説明

インフルエンザウイルス感染の治療に有用な医薬の調製のためのリスベラトロールの使用

インフルエンザの治療用医薬の調製のためのリスベラトロールの使用が記載される。該医薬はウイルス複製の阻害を介してその治療活性を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載する本発明は、インフルエンザウイルス感染の治療用医薬の調製における活性成分としてのリスベラトロールの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リスベラトロール、即ち、3,4,5-トリヒドロキシスチルベンは、赤ワインの公知の有益な特性に関して最近さかんに研究がなされている。リスベラトロールは赤ワインの基本成分の1つである(Life Sci., 71, 2145-52, 2002)。
【0003】
リスベラトロールは黒ブドウの表面に50〜100μg/グラムの量で存在し、赤ワイン中でのその濃度は1.5〜3 mg/lである。
【0004】
多くの研究によってリスベラトロールの抗発がん性活性が示されており、その作用機作は以下に分けられる:炎症性および発がん性プロセスに関与する様々な遺伝子の発現を制御することが出来る、転写因子NF-kBの活性化の阻害(Lancet, 341, 1103-1104, 1993; Science, 275, 218-220, 1997; Proc. Natl. Acad. Sc., 94, 14138-14143, 1997; Life Science, 61, 2103-2110, 1997; Brit. J. Pharm., 126, 673-680, 1999; J. Imm., 164, 6509-6519, 2000);様々なタンパク質、例えば、タンパク質キナーゼC(Bioch., 38, 13244-13251, 1999)、リボヌクレオチドレダクターゼ(FEBS Lett., 421, 277-279, 1998)および哺乳類上皮細胞におけるシクロオキシゲナーゼ-2 (COX-2)(Ann. N.Y. Acad. Sci, 889, 214-223, 1999; Carcinog., 21, 959-963, 2000) の阻害;カスパーゼ 2, 3, 6および9の活性化(FASEB J., 1613-1615, 2000)および公知の腫瘍抑制因子である遺伝子p53の調節(Cancer Research, 59, 5892-5895, 1999; Clin. Bioch., 34, 415-420, 2001)。
【0005】
リスベラトロールの有益な作用の中でも、本発明者らはその抗酸化活性にも言及すべきであり、それは上記の細胞内酸化ストレスを引き起こす様々な物質および/または条件により生じる悪影響に対抗する能力により示唆される(Free Radic. Res., 33, 105-114, 2000)。
【0006】
リスベラトロールは血管内皮レベルでの一酸化窒素の産生により血管弛緩を誘導することが出来(Cancer Res., 59, 2596-01, 1999)、血小板におけるトロンボキサンの合成を阻害することが出来(Clin. Chim. Acta, 235, 207-219, 1995; Int. J. Tissue React., 17, 1-3, 1995)、そして、好中球におけるロイコトリエンの合成を阻害することが出来、低密度リポタンパク質 (LDL) の酸化と凝集を妨げることが出来る(Lancet, 341, 1103-1104, 1993; Life Sci., 64, 2511-2521, 1999)。
【0007】
最近、インビトロ実験系に基づいて、単純ヘルペスDNAウイルスに対するリスベラトロールの阻害活性が示されている(Antiv. Res., 43, 145-155, 1999)。
【0008】
本発明者およびその他の研究グループによって得られたデータにより、多くの抗酸化物質が、パラインフルエンザセンダイウイルス(SV)1型、単純ヘルペス1ウイルス(HSV-1)および後天性免疫不全ウイルス(HIV)の複製をインビトロで阻害することが出来ることが明らかになった (AIDS Res. Hum. Retoviruses, 1997: 1537-1541; Biochem. Biophys. Res. Commun., 1992; 188, 1090-1096; Antivir. Res., 1995, 27, 237.253)。抗酸化物質の抗ウイルス効力は、マウスAIDS (MAIDS) モデルおよびHSV1角膜炎においても示されている(AIDS Res. Hum. Retroviruses, 1996: 12, 1373-1381: Exp. Eye. Res., 200: 70, 215-220)。
【0009】
インフルエンザはその結果として重大な公衆衛生の問題および重要な保健医療経済的な影響を伴う世界中の人々に関係のある疫学的問題である。インフルエンザの原因であるウイルスは広範であり感染性が高い。残念なことに、現在利用可能な治療法は未だ完全に有効ではなく、しばしば耐性ウイルス株の選抜を導いてしまい(Fields, cap47, 1533-79, 2001)、さらに重要なことに、ワクチンキャンペーンは、ワクチンに基づく予防に固有の欠点に加えて、ウイルスの抗原性が非常に多様であるために、未だに十分なものではない(Fields, cap47, 1533-79, 2001)。
【0010】
ウイルス複製に対して攻撃する様々な戦略の中で、最近の研究によると(J. of Virol., 74, 1781-1786, 2000)、特異的ウイルスリボヌクレオタンパク質の細胞質への輸送に、タンパク質M1が重要な役割を果たすことが報告されている。これはウイルスの複製サイクルの基本段階であるようであり、従って、ウイルス複製の阻害はヌクレオタンパク質の感染細胞の核内への保持を介して、タンパク質 Mの合成阻害によって行われ得る。この現象は、細胞タンパク質のキナーゼ機能の阻害に起因する可能性がある。実際、最近、キナーゼの阻害が、インフルエンザウイルスの複製に対する強力な阻害作用とともに細胞核へのNPの保持をもたらすこと(Nature Cell. Biol., 3, 301-5, 2001; J. of Virol., 74, 1781-86, 2000)が示されている
【0011】
GSHは細胞の酸化還元系における主要な抗酸化物質であり、様々なウイルスの複製に関与していることが知られている。実際、本発明者による以前の研究により、ウイルス感染の際に、感染自体の結果としてGSHレベルの減少を観察することが可能であることが示されている(Rotilio et al., “Oxidative stress on cell activation in viral infection”, 143-53, 1993; Palamara et al., Antiviral Research, 27, 237-53, 1995)。
【0012】
アポトーシスの公知の機構の異常な制御は、多くのヒト疾患、例えば多数の自己免疫疾患、感染性疾患または神経性疾患、例えば、AIDSおよび癌の原因である因子である。
【0013】
以前の研究において、リスベラトロールは、細胞のアポトーシスの誘導による腫瘍細胞の排除を可能とすると記載されている。最近、Tinhofer I. et al. (FASEB J., 18, 1613-15, 2001)によって行われた研究により、リスベラトロールに誘導されるアポトーシスの第一の現象は、ミトコンドリア膜電位の変化(Δφm)、活性酸素種(ROS)の放出および、カスパーゼ2, 3, 6および9の活性化によって特徴づけられることが判明した。ウイルス株および感染効率に応じて、様々な割合でインフルエンザウイルスがアポトーシスを誘導することも知られている。
【0014】
[発明の開示]
発明の概要
このたび、リスベラトロールがインフルエンザウイルス複製に阻害作用を示すことが見いだされた。全く驚くべきことに、リスベラトロールがインフルエンザウイルス複製に作用するその阻害作用は予測される抗酸化活性によるものではなく、インフルエンザウイルス複製過程に重要な役割を果たす細胞の酵素であるタンパク質キナーゼCの阻害の特定の機構によるものであることも見いだされた。リスベラトロールの使用により享受される主な利点はそれゆえウイルスに間接的に攻撃するその能力にあり、即ち、ウイルス粒子自体ではなく、ウイルスの機能的な細胞構造を妨害することによる能力にある。このタイプのアプローチはそれゆえ非常に一般的な抗ウイルス剤への耐性現象を起こさずに、ウイルスの阻害を導くものである。
【0015】
したがって本発明の一つの目的はインフルエンザウイルス感染の予防および/または治療に有用な医薬の調製のためのリスベラトロールの使用である。本発明の好ましい用途において、リスベラトロールはヒトインフルエンザウイルスに対して用いられる。本発明のより広い用途において、その目的は獣医分野におけるインフルエンザウイルス感染の治療に有用な医薬の調製のためのリスベラトロールの使用も含む。
【0016】
本発明を実施例および図面を用いて以下により詳細に説明する。
【0017】
発明の詳細な説明
本発明の有効性を説明する目的で、インフルエンザウイルス A/PR8/34、サブタイプH1N1(以下、ウイルスPR8と略称する)を用いてインビトロ研究を行った。この株を用いたのは単に例示の目的であり、一般的な意味でのインフルエンザウイルスに本発明が適用できることを理解されたい。
【0018】
材料及び方法
リスベラトロールは市場で一般に入手できるか、あるいは文献に報告されている公知の方法を用いて得られる生成物である。この物質をDMSOに溶解して用いた(80 mg/ml)。実験に用いた濃度は、RPMI 1640中での連続希釈によって得た。すべてのコントロールサンプルはリスベラトロールを溶解するのに用いたのと同じ量のDMSOで処理した。これらの濃度において、DMSOは細胞に対して毒性作用を生じなかった。
【0019】
細胞培養
インフルエンザウイルス複製の研究のために、MDCK細胞(イヌ腎臓上皮細胞)を用いた。細胞を、L-グルタミン、ペニシリン-ストレプトマイシンおよび10% 胎仔ウシ血清(FCS)を添加したRPMI培地中で37℃、5% CO2雰囲気に維持してT-25 バイアルまたは6-および24-ウェルLibno プレートにて培養した。集密細胞単層を0.25% トリプシン溶液で剥離し、遠心分離し、新鮮な培地に再び播いた。細胞の計数は血球計算器を用いて行い、細胞の生存はトリパンブルー生存染色(0.02%)による排除によって判定した。
【0020】
ウイルスの産生
ウイルスは10-日孵化(embryonated)鶏卵尿膜腔に好適に希釈したウイルス懸濁液を接種することによって産生した。37℃で72時間卵をインキュベートした後、新たに形成されたウイルス粒子を含む尿膜腔液(allantoid fluid)を+4℃で遠心分離して清澄にし、-80℃で保存した。
【0021】
ウイルスのタイター測定
ウイルスのタイター測定は、このウイルスに特有の血液細胞を凝集させる能力に基づく、赤血球凝集素技術を用いて行った。
【0022】
尿膜腔液中の非希釈ウイルスを96-ウェルプレートにてリン酸緩衝食塩水(PBS)でのスカラー希釈によりタイター測定し、プレートに0.5%の0 Rh+群のヒト血液細胞の懸濁液を後に添加した。プレートを次いで赤血球凝集反応が起こるのに十分に長期間周囲温度で放置した。赤血球凝集単位(HAU)で表したサンプルのウイルスタイターは、完全な赤血球凝集を引き起こす最後の希釈によって説明された。感染細胞の側のウイルスの放出は感染サンプルの上清と同じ手順で評価し、感染の24および48時間後に測定した。
【0023】
ウイルス感染
MDCK細胞の集密単層をPBSで洗浄しウイルス(0.2感染効率[m.o.i.])で感染させた。具体的には、ウイルスをFCSを含まないRPMI中に適当に希釈し、最小容量にて細胞に添加した。37℃で1時間のインキュベーションの後(ウイルス吸着期間)、接種材料を除去し、単層を過剰の非吸着ウイルスを除くためにPBSで洗浄した後、2% FCSを含有する新鮮な培地に維持した。リスベラトロールを様々な濃度で(1, 5, 10, 15, 20および40μg/ml)以下の処理スケジュールに従って添加した: a) 感染の24時間前(pre-); b)感染細胞へのウイルスの吸着の直後(post-);および、c)感染細胞へのウイルスの吸着の24時間前および直後(pre-post)。すべての場合において、物質は実験の持続時間中インキュベートして放置した。感染の24および48時間後、上清に放出されたウイルスのタイターを赤血球凝集単位の評価によって測定した。図1に示すように、感染後に添加したリスベラトロールは用量依存的にウイルス複製を阻害した。濃度20μg/mlにおいて、ウイルスタイターは感染および非処理コントロールと比較して87%減少しており、非感染細胞への毒性作用は検出されなかった。MDCK細胞に対する毒性の程度を判定する目的で、後者を単層の集密後に様々な濃度(5, 10, 15, 20および40μg/ml)のリスベラトロールで処理した。得られた結果は、インフルエンザウイルスの有意な阻害をもたらす用量(10-20 μg/ml)において、細胞数のわずかな減少が観察されたことを示した。これは細胞増殖が遅くなるためである(図2A)。しかしかかる用量において細胞の形態的変化は観察されなかった。しかし、ウイルス複製が完全に阻害される濃度、40μg/mlにおいて、毒性作用が観察され細胞の死亡率が上昇した(図2B)。この結果に基づき、以下の実験においては20μg/mlの用量を用いた。これは副作用なしに最大の抗ウイルス活性をもたらす用量である。
【0024】
抗ウイルス活性の特徴付け
リスベラトロールによって制御されるウイルス複製サイクルの相を同定する目的で、該物質をウイルスの生活環の様々な相に関して様々な処置スケジュールにしたがって添加した。第一の相において、リスベラトロールがウイルスの細胞内への侵入を妨害するかどうかを評価するために、該物質をもっぱらウイルス吸着相(37℃、1時間)において濃度20μg/mlにて添加し、次いで除去した。24時間後のウイルス複製の測定により、コントロール細胞において得られた複製と同様であることが判明し、したがって、ウイルスの侵入は該薬剤によって阻害されないことが示された(図3)。さらにリスベラトロールがウイルスを直接不活化する能力を有するかどうかを評価するために、後者を濃度40μg/mlの該物質とともに37℃で1時間インキュベートした。後に、そのように処理したウイルスを1:500に希釈し、細胞の感染に用いた。これらの条件ではウイルス複製の減少は観察されなかった。これらの結果はリスベラトロールが直接ウイルス粒子を不活化するのではないということを示唆する。第二の相において、細胞を感染させ、同じ濃度で(20μg/ml)、再度、リスベラトロールで処理した。ただし該物質を感染後様々な時間で添加した(0, 3, 6および9時間)。感染の24時間後のHAU/mlとして評価したウイルス複製により、これはリスベラトロールが感染の3時間以内に添加された場合のみ有意に阻害されることが明らかになった(図4B)。一方、感染の直後に添加したリスベラトロールを様々な時点で除いたところ(0, 3, 6, 9および24時間)、複製の阻害は処理が少なくとも9時間続いた場合にのみ観察された。さらに図4に示す結果もまた、抗ウイルス活性はいったん得られると処理を中止しても元に戻らないことを示した。
【0025】
ウイルス複製を免疫蛍光によって、感染細胞の表面のウイルス抗原の出現の分析によって評価した。ウイルスタンパク質の免疫蛍光による分析は緑色にて放射するフィルターを用いた蛍光顕微鏡によって行った(FITC)(レンズ100x)。カバースライド上で24時間培養したMDCK細胞を感染させ、感染の18時間後にメタノール-アセトン1:1を用いて4℃で15分間固定した。その後細胞をPBSで2回洗浄し、PBS-TRITONの0.1%溶液で5分間透過性にした。非特異的部位のブロックはPBSに溶解した1%ミルクで30分間周囲温度で行った。その後、ウイルスタンパク質に対する特異的モノクローナル抗体(マウス抗-インフルエンザNPおよびマウス抗-インフルエンザM)を添加し、周囲温度で30分間 PBS中1:50に希釈した。一次抗体をフルオレセインと結合した二次抗体(抗-マウス FITC, Sigma)によって検出した。
【0026】
ウイルスタンパク質の合成の分析およびリスベラトロールの抗ウイルス活性との相関
ウイルスタンパク質をウェスタンブロッティングで分析した。ウイルス感染後様々な時間において、細胞を特別の溶解バッファーを用いて溶解した。次いで等量のタンパク質をSDS中のポリアクリルアミドゲルにローディングした。電気泳動後、タンパク質をニトロセルロース膜にトランスファーし、抗-インフルエンザポリクローナル抗体で処理した。インキュベーションと適当な洗浄の後、フィルターをペルオキシダーゼと結合した二次抗体で処理し、ウイルスタンパク質を化学発光技術(ECL)によって表示した。ここで、酵素と反応した場合に光を放射し、オートラジオグラフィープレートに焼き付けるペルオキシダーゼ 基質(ルミノール)を用いた。細胞を様々な濃度のリスベラトロールで処理した(5, 10, 15 および20μg/ml)。ウイルスタンパク質の現像を良好にするために、電気泳動を10% ポリアクリルアミドゲル(図7A)とグラジエントゲル(図7B)を用いて行った。濃度15および20μg/mlのリスベラトロールによってほぼ完全に後期インフルエンザウイルス赤血球凝集素 (H0-H1, H2)およびマトリックスタンパク質(M)の合成が阻害された。一方、初期ヌクレオキャプシドタンパク質(ヌクレオタンパク質[NP]およびポリメラーゼタンパク質 [P])の発現は、後期タンパク質よりも程度は低いが阻害された。
【0027】
メッセンジャーRNAの合成の分析
ウイルスタンパク質の阻害の機構を同定するために、感染し、上記の様々な濃度でリスベラトロール処理されたMDCK細胞をPCR技術によって分析した(Tobita et al. (J. General Virol., 78, 563-566, 1997)を参照)。ウイルス感染および/またはリスベラトロール処理されたMCDK細胞を試薬GIBCO BRL TRIZOLを用いてホモジナイズした。周囲温度で5分間インキュベーションした後、クロロホルムを添加し(サンプル当たり0.2 ml)、サンプルを15-30℃で3分間インキュベートした。次いで、それらを10,000 rpmで15分間 +4℃で遠心分離し、RNAを含む水相を回収した。0.5 mlのイソプロパノールを添加し、サンプルを15-30℃で10分間インキュベートし、次いで遠心分離した。得られた上清を除き、RNA沈殿を75%エタノールで8,000 rpmで5分間2-8℃で処理した。最後に沈殿を風乾し、20 μlの水-DEPC(ジエチルピロカルボネート)に溶解した。
【0028】
得られたRNAを逆転写酵素を用いて転写した。逆転写(retrotranscription)を以下からなる混合物中で各サンプルの5μlのRNAに対して行った:ランダムプライマー、4種のデオキシヌクレオチド(dNTP=dATP、dCTP、dGTP、dTTP)、ジチオトレイトール(DTT)およびRTバッファー(Life Technologies)。相補的DNA(cDNA)の合成を、混合物を10分間22℃、次いで60分間42℃で放置し、そして最後に反応を10分間75℃で不活化することによって行った。こうして得られたcDNAをPCRに用いた。
【0029】
Taq ポリメラーゼをPCRに用いた。PCRは変性、アニーリングおよび伸長の三相にて行い、それぞれの温度は95、48および72℃とした。サイクルを20回繰り返した。ウイルスRNA増幅に用いたオリゴヌクレオチドは以下の通り:赤血球凝集素タンパク質(HA)をコードするウイルス遺伝子について、5'プライマー:5'-ACCAAAATGAAGGCAAACC-3'、3'プライマー:5'-TTACTGTTAGACGGG-TGAT-3';マトリックスタンパク質(M)をコードするウイルス遺伝子について、5'プライマー:5'-ATGAGTCTTCTAACCG-3'、3'プライマー: 5'-ACTGCTTTGTCCATGT-3'。
【0030】
PCR産物を1%アガロースゲルでの電気泳動にかけた(100ボルト)。バッファー中にはDNA をUVトランスイルミネータによって表示するために臭化エチジウムを含めた。
【0031】
得られたサンプルをウイルス感染の4, 8および20時間後にそれぞれ評価した。ウイルスタンパク質 HAおよびMについてのメッセンジャーRNAはコントロールとリスベラトロール処理群のいずれにおいても4時間目には観察されなかった。結果は、感染の20時間後のmRNAの合成はリスベラトロール処理によって影響を受けないことを示すものである。4時間目の観察により、リスベラトロールはこれらタンパク質のメッセンジャーの合成の遅延をもたらすのみであることが示される(図8)。これらの結果は、20μg/mlの用量のリスベラトロールが感染の8時間後に評価して、後期ウイルスタンパク質 (HAおよびM)に対するメッセンジャーRNAの放出の遅延をもたらすことを示唆する。
【0032】
タンパク質NPの局在化
インフルエンザウイルスに感染した細胞においてタンパク質キナーゼCの阻害がタンパク質Mの発現を有意に減少させるということとともに感染細胞の核のヌクレオタンパク質の保持を考慮して(J. Virol., 74, 1781-86, 2000)、ウイルスPR8に感染し、濃度20μg/mlのリスベラトロールで処理したかあるいは処理しなかったMDCK細胞を特異的抗-Mおよび抗-NP抗体で染色し、蛍光顕微鏡下で観察した。結果は、非感染細胞においては核と細胞質の両方においてNPが観察され、M1は細胞質に優先的に観察されるのに対し、リスベラトロール処理細胞においてはNPは核に保持され、Mはかなり阻害され、同様に核のみに観察されることを明らかにした。この現象はキナーゼ機能による細胞タンパク質の阻害に起因するようである。データは、抗ウイルス作用機作は上記キナーゼ機能によるタンパク質の阻害に関連することを示唆する(FEBS Letters, 45, 63-7, 1999)。
【0033】
還元および酸化グルタチオンのアッセイ
ヨード酢酸による遊離チオールのS-カルボキシメチル-誘導体の形成、次いで1-フルオロ-2,4-ジニトロベンゼンの反応後のNH2末端基の2,4-ジニトロフェニル誘導体への変換の結果としてグルタチオンアッセイを行った(Anal. Biochem., 106, 55-62, 1980)。
【0034】
MDCK細胞を擦過技術により剥離した。その後、細胞を1,200 rpmで5分間遠心分離した。細胞をPBSで2回洗浄し、遠心分離後に得られた沈殿を200μlのバッファーに再懸濁した。繰り返し凍結および解凍のサイクルを行うことにより得られた細胞可溶化物から5% メタリン酸中での沈殿により除タンパク質した。22,300 gで遠心分離した後、上清中に存在する低分子量チオールを10% ヨード酢酸 v/vで誘導体化し、粉末形態のNaHCO3で中和した。暗黒化での1時間のインキュベーションの後、1.5% 1-クロロ-2.4-ジニトロベンゼン v/v 溶液を添加した (1.5 ml/98.5 mlの無水エタノール)。Sanger試薬を添加した後、サンプルを12時間暗黒化でインキュベートし、様々な種のグルタチオンの分離をμBondapak 3.9 x 300 mm (Millipore) NH2 HPLCカラムによって行った。総GSH含量を測定するために、精製GSHを用いて得た標準曲線を参照した。GSH含量は、可溶化物サンプル中に存在する1mgのタンパク質当たりのGSH nmolとして表した。タンパク質濃度はLowry法を用いて計算した(Biol. Chem., 193, 265-75, 1951)。この方法は、タンパク質がFolin-Ciocalteau 試薬をCu2+イオンを含むアルカリ性溶液中で還元出来る能力を利用するものであり、これは多くのアミノ酸、例えば、トリプトファン、チロシン、システインおよびヒスチジンのフェノール基の存在によって可能になる。トリプトファンとチロシンは、その特に反応性のフェノール基によって反応し、システインは−SH基を介して、ヒスチジンはイミダゾール環を介して反応する。還元反応産物は、タンパク質の芳香族アミノ酸との反応により染色された化合物の形成によって検出される。実際、溶液は特に濃い青色を示し、この吸収ピークは695 nmである。それゆえ吸収の比率に基づいて、タンパク質濃度が、標準として様々な濃度の胎仔(drum)ウシアルブミンを用いて得た直線検量線を参照して得られる。
【0035】
抗ウイルス活性と酸化還元状態の調節の間に相関があるかを評価するために、様々な濃度のリスベラトロールで処理し、ウイルスで感染した、または感染していないMDCK細胞の細胞内GSH濃度を感染の24時間後にHPLC分析で評価した。驚くべきことに、非感染MDCK細胞に添加したリスベラトロールは細胞内GSHレベルを非処理細胞と比べて低下させた(図6)。感染細胞へのリスベラトロールの添加はウイルス複製を阻害するが、感染によって減少したGSHレベルを回復しなかった。
【0036】
アポトーシスの分析
アポトーシスの分析に関し、MDCK細胞にウイルスPR8を感染させた。ウイルス吸着後、細胞を様々な濃度(5, 10, 15 および20 μg/ml)のリスベラトロールで処理した。感染の24時間後、細胞を0.25% トリプシン溶液を用いて剥離し、1,200 rpmで5分間遠心分離した。こうして得られた沈殿をヨウ化プロピジウムでの標識後FACS技術によって分析した。
【0037】
アポトーシスによる細胞死の誘導がリスベラトロールの抗ウイルス効果と関係しているかを評価するために、MDCK細胞をウイルスで感染させ、あるいは感染せず、様々な濃度の該物質で処理した。アポトーシスによる細胞死をヨウ化プロピジウムでの標識後にFACSにより調べた。図5に示すように、リスベラトロールは用量に応じて8〜32%の範囲で非感染細胞においてアポトーシスによる細胞死をある程度導いた(それぞれ5および20 μg/ml)。感染それ自体は感染細胞のアポトーシスを12%導いた。高用量の添加により死亡率が上昇するが、抗ウイルス用量の薬剤で処理した感染細胞と非感染細胞の間に有意差は観察されなかった(それぞれ35および37%のアポトーシス)。
【0038】
本発明の結果をさらに確認し、例示する目的で以下にインビボの研究を記載する。
【実施例】
【0039】
4週齡の雌性純系 Balb/c AnCrIBRマウスを用いた。インフルエンザウイルスの感染後様々な時間に、PBSに溶解したリスベラトロールを動物に腹腔内経路により投与した。リスベラトロール濃度はインビトロの有効範囲に類似の動物の血中用量範囲が得られるように選択した(10〜20 μg/ml)。
【0040】
エーテルで軽く麻酔した後、2 HAU/マウスの感染効率でインフルエンザウイルス A/PRを含む懸濁液をマウスの鼻腔内に(i.n.)接種した。以前の実験データに基づくと、この感染効率にてインフルエンザウイルスは出血性肺炎をもたらし、感染の1週間後には動物の80%が死に至る。感染傾向をモニターするために、ウイルス学的および免疫学的パラメーターの両方を生存曲線の研究に加えてモニターした。
【0041】
ウイルス学的パラメーターとして、ウイルス量を測定した。感染後様々な時間において、感染マウスとコントロールマウスの肺をサンプルとして採取し、計量し、抗生物質を含むRPMI中でホモジナイズした。遠心分離後、上清を適当に希釈し、ウイルス量をCPE-50%試験によって分析した。この方法に基づき、集密MDCK細胞を抗生物質と2% FCSを添加したRPMIで段階希釈した上清によって感染させ、3日間、37℃で5% CO2 雰囲気中でインキュベートした。最後に、各希釈について、陽性効果を示すウェルを計数し、Reed and Muench 式によって陰性細胞変性効果を示すものと比較した。CPE-50%タイターは単位/mlにて計算した。
【0042】
免疫学的パラメーターとして、炎症性サイトカインのレベルをELISA法によって評価した。96-ウェルプレートを実験に用いた。プレートを被験サイトカインに対するモノクローナル抗体で被覆し、4℃で一晩インキュベートした。その後、炭酸バッファー中の1% BSA を200 μl/ウェルにて30分間37℃にて添加した。次いで洗浄を0.25% TBS + Tween 20にて行い、サンプルを4時間37℃で添加した。参照曲線として、スカラー希釈した組換えサイトカインを用いた。次に洗浄を行い、最初のものとは異なる抗-サイトカインポリクローナル抗体を添加して+4℃で一晩放置した。次いで0.5% TBS + Tween 20, MgCl2 2 nMで洗浄し、アルカリホスファターゼ酵素に結合した三次抗体を4時間37℃で添加した。最後に酵素の基質(100 μl/ウェル)を添加し、ELISAリーダーと405 nmフィルターを用いて読みを得た。以下の抗体を分析した: 1)モノクローナルラット抗-マウス TNF-α/組換えマウス IL-6; 2)組換えマウス TNF-α/組換えマウス IL-6; 3)ポリクローナルウサギ抗-マウス TNF-α/ポリクローナルヤギ抗-マウス IL-6; 4)ヤギ抗-ウサギIgG-アルカリホスファターゼ/抗-ヤギIgGアルカリホスファターゼ。
【0043】
リスベラトロールの効力をマウスにおいて実験的インフルエンザウイルス感染モデルにて研究した。このモデルにおいて、ウイルスの鼻腔内接種は重篤な出血性肺炎を引き起こし、感染の7〜10日の間に動物を死に至らしめた。実験計画は被験物質の治療効力の評価を認識するものであり、これを感染動物の生存に基づいて評価した。この目的のために、感染の数時間後から7日間毎日リスベラトロールを様々な用量で動物に投与した。得られた結果は、非処理動物の死亡率は80%に達するのに対し、リスベラトロール(1 mg/kg)の投与は死亡率を有意に減少させ、動物の60% が感染にもかかわらず生存することを示すものであった(図9)。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1−1】図1は、MDCK細胞におけるインフルエンザウイルスPR8の複製に対するリスベラトロールの効果を示す。より詳細には図1Aは感染後投与の場合、図1Bは感染前投与の場合、そして図1Cは感染の前および後の投与の場合である;
【図1−2】図1は、MDCK細胞におけるインフルエンザウイルスPR8の複製に対するリスベラトロールの効果を示す。より詳細には図1Aは感染後投与の場合、図1Bは感染前投与の場合、そして図1Cは感染の前および後の投与の場合である;
【図2−A】図2は、非感染MDCK細胞の集密単層に対するリスベラトロールの効果を示し、より詳細には、生細胞数である;
【図2−B】図2は、非感染MDCK細胞の集密単層に対するリスベラトロールの効果を示し、より詳細には、生細胞数である;
【図3】図3は、リスベラトロールの抗ウイルス活性の特徴付けを示し、より詳細には、図3Aにおいてウイルス吸着中の処理および図3Bにおいてウイルス粒子に対する効果を示す;
【図4−A】図4は、リスベラトロールの抗ウイルス活性の特徴付けを示し、より詳細には図4Aにおいて感染直後に投与し、様々な時点で除去した場合、図4Bにおいて感染から様々な時点での添加の場合を示す。
【図4−B】図4は、リスベラトロールの抗ウイルス活性の特徴付けを示し、より詳細には図4Aにおいて感染直後に投与し、様々な時点で除去した場合、図4Bにおいて感染から様々な時点での添加の場合を示す。
【図5】図5はリスベラトロールで処理されたMDCK細胞におけるアポトーシスを示す(◆:非感染、■:感染)。
【図6】図6は、リスベラトロールの抗ウイルス効果と細胞内酸化還元状態との関係を示す。
【図7】図7はインフルエンザウイルスPR8のウイルスタンパク質の合成に対するリスベラトロールの効果を示す。
【図8】図8は、後期ウイルスタンパク質のmRNAについてのPCRの結果を示す。
【図9】図9は、インフルエンザウイルスPR8による感染後のインビボでのリスベラトロールの効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフルエンザウイルス感染の予防および/または治療に有用な医薬の調製における活性成分としてのリスベラトロールの使用。
【請求項2】
該ウイルスがヒトインフルエンザウイルスである請求項1の使用。
【請求項3】
該医薬が獣医分野でのウイルス感染の治療に有用なものである請求項1の使用。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−A】
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【図2−B】
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【図3】
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【図4−A】
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【図4−B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2006−507295(P2006−507295A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−549541(P2004−549541)
【出願日】平成15年10月14日(2003.10.14)
【国際出願番号】PCT/IT2003/000626
【国際公開番号】WO2004/041260
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(591043248)シグマ−タウ・インドゥストリエ・ファルマチェウチケ・リウニテ・ソシエタ・ペル・アチオニ (92)
【氏名又は名称原語表記】SIGMA−TAU INDUSTRIE FARMACEUTICHE RIUNITE SOCIETA PER AZIONI
【Fターム(参考)】