説明

インパルス応答測定装置

【課題】短時間で複数の位置におけるインパルス応答を測定するインパルス応答測定装置を提供する。
【解決手段】インパルス応答装置は、直線上に配置された複数のマイクロホンで構成されるマイクロホンアレー10と、所定の第一方向に上記マイクロホンアレーを移動可能な第一移動部1bと、上記マイクロホンアレーで収音することにより得られた音信号を用いてインパルス応答を測定するインパルス応答測定部2と、を含む。第一移動部1bを用いてマイクロホンアレーを移動させることができるため、短時間で複数の位置におけるインパルス応答を測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マイクロホンアレーで収音することにより得られる音信号を用いてインパルス応答を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
M系列信号を用いて、空間の2点間のインパルス応答を測定する技術が非特許文献1に記載されている。また、TSP信号を用いて、空間の2点間のインパルス応答を測定する技術が非特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】金田豊,「M系列を用いたインパルス応答測定における誤差の実験的検討」,日本音響学会誌52巻10号,1990,pp.752-759
【非特許文献2】Yoiti Suzuki, 外3名, ”An optimum computer-generated pulse signal suitable for the measurement of very long impulse responses”, 1995, Acoustical Society of America
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ある位置から広がる音の空間全体の伝達特性を測定するために、その位置から空間の各位置までのインパルス応答を測定することが考えられる。例えば、その位置から、空間を格子で分割したときの各格子点の位置までのインパルス応答を測定することが考えられる。
【0005】
インパルス応答は温度や湿度等の影響を受けるために、複数の位置における収音及びインパルス応答の測定はできる限り短時間で行う必要がある。しかし、短時間で複数の位置におけるインパルス応答を測定する技術は知られていない。
【0006】
この発明の課題は、短時間で複数の位置におけるインパルス応答を測定するインパルス応答測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、この発明の1つの態様であるインパルス応答測定装置は、直線上に配置された複数のマイクロホンで構成されるマイクロホンアレーと、所定の第一方向に上記マイクロホンアレーを移動可能な第一移動部と、上記マイクロホンアレーで収音することにより得られた音信号を用いてインパルス応答を測定するインパルス応答測定部と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
第一移動部を用いてマイクロホンアレーを移動させることができるため、短時間で複数の位置におけるインパルス応答を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】インパルス応答測定装置の例の機能ブロック図。
【図2】収音装置の例の正面図。
【図3】収音装置の例の左側面図。
【図4】収音装置の例の平面図。
【図5】実験の状況を説明するための図。
【図6】実験結果を表わす図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照してこの発明の一実施形態を説明する。
【0011】
インパルス応答測定装置は、図1に示すように、収音装置1及びインパルス応答測定部2を備える。まず、図2から4を用いて収音装置1について説明する。
【0012】
略四角形状の台1aの上に、第一移動部1bが設けられている。第一移動部1bは、いわゆる単軸ロボットであり、マイクロホンアレー10を保持するマイク保持部1cを所定の第一方向に移動させることが可能である。
【0013】
この例では、台1aの長手方向に沿ってレール1eが設けられており、第一移動部1bはこのレール1e上を移動する。これにより、第一移動部1bに取り付けられたマイク保持部1cは台1aの長手方向に移動する。
【0014】
マイク保持部1cは、第一移動部1bの前方(図G1の紙面に対して左方向)に、所定の第二方向にスライド可能に取り付けられている。この例では、第二方向は、図G1の紙面に対して上下方向である。
【0015】
マイク保持部1cは、金属の棒で構成される。金属の棒で構成された枠の上部にマイクロホンアレー10が取り付けられている。マイクロホンアレー10は、直線上に配置された複数のマイクロホン1−1,1−2,…,1−Nで構成される。マイクロホン1−1,1−2,1−Nで収音された音信号は、ケーブル1fを介して、図1のインパルス応答測定部20に送信される。Nは2以上の整数であり、例えば72である。
【0016】
空間のサンプリング定理に基づき、エイリアシングの影響がないように、マイクロホンアレー10を構成するマイクロホン1−1,1−2,…,1−Nの間隔を定めることが望ましい。例えば、約10kHzまでの周波数の音についてインパルス応答を測定しようとする場合には、マイクロホンアレー10を構成するマイクロホン1−1,1−2,…,1−Nの間隔を1.5cmとすればよい。
【0017】
なお、マイク保持部1cのマイクロホンアレー10を保持する枠は、マイク保持部1cに回動自在に取り付けられており、図4に二点鎖線で例示するように必要に応じてマイクロホンアレー10の角度を変えることができる。
【0018】
図2から4に示すように、マイク保持部1cを金属の棒で構成することにより、音場を乱すことがないようにすることができる。また、ケーブル1fを、マイクロホンアレー10に近い位置で束ねないことにより、音場を乱すことがないようにすることができる。
【0019】
マイク保持部1cの後方(図G1の紙面に対して右方向)には、マイクロホンアレー10を含むマイク保持部1cを予め定められた第二方向に移動させる第二移動部1dが設けられている。第二移動部1dは、第一アーム部1d1、第二アーム部1d2、結合部1d3及び昇降ハンドル1d4を備える。第一アーム部1d1は、マイク保持部1cの上端に回動自在に支持されている。第二アーム部1d2は、第一移動部1bの下部に回動自在に支持されている。結合部1d3は、第一アーム部1d1及び第二アーム部1d2を互いに回動自在に結合している。昇降ハンドル1d4は、結合部1d3に螺合されてから、第一移動部1bに回動自在に支持される。
【0020】
昇降ハンドル1d4を回転させると、第一移動部1bの昇降ハンドル1d4を支持する位置と結合部1d3との距離とが変わる。この距離に応じて、図1に例示するように、マイク保持部1cは第二方向に移動する。
【0021】
台1aの後方に取り付けられた、台1aを移動するための移送用ハンドル1gは、台1aから取り外し可能である。これにより、インパルス応答の測定時に、移送用ハンドル1gを取り外すことができ、音場の乱れを防ぐことができる。
【0022】
この例では、第一方向は、後述するマイクロホンアレー10を構成するマイクロホン1−1,1−2,…,1−Nが配置される直線の延伸方向に対して垂直の方向である。また、第二方向は、第一方向及びマイクロホンアレー10を構成するマイクロホン1−1,1−2,…,1−Nが配置される直線の延伸方向のそれぞれに対して垂直な方向である。しかし、第一方向及び第二方向はこの例で示された方向以外の方向であってもよい。
【0023】
インパルス応答測定部2は、マイクロホンアレー10で収音することにより得られた音信号を用いてインパルス応答を測定する。インパルス応答の測定には、どのような手法を用いてもよい。
【0024】
マイクロホンアレー10が収音する音が、例えばインパルス応答測定部2が出力したTSP信号に基づいて音源sから発せられた音である場合には、マイクロホンアレー10で収音することにより得られた音信号に対していわゆるTSP逆フィルタを畳み込むことによって、インパルス応答を測定することができる。TSP逆フィルタの畳み込みには、Circular convolutionを使った手法と、Linear convolutionを使った手法がある。TSP信号を用いたインパルス応答の測定の詳細については、例えば参考文献1を参照のこと。
【0025】
[参考文献1][online],[平成23年2月9日検索],インターネット<URL: http://tosa.mri.co.jp/sounddb/tsp/index.htm>
第一移動部1b及び第二移動部1dを用いてマイクロホンアレーを移動させることができるため、短時間で複数の位置におけるインパルス応答を測定することができる。
【0026】
また、複数位置での測定結果を並べることによって統合し、測定空間の3次元的な波面を測定することもできる。
【0027】
[実験結果]
7.5m×4.4mの部屋において、音源であるスピーカーSが発生させた音に基づいて、スピーカーSから1.5m離れた1.6m×3.2mの測定領域のインパルス応答を実施形態のインパルス応答測定装置により測定した。測定されたインパルス応答に基づいてある瞬間の測定領域の音圧分布を可視化した結果を図6に示す。
【0028】
スピーカーSからほぼ球面波に近い形で音波が伝播している様子がわかる。換言すれば、インパルス応答が正しく計測されていることがわかる。
【0029】
[変形例等]
第二移動部はなくてもよい。
【0030】
この発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 収音装置
10 マイクロホンアレー
1a 台
1b 第一移動部
1c マイク保持部
1d 第二移動部
1d1 第一アーム部
1d2 第二アーム部
1d3 結合部
1d4 昇降ハンドル
1e レール
1f ケーブル
1g 移送用ハンドル
2 インパルス応答測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線上に配置された複数のマイクロホンで構成されるマイクロホンアレーと、
所定の第一方向に上記マイクロホンアレーを移動可能な第一移動部と、
上記マイクロホンアレーで収音することにより得られた音信号を用いてインパルス応答を測定するインパルス応答測定部と、
を含むインパルス応答測定装置。
【請求項2】
請求項1のインパルス応答測定装置において、
上記第一方向は、上記直線の延伸方向に対して垂直な方向であることを特徴とする、
インパルス応答測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2のインパルス応答測定装置において、
上記第一方向とは異なる所定の第二方向に上記マイクロホンアレーを移動可能な第二移動部を更に含む、
インパルス応答測定装置。
【請求項4】
請求項3のインパルス応答測定装置において、
上記第二方向は、上記延伸方向及び上記第一方向のそれぞれに対して垂直な方向であることを特徴とする、
インパルス応答測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−172977(P2012−172977A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31801(P2011−31801)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】