説明

インナーロータ型ブラシレスモータ

【課題】モータ性能を低下させることなく小型化・偏平化・軽量化を図ったインナーロータ型ブラシレスモータを提供する。
【解決手段】カップ状のブラケット1が取付けベース3を覆って組み付けられることによりロータR及びステータSが閉鎖されたケース内(閉鎖空間P内)に収納され、かつモータ駆動回路が形成されたモータ基板17がロータR及びステータSとブラケット開口部1a内の底部1bとの間に軸方向に形成された隙間Qに設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車載用空調機器、バッテリー冷却装置などに用いられるインナーロータ型ブラシレスモータに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両用ファンの駆動装置として用いられるアウターロータ型のDCブラシレスモータについて説明する。樹脂製の上下ハウジング内に駆動回路が設けられたモータ基板が2段に分けて収納されている。このハウジング上部には凹部が形成され、該凹部には軸受けスリーブが垂直上方に突出して設けられている。軸受けスリーブには、ベアリングシャフトが回転可能に支持されている。ベアリングシャフトはロータをより外部に延設されており先端側にファンが設けられる。また、ステータコアは、軸受けスリーブに滑り嵌めされた段付部に突き当てて組み付けられている。
【0003】
ロータを回転させると、ハウジング側面に設けられた空気導入口より吸気してロータ端面に設けられた排気口よりファン側へ排出され、モータ基板の発熱や巻線の発熱を冷却するようになっている(特許文献1参照)。また、車載用に限られないが、モータの回転方向位置や回転速度を備えモータ検出精度の向上と径方向の厚みを減らして小型化を図ったインナーロータ型のブラシレスモータも提案されている(特許文献2参照)
【特許文献1】特開2002−262517号公報
【特許文献2】特開2005−229698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、アウターロータ型及びインナーロータ型のブラシレスモータの場合、ステータコアやロータの厚さに加えて、モータ駆動回路が形成されたモータ基板の厚さも加わるため、軸方向に厚みを持ったモータ構造となり易いという課題があった。特に車載用のモータにおいては、塩水噴霧試験後も駆動回路に損傷がない程度の防水性を要求されていることから、回路基板を保護するためのカバー(ケース)に覆われており、軸方向の厚みを増長させ易い構造となっている。例えば出力50Wクラスのモータで、モータ基板を収納したカバーを含むモータの軸方向の厚さが65mm〜70mm程度のものが用いられている。
【0005】
また、車載用電子機器の場合、快適性、安全性、環境への配慮から、モジュール部品やセンサー、モータなどの電子部品の基板実装数が増える一方で、環境に配慮して車両総重量の軽量化を図るべくモータ自体も小型化・軽量化する必要がある。
また、車載用の電子機器が増える一方で、車両に確保できる部品設置スペースが減少するため、モータ性能を低下させることなく、軸方向に薄型化(偏平化)することに対するニーズが高くなっている。
【0006】
本発明はこれらの課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、モータ性能を低下させることなく小型化・偏平化・軽量化を図ったインナーロータ型ブラシレスモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するため、次の構成を備える。
環状のステータに囲まれた空間内にロータが配置されるインナーロータ型ブラシレスモータであって、カップ状のブラケットが取付けベースを覆って組み付けられることにより前記ロータ及びステータが閉鎖されたケース内に収納され、かつモータ駆動回路が形成されたモータ基板が前記ロータ及びステータとブラケット開口部内の底部との間に軸方向に形成された隙間に設けられていることを特徴とする。
また、ロータはカップ状のロータヨークの外周面にマグネットが設けられ当該ロータヨーク開口部中心にモータ軸が連繋しており、ブラケット開口部中心に設けられた軸受部にモータ軸が軸支されロータヨーク開口部をブラケット開口部内の底部に向けてロータがブラケットに回転可能に組み付けられていることを特徴とする。
また、モータ基板には、ロータヨーク対向面側に比較的高さのあるディスクリート部品がロータヨークの開口部内に配置され、発熱量の多いディスクリート部品がブラケット対向面側に配置されていることを特徴とする。
また、ブラケットと取付けベースとはシール材を介して閉止されており、ステータコアは、シール材の段付き面とブラケット内壁面の段付き面に挟み込まれて組み付けられることを特徴とする。
また、モータ軸のブラケット外に延設された軸端部にファンが組み付けられた車載用のファンモータであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上述したインナーロータ型ブラシレスモータを用いれば、カップ状のブラケットが取付けベースを覆って組み付けられることによりロータ及びステータが閉鎖されたケース内に収納され、かつモータ駆動回路が形成されたモータ基板がロータ及びステータとブラケット開口部内の底部との間に軸方向に形成された隙間に設けられている。このように、モータの外装を構成するブラケットと取付けベースに囲まれ閉鎖されたケース内の軸方向高さ範囲内でかつブラケット開口部の底部面積内にモータ基板を配置してモータを軸方向に小型化、偏平化並びに軽量化することができる。
また、ロータはカップ状のロータヨークの外周面にマグネットが設けられ当該ロータヨーク開口部中心にモータ軸が連繋しており、ブラケット開口部中心に設けられた軸受部にモータ軸が軸支されてロータヨーク開口部をブラケット開口部内の底部に向けてロータがブラケットに回転可能に組み付けられている。このように、ブラケット開口部内の底部にロータヨーク開口部が対向して配置され当該ロータヨーク開口部内の空きスペースを利用した基板実装部品の配置が可能となるためモータを小型化することができる。
また、モータ基板には、ロータヨーク対向面に比較的高さのあるディスクリート部品がロータヨークの開口部に向けて配置されているので、基板部品の高さをロータヨーク開口部内の空きスペースで軸方向に吸収することができ、偏平化(薄型化)を促進することができる。また、発熱量の多いディスクリート部品がブラケット対向面側に配置されていると、金属製のブラケットを通じた熱放散性を高めることができる。
また、ブラケットと取付けベースとはシール材を介して閉止されており、ステータコアは、シール材の段付き面とブラケット内壁面の段付き面に挟み込まれて組み付けられているので、塩水噴霧試験後も駆動回路に損傷はなく、過酷な使用環境下においても十分耐え得る防水性、防振性を備えたモータを提供できる。
また、モータ軸のブラケット外に延設される軸端部にファンが組み付けられた車載用のファンモータである場合には、ファンが軸方向中心部から吸気して外周方向に排気するため、発熱部品やモータコイルより発生した熱がブラケットを通じて拡散され易くなるため、熱放散性をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係るインナーロータ型ブラシレスモータの最良の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。本実施形態では、一例として環状のステータコアに囲まれた空間内にロータが配置される車載用のファンモータ(インナーロータ型DCブラシレスモータ)を用いて説明する。図1は図3のX−O−Z断面図、図2は図3のY−O−X´断面図、図3は図2の矢印A方向から見た内視平面図である。
【0010】
図1乃至図3を参照して、インナーロータ型DCブラシレスモータの概略構成について説明する。図1において、カップ状のブラケット1のブラケット開口部1a中心には中空円筒部2が突設されている。中空円筒部2には、モータ軸4が軸受部(ボールベアリング、スリーブ軸受など)5、6を介して回転可能に軸支されている。ブラケット1はロータ軸受部とモータケースを兼用しており、金属製カップ材(例えばアルミブラケット)が好適に用いられる。モータの外装を構成するブラケット1が取付けベース3を覆って組み付けられることにより、閉鎖されたケース内(閉鎖空間P内)にロータR及びステータSが収納されている。また、モータ駆動回路が形成されたモータ基板17は、ロータR及びステータSとブラケット開口部1a内の底部1bとの間に軸方向に形成された隙間Qに設けられている。このため、モータの外装を構成するブラケット1と取付けベース3に囲まれたケース内の軸方向高さ範囲内でかつブラケット開口部1aの底部面積内にモータ基板17を配置してモータを軸方向に小型化、偏平化並びに軽量化することができる。
【0011】
ロータRはカップ状のロータヨーク7の外周面にマグネット8が接着されており、当該ロータヨーク7の中心部とモータ軸4の一端が一体に組み付けられている。ブラケット開口部1a内に形成された中空円筒部2に軸受部5,6を介してモータ軸4が軸支され、かつロータヨーク開口部7aをブラケット開口部1a内の底部1bに向けてロータRがブラケット1に回転可能に組み付けられている。このように、ブラケット開口部1a内の底部1bにロータヨーク開口部7aが対向して配置され、当該ロータヨーク開口部7a内の空きスペースを利用した基板実装部品の配置が可能となるためモータを小型化することができる。
【0012】
また、モータ軸4のブラケット1の外方へ延設された他端部にはファン(羽根)9が組み付けられている。ファン9が回転すると軸方向中心部から吸気して外周方向へ排気するようになっている。
【0013】
図2において、ブラケット1と取付けベース3との間にはシール材(例えばゴム材)10を介して閉止されている。シール材10は固定ねじ11によって取付けベース3にねじ止め固定されている。ステータコア12は、シール材10の段付面10aとブラケット1の径方向内壁面1cに設けられた段付面1dに挟み込まれて保持され、固定ねじ13(図1参照)によってシール材10、ステータコア12及びブラケット1と各々ねじ嵌合して一体に組み付けられる。
【0014】
図3において、環状のステータコア12には径方向内側に向けてティース部14が設けられており、各ティース部14はインシュレータ15に覆われて絶縁されている。各ティース部14にはモータコイル16が巻き付けられている。本実施例では6極12スロットの3相DCブラシレスモータが用いられている。各相間のわたり配線はインシュレータ15の外周側に設けられた配線溝15aを通じて行なわれる。
【0015】
また、図1及び図2において、モータ駆動回路が形成されたモータ基板(PWB)17がロータR及びステータSとブラケット1の開口部1a内の底部1bとで軸方向に囲まれた隙間Qに設けられている。具体的には、モータ基板17は、基板嵌合穴(図示せず)にインシュレータ15の上端部に設けられた突起15bを嵌め込ませてモータ基板17がステータSに組み付けられている。
【0016】
また、モータ基板17には、ロータヨーク7の対向面に比較的高さのあるディスクリート部品(例えばチョークコイル、電解コンデンサ18など)がロータヨーク開口部7a内の空きスペース内に配置され、発熱量の多いディスクリート部品(例えばFET19などのスイッチング素子)がブラケット1の対向面側に配置されている。
【0017】
このように、モータ基板17には、ロータヨーク7の対向面側に比較的高さのあるディスクリート部品がロータヨーク開口部7a内の空きスペース内に向けて配置されているので、基板実装部品の高さをロータヨーク開口部7a内の空きスペースで軸方向に吸収することができ、偏平化(薄型化)を促進することができる。例えば出力50Wクラスのモータでブラケット1と取付けベース3との間の軸方向寸法が35mm程度(約1/2程度)に薄型化を達成でき、重量に関しては1/2〜1/3程度に軽量化できた。
【0018】
また、発熱量の多いディスクリート部品がブラケット1の対向面側に配置されていると、金属製ブラケット1を通じて熱放散性を高めることができる。
また、モータ軸4のブラケット1外に延設される軸端部に、ファン9が組み付けられることにより、ファン9が軸方向中心部から吸気して外周方向に排気するため、発熱部品やモータコイル16より発生した熱がブラケット1を通じて拡散され易くなるため、熱放散性をさらに向上することもできる。
【0019】
また、図2において、モータ基板17には外部接続線(リード線)20が接続されており、該リード線20はブラケット1の内周面とステータヨーク12の外周面の隙間を通過し、シール材10にも受けられた貫通孔10b(図3参照)を通過して取付けベース3に設けられた円筒状のグロメット21の中心孔を通過してモータ外部に取り出されるようになっている。
【0020】
ブラケット1と取付けベース3とはシール材10を介して閉止されており、ステータコア12は、シール材10の段付き面10aとブラケット1の径方向内壁面1cの段付き面1dに挟み込まれて組み付けられているので、塩水噴霧試験後も回路に損傷はなく、過酷な使用環境下においても十分耐え得る防水性、防振性を備えたモータを提供できる。
【0021】
上記実施例は、車載用のファンモータを例示して説明したが、これに限定されるものではなく、空調機器等他の装置に適用することも可能である。また、ファンモータに限らずモータ軸4の出力端にギヤが設けられたギヤードモータであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】インナーロータ型ブラシレスモータの断面説明図である。
【図2】インナーロータ型ブラシレスモータの断面説明図である。
【図3】図2のモータを矢印A方向から見た内視平面図である。
【符号の説明】
【0023】
P 閉鎖空間
Q 隙間
R ロータ
S ステータ
1 ブラケット
1a ブラケット開口部
1b 底部
1c 径方向内壁面
1d,10a 段付面
2 中空円筒部
3 取付けベース
4 モータ軸
5,6 軸受部
7 ロータヨーク
7a ロータヨーク開口部
8 マグネット
9 ファン
10 シール材
10b 貫通孔
11,13 固定ねじ
12 ステータコア
14 ティース部
15 インシュレータ
15a 配線溝
15b 突起
16 モータコイル
17 モータ基板
18 電解コンデンサ
19 FET
20 リード線
21 グロメット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のステータに囲まれた空間内にロータが配置されるインナーロータ型ブラシレスモータであって、
カップ状のブラケットが取付けベースを覆って組み付けられることにより前記ロータ及びステータが閉鎖されたケース内に収納され、かつモータ駆動回路が形成されたモータ基板が前記ロータ及びステータとブラケット開口部内の底部との間に軸方向に形成された隙間に設けられているインナーロータ型ブラシレスモータ。
【請求項2】
前記ロータはカップ状のロータヨークの外周面にマグネットが設けられ当該ロータヨーク開口部中心にモータ軸が連繋しており、前記ブラケット開口部中心に設けられた軸受部にモータ軸が軸支されロータヨーク開口部をブラケット開口部内の底部に向けて前記ロータがブラケットに回転可能に組み付けられている請求項1記載のインナーロータ型ブラシレスモータ。
【請求項3】
前記モータ基板には、ロータヨーク対向面側に比較的高さのあるディスクリート部品がロータヨーク内の空きスペース内に配置され、発熱量の多いディスクリート部品がブラケット対向面側に配置されている請求項2記載のインナーロータ型ブラシレスモータ。
【請求項4】
前記ブラケットと取付けベースとはシール材を介して閉止されており、前記ステータコアはシール材の段付き面とブラケット内壁面の段付き面に挟み込まれて組み付けられる請求項1乃至3のいずれか1項記載のインナーロータ型モータ。
【請求項5】
前記モータ軸のブラケット外に延設された軸端部にファンが組み付けられた車載用のファンモータである請求項1乃至4のいずれか1項記載のインナーロータ型モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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