説明

インターホン装置

【課題】インターホンの子機がデジタル信号で音声を伝送する際に、16ビットの信号処理を行なう回路と32ビットの信号処理を行なう回路が混在した場合、折返し歪みによって音質が大幅に低下する。
【解決手段】デコーダの出力信号がオーバーフローするレベルの信号を検出して、AD変換部の出力信号のレベル制限を行なうレベル制限部を有することにより、折返し歪みを防止することによって音質を向上させるとともに、レベル制限部は、動作開始後は前記親機と前記子機との通話終了まで動作を維持することによって音量レベルの変動も抑えるため、違和感のない通話を行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターホン装置で、特に子機と親機が接続され、かつ、子機側の音声がADPCM(Adaptive Differential Pulse Code Modulation)によってデジタル化されて親機に伝送されるインターホン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、通信装置において、音声信号を安定して送信する方法として、文献1の先行技術に示すような装置が提案されている。本文献、特に段落「0013」によれば、部分予測信号を浮動小数点表示から絶対値表示に変換する際にオーバーフローする条件を満たしている部分予測信号にリミット値を代入する処理を、誤り検出器によって音声データに符号誤りが判定された場合に所定数の音声データのフレームについて実行するリミッタを備える。かかる構成によれば、部分予測信号を浮動小数点表示から絶対値表示に変換する際のオーバーフローを抑止できるので、クリックノイズを抑制できる。
【0003】
【特許文献1】特開2008−20556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、文献1のインターホン装置においては、符号誤りの検出のみを目的としているため、小規模なオーバーフローには対応できるが、例えば、エンコーダ等の入力デバイスの取扱える量子化精度が16bitであり、伝送系で取扱える量子化精度が32bitと異なる場合には、図3に示すようにAD変換部でオーバーフローが生じエンコーダへの入力信号がクリップすると、デコーダの出力信号は急激な信号変化に追従できずリップルが発生する。発生したリップル成分の一部は、図3の太線のように量子化精度限界として16bitで取扱える範囲である「−32768〜32767」を超えた値となる。具体的には、図3においてエンコーダへの入力データを細線で、デコーダの出力データを太線で示しており、エンコーダへの入力データは量子化精度の上限である「32767」に達しているとともに、デコーダの出力データは量子化精度限界を超えてしまっている。このため、負の成分として折返し歪が生じ、音声聴取時に不快感を与えることとなる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、本発明のインターホン装置の子機は、AD変換部の出力信号を観測し、デコーダの出力信号がオーバーフローするレベルの信号を検出して、AD変換部の出力信号のレベル制限を行なうレベル制限部を有する。
また、レベル制限の閾値は、オーバーフローするレベルに対して2分の1乃至1.05分の1である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1のインターホン装置によれば、オーバーフローするレベルの信号をデコード前に検出するため、音声聴取時の不快感を聴覚限界以下とすることができる。
【0007】
請求項2のインターホン装置によれば、レベル制限の閾値は、オーバーフローするレベルに対して2分の1であれば、聴覚上は6dBのレベル減少となるため、実際の使用に際して違和感のないレベルであるとともに、閾値がオーバーフローするレベルに対して1.05分の1であれば、最低限の折返し歪を防止することができる。
【0008】
請求項3のインターホン装置によれば、一旦音量低下がレベル制限部24で行われた場合には、通話終了まで継続して音量低下を行なうことにより、通話レベルの変動の繰り返しによる不快感を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の実施例によるインターホン装置の構成図である。
【図2】図2は、本発明の実施例によるインターホン装置のブロック図である。
【図3】図3は、本発明の実施例によるインターホン装置のレベル制限を行なわない場合の入力と出力の波形の一例である。
【図4】図4は、本発明の実施例によるインターホン装置のレベル制限を行なった場合の入力と出力の波形の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のインターホン装置を適用して、子機から親機に対して送話するための最良の実施の形態例について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の実施例によるインターホン装置の構成を示すシステム構成図であり、一例として室内に設置された親機1と玄関に設置された子機2から構成され、それぞれはデータ信号、デジタル音声信号の送受を行なっている。
【0012】
子機2には親機1を呼び出すための呼出ボタン27と、親機と通話するための子機マイク21及び子機スピーカ22とを有している。
【0013】
親機1には子機2と通話するための親機マイク11及び親機スピーカ12と、子機2を選局するとともに子機2からの呼出信号に応じて通話を開始する操作部16とを有している。
【0014】
図2は、本発明の実施例によるインターホン装置の音声通信に関する構成を示すシステム構成図であり、子機2には子機マイク21で入力した音声入力信号を標本化及び量子化するAD変換部23と、AD変換部23の出力信号のレベル制限を行なうレベル制限部24と、量子化されたデジタル信号を適応差分量子化器で符号化するエンコーダ25と、符号化されたデジタル信号を送信する子機伝送部26とを有している。
【0015】
親機1には符号化されたデジタル信号を受信する親機伝送部13と、符号化されたデジタル信号をPCM変換するデコーダ14と、デコーダ14の出力信号をアナログ信号化して親機スピーカ12に出力するDA変換部15とを有している。
【0016】
以下、動作について説明する。
【0017】
インターホンの発呼者が子機2の呼出ボタン27を操作すると、呼出信号が親機1に送出されるとともに、子機マイク21、AD変換部23、レベル制限部24、エンコーダ25、子機伝送部26とを能動とし、子機マイク21の音声をデジタル信号として親機1に対して送信を開始する。また、呼出信号を受信した親機1は、親機伝送部13、デコーダ14、DA変換部15、親機スピーカ12を能動として、呼出音を鳴動するとともに、子機マイク21の音声を親機スピーカ12から鳴動させる。その後、呼出を認識した被呼者が親機1の操作部16を操作すると、親機マイク11、子機スピーカ22も能動となり、双方向通話が開始される。被呼者が親機1の操作部16を再び操作すると、通話終了となり、上述した親機1の親機伝送部13、デコーダ14、DA変換部15、親機マイク11、親機スピーカ12、及び子機2の子機マイク21、子機スピーカ22、AD変換部23、レベル制限部24、エンコーダ25、子機伝送部26が非能動となる。
次に、具体的な音声の伝送方法について説明する。
【0018】
子機マイク21を介してAD変換部23に入力された音声信号は、16bitの量子化精度でデジタル信号に量子化される。
【0019】
信号処理系の量子化精度が16bitの場合、デジタル信号の値は「−32768〜32767」の範囲に必ず収まっているが、レベル制限部24では、この値の約1.066分の1である「−30744〜30743」を超えたデータを発見した場合、以後通話終了まで継続して全てのAD変換部23の出力信号を1.066で除算してエンコーダ25に送出する。
【0020】
量子化されたデジタル信号はエンコーダ25において32ビットで処理され、符号化されパケット化された後に子機伝送部26を介して親機1に送信され、親機1においては、親機伝送部13で受信した32ビットで符号化されたパケットをデコーダ14へと引渡し、PCMに変換して、DA変換部15によってデコーダ14の出力信号をアナログ信号化して親機スピーカ12に出力され、音声として鳴動する。
【0021】
これにより、図4に細線で示すエンコーダ25への入力データが破線で示す量子化精度限界と比較して充分に小さいため、太線で示すデコーダ14の出力データも量子化精度限界を超えることがなく、つまりは折返し歪が発生することなく視聴時の不快感を低減することが可能となる。
【0022】
なお、本実施例では振幅制限ブロックの閾値を「−30744〜30743」としたが、この数値であれば聴感上の音量低下に気づくことはなく、実使用上問題となる数字ではない。ただ、例えば振幅制限ブロックの閾値を、オーバーフローするレベルに対して2分の1となる「−16384〜16383」に設定すると、6dBの音量低下となるため、変動が頻繁に繰り返された場合には、聞く人に不快感が発生することから、一旦音量低下がレベル制限部24で行われた場合には、通話終了まで継続して音量低下を行なうことにより、不快感を低減することができる。また、オーバーフローが発生しない場合にはレベル制限部24が作動しないことから、十分な音量を確保することができる。
【符号の説明】
【0023】
1 親機
11 親機マイク
12 親機スピーカ
13 親機伝送部
14 デコーダ
15 DA変換部
16 操作部
2 子機
21 子機マイク
22 子機スピーカ
23 AD変換部
24 レベル制限部
25 エンコーダ
26 子機伝送部
27 呼出ボタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の機器と通話するための子機マイク及び子機スピーカを有する子機と、前記子機と通話するための親機マイク及び親機スピーカを有する親機と、を備えたインターホン装置で、
前記子機は前記子機マイクで入力した音声入力信号を標本化及び量子化するAD変換部と、
量子化されたデジタル信号を符号化するエンコーダと、
符号化されたデジタル信号を送信する子機伝送部と、
を有し、
前記親機は
符号化されたデジタル信号を受信する親機伝送部と、
符号化されたデジタル信号をPCM変換するデコーダと、
前記デコーダの出力信号をアナログ信号化して親機スピーカに出力するするDA変換部と、
を備え、
前記AD変換部、前記エンコーダ、前記子機伝送部、前記親機伝送部、前記デコーダ、前記DA変換部のうち少なくとも1つは16ビット信号でデジタル処理を行なうものであるとともに、少なくとも1つは32ビット信号でデジタル処理を行なうものであって、
前記子機は、前記AD変換部の出力信号を観測し、前記デコーダの出力信号がオーバーフローするレベルの信号を検出して、前記AD変換部の出力信号のレベル制限を行なうレベル制限部を有することを特徴とするインターホン装置。
【請求項2】
前記レベル制限の閾値は、オーバーフローするレベルに対して2分の1乃至1.05分の1であることを特徴とする請求項1記載のインターホン装置。
【請求項3】
前記レベル制限部は、動作開始後は前記親機と前記子機との通話終了まで動作を維持することを特徴とする請求項1または請求項2記載のインターホン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−46238(P2013−46238A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182799(P2011−182799)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000100908)アイホン株式会社 (777)
【Fターム(参考)】