説明

インビトロタンパク質合成システムを用いて非天然アミノ酸をタンパク質に選択的に導入するためのモノチャージシステム

本発明は、無細胞合成システムを用いて、タンパク質の事前に選択された位置に非天然アミノ酸を組み込む新規手段を提供する。本方法は、遺伝暗号によってコードされる非直交性で天然のイソ受容センスtRNAの使用を含む。このような方法は、直交tRNA−合成酵素対に頼らずに、センスコドンを使用することによって数多くの非天然アミノ酸を組み込むことを可能にする。本発明は、無細胞合成システムを用いて、タンパク質の事前に選択された位置に非天然アミノ酸を導入するインビトロにおける方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、米国特許法第1.119(e)項の下、2009年1月12日に出願された米国仮特許出願61/144,097号、61/144,083号、および61/144,03号の利益を主張し、これらは各々あらゆる目的のために、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
連邦支援の研究開発の下に行われた発明の権利に関する陳述
該当せず
コンパクトディスクにて提出する「配列表」、表またはコンピュータプログラム一覧の補遺への言及
該当せず
【背景技術】
【0003】
発明の背景
タンパク質合成は、ポリペプチド治療学、ワクチン、診断学および工業用酵素の開発の基礎をなす基本的な生物学的プロセスである。組換えDNA(rDNA)技術の登場により、所望のタンパク質を生成するために細胞の触媒機構を利用することが可能になった。これは、細胞に由来する溶解産物を用いて細胞環境内またはインビトロにおいて達成することができる。
【0004】
天然には20種のアミノ酸だけがタンパク質に組み込まれるので、所望のタンパク質を生成することには限界がある。例えば、治療薬として潜在的に有用なペプチドは、患者内にプロテアーゼが存在する結果として、患者に投与されると直ちに分解されるかまたは別途不活性化されることがある。同様に、細菌またはウイルスなどの感染病原体は、天然に存在するアミノ酸だけを含むペプチドに対して耐性を発達させる可能性が高い。これは、ペプチド薬物を不活性化し得る、細菌またはウイルスによって産生される酵素が、非天然アミノ酸を含むペプチドとは対照的に、天然に存在するアミノ酸を含むペプチドを不活性化する可能性が高いことを理由に生じる。このような限界は、有機小分子(任意の構造変化が生じることによってその化合物の機能的特性が影響され得る)の合成と比較すると、なお明らかである。結果として、治療上使用するためには、非天然アミノ酸を含むタンパク質が有望になってくる。さらに、治療でない研究目的(例えば、タンパク質の構造的および機能的な調査に関する用途、コンビナトリアルケミストリー用のペプチドライブラリーの構築、ならびにプロテオミクス研究)のためには、非天然アミノ酸を含むペプチドが極めて有用である。
【0005】
天然に存在する20種のアミノ酸は、翻訳後修飾によって修飾され得るが、新規の生物学的特性、化学的特性または物理的特性を有するさらなる非天然アミノ酸を含めるように遺伝暗号を拡張することが、そのような新規の非天然アミノ酸を含むタンパク質の有用性を高めることになる。タンパク質の特性としては、そのタンパク質のサイズ、酸性度、求核性、水素結合または疎水性が挙げられ得る。
【0006】
非天然アミノ酸を含むペプチドを合成するために、様々なストラテジーが利用されている。この目的のために、合成ペプチド化学が日常的に用いられている。例えば、非特許文献1を参照のこと。しかしながら、通例の固相ペプチド合成は、通常、100残基未満の小さいペプチドに限定される。最近、ペプチドフラグメントの酵素的ライゲーションおよび天然の化学的ライゲーションが開発されてきたので、より大きなタンパク質を生成することが可能である。しかしながら、これらの方法は、容易に拡大できない。例えば、非特許文献2を参照のこと。
【0007】
遺伝的にコードされた天然または組換えのDNA配列からタンパク質を効率的に合成するためおよび翻訳後修飾するために、生細胞を用いたインビボ翻訳が広く使用されている。しかしながら、タンパク質が封入体内で発現される場合は、フォールディングが非効率になることがある。最も重要なことには、このような方法では、複数の非天然アミノ酸を選択的に組み込むことまたは翻訳後修飾プロセスを制御することが、難しい。
【0008】
インビトロでのタンパク質合成、すなわち無細胞タンパク質合成は、従来のインビボタンパク質発現方法に対して、いくつかの利点を提供する。無細胞システムは、細胞の全部ではないがほとんどの代謝資源を1種類のタンパク質の独占的な生成に向けることができる。さらに、インビトロでは細胞壁および膜成分を欠くということが、合成環境の制御を可能にするので、その点は都合がよい。例えば、発現される遺伝子のコドン使用頻度を反映するようにtRNAレベルを変更することができる。細胞の成長または生存率に関する懸念が無いので、レドックス電位、pHまたはイオン強度もまた、インビボタンパク質合成よりも融通性が高くなるように変更することができる。さらに、適切に折り畳まれた精製タンパク質産物を直接回収することも容易に達成することができる。
【0009】
無細胞システムの生産力は、近年、約5μg/ml−時から約500μg/ml−時に2桁超改善された。このような改善によって、インビトロタンパク質合成は、実験室規模の研究用の実用的な手法になり、ハイスループットタンパク質発現のためのプラットフォーム技術がもたらされた。このことは、インビボでのタンパク質医薬の大規模商業生産に対する代替手段として無細胞技術を使用することの実行可能性をさらに示唆する。
【0010】
非天然アミノ酸をタンパク質に組み込むことについては、インビボとインビトロの両方でのタンパク質合成システムにおいて課題が残っている。この試みの領域における主なハードルは、非天然アミノ酸によるアミノアシル−tRNA合成酵素の認識を促進することである。アミノアシル−tRNA合成酵素は、特定のアミノ酸をその同族(cognate)tRNA分子に結合することを触媒する酵素である。ほとんどの場合、天然に存在する各アミノ酸は、そのアミノ酸をその適切なtRNA分子に対してアミノアシル化する1つの特異的なアミノアシル−tRNA合成酵素を有する(このアミノアシル化はtRNAチャージとして知られる)。遺伝暗号の縮重によって、アミノ酸が1種より多いイソ受容(isoaccepting)センスtRNA分子にチャージされることができるという事実を考慮しているアミノアシル−tRNA合成酵素は、比較的少ない。したがって、タンパク質への非天然アミノ酸の組み込みの成功は、アミノアシル−tRNA合成酵素による非天然アミノ酸の認識に左右され、タンパク質翻訳の忠実度を保証するために、その認識は通常、高い選択性(high selectively)を要求される。アミノアシル化の忠実度は、基質識別の段階と、非同族中間体とタンパク質産物の両方のプルーフリーディングの段階との両方において維持される。
【0011】
1つのストラテジーは、プルーフリーディング機構を欠くという理由で、自然の対応物と構造的に似ている非天然アミノ酸を判別することができないアミノアシル−tRNA合成酵素を用いて非天然アミノ酸をタンパク質に組み込むことであった。アミノアシル−tRNA合成酵素のプルーフリーディング活性が無能であるので、誤って活性化された自然アミノ酸の構造アナログは、この合成酵素の編集機能を免れ得、所望のとおり伸長中のペプチド鎖に組み込まれ得る。例えば、非特許文献3を参照のこと。
【0012】
前述のストラテジーの主な限界は、タンパク質全体にわたって特定の自然アミノ酸に対応するすべての部位が、置き換えられる点である。細胞内の同族の自然アミノ酸を完全に枯渇させることは困難であるので、自然および非天然のアミノ酸の組み込みの程度もばらつき得る。アナログが複数の部位に組み込まれることによってしばしば毒性が生じるので、これらのストラテジーが生細胞における変異タンパク質研究を困難にするという点が、別の限界である。最終的には、ゲノム内のすべての部位において置換が許容されなければならないので、この方法は、一般に通常のアミノ酸に近い構造アナログに対してのみ適用可能である。
【0013】
最近になって、直交tRNA(orthogonal tRNA)、および直交tRNAに所望の非天然アミノ酸をチャージする対応の直交アミノアシル−tRNA合成酵素が、以前の限界を克服するストラテジーとして用いられている。直交tRNAは、正常ではアミノ酸と会合しないコドン(例えば、終止コドンまたは4塩基対コドンなど)と塩基対形成するtRNAである。重要なことには、直交性の成分は、宿主生物内の内因性のtRNA、アミノアシル−tRNA合成酵素、アミノ酸またはコドンのいずれとも交差反応しない。
【0014】
非天然アミノ酸を組み込むために通常使用される直交システムは、アンバーサプレッサー直交tRNAである。終止コドンUAGを認識し、非天然アミノ酸で化学的にアミノアシル化されるサプレッサーtRNAが、このシステムを用いるときに調製される。従来の部位特異的突然変異誘発を用いることにより、そのタンパク質遺伝子の目的の部位に終止コドンTAGが導入される。アミノアシル化されたサプレッサーtRNAと変異遺伝子とが、インビトロ転写/翻訳システムにおいて組み合わされるとき、非天然アミノ酸が、そのUAGコドンに応答して組み込まれて、指定の位置に非天然アミノ酸を含むタンパク質が生じる。例えば、非特許文献4を参照のこと。所望の非天然アミノ酸が、UAGコドンによって指定された位置に組み込まれるという証拠、およびその非天然アミノ酸が、そのタンパク質内の他のいずれの部位にも組み込まれないという証拠が示されている。例えば、非特許文献5;非特許文献6を参照のこと。非天然アミノ酸を組み込む直交性の翻訳システム、ならびにそれらの生成および使用のための方法に関するさらなる考察については、非特許文献7;非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10;および非特許文献11もまた参照のこと。
【0015】
しかしながら、直交性の成分を用いた非天然アミノ酸の組み込みは、終結因子と競合する本質的に非効率的なサプレッサーtRNAに頼っているので、収率の低さに悩まされる。さらに、異なる20種類のアミノアシル−tRNA合成酵素のtRNAチャージ活性およびプルーフリーディング活性によって触媒される、自然アミノ酸からのアミノ酸センスコドンにおける競合を理由に、ならびに第2の終止コドン(UGA)を使用する試みがリボソームによる読み過ごしに起因して失敗することが多いことを理由に、非天然アミノ酸を組み込むために直交性の成分を使用することは、3種類のナンセンス終止コドンのうちのただ1つ(UAGアンバー終止コドン)における、1つのタンパク質あたりただ1つの非天然アミノ酸の選択的組み込みに制限されている。例えば、非特許文献12を参照のこと。
【0016】
センスコドンを認識するtRNAを用いて非天然アミノ酸をタンパク質に組み込む試みがいくつか行われたが、そのような試みは、純粋な再構成インビトロ翻訳システムを用いて行われた。非特許文献13;Forsterら、特許文献1を参照のこと。しかしながら、そのような純粋な再構成翻訳システムは、精製された翻訳成分を必要し、これは、研究の状況を除いては非現実的であって非常に費用のかかるものであり、高度に効率的であると示されていない。
【0017】
当該分野では、直交tRNA/アミノアシル−tRNA合成酵素対を回避することができ、非天然アミノ酸でアミノアシル化された天然のイソ受容tRNAが、センスコドンを認識し、続いてそのセンスコドンによって規定される位置に非天然アミノ酸を伸長中のポリペプチド鎖に組み込み、数多くの非天然アミノ酸が、規定の位置に組み込まれ得、純粋な再構成インビトロ翻訳システムの非実用性、費用および非効率性を回避する粗製の無細胞タンパク質合成システムを使用することができる、非天然アミノ酸を伸長中のポリペプチド鎖に組み込む必要性が存在する。以下の開示を検討すると明らかになるように、本明細書中に記載される発明は、これらおよび他の要求を満たすものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第6,977,150号明細書
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Eckertら、Cell 99:103−15(1999)
【非特許文献2】Dawson and Kent,Annu.Rev.Biochem.69:923(2000)
【非特許文献3】Doringら、Science 292:501(2001)
【非特許文献4】Sayersら、Nucleic Acids Res.16:791−802(1988)
【非特許文献5】Norenら、Science 244:182−88(1989)
【非特許文献6】Ellmanら、Science 255:197−200(1992)
【非特許文献7】Wang and Schultz,Chem.Commun.1:1−11(2002)
【非特許文献8】Xie and Schultz,Methods 36:227−38(2005)
【非特許文献9】Xie and Schultz,Curr.Opinion in Chemical Biology 9:548−554(2005)
【非特許文献10】Wangら、Annu.Rev.Biophys.Biomol.Struct.35:225−49(2006)
【非特許文献11】Xie and Schultz,Nat.Rev.Mol.Cell Biol.7:775−82(2006)
【非特許文献12】Cloadら、Chem.and Biol.3:1033−38(1996)
【非特許文献13】Tanら、Methods 36:279−90(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
発明の簡単な要旨
本発明は、無細胞合成システムを用いて、タンパク質の事前に選択された位置に非天然アミノ酸を導入するための方法を開示し、この方法は、1)縮重センスコドンを含む核酸鋳型を得る工程、2)細胞集団を溶解することにより、天然アミノアシル−tRNA合成酵素が枯渇した細胞溶解産物を得る工程、3)第1イソ受容センスtRNAを選択的にアミノアシル化する外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を溶解産物に加える工程、4)別個のtRNAチャージ反応において第2イソ受容センスtRNAをアミノアシル化する工程(前記第2イソ受容センスtRNAは、非天然アミノ酸でチャージされる)、5)それぞれの非天然アミノ酸でチャージされた第2イソ受容センスtRNAおよび核酸鋳型を細胞溶解産物に加え、その反応物が、鋳型の第2センスコドンに対応する位置に非天然アミノ酸を有するタンパク質を生成することを可能にする工程を包含する。
【0021】
より詳細には、本発明は、無細胞合成システムを用いて、タンパク質の事前に選択された位置に非天然アミノ酸を導入するインビトロにおける方法であって、この方法は:
a)縮重センスコドンを含む核酸鋳型を得る工程(第1センスコドンおよび第2センスコドンは、同じ天然アミノ酸に対応するが、それぞれのヌクレオチド配列が異なる);
b)細胞集団を溶解することにより、細胞溶解産物を得る工程(前記溶解産物は、前記天然アミノ酸をアミノアシル化する天然アミノアシル−tRNA合成酵素が枯渇されている);
c)核酸鋳型の第1センスコドンに対応する第1イソ受容センスtRNAを選択的にアミノアシル化する第1外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を溶解産物に加える工程;
d)非天然アミノ酸および核酸鋳型の第2センスコドンに対応する第2イソ受容センスtRNAを含むチャージ反応混合物(charging reaction mixture)を含む反応容器に触媒性アミノアシル化剤を加える工程;
e)第2イソ受容センスtRNAを非天然アミノ酸でアミノアシル化することにより、tRNA:非天然アミノ酸をチャージした部分(non−native amino acid charged moiety)を得る工程;
f)工程2の細胞溶解産物を:
1)tRNA:非天然アミノ酸をチャージした部分;および
2)第1および第2センスコドンを含む核酸鋳型
と、鋳型からタンパク質を生成するのに適切な条件下で混合する工程;および
g)その反応物が、核酸鋳型の第2センスコドンに対応する位置に非天然アミノ酸を有するタンパク質を生成することを可能にする工程
を包含する。
【0022】
溶解する前に細胞集団を変化させることによる天然アミノアシル−tRNA合成酵素の上記方法が、必要に応じて行われ、ここで、その変化とは、天然アミノアシル−tRNA合成酵素をコードする遺伝子を、捕捉部分に融合された天然アミノアシル−tRNA合成酵素をコードする遺伝子で置き換えるものである。この方法は、捕捉部分でタグ化された天然アミノアシル−tRNA合成酵素を用いて行われ得、ここで、その合成酵素は、細胞溶解産物を形成する細胞と異種である。タグ化された天然アミノアシル−tRNA合成酵素は、アフィニティークロマトグラフィー、イムノアフィニティークロマトグラフィーまたは免疫沈降によって除去され得る。天然アミノアシル−tRNA合成酵素は、捕捉部分でタグ化されずに免疫沈降によって必要に応じて除去され得る。第2イソ受容センスtRNA分子をアミノアシル化するtRNAチャージ反応は、アミノアシル−tRNA合成酵素またはリボザイムを触媒性アミノアシル化剤として利用し得る。第1外因性アミノアシル−tRNA合成酵素は、合成されて溶解産物混合物に加えられてもよいし、溶解前に第1外因性アミノアシル−tRNA合成酵素をコードする遺伝子で細胞を形質転換した結果として加えられてもよい。
【0023】
関連方法において、本発明は:
a)細胞溶解産物を生成するために使用される細胞を、天然アミノアシル−tRNA合成酵素の発現を阻害するように変化させることによって、細胞溶解産物から天然アミノアシル−tRNA合成酵素を枯渇させる工程;
b)第1遺伝子および第2遺伝子で前記細胞を形質転換する工程(前記第1遺伝子は、第1外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を発現し、前記第2遺伝子は、第2イソ受容センスtRNAを選択的にアミノアシル化する第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を発現する);および
c)細胞溶解産物から第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を枯渇させる工程
によって実施される。
【0024】
上記方法は、A.ferrooxidans由来の第1および第2アミノアシル−tRNA合成酵素を用いて行われることが好ましい。前記天然アミノアシル−tRNA合成酵素遺伝子を変異させることによって天然アミノアシル−tRNA合成酵素が枯渇される上記方法が、実施され得る。第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素は、必要に応じて、前記合成酵素を捕捉部分に融合し、アフィニティークロマトグラフィー、イムノアフィニティークロマトグラフィーまたは免疫沈降によって前記合成酵素を枯渇させることによって行われる。第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素は、前記外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を認識する抗体を用いる免疫沈降によって枯渇され得る。
【0025】
上記方法は、細菌、好ましくは、大腸菌由来の細胞溶解産物を用いて実施され得る。細胞集団は、ウサギ網状赤血球からなるものであってもよい。さらに、記載される方法は、アルギニンデカルボキシラーゼが枯渇した細胞において行われ得る。
【0026】
本発明はさらに、インビトロタンパク質合成用の無細胞合成溶解産物を提供し、その溶解産物は、1つのアミノ酸に対応する単一のイソ受容センスtRNAだけを選択的にアミノアシル化する外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を含み、前記アミノ酸に対応する天然アミノアシル−tRNA合成酵素が枯渇している。この溶解産物は、細菌細胞、好ましくは、大腸菌由来であり得る。上記溶解産物は、ウサギ網状赤血球由来であり得る。上記溶解産物は、必要に応じて、アルギニンデカルボキシラーゼを含まないことがあるか、機能的な酸化的リン酸化システムを示し得るか、消泡剤を含み得るか、またはタンパク質をコードし、かつアミノ酸に対して縮重センスコドンを含む核酸鋳型を含み得る。
【0027】
本発明はさらに、無細胞合成システムを用いて、タンパク質の事前に選択された位置に非天然アミノ酸を導入するための方法を開示し、この方法は、1)縮重センスコドンを含む核酸鋳型を得る工程、2)細胞集団を溶解することにより、細胞溶解産物を得る工程、3)第2センスコドンを認識するイソ受容tRNAを不活性化する工程、4)別個のtRNAチャージ反応において第2イソ受容センスtRNAをアミノアシル化する工程(前記第2イソ受容センスtRNAは、非天然アミノ酸でチャージされる)、5)それぞれの非天然アミノ酸でチャージされた第2イソ受容センスtRNAおよび核酸鋳型を細胞溶解産物に加え、その反応物が、鋳型の第2センスコドンに対応する位置に非天然アミノ酸を有するタンパク質を生成することを可能にする工程を包含する。
【0028】
より詳細には、本発明は、さらに:
a)縮重センスコドンを含む核酸鋳型を得る工程(第1センスコドンおよび第2センスコドンは、同じ天然アミノ酸に対応するが、それぞれのヌクレオチド配列が異なる);
b)天然アミノアシル−tRNA合成酵素を含む細胞溶解産物を生成する工程(前記合成酵素は、核酸鋳型の第1センスコドンに対応する第1イソ受容センスtRNAと、核酸鋳型の第2センスコドンに対応する第2イソ受容センスtRNAの両方をアミノアシル化する能力を有する);
c)核酸鋳型の第2センスコドンに対応する天然の第2イソ受容センスtRNAを不活性化する工程;
d)非天然アミノ酸および核酸鋳型の第2センスコドンに対応する第2イソ受容センスtRNAを含むチャージ反応混合物を含む反応容器に触媒性アミノアシル化剤を加える工程;
e)第2イソ受容センスtRNAを非天然アミノ酸でアミノアシル化することにより、tRNA:非天然アミノ酸をチャージした部分を得る工程;
f)細胞溶解産物を:
1)tRNA:非天然アミノ酸をチャージした部分;および
2)第1および第2センスコドンを含む核酸鋳型
と、鋳型からタンパク質を生成するのに適切な条件下で混合する工程;および
g)反応物が、核酸鋳型の第2センスコドンに対応する位置に非天然アミノ酸を有するポリペプチドを生成することを可能にする工程
を開示する。
【0029】
第2イソ受容tRNAが不活性化される1つの実施形態において、前記不活性化は、天然の第2イソ受容センスtRNAに選択的に結合するアンチセンスDNAを加えることによって実施される。いくつかの実施形態において、第2イソ受容センスtRNAは、天然の第2イソ受容センスtRNAを選択的に切断する特異的なtRNAリボヌクレアーゼまたはその活性なフラグメントを加えることによって不活性化される。いくつかの実施形態において、第2イソ受容センスtRNAは、コリシンDまたはコリシンDの活性なフラグメントを加えることによって不活性化される。
【0030】
さらに、事前に選択されたアミノ酸を有するチャージしたtRNAを有し、センスコドンを認識し、かつ事前に選択されたアミノ酸を有するチャージしたtRNAに対して著しい合成酵素活性を有しない、細菌細胞溶解産物を含むチャージしたtRNA溶液を、本発明は提供し、そのチャージしたtRNA溶液は、特異的または非特異的な合成酵素インヒビターを含まない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、(a)インビトロ転写のために使用される
【0032】
【化1】

HDVリボザイムプラスミドDNA鋳型、(b)T7プロモーター、デルタ肝炎ウイルス(HDV)リボザイム配列に融合された
【0033】
【化2】

コード配列の方向を詳述しているDNA鋳型のフラグメント、および(c)その結果得られる、赤色のアンチコドン配列GAAを有する大腸菌イソ受容
【0034】
【化3】

転写物の二次構造(下付き文字は、対応するアンチコドン配列を表す)を示している。
【図2】図2は、新規nnAA−tRNAを生成するために必要な工程を図示しているプロセスの流れ図を示しており、そのプロセスは、(a)tRNA−HDVリボザイムDNA鋳型のインビトロ転写、(b)サイズ排除クロマトグラフィーによるtRNA2,3’−環状リン酸の単離、(c)T4ポリヌクレオチドキナーゼ(PNK)を用いたtRNA2,3’−環状リン酸の酵素的加水分解、および(d)操作されたアミノ酸tRNA合成酵素(aaRS)によって触媒される、操作されたイソ受容tRNAのnnAAでのアミノアシル化を包含する。
【図3】図3は、異なる2つの操作された大腸菌
【0035】
【化4】

構築物のインビトロ転写の最適化のために使用されたプロトコル1〜4に対するTBE/尿素ゲルを示している。両方の構築物が、U34Cにおいて変異していることにより、UCアンチコドンを生成し;右側の構築物は、理論的に転写収量を高めるはずのさらなる著明な変異を含む。
【図4】図4は、それぞれ大腸菌およびピロリ菌に由来する異なる2つの操作された
【0036】
【化5】

構築物に対するインビトロ転写プロトコル1〜4のTBE/尿素ゲルを示している。
【図5】図5は、(a)3’の均一なtRNAを生成するために使用されるデルタ肝炎ウイルス(HDV)コンセンサス配列の図示を示している。その自己触媒性リボザイムは、tRNAの3’末端で切断して、2’,3’−環状リン酸をもたらし、それはその後、アミノアシル化の前に除去される。(b)自己切断されたHDVリボザイムと73ヌクレオチドのtRNA2’,3’−環状リン酸産物との分離を図示している転写産物のサイズ排除クロマトグラフィー分離。
【図6】図6は、RNA安定性に対する様々な添加物の影響を示している。
【図7】図7は、(a)酸/尿素ゲル電気泳動を用いた反応物および生成物の分離、または(b)マラカイトグリーンリン酸塩放出アッセイを使用することによって測定された、PNK処理によるtRNA2’−3’−環状リン酸の脱リン酸化の時間依存性を示している。
【図8】図8は、非天然アミノ酸(nnAA)でtRNAをチャージするために使用された(a)大腸菌GluRS 6×Hisおよび(b)ピロリ菌GluRS2(ND)酵素のIMAC精製プロファイルを示している。
【図9】図9は、(a)A294Gを含むアミノ酸認識部位およびアンチコドン認識部位を図示している相同のT.thermophilus PheRSの二量体の構造、(b)6×Hisでタグ化されたPheS(A294G)ドメインによる二量体複合体のプルダウン(pull−down)を示している、無細胞生成されたPheRS(A294G)のIMAC精製プロファイルを示している。
【図10】図10は、無細胞タンパク質合成によって生成されたいくつかのPheRS(A294G、A794X)バリアントの精製を示している。
【図11】図11は、PheRS(A294G)によって30分間触媒された[30−3P]
【0037】
【化6】

のPheアミノアシル化のパーセントの解析を示している。(b)
【0038】
【化7】

の(a)P1ヌクレアーゼ消化によって[32P]Phe−AMPがもたらされ、それは、PEIセルロースTLCプレート上で遊離[32P]AMPから分離され得、オートラジオグラフィーを用いて像を得ることができる。
【図12】図12は、様々な条件下でPheRS(A294G)によって触媒された
【0039】
【化8】

バリアントのパラ−アセチルPhe(pAF)アミノアシル化のパーセントの解析(末端標識された[32P]−3’tRNAを用いるオートラジオグラフィーによって測定したもの)を示している。
【図13】図13は、オートラジオグラフィーによって測定したときの、(a)
【0040】
【化9】

および(b)
【0041】
【化10】

の形成の時間依存性を示している。
【図14】図14は、(a)最適化された条件下で[32P]−3’tRNA末端標識アッセイを用いて測定したとき、大腸菌GluRSが
【0042】
【化11】

を同族のグルタメートで強くアミノアシル化し得ることを示している。モノ−フルオログルタメート(F−Glu)AMPは、これらのクロマトグラフィー条件下では[32P]−AMPと分離されない。(b)ピロリ菌GluRS2(ND)は、ピロリ菌
【0043】
【化12】

をGluおよびF−Gluでアミノアシル化し得るが、F−Glu AMPは、これらのクロマトグラフィー条件下ではAMPと分離されない。
【図15】図15は、(a)疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いた、
【0044】
【化13】

からの、アミノアシル化された
【0045】
【化14】

との分離、および(b)酸−尿素ゲル電気泳動による、アミノアシル化された
【0046】
【化15】

2’,3’環状リン酸のクロマトグラフィーの移動度を示している。
【図16】図16は、疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いた、(a)アミノアシル化された
【0047】
【化16】


【0048】
【化17】

との分離、および(b)
【0049】
【化18】


【0050】
【化19】

との分離を示している。
【図17】図17は、酸/尿素ゲル電気泳動によって測定されたときの、(a)野生型大腸菌tRNAGluおよび(b)インビトロにおいて転写された大腸菌
【0051】
【化20】

が、モノ−フルオログルタメートで強くチャージされ得ることを示している。
【図18】図18は、抽出物に加えられたリジン、フェニルアラニンまたはグルタミン酸の濃度に対するGMCSFの無細胞合成収量を示している。
【図19】図19は、(a)操作されたイソ受容tRNAの内因性大腸菌PheRSによるバックグラウンドリチャージを含む、無細胞合成反応における蛍光turboGFPへの非天然アミノ酸の組み込みに関与する種の線図、(b)PheRSの活性部位特異的インヒビターである5’−O−[N−(フェニルアラニル)スルファモイル]アデノシン,Phe−SAの化学構造、および(c)加えられたインヒビターPhe−SA(IC50=0.8nM)またはGlu−SA(IC50=54nM)に応じた、turboGFPの無細胞合成の速度の阻害に対するIC50の測定を示している。
【図20】図20は、turboGFP無細胞合成の速度に対する、加えられたPheアミノ酸と[Phe−SA]インヒビターとの関係を記載している反応表面を示している。
【図21】図21は、モノチャージ組み込みを説明している模式図を示している。
【図22】図22は、50位におけるパラ−アセチルフェニルアラニン(pAF)の組み込みを確立するために使用されたturboGFP Y50TAGアンバーサプレッサータンパク質の顕著な特色を図示している。
【図23】図23は、様々な濃度のPhe−SAインヒビターの存在下における、GFP発色団の上流に位置するアンバー(UAG)コドンの抑制に対する、蛍光レポーターとしてのturboGFPY50TAGの無細胞合成についての時間経過を示している。チャージされていない約20μMの
【0052】
【化21】

またはおよそ70%のチャージした
【0053】
【化22】

を、時間ゼロにおいて反応物に加えた。(●)は、turboGFPY50コントロールである。
【図24】図24は、(a)
【0054】
【化23】

の構造、(b)
【0055】
【化24】

の存在下において行われた無細胞反応物のSDS PAGE解析、および(c)蛍光性のタンパク質合成反応産物の逆相HPLC精製を示している。
【図25】図25は、pAFを組み込むためのタンパク質の無細胞翻訳における、アミノ酸と、tRNA合成酵素と、イソ受容(isoaaccepting)tRNAとの間の様々な同族相互作用(太い黒線)、非同族相互作用(細い灰色線)または弱い非同族相互作用(太い灰色線)を示している。PheRSおよびPheと
【0056】
【化25】

との弱い非同族相互作用は、図23に示されるようなturboGFPY50TAG鋳型を含む無細胞合成反応物に
【0057】
【化26】

が加えられたときに観察された低速のタンパク質合成として反映される。
【図26】図26は、改変され、コドン交換されたGM−CSF遺伝子が、TTT Phe120位におけるpAFの組み込みのために使用されることを示している。
【図27】図27は、GM−CSFへのp−アセチル(acety)Pheの組み込みの逆相HPLC解析の結果を示している。
【図28】図28は、本明細書中に記載されるような無細胞タンパク質合成システムを示している概略図である。この実施例では、天然アミノアシル−tRNA合成酵素は、細胞溶解前に枯渇され、2種類の外因性アミノアシル−tRNA合成酵素(その各々が、異なるイソ受容センスtRNA分子を認識する)で置き換えられている。天然aaRSとは、天然アミノアシル−tRNA合成酵素のことを指す。外因性aaRSおよびaaRSとは、外因性アミノアシル−tRNA合成酵素のことを指す。tRNAとは、第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素によって特異的にチャージされる第2イソ受容センスtRNAのことを指す。NAAは、天然アミノ酸を表し、nnAAは、非天然アミノ酸を表す。
【図29】図29は、本明細書中に記載されるような無細胞タンパク質合成システムを示している概略図である。この実施例では、天然アミノアシル−tRNA合成酵素は、細胞溶解後に枯渇され、第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素が、宿主細胞集団において発現される。省略形は、図27において使用されたものと同じである。
【発明を実施するための形態】
【0058】
発明の詳細な説明
I.緒言
本発明は、無細胞合成システムを用いて、タンパク質の事前に選択された位置に非天然アミノ酸を組み込む新規手段を提供する。本方法は、遺伝暗号によってコードされる非直交性で天然のイソ受容センスtRNAの使用を含む。このような方法は、直交アミノアシル−tRNA合成酵素に頼らずに、センスコドンを使用することによって数多くの非天然アミノ酸を組み込むことを可能にする。
【0059】
本発明にとって重要なことは、そのようなtRNAが、本来、天然では同じアミノ酸でチャージされるにもかかわらず、天然または非天然のアミノ酸をタンパク質に差次的に組み込むイソ受容センスtRNAを利用することである。本発明は、天然アミノ酸をタンパク質に組み込む(incorporative)能力を損なわずに、mRNAセンスコドン配列に基づいて非天然アミノ酸を伸長中のポリペプチド鎖に組み込むために遺伝暗号の縮重を活用する。細胞を溶解した後、タンパク質合成に必要なすべての細胞成分を含む溶解産物を作製する。次いで、非天然アミノ酸が組み込まれる位置を指定するセンスコドンを有する核酸鋳型を加える。天然アミノアシル−tRNA合成酵素は、一般に、両方のイソ受容センスtRNAをチャージする能力を有するので、いくつかの実施形態では、タンパク質合成反応の前に目的の天然アミノアシル−tRNA合成酵素が溶解産物から枯渇されることにより、チャージされていないイソ受容センスtRNA分子が、望まれないアミノ酸でチャージされることが防がれる。天然アミノ酸でチャージされる第1イソ受容センスtRNAは、溶解産物中で直接チャージされる。天然アミノアシル−tRNA合成酵素が枯渇される実施形態では、第1イソ受容センスtRNAだけを選択的にチャージする第1外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を溶解産物に加えることが必要である。その第1外因性アミノアシル−tRNA合成酵素は、細胞を溶解する前に宿主細胞集団において発現されていてもよいし、細胞を溶解した後に溶解産物に直接加えられてもよい。他の実施形態では、天然アミノアシル−tRNA合成酵素が、枯渇されない。代わりに、第2イソ受容tRNAが不活性化され、そして天然アミノアシル−tRNA合成酵素が、単純に、第1イソ受容tRNAをチャージするように放置される。
【0060】
第2イソ受容tRNAは、別個のtRNAチャージ反応において非天然アミノ酸でチャージされ、アミノアシル化される。タンパク質合成反応とは別の反応において非天然アミノ酸だけが、1種類のイソ受容センスtRNAにチャージされるので、本発明のこの局面は、「モノチャージ(mono charging)」と呼ばれる。アミノアシル−tRNA合成酵素が別個のチャージ反応のために利用されるか否かに関係なく、tRNA分子をアミノアシル化するいずれの方法も十分である。例えば、精製リボザイムまたは任意の機能的なアミノアシル−tRNA合成酵素が、第2イソ受容センスtRNA分子を別々にチャージするために使用され得る。次いで、非天然アミノ酸でチャージされた第2イソ受容センスtRNAが、チャージ反応混合物から精製される(その精製は、その反応容器において使用され得る任意のアミノアシル−tRNA合成酵素からの単離を含む)。次いで、非天然アミノ酸でアミノアシル化された上記精製イソ受容センスtRNA分子が、溶解産物に加えられ、イソ受容センスtRNAによって認識される様々な配列によって指定される位置に天然アミノ酸と非天然アミノ酸の両方を含む所望のタンパク質を生成するように、タンパク質合成反応が起きる。
【0061】
非天然アミノ酸を含むタンパク質の用途には、タンパク質の構造および/または機能の所望の変更が含まれ、その変更としては、サイズ、酸性度、求核性、水素結合、疎水性またはプロテアーゼ標的部位の到達性の変更が挙げられ得る。非天然アミノ酸を含むタンパク質は、向上した触媒的特性もしくは物理的特性または全く新しい触媒的特性もしくは物理的特性(例えば、改変された、毒性、体内分布、構造的特性、分光学的特性、化学的特性および/または光化学的特性、触媒能、血清半減期、ならびに他の分子と共有結合的または非共有結合的に反応する能力)を有し得る。少なくとも1つの非天然アミノ酸を含むタンパク質は、以下に限定されないが、新規の治療学、診断学、触媒性酵素、結合タンパク質、ならびにタンパク質の構造および機能の研究に有用である。
【0062】
本発明の無細胞で非天然アミノ酸を組み込む方法は、当該分野において以前に使用されていた非天然アミノ酸の組み込み方法と異なる。最も著しくは、本発明は、センスコドンを認識するイソ受容tRNAを使用するものであり、非天然アミノ酸を組み込むために、直交tRNAおよび直交アミノアシル−tRNA合成酵素を利用しなければならないという必要性を回避するものである。直交tRNAの使用は、本質的に非効率的なサプレッサーtRNAに頼るものである。この非効率性は、終結因子と競合する本質的に非効率的なサプレッサーtRNAに加えて、異なる20種類のアミノアシル−tRNA合成酵素のtRNAチャージ活性およびプルーフリーディング活性によって触媒される自然アミノ酸による非直交センスコドンでの競合の結果(result competition)である。このことにより、3種類の終止コドンのうちのただ1つ:UAG「アンバー」コドンにおいて、1つのタンパク質あたりただ1つの非天然アミノ酸の選択的な組み込みがもたらされる。そのうえ、アンバー終止コドンを利用して非天然アミノ酸を組み込む直交タンパク質合成システムは、リボソームによる読み過ごしに起因して、第2終止コドンにおいて終結しないことが多い。例えば、Cloudら、Chem.and Biol.3:1033−38(1996)を参照のこと。非天然アミノ酸を組み込むためにセンスコドンの認識を利用する試みが行われているが(例えば、Tanら、Methods 36:279−90(2005);Forsterら、米国特許第6,977,150号を参照のこと)、そのような純粋な再構成翻訳システムは、精製された翻訳成分を必要とし、これは、研究の状況を除いては非現実的であって非常に費用のかかるものであり、高度に効率的であると示されていない。
【0063】
本タンパク質合成反応は、上に記載したような所望のタンパク質をコードする核酸を得る工程、天然アミノアシル−tRNA合成酵素を欠くが、イソ受容センスtRNAをチャージすることができるアミノアシル−tRNA合成酵素を含む、上に記載したような溶解産物を得て、そのイソ受容センスtRNAが、溶解産物中で直接、天然アミノ酸でチャージされることを可能にする工程、別個のtRNAチャージ反応において非天然アミノ酸でチャージされた別のイソ受容センスtRNAを得る工程、ならびに核酸および非天然アミノ酸でチャージされたイソ受容センスtRNAを細胞溶解産物と混合することにより、タンパク質合成反応混合物を形成する工程によって実施される。
【0064】
改変タンパク質は、所望のタンパク質、選択されたタンパク質または標的タンパク質とも呼ばれ得る。本明細書中で使用されるとき、改変タンパク質とは、通常、約5より多いアミノ酸を有する任意のペプチドまたはタンパク質のことを指す。改変タンパク質は、所定の部位に少なくとも1つの非天然アミノ酸を含み、複数の非天然アミノ酸を含み得る。非天然アミノ酸が、ポリペプチド内の2つ以上の部位に存在する場合、それらの非天然アミノ酸は、同じであり得るか、または異なり得る。非天然アミノ酸が異なる場合、各非天然アミノ酸に対するtRNAコドンもまた、異なる。
【0065】
改変タンパク質(例えば、細菌の無細胞抽出物において生成される、ヒトタンパク質、ウイルスタンパク質、酵母タンパク質など)は、無細胞溶解産物が由来する細胞と同種であってもよいし、異種、すなわち、外来であることを意味する外因性であってもよい。改変タンパク質としては、分子、例えば、レニン、ヒト成長ホルモンを含む成長ホルモン;ウシ成長ホルモン;成長ホルモン放出因子;副甲状腺ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポタンパク質;アルファ−1−抗トリプシン;インスリンA鎖;インスリンB鎖;プロインスリン;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体形成ホルモン;グルカゴン;凝固因子(例えば、第VIIIC因子、第IX因子、組織因子およびフォン・ビルブラント因子);プロテインCなどの抗凝固因子;心房性ナトリウム利尿因子;肺サーファクタント;プラスミノゲンアクチベーター(例えば、ウロキナーゼまたはヒト尿もしくは組織型プラスミノゲン活性化因子(t−PA));ボンベシン;トロンビン;造血成長因子;腫瘍壊死因子−アルファおよび−ベータ;エンケファリナーゼ;RANTES(regulated on activation normally T−cell expressed and secreted);ヒトマクロファージ炎症性タンパク質(MIP−1−アルファ);ヒト血清アルブミンなどの血清アルブミン;ミュラー管抑制物質;レラキシンA鎖;レラキシンB鎖;プロレラキシン;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;ベータ−ラクタマーゼなどの微生物タンパク質;DNase;インヒビン;アクチビン;血管内皮成長因子(VEGF);ホルモンまたは成長因子に対するレセプター;インテグリン;プロテインAまたはD;リウマチ因子;神経栄養因子(例えば、骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3、−4、−5または−6(NT−3、NT−4、NT−5またはNT−6))またはNGF−(3などの神経成長因子;血小板由来成長因子(PDGF);aFGFおよびbFGFなどの線維芽細胞成長因子;上皮成長因子(EOF);トランスフォーミング成長因子(TGF)(例えば、TGF−アルファおよびTGF−ベータ(TGF−(31、TGF−(32、TGF−(33、TGF−(34,またはTGF−(35を含む));インスリン様成長因子−Iおよび−II(IGF−IおよびIGF−II);des(l−3)−IGF−I(脳IGF−I)、インスリン様成長因子結合タンパク質;CDタンパク質(例えば、CD−3、CD−4、CD−8およびCD−I9);エリトロポイエチン;骨誘導因子(osteoinductive factors);免疫毒素;骨形成タンパク質(BMP);インターフェロン(例えば、インターフェロン−アルファ、−ベータおよび−ガンマ);コロニー刺激因子(CSF)、例えば、M−CSF、GM−CSFおよびG−CSF;インターロイキン(IL)、例えば、IL−1〜IL−10;スーパーオキシドジスムターゼ;T細胞レセプター;表面膜タンパク質;崩壊促進因子;ウイルス抗原、例えば、AIDSエンベロープの一部;輸送タンパク質;ホーミングレセプター;アドレシン;調節タンパク質;抗体;および上に列挙したポリペプチドのいずれかのフラグメントが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0066】
II.定義
「アミノアシル化」または「アミノアシル化する」とは、tRNAがその正しいアミノ酸で「チャージされる」完全なプロセス(アミノアシル基を化合物に付加する結果であるプロセス)のことを指す。「アミノアシル化」または「アミノアシル化する」が本発明に関係するとき、アミノアシル化を受けるtRNAまたはアミノアシル化されたtRNAは、アミノ酸でチャージされたtRNAであり、アミノアシル化を受けるアミノ酸またはアミノアシル化されたアミノ酸は、tRNA分子にチャージされたアミノ酸である。
【0067】
「アミノアシル−tRNA合成酵素」または「tRNA合成酵素」または「合成酵素」または「aaRS」または「RS」とは、アミノ酸とtRNA分子との間の共有結合を触媒する酵素のことを指す。これは、エステル結合を介して付着されたそれぞれのアミノ酸を有するtRNA分子である、「チャージされた」tRNA分子または「アミノアシル化された」tRNA分子をもたらす。
【0068】
「結合部分」とは、タンパク質上に遺伝的に操作されるタグのことを指す。そのようなタグとしては、His−タグ、GFP−タグ、GST−タグ、FLAG−タグなどが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0069】
「捕捉部分」とは、望まれないアミノアシル−tRNA合成酵素を反応混合物から除去することに関与する分子会合の一部である任意の基質またはリガンドのことを指す。そのようなリガンドまたは基質部分としては、抗体、親和性支持体、マトリックス、樹脂、カラム、コーティングされたビーズが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0070】
「触媒性のアミノアシル化試薬」とは、tRNA分子をチャージする能力を有する任意の酵素または分子のことを指す。そのようなアミノアシル化試薬とは、アミノアシル−tRNA合成酵素またはリボザイムカラムのことを指し得るが、これらに限定されない。
【0071】
「無細胞合成システム」とは、生物学的抽出物および/または規定の試薬を含む反応混合物中におけるポリペプチドのインビトロ合成のことを指す。その反応混合物は、高分子、例えば、DNA、mRNAなどを生成するための鋳型;合成される高分子に対するモノマー、例えば、アミノ酸、ヌクレオチドなど;ならびに合成に必要な補因子、酵素および他の試薬、例えば、リボソーム、チャージされていないtRNA、非自然アミノ酸でチャージされたtRNA、ポリメラーゼ、転写因子などを含み得る。
【0072】
「チャージしたtRNA(charged tRNA)」または「アミノアシル化されたtRNA」とは、アミノ酸付着部位において結合されたアミノ酸を有するtRNA分子のことを指す。タンパク質合成中、そのアミノ酸は、伸長中のポリペプチド鎖に運搬され、tRNAを放出する(そのtRNAは、「放出されたtRNA」と呼ばれる)。
【0073】
「チャージ反応混合物」とは、イソ受容センスtRNAがそのそれぞれのアミノ酸でチャージされるインビトロ反応混合物のことを指す。その混合物は、チャージされる特定のコドン配列とともにイソ受容tRNAを含む。自然、非天然および/または恣意的な(arbitrary)tRNAを自然、非天然および/または恣意的なアミノ酸でチャージするための方法は、当該分野で公知であり、その方法としては、化学的アミノアシル化、生物学的ミスアシル化、改変されたアミノアシルtRNA合成酵素によるアシル化、リボザイムベースの方法およびタンパク質核酸に媒介される方法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
「縮重コドン」とは、1種類のアミノ酸が1種類より多いコドンによってコードされ得るような、遺伝暗号の縮重のことを指す。コドンは、アミノ酸を指定する3ヌクレオチド配列である。縮重は、64種類のコドンが存在し得るにもかかわらず、すべてのタンパク質がたった20種類のアミノ酸から構成される結果である。
【0075】
「DNA」とは、共有結合的に結合された、天然に存在するかまたは改変された2つ以上のデオキシリボヌクレオチドの配列のことを指す。
【0076】
「外因性アミノアシル−tRNA合成酵素」とは、細胞溶解産物を生成する細胞によって内因的に産生されない任意のアミノアシル−tRNA合成酵素のことを指す。外因性アミノアシル−tRNA合成酵素は、本発明に関係するとき、宿主細胞内で発現され得る。外因性合成酵素が、宿主細胞内で発現される場合、その外因性合成酵素は、内因性アミノアシル−tRNA合成酵素と協力して機能し得るか、または内因性アミノアシル−tRNA合成酵素が、本明細書中に記載される方法のいずれかによって非機能性にされる場合、その内因性アミノアシル−tRNA合成酵素を機能的に置き換え得る。さらに、外因性アミノアシル−tRNA合成酵素は、発現されて精製され得、続いて、tRNAチャージ反応物または無細胞タンパク質合成反応物に加えられ得る。外因性アミノアシル−tRNA合成酵素は、タンパク質合成抽出物が由来する宿主細胞またはそのような合成酵素を発現することができる他の任意の細胞から精製され得る。外因性アミノアシル−tRNA合成酵素は、組換えの天然アミノアシル−tRNA合成酵素または組換えの非天然アミノアシル−tRNA合成酵素であり得る。
【0077】
「遺伝子」とは、特定の染色体位置を有するDNAの配列からなる遺伝的単位のことを指す。遺伝子は、発現されることにより、タンパク質産物を生成する。
【0078】
「異種」は、本発明に関係するとき、発現される宿主細胞とは異なる種が起源であるアミノアシル−tRNA合成酵素のことを指す。
【0079】
「イソ受容センスtRNA」とは、同じアミノ酸に対する代わりのコドンに結合する様々なtRNA種のことを指す。
【0080】
「溶解産物」は、タンパク質合成機構に必要な成分を含む、任意の細胞に由来する調製物であり、ここで、そのような細胞成分は、所望のタンパク質をコードする核酸を発現することができ、ここで、生物学的成分の大部分は、再構成された濃縮物ではなく、細胞の溶解に起因する濃縮物中に存在する。さらなる細胞成分、例えば、アミノ酸、核酸、酵素などが溶解産物に補充されるように、その溶解産物は、さらに変更され得る。溶解産物はまた、溶解された後にさらなる細胞成分が除去されるように変更され得る。
【0081】
「天然アミノ酸」とは、遺伝暗号によってコードされる天然に存在する1つ以上のアミノ酸のことを指す。「内因性天然アミノ酸」とは、溶解産物を生成するために使用される宿主細胞によって産生される天然アミノ酸のことを指す。
【0082】
「天然アミノアシル−tRNA合成酵素」とは、天然に見られる、宿主細胞のアミノアシル−tRNA合成酵素のことを指す。天然アミノアシル−tRNA合成酵素は、本発明によって規定されるように、合成され得、そして溶解産物またはtRNA反応容器に外因的に加えられ得る。天然アミノアシルtRNA合成酵素としては、植物、微生物、原核生物、真核生物、原生動物、細菌、哺乳動物、酵母、大腸菌またはヒトのうちの1つ以上に由来する自然アミノアシルtRNA合成酵素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
「天然のイソ受容センスtRNA」とは、無細胞タンパク質合成反応のために使用される溶解産物を作製するために使用される細胞の宿主集団によって生成される第1または第2イソ受容センスtRNAのことを指す。
【0084】
「非天然アミノ酸」または「nnAA」とは、すべてのタンパク質に対する構成要素であるが、タンパク質に組み込まれるように生物学的に操作されることが可能な、天然に存在する20種類のアミノ酸のうちの1つではないアミノ酸のことを指す。非天然アミノ酸には、天然に存在する20種類のアミノ酸のうちの1つのD−ペプチドエナンチオマーまたは任意の翻訳後修飾が含まれ得る。多種多様の非天然アミノ酸が、本発明の方法において使用され得る。非天然アミノ酸は、非天然アミノ酸の所望の特徴、例えば、非天然アミノ酸の機能(例えば、タンパク質の生物学的特性(例えば、毒性、体内分布または半減期)、構造的特性、分光学的特性、化学的特性および/または光化学的特性、触媒的特性、他の分子と(共有結合的または非共有結合的に)反応する能力などの改変)に基づいて選択され得る。本発明の方法において使用され得る非天然アミノ酸としては、チロシンアミノ酸の非天然アナログ;グルタミンアミノ酸の非天然アナログ;フェニルアラニンアミノ酸の非天然アナログ;セリンアミノ酸の非天然アナログ;トレオニンアミノ酸の非天然アナログ;アルキル、アリール、アシル、アジド、シアノ、ハロ、ヒドラジン、ヒドラジド、ヒドロキシル、アルケニル、アルキニル(alkynl)、エーテル、チオール、スルホニル(sufonly)、セレノ、エステル、チオ酸、ボレート、ボロネート、ホスホ、ホスホノ、ホスフィン、複素環式、エノン、イミン、アルデヒド、ヒドロキシルアミン、ケトもしくはアミノで置換されたアミノ酸またはそれらの任意の組み合わせ;光活性化可能な架橋剤を有するアミノ酸;スピン標識アミノ酸;蛍光アミノ酸;新規官能基を有するアミノ酸;別の分子と共有結合的または非共有結合的に相互作用するアミノ酸;金属結合アミノ酸;金属含有アミノ酸;放射性アミノ酸;フォトケージド(photocaged)アミノ酸および/または光異化可能な(photoisomerizable)アミノ酸;ビオチン含有またはビオチンアナログ含有アミノ酸;グリコシル化されたアミノ酸または炭水化物で改変されたアミノ酸;ケト含有アミノ酸;ポリエチレングリコールまたはポリエーテルを含むアミノ酸;重原子で置換されたアミノ酸;化学的に切断可能なアミノ酸または光切断可能なアミノ酸;長い側鎖を有するアミノ酸;毒性基を含むアミノ酸;糖で置換されたアミノ酸、例えば、糖で置換されたセリンなど;炭素結合型糖を含むアミノ酸、例えば、糖で置換されたセリンなど;炭素結合型糖を含むアミノ酸;酸化還元活性の1つのアミノ酸;α−ヒドロキシ含有酸;アミノチオ酸含有アミノ酸;α,α二置換アミノ酸;β−アミノ酸;プロリン(praline)以外の環状アミノ酸などが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0085】
「ポリペプチド」または「ペプチド」または「タンパク質」とは、1つ以上のペプチド結合によって結合された2つ以上の天然に存在するアミノ酸のことを指す。
【0086】
「反応容器」とは、tRNAチャージ反応が起きる封じ込め物のことを指す。
【0087】
「リボザイム」とは、化学反応を触媒することができるRNA分子のことを指す。リボザイムは、本発明に関係するとき、アミノアシル−tRNA合成酵素とは無関係の、tRNA分子をチャージするようなアミノアシル化活性を有する。
【0088】
「RNA」とは、2つ以上の共有結合的に結合された、天然に存在するリボヌクレオチドまたは改変されたリボヌクレオチドの配列のことを指す。
【0089】
「センスコドン」とは、アミノ酸を指定する、タンパク質コード配列における1組の3ヌクレオチドのことを指す。センスコドンは、本発明において使用されるとき、終止シグナルまたは終止コドンを含まない。
【0090】
「tRNA」または「転移RNA」とは、翻訳中のタンパク質合成のリボソーム部位において特定のアミノ酸を伸長中のポリペプチド鎖に運搬する小さいRNA分子のことを指す。tRNAは、対応するmRNAコドンと対形成する3塩基コドンを含む。遺伝暗号の縮重の結果として、アミノ酸は、複数のtRNAと会合し得るが、各タイプのtRNA分子は、1タイプのアミノ酸とだけ会合し得る。
【0091】
「tRNAチャージ反応」とは、アミノ酸が自然であるか天然でないかに関係なく、合成された天然tRNAがタンパク質合成反応とは別にそのそれぞれの前記アミノ酸でチャージされる反応のことを指す。
【0092】
「tRNA:非天然アミノ酸をチャージした部分」とは、通常、イソ受容第1tRNA分子に対するイソ受容tRNA分子であるが、天然アミノ酸の代わりに非天然アミノ酸でチャージされたtRNA分子のことを指す。
【0093】
細胞または細胞の集団を「形質転換する」とは、宿主細胞または溶解産物が由来する細胞の遺伝子発現の変更のことを指す。細胞を形質転換するとは、本発明において使用されるとき、組換えタンパク質を発現する外因性核酸配列が導入されるように細胞が変更されるプロセスのことを指す。
【0094】
III.鋳型
本発明のタンパク質を生成するためには、核酸鋳型が必要である。無細胞タンパク質合成用の鋳型は、mRNAまたはDNAであり得る。その鋳型は、任意の特定の目的の遺伝子をコードすることができ、完全長ポリペプチドまたはその任意の長さのフラグメントをコードし得る。鋳型の配列決定に役立つ核酸は、必要に応じて自然の起源に由来するか、または合成もしくは組換えのものであり得る。例えば、DNAは、組換えDNA、例えば、プラスミド、ウイルスなどであり得る。本発明の性質は、非天然アミノ酸を組み込むためにセンスコドンを使用し、当該分野で通常見られるような直交性の成分の必要性を回避する。結果として、本発明の好ましい実施形態は、非天然アミノ酸が組み込まれるために選択されるか否かに関係なく、完全かつ機能的なタンパク質を翻訳することができる鋳型を使用する。
【0095】
目的の遺伝子を含むDNA鋳型は、少なくとも1つのプロモーターおよび1つ以上の他の調節配列(リプレッサー、アクチベーター、転写エンハンサーおよび翻訳エンハンサー、DNA−結合タンパク質などを含むがこれらに限定されない)に作動可能に連結される。本明細書中で使用するための適当量のDNA鋳型は、周知のクローニングベクターおよび宿主において、またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、そのDNAを増幅することによって生成され得る。
【0096】
好ましい実施形態では、細菌の溶解産物が使用される。DNA鋳型は、所望のタンパク質をコードするDNAをプロモーター配列と細菌のリボソーム結合部位(シャイン・ダルガノ(Shine−Delgarno)配列)の両方に作動可能に連結することによって、細菌での発現のために構築される。本発明の無細胞転写−翻訳方法におけるそのDNA鋳型との使用に適したプロモーターには、細菌抽出物が由来する細菌においてインビボで転写を促進することができる任意のDNA配列が含まれる。宿主細胞内で転写を効率的に開始することができるプロモーターが好ましい。所望のタンパク質をコードするDNAならびに所望のプロモーターおよびシャイン・ダルガノ(SD)配列を含むDNAは、当該分野で公知の種々の方法によって調製され得る。あるいは、所望のDNA配列は、既存のクローンから得ることができるか、または利用できるものがない場合は、DNAライブラリーをスクリーニングし、そのライブラリークローンから所望のDNA配列を構築することによって得ることができる。
【0097】
目的のタンパク質をコードするRNA鋳型は、所望の遺伝子のコード配列に作動可能に連結された細菌のリボソーム結合部位(SD配列)を有するmRNAを発現するように構築されたベクターで形質転換された組換え宿主細胞から便利に生成され得、反応混合物中のリボソームは、そのようなmRNAに結合し、翻訳することができる。したがって、そのベクターは、RNA鋳型合成のために使用される特定の宿主細胞においてDNAの転写を促進することができる任意のプロモーターを有する。
【0098】
細菌から未分解のRNAを抽出することは困難であるので、高等真核細胞培養物が、RNA鋳型を生成するために好ましい。原則としては、脊椎動物と無脊椎動物の両方の細胞培養物を含む任意の高等真核細胞培養物が、使用可能である。そのRNA鋳型は、宿主細胞培養物から抽出された全細胞RNA画分として便利に単離され得る。全細胞RNAは、当該分野で公知の任意の方法によって宿主細胞培養物から単離され得る。所望のRNA鋳型が、真核生物宿主細胞によって認識されるポリアデニル化シグナルを3’末端に含むように設計されている場合、そのRNA鋳型は、細胞mRNAのほとんどとともに単離され得る。したがって、その宿主細胞は、ポリアデニレート(ポリ(A))テイルを有するRNA鋳型を生成する。ポリアデニル化されたmRNAは、当該分野で公知の任意の方法を用いるオリゴデオキシチミジレート(オリゴ(dT))−セルロースカラムにおけるアフィニティークロマトグラフィーによって、細胞RNAの大部分から分離され得る。所望のタンパク質をコードするmRNAのサイズが既知である場合、そのmRNA調製物は、そのRNAのアガロースゲル電気泳動によって特定サイズのmRNA分子についてさらに精製され得る。
【0099】
組換え核酸を生成するための適切な分子手法の例、および多くのクローニング(closing)の演習を通して当業者を指導するのに十分な指示は、Berger and Kimmel,Guide to Molecular Cloning Techniques,Methods in Enzymology(Volume 152 Academic Press,Inc.,San Diego,Calif.1987);PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications(Academic Press,San Diego,Calif.1990)に見られる。生物学的試薬および実験機器の製造者からの製品情報もまた、公知の生物学的方法における有用な情報を提供する。そのような製造者としては、SIGMA(Saint Louis,Mo.)、R&D systems(Minneapolis,Minn.)、Pharmacia LKB Biotechnology(Piscataway,N.J.)、Clontech Laboratories,Inc.(Palo Alto,Calif.)、Aldrich Chemical Company(Milwaukee,Wis.)、Invitrogen(San Diego,Calif.)、Applied Biosystems(Fosters City,Calif.)ならびに当業者に公知の他の多くの商業的供給源が挙げられる。
【0100】
IV.溶解産物の生成
本発明は、標的タンパク質のインビトロ翻訳のために細胞溶解産物を利用する。便宜のため、溶解産物の起源として使用される生物は、起源生物または宿主細胞と呼ばれることがある。宿主細胞は、細菌、酵母、哺乳動物もしくは植物の細胞、またはタンパク質合成が可能な他の任意のタイプの細胞であり得る。溶解産物は、所望のタンパク質をコードするメッセンジャーリボ核酸(mRNA)を翻訳することができる成分を含み、必要に応じて、所望のタンパク質をコードするDNAを転写することできる成分を含む。そのような成分としては、例えば、DNA指向性RNAポリメラーゼ(RNAポリメラーゼ)、所望のタンパク質をコードするDNAの転写を開始するために必要な任意の転写アクチベーター、転移リボ核酸(tRNA)、アミノアシル−tRNA合成酵素、70Sリボソーム、N10−ホルミルテトラヒドロ葉酸、ホルミルメチオニン−tRNAfMet合成酵素、ペプチジルトランスフェラーゼ、開始因子(例えば、IF−1、IF−2およびIF−3)、伸長因子(例えば、EF−Tu、EF−TsおよびEF−G)、終結因子(例えば、RF−1、RF−2およびRF−3)などが挙げられる。
【0101】
1つの実施形態において、第1イソ受容tRNAをチャージする第1外因性アミノアシル−tRNA合成酵素が溶解前の宿主細胞において発現されていない溶解産物が調製される。別の実施形態において、第1および第2イソ受容tRNAをチャージするそれぞれ第1と第2の両方の外因性アミノアシル−tRNA合成酵素が溶解前の宿主細胞において発現されている溶解産物が調製される。tRNAチャージ反応の前の必要なアミノアシル−tRNA合成酵素の貯留または枯渇は、この詳細な説明の次の項で論じられる。
【0102】
ある実施形態では、溶解産物が由来する細菌細胞を使用する。任意の菌株の細菌に由来する細菌の溶解産物が、本発明の方法において使用され得る。その細菌の溶解産物は、以下のとおり得ることができる。最適な細菌を、いくつかの培養培地のいずれかにおいて、当該分野で周知でありかつ特定の細菌の成長に対して従事者によって容易に最適化される成長条件下で一晩生育する。例えば、合成のための普通の環境は、グルコースおよびリン酸塩を含む培地中で生育された細菌細胞に由来する細胞溶解産物を利用し、ここで、そのグルコースは、少なくとも約0.25%(重量/体積)、より一般には少なくとも約1%;かつ一般には多くとも約4%、より一般には多くとも約2%の濃度で存在する。そのような培地の例は、2YTPG培地であるが、しかしながら、大腸菌などの細菌の生育に適した多くの培地が公開されているので、当業者は、規定の栄養分の起源と未規定の栄養分の起源の両方を用いて多くの培養液をこの目的のために適応することができることを認識するだろう。細胞ペレットを適当な細胞懸濁緩衝液に懸濁し、懸濁された細胞を超音波処理によって破壊するか、懸濁された細胞を連続的な流動高圧均質化であるフレンチプレスにおいて壊すか、または効率的な細胞溶解に有用な当該分野で公知の他の任意の方法によって、一晩回収された細胞を溶解することができる。次いで、その細胞溶解産物は、遠心分離されるか、または濾過されることにより、大きなDNAフラグメントが除去される。
【0103】
別の実施形態では、溶解産物が由来するウサギ網状赤血球細胞を使用する。網状赤血球溶解産物は、各ロットにおいて信頼できかつ一貫した網状赤血球の生成を保証するフェニルヒドラジンをウサギに注射した後に調製される。その網状赤血球を精製することにより、最終的な溶解産物の翻訳特性を別途変化させ得る混入細胞を除去する。次いで、細胞ペレットを適当な細胞懸濁緩衝液に懸濁し、懸濁された細胞を超音波処理によって破壊するか、懸濁された細胞をフレンチプレスにおいて壊すか、または効率的な細胞溶解に有用な当該分野で公知の他の任意の方法によって、上記細胞を溶解することができる。網状赤血球を溶解した後、内因性mRNAを破壊するがゆえにバックグラウンド翻訳を減少させるために、溶解産物を小球菌ヌクレアーゼおよびCaClで処理する。さらにEGTAを加えることによりCaClをキレートし、それによってそのヌクレアーゼを不活性化する。ヘミンは、開始因子eIF2αのインヒビターの抑制因子であるので、ヘミンもその網状赤血球溶解産物に加えてよい。ヘミンの非存在下では、短時間のインキュベートの後、網状赤血球溶解産物におけるタンパク質合成は、停止する(Jackson,R.and Hunt,T.1983 Meth.In Enzymol.96,50)。酢酸カリウムおよび酢酸マグネシウムが、ほとんどのmRNA種の翻訳に対して推奨されるレベルで加えられる。ウサギ網状赤血球溶解産物の調製に関するさらなる詳細については、当業者は、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.1989)を参照することができる。
【0104】
ある実施形態では、コムギ胚芽溶解産物などの植物溶解産物が使用され得る。一般に、コムギ胚芽溶解産物は、コムギ胚芽を抽出緩衝液中で粉砕した後、遠心分離して細胞残屑を除去することによって調製される。次いで上清を、内因性アミノ酸および翻訳に抑制的である植物色素とクロマトグラフィーによって分離する。また、その溶解産物を小球菌ヌクレアーゼで処理することにより、内因性mRNAを破壊し、バックグラウンド翻訳を最小限にまで減少させる。その溶解産物は、タンパク質合成に必要な細胞成分(例えば、tRNA、rRNAならびに開始因子、伸長因子および終結因子)を含む。その溶解産物は、ホスホクレアチンキナーゼおよびホスホクレアチン(phospocreatine)からなるエネルギー産生システムを加えることによってさらに最適化され、酢酸マグネシウムが、ほとんどのmRNA種の翻訳に対して推奨されるレベルで加えられる。コムギ胚芽溶解産物の調製に関するより詳細については、例えば、Anderson,C.W.ら、Meth.Enzymol.(Vol.101,p.635;1983)によって記載された修正に従うRoberts,B.E.and Paterson,B.M.(1973),Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.Vol.70,No.8,pp.2330−2334)を参照のこと。
【0105】
溶解産物は、Promega Corp.,Madison,Wis.;Stratagene,La Jolla,Calif.;Amersham,Arlington Heights,Ill.;およびGIBCO,Grand Island,N.Y.などの製造者から商業的に入手可能でもある。
【0106】
本発明のいくつかの実施形態において、第1外因性アミノアシル−tRNA合成酵素が、溶解産物に加えられなければならない。この必要性は、溶解後に天然アミノアシル−tRNA合成酵素が枯渇される実施形態、および天然アミノアシル−tRNA合成酵素が、宿主細胞において、各々、特定のイソ受容センスtRNAを認識する2種類のアミノアシル−tRNA合成酵素で置き換えられない実施形態に存在する。この必要性はさらに、第2イソ受容tRNAが不活性化される実施形態に存在する。これらの実施形態では、溶解産物に直接加えられる第1アミノアシル−tRNA合成酵素だけが第1イソ受容センスtRNAを認識することが、肝要である。これには、第1イソ受容tRNAに特異的なアミノアシル−tRNA合成酵素を操作する必要がある。イソ受容tRNAを認識する操作されたアミノアシル−tRNA合成酵素は、溶解前の宿主細胞内でも発現され得る。
【0107】
アミノアシル−tRNA合成酵素は、一般にタンパク質指向進化に使用される種々の方法を用いて、イソ受容tRNAを認識するように操作され得る。溶解産物中で直接、第1イソ受容センスtRNAをチャージすることができる新規アミノアシル−tRNA合成酵素を生成するために使用される様々なタイプの突然変異誘発が、当該分野で周知である。例えば、Liuら、Proc.Natl.Acad.Sci.94:10092−7(1997)を参照のこと。Liuらは、変異アミノアシル−tRNA合成酵素のライブラリーを生成するために、オリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発とともにDNAシャフリング(ランダム点突然変異誘発およびインビトロ相同組換え)を利用した。次いで、それらの合成酵素を、所望のtRNAを選択的にチャージする能力について選択した。これらおよび他のアミノアシル−tRNA合成酵素の操作手法は、当該分野で周知である。アミノアシル−tRNA合成酵素を操作する他の適当な方法は、インビトロでのtRNAのアミノアシル化が説明される以下でさらに論じられる。
【0108】
V.天然アミノアシル−tRNA合成酵素の枯渇
本発明は、イソ受容センスtRNAを天然または非天然のアミノ酸で差次的にチャージすることを必要とする。それゆえ、本発明のいくつかの実施形態は、チャージされていないイソ受容センスtRNA分子が、溶解産物内で第2センスコドンに対する非天然アミノ酸と競合し得る間違った天然アミノ酸でチャージされることを防ぐための、天然アミノアシル−tRNA合成酵素の枯渇を含む。天然アミノアシル−tRNA合成酵素は、宿主細胞集団を溶解する前に細胞溶解産物から、または宿主細胞集団を溶解した後に溶解産物から直接、枯渇され得る。本発明のいくつかの実施形態はさらに、溶解後に溶解産物から第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を枯渇するための方法を提供する。
【0109】
A.溶解前の天然アミノアシル−tRNA合成酵素の枯渇
天然アミノアシル−tRNA合成酵素が溶解前に細胞溶解産物から枯渇される実施形態において、その天然アミノアシル−tRNA合成酵素が、捕捉部分と呼ばれるタグに融合されたアミノアシル−tRNA合成酵素で置き換えられるように、宿主細胞集団が変更され得る。その天然アミノアシル−tRNA合成酵素は、不安定であるアミノアシル−tRNA合成酵素でも置き換えられ得る。その天然アミノアシル−tRNA合成酵素は、前記細胞をある遺伝子で形質転換することによって置き換えられ、ここで、前記遺伝子は、天然アミノアシル−tRNA合成酵素を機能的に置き換えることができる最適な組換えアミノアシル−tRNA合成酵素を発現する。天然アミノアシル−tRNA合成酵素を、タグ化されたアミノアシル−tRNA合成酵素または不安定であるアミノアシル−tRNA合成酵素で置き換える目的は、天然アミノアシル−tRNA合成酵素の非存在下における宿主細胞集団の生存を保ちつつ、両方のイソ受容センスtRNAをチャージすることができるアミノアシル−tRNA合成酵素を溶解産物から除く単純な様式を提供することである。天然アミノアシル−tRNA合成酵素または捕捉部分に融合された天然アミノアシル−tRNA合成酵素を枯渇させる方法は、以下でさらに詳細に論じられる。
【0110】
天然アミノアシル−tRNA合成酵素が溶解前に細胞溶解産物から枯渇される他の実施形態では、天然アミノアシル−tRNA合成酵素が、第1および第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素で置き換えられるように、宿主細胞集団が変更され得る。第1および第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素の各々は、それぞれ第1および第2イソ受容センスtRNAを特異的にアミノアシル化する。その天然アミノアシル−tRNA合成酵素は、前記細胞を2つの遺伝子で形質転換することによって置き換えられ、ここで、1つの遺伝子は、第1外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を発現し、第2の遺伝子は、第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を発現する。これを達成することができる1つの方法は、イソ受容センスtRNAに特異的であり、天然に見られる差別的なアミノアシル−tRNA合成酵素を使用することによるものである。そのようなアミノアシル−tRNA合成酵素は、例えば、Acidithiobacillus ferrooxidansに存在する。例えば、Salazarら、Proc.Natl.Acad.Sci.100:13863−68(2003)を参照のこと。
【0111】
天然アミノアシル−tRNA合成酵素を、異なるイソ受容センスtRNAを選択的にチャージする2種類のアミノアシル−tRNA合成酵素で置き換える目的は、第1センスコドンが細胞溶解産物中において天然アミノ酸で直接アミノアシル化される機構を提供することである。これは、天然アミノアシル−tRNA合成酵素を後に除去しなくても、または精製された第1アミノアシル−tRNA合成酵素を溶解産物に直接加えなくても、起きる。これらの実施形態において、第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素は、第2イソ受容センスtRNAが天然アミノ酸でチャージされることを防ぐために、溶解産物から枯渇されなければならない。これらの実施形態における溶解産物からの第2アミノアシル−tRNA合成酵素の枯渇は、以下で論じられる。
【0112】
溶解前に天然アミノアシル−tRNA合成酵素を機能的に置き換える組換えアミノアシル−tRNA合成酵素を使用するとき、天然アミノアシル−tRNA合成酵素の発現が阻害されるように宿主細胞を変化させる必要もある。これは、当該分野で公知の任意の方法によって達成され得、その方法としては、合成酵素のmRNAをコードするDNA配列全体に対して欠失を有する宿主細胞株を作製すること;結果として得られる任意の合成酵素タンパク質が機能的でなくなるように合成酵素のmRNAをコードするDNA配列の一部を欠失させること(欠失された部分は、エキソン、イントロン、プロモーターまたはエンハンサー配列を含み得る);またはその合成酵素の機能を破壊するかまたは完全に阻害するように機能する任意のタイプの外因性介在配列(例えば、トランスポゾン)を内因性アミノアシル−tRNA合成酵素のコード配列もしくは調節配列に導入することが挙げられるがこれらに限定されない。内因性遺伝子の機能を破壊する方法は、当該分野で周知であり、論じたこれらだけに限定されるべきでない。そのような方法は、当該分野で周知であり、分子生物学の実施にとって通常のものである。そのような手法に関するさらなる詳細については、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning−A Laboratory Manual,3rd Ed.(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.2000)を参照のこと。
【0113】
溶解前に天然アミノアシル−tRNA合成酵素を機能的に置き換えるためにアミノアシル−tRNA合成酵素が捕捉部分に融合される実施形態では、両方のイソ受容センスtRNAを同じアミノ酸でアミノアシル化し得る任意の交差反応性を防ぐために、その捕捉部分に融合されたアミノアシル−tRNA合成酵素自体が、溶解後に溶解産物から枯渇されなければならない。捕捉部分に融合されたアミノアシル−tRNA合成酵素は、タグ化されたタンパク質を溶解産物から除去することを可能にする当該分野で公知の任意の方法によって溶解産物から枯渇され得、その方法としては、アフィニティークロマトグラフィー、イムノアフィニティークロマトグラフィーまたは免疫沈降が挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0114】
捕捉部分に融合されたアミノアシル−tRNA合成酵素がアフィニティークロマトグラフィーによって細胞溶解産物から枯渇される実施形態では、当該分野で公知の種々のタグが利用され得る。通常のタグは、例えば、ニッケルイオンまたはコバルトイオンに対して親和性を有するヒスチジン−タグ(His−タグ)である。本明細書中、枯渇されるタグ化されたアミノアシル−tRNA合成酵素は、発現されたタンパク質の一部として存在するHis−タグを有する所望の合成酵素を発現する組換えタンパク質に操作され得る。ニッケルイオンまたはコバルトイオンが樹脂カラム上に固定化される場合、ヒスチジンタグ化されたタンパク質に特異的に結合する親和性支持体が、作製され得る。ニッケルイオンまたはコバルトイオンで固定化された樹脂は、本発明に関するとき、結合部分である。Hisタグを有する、溶解産物中の唯一のタンパク質が、His−タグに融合されたアミノアシル−tRNA合成酵素であるので、その合成酵素は、上記樹脂に結合する唯一のタンパク質である(その結果、他のすべてのタンパク質がそのカラムを通過する)。このような手法は、当該分野で周知であり、His−タグベクターは、Qiagen(Valencia,Calif.)、Roche Applied Science(Rotkreuz,Switzerland)、Biosciences Clontech(Palo Alto,Calif.)、Promega(San Luis Obispo,Calif.)およびThermo Scientific(Rockford,Ill.)などの製造者から商業的に入手可能である。
【0115】
イムノアフィニティークロマトグラフィーを使用することによってもまた、捕捉部分に融合されたアミノアシル−tRNA合成酵素を溶解産物から枯渇させてもよい。イムノアフィニティークロマトグラフィーは、抗体によって認識される捕捉部分でアミノアシル−tRNA合成酵素をタグ化することによって達成されるアフィニティークロマトグラフィーの方法である。その捕捉部分は、商業的に入手可能でありかつ商業的に入手可能な抗体によって認識される、任意のタグであり得る。そのようなタグとしては、緑色蛍光タンパク質(GFP)タグ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)タグおよびFLAG−タグタグが挙げられ得るが、これらに限定されない。イムノアフィニティークロマトグラフィー法は、当該分野で周知である。アフィニティークロマトグラフィーまたはイムノアフィニティークロマトグラフィーに関するより詳細については、例えば、Affinity Chromatography:Principles & Methods(Pharmacia LKB Biotechnology 1988)およびDoonan,Protein Purification Protocols(The Humana Press 1996)を参照のこと。
【0116】
本発明の別の実施形態では、捕捉部分に融合されたアミノアシル−tRNA合成酵素は、免疫沈降によって溶解産物から枯渇され得る。この実施形態では、捕捉部分に対して抗体が産生されるが、そのようなシステムは、商業的に入手可能な組換えタグに対して産生された商業的な抗体を使用することが多い。次いで、その抗体は、固相基材の結合部分(微小超常磁性ビーズまたは微小アガロースビーズが挙げられ得るがこれらに限定されない)に固定化される。これらのビーズは、最適な基材に結合し、細胞溶解産物に加えられると、その抗体によって標的化されるタンパク質が、その基材上に結合する。あるいは、それらの抗体は、溶解産物に直接加えられ、枯渇される標的化されたアミノアシル−tRNA合成酵素と会合することが可能になり得る。次いで、プロテインA/G中でコーティングされたビーズが、その抗体/アミノアシル−tRNA合成酵素混合物に加えられ、その時点で、その抗体および結合した合成酵素が、プロテインA/Gビーズに結合する。次いで、その基材は、例えば、超常磁性の基材の場合は磁場を介して、または微小アガロース基材の場合は遠心分離を介して、溶解産物から除去され得る。免疫沈降法は、当該分野で周知である。例えば、E.Harlow,Antibodies:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.1988)を参照のこと。
【0117】
本発明のいくつかの実施形態において、天然アミノアシル−tRNA合成酵素が、溶解前に枯渇され、熱的に不安定なアミノアシル−tRNA合成酵素を生成する組換えアミノアシル−tRNA遺伝子で宿主細胞集団を形質転換することによって機能的に置き換えられる。細胞溶解の後、熱を用いることにより、熱的に不安定なアミノアシル−tRNA合成酵素を分解することにより、溶解産物内のイソ受容tRNA分子の望まれないチャージを防ぐことができる。同様に、宿主細胞集団が、イオン的、物理的または化学的な条件下で不安定なアミノアシル−tRNA合成酵素を発現する組換えアミノアシル−tRNA合成酵素遺伝子で置き換えられ得る。
【0118】
B.溶解後の天然アミノアシル−tRNA合成酵素の枯渇
溶解後に天然アミノアシル−tRNA合成酵素が細胞溶解産物から枯渇される実施形態では、捕捉部分でタグ化されたアミノアシル−tRNA合成酵素または不安定な組換え合成酵素でアミノアシル−tRNA合成酵素を置き換えることは、不要である。これらの実施形態では、イムノアフィニティークロマトグラフィーまたは免疫沈降を用いることにより、内因性天然アミノアシル−tRNA合成酵素が枯渇され得る。この実施形態には、天然アミノアシル−tRNA合成酵素に対する抗体を産生することが必要である。いったん天然アミノアシル−tRNA合成酵素を十分に認識する抗体が産生されると、上に記載したようなイムノアフィニティークロマトグラフィーまたは免疫沈降を用いることにより、天然アミノアシル−tRNA合成酵素が溶解産物から枯渇され得る。
【0119】
天然アミノアシル−tRNA合成酵素が細胞溶解後に枯渇される他の実施形態では、天然アミノアシル−tRNA合成酵素は、枯渇されることが望まれる合成酵素に特異的なアミノアシル−tRNA合成酵素インヒビターを使用して、機能的にも枯渇され得る。多くのアミノアシル−tRNA合成酵素インヒビターは、特異的なアミノアシル−tRNA合成酵素を阻害するアミノ酸アナログであるが、特定のインヒビターは、時折、1つより多いアミノ酸と会合したアミノアシル−tRNA合成酵素を阻害し得る。アミノアシル−tRNA合成酵素に特異的なインヒビターは、BioInfoBank(http://ia.bioinfo.pl/)などのデータバンクで検索することもできる。当業者は、特異的なインヒビターが、アミノアシル−tRNA合成酵素の入手可能な構造モデルに基づいて設計され得、スクリーニングされ得、試験され得ることも容易に認識し得る。
【0120】
アミノアシル−tRNA合成酵素インヒビターの例としては、S−トリチル−L−システイン;L−アスパラギンアミド;4−アザ−DL−ロイシン;DL−セリンヒドロキサメート;プロフラビン(ヘミ硫酸塩);L−イソロイシノール;N−フェニルグリシン;L−ロイシノール;L−メチオニノール;phe−leu−アミド;チラミン;L−イソロイシノール;3,4−デヒドロ−DL−プロリン;S−カルバミル−L−システイン;α−メチル−DL−メチオニン;クロロ−L−アラニン;cis−ヒドロキシプロリン;L−プロリノール;L−ヒスチジノール(histidonol);L−トリプトファン(tyrprophan)ヒドロキサメート;DL−4−チアイソロイシン;DL−アミノ−.イプシロン.−カプロラクタム;L−アスパラギン酸アミド;DL−β−ヒドロキシノルバリン;cis−4−フルオロ−L−プロリン;trans−4−フルオロ−L−カルボン酸;α−メチル−DL−ヒスチジン;N−ホルミル−L−ヒスチジン;L−2−アミノ−3−スルファモイルプロピオン酸;L−アスパラギン酸−β−ヒドロキサメート;β−シアノ−L−アラニン;セレノシスタミン;4−アミノ−n−酪酸アミド;DL−5−ヒドロキシリジン;L−リジンヒドロキサメート(lysinhydroxamate);3−(N−フェニルアセチル)アミノ−2,6−ピペリジンジオン(アンチネオプラストンA10);4−アミノ−4ホスホノ酪酸;エチオナミド;1,2−ジアミノ−3(4−イミダゾリル)プロパン(ヒスチジンアミン);α−メチルヒスチジン;(S)−2−メチルブチルアミン;L−O−メチルトレオニン;DL−アルメントマイシン(2−アミノ−4,4−ジクロロ酪酸);DL−3−デヒドロアルメントマイシン;DL−3−ヒドロキシロイシン;5,5,5−トリフルオロ−DL−ロイシン;β−(3−アミノシクロヘキシル)−DL−アラニン;DL−p−クロロアンフェタミン;trans−2,6−ジアミノヘキサ−4−エン酸;DL−2,6−ジフタルイミドカプロン酸メチルエステル;DL−5−ヒドロキシリジン;L−リジンヒドロキサメート;DL−4−オキサリジン;DL−4−セレナリジン;L−メチオニンアミド;2−アミノ−4−メチルヘキサ−4−エン酸;(1S,2S)−2−アミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール;N−ベンジル−D−アンフェタミン;N−ベンジル−L−フェニルアラニン;N−ベンジル−D−フェニルエチルアミン;1,3−ビス(アセトキシ)−2−ニトロ−1−フェニルプロパン(フェニトロパン);1,2−ジアミノ−3−(2,6−ジクロロフェニル)プロパン;1,2−ジアミノ−3−ヒドロキシ−5−フェニルペンタン;1,2−ジアミノ−3−フェニルプロパン;N−(2,6−ジクロロベンジリデン)−2−フェニルエチルアミン;N−(2,6−ジクロロベンジル)−2−フェニルエチルアミン;N−(4−フルオロベンジル)−L−フェニルアラニン;DL−2−フルオロフェニルアラニン;2−ヒドロキシエチル−2−フェニルアンモニウムスルフェート;α−およびβ−メチル−DL−フェニルアラニン;L−フェニルアラニノール;L−α−フェニルグリシン;DL−トレオ−β−フェニルセリン;β−2−チエニル−DL−アラニン;N−トリフルオロアセチル(trifluroacetyl)−L−フェニルアラニンシクロヘキシルエステル;2−アミノメチル−4−イソプロピルオキシピロリジンオキサレート;2−アミノ−メチルピロリジン;L−4−チアプロリン;N−ベンジルエタノールアミン;N−(2,6−ジクロロベンジル)エタノールアミン;N−(2,6−ジクロロベンジリデン)エタノールアミン;DL−β−ヒドロキシロイシン;1,2−ジアミノ−5−フェニル−3−ペンタノール;DL−7−アザトリプトファン;DL−4−およびDL−6−フルオロトリプトファン(flurotryptophan);5−ヒドロキシトリプタミン;L−5−ヒドロキシトリプトファン;DL−α−メチルトリプタミン;α−およびβ−メチル−DL−トリプトファン;トリプタミン;DL−2−アミノ−1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−プロパノール;DL−3−フルオロチロシン;3−ヨード−L−チロシン;3−ニトロ−L−チロシン;L−チロシノール.HCl;L−トレオ−2−アミノ−3−クロロ酪酸;ヘキサフルオロ−DL−バリン;DL−ノルバリン;L−4−チアリジン;DL−エチオニン;N,N’−ジ−CBZ−L−リジン;DL−3−フルオロフェニルアラニン;DL−4−フルオロフェニルアラニン;ならびにDL−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニンが挙げられる。これらの化合物は、当該分野で公知である。
【0121】
C.溶解後の外因性アミノアシル−tRNA合成酵素の枯渇
天然アミノアシル−tRNA合成酵素が、宿主細胞内で2種類の外因性アミノアシル−tRNA合成酵素によって機能的に置き換えられる実施形態では、第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素は、上で述べたように、溶解後に溶解産物から除去されなければならない。
【0122】
第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を捕捉部分に融合し、アフィニティークロマトグラフィー、捕捉部分を認識する抗体を用いるイムノクロマトグラフィーまたは捕捉部分を認識する抗体を用いる免疫沈降によって前記第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を溶解産物から枯渇させることによって、第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素は、細胞溶解産物から枯渇され得る。第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素が、不安定、例えば、熱的に不安定である場合、前記合成酵素は、さらに除去され得る。宿主細胞集団が2種類の外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を発現する実施形態では、第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素はさらに、第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を特異的に認識する抗体を用いるイムノアフィニティークロマトグラフィーもしくは免疫沈降を使用することによって、または第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素に特異的な競合性インヒビターを使用することによって、溶解産物から除かれ得る。これらの手法は、天然アミノアシル−tRNA合成酵素の枯渇に関して上でさらに詳細に論じられている。
【0123】
上に列挙された、タンパク質を枯渇させるための方法は、当該分野において最もよく使用されるが、本発明の方法は、上に記載した手順だけに限定されるべきでない。天然アミノアシル−tRNA合成酵素を枯渇させるためのいずれの機能的手段も、本発明において特許請求されるような非天然アミノ酸を組み込む方法と適合する。
【0124】
無細胞溶解産物を提供する実施形態において、その溶解産物は、多種多様の細胞に由来し得る。実施形態は、ウサギ網状赤血球細胞を利用する。好ましい実施形態は、細菌細胞、詳細には、大腸菌細胞を利用する。細菌細胞を使用する実施形態は、機能的な酸化的リン酸化システムを示す溶解産物を利用する。実施形態は、アルギニンデカルボキシラーゼが欠損している溶解産物をさらに提供する。
【0125】
VI.tRNA分子の不活性化
本発明が実施され得る1つの様式は、天然の第2イソ受容tRNAを不活性化することによるものである。これらの実施形態では、天然アミノアシル−tRNA合成酵素は、通常は第1イソ受容tRNAにアシル化される天然アミノ酸で前記第1イソ受容tRNAをチャージするために必要なアミノアシル化合成酵素として機能するために、枯渇されずに、溶解産物内で保存される。天然アミノ酸の起源は、宿主細胞集団によって産生されるものであるので、溶解の直後に溶解産物内に存在する。
【0126】
第2イソ受容tRNAを不活性化する本発明の実施形態は、アンチセンスDNAを使用する。ここで、そのアンチセンスDNAは、その標的tRNAのアンチコドン配列を認識し、ゆえに、天然のイソ受容tRNAがそのmRNAコドン配列と会合することを妨げる。
【0127】
tRNA分子の不活性化および枯渇は、当該分野で周知である。例えば、Lindsley and Guarneros,Mol.Microbiology 48:1267−74(2003);Jacksonら、RNA 7:765−73(2001);Kandaら、Biochem.Biophys.Res.Commun.,270:1136−9(2000);Kandaら、FEBS Letters 440:273−76(1998);Kandaら、Bioorganic & Medicinal Chemistry 8:675−79;Schmidt and Schimmel,PNAS 90:6919−23(1993)を参照のこと。
【0128】
特異的なt−RNAリボヌクレアーゼ(tRNAse)を用いることにより、特異的なtRNAを選択的に切断することによって特異的なtRNAを不活性化することができる。特異的なtRNAseの例としては、コリシンD、コリシンE5およびPrrCが挙げられる。例えば、Tomitaら、Proc.Natl.Acad.Sci.97:8278−83(2000);Moradら、J.Biol.Chem.268:26842−9(1993);Ogawaら、283:2097−2100(1999);de Zamarozyら、Mol.Cell 8:159−168(2001)を参照のこと。これらの特異的なt−RNAリボヌクレアーゼの活性なフラグメント、例えば、コリシンDまたはコリシンE5のC末端ドメインが、本発明のために使用され得る。特異的なt−RNAリボヌクレアーゼはさらに、それらの標的t−RNAのサブセットを不活性化するように操作され得るか、または異なるtRNA標的を不活性化するように変更され得る。リボヌクレアーゼ活性が、望まれなくなったときは、そのtRNAseは、インヒビター、例えば、ImmDタンパク質によって阻害され得る(例えば、de Zamarozyらを参照のこと)。
【0129】
VII.インビトロでのtRNAのアミノアシル化
tRNAチャージ反応は、本明細書中で使用されるとき、非天然アミノ酸でアミノアシル化される第2イソ受容センスtRNAがチャージされるインビトロでのtRNAのアミノアシル化反応のことを指す。tRNAチャージ反応物は、チャージ反応混合物、イソ受容センスtRNAおよび非天然アミノ酸を含む。
【0130】
非天然アミノ酸でチャージされる第2イソ受容センスtRNAは、タンパク質合成反応物とは別のtRNAチャージ反応物中に存在するので、本発明は、モノチャージシステムである。第1イソ受容センスtRNAは、tRNAチャージ反応においてチャージされるのではなく、細胞溶解産物内または溶解前の宿主細胞内において直接天然アミノ酸でチャージされる。天然アミノアシル−tRNA合成酵素が細胞溶解後に枯渇される本発明の1つの実施形態では、第1イソ受容センスtRNAだけを認識する第1外因性アミノアシル−tRNA合成酵素が、細胞溶解後の溶解産物に加えられる。天然アミノアシル−tRNA合成酵素が2種類の外因性アミノアシル−tRNA合成酵素で置き換えられる別の実施形態では、第1外因性アミノアシル−tRNA合成酵素は、細胞溶解前の宿主細胞内で発現されるがゆえに、溶解後の溶解産物中に既に存在する。第2イソ受容tRNAが不活性化される別の実施形態では、第1イソ受容tRNAは、天然アミノアシル−tRNA合成酵素によって、溶解産物中で直接、内因性天然アミノ酸でチャージされる。このパラグラフ内で述べられるすべての実施形態において、第2イソ受容センスtRNAは、タンパク質合成反応とは別のtRNAチャージ反応において非天然アミノ酸でチャージされる。
【0131】
別個のtRNAチャージ反応は、タンパク質合成反応とは別で、tRNA分子を所望のアミノ酸でアミノアシル化する任意の反応であり得る。この反応は、抽出物、人工的な反応混合物またはその両方の組み合わせにおいて起き得る。
【0132】
tRNAアミノアシル化の適当な反応条件は、当業者に周知である。代表的には、tRNAアミノアシル化は、6.5〜8.5の範囲のpH値、0.5〜10mM高エネルギーリン酸塩(例えば、ATP)、5〜200mM MgCl、20〜200mM KClを有する生理学的緩衝液中で行われる。好ましくは、その反応は、還元剤(例えば、0〜10mMジチオトレイトール)の存在下において行われる。アミノアシル−tRNA合成酵素が、外因的に加えられる場合、その合成酵素の濃度は、代表的には、1〜100nMである。当業者は、これらの条件が、tRNAアミノアシル化の最適化(例えば、事前に選択されたアミノ酸に対する高特異性、高収率および最低の交差反応性)のために変動し得ることを容易に認識するだろう。
【0133】
上記反応は、4〜40℃、またはより好ましくは、20〜37℃の範囲の温度において行われ得る。細胞溶解産物が、好熱性細菌に由来する場合、その反応は、より高い温度(例えば、70℃)で行われ得る。熱的に不安定なアミノアシル−tRNA合成酵素が使用される場合、その反応は、好ましくは、より低い温度(例えば、4℃)において行われる。反応温度もまた、tRNAのアミノアシル化を最適化するために変動し得る。イソ受容センスtRNAがtRNAチャージ反応においてアミノ酸でチャージされる正確な反応条件は、本明細書中に提供される実施例において例証される。
【0134】
本発明の好ましい実施形態において、第2イソ受容センスtRNAは、アミノアシル−tRNA合成酵素によってチャージされる。この実施形態において、第1イソ受容センスtRNAに対するコドンと異なるコドン配列であるが同じアミノ酸と会合する第2イソ受容tRNAは、タンパク質合成反応が進む溶解産物とは別のtRNAチャージ反応において、非天然アミノ酸でチャージされ得る。第2イソ受容tRNAチャージ反応は、別個の反応において起き得るので、どのタイプのアミノアシル−tRNA合成酵素が第2イソ受容tRNAをチャージするために使用することができるかに関する制限は、最小である。
【0135】
したがって、第2イソ受容センスtRNAチャージ反応は、チャージされるtRNAに特異的な天然アミノアシル−tRNA合成酵素、本発明について述べられる実施形態のいくつかに対しては宿主細胞において発現される第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素、非天然アミノ酸を認識するように操作されたアミノアシル−tRNA合成酵素、または1つより多いタイプのアミノ酸でtRNA分子をチャージすることができる「ごたまぜ(promiscuous)」アミノアシルtRNA合成酵素を利用することができる。ごたまぜアミノアシル−tRNA合成酵素は、時折天然に見られる内因的に生成されるアミノアシル−tRNA合成酵素を含み得る。
【0136】
第2イソ受容tRNAを非天然アミノ酸でチャージするために有用な、操作されたアミノアシル−tRNA合成酵素は、一般にタンパク質指向進化のために使用される種々の方法を用いて操作され得る。そのような突然変異誘発の方法は、溶解産物の調製に関して上で論じられているが、それらの方法としては、部位特異的、ランダム点突然変異誘発、相同組換え(DNAシャフリング)、ウラシル含有鋳型を用いる突然変異誘発、オリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発、ホスホロチオエート修飾DNA突然変異誘発、ギャップが入れられた二重鎖DNAを用いる突然変異誘発なども挙げられ得るがこれらに限定されない。さらなる適当な方法としては、点ミスマッチ修復(point mis−match repair)、修復欠損宿主株を用いる突然変異誘発、制限−選択および制限−精製、欠失突然変異誘発、全遺伝子合成による突然変異誘発、二本鎖切断修復などが挙げられる。次いで、所望の活性に対する機能的アッセイを用いて変異体がスクリーニングされる。例えば、アミノアシル−tRNA合成酵素の校正機能が、削除され得る。突然変異誘発、例えば、キメラ構築物を必要とする突然変異誘発もまた用いられ得る。非天然アミノ酸を認識するようにアミノアシル−tRNA合成酵素を操作することは、当該分野で周知になっている。例えば、Liuら、Proc.Natl.Acad.Sci.94:10092−7(1997);Furter,Protein Sci.,7:419(1998);Zhangら、Proc.Natl.Acad.Sci.94:4504−09(1997);Ohnoら、J.Biochem.130:417−23(2001);Kigaら、Proc.Natl.Acad.Sci.99:9715−9723(2002)を参照のこと。
【0137】
改変されたtRNAおよび/または非天然アミノ酸を効率的にチャージするために、アミノアシル−tRNA合成酵素が、天然の反応条件に類似の条件下で、改変されたtRNAを非天然アミノ酸でアミノアシル化するように操作され得る。tRNA/アミノアシル−tRNA合成酵素対の操作は、上で述べられている。操作された合成酵素の例は、その合成酵素の活性部位にAla294→Gly変異を有する、Ala294→Gly Phe−RSである。いくつかの実施形態では、操作された合成酵素のおかげで、改変されたtRNAおよび/または非天然アミノ酸を通常の反応条件に類似の条件下でアミノアシル化することが可能になる。
【0138】
あるいは、改変されたtRNAおよび/または非天然アミノ酸は、穏やかに変性する反応条件下、例えば、高pH、高MgCl2濃度、界面活性剤、DMSOまたはスペルミジンの添加において、チャージされ得る。そのような反応条件の例としては:100mM Hepes pH8.1、75mM MgCl2、5mM ATP、40mM KCl、1.4M DMSO、0.1%Triton X−100、10〜100μM tRNAphe、5〜20mM p−アセチル−フェニルアラニンおよび1〜10μM Ala294→Gly Phe−RSが挙げられる。いくつかの実施形態において、改変されたtRNAおよび/または非天然アミノ酸は、穏やかに変性する反応条件下で天然アミノアシル−tRNA合成酵素によってチャージされ得る。
【0139】
いくつかの生体システムでは、イソ受容コドンは天然に、同じtRNAによってサービスされ(serviced)、第1コドンは、そのtRNAと完全にマッチし、第2コドンは、ゆらぎ塩基対によってミスマッチする。これらのシステムでは、熱力学的に第2コドンを好む、すなわち、第2コドンと完全にマッチする、改変されたtRNAを導入することが可能である。
【0140】
それゆえ、チャージ反応に有用な操作されたtRNA/アミノアシル−tRNA合成酵素対は、天然tRNAに由来する改変されたtRNAを利用するシステムをさらに含む。その天然tRNAは、天然アミノ酸をコードする第1センスコドンとワトソン−クリック塩基対を形成し、同じ天然アミノ酸をコードする1つ以上のゆらぎ縮重センスコドンとゆらぎ塩基対を形成する。本発明に記載の改変されたtRNAは、ゆらぎ縮重センスコドンのうちの1つと完全なワトソン−クリック塩基対を形成する、改変されたアンチコドン配列を含む。
【0141】
例えば、細菌システムまたは他のシステムに有用な、操作されたtRNAの例としては、アンチコドンGUUがアンチコドンAUUに改変されているアスパラギンtRNA(GUU→AUU);GCA→ACAシステインtRNA;UUC→CUCグルタミンtRNA;GUG→AUGヒスチジンtRNA;UUU→CUUリジンtRNA;CGU→AGUトレオニンtRNAが挙げられる。チャージされる非天然アミノ酸の例としては、さらに、例えば、フルオロ(fluro)−グルタミンおよびパラ−アセチル−フェニルアラニンが挙げられる。
【0142】
いくつかの実施形態において、改変されたtRNAは、操作されたアミノアシル−tRNA合成酵素によって非天然アミノ酸でチャージされる。操作されたtRNAの例は、アンチコドンGAAがアンチコドンAAAに改変されている、操作された大腸菌フェニルアラニンtRNAである(Kwonら、JACS 125:7512−7513,2003を参照のこと)。操作されたアミノアシル−tRNA合成酵素の例は、改変されたフェニルアラニン−tRNA合成酵素、例えば、Thr415Gly変異体である。操作されたtRNA/アミノアシル−tRNA合成酵素対を用いてチャージされる非天然アミノ酸の例は、L−3−(2−ナフチル)アラニン(Nal)である。
【0143】
別個のチャージ反応におけるイソ受容センスtRNAのアミノアシル化の後、チャージされたイソ受容センスtRNAは、それを無細胞タンパク質合成反応物に加えるために、精製されなければならない。本発明のこの局面には、そのチャージ反応に利用される合成酵素が、タンパク質合成反応において、tRNAおよび/またはアミノ酸と確実に交差反応しないようにするために、チャージされたイソ受容センスtRNAが、tRNAチャージ反応に使用されるアミノアシル−tRNA合成酵素から単離される必要がある。
【0144】
アミノアシル化されたtRNAは、Sepharose4B(GE Healthcare)上に固定化された、大腸菌またはT.thermophilis由来の伸長因子−Tu(Ef−Tu)を用いて、未反応のtRNAおよび任意のアミノアシル−tRNA合成酵素から精製され得る。Derwnskus,Fischer,& Sprinzl,Anal.Biochem.,136,161(1984)を参照のこと。簡潔には、固定化されたタンパク質が、GTP、ピルビン酸キナーゼおよびホスホエノールピルビン酸塩の存在下において活性化されることにより、アミノアシル化されたtRNAに特異的に結合する、固定化されたEf−Tu−GDPが生成される。そのカラムを、低イオン強度緩衝液(10mM KCl;50mM HEPES;pH7.4)で洗浄し、高塩緩衝液で溶出することにより、精製されたアミノアシル化されたtRNAが得られる。
【0145】
別の実施形態は、アミノアシル基をリボザイムの5’−OHから(オリゴヌクレオチドドナーによってチャージされた後に)tRNA分子の3’−OHに転移することができるリボザイムカラムを用いて、第2イソ受容センスtRNAを非天然アミノ酸でチャージする。当該分野において現在使用されているリボザイムは、広範囲のtRNAと非天然アミノ酸との間の反応を触媒する能力をもたらし、インビトロ翻訳反応を用いるときに、非天然アミノ酸でアミノアシル化されたtRNAを作製するために特に有用である。当該分野で現在知られているリボザイムはさらに、アミノアシル化された生成物の効率的な親和性精製を可能にし、適当な基材の例としては、アガロース、セファロースおよび磁気ビーズが挙げられる。このような方法は、適切なtRNAチャージのためのアミノアシル−tRNA合成酵素の必要性を迂回する。リボザイムを用いてアミノアシル化されるイソ受容tRNAは、種々の方法で得ることができる。1つの適当な方法は、あるカラムについて、EDTAなどの緩衝液を用いて、アミノアシル化されたイソ受容tRNAを溶出することである。例えば、Besshoら、Nature Biotechnology 20:723−28(2002);Leeら、Nat.Struct.Biol.20:1797−806(2001)を参照のこと。
【0146】
tRNAチャージ反応において使用されるtRNA分子は、適切な5’および3’プライマーの存在下におけるPCRによる増幅に従って、任意の最適なtRNAに対する合成DNA鋳型から合成され得る。次いで、得られたT7−プロモーター配列を含む二本鎖DNA鋳型が、T7RNAポリメラーゼを用いてインビトロにおいて転写されることにより、tRNA分子が生成され、続いてそれがtRNAチャージ反応物に加えられ得る。Sherlinら、RNA 2001 7:1671−1678を参照のこと。
【0147】
本明細書中に記載されるインビトロにおけるtRNAのアミノアシル化に関して、本発明は、センスコドンを認識する、事前に選択されたアミノ酸を有するチャージしたtRNAを有する細胞溶解産物を含む新規チャージしたtRNA溶液も提供する。本発明は、無細胞システムに加えられるインビトロtRNAチャージ溶液の使用を含む。いくつかの実施形態において、チャージtRNA溶液は、著しい合成酵素活性を欠く。適当な細胞溶解産物の例としては、細菌細胞溶解産物が挙げられる。事前に選択されたアミノ酸の例としては、非天然アミノ酸が挙げられる。
【0148】
事前に選択されたアミノ酸を有するチャージしたtRNAは、本発明に記載される方法を用いて作製され得るか、または当該分野で公知の他の方法を用いて作製され得る。例えば、事前に選択されたアミノ酸を有するチャージしたtRNAは、tRNAの化学修飾によって調製され得る(例えば、Sandoら、JACS 127:7998−7999,2005を参照のこと)。
【0149】
本発明に記載の(acoording to)チャージしたtRNA溶液は、事前に選択されたアミノ酸を有するチャージしたtRNAに対して著しい合成酵素活性を有しないことがある。事前に選択されたアミノ酸を有するチャージしたtRNAに対する合成酵素または合成酵素活性は、V項に記載された方法によって枯渇され得る。例えば、事前に選択されたアミノ酸を有するチャージしたtRNAに対する著しい合成酵素活性が、イムノアフィニティークロマトグラフィー、免疫沈降(immunoprecipitationm)またはアミノアシル−tRNA合成酵素インヒビターの添加によってtRNA溶液から枯渇され得る。
【0150】
いくつかの実施形態において、事前に選択されたアミノ酸を有するチャージしたtRNAに対する合成酵素活性は、インヒビターを用いる合成酵素阻害以外の方法を用いて枯渇される。例えば、事前に選択されたアミノ酸を有するチャージしたtRNAを有し、センスコドンを認識し、かつ、事前に選択されたアミノ酸を有するチャージしたtRNAに対する著しい合成酵素活性を有さない、細菌細胞溶解産物を、チャージしたtRNA溶液は含み、そのチャージしたtRNA溶液は、合成酵素インヒビターまたは特異的な合成酵素インヒビターを含まない。
【0151】
VIII.無細胞タンパク質合成反応
第1および第2コドンと会合した、上に記載されたチャージしたイソ受容センスtRNAは、ここで、事前に選択された位置に非天然アミノ酸を有する所望のタンパク質の合成用の核酸鋳型とともに、細胞溶解産物と混合される。
【0152】
その反応混合物はさらに、合成される高分子に対するモノマー、例えば、アミノ酸、ヌクレオチドなど、ならびにその合成に必要なそのような補因子、酵素および他の試薬、例えば、リボソーム、tRNA、ポリメラーゼ、転写因子などを含む。無細胞抽出物、遺伝的鋳型およびアミノ酸などの上記成分に加えて、タンパク質合成のために特に必要とされる材料が、その反応物に加えられ得る。それらの材料としては、塩、フォリン酸、サイクリックAMP、タンパク質分解酵素または核酸分解酵素に対するインヒビター、タンパク質合成のインヒビターまたは制御因子、酸化/還元電位の調整物質、非変性界面活性物質、緩衝成分、スペルミン、スペルミジン、プトレシンなどが挙げられる。望ましくない酵素活性に対する代謝インヒビターが、反応混合物に加えられ得る。あるいは、望ましくない活性に関与する酵素または因子が、その抽出物から直接除去され得るか、または望ましくない酵素をコードする遺伝子が、不活性化され得るかもしくは染色体から除かれ得る。
【0153】
無細胞合成反応は、大規模リアクター、小規模リアクターを利用し得るか、または複数の同時合成を行うために多重化され得る。連続反応は、試薬の流れを導入する供給機構を使用し、そのプロセスの一部として最終生成物を単離し得る。追加の試薬が導入されることにより活性な合成の時間が延長され得るバッチシステムもまた興味深い。リアクターは、任意の様式(例えば、バッチ、拡張(extended)バッチ、セミバッチ、半連続的、フェドバッチおよび連続的、ならびに適用目的に従って選択される様式)において行われ得る。
【0154】
DNA鋳型を使用することによりインビトロタンパク質合成が駆動される実施形態において、タンパク質合成反応混合物の個別の成分は、任意の都合のよい順序で混ぜられ得る。RNAポリメラーゼが反応混合物に加えられることにより、DNA鋳型の転写が高められる。本明細書中の用途に適したRNAポリメラーゼとしては、細菌抽出物が由来する細菌において機能する任意のRNAポリメラーゼが挙げられる。インビトロタンパク質合成を駆動するためにRNA鋳型が使用される実施形態において、反応混合物の成分は、任意の都合のよい順序で混ぜられ得るが、好ましくは、RNA鋳型が最後に加えられる順序で混ぜられる。
【0155】
その反応混合物は、転写および/または翻訳の反応に適した任意の温度でインキュベートされ得る。その反応混合物は、インキュベート中、撹拌され得るか、または撹拌されない。撹拌を用いて、反応成分の濃度を終始一定に維持し、1つ以上の重要な成分の枯渇によって低速の合成が引き起こされるポケットの形成を回避することによって、タンパク質合成の速度および効率が高められ得る。この反応は、許容され得る特定の速度もしくは容量比(volumetric rate)でタンパク質合成が起きている間、または所望のとおりタンパク質合成が停止するまで、継続させることができる。この反応は、氷上で反応混合物をインキュベートするか、または水もしくは適切な緩衝液で迅速に希釈することによって、都合よく停止することができる。この反応は、限定的かつ再使用不可能な転写成分および翻訳成分を連続的に供給することによって、望まれる限り維持することができる。
【0156】
様々な無細胞合成反応システムが、当該分野で周知である。例えば、Kim,D.M.and Swartz,J.R.Biotechnol.Bioeng.66:180−8(1999);Kim,D.M.and Swartz,J.R.Biotechnol.Prog.16:385−90(2000);Kim,D.M.and Swartz,J.R.Biotechnol.Bioeng.74:309−16(2001);Swartzら、Methods Mol.Biol.267:169−82(2004);Kim,D.M.and Swartz,J.R.Biotechnol.Bioeng.85:122−29(2004);Jewett,M.C.and Swartz,J.R.,Biotechnol.Bioeng.86:19−26(2004);Yin,G.and Swartz,J.R.,Biotechnol.Bioeng.86:188−95(2004);Jewett,M.C.and Swartz,J.R.,Biotechnol.Bioeng.87:465−72(2004);Voloshin,A.M.and Swartz,J.R.,Biotechnol.Bioeng.91:516−21(2005)を参照のこと。
【0157】
無細胞タンパク質合成は、細胞機構の触媒能力を活用し得る。インビトロにおいて最大のタンパク質収量を得るには、適切な基質の供給、例えば、ヌクレオシド三リン酸およびアミノ酸、恒常性の環境、触媒の安定性、ならびに抑制性副産物の除去または回避が必要である。インビトロでの合成反応の最適化には、迅速に成長する生物のインビボ状態の再現が有効である。それゆえ、本発明のいくつかの実施形態において、無細胞合成は、酸化的リン酸化が活性化される反応、すなわち、CYTOMIMTMシステムにおいて行われる。CYTOMIMTMシステムは、最適化されたマグネシウム濃度を有する、ポリエチレングリコールの非存在下の反応条件を用いることによって規定される。従来の二次エネルギー源は、リン酸塩の蓄積を生じる一方、CYTOMIMTMシステムは、タンパク質合成を阻害すると知られている、リン酸塩の蓄積をもたらさない。
【0158】
反応混合物中のマグネシウムの濃度は、合成全体に影響する。細胞溶解産物中にマグネシウムが存在することが多く、次いで、そのマグネシウムは、濃度を最適化するためにさらなるマグネシウムで調整され得る。CYTOMIMTMシステムは、好ましい濃度のマグネシウム、少なくとも約5mM、通常、少なくとも約10mM、好ましくは、少なくとも約12mM、および多くとも約20mM、通常、多くとも約15mMの濃度のマグネシウムを利用する。CYTOMIMTMシステムに関して合成を高め得る他の変更は、HEPES緩衝液およびホスホエノールピルビン酸塩を反応混合物から除去することである。CYTOMIMTMシステムは、本明細書中で参考として援用される米国特許第7,338,789号に記載されている。
【0159】
本発明のいくつかの実施形態において、無細胞合成は、反応混合物中のレドックス条件が最適化されている反応物中で行われる。これには、適切なジスルフィド結合を形成するための適切な酸化環境を維持するために反応混合物にレドックス緩衝液を加えることが含まれ得る。この反応混合物はさらに、還元活性を有する内因性分子の活性を低下させるように改変され得る。好ましくは、そのような分子は、遊離スルフヒドリル基を不可逆的に不活性化する化合物で処理することによって、無細胞タンパク質合成の前に化学的に不活性化され得る。還元活性を有する内因性酵素の存在は、そのような酵素、例えば、チオレドキシンレダクターゼ、グルタチオンレダクターゼなどに不活性化変異を有する遺伝的に改変された細胞から調製された抽出物を使用することによってさらに減少され得る。あるいは、そのような酵素は、その調製中に細胞抽出物から選択的に除去することによって除去され得る。レドックス条件の最大化は、本明細書中で参考として援用される米国特許第6,548,276号および同第7,041,479号に記載されている。
【0160】
本発明のいくつかの実施形態において、無細胞合成は、やっかいにも特定のアミノ酸を代謝するように作用する酵素を阻害することによって、最適なアミノ酸濃度が維持される反応において行われる。アミノ酸の代謝を触媒する酵素の阻害は、抑制性化合物を反応混合物に加えること、関与する酵素活性を低下させるかもしくは無くすように反応混合物を改変すること、またはその両方の組み合わせによって達成され得る。好ましい実施形態では、アルギニンデカルボキシラーゼが排除される。タンパク質合成反応混合物から排除される他のそのような抑制性化合物としては、トリプトファナーゼ、アラニングルタミン酸トランスアミナーゼまたはピルビン酸オキシダーゼが挙げられ得るが、これらに限定されない。無細胞タンパク質合成中のアミノ酸代謝を最適化するために酵素活性を無くすことは、本明細書中で参考として援用される米国特許第6,994,986号に記載されている。
【0161】
インビトロ合成反応の後、非天然アミノ酸を含む合成されたタンパク質は、当該分野において標準的であるように精製され得る。本発明のタンパク質は、硫酸アンモニウム沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出または塩基抽出、カラムクロマトグラフィー、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、レクチンクロマトグラフィー、ゲル電気泳動などを含むがこれらに限定されない方法によって回収され得、精製され得る。非天然アミノ酸を含む新しく合成されたタンパク質は、正しく折り畳まれなければならない。適切なフォールディングは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、アフィニティークロマトグラフィーまたは高純度が望まれる他の適当な方法を用いて達成され得る。種々の精製方法/タンパク質フォールディング方法は、当該分野で公知であり、例えば、Deutscher,Methods in Enzymology Vol.182:Guide to Protein Purification(Academic Press,Inc.N.Y.1990);Bollagら、Protein Methods,2nd Edition,(Wiley−Liss,N.Y.1996)。
【0162】
精製の後、非天然アミノ酸を含むタンパク質は、関連性のあるポリペプチドの所望のコンフォメーションとは異なるコンフォメーションを有し得る。一般に、場合によっては、発現されたポリペプチドを変性し、還元し、次いで、そのポリペプチドが好ましいコンフォメーションに再度折り畳まれることが望ましい。例えば、グアニジン、尿素、DTT、DTEおよび/またはシャペロンが、目的の翻訳産物に加えられ得る。タンパク質を還元し、変性し、そして再生する方法は、当業者に周知である。例えば、Debinskiら、J.Biol.Chem.268:14065−70(1993);Buchnerら、Anal.Biochem.205:263−70(1992)を参照のこと。
【0163】
本発明の方法は、天然タンパク質に匹敵する生物学的活性を有する、非天然アミノ酸を含む改変されたタンパク質を提供する。組成物中のタンパク質の比活性は、機能的アッセイにおいて活性レベルを測定すること、非機能的アッセイに存在するタンパク質の量を定量すること(例えば、免疫染色、ELISA、クーマシー(coomasie)染色ゲルまたは銀染色ゲルにおける定量など)、および生物学的に活性なタンパク質と総タンパク質との比を測定することによって、測定され得る。一般に、このように規定されるような比活性は、天然タンパク質の比活性の少なくとも約5%、通常、天然タンパク質の比活性の少なくとも約10%であり、約25%、約50%、約90%またはそれ以上であり得る。例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.1989)を参照のこと。
【0164】
インビトロ合成反応およびそれに続く精製の後、非天然アミノ酸を含む所望のタンパク質は、必要に応じて、例えば、アッセイ成分、治療用試薬、または抗体作製のための免疫原として、使用され得る。
【0165】
この明細書において引用されたすべての刊行物および特許出願は、各個別の刊行物または特許出願が、参考として援用されると詳細かつ個別に示されたかのように、本明細書中で参考として援用される。
【0166】
前述の本発明は、理解を明確にする目的で例証および例示の意図でいくらか詳細に記載されてきたが、ある特定の変更および改変が、添付の請求項の精神または範囲から逸脱することなく本発明に対して行われ得るということが、本発明の教示に照らして容易に当業者に明らかになるだろう。
【実施例】
【0167】
以下の実施例は、限定の意図ではなく例証のみの意図で提供される。当業者は、本質的に類似の結果を得るために変更され得るかまたは改変され得る種々の重大でないパラメータを容易に認識するだろう。
【0168】
実施例1
一般法
分子生物学における標準的な方法は、報告されている(Maniatisら(1982)Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.;Sambrook and Russell(2001)Molecular Cloning,3yd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.;Wu(1993)Recombinant DNA,Vol.217,Academic Press,San Diego,Calif.)。標準的な方法は、RNAの取扱いおよび解析についての詳細な方法を記載しているBindereif,Schoen,& Westhof(2005)Handbook of RNA Biochemistry,Wiley−VCH,Weinheim,Germanyにも見られる。
【0169】
タンパク質精製、クロマトグラフィー、電気泳動、遠心分離および結晶化についての方法は、報告されている(Coliganら(2000)Current Protocols in Protein Science,Vol.1,John Wiley and Sons,Inc.,New York)。無細胞合成についての方法は、Spirin & Swartz(2008)Cell−free Protein Synthesis,Wiley−VCH,Weinheim,Germanyに記載されている。無細胞合成を用いて非天然アミノ酸をタンパク質に組み込むための方法は、Shimizuら(2006)FEBS Journal,273,4133−4140に記載されている。
【0170】
実施例2
tRNA2’,3’−環状リン酸のインビトロにおける転写および単離
非天然アミノ酸でアミノアシル化されたイソ受容tRNAは、図1における例によって図示される設計されたtRNA−HDVリボザイム鋳型DNAから、図2に図示されるように、インビトロ転写の後、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)による精製、2’,3’−環状リン酸の酵素的除去、および操作されたtRNA合成酵素を用いた非天然アミノ酸(nnAA)でのtRNAのチャージによって、生成され得る。転写収量を最適化するために、異なる4つのインビトロ転写プロトコルを、図3および図4に図示されるtRNA転写物について試験した。4つの異なるインビトロ転写プロトコルのすべてによって、同様のtRNA収量がもたらされた。転写の最適化は、通常、50μLの反応物において37℃で2〜3時間にわたって行われた。反応条件は、以下のとおりだった:(1)40mM HEPES(pH7.9)、10mM DTT、10mM MgCl、2.5mMスペルミジン、4U/mlピロホスファターゼ、0.4U/ml supeRNAse−in(Ambion)、20mM NaCl、4mM NTP、0.024mg/ml T7RNAポリメラーゼ、0.028mg/mlプラスミドDNA鋳型、(2)80mM HEPES(pH7.5)、5mM DTT、22mM MgCl、1mMスペルミジン、0.12mg/mlウシ血清アルブミン(BSA)、1U/mlピロホスファターゼ、0.4U/ml SupeRNAse−in、3.75mM NTPs、0.024mg/ml T7RNAポリメラーゼ、0.028mg/mlプラスミドDNA鋳型、(3)30mM HEPES(pH7.9)10mM DTT、MgCl、2mMスペルミジン、1U/mlピロホスファターゼ、0.4U/ml supeRNAse−in、4mM NTPs、0.024mg/ml T7RNAポリメラーゼ、0.028mg/mlプラスミドDNA鋳型、(4)40mM HEPES(pH8.0)、10mM DTT、46mM MgCl;2mMスペルミジン、0.4U/ml supeRNAse−in、10mM NaCl、3mM NTP、0.024mg/ml T7RNAポリメラーゼ、0.028mg/mlプラスミドDNA鋳型。以前の知見(Bindereif,Schon,& Westhof(2005))とは対照的に、本発明者らは、tRNAの1位または2位にウラシルをコードする鋳型(例えば、構築物1および4)がT7RNAポリメラーゼによる転写にとって深刻な欠陥はないことを見出した。結果として、構築物1
【0171】
【化27】

が、好ましかった。プロトコル1を用いて生成されたtRNA産物が、最も均質だったので、このプロトコルが、以下に記載することを除外して大規模転写に使用された。
【0172】
大量の
【0173】
【化28】

構築物1を生成するために、100mLの転写物をRNAseフリー保証の50mlコニカルチューブ内で準備した。例えば、0.4U/μLピロホスファターゼおよび0.04U/μL superRNAse−inを含む、
【0174】
【化29】

構築物1に対する大規模反応物を使用した。転写反応物を37℃において2時間インキュベートし、さらに0.024mg/ml T7RNAポリメラーゼを補充し、37℃においてさらに2時間インキュベートし、次いで、0.20μm PESフィルター(VWRカタログ#87006−062)で濾過した。
【0175】
代表的には、50mLの転写物のアリコートを、50mM Tris(pH6.5)、250mM NaCl、0.1mM EDTAを含むAKTAを用いてXK50/100カラムにおける2LのSephacryl S−100またはS−300サイズ排除樹脂の上に充填することにより、tRNA−2,3’環状リン酸を前駆体RNA転写物および切断されたHDVリボザイムRNAと分離した(図5)。25mLの画分を回収し、tRNAピーク画分をTBE/尿素PAGEゲル電気泳動によって測定した。1/10体積の3M酢酸ナトリウム(pH5.2)および等体積のイソプロパノールを加えた後、−80℃において30分間インキュベートし、遠心分離(FiberLite F−13ローターにおける30分間の20,000×g)によってtRNAをペレットにすることによって、tRNA−2,3’環状二リン酸を沈殿させた。ペレットを70%エタノールで洗浄し、短く風乾し、次いで、1mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH6.4)に再懸濁した。
【0176】
プロトコル1を用いてピロリ菌
【0177】
【化30】

(2ml)の生成を行った。26/60Sephacryl S−200サイズ排除カラムを用いてtRNA精製を行った(図2aおよび2b)。サイジングカラム緩衝液からEDTAを取り除いた。ピロリ菌tRNAGlnを50mM Tris(pH8.5)に再懸濁した。
【0178】
これらの実験の過程で、本発明者らは、おそらく、NTPs(Sigma Aldrichカタログ#:U6625;G8877、C1506、A7600)へのかなりのRNAseの混入に起因するRNAの分解が、転写反応物における(1)0.1mM EDTAの添加および(2)RNAseインヒビターの添加によって妨げられることを見出した(図6Aのレーン1および2を比較のこと)。図6Bに示されるように、NTPsとともに37℃で一晩インキュベートされた、精製されたインタクトなtRNAGluが、完全に分解された(レーン2)が、RNAseインヒビターを加えることによって、この分解は無くなった(レーン3)。EDTAの添加が、分解レーンに影響しなかった(レーン4)ので、この分解は、単純な金属依存性切断に起因する可能性は低かった(EDTA単独とのインキュベートによってtRNAは分解されない(レーン5))。第2に、EDTAの添加によって損傷/分解を無くすことができるので(レーン3)、たぶんtRNAの重金属の混入に起因して、サイジングカラム緩衝液中にEDTAを含まずかつ再懸濁緩衝液中にキレート剤を含まずに精製されたtRNAが、還元剤の存在下において損傷/分解を場合によっては受けやすいこと(図6C;レーン1および2を比較のこと)を本発明者らは見出した。
【0179】
実施例3
活性なtRNAを放出するためのtRNA2’,3’−環状リン酸の脱リン酸化
HDVリボザイムによって切断されたtRNAからの2’−3’環状リン酸の除去に必要とされるT4ポリヌクレオチドキナーゼ(PNK)(図2および5を参照のこと)を以下のとおり生成した:N末端の6−ヒスチジンタグを有するPNK遺伝子を、遺伝子合成し(DNA2.0,Menlo Park.,CA)、プラスミドpYD317にクローニングした。そのプラスミドT4PNK_pYD317を用いて、BL21(DE3)細胞を形質転換した。これらの細胞をBraun10L発酵槽内の自己誘導培地(Studier F.W.(2005)Protein Expr.Purif.,41:207−234)において、最終ODが21になるまで18時間生育した。遠心分離によって細胞を回収したところ、240gの細胞ペレットが得られた。40gの細胞ペレットを500mlの緩衝液A(50mM Tris(pH7.8)、300mM KCl、10mMイミダゾール)に再懸濁し、均質化によって溶解し、遠心分離によって不純物を除去し、35mLのNi−IMACカラムに充填した。そのカラムを5カラム体積の緩衝液Aで洗浄した。緩衝液A+0.5mM BME、300mMイミダゾール、0.1μM ATPおよび10%グリセロール(v/v)を溶出のために使用した。凝集を防ぐために、PNK含有画分を直ちに、20%グリセロールを含む緩衝液Aで4×希釈した。PNK含有画分をプールし、緩衝液を、1.2mg/mLの最終濃度でPNK貯蔵緩衝液(20mM Tris(pH7.6)、100mM KCl、0.2mM EDTA、2mM DTT、50%グリセロール)に交換した。
【0180】
tRNA−2’,3’−環状リン酸(40μM)を、50mM MES(pH5.5)中の50μg/ml PNK、10mM MgCl、300mM NaClおよび0.1mM EDTAとともに37℃で1時間インキュベートしてtRNAの3’末端に2’,3’−OH基をもたらした後、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール抽出し、無機リン酸塩および過剰なフェノールを除去するために0.3M酢酸ナトリウム(pH5.2)で事前に平衡化されたPD10(GE health sciences)サイズ排除カラムを用いて緩衝液を交換した。等体積のイソプロパノールを加え、−80℃で30分間インキュベートし、20,000×gで30分間遠心することによってtRNAを沈殿させ、70%エタノールで洗浄し、20,000×gで10分間遠心し、風乾し、0.1mMクエン酸ナトリウム(pH6.4)に再懸濁した。70℃に加熱し、10mM MgClを加え、次いで、室温までゆっくりと冷却することによって、tRNAをリフォールディングした。1A260=40μg/mLとしてNanoDrop1000分光光度計(Thermo Scientific)を使用してtRNA濃度を測定し、TBE/尿素ゲル電気泳動によって確かめた。100mLの転写反応から、約2〜10mgという活性なチャージ可能tRNAの収量を達成することができた。同様に、以下の相違点:tRNA濃度が8.6μMだった;PNK反応において、PNK濃度が0.020mg/mlであり、EDTAを取り除き、1mM β−メルカプトエタノールを加えたという点を含むこのプロトコルの前半の反復を用いて、ピロリ菌tRNAGlnを調製した。精製後、そのtRNAをDEPC処理滅菌水に再懸濁した。
【0181】
脱リン酸化の程度を、酸/尿素ゲル電気泳動、およびMalachite Greenリン酸塩検出アッセイ(R&D Systems,Inc)を用いるリン酸塩放出によってアッセイした。図7は、酸/尿素ゲル電気泳動(Bindereif,Schon,& Westhof(2005))において、脱リン酸化されたtRNAの移動度が低下したことを示している。3μgの脱リン酸化されたtRNAを含むアリコートを、ローティング緩衝液(100mM酢酸ナトリウム(pH5.2)、7M尿素、1mg/mlブロモフェノールブルー色素)で2倍希釈し、6.5%19:1アクリルアミド、100mM酢酸ナトリウム(pH5.2)、7M尿素のゲル(40cm×34cm)に充填し、40Wで一晩電気泳動した。0.06%メチレンブルー、0.5M酢酸ナトリウム(pH5.2)を使用してゲルを30分間染色し、脱イオン水で脱染した。両方のアッセイが、1時間後の本質的に完全かつ定量的な脱リン酸化を示唆した。
【0182】
実施例4
アミノアシル−tRNA合成酵素の組換え発現:ベクター、酵素発現および精製
図2の最後の工程に図示されている別個のtRNAアミノアシル化(チャージ)反応には、イソ受容tRNA分子をアミノアシル化する、操作されたアミノアシル−tRNA合成酵素の使用が必要である。この合成酵素は、以下の実施例に記載されるような組換え操作された合成酵素を発現させることによって得ることができる。
【0183】
大腸菌グルタミル−tRNA合成酵素(GluRS)を、クローニングし、発現させ、IMACクロマトグラフィーによって精製した。大腸菌GluRS発現構築物をBL21(DE3)細胞に形質転換した。コロニーを、100μg/mlアンピシリンが補充された2mlのLBブロス(LB−AMP)に接種し、飽和するまで37℃で生育した。この培養物を100mlのLB−AMPに希釈し、飽和するまで37℃で生育した。この培養物全体を使用することにより、Bioflo3000発酵槽内の、100μg/mlアンピシリンが補充された10Lの自己誘導培地(Studier(2005),Protein Expr Purif.;41,207−34)に接種した。この培養物を、ODが約12に達するまで37℃で18時間生育した。Sharples遠心機において細胞を回収し、−80℃で凍結した。30gの細胞ペレットを500mlのGluRS溶解緩衝液(50mMリン酸ナトリウム(pH8.0)、300mM NaCl、10mMイミダゾール、10%グリセロール)に再懸濁し、Avestin C55Aホモジナイザーに通すことによって溶解した。JA−17(Beckman)ローターにおける30分間の40,000×gでの遠心分離によって、溶解産物から不純物を除去した。上清を、GluRS溶解緩衝液で平衡化された30mlのNi2+ Sepharose6Fast Flow(GE Healthcare)カラムに通した。次いで、図8aに図示されるように、そのカラムを15カラム体積のGluRS洗浄緩衝液(50mMリン酸ナトリウムpH8.0;300mM塩化ナトリウム;20mMイミダゾール;10%グリセロール)で洗浄し、5カラム体積のGluRS溶出緩衝液(50mMリン酸ナトリウムpH8.0;300mM塩化ナトリウム;300mMイミダゾール;10%グリセロール)で溶出した。ピーク画分をプールし、2Lの2×GluRS貯蔵緩衝液(100mM HEPES,pH8.0;40mM塩化ナトリウム;1mMジチオトレイトール(DTT);.2mM EDTA)に2回透析し、100%グリセロールで2倍希釈した。約945mgのGluRSが、30gの細胞ペレットから回収された。長期間の場合は−80℃でタンパク質を保存し、いったん解凍したら−20℃で保存した。
【0184】
ピロリ菌GluRS2(ND)(非差別的(ND)合成酵素とも呼ばれる)を、以下のとおり、クローニングし、発現させ、IMACによって精製した。ピロリ菌GluRS2(ND)発現構築物をBL21(DE3)細胞に形質転換し、2枚のLB−AMPプレートに37℃でプレーティングした。翌朝、10mlのLBをそのプレートに加え、次いで、滅菌ピペットを用いてこすり取り、すべてのコロニーを再懸濁した。その再懸濁物を2LのLB−AMPに加え、37℃で生育した。以前の研究(Skouloubris,Ribas de Pouplanaら(2003)Proc Natl Acad Sci USA,100,11297−302)を踏まえて、GluRS2(ND)自体の発現の結果としてのそのグルタミンコドンにおけるグルタメートの組み込みを回避するために、OD600約.9において、1mMイソプロピルβ−D−チオガラクトシドを用いて過剰発現を30分間だけ誘導した。Sorvall RC−3B遠心機において4500rpmで30分間遠心分離することによって細胞を回収し、−80℃で凍結した。2Lの培養物からの細胞ペレットを、250μLの細菌プロテアーゼインヒビターカクテル(Sigma)が補充された25mlの溶解緩衝液(20mM Tris,pH8.5;300mM NaCl;10%グリセロール;10mMイミダゾール)に再懸濁した。リゾチームを(1mg/mlになるように)加え、22ゲージのブラント針に10回通すことによって細胞を溶解した。35,000×gにおける30分間の遠心分離によって、全溶解産物から不純物を除去した。溶解産物を、溶解緩衝液に3倍希釈し、次いで、NiSOでチャージされ溶解緩衝液に平衡化された1mlのIMAC High Performance Sepharoseにバッチモードで10分間結合させた。図8bに図示されているように、その樹脂を、.5mM DTTが補充された10カラム体積の溶解緩衝液で洗浄し、次いで、1mlのGluRS2(ND)溶出緩衝液(300mMイミダゾールおよび0.5mM DTTが補充された溶解緩衝液)で5回溶出した。ピーク画分をVivaspin 10kD MWCO限外濾過によって濃縮した。濃縮されたタンパク質を40mM HEPES,pH7.2、0.2mM EDTA、1mM DTTに予備透析することによって、GluRS2(ND)を沈殿させた。塩化ナトリウムを加えることにより再可溶化し、代わりにタンパク質をGluRS2(ND)貯蔵緩衝液(20mM Tris,pH8.5;300mM NaCl;10%グリセロール;0.5mM DTT;0.1mM EDTA)に透析した。タンパク質を少量のアリコートとして−80℃で保存した。約0.6mgのGluRS2(ND)がその精製物から回収された。
【0185】
大腸菌フェニルアラニル−tRNA合成酵素(PheRS)は、T.thermophilis由来の相同酵素について図9aに図示されているように、2つのサブユニットPheSおよびPheTからなる絶対(obligate)二量体である。非天然のパラ置換フェニルアラニンアナログ(Datta,Wangら(2002)J Am Chem Soc,124,5652−3)のチャージパーセントを上げるために、QuickChange Mutagenesisキット(Stratagene)および重複プライマーを用いて変異A294Gを大腸菌PheSに導入した。得られた6×HisPheS(A294G)遺伝子を、NdeIからSalIまでの制限酵素認識部位を用いてpET21(a)にサブクローニングした。このプラスミドを使用することにより、BL21(DE3)コンピテントセルを形質転換した。細胞を自己誘導培地中で一晩生育して、封入体に入ったPheS(A294G)サブユニットを得た。細胞を均質化によって溶解し、封入体を遠心分離によってペレットにし、6Mグアニジンに完全に再懸濁し、次いで、最終濃度2Mグアニジン−HClになるようにPBSで希釈した。PheT遺伝子を、NdeIおよびXhoIの制限酵素認識部位を含むプライマーを用いて大腸菌ゲノムDNAから増幅した。そのPCRフラグメントをpET24(b)にサブクローニングし、PheS(A294G)と同一の自己誘導培地を用いて発現させた。PheS(A294G)とは対照的に、発現されたPheTサブユニットは、可溶性だった。細胞をNi親和性精製充填緩衝液:50mM NaPO4緩衝液(pH7.5)、300mM NaClおよび5mMイミダゾール中で溶解した。その溶解産物から不純物を除去し、次いで、2Mグアニジン−HCl中のPheS(A294G)を、撹拌しながらゆっくり加えた。リフォールディングされたPheRSを、Niアフィニティークロマトグラフィーの後にS100サイズ排除樹脂を用いるサイズ排除クロマトグラフィーによって単離した。
【0186】
あるいは、およびさらに効率的に、PheRS(A294G)およびPheTドメインのアンチコドン認識部位におけるバリアントを、表1に要約されているような、pYD317にクローニングされた別個のPheS遺伝子およびPheT遺伝子から無細胞合成によって作製した:
【0187】
【表1】

pYD317 PheS(A294G)バリアントおよびpYD317 PheTバリアントのプラスミドを ug/mLの濃度で同時に無細胞反応物に加え、無細胞合成を 時間行った。ヘテロ二量体タンパク質バリアントを図10に示されているようにIMACによって精製し、続いて、それを使用することにより、イソ受容tRNAをチャージすることができる。
【0188】
実施例5
nnAAによるtRNAアミノアシル化をモニターするための放射性の方法
tRNAの3’末端のアデノシンヌクレオチドを、報告されているように(Ledoux & Uhlenbeck(2008),Methods,44,74−80)大腸菌CCAヌクレオチジルトランスフェラーゼ酵素を用いてα−32P−AMPと交換した。過剰のPPiを用いて3’−AMPを除去するように、次いでPPiaseを用いてAMPを付加するように、反応条件を駆動させる。活性なtRNAを、50mMグリシンpH9.0、10mM MgCl、0.3μM α−32P−ATP、0.05mM PPi中のCCA酵素とともに37℃で5分間インキュベートした。1μlの10μM CTPおよび10U/ml(1単位)の無機ピロホスファターゼ(酵母−Sigma)を加え、2分間以上インキュベートし、次いで、1/10の体積の3M NaOAc pH5.2を各アリコートに加えた。得られた3’末端が放射標識されたtRNAを水で1:5希釈し、使用する前にリフォールディングさせた。
【0189】
tRNAPheへのnnAAのアミノアシル化を、最適化された条件を用いて行った。野生型
【0190】
【化31】

アミノアシル化に対する条件は、50mM Hepes pH7.5、40mM KCl、10mM MgCl、5mM ATP、8〜40μM
【0191】
【化32】

、10mM DTT、10〜100mMアミノ酸(Pheまたはパラ−アセチルフェニルアラニン(pAF))および1〜100μM PheRSまたはPheRS A294Gだった。末端が標識されたtRNAの反応物を、P1ヌクレアーゼを用いて室温で20〜60分間消化し、1μlを、事前に洗浄された(水)PEIセルロースTLCプレート上にスポットし、風乾させた。Storm840PhosphoimagerとともにMolecular Dynamics貯蔵リン光体スクリーン(storage phosphor screen)を用いてオートラジオグラフィーによってモニターして、AMPを酢酸/1M NHCl/ddHO(5:10:85)中でaa−AMPと分割する(図11および12)。図11に示される結果とは対照的に、PetersonおよびUhlenbeck(Peterson and Uhlenbeck(1992)Biochemistry,31,10380−9)は、限定的な
【0192】
【化33】

の下では、フェニルアラニンによるチャージが非常に非効率的であることを示した。
【0193】
pAFによる
【0194】
【化34】

のアミノアシル化の動態を、50mM Hepes pH8.1、40mM KCl、75mM MgCl、5mM ATP、0.1%Triton X−100、1.4M DMSO、.025U/μl無機ピロホスファターゼ、8〜40μM
【0195】
【化35】

、10mM DTT、10〜100mM pAFおよび1〜100μM PheRSまたはPheRS(A294G)においてモニターした。図13は、この反応の条件下でpAFが効率的にチャージされることにより、
【0196】
【化36】

が形成されることを示している。
【0197】
本発明者らは、チャージ反応において高濃度(各々18μM)の大腸菌GluRSおよび
【0198】
【化37】

を使用した。通常のチャージ条件は:10μLの反応物を、50mM HEPES,pH7.5;10mM MgCl;10mM DTT;10mM ATP;10mMグルタミン酸,pH7.5;10U/mlピロホスファターゼ;および末端が[32P]で標識された1μLの
【0199】
【化38】

中で37℃において30分間インキュベートすることだった。1μLの3M酢酸ナトリウムで反応をクエンチした。有望なことには、そのような高い濃度のtRNAおよびGluRSとともに通常の緩衝液条件を用いたときでさえも、本発明者らは、変異
【0200】
【化39】

が75%まで同族のグルタメートでチャージされ得ることを見出した(図14a、レーン2)。反応物のpHを8.1に変更し、Mg2+濃度を70mMに上げることによって、チャージが、77%までわずかに増加した。ジメチルスルホキシド(DMSO)を2.5Mまで、およびTween−20を0.25%までさらに加えることにより、84%のチャージにまでさらに増加した(図14a、レーン4)。野生型tRNAGluに対する、フルオロ置換されたグルタメートのチャージは、薄層クロマトグラフィーにおけるフルオロ置換されたグルタメート−AMPとAMPとの分離が不十分であることに起因して(Hartman,Josephsonら(2007)PLoS ONE,2,e972)、このアッセイの条件下では検出することができなかった(図14a、レーン5)。
【0201】
本発明者らはまた、ピロリ菌tRNAGln3.4μM、ピロホスファターゼ50U/ml、および[32P]で末端標識された0.5μLのピロリ菌tRNAGlnを用いて、精製されたピロリ菌GluRS2(ND)(1.9μM)の活性が、各反応に含められていたことを確かめた。同様に、モノフルオロ置換されたグルタメートのチャージは、このアッセイを用いて観察されなかった(図14b)。
【0202】
実施例6
nnAAによるtRNAアミノアシル化をモニターするための非放射性の方法
放射標識されていない(Non−radiolabled)
【0203】
【化40】

を、50mM Hepes pH7.5、40mM KCl、10mM MgCl、5mM ATP、8〜40μM
【0204】
【化41】

、10mM DTT、10〜100mMアミノ酸(PheまたはpAF)および1〜100μM PheRSまたはPheRS A294G中でアミノアシル化した。
【0205】
【化42】

のアミノアシル化のための条件は、50mM Hepes pH8.1、40mM KCl、75mM MgCl、5mM ATP、0.1%Triton X−100、1.4M DMSO、8〜40μM
【0206】
【化43】

、10mM DTT、10〜100mM pAFおよび1〜100μM PheRSまたはPheRS A294Gだった。反応物を37℃で15分間インキュベートし、2.5体積の300mM酢酸ナトリウムpH5.5でクエンチする。クエンチされたサンプルを、25:24:1フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコールpH5.2(Ambion)を用いて抽出し、2分間ボルテックスし、次いで、4℃、14,000×gで10〜30分間遠心することにより、水相(tRNA)と有機相(タンパク質)とを分離した。水相(チャージしたtRNAを含む)を取り出し、分子のサイズに基づいて分離する、事前に平衡化された(300mM NaOAc)G25sephadex樹脂サイズ排除カラムに加えた。溶出物を2.5体積の100%エタノールと混ぜ、−80℃で15〜30分間インキュベートし、約14,000×gで30〜45分間遠心した。ペレットにされた、アミノアシル化されたtRNAを、HPLCに注入するためおよび/または無細胞合成反応において使用するために、−80℃で保存するか、またはわずかに酸性の緩衝液に再懸濁する。
【0207】
放射標識されていない
【0208】
【化44】

のアミノアシル化を、図15および図16に示されるように、tRNAのアミノアシル化された部分とアミノアシル化されていない部分とを分割するHPLC疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)によってモニターした。HPLC C5カラムを、緩衝液A(50mMリン酸カリウムおよび1.5M硫酸アンモニウムpH5.7)中で平衡化し、次いで、100μlの2×緩衝液Aと混ぜられた1〜10μgのペレットにされたアミノアシル化されたtRNAを注入し、緩衝液Aから緩衝液B(50mMリン酸カリウムおよび5%イソプロパノール)への勾配を用いて、50分間にわたって分離した。ピーク面積によって判定されるアミノアシル化されたtRNAの画分は、同じ条件下で行われた反応物に対する、図13におけるような末端が[32P]で標識されたtRNAを用いて測定された画分との良好な一致を示した。
【0209】
あるいは、モノ−フルオログルタメートでアミノアシル化するために大腸菌GluRSを用いてチャージされた
【0210】
【化45】

または
【0211】
【化46】

(図15)を、酸/尿素ポリアクリルアミド40cm×34cmゲル電気泳動を用いて分離した。
【0212】
【化47】

をチャージする場合、反応条件は:12.5μLの反応物を、50mM HEPES,pH8.1;70mM MgCl;10mM DTT;10mM ATP;10mMアミノ酸,pH8.1;16.6U/mlピロホスファターゼ中において、30分間37℃でインキュベートすることだった。(チャージ反応物中にRNAseが存在しないことを保証するために、tRNAを加える前に、その緩衝液を3000ダルトン分子量のカットオフ膜(Microsep 3K Omega;Pall lifesciences)で限外濾過した。反応物を1.25μLの3M酢酸ナトリウムでクエンチし、ローディング緩衝液(100mM酢酸ナトリウムpH5.2;7M尿素;1mg/mlブロモフェノールブルー色素)に2倍希釈し、6.5%19:1アクリルアミド;100mM酢酸ナトリウム,pH5.2;7M尿素のゲルに充填し、40Wで一晩電気泳動した。0.18%メチレンブルー、0.5M酢酸ナトリウム,pH5.2を用いてゲルを30分間染色し、脱イオン水で脱染した。同族のグルタメートまたは非天然フルオログルタメートでの、野生型tRNAGlu(Chemical Block,Moscow,Russia)またはインビトロで転写された
【0213】
【化48】

のチャージは、最大70%観察することができた(図17)。
【0214】
実施例7
nnAAの組み込みを操るための無細胞タンパク質合成
本質的にはLiuらによって報告されているように(Liu,Zawadaら(2005)Biotechnol Prog,21,460−5)、高細胞密度発酵の大腸菌KGK10株の急成長(Knapp,Goerkeら(2007)Biotechnol Bioeng,97,901−8)を用いてリボソーム収率を最大にするために、無細胞の抽出物または溶解産物を生成した。均質化の後、細胞溶解産物にDL−ジチオトレイトールを加えなかった。改変された「流出(run−off)手順」を用いて無細胞抽出物を調製した。十分な無細胞抽出物を生成するための発酵体積は、代表的には、所望の無細胞反応物の体積の2.5×だった。細胞抽出物の還元活性を不活性化するために、様々な濃度のヨードアセトアミド(IAM)を、以前に報告されているように(Yang,Kanterら(2004)Biotechnol Prog,20,1689−96)加えた。遺伝子発現は、T7プロモーターの支配下にあった。翻訳の開始を促進するために、−6から+37位におけるmRNAのΔGfoldによって測定される、mRNAの不安定性について最適化されたATG開始コドン(N末端のメチオニン残基)を有する遺伝子の5’末端において同義語コドンを用いて遺伝子を合成し(DNA2.0,Menlo Park,CA)(Kudla,Murrayら(2009)Science,324,255−258)、稀なコドンを置き換えた。8mMグルタミン酸マグネシウム、10mMグルタミン酸アンモニウム、130mMグルタミン酸カリウム、35mMピルビン酸ナトリウム、1.2mM AMP、0.86mMのGMP、UMPおよびCMPの各々、2mMアミノ酸(チロシンについては1mM)、4mMシュウ酸ナトリウム、1mMプトレシン、1.5mMスペルミジン、15mMリン酸カリウム、100nM T7RNAポリメラーゼ、2〜50nM DNA鋳型、1〜10μM大腸菌DsbC、ならびにIAMで処理された24〜30%(v/v)の無細胞抽出物を含む無細胞反応を、30℃において行った。約5mMの総濃度まで還元型(GSH)および酸化型(GSSG)のグルタチオンを加えることによって、レドックス電位を操った。30℃およびpH7におけるGSH/GSSG対の標準的な電位としてE=−205mVを用い(Wunderlich and Glockshuber(1993)Protein Science,2,717−726)、Nernst方程式を使用して、開始時のレドックス電位を計算した。その無細胞タンパク質合成システム中で30℃において6時間、GMCSFを発現させた。図18は、加えられたアミノ酸であるLysおよびPhe(Gluではない)の濃度を、無細胞反応物中で操ることにより、タンパク質合成がどのように影響され得るかを図示している。
【0215】
実施例8
内因性アミノアシル−tRNA合成酵素の枯渇
大腸菌KGK10から調製される細胞抽出物を調製するためにグルタメート−tRNA合成酵素(gltX)の活性を維持しつつ、FLAG−タグアフィニティークロマトグラフィーを使用してその合成酵素活性を無くすために、その合成酵素のゲノムコピーをC末端のFLAG−タグでタグ化した。GENE BRIDGES(Heidelberg,Germany)製のQuick&Easy E.coli Gene Deletion Kit(Cat.No.K006)をその製造者が提案するプロトコルに従って使用して、遺伝子挿入を行った。708−FLPecm発現プラスミド(A105,GENE BRIDGES)を使用することにより、大腸菌染色体から選択マーカーを排除した。AccuPrime pfx SuperMix(Invitrogen)をその製造者が提案するプロトコルに従って使用するPCR伸長によって、DNA挿入カセットを増幅した。DNA鋳型は、Quick&Easy E.coli Gene Deletion KitのFTR−PGK−gb2−neo−FRT鋳型DNAだった。プライマーは:
【0216】
【化49】

を含んでいた。QIAGEN DNA精製キットを用いてPCRフラグメントを精製した後、エレクトロポレーションによって大腸菌KGK10を形質転換した。gltXの3’末端および下流を含むDNAフラグメントを、プライマー
【0217】
【化50】

を使用してKGK10ΔgltX::gltX−Flagの染色体DNAから増幅した。プライマー
【0218】
【化51】

を使用することによって、Flag−タグのコード配列を確かめた。まず、gltXの3’末端にFlag−タグのコード配列を含むDNAフラグメントをPCR増幅するために、プライマーを設計した。そのFlag−タグ配列
【0219】
【化52】

を、ジペプチドGGを介してグルタメート−tRNA合成酵素のC末端に接続した。そのタグペプチド配列は、DNA配列
【0220】
【化53】

に逆翻訳された。そのFLAG−タグのコード配列のすぐ後ろに終止コドンTAAを付加した。順方向プライマーは、5’末端にグルタメート−tRNA合成酵素(GluRS)のC末端をコードする50Nt相同配列、中央にFlag−タグ配列、および3’末端に増幅配列
【0221】
【化54】

を含んでいた。増幅配列
【0222】
【化55】

を、gltX遺伝子の下流に位置する50Nt相同配列に接続することによって逆方向プライマーを設計した。第2に、FLAG−タグ配列を挿入するための直鎖状フラグメントを増幅し、KGK10に形質転換することにより、gltXの下流の441bp配列を置き換えた。KGK10のゲノムDNAに挿入されたカナマイシン耐性マーカーによって、Flag−タグ挿入変異体を選択した。次いで、その選択用のカナマイシン耐性マーカーを、708−FLPecm発現プラスミドを用いて排除した。最後に、変異体KGK10ΔgltX::gltX−Flagから増幅されたPCRフラグメントを配列決定することによって、そのFLAG−タグのコード配列を確かめた。DNA配列
【0223】
【化56】

を、KGK10染色体内のgltX遺伝子の3’末端に付着した。このフラグメントは、アミノ酸配列
【0224】
【化57】

、2つのGly残基およびFLAG−タグをコードする。無細胞抽出物からのFLAGタグ化されたGluRSタンパク質の取り出しは、抗FLAG M2磁気ビーズ(Sigma cat#M8823)の上に抽出物を通過させ、そのビーズを取り出すことによって達成される。
【0225】
実施例9
活性部位特異的インヒビターPhe−およびGlu−スルファモイルアデノシン(Phe−SAおよびGlu−SA)を用いた内因性aaRS活性の枯渇
図19は、無細胞反応物に加えられたイソ受容チャージした(isoaccepting charged)nnAA−tRNAの反応性が、活性部位特異的インヒビターを用いて調節されることにより、加えられたイソ受容tRNAのバックグラウンドリチャージをどのように制限し得るかを図示している。
【0226】
5’−O−[N−(アミノアシル)スルファモイル]アデノシンインヒビターPhe−SA(図19b)を以下のとおり合成した:0℃のDMAC(70mL)中のアルコールの溶液(7g,17.03mmol,1.0eq)に、DIEA(10.62mL,59.61mmol,4.0eq)およびスルファモイルクロリド(4eq)を加え、その反応混合物を室温において15時間撹拌した。その反応混合物を酢酸エチル(300mL)で希釈し、水で洗浄した(4×50mL)。有機層をMgSOで乾燥し、蒸発させ、カラムクロマトグラフィー(DCMからDCM中の20%MeOH)で精製することにより、活性化されたスルファメートを得た(4.5g,9.18mmol,54%収率)。DCM(45mL)中の、スルファメート(2.0g,4.07mmol,1eq)、DCC(0.841g,4.07mmol,1eq)、DMAP(050g,4.07mmol,1.0eq)の溶液に、Boc−Phe−OH(1.1g,4.07mmol,1eq)を加え、その反応混合物を室温で10時間撹拌した。その反応混合物を酢酸エチル(450mL)で希釈し、飽和NaHCO水溶液、水、ブラインで洗浄し、MgSOで乾燥し、蒸発させた。粗生成物をMeOH/n−ブチルアミン(30mL/30mL)に溶解し、室温で3時間撹拌した。溶媒を蒸発させ、粗生成物をフラッシュクロマトグラフィー(EtOAcから10%MeOH/EtOAc)で精製することにより、Phe−SAインヒビターを得た(0.90g,1.4mmol,35%収率)。
【0227】
GFPレポータータンパク質であるturboGFPの無細胞合成における5’−O−[N−(アミノアシル)スルファモイル]アデノシンインヒビター(Phe−SAおよびGlu−SA)の作用が、図19cに図示されている。30℃での無細胞合成反応物を、Molecular Devices SpectraMaxM5プレートリーダーにおいて、粘着性カバー(VWR,9503130)を用いて蛍光(λEx=476nmおよびλEm=490nm)によって5時間モニターした。アミノアシル合成酵素インヒビターPhe−SAおよびGlu−SA(Integrated DNA Technologies,Iowa)を、TE緩衝液(Invitrogen,12090)中の原液からDEPC水で3倍に段階希釈し、96ウェルV底ポリプロピレンプレート(Greiner Bio−One,651207)に移した。そのマイクロプレートに上記無細胞反応混合物を25μLの最終反応体積になるようにインヒビターとともに直ちに加えた。蛍光の変化の最大速度(V(RFU/秒)=インヒビターなし、V=インヒビターの存在下)を測定し、示されるように加えたインヒビター濃度に応じて、パーセント相対活性を測定した。重要なことには、図20に示されるように>10μM PheRS(A294G)を加えると1nM Phe−SAインヒビターの存在下におけるturboGFP蛍光活性(約50%活性)を完全に回復することができるので、これらのインヒビターは、それぞれのアミノアシルtRNA合成酵素(PheRSおよびGluRS)に対して競合的に特異的である。様々な[Phe−SA]と、加えられたL−フェニルアラニンとの両方の関数としてのGFP活性の表面反応解析は、Phe−SA阻害の競合的かつ特異的な性質と一致する。
【0228】
実施例10
TurboGFP Y50TAGへのパラ−アセチルフェニルアラニン(pAF)の組み込み:
非天然アミノ酸(nnAA)を含むタンパク質の無細胞合成を制御するためおよび最適化するために(図21)、本発明者らは、プロセス全体の個別の工程の動態および熱力学を説明する定量的フレームワークを確立することを目指した(図19aを参照のこと)。そのようなフレームワークは、そのプロセスにおける各関与物の機能および機構を理解する上での手掛かりとなり、タンパク質へのnnAAの無細胞組み込みの徹底的な解析および最適化のための基礎として役立つ。
【0229】
本発明者らは、Anthropoda由来の緑色蛍光タンパク質であるturboGFPの無細胞合成(Evdokimov,Pokrossら(2006)EMBO Rep,7,1006−12)に基づいて、最小のキネティクスモデル(図19を参照のこと)を構築し、解析した。アンバー(UAG)コドンをそのタンパク質配列の50位に導入することにより、プラスミドturboGFP Y50TAGを得た(図22)。加えられるサプレッサーtRNAの非存在下では、予想される6kDの切断型タンパク質だけが合成される。
【0230】
マイクロタイタープレート形式での蛍光性turboGFPの無細胞合成のキネティクスを、Molecular Devices SpectraMaxM5プレートリーダーにおいて、粘着性カバー(VWR,9503130)を用いて蛍光(λEx=476nmおよびλEm=490nm)によって5時間モニターした。turboGFPプラスミド(UAG終止コドンを含まない)を用いたポジティブコントロール反応を、ポジティブコントロールとして使用した。外因的に(exogeonously)加えられるtRNAの非存在下(ネガティブコントロール)では蛍光が検出されないことを確実にするために、turboGFP Y50TAGプラスミドを含む反応を、加えられるtRNAなしでも行った。蛍光シグナルが存在しないことは、以前に観察されたおよそ6kDの切断型生成物と一致する(図22を参照のこと)。加えられるPhe−SAの阻害の非存在下では、チャージされていない
【0231】
【化58】

が、turboGFPY50TAGにおけるアンバーコドンを抑制したが、加えられた
【0232】
【化59】

よりも効率的ではなかったことから、無細胞抽出物中の内因性aaRSのうちの1つによってそれが認識され、アミノアシル化されたことが示唆される。PheRSが、外因的に加えられた
【0233】
【化60】

のリチャージに関与したか否かを判定するために、p−アセチルフェニルアラニン(pAF)でチャージされたUAG特異的サプレッサーである大腸菌フェニルアラニンtRNAの
【0234】
【化61】

を用いたアンバーコドンの抑制を、PheRSの内因性活性を調節する様々な濃度のPhe−SAインヒビターの存在下において測定した(図23)。単独で
【0235】
【化62】

が加えられたときよりも10倍多い、turboGFPY50TAGへのpAFの最大の組み込みが、以前に測定されたPhe−SAのIC50に近いインヒビター濃度(図19c)において観察された。そのインヒビターは、7〜8時間後にその有効性を失い始める。
【0236】
本発明者らは、turboGFPへのpAFの組み込みが、タンパク質の比較的高収量をもたらすが、図19aに図示されるように
【0237】
【化63】

のリチャージが、大きく低下すると結論づける。これらの結果は、内因性合成酵素活性を制御しつつ、外因的にチャージされたnnAA−tRNA部分を加えることによって、部位特異的nnAAを含むタンパク質を効率的に合成するために無細胞合成を使用することができること(図21を参照のこと)を示している。
【0238】
実施例11
【0239】
【化64】

を介したタンパク質への蛍光タグの組み込み
タンパク質に蛍光タグを組み込む実行可能性を証明するために、イプシロン標識されたBODIPY−FL lysl−tRNAである
【0240】
【化65】

を、111位に単一のAAAコドンを有するrhGM−CSFに対するプラスミドを含む無細胞反応物に加えた(図24)。その無細胞反応物は、50μLの無細胞反応物あたり2μLの
【0241】
【化66】

(FluoroTect GreenLys Promega)を含む、8mMグルタミン酸マグネシウム、10mMグルタミン酸アンモニウム、130mMグルタミン酸カリウム、35mMピルビン酸ナトリウム、1.2mM AMP、0.86mMのGMP、UMPおよびCMPの各々、2mMアミノ酸(チロシンについては1mM)、4mMシュウ酸ナトリウム、1mMプトレシン、1.5mMスペルミジン、15mMリン酸カリウム、100nM T7RNAポリメラーゼ、2〜50nM DNA鋳型、1〜10μM大腸菌DsbC、ならびにIAMで処理された24%(v/v)の無細胞抽出物を含んでいた。コントロールとして、
【0242】
【化67】

の非存在下および存在下においてプラスミドを含まない無細胞反応を平行して行った。TCAによって沈殿可能な(precipatible)可溶性タンパク質および総タンパク質を測定することによって、l−[U−14C]−ロイシン(300μCi/μモル;GE Life Sciences,NJ)の組み込みによって生成されたタンパク質をモニターした。無細胞反応物を96ウェルV底ポリスチレンマイクロタイタープレート(Greiner,Germany)において30℃で振盪しながらインキュベートした。総タンパク質のアリコート(5μL)、または不溶性タンパク質凝集物を除去するために4℃、6100×gで10分間遠心したサンプルからの可溶性タンパク質を、予め湿らせたポリフッ化ビニリデン(PVDF)フィルタープレート(Millipore,Billerica,MA)上にブロットした。乾燥したそのプレートを、200μLの5%TCAで3回洗浄した後、100μLの無水エタノールで洗浄した。Optiphaseシンチレーションカクテル(Perkin−Elmer,Waltham,MA)を、50μLの体積になるように加え、14C放射能をWallac 1450 Microbeta Plusカウンター(Perkin−Elmer)において測定した。可溶性の無細胞反応物の各々の3μLのアリコートを12%Bis−Tris SDS−PAGEに充填し、電気泳動した後にStorm840Imager(GE healthcare)を用いてそのゲルをスキャンすることにより、nnAA組み込みを示唆する放射能値と蛍光の両方をモニターした。図24に示されるように、蛍光性tRNA結合体からのバックグラウンド蛍光は、11kDと21kDとの間を移動する。標識されたGMCSFの蛍光は、放射性標識されたコントロールGM−CSFとともに移動することから、無細胞反応物に
【0243】
【化68】

を加えることによって、蛍光性BODIPYがタンパク質に導入されていることが示唆される。250μLスケールで行われた
【0244】
【化69】

の存在下における無細胞反応の産物を、勾配溶出(緩衝液A:100mM酢酸トリエチルアンモニウム,pH7.0;緩衝液B:70%アセトニトリル、100mM酢酸トリエチルアンモニウム,pH7.0)による逆相HPLC(ZORBAX 300SB−C8 5μm,4.6×250mm,Agilent)を使用して精製し、図24に示されるように214nmと480nmの両方(蛍光性BODIPYの組み込みを検出するため)においてモニターした。
【0245】
実施例12
rhGM−CSFへのpAFの組み込み
突然変異誘発および相補性研究は、単一のイソ受容大腸菌
【0246】
【化70】

内のG34がアミノアシル化に必要であることを示している。G34AまたはG34C A35Uの変異は、通常のkcat/K反応条件下において、それぞれ640倍のtRNAおよび>1000倍(folod)低いアミノアシル化をもたらす(Peterson,E.C.T.& Uhlenbeck,O.C.(1992)Biochemistry 31:10380−10389)。図25における太い灰色線によって示されるような、通常の無細胞条件下での内因性Phe tRNA合成酵素(PheRS)による
【0247】
【化71】

の相互チャージは、最小にされるべきである。さらに、内因性PheRS活性は、活性部位特異的インヒビターを加えることおよびまたはタグ化されたPheRSを無細胞抽出物から除去することによって、ある程度まで制御され得る。
【0248】
このアプローチは、拡張によって、他のnnAAの組み込みのために他のゆらぎコドンを用いても可能であるはずである。どのゆらぎコドンを「乗っ取る」かの選択は、相互作用の好ましい自由エネルギーに依存する。また、いくつかのアンチコドン塩基が、ゆらぎコドンの認識を嫌うように翻訳後に修飾される(例えば、Sylvers,L.A.,Rogers,K.C.,Shimizu,M.,Ohtsuka,E.and Soell,D.(1993)Biochemistry,32:3836−3841を参照のこと)。それゆえ、改変されたtRNAが、翻訳後修飾なしにインビトロにおいて合成される場合、「乗っ取られた」センスコドンに対する選択性は、高いことがある。
【0249】
GM−CSFは、5つのPhe残基:Phe48、Phe104、Phe107、Phe114およびPhe120を含む。TTTによってコードされるPhe120だけを有する遺伝子(図26)を構築し、pYD317にクローニングした。このTTCからTTTにコドンが交換されたGM−CSFプラスミドDNAを使用するとき、組み込み実験物は、8mMグルタミン酸マグネシウム、10mMグルタミン酸アンモニウム、130mMグルタミン酸カリウム、35mMピルビン酸ナトリウム、1.2mM AMP、0.86mMのGMP、UMPおよびCMPの各々、フェニルアラニンを除く2mMのアミノ酸(チロシンについては1mM)、4mMシュウ酸ナトリウム、1mMプトレシン、1.5mMスペルミジン、15mMリン酸カリウム、100nM T7RNAポリメラーゼ、20nM DNA鋳型、10μM大腸菌DsbC、ならびに無細胞反応物に加えられるおよそ80%チャージされた20μM
【0250】
【化72】

を含む、IAMで処理された24%(v/v)の無細胞抽出物を含み、濃度は、確実にpAFを120位に特異的に組み込むようにするために十分に過剰量の
【0251】
【化73】

を与えるものであるべきである。図25における太い灰色線によって示される、脱アシル化された
【0252】
【化74】

のリチャージを低下させるために、無細胞反応物に加えられる
【0253】
【化75】

の濃度および反応時間を変更することに加えて、無細胞反応物にフェニルアラニンを加えなかった。
【0254】
【化76】

の相互チャージを制限するための0.5nM Phe−SAインヒビターの添加も試験した。無細胞反応物を30℃で最大4時間インキュベートした。
【0255】
【化77】

の存在下における無細胞反応の生成物を、勾配溶出(緩衝液A:100mM酢酸トリエチルアンモニウム,pH7.0;緩衝液B:70%アセトニトリル、100mM酢酸トリエチルアンモニウム,pH7.0)による逆相HPLC(ZORBAX 300SB−C8 5μm,4.6×250mm,Agilent)を使用して精製し、図27に示されるように280nmでモニターした。サンプルを質量分析による解析にまわした。未改変のGM−CSFは、14604Daの質量を有した。
【0256】
実施例13
鋳型の入手
本発明には、無細胞タンパク質合成反応のために核酸鋳型の使用が必要である。以下は、所望のポリペプチド内に非天然アミノ酸を配置することに基づいて構築されたコドン配列を有する鋳型を生成する実施例を提供する。
【0257】
ヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(hGMCSF)のアミノ酸配列を、Research Collaboratory for Structural Bioinformatics(RCSB)タンパク質データバンク(PDB)から入手する。hGMCSFタンパク質をコードする構造DNA遺伝子が、デノボ合成され(DNA2.0,Menlo Park,CA)、2番目を除くすべてのグルタミンアミノ酸残基が、第1コドンCAAによってコードされる。そのタンパク質のN末端から2番目のグルタミンは、コドンCAGによってコードされる。その遺伝子は、T7プロモーターおよびターミネーターに隣接しており、大腸菌の複製起点およびカナマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドベクターに挿入されている。大腸菌のXL1Blue(Stratagene,La Jolla,CA)株を形質転換し、その培養物を37℃で一晩生育し、精製キット(Qiagen,Valencia,CA)を使用してDNAを精製することによって、環状プラスミドDNA鋳型を調製する。
【0258】
実施例14
インビトロでのタンパク質合成に有用な溶解産物の生成
非天然アミノ酸を含むタンパク質を発現するために有用な溶解産物を生成しなければならない。この実施例では、後の実施例に記載されるように前記合成酵素を枯渇させるために有用な6×his−タグとともに天然アミノアシル−tRNA合成酵素が発現されるように改変された大腸菌から溶解産物を生成することを示す。
【0259】
6×his−タグをコードするDNAフラグメントが、大腸菌染色体内のGln−RSにC末端に付け加えられるように、まず、大腸菌A19ΔendAΔtonAΔspeAΔtnaAΔsdaAΔsdaBΔgshAΔgorTrxBHAmetを改変する。さらに、第2イソ受容Gln−tRNAではなく第1イソ受容Gln−tRNAだけをチャージすることができる適切に操作されたGln−RSを構成的プロモーターの下の染色体に挿入する。
【0260】
次いで、大腸菌細胞を10LのBraun Biostat C発酵槽において生育する。pHをpH7.0に制御しながら、その細胞をバッチモードで2YPTG培地において生育する。1時間当たり>0.7の成長速度の3.2OD(595)において細胞を回収する。6000g,4℃における25分間の遠心分離によって細胞を培地から分離し、得られた細胞ペーストを−80℃で保存する。湿重量1gの細胞ペーストあたり1mLの緩衝液の割合で、S30緩衝液(10mM TRIS酢酸塩pH8.2(Sigma−Aldrich Corp.St.Louis,MO)、14mM酢酸マグネシウム(Sigma−Aldrich)および60mM酢酸カリウム(Sigma−Aldrich))中、4℃でその細胞ペーストを解凍する。再懸濁された細胞を高圧ホモジナイザー(Emulsiflex C−50,Avestin Inc.,Ottawa,Ontario,Canada)に通す。圧力降下(pressure drop)を20000psiに設定する。次いで、均質化された混合物を30000g,4℃において30分間遠心する。この手順を2回繰り返し、両方の時点において上清を確保する。その混合物をロータリーシェーカーにおいて37℃で80分間インキュベートする。インキュベート後、5000MWCO膜(Millipore,Billerica,MA)に通すタンジェンシャルフロー(tangential flow)濾過を用いて4℃において10透析体積(diavolume)のS30緩衝液で抽出物を透析する。
【0261】
実施例15
内因性アミノアシル−tRNA合成酵素の枯渇
本発明には、内因性アミノアシル−tRNA合成酵素の不活性化が必要である。この不活性化の目的は、通常、非天然アミノ酸でチャージされ得る未チャージのイソ受容tRNAが、天然アミノ酸で誤ってアミノアシル化されることを防ぐことである。
【0262】
ゲノムDNAの標的化された相同組換えを用いて、tRNA合成酵素の核酸配列またはそれらのプロモーターを不活性化するかまたは「ノックアウトする」ことによって、内因性tRNA合成酵素の発現を低下させることができる(例えば、Smithiesら、Nature 317:230−234(1985);Thomas and Capecchi,Cell 51:503−512(1987);Zhangら、Nature Biotech 18:1314−1318(2000)を参照のこと)。例えば、内因性tRNA合成酵素に相同的なDNAに隣接する非機能性の変異tRNA合成酵素(または完全に無関係のDNA配列)(セリルtRNA合成酵素のコード領域または調節領域)を、選択マーカーおよび/またはネガティブ選択マーカーを伴ってまたは伴わずに使用することにより、内因性tRNA合成酵素を発現する細胞を形質転換することができる。標的化された相同組換えを介してそのDNA構築物を挿入することによって、そのtRNA合成酵素が不活性化される。
【0263】
標的化された相同組換えを用いることにより、上に記載したように、タグ化された変異tRNA合成酵素を含むDNA構築物を細胞に挿入することができる。別の実施形態では、標的化された相同組換えを用いることにより、その細胞に存在するものとは異なるtRNA合成酵素ポリペプチドバリアントをコードする核酸を含むDNA構築物を挿入することができる。
【0264】
あるいは、tRNA合成酵素遺伝子の調節領域(すなわち、プロモーターおよび/またはエンハンサー)に相補的なデオキシリボヌクレオチド配列を標的化して、標的細胞内でのtRNA合成酵素の転写を妨げる三重らせん構造を形成することによって、内因性tRNA合成酵素の発現を低下させることができる。
【0265】
上記の大腸菌抽出物中の内因性アミノアシル−tRNA合成酵素は、上に記載したような鋳型DNAを加える前のヨードアセトアミドによる前処理中にマイクロモル濃度の5¢−O−[N−(フェニアラニルアシル)スルファモイル]アデノシンを加えることによって非活性化され得る。
【0266】
実施例2に記載したような染色体にインテグレートされた天然の6×his−タグtRNA合成酵素を除去するために、適切に操作された多量のS30抽出物を、使用前の事前に平衡化された様々な体積のNi−NTA磁気ビーズ(20mM Tris−HCl、0.1M NaCl pH7.5)とともに4℃で30分間インキュベートした。磁気選別機を活用してそのビーズを除去した後、残った抽出物をタンパク質合成に使用する。
【0267】
実施例16
アミノアシル−tRNA合成酵素の組換え発現:ベクター、酵素発現および精製
別個のtRNAチャージ反応には、イソ受容tRNA分子をアミノアシル化するアミノアシル−tRNA合成酵素の使用が必要である。この合成酵素は、この実施例に記載されるように組換え合成酵素を発現させることによって得ることができる。
【0268】
大腸菌gln−tRNA合成酵素(synthtase)に対する構造遺伝子を、表2に示されるような順方向および逆方向プライマーを用いて大腸菌ゲノムDNA(ATCC#10798D−5)からPCR増幅する。次いで、NdeIおよびHindIIIで二重消化することにより、プラスミドpET23b−GlnRSH(ヒスチジンタグ化されたもの)およびpET23b−GlnRSを得た後、PCR産物をpET23bベクター(Novagen,Gibbstown,NJ)にクローニングする。得られたプラスミドは、過剰発現のためのT7プロモーターの支配下にある6×ヒスチジン−タグを有するかまたは有しないGln−RS配列を含む。
【0269】
表2.
各タイプの発現ベクターを構築するために使用されるプライマー
【0270】
【表2】

制限酵素認識部位の配列に下線を引いている。終止コドンは、太字で示されている。
【0271】
GlnRS過剰産生プラスミド(pET23b−GlnRSH)を、化学的にコンピテントなBL−21細胞(Promega;Madison,WI)に形質転換し、LB/カルベニシリンプレートにプレーティングする。シングルコロニーをTB/100μg/mLカルベニシリン中で一晩生育し、次いで、それを用いて大量の培養液に1:50希釈で接種する。その細胞を富栄養培地中で中対数期(mid−log phase)まで37℃で生育した後、1mM IPTGで5時間誘導する。その後のすべての精製工程は、4℃で行う。5000gでの遠心分離の後、高圧下で細胞溶解することによって、粗細胞抽出物を調製する。その抽出物を、溶解緩衝液で事前に平衡化された5mLのNi−NTA樹脂と混ぜる。タンパク質を氷上で1時間インキュベートすることにより、その樹脂に結合させた後、この混合物を10mLのカラムに注ぎ込む。溶出液のA280が0.1未満に下がるまで、洗浄緩衝液(50mMリン酸カリウム,pH6.0、300mM NaCl、10mM β−メルカプトエタノール、10%グリセロール)を用いて、弱く結合したタンパク質を除去する。タンパク質は、洗浄緩衝液中の0〜0.5Mの勾配のイミダゾールで溶出される。活性またはSDS−PAGEによって特定されるピーク画分をプールし、50mMリン酸カリウム,pH7.0、100mM KClおよび10mM β−メルカプトエタノールを含む緩衝液に対して4℃で一晩透析する。次いで、タンパク質を40%グリセロール中、10mg/mLの最終濃度まで濃縮し、次いで、−20℃で保存する。
【0272】
実施例17
アミノアシル−tRNA合成酵素バリアントの操作
非天然アミノ酸は、通常、天然に存在するアミノアシル−tRNA合成酵素によってイソ受容センスtRNA分子にチャージされるはずがない。場合によっては、イソ受容tRNAを非天然アミノ酸でチャージする能力を有する「ごたまぜ」アミノアシル−tRNA合成酵素が、あらかじめ存在することがある。そのような能力を有するアミノアシル−tRNA合成酵素が存在しない他の場合では、所望の非天然アミノ酸が、別個のtRNAチャージ反応においてtRNA分子にチャージされ得るように、新しいアミノアシル−tRNA合成酵素を操作しなければならない。
【0273】
基質の認識に関与すると知られている熱安定性のtRNA合成酵素の活性部位残基を、Pymol分子閲覧ソフトウェアを用いて同定する。アミノ酸側鎖の5〜10Å以内の残基を同定する。同定された残基に対応する部位特異的バリアントの2×20アミノ酸=400メンバーの「ライブラリー」を、以下のとおり構築する。コドンの各側においてアミノ酸をコードするセンス鎖またはアンチセンス鎖を表す35merのオリゴヌクレオチドのカセットライブラリーを、NNK(ここで、N=G、A、T、CおよびK=GまたはTヌクレオシド三リン酸)を用いて合成する(Operon,Huntsville,AL)。Quickchange Multisite突然変異誘発プロトコル(Stratagene,La Jolla,CA)を用いて、プールされたオリゴを鋳型DNAにアニールさせ、DNAポリメラーゼによって増幅し、プラスミド鋳型をDpn1で分解し、ライブラリーを形質転換して、プレーティングする。96個のクローンの配列決定を行うことにより、ライブラリーの多様性を確かめる。
【0274】
実施例18
非天然tRNAをチャージするためのアミノアシル−tRNA合成酵素バリアントのスクリーニング
実施例5に記載したように操作されたバリアントのハイスループット発現を、以下のとおり96ウェル形式で行う。プレーティングされたコロニーを、滅菌つまようじで96ウェル深ウェルプレートに移し、OD600=0.5まで富栄養培地中で生育した後、1mM IPTGで誘導し、一晩生育する。精製は、Millipore Multiscreen濾過プレート(Millipore Corp.)を使用する96ウェル形式で行われる。細胞を回収して溶解し、その溶解産物を4×体積のPBS緩衝液で希釈し、200μLを、MultiscreenプレートにおけるNi−キレート化セファロース媒体上に充填する。イミダゾールの濃度を上げることによって、酵素の溶出を最適化する。その濾液を真空濾過によって濾過し、高収量の純粋な組換えタンパク質が得られる。
【0275】
各バリアントの酵素活性は、50mM Tris−HCl(またはHepes)pH7.5、20mM KCl、4mM DTT、10mM MgCl、0.2mg/mlウシ血清アルブミンおよび一連のアミノ酸、ATPならびにtRNA濃縮物中、[H]標識されたnnAA−tRNAnnAAの37℃での形成をモニターする不連続定常状態アッセイによって、放射標識された非天然アミノ酸を用いてアッセイされる。その活性を、放出されたピロホスフェートを測定する共役酵素アッセイを用いて蛍光によって独立して測定された酵素濃度に対して正規化する。
【0276】
実施例19
非天然アミノ酸の合成:
GalNAc L−トレオニンは、非天然アミノ酸の例であり、商業的に入手可能なGalNAc L−トレオニン(N−Fmoc−O−(2−アセトアミド−3,4,6−トリ−O−アセチル−2−デオキシ−α−D−ガラクトピラノシル)−L−トレオニン(V−Labs,Inc.,Covington,LA)から合成される。この合成は、ジクロロメタン中のピペリジンによるFmoc基の選択的な脱保護により、遊離アミノ酸を得た後、リパーゼWGを用いるその炭水化物の酢酸塩の選択的な酵素的加水分解によって起きる(このサンプルは、逆相HPLCを用いて精製される)。
【0277】
実施例20
tRNAチャージ反応
本発明には、タンパク質合成反応とは別のチャージ反応において、イソ受容センスtRNAを天然または非天然アミノ酸でチャージすることが必要である。
【0278】
tRNA合成DNAオリゴヌクレオチド(Integrated DNA Technologies,Inc.,Coralville,IA)は、その配列の5’末端に対応するセンス鎖が、3’アンチセンス鎖と10bpの重複を有するように設計される。大腸菌tRNA2Gln遺伝子を構築するために使用されるオリゴヌクレオチドは:
【0279】
【化78】

であり、ここで、mTおよびmGは、5’−O−メチルヌクレオチドのことを表し、下線部分は、重複領域を表す。太字は、T7RNAポリメラーゼプロモーターを示す。オリゴヌクレオチドを、400mM dNTPs、10mM Tris−HCl,pH7.5、10mM MgSO4、7.5mM DTTおよび50U/mL Klenowフラグメントポリメラーゼ(Promega)を含む反応溶液中、等モル濃度の4mMと混ぜる。その混合物を、8サイクルにわたって30秒間隔で10℃と37℃との間をサイクルした後、そのDNAを65%エタノール/0.3M酢酸ナトリウム中に沈殿させ、ペレットにし、100mLのPMS緩衝液(5mM PIPES,pH7.5/10mM MgSO4)に再懸濁する。250mM HEPES−KOH,pH7+5、30mM MgCl2、2mMスペルミジン、40mM DTT、0.1mg/mLウシ血清アルブミン、5mM dNTPs、5mg無機ピロホスファターゼ(Boeringer Mannheim)、50U RNasin(Amersham)、40mg/mL T7RNAポリメラーゼ、およびKlenow伸長反応からの1mM DNA鋳型を含む溶液中で転写を行う。2mL反応混合物を37℃で8〜10時間インキュベートし、その時点でRQ1 RNaseフリーDNase(Promega)を10U/mLになるように加え、インキュベートをさらに2〜3時間続ける。次いでその反応物を、100mM HEPES−KOH,pH7.5、12mM MgClおよび200mM NaClで事前に平衡化された5mLのDE−52(Whatman)カラムに充填する。そのカラムを30mLの平衡化緩衝液で洗浄し、100mM HEPES−KOH,pH7.5、12mM MgCl、600mM NaClの溶液でRNAを溶出する。tRNAを含む画分をPMS緩衝液に透析し、70℃に加熱した後、室温までゆっくりと冷却することによって、リフォールディングする。
【0280】
GalNAc L−Gln−tRNA2 チャージされたGalNAc L−Gln−tRNA2の形成は、以下のとおり、組換えaaRSによって触媒される。代表的な反応混合物は、50mM Tris−HCl(またはHepes)pH7.5、20mM KCl、4mM DTT、10mM MgCl、0.2mg/mlウシ血清アルブミン、1〜5nM aaRSおよび一連のアミノ酸、ATPならびにtRNA濃縮物を含む。チャージされたtRNAは、前に記載したような固定化されたEf−Tuクロマトグラフィーによって精製され得る。このチャージ反応に使用される組換えaaRSは、Ranら、J.Am.Chem.Soc.126:15654−55(2004)に記載されている。
【0281】
実施例21
インビトロでのタンパク質合成反応
実施例2に記載したように生成され、続いて実施例3に記載したように天然アミノアシル−tRNA合成酵素が枯渇された、大腸菌溶解産物とともに、表3に要約されている試薬を、無細胞タンパク質合成反応物は含む。
【0282】
表3 無細胞タンパク質発現システムに加えられる試薬の要約
【0283】
【表3】

抽出物を、21℃において30分間、100μMヨードアセトアミドで前処理する。プラスミドは、標的タンパク質をコードする構造遺伝子を含み、上で説明したように構築される。GalNAc L−Gln−tRNA2は、上に記載したようなチャージしたtRNAである。1mLの反応混合物をペトリ皿(Thermo Fisher Scientific,Rochester,NY)の底に広げ、密閉された加湿恒温器内の30℃において4時間インキュベートする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無細胞合成システムを用いて、ポリペプチドの事前に選択された位置に非天然アミノ酸を導入するためのインビトロにおける方法であって、前記方法は:
a)縮重センスコドンを含む核酸鋳型を得る工程であって、第1センスコドンおよび第2センスコドンは、同じ天然アミノ酸に対応するが、それぞれのヌクレオチド配列が異なる、工程;
b)細胞溶解産物を生成する工程;
c)該天然アミノ酸をアミノアシル化する天然アミノアシル−tRNA合成酵素を枯渇させる工程;
c)該核酸鋳型の該第1センスコドンに対応する第1イソ受容センスtRNAを選択的にアミノアシル化する第1外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を該溶解産物に加える工程;
d)非天然アミノ酸および該核酸鋳型の該第2センスコドンに対応する第2イソ受容センスtRNAを含むチャージ反応混合物を含む反応容器に触媒性アミノアシル化剤を加える工程;
e)該第2イソ受容センスtRNAを該非天然アミノ酸でアミノアシル化することにより、tRNA:非天然アミノ酸をチャージした部分を得る工程;
f)該細胞溶解産物を:
1)該tRNA:非天然アミノ酸をチャージした部分;および
2)該第1センスコドンおよび該第2センスコドンを含む核酸鋳型
と、該鋳型からタンパク質を生成するのに適切な条件下で混合する工程;および
g)該反応物が、該核酸鋳型の該第2センスコドンに対応する位置に非天然アミノ酸を有する該ポリペプチドを生成することを可能にする工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記触媒性アミノアシル化剤が、アミノアシル−tRNA合成酵素である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アミノアシル−tRNA合成酵素が、前記tRNA:非天然アミノ酸をチャージした部分を前記細胞溶解産物と混合する前に前記チャージ反応混合物から除去される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記触媒性アミノアシル化剤が、リボザイムである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞抽出物の酸化的(oxidation)リン酸化システムが、タンパク質合成中に機能している、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞溶解産物が、細菌由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞溶解産物が、大腸菌由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記非天然アミノ酸が、グリコールで修飾されたアミノ酸、金属キレート基、アリール−アジド含有アミノ酸およびケトン含有アミノ酸からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞が、ウサギ網状赤血球である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞のアルギニンデカルボキシラーゼが枯渇している、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
a)前記細胞溶解産物を生成するために使用される前記細胞を1つの遺伝子で形質転換する工程であって、該遺伝子は、前記天然アミノアシル−tRNA合成酵素を機能的に置き換えることができる、捕捉部分に融合されたアミノアシル−tRNA合成酵素を発現する、工程;
b)該天然アミノアシル−tRNA合成酵素遺伝子の発現を阻害するように該細胞を変化させる工程;および
c)該細胞溶解産物から、該捕捉部分に融合されたアミノアシル−tRNA合成酵素を枯渇させる工程
をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記捕捉部分に融合されたアミノアシル−tRNA合成酵素が、前記細胞溶解産物を形成する前記細胞と異種である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
アフィニティークロマトグラフィーによって、前記捕捉部分に融合されたアミノアシル−tRNA合成酵素を枯渇させる工程をさらに包含する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記アフィニティークロマトグラフィーが、イムノアフィニティークロマトグラフィーである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記捕捉部分に融合されたアミノアシル−tRNA合成酵素が、該捕捉部分を認識する抗体を使用する免疫沈降によって枯渇される、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
a)前記細胞溶解産物を生成するために使用される前記細胞を1つの遺伝子で形質転換する工程であって、該遺伝子は、前記天然アミノアシル−tRNA合成酵素を機能的に置き換えることができる不安定な組換えアミノアシル−tRNA合成酵素を発現する、工程;
b)該天然アミノアシル−tRNA合成酵素遺伝子の発現を阻害するように該細胞を変化させる工程;および
c)該細胞溶解産物から該不安定な組換えアミノアシル−tRNA合成酵素を枯渇させる工程
をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記組換えアミノアシル−tRNA合成酵素が、熱的に不安定である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
a)前記細胞溶解産物を生成するために使用される前記細胞を第1遺伝子および第2遺伝子で形質転換する工程であって、該第1遺伝子は、前記第1外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を発現し、該第2遺伝子は、第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を発現する、工程;
b)前記天然アミノアシル−tRNA合成酵素の発現を阻害するように該細胞を変化させる工程;および
c)該細胞溶解産物から該第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を枯渇させる工程
をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記第1アミノアシル−tRNA合成酵素および前記第2アミノアシル−tRNA合成酵素が、Acidithiobacillus ferrooxidans由来である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素が、不安定である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素が、熱的に不安定である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素が、捕捉部分に融合されており、アフィニティークロマトグラフィーによって枯渇される、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記アフィニティークロマトグラフィーが、イムノアフィニティークロマトグラフィーである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素が、捕捉部分に融合されており、該捕捉部分を認識する抗体を使用する免疫沈降によって枯渇される、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素が、該第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を特異的に認識する抗体を使用するイムノアフィニティークロマトグラフィーによって枯渇される、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素が、該第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を特異的に認識する抗体を使用する免疫沈降によって枯渇される、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
前記第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素に特異的なアミノアシル−tRNA合成酵素インヒビターを導入することによって、前記細胞溶解産物から該第2外因性アミノアシル−tRNA合成酵素が枯渇される、請求項18に記載の方法。
【請求項28】
前記天然アミノアシル−tRNA合成酵素を特異的に認識する抗体を使用する免疫沈降によって、前記細胞溶解産物から前記天然アミノアシル−tRNA合成酵素が枯渇される、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記天然アミノアシル−tRNA合成酵素を特異的に認識する抗体を使用するイムノアフィニティークロマトグラフィーによって、前記細胞溶解産物から前記天然アミノアシル−tRNA合成酵素が枯渇される、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記天然アミノアシル−tRNA合成酵素に特異的なアミノアシル−tRNA合成酵素インヒビターを導入することによって、前記細胞溶解産物から該天然アミノアシル−tRNA合成酵素が枯渇される、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
溶解前に前記第1外因性アミノアシル−tRNA合成酵素をコードする遺伝子で前記細胞を形質転換した結果として、前記第1イソ受容センスtRNAを選択的に認識する該第1外因性アミノアシル−tRNA合成酵素が、前記溶解産物に加えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
1つのアミノ酸に対応する単一のイソ受容センスtRNAだけを選択的にアミノアシル化する外因性アミノアシル−tRNA合成酵素を含み、該アミノ酸に対応する天然アミノアシル−tRNA合成酵素が枯渇されている、インビトロタンパク質合成用の無細胞合成溶解産物。
【請求項33】
前記溶解産物が、細菌細胞由来である、請求項32に記載の無細胞合成溶解産物。
【請求項34】
前記溶解産物が、大腸菌由来である、請求項33に記載の無細胞合成溶解産物。
【請求項35】
前記溶解産物が、アルギニンデカルボキシラーゼを含んでいない、請求項33に記載の無細胞合成溶解産物。
【請求項36】
前記溶解産物が、ウサギ網状赤血球由来である、請求項32に記載の無細胞合成溶解産物。
【請求項37】
前記溶解産物が、消泡剤を含む、請求項32に記載の無細胞合成溶解産物。
【請求項38】
前記溶解産物が、機能的な酸化的リン酸化システムを示す細菌抽出物である、請求項32に記載の無細胞合成溶解産物。
【請求項39】
前記溶解産物が、ポリペプチドをコードし、かつ前記アミノ酸に対する縮重センスコドンを含む核酸鋳型を含む、請求項32に記載の無細胞合成溶解産物。
【請求項40】
無細胞合成システムを用いて、ポリペプチドの事前に選択された位置に非天然アミノ酸を導入するためのインビトロにおける方法であって、前記方法は:
a)縮重センスコドンを含む核酸鋳型を得る工程であって、第1センスコドンおよび第2センスコドンは、同じ天然アミノ酸に対応するが、それぞれのヌクレオチド配列が異なる、工程;
b)天然アミノアシル−tRNA合成酵素を含む細胞溶解産物を生成する工程であって、該合成酵素は、該核酸鋳型の該第1センスコドンに対応する第1イソ受容センスtRNAと、該核酸鋳型の該第2センスコドンに対応する第2イソ受容センスtRNAとの両方をアミノアシル化する能力を有する、工程;
c)該核酸鋳型の該第2センスコドンに対応する天然の第2イソ受容センスtRNAを不活性化する工程;
d)非天然アミノ酸および該核酸鋳型の該第2センスコドンに対応する第2イソ受容センスtRNAを含むチャージ反応混合物を含む反応容器に触媒性アミノアシル化剤を加える工程;
e)該第2イソ受容センスtRNAを該非天然アミノ酸でアミノアシル化することにより、tRNA:非天然アミノ酸をチャージした部分を得る工程;
f)該細胞溶解産物を:
1)該tRNA:非天然アミノ酸をチャージした部分;および
2)該第1センスコドンおよび該第2センスコドンを含む核酸鋳型
と、該鋳型からタンパク質を生成するのに適切な条件下で混合する工程;および
g)該反応物が、該核酸鋳型の該第2センスコドンに対応する位置に非天然アミノ酸を有する該ポリペプチドを生成することを可能にする工程
を包含する、方法。
【請求項41】
前記天然の第2イソ受容センスtRNAが、該天然の第2イソ受容センスtRNAに選択的に結合するアンチセンスDNAを加えることによって不活性化される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記天然の第2イソ受容センスtRNAが、該天然の第2イソ受容センスtRNAを選択的に切断する特異的なtRNAリボヌクレアーゼまたはその活性なフラグメントを加えることによって不活性化される、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記天然の第2イソ受容センスtRNAが、コリシンDまたはコリシンDの活性なフラグメントを加えることによって不活性化される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
事前に選択されたアミノ酸を有するチャージしたtRNAを有する細菌細胞溶解産物を含み、センスコドンを認識し、かつ該事前に選択されたアミノ酸を有する該チャージしたtRNAに対して著しい合成酵素活性を有しない、チャージしたtRNA溶液であって、
ここで、該チャージしたtRNA溶液は、特異的な合成酵素インヒビターを含まない、チャージしたtRNA溶液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公表番号】特表2012−514979(P2012−514979A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545497(P2011−545497)
【出願日】平成22年1月11日(2010.1.11)
【国際出願番号】PCT/US2010/020672
【国際公開番号】WO2010/081111
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(511167135)ストロ バイオファーマ, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】