定化合物をインク組成物中に含有することで、前記本発明における重合開始剤を用いた場合において、インク組成物の経時安定性を良好に保持でき、形成画像の耐擦過性をより向上させることができる。
【0056】
化合物群A中の化合物のうち、本発明における重合開始剤の溶解性の向上効果の点で、ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアセトアミド、N−エチルピロリドン、1−シクロヘキシル−2−ピロリドンが好ましい。これら化合物は、1種のみで又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
また、化合物群Aのうち、ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、及びジエチルアクリルアミドから選ばれる化合物を含有するときには、各化合物が重合性基を有するため、これら化合物は、画像形成したときの重合硬化にも寄与し、画像の耐擦過性を向上させることができる。
【0058】
インク組成物中における特定化合物の含有量としては、インク組成物全量に対して、0.5質量%以上40質量%以下の範囲が好ましく、1質量%以上35質量%以下の範囲がより好ましく、5質量%以上30質量%以下の範囲がさらに好ましく、5質量%以上25質量%以下の範囲が特に好ましく、5質量%以上20質量%以下の範囲が最も好ましい。
特定化合物の含有量が0.5質量%以上であることで、本発明における重合開始剤の析出が抑えられ、インク組成物の経時安定性が高まると共に、画像強度を高めることができる。また、特定化合物の含有量が40質量%以下であることで、インク粘度を低く抑えて吐出性が保たれ、より良好な画像品質が得られる。
【0059】
(4)重合性化合物
本発明のインク組成物は、2つ以上のエチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物(本明細書中において、単に「重合性化合物」ともいう。)の少なくとも一種を含有する。単官能の重合性化合物のみでは硬化性が得られ難く、高速記録する等の場合に支障を来たしやすいが、本発明においては、特に2官能以上の重合性化合物を含有することで、硬化させて得られる画像の耐擦過性により優れる。
【0060】
本発明における重合性化合物は、重合性基を有する水溶性の重合性化合物であり、活性エネルギー線が照射されたときに前記重合開始剤の作用により重合する。この重合性化合物は、前記顔料及び必要に応じて後述のポリマー粒子と共に併用し、処理液と接触して凝集するときには、粒子間に取り込まれて、その後の重合硬化により画像を強化する。
【0061】
前記「水溶性」とは、水に一定濃度以上溶解できることをいい、水性のインク又は処理液中に(望ましくは均一に)溶解し得るものであればよい。また、後述する水溶性有機溶剤を添加することにより溶解度が上がってインク中に(望ましくは均一に)溶解するものであってもよい。具体的には、水に対する溶解度が10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。
【0062】
重合性化合物としては、凝集成分と顔料、ポリマー粒子との反応を妨げない点で、ノニオン性又はカチオン性の重合性化合物が好ましく、水(25℃)に対する溶解度が10質量%以上(更には15質量%以上)の重合性化合物が好ましい。
【0063】
ノニオン性の重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルモノマー類などの重合性化合物を挙げることができる。
【0064】
前記(メタ)アクリルモノマー類としては、例えば、多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル、多価アルコールのグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸エステル、ポリエチレングリコールの(メタ)アクリル酸エステル、多価アルコールのエチレンオキシド付加化合物の(メタ)アクリル酸エステル、多塩基酸無水物と水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとの反応物などの紫外線硬化型モノマー、オリゴマーが挙げられる。
前記多価アルコールは、エチレンオキシドの付加により内部にエチレンオキシド鎖で鎖延長されたものでもよい。
【0065】
以下、ノニオン性の重合性化合物の具体例(ノニオン性化合物1〜6)を示す。但し、本発明においては、これらに限定されるものではない。
【0066】
【化3】

【0067】
また、多水酸基化合物から誘導される1分子中に2以上のアクリロイル基を有するアクリル酸エステルも用いることができる。前記多水酸基化合物としては、例えば、グリコール類の縮合物、オリゴエーテル、オリゴエステル類等が挙げられる。
【0068】
更に、ノニオン性の重合性化合物は、単糖類、2糖類などの2以上の水酸基を有するポリオールの(メタ)アクリル酸エステル又は;トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリスヒドロキシアミノメタン、トリスヒドロキシアミノエタン等との(メタ)アクリル酸エステルも好適である。
【0069】
また、ノニオン性の重合性化合物としては、分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する水溶性の重合性化合物も好適である。分子内に(メタ)アクリルアミド構造有する重合性化合物は、下記一般式(1)で表される化合物がより好ましい。
【0070】
【化4】

【0071】
一般式(1)中、Qはn価の連結基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表す。また、nは2以上の整数を表す。この重合性化合物は、分子内に2つ以上の(メタ)アクリルアミド基を有する化合物である。
【0072】
一般式(1)で表される化合物は、不飽和ビニル単量体がアミド結合により連結基Qに結合したものである。Rは、水素原子又はメチル基を表し、好ましくは水素原子である。連結基Qの価数nは、重合効率、吐出安定性を向上させる観点から2以上であり、中でも2以上6以下が好ましく、2以上4以下がより好ましい。
【0073】
また、前記連結基Qは、(メタ)アクリルアミド構造と連結可能な基であれば特に制限はないが、一般式(1)で表される化合物が前述の水溶性を満たすような連結基から選択されることが好ましい。具体的には以下の化合物群Xから選ばれる化合物から、1以上の水素原子又はヒドロキシル基が除去された残基をあげることができる。
【0074】
−化合物群X−
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール,1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、チオグリコール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、及びこれらの縮合体、低分子ポリビニルアルコール、又は糖類などのポリオール類。
エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンジアミンなどのポリアミン類。
【0075】
さらに、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン基等の炭素数4以下の置換又は無置換のアルキレン鎖、更にはピリジン環、イミダゾール環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環などの飽和もしくは不飽和のヘテロ環を有する官能基などを例示することができる。
【0076】
前記連結基Qとしては、これらの中でも、オキシアルキレン基(好ましくは、オキシエチレン基)を含むポリオール類の残基であることが好ましく、オキシアルキレン基(好ましくは、オキシエチレン基)を3以上含むポリオール類の残基であることが特に好ましい。
以下に、分子内にアクリルアミド構造を有する水溶性の重合性化合物の具体例を示す。但し、本発明は、これらに制限されるものではない。
【0077】
【化5】



【0078】
【化6】

【0079】
【化7】

【0080】
【化8】

【0081】
前記カチオン性の重合性化合物は、カチオン基と不飽和二重結合等の重合性基とを有する化合物であり、例えば、エポキシモノマー類、オキタセンモノマー類などを好適に用いることができる。カチオン性の重合性化合物を含有すると、カチオン基を有することでインク組成物のカチオン性が強くなり、アニオン性インクを用いたときの混色がより効果的に防止される。
前記カチオン性の重合性化合物としては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリレート、N,N−ジメチルアミノアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノメタアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルメタアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルメタアクリルアミド、及びこれらの4級化化合物などが挙げられる。
エポキシモノマー類としては、例えば、多価アルコールのグリシジルエーテル、グリシジルエステル、脂肪族環状のエポキシドなどが挙げられる。
さらに、カチオン性の重合性化合物の例として、下記構造を有するものを挙げることができる。
【0082】
【化9】

【0083】
前記構造において、Rは、ポリオールの残基を表す。また、Xは、H又はCHを表し、AはCl、HSO又はCHCOOを表す。このポリオールを導入するための化合物としては、例えば、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、脂環型ビスフェノールA及びこれらの縮合物等を挙げることができる。
以下、カチオン基を有する重合性化合物の具体例(カチオン性化合物1〜11)を例示する。
【0084】
【化10】

【0085】
【化11】

【0086】
【化12】

【0087】
【化13】

【0088】
本発明における重合性化合物としては、擦過耐性を高め得る観点から、2官能〜6官能のモノマーがより好ましい。また、溶解性と擦過耐性の両立の観点から、2官能〜4官能のモノマーが特に好ましい。
【0089】
重合性化合物は、1種単独又は2種以上を組み合わせて含有することができる。
重合性化合物のインク組成物中における含有量としては、インク組成物の総質量に対して、2.5質量%以上40質量%以下の範囲が好ましく、5質量%以上35質量%以下の範囲がより好ましく、5質量%以上30質量%以下の範囲がさらに好ましく、5質量%以上25質量%以下の範囲が特に好ましく、5質量%以上20質量%以下の範囲が最も好ましい。
重合性化合物の含有量が2.5質量%以上であると、記録媒体との密着性が向上すると共に、画像強度がより高まって画像の耐擦過性に優れる。重合性化合物の含有量が40質量%以下であると、画像の段差(パイルハイト)の点で有利である。
【0090】
(5)水
本発明のインク組成物は、水を含有する水系に構成されるが、水のインク組成物の全量に対する含有比率は、50質量%以上である。水の含有比率が50質量%未満であると、重合開始剤の析出等によるインク組成物の経時安定性の低下が小さい。
中でも、水の好ましい含有量は、50〜80質量%であり、より好ましくは、50〜75質量%であり、更に好ましくは50〜70質量%である。
【0091】
(6)ポリマー粒子
本発明におけるインク組成物は、ポリマー粒子の少なくとも1種を含有することができる。ポリマー粒子は、後述する処理液又はこれを乾燥させた領域と接触した際に、インク組成物中において分散不安定化して凝集し、増粘することによりインク組成物を固定化する機能を有し、インク組成物の記録媒体への密着性及び画像の耐擦過性をより向上させることができる。
【0092】
ポリマー粒子は、例えば、粒子状にしたポリマーを水性媒体に分散させたラテックスとして用いることができる。ポリマーとしては、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、パラフィン系樹脂、フッ素系樹脂等を用いることができる。中でも、アクリル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂が好ましい例として挙げられる。
【0093】
ポリマー粒子の中では、自己分散ポリマー粒子が好ましい。以下、自己分散性ポリマー粒子を例に詳述する。
自己分散性ポリマーの粒子は、界面活性剤の不存在下、分散状態(特に転相乳化法による分散状態)としたとき、ポリマー自身が有する官能基(特に酸性基又はその塩)によって、水性媒体中で分散状態となり得る水不溶性ポリマーであって、遊離の乳化剤を含有しない水不溶性ポリマーの粒子を意味する。
自己分散性ポリマーの粒子は、吐出安定性及び前記顔料を含む系の液安定性(特に分散安定性)の観点で好ましい。
【0094】
ここで、分散状態とは、水性媒体中に水不溶性ポリマーが液体状態で分散された乳化状態(エマルション)、及び、水性媒体中に水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態(サスペンション)の両方の状態を含むものである。
本発明における水不溶性ポリマーにおいては、液体組成物としたときの凝集速度と定着性の観点から、水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態となりうる水不溶性ポリマーであることが好ましい。
【0095】
自己分散性ポリマーの乳化又は分散状態、すなわち自己分散性ポリマーの水性分散物の調製方法としては、転相乳化法が挙げられる。転相乳化法としては、例えば、自己分散性ポリマーを溶媒(例えば、親水性有機溶剤等)中に溶解又は分散させた後、界面活性剤を添加せずにそのまま水中に投入し、自己分散性ポリマーが有する塩生成基(例えば、酸性基)を中和した状態で、攪拌、混合し、前記溶媒を除去して、乳化又は分散状態となった水性分散物を得る方法が挙げられる。
【0096】
自己分散性ポリマーの粒子の分散状態とは、水不溶性ポリマー30gを70gの有機溶媒(例えば、メチルエチルケトン)に溶解した溶液、該水不溶性ポリマーの塩生成基を100%中和できる中和剤(塩生成基がアニオン性であれば水酸化ナトリウム、カチオン性であれば酢酸)、及び水200gを混合、攪拌(装置:攪拌羽根付き攪拌装置、回転数200rpm、30分間、25℃)した後、該混合液から該有機溶媒を除去した後でも、分散状態が25℃で少なくとも1週間安定に存在することを目視で確認することができる状態をいう。
【0097】
また、水不溶性ポリマーとは、ポリマーを105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100g中に溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、その溶解量が好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下である。前記溶解量は、水不溶性ポリマーの塩生成基の種類に応じて、水酸化ナトリウム又は酢酸で100%中和した時の溶解量である。
【0098】
前記水性媒体は、水を含んで構成され、必要に応じて親水性有機溶媒を含んでいてもよい。本発明においては、水と水に対して0.2質量%以下の親水性有機溶媒とから構成されることが好ましく、水から構成されることがより好ましい。
【0099】
前記水不溶性ポリマーの主鎖骨格としては、特に制限は無く、例えば、ビニルポリマー、縮合系ポリマー(エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、セルロース、ポリエーテル、ポリウレア、ポリイミド、ポリカーボネート等)を用いることができる。その中で、特にビニルポリマーが好ましい。
【0100】
ビニルポリマー及びビニルポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−181549号公報及び特開2002−88294号公報に記載されているものを挙げることができる。また、解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する連鎖移動剤や重合開始剤、イニファーターを用いたビニルモノマーのラジカル重合や、開始剤或いは停止剤のどちらかに解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する化合物を用いたイオン重合によって高分子鎖の末端に解離性基を導入したビニルポリマーも使用できる。
また、縮合系ポリマーと縮合系ポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−247787号公報に記載されているものを挙げることができる。
【0101】
自己分散性ポリマーの粒子は、自己分散性の観点から、親水性の構成単位と芳香族基含有モノマーに由来する構成単位とを含む水不溶性ポリマーを含むことが好ましい。
【0102】
前記親水性の構成単位は、親水性基含有モノマーに由来するものであれば、特に制限はなく、1種の親水性基含有モノマーに由来するものであっても、2種以上の親水性基含有モノマーに由来するものであってもよい。前記親水性基としては、特に制限はなく、解離性基であっても、ノニオン性親水性基であってもよい。
前記親水性基は、自己分散促進の観点、形成された乳化又は分散状態の安定性の観点から、解離性基であることが好ましく、アニオン性の解離基であることがより好ましい。前記解離性基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基などが挙げられ、中でも、インク組成物を構成した場合の定着性の観点から、カルボキシル基が好ましい。
【0103】
親水性基含有モノマーは、自己分散性と凝集性の観点から、解離性基含有モノマーが好ましく、解離性基とエチレン性不飽和結合とを有する解離性基含有モノマーが好ましい。解離性基含有モノマーの例としては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
【0104】
前記不飽和カルボン酸モノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
前記不飽和スルホン酸モノマーの具体例としては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。
前記不飽和リン酸モノマーの具体例としては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
前記解離性基含有モノマーの中では、分散安定性、吐出安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル系モノマーがより好ましく、特にはアクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。
【0105】
本発明における自己分散性ポリマーの酸価としては、処理液が接触したときの凝集性が良好である観点から、150mgKOH/g以下が好ましい。更には、該酸価は、25〜100mgKOH/gがより好ましく、30〜70mgKOH/gが更に好ましい。自己分散性ポリマーの酸価が25mgKOH/g以上であると、自己分散性の安定性が良好になる。
【0106】
自己分散性ポリマーの粒子は、自己分散性と処理液が接触したときの凝集速度の観点から、カルボキシル基を有するポリマーを含むことが好ましく、カルボキシル基を有し、酸価が25〜150mgKOH/gのポリマーを含むことがより好ましく、カルボキシル基を有し、酸価が30〜100mgKOH/gのポリマーを含むことがより好ましい。
【0107】
前記芳香族基含有モノマーは、芳香族基と重合性基とを含む化合物であれば、特に制限はない。前記芳香族基は、芳香族炭化水素に由来する基であっても、芳香族複素環に由来する基であってもよい。本発明においては、水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、芳香族炭化水素に由来する芳香族基であることが好ましい。
また、前記重合性基は、縮重合性の重合性基であっても、付加重合性の重合性基であってもよい。重合性基は、水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、付加重合性の重合性基が好ましく、エチレン性不飽和結合を含む基であることがより好ましい。
【0108】
芳香族基含有モノマーは、芳香族炭化水素に由来する芳香族基とエチレン性不飽和結合とを有するモノマーであることが好ましい。芳香族基含有モノマーは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記芳香族基含有モノマーの例としては、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、スチレン系モノマー等が挙げられる。中でも、ポリマー鎖の親水性と疎水性のバランスとインク定着性の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、及びフェニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが更に好ましい。
なお、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0109】
自己分散性ポリマーは、(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含むアクリル系樹脂が好ましく、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含むアクリル系樹脂が好ましく、更には、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含み、その含有量が10〜95質量%であることが好ましい。芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーの含有量が10〜95質量%であることで、自己乳化又は分散状態の安定性が向上し、更にインク粘度の上昇を抑制することができる。芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーの含有量は、自己分散状態の安定性、芳香環同士の疎水性相互作用による水性媒体中での粒子形状の安定化、粒子の適度な疎水化による水溶性成分量の低下の観点から、15〜90質量%がより好ましく、15〜80質量%がさらに好ましく、25〜70質量%が特に好ましい。
【0110】
自己分散性ポリマーは、例えば、芳香族基含有モノマーに由来する構成単位と、解離性基含有モノマーに由来する構成単位とを用いて構成することができる。更に、必要に応じて、その他の構成単位を更に含んでもよい。
【0111】
前記その他の構成単位を形成するモノマーとしては、前記芳香族基含有モノマーと解離性基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば、特に制限はない。中でも、ポリマー骨格の柔軟性やガラス転移温度(Tg)制御の容易さの観点から、アルキル基含有モノマーであることが好ましい。
前記アルキル基含有モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、並びにヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するエチレン性不飽和モノマー、並びにジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、等の(メタ)アクリル酸のアルキルエステル(好ましくは、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜4のアルキルエステル);
N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、Nーヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等のN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、並びにN−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−,イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−,イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド等、等の(メタ)アクリルアミド系モノマー、等が挙げられる。
【0112】
自己分散性ポリマーの粒子を構成する水不溶性ポリマーの分子量としては、重量平均分子量で3000〜20万であることが好ましく、5000〜15万であることがより好ましく、10000〜10万であることが更に好ましい。重量平均分子量を3000以上とすることで、水溶性成分量を効果的に抑制することができる。また、重量平均分子量を20万以下とすることで、自己分散安定性を高めることができる。
【0113】
なお、重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)で測定される。GPCは、HLC−8220GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgeL Super HZM−H、TSKgeL Super HZ4000、TSKgeL Super HZ2000(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を3本用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いる。また、条件としては、試料濃度を0.35質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、IR検出器を用いて行なう。また、検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F−40」、「F−20」、「F−4」、「F−1」、「A−5000」、「A−2500」、「A−1000」、「n−プロピルベンゼン」の8サンプルから作製する。
【0114】
自己分散性ポリマーの粒子を構成する水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構造単位(好ましくは、フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位)を共重合比率として自己分散性ポリマー粒子の全質量の15〜80質量%を含むことが好ましい。
また、水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜4のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことがより好ましく、更には加えて、酸価が25〜100であって重量平均分子量が3000〜20万であることが好ましく、酸価が25〜95であって重量平均分子量が5000〜15万であることがより好ましい。
【0115】
以下、自己分散性ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーの具体例(例示化合物B−01〜B−19)を挙げる。但し、本発明においては、これらに限定されるものではない。なお、括弧内は、共重合成分の質量比を表す。
【0116】
B−01:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(50/45/5)
B−02:フェノキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(30/35/29/6)
B−03:フェノキシエチルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(50/44/6)
B−04:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリル酸共重合体(30/55/10/5)
B−05:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(35/59/6)
B−06:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(10/50/35/5)
B−07:ベンジルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(55/40/5)
B−08:フェノキシエチルメタクリレート/ベンジルアクリレート/メタクリル酸共重合体(45/47/8)
B−09:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/ブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(5/48/40/7)
B−10:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(35/30/30/5)
B−11:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/ブチルアクリレート/メタクリル酸共重合体(12/50/30/8)
B−12:ベンジルアクリレート/イソブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(93/2/5)
B−13:スチレン/フェノキシエチルメタクリレート/ブチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(50/5/20/25)
B−14:スチレン/ブチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(62/35/3)
B−15:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/51/4)
B−16:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/49/6)
B−17:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/48/7)
B−18:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/47/8)
B−19:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/45/10)
【0117】
自己分散性ポリマーの粒子を構成する水不溶性ポリマーの製造方法としては、特に制限はない。例えば、重合性界面活性剤の存在下に乳化重合を行ない、界面活性剤と水不溶性ポリマーとを共有結合させる方法、親水性基含有モノマーと芳香族基含有モノマーとを含むモノマー混合物を溶液重合法、塊状重合法等の公知の重合法で共重合させる方法が挙げられる。前記重合法の中でも、凝集速度とインク組成物としたときの打滴安定性の観点から、溶液重合法が好ましく、有機溶媒を用いた溶液重合法がより好ましい。
【0118】
自己分散性ポリマーは、凝集速度の観点から、有機溶媒中で合成されたポリマーを含み、該ポリマーはカルボキシル基を有し、(好ましくは酸価が25〜50であって)該ポリマーのカルボキシル基の一部又は全部は中和され、水を連続相とするポリマー分散物として調製されたものであることが好ましい。すなわち、本発明における自己分散性ポリマー粒子の製造は、有機溶媒中でポリマーを合成する工程と、前記ポリマーのカルボキシル基の少なくとも一部が中和された水性分散物とする分散工程とを設けて行なうことが好ましい。
【0119】
前記分散工程は、次の工程(1)及び工程(2)を含むことが好ましい。
工程(1):ポリマー(水不溶性ポリマー)、有機溶媒、中和剤、及び水性媒体を含有する混合物を攪拌する工程
工程(2):前記混合物から前記有機溶媒を除去する工程
【0120】
前記工程(1)は、まずポリマー(水不溶性ポリマー)を有機溶媒に溶解させ、次に中和剤と水性媒体を徐々に加えて混合、攪拌して分散体を得る処理であることが好ましい。このように、有機溶媒中に溶解した水不溶性ポリマー溶液中に中和剤と水性媒体を添加することで、強いせん断力を必要とせずに、より保存安定性の高い粒径の自己分散性ポリマー粒子を得ることができる。混合物の攪拌方法には特に制限はなく、一般に用いられる混合攪拌装置や、必要に応じて超音波分散機や高圧ホモジナイザー等の分散機を用いることができる。
【0121】
有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、及びエーテル系溶媒が好ましく挙げられる。これらの有機溶媒の詳細については、特開2011−42150号公報の段落番号[0109]の記載を適用することができる。中でも、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒とイソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒が好ましく、油系から水系への転相時の極性変化を穏和にする観点から、イソプロピルアルコールとメチルエチルケトンの併用が好ましい。該溶剤の併用により、凝集沈降や粒子同士の融着がなく、分散安定性の高い微粒径の自己分散性ポリマー粒子を得ることができる。
【0122】
中和剤は、解離性基の一部又は全部が中和され、自己分散性ポリマーが水中で安定した乳化又は分散状態を形成するために用いられる。自己分散性ポリマーが解離性基としてアニオン性の解離基(例えばカルボキシル基)を有する場合、用いられる中和剤としては、有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等の塩基性化合物が挙げられる。これら中和剤の詳細については、特開2011−42150号公報の段落番号[0110]の記載を適用することができる。中でも、自己分散性ポリマー粒子の水中への分散安定化の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、トリエタノールアミンが好ましい。
これら塩基性化合物は、解離性基100モル%に対して、5〜120モル%使用することが好ましい。ここでの比率の詳細については、特開2011−42150号公報の段落番号[0111]に記載されている。
【0123】
前記工程(2)においては、前記工程(1)で得られた分散体から、減圧蒸留等の常法により有機溶剤を留去して水系へと転相することで自己分散性ポリマー粒子の水性分散物を得ることができる。得られた水性分散物中の有機溶媒は実質的に除去されており、有機溶媒の量は、好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0124】
ポリマー粒子の平均粒子径は、体積平均粒子径で1nm〜70nmの範囲が好ましく、2〜60nmの範囲がより好ましく、2〜30nmの範囲が更に好ましい。体積平均粒子径は、2nm以上であると製造適性が向上し、70nm以下であると局所ブロッキング耐性が向上する。
また、自己分散性ポリマー粒子の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。また、水不溶性粒子を2種以上混合して使用してもよい。
なお、自己分散性ポリマーの粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
【0125】
また、自己分散性ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、70℃以上であることが好ましく、80℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましい。ガラス転移温度(Tg)は、70℃以上であると局所ブロッキング耐性が向上する。ガラス転移温度(Tg)の上限については特に制限はない。
【0126】
ポリマー粒子は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
ポリマー粒子のインク組成物中における含有量としては、凝集速度や画像の光沢性などの観点から、インク組成物に対して、固形分濃度で1〜30質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。
また、ポリマー粒子に対する顔料の比率(例えば水不溶性顔料粒子/自己分散性ポリマー粒子)としては、画像の耐擦過性などの観点から、1/0.5〜1/10が好ましく、1/1〜1/4がより好ましい。
【0127】
以上、好ましいポリマー粒子の例として自己分散性ポリマー粒子を例に説明したが、自己分散性のポリマー粒子に限定されず、他のポリマー粒子を用いることができる。例えば、一般的に知られている乳化重合ラテックスなどのポリマー粒子も、その構成モノマー、乳化剤、及び分散条件等を調整することにより好適に使用可能である。
【0128】
(7)水溶性有機溶剤
本発明におけるインク組成物は、水溶性有機溶剤を含有してもよい。水溶性有機溶剤は、インク組成物の乾燥防止、湿潤あるいは紙への浸透促進の効果が得られる。
【0129】
水溶性有機溶剤を含有する場合、その含有量は少ないことが好ましく、本発明では水溶性有機溶剤の含有量を、インク組成物の全質量に対して3質量%未満の範囲が好ましい。水溶性有機溶剤の含有量が3質量%未満であることは、インク組成物中に積極的に水溶性有機溶剤を含有していないことを意味し、好ましくは水溶性有機溶剤を含まないこと(含有量:0質量%)が好ましい。
【0130】
インク組成物が含有してもよい水溶性有機溶剤としては、例えば、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類や、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等のアルカンジオールなどの多価アルコール類のほか、特開2011−42150号公報の段落番号[0116]に記載の、糖類や糖アルコール類、ヒアルロン酸類、炭素数1〜4のアルキルアルコール類、グリコールエーテル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。これら溶剤は、1種又は2種以上を適宜選択して用いることができる。多価アルコール類は、乾燥防止剤や湿潤剤としても有用であり、例えば、特開2011−42150号公報の段落番号[0117]に記載の例も挙げられる。また、ポリオール化合物は、浸透剤として好ましく、脂肪族ジオールとしては、例えば、特開2011−42150号公報の段落番号[0117]に記載の例が挙げられる。
【0131】
上記のほか、水溶性有機溶剤として下記構造式(1)で表される化合物が挙げられる。
【化14】

【0132】
構造式(1)において、l、m、及びnは、それぞれ独立に、1以上の整数を表しかつl+m+n=3〜15を満たす。中でも、l+m+nは、3以上であるとカール抑制効果が得られ、15以下であると吐出性を良好に保てる。中でも、3〜12が好ましく、3〜10がより好ましい。AOは、エチレンオキシ(EOと略記することがある)及び/又はプロピレンオキシ(POと略記することがある)を表し、中でもプロピレンオキシ基が好ましい。構造式中の(AO)、(AO)、及び(AO)の各AOは、それぞれ同一でも異なってもよい。
前記構造式(1)で表される化合物の詳細については、特開2011−42150号公報の段落番号[0121]〜[0125]に記載されている。グリセリンのアルキレンオキシド付加物は、上市されている市販品を用いてもよく、例えば、ポリオキシプロピル化グリセリン(ポリプロピレングリコールとグリセリンとのエーテル)として、サンニックスGP−250(平均分子量250)、同GP−400(平均分子量400)、同GP−600(平均分子量600)〔以上、三洋化成工業(株)製〕、及び同公報の段落番号[0126]に記載の例が挙げられる。
【0133】
(8)他の成分
本発明におけるインク組成物は、上記成分以外にその他の添加剤を用いて構成することができる。その他の添加剤としては、例えば、重合禁止剤、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの各種添加剤は、インク組成物の場合はインクに直接添加し、また、油性染料を分散物として用いる場合は染料分散物の調製後に分散物に添加するのが一般的であるが、調製時に油相又は水相に添加してもよい。
【0134】
<インクセット>
本発明のインクセットは、既述の本発明のインク組成物と、インク組成物と接触したときに凝集体を形成する凝集成分を含む処理液とを設けて構成されている。本発明のインクセットは、本発明のインク組成物が用いられるので、耐擦過性が良好で精細な画像が形成される。
なお、インク組成物の詳細については、既述した通りである。
【0135】
−処理液−
以下、インクセットを構成する処理液について詳述する。
記録媒体に付与された処理液は、インク組成物と接触したときに、インク組成物中の顔料及びポリマー粒子などの分散粒子を凝集させ、記録媒体上に画像を固定化する。処理液は、インク組成物中の成分を凝集させる凝集成分を少なくとも含有し、更に重合開始剤を含んでもよく、必要に応じて、更に他の成分を用いて構成することができる。また、インク組成物と共に処理液を用いることで、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い描画性(例えば細線や微細部分の再現性)に優れた画像が得られる。
【0136】
凝集成分としては、インク組成物のpHを変化させることができる化合物であっても、多価金属塩であっても、ポリアリルアミン類などの4級もしくは3級アミンを有するポリマーであってもよい。本発明においては、インク組成物の凝集性の観点から、インク組成物のpHを変化させることができる化合物が好ましく、インク組成物のpHを低下させ得る化合物がより好ましい。
【0137】
インク組成物のpHを低下させ得る化合物としては、酸性物質を挙げることができる。
酸性物質としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩等が好適に挙げられる。
酸性物質は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0138】
本発明における処理液が酸性物質を含む場合、処理液のpH(25℃)は、6以下が好ましく、より好ましくはpHは4以下である。中でも、pH(25℃)は1〜4の範囲が好ましく、特に好ましくは、pHは1〜3である。このとき、前記インク組成物のpH(25℃)は、7.5以上(より好ましくは8.0以上)であることが好ましい。
中でも、画像濃度、解像度、及びインクジェット記録の高速化の観点から、インク組成物のpH(25℃)が8.0以上であって、処理液のpH(25℃)が0.5〜4である場合が好ましい。
【0139】
中でも、本発明における凝集成分としては、水溶性の高い酸性物質が好ましく、凝集性を高め、インク全体を固定化させる点で、有機酸が好ましく、2価以上の有機酸がより好ましく、2価以上3価以下の酸性物質が特に好ましい。前記2価以上の有機酸としては、その第1pKaが3.5以下の有機酸が好ましく、より好ましくは3.0以下の有機酸である。具体的には、例えば、リン酸、シュウ酸、マロン酸、クエン酸などが好適に挙げられる。
【0140】
前記多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩を挙げることができる。これら金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩である。
【0141】
凝集成分は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
インク組成物を凝集させる凝集成分の処理液中における含有量としては、1〜50質量%が好ましく、より好ましくは3〜45質量%であり、更に好ましくは5〜40質量%の範囲である。
【0142】
処理液には、前記インク組成物に含有すると共に、活性エネルギー線によりインク組成物中の重合性化合物の重合を開始する重合開始剤の少なくとも1種を含有することができる。重合開始剤は、1種単独で又は2種以上を混合して、あるいは増感剤と共に使用することができる。
処理液に用いられる重合開始剤は、インク組成物と同様に、活性エネルギー線により重合性化合物の重合反応を開始し得る化合物から適宜選択することができる。重合開始剤の例としては、放射線もしくは光、又は電子線により活性種(ラジカル、酸、塩基など)を発生する重合開始剤(例えば光重合開始剤等)が挙げられる。光重合開始剤等の詳細については、前記インク組成物の項で説明した通りである。
【0143】
また、処理液には、本発明の効果を損なわない範囲内で、更にその他の成分として他の添加剤を含有することができる。他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0144】
<画像形成方法>
本発明の画像形成方法は、既述の本発明のインク組成物をインクジェット法により記録媒体に付与し、画像を形成するインク付与工程を少なくとも設けて構成されている。本発明のインクセットは、本発明のインク組成物が用いられるので、低温環境をはじめ種々の温度環境下において、耐擦過性が良好で精細な画像が形成される。
【0145】
−インク付与工程−
インク付与工程は、既述の本発明のインク組成物を記録媒体にインクジェット法で付与する。本工程では、記録媒体上に選択的にインク組成物を付与でき、所望の可視画像を形成できる。なお、インク組成物の詳細及び好ましい態様などインク組成物の詳細については、インク組成物に関する説明で既述した通りである。
【0146】
インクジェット法による画像形成は、エネルギーを供与することにより、所望とする記録媒体上に既述のインク組成物を吐出し、着色画像を形成する。なお、本発明に好ましいインクジェット法として、特開2003−306623号公報の段落番号0093〜0105に記載の方法が適用できる。
【0147】
インクジェット法には、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。インクジェット法としては、特に、特開昭54−59936号公報に記載の方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させるインクジェット法を有効に利用することができる。
尚、前記インクジェット法には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0148】
インクジェットヘッドとしては、短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行なうシャトル方式と、記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式とがある。ライン方式では、記録素子の配列方向と直交する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行なうことができ、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、キャリッジの移動と記録媒体との複雑な走査制御が不要になり、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。本発明の画像形成方法は、これらのいずれにも適用可能であるが、一般にダミージェットを行なわないライン方式に適用した場合に、吐出精度及び画像の耐擦過性の向上効果が大きい。
【0149】
インクジェットヘッドから吐出されるインクの液滴量としては、高精細な画像を得る観点で、1〜10pl(ピコリットル)が好ましく、1.5〜6plがより好ましい。また、画像のムラ、連続諧調のつながりを改良する観点で、異なる液適量を組み合わせて吐出することも有効であり、このような場合でも本発明は好適に使用できる。
【0150】
−処理液付与工程−
本発明の画像形成方法では、更に、前記インク組成物と接触したときに凝集体を形成する凝集成分を含む処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程を設けて構成されていることが好ましい。
【0151】
処理液付与工程は、インク組成物中の成分を凝集させる凝集成分を含む処理液を記録媒体に付与し、処理液をインク組成物と接触させて画像化する。この場合、インク組成物中の顔料及びポリマー粒子をはじめとする分散粒子が凝集し、記録媒体上に画像が固定化される。なお、処理液は凝集成分を少なくとも含有してなり、各成分の詳細及び好ましい態様については、既述した通りである。
【0152】
処理液の付与は、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の方法を適用して行なうことができる。塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、バーコーター等を用いた公知の塗布方法によって行なうことができる。インクジェット法の詳細については、既述の通りである。
【0153】
処理液付与工程は、インク組成物を用いたインク付与工程の前又は後のいずれに設けてもよい。本発明においては、処理液付与工程で処理液を付与した後にインク付与工程を設けた態様が好ましい。具体的には、記録媒体上に、インク組成物を付与する前に、予めインク組成物中の顔料及び/又は自己分散性ポリマーの粒子などの分散粒子を凝集させるため処理液を付与しておき、記録媒体上に付与された処理液に接触するようにインク組成物を付与して画像化する態様が好ましい。これにより、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い画像が得られる。
【0154】
処理液の付与量としては、インク組成物を凝集可能であれば特に制限はないが、好ましくは、凝集成分の付与量が0.1g/m以上となる量とすることができる。中でも、凝集成分の付与量が0.2〜0.7g/mとなる量が好ましい。凝集成分は、付与量が0.1g/m以上であるとインク組成物の種々の使用形態に応じ良好な高速凝集性が保てる。また、凝集成分の付与量が0.7g/m以下であることは、付与した記録媒体の表面性に悪影響(光沢の変化等)を与えない点で好ましい。
【0155】
また、本発明においては、処理液付与工程後にインク付与工程を設け、処理液を記録媒体上に付与した後、インク組成物が付与されるまでの間に、記録媒体上の処理液を加熱乾燥する加熱乾燥工程を更に設けることが好ましい。インク付与工程前に予め処理液を加熱乾燥させることにより、滲み防止などのインク着色性が良好になり、色濃度及び色相の良好な可視画像を記録できる。
【0156】
加熱乾燥は、ヒータ等の公知の加熱手段やドライヤ等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段により行なえる。加熱方法としては、例えば、記録媒体の処理液の付与面と反対側からヒータ等で熱を与える方法や、記録媒体の処理液の付与面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒータを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
【0157】
−記録媒体−
本発明の画像形成方法は、記録媒体に上に画像を記録するものである。記録媒体には、特に制限はないが、一般のオフセット印刷などに用いられる、いわゆる上質紙、コート紙、アート紙などのセルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。セルロースを主体とする一般印刷用紙は、水性インクを用いた一般のインクジェット法による画像記録においては比較的インクの吸収、乾燥が遅く、打滴後に色材移動が起こりやすく、画像品質が低下しやすいが、本発明の画像形成方法によると、色材移動を抑制して色濃度、色相に優れた高品位の画像の記録が可能である。
【0158】
記録媒体としては、一般に市販されているものを使用することができ、例えば、王子製紙(株)製の「OKプリンス上質」、日本製紙(株)製の「しおらい」、及び日本製紙(株)製の「ニューNPI上質」等の上質紙(A)、王子製紙(株)製の「OKエバーライトコート」及び日本製紙(株)製の「オーロラS」等の微塗工紙、王子製紙(株)製の「OKコートL」及び日本製紙(株)製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製の「OKトップコート+」及び日本製紙(株)製の「オーロラコート」等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製の「OK金藤+」及び三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)等が挙げられる。また、インクジェット記録用の各種写真専用紙を用いることも可能である。
【0159】
記録媒体の中でも、一般のオフセット印刷などに用いられるいわゆる塗工紙が好ましい。塗工紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。塗工紙は、通常の水性インクジェットによる画像形成においては、画像の光沢や擦過耐性など、品質上の問題を生じやすいが、本発明の画像形成方法では、光沢ムラが抑制されて光沢性、耐擦性の良好な画像を得ることができる。特に、原紙と無機顔料を含むコート層とを有する塗工紙を用いるのが好ましく、原紙とカオリン及び/又は重炭酸カルシウムを含むコート層とを有する塗工紙を用いるのがより好ましい。具体的には、アート紙、コート紙、軽量コート紙、又は微塗工紙がより好ましい。
【0160】
―インクジェット記録装置―
次に、本発明の画像形成方法を実施するのに好適なインクジェット記録装置の一例を図1を参照して具体的に説明する。図1は、インクジェット記録装置全体の構成例を示す概略構成図である。
【0161】
図1に示すように、インクジェット記録装置は、記録媒体の搬送方向(図中の矢印方向)に向かって順次、処理液を吐出する処理液吐出用ヘッド12Sを備えた処理液付与部12と、付与された処理液を乾燥させる加熱手段(不図示)を備えた処理液乾燥ゾーン13と、各種インク組成物を吐出するインク吐出部14と、吐出されたインク組成物を乾燥させるインク乾燥ゾーン15とが配設されている。また、記録媒体の搬送方向におけるインク乾燥ゾーン15の下流側には、紫外線照射ランプ16Sを備えた紫外線照射部16が配設されている。
【0162】
このインクジェット記録装置に供給された記録媒体は、記録媒体が装填されたケースから記録媒体を給紙する給紙部から、搬送ローラによって、処理液付与部12、処理液乾燥ゾーン13、インク吐出部14、インク乾燥ゾーン15、紫外線照射部16と順に送られて集積部に集積される。搬送は、搬送ローラによる方法のほか、ドラム状部材を用いたドラム搬送方式やベルト搬送方式、ステージを用いたステージ搬送方式などを採用してもよい。
【0163】
複数配置された搬送ローラのうち、少なくとも1つのローラはモータ(不図示)の動力が伝達された駆動ローラとすることができる。モータで回転する駆動ローラを定速回転することにより、記録媒体は所定の方向に所定の搬送量で搬送されるようになっている。
【0164】
処理液付与部12には、処理液を貯留する貯留タンクに繋がる処理液吐出用ヘッド12Sが設けられている。処理液吐出用ヘッド12Sは、記録媒体の記録面と対向配置された吐出ノズルから処理液を吐出し、記録媒体の上に処理液を液滴付与できるようになっている。なお、処理液付与部12は、ノズル状のヘッドから吐出する方式に限らず、塗布ローラを用いた塗布方式を採用することもできる。この塗布方式は、下流側に配置されたインク吐出部14で記録媒体上にインク滴が着弾する画像領域を含むほぼ全面に処理液を容易に付与することができる。記録媒体上の処理液の厚みを一定にするために、例えば、エアナイフを用いたり、あるいは尖鋭な角を有する部材を、処理液の規定量に対応するギャップを記録媒体との間に設けて設置する等の方法を設けてもよい。
【0165】
処理液付与部12の記録媒体搬送方向の下流側には、処理液乾燥ゾーン13が配置されている。処理液乾燥ゾーン13は、ヒータ等の公知の加熱手段やドライヤ等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段を用いて構成することができる。加熱手段は、記録媒体の遮断層形成面と反対側(例えば、記録媒体を自動搬送する場合は記録媒体を載せて搬送する搬送機構の下方)にヒータ等の発熱体を設置する方法や、記録媒体の遮断層形成面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒータを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
【0166】
また、記録媒体の種類(材質、厚み等)や環境温度等によって、記録媒体の表面温度は変化するため、記録媒体の表面温度を計測する計測部と該計測部で計測された記録媒体の表面温度の値を加熱制御部にフィードバックする制御機構を設けて温度制御しながら遮断層を形成することが好ましい。記録媒体の表面温度を計測する計測部としては、接触又は非接触の温度計が好ましい。
また、溶媒除去ローラ等を用いて溶媒除去を行なってもよい。他の態様として、エアナイフで余剰な溶媒を記録媒体から取り除く方式も用いられる。
【0167】
インク吐出部14は、処理液乾燥ゾーン13の記録媒体搬送方向下流側に配置されている。インク吐出部14には、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)の各色インクを貯留するインク貯留部の各々と繋がる記録用ヘッド(インク吐出用ヘッド)30K、30C、30M、30Yが配置されている。不図示の各インク貯留部には、各色相に対応する顔料とポリマー粒子と水溶性有機溶剤と水とを含有するインク組成物が貯留されており、画像の記録に際して必要に応じて各インク吐出用ヘッド30K、30C、30M、30Yに供給されるようになっている。また、インク吐出用ヘッド30K、30C、30M、及び30Yの搬送方向下流側には、図1に示すように、必要に応じて特色インクを吐出可能なように、特色インク吐出用の記録ヘッド30A、30Bを更に配設することもできる。
【0168】
インク吐出用ヘッド30K、30C、30M、30Yは、記録媒体の記録面と対向配置された吐出ノズルから、それぞれ画像に対応するインクを吐出する。これにより、記録媒体の記録面上に各色インクが付与され、カラー画像が記録される。
【0169】
処理液吐出用ヘッド12S、並びにインク吐出用ヘッド30K、30C、30M、30Y、30A、及び30Bはいずれも、記録媒体上に記録される画像の最大記録幅(最大記録幅)にわたって多数の吐出口(ノズル)が配列されたフルラインヘッドとなっている。記録媒体の幅方向(記録媒体搬送面において搬送方向と直交する方向)に短尺のシャトルヘッドを往復走査しながら記録を行なうシリアル型のものに比べて、記録媒体に高速に画像記録を行なうことができる。本発明においては、シリアル型での記録、又は比較的高速記録が可能な方式、例えば1回の走査で1ラインを形成するシングルパスで主走査方向に吐出して記録できる方式での記録のいずれを採用してもよいが、本発明の画像記録方法によればシングルパスによる方式でも再現性の高い高品位の画像が得られる。
【0170】
ここでは、処理液吐出用ヘッド12S、並びにインク吐出用ヘッド30K、30C、30M、30Y、30A、及び30Bは、全て同一構造になっている。
【0171】
処理液の付与量とインク組成物の付与量とは、必要に応じて調節することが好ましい。例えば、記録媒体に応じて、処理液とインク組成物とが混合してできる凝集物の粘弾性等の物性を調節する等のために、処理液の付与量を変えてもよい。
【0172】
インク乾燥ゾーン15は、インク吐出部14の記録媒体搬送方向下流側に配置されている。インク乾燥ゾーン15は、処理液乾燥ゾーン13と同様に構成することができる。
【0173】
紫外線照射部16は、インク乾燥ゾーン15の記録媒体搬送方向のさらに下流側に配置されており、紫外線照射部16に設けられた紫外線照射ランプ16Sにより紫外線を照射し、画像乾燥後の画像中のモノマー成分を重合硬化させるようになっている。紫外線照射ランプ16Sは、記録媒体の記録面と対向配置されたランプにより記録面の全体を照射し、画像全体の硬化が行なえるようになっている。なお、紫外線照射部16は、紫外線照射ランプ16Sに限らず、ハロゲンランプ、高圧水銀灯、レーザー、LED、電子線照射装置などを採用することもできる。
紫外線照射部16は、インク乾燥ゾーン15の前後のいずれに設置されていてもよく、インク乾燥ゾーン15の前後両方に設置してもよい。
【0174】
また、インクジェット記録装置には、給紙部から集積部までの搬送路に、記録媒体に加熱処理を施す加熱手段を配置することもできる。例えば、処理液乾燥ゾーン13の上流側や、インク吐出部14とインク乾燥ゾーン15との間、などの所望の位置に加熱手段を配置することで、記録媒体を所望の温度に昇温させることにより、乾燥、定着を効果的に行なうようにすることが可能である。
【実施例】
【0175】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0176】
(実施例1)
[水性インクの調製]
−イエローインク1の調製−
(1)ポリマー分散剤溶液1の調製
反応容器に、スチレン6部、ステアリルメタクリレート11部、スチレンマクロマーAS−6(東亜合成(株)製)4部、ブレンマーPP−500(日本油脂(株)製)5部、メタクリル酸5部、2−メルカプトエタノール0.05部、及びメチルエチルケトン24部を加え、混合溶液を調液した。
【0177】
一方、滴下ロートに、スチレン14部、ステアリルメタクリレート24部、スチレンマクロマーAS−6(東亜合成(株)製)9部、ブレンマーPP−500(日本油脂(株)製)9部、メタクリル酸10部、2−メルカプトエタノール0.13部、メチルエチルケトン56部、及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2部を加え、混合溶液を調液した。
【0178】
そして、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を1時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から2時間経過後これに、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2部をメチルエチルケトン12部に溶解した溶液を3時間かけて滴下し、更に75℃で2時間、80℃で2時間熟成させ、ポリマー分散剤溶液1を得た。
【0179】
得られたポリマー分散剤溶液1の一部について、溶媒を除去することによって単離し、得られた固形分をテトラヒドロフランにて0.1質量%に希釈し、高速GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)HLC−8220GPCにて、TSKgeL SuperHZM−H、TSKgeL SuperHZ4000、TSKgeL SuperHZ2000(東ソー(株)製)を3本直列につなぎ、重量平均分子量を測定した。測定の結果、重量平均分子量は、ポリスチレン換算で25,000であった。
また、JIS規格(JIS K 0070:1992)記載の方法により酸価を求めたところ、99mgKOH/gであった。
【0180】
−イエロー分散液の調製−
次に、前記ポリマー分散剤溶液1を固形分換算で5.0g、イエロー顔料としてPigment Yellow 74を10.0g、メチルエチルケトン40.0g、1mol/L(リットル;以下同様)の水酸化ナトリウム8.0g、及びイオン交換水82.0gを、0.1mmジルコニアビーズ300gと共にベッセルに供給し、レディーミル分散機(アイメックス社製)を用いて1000rpmにて6時間分散した。得られた分散液を、エバポレーターによりメチルエチルケトンが充分に留去できるまで減圧濃縮し、さらに顔料濃度が10質量%になるまで濃縮して、水分散性顔料が分散されたイエロー分散液Y1を調製した。
得られたイエロー分散液Y1の体積平均粒子径(二次粒子)を、Micorotrac粒度分布測定装置(Version 10.1.2−211BH(製品名)、日機装(株)製)にて動的光散乱法により測定したところ、77nmであった。
【0181】
(2)自己分散性ポリマー粒子の合成
攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2リットル三口フラスコに、メチルエチルケトン360.0gを仕込んで、75℃まで昇温した。その後、フラスコ内温度を75℃に保ちながら、フェノキシエチルアクリレート180.0g、メチルメタクリレート162.0g、アクリル酸18.0g、メチルエチルケトン72g、及び「V−601」(和光純薬工業(株)製)1.44gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、これに「V−601」0.72g及びメチルエチルケトン36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌後、さらに「V−601」0.72g及びイソプロパノール36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した。その後、85℃に昇温して、さらに2時間攪拌を続け、フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸(=50/45/5[質量比])共重合体の樹脂溶液を得た。
得られた共重合体の上記ポリマー分散剤1と同様に測定した重量平均分子量(Mw)は、64,000(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で算出)であり、酸価は38.9mgKOH/gであった。
【0182】
次に、得られた樹脂溶液668.3gを秤量し、これにイソプロパノール388.3g及び1mol/L NaOH水溶液145.7mlを加え、反応容器内温度を80℃に昇温した。次に、蒸留水720.1gを20ml/minの速度で滴下し、水分散化した。その後、大気圧下にて反応容器内温度80℃で2時間、85℃で2時間、90℃で2時間保った後、反応容器内を減圧にし、イソプロパノール、メチルエチルケトン、蒸留水を合計で913.7g留去した。このようにして、固形分濃度28.0質量%の自己分散性ポリマー粒子の水分散物を得た。
【0183】
(3)重合性化合物1の合成
攪拌機を備えた1Lの三口フラスコに4,7,10−トリオキサ−1,13−トリデカンジアミン40.0g(182mmol)、炭酸水素ナトリウム37.8g(450mmol)、水100g、テトラヒドロフラン300gを加えて、氷浴下、アクリル酸クロリド35.2g(389mmol)を20分かけて滴下した。滴下後、室温で5時間攪拌した後、得られた反応混合物から減圧下でテトラヒドロフランを留去した。次に水相を酢酸エチル200mlで4回抽出した。得られた有機相を硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過を行い、減圧下、溶媒留去した。このようにして、目的とする下記の重合性化合物1の固体35.0g(107mmol、収率59%)を得た。
【0184】
【化15】

【0185】
(4)イエローインク1の調製
上記のようイエロー分散液Y1を調製した後、これに上記の自己分散性ポリマー粒子の水分散物、上記の重合性化合物1、有機溶剤、界面活性剤、及びイオン交換水を用いることにより、下記組成のインクを調製した。調製後、得られたインクを5μmフィルタを通して粗大粒子を除去し、イエローインク1とした。
【0186】
<イエローインク1の組成>
・前記イエロー分散液Y1 ・・・40質量%(インク中における固形分濃度:4質量%)
・前記自己分散性ポリマー粒子の水分散物 ・・・14.3質量%(インク中における固形分濃度:4質量%)
・前記重合性化合物1 ・・・11質量%
・下記表1に示す化合物 ・・・下記表1に示す量
(前記化合物群Aより選ばれる特定化合物)
・オルフィンE1010(日信化学工業(株)製)・・・1質量%
・重合開始剤 ・・・下記表1に示す量
(イルガキュア 2959〔純水(25℃)に対する溶解度:7.6g/l〕、BASFジャパン社製)
・イオン交換水 ・・・残量(全量で100質量%となる量)
【0187】
−イエローインク2〜17の調製−
前記イエローインク1において、特定化合物(ジメチルアクリルアミド)を下記表1に示す各化合物に代えたこと以外、イエローインク1と同様にして、イエローインク2〜17を調製した。
【0188】
【表1】

【0189】
[処理液の調製]
下記組成の成分を混合して、処理液を調製した。処理液の粘度、表面張力、及びpH(25℃)は、粘度2.5mPa・s、表面張力40mN/m、pH1.0であった。
<処理液の組成>
・マロン酸(和光純薬工業(株)製) ・・・25質量%
・ジエチレングリコールモノメチルエーテル ・・・20.0質量%
(和光純薬工業(株)製)
・エマルゲンP109(花王(株)製、ノニオン性界面活性剤)・・・1.0質量%
・イオン交換水 ・・・54質量%
【0190】
[画像記録及び評価]
上記で得られたイエローインク1〜17、及び処理液を用い、下記のようにして画像を形成し、形成した画像に対して下記の評価を行なった。
【0191】
(1)画像形成
まず、図1に示すように、記録媒体の搬送方向(図中の矢印方向)に向かって順次、水性処理液を吐出する処理液吐出用ヘッド12Sを備えた処理液付与部12と、付与された水性処理液を乾燥させる処理液乾燥ゾーン13と、各種水性インクを吐出するインク吐出部14と、吐出された水性インクを乾燥させるインク乾燥ゾーン15と、紫外線(UV)を照射可能なUV照射ランプ16Sを備えたUV照射部16とが配設されたインクジェット装置を準備した。
【0192】
インクジェット装置において、処理液乾燥ゾーン13は、図示しないが、記録媒体の記録面側には乾燥風を送って乾燥を行なう送風器を備え、記録媒体の非記録面側には赤外線ヒータを備えており、処理液付与部で処理液の付与を開始した後、900msecが経過するまでに温度・風量を調節して処理液中の水の70質量%以上を蒸発(乾燥)できるように構成されている。また、インク吐出部14は、搬送方向(矢印方向)にブラックインク吐出用ヘッド30K、シアンインク吐出用ヘッド30C、マゼンタインク吐出用ヘッド30M、及びイエローインク吐出用ヘッド30Yが順次配置されており、各ヘッドは1200dpi/10inch幅フルラインヘッド(駆動周波数:25kHz、記録媒体の搬送速度530mm/sec)であり、各色をシングルパスで主走査方向に吐出して記録できるようになっている。
【0193】
図1に示すように構成されたインクジェット装置の処理液吐出用ヘッド12S、イエローインク吐出用ヘッド30Yにそれぞれ繋がる貯留タンク(不図示)に、上記で得た処理液、イエローインクを装填して、記録媒体にベタ画像及び1200dpiのライン画像を形成した。処理液の記録媒体への付与量は、5ml/mとした。記録媒体には、日本製紙(株)製の「ユーライト」(坪量84.9g/m)を用いた。また、画像形成に際して、処理液及びイエローインクの吐出は、解像度1200dpi×600dpi、インク滴量3.5plにて行なった。このとき、ライン画像は、1200dpiの幅1ドットのライン、幅2ドットのライン、幅4ドットのラインを、シングルパスで主走査方向に吐出することにより形成した。ベタ画像は、記録媒体をA5サイズにカットしたサンプルの全面にインクを吐出することによりベタ画像とした。
【0194】
画像形成は、まず初めに、記録媒体の一方の面に処理液吐出用ヘッド12Sから処理液をシングルパスで吐出した。その後、記録媒体が処理液の吐出開始から900msec迄に処理液乾燥ゾーンを通過するようにして、処理液乾燥ゾーン13において処理液を乾燥させた。処理液乾燥ゾーン13では、着滴した処理液を着滴面の裏側(背面)から赤外線ヒータで膜面温度が40〜45℃となるように加熱しながら、送風器により処理液付与面に120℃の温風をあて、風量を変えて所定の乾燥量になるように調整した。続いて、イエローインク吐出用ヘッド30Yによりイエローインクをシングルパスで吐出し、画像を形成した。このとき、イエローインクには、調製したイエローインク1〜17をそれぞれ5℃下で14日間保管したものを順次用いた。各画像が形成された記録媒体を、インク乾燥ゾーン15で前記同様にインク着滴面の裏側(背面側)から赤外線ヒータで加熱しながら、送風器により120℃、5m/secの温風をインク着滴面に対して15秒間あて、乾燥させた。画像乾燥後、UV照射部16において、UV光の積算照射量が3J/cmになるように、UV光を照射(アイグラフィックス(株)製のメタルハライドランプにより最大照射波長365nmにて照射)し、画像を硬化させた。
以上のようにして、17種類のイエロー画像を形成した。
【0195】
(2)評価
上記で得られたイエロー画像に対して、下記の評価を行なった。評価結果は、下記表2に示す。
−A.冷温経時安定性−
イエローインク1〜17を、それぞれ5℃下で14日間保管し、インク中における重合開始剤の析出の有無を目視で確認し、下記の評価基準にしたがって冷温でのインクの経時安定性を評価した。
<評価基準>
A:析出物はみられなかった。
B:析出物と推定される微量の浮遊物が認められた。
C:析出物が発生した。
【0196】
−B.耐擦過性−
上記したように記録媒体の全面にベタ画像が形成されたA5サイズのサンプルを25℃、50%RHの環境下に72時間放置した。放置後のサンプルのベタ画像表面に、記録していないユーライト(以下、本評価において未使用サンプルという。)を重ねて荷重200kg/mをかけ、このベタ画像の表面を10往復擦った。その後、未使用サンプルとベタ画像を目視で観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:未使用サンプルへの色の付着がなく、擦られたベタ画像の劣化も認められなかった。
B:未使用サンプルには色が付着したが、擦られたベタ画像の劣化は認められなかった。
C:未使用サンプルには色が付着し、擦られたベタ画像の劣化も認められた。
D:擦られたベタ画像が脱落し、紙面(ユーライト)が露出した。
【0197】
【表2】



【0198】
前記表2に示すように、本発明では、低温環境に長時間保持された場合でも析出が抑えられており、安定した保存性を有していた。また、画像強度は高く、耐擦過性にも優れていた。
これに対し、特定化合物を用いない比較の系では、低温環境でのインクの安定性が悪く、形成された画像の耐擦過性にも劣っていた。
【符号の説明】
【0199】
12・・・処理液付与部
12S・・・処理液吐出用ヘッド
13・・・処理液乾燥ゾーン
14・・・インク吐出部
15・・・インク乾燥ゾーン
16・・・紫外線照射部
16S・・・紫外線照射ランプ
30K、30C、30M、30Y・・・インク吐出用ヘッド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、
組成物全量に対する含有比率が2質量%以上であって、純水(25℃)に対する溶解度が5g/l以上8g/l以下である重合開始剤と、
ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアセトアミド、N−エチルピロリドン、1−シクロヘキシル−2−ピロリドン、1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、及びγバレロラクトンからなる化合物群より選ばれる化合物と、
2つ以上のエチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物と、
組成物全量に対する含有比率が50質量%以上の水と、
を含むインク組成物。
【請求項2】
前記重合性化合物が、2つ以上の(メタ)アクリルアミド基を有する化合物である請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記化合物群より選ばれる化合物が、ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアセトアミド、N−エチルピロリドン、及び1−シクロヘキシル−2−ピロリドンから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は請求項2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記重合性化合物が、下記一般式(1)で表される請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインク組成物。
【化1】



〔一般式(1)中、Qは、n価の連結基を表し、Rは、水素原子又はメチル基を表す。nは、2以上の整数を表す。〕
【請求項5】
前記化合物群より選ばれる化合物の含有量が、組成物全量に対して、0.5質量%以上40質量%以下である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項6】
前記顔料は、その表面の少なくとも一部がポリマー分散剤で被覆された水分散性顔料である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項7】
前記顔料は、その表面の少なくとも一部がカルボキシル基を有するポリマー分散剤で被覆された水分散性顔料である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のインク組成物と、
前記インク組成物と接触したときに凝集体を形成する凝集成分を含む処理液と、
を有するインクセット。
【請求項9】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のインク組成物をインクジェット法により記録媒体に付与し、画像を形成するインク付与工程を有する画像形成方法。
【請求項10】
更に、前記インク組成物と接触したときに凝集体を形成する凝集成分を含む処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程を有する請求項9に記載の画像形成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−43945(P2013−43945A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183093(P2011−183093)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】