説明

インダクタンス素子及びその製造方法、並びに配線基板

【課題】 小型で、Q値が高く、製造歩留まり良く低コストで製造でき、長期的信頼性も高いインダクタンス素子及びその製造方法、並びにこのインダクタンス素子を内蔵する配線基板を提供すること。
【解決手段】 導体層51が形成された絶縁基材1、別途焼結されたリング状磁性体4とその内側の絶縁基材5が配置された絶縁基材2、そして導体層53が形成された絶縁基材3を、加熱下でプレス加工して一体化させる。次に、リング状磁性体4の外側および内側の領域において、導体層51と絶縁基材と導体層53とを貫通する2列の貫通孔を形成し、これらの貫通孔に導電材料を配して、接続用導体6および7を形成する。次に、導体層51および53をパターニングして、導体パターン8および9を形成する。この際、導体パターン8および9は、接続用導体6および7とともにリング状磁性体4をトロイダルコイル状に取り巻く形状に加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタンス素子及びその製造方法に関するものであり、より詳しくは、配線基板に内蔵可能な小型で高性能なインダクタンス素子及びその製造方法、並びに配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機や通信機能を備えたゲーム機など、無線通信機能を備えた携帯電子機器の開発が盛んに行われている。このような無線通信端末などを構成する増幅器やVCO(電圧制御発振器)などの高周波アナログ回路は、位相雑音などのS/N比、入出力特性の線形性、消費電力などの性能指標を表す品質係数値(Q値)やインダクタンス値(L値)の高いインダクタを必要とする。携帯電子機器などの電子機器の小型高密度化が進む中で、Q値やL値の高いインダクタ素子の小型化が課題となっている。なお、Q値は次式
Q = 2πfL/R
で与えられ、式中、fは信号周波数を表し、Rはインダクタ素子の内部抵抗を表す。
【0003】
また、携帯電話、ハードディスク装置、ノート型パーソナルコンピュータ等の電子機器の電源回路には、交流を直流に変換して供給するAC/DCコンバータや直流電圧を変換して供給するDC/DCコンバータなどが必須であり、これらにはトランスやインダクタなどのコイル部品が複数使用される。これらコイル部品においては大きなインダクタンスを得るために、また、トランスにおいては、1次側巻線と2次側巻線との間の良好な磁気結合を得るために磁性体製のコアが用いられている。
【0004】
従来、電子装置に使用されるチョークコイルやトランスなどのインダクタンス素子には、フェライトコアや鉄心などの磁路部材に導電線をコイル状に巻装して製造される巻き線型インダクタンス素子(例えば、特許第3034985号公報参照。)が用いられている。巻線型によれば、磁芯の材料や形状や大きさ、導電線の材料、長さ、断面積および巻数などを適当に選ぶことにより、Q値やL値の高いインダクタを比較的容易に形成することができる。しかし、巻き線型インダクタンス素子は、巻き線機などを用いて導電線を磁芯に巻き付ける作業が困難になるため、小型のインダクタンス素子を安価に製造することは難しい。
【0005】
一方、後述の特許文献1には、磁性層、例えば酸化鉄(II)FeO系フェライト磁性体層と導体層とを交互に積層した積層型インダクタ、および磁性層の上下に導体層を折れ線状に配置してヘリカル型の導体パターンを形成した平面型インダクタが提案されている。これらのインダクタでは巻き線作業が不要であるから、小形のインダクタを安価に製造することができる。
【0006】
しかし、これらのインダクタでは、磁性層の焼結と導体層の焼成を同時に行うため、磁性層材料が、低温で焼結が可能なフェライト系磁性体、例えばNi−Zn−Cu系フェライトに限られているのが現状であり、磁束密度等の磁気特性の優れた他のフェライト系磁性体、例えばMn−Zn系フェライトなどを用いることができないため、Q値の高いインダクタが得られないという問題がある。
【0007】
さらに、これらのインダクタは、最も磁束密度の高いコイルの中央部の磁束がそのまま外部に開放される開磁路構造になっている。そのため、インダクタの外部に磁束が漏洩してしまい、これが外部の回路と干渉してノイズを発生させたり、外部の導体において渦電流損を引き起こしたりして、高いQ値やL値を得ることができない。
【0008】
後述の特許文献2には、プリプレグ数枚分に連続して形成した孔に磁性セラミックコアを埋め込み、その周囲のプリプレグ数枚分に形成した導体パターンを、ビアホールに形成した接続用導体によって接続し、ヘリカル型のコイルを形成した積層型インダクタが提案されている。この積層型インダクタも開磁路構造となっているため、高いQ値やL値を得ようとすればコイルの巻数を多くする必要があるが、巻数を増やそうとすると積層数が多くなり、小型化の要求に反することになる。また、製造プロセスが増えて煩雑となり、製造コストが高くなるという問題もある。
【0009】
後述の特許文献3には、磁性材料粉末と樹脂とを混合した複合材料層に2列のスルーホールを形成し、スルーホールに埋め込まれた導体と、複合材料層の上面および下面において、異なる列のスルーホール間を連絡するように形成された各導体パターンによってヘリカル型のコイルを形成したインダクタンス素子が提案されている。このインダクタンス素子では特許文献2のインダクタに比べて積層数を増加させやすいという利点があるものの、複合材料層が磁性層であるとともに、コイルを形成する基材を兼ねているため、磁性材料粉末を焼結して性能を向上させることができないという問題点がある。また、示されているインダクタンス素子は開磁路構造であるため、外部回路との干渉が起こる、あるいは高いQ値やL値が得られないなど、上述した問題点がある。
【0010】
また、平面的な基板の上に櫛折れ型あるいはスパイラル型などの導体パターンを形成することによってコイルを形成する平面型インダクタンス素子もあるが、これも積層型と同様に開磁路構造となっており、インダクタンス素子の外部に磁束が漏洩してしまうため、高いQ値を得ることができないという問題がある。
【0011】
これらに対し、後述の特許文献4には、上層に形成された第1の導電体と、下層に形成された第2の導電体とが、磁性材料が堆積または塗布された中間層に形成された第3の導電体によってトロイダルコイル状に接続されて形成された、閉磁路構造のインダクタンス素子が提案されている。
【0012】
図10は、特許文献4に開示されているインダクタンス素子100の構造を示す平面図(a)と、断面図(b)とである。なお、断面図(b)は、図1(a)に10b−10b線で示した位置における断面図である。
【0013】
インダクタンス素子100では、半導体基板105の上に絶縁膜104、下部配線層103、中間層102および上部配線層101が順次積層されている。そして中間層102には、積層面に対して平行な方向にリング状の磁性路106が形成されている。磁性路106は、トロイダルコイルによって形成される磁束の中心軸の位置に形成されるのが好ましい。
【0014】
上部配線層101には、第1の導電体である複数の導体パターン111〜119が形成されている。このうち、導体パターン111〜118はトロイダルコイル(環状ソレノイド)の一部分を構成し、導体パターン118の一部と導体パターン119は引き出し配線である。下部配線層103には、第2の導電体である複数の導体パターン121〜128が形成されていて、これらはトロイダルコイルの一部分を構成する。中間層102には、第3の導電体である複数のコンタクト部131〜138と141〜148が形成されていて、これらはトロイダルコイルの残りの部分を構成する。これらの導電体によってリング状の磁性路106に巻き付けられたトロイダルコイルが形成される仕組みは、下記の通りである。
【0015】
一方の端部で端子電極に接続する引き出し線である上部配線層101の上の導体パターン119は、他方の端部でコンタクト部131に接続される。コンタクト部131は下部配線層103上の導体パターン121の一方の端部に接続され、導体パターン121は他方の端部でコンタクト部141に接続される。コンタクト部141は上部配線層101上の導体パターン111の一方の端部に接続され、導体パターン111は他方の端部でコンタクト部132に接続される。コンタクト部132は下部配線層103上の導体パターン122の一方の端部に接続される。以下同様にして、結局、下部配線層103上の導体パターン121〜128と上部配線層101上の導体パターン111〜118とが、コンタクト部141〜148と131〜138とを通じて螺旋状に接続され、磁性路106に巻き付けられたトロイダルコイルが多層基板内に形成される。このトロイダルコイルは導体パターン118と119から引き出されて他の電子部品などに接続される。
【0016】
インダクタンス素子100は、下記のようにして作製される。
【0017】
まず、半導体基板105の上に、CVD法(化学気相成長法)などによって酸化シリコンなどからなる絶縁膜104を形成する。次に、絶縁膜104の上に蒸着法やメッキ法などによって導体層を形成し、フォトリソグラフィとエッチングによってパターニングして、導体パターン121〜128を形成する。次に、メサ状に残された導体パターン121〜128の厚さよりも厚く絶縁材料を堆積させ、エッチバックまたはCMP(化学的機械研磨法)などによって導体パターン121〜128より上部の絶縁材料を除去し、下部配線層103を形成する。
【0018】
次に、下部配線層103の上に蒸着法やメッキ法などによって導体層を形成し、フォトリソグラフィとエッチングによってパターニングして、コンタクト部131〜138および141〜148を形成する。次に、メサ状に残されたコンタクト部131〜138および141〜148の厚さよりも厚く絶縁材料を堆積させ、エッチバックまたはCMPなどによってコンタクト部より上部の絶縁材料を除去し、中間層102を形成する。
【0019】
また、コンタクト部を下記のように形成してもよい。すなわち、メサ状に残された導体パターン111〜119の上に中間層102を形成し得る厚さの絶縁材料を堆積させ、フォトリソグラフィとエッチングによって絶縁材料を選択的に除去して、コンタクト部131〜138と141〜148を形成する領域に凹部を形成する。その後、この凹部に導電材を堆積させ、コンタクト部131〜138と141〜148の厚さよりも厚く堆積された導電材をエッチバックまたはCMPなどによって除去する。
【0020】
次に、フォトリソグラフィとエッチングによって磁性路106を形成する領域の中間層102に凹部を形成した後、この凹部および中間層102の上にフェライトなどから成る磁性材料を堆積させた後、磁性路106の膜厚よりも厚く堆積された磁性材料をエッチバックまたはCMPなどによって除去し、磁性路106を形成する。
【0021】
また、磁性路106は、中間層102の表面または裏面もしくは両面に磁性材料を塗布することによって形成することもできる。具体的には、下部配線層103の積層が終わった時点で、その下部配線層103の表面上の磁性路106を形成する領域に磁性材料を塗布する。また、中間層102の積層が終わった時点で、その中間層102の表面上の磁性路106を形成する領域に磁性材料を塗布する。
【0022】
なお、上記のコンタクト部131〜138および141〜148を形成する工程と、磁性路106を形成する工程とは、順序を逆にしてもよい。
【0023】
次に、中間層102の上に蒸着法やメッキ法などによって導電部材層を形成し、フォトリソグラフィとエッチングによってパターニングして、導体パターン111〜119を形成する。次に、メサ状に残された導体パターン111〜119の厚さよりも厚く絶縁材料を堆積し、エッチバックまたはCMPなどによって導体パターン111〜119より上部の絶縁材料を除去し、上部配線層101を形成する。
【0024】
このようにして形成されるインダクタンス素子100によれば、閉磁路が形成されるためインダクタの外部に磁束が漏洩することが少なく、Q値やL値の高いインダクタンス素子を得ることができる。
【0025】
しかしながら、インダクタンス素子100では、下部配線層103、中間層102および上部配線層101が積層して形成され、これら各配線層101〜103に、それぞれ、導体パターン121〜128、コンタクト部131〜138および141〜148と磁性路106、そして導体パターン111〜119が作り込まれている。
【0026】
このため、上述したように、インダクタンス素子100の作製工程では、配線層101〜103を形成する工程、コイルを構成する導体パターンとコンタクト部とを形成する工程、および磁性路106を形成する工程が分かち難く混在して行われる。このため、インダクタンス素子100を構成する各部材を形成する材料や方法が大きく制限される。例えば、磁性路106として予め焼結して成形した磁性体を用いたり、配線層101〜103として予め成形された絶縁基板を用いたりすることができない。この結果、各構成部材を一連の工程の中で1つずつ素材から形成するので、作製工程が煩雑になり、生産性が低くなる。
【0027】

また、各構成部材が、この構成部材に対応する素材層を下地層の上に積み重ね、この素材層をパターニングするという方法で形成されるため、層と層との接合強度を確保できるかという問題が生じる。特に、導体パターン121〜128と上記コンタクト部との接合部、あるいは上記コンタクト部と導体パターン111〜119との接合部は、接合面積が小さいので、温度変化や形成時の歪みなどによって配線層101〜103が変形し、接合部にずれ応力が加わると、接合部が剥離する可能性がある。各導体パターンとコンタクト部とは単に面と面で接触しているにすぎないので、接合部の剥離は直ちにトロイダルコイルの断線につながる。このように、インダクタンス素子100には、接合部の剥離によって製造歩留まりや長期的信頼性が低下するという懸念が存在する。
【0028】
【特許文献1】特開昭55−91103号公報(第1及び2頁、図1−13)
【特許文献2】特許第3436525号公報(第4及び5頁、図3−5)
【特許文献3】特開2003−197426号公報(第3及び4頁、図1及び2)
【特許文献4】特開2002−289436号公報(第5、6、8及び9頁、図1−5及び10−12)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、小型で、Q値が高く、製造歩留まり良く低コストで製造でき、長期的信頼性も高いインダクタンス素子及びその製造方法、並びにこのインダクタンス素子を内蔵する配線基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0030】
即ち、本発明は、閉磁路を形成する環状の磁性体の少なくとも一部が基材によって包囲され、前記磁性体を取り巻くコイル導体が前記基材に形成された貫通孔を介して設けられているインダクタンス素子であって、
前記基材の一方の面と、それとは反対側の他方の面とにそれぞれ、前記コイル導体の 一部をなす各導体パターンが形成され、
環状の前記磁性体の内側および外側の領域において、前記各導体パターンと前記基材 とを貫通して形成された前記貫通孔に、前記各導体パターン間を接続し、前記コイル導 体の他の一部をなす接続用導体が形成されている、
インダクタンス素子に係わり、また、このインダクタンス素子の製造方法であって、第1の基材に第1の導体層を形成する工程と、第2の基材に前記磁性体を配する工程と、第3の基材に第2の導体層を形成する工程と、前記第1の基材と前記第2の基材と前記第3の基材とを一体化させる工程と、この一体化した基材において前記第1の導体層と前記第2の導体層を貫通する前記貫通孔を形成する工程と、前記貫通孔に導電材料を配して前記接続用導体を形成する工程とを有する、インダクタンス素子の製造方法に係わるものである。
【0031】
また、前記インダクタンス素子が絶縁基板に内蔵されている、配線基板に係わるものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明のインダクタンス素子によれば、
前記基材の一方の面と、それとは反対側の他方の面とにそれぞれ、前記コイル導体の 一部をなす各導体パターンが形成され、
環状の前記磁性体の内側および外側の領域において、前記各導体パターンと前記基材 とを貫通して形成された前記貫通孔に、前記各導体パターン間を接続し、前記コイル導 体の他の一部をなす接続用導体が形成されている
ので、前記接続用導体は前記各導体パターンを貫通し、側面で前記各導体パターンとの接合面を形成している。このため、接合面の面積が大きくなり、接合面での接合強度が強くなるとともに、前記基材の面方向におけるずれ応力は、前記接合面に直交する方向に作用し、接合面を剥離させる方向に作用しないので、前記ずれ応力が加わっても前記接合面の剥離が起こりにくくなる。また、仮に前記接合面の剥離が起こったとしても、前記接続用導体が前記各導体パターンに形成された貫通孔から抜け出さない限り、前記接続用導体と前記各導体パターンとの電気的接触は維持され、前記コイル導体が導通不能になる可能性は低い。このため、前記インダクタンス素子は、特許文献4に開示されているインダクタンス素子に比べ、製造歩留まりと長期的信頼性とが向上する。
【0033】
上記の他には、前記インダクタンス素子は、閉磁路を形成する環状の磁性体の少なくとも一部が基材によって包囲され、前記磁性体を取り巻くコイル導体が前記基材に形成された貫通孔を介して設けられているインダクタンス素子であればよいので、特許文献4に開示されているインダクタンス素子に比べ、インダクタンス素子の各部材を形成する材料や方法の自由度が大きい。例えば、前記磁性体として予め焼結して成形した磁性体を用いたり、前記基材として予め成形された絶縁基板を用いたりすることができる。この結果、最少の工程で前記インダクタンス素子を形成できるので、生産性が向上する。また、巻き線工程が不要であるので、巻き線型インダクタンス素子に比べ、小型化と低コスト化が容易である。また、前記閉磁路を形成する環状の磁性体を用いるので、インダクタの外部に磁束が漏洩することが少なく、Q値やL値の高いインダクタンス素子を得ることができる。
【0034】
本発明のインダクタンス素子の製造方法によれば、第1の基材に第1の導体層を形成する工程と、第2の基材に前記磁性体を配する工程と、第3の基材に第2の導体層を形成する工程と、前記第1の基材と前記第2の基材と前記第3の基材とを一体化させる工程と、この一体化した基材において前記第1の導体層と前記第2の導体層との少なくとも一方を貫通し他方の内部に達する前記貫通孔を形成する工程と、前記貫通孔に導電材料を配して前記接続用導体を形成する工程とを有する。この製造方法において、前記第1の導体層が形成された前記第1の基材と、前記磁性体が配された前記第2の基材と、前記第2の導体層が形成された前記第3の基材とを一体化した前記基材において、前記貫通孔を形成する点がとりわけ重要である。この結果、簡易な工程で、生産性よく、前記各導体パターンを貫通する前記接続用導体を有する前記インダクタンス素子を製造することができる。
【0035】
また、本発明の配線基板によれば、前記インダクタンス素子が絶縁基板に内蔵されているので、より実装に適した形態で前記インダクタンス素子を提供することができ、前記絶縁基板上に他の電子部品を装着することで、高周波アナログ回路などを容易に形成することができる。また、前記配線基板は、配線基板内層に前記インダクタンス素子が埋設されていることから、前記配線基板の表面と裏面に他の電子部品を配置でき、インダクタンス素子を使用する電子機器の小型薄型化と低コスト化に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明のインダクタンス素子及びその製造方法において、前記磁性体は特に限定されるものではなく、何でも用いることができるが、予め焼結によって成型された磁性体が性能およびコストの面で好ましい。前記磁性体の高周波特性などの磁気特性は、適当な温度で焼結することによって向上する。その温度は1000℃近く、またはそれ以上にもなるので、他の材料の耐熱温度をこえてしまう。従って、フェライトなどからなる前記磁性体は予め単独で焼結しておくのがよい。
【0037】
磁性体の性能を左右する透磁率は、磁性体を形成する磁性体粒子が高密度になるほど高くなる。このため、フェライトなどの酸化物磁性体において、高透磁率磁性体を得るには、磁性体の粉体を成型金型に充填し高温をかけ密度を高めて焼結するのが一般的である。特許文献4における磁性体コアは、フェライトなどの磁性体を基板上に堆積または塗布により形成すると記述されていることから、成型金型により高温下で成型される焼結フェライトと比較して低密度の磁性体となり、透磁率も低いものになる。
【0038】
また、前記磁性体の材料も特に限定されるものではなく、何でも用いることができるが、前記磁性体がフェライトからなるのがよい。磁性体には、硬磁性体と軟磁性体とがある。フェライトなどの軟磁性体は、外部磁界を取り去ると磁化を失って元の状態にもどるため、電磁石やトランスのコアなどに利用される。軟磁性体には、ケイ素鋼板やパーマロイのような合金磁性材料と、フェライトのような酸化物磁性体とがある。合金磁性材料は、DC透磁率と飽和磁束密度が大きく、電気抵抗が低いことが特徴であり、低周波領域では広く使われているが、使用周波数が高くなると、電気抵抗が小さいために渦電流損失が増大し、エネルギー損失と発熱が大きくなる。一方、フェライトなどの酸化物磁性体は、電気抵抗が高いため、使用周波数が高くなっても渦電流損失が抑制される。このため、フェライトなどの酸化物磁性体は、使用周波数が高い電子回路に用いられるコイルの磁性体として向いている。
【0039】
フェライトは、一般式MO・Fe23で表され、スピネル型格子をつくるイオン結晶である。高周波磁心材料としては、2価の金属イオンMとしてマンガンMn、ニッケルNi、銅Cuおよび亜鉛Znなどの金属イオンを2種類以上適当な割合で含むものが適している。小型インダクタンス素子に供されるフェライト磁性体としては、ニッケル−銅−亜鉛(Ni−Cu−Zn)系フェライト、ニッケル−亜鉛(Ni−Zn)系フェライト、又はマンガン−亜鉛(Mn−Zn)系フェライトであるのがよい。ニッケル−銅−亜鉛系フェライトは焼結温度が低いことが好ましく、マンガン−亜鉛系フェライトは磁束密度などの磁気特性が優れている。
【0040】
なお、上記のフェライト磁性体の焼成温度は、ニッケル−銅−亜鉛系フェライトが850〜900℃、ニッケル−亜鉛系フェライトが1200〜1350℃、そして、マンガン−亜鉛系フェライトが1300〜1400℃である。
【0041】
また、前記基材が絶縁材料からなるのがよい。この際、前記基材が積層された絶縁基板であって、前記磁性体がその中間層に配されているのがよい。例えば、前記絶縁基板としてプリプレグなどを利用すると、前記磁性体がその中間層に配された絶縁基板積層体を簡易に形成することができる。
【0042】
また、前記磁性体が平板状であって、その平面形状が円形、楕円形、長円形、又は多角形であるのがよい。前記磁性体の形状は閉磁路を形成できるものであれば特に制限されるものではないが、扱いやすく、良好な閉磁路を形成できるものとして、平板状であって、その平面形状が円形であるのが最も好ましい。なお、前記磁性体の環は必ずしも完全に閉じている必要はなく、例えば、磁性体の磁気飽和を回避するためのギャップが設けられたものでもよい。
【0043】
磁性体には磁性体固有の磁気飽和特性(限界磁束密度)があり、コアの周囲に巻き回した巻き線に流れる電流が大きくなりすぎると、発生する磁界も大きくなり、磁性体コアが磁気飽和状態となり電流の増大に応じた磁束密度の増大ができなくなり、コイル、トランスとしての機能が失われる。上記のギャップはこれを避けるためのもので、磁性体コアの一部にギャップを設け、このギャップを所定の距離にすることにより、磁性体コアの磁気飽和特性を任意に設定でき、電子機器回路が要求する特性のコイルやトランスを容易に提供することができる。
【0044】
また、前記第1の導体層及び前記第2の導体層をそれぞれフォトリソグラフィとエッチングによって加工して前記各導体パターンを形成するのがよい。
【0045】
本発明の配線基板において、前記絶縁基板がプリプレグからなるのがよい。前記絶縁基材は特に限定されるものではないが、例えば、配線基板を形成するのに用いられるプリプレグであるのが望ましい。前記絶縁基材がプリプレグであれば、これらを加熱下でプレスすることによって強固に融着硬化させ、容易に一体化させることができる。この例のように、前記インダクタンス素子の作製に半導体製造技術やプリント基板製造技術を応用することにより、前記インダクタンス素子を小型薄型化し、低コストで製造することが可能になる。
【0046】
また、前記絶縁基板上で前記インダクタンス素子の端子が他の電子部品と電気的に接続されているのがよい。このようにすることで、フィルタや増幅器やVCOなどの高周波アナログ回路などを容易に効率よくコンパクトに形成することができる。
【0047】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に具体的かつ詳細に説明する。
【0048】
実施の形態1
実施の形態1では、図1〜4を用いて本発明に基づくインダクタンス素子及びその製造方法について説明する。
【0049】
図1は、実施の形態1に基づくインダクタンス素子10の構造を示す平面図(a)と断面図(b)である。なお、断面図(b)は、図1(a)に1b−X−1bの折れ線で示した位置における断面図である。
【0050】
インダクタンス素子10では、前記第1の基材である絶縁基材1、前記第2の基材であり、前記中間層でもある絶縁基材2、および前記第3の基材である絶縁基材3が熱圧着によって一体化され、前記基材である絶縁基材集合体を形成している。絶縁基材2は、前記磁性体であるリング状磁性体4の形状に対応して、一部が円板形に欠徐され、リング状磁性体4はこの領域に配置されている。リング状磁性体4の内側の領域には絶縁基材5が配置されている。絶縁基材5は、前記第2の基材の一部であり、絶縁基材1および絶縁基材3と熱圧着され、絶縁基材集合体の一部をなしている。
【0051】
絶縁基材1〜3および絶縁基材5の材料は特に限定されるものではないが、例えば、配線基板を形成するのに用いられるプリプレグであるのが望ましい。絶縁基材1〜3および絶縁基材5がプリプレグであれば、これらを加熱下でプレスすることによって強固に融着硬化させ、容易に一体化させることができる。この例のように、インダクタンス素子10の作製に半導体製造技術やプリント基板製造技術を応用することにより、インダクタンス素子10を小型薄型化し、低コストで製造することが可能になる。
【0052】
また、実施の形態3で後述するように、プリプレグからなる絶縁基材集合体を配線基板として用い、この配線基板上でインダクタンス素子10を他の電子部品と接続することにより、フィルタや増幅器やVCOなどの高周波アナログ回路を効率よくコンパクトに形成することができる。
【0053】
また、リング状磁性体4は、例えば、ニッケル−銅−亜鉛系フェライト、ニッケル−亜鉛系フェライト、又はマンガン−亜鉛系フェライトなどのフェライトからなるのがよい。これらのフェライトは、いずれも優れた高周波特性をもつ磁心材料であるが、ニッケル−銅−亜鉛系フェライトは焼結温度が低いことが好ましく、マンガン−亜鉛系フェライトは磁束密度などの磁気特性がとくに優れている。
【0054】
絶縁基材1の表面には、前記コイル導体であるトロイダルコイル(環状ソレノイド)の一部分を構成する複数の導体パターン8が形成されている。また、絶縁基材3の表面には、トロイダルコイルの他の一部分を構成する複数の導体パターン9と、電極13および14と、電極13および14への引き出し配線11および12とが形成されている。さらに、リング状磁性体4の外側および内側の領域において、導体パターン8と絶縁基材集合体と導体パターン9とを貫通する前記貫通孔が2列に形成され、これらの貫通孔に導電材料が配置され、接続用導体6および7が形成されている。接続用導体6および7は、導体パターン8と導体パターン9との間を接続するとともに、トロイダルコイルの残りの部分を構成する。
【0055】
導体パターン8および9と接続用導体6および7とによって、リング状磁性体4に巻き付けられたトロイダルコイルが形成される仕組みは、図10を用いてインダクタンス素子100のトロイダルコイルについて説明したのと同様であり、導体パターン9が導体パターン111〜118に相当し、導体パターン8が導体パターン121〜128に相当し、接続用導体6および7が、それぞれ、コンタクト部131〜138および141〜148に相当する。
【0056】
すなわち、図1(b)を参照して説明すると、一方の端部で電極13に接続される絶縁基材3上の引き出し配線11は他方の端部でリング状磁性体4の外側の列の接続用導体6に接続される。この接続用導体6は絶縁基材1上の導体パターン8の一方の端部に接続され、この導体パターン8は他方の端部でリング状磁性体4の内側の列の接続用導体7に接続される。この接続用導体7は絶縁基材3上の導体パターン9の一方の端部に接続され、この導体パターン9は他方の端部でリング状磁性体4の外側の列の接続用導体6に接続される(ただし、図1(b)の断面の位置からはずれるので、図1(b)には導体パターン9の一部のみが図示され、他方の端部は図示されていない。)。
【0057】
以下同様にして、導体パターン8および9と接続用導体6および7とによって、リング状磁性体4に巻き付けられたトロイダルコイルが絶縁基材集合体の内部に形成される。このトロイダルコイルは引き出し配線11および12によって電極13および14に接続される。
【0058】
図1(b)に示すように、リング状磁性体4は、トロイダルコイルによって形成される磁束の中心軸の位置に配置されるのが好ましい。このようにすると、トロイダルコイルによって生成される磁束とリング状磁性体4との結合を強め、コイル外部への磁束の漏れを最少にすることができる。これにより、インダクタのL値を高めることができるとともに、漏れ磁束による渦電流損の発生を抑えてQ値を高めることができる。
【0059】
図1には、最も好ましい例として、環状の前記磁性体が平板状であって、その平面形状が円形である例を示したが、前記磁性体の形状は閉磁路を形成できるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、楕円形、長円形、または多角形であってよい。また、前記磁性体の環は必ずしも完全に閉じている必要はなく、例えば、磁性体の磁気飽和を回避するためのギャップが設けられたものでもよい。
【0060】
図2〜図4は、インダクタンス素子10の作製工程のフローを示す断面図である。なお、これらの断面図は、図1(b)と同様、図1(a)に1b−X−1bの折れ線で示した位置における断面図である。
【0061】
まず、図2(a)に示すように、絶縁基材1の一方の主面に前記第1の導体層である導体層51を形成する。
【0062】
次に、図2(b)に示すように、絶縁基材2にリング状磁性体4の収容部52を形成し、絶縁基材2を絶縁基材1に重ねる。
【0063】
次に、図2(c)に示すように、収容部52にリング状磁性体4を配置し、続いて、リング状磁性体4の内側の領域に絶縁基材5を配置する。或いは、リング状磁性体4を配置するのに先立って、所定位置にあらかじめ絶縁基材5を配置しておいてもかまわない。
【0064】
この際、リング状磁性体4の材料として、例えば、ニッケル−銅−亜鉛系フェライト、ニッケル−亜鉛系フェライト、又はマンガン−亜鉛系フェライトなどのフェライトを用いる。これらのフェライトは、いずれも優れた高周波特性をもつ磁心材料であり、ニッケル−銅−亜鉛系フェライトは焼結温度が低いことが好ましく、マンガン−亜鉛系フェライトは磁束密度などの磁気特性がとくに優れているのがよい。
【0065】
また、別途焼結によりリング状に成形しておいた磁性体を用いる。既述したように、磁性体の高周波特性などの磁気特性は、適当な温度で焼結することによって向上するが、その温度は1000℃近く、またはそれ以上にもなり、他の材料の耐熱温度をこえてしまう。従って、フェライトなどからなる磁性体4は予め別途単独で焼結することによって、他の材料にダメージを与えることなく、磁性体4にとって最良の条件下で磁性体4を焼結することができる。これが可能である点が本発明のインダクタンス素子の大きな特徴であり、特許文献4に開示されているインダクタンス素子との大きな相違点の1つである。
【0066】
次に、図3(d)に示すように、前記第2の導体層である導体層53が形成された絶縁基材3を、導体層53を外側にして絶縁基材2に重ねた後、絶縁基材1〜3および絶縁基材5を一体化させ、前記基材である絶縁基材集合体を形成する。この際、絶縁基材1〜3および絶縁基材5がプリプレグであれば、加熱下でプレス加工することによって強固に融着硬化させ、容易に一体化させることができて好都合である。条件としては、プリプレグを200℃前後、例えば、160〜175℃に加熱し、プレス機を用いて15kg/cm2に加圧する。
【0067】
次に、図3(e)に示すように、リング状磁性体4の外側および内側の領域において、導体層51と、熱圧着された絶縁基材集合体と、導体層53とを貫通してドリルなどで2列の貫通孔54を形成する。
【0068】
次に、図3(f)に示すように、スルーホールめっき法などによって貫通孔54に導電材料を配置し、接続用導体6および7を形成する。接続用導体6および7は、導体層51と導体層53との間を電気的に接続するとともに、トロイダルコイルの1部分をなす。貫通孔54に導電材料を配置する方法は特に限定されるものではなく、例えば溶融したはんだを充填してもよい。
【0069】
貫通孔に形成された接続用導体6および7は、導体パターン8および9を貫き、側面で導体パターン8および9との接合面を形成している。このため、接合面が大きくなり、接合面での接合強度が強くなる。また、貫通孔を完全に満たした後も導電材料の堆積を続けると、貫通孔に納まらない導電材料が導体パターン8および9の面上に広がり、この過剰分によって導体パターン8および9を挟持する断面がエの字形の接続用導体6および7が形成され、絶縁基材1および絶縁基材3と接続用導体6および7との接合はさらに強固になる。
【0070】
次に、図4(g)に示すように、フォトリソグラフィとエッチングによって導体層51および導体層53をパターニングして、絶縁基材1の表面に導体パターン8を形成し、絶縁基材3の表面に導体パターン9と、引き出し配線11および12と、電極13および14を形成する。これによって、導体パターン8および導体パターン9と、接続用導体6および7とからなるトロイダルコイルが形成される。
【0071】
次に、図4(h)に示すように、絶縁基材1の表面および絶縁基材3の表面に、それぞれ、ソルダーレジスト15および16を形成し、インダクタンス素子10の作製を終了する。ソルダーレジスト15および16は、導体パターン8および導体パターン9と、引き出し配線11および12とを保護しながら、インダクタンス素子10を部品として電子回路の配線基板に実装できるように、外部接続電極(ランド)13および14のみを露出させ、それ以外の絶縁基材1および絶縁基材3の表面を被覆するようにパターニングする。
【0072】
以上に説明したように、本実施の形態に基づくインダクタンス素子10によれば、作製に半導体製造技術やプリント基板製造技術を応用することによって、作製に巻き線工程が不要になり、巻き線型インダクタンス素子に比べ、小型薄型化と低コスト化が容易である。また、閉磁路を形成する環状の磁性体を用いるので、インダクタの外部に磁束が漏洩することが少なく、Q値やL値の高いインダクタンス素子を得ることができる。
【0073】
そして、貫通孔54に形成された接続用導体6および7は、導体パターン8および9を貫き、側面で導体パターン8および9との接合面を形成している。このため、接合面の面積が大きくなり、接合面での接合強度が強くなる。また、絶縁基材1および絶縁基材3の面方向におけるずれ応力は、接合面に直交する方向に作用し、接合面を剥離させる方向に作用しないので、ずれ応力が作用しても接合面の剥離は起こりにくい。また、仮に接合面の剥離が起こったとしても、接続用導体6および7が導体パターン8および9から抜け落ちない限り、接続用導体6および7と導体パターン8および9との電気的接触は維持され、コイル導体が導通不能になってしまう可能性は低い。このため、インダクタンス素子10は、特許文献4に開示されているインダクタンス素子に比べ、製造歩留まりと長期的信頼性とが向上する。
【0074】
また、インダクタンス素子10は、材料として環状の磁性体が基材によって包囲されている構造のものがあれば、その基材に貫通孔を設けることによって形成することができる。このため、インダクタンス素子10の各部材を形成する材料や方法の自由度が大きく、磁性体として予め焼結して成形した磁性体を用いたり、基材として予め成形されたプリプレグなどの絶縁基板を用いたりすることができる。この結果、最良の条件下で焼結された周波数特性の優れた高透磁率の磁性体を用いて、最少の工程でインダクタンス素子10を生産性よく作製することができる。このため、インダクタンス素子10は、特許文献4に開示されているインダクタンス素子に比べ、より性能の優れたものを、より安価に得ることができる。
【0075】
実施の形態2
図5は、実施の形態2に基づくインダクタンス素子20の構造を示す平面図(a)と、断面図(b)と、ソルダーレジスト15および16を形成する前の平面図(c)とである。なお、断面図(b)は、図5(a)に5b−Y−Z−5bの折れ線で示した位置における断面図である。
【0076】
図5に示すように、このインダクタンス素子20は、前記コイル導体であるトロイダルコイルが入力側コイル21と出力側コイル24とに分割され、トランス(変圧器)として構成されている。入力側電極23および入力側引き出し配線22を通じて入力側コイル21に入力された入力信号は、入力側コイル21と出力側コイル24との巻き数比に応じて昇圧または降圧され、出力側コイル24から出力側引き出し配線25および出力側電極26を通じて出力信号として出力される。なお、トランス20の出力側コイル24には中間端子電極27が設けられており、出力信号を分割した信号も取り出せるように構成されている。
【0077】
その他の点では、インダクタンス素子20はインダクタンス素子10と変わるところはないので、インダクタンス素子10について述べた作用効果がインダクタンス素子20についても得られることは言うまでもない。
【0078】
すなわち、本実施の形態に基づくインダクタンス素子20によれば、作製に半導体製造技術やプリント基板製造技術を応用することによって、作製に巻き線工程が不要になり、巻き線型インダクタンス素子に比べ、小型薄型化と低コスト化が容易である。また、閉磁路を形成する環状の磁性体を用いるので、インダクタの外部に磁束が漏洩することが少なく、Q値やL値の高いインダクタンス素子を得ることができる。
【0079】
そして、貫通孔54に形成された接続用導体6および7は、導体パターン8および9を貫き、側面で導体パターン8および9との接合面を形成している。このため、接合面の面積が大きくなり、接合面での接合強度が強くなる。また、絶縁基材1および絶縁基材3の面方向におけるずれ応力は、接合面に直交する方向に作用し、接合面を剥離させる方向に作用しないので、ずれ応力が作用しても接合面の剥離は起こりにくい。また、仮に接合面の剥離が起こったとしても、接続用導体6および7が導体パターン8および9から抜け落ちない限り、接続用導体6および7と導体パターン8および9との電気的接触は維持され、コイル導体が導通不能になってしまう可能性は低い。このため、インダクタンス素子20は、特許文献4に開示されているインダクタンス素子に比べ、製造歩留まりと長期的信頼性とが向上する。
【0080】
また、インダクタンス素子20は、材料として環状の磁性体が基材によって包囲されている構造のものがあれば、その基材に貫通孔を設けることによって形成することができる。このため、インダクタンス素子20の各部材を形成する材料や方法の自由度が大きく、磁性体として予め焼結して成形した磁性体を用いたり、基材として予め成形されたプリプレグなどの絶縁基板を用いたりすることができる。この結果、最良の条件下で焼結された周波数特性の優れた高透磁率の磁性体を用いて、最少の工程でインダクタンス素子20を生産性よく作製することができる。このため、インダクタンス素子20は、特許文献4に開示されているインダクタンス素子に比べ、より性能の優れたものを、より安価に得ることができる。
【0081】
実施の形態3
実施の形態3では、本発明の請求項8〜10に対応した配線基板及びその製造方法について説明する。この配線基板では、実施の形態2で説明したインダクタンス素子(トランス)20が配線基板に内蔵され、前記電子部品であるコンデンサが配線基板上に搭載され、これらが配線基板上で互いに接続され、入出力回路の一部を構成するフィルタ回路が形成されている。インダクタンス素子(トランス)20は、実施の形態2と変わりなく、実施の形態1で述べたインダクタンス素子10とも前記コイル導体の構成以外は同じであるので、重複するところは簡略に述べ、実装形態に重点をおいて説明する。
【0082】
図6は、実施の形態3に基づく配線基板30の構造を示す平面図(a)と断面図(b)である。なお、断面図(b)は、図6(a)に6b−Y−Z−6bの折れ線で示した位置における断面図である。
【0083】
図6に示すように、配線基板30では、配線基板30に内蔵されたトランス20と、配線基板30の上に搭載されたコンデンサとが、配線基板30の上で互いに接続され、入出力回路の一部を構成するフィルタ回路が形成されている。
【0084】
配線基板30では、前記第1の基材である絶縁基材1、前記第2の基材であり、前記中間層でもある絶縁基材2、および前記第3の基材である絶縁基材3が熱圧着によって一体化され、前記基材である絶縁基材集合体を形成している。絶縁基材2は、前記磁性体であるリング状磁性体4の形状に対応して、一部が円板形に欠徐され、リング状磁性体4はこの領域に配置されている。リング状磁性体4の内側の領域には絶縁基材5が配置されている。絶縁基材5は、前記第2の基材の一部であり、絶縁基材1および絶縁基材3と熱圧着され、絶縁基材集合体の一部をなしている。
【0085】
絶縁基材1〜3および絶縁基材5の材料は配線基板として用いられるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、プリプレグであるのが望ましい。絶縁基材1〜3および絶縁基材5がプリプレグであれば、これらを加熱下でプレスすることによって強固に融着硬化させ、容易に一体化させることができる。この例のように、従来から蓄積されてきたプリント基板製造技術を配線基板30の作製に応用することにより、配線基板30を小型薄型化し、簡易に低コストで製造することができる。
【0086】
トランスを構成するリング状磁性体4は、例えば、ニッケル−銅−亜鉛系フェライト、ニッケル−亜鉛系フェライト、又はマンガン−亜鉛系フェライトなどのフェライトからなるのがよい。これらのフェライトは、いずれも優れた高周波特性をもつ磁心材料であるが、ニッケル−銅−亜鉛系フェライトは焼結温度が低いことが好ましく、マンガン−亜鉛系フェライトは磁束密度などの磁気特性がとくに優れている。リング状磁性体4は、最良の磁気特性が発揮されるように、最適条件下で別途焼結されたものを用いる。
【0087】
そして、絶縁基材1の表面に形成された導体パターン8、絶縁基材3の表面に形成された導体パターン9、およびリング状磁性体4の外側および内側の領域において、導体パターン8と絶縁基材集合体と導体パターン9とを貫通する貫通孔に形成された接続用導体6および7によって、リング状磁性体4に巻き付くようにトロイダルコイルが形成されている。
【0088】
このトロイダルコイルは、入力側コイル21と出力側コイル24とに分割され、トランス20を構成する。すなわち、入力側コイル21に入力された入力信号は、入力側コイル21と出力側コイル24との巻き数比に応じて昇圧または降圧され、出力信号として出力側コイル24から出力される。なお、トランス20の出力側コイル24には中間端子電極27が設けられており、出力信号を分割した信号も取り出せるように構成されている。
【0089】
トランス20の入力側引き出し配線22および出力側引き出し配線25は、絶縁基材1および絶縁基材3の上にそれぞれ積層して形成された配線層41および42に設けられた入力側引き出し配線31、入力側配線32、出力側引き出し配線33、出力側配線34、およびランド35〜40を介してコンデンサ45〜50に接続され、入出力回路が形成される。この入出力回路は、図示省略した回路に接続され、増幅器やVCOなどの高周波アナログ回路を形成する。
【0090】
図7〜図9は、配線基板30の作製工程のフローを示す断面図である。なお、これらの断面図は、図6(b)と同様、図6(a)に6b−Y−Z−6bの折れ線で示した位置における断面図である。
【0091】
まず、図7(a)に示すように、絶縁基材1の一方の主面に前記第1の導体層である導体層51を形成する。
【0092】
次に、図7(b)に示すように、絶縁基材2にリング状磁性体4の収容部52を形成し、絶縁基材2を絶縁基材1に重ねる。
【0093】
次に、図7(c)に示すように、収容部52にリング状磁性体4を配置し、続いて、リング状磁性体4の内側の領域に絶縁基材5を配置する。或いは、リング状磁性体4を配置するのに先立って、所定位置にあらかじめ絶縁基材5を配置しておいてもかまわない。
【0094】
この際、リング状磁性体4としては、別途焼結によりリング状に成形しておいた磁性体を用いる。このようにして、他の材料にダメージを与えることなく、最良の条件下で磁性体4を焼結することができ、配線基板30に高性能のトランス20を内蔵させることができる。
【0095】
次に、図8(d)に示すように、前記第2の導体層である導体層53が形成された絶縁基材3を、導体層53を外側にして絶縁基材2に重ねた後、絶縁基材1〜3および絶縁基材5を一体化させ、前記基材である絶縁基材集合体を形成する。この際、絶縁基材1〜3および絶縁基材5がプリプレグであれば、加熱下でプレス加工することによって強固に融着硬化させ、容易に一体化させることができて好都合である。条件としては、プリプレグを200℃前後、例えば、160〜175℃に加熱し、プレス機を用いて15kg/cm2に加圧するのがよい。
【0096】
次に、図8(e)に示すように、リング状磁性体4の外側および内側の領域において、導体層51と、熱圧着された絶縁基材集合体と、導体層53とを貫通して、ドリルなどで2列の貫通孔54を形成する。
【0097】
次に、図8(f)に示すように、スルーホールめっき法などによって貫通孔54に導電材料を配置して、接続用導体6および7を形成する。
【0098】
次に、図9(g)に示すように、フォトリソグラフィとエッチングによって導体層51および導体層53をパターニングして、絶縁基材1の表面に導体パターン8を形成し、絶縁基材3の表面に、導体パターン9と、入力側引き出し配線22および出力側引き出し配線25とを形成する。これによって、導体パターン8および導体パターン9と、接続用導体6および7とからなるトロイダルコイルが形成される。この際、トロイダルコイルが所定の巻き数比の入力用コイルと出力用コイルに分割されるように、導体層51および導体層53をパターニングする。
【0099】
次に、図9(h)に示すように、ビルドアップ工法などにより絶縁基材1および絶縁基材3の上に層間絶縁膜と導体層からなる配線層41および42をそれぞれ積層し、導体層をパターニングして入力側引き出し配線31、入力側配線32、出力側引き出し配線33、出力側配線34、およびコンデンサを固定するためのランド35〜40を所定の位置に形成する。次に、ランド35〜40以外を被覆し保護するソルダーレジスト43および44を形成し、配線基板30の作製を終了する。
【0100】
次に、図9(i)に示すように、はんだなどでコンデンサ45〜50をランド35〜40に固定することにより、配線基板30にコンデンサ45〜50を配置して、入出力回路の形成を終了する。
【0101】
以上に説明したように、本実施の形態に基づく配線基板30によれば、インダクタンス素子20が絶縁基板に内蔵されているので、より実装に適した形態でインダクタンス素子20を提供することができ、絶縁基板上に他の電子部品を装着することで、フィルタや増幅器やVCOなどの高周波アナログ回路などを容易に効率よくコンパクトに作製することができる。
【0102】
とくに、絶縁基材としてプリプレグを用いると、これらを加熱下でプレスすることによって強固に融着硬化させ、容易に一体化させることができる。この例のように、インダクタンス素子20と配線基板30との作製に半導体製造技術やプリント基板製造技術を応用することにより、インダクタンス素子20と配線基板30とを同一工程で作製することができ、インダクタンス素子20を備えた高周波アナログ回路などを、小型薄型化し、低コストで得ることができる。
【0103】
また、配線基板30は、配線基板内層にインダクタンス素子20が埋設されていることから、配線基板の表裏層に他の電子部品を配置でき、インダクタンス素子を使用する電子機器の小型薄型低コスト化に寄与できる。
【0104】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のインダクタンス素子及びその製造方法は、Q値やL値の高いインダクタを小型薄型で安価に製造することができる。本発明の配線基板は、配線基板内層にインダクタンス素子が埋設されていることから、配線基板の表裏層に他の電子部品を配置でき、インダクタンス素子を使用する電子機器の小型薄型低コスト化に寄与できる。このようにして、携帯電話機や通信機能を備えたゲーム機など、無線通信機能を備えた携帯電子機器などの高周波アナログ回路を備えた電子機器の高性能化や小型高密度化や低価格化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の実施の形態1に基づくインダクタンス素子の構造を示す平面図(a)と、断面図(b)とである。
【図2】同、インダクタンス素子の作製工程のフローを示す断面図である。
【図3】同、インダクタンス素子の作製工程のフローを示す断面図である。
【図4】同、インダクタンス素子の作製工程のフローを示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態2に基づくインダクタンス素子(トランス)の構造を示す平面図(a)と、断面図(b)とである。
【図6】本発明の実施の形態3に基づく配線基板の構造を示す平面図(a)と、断面図(b)とである。
【図7】同、配線基板の作製工程のフローを示す断面図である。
【図8】同、配線基板の作製工程のフローを示す断面図である。
【図9】同、配線基板の作製工程のフローを示す断面図である。
【図10】特許文献4に開示されているインダクタンス素子の構造を示す平面図(a)と、断面図(b)とである。
【符号の説明】
【0107】
1、2、3、5…絶縁基材、4…リング状磁性体、6、7…接続用導体、
8、9…導体パターン、10…インダクタンス素子、11、12…引き出し配線、
13、14…電極、15、16…ソルダーレジスト、
20…インダクタンス素子(トランス)、21…入力側コイル、
22…入力側引き出し配線、23…入力側電極、24…出力側コイル、
25…出力側引き出し配線、26…出力側電極、27…中間端子電極、
31…入力側引き出し配線、32…入力側配線、33…出力側引き出し配線、
34…出力側配線、35〜40…ランド、41、42…配線層、
43、44…ソルダーレジスト、45〜50…コンデンサ、51、53…導体層、
52リング状磁性体の収容部、54貫通孔、100…インダクタンス素子、
101…上部配線層、102…中間層、103…下部配線層、104…絶縁膜、
105…半導体基板、106…磁性路、
111〜119、121〜128…導体パターン、
131〜138、141〜148…コンタクト部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉磁路を形成する環状の磁性体の少なくとも一部が基材によって包囲され、前記磁性体を取り巻くコイル導体が前記基材に形成された貫通孔を介して設けられているインダクタンス素子であって、
前記基材の一方の面と、それとは反対側の他方の面とにそれぞれ、前記コイル導体の 一部をなす各導体パターンが形成され、
環状の前記磁性体の内側および外側の領域において、前記各導体パターンと前記基材 とを貫通して形成された前記貫通孔に、前記各導体パターン間を接続し、前記コイル導 体の他の一部をなす接続用導体が形成されている、
インダクタンス素子。
【請求項2】
前記磁性体が焼結によって成形された磁性体である、請求項1に記載したインダクタンス素子。
【請求項3】
前記磁性体がフェライトからなる、請求項1又は2に記載したインダクタンス素子。
【請求項4】
前記フェライトが、ニッケル−銅−亜鉛系フェライト、ニッケル−亜鉛系フェライト、又はマンガン−亜鉛系フェライトである、請求項3に記載したインダクタンス素子。
【請求項5】
前記基材が絶縁材料からなる、請求項1に記載したインダクタンス素子。
【請求項6】
前記基材が積層された絶縁基板であって、前記磁性体がその中間層に配されている、請求項5に記載したインダクタンス素子。
【請求項7】
前記磁性体が平板状であって、その平面形状が円形、楕円形、長円形、又は多角形である、請求項1に記載したインダクタンス素子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載したインダクタンス素子が、絶縁基板に内蔵されている、配線基板。
【請求項9】
前記絶縁基板がプリプレグからなる、請求項8に記載した配線基板。
【請求項10】
前記絶縁基板上で前記インダクタンス素子の端子が他の電子部品と電気的に接続されている、請求項8に記載した配線基板。
【請求項11】
請求項1に記載したインダクタンス素子の製造方法であって、第1の基材に第1の導体層を形成する工程と、第2の基材に前記磁性体を配する工程と、第3の基材に第2の導体層を形成する工程と、前記第1の基材と前記第2の基材と前記第3の基材とを一体化させる工程と、この一体化した基材において前記第1の導体層と前記第2の導体層とを貫通する前記貫通孔を形成する工程と、前記貫通孔に導電材料を配して前記接続用導体を形成する工程とを有する、インダクタンス素子の製造方法。
【請求項12】
前記第1の導体層及び前記第2の導体層をそれぞれフォトリソグラフィとエッチングによって加工して前記各導電パターンを形成する、請求項11に記載したインダクタンス素子の製造方法。
【請求項13】
前記磁性体として焼結によって成形された磁性体を用いる、請求項11に記載したインダクタンス素子の製造方法。
【請求項14】
前記磁性体としてフェライトからなる磁性体を用いる、請求項11又は13に記載したインダクタンス素子の製造方法。
【請求項15】
前記フェライトとしてニッケル−銅−亜鉛系フェライト、ニッケル−亜鉛系フェライト、又はマンガン−亜鉛系フェライトを用いる、請求項14に記載したインダクタンス素子の製造方法。
【請求項16】
前記基材として絶縁材料を用いる、請求項11に記載したインダクタンス素子の製造方法。
【請求項17】
前記基材として積層された絶縁基板を用い、前記磁性体をその中間層に配する、請求項11に記載したインダクタンス素子の製造方法。
【請求項18】
前記磁性体として、平板状であって、その平面形状が円形、楕円形、長円形、又は多角形である磁性体を用いる、請求項11に記載したインダクタンス素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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