説明

インターフェロン誘導分子IPS−1

【課題】β−インターフェロン(IFNβ)等のI型IFNの産生を誘導する新規なシグナル伝達分子を及びその遺伝子を提供すること。
【解決手段】I型IFN誘導物質のハイスループットスクリーニングにより、新規分子IPS−1を同定した。IPS−1の過剰発現は、IRF3、IRF7及びNF−kBの活性化を介して、I型IFN及びIFN誘導性遺伝子を産生して、抗ウイルス応答を誘導した。TBK1及びIKKiは、IPS−1が媒介するI型IFNプロモーター活性化に必須であった。IPS−1の発現は、I型IFN遺伝子の内因性プロモーターを刺激した。IPS−1は、RIG−Iと会合するN末端CARD様ドメインと、FADD及びRIP1をリクルートするC末端エフェクタードメインとの2つのドメインからなる。IPS−1は、RIG−I依存性抗ウイルス応答を媒介する新規アダプタータンパク質であると考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、I型インターフェロン誘導分子IPS−1及びそれをコードするIPS−1遺伝子、IPS−1遺伝子を発現することができる形質転換体等に関する。
【0002】
また本発明は、I型インターフェロン誘導分子IPS−1及びそれをコードするDNAで形質転換した宿主細胞で発現させた組換えタンパク質を用いたI型IFNプロモーターを活性化する方法や、IPS−1ノックアウト非ヒト動物の抗ウイルス応答機能が喪失したモデル動物としての使用方法等に関する。
【背景技術】
【0003】
ウイルスやバクテリア等の微生物病原体に対する自然免疫応答は、細胞発現型認識レセプター(PRR)が、病原体関連分子パターン(PAMP)と呼ばれる侵入病原体の特異構造を認識することによって惹起される(例えば、非特許文献1及び2参照)。PAMPを認識すると、PRRは、細胞内シグナル伝達経路を活性化し、炎症誘発性サイトカイン及びI型IFNの誘導と共に、適応免疫の発達に関与する樹状細胞(DC)の成熟を導く(例えば、非特許文献3参照)。その中で、ウイルス感染後のI型IFN及びIFN誘導性遺伝子の産生は、抗ウイルス自然免疫応答の中核をなしている。ウイルスの複製中に産生された二本鎖(ds)RNAは、トール様レセプター(TLR)によってPAMPとして認識される(例えば、非特許文献4参照)。dsRNAのTLR3への会合は、アダプター分子Trif(TICAM1としても知られている)のリクルートを導く(例えば、非特許文献5及び6参照)。Trifは、その後TBK1(NAK又はT2Kとしても知られている)、及び関連IKKi(IKKε)プロテインキナーゼをリクルートし、転写因子IRF3及びIRF7を触媒し、核に移動させる(例えば、非特許文献7及び8参照)。Trifは、TNFレセプター結合因子(TRAF6)及びレセプターと相互作用するタンパク質1(RIP1)も、直接相互作用によって集め、その後、IKKβ依存性リン酸化を介して転写因子のNF−κBファミリーを活性化し、NF−κB阻害分子(IκBs)をプロテアソームによって破壊する(例えば、非特許文献9及び10参照)。これらの転写因子は協調して、I型IFNをコードする遺伝子のプロモーターを刺激し、その結果抗ウイルス生体防御を導く。ウイルス性一重鎖RNA及びDNAが、TLR7及びTLR9によってそれぞれ認識され、形質細胞様DCによってIFNαを誘導することが立証された(例えば、非特許文献11〜13参照)。TLR3と異なり、これらのTLRは、MyD88を主要なアダプターとして共有している(例えば、非特許文献14参照)。リガンド刺激に続き、MyD88は、IRAK1、TRAF6及びIRF7とシグナル複合体を形成する(例えば、非特許文献15〜17参照)。IRAK1は、IRF7の核転移及び、IFNαの発現を刺激するIRFキナーゼとして作用する(例えば、非特許文献17参照)。
【0004】
ウイルス性dsRNAは、TLR非依存性細胞内センサーを介して細胞を活性化すると考えられている(例えば、非特許文献18及び19参照)。TLR3が欠損しているDC及び繊維芽細胞は、細胞内へのdsRNA導入後も、I型IFNを分泌する(例えば、非特許文献20参照)。この分泌には、Trifは必須でないが、TBK1及びIRF3は必須であり(例えば、非特許文献20〜22参照)、TLR3依存性経路も、TLR3非依存性経路も、TBK1に収束することを示している。最近、RIG−Iは、細胞内dsRNAを感知するPRRの新しいクラスとして作用する分子として同定された(例えば、非特許文献23参照)。RIG−Iは、カスパーゼをリクルートするドメイン(CARD)様モジュールを2個有するDExD/Hbox型RNAヘリカーゼである。へリカーゼドメインは、dsRNAの認識に関与していると考えられ、CARDは、IRF3、IRF7及びNF−κBの活性化を導くダウンストリームシグナル伝達の開始に必須である(例えば、非特許文献23参照)。RIG−I欠損マウスは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、ニューカッスル病ウイルス(NDV)及びセンダイウイルス(SeV)の感染に対して、一貫してI型IFNを産生しなかった(例えば、非特許文献24参照)。さらに、ウイルス感染に応答したIRF3及びNF−κBの活性化は、RIG−I欠損細胞で障害されていた。したがって、RIG−Iは、インビボの抗ウイルス応答に必須である。Mda−5/ヘリカード(Helicard)は、RIG−Iに類似した構造を有し、抗ウイルス応答の媒介に関与している(例えば、非特許文献25及び26参照)。これらのヘリカーゼは共同で、ウイルス感染を感知する細胞内センサーの新たなファミリーを構成している。さらに最近、Fas関連デスドメイン(FADD)欠損細胞で、細胞内dsRNA刺激に応答したI型IFNの産生が障害されることが立証され、FADD欠損細胞は、ウイルス感染に対し感受性があると考えられている(例えば、非特許文献27参照)。さらに、細胞内でdsRNAが媒介するIFN誘導には、RIP1が必須である(例えば、非特許文献27参照)。FADD及びRIP1がシグナル伝達複合体を形成することが立証されたので、これらの観察結果は、FADD及びRIP1が、dsRNA依存性のシグナル伝達の主要な構成要素であることを示唆している。しかし、RIG−IによるdsRNAの認識が、どのようにFADD/RIP1依存性及びTBK1依存性のI型IFN誘導を導くのか明らかでなかった。
【0005】
【非特許文献1】Annu Rev Immunol.20, 197-216, 2002
【非特許文献2】Annu Rev Immunol. 21,335-376, 2003
【非特許文献3】Nat Rev Immunol. 4, 499-511, 2004
【非特許文献4】Nature 413, 732-738. (2001).
【非特許文献5】J Immunol. 169, 6668-6672, 2002
【非特許文献6】Nat Immunol. 4, 161-167, 2003
【非特許文献7】Science 300, 1148-1151,2003; 8.
【非特許文献8】Nat Immunol. 4, 491-496, 2003
【非特許文献9】J Immunol. 171, 4304-4310, 2003;
【非特許文献10】Nat Immunol 5, 503-507, 2004
【非特許文献11】Science 303, 1526-1529, 2004
【非特許文献12】Science 303, 1529-1531,2004
【非特許文献13】J Immunol. 170, 3059-3064, 2003
【非特許文献14】Int Immunol. 14, 1225-1231, 2002
【非特許文献15】Nat Immunol. 5, 1061-1068, 2004
【非特許文献16】Proc Natl Acad Sci USA. 101, 15416-15421, 2004
【非特許文献17】J Exp Med. 201, 915-923, 2005
【非特許文献18】Science 301, 640-643, 2003
【非特許文献19】Nat Immunol. 4, 1223-1229, 2003
【非特許文献20】J Exp Med. 199, 1641-1650, 2004
【非特許文献21】J Exp Med. 199, 1651-1658, 2004
【非特許文献22】Proc Natl Acad Sci USA 101, 233-238, 2004
【非特許文献23】Nat Immunol. 5, 730-737, 2004
【非特許文献24】Immunity (2005) in press
【非特許文献25】Curr Biol. 12, 838-843, 2002
【非特許文献26】Proc Natl Acad Sci USA. 101, 17264-17269, 2004
【非特許文献27】Nature 432, 401-405, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、β−インターフェロン(IFNβ)等のI型IFNの産生を誘導する新規なシグナル伝達分子及びその遺伝子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、I型IFN誘導物質のハイスループットスクリーニングにより、IPS−1と命名した新規分子を同定した。IPS−1の過剰発現は、IRF3、IRF7及びNF−kBの活性化を介して、I型IFN及びIFN誘導性遺伝子を産生して、抗ウイルス応答を誘導した。TBK1及びIKKiは、IPS−1が媒介するI型IFNプロモーター活性化に必須であった。さらに、IPS−1の発現は、I型IFN遺伝子の内因性プロモーターを刺激した。IPS−1は、RIG−Iと会合するN末端CARD様ドメインと、FADD及びRIP1をリクルートするC末端エフェクタードメインとの2つのドメインからなる。siRNAによるIPS−1のノックダウンにより、dsRNA刺激に対する抗ウイルス応答とウイルス感染が減少した。したがって、IPS−1は、RIG−I依存性抗ウイルス応答を媒介する新規アダプタータンパク質であると考えられる。
【0008】
また、RIG−Iは、ウイルス性dsRNAを感知するTLR3非依存性の細胞内センサーであるとされてきた(Nat Immunol. 5, 730-737, 2004参照)。RIG−I欠損マウスは、VSV、NDV、及びSeV感染後にI型IFNの誘導が障害され(Immunity, 2005参照)、RIG−Iがこれらのウイルスを感知する唯一のインビボのセンサーであることを示した。RIG−Iの類縁体である、Mda5/ヘリカードは、ウイルス認識にも関与している(Proc Natl Acad Sci U S A. 101, 17264-17269, 2004)。RIG−IもMda5/ヘリカードも、IRF3、IRF7及びNF−κBの活性化を導くダウンストリームシグナル伝達の開始に必須である、CARD様モジュールを2個有している。RIG−I及びMda5/ヘリカードは、類似したCARD様モジュールを含むシグナル伝達アダプターを用いることが示唆された。IPS−1が、これらのタンパク質との相互作用を媒介する、Mda/ヘリカード及びRIG−Iと相同性のあるCARD様ドメインを有することを見い出したことは、非常に興味深い。TBK1及びIKKiの両方が欠損している細胞は、細胞内dsRNA刺激やウイルス感染に応答して、IRF3活性化も、IFNβ産生もしなかった(J Exp Med. 199, 1641-1650, 2004; J Exp Med. 199, 1651-1658, 2004; Proc Natl Acad Sci US A 101, 233-238, 2004)。さらに、IPS−1は、TBK−1及びIKKiが欠損している細胞で、IFNα及びIFNβプロモーターを活性化しなかった。したがって、IPS−1は、RIG−IとMda5/ヘリカードとを、TBK1及びIKKiを活性化するダウンストリーム分子に結合するアダプターとして作用しうる。RIG−I△Cの過剰発現は、IFNβプロモーターの恒常的な活性化を導くが、全長RIG−Iがプロモーターを活性化しないことは、以前に報告されている(Nat Immunol. 5, 730-737, 2004)。この観察結果は、RIG−IのC末端領域が、ダウンストリームエフェクター分子との相互作用を防止する制御機能を有することを示唆している。IPS−1は、常にRIG−I△Cと結合するが、全長RIG−Iとは結合しない。したがって、IPS−1は、刺激されていない状態では、RIG−Iと結合しないが、刺激後は、RIG−Iと複合体を形成し、シグナル伝達を開始すると考えられる。
【0009】
最近、本来デスレセプターのTNFレセプターファミリーのシグナル伝達分子として同定されているFADD及びRIP1が、細胞内dsRNAが媒介する機能に参画することが示された(Nature 432, 401-405, 2004)。免疫共沈澱分析で、IPS−1はTBK1と直接会合しなかったが、そのC末端領域は、FADD及びRIP1と相互作用するようである。これらの観察結果は、IPS−1はウイルス感染時にC末端エフェクタードメインを介してFADD及びRIP1をリクルートし、TBK1及びIKKi依存性IRF3リン酸化を惹起することを示唆した。一方、IPS−1の過剰発現又はウイルス感染に応答したNF−κBの活性化は、TBK1及びIKKi欠損細胞で、正常であった。同時に、発現がNF−κB依存性であるIL−6のウイルス誘導が、これらの細胞で観察された。反対に、FADD欠損細胞は、ウイルス感染時に、IL−6を産生せず(Nature 432, 401-405, 2004)、FADDの過剰発現は、TBK1/IKKi二重欠損細胞においても、NF−κBプロモーターを活性化した(非公開データ)。したがって、RIG−I依存性のNF−κB活性化は、TBK1とは独立して、IPS−1とFADDのダウンストリームで起こりうるが、IKKβ活性化を導く分子メカニズムは明らかになっていない。
【0010】
多くのウイルスが、IFN誘導を拮抗する特異的タンパク質をコードするようである。例えば、ヒトRIG−Iは、C型肝炎ウイルス(HCV)RNAが誘導するIRF3活性化に関与している(J Virol. 79, 2689-2699, 2005; J Virol. 79, 3969-3978, 2005)。しかし、HCVのNS3/4プロテアーゼはIRF3リン酸化の抑制に関与し、RNAが誘導するIFN産生をブロックする。パラミキソウイルスのVタンパク質は、Mda−5と会合し、ダウンストリームのシグナル伝達をブロックし、IFN誘導を阻害することが示されている(Proc Natl Acad Sci U S A. 101, 17264-17269, 2004)。したがって、多くのウイルスタンパク質が、分解又はFADD又はRIP1等のダウンストリームシグナル伝達分子のリクルートを防止するために、IPS−1が媒介するシグナル伝達経路を標的にすることによって拮抗しうる。さらに、細胞内へのグラム陽性菌、リステリア菌(LM)の感染が、TBK−1依存的に、そしてTLR非依存的にI型IFNを誘導するようである(J Immunol. 173, 7416-7425, 2004; JImmunol. 174, 1602-1607, 2005)。LMに応答したIFN誘導を惹起する細胞質レセプターはまだ同定されていないが、IPS−1は、この細胞内バクテリアによってIFN誘導に関与している可能性がある。IPS−1が、新たに同定された細胞質PRRのRIG−I及びMda5/ヘリカードファミリーのダウンストリームで、抗ウイルス自然免疫応答を誘導するアダプター分子として作用することを明らかにした。
【0011】
すなわち本発明は、(1)(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質又は(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質;をコードするDNAや、(2)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNAや、(3)配列番号1に示される塩基配列若しくはその相補的配列からなるDNAや、(4)配列番号1に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNAや、(5)前記(2)記載のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA(これらDNAを総称して「本件DNA」ということがある)に関する。
【0012】
また本発明は、(6)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質や、(7)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質や、(8)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質や、(9)組換えタンパク質であることを特徴とする前記(6)〜(8)のいずれか記載のタンパク質に関する(これらタンパク質を総称して「本件タンパク質」ということがある)。
【0013】
また本発明は、(10)前記(6)〜(9)のいずれか記載のタンパク質と、マーカータンパク質及び/又はペプチドタグとを結合させた融合タンパク質又は融合ペプチドや、(11)前記(1)〜(5)のいずれか記載のDNAを含み、かつIPS−1を発現することができる組換えベクターや、(12)組換えプラスミドベクターである前記(11)記載の組換えベクターや、(13)さらに、レポーター遺伝子を発現することができることを特徴とする前記(11)又は(12)記載の組換えベクターや、(14)レポーター遺伝子が、ホタルルシフェラーゼ遺伝子であることを特徴とする前記(11)又は(12)記載の組換えベクターや、(15)前記(11)〜(14)のいずれか記載の組換えベクターが導入され、かつIPS−1を発現する形質転換体に関する。
【0014】
本発明はまた、(16)IPS−1遺伝子を有する組換えベクターによって形質転換された形質転換体や、(17)形質転換体が、哺乳類細胞由来であることを特徴とする前記(15)又は(16)記載の形質転換体や、(18)哺乳類細胞が、HEK293細胞、Hela細胞又はMEF細胞である前記(17)に記載の形質転換体や、(19)前記(6)〜(9)のいずれか記載のタンパク質又はその部分ポリペプチドを認識する抗体や、(20)モノクローナル抗体であることを特徴とする前記(19)記載の抗体や、(21)IPS−1遺伝子の機能が染色体上で欠損し、野生型において発現されるIPS−1を発現する機能が失われていることを特徴とするIPS−1ノックアウト非ヒト動物や、(22)げっ歯類動物であることを特徴とする前記(21)記載のIPS−1ノックアウト非ヒト動物や、(23)げっ歯類動物が、マウスであることを特徴とする前記(22)記載のIPS−1ノックアウト非ヒト動物に関する。
【0015】
さらに本発明は、(24)(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA、(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA、(d)配列番号1に示される塩基配列からなるDNA、(e)配列番号1に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA、(f)配列番号1に示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA;のいずれか記載DNAを、IPS−1活性を有するタンパク質の製造に使用する方法や、(25)(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質、(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質;のいずれか記載のタンパク質を用いて、I型IFNプロモーターを活性化する方法や、(26)タンパク質が、(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA、(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA、(d)配列番号1に示される塩基配列からなるDNA、(e)配列番号1に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA、(f)配列番号1に示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA;のいずれか記載DNAで形質転換した宿主細胞で発現させた組換えタンパク質であることを特徴とする上記(25)記載のIFNβプロモーターを活性化する方法や、(27)(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質、(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質;のいずれか記載のタンパク質を、I型IFNの製造に使用する方法や、(28)タンパク質が、(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA、(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA、(d)配列番号1に示される塩基配列からなるDNA、(e)配列番号1に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA、(f)配列番号1に示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA;のいずれか記載DNAで形質転換した宿主細胞で発現させた組換えタンパク質であることを特徴とする上記(27)記載の使用する方法や、(29)IPS−1遺伝子の機能を染色体上で欠損させたIPS−1ノックアウト非ヒト動物の、I型IFNプロモーターの活性化による抗ウイルス応答機能が喪失したモデル動物としての使用方法や、(30)非ヒト動物が、マウスであることを特徴とする上記(29)記載の抗ウイルス応答機能が喪失したモデル動物としての使用方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、IFNβ等のI型IFNの産生を誘導する新規なシグナル伝達分子IPS−1及びIPS−1遺伝子を提供することができ、IPS−1機能を標的とした薬剤は、ウイルス感染を制御するために、治療的に有用である。
【0017】
また、本発明の本件DNAをIPS−1活性を有するタンパク質の製造に使用する方法や、本発明のIPS−1又はIPS−1をコードするDNAで形質転換した宿主細胞で発現させた組換えタンパク質を用いたI型IFNプロモーターを活性化する方法や、本発明の本件タンパク質をI型IFNの製造に使用する方法は、IPS−1が、IFN−αをはじめとする各種サイトカイン産生の特異的な調節に対する治療上のターゲットとなる可能性を与え、ウイルス感染や自然免疫疾患への治療へ応用することができる。また、前記方法により、I型IFNプロモーターを活性化させてI型インターフェロン等を製造することも可能である。さらに、I型IFNプロモーターの活性化機能を阻害(又は増強)する化合物のスクリーニングに利用することが可能である。
【0018】
また、本発明のIPS−1ノックアウト非ヒト動物の抗ウイルス応答機能が喪失したモデル動物としての使用方法によれば、人工的に抗ウイルス応答機能が働かない状態を作り出すことができ、生体内におけるウイルス応答機能を明らかにするためや、RNAiの作用機作の解明や、ウイルス感染症の治療方法の解明や、抗ウイルス薬をスクリーニングすることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のDNAとしては、(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質IPS−1をコードするDNA;(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA;(C)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA;(D)配列番号1に示される塩基配列若しくはその相補的配列からなるIPS−1遺伝子DNA;(E)配列番号1に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA;又は(F)配列番号1に示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA;の何れかのDNAであれば特に制限されず、また、本発明のタンパク質としては、(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質IPS−1;(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質;又は(C)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質;の何れかのタンパク質であれば特に制限されず、ここで「IPS−1活性を有する」とは、I型IFNプロモーターを活性化する機能を有することを意味する。
【0020】
上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を意味する。また、上記「1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を意味する。
【0021】
例えば、これら1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるDNA(変異DNA)は、化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法により作製することもできる。具体的には、配列番号1に示される塩基配列からなるDNAに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的な手法等を用いて、これらDNAに変異を導入することにより、変異DNAを取得することができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989.以後 "モレキュラークローニング第2版" と略す)、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38,John Wiley & Sons (1987-1997)等に記載の方法に準じて行うことができる。この変異DNAを適切な発現系を用いて発現させることにより、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質を得ることができる。
【0022】
上記「配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列」とは、配列番号2に示されるアミノ酸配列との相同性が90%以上であれば特に制限されるものではないが、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上であることを意味する。
【0023】
上記「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、具体的には、50〜70%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である65℃、1×SSC、0.1%SDS、又は0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件を挙げることができる。
【0024】
本発明のIPS−1遺伝子DNAの取得方法や調製方法は特に限定されるものでなく、本明細書中に開示した配列番号1又は配列番号2に示される塩基配列又はアミノ酸配列情報に基づいて適当なブローブやプライマーを調製し、それらを用いて当該遺伝子が存在することが予測されるcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより目的の遺伝子を単離したり、あるいは、常法に従って化学合成により調製することができる。
【0025】
具体的には、本発明のIPS−1mRNAが多く発現する心臓及び骨格筋より、常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、次いで、このライブラリーから、本発明の遺伝子に特有の適当なプローブを用いて所望クローンを選抜することにより、本発明の遺伝子を取得することができる。また、これらの細胞又は組織からの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニングなどはいずれも常法に従って実施することができる。本発明の遺伝子をcDNAライブラリーからスクリーニングする方法は、例えば、実施例記載のハイスループットスクリーニング方法や、モレキュラークローニング第2版に記載の方法等、当業者により常用される方法を挙げることができる。
【0026】
また、上記(B)〜(F)のいずれかに示される塩基配列からなる本発明の変異遺伝子又は相同遺伝子としては、配列番号1に示される塩基配列又はその一部を有するDNA断片を利用し、他の生物体等より、該DNAのホモログを適当な条件下でスクリーニングすることにより単離することができる。その他、前述の変異DNAの作製方法により調製することもできる。
【0027】
本発明のタンパク質の取得・調製方法は特に限定されず、天然由来のタンパク質でも、化学合成したタンパク質でも、遺伝子組換え技術により作製した組み換えタンパク質の何れでもよい。天然由来のタンパク質を取得する場合には、かかるタンパク質を発現している細胞又は組織からタンパク質の単離・精製方法を適宜組み合わせることにより、本発明のタンパク質を取得することができる。化学合成によりタンパク質を調製する場合には、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法に従って本発明のタンパク質を合成することができる。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して本発明のタンパク質を合成することもできる。遺伝子組換え技術によりタンパク質を調製する場合には、該タンパク質をコードするDNAを好適な発現系に導入することにより本発明のタンパク質を調製することができる。これらの中でも、比較的容易な操作でかつ大量に調製することが可能な遺伝子組換え技術による調製が好ましい。
【0028】
例えば、遺伝子組換え技術によって、本発明のタンパク質を調製する場合、かかるタンパク質を細胞培養物から回収し精製するには、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法、好ましくは、高速液体クロマトグラフィーが用いられる。特に、アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、本発明のタンパク質に対するモノクローナル抗体等の抗体を結合させたカラムや、上記本発明のタンパク質に通常のペプチドタグを付加した場合は、このペプチドタグに親和性のある物質を結合したカラムを用いることにより、これらのタンパク質の精製物を得ることができる。
【0029】
さらに、配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質は、配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列の一例を示す配列番号1に示される塩基配列の情報に基づいて当業者であれば適宜調製又は取得することができる。例えば、配列番号1に示される塩基配列又はその一部を有するDNAをプローブとしてヒト以外の生物より、該DNAのホモログを適当な条件下でスクリーニングすることにより単離することができる。このホモログDNAの全長DNAをクローニング後、発現ベクターに組み込み適当な宿主で発現させることにより、該ホモログDNAによりコードされるタンパク質を製造することができる。
【0030】
本発明の融合ペプチドとしては、上記本発明のタンパク質とマーカータンパク質及び/又はペプチドタグとが結合しているものであればどのようなものでもよい。マーカータンパク質としては、従来知られているマーカータンパク質であれば特に制限されるものではなく、例えば、アルカリフォスファターゼ、HRP等の酵素、抗体のFc領域、GFP等の蛍光物質などを具体的に挙げることができ、また本発明におけるペプチドタグとしては、HA、FLAG、Myc等のエピトープタグや、GST、マルトース結合タンパク質、ビオチン化ペプチド、オリゴヒスチジン等の親和性タグなどの従来知られているペプチドタグを具体的に例示することができる。かかる融合タンパク質は、常法により作製することができ、Ni−NTAとHisタグの親和性を利用した本発明のペプチドの精製や、本発明のペプチドの検出や、本発明のペプチドに対する抗体の定量や、その他当該分野の研究用試薬としても有用である。
【0031】
本発明の組換えベクターとしては、前記本発明の遺伝子を含み、かつIPS−1を発現することができる組換えベクターであれば特に制限されず、本発明の組換えベクターは、本発明の遺伝子を発現ベクター、好ましくは発現プラスミドベクターに適切にインテグレイトすることにより構築することができる。かかる発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製可能であるものや、あるいは宿主細胞の染色体中へ組込み可能であるものが好ましく、また、本発明の遺伝子を発現できる位置にプロモーター、エンハンサー、ターミネーター等の制御配列を含有しているものを好適に使用することができる。
【0032】
上記発現ベクターとして、例えば、pCMV6−XL3(OriGene Technologies Inc.社製)、EGFP-C1(Clontech社製)、pGBT−9(Clontech社製)、pcDNAI(フナコシ社製)、pcDM8(フナコシ社製)、pAGE107(Cytotechnology, 3,133, 1990)、pCDM8(Nature, 329, 840, 1987)、pcDNAI/AmP(Invitrogen社製)、pREP4(Invitrogen社製)、pAGE103(J.Blochem., 101, 1307,1987)、pAGE210等を例示することができる。また、プロモーターとしては、例えば、サイトメガロウイルス(ヒトCMV)のIE(immediate early)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーター等を挙げることができる。さらに、プロモーターの下流に蛍光蛋白質をコードする遺伝子等のレポーター遺伝子を融合することができる。蛍光蛋白質としては、緑色蛍光蛋白質(Green Fluorescence Protein(GFP))、赤色蛍光蛋白質(Cyan Fluorescence Protein(CFP))、青色蛍光蛋白質(Blue Fluorescence Protein(BFP))、黄色蛍光蛋白質(Yellow Fluorescence Protein(YFP))、ルシフェラーゼ(luciferase)を例示することができる。
【0033】
また、本発明の形質転換体としては、上記本発明の組換えベクターが宿主細胞に導入され、かつIPS−1を発現する形質転換体であれば特に制限されず、形質転換酵母、形質転換植物(細胞、組織、個体)、形質転換細菌、形質転換動物(細胞、組織、個体)を挙げることができるが、形質転換動物細胞が好ましい。
【0034】
遺伝子工学により形質転換される株化された宿主細胞としては、HEK293細胞、MEF細胞、Vero細胞、Hela細胞、CHO細胞、WI38細胞、BHK細胞、COS−7細胞、MDCK細胞、C127細胞、HKG細胞、ヒト腎細胞株等が挙げられる。具体的には、CHO−K1(チャイニーズハムスター卵巣細胞:ATCC CCL61)、BHK(ハムスター腎細胞:ATCC CCL10)、COS−7(CV−1Origin, SV−40細胞:ATCC CRL1651)、Vero細胞(アフリカミドリザル腎細胞:ATCC CCL81)等があり、更にはマウスミエローマ細胞(X63−Ag8−653;P3U1)、ヒトリンパ芽球細胞(IM−9,ATCCCCL159)、ヒトヒトハイブリドーマ作製用親細胞、ならびにこれらのdhfr欠損株、HGPRT欠損株、ウアバイン耐性株等を例示することができる。動物細胞への組み換えベクターの導入方法としては、例えば、Davisら(BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY, 1986)及びSambrookら(モレキュラークローニング第2版)などの多くの標準的な実験室マニュアルに記載される方法、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、トランスベクション(transvection)、マイクロインジェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープローディング (scrape loading)、弾丸導入(ballistic introduction)、感染等により行うことができる。
【0035】
昆虫細胞を宿主として用いる場合には、組換え遺伝子導入ベクターおよびバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルスを得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、タンパク質を発現させることができる(例えば、Baculovirus Expression Vectors, A Laboratory Manua1;及びカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Bio/Technology, 6, 47(1988)等に記載)。バキュロウイルスとしては、例えば、ヨトウガ科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)等を用いることができる。昆虫細胞としては、Spodoptera frugiperdaの卵巣細胞であるSf9、Sf21〔バキュロウイルス・エクスプレッション・ベクターズ、ア・ラボラトリー・マニュアル、ダブリュー・エイチ・フリーマン・アンド・カンパニー(W. H. Freeman and Company)、ニューヨーク(New York)、(1992)〕、Trichoplusia niの卵巣細胞であるHiFive(インビトロジェン社製)等を用いることができる。組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への組換え遺伝子導入ベクターと上記バキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法又はリポフェクション法等を挙げることができる。
【0036】
形質転換細菌の作製に用いられる細菌の宿主細胞の具体例としては、エッシェリヒア(Escherichia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、バチラス(Bacillus)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、セラチア(Serratia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、アースロバクター(Arthrobacter)属、エルウニア(Erwinia)属、メチロバクテリウム(Methylobacterium)属、ロドバクター(Rhodobacter)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属、ザイモモナス(Zymomonas)属等に属する微生物を挙げることができる。細菌宿主へ組換えベクターを導入する方法としては、例えば、カルシウムイオンを用いる方法やプロトプラスト法等を挙げることができる。
【0037】
IPS−1等の前記本発明のタンパク質又はその部分ポリペプチドを認識する抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体等の免疫特異的な抗体を具体的に挙げることができ、これらは上記IPS−1等の前記本発明のタンパク質又はその部分ポリペプチドを抗原として用いて常法により作製することができるが、その中でもモノクローナル抗体がその特異性の点でより好ましい。かかるモノクローナル抗体等のIPS−1等の前記本発明のタンパク質又はその部分ポリペプチドに特異的に結合する抗体は、例えば、IPS−1等の前記本発明のタンパク質の変異又は欠失に起因する疾病の診断やIPS−1等の分子機構を明らかにする上で有用である。
【0038】
IPS−1等の前記本発明のタンパク質又はその部分ポリペプチドに対する抗体は、慣用のプロトコールを用いて、動物(好ましくはヒト以外)に該IPS−1等の前記本発明のタンパク質又はその部分ポリペプチド若しくはエピトープを含む断片を投与することにより産生され、例えばモノクローナル抗体の調製には、連続細胞系の培養物により産生される抗体をもたらす、ハイブリドーマ法(Nature 256, 495-497, 1975)、トリオーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Immunology Today 4, 72, 1983)及びEBV−ハイブリドーマ法(MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY, pp.77-96, Alan R.Liss, Inc.,1985)など任意の方法を用いることができる。以下にIPS−1等の前記本発明のタンパク質又はその部分ポリペプチドとして、ヒトIPS−1を例に挙げてIPS−1に対して特異的に結合するマウスのモノクローナル抗体、すなわち抗ヒトIPS−1モノクローナル抗体の作製方法を説明する。
【0039】
上記抗ヒトIPS−1モノクローナル抗体は、抗ヒトIPS−1モノクローナル抗体産生ハイブリドーマをインビボ又はインビトロで常法により培養することにより生産することができる。例えば、インビボ系においては、齧歯動物、好ましくはマウス又はラットの腹腔内で培養することにより、またインビトロ系においては、動物細胞培養用培地で培養することにより得ることができる。インビトロ系でハイブリドーマを培養するための培地としては、ストレプトマイシンやペニシリン等の抗生物質を含むRPMI1640又はMEM等の細胞培養培地を例示することができる。抗ヒトIPS−1モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、例えば、ヒトIPS−1を用いてBALB/cマウスを免疫し、免疫されたマウスの脾臓細胞とマウスNS−1細胞(ATCC TIB−18)とを、常法により細胞融合させ、免疫蛍光染色パターンによりスクリーニングすることにより、抗ヒトIPS−1モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを作出することができる。また、かかるモノクローナル抗体の分離・精製方法としては、タンパク質の精製に一般的に用いられる方法であればどのような方法でもよく、アフィニティークロマトグラフィー等の液体クロマトグラフィーを具体的に例示することができる。
【0040】
また、本発明の上記ヒトIPS−1に対する一本鎖抗体をつくるためには、一本鎖抗体の調製法(米国特許第4,946,778号)を適用することができる。また、ヒト化抗体を発現させるために、トランスジェニックマウス又は他の哺乳動物等を利用したり、上記抗体を用いて、そのヒトIPS−1を発現するクローンを単離・同定したり、アフィニティークロマトグラフィーでそのポリペプチドを精製することもできる。ヒトIPS−1に対する抗体は、ヒトIPS−1の分子機構を明らかにする上で有用である。
【0041】
また上記抗ヒトIPS−1モノクローナル抗体等の抗体に、例えば、FITC(フルオレセインイソシアネート)又はテトラメチルローダミンイソシアネート等の蛍光物質や、125I、32P、14C、35S又はH等のラジオアイソトープや、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ又はフィコエリトリン等の酵素で標識したものや、グリーン蛍光タンパク質(GFP)等の蛍光発光タンパク質などを融合させた融合タンパク質を用いることによって、上記ヒトIPS−1の機能解析を行うことができる。また免疫学的測定方法としては、RIA法、ELISA法、蛍光抗体法、プラーク法、スポット法、血球凝集反応法、オクタロニー法等の方法を挙げることができる。
【0042】
本発明のIPS−1ノックアウト非ヒト動物としては、IPS−1遺伝子の機能が染色体上で欠損し、野生型において発現されるIPS−1を発現する機能が失われている非ヒト動物であれば特に制限されるものではない。本発明のIPS−1ノックアウト非ヒト動物としては、マウスやラット等のげっ歯類、特に、IPS−1遺伝子の機能が染色体上で欠損したIPS−1ノックアウトマウスを好適に挙げることができ、IPS−1ノックアウトマウスは、マウス遺伝子ライブラリーからPCR等の方法により得られた遺伝子断片を用い、IPS−1遺伝子をスクリーニングし、スクリーニングされたIPS−1遺伝子を、ウイルスベクターやプラスミドベクター等を用いてサブクローンし、制限酵素マッピング及びDNAシーケンシングにより特定することができる。次に、このIPS−1をコードする遺伝子の全部又は一部をpMC1ネオ遺伝子カセット等に置換し、3’末端側にジフテリアトキシンAフラグメント(DT−A)遺伝子や単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV−tk)遺伝子等の遺伝子を導入することによって、ターゲットベクターを作製する。この作製されたターゲティングベクターを線状化し、エレクトロポレーション(電気穿孔)法等によってES細胞に導入し、相同的組換えを行い、その相同的組換え体の中から、G418やガンシクロビア(GANC)等の抗生物質により相同的組換えを起こしたES細胞を選択する。また、この選択されたES細胞が目的とする組換え体かどうかをサザンブロット法等により確認することが好ましい。その確認されたES細胞のクローンをマウスの胚盤胞中にマイクロインジェクションし、かかる胚盤胞を仮親のマウスに戻し、キメラマウスを作製する。このキメラマウスを野生型マウスと交雑させると、ヘテロ接合体マウス(F1マウス:+/−)を得ることができ、また、このヘテロ接合体マウスを交雑させることによって、IPS−1ノックアウトマウスを作製することができる。また、IPS−1ノックアウトマウスにおいて、IPS−1がノックアウトされているかどうかを確認する方法としては、例えば、上記の方法により得られたマウスからRNAを単離してノーザンブロット法等により調べたり、またこのマウスにおけるIPS−1の発現の有無をウエスタンブロット法等により調べる方法がある。IPS−1ノックアウトマウスは、分子レベルでのIPS−1の作用を調べる上で有用である。
【0043】
本発明のI型IFNプロモーターを活性化する方法としては、本件タンパク質又は本件DNAで形質転換した宿主細胞で発現させた組換えタンパク質を用いて、I型IFNプロモーターを活性化する方法であれば特に制限されず、例えば、上記本件タンパク質又は組換えタンパク質を用いてI型IFNプロモーターを活性化させ、I型インターフェロン等を製造することも可能である。また、被験物質が存在する細胞内でI型IFNプロモーターを活性化させ、該プロモーターの活性化の程度を、被験物質を投与していない場合と比較・評価することにより、I型IFNプロモーター活性化機能を阻害(又は増強)する化合物をスクリーニングすることも可能である。さらに、IPS−1は、インターフェロンαをはじめとする各種サイトカインの産生に関与する分子であることから、インターフェロンαが必要とされる疾病、例えば、ウイルス感染症の遺伝子治療に使用することができ、IPS−1等の遺伝子のアンチセンス鎖は、形質細胞様樹状細胞からのインターフェロンαの過剰産生が病態と考えられているSLE(全身性エリテマトーデス)の遺伝子治療に使用することができる。また、ウイルス感染や自然免疫疾患の治療への遺伝子レベルでの研究において使用することも可能である。
【0044】
また、本発明は、本件DNAをIPS−1活性を有するタンパク質の製造に使用する方法に関する。IPS−1活性を有するタンパク質の製造における使用形態は特に制限されないが、本件DNAで形質転換した宿主細胞を培養することにより、組換えタンパク質として発現させる、IPS−1活性を有するタンパク質の製造に使用する方法などを好適に例示することができる。また、本発明は、本件タンパク質をI型IFNの製造に使用する方法にも関する。I型IFNの製造における使用形態は特に制限されないが、本件タンパク質を用いてI型IFNプロモーターを活性化させる、I型インターフェロン等の製造に使用する方法などを好適に例示することができる。
【0045】
本発明のI型IFNプロモーターの活性化による抗ウイルス応答機能が喪失したモデル動物としての使用方法としては、IPS−1遺伝子の機能を染色体上で欠損させたIPS−1ノックアウト非ヒト動物をI型IFNプロモーターの活性化による抗ウイルス応答機能が喪失したモデル動物として使用する方法であれば特に制限されず、I型IFNプロモーターの活性化による抗ウイルス応答機能が喪失したとは、各種ウイルス(例えば、ニューカッスル病ウイルス:NDV、水疱性口内炎ウイルス:VSV、センダイウイルス:SeV、及び脳心筋炎ウイルス:EMCV等のRNAウイルス)の感染に対する各種サイトカイン(例えば、インターフェロンα、インターフェロンβ、IP−10、RANTES及びIL−6など)による抗ウイルス応答機能が喪失していることをいい、上記IPS−1ノックアウト非ヒト動物は、I型IFNプロモーターの活性化による抗ウイルス応答機能が喪失していることから、マウス内においてウイルスがより活発に増殖するという性質を有している。従って、IPS−1ノックアウトマウスは、ウイルス感染のモデルマウスとして利用することができ、このマウスを用いて抗ウイルス薬の開発などへの応用が期待される。また、インターフェロン等のウイルス応答機能により、in vitroでは培養が難しいとされているウイルスであっても、このマウス由来の細胞を適用すれば、インターフェロン等の抗ウイルス応答機能が抑制されているため、培養することが可能であり、培養可能になれば、ウイルスのライフサイクルや感染メカニズムの理解、長鎖dsRNAによるRNAiの作用メカニズムの解明、さらにはそのウイルスに対する薬剤開発への応用が期待される。
【0046】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0047】
(IPS−1の同定)
本発明者らは、発現クローニングストラテジーにより、IFNβプロモーターを活性化する分子を同定した。発現プラスミドにクローニングしたcDNAライブラリーの一部を、100個のcDNAのプールに細分し、各DNAプールを、IFNβプロモーターLucレポタープラスミドと共にHEK293細胞にトランスフェクトした。平均的活性と比較して、5倍以上の活性を示すプールを陽性とした(図1a)。ヒトの胎盤、脾臓、抹消血白血球(PBL)の各cDNAライブラリーの一次スクリーニングにより、28の陽性プールを得た。各陽性プールから、IFNβプロモーター活性化に関与する単一のクローンを単離した(図1b)。
【0048】
2400個のプールをスクリーニングした結果、合計15のクローンを同定した。IRF7のクローン6個、IRF3のクローン3個、IRF1のクローン2個及びIRF8のクローン1個を含む、12個のクローンはプロモーターを活性化することがすでに報告されている(表1)。この他に、本発明者らは、新規IFN誘導物質としてジンクフィンガータンパク質CXXC5及びプロテインキナーゼCdc42bpbを同定した。さらに、本発明者らは、約800倍の活性化を誘導する新規分子を単離した。このクローンは、540個のアミノ酸のオープンリーディングフレームからなり(図2a、2b)、相同性検索により、N末端にMda−5/ヘリカードのCARDに類似した領域が明らかとなった(同一性27%)(図2c)。比較分析により、かかるタンパク質が、RIG−IのCARDとも相同性を有することが示された(図2d)。しかし、かかるタンパク質と他のCARD含有タンパク質との類似性は見い出せなかった。そこで、GWXXXFφXAL(φは、疎水性)の保存配列を有するかかるドメインをCARD様ドメイン(CLD)と命名した。C末端の非CLD領域は、他の既知のタンパク質又はドメインと類似性はなかった。IFNβプロモーターの活性化能に基づき、このタンパク質をIFNβプロモーター刺激剤−1としてIPS−1と命名した。
ヒトIPS−1の発現を、多組織ノーザンブロットによって調べた(図2e)。IPS−1mRNAは、心臓及び骨格筋で多く発現したが、脳、胎盤、肺、肝臓、腎臓及び膵臓ではわずかしか発現しなかった。
【表1】

【実施例2】
【0049】
(IPS−1は、I型IFNプロモーターを活性化する。)
HEK293細胞内でのFlag標識IPS−1発現プラスミドの過剰発現は、IFNβプロモーターを用量依存的に活性化した(図3a)。同様に、IPS−1の過剰発現は、IRFファミリーによって制御されているIP−10、RANTES及びISREプロモーターを用量依存的に活性化した(図3a)。次に、IFNα4及びIFNα6プロモーターLucコンストラクトを用いて、IFNαプロモーター活性化を分析した。IPS−1のみの過剰発現は、IFNα4及びIFNα6プロモーター活性化をわずかに誘導した(図3b)。しかし、IRF7が同時発現すると、IFNα4プロモーター、IFNα6プロモーターの両方が相乗的に活性化し(図3b)、IPS−1が、IRF7媒介性転写活性を増強したことを示した。さらに、Flag−IPS−1と同時発現すると、Myc−IRF3及びMyc−IRF7がゆっくりと移動することを見い出した(図3c)。この移動は、リン酸化によるものである。なぜなら、ホスファターゼ処理により、ゆっくりとした移動は消失し(データは示されていない)、IPS−1が、IRF3及びIRF7のリン酸化を誘導することを明らかにしたからである。
【0050】
次に、TBK1/IKKi二重欠損マウス由来のマウス胚繊維芽細胞(MEF)を用いて、IPS−1が媒介するIFN誘導がこれらのキナーゼに依存するか否かを調べた。IFNβプロモーター活性は、IPS−1発現プラスミドをトランスフェクトした野生型MEFで増加したが、TBK1/IKKi二重欠損MEFでは活性化は観察されなかった(図3d)。他方、TBK1の過剰発現は、野生型とTBK1/IKKi二重欠損MEFとの両方でプロモーターを活性化した。同様に、TBK1の発現は、TBK1/IKKi二重欠損細胞でIFNα4プロモーターを活性化したが、IPS−1の発現は活性化せず、IPS−1依存性のIFNプロモーター活性化にTBK1及びIKKiが必須であるあることを示した(図3d)。
【0051】
本発明者らは、2つのIPS−1の欠損変異体、N末端CLDのみをコードするIPS−1Nと、C末端非CLD領域のみを含むIPS−1Cとを作製した。IPS−1Nの過剰発現は、IFNβプロモーターを活性化したが、全長の過剰発現と比べると活性化は弱かった。IPS−1Cの発現は、プロモーターを活性化せず(図3e)、IPS−1が媒介するIFNβプロモーター活性化には、構造全体が必要であることを示した。
【実施例3】
【0052】
(IPS−1の発現は、抗ウイルス応答を与える。)
IPS−1発現後の、内因性I型IFN及びIFN誘導性遺伝子の誘導を分析した。HEK293細胞におけるFlag−IPS−1の過剰発現は、内因性IFNβ(Ifnb)及び、IP−10(Cxcl10)及びGARG16(Ifit1)等のIFN誘導性遺伝子の誘導を刺激した(図4a)。さらに、培養上清内のIFNα産生は、IPS−1をトランスフェクトしたHEK293細胞でも観察され、この誘導は、IRF7の同時発現によって増強した(図4b)。このように、IPS−1の発現は、これらの遺伝子の内因性プロモーター活性化を導く。次に、コントロール又はIPS−1をトランスフェクトしたHEK293細胞にVSVを感染し、感染の24時間後にウイルス力価を測定した。ウイルス力価は、コントロール細胞と比較してIPS−1発現細胞で著しく減少した(図4c)。これらの結果は、IPS−1のみの発現が、恐らくI型IFN等の抗ウイルス性サイトカインを産生することによって、抗ウイルス応答を与えるのに十分であることを示唆した。
【実施例4】
【0053】
(IPS−1はNF-κBを活性化する。)
IPS−1の発現がNF−κBを活性化するか否かを調べるために、HEK293細胞に、IPS−1を、ELAM1プロモーターLucコンストラクトとトランジェントにトランスフェクトした。IPS−1の発現は、用量依存的にNF-κB活性化を導いた(図5a)。さらに、この活性化は、触媒陰性(catalytic negative)IKKβ(K44A)の同時発現によって阻害された(図5b)。IPS−1NもIPS−1CもNF−κBを活性化しなかった(図5c)。さらに、IPS−1発現プラスミドをトランスフェクトしたHEK293細胞の培養上清において、IL−8の産生が観察されたが、コントロールプラスミドでトランスフェクトしたHEK293細胞では観察されなかった。これは、IPS−1が内因性NF−κBプロモーターも活性化することを示唆している(図5d)。IFNα及びIFNβプロモーター活性化と異なり、IPS−1の過剰発現は、TBK1/IKKi二重欠損MEFでELAM1活性化を誘導した(図5e)。さらに、TRAF6欠損MEFでは、IPS−1によるNF−κB及びIFNβプロモーター活性化が引き続き観察された。これらの結果は、IPS−1によるNF−κB活性化は、IKKβ依存的であるが、TRAF6及びTBK1/IKKiに非依存的であることを示している。
【実施例5】
【0054】
(IPS−1は、RIG−I、Mda5、FADD及びRIP1と複合体を形成する。)
IPS−1、Mda5及びRIG−Iの配列類似性により、これらの分子が物理的に互いに会合するかどうかを調べてみた。HEK293細胞に、Myc−IPS−1を、Flag−Mda5、Flag−Mda5△C、Flag−RIG−I又はFlag−RIG−I△Cとトランスフェクトし、細胞可溶化液を抗Myc抗体で免疫沈降した。Myc−IPS−1及びFlag−RIG−I△Cの両方を発現する細胞で、免疫共沈降が観察された(図6a)。さらに、弱いものの、Myc−IPS−1及びFlag−Mda5△C間で会合が観察された(図6a)。IPS−1のCLDが発現したときにも、類似した会合が観察された(データは示されていない)。これらの結果は、IPS−1のCLDがRIG−I及びMda−5のN末端CARD含有領域と会合することを示した。
【0055】
FADD及びRIP1が、dsRNAが誘導する抗ウイルス応答に関連していたので、これらの分子の相互作用を調べた。Flag−FADD及びFlag−RIP1 は、Myc−IPS−1と共沈殿したが、Flag−TBK1はしなかった(図6b)。FADDとの相互作用に、IPS−1Cは必須であったが、IPS−1Nは必須でなかった(図6c)。さらに、IPS−1が媒介するIFNβプロモーター活性化は、N末端デスエフェクタードメインをコードするFADD DEDの発現によって減少し、FADD DEDがIPS−1依存性シグナル伝達に関連するドミナントネガティブな変異体として作用することを示唆した(図6d)。
【実施例6】
【0056】
(IPS−1ノックダウンはIFN応答をブロックする。)
siRNAオリゴを用いてIPS−1の内因性発現を減少し、IPS−1の生理機能を調べた。ヒトIPS−1mRNAの異なる部分を標的とする二本鎖21−mer RNAを3個用意した。パイロット実験では、トランスフェクションの48時間後に、2個のsiRNA(Ips−1−1、Ips−1−2)が、RT−PCRで定量したように、Hela細胞内のIPS−1のノックダウンを誘導した(図7a)。かかるsiRNAによるIPS−1の発現の減少は、7日間続いた(データは示されていない)。そこで、かかる2つのsiRNAを新たな分析に使用した。コントロールsiRNA(コントロール)、Ips−1−1又はIps−1−2を、HDK293細胞にトランスフェクトし、全RNAを、48時間後にRT−PCR分析用に調製し、標的遺伝子の発現の減少を確認したが、Gapdhの発現には何の影響もなかった(図7a)。
【0057】
dsRNAトランスフェクションが誘導するIFNβプロモーター活性化に対する、siRNAの影響を調べてみた。コントロール、Ips−1−1又はIps−1−2で処理したHEK293細胞に、IFNβプロモーターLucコンストラクトをトランスフェクトし、その後、合成dsRNAポリ(I:C)を異なる濃度でトランスフェクトした。Ips−1発現のノックダウンは、ポリ(I:C)刺激後にプロモーター活性の減少を導いた(図7b)。さらに、コントロール又はIps−1−1siRNAをトランジェントにトランスフェクション処理したHEK293細胞に、RIG−I△C又はTrifを発現させた。RIG−I△Cは恒常的にIFNβプロモーターを活性化することを示した(Nat Immunol. 5, 730-737, 2004)。RIG−I△Cが誘導するプロモーター活性化は、Ips−1−1処理細胞で減少したが、Trifが誘導する活性化は、これらの細胞で減少しなかった(図7c)。したがって、IPS−1は、RIG−I依存性シグナル伝達に必須であるが、Trif依存性シグナル伝達には必須でない。
【0058】
ポリ(I:C)で刺激したIFNβ及びIFN誘導性遺伝子の発現を調べた。ポリ(I:C)トランスフェクションの3時間後のIFNβ及びIP−10メッセージの誘導は、コントロールで処理した細胞と比較して、Ips−1−1及びIps−1−2で処理したHEK293細胞で著しく減少し(図7d)、IPS−1が、dsRNAが媒介する遺伝子誘導に必須であることを示唆した。次に、siRNAで処理したHEK293細胞を、細胞変異性でないVSV変異体(VSVmt)(J Virol. 76, 8011-8018, 2002)又はNDVで感染し、IFNαを測定した。Ips−1−1又はIps−1−2で処理した細胞における、ウイルス感染24時間後のIFNα産生は、コントロールsiRNAで処理した細胞と比較して、顕著に減少した(図7e)。したがって、IPS−1は、ウイルス感染に対する抗ウイルス応答にも、dsRNA刺激にも必須である。
【実施例7】
【0059】
(ホモ型ノックアウトマウスは健康に生育する。)
IPS-/-マウスは、予想されたメンデル比で生まれ、繁殖性であり、健康に育ち、10週の年齢まで異常を示さなかった。また、ホモ接合体(−/−)において、IPS−1遺伝子の機能が欠損していることを確認するためサザンブロット分析を行った。マウスの尾部より抽出したゲノムDNAをEcoRIで消化した遺伝子断片と、以下に示した放射能標識をしたマウスゲノム由来のプローブ(配列番号27)を用いてサザンブロット法により確認した。その結果、野生型(+/+)には単一の11.3kbバンドが、ホモ接合体(−/−)には7.0kbバンドが、ヘテロ接合体(+/−)にはその両方のバンドが得られた(図8b参照)。次に、ホモ接合体(−/−)において、IPS−1遺伝子が発現していないことを確認するためノーザンブロット分析を行った(図8c参照)。さらに、IPS−1の発現がタンパク質レベルでも消失していることを確認するために、ウェスタンブロット分析を行った(図8d参照)。図8のdの矢印に示した箇所が内在性IPS−1タンパクであり、野生型(+/+)では現れているバンドが、ホモ接合体(−/−)には現れていないのが確認できる。
マウスゲノム由来のプローブ:AACCATGCAGGCCAGGAAGCTGGATTGTTACAATGACCTTCGTGGTTCAGCA
AGGACAAGGCTATCTATAACTGCATTTAGACGCTGGTCCTCACAGGCCTGGTGCTCTTTTTGCAAGAATTAAATAAGAGGCCCTTGTTGCTTTCAACAAGACTAAGTCACTAAACCTCACTTCAGAGTTGTTTTTTACATTTTCAAATTTGTTTTGTAGGGACAGGCAGTTGTGGACATCAGA(配列番号27)
【実施例8】
【0060】
(IPS−1欠損型(−/−)マウスは、各RNAウイルスに対する反応性を喪失し、ウイルス感染のモデルマウスとして利用できる。)
IPS−1欠損型(−/−)マウスにおける各RNAウイルス、具体的にはニューカッスル病ウイルス(NDV)、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、及びセンダイウイルス(SeV)に対する反応性を調べた。まず、野生型(+/+)、及びIPS−1欠損型(−/−)MEFに1本鎖RNAウイルスであるニューカッスル病ウイルス(NDV)、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、及びセンダイウイルス(SeV)を感染させ、24時間後の培養上清中のサイトカイン(IFNα,IFNβ,IL−6)濃度をエライザ法により測定した。結果は図9のaに示すとおりである。次に、野生型(+/+)、及びIPS−1欠損型(−/−)MEFにNDV、VSV、SeVを感染させ、0、9、18時間後に細胞からRNAを回収し、IFNβ、IFNα、IP−10、RANTES、IL−6の各mRNAに相補的なプローブを用いて、IFNα、IFNβ、IFNα、IP−10、RNATES、及びIL−6の遺伝子発現をノーザンブロット法にて検討した。なお、プローブは以下の(1)〜(5)に示した。また、ポジティブコントロールとして、β−actinを用い、プローブは、Hemmi H et al., J. Exp. Med., 199: 1641-1650, 2004に記載のプローブを用いた。結果は図9のbに示すとおりである。図9のa及びbより、IPS−1欠損マウスは、上記ウイルス(NDV、VSV及びSeV)による各種サイトカイン(IFNα、IFNβ、IP−10、RANTES、IL−6)の産生が抑制されることが確認された。
(1)IFN−β;CCTGCTGTGCTTCTCCACCACAGCCCTCTCCATCAACTATAAGCAGCTCCAGCTCCAAGAAA
GGACGAACATTCGGAAATGTCAGGAGCTCCTGGAGCAGCTGAATGGAAAGATCAACCTCACCTACAGGGCGGACTTCAAGATCCCTATGGAGATGACGGAGAAGATGCAGAAGAGTTACACTGCCTTTGCCATCCAAGAGATGCTCCAGAATGTCTTTCTTGTCTTCAGAAACAATTTCTCCAGCACTGGGTGGAATGAGACTATTGTTGTACGTCTCCTGGATGAACTCCACCAGCAGACAGTGTTTCTGAAGACAGTACTAGAGGAAAAGCAAGAGGAAAGATTGACGTGGGAGATGTCCTCAACTGCTCTCCACTTGAAGAGCTATTACTGGAGGGTGCAAAGGTACCTTAAACTCATGAAGTACAACAGCTACGCCTG(配列番号28)
(2)IFNα;Hemmi H et al., J. Exp. Med., 199: 1641-1650, 2004に記載のプローブ
(3)IP−10;CATCAGCACCATGAACCCAAGTGCTGCCGTCATTTTCTGCCTCATCCTGCTGGGTCTGAGTG
GGACTCAAGGGATCCCTCTCGCAAGGACGGTCCGCTGCAACTGCATCCATATCGATGACGGGCCAGTGAGAATGAGGGCCATAGGGAAGCTTGAAATCATCCCTGCGAGCCTATCCTGCCCACGTGTTGAGATCATTGCCACGATGAAAAAGAATGATGAGCAGAGATGTCTGAATCCGGAATCTAAGACCATCAAGAATTTAATGAAAGCGTTTAGCCAAAAAAGGTCTAAAAGGGCTCCTTAACTGGAGAGAAGCCACGCACACACCCCGGTGCTGTGATGGACAGCAGAGAGCCTGTCTCTCCATCACTCCCCTTTACCCAGTGGATGGCTAGTCCTAATTGCCCTTGGTCTTCTGAAAGGTGACCAGCCGTGGTCACATCAGCTGCTACTCCTCCTGCAGGATGATGGTTAAGCCATGGTCCTGAGACAAAAGTAACTGCCGAAGCAAGAATTCTTTAAGGGCTGGTCTGAGTCCTCACTCAAGTGGCTGGGATGGCTGTCCTAGCTC(配列番号29)
(4)RANTES;CAGCCGCCCTCTGCACCCCCGCACCTGCCTCACCATATGGCTCGGACACCACTCCCTGCT
GCTTTGCCTACCTCTCCCTCGCGCTGCCTCGTGCCCACGTCAAGGAGTATTTCTACACCAGCAGCAAGTGCTCCAATCTTGCAGTCGTGTTTGTCACTCGAAGGAACCGCCAAGTGTGTGCCAACCCAGAGAAGAAGTGGGTTCAAGAATACATCAACTATTTGGAGATGAGCTAGGATAGAGGGTTTCTTGATTCTGACCCTGTATAGCTTCCCTGTCATTGCTTGCTCTAGTCC(配列番号30)
(5)IL−6;GTTCCTCTCTGCAAGAGACTTCCATCCAGTTGCCTTCTTGGGACTGATGCTGGTGACAACCACG
GCCTTCCCTACTTCACAAGTCCGGAGAGGAGACTTCACAGAGGATACCACTCCCAACAGACCTGTCTATACCACTTCACAAGTCGGAGGCTTAATTACACATGTTCTCTGGGAAATCGTGGAAATGAGAAAAGAGTTGTGCAATGGCAATTCTGATTGTATGAACAACGATGATGCACTTGCAGAAAACAATCTGAAACTTCCAGAGATACAAAGAAATGATGGATGCTACCAAACTGGATATAATCAGGAAATTTGCCTATTGAAAATTTCCTCTGGTCTTCTGGAGTACCATAGCTACCTGGAGTACATGAAGAACAACTTAAAAGATAACAAGAAAGACAAAGCCAGAGTCCTTCAGAGAGATAC(配列番号31)
【0061】
さらに、野生型(+/+)、IPS−1欠損型(−/−)マウスの腹腔マクロファージに脳心筋炎ウイルス(EMCV)を感染させ、24時間後の培養上清中のサイトカイン(IFNα、IFNβ、IL−6)濃度をエライザ法により測定した。結果は図9のcに示すとおりである。次に、野生型(+/+)、IPS−1欠損型(−/−)マウスの腹腔マクロファージにEMCVを感染させ、0、6、9時間経過後、細胞よりRNAを回収し、IFNβ、IFNα、IP−10、RNATES、及びIL−6の遺伝子発現をRT−PCR法により検討した。なお、ポジティブコントロールとして、β−actinを用いた。結果は図9のdに示すとおりである。図9のc及びdより、IPS−1欠損マウスは、EMCVによる各種サイトカイン(IFNα、IFNβ、IP−10、RANTES、IL−6)の産生が抑制されることが確認された。
【0062】
これらの結果より、IPS−1欠損型(−/−)マウスは、I型IFNプロモーターの活性化による抗ウイルス応答機能が喪失しており、マウス内においてウイルスがより活発に増殖するという性質を有している。したがって、IPS−1欠損型(−/−)マウスは、ウイルス感染のモデルマウスとして利用できることが明らかとなった。
【実施例9】
【0063】
(IPS−1欠損型(−/−)マウスにおけるポリI:Cに対する反応性を喪失し、ウイルス感染のモデルマウスとして利用できる。)
次に、IPS−1欠損型(−/−)マウスにポリI:Cを投与し、ポリI:Cの投与量及び投与時間における各種サイトカイン(IFNα、IFNβ、IP−10、及びIL−6)の産生を調べた。まず、IPS−1欠損型(−/−)マウスにおけるNDV感染応答性シグナル伝達経路を解析した。野生型(+/+)、IPS−1欠損型(−/−)MEFを図で示した濃度のポリI:Cで刺激し、24時間後の培養上清中のサイトカイン(IFNα、IFNβ、IL−6)濃度をエライザ法により測定した。結果は図10aに示すとおりである。次に、野生型(+/+)、IPS−1欠損型(−/−)MEFをポリI:Cで刺激した。0、2、4、6時間後に細胞からRNAを回収し、上記に示したIFNβ、IFNα、IP−10、IL−6の各mRNAに相補的なプローブを用いて、IFNβ、IFNα、IP−10、及びIL−6の遺伝子発現をノーザンブロット法にて検討した。なお、ポジティブコントロールとして、β−アクチン(β−actin)を用いた。結果は図10のbに示すとおりである。さらに、ヘテロ型(+/+)、IPS−1欠損型(−/−)マウスにポリI:Cを静脈内注射し、計時的に採取した血清中におけるサイトカイン(IFNα、IFNβ、IL−6)濃度をエライザ法により測定した。結果は図10のcに示すとおりである。
【0064】
図10のa〜cに示される結果より、IPS−1欠損マウスはポリI:Cにより誘導される各種サイトカイン(IFNα、IFNβ、IP−10、IL−6)の産生が抑制されることが確認された。これらの結果は、IPS−1欠損型(−/−)マウスが、ウイルス感染のモデルマウスとして利用できることを支持するものである。
【実施例10】
【0065】
(IPS−1欠損型(−/−)マウスにおけるNDV感染応答性シグナル伝達経路を活性化し、抗ウイルス応答を誘導する。)
さらに本発明者らは、IPS−1欠損型(−/−)マウスにおけるウイルス感染応答のシグナル伝達経路を解析した。まず、野生型(+/+)、IPS−1欠損型(−/−)MEFにNDVを感染させ、0、10、20時間後に核タンパク質を抽出し、NF−kBの活性化をEMSA法により検討した。IPS−1野生型(+/+)において観察されるNF−κBの発現が、IPS−1欠損型(−/−)においては、観察されなかった(図11のa)。次に、野生型(+/+)、IPS−1欠損型(−/−)MEFにNDVを感染させ、0、6、8時間後にライセートを調整した。調整したライセートをNativePAGEで展開後、フィルターに転写し、フィルターを抗IRF3抗体でブロットし、ダイマー(二量体)形成を検討した。IRF3の活性化をダイマー形成により確認したところ、IPS−1欠損型(−/−)においては、これらダイマー形成が観察されなかった(図11のb)。
【0066】
以上の結果より、IPS−1のNDV感染応答のシグナル伝達は、NF−κBや、IRF3の活性化を介して、I型IFNを産生したり、IFN誘導性遺伝子を発現したりすることにより、抗ウイルス応答を誘導するものであることが示唆された。
【0067】
[材料と方法]
(ハイスループットスクリーニング)
スクリーニングは、若干修正を加えた文献(EMBO J. 21, 5184-5194, 2002)に従って行った。ヒト胎盤、脾臓又はPBLのcDNAライブラリーを、pCMV6−XL3(OriGene Technologies Inc.社製)にクローニングしたプラスミドDNAでE. coli DH5αを形質転換し、1プレートあたり100コロニーまでの密度でLB寒天アンピシリンプレートに播種した。一晩インキュベートした後、ニトロセルロースフィルター膜を用いてレプリカプレートを作製した。一次形質転換プレートのコロニーを掻爬し、QIAprep 8 Miniprep Kit (QIAGEN社製) を用いてプラスミドDNAを調製し、cDNAプールとして用いた。24ウェル皿に播種したHEK293細胞(1×10/ウエル)に、Lipofectamine 2000 (Invitrogen社製)を用いて、1.0μgのcDNAプールと、100ngのIFNβ―Lucコンストラクトとをトランジェントにトランスフェクトした。36時間後、細胞を100μlのレポーター溶解バッファー(Promega社製)で溶解した。デュアルルシフェラーゼアッセイシステム(Promega社製)で、可溶化液5μlのルシフェラーゼ活性を測定した。50ngのウミシイタケ−ルシフェラーゼレポーター遺伝子を、内部コントロールとして同時にトランスフェクトとした。
【0068】
陽性プールに対応するレプリカプレートの個別コロニーを選択し、1.0mlのアンピシリン含有LB培地で培養した。培養物より調製したプラスミドDNAを、IFNβ−LucとHEK293にコトランスフェクトし、ルシフェラーゼ活性を分析し、プールの活性化に関与する単一のクローンを単離した。5’及び3’プライマーを用いて、陽性DNAをシークエンシングし、BLASTサーチにより特徴づけた。ヒト胎盤cDNAライブラリーから入手した単一ヒトIPS−1クローンは、最初のATGのアップストリームで、インフレームストップコドンを有するオープンリーディングフレーム全体をコードしていた。ポリAテールも得られたクローンに含まれていた。
【0069】
(プラスミド)
テンプレートとして、スクリーニングによって得たIPS−1−pCMV6−XL3を用いて、PCRによりIPS−1、IPS−1N(a.a.1−117)及びIPS−1C(a.a.118−540)を増幅し、pFLAG-CMV2(Sigma社製)、又はpEF-BOSに結紮し、それぞれFlag標識、Myc標識発現コンストラクトを作製した。ヒトIRF3及びIRF7をRT−PCRにより入手し、pEF-BOSに結紮した。IKKβ K44A、TBK1及びTrifコンストラクトは、文献に記載されている(J Immunol. 171, 4304-4310, 2003)。RT−PCRで増幅した、ヒトFADD DED(a.a.1−85)をRT−PCTにより増幅し、pFLAG-CMV2に結紮した。RT−PCTにより増幅したヒトRIG−I、RIG−I△C(a.a.1−604)、Mda5、Mda5△C(a.a 1−575)及びRIP1を、pFLAG-CMV6(Sigma社製)に結紮した。IFNβ、IFNα4、IFNα6及びELAM1のルシフェラーゼレポーターコンストラクトは文献に記載されている(Nat Immunol. 5, 1061-1068, 2004)。ISRE−LucはStratageneより入手した。IP−10−Luc及びRANTES−LucはD.T. Golenbock (マッサチューセット大学医学部、MA)より提供された。
【0070】
(細胞、ウイルス及び試薬)
HEK293細胞、Hela細胞及びMEF細胞を、5%COのインキュベーター内の10%FCSを添加したDMEMで培養した。TBK1/IKKi二重欠損マウス由来のMEF細胞は、文献記載の通り調製した(J Exp Med. 199, 1641-1650, 2004)。ポリ(I:C)(Amersham Bioscience社製)をFugene(Roche社製)と混合し、HEK293細胞にトランスフェクトした。抗Flag抗体(M2)ビーズ及びHRP複合抗Flag抗体(M2)は、Sigma社より購入した。抗Myc抗体(9E10)アガロース及びHRP複合抗Myc抗体(9E10)は、Santa Cruz 社から購入した。VSV及びVSV変異体は、Dr. T. Abe 、Dr. Y. Matsuura(大阪大学)より提供された。NDVは、Dr. T.Fujita(東京都臨床医学総合研究所)より提供された。
【0071】
(レポーター分析)
24ウェルプレート(1×10細胞/ウェル)に播種したHEK293細胞、又は6
ウェルプレート(1×10細胞/ウェル)に播種したMEF細胞に、100ngのルシフェラーゼレポータープラスミドと、所定の発現プラスミド又は空コントロールプラスミド合計1.0μgとを、トランジェントにトランスフェクトした。36〜48時間後、全細胞可溶化液のルシフェラーゼ活性をデュアル−ルシフェラーゼレポーターアッセイシステム(Promega社製)で測定した。50ngのウミシイタケ−ルシフェラーゼレポーター遺伝子を、内部コントロールとして同時にトランスフェクトした。
【0072】
(ELISA)
FLAG−IPS−1又はFLAG−IRF7をトランジェントにトランスフェクトしたHEK293細胞、又はウイルスを感染した細胞を24時間培養した。上清のサイトカインIFNαを、製造者の指示に従ってELISA(PBL Bio Lab.社製)により測定した。IL−8のELISAは、文献記載どおりに行った(J Immunol. 174, 2273-2279,2005)。
【0073】
(プラークアッセイ)
VSVを感染させたHEK293細胞から回収した培養上清のウイルス収量を測定した。回収したウイルスの段階希釈液で感染されたBHK細胞を、1.0%の低融解アガロースを含むDMEMで覆った。24時間のインキュベーション後にプラークを算定した。
【0074】
(ノーザンブロット分析及びRT−PCR)
ヒト多組織ノーザンブロット(CLONTECH社製)で32P標識全長ヒトIPS−1プローブをハイブリダイズし、洗浄し、オートラジオグラフィーにより視覚化した。RT−PCR分析用に、全RNAをTrizol試薬(Invitrogen 社製)を用いて単離し、SuperScript III逆転写酵素(Invitrogen 社製)を製造者の指示に従って用いて逆転写した。PCRは、以下のプライマーを用いて連続して行った。
Ifnb;5’−CAGCAATTTTCAGTGTCAGAAGCT−3’(配列番号3)及び5’−TCATCCTGTCCTTGAGGCAGTAT−3’ (配列番号4)、Cxcl10;5’−TGACTCTAAGTGGCATTCAAGG−3’(配列番号5)及び5’−GATTCAGACATCTCTTCTCACCC−3’(配列番号6)、Ifit1;5’−CCTGCTGGTGGTGGACAAAT−3’(配列番号7)及び5’−TGCGGCCCTTGTTATTCC−3’(配列番号8),Gapdh;5’−CTGGGCTACACTGAGCACCAG−3’(配列番号9)及び5’−CCAGCGTCAAAGGTGGAG−3’(配列番号10)。
【0075】
(免疫共沈降及びイムノブロット分析)
HEK293細胞100万個を、100mm皿に播種した。12時間後、細胞に空プラスミド又は所定のプラスミド全量6.0μgを、Lipofectamine 2000(Invitrogen社製)を用いてトランジェントにトランスフェクトした。免疫沈降及びイムノブロットは、文献記載のとおり行った(Nat Immunol. 5, 1061-1068, 2004)。
【0076】
(RNA干渉)
siRNA実験用に、21ヌクレオチドを有するセンス及びアンチセンスオリゴヌクレオチドからなる二本鎖RNAデュプレックスを、ダーマコンリサーチ(Dharmacon research)により合成した。ヒトIPS−1を標的とするのに用いたRNAオリゴヌクレオチドは、次の通りである。Ips−1−1センス;5’−UAGUUGAUCUCGCGGACGAdTdT−3’(配列番号11)、Ips−1−1アンチセンス;5’−UCGUCCGCGAGAUCAACUAdTdT−3’(配列番号12)、Ips−1−2センス;CCGUUUGCUGAAGACAAGAdTdT−3’(配列番号13)、Ips−1−2アンチセンス;UCUUGUCUUCAGCAAACGGdTdT−3’(配列番号14)。HEK293細胞又はHela細胞を、60mm皿(5×10)に、トランスフェクションの12時間前に播種した。100nMのsiRNAを、Lipofectamine 2000又はOligofectamine(Invitrogen社製)を製造者の指示に従って用いて、それぞれHEK293細胞又はHela細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、細胞を新たな実験に使用した。RT−PCRにより、IPS−1mRNAのノックダウンを5’−ATGCCGTTTGCTGAAGAC−3’(配列番号15)及び5’−CTAGTGCAGACGCCGCCG−3’(配列番号16)のプライマーで確認した。
【0077】
(IPS−1ノックアウトマウスの作製)
(1)キメラマウスの作製
IPS−1の生理学的役割を検討するため、ジーンターゲティングによりIPS-/-マウスを作製した。IPS−1-/-マウスを作製するためのターゲティングベクターは、pMC1−neo(Stratagene社製)からのネオマイシン耐性遺伝子で、エクソン1及びエクソン2を置換し、負の選択マーカーとして単純ヘルペスウィルスチミジンキナーゼ(HSV−TK)を挿入することにより構築した(図8a参照)。次に、当業者に公知の方法に従い、エレクトロポーション法で、構築されたターゲッティングベクターをES細胞に導入した。G418とガンシクロビアに二重に耐性を持つコロニーを選択し、PCRにより相同組換えが起きた細胞を選択した後、相同組み換えの認められた陽性クローン(ES細胞)を胚盤胞に導入して仮親に移植することによりキメラマウスを作製した。
(2)ヘテロ欠損(IPS−1+/−)マウスの作製
こうして得られたキメラマウスの交配によってF1マウスを作製した。F1マウスの遺伝型をPCR及びサザンブロット法で解析したところ生殖系列への変異の導入(germ−line化)が確認され、ヘテロ欠損マウス(IPS−1+/−マウス)が作製された。
(3)更に、IPS−1+/−マウスどうしを交配させて、IPS−1遺伝子ホモ欠損マウス(IPS−1−/−マウス)を作製した。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】IFNβプロモーターのアクチベーターの同定結果を示す図である。(a)ヒト胎盤、脾臓、又はPBLのcDNA発現ライブラリーの一部を、100個までのcDNA複合体(complexity)のプールに細分した。各プールからのプラスミドDNAを、HEK293細胞に、IFNβプロモーターのレポーターコンストラクトとトランスフェクトし、レポーター遺伝子アッセイで分析した。平均的な活性より、活性化が5倍以上のときに、プールを陽性とした。陽性プールの同定例を示す。(b)IFNβ活性化に関与する単一のクローンを単離するために、(a)で示すプール34のレプリカプレート由来のコロニーを選択し、プラスミドを回収した。かかるプラスミドを、HEK293細胞にIFNβプロモーターのレポーターコンストラクトとトランスフェクトし、レポーターアッセイでプロモーター活性化能を分析した。陽性クローン(クローン3)をシークエンシングし、BLASTサーチにより特徴づけた。
【図2】IPS−1の構造と発現に関する図である。(a)スクリーニングによって単離したクローンの概略図である。(b)ヒトIPS−1の予測されるアミノ酸配列を示す図である。(c)ヒトIPS−1の概略図である。IPS−1のN末端CARD様ドメインを、黒い四角で示した。(d)ヒトIPS−1、ヒトMda5、マウスMda5、ヒトRIG−I及びマウスRIG−IのCARD様ドメインのアライメントを示す図である。少なくとも3つの分子で保存されたアミノ酸残基を赤で示した。(e)各種ヒト組織におけるヒトIPS−1RNAの発現を示す図である。ラジオ標識したヒトIPS−1プローブを、多組織ノーザン(MTN)ブロットでハイブリダイズした。
【図3】IRF3の活性化、及びIPS−1によるIFN誘導性遺伝子の誘導を示す図である。(a)HEK293細胞に、1ng(レーン2)、10ng(レーン3)、100ng(レーン4)のFlag−IPS−1をコードする発現プラスミドを、IFNβ、IP−10、RANTES、ISREの各プロモーターをコードするレポーターコンストラクトとトランジェントにトランスフェクトした。トランスフェクションの36時間後、細胞のプロモーター活性を、レポーター遺伝子アッセイで分析した。独立した3度の実験で、同様の結果を得た。(b)HEK293細胞に、1ng(レーン2、7)、10ng(レーン3、8)、100ng(レーン4、9)、又は1μg(レーン5、10)のFlag−IPS−1及びコントロール(レーン1〜5)、又は5ngのFlag−IPS−7(レーン6〜10)を、IFNα4(左)又はIFNα6(右)プロモーターレポータープラスミドとトランジェントにコトランスフェクトした。トランスフェクションの36時間後、細胞のプロモーター活性を、レポーター遺伝子アッセイにより分析した。独立した3度の実験で、同様の結果を得た。(c)HEK293細胞に、FLAG標識IPS−1及びMyc標識IRF3(上)又はMyc標識IRF7(下)を所定の組合せでトランジェントにトランスフェクトした。36時間後、細胞可溶化液を、抗Myc抗体又は抗FLAG抗体(IP)で免疫沈降し、その後、抗FLAG抗体又は抗Myc抗体(WB)で免疫ブロットした。(d)野生型(WT)又はTBK1及びIKKi二重欠損マウス(TBK1/IKKi KO)由来のMEF細胞に、FLAG−IPS−1又はFlag−TBK1を、IFNβ又はIFNαプロモータープラスミドと指示どおりにトランジェントにトランスフェクトした。トランスフェクションの36時間後、細胞のプロモーター活性を、レポーター遺伝子アッセイにより分析した。独立した3度の実験で、同様の結果を得た。(e)IPS−1欠失変異体の概略図(上)。HEK293細胞に、10ng(レーン2)又は100ng(レーン3、5、7)のFlag−IPS−1FL(レーン2、3)、IPS−1N(レーン4、5)又はIPS−1C(レーン6、7)をコードする発現プラスミドを、IFNβプロモータープラスミドとトランジェントにトランスフェクトした。トランスフェクションの36時間後、細胞のプロモーター活性を、レポーター遺伝子アッセイにより分析した。独立した3度の実験で、同様の結果を得た。
【図4】IPS−1が、抗ウイルス応答を誘導することを示す図である。(a)HEK293細胞に、コントロール又はFlag−IPS−1をトランジェントにトランスフェクトした。全RNAを、トランスフェクションの24時間後に調製し、IFNβ(Ifnb)、IP−10(Cxcl10)、GARG16(Ifit1)又はGAPDH(Gapdh)の発現を、RT−PCRにより分析した。(b)HEK293細胞に、100ngのFLAG−IPS−1と100ngのMyc−IRF7を所定の組合せでトランジェントにトランスフェクトした。24時間後、細胞上清のIFNα濃度をELISAで測定した。N.D.は、検出されず、を表す。データは、独立した3度の実験のうち、代表的な実験の3個のサンプル平均値±標準偏差として表す。(c)コントロール又はFlag−IPS−1をトランスフェクトしたHEK293細胞に、VSV(moi=1.0、0.1)を感染した。24時間後、ウイルス力価を測定した。
【図5】IPS−1によるNF−κB活性化及びIL−8誘導を示す図である。(a)HEK293細胞に、1ng(レーン2)、10ng(レーン3)、100ng(レーン4)又は1μg(レーン5)のFlag−IPS−1をコードするプラスミドを、ELAM1プロモータープラスミドとトランジェントにトランスフェクトした。トランスフェクションの36時間後、細胞のプロモーター活性を、レポーター遺伝子アッセイにより分析した。独立した3度の実験で、同様の結果を得た。(b)HEK293細胞に、100ngのFlag−IPS−1をコードするプラスミドと、100ngのIKKβKNをコードするプラスミドとを所定の組合せでトランジェントにトランスフェクトした。トランスフェクションの36時間後、細胞のプロモーター活性を、レポーター遺伝子アッセイにより分析した。独立した3度の実験で、同様の結果を得た。(c)HEK293細胞を、100ngのFlag−IPS−1FL、IPS−1N又はIPS−1Cをコードするプラスミドを、ELAM1プロモータープラスミドとトランジェントにトランスフェクトした。トランスフェクションの36時間後、細胞のプロモーター活性を、レポーター遺伝子アッセイにより分析した。独立した3度の実験で、同様の結果を得た。(d)HEK293細胞に、500ngのIPS−1の発現プラスミドをトランジェントにトランスフェクトした。24時間後、培養上清のIL−8濃度を、ELISAで測定した。データは、独立した3度の実験のうち、代表的な実験の3個のサンプル平均値±標準偏差として表す。(e)野生型(WT)又はTBK1及びIKKi二重欠損マウス(TBK1/IKKiKO)由来のMEF細胞に、Flag−IPS−1を、ELAM1プロモータープラスミドとトランジェントにトランスフェクトした。トランスフェクションの36時間後、細胞のプロモーター活性を、レポーター遺伝子アッセイにより分析した。独立した3度の実験で、同様の結果を得た。
【図6】IPS−1がRIG−I、FADD及びRIP1と会合することを示す図である。(a)HEK293細胞100万個に、Myc−IPS−1、Flag−Mda5全長(FL)、Flag−Mda5△C、Flag−RIG−IGFL又はFlag−RIG−I△Cをコードするプラスミドを所定の組合せでトランジェントにトランスフェクトした。36時間後、細胞可溶化液を抗Myc抗体又は抗Flag抗体で免疫共沈降(IP)し、その後、抗Flag抗体又は抗Myc抗体で免疫ブロット(IB)した。(b)HEK293細胞に、Myc−IPS−1、Flag−FADD、Flag−RIP1又はFlag−TBK1を所定の組合せでトランジェントにトランスフェクトした。36時間後、細胞可溶化液を抗Myc抗体又は抗Flag抗体で免疫共沈降(IP)し、その後、抗Flag抗体又は抗Myc抗体で免疫ブロット(IB)した。米印は、Flag−RIP1タンパク質を示す。(c)HEK293細胞に、Flag−FADD、Myc−IPS−1FL、Myc−IPS−1N又はMyc−IPS−1Cを所定の組合せでトランジェントにトランスフェクトした。36時間後、細胞可溶化液を抗Myc抗体又は抗Flag抗体で共免疫沈降(IP)し、その後、抗Flag抗体又は抗Myc抗体で免疫ブロット(IB)した。(d)HEK293細胞は、50ng(レーン2、3、4)のFlag−IPS−1をコードする発現プラスミド及び、50ng(レーン3)又は100ng(レーン4)のFlag−FADD DEDを、IFNβプロモータープラスミドとトランジェントにトランスフェクトした。DNAの全量を、空ベクターの補充により一定に維持した。トランスフェクションの36時間後、細胞のプロモーター活性を、レポーター遺伝子アッセイにより分析した。
【図7】siRNAによるIPS−1発現のノックダウンを示す図である。(a)HeLa細胞又はHEK293細胞に、siRNAをターゲットするIPS−1(Ips−1−1、Ips−1−2)をトランスフェクトし、2日後に細胞を、Ips−1又はGapdhの特異的プライマーを用いてRT−PCRで分析し、siRNAが媒介する内因性Ips−1mRNAの減少を確認した。(b)siRNAで処理したHEK293細胞に、IFNβプロモータープラスミドをトランジェントにトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、細胞を5μg/ml(レーン2、6、10)、10μg/ml(レーン3、7、11)、又は20μg/ml(レーン4、8、12)のポリ(I:C)で刺激した。18時間後、細胞可溶化液のルシフェラーゼ活性を測定した。データは、独立した3度の実験のうち、代表的な実験の3個のサンプル平均値±標準偏差として表す。(c)siRNAで処理したHEK293細胞に、RIG−I△C又はTrif及びIFNβプロモータープラスミドをトランジェントにコトランスフェクトした。36時間後、細胞可溶化液のルシフェラーゼ活性を分析した。独立した3度の実験で、同様の結果を得た。(d)siRNAで処理したHEK293細胞を、10μg/mlのポリ(I:C)で3時間刺激し、細胞におけるIfnb、Cxcl10又はGapdhの発現をRT−PCRにより分析した。(e)siRNAで処理したHEK293細胞に、VSVmt又はNDVを感染した。24時間後、培養上清のIFNα産生をELISAで分析した。独立した3度の実験で、同様の結果を得た。
【図8】図8のaはマウスIPS−1ゲノムの構造(黒:コーディング領域、白:ノンコーディング領域)を示す図であり、図8のbは、目的遺伝子が欠損していることを確認するためにサザンブロット法に供試した結果を示す図である。サザンブロットは、EcoRIで消化したマウステール由来のゲノムDNAを電気泳動後、フィルターに転写し、図8のaで示したプローブを用いてハイブリダイズすることにより行った。図8のcは、IPS−1遺伝子の不活性化が生起していることを確認するためのノーザンブロット分析の結果を示す図である。ノーザンブロットは、野生型(+/+)及びIPS欠損型(−/−)のマウス胎児由来線維芽細胞(MEF)から、RNAを抽出後、電気泳動にて展開し、フィルターに転写し、フィルターを全長IPS−1プローブ及びβ−actinプローブを用いてハイブリダイズすることにより行った。図8のdは、IPS−1の発現がタンパクレベルでも消失していることを確認するためのウェスタンブロットの結果を示す図である。ウェスタンブロットは、野生型(+/+)、IPS−1欠損型(−/−)MEFからライセートを調整し、抗IPS−1抗体で免疫沈降を行い、SDS−PAGEにて展開させ、フィルターに転写後、抗IPS−1抗体でブロットすることにより行った(図8のd上図)。また、図下はどのサンプルでも同じ量のタンパク質を用いていることを示すコントロール実験であり、この実験では全可溶化物(Whole cell lysates: WCL)を抗ERK1/2抗体でブロットすることにより行った(IB)。
【図9】IPS−1欠損マウスにおける各RNAウイルスに対する反応性に関する実験結果を示す図であり、図9のaは、野生型(+/+)、IPS−1欠損型(−/−)MEFに1本鎖RNAウイルスであるニューカッスル病ウイルス(NDV)、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、及びセンダイウイルス(SeV)を感染させ、24時間後の培養上清中のサイトカイン(IFNα,IFNβ,IL−6)濃度をエライザ法により測定した結果を示す図である。なお、アスタリスクは検出感度以下を示す。図9のbは、野生型(+/+)、IPS−1欠損型(−/−)MEFにNDV、VSV、SeVを感染させ、図に示した時間後に細胞からRNAを回収し、IFNβ、IFNα、IP−10、RANTES、IL−6の各mRNAに相補的なプローブ(配列番号28〜32)を用いて遺伝子発現をノーザンブロット法にて検討した結果を示す図である。図9のcは、野生型(+/+)、IPS−1欠損型(−/−)マウスの腹腔マクロファージに脳心筋炎ウイルス(EMCV)を感染させ、24時間後の培養上清中のサイトカイン(IFNα、IFNβ、IL−6)濃度をエライザ法により測定した結果を示す図である。図9のdは、野生型(+/+)、IPS−1欠損型(−/−)マウスの腹腔マクロファージにEMCVを感染させ、図で示した時間後、細胞よりRNAを回収し、図で示した遺伝子の発現をRT−PCR法により検討した結果を示す図である。
【図10】IPS−1欠損マウスにおけるポリI:Cに対する反応性に関する実験結果を示す図であり、図10のaは、野生型(+/+)、IPS−1欠損型(−/−)MEFを図で示した濃度のポリI:Cで刺激し、24時間後の培養上清中のサイトカイン(IFNα、IFNβ、IL−6)濃度をエライザ法により測定した結果を示す図である。なお、アスタリスクは検出感度以下を示す。図10のbは、野生型(+/+)、IPS−1欠損型(−/−)MEFをポリICで刺激した、図に示した時間後に細胞からRNAを回収し、IFNβ、IFNα、IP−10、IL−6の各mRNAに相補的なプローブ(配列番号33〜36)を用いて遺伝子発現をノーザンブロット法にて検討した結果を示す図である。図10のcは、ヘテロ型(+/+)、IPS−1欠損型(−/−)マウスにポリICを静脈内注射し、計時的に採取した血清中におけるサイトカイン(IFNα、IFNβ、IL−6)濃度をエライザ法により測定した結果を示す図である。
【図11】IPS−1欠損マウスにおけるNDV感染応答性シグナル伝達経路の解析に関する実験結果を示す図であり、図11のaは、野生型(+/+)、IPS−1欠損型(−/−)MEFにNDVを感染させ、図で示した時間後に核タンパク質を抽出し、NF−kBの活性化をEMSA法により検討した結果を示す図である。図11のbは、IRF3の活性化の指標であるダイマー(二量体)形成を検討した結果を示す図である。野生型(+/+)、IPS−1欠損型(−/−)MEFにNDVを感染させ、図で示した時間後にライセートを調整した。調整したライセートをNativePAGEで展開後、フィルターに転写し、フィルターを抗IRF3抗体でブロットし、ダイマー(二量体)形成を検討した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードするDNA。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質
【請求項2】
配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項3】
配列番号1に示される塩基配列若しくはその相補的配列からなるDNA。
【請求項4】
配列番号1に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項5】
請求項2記載のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項6】
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
【請求項7】
配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質。
【請求項8】
配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質。
【請求項9】
組換えタンパク質であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか記載のタンパク質。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか記載のタンパク質と、マーカータンパク質及び/又はペプチドタグとを結合させた融合タンパク質又は融合ペプチド。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか記載のDNAを含み、かつIPS−1を発現することができる組換えベクター。
【請求項12】
組換えプラスミドベクターである請求項11記載の組換えベクター。
【請求項13】
さらに、レポーター遺伝子を発現することができることを特徴とする請求項11又は12記載の組換えベクター。
【請求項14】
レポーター遺伝子が、ホタルルシフェラーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項11又は12記載の組換えベクター。
【請求項15】
請求項11〜14のいずれか記載の組換えベクターが導入され、かつIPS−1を発現する形質転換体。
【請求項16】
IPS−1遺伝子を有する組換えベクターによって形質転換された形質転換体。
【請求項17】
形質転換体が、哺乳類細胞由来であることを特徴とする請求項15又は16記
載の形質転換体。
【請求項18】
哺乳類細胞が、HEK293細胞、Hela細胞又はMEF細胞である請求項17に記載の形質転換体。
【請求項19】
請求項6〜9のいずれか記載のタンパク質又はその部分ポリペプチドを認識する抗体。
【請求項20】
モノクローナル抗体であることを特徴とする請求項19記載の抗体。
【請求項21】
IPS−1遺伝子の機能が染色体上で欠損し、野生型において発現されるIPS−1を発現する機能が失われていることを特徴とするIPS−1ノックアウト非ヒト動物。
【請求項22】
げっ歯類動物であることを特徴とする請求項21記載のIPS−1ノックアウト非ヒト動物。
【請求項23】
げっ歯類動物が、マウスであることを特徴とする請求項22記載のIPS−1ノックアウト非ヒト動物。
【請求項24】
以下の(a)〜(f)のいずれか記載DNAを、IPS−1活性を有するタンパク質の製造に使用する方法。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号1に示される塩基配列からなるDNA
(e)配列番号1に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号1に示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項25】
以下の(a)〜(c)のいずれか記載のタンパク質を用いて、I型IFNプロモーターを活性化する方法。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質。
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質
【請求項26】
タンパク質が、以下の(a)〜(f)のいずれか記載DNAで形質転換した宿主細胞で発現させた組換えタンパク質であることを特徴とする請求項25記載のIFNβプロモーターを活性化する方法。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号1に示される塩基配列からなるDNA
(e)配列番号1に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号1に示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項27】
以下の(a)〜(c)のいずれか記載のタンパク質を、I型IFNの製造に使用する方法。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質。
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質
【請求項28】
タンパク質が、以下の(a)〜(f)のいずれか記載DNAで形質転換した宿主細胞で発現させた組換えタンパク質であることを特徴とする請求項27記載の使用する方法。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号1に示される塩基配列からなるDNA
(e)配列番号1に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号1に示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつIPS−1活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項29】
IPS−1遺伝子の機能を染色体上で欠損させたIPS−1ノックアウト非ヒト動物を、I型IFNプロモーターの活性化による抗ウイルス応答機能が喪失したモデル動物として使用する方法。
【請求項30】
非ヒト動物が、マウスであることを特徴とする請求項29記載の抗ウイルス応答機能が喪失したモデル動物としての使用方法。

【図1】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−54042(P2007−54042A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−111410(P2006−111410)
【出願日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】