説明

インク組成物

【課題】長期に渡って優れた分散安定性を示し、不溶性着色剤の沈降による濃度ムラがほとんど生じないインク組成物を提供する。
【解決手段】不溶性着色剤、中空微粒子又はマイクロカプセル、及び、分散媒を含有するインク組成物であって、前記中空微粒子又は前記マイクロカプセルは、平均粒子径が0.01〜20μm、かつ、シェル部分比率が5〜70体積%であるインク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期に渡って優れた分散安定性を示し、不溶性着色剤の沈降による濃度ムラがほとんど生じないインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールペン等の筆記具やインクジェット記録等に用いるインクの着色剤としては、染料が広く用いられている。しかし、染料は耐水性や耐光性に劣るため、インクの着色剤として用いた場合、にじみや変色、退色が生じるという問題があった。
【0003】
特許文献1には、着色剤として顔料を分散させたインク組成物が開示されている。また、特許文献2には、顔料又は染料で着色した微粒子を着色剤として用いたインク組成物が開示されている。しかしながら、顔料や微粒子を着色剤として用いたインク組成物は、経時的に顔料や微粒子の沈降が生じ、濃度ムラが生じるという問題があった。
【0004】
顔料等の沈降を防止するための沈降防止剤として、特許文献3には、所定の炭素数を有するプライマリージアミンと、ダイマー酸等とを反応して得られるポリアミドを含むポリアミド系の沈降防止剤が開示されており、特許文献4には、炭素数が14〜40のジアミン及び炭素数が2〜22のジカルボン酸を反応させて得られるポリアミドと、ヒドロキシル基を有する重縮合ポリエステルとを含有する沈降防止剤が開示されている。特許文献3や特許文献4に開示されている沈降防止剤を含有するインク組成物は、初期においては良好な分散を示すものの、長期的に放置すると顔料等の沈降が生じ、濃度ムラが生じるという問題があった。
【0005】
また、特許文献5には、沈降を防止するために顔料粒子をマイクロカプセルに内包させたインク組成物が開示されている。しかしながら、特許文献5に開示されているインク組成物においても、沈降を防止する効果は不充分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−28776号公報
【特許文献2】特開平4−370160号公報
【特許文献3】特開平10−310726号公報
【特許文献4】特開2005−171155号公報
【特許文献5】特開2000−265105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、長期に渡って優れた分散安定性を示し、不溶性着色剤の沈降による濃度ムラがほとんど生じないインク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、不溶性着色剤、中空微粒子又はマイクロカプセル、及び、分散媒を含有するインク組成物であって、上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルは、平均粒子径が0.01〜20μm、かつ、シェル部分比率が5〜70体積%であるインク組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、インク組成物中に特定の範囲の平均粒子径及びシェル部分比率を有する中空微粒子又はマイクロカプセルを配合することにより、不溶性着色剤の沈降が抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明のインク組成物は、不溶性着色剤を含有する。
上記不溶性着色剤は特に限定されず、例えば、顔料、顔料又は染料で着色した微粒子、顔料等を内包したカプセル型着色剤等が挙げられる。
【0011】
上記顔料は特に限定されず、有機顔料であってもよく、無機顔料であってもよい。
上記有機顔料は特に限定されず、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、金属錯塩系、トリフェニルメタン系、キナクドリン系、イソインドリノン系等の有機顔料が挙げられる。
上記無機顔料は特に限定されず、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、クロムイエロー、カドミウムイエロー、ニッケルチタンイエロー、ベンガラ、カドミウムレッド、モリブデンオレンジ、カーボンブラック等が挙げられる。
これらの顔料は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
上記染料は特に限定されず、例えば、ジアリルメタン系、トリアリルメタン系、チアゾール系、メチン系、アゾメチン系、キサンチン系、オキサジン系、チアジン系、アジン系、アクリジン系、アゾ系、スピロジピラン系、イソドリノスピロピラン系、フルオラン系、ローダミンラクタム系、アントラキノン系等の染料が挙げられる。これらの染料は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
上記微粒子は特に限定されず、無機微粒子であってもよく、有機微粒子であってもよい。
上記無機微粒子は特に限定されず、例えば、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化ジルコニウム等で構成される微粒子が挙げられる。
上記有機微粒子は特に限定されず、例えば、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリアルキレンテレフタレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ベンゾグアナミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂等で構成される微粒子が挙げられる。
これらの微粒子は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
上記カプセル型着色剤の殻体を形成する壁膜形成物質は特に限定されず、例えば、ゼラチン、シェラック、アラビアガム、ロジン、ロジンエステル、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、パラフィン、トリステアリン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブテン、ポリウレタン、ポリブタジエン、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。これらの壁膜形成物質は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、上記カプセル型着色剤は、顔料だけでなく、染料、顔料又は染料で着色した微粒子、色分けされた磁性体や帯電粒子等を内包してもよい。
【0015】
上記不溶性着色剤の平均粒子径は種類によって異なり、特に限定されないが、好ましい下限は10nm、好ましい上限は600nmである。上記不溶性着色剤の平均粒子径が10nm未満であると、上記不溶性着色剤が凝集することがある。上記不溶性着色剤の平均粒子径が600nmを超えると、目詰まりを起こすことがある。上記不溶性着色剤の平均粒子径のより好ましい下限は30nm、より好ましい上限は400nmである。
なお、本明細書において上記平均粒子径とは、凝集していない単一粒子の粒子径の平均値を意味し、透過型電子顕微鏡観察により求めることができる。
【0016】
上記不溶性着色剤の含有量は種類によって異なり、特に限定されないが、好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は30重量%である。上記不溶性着色剤の含有量が0.1重量%未満であると、得られるインク組成物の発色が不充分となることがある。上記不溶性着色剤の含有量が30重量%を超えると、得られるインク組成物の粘度が高くなりすぎ、インクとして用いることが困難となることがある。上記不溶性着色剤の含有量のより好ましい下限は0.3重量%、より好ましい上限は20重量%である。
【0017】
本発明のインク組成物は中空微粒子又はマイクロカプセルを含有する。
上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルは、本発明のインク組成物中における上記不溶性着色剤の沈降を抑制する効果を有する。
【0018】
上記中空微粒子は特に限定されず、例えば、中空無機微粒子、中空有機微粒子、中空有機−無機ハイブリッド微粒子等が挙げられる。
【0019】
上記中空無機微粒子は特に限定されず、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化ジルコニウム等で構成される中空微粒子が挙げられる。
【0020】
上記中空無機微粒子の作製方法は特に限定されず、例えば、有機ビーズテンプレート法、エマルジョンテンプレート法、噴霧熱分解法、静電噴霧法等の従来公知の方法を用いることができる。
【0021】
上記中空有機微粒子は特に限定されず、例えば、2種以上の重合性単量体に由来する成分を有する共重合体等で構成される中空微粒子が挙げられる。
【0022】
上記重合性単量体は特に限定されず、単官能性単量体であってもよく、多官能性単量体であってもよい。
上記単官能性単量体は特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、クミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ビニルピリジン、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、イタコン酸、フマル酸、エチレン、プロピレン、ポリジメチルシロキサンマクロ単量体等が挙げられる。
【0023】
上記多官能性単量体は特に限定されず、例えば、ジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリレート、ジ又はトリアリル化合物、ジビニル化合物等が挙げられる。
上記ジ(メタ)アクリレートは特に限定されず、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記トリ(メタ)アクリレートは特に限定されず、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記ジ又はトリアリル化合物は特に限定されず、例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジアリルフマレート、ジアリルサクシネート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
上記ジビニル化合物は特に限定されず、例えば、ジビニルベンゼン、ブタジエン等が挙げられる。
なお、上記多官能性単量体は、上記中空微粒子のガラス転移温度(Tg)を高め、耐熱性、耐分散媒性を改善する目的で添加される。
【0024】
上記中空有機微粒子を製造する方法は特に限定されないが、例えば、上記重合性単量体、及び、非重合性化合物を用いて、界面重合、乳化重合、懸濁重合、ソープフリー重合、マイクロエマルジョン重合、ミニエマルジョン重合、マイクロサスペンジョン重合等の公知の各種重合方法によって非重合性化合物内包マイクロカプセルを得た後、乾燥等により非重合性化合物を除去する等の方法を用いることができる。
【0025】
上記非重合性化合物は、上記重合性単量体と反応せず、かつ、重合性単量体の重合温度において液状であり、かつ、加熱等により容易に蒸散させることができれば特に限定されず、例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘプタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソブチルケトン、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等が挙げられる。
【0026】
上記非重合性化合物のなかでも、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘプタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン等の炭素数8〜20程度の高級アルカンや長鎖状の疎水性化合物は、極性媒体中で重合性液滴が合一することを効果的に抑制することができるため、これらの非重合性化合物とこれら以外の非重合性化合物とを適宜併用すると、ナノメートルオーダーの重合性液滴を安定して形成することができる。
【0027】
上記重合方法においては、更に、重合開始剤を用いることが好ましい。
上記重合開始剤は特に限定されず、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサカルボニトリル、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
【0028】
上記中空有機−無機ハイブリッド微粒子は、有機骨格及び無機骨格を有する。
上記中空有機−無機ハイブリッド微粒子は、有機骨格によるネットワークにより耐薬品性に優れる。
また、上記中空有機−無機ハイブリッド微粒子は、無機骨格を有することにより、耐熱性及び耐溶剤性に優れ、分散媒により微粒子骨格が軟化することによる空隙の収縮、上記分散媒成分の空隙への浸入を効果的に防ぐことができる。
【0029】
上記中空有機−無機ハイブリッド微粒子を製造する方法は特に限定されないが、例えば、重合性シランカップリング剤、上記重合性単量体及び上記非重合性化合物を用いて、界面重合、乳化重合、懸濁重合、ソープフリー重合、マイクロエマルジョン重合、ミニエマルジョン重合、マイクロサスペンジョン重合等の公知の各種重合方法によって非重合性化合物内包マイクロカプセルを得た後、乾燥等により非重合性化合物を除去する等の方法を用いることができる。
【0030】
上記重合性シランカップリング剤は特に限定されず、例えば、界面重合以外の重合方法を行う場合には、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、界面重合を行う場合には、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミンN−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、特殊アミノシラン等が挙げられる。これらの重合性シランカップリング剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
上記中空微粒子は、単孔構造であってもよく、多孔構造であってもよい。
なお、本明細書において「単孔構造」とは、ただ1つの閉じた空隙を有する構造を意味し、「多孔構造」とは、2種以上の空隙を有する構造を意味する。
【0032】
上記マイクロカプセルは、後述する分散媒よりも比重が小さい内包溶剤を上記中空微粒子に内包するものである。上記マイクロカプセルが後述する分散媒よりも比重が小さい内包溶剤を内包することにより、上記不溶性着色剤の沈降を抑制することができる。
【0033】
上記内包溶剤は、上記重合性単量体と反応せず、かつ、重合性単量体の重合温度において液状であり、後述する分散媒よりも比重が小さければ特に限定されず、上記非重合性化合物と同様のものを用いてもよい。具体的には例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘプタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン、d−リモネン、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシ−3−メチルブチルアセテート、1−メトキシ−2−プロパノール、1−メトキシプロピル−2−アセテート、1−エトキシ−2−プロパノール、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、3−メトキシブチルアセテート、3−エトキシプロピオン酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0034】
上記マイクロカプセルを製造する方法は特に限定されないが、例えば、上記重合性単量体及び上記溶剤を用いて、界面重合、乳化重合、懸濁重合、ソープフリー重合、マイクロエマルジョン重合、ミニエマルジョン重合、マイクロサスペンジョン重合等の公知の各種重合方法を用いることによって製造することができる。
【0035】
上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルの平均粒子径の下限は0.01μm、上限は20μmである。上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルの平均粒子径が0.01μm未満であると、上記中空微粒子又は上記マイクロカプセル同士が凝集して取扱性が悪くなる。上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルの平均粒子径が20μmを超えると、不溶性着色剤を分散安定化するという本来の目的が充分に達成されないことがある。上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルの平均粒子径の好ましい下限は0.02μm、好ましい上限は15μmである。上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルの平均粒子径のより好ましい下限は0.03μm、より好ましい上限は10μmである。
【0036】
上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルの粒子径のCV値の好ましい上限は30%である。上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルの粒子径のCV値が30%を超えると、粒子径が20μmを超える粗大粒子の比率が高くなり、不溶性着色剤の分散安定化が充分達成されない場合がある。上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルの粒子径のCV値のより好ましい上限は25%である。
なお、本明細書において上記粒子径のCV値は、下記式(1)で表される。
粒子径のCV値=(粒子径の標準偏差σ/平均粒子径Dn)×100 (1)
【0037】
上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルのシェル部分比率の下限は5体積%、上限は70体積%である。上記シェル部分比率が5体積%未満であると、形状を維持できなくなり、上記シェル部分比率が70体積%を超えると、上記不溶性着色剤の沈降を抑制する効果が充分に得られない。上記シェル部分比率の好ましい下限は10体積%、好ましい上限は60体積%である。上記シェル部分比率のより好ましい下限は15体積%、より好ましい上限は50体積%である。
なお、本明細書において上記シェル部分比率は、上記中空微粒子又は上記マイクロカプセル全体積中に占めるシェル部分の体積を百分率(%)で表した体積比を意味し、例えば、透過型電子顕微鏡で撮影した写真をもとに、平均粒子径(外径)及び平均内孔径を測定し、上記シェル部分の体積と中空微粒子又はマイクロカプセル全体の体積との比を算出することにより測定することができる。
【0038】
上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルの比重は、後述する分散媒中に分散できれば特に限定されないが、好ましい下限は0.80、好ましい上限は1.15である。上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルの比重が0.80未満であると、得られるインク組成物中で上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルが浮上することがある。上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルの比重が1.15を超えると、得られるインク組成物中で上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルが沈降することがある。上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルの比重のより好ましい下限は0.82、より好ましい上限は1.10である。
【0039】
上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルの含有量は特に限定されないが、好ましい下限は5重量%、好ましい上限は90重量%である。上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルの含有量が5重量%未満であると、上記不溶性着色剤の沈降を抑制する効果が充分に得られないことがある。上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルの含有量が90重量%を超えると、得られるインク組成物の粘度が高くなりすぎ、インクとして用いることが困難となることがある。上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルの含有量のより好ましい下限は20重量%、より好ましい上限は80重量%である。
【0040】
本発明のインク組成物は分散媒を含有する。
上記分散媒は特に限定されず、例えば、水、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、チオジエチレングリコール、ソルビトール、グリセリン、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエタノールアミン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド等が挙げられ、上記中空微粒子又は上記マイクロカプセルよりも比重が大きいものが適宜選択される。これらの分散媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
上記分散媒の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は5重量%、好ましい上限は90重量%である。上記分散媒の含有量が5重量%未満であると、得られるインク組成物の粘度が高くなりすぎ、インクとして用いることが困難となることがある。上記分散媒の含有量が90重量%を超えると、得られるインク組成物をインクとして用いた場合ににじみが生じることがある。上記分散媒の含有量のより好ましい下限は15重量%、より好ましい上限は80重量%である。
【0042】
本発明のインク組成物は、分散剤を含有することが好ましい。
上記分散剤は特に限定されず、例えば、アクリル系、ビニル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、エポキシ系、ポリスチレン系、アミノ系の高分子化合物等が挙げられる。これらの分散剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
本発明のインク組成物は、更に、必要に応じて、保湿剤、増粘剤、防腐剤、消泡剤、酸化防止剤、安定剤、pH調整剤、界面活性剤、潤滑剤等の公知の各種添加剤を含有してもよい。
【0044】
本発明のインク組成物を製造する方法は特に限定されず、例えば、不溶性着色剤、中空微粒子又はマイクロカプセル、分散媒、及び、必要に応じて添加される添加剤を混合し、ホモジナイザー、ロールミル、ボールミル、遠心ミル、遊星ボールミル等の公知の分散装置を用いて分散処理する方法等が挙げられる。
【0045】
本発明のインク組成物の粘度は特に限定されないが、25℃にてE型粘度計を用いてプローブ回転数を1.0rpmに設定して測定した粘度の好ましい下限は3mPa・s、好ましい上限は80mPa・sである。上記粘度が3mPa・s未満であると、インクとして用いた場合ににじみが生じることがある。上記粘度が80mPa・sを超えると、インクとして用いることが困難となることがある。上記粘度のより好ましい下限は5mPa・s、より好ましい上限は50mPa・sである。
【0046】
本発明のインク組成物は、ボールペン等の筆記具、インクジェット記録等に用いるインク、電子ペーパー等に用いることができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、長期に渡って優れた分散安定性を示し、不溶性着色剤の沈降による濃度ムラがほとんど生じないインク組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0049】
(実施例1)
(中空微粒子の作製)
重合性単量体としてエチレングリコールジメタクリレート(日油社製、「ブレンマーPDE−50R」、ポリオキシエチレンユニット数=1)25重量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート50重量部、及び、アクリロニトリル25重量部と、非重合性化合物としてトルエン95重量部及びヘキサデカン5重量部と、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル1重量部とを混合、撹拌した混合溶液の全量を、水溶性乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2重量%、分散助剤としてセチルアルコール1重量%を含有するイオン交換水1600重量部に添加し、超音波ホモジナイザーにて60分間強制乳化して、重合性液滴が分散した分散液を作製した。
次に、攪拌機、ジャケット、還流冷却機及び温度計を備えた20L容の重合器を用い、重合器内を減圧し、容器内の脱酸素を行った後、窒素ガスにより圧力を大気圧まで戻し、重合器内部を窒素雰囲気とした。この重合器内に、得られた分散液の全量を一括して投入し、重合器を60℃まで昇温して重合を開始した。4時間重合した後、重合器を室温まで冷却して、非重合性化合物内包マイクロカプセルスラリーを得た。得られたスラリーを、噴霧乾燥機を用いて乾燥し、中空微粒子を作製した。
得られた中空微粒子を透過型電子顕微鏡(日本電子社製、「JEM−1200EXII」)を用いて観察したところ、形状はほぼ真球状であり、平均粒子径は0.12μm、粒子径のCV値は23%であった。また、得られた中空微粒子は内部に単一空孔を有する構造を有しており、シェル部分比率は50体積%であった。
【0050】
(インク組成物の作製)
不溶性着色剤として平均粒子径が95nmのカーボンブラック10重量部と、得られた中空微粒子30重量部と、分散媒としてイソパラフィン(エッソ社製、「アイソパーM」)65重量部と、分散剤としてソルビタン脂肪酸エステル5重量部とを混合し、ディゾルバーにより1時間分散処理を行い、インク組成物を作製した。動的光散乱粒径測定装置により測定した作製直後のインク組成物中のカーボンブラックの分散粒子径は93nmであった。得られたインク組成物の、25℃にてE型粘度計を用いてプローブ回転数を1.0rpmに設定して測定した粘度は31mPa・sであった。
【0051】
(実施例2)
用いた重合性単量体と非重合性化合物を表1に記載したように変更し、超音波ホモジナイザーによる乳化時間を120分としたこと以外は実施例1と同様にして中空微粒子を得た。得られた中空微粒子の平均粒子径は0.022μm、粒子径のCV値は26%、シェル部分比率は69体積%であった。得られた中空微粒子を用い、実施例1と同様にしてインク組成物を得た。実施例1と同様にして測定した、得られたインク組成物中のカーボンブラックの分散粒子径は97nmであり、得られたインク組成物の粘度は20mPa・sであった。
【0052】
(実施例3)
用いた重合性単量体と非重合性化合物を表1に記載したように変更したこと以外は実施例1と同様にして、シクロヘキサン分散型の一次乳化液を調製した。
【0053】
その後、得られた一次乳化液を、分散剤としてのポリビニルアルコール(PVA)を1重量%、水溶性重合禁止剤としての亜硝酸ナトリウムを0.02重量%含有するイオン交換水溶液370重量部に加え、攪拌分散装置を用いて攪拌することにより、水媒体中にシクロヘキサンを内包する油滴が分散された複合エマルジョンからなる二次乳化液を得た。
【0054】
攪拌機、ジャケット、還流冷却機及び温度計を備えた20L容の重合器を用い、重合器内を減圧して容器内の脱酸素を行った後、窒素置換して重合器内部を窒素雰囲気とした。その後、二次乳化液を一括投入し、重合器を60℃まで昇温して重合を開始させた。4時間重合させた後、重合器を室温まで冷却して、溶剤内包マイクロカプセルを含有するスラリーを得た。
得られたスラリーの溶媒を、遠心分離機を用いてイソプロパノール(IPA)に置換し、マイクロカプセルのイソプロパノール(IPA)分散スラリーを得た。
得られた微粒子を透過型電子顕微鏡(日本電子社製、「JEM−1200EXII」)を用いて観察したところ、形状はほぼ真球状であり、平均粒子径は15μm、粒子径のCV値は24%であった。また、得られたマイクロカプセルは内部に単一孔を有する構造を有しており、シェル部分比率は20体積%であった。
【0055】
不溶性着色剤として平均粒子径が95nmのカーボンブラック15重量部と、得られたマイクロカプセルスラリー200重量部(シェル部分は20重量部)と、分散媒としてイソパラフィン(エッソ社製、「アイソパーM」)55重量部と、分散剤としてソルビタン脂肪酸エステル10重量部とを混合し、ディゾルバーにより1時間分散処理を行い、インク組成物を作製した。動的光散乱粒径測定装置により測定した作製直後のインク組成物中のカーボンブラックの分散粒子径は95nmであった。得られたインク組成物の、25℃にてE型粘度計を用いてプローブ回転数を1.0rpmに設定して測定した粘度は28mPa・sであった。
【0056】
(実施例4)
不溶性着色剤を平均粒子径が140nmのピグメントイエロー(クラリアント社製、「Yellow 175」)としたこと以外は実施例3と同様にしてインク組成物を得た。実施例3と同様にして測定した、得られたインク組成物中のピグメントイエローの分散粒子径は142nmであり、得られたインク組成物の粘度は42mPa・sであった。
【0057】
(実施例5)
ポリエチレングリコールジメタクリレート(日油社製、「ブレンマーPDE−50R」、ポリオキシエチレンユニット数=1)30重量部、トリメチロールプロパントリアクリレート40重量部、及び、アクリロニトリル30重量部と、非重合性物質としてシクロヘキサン200重量部と、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.3重量部とを混合、攪拌し、シクロヘキサン分散型の一次乳化液を調製した。
【0058】
その後、得られた一次乳化液を、分散剤としてのポリビニルアルコール(PVA)を1重量%、水溶性重合禁止剤としての亜硝酸ナトリウムを0.02重量%含有するイオン交換水溶液370重量部に加え、攪拌分散装置を用いて攪拌することにより、水媒体中にシクロヘキサンを内包する油滴が分散された複合エマルジョンからなる二次乳化液を得た。
【0059】
攪拌機、ジャケット、還流冷却機及び温度計を備えた20L容の重合器を用い、重合器内を減圧して容器内の脱酸素を行った後、窒素置換して重合器内部を窒素雰囲気とした。その後、二次乳化液を一括投入し、重合器を60℃まで昇温して重合を開始させた。4時間重合させた後、重合器を室温まで冷却して、溶剤内包マイクロカプセルを含有するスラリーを得た。
得られたスラリーの溶媒を、遠心分離機を用いてイソプロパノール(IPA)に置換し、マイクロカプセルのイソプロパノール(IPA)分散スラリーを得た。
得られた微粒子を透過型電子顕微鏡(日本電子社製、「JEM−1200EXII」)を用いて観察したところ、形状はほぼ真球状であり、平均粒子径は3.3μm、粒子径のCV値は19%であった。また、得られたマイクロカプセルは内部に単一孔を有する構造を有しており、シェル部分比率は35体積%であった。
【0060】
不溶性着色剤として平均粒子径が140nmのピグメントイエロー(クラリアント社製、「Yellow 175」)25重量部と、得られたマイクロカプセルスラリー300重量部(シェル部分は50重量部)と、分散媒としてイソパラフィン(エッソ社製、「アイソパーM」)17重量部と、分散剤としてソルビタン脂肪酸エステル8重量部とを混合し、ディゾルバーにより1時間分散処理を行い、インク組成物を作製した。動的光散乱粒径測定装置により測定した作製直後のインク組成物中のピグメントイエローの分散粒子径は156nmであった。得られたインク組成物の、25℃にてE型粘度計を用いてプローブ回転数を1.0rpmに設定して測定した粘度は12mPa・sであった。
【0061】
(比較例1)
中空微粒子を用いなかったこと以外は実施例1と同様にしてインク組成物を得た。実施例1と同様にして測定した、得られたインク組成物中のカーボンブラックの分散粒子径は215nmであり、得られたインク組成物の粘度は25mPa・sであった。
【0062】
(比較例2)
非重合性化合物を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして微粒子を得た。得られた微粒子の平均粒子径は0.1μm、粒子径のCV値は23%、シェル部分比率は100体積%であった。得られた微粒子を用い、実施例1と同様にしてインク組成物を得た。実施例1と同様にして測定した、得られたインク組成物中のカーボンブラックの分散粒子径は170nmであり、得られたインク組成物の粘度は42mPa・sであった。
【0063】
(比較例3)
超音波ホモジナイザーによる乳化時間を20分としたこと以外は実施例1と同様にして中空微粒子を得た。得られた中空微粒子の平均粒子径は56μm、粒子径のCV値は32%、シェル部分比率は49体積%であった。得られた中空微粒子を用い、実施例1と同様にしてインク組成物を得た。実施例1と同様にして測定した、得られたインク組成物中のカーボンブラックの分散粒子径は103nmであり、得られたインク組成物の粘度は75mPa・sであった。
【0064】
(比較例4)
用いた非重合性化合物の配合量を表1に記載したように変更したこと以外は実施例3と同様にしてマイクロカプセルを得た。得られたマイクロカプセルの平均粒子径は3.2μm、粒子径のCV値は25%、シェル部分比率は90体積%であった。得られたマイクロカプセルを用い、実施例4と同様にしてインク組成物を得た。実施例4と同様にして測定した、得られたインク組成物中のピグメントイエローの分散粒子径は158nmであり、得られたインク組成物の粘度は53mPa・sであった。
【0065】
(比較例5)
用いた非重合性化合物の配合量を表1に記載したように変更したこと以外は実施例3と同様にしてマイクロカプセルを得た。得られたマイクロカプセルの平均粒子径は13μm、粒子径のCV値は41%、シェル部分比率は72体積%であった。得られたマイクロカプセルを用い、実施例4と同様にしてインク組成物を得た。マイクロカプセルスラリーを400重量部(シェル部分は98重量部)添加した。実施例4と同様にして測定した、得られたインク組成物中のピグメントイエローの分散粒子径は138nmであり、得られたインク組成物の粘度は156mPa・sであった。
【0066】
<評価>
実施例及び比較例で得られたインク組成物について以下の評価を行った。結果を表1、2に示した。
【0067】
保存安定性
得られたインク組成物を25℃にて1カ月間放置した後、目視により観察し、濃度ムラが確認できないものについては、更に、粘度及び着色剤の分散粒子径の変化について調べ、以下の基準で評価した。
○:濃度ムラが確認できず、粘度及び分散粒子径に変化がない
△:濃度ムラは確認できないが、粘度又は分散粒子径がわずかに変化している
×:濃度ムラが確認できる、又は、粘度若しくは分散粒子径が著しく変化している
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、長期に渡って優れた分散安定性を示し、不溶性着色剤の沈降による濃度ムラがほとんど生じないインク組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不溶性着色剤、中空微粒子又はマイクロカプセル、及び、分散媒を含有するインク組成物であって、
前記中空微粒子又は前記マイクロカプセルは、平均粒子径が0.01〜20μm、かつ、シェル部分比率が5〜70体積%である
ことを特徴とするインク組成物。
【請求項2】
中空微粒子又はマイクロカプセルの含有量が5〜90重量%であることを特徴とする請求項1記載のインク組成物。

【公開番号】特開2010−222492(P2010−222492A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72421(P2009−72421)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】