説明

インダクタ

【課題】 特に、丸線コイルを磁性コア内に抑えることができるとともに、良好な磁気特性を得ることができるインダクタを提供することを目的とする。
【解決手段】 丸線コイル11は、丸線15を磁性コア12の厚み方向に巻回して成る内側巻回部16と、丸線15を内側巻回部16の外側にて磁性コア12の厚み方向に巻回して成り内側巻回部16と連続する外側巻回部17とを備える。外側巻回部17から丸線15が外側巻回部17の外側に引き延ばされて第1の端子部13に接続されている。内側巻回部16から丸線15が、外側巻回部17の外側に引き延ばされて第2の端子部14に接続されるとともに外側巻回部17と厚み方向にて重なる位置(乗り上げ部20)で厚み方向の厚さが薄い薄肉部を有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、丸線を巻回して形成されたコイルを磁性コア内に埋設してなるインダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1や特許文献2に示すインダクタには、丸線を巻回形成して成る丸線コイルが開示されている。丸線コイルはエッジワイズコイルに比べて低コストで形成でき、また容易にターン数を稼ぐことができ高いインダクタンスLを得ることが可能である。
【0003】
また特許文献1や特許文献2に示す丸線コイルは、円筒状に巻回された巻回部が内側から外側に向けて複数巻きで形成されている。図6(a)は、従来における丸線コイルの平面図を示し、図6(b)は、図6(a)の丸線コイルを磁性コア内に埋設したインダクタの縦断面図を示している。図6(a)(b)(c)ともに模式図で示した。
【0004】
例えば、図6(a)に示す丸線3を高さ方向(Z)に巻回して円筒状の内側巻回部1を形成し、さらに前記内側巻回部1から丸線3を外側に引き出し内側巻回部1の外周に巻回して外側巻回部2を形成する。図6(a)に示すように外側巻回部2の端部から丸線3が外側巻回部2の外側に延ばされており、その先端3aが図示しない端子部に接続される。また、図6(a)に示すように内側巻回部1の端部から丸線3が外側巻回部の外側に延ばされており、その先端3bが図示しない端子部に接続される。
【0005】
このとき、図6(b)に示すように、内側巻回部1から引き出された丸線3の先端3bは、外側巻回部2上を乗り越えて外側巻回部2の外側に引き出される。よって図6(b)に示すように、外側巻回部2上にて重なる丸線3の乗り上げ部3cが上方に突き出してしまい、丸線コイル5の全高が高くなった。このため、丸線コイル5が磁性コア6内に収まらず、インダクタの作製が不可能になる不具合が生じた。
【0006】
図6(b)では、ちょうど巻回部1,2の上面と磁性コア6の上面間の厚さ寸法と巻回部1,2の底面と磁性コア6の底面間の厚さ寸法が共にH1となっている。よって図6(c)に示すように、丸線コイル5を下方にずらすことで、丸線コイル5全体を磁性コア6内に収めることができる。
【0007】
しかしながら、図6(c)に示すように、丸線コイル5の底面と磁性コア6の底面間の厚さ寸法H2が図6(b)の厚さ寸法H1よりも狭くなり、よって磁性コア6の底面側からの磁束(点線で示した矢印)の漏れが大きくなり磁気特性が劣化する問題が生じた。さらに、近年ではインダクタ自体の高さをわずか数mm程度に低く抑えることが要求されており、前述の磁気コア6における厚さ寸法H2がますます小さくなっている。従って、丸線コイル5の高さ方向の位置を修正できる余地が極めて小さくなっており、また、丸線コイル5の磁性コア6内の位置による特性の変化が極めてシビアになってきている。
【0008】
特許文献3には、コイル全体の高さを低くすべく導線を圧潰した構成が開示されている。しかしながら特許文献3に示すコイルは、図6(a)に示したように丸線コイル5に内側巻回部1と外側巻回部2とが設けられ、内側巻回部1から引き出された丸線4が外側巻回部2上を飛び越える構成ではない。また特許文献3では、巻回部のほぼ全体を圧潰しているが、このような構成を図6に示す丸線コイル5に取り入れた場合、丸線コイルの横方向(X)及び縦方向(Y)のコイル幅が全体的に広がり、今度は、磁性コア6の平面領域内に丸線コイル5を適切に収めることができるかが問題となる。また巻回部1,2全体を圧潰することで亀裂や断線が生じやすく、歩留まりが低下しやすくなるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−191403号公報
【特許文献2】特開2003−282333号公報
【特許文献3】特開2001−231223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、上記の従来課題を解決するためのものであり、特に、丸線コイルを磁性コア内に抑えることができるとともに、良好な磁気特性を得ることができるインダクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、丸線を巻回して形成された丸線コイルと、前記丸線コイルが内部に埋め込まれた磁性コアと、前記丸線コイルに接続され前記磁性コアの外面に位置する一対の端子部と、を有するインダクタにおいて、
前記丸線コイルは、前記丸線を前記磁性コアの厚み方向に巻回して成る内側巻回部と、前記丸線を前記内側巻回部の外側にて前記磁性コアの厚み方向に巻回して成り前記内側巻回部と連続する外側巻回部とを備え、
前記外側巻回部から前記丸線が前記外側巻回部の外側に引き延ばされて第1の端子部に接続されており、
前記内側巻回部から前記丸線が、前記外側巻回部の外側に引き延ばされて第2の端子部に接続されるとともに前記外側巻回部と前記厚み方向にて重なる位置で厚み方向の厚さが薄い薄肉部を有していることを特徴とするものである。これにより、丸線コイルの全高を従来に比べて低くでき、丸線コイルを磁性コア内に適切に収めることができ、漏れ磁束を少なくでき、良好な磁気特性を得ることができる。
【0012】
本発明では、前記内側巻回部と前記外側巻回部とのターン数が同じであり、前記内側巻回部の各ターンと前記外側巻回部の各ターンとの高さ位置がほぼ同じであることが好ましい。これにより従来に比べて丸線コイルの全高を低くしつつ丸線コイルのターン数を増やすことができ、高いインダクタンスLを得ることができる。
【0013】
また本発明では、前記丸線コイルの前記厚さ方向における中心位置と、前記磁性コアの前記厚さ方向における中心位置とがほぼ一致している構成にできる。これにより、効果的に漏れ磁束を低減でき、高いインダクタンスLとともに、高い直流重畳定格電流を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のインダクタによれば、丸線コイルの全高を従来に比べて低くでき、丸線コイルを磁性コア内に適切に収めることができ、漏れ磁束を少なくでき、良好な磁気特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1(a)は、本実施形態におけるインダクタの斜視図、図1(b)は、本実施形態におけるインダクタの平面図、図1(c)は、本実施形態におけるインダクタの正面図、図1(d)は、本実施形態におけるインダクタの側面図であり、図1(a)〜図1(d)ではいずれも磁性コア内に埋設された丸線コイルを透視して示した。また、図1(a)〜図1(c)ではいずれも磁性コア内に埋設された端子部の一部も透視して示した。なお図1(d)では、端子部を省略した。
【図2】図2(a)は、比較例におけるインダクタの斜視図、図2(b)は、比較例におけるインダクタの平面図、図2(c)は、比較例におけるインダクタの正面図、図2(d)は、比較例におけるインダクタの側面図であり、図2(a)〜図2(d)ではいずれも磁性コア内に埋設された丸線コイルを透視して示した。なお端子部については省略した。
【図3】図3(a)〜図3(d)は、磁性コア内に埋設された丸線コイルの高さ位置が異なる4種類の実験に使用したインダクタの断面を示す。
【図4】図4は、図3(a)〜図3(d)の各インダクタのインダクタンスLを示すグラフである。
【図5】図5は、図3(a)〜図3(d)の各インダクタの直流重畳定格電流を示すグラフである。
【図6】図6(a)は、従来における丸線コイルの平面図を示し、図6(b)は、図6(a)の丸線コイルを磁性コア内に埋設したインダクタの縦断面図を示している。図6(a)(b)(c)ともに模式図で示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1(a)は、本実施形態におけるインダクタの斜視図、図1(b)は、本実施形態におけるインダクタの平面図、図1(c)は、本実施形態におけるインダクタの正面図、図1(d)は、本実施形態におけるインダクタの側面図であり、図1(a)〜図1(d)ではいずれも磁性コア内に埋設された丸線コイルを透視して示した。また、図1(a)〜図1(c)ではいずれも磁性コア内に埋設された端子部の一部も透視して示した。なお図1(d)では、端子部を省略した。
【0017】
図1に示すように、本実施形態におけるインダクタ10は、丸線コイル11と、丸線コイル11が内部に埋め込まれた磁性コア12と、丸線コイル11に接続され磁性コア12の外面に設けられた一対の端子部13,14と、を有して構成される。
【0018】
丸線コイル11は、丸線15を磁性コア12の厚み方向(Z)に円筒状に巻回して成る内側巻回部16と、前記丸線15を内側巻回部16の外周にて磁性コア12の厚み方向(Z)に円筒状に巻回して成る外側巻回部17とを備え、内側巻回部16と外側巻回部17とは丸線15により連続して形成されている。各巻回部16,17は円筒形以外であってもよい。また内側巻回部16の各ターンと外側巻回部17の各ターンとはほぼ同じ高さ位置に形成されている。
【0019】
図1(a)(b)(c)に示すように、外側巻回部17の端部17aから丸線15が外側巻回部17の外側に引き延ばされ、その先端15aが第1の端子部13に電気的に接続されている。端子部13は図1においては、丸線コイル11とは別体で形成されているが、丸線コイル11の両端部を圧延して形成しても良い。
【0020】
また図1(a)(b)(c)に示すように、内側巻回部16の端部16aから丸線15が外側巻回部17の外側に引き延ばされ、その先端15bが第2の端子部14に電気的に接続されている。
【0021】
丸線15は絶縁被覆された導線であり、材質を限定するものでない。例えば銅線の表面にエナメルからなる絶縁被膜が形成されている。丸線15の断面形状は丸であることが好ましいが、多少、丸形状から変形した状態であってもよい。
【0022】
また内側巻回部16及び外側巻回部17のターン数を限定するものでない。ターン数を増やすことでインダクタンスLの増加を図ることが可能になるが、ターン数は、磁性コア12の厚さ、丸線15の直径等によって任意に決定できる。
【0023】
本実施形態では例えば、各巻回部16,17の境界(内側巻回部16から外側巻回部17に切り替わる位置)から各巻回部16,17の端部16a,17aまでの周回数にてターン数を規定することができる。図1に示す構成では、内側巻回部16及び外側巻回部17を構成する3ターンの次の4ターン目で図1(a)(b)に示すように、端部16a,17aから丸線15が外部にとび出しており、4ターン目は大体、半巻きである。よって約3.5ターンである。
【0024】
あるいは、内側巻回部16及び外側巻回部17のターン数を同じ位置条件で決めることができる。例えば本実施形態では、内側巻回部16及び外側巻回部17の各端部16a,17aの位置にてターン数を決めることができる。図1に示す内側巻回部16及び外側巻回部17の各端部16a,17aの位置でのターン数は共に4である。
【0025】
図1(a)(b)(c)に示すように、本実施形態の丸線コイル11は、内側巻回部16の端部16aからの丸線15の延出方向、及び外側巻回部17の端部17aからの丸線15の延出方向が、ほぼ同方向とされている。
【0026】
また本実施形態の丸線コイル11を構成する巻回部16,17の数は、複数巻きであれば特に限定しない。図1での丸線コイル11は二重巻きであるが、三重巻き以上とすることもできる。このとき、図1のように巻回部の数が偶数である場合、内側巻回部16及び外側巻回部17の各端部16a,17aは、共に丸線コイル11の上面側か、あるいは底面側に位置する。一方、巻回部の数が奇数である場合、内側巻回部16及び外側巻回部17の各端部16a,17aは、一方が丸線コイル11の上面側で、他方が丸線コイル11の底面側に位置する。よって巻回部の数を偶数としたほうが、同じ端子部13,14を用いて丸線コイル11との接続位置から端子部13,14を左右対称に引き出すことができ、製造工程が煩雑にならず好適である(図1(c)参照)。
【0027】
図1に示すように、丸線コイル11は磁性コア12内に埋設されている。磁性コア12は、例えば六面体形状、円柱状体あるいは円柱と直方体を組み合わせたような形状、より具体的には直方体形状で形成される。磁性コア12は、例えばFe基非晶質合金(Fe基金属ガラス合金)粉末及び結着材を圧縮成形したものである。本実施形態では、Fe基非晶質合金を例えば、アトマイズ法により粉末状に、あるいは液体急冷法により帯状(リボン状)に製造できる。あるいは、フェライトコア等であってもよく、特に磁性コア12の材質を限定するものでない。
【0028】
図1(c)(d)に示すように、磁性コア12の底面12aには端子部13,14を収納するための切欠部12bが形成されている。
【0029】
また、端子部13,14は金属板で形成され、特に材質を限定するものでない。例えば端子部13,14は銅や銅合金で形成された板材表面に、ニッケル下地を介して金や、金とパラジウムとの合金膜を形成したり、はんだを塗布した構造である。
【0030】
図1(a)(b)(c)に示すように、丸線コイル11と電気的に接続された各端子部13,14は、その一部が磁性コア12内に埋設され、残りの部分が磁性コア12の側面12cから外部に露出している。そして端子部13、4は下方向に折り曲げられ、底面12aの切欠部12bに収納される。
【0031】
図1(a)(b)に示すように、内側巻回部16の端部16aから外側巻回部17の外側に引き出された丸線15は、外側巻回部17上への乗り上げ部20を有している。そして本実施形態では、前記乗り上げ部20は圧延等の手段により潰されて薄肉部を形成しており、丸線15の直径よりも薄い板状となっている。本実施形態では、乗り上げ部20での厚さ寸法を、0.03〜1.5mm程度で形成でき、また丸線15の直径に対して30%程度に薄くできる。
【0032】
一方、図2は、比較例のインダクタを示す。図2では、端子部を省略した。また図2(a)は斜視図、図2(b)は平面図、図2(c)は正面図、図2(d)は側面図を示し、いずれも丸線コイルを透視して示している。図2の磁性コア12は図1の磁性コア12と同じ形状である。図1に示す丸線コイル25は、図1と同じ丸線15を使用して巻回されたものであり、図1と同様に内側巻回部26と外側巻回部27を備え、各巻回部26,27のターン数も図1と同じとされている。
【0033】
図2に示すインダクタにおいて、図1と異なるのは、図2に示す内側巻回部26から引き出された丸線15の外側巻回部27上への乗り上げ部28が潰されておらず、丸線15のまま乗り上げられている点である。
【0034】
このため図2(c)(d)に示すように、乗り上げ部28では丸線15の直径を保ったまま上方へ突き出した状態となり、図2に示すインダクタの寸法設計では、磁性コア12の上面12dから乗り上げ部28の一部(丸線15の一部)が外部に露出(突出)してしまうことがわかった。
【0035】
これに対して図1に示す本実施形態では、乗り上げ部20を潰して、丸線15の直径よりも薄い板状にしている。このため、図2の比較例と異なって、図1(c)(d)に示すように乗り上げ部20が磁性コア12の上面12dから露出(突出)しないように、丸線コイル11全体を磁性コア12内に適切に埋め込むことが可能である。
【0036】
以上のように本実施形態では内側巻回部16から引き出された丸線15を、外側巻回部17と磁性コア12の厚さ方向(Z)にて重なる位置で潰したことで、丸線コイル11の全高を従来に比べて低くできる。ここでいう「全高」とは、丸線コイル11の最大高さ寸法を指す。これにより丸線コイル11を磁性コア12内に適切に収めることができる。よって磁性コア12の上面12dや底面12aからの漏れ磁束を少なくできる。また乗り上げ部20にて丸線15を潰してもコイル断面積は変化しないため、直流抵抗(DCR)の変動はない。以上により、良好な磁気特性を得ることができる。
【0037】
また本実施形態では、内側巻回部16と外側巻回部17の各ターン数が同じとされている。これにより丸線コイル11のターン数を増やすことができ、高いインダクタンスLを得ることができる。また、図2(c)(d)の比較例で示したように、内側巻回部26と外側巻回部27とを同じターン数にし、しかも各巻回部26,27の各ターンを同じ高さ位置に配置して内側巻回部26から外側に丸線15を引き出すと、丸線15が外側巻回部27上にて上方に突出して乗り上げる形態になり、したがって本実施形態に示すように、外側巻回部17と重なる位置での丸線15を潰すことで効果的に、丸線コイル11の全高を低く抑えることができる。なお、内側巻回部16と外側巻回部17とを同じターン数とし、このとき内側巻回部16の各ターンと外側巻回部17の各ターンとを高さ方向にずらして配置すると丸線コイル11の全高が高くなり好ましくない。本実施形態では、内側巻回部16と外側巻回部17とのターン数が同じで内側巻回部16の各ターンと外側巻回部17の各ターンとがほぼ同じ高さ位置になる形態とすることが最適であり、このような形態に対して外側巻回部17と重なる、内側巻回部16から引き出された丸線15を潰すことで、丸線コイル11の全高を適切に低くすることができる。
【0038】
図1(c)(d)に示すように、磁性コア12の厚さ寸法はH3で形成されている。一方、丸線コイル11の厚さ寸法はH4である。ここで巻回部16,17の厚さ寸法H4は、最大厚さ寸法である。すなわち1ターンに満たないターンを除いた部分の最大厚さ寸法を丸線コイル11の厚さ寸法H4と定義する。図1の構成では、約3.5ターンであるため、0.5ターンを除く3ターン分での最大厚さ寸法を丸線コイル11の厚さ寸法H4と定義できる。
【0039】
磁性コア12の厚さ寸法H3は、1〜9mm程度、丸線コイル11の厚さ寸法H4は、0.8〜8mm程度である。
【0040】
そして、本実施形態では、丸線コイル11の厚さ方向への中心位置Cと、磁性コア12の厚さ方向への中心位置Dとがほぼ一致している(図1(c)(d)参照)。
【0041】
換言すれば、本実施形態では、内側巻回部16から外方に延びる丸線15のうち、外側巻回部17と重なる位置での丸線15を本実施形態のように潰すことで効果的に、丸線コイル11の全高を低く抑えることができ、これにより、丸線コイル11の厚さ方向の中心位置Cを、磁性コア12の厚さ方向の中心位置Dと略一致させても、図2(c)(d)に示す比較例(潰し無し)と異なって、丸線コイル11の一部が磁性コア12の表面から露出(突出)する不具合を防止できる。
【0042】
そして本実施形態のように、丸線コイル11の厚さ方向の中心位置Dと、磁性コア12の厚さ方向の中心位置Cとをほぼ一致させることで、効果的に漏れ磁束を低減でき、高いインダクタンスとともに、高い直流重畳特性を得ることができる。
【0043】
ここで磁性コア12の厚さ方向への中心位置Dとは、上面12dから底面12aにまで至る厚さ中心である。あるいは図1(c)(d)に示すように、底面12aに切欠部12bが形成されている場合には、上面12dから切欠部12bの天井面にまで至る厚さ中心と規定することも可能であるが、上面12dから底面12aにまで至る厚さ中心を、磁性コア12の厚さ方向への中心位置Dとしたほうが、特性上好ましい。
【0044】
また本実施形態では、インダクタ10の薄型化を効果的に促進できる。すなわち本実施形態では、内側巻回部16から外方に延びる丸線15のうち、外側巻回部17と重なる位置での丸線15を潰したことで効果的に、丸線コイル11の全高を低く抑えることができ、したがって磁性コア12の厚さ寸法H3を薄くしても、丸線コイル11の厚さ方向の中心位置Dと、磁性コア12の厚さ方向の中心位置Cとをほぼ一致させることが可能になる。したがって磁気特性に優れた薄型のインダクタ10を得ることができる。
【0045】
図1では、丸線コイル11が内側巻回部16と外側巻回部17との二重巻きで形成されていたが、三重巻き以上とすることも可能である。かかる場合、最も内側に位置する内側巻回部から外側に引き出される丸線のうち、前記内側巻回部の外側に位置する二重巻き以上の外側巻回部上と重なる部分を潰すことで丸線コイルの全高を効果的に低くすることができる。
【0046】
また製造工程上、どのタイミングで丸線15を潰してもよい。すなわち丸線15を潰すタイミングは、丸線コイル11を巻回する前、巻回した後のどちらであってもよい。丸線コイル11を巻回する前であれば、丸線15に対して所定間隔おきに、乗り上げ部20となる位置(図1参照)の丸線15を潰した後、図1に示すように丸線コイル11を巻回する。
【実施例】
【0047】
実験では、図3(a)〜図3(b)に示すようにインダクタ内に埋設される丸線コイルの高さ方向への配置を変えて、各インダクタのインダクタンスL及び直流重畳定格電流を測定した。
【0048】
実験では、磁性コア12は、Feを主体としNi、Sn、Cr、P、C、Bなどの各種金属が含まれたFe基金属ガラス合金の粉末であり、水アトマイズ法により粉末化された磁性粉末を全体の2重量%のアクリル系の樹脂(東亞合成化学(株)製のAS2000)でコーティングし、プレス成形したものを使用した。磁性コアの厚さ寸法H4を1.15mm、丸線の直径を0.2mm、丸線コイルを二重巻きで形成し、その内側巻回部の中心内径を1.85mm、各巻回部のコイルターン数を3.5ターン、丸線コイルの直流抵抗(Rdc)を27.54mΩ、磁性コアに対するプレス圧を7.5(ton/cm2)に固定した。
【0049】
図3(a)に示すインダクタは、磁性コア12の上面12dから底面12aに至る厚さ寸法の中心位置Cと、丸線コイル11の厚さ方向(高さ方向)の中心位置Dとを一致させた構造である。図3(a)では、磁性コア12の上面12dから丸線コイル11の上面までの厚さ寸法H5及び磁性コアの底面12aから丸線コイル11の底面までの厚さ寸法H6を共に0.247mmと設定した。また図3(a)では、磁性コア12の底面12aには深さ寸法H8(=0.15mm)の切欠部12bが設けられており、切欠部12bの天井面から丸線コイル11の底面までの厚さ寸法H7を0.097mmとした。
【0050】
図3(b)に示すインダクタは、磁性コアの上面12dから底面12aに形成された切欠部12bに至るまでの磁性コア12の厚さ寸法の中心位置Eと、丸線コイル11の厚さ方向(高さ方向)の中心位置Dとを一致させた構造である。よって、厚さ寸法H5と厚さ寸法H7はともに同じ値になり、厚さ寸法H5,H7を、0.172mmとした。また厚さ寸法H6を、0.322mmとした。
【0051】
図3(c)に示すインダクタは、図3(b)の状態から丸線コイル11を0.057mmだけ上方に移動させた構造である。厚さ寸法H5を、0.115mm、厚さ寸法H6を0.379mm、厚さ寸法H7を、0.229mmとした。
【0052】
図3(d)に示すインダクタは、図3(c)の状態から丸線コイルを0.057mmだけ上方に移動させた構造である。厚さ寸法H5を、0.058mm、厚さ寸法H6を0.436mm、厚さ寸法H7を、0.286mmに設定した。
【0053】
なお図3(a)〜図3(d)に示すインダクタでは丸線コイルを潰していない丸線のままとして。以下のシミュレーション実験を行った。
【0054】
図3の各インダクタに対し、直流電流Idc=0Aで周波数が100KHzのときのインダクタンスLを測定した。さらに、周波数が100KHzで、直流電流Idcを上げていき、インダクタンスLが直流電流Idc=0Aのときのインダクタンスから80%になったときの直流電流Idcを直流重畳定格電流とした。
その実験結果を以下の表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
図4は、図3に示す各インダクタのインダクタンスLを示すグラフである。図5は、図3に示す各インダクタの直流重畳定格電流を示すグラフである。
【0057】
図3、図4に示すように、図3(a)(b)、すなわち、磁性コアの中心位置C,Eに丸線コイルの中心位置Dを一致させた構成とすることで、高いインダクタンスL及び直流重畳定格電流を得ることができるとわかった。ここで図3(a)では磁性コア12の中心位置Cを上面12dから底面12aに至るまでの厚み中心とし、図3(b)では磁性コア12の中心位置Eを上面12dから切欠部12bの天井面に至るまでの厚み中心としたが、表1、図4に示すようにインダクタンスに関してはさほど差が見られなかった。一方、表1や図5に示すように、直流重畳定格電流については、図3(b)よりもやや図3(a)のほうが高い結果となった。よって、丸線コイルの中心位置Dを磁性コア12の上面12aから底面12aに至るまでの厚さ方向の中心位置Cに一致させることがより好ましいとわかった。これに対し、丸線コイルの中心位置Dと磁性コア12の各中心位置C,Eとをずらした図3(c)、(d)はインダクタンスL及び直流重畳定格電流は急激に低下し、丸線コイルの中心位置と磁性コア12の中心位置のわずかなズレがこれら特性に大きな影響を及ぼすことが分かった。
【0058】
以上により、内側巻回部から引き出した丸線のうち、外側巻回部と厚さ方向で重なる部分を潰したインダクタに対し、図3の実験結果により、丸線コイルの中心位置Dを磁性コア12の厚さ方向への中心位置C,E(好ましくは中心位置C)に一致させることで、丸線コイルを磁性コア内に適切に埋めることができ薄型化を促進できるとともに、高いインダクタンス及び直流重畳定格電流を得ることができることがわかった。これに対し、内側巻回部から引き出した丸線のうち、外側巻回部と厚さ方向で重なる部分を潰していない場合は、丸線コイルの中心位置Dを磁性コア12の厚さ方向への中心位置C,Eに一致させることができず、高いインダクタンスL及び直流重畳定格電流を得ることは困難となることが分かった。
【符号の説明】
【0059】
10 インダクタ
11 丸線コイル
12 磁性コア
12b 切欠部
13、14 端子部
15 丸線
16 内側巻回部
16a、17a 端部
17 外側巻回部
20 乗り上げ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸線を巻回して形成された丸線コイルと、前記丸線コイルが内部に埋め込まれた磁性コアと、前記丸線コイルに接続され前記磁性コアの外面に位置する一対の端子部と、を有するインダクタにおいて、
前記丸線コイルは、前記丸線を前記磁性コアの厚み方向に巻回して成る内側巻回部と、前記丸線を前記内側巻回部の外側にて前記磁性コアの厚み方向に巻回して成り前記内側巻回部と連続する外側巻回部とを備え、
前記外側巻回部から前記丸線が前記外側巻回部の外側に引き延ばされて第1の端子部に接続されており、
前記内側巻回部から前記丸線が、前記外側巻回部の外側に引き延ばされて第2の端子部に接続されるとともに前記外側巻回部と前記厚み方向にて重なる位置で前記厚み方向の厚さが薄い薄肉部を有していることを特徴とするインダクタ。
【請求項2】
前記内側巻回部と前記外側巻回部とのターン数が同じであり、前記内側巻回部の各ターンと前記外側巻回部の各ターンとの高さ位置がほぼ同じである請求項1記載のインダクタ。
【請求項3】
前記丸線コイルの前記厚さ方向における中心位置と、前記磁性コアの前記厚さ方向における中心位置とがほぼ一致している請求項1記載のインダクタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate