説明

インナービット、削孔ビット、および、削孔機

【課題】作業性を向上させるインナービット、これを備えた削孔ビットおよび削孔機を提供すること。
【解決手段】 筒状をなし先端面51外周に爪刃52を有し内周面のうち少なくとも先端部分は他端に向けて縮径した錐形であるリングビット5、に内接させるインナービット6であって、側周面73は内周面Sに密着する錐形であり、先端面71は埋入させたときに先端面51と面が略揃う端面を形成し当該端面には爪刃72を有し、後端には後方へ向けて外側に広がる羽根81を有し、羽根81が、リングビット5内壁、または、ロッドの内壁に圧接するようにしたことを特徴とするインナービット6。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インナービット、削孔ビット、および、削孔機に関し、とくに、羽子板の羽根様のインナービット、これをリングビットに装着した削孔ビット、および、この削孔ビットを有する削孔機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、法面工事における岩盤削孔に際しては、各種の削孔機が用いられている。削孔に際しては、大別して二重管構造、すなわち、内管と外管との間から削孔岩屑を地表に繰り出すものと、単管構造、すなわち、管の外側から削孔岩屑を地表に追い出すものとがある。
【0003】
何れの構造においても、先端には、岩盤削孔用の剛性の高い刃がつけられている。削孔機は、管全体を回転させ、また、管全体を軸方向に振動させて打撃し、これらの動きの組合せにより、岩盤を粉砕切削していく。
【0004】
ここで、二重管構造のものは、ロッドを毎回二本ずつ継ぎ足していかねばならず、ロッドの重さが約30kgであって法面という足場の悪い場所においては、継ぎ足し作業は単管構造の倍以上の時間がかかり、作業性が著しく劣るという問題点があった。また、所定の深さの削孔が終わった後は、グラウト注入のため、内管を抜き取る必要があり、ここでも時間がかかり、作業効率に優れない、という問題点があった。
【0005】
一方、単管構造の場合は、上記の問題がなく、先端に装着した錐形のインナービットをアンカー棒で突き押し、埋め殺すだけでよいため、作業性が著しく向上するという利点がある。また、本願発明者らによる特許第3935191号(引用文献1)に開示するように、近年大型削孔機を簡便に法面上で移動する技術が開発され、回転能力打撃能力に優れた削孔機を用いて、相対的に工期短縮が可能となっている。すなわち、工期短縮の観点から、また、作業性の観点から、単管構造による削孔にメリットがある。
【0006】
【特許文献1】特許3935191号
【特許文献2】特公昭38−20205
【特許文献3】実公昭38−605
【特許文献4】特開平5−140932
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の技術では以下の問題点があった。
大型削孔機を用いて単管構造のロッドを用いる場合、インナービットが作業の途中、とくに、打撃破砕の際に抜け落ちる場合があるという問題点があった。ビットは、剛性が高いため、結局のところ、ロッド先端に接続してあるリングビット(リングビットの先端にも岩盤掘削用の刃が設けられている)も破損させてしまうという問題点があった。
【0008】
ここで、削孔は設計通りにおこなう必要があるため、近接した位置を掘り直すこともできず、結局のところ、脱落したインナービットを孔から抜き取らなくてはならない。しかしながら、この作業は、場合によっては1日仕事になることもあり、作業性が極めて悪くなる可能性をはらんでいる。加えて、削孔は、たとえば2mピッチでおこなわれるため、削孔数が多く、順次手際よく削孔する必要がある。また、リングビットは安価でないため、安価なインナービットのためにリングビットも破損してしまうのでは割に合わない。
【0009】
従って、結局のところ、単管ロッドを用いた作業は限界があり、高性能の削孔機を用いるほど敬遠されてしまうという矛盾が生じていた。換言すれば、処理能力の高い削孔機を用いて、作業性を向上させるべく単管ロッドを用いた場合、安定的な削孔作業が保証されなくなるという問題点があった。
【0010】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、作業性を向上させるインナービット、これを備えた削孔ビットおよび削孔機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載のインナービットは、筒状であって先端面外周に岩盤掘削刃部を有し内周面のうち少なくとも先端部分は他端に向けて縮径した錐形であるリングビット、に内接させるインナービットであって、側周が前記内周面に密着する錐形であり、前部がインナービットを埋入させたときに前記先端面と面が揃う端面を形成し当該端面には岩盤掘削刃体を有し、後部は後方へ向けて外側に広がる弾性羽体を複数有し、当該弾性羽体が、リングビット内壁、または、リングビットが接合されるロッドの内壁に圧接するようにしたことを特徴とする。
【0012】
すなわち、請求項1に係る発明は、側周の摩擦と弾性羽体による内面圧接により、インナービットの保持性を向上させる。
【0013】
なお、他端に向けて、とは基端方向すなわち削孔機側方向(ビットの刃の反対方向)を意味する。錐形とは、円錐(切頭円錐)のほか、角錐(切頭角錐)を含むものとする。また、羽体は、板状でも棒状でもよく、縦長に形成されていればその態様は問わない。また、複数の弾性羽体は、インナービット中心軸に対し、対称(回転対称または軸対称)に配されることが好ましい。また、外側に広がる、とは、軸に対して一定の角度を以て延伸していることを意味し、丁度、羽子板の羽またはバドミントンのシャトルのような広がりを有することをいう。
【0014】
また、請求項2に記載のインナービットは、請求項1に記載のインナービットにおいて、弾性羽体の先端が外側に折り返されたかえし部を備えることを特徴とする。
【0015】
すなわち、請求項2に係る発明は、面接触が可能になり、摩擦力を向上させることができる。また、リングビット内壁、または、ロッド内壁の形状によっては、係止による脱落防止が可能となる。かえし部の形状はとくに限定されないが、内壁に沿った曲率ないし形状であることが好ましい。なお、かえし部は、折り返して作ることができるので、制作コストを削減することも可能となる。
【0016】
また、請求項3に記載のインナービットは、請求項1に記載のインナービットにおいて、弾性羽体の先端外側に突体を設けたことを特徴とする。
【0017】
すなわち、請求項3に係る発明は、面接触が可能になり、摩擦力を向上させることができる。また、リングビット内壁、または、ロッド内壁の形状によっては、係止による脱落防止が可能となる。突体の形状はとくに限定されないが、内壁に沿った曲率ないし形状であることが好ましい。なお、外側に広がる段差をもうけて突体を形成する太陽であってもよい。
【0018】
また、請求項4に記載の削孔ビットは、リングビット内壁に内側に突となった段差を設け、請求項1、2または3のインナービットを挿入したことを特徴とする。
【0019】
すなわち、請求項4に係る発明は、羽体による摩擦力に加え物理的な係止作用を発揮可能となる。とくに請求項2または3に記載の羽体であれば、強固な係止作用を得ることができる。
【0020】
また、請求項5に記載の削孔機は、請求項4に記載の削孔ビットを有したことを特徴とする。
【0021】
すなわち、請求項5に係る発明は、作業効率を低下させない削孔ビットを提供可能となる。
【0022】
また、請求項6に記載の削孔機は、ロッドとリングビットの接合部内面には内側に突となった段差があり、請求項1,2または3のインナービットが挿入され、当該インナービットの弾性羽体端部が前記段差よりロッド側に位置する長さであることを特徴とする。
【0023】
すなわち、請求項6に係る発明は、羽体による摩擦力に加え物理的な係止作用を発揮可能となる。とくに請求項2または3に記載のインナービットを用いることにより、強固な係止作用を得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、作業性を向上させるインナービット、これを備えた削孔ビットおよび削孔機を提供することが可能となる。詳細には、本発明(請求項1)によれば、側周の摩擦と弾性羽体による内面圧接により、インナービットの保持性を高めることが可能となる。また、本発明(請求項2,3)によれば、面接触が可能になり、摩擦力を向上させることができ、また、係止による脱落防止も可能となる。また、本発明(請求項4)によれば、羽体による摩擦力に加え物理的な係止作用を発揮する削孔ビットを提供可能となる。また、本発明(請求項5)によれば、作業効率を低下させない削孔ビットを提供可能となる。また、本発明(請求項6)によれば、高出力(高馬力)の削孔機を用いても、ビットの脱落による作業性低下を招来せず、本来の能力を十分に発揮して削孔作業の効率化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の削孔ビット(インナービット+リングビット)がロッドに装着された削孔機の概要模式図である。図2は、本発明の削孔ビットの側面図、図3は、本発明の削孔ビットの平面図である。図4は、本発明のインナービットの外観図とインナービットをリングビットに挿入した後の断面図である。図5は、本発明のインナービットの概観斜視図である。
【0026】
削孔機1は、駆動部2により単管構造のロッド3を回転させまた軸方向に振動させることにより削孔ビット4を介して岩盤を削りまた破砕する。ロッド3は削孔深さが所定の深さになるまで順次継ぎ足されていく。削孔が終了すると、ロッド3内にアンカーボルトを挿入し(図示せず)、インナービット6を突き外す。次いで、グラウトを注入し、ロッド3をリングビット5がついたまま(インナービット6は埋め殺したまま)引き抜き、アンカーボルトを地中に固定する。これにより、支圧板をアンカーを介して地面に対して緊張定着させることが可能となり、たとえば、土砂崩れを防止可能となる。
【0027】
図2および図3に示したように、インナービット6は、リングビット5に挿入される。リングビット5は、略筒形状であって、先端面51外周に爪刃52が対称に配され、外周にはロッド3に接続するねじ53が切ってある。爪刃52は、剛性の高い合金からなる円錐形状であり、軸に対して対称に配されている。図では、爪刃52は同一円心上の内側と外側に配されており、円錐形状を採用することにより、打撃破砕にも回転切削にも対応可能となっている。
【0028】
リングビット5側面は、軸方向に緩やかに狭まっており、岩屑は、溝54から後部(地上側)に押し出される。また、溝54の一部には、切削水用の孔55があけてある。
【0029】
リングビット5の内面は、地上側に向けて縮形した切頭円錐形状部分Sを有し(図4参照)、これに嵌合するようにインナービット6が埋入される。また、リングビット5のねじ53部分の内周面には、突段56が一周に渡って形成され、後述するように、かえし82を係止する。
【0030】
インナービット6は、羽子板の羽根のような形状であり、基体部7と羽根部8からなる。基体部7は、切頭円錐形であり、先端面71には爪刃72が設けられて、側周面73は、切頭円錐形状部分Sに密接する同形としている。先端面71は、リングビット5の先端面51と段差が生じないように連続した面を形成している。これは、段差があると、削孔作業中に段差がつぶれ、インナービット6を離脱させにくくなるからである。
【0031】
爪刃72は、爪刃52と同様の円錐形状であるが、軸を中心に半径をかえて3カ所のみに配置している。これは、爪刃72は、軸からの配置半径が小さいので、ロッド3が回転しても、外側の爪刃52のように大きな距離を移動できないため、負荷を軽減させるためである。
【0032】
なお、基体部7の軸には、切削水用の孔74が設けられている。また、この孔を設けることにより圧力開放が可能となり、中実であるよりインナービット6をより強固にリングビット5に固着できる。
【0033】
羽根部8は、鋼板からなる3枚の羽根81を有し、軸に対して所定の角度を以て延伸し、リングビット5の内周面に圧接する。いわば、羽根81は板バネであり、内周面に圧接するので、摩擦力を高め、インナービット6の脱落を防止するようにしている。弾性力があるので、図4に示したように、羽根部8をすぼめることができ、インナービット6をリングビット5に挿入可能となる。
【0034】
また、羽根81先端は、図6(a)に示したように折り曲げられ、かえし82が形成されている。このかえし82は、図4に示したように、リングビット5の突段56に係合し、インナービット6の脱落を防止する。なお、実際の作業では、打撃によりインナービット6が脱落しかかっても、かえし82により保持され、再びリングビット5に埋入することとなる。
【0035】
なお、羽根81の先端部分はかえし82のほか、種々の形状を採用できる。図6は、羽根81の端部形状のほかの例を示した図である。図6(b)、図6(c)は、鋼板を曲げてなり、図6(d)は、別途突体83を形成した羽根の端部形状を示した図である。なお、インナービット6は、最後は突き落とすため、リングビット5から外れないほどには強固なかえしないし突体としないようにすることが重要である。なお、図6(a)、図6(b)、図6(c)の先端形状は、リングビット5内壁に面接触するため、摩擦力が大きくなり、インナービット6の保持性をより高める。特に、図6(b)の形状は、鋼板を塑性変形して段をつけ、内壁に面接触をしつつ効率的に係止も可能となるので好ましい。図6(d)は、線接触であるが、点接触であるよりかは、保持力が高い。
【0036】
図7は、羽根の原型を示した図である。図示したように、一枚の鋼板から2枚どりするようにすれば、部材の節約、ひいては、インナービット6を安価に提供できる。なお、鋼板から切り分けた後は、適宜、軸方向に丸め、基体部7に溶接するなどする。このようにすれば、グラウト放出孔74を羽根部8がふさぐことがなく、好適である。
【0037】
以上の例では、爪羽72は3カ所のみであり、形状は円錐形であったが、これに限ることなく2カ所でも、紡錘形であってもよい。また、羽根81は、3枚の板バネであったが、これに限ることなく、棒状で5本とするような態様であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、インナービットの圧接および係止によりインナービットの脱落を防止でき、削孔作業性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の削孔ビット(インナービット+リングビット)がロッドに装着された削孔機の概要模式図である。
【図2】本発明の削孔ビットの側面図である。
【図3】本発明の削孔ビットの平面図である。
【図4】本発明のインナービットの外観図とインナービットをリングビットに挿入した後の断面図である。
【図5】本発明のインナービットの概観斜視図である。
【図6】羽根の端部形状のほかの例を示した図である
【図7】羽根の原型を示した図である。
【符号の説明】
【0040】
1 削孔機
2 駆動部
3 ロッド
4 削孔ビット
5 リングビット
6 インナービット
7 基体部
8 羽根部
51、71 先端面
52、72 爪刃
53 ねじ
54 溝
55、74 孔
56 突段
73 側周面
81 羽根
82 かえし
83 突体
S 切頭円錐形状部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状であって先端面外周に岩盤掘削刃部を有し内周面のうち少なくとも先端部分は他端に向けて縮径した錐形であるリングビット、に内接させるインナービットであって、
側周は前記内周面に密着する錐形であり、
前部は埋入させたときに前記先端面と面が揃う端面を形成し当該端面には岩盤掘削刃体を有し、
後部は後方へ向けて外側に広がる弾性羽体を複数有し、当該弾性羽体が、リングビット内壁、または、リングビットが接合されるロッドの内壁に圧接するようにしたことを特徴とするインナービット。
【請求項2】
弾性羽体の先端が外側に折り返されたかえし部を備えることを特徴とする請求項1に記載のインナービット。
【請求項3】
弾性羽体の先端外側に突体を設けたことを特徴とする請求項1に記載のインナービット。
【請求項4】
リングビット内壁に内側に突となった段差を設け、請求項1、2または3のインナービットを挿入したことを特徴とする削孔ビット。
【請求項5】
請求項4に記載の削孔ビットを有したことを特徴とする削孔機。
【請求項6】
ロッドとリングビットの接合部内面には内側に突となった段差があり、請求項1,2または3のインナービットが挿入され、当該インナービットの弾性羽体端部が前記段差よりロッド側に位置する長さであることを特徴とする削孔機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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