説明

インターロイキン−2産生抑制剤

【課題】新規なIL-2産生抑制剤を提供することを目的とする。また、IL-2産生抑制作用を有し、IL-2の産生亢進に関連して発症または増悪する疾患の予防または治療に有効なIL-2関連疾患の予防または治療剤を提供する。
【解決手段】IL-2産生抑制剤またはIL-2関連疾患の予防または治療剤の有効成分として、下記一般式(1):


(式中、Rは水素原子またはヒドロキシ基;RおよびRは、同一または異なって、水素原子、アミノ基、ヒドロキシ基または低級アルカノイルオキシ基を意味する。nは2〜7の整数を意味する。)
で示されるカルボン酸、またはその薬学的に許容される塩若しくはエステルを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターロイキン−2産生抑制剤に関する。また本発明は、自己免疫疾患、リウマチ、およびIV型アレルギーなど、インターロイキン−2の産生亢進に関連して発生する各種の疾患(インターロイキン−2関連疾患)の予防または治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
外界から侵入する異物を排除するために、生体は免疫系を備えているが、免疫系が過剰に反応してアレルギー性疾患や自己免疫疾患を生じる場合がある。アレルギー反応は反応機序によりI型からIV型に分類され、このうちIV型アレルギーは抗原と反応したTリンパ球が活性化し、増殖することによりアレルギー反応が開始する。IV型アレルギーに分類される疾患として、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、甲状腺炎、およびアレルギー性脳炎等を挙げることができる。また、自己免疫疾患は、自分自身の生体構成成分を異物と誤認して反応することにより、Tリンパ球が活性化し、増殖することを1つの原因として発症することが知られている。かかる自己免疫疾患として、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、およびループス腎炎等が挙げられる。
【0003】
ところで、T細胞は生体の免疫反応の中心的な役割を担い、活性化したT細胞から産生される複数のサイトカインの活性が免疫応答の方向性を制御している(非特許文献1)。さらに、T細胞からのサイトカイン産生は、抗原刺激後の遺伝子転写活性化によって制御されている(非特許文献2)。
【0004】
免疫抑制剤として知られているFK506やサイクロスポリンA(非特許文献3〜4)は、細胞内のそれぞれのレセプターに結合した後、カルシニューリンの脱リン酸化活性を抑制することにより、インターロイキン−2(IL-2)遺伝子転写活性化に関与している転写因子NF-ATの活性化を抑制し、結果としてIL-2産生を抑制することが明らかにされている(非特許文献5)。
【0005】
また、気管支喘息などは、IL-2などのサイトカインが深く関与していることが報告されている(非特許文献6〜7)。さらに、前記FK506やサイクロスポリンAが、アトピー性皮膚炎に有用であることも知られている。
【0006】
さらに、慢性関節リウマチの発症にはサイトカインバランスが関与しており、特にIL-2などのTh1型のサイトカインは、関節炎発症に促進的役割を果たしていることが知られている(非特許文献8)(岡本能弘ら、「慢性関節リウマチの発症とサイトカインバランス」、薬学雑誌、121(2)131-138(2001))。
【0007】
これらのことから、T細胞におけるIL-2などのサイトカイン産生を抑制する薬剤は、アレルギー性疾患全般、具体的には、喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、食物アレルギーなどの即時型アレルギー症;もしくは細胞性免疫が関与する慢性関節リウマチ、全身性エリテマドーデス、I型糖尿病、橋本甲状腺炎、重症筋無力症、多発性硬化症などの自己免疫疾患および臓器移植にともなう拒絶反応に対する治療薬もしくは予防薬となり得ると考えられている。
【0008】
従来より、これらの疾患に対して様々な薬物治療が試みられてきたが、未だに有効性が高く安全な薬物の発見に至っていない。例えば、慢性関節リウマチに対して非ステロイド系消炎鎮痛剤は有効ではない。ステロイド剤は有効ではあるが、長期投与により強い副作用が発現することがあり、安全性の面で問題がある。また、前述する免疫抑制剤(FK506やサイクロスポリンA)が自己免疫疾患やアトピー性皮膚炎等のIV型アレルギーに高い有効性を示すことが報告されているが、これらは副作用の点で問題があり、医師の管理が必要とされている。そこで、IL-2産生抑制作用を有し、且つ安全な薬剤が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Powrie, F. et al., Cytokine regulation of T-cell function: potential fortherapeutic intervention. Immunol. Today 1993, 14, 270。
【非特許文献2】Fraser, J. D. et al., Signal transduction eventsleading to T-cell lymphokine gene expression. Immunol. Today 1993, 14, 357。
【非特許文献3】Mattila, P. S. et al., The actions of cyclosporin A and FK506 suggest a novel step in the activation of T lymphocytes. EMBO J. 1990, 9, 4425。
【非特許文献4】Liu, J. et al., Calcineurin is a common target of cyclophilin-cyclosporin A and FKBP-FK506 complexes. Cell 1991, 66, 807。
【非特許文献5】Flanagan, W. M. et al., Nuclear association of a T-cell transcriptionfactor blocked by FK506 and cyclosporin A. Nature 1991, 352, 803。
【非特許文献6】Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2288-92, 1988
【非特許文献7】Akutsu, I. et al., Antibody against interleukin-5 prevents antigen-induced eosinophil infiltration and bronchial hyperreactivity in the guinea pig airways. Immunol. Lett. 1995, 45, 109。
【非特許文献8】岡本能弘ら、「慢性関節リウマチの発症とサイトカインバランス」、薬学雑誌、121(2)131-138(2001)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、IL-2産生抑制作用を有する新規なIL-2産生抑制剤を提供することを目的とする。また、本発明は、IL-2産生抑制作用を有し、IL-2の産生亢進に関連して発症または増悪する疾患の予防または治療に有効な組成物である、IL-2関連疾患の予防または治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討していたところ、下式(1)に示す化合物:
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、Rは水素原子またはヒドロキシ基;RおよびRは、同一または異なって、水素原子、アミノ基、ヒドロキシ基または低級アルカノイルオキシ基を意味する。nは2〜7の整数を意味する。)
で示されるカルボン酸またはそのエステルに、インターロイキン−2の産生を抑制する作用があることを見出し、かかる化合物を有効成分とすることにより、上記本発明の課題であるIL-2産生抑制剤、ならびにIL-2関連疾患の予防または治療剤の提供が可能になることを確信した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0014】
本発明は、下記の実施態様を包含する。
項1.下記一般式(1):
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、Rは水素原子またはヒドロキシ基;RおよびRは、同一または異なって、水素原子、アミノ基、ヒドロキシ基または低級アルカノイルオキシ基を意味する。nは2〜7の整数を意味する。)
で示されるカルボン酸、またはその薬学的に許容される塩若しくはエステルを有効成分とするインターロイキン−2産生抑制剤。
【0017】
項2.下記一般式(1):
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、Rは水素原子またはヒドロキシ基;RおよびRは、同一または異なって、水素原子、アミノ基、ヒドロキシ基または低級アルカノイルオキシ基を意味する。nは2〜7の整数を意味する。)
で示されるカルボン酸、またはその薬学的に許容される塩若しくはエステルを有効成分とする、インターロイキン−2関連疾患の予防または治療剤。
【0020】
項3.インターロイキン−2関連疾患が、自己免疫疾患またはIV型アレルギーである、項2に記載する予防または治療剤。
【発明の効果】
【0021】
本発明が提供する化合物は、IL-2の産生を抑制する作用を有し、IL-2産生抑制剤、及びIL-2に関連して発症または増悪する疾患(IL-2関連疾患)の予防または治療剤の有効成分として有効に使用することができる。ゆえに本発明によれば、これらの化合物を有効成分とするIL-2産生抑制剤、IL-2関連疾患の予防または治療剤を提供することができる。当該IL-2関連疾患の予防または治療剤は、特に慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患、およびアトピー性皮膚炎などのIV型アレルギーの改善や予防に有効に用いることができる。
【0022】
特に本発明の有効成分である(E)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸は優れたIL-2産生抑制作用を有するともに、安全性が高いため、副作用が少なく、長期使用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ローヤルゼリー乾燥粉末から(2E)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸を単離精製する工程において、「限外濾過膜によるA3画分の調製」工程を示す。
【図2】ローヤルゼリー乾燥粉末から(2E)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸を単離精製する工程において、「A3画分からのゲル濾過による分画」工程を示す。
【図3】ローヤルゼリー乾燥粉末から(2E)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸を単離精製する工程において、「D4画分からの逆相(ODS)中圧クロマトグラフィーによる分画」工程を示す。
【図4】ローヤルゼリー乾燥粉末から(2E)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸を単離精製する工程において、「D4-II画分からの逆相(ODS)高速液体クロマトグラフィーによる分画」工程を示す。
【図5】ローヤルゼリー乾燥粉末から(2E)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸を単離精製する工程において、「D4-II-3画分からの逆相(ODS)高速液体クロマトグラフィーによる分画」工程を示す。
【図6】ローヤルゼリー乾燥粉末から(2E)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸を単離精製する工程において、「D4-II-3-E画分からの順相クロマトグラフィーによる分離」工程を示す。
【図7】調製例2で採用した、ローヤルゼリー乾燥粉末から(2E)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸の単離精製方法のフロー図を示す。
【図8】培養ヒトリンパ球にDDA1〜DDA16を添加し、48時間培養した後のIL-2産生量を、DDA非添加の場合のIL-2産生量と対比した結果を示す(試験例1)。
【図9】DDA4、DDA6、DDA7、DDA14+15、またはDDA16を経口投与した卵巣摘出病態モデルマウス(試験群)および蒸留水を経口投与した卵巣摘出病態モデルマウス(対照群:Cntl.)について強制遊泳試験を行い、その後採血した血清中に含まれるIL-2濃度(pg/ml)を示す結果である。各試験結果は、6匹の平均値である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(I)有効成分
本発明が対象とするIL-2産生抑制剤およびIL-2関連疾患の有効成分は、下記一般式(1)で示されるカルボン酸(1)である:
【0025】
【化4】

【0026】
(式中、Rは水素原子またはヒドロキシ基;RおよびRは、同一または異なって、水素原子、アミノ基、ヒドロキシ基または低級アルカノイルオキシ基を意味する。また、

は、シングル結合またはダブル結合を意味する。nは2〜7の整数を意味する。)。
【0027】
ここで、Rは水素原子またはヒドロキシ基を意味する。式中、

がダブル結合である場合、好ましくは水素原子である。
【0028】
およびRは、同一または異なって、水素原子、アミノ基、ヒドロキシ基または低級アルカノイルオキシ基を意味する。Rとして好ましくは水素原子またはヒドロキシ基であり、Rとして好ましくは水素原子、ヒドロキシ基または低級アルカノイルオキシ基である。RとRとの組み合わせとして、Rがヒドロキシ基である場合、Rは水素原子またはヒドロキシ基:Rが水素原子である場合、Rはヒドロキシ基または低級アルカノイルオキシ基:Rがアミノ基である場合、Rはアミノ基:Rが低級アルカノイルオキシ基である場合、Rは低級アルカノイルオキシ基を挙げることができる。
【0029】
ここで低級アルカノイルオキシ基とは、R-CO-O-で示される基であって、Rが炭素数1〜4の低級アルキル基である基を意味する。低級アルカノイルオキシ基として、好ましくはRがメチル基であるアセチルオキシ基、およびRがエチル基であるプロパノイルオキシ基であり、より好ましくはRがメチル基であるアセチルオキシ基である。
【0030】
nは、2〜7から選択されるいずれの整数を意味する。好ましくは2、3、5および7であり、より好ましくは5である。
【0031】
本発明の化合物には、具体的に表1に示す化合物が含まれる。
【0032】
【表1】

【0033】
本発明が対象とする化合物(1)は、シス型またはトランス型のいずれであってもよく、本発明の化合物(1)には、これらのシス異性体およびトランス異性体の両者が含まれる。また本発明の化合物(1)のうち、Rが水素原子、ヒドロキシ基、アミノ基または低級アルカノイルオキシ基であり、Rがヒドロキシ基、アミノ基または低級アルカノイルオキシ基である化合物には、2位の炭素をキラル中心とする鏡像異性体(R体およびS体)が含まれる。すなわち、本発明が対象とする化合物(1)のうち、Rが水素原子、ヒドロキシ基、アミノ基または低級アルカノイルオキシ基であり、Rがヒドロキシ基、アミノ基または低級アルカノイルオキシ基である化合物は、2位の炭素をキラル中心とする鏡像異性体、R体またはS体のいずれであってもよく、またこれらを任意の割合で含有する混合物、例えばラセミ化合物であってもよい。
【0034】
かかる化合物(1)には、制限されないが、具体的に下記に示す、

がダブル結合で、Rが水素原子である化合物((1a)〜(1f))が含まれる:
【0035】
【化5】

【0036】
(式中、Rはヒドロキシ基、アミノ基または低級アルカノイルオキシ基を、Rは水素原子、ヒドロキシ基、アミノ基または低級アルカノイルオキシ基を意味する。また式中*を付けた炭素はキラル中心(不斉炭素)であり、上記式にはR体およびS体の両方の化合物が含まれる。)
なかでも好ましくは、上記式(1e)または(1f)で示される化合物のうち、R基およびR基がヒドロキシ基である、下式(2E)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸である。
【0037】
【化6】

【0038】
当該(2E)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸には、下式(i)で示されるR体((2E,9R)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸)と、下式(ii)で示されるS体((2E,9S)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸)の鏡像異性体(エナンチオマー)が存在する。
【0039】
【化7】

【0040】
本発明が対象とする(2E)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸は、かかるエナンチオマー、すなわちR体((2E,9R)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸)またはS体((2E,9S)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸)のいずれでもよく、またこれらを任意の割合で含有する混合物、例えばラセミ化合物であってもよい。
【0041】
また好適な化合物として、上記式(1e)または(1f)で示される化合物のうち、R基が水素原子およびR基がヒドロキシ基である、下式(2E)-9-ヒドロキシ-2-デセン酸である。
【0042】
【化8】

【0043】
当該(2E)-9-ヒドロキシ-2-デセン酸には、下式(iii)で示されるR体((2E,9R)-9-ヒドロキシ-2-デセン酸)と、下式(iv)で示されるS体((2E,9S)-9-ヒドロキシ-2-デセン酸)の鏡像異性体(エナンチオマー)が存在する。
【0044】
【化9】

【0045】
本発明が対象とする(2E)-9-ジヒドロキシ-2-デセン酸は、かかるエナンチオマー、すなわちR体((2E,9R)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸)またはS体((2E,9S)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸)のいずれでもよく、またこれらを任意の割合で含有する混合物、例えばラセミ化合物であってもよい。
【0046】
また好適な化合物として、上記式(1a)または(1b)で示される化合物のうち、R基がアセチルオキシ基およびR基が水素原子である、下式(2E)-7-アセトキシ-2-ヘプテン酸である。
【0047】
【化10】

【0048】
本発明の化合物(1)は、カルボン酸フリーの形態であっても、またその薬学的に許容される塩もしくはエステル体の形態を有するものであってもよい。
【0049】
ここで薬学的に許容される塩としては、無機塩基または有機塩基との塩、または塩基性アミノ酸との塩を挙げることができる。無機塩基としては。例えばナトリウムやカリウム等のアルカリ金属塩;カルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩やアルミニウム塩を挙げることができる。また有機塩基としては、例えばエタノールアミンなどの第一級アミン;ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミンなどの第二級アミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、ピコリンなどの第三級アミンなどを挙げることができる。塩基性アミノ酸としては、例えばリジン、アルギニンおよびオルニチンなどを挙げることができる。
【0050】
また、エステルとしては対応するカルボン酸のC1〜6低級アルキルエステル、好ましくはC1〜3低級アルキルエステル(例えばメチルエステル、エチルエステル、n-プロピルエステル)、および対応するC1〜6低級アルキルチオエステル、好ましくはC1〜3低級アルキルチオエステル(例えば、メチルチオエステル、エチルチオエステル、n-プロピルチオエステル)の他、対応するカルボン酸のジ、もしくはオリゴエステルを挙げることができる。
【0051】
本発明の一般式(1)で示される化合物のうち、Rが水素原子、RおよびRが共にヒドロキシ基、

がダブル結合である化合物は、例えば、商業的に入手可能な4-(2-hydroxyethyl)-2,2-dimethyl-1,3-dioxolane(2)を出発原料として、下記反応式−1に示す方法により製造することができる。
【0052】
【化11】

【0053】
[上記式中、Tsはトシル基、Xはハロゲン原子、R及びRは同一又は異なって炭素数が1−6のアルキル基を示す。nは前記に同じ。]。
【0054】
化合物(3)は、化合物(2)とp−トシルハライドとを反応させることにより製造される。p−トシルハライドとしては、例えば、p−トシルクロライド、p−トシルブロマイド等が挙げられる。化合物(2)とp−トシルハライドとの使用割合としては、通常前者1モルに対して後者を0.5〜2モル程度とするのがよい。この反応は、一般に適当な不活性溶媒中で行われる。不活性溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさない公知の溶媒を広く使用でき、例えば、ピリジン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。該反応は、−10〜10℃付近で好適に進行し、一般に5〜10時間程度で反応は完了する。
【0055】
化合物(5)は、化合物(3)と入手が容易な公知の化合物(4)とを反応させることにより製造される。化合物(4)におけるXには、例えば、塩素や臭素等が含まれる。化合物(3)と化合物(4)との使用割合としては、通常前者1モルに対して後者を0.5〜2モル程度とするのがよい。この反応は、一般に適当な不活性溶媒中、触媒の存在下で行われる。不活性溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさない公知の溶媒を広く使用でき、例えば、テトラヒドロフラン、エーテル等が挙げられる。触媒としては、例えば、ヨウ化銅等が挙げられる。該反応は、室温〜50℃付近で好適に進行し、一般に2〜5時間程度で反応は完了する。
【0056】
化合物(6)は、化合物(5)にオゾンを反応させ、次いで得られる化合物に硫化メチルを反応させることにより製造される。化合物(5)とオゾンとの反応は、一般に適当な不活性溶媒中で行われる。不活性溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさない公知の溶媒を広く使用でき、例えば、塩化メチレン、メタノール等が挙げられる。該反応は、−80〜−70℃付近で好適に進行し、一般に10分〜1時間程度で反応は完了する。引続き行われる硫化メチルとの反応は、化合物(5)とオゾンとの反応と同一の溶媒中で行われる。該反応は、−80℃〜室温付近で好適に進行し、一般に2〜8時間程度で反応は完了する。
【0057】
化合物(8)は、化合物(6)と入手が容易な公知の化合物(7)とを反応させることにより製造される。化合物(6)と化合物(7)との使用割合としては、通常前者1モルに対して後者を0.5〜2モル程度とするのがよい。この反応は、一般に適当な不活性溶媒中、触媒の存在下で行われる。不活性溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさない公知の溶媒を広く使用でき、例えば、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。触媒としては、例えば、水素化ナトリウム等が挙げられる。該反応は、−10℃〜10℃付近で好適に進行し、一般に2〜5時間程度で反応は完了する。
【0058】
かかる化合物(1)(一般式(1)中、Rが水素原子、RおよびRが共にヒドロキシ基、

がダブル結合である化合物)は、化合物(8)にトリフルオロ酢酸を反応させ、次いで得られる化合物に塩基を作用させることにより製造される。化合物(8)とトリフルオロ酢酸との反応は、一般に適当な不活性溶媒中で行われる。不活性溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさない公知の溶媒を広く使用でき、例えば、塩化メチレン、ジクロロメタン、メタノール等が挙げられる。該反応は、−10〜10℃付近で好適に進行し、一般に3〜10時間程度で反応は完了する。塩基としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の公知のアルカリが使用される。塩基による処理は、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール中で行われる。塩基による処理は、通常室温付近で1〜5時間程度で行われる。
【0059】
本発明の一般式(1)で表される化合物のうち、R及びRのいずれかが水素原子、低級アルカノイルオキシ基またはアミノ基である化合物は、上記方法で製造された化合物(1)(一般式(1)中、Rが水素原子、RおよびRが共にヒドロキシ基、

がダブル結合である化合物)のR及びRで示されるヒドロキシ基を、水素原子、低級アルカノイルオキシ基またはアミノ基に変換することにより製造される。より具体的には、後述する調製例に記載する方法に従って製造することができる。
【0060】
また本発明の一般式(1)で示される化合物のうち、Rが水素原子、RおよびRが共にヒドロキシ基、

がシングル結合である化合物は、例えば、商業的に入手可能な4-(2-hydroxyethyl)-2,2-dimethyl-1,3-dioxolane(2)を出発原料として、下記反応式−2に示す方法により製造することができる。
【0061】
【化12】

【0062】
具体的には、一般式(1)で表される化合物のうち、Rが水素原子、RおよびRが共にヒドロキシ基、

がシングル結合である化合物(10)は、前記<反応式−1>に記載する方法と同様の方法で化合物(2)から化合物(8)を合成し、次いで、これを水素添加した後にアルカリ処理することで製造できる。より具体的には、後述する調製例10に記載する方法に従って製造することができる。
【0063】
本発明が対象とする塩およびエステル体は、上記方法で得られるカルボン酸から定法に従って調製することができる。例えば、エステル体は、上記カルボン酸をアルコールまたはチオールと反応させることによって調製することができる。
【0064】
また、本発明の一般式(1)で示される化合物は、これらを含有する天然物から単離精製することもできる。具体的には上記式(i)または(ii)で示される(E)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸は、後述する調製例1および2に示すように、ローヤルゼリーから単離精製することができる。しかし、かかる化合物を単離できる方法であれば、これらの方法になんら限定されない。
【0065】
(II)IL-2産生抑制剤、IL-2関連疾患予防・治療剤
本発明が対象とするIL-2産生抑制剤、およびIL-2関連疾患の予防または治療剤(以下、これらを総称して「本発明の製剤」という)は、前述する一般式(1)で示される化合物、またはその薬学的に許容される塩若しくはエステルを有効成分とするものである。なお、当該本発明の製剤は、化合物(1)を溶媒和物、例えば水和物の形態で含有するものであってもよい。
【0066】
化合物(1)として好ましくは、(2E)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸、(2Z,9R)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸、(2E)-9-ヒドロキシ-2-デセン酸、 (2E)-7-アセトキシ-2-ヘプテン酸、(2E,7R)-7,8-ジヒドロキシ-2-オクテン酸、および(2E,9R)-9,10-ジアミノ-2-デセン酸・トリフルオロ酢酸塩である。
【0067】
本発明の組成物は、これらの化合物、またはその薬学的に許容される塩若しくはエステル(以下、これを総称して「DDA」という)100%からなるものであってもよいし、またそうでなくてもIL-2産生抑制作用を発揮する有効量のDDAを含有するものであってもよい。制限されないが、本発明の製剤には、DDAが、通常0.001〜99重量%、好ましくは0.01〜80重量%の割合で含まれる。
【0068】
本発明の製剤は、IL-2産生抑制作用を有し、IL-2産生亢進が直接または間接的に関係して発症または増悪する疾患を予防または治療するために有効に用いることができる。
【0069】
IL-2産生抑制作用は、IL-2産生細胞、例えば血液から分離したリンパ球や、Jurkat、HUT78、HL-60などのT細胞由来の株化細胞などを被験物質の存在下で培養した場合に、当該IL-2産生細胞のIL-2産生能を抑制するか否かを測定することによって評価することができる。なお、血清、血漿または培養上清中のIL-2濃度をELISA、ウエスタンブロッティング、マルチプレックスアッセイ、PCR、ノザンブロッティング、CTLL-2増殖試験等で測定する方法は公知であり、その試薬キットも商業的に広く入手することができる。
【0070】
IL-2産生亢進が直接または間接的に関係して発症または増悪する疾患(IL-2関連疾患)としては、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、甲状腺炎、およびアレルギー性脳炎等のIV型アレルギー性疾患;慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、およびループス腎炎等の自己免疫疾患を挙げることができる。
【0071】
本発明の製剤は、通常、IL-2産生抑制、または上記IL-2関連疾患の予防、改善若しくは治療に有効量のDDAに加えて、薬学的に許容される担体または添加剤を配合して調製される。組成物中のDDAの配合量は、対象とする疾患の種類やその重篤度、また投与形態に応じて適宜選択されるが、通常、全身投与製剤の場合には、本発明製剤の全体重量(100重量%)の0.001〜50重量%、特に0.01〜10重量%とすることができる。
【0072】
本発明の製剤の投与方法として、経口投与、ならびに静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経粘膜投与、経皮投与、および直腸内投与等の非経口投与を挙げることができる。好ましくは経口投与および静脈内投与であり、より好ましくは経口投与である。本発明の製剤は、かかる投与方法に応じて、種々の形態の製剤(剤型)に調製することができる。以下に、各製剤(剤型)について説明するが、本発明において用いられる剤型はこれらに限定されるものではなく、医薬製剤分野において通常用いられる各種剤型を用いることができる。
【0073】
経口投与を行う場合の剤型として、散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤およびシロップ剤を挙げることができ、これらの中から適宜選択することができる。また、それらの製剤について徐放化、安定化、易崩壊化、難崩壊化、腸溶性化、易吸収化等の修飾を施すことができる。
【0074】
また、静脈内投与、筋肉内投与、または皮下投与を行う場合の剤型として、注射剤または点滴剤(用時調製の乾燥品を含む)等があり、適宜選択することができる。
【0075】
また、経粘膜投与、経皮投与、または直腸内投与を行う場合の剤型として、咀嚼剤、舌下剤、パッカル剤、トローチ剤、軟膏剤、貼布剤、液剤等があり、適応場所に応じて適宜選択することができる。また、それらの製剤について徐放化、安定化、易崩壊化、難崩壊化、易吸収化等の修飾を施すことができる。
【0076】
本発明の製剤にはその剤形(経口投与または各種の非経口投与の剤形)に応じて、薬学的に許容される担体および添加剤を配合することができる。薬学的に許容される担体及び添加剤としては、溶剤、賦形剤、コーティング剤、基剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、溶解補助剤、懸濁化剤、粘稠剤、乳化剤、安定剤、緩衝剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤、矯味剤、芳香剤、着色剤が挙げられる。以下に、医薬上許容される担体および添加剤の具体例を列挙するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0077】
溶剤としては、精製水、滅菌精製水、注射用水、生理食塩液、ラッカセイ油、エタノール、グリセリン等を挙げることができる。賦形剤としては、デンプン類(例えばバレイショデンプン、コムギデンプン、トウモロコシデンプン)、乳糖、ブドウ糖、白糖、結晶セルロース、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、タルク、酸化チタン、トレハロース、キシリトール等を挙げることができる。
【0078】
結合剤としては、デンプンおよびその誘導体、セルロースおよびその誘導体(たとえばメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース)、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、トラガント、アラビアゴム等の天然高分子化合物、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の合成高分子化合物、デキストリン、ヒドロキシプロピルスターチ等を挙げることができる。
【0079】
滑沢剤としては、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸およびその塩類(たとえばステアリン酸マグネシウム)、タルク、ワックス類、コムギデンブン、マクロゴール、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、シリコン油等を挙げることができる。
【0080】
崩壊剤としては、デンプンおよびその誘導体、寒天、ゼラチン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、セルロースおよびその誘導体、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースおよびその塩類ならびにその架橋体、低置換型ヒドロキシプロピルセルロース等を挙げることができる。
【0081】
溶解補助剤としては、シクロデキストリン、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。懸濁化剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリピニルピロリドン、アラビアゴム、トラガント、アルギン酸ナトリウム、モノステアリン酸アルミニウム、クエン酸、各種界面活性剤等を挙げることができる。
【0082】
粘稠剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリピニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、トラガント、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0083】
乳化剤は、アラビアゴム、コレステロール、トラガント、メチルセルロース、レシチン、各種界面活性剤(たとえば、ステアリン酸ポリオキシル40、セスキオレイン酸ソルビタン、ポリソルベート80、ラウリル硫酸ナトリウム)等を挙げることができる。
【0084】
安定剤としては、トコフェロール、キレート剤(たとえばEDTA、チオグリコール酸)、不活性ガス(たとえば窒素、二酸化炭素)、還元性物質(たとえば亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、ロンガリット)等を挙げることができる。
【0085】
緩衝剤としては、リン酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ホウ酸等を挙げることができる。
【0086】
等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖等を挙げることができる。無痛化剤こしては、局所麻酔剤(塩酸プロカイン、リドカイン)、ペンジルアルコール、ブドウ糖、ソルビトール、アミノ酸等を挙げることができる。
【0087】
矯味剤としては、白糖、サッカリン、カンゾウエキス、ソルビトール、キシリトール、グリセリン等を挙げることができる。芳香剤としては、トウヒチンキ、ローズ油等を挙げることができる。着色剤としては、水溶性食用色素、レーキ色素等を挙げることができる。
【0088】
保存剤としては、安息香酸およびその塩類、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、逆性石けん、ベンジルアルコール、フェノール、チロメサール、デヒドロ酢酸、ホウ酸、等を挙げることができる。
【0089】
コーティング剤としては、白糖、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、セラック、ゼラチン、グリセリン、ソルビトール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、セルロースアセテートフタレート(CAP)、メチルメタアクリレート−メタアクリル酸共重合体および上記記載した高分子等を挙げることができる。
【0090】
基剤としては、ワセリン、流動パラフィン、カルナウバロウ、牛脂、硬化油、パラフィン、ミツロウ、植物油、マクロゴール、マクロゴール脂肪酸エステル、ステアリン酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ベントナイト、カカオ脂、ウイテップゾール、ゼラチン、ステアリルアルコール、加水ラノリン、セタノール、軽質流動パラフィン、親水ワセリン、単軟膏、白色軟膏、親水軟膏、マクロゴール軟膏、ハードファット、水中油型乳剤性基剤、油中水型乳剤性碁剤等を挙げることができる。
【0091】
なお、上記の各剤型について、公知のドラッグデリバリーシステム(DDS)の技術を採用することができる。本明細書にいうDDS製剤とは、徐放化製剤、局所適用製剤(トローチ、バッカル錠、舌下錠等)、薬物放出制御製剤、腸溶性製剤および胃溶性製剤等、投与経路、バイオアベイラビリティー、副作用等を勘案した上で、最適の製剤形態にした製剤である。
【0092】
本発明の製剤の経口投与量としては、カルボン酸フリーの化合物(1)の量に換算して0.01〜100mg/kgの範囲が好ましく、より好ましくは0.02〜10mg/kgである。静脈内投与をする場合、カルボン酸フリーの化合物(1)の有効血中濃度が0.01〜1000μg/mL、より好ましくは0.02〜100μg/mLの範囲となるような投与量を挙げることができる。なお、これらの投与量は、年齢、性別、体型等により変動し得る。
【実施例】
【0093】
以下、本発明をより詳細に説明するために調製例、試験例及び実施例を挙げるが、本発明はこれらの記載に限定されるものではない。
調製例1 (2E, 9R)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸(以下、これを「DDA1」とも称する)の製造
【0094】
【化13】

【0095】
まず、4-pentyn-1-ol(25)(シグマ・アルドリッチ製)をベンジル化し、化合物26とし、BF3OEt2存在下、n-BuLi、benzyl (R)-glycidyl ether により化合物27とした。次いでこれを加水素分解によりアルキンを還元して化合物28とした後、これを2,2-dimethoxypropaneと反応させてアセタール29とした。さらに、これをSwern酸化し、triethyl phosphonoacetateを用いたWittig反応を経てエチルエステル31を合成した。次いでエチルエステル31のアセトナイドを除去し、アルカリ加水分解によりエチルエステルを除去し、標題の(2E, 9R)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸33 (DDA1)を合成した。
【0096】
得られたDDA1を、1H-NMR測定(日本電子: ECP500)に供した結果を下記に示す。
1H-NMR (CD3OD, 500 MHz): 1.36 (m, 4H), 1.50 (m, 4H) , 2.23 (ddt, J = 7.1, 1.5, 7.0 Hz, 2H), 3.41 (dd, J = 11.1, 6.5 Hz, 1H), 3.46 (dd,J = 11.1, 4.6 Hz, 1H), 3.56 (m,1H), 5.79 (1H, dt, J = 15.6, 1.5 Hz), 6.95 (1H, dt, J = 15.6, 7.1 Hz) 。
【0097】
調製例2 (2E, 9S)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸(以下、これを「DDA2」とも称する)の製造
【0098】
【化14】

【0099】
まず、4-pentyn-1-ol(25)(シグマ・アルドリッチ製)をベンジル化して生成した化合物26を、benzyl (S)-glycidyl etherを用いて化合物34とした。化合物34から3段階でアルデヒド37を合成し、これをt-butyl P,P-dimethylphosphonoacetateを用いたWittig反応によりt-ブチルエステル38とした。次いでt-ブチルエステル38のアセトナイドを除去し、さらにTFAによりt-ブチル基を除去し、標題の(2E, 9S)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸40(DDA2)を合成した。
【0100】
得られたDDA2を、1H-NMR測定(日本電子: ECP500)に供した結果を下記に示す。
1H-NMR (CD3OD, 500 MHz): 1.36 (m, 4H), 1.50 (m,4H) , 2.23 (ddt, J = 7.1, 1.5, 7.0 Hz, 2H), 3.41 (dd, J = 11.1, 6.5 Hz, 1H), 3.46 (dd,J = 11.1, 4.6 Hz,1H), 3.56 (m,1H), 5.79 (dt, J = 15.6, 1.5 Hz,1H), 6.95 (dt, J = 15.6, 7.1 Hz,1H)。
【0101】
調製例3 (2E)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸(以下、これを「DDA3」とも称する)の調製(その1)
下記(1)〜(6)に示す方法に従って、ローヤルゼリーから(2E)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸を単離精製した(図1〜6参照)。
【0102】
なお、当該単離精製工程で使用した機器などは、下記の通りである。
高速冷却遠心機:日立製CR-21 ローター: R10A
限外濾過膜 :Millipore製 Prep/Scale-TFF Cartridge PLGC10k 1ft2
ポンプ :Millipore製 濾過膜専用ローラーポンプ
凍結乾燥機 :東京理化製 FDU-540型。
【0103】
(1)限外濾過膜によるA3画分の調整
乾燥粉末ローヤルゼリー(約150g)にイオン交換水(1.5L)を加え、室温で2時間攪拌した後、高速冷却遠心機を用いて遠心分離(10,000rpm, 18780×g, 10分)を行い、水溶性画分と不溶性画分に分画した。不溶性画分にイオン交換水(0.5L)加えて、同様の操作を2回行った(但し、攪拌は30分間)。
【0104】
最終的に残った不溶性画分をB1画分とし、得られた3回分の水溶性画分を1つにまとめてA1画分とした。A1画分を10kDaの限外濾過膜にて分画し、分子量10,000以下をA3画分とした。
【0105】
以上の操作を5回繰り返して行い、ローヤルゼリー乾燥粉末774gからA3画分(凍結乾燥物)454gを得た。
【0106】
(2)A3画分からのゲル濾過による分画操作(図2)
(1)で調製したA3画分(凍結乾燥物:30〜35g)にイオン交換水(100ml)を加え、室温で30分攪拌した後、遠心分離(10,000rpm, 4℃,10分)によって上清と沈殿物(D5)に分画した。
【0107】
上清をゲル濾過カラム(東ソー社:Toyopeal HW40F 2リットル、カラムサイズφ50×1000mm)に注入し、流速8ml/minで溶離液(イオン交換水)を流し、波長210nmのUVで検出しながら100ml毎に分画を行った。0.3〜1.2LまでをD1画分、1.3〜2.6LまでをD2画分、2.7〜4.4LまでをD3画分、4.5〜5.0LまでをD4画分とした。
【0108】
この操作を13回繰り返して行い、A3画分(凍結乾燥物)417.4gからD4画分(凍結乾燥物)4.66gを得た。
【0109】
(3)D4画分からの逆相(ODS)中圧クロマトグラフィーによる分画操作(図3)
(2)で調製したD4画分をアセトニトリルと0.1%トリフルオロ酢酸水溶液の等量(1:1)混合液に溶解し、下記条件で、分取用逆相カラム(Hi-Flash-Column ODS-8-50W-L(36g, 2.6×100mm))を用いて中圧クロマト分取装置(山善株式会社製 YFLC-Wprep2XY-W10V)にて分画を行った。
【0110】
<クロマトグラフィー条件>
流速:20ml/min, 1分毎に分画
溶出溶媒:アセトニトリル:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液[98:2(8分)→0.01分→100:0(10分)]
検出:UV 254nm。
【0111】
アセトニトリルと0.1%トリフルオロ酢酸水溶液の(2:98)混合液で吸着しない画分をD4-I画分、アセトニトリル100%で溶出する画分をD4-II画分とした。同じ操作を3回繰り返し、D4画分(凍結乾燥物)(2.76g)から、D4-I画分(凍結乾燥物)(0.81g)とD4-II画分(凍結乾燥物)(2.26g)を得た。
【0112】
(4)D4-II画分からの逆相(ODS)高速液体クロマトグラフィーによる分画操作(図4)
(3)で調製したD4-II画分を、アセトニトリルと0.1%トリフルオロ酢酸水溶液の(2:5)混合液に溶解し、下記条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製を行った。
【0113】
<HPLC条件>
HPLC装置:ウォーターズ デルタ600
検出装置:ウォーターズ 2996 (フォトダイオードアレイ検出装置)
分取カラム:ナカライテスクCosmosil 5C18-AR-II (φ10×250mm)+ガードカラム(10×10mm)
流速:5ml/min
検出:PDAマックスプロット
溶出条件:アセトニトリル:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液[0:100(10分)→50分→100:0(20分)]。
【0114】
上記の溶出条件にてHPLCにて分離を行い、注入開始より10分毎に分画し、合計8画分(D4-II-1〜D4-II-8)を得た。かかる分取操作を繰り返し行い、D4-II画分(凍結乾燥物)(49.3mg)よりD4-II-3画分(凍結乾燥物)(6.8mg)が得た。
【0115】
(5)D4-II-3画分からの逆相(ODS)高速液体クロマトグラフィーによる分画操作(図5)
(4)で調製したD4-II-3画分をアセトニトリルと0.1%トリフルオロ酢酸水溶液の(1:1)混合液に溶解し、下記条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製を行った。
【0116】
<HPLC条件>
HPLC装置:ウォーターズ デルタ600
検出装置:ウォーターズ 2996 (フォトダイオードアレイ検出装置)
分取カラム:ナカライテスクCosmosil 5C18-AR-II (φ10×250mm)+ガードカラム(10×10mm)
流速:5ml/min
検出:PDAマックスプロット
溶出条件:アセトニトリル:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液[13:87(30分)→10分→0:100(10分)]。
【0117】
上記の溶出条件によりHPLCにて分離を行い、クロマトグラフのピークを指標として分画を行ったところ、合計8つの画分(D4-II-3A〜D4-II-3H)を得た。かかる分取操作を繰り返し行い、D4-II-3画分(凍結乾燥物)(15.6mg)よりD4-II-3E画分(凍結乾燥物)(0.9mg)を得た。
【0118】
(6)D4-II-3E画分からの順相クロマトグラフィーによる分離(図6)
(5)で調製したD4-II-3E画分(凍結乾燥物)(16.6mg)を、クロロホルムとメタノールの等量(1:1)混合液0.5mlに溶解し、下記条件の順相カラムクロマトグラフィーに供して精製を行った。
【0119】
<順相カラムクロマトグラフィー条件>
分離用シリカ:富士シリシア化学 シリカゲルBW-300 (5g)
サイズ:φ15×44mm
溶出条件:クロロホルム:メタノール[95:5(35ml)→9:1(15ml)]。
【0120】
上記の溶出条件において、溶出液2ml毎に、アニスアルデヒド硫酸発色による薄相クロマトグラフィーにて確認しながら分画を行ったところ、合計4つの画分(D4-II-3E-1〜D4-II-3E-4)を得た。かかる精製操作を繰り返し行い、D4-II-3E-4画分(凍結乾燥物)(3.3mg)を得た。
【0121】
(7)D4-II-3E-4画分の同定
上記(6)で得られたD4-II-3E-4画分を、FAB-MS測定(日本電子製JMS-T100LC型(マトリクス:polyethylene glycol))、1H-NMR測定(日本電子製:ECP-500)および13C-NMR測定(バリアンテクノロジーズジャパンリミテッド製:Varian-Unity500型)に供したところ、下記の結果が得られた。
【0122】
[α]26D +4.44°(c 0.495, MeOH)
FAB-MS: m/z 203 [M+H] -
1H NMR (500 MHz, CD3OD): 1.30〜1.55 (6H, m, H-5〜H-8), 2.22 (2H, dq, J = 1.6, 7.3 Hz, H-4), 3.41 (1H, dd, J = 6.4, 11.0, H-10), 3.46 (1H, dd, J = 4.6, 110, H-10), 3.56 (1H, m, H-9), 5.79 (1H, dt, J = 15.6, 1.6 Hz, H-2), 6.95 (1H, dt, J = 15.6, 7.1 Hz, H-3).
13C-NMR (125 MHz, CD3OD): 23.4, 29.2, 30.3, 33.0, 34.3 (C-4 〜C-8), 67.4(C-10), 73.2(C-9), 122.6(C-2), 151.1(C-3), 177.7(C-1)。
【0123】
この結果から、D4-II-3E-4画分に含まれる化合物は、下式で示される(2E)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸であると同定された。当該(2E)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸は、食経験のあるローヤルゼリーに含まれている成分であることから、経口的に摂取しても副作用なく安全性の高い化合物であると考えられる。
【0124】
【化15】

【0125】
得られた(2E)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸を、下式に示す方法でメチル化した後、(S)-MTPAClで処理し、(R)-MTPAエステルを調製した。得られた(R)-MTPAエステルの1H-NMRを測定し、10位に帰属されるプロトンシグナルの面積比を算出した。その結果、上記で得られた(2E)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸(DDA3)はラセミ体であり、各立体の存在比はR:S=3:1、計算誤差を考慮すると少なくともR:S=2.8〜3.8:1の範囲にあることが判明した。
【0126】
【化16】

【0127】
調製例4 (2E)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸(以下、これを「DDA3」とも称する)の調製(その2)(図7参照)
乾燥粉末ローヤルゼリー(浙江省浙江平湖産)200 gに1500 mLのメタノールを加え、室温で攪拌しながら12時間抽出した。溶出液を減圧濾過し、ろ液の溶媒を減圧下留去した。得られた残渣(108.9 g)をODS カラムクロマトグラフィー (カラム:Cosmosil 75C18-PREP、 カラムサイズ:φ80×205 mm、溶離液:10%、50%メタノール水溶液、各2500 mL (1250 mL×2フラクション)) で精製し、フラクション1(10%メタノール溶出区の前半)、2(10%メタノール溶出区の後半)、3(50%メタノール溶出区の前半)、4(50%メタノール溶出区の後半)にわけた。フラクション4をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(カラム:Daiso gel IR-60, カラムサイズ:φ26×150 mm、溶離液:5%メタノールを含むクロロホルム、500 mL(50 mL×10フラクション))で精製し、7-10番目に溶出されたフラクションを合わせて濃縮した。これを再度シリカゲルカラムクロマトグラフィー(カラム:Daiso gel IR-60、カラムサイズ:φ26×150 mm、溶離液:5%メタノールを含むクロロホルム、600 mL (60 mL×10フラクション))で精製し、5番目に溶出されたフラクションをさらにHPLC(カラム:Cosmosil 5C18-AR column(Nacalai Tesque、10×250 mm)、溶離液:13% acetonitrileを含む0.1% TFA、流速:5.0 mL/min、モニター:220 nm)で精製し、(2E)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸(DDA3)13.3 mg を得た。
【0128】
調製例5 (2E,7R)-7,8-ジヒドロキシ-2-オクテン酸(以下、これを「DDA4」とも称する)の製造
【0129】
【化17】

【0130】
Propargyl alcohol(41)(フルカ製)をベンジル保護した化合物42に、BF3OEt2存在下でbenzyl (R)-glycidyl ether(43)(シグマ・アルドリッチ製)およびn-BuLiと反応させて、3炭素延ばした化合物44を合成した。これを、加水素分解により化合物45とした後、PTS存在下で2,2-dimethoxypropaneと反応させてアセタール46を得た。次いでアセタール46を、Swern酸化によりアルデヒド47とし、さらにt-butyl P,P-dimethylphosphonoacetateを用いたWittig反応により、化合物48を合成した。これをTFAによりアセトナイドおよびt-ブチル基を除去して、標題の (2E,7R)-7,8-ジヒドロキシ-2-オクテン酸49(DDA4)を合成した。
【0131】
得られたDDA4を、1H-NMR測定(日本電子製: Alpha-400)に供した結果を下記に示す。
1H-NMR (400 MHz, DMSO): 1.12-1.59 (m, 4H), 2.16 (m, 2H), 3.12-3.55 (m, 3H), 5.76 (d, J=15.6 Hz, 1H), 6.82 (dt, J=6.8, 7.1 Hz, 1H)。
【0132】
調製例6 (2Z,11R)-11,12-ジヒドロキシ-2-ドデセン酸(以下、これを「DDA5」とも称する)の製造
【0133】
【化18】

【0134】
まず6-Heptyn-1-ol(50)(シグマ・アルドリッチ製)をベンジル化して化合物51を得た。次いでBF3OEt2存在下でbenzyl (R)-glycidyl ether(43)(シグマ・アルドリッチ製)およびn-BuLiと反応させて、3炭素延ばした化合物52を合成した。さらにこれを水素添加によりアルキンを還元し(化合物53)、次いでPTS存在下で2,2-dimethoxypropaneと反応させてアセタール54を得た。アセタール54を、Swern酸化によりアルデヒド55とし、次いでtriethyl phosphonoacetateを用いたWittig反応により化合物56を得た。化合物56のアセトナイドを除去した後、アルカリ加水分解反応により、標題の(2Z,11R)-11,12-ジヒドロキシ-2-ドデセン酸58(DDA5)を合成した。
【0135】
得られた化合物DDA5を、1H-NMR測定(日本電子製: Alpha-400)に供した結果を下記に示す。
1H-NMR (400 MHz, DMSO): 1.14-1.43 (m, 12H), 2.15 (m, 2H), 3.18-3.45 (m, 3H), 5.75 (d, J=15.6 Hz, 1H), 6.83 (dt, J=6.8, 7.1 Hz. 1H)。
【0136】
調製例7 (2E,9S)-9,10-ジアミノ-2-デセン酸トリフルオロ酸塩(以下、これを「DDA6」とも称する)の製造
【0137】
【化19】

【0138】
調製例1の方法で得られるトリオール29の水酸基をTBDPS基で保護し(化合物61)、次いでアセトナイドを酸により除去した後(化合物62)、水酸基をMs基により保護し化合物63を合成した。化合物63をNaN3と反応させて、アジド64とし、これをBoc基で保護し化合物65を得た。化合物65のTBDPS基をTBAFにより除去し、Swern酸化、t-butyl P,P-dimethylphosphonoacetateを使ったWittig反応により化合物68とした。化合物68のBoc基をTFAで除去し(2E,9R)-9,10-ジアミノ-2-デセン酸トリフルオロ酸塩(69)(DDA6)を合成した。
【0139】
得られた化合物DDA6を、1H-NMR測定(日本電子製: Alpha-400)に供した結果を下記に示す。
1H-NMR (400 MHz, DMSO): 1.21-1.69 (m, 8H), 2.19 (m, 2H), 3.02 (m, 2H), 3.28 (m, 1H), 5.77 (d, J=15.6 Hz, 1H), 6.82 (dt, J=6.8, 1.2 Hz. 1H)。
【0140】
調製例8 (2Z,9R)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸(以下、これを「DDA7」とも称する)の製造
【0141】
【化20】

【0142】
調製例12に記載する方法により合成したアセトナイド3をswern酸化してアルデヒド18にした後、Ethyl ditrifluoroacetyl-phosphoacetateを使ったWittig反応を行った。次いで水素化ナトリウムよるアルカリ加水分解によりアセトナイドを除去し(化合物19)、最後に水酸化ナトリウムによるアルカリ加水分解を行うことで、標題の(2Z,9R)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸(20)(DDA7)を合成した。
【0143】
得られたDDA7を、1H-NMR測定(日本電子製:Alpha-400)に供した結果を、下記に示す。
1H-NMR (400 MHz、DMSO):1.39-1.18 (m, 8H), 2.58-2.50 (m, 2H), 3.19-4.34 (m,3H), 5.71 (d, J=11.6 Hz, 1H), 6.21 (dt, J=11.6, 7.6 Hz, 1H)。
【0144】
調製例9 3,10-ジヒドロキシデセン酸(以下、これを「DDA9」とも称する)の製造
乾燥粉末ローヤルゼリー(浙江省浙江平湖産)200 gに1500 mLのメタノールを加え、室温で攪拌しながら12時間抽出した。溶出液を減圧濾過し、ろ液の溶媒を減圧下留去した。得られた残渣(108.9 g)をODS カラムクロマトグラフィー (カラム:Cosmosil 75C18-PREP、 カラムサイズ:φ80×205 mm、溶離液:10%、50%メタノール水溶液、各2500 mL (1250 mL×2フラクション) で精製し、フラクション1(10%メタノール溶出区の前半)、2(10%メタノール溶出区の後半)、3(50%メタノール溶出区の前半)、4(50%メタノール溶出区の後半)にわけた。フラクション4をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(カラム:Daiso gel IR-60, カラムサイズ:φ26×150 mm、溶離液:5%、10%メタノールを含むクロロホルム、500 mL(50 mL×10フラクション)で精製し、10%の4番目に溶出されたフラクションを濃縮した。これを再度シリカゲルカラムクロマトグラフィー(カラム:Daiso gel IR-60、カラムサイズ:φ26×100 mm、溶離液:10、15%メタノールを含むクロロホルム、300 mL (20 mL×15フラクション)で精製し、13-19番目に溶出されたフラクションを集め、標題の3,10-ジヒドロキシデセン酸(DDA9)を23.7 mg得た。
【0145】
得られた化合物DDA9を1H-NMR測定(日本電子製: ECA600)に供した結果を下記に示す。
1H-NMR (600 MHz, CD3OD) : 1.34 (m, 4H), 1.35 (m, 2H), 1.47 (m, 4H), 1.52 (m, 2H), 2.36 (dd, J=15.1, 8.0 Hz, 1H), 2.43 (dd, J =15.1, 4.5 Hz, 1H), 3.53 (t, J=6.6 Hz, 2H), 3.96 (m, 1H)。
【0146】
調製例10 (9R)-9,10-ジヒドロキシデカン酸(以下、これを「DDA11」とも称する)の製造
【0147】
【化21】

【0148】
調製例12に記載する方法により合成したアセトナイド3をオゾン分解反応し、次いでtriethyl phosphonoacetateを用いたWittig反応を行って化合物70を合成した。化合物70を水素添加、およびアセトナイドの除去を経て、化合物72とした。次いで、アルカリ加水分解反応により、化合物72のエチルエステルを除去し、標題の(9R)-9,10-ジヒドロキシデカン酸73(化合物DDA11)を合成した。
【0149】
得られた化合物DDA11を1H-NMR測定(日本電子: Alpha-400)に供した結果を下記に示す。
1H-NMR (400 MHz, CD3OD): 1.30-1.20 (m, 6H), 1.41-1.40 (m, 2H), 1.53-1.50 (m, 2H), 2.07 (t, 7.6Hz, 2H), 3.32 (dd, 11.2, 6.2Hz, 1H), 3.38 (dd, 11.2, 4.3Hz, 1H), 3.48 (m, 1H)。
【0150】
調製例11 (2E, 9R)-メチル-9,10-ジヒドロキシ-2-デセノエート(以下、これを「DDA12」とも称する)の製造
【0151】
【化22】

【0152】
調製例1に記載する方法で合成したアルデヒド30より、methyl(triphenylphosphoranylidene)acetateによるWittig反応を行い化合物74を合成した。次いで、酸加水分解反応によりアセトナイドを除去して、標題の(2E, 9R)-メチル-9,10-ジヒドロキシ-2-デセノエート(75)(DDA12)を得た。
得られた化合物DDA12を1H-NMR測定(日本電子: Alpha-400)に供した結果を下記に示す。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): 1.38-1.29 (m, 2), 1.50-1.39 (m, 4H), 2.20 (dd, 14.0, 6.8Hz, 2H), 2.27 (m, 1H), 2.36 (m, 1H), 3.42 (dd, 10.8, 7.8Hz, 1H), 3.64 (dd, 10.8, 2.8Hz, 1H), 3.68 (m, 1H), 3.72 (s, 3H), 5.81 (dt, 15.6, 1.6Hz, 1H), 6.95 (dt, 15.6, 6.8Hz, 1H)。
【0153】
調製例12 (2E, 9R)-9,10-ジアセトキシ-2-デセン酸 (以下、これを「DDA13」とも称する)の製造
【0154】
【化23】

【0155】
市販の(4R)-4-(2-hydroxyethyl)-2,2-dimethyl-1,3-dioxolane(1)(シグマ・アルドリッチ)をトシル化し、さらに5-bromo-1-penteneを使ったGrignard反応を行うことで、 (R)-2,2-dimethyl-4-(oct-7-enyl)-1,3-dioxolane 3とした。これを酢酸で処理して得られたジオール4をアセチル化して、化合物76とした。次いで、オゾン分解反応によりアルデヒドとし、次いでt-buthyl diethylphosphonoacetate によるWittig反応を行い、化合物77を得た。酸加水分解反応により、化合物77からt-ブチル基を除去し、標題の(2E, 9R)-9,10-ジアセトキシ-2-デセン酸(78)(DDA13)を合成した。
【0156】
得られた化合物DDA13を1H-NMR測定(日本電子: Alpha-400)に供した結果を下記に示す。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3): 1.40-1.29 (m, 4H), 1.62-1.54 (m, 2H), 2.06(s, 3H), 2.07 (s, 3H), 2.27 -2.20 (m, 2H), 4.03 (dd, 11.6, 6.4Hz, 1H), 4.22 (dd, 11.6, 3.2Hz, 1H), 5.06 (m, 1H), 5.82 (dt, 15.6, 2.6Hz. 1H), 7.05 (dt, 15.6, 7.0Hz, 1H)。
【0157】
調製例13 (2E, 9S)-9-ヒドロキシ-2-デセン酸(以下、これを「DDA14」とも称する)の製造
【0158】
【化24】

【0159】
調製例12に記載した方法で得られたジオール4に対して化合物第一級水酸基のトシル化を行った。次いで、オゾン分解とホスホノ酢酸トリメチルを使ったWittig反応を行い、PPTSによる酸加水分解によりTHP基を除去した後、水酸化カリウムによるアルカリ加水分解を行い、表題の(2E, 9S)-9-ヒドロキシ-2-デセン酸11(DDA14)を合成した。
【0160】
得られたDDA14を、1H-NMR測定(日本電子製:Alpha-400)に供した結果を下
記に示す。
1H-NMR (400 MHz, CD3OD):1.13 (d, J=6.0 Hz, 3H), 1.50-1.34 (m, 8H), 2.23-2.19 (m, 2H), 3.69 (m, 1H), 5.79 (dt, J=15.6, 1.4 Hz, 1H), 6.94 (dt, J=15.6, 6.8 Hz, 1H)。
【0161】
調製例14 (2E, 9R)-9-ヒドロキシ-2-デセン酸(以下、これを「DDA15」とも称する)の製造
【0162】
【化25】

【0163】
調製例13に記載した方法で得られた化合物7を光延反応で立体を反転させたベンゾエート(12)とした。その後は調製例13に記載した方法と同様にして、標題の(9R, 2E)-9-ヒドロキシ-2-デセン酸17(DDA15)を合成した。
【0164】
得られたDDA15を、1H-NMR測定(日本電子製:Alpha-400)に供した結果を下記に示す。
1H-NMR (400 MHz 、CDCl3):1.03 (d, J=8.0 Hz, 3H), 1.44-1.20 (m, 8H), 2.17-2.11 (m, 2H), 3.62 (m, 1H), 5.71 (br.d, J=15.6 Hz, 1H), 6.86 (dt, J=15.6, 7.2 Hz, 1H)。
【0165】
調製例15 (2E)-7-アセトキシ-2-ヘプテン酸(以下、これを「DDA16」とも称する)の合成
【0166】
【化26】

【0167】
まず市販のδ-バレロラクトン(22)(シグマ・アルドリッチ製)をDIBAL還元によりアルデヒド23とした。さらにジエチルホスホノ酢酸tert-ブチルを使ったWittig反応と、無水酢酸、ピリジンによるアセチル化を行い、最後にトリフルオロ酢酸によりt-BuO基を除去することで、標題の(2E)-7-アセトキシ-2-ヘプテン酸24(DDA16)を合成した。
【0168】
得られたDDA16を、1H-NMR測定(日本電子製:Alpha-400)に供した結果を、下記に示す。
1H-NMR(400 MHz、CDCl3):1.71-1.52 (m, 4H), 2.05 (s, 3H), 2.30-2.21 (m, 2H), 4.07 (t, J=6.2 Hz, 2H), 5.85 (dt, 15.6, 1.6 Hz, 1H), 7.06 (dt, 15.6, 7.0 Hz, 1H)。
【0169】
調製例16 (2E, 9R)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸(DDA1)と(2E, 9S)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸(DDA2)の混合物の調製
調製例1で合成した(2E, 9R)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸(DDA1)と、調製例2で合成した(2E, 9S)-9,10-ジヒドロキシ-2-デセン酸(DDA2)を、3.3:1の重量比になるように混合して、両者の混合組成物(以下、「DDA10」ともいう)を調製した。
【0170】
試験例1
上記調製例1〜16で調製した化合物(DDA1〜DDA7、DDA9、DDA11〜DDA16)および混合物(DDA10)、並びに松浦薬業(株)から入手した(2E)-10-ヒドロキシ-2-デセン酸(以下、「DDA8」ともいう)を、DMSOを用いて濃度が2 mMとなるように調製した(試料溶液1〜16)。
【0171】
健常な男性1名(28歳)から採取した血液から、定法に従ってヒト末梢リンパ球を分離した。得られたヒト末梢リンパ球を、1×10個/mlとなるようにRPMI-1640培地(10%FBS, 100units/mlペニシリン, 100μg/mlストレプトマイシンを含む)に懸濁し、これに上記で調製した各DDA1〜DDA16の試料溶液1〜16をそれぞれ0.5%の濃度になるように添加し、37 ℃で48時間培養した。培養後、遠心して培養上清を得た。
【0172】
得られた培養上清中のIL-2含有量を、IL-2測定キット(BD OptEIA ELISA Set、Human IL-2:日本ベクトン・ディッキンソン(株))を用いて、マニュアルに従って測定した。
【0173】
コントロール試験(−)として、ヒト末梢リンパ球に試験溶液としてDDAを含有しないDMSOを0.5%の割合で添加して、37 ℃で48時間培養して調製した培養上清を用いて、同様にしてIL-2含有量を測定した。このIL-2含有量を100%として、各試験溶液1〜16を添加して培養した培養上清中のIL-2含有量の相対比(%)を算出した。
【0174】
結果を図8に示す。
【0175】
図8からわかるように、DDA1〜DDA16はいずれもヒトリンパ球におけるIL-2の産生を抑制することが確認された。中でもDDA8、DDA11、DDA13及びDDA14、とりわけDDA8及びDDA14、特にDDA14は、ヒトリンパ球におけるIL-2産生の抑制効果が高いことが分かった。
【0176】
試験例2
化合物(DDA4、DDA6、DDA7、DDA14+15、DDA16)を、卵巣摘出病態モデル動物に投与して、強制遊泳試験(Nature、266:730-732、1977)を行い、その後、血液を採取して、血清中のIL-2濃度を測定した。なお、DDA-14とDDA-15については、天然物としてそれらのラセミ体が報告されており、ここではこれと同様の割合になるようにそれぞれ3:1の重量比で混合し、(2E, 9S+9R)-9-ヒドロキシ-2-デセン酸(ラセミ体)(DDA14+15)として、用いた。
【0177】
(1)卵巣摘出病態モデル動物の調製
被験動物としてICR系雌性マウス(9週齢、体重29-33g)を使用した。マウスはすべて1ケージ10匹群居飼育し、1週間に1回、餌料(床敷きホワイトフレーク)を交換した。卵巣摘出術は、下記の方法によって行った。
【0178】
<卵巣摘出>
ペントバルビタール(65mg/kg,i.p)麻酔下にマウスの背腹部を約5mm切開し、卵巣及び卵巣周辺の付着脂肪組織を一時的に体外に露出し、卵巣と子宮端部の間を結紮後、卵巣を切除摘出する。その後、速やかに子宮および卵巣周辺組織を腹腔内に戻した後、腹壁および皮膚を縫合する。
【0179】
(2)被験物質の投与
化合物(DDA4、DDA6、DDA7、DDA14+15、DDA16)0.2mgをイオン交換水50mlに溶解し、懸濁液を調製した。これを上記の被験動物(卵巣摘出病態モデルマウス)に、体重10gあたり0.1mlの割合で経口ゾンデを用いて、卵巣を摘出した翌日から14日間(卵巣摘出の翌日を投与1日とする)、1日1回の割合で経口投与した(試験群)(40μg/kg/day)。対照実験として、DDAに代えて注射用蒸留水を、被験動物(卵巣摘出病態モデルマウス)に体重10gあたり0.1mlの割合で経口投与した(対照群)。
【0180】
(3)強制遊泳試験
卵巣を摘出した翌日から14日間に亘って各被験物質(DDA4、DDA6、DDA7、DDA14+15、DDA16)を投与した被験動物(卵巣摘出病態モデルマウス)を、14日目の経口投与2時間後に水槽に入れて、10分間強制遊泳に供した(試験群)。また、対照実験として、DDAに代えて注射用蒸留水を経口投与した被験動物(卵巣摘出病態モデルマウス)について同様の試験を行った(対照群)。
【0181】
(4)血清中のIL-2濃度測定
上記で強制遊泳に供した被験動物(試験群、対照群)から血液を採取し、血液中のIL-2濃度(pg/ml)を、IL-2測定キット(RSD M2000 IL-2 ELISA Kit mouse:R&S Systems)を用いて、マニュアルに従って測定した。
【0182】
(5)結果
結果を図9に示す。なお、結果は試験群および対照群とも被験動物6匹の平均値である。
【0183】
図9からわかるように、被験物質DDAを投与しなかった対照群の血液中のIL-2含量は88.11pg/mlと高かったのに対して、各被験物質(DDA4、DDA6、DDA7、DDA14+15、DDA16)を投与した試験群の血液中のIL-2含量はいずれも45pg/ml以下と、DDAの経口投与により血液中のIL-2濃度が減少することが確認された。
【0184】
以上の結果からわかるように、DDA1〜DDA16にはIL-2産生抑制作用があることが明らかになった。
【0185】
実施例1:カプセル剤
DDA1(調製例1) 5 mg
乾燥精製酵母 (朝日ビール薬品(株)) 344 mg
蔗糖脂肪酸エステル((株)太陽化学) 1 mg
上記成分(粉末)を均一に混合し、得られた粉末350mgを1号ハードカプセルにいれて、カプセル剤とした(実施例1)。
【0186】
またDDA1(調製例1)に代えてDDA2〜DDA16を用いて、同様にしてカプセル剤を調製した。
【0187】
実施例2:ドリンク剤
DDA1(調製例1) 5 mg
レモン果汁((株)ポッカコーポレーション) 20 ml
プロポリス(アピ(株)) 0.2 g
ビタミンC((株)武田薬品) 0.2 g
ハチミツ(アピ(株)) 13.0 g
上記の6成分を水に溶解し、これを褐色瓶に充填してドリンク剤(1本分100ml)を得た。
【0188】
またDDA1(調製例1)に代えて、DDA2〜DDA16を用いて、同様にしてドリンク剤を調製した。
【0189】
実施例3:ハードカプセル
DDA1(調製例1) 5 mg
乳糖 (アピ(株)) 150 mg
テアニン((株)太陽化学) 50 mg
上記成分(粉末)を均一に混合し、得られた粉末350mgを1号ゼラチン製硬質カプセルに入れてカプセル剤とした。
【0190】
またDDA1(調製例1)に代えて、DDA2〜DDA16を用いて、同様にしてカプセル剤を調製した。
【0191】
実施例4:ドリンク剤
DDA1(調製例1) 5 mg
ハチミツ(アピ(株)) 7,500 mg
エゾウコギエキス(ヤクハン製薬(株)) 2,500 mg
プロポリスエキス(アピ(株)) 1,000 mg
ビタミンC((株)武田薬品) 300 mg
クエン酸 (アピ(株)) 100 mg
上記の6成分を水に溶解し、これを褐色瓶に充填してドリンク剤(1本分30ml)を得た。
【0192】
またDDA1(調製例1)に代えて、DDA2〜DDA16を用いて、同様にしてドリンク剤を調製した。
【産業上の利用可能性】
【0193】
本発明が対象とする化合物(1)は、インターロイキン−2産生抑制作用を有しており、Tリンパ球の活性化因子および増殖因子を抑制することができるので、インターロイキン−2産生抑制剤、ならびにIV型アレルギー治療剤や自己免疫疾患治療剤などの医薬組成物として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

(式中、Rは水素原子またはヒドロキシ基;RおよびRは、同一または異なって、水素原子、アミノ基、ヒドロキシ基または低級アルカノイルオキシ基を意味する。nは2〜7の整数を意味する。)
で示されるカルボン酸、またはその薬学的に許容される塩若しくはエステルを有効成分とするインターロイキン−2産生抑制剤。
【請求項2】
下記一般式(1):
【化2】

(式中、Rは水素原子またはヒドロキシ基;RおよびRは、同一または異なって、水素原子、アミノ基、ヒドロキシ基または低級アルカノイルオキシ基を意味する。nは2〜7の整数を意味する。)
で示されるカルボン酸、またはその薬学的に許容される塩若しくはエステルを有効成分とする、インターロイキン−2関連疾患の予防または治療剤。
【請求項3】
インターロイキン−2関連疾患が、自己免疫疾患またはIV型アレルギーである、請求項2に記載する予防または治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−168290(P2010−168290A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10227(P2009−10227)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(598162665)株式会社山田養蜂場本社 (32)
【Fターム(参考)】