説明

インビボにおける血管運動反応を評価するための動物モデル

ウサギに化合物を投与し、そして該ウサギの中心耳動脈の管内腔の基線直径と比較して該ウサギの該中心耳動脈の管内腔の直径を測定する段階を含む、インビボにおける血管運動反応に及ぼす該化合物の効果を評価する方法であって、該基線直径が該化合物の投与前に測定される方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対するクロス・リファレンス
本出願は、2008年10月21日提出の米国暫定特許出願第61/107,053号に対する利益を請求するものであり、この内容は完全に引用によって本明細書に組み入れられている。
【0002】
方法は、インビボにおける血管収縮および血管拡張を非侵襲的に評価するために提供される。
【背景技術】
【0003】
心臓、脳および腎臓の血管系は、広範囲の潅流圧力にわたり定常的血流を維持する−自己調節として知られる現象−ことができる。動脈圧、組織圧、神経性および体液性影響、組織代謝物、血管の筋原性緊張および内皮を含むいくつかの因子が、冠状および他の血管床における血流に影響を与える(非特許文献1)。血管における収縮性および拡張性刺激に対する適当な血管運動反応は、血流を調節するための重要な要素である。収縮性と拡張性刺激の間の平衡における乱れは、臓器の血流(例えば、虚血)および血圧変化をもたらす全末梢抵抗(例えば、高血圧)に影響を与えることができる。
【0004】
正常な生理学的状態下では、血流に対する抵抗は多数の因子に反応して拡張する抵抗血管の能力によって克服できるであろう。しかしながら、アテローム性動脈硬化症、血栓症および内皮性傷害を含むいくつかの病理生理学的状態は、正常な血管拡張シグナルに反応して拡張する抵抗血管の能力に影響を与える。それに加えて、真性糖尿病、肥満症、うっ血性心不全および高血圧、ある種の自己免疫疾患およびある種の内分泌障害のような疾病は、抵抗血管の拡張に悪影響を及ぼす。
【0005】
内因性因子、薬物および飲食物のような他の因子が、正常な動脈血管拡張を妨害することがある。例えば、メチオニンとその代謝副産物ホモセリンおよび脂質代謝異常は、多くの血管類において拡張プロセスを損なう(非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5)。高い脂肪または食塩の摂取は異常な血管拡張を生じる(非特許文献6;非特許文献7)。可溶化したたばこ煙粒子ならびにニコチン代謝物もまた血管の弛緩を阻止することが分かっている(非特許文献8;非特許文献9)。褐色細胞腫においてしばしば見られる過剰な循環ノルエピネフリンのレベルは、血管拡張における異常をもたらす(非特許文献10)。グルココルチコイド、コカイン、ある種の抗腫瘍薬、シクロスポリンA、ハロタンは、例えば、正常な動脈血管拡張に悪影響を及ぼすことが知られている(非特許文献11;非特許文献12;非特許文献13;非特許文献14)。
【0006】
内皮が機能的に損なわれていない場合、血管はコリン作動性アゴニストまたはコリン様薬剤に対して拡張反応を現すという研究が示された(非特許文献15;非特許文献16)。血管拡張は、内皮細胞に及ぼすアセチルコリンおよび他のコリン様薬剤によるムスカリン性M受容体の刺激と、それに続く、休止している血管緊張の顕著な決定因子である血管拡張剤一酸化窒素(NO)の遊離によっている(非特許文献17;非特許文献18)。内皮細胞が傷害または損傷されると、ムスカリン性受容体に刺激されるNO生成が低下される。対立しない交感神経性アドレナリン性緊張の存在下で平滑筋細胞におけるムスカリン性受容体の刺激と組み合わされたNO量の減少は、血管拡張反応の喪失をもたらすだけでなく、血管における血管収縮を潜在的に起こすことができる。したがって、コリン作動性アゴニストによって刺激される血管拡張は、機能的に無傷な内皮に依存している。
【0007】
ヒトとウサギの間の血管の形態学的類似性により、ウサギは薬物に対する血管運動反応を測定するための研究モデルとして使用されてきた。Laherらは、α−トキシンが内皮媒介の血管拡張を選択的に損なうことを例証するためにウサギの腎臓または耳から単離された血管を使用した(非特許文献16)。近年、Droletら(非特許文献19)は、腹大動脈の超音波記録を使用して、腹大動脈の直径がアセチルコリンに反応して1〜4%変化することを示した。これらの方法は、インビボにおいて正常に存在する適当な生理学的環境を与えていないか、あるいはインビボにおける血管運動反応を効率的に検査するために十分な動的範囲または感受性を欠いているかいずれかである。したがって、インビボにおける血管運動反応を測定するために効率的かつ感受性の高い方法を開発する必要が今なお存在する。
【0008】
本出願は、血管運動反応に及ぼす試験化合物の効果を評価する方法を提供する。さらに、方法は、ノルエピネフリンのような収縮性作用物、アセチルコリンのような拡張性作用物、または内皮性信号伝達を増大または妨害する他の作用物に対する全身性曝露、およびウサギの中心耳動脈の内腔を測定することからなる血管運動機能に及ぼす内皮性効果を評価するために提供される。本出願の動脈血管運動機能の動物モデルは、インビボにおける基礎的血管緊張および内皮依存性血管運動機能に及ぼす試験化合物の効果を評価するために有用である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】総説、Konidala and Gutterman,2004,Progress in Cardiovascular Diseases 46:349−373
【非特許文献2】Dayal et al.,2005,Circulation 112:737−744
【非特許文献3】Distrutti et al.,2008,Hepatology 47:659−667
【非特許文献4】Hansrani and Stansby,2008,Jounal of Surgical Research 145:13−18
【非特許文献5】Moat et al.,2006,Journal of Clinical Investigation 36:850−859
【非特許文献6】Hermann et al.,2003,Circulation 108:2308−2311
【非特許文献7】Mahmud et al.,2008,Journal of Pediatrics 152:557−562
【非特許文献8】Zhang et al.,2006,BMC Cardiovascular Disorders 6:3
【非特許文献9】Conklin et al.,2001,Jounal of Surgical Research 95:23−31
【非特許文献10】Hagashi et al.,2002,Hypertension 39:513−518
【非特許文献11】Tonga et al.,2001,Toxicology Letters 123:43−50
【非特許文献12】El−Mas et al.,2007,Biochemical Pharmacology 73:359−367
【非特許文献13】Chow et al.,2006,Journal of Clinical Oncology 24:925−928
【非特許文献14】Mondo et al.,2006,Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology 33:1029−1034
【非特許文献15】Sugama et al.,2002,Japan Heart J 43:545−558
【非特許文献16】Laher et al.,1995,Canadian J Physiology Pharmacology 73:1669−1673
【非特許文献17】Brown and Taylor,2001,Pharmacological Basis of Therapeutics,Hardman,J.G and Limbird,10th edition,pp 155−173
【非特許文献18】Moody et al.,2001,Pharmacological Basis of Therapeutics,Hardman,J.G and Limbird,10th edition,pp 385−397
【非特許文献19】Drolet et al.,2004,Cardiovascular Ultrasound 2:10
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、ウサギに化合物を投与し、そしてウサギの中心耳動脈の管内腔の基線直径と比較してウサギの中心耳動脈の管内腔の直径を測定する段階を含む、インビボにおける血管運動反応に及ぼす化合物の効果を評価する方法を提供することである。化合物は血管拡張剤または血管収縮剤であってもよい。
【0011】
本発明のその他の目的は、ウサギの中心耳動脈の管内腔の基線直径を測定し、ウサギに化合物を投与し、次いで管の直径を前収縮させるために血管収縮剤を投与し、続いて前収縮された管の直径を増加するためにウサギに血管拡張剤を投与し、そしてウサギの中心耳動脈の管内腔の直径を再び測定することによって血管拡張剤に対する反応において前収縮された管の基線直径での変化に及ぼす化合物の効果を決定する段階を含む、インビボにおける血管運動反応に及ぼす化合物の効果を評価する方法を提供することである。
【0012】
本発明のその他の目的は、ウサギに化合物を投与し、ウサギの中心耳動脈の管内腔の基線直径を測定し、次いで管の直径を収縮させるためにウサギの中心耳動脈に血管収縮剤を投与し、そしてウサギの中心耳動脈の管内腔の基線直径を再び測定することによって収縮された管の直径に及ぼす化合物の効果を決定する段階を含む、インビボにおける血管運動反応に及ぼす化合物の効果を評価する方法を提供することである。
【0013】
本発明のその他の目的は、ウサギに化合物を投与し、ウサギの中心耳動脈の管内腔の基線直径を測定し、そしてウサギの中心耳動脈の管内腔の基線直径を再び測定することによって収縮された管の直径に及ぼす化合物の効果を決定する段階を含む、インビボにおける血管運動反応に及ぼす化合物の効果を評価する方法を提供することである。
【0014】
本発明によれば、化合物は、経口的、末梢的、非経口的または局所的にウサギに投与されてもよく、そして該管内腔の直径は超音波画像システムによって測定されてもよい。
【0015】
本発明の他の目的および特徴は、付随する図面と一緒に考慮される次の詳細な記述から明らかになるであろう。しかしながら、図面は具体的な説明の目的のためにのみ企画されたものであり、本発明の範囲の定義として企画されたものではなく、これのための言及は添付される請求項についてなされるべきであることが理解されねばならない。図面は必ずしも一定の比率で描かれたものではなく、そして別に指示されない限り、それらは、単に本明細者に記述される構造および方法を概念的に具体的に説明するものであることを、さらに理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(A)ウサギにおいてノルエピネフリンで前収縮された動脈におけるアセチルコリン誘導の血管拡張において中心耳動脈内腔直径に及ぼすL−NAMEの効果。データは最終平均直径±SEMとして示される。N=6血管。(B)ウサギにおいてノルエピネフリンで前収縮された動脈におけるアセチルコリン誘導の血管拡張において中心耳動脈内腔面積に及ぼすL−NAMEの効果。データは最終平均面積±SEMとして示される。N=6。
【図2】(A)ウサギにおいてノルエピネフリンで前収縮された動脈におけるアセチルコリン誘導の血管拡張において中心耳動脈内腔直径に及ぼす化合物2の効果。データは最終平均直径±SEMとして示される。N=6。(B)ウサギにおいてノルエピネフリンで前収縮された動脈におけるアセチルコリン誘導の血管拡張において中心耳動脈内腔面積に及ぼす化合物2の効果。データは最終平均面積±SEMとして示される。N=6。
【図3】(A)ウサギにおいてノルエピネフリンで前収縮された動脈におけるアセチルコリン誘導の血管拡張において中心耳動脈内腔直径に及ぼすトルセトラピブ(torcetrapib)の効果。データは最終平均直径±SEMとして示される。N=6。(B)ウサギにおいてノルエピネフリンで前収縮された動脈におけるアセチルコリン誘導の血管拡張において中心耳動脈内腔面積に及ぼすトルセトラピブの効果。データは最終平均面積±SEMとして示される。N=6。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一酸化窒素によって正常に媒介される内皮依存性血管拡張を含む血管運動反応における異常は、血管疾患(CAD、高血圧など)において大きな役割を演じると考えられ、そして心臓血管リスクの増大に関連しているであろう。正常な血管拡張メカニズムを損なう薬物は、悪い心臓血管事象に対するリスクを増大するかもしれない。臨床研究は、トルセトラピブ、コレステリルエステル転移タンパク質(CETP)インヒビターを受けている患者では比較的高い収縮期血圧を示す(Barter et al.,2007,New England J Med 357:2109−2122)。これは、正常な血管拡張刺激に対する血管運動反応に及ぼすトルセトラピブの影響によるのかもしれない。CETPインヒビターはコレステロール代謝を調節するための潜在的薬物であるので、トルセトラピブおよび化合物2を含むCETPインヒビターを、血管運動反応に及ぼすそれらの効果に関して試験することは有用である。トルセトラピブ、(2R,4S)−4−[[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンジル](メトキシカルボニル)アミノ]−2−エチル−6−(トリフルオロメチル)−3,4−ジヒドロキノリン−1(2H)−カルボン酸エチルは、次の化学構造:
【化1】

を有する。
【0018】
化合物2、1,1,1−トリフルオロ−3−[2−{3−[(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)オキシ]フェニル}−5−{3−[(トリフルオロメチル)オキシ]フェニル}−3,4−ジヒドロキノリン−1(2H)−イル]プロパン−2−オールは、次の構造:
【化2】

を有する。
【0019】
本出願では、方法はインビボにおける血管運動反応を評価するために提供される。さらに、方法はインビボにおける血管運動反応に及ぼす薬物または試験化合物の効果を評価するために提供される。内皮によって媒介される血管運動反応に及ぼす試験化合物の効果は、また、ノルエピネフリンにより前収縮されたウサギの中心耳動脈(CEA)においてコリン作動性アゴニストを用いて血管拡張を誘導することによって評価することもできる。試験化合物は、拡張または収縮作用物であってもよく、あるいは血管運動緊張または血管直径に及ぼす直接効果をもたなくてもよく、そしてトルセトラピブおよび化合物2を含んでもよい。
【0020】
本明細書で使用されるような用語「拡張(性)作用物(dilatory agent)」、「拡張(性)薬物(dilatory drug)」、「血管拡張剤(vasodilator)」またはそれらの変異体は、抵抗血管の直径を増大することができるすべての分子を意味する。例を挙げれば、拡張性作用物または薬物は、必ずしも限定されるものではないが、次の化合物:アセチルコリン、メタコリン、アセクリジン、アレコリン、ピロカルピン、セビメリンのようなコリン作動性アゴニスト、硝酸化合物(例えば、ニトロプルッシド、ニトログリセリン)、一酸化窒素ガス、イソプロテレノールおよび関連β−2アドレナリン受容体アゴニスト、ヒドララジン、ミノキシジル、ジアゾキシド、および他のカリウムチャンネル開口薬、ベラパミルおよび他のカルシウムチャンネルアンタゴニスト、カプトプリルのようなアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、ロサルタンのようなアンギオテンシン受容体アンタゴニスト、クロニジンおよびその他を含むα−2アドレナリン受容体アンタゴニスト、ケタンセリンを含むセロトニンアンタゴニスト、ヒスタミン、ヘキサメトニウムのような神経節遮断薬物、エンドセリン受容体アンタゴニスト、バソプレッシンアンタゴニスト、ホスホジエステラーゼ阻害剤、ブラジキニンおよび関連ペプチド、アドレノメヅリン、心房および脳ナトリウム排泄増加ペプチド、カルシトニン遺伝子関連ペプチドのような血管拡張ペプチド、およびそれに類するものを含む。
【0021】
本明細書で使用されるような用語「収縮(性)作用物(constrictive agent)」、「収縮(性)薬物(constrictive drug)」、「血管収縮剤(vasoconstrictor)」またはそれらの変異体は、抵抗血管の直径を減少することができるすべての分子を意味する。例を挙げれば、収縮作用物は、必ずしも限定されるものではないが、次の化合物:ノルエピネフリン、エピネフリン、フェニレフリン、メトキサミン、メフェンテルミン、メタラミノール、ミドドリン、高用量ドーパミン、コカイン、アンフェタミンおよび関連作用物、セロトニン、バソプレッシンおよび関連類似体、アンギオテンシンIIおよび関連ペプチド、エンドテリンペプチド、ウロテンシンII、およびそれに類するものを含む。
【0022】
インビボにおいて血管拡張剤または血管収縮剤の存在下で血管運動反応を試験するために、ウサギ耳の中心動脈がこれらの作用物に曝露された。CEA、抵抗血管は、血管拡張剤または血管収縮剤に反応して管内腔の直径で大きな変化を受け得ることが、本明細書において見い出される。このことは、これらの作用物への反応において管内腔の直径では最小の変化を受ける大動脈または他の弾力性動脈の使用とは反する。
【0023】
ウサギ6羽の一群が、筋肉内に投与されたケタミン(50mg/kg)/キシラジン(100mg/kg)の混合液により麻酔され、そして体温を維持するために加温パッド上に置かれた。ウサギの耳翼が剃られ、そして店頭の脱毛剤を用いて脱毛された。右耳のCEAを覆う背面の約2cmの部分が加温された超音波ゲルを塗られた。ウサギのCEAの基線直径と面積は23.5MHz超音波プローブ(モデルRMV 708)を使用して評価された。画像はVisualsonics Vevo 600システムに記録され、ここで、続いてCEA内腔の直径および面積が測定された。血管内腔の直径および面積が平均値および平均値の標準誤差(SEM)として表された。ノルエピネフリンおよびアセチルコリンが、注入ポンプに連結された27−ゲージ翼状針注入セットを通して反対側の左耳静脈中に注入された。画像は注入期間中約5分間隔で得られた。
【0024】
アセチルコリン誘導の血管拡張がNO依存性であることを確認するために、ウサギ6羽の第2群が、連続5日間、TangTMで着香された飲料水中に混合された一酸化窒素合成酵素阻害剤L−NAME(400μg/ml)(N=3)またはTangTMで着香された飲料水のみ(N=3)のいずれかを投与された。L−NAME、N(G)−ニトロ−L−アルギニン−メチルエステルは、正常な一酸化窒素依存性血管拡張をブロックするアルギニン誘導体である。次いで、ウサギのCEAが6日目に画像撮影された。ウサギは約1週間回復させられ、次いで、交差方式で、各群3羽が5日間反対の処置を与えられ、次いで6日目に画像撮影された。
【0025】
その他の群では、6羽の成熟New Zealand雄ウサギ(2.5−3.5kg)が、1週目の間、連続4日間Imwitor/Cremophor/水・溶媒を経口的(フィーディングチューブによる摂食)に投与された。その溶媒(10%Imwitor、20%Cremophor RH40および70%水、薄い乳状化合物溶液)は、1日当たり3ml/kgの総容量で与えられた。4日目に、溶媒または薬物を経口投与3時間後、ウサギは麻酔され、そして上記のようにCEA血管内腔に及ぼす溶媒の影響について測定された。第1週後、ウサギは3日間回復させられ、次いで、第2週の間は連続4日間、トルセトラピブまたは化合物2のような試験化合物を約30mg/kgにおいて経口投与された。2週目の第4日に、試験化合物への反応におけるウサギCEAの直径変化が、前記のようにノルエピネフリンとそれに続くアセチルコリンの注入により調査された。ウサギは、再び、薬物消失を考慮するためにさらに1週間回復させられ、次いで、毎日、溶媒投与され、そして試験化合物への反応におけるCEAの直径変化が前記のように評価された。
【0026】
試験化合物は経口的、末梢的、非経口的または局所的のいずれで投与されてもよい。試験化合物の各投与量および処置の期間は、試験化合物の効力または性質に応じて変わってもよく、これは当業者によって容易に決定できる。
【0027】
本ウサギCEAモデルは、ノルエピネフリン誘導の前収縮に関しては、血管収縮を誘導するノルエピネフリンおよび血管拡張を誘導するアセチルコリンに対して感受性であることが示される。また、アセチルコリンの効果は、L−NAME前処置を受けている群においてはアセチルコリン注入に反応する血管拡張の欠如によって示されるように、一酸化窒素依存性であることが示される。トルセトラピブの毎日の投与は、溶媒処置に較べて、基礎の血管収縮剤緊張における増大をもたらし、そしてアセチルコリン誘導の血管拡張を無
効にする。化合物2は基礎血管緊張またはアセチルコリン誘導の血管拡張に及ぼす効果を有しない。
【0028】
当業者は、本明細書に記述された方法に対する他の適当な変異物または修飾物を知ることができ、そして本出願によるウサギCEAの使用のためにそのような方法を適合させることができるであろう。例えば、病状をもつウサギのCEAは、病的状況下での血管運動反応に及ぼす試験化合物の効果を評価するために使用されてもよい。病状をもつウサギの血管は、異常な基線血管運動緊張を現すことがあり、そして/または病気により収縮性または拡張性刺激に対して異常に反応することもある。このことは、ある病的状況下で内皮によって媒介される血管運動反応の理解を容易にするであろう。さらに、病状をもつウサギのCEAは血管拡張剤または血管収縮剤によって前処置される必要がないかもしれない。血管運動反応に及ぼす試験化合物の効果は、CEA管内腔の基線直径または面積に及ぼす化合物の効果を調査することによって評価されるかもしれない。これは、病的血管を直接収縮または拡張することができる薬物または化合物を同定するのに有用であり、そして血管に及ぼす疾病の病理生理学的影響を理解するにも、あるいは疾病の血管への影響を処置するのにも有用である。さらに、正常および病的ウサギのCEAは、試験化合物の効果を理解するために並行させて(head−to−head)比較する目的に使用されてもよい。
【実施例1】
【0029】
アセチルコリンおよびノルエピネフリンによって誘導される血管運動反応の評価
CEAの一連の5画像(約5分間隔)が撮られ、そしてそれぞれ基線内腔の直径(mm)および面積(mm)の測定のために使用された。アドレナリン作動アゴニスト・ノルエピネフリンが1分当り約28μgで徐々に注入され、かつその手順の間維持された。アセチルコリンの注入は、ノルエピネフリンの注入と一緒に、約10,17,30および56μg/分での段階的拡大用量において各15分間投与された。画像は各15分の注入期間の間数回収集された。最終のアセチルコリンおよび同時ノルエピネフリンの注入期間後、全注入は終了され、そして血管はそのままその最初のサイズに戻された。血液約2mlが、最後の測定後直ちに、画像撮影されなかった反対側のCEAからサンプリングされた。全サンプルはEDTAを含有するチューブ中に収集され、そして約10,000rpmにおいて6分間遠心分離された。血漿は、試験された化合物の濃度について分析されるまで−80℃で保存された。さらに、血液が標準薬物濃度曲線の作成のために無処置のウサギから採取された。
【0030】
拡張作用物、収縮作用物または試験化合物のいずれの処置も受けない麻酔ウサギでは、基線CEA内腔の直径および面積は、それぞれ、約0.8−0.9mmおよび約0.6−0.7mmであることが分かった。基線CEA内腔直径は静脈内生理食塩水の注入によって影響を受けなかった。本明細書で使用されるように、熟語、基線CEA内腔直径および面積またはその変異物は、いずれかの化合物の投与前のCEA内腔の血管口径の最初の測定値を指す。
【0031】
アセチルコリン注入のみを受けた群では、基線CEAの直径および面積は、56μg/分までの用量において麻酔されたウサギでの変化はなかった。このことは、アセチルコリンが既に拡張された内腔には効果をもたないことを示した。
【0032】
ノルエピネフリンを注入された群では、CEA内腔直径および面積は、それぞれ、約0.5mmおよび約0.2mmまで減少された。前収縮されたCEAを有するウサギにおける続くアセチルコリンの注入は、血管内腔を基線直径および面積まで回復させた。これらの結果は、ウサギのCEAモデルが基線の直径または内腔面積のそれぞれ約44または70%の範囲における血管運動変化の評価を提供することを示した。
【0033】
これらの反応が一酸化窒素によって媒介されたか否かを試験するために、一酸化窒素合成酵素阻害剤、L−NAMEが、アセチルコリンおよびノルエピネフリンにより処置されるウサギに対して飲料水(400μg/ml)において投与された。実施例1の結果は、ノルエピネフリンで前収縮されたCEAにおけるアセチルコリン誘導の血管拡張が用量依存性であり、かつL−NAMEによる処置がこのアセチルコリン誘導の血管拡張を阻害することを示している(図1Aおよび1B)。このことは、前収縮されたCEAの血管拡張反応が、NOによって媒介され、かつウサギCEAがインビボにおける内皮性機能を模することを示す。
【実施例2】
【0034】
血管拡張反応に及ぼす試験化合物の効果の評価
血管運動緊張に及ぼすトルセトラピブおよび化合物2の効果が、ウサギに溶媒を4日間経口投与し、続いてこれらの化合物を経口投与することによって試験された。処置されたウサギのCEA管内腔は前記のように測定された。
【0035】
約30mg/kgの経口用量で4日間、化合物2で処置されたウサギでは、処置されたウサギにおける基線CEA内腔直径および面積は、溶媒のそれらに類似していた(図2AおよびB)。図2において示されるように、溶媒は、ノルエピネフリン前収縮されたCEA内腔の直径および面積においてアセチルコリン誘導の血管拡張には効果をもたなかった。ノルエピネフリンおよびアセチルコリンを投与した後、化合物2で処置されたウサギのCEA内腔直径および面積は、溶媒群におけるそれらに類似して、それぞれ、約0.8mmおよび約0.6mmであった(図2Aおよび2B)。最後の経口投与4時間後、血液サンプルが収集されてウサギにおける化合物2の濃度を決定した。化合物2により処置されたウサギの血漿濃度は最後の投与後4時間には2.58±0.67μMである。このことは、化合物2が、血漿中にそれが豊富にあるにも拘らず、基線CEA内腔の直径および面積、またはノルエピネフリンで前収縮されたCEA管内腔および面積におけるアセチルコリン誘導の血管拡張には影響しないことを示している。
【0036】
ノルエピネフリンまたはアセチルコリンを投与する前4日間、トルセトラピブを約30mg/kgの経口用量で投与されたウサギでは、基線CEA内腔直径は、溶媒群における0.85mmに比較して約0.55mmまで減少され、そして基線CEA内腔面積は、溶媒群における0.65mmに比較して約0.3mmまで減少された(図3Aおよび3B)。ノルエピネフリン投与後、CEA管内腔の直径および面積によって測定されるようなトルセトラピブ処置されたウサギにおけるアセチルコリン誘導の血管拡張反応は、溶媒群における0.8mmに比較して約0.45mmまで減少された(CEA内腔面積における対応する変化は、溶媒群における0.6mmに比較して約0.2mmであった)。トルセトラピブにより処置されたウサギの血漿濃度は最終用量後4時間には約1.01±0.54μMであった。このことは、トルセトラピブが測定可能な基線血管収縮を惹起し、かつ化合物2より低い血漿中のそのレベルによって、ノルエピネフリンで前収縮されたCEA管内腔におけるアセチルコリン誘導の血管拡張を阻害することを示している。
【0037】
実施例2では、その結果は、4日間のトルセトラピブ(30mg/kg)1日1回経口投与が、溶媒処置した対照と比較した場合、基線血管収縮を生じ、かつ麻酔ウサギのノルエピネフリン前収縮された中心耳動脈のアセチルコリン誘導性拡張の阻害を起こしたことを示す。同じ投与計画により同じ用量で経口的に投与された化合物2は、基線血管収縮を生じず、かつノルエピネフリン前収縮に続くアセチルコリン誘導性血管拡張を生じない。いずれかの化合物の最終用量4時間後にサンプリングされた血漿レベルは、各薬物がマイクロモル濃度で存在することを示し、かつ化合物2の血漿濃度がトルセトラピブのそれを約2.5倍上回ったことを示している。これらの2種の化合物の異なる反応は、あらゆる
CEPTインヒビターが必ずしも基線および内皮依存の血管運動反応を妨害しないことを示した。
【0038】
かくして、本発明の好適な実施態様に応用されるような本発明の基本的新規特徴が示され、記述され、そして指摘されたけれども、具体的に説明されるデバイスの形態および詳細部分における、またそれらの操作における種々の省略および置換および変化が、本発明の精神から逸脱することなく当業者によって作成されてもよいことは理解されるであろう。例えば、同じ結果を達成するために本質的に同じ方法で本質的に同じ機能を実施するそれらの要素のすべての組み合わせおよび/または方法段階は、本発明の範囲内に存在する。さらに、本発明のすべての開示された形態または実施態様とともに示され、そして/または記述される構造物および/または要素および/または方法段階は、設計選択の一般問題としてすべての他の開示または記述または示唆された形態または実施態様に組み入れられてもよいことを認識すべきである。したがって、本明細書に添付される請求項の範囲によって示されるようにのみ限定されることが強調される。
【図1A】

【図1B】

【図2A】

【図2B】

【図3A】

【図3B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウサギに化合物を投与し、そして該ウサギの中心耳動脈(CEA)の管内腔の基線直径と比較して該ウサギの該中心耳動脈の管内腔の直径を測定する段階を含む、インビボにおける血管運動反応に及ぼす該化合物の効果を評価する方法であって、該基線直径が該化合物の投与前に測定される方法。
【請求項2】
該化合物が、経口的、末梢的、非経口的または局所的に該ウサギに投与される、請求項1の方法。
【請求項3】
該化合物が血管拡張剤である、請求項1の方法。
【請求項4】
該化合物が血管収縮剤である、請求項1の方法。
【請求項5】
該管内腔の直径が超音波画像システムによって測定される、請求項1の方法。
【請求項6】
インビボにおける血管運動反応に及ぼす化合物の効果を評価する方法であって、
a.ウサギのCEAの管内腔の基線直径を測定すること;
b.該ウサギに該化合物を投与すること;
c.該管の直径を前収縮させるために該ウサギの該CEAに血管収縮剤を投与すること;d.該前収縮された管の直径を増加させるために該ウサギの該CEAに血管拡張剤を投与すること;そして
e.段階aにおいて測定される該管内腔の基線直径と比較して該ウサギの該CEAの該管内腔の直径を測定することによって、段階cおよびdから得られる該管の直径に及ぼす該化合物の効果を決定すること;
の段階を含む、方法。
【請求項7】
該管内腔の直径が超音波画像システムによって測定される、請求項6の方法。
【請求項8】
該血管収縮剤が、ノルエピネフリン、エピネフリン、フェニレフリン、メトキサミン、メフェンテルミン、メタラミノール、ミドドリン、高用量ドーパミン、コカイン、アンフェタミンおよび関連作用物、セロトニン、バソプレッシンおよび関連類似体、アンギオテンシンIIおよび関連ペプチド、エンドテリンペプチド、ウロテンシンII、またはそれらの組み合わせ物を含む、請求項6の方法。
【請求項9】
該血管拡張剤が、アセチルコリン、メタコリン、アセクリジン、アレコリン、ピロカルピン、セビメリン、ニトロプルッシド、ニトログリセリン、ニトロプルッシド、ニトログリセリン、一酸化窒素ガス、イソプロテレノールおよび関連β−2アドレナリン受容体アゴニスト、ヒドララジン、ミノキシジル、ジアゾキシド、ベラパミルおよび他のカルシウムチャンネルアンタゴニスト、カプトプリル、ロサルタン、クロニジン、ケタンセリン、ヒスタミン、ヘキサメトニウム、ブラジキニンおよび関連ペプチド、アドレノメヅリン、心房および脳ナトリウム排泄増加ペプチド、カルシトニン遺伝子関連ペプチド、またはそれらの組み合わせ物を含む、請求項6の方法。
【請求項10】
該血管拡張剤がコリン作動性アゴニストおよび血管拡張ペプチドからなる群から選ばれる、請求項6の方法。
【請求項11】
該コリン作動性アゴニストが、アセチルコリン、メタコリン、アセクリジン、アレコリン、ピロカルピン、セビメリン、またはそれらの組み合わせ物である、請求項9の方法。
【請求項12】
該血管拡張ペプチドが、ブラジキニンおよび関連ペプチド、アドレノメヅリン、心房および脳ナトリウム排泄増加ペプチド、カルシトニン遺伝子関連ペプチド、またはそれらの組み合わせ物である、請求項9の方法。
【請求項13】
インビボにおける血管運動反応に及ぼす化合物の効果を評価する方法であって、
a.該ウサギのCEAの管内腔の基線直径を測定すること;
b.ウサギに該化合物を投与すること;
c.該管の直径を前収縮させるために該ウサギの該CEAに血管収縮剤を投与すること;そして
d.段階aにおいて測定される該管内腔の基線直径と比較して該ウサギの該中心耳動脈の該管内腔の直径を測定することによって、段階cから得られる該管の直径に及ぼす該化合物の効果を決定すること;
の段階を含む、方法。
【請求項14】
該管内腔の直径が超音波画像システムによって測定される、請求項13の方法。
【請求項15】
インビボにおける血管運動反応に及ぼす化合物の効果を評価する方法であって、
a.該ウサギのCEAの管内腔の基線直径を測定すること;
b.ウサギに該化合物を投与すること;
c.段階aにおいて測定される該管内腔の基線直径と比較して該ウサギの該中心耳動脈の該管内腔の直径を測定することによって、段階bから得られる該管の直径に及ぼす該化合物の効果を決定すること;
の段階を含む、方法。
【請求項16】
該管内腔の直径が超音波画像システムによって測定される、請求項15の方法。

【公表番号】特表2012−506997(P2012−506997A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532352(P2011−532352)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【国際出願番号】PCT/US2009/061514
【国際公開番号】WO2010/048311
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(505121394)ジヨンソン・アンド・ジヨンソン・フアーマシユーチカル・リサーチ・アンド・デベロツプメント・エルエルシー (5)
【Fターム(参考)】