説明

インフルエンザワクチンのアジュバント

【課題】インフルエンザウイルスPR8株などから調製されたインフルエンザワクチンの効果を増強する作用を有する、安全な天然由来の乳酸菌(植物性乳酸菌)を有効成分として含有するインフルエンザワクチンのアジュバントを提供すること。
【解決手段】ラクトバチルス・プランタラムAYA株(受託番号FERM P−21106)を有効成分として含有する、インフルエンザワクチンのアジュバント。本発明のインフルエンザワクチンのアジュバントは、インフルエンザワクチンの投与前に継続的に摂取しておくことが好ましく、インフルエンザワクチンの投与の少なくとも7日前から継続的に摂取しておくことがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザワクチンのアジュバントに関する。アジュバントとは、薬剤の効果を増強する添加剤(助剤、免疫強化剤、免疫調整剤などとも呼ばれている)のことであり、本発明のアジュバントは、インフルエンザウイルスPR8株などから調製されたインフルエンザワクチンの効果を増強する作用を有するものである。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスPR8株などから調製されたインフルエンザワクチンのアジュバントとして、種々の物質が知られている。例えば、コレラ毒素、ポリリボ(イノシン:シチジル)酸、キチン微粉末、貝殻微粉末などが、インフルエンザワクチンのアジュバントとして検討されている(非特許文献1〜5参照)。これらの他、多数の非特許文献に見られるように、インフルエンザワクチンのアジュバントとしての効能を試験する際には、インフルエンザウイルスPR8株を代表株として用いられることが知られている。
【0003】
【非特許文献1】JOURNAL OF VIROLOGY, Mar. 2005, p.2910-2919
【非特許文献2】Journal of Medical Virology 75:130-136 (2005)
【非特許文献3】Journal of Medical Virology 78:954-963 (2006)
【非特許文献4】Vaccine, Vol. 8, June 1990 p.243
【非特許文献5】Vaccine 17 (1999) 2918-2926
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、インフルエンザウイルスPR8株などから調製されたインフルエンザワクチンの効果を増強する作用を有する、安全な天然由来の乳酸菌(植物性乳酸菌)を有効成分として含有するインフルエンザワクチンのアジュバントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく種々検討した結果、パン生地から分離したラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)に属する特定の乳酸菌を、インフルエンザウイルスPR8株などから調製されたインフルエンザワクチンの投与前に継続的に摂取しておくことにより、インフルエンザワクチンの効果が増強することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、ラクトバチルス・プランタラムAYA株を有効成分として含有する、インフルエンザワクチンのアジュバントを提供するものである。
ラクトバチルス・プランタラムAYA株は、パン生地から分離された株であり、オリエンタル酵母工業株式会社(東京都板橋区小豆沢3丁目6番10号)により、2006年11月29日付で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に、受託番号FERM P−21106として寄託されている。
なお、ラクトバチルス・プランタラムAYA株は、特開2008−179595号公報に記載された乳酸菌であり、これを用いて麦を乳酸菌発酵させた産物を有効成分とする脂肪細胞分化促進剤も同公開公報に記載されている。さらに、ラクトバチルス・プランタラムAYA株は、特願2007−39019号に係る腸管免疫力増強剤の有効成分としても提案されているが、ラクトバチルス・プランタラムAYA株単体がインフルエンザワクチンのアジュバントとしての効能を持つことは、本発明者らによって初めて見い出されたことである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のインフルエンザワクチンのアジュバントは、インフルエンザウイルスPR8株などから調製されたインフルエンザワクチンの投与前に継続的に摂取しておくことにより、インフルエンザワクチンの効果を増強する作用を有する。また、本発明のインフルエンザワクチンのアジュバントは、有効成分であるラクトバチルス・プランタラムAYA株が食経験のある天然食品素材から分離した乳酸菌であるので、安全性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
乳酸菌ラクトバチルス・プランタラムAYA株の菌学的性質を下記に示す。
MRS液体培地(DIFCO社)を用いて、30℃、18時間培養したときの菌の形態(1)菌の形態 桿菌
(2)グラム染色 陽性
(3)運動性 なし
(4)胞子 なし
(5)カタラーゼ なし
(6)通性嫌気性
(7)ブドウ糖の代謝 50%以上乳酸に転換する
(8)生育温度範囲 15℃、30℃および35℃では生育を認めるが、45℃では生育を認めない
(9)乳酸発酵 ホモ型
(10)乳酸の旋光性 DL
(11)炭水化物の発酵性 グリセロールは陽性、D−アラビノースは陰性、L−アラビノースは陽性、リボースは陽性、D−キシロースは陰性、ガラクトースは陽性、グルコースは陽性、フルクトースは陽性、マンノースは陽性、ラムノースは陽性、マンニトールは陽性、ソルビトールは陽性、αメチルDグルコシドは陰性、アミグダリンは陽性、エスクリンは陽性、サリシンは陽性、セロビオースは陽性、マルトースは陽性、ラクトースは陽性、メリビオースは陽性、シュクロースは陽性、トレハロースは陽性、イヌリンは陰性、メレジトースは陽性、ラフィノースは陽性、スターチは陰性、グルコン酸は陽性。
【0008】
乳酸菌ラクトバチルス・プランタラムAYA株は、食経験が豊富な素材(パン生地)から分離したものであるため、安全に利用することができる。
【0009】
乳酸菌ラクトバチルス・プランタラムAYA株は、そのままあるいは必要に応じて薬学的に許容される種々の担体、賦形剤、その他の添加剤、その他の成分を適宜配合して製剤化することによって、インフルエンザワクチンのアジュバントとすることができる。
【0010】
また、本発明のインフルエンザワクチンのアジュバントは、食品の形態、例えば、パン、菓子、クッキー、ケーキ、麺、粥、雑炊、シリアルバー、ドリンク、ヨーグルトなどの形態で提供することもできる。
【0011】
本発明のインフルエンザワクチンのアジュバント中の乳酸菌ラクトバチルス・プランタラムAYA株の含有量は、制限されるものではなく、使用形態、アジュバントの剤形や投与又は摂取する者の年齢性別などによって適宜変化させることができる。本発明のアジュバントを経口投与又は摂取させる場合には、1人1日当たりのラクトバチルス・プランタラムAYA株の投与量又は摂取量が1mg〜20gとなるように、ラクトバチルス・プランタラムAYA株を本発明のアジュバント中に含有させることが好ましい。
【0012】
本発明のインフルエンザワクチンのアジュバントは、インフルエンザウイルスPR8株などから調製されたインフルエンザワクチンの投与前に継続的に摂取しておくことが好ましく、インフルエンザワクチンの投与の少なくとも7日前から継続的に摂取しておくことがより好ましい。
【実施例】
【0013】
次に本発明をさらに具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は、以下の実施例に制限されるものではない。
【0014】
実施例1
(乳酸菌試料の調製)
ラクトバチルス・プランタラムAYA株を、10μg/mlシクロヘキシミドを含むMRS(de Man−Rogosa−Sharpe)培地を用いて37℃で48時間培養した。その後、遠心分離によって集菌し、滅菌水で3回洗浄した後、滅菌水に懸濁し、121℃で30分間オートクレーブ処理し、これを凍結乾燥して乳酸菌試料を得た。
【0015】
BALB/cマウス(各群4匹)に餌を72日間投与した後、インフルエンザウイルスPR8株をフォルムアミドで不活化したワクチン(150μg/200μl 0.2M NaHCO3)を経口投与した。餌として、対照群にはAIN−93G(カゼイン20質量%、L-シスチン0.3質量%、コーンスターチ39.7486質量%、α化コーンスターチ13.2質量%、シュークロース10質量%、大豆油7質量%、セルロースパウダー5質量%、AIN−93Gミネラル混合3.5質量%、AIN−93Gビタミン混合1質量%、重酒石酸コリン0.25質量%、第三ブチルヒドロキノン0.0014質量%)をペレット化し、γ線滅菌したものを投与し、乳酸菌試料投与群にはAIN−93Gに上記乳酸菌試料を5質量%含有させたものをペレット化し、γ線滅菌したものを投与した。ワクチン投与後59日目にインフルエンザウイルスPR8株20LD50(84000TCID50/20μl)をBALB/cマウスに経鼻感染させ、その3日目に解剖し、小腸を切除し、大腸側(回腸側)の洗浄液中のPR8特異的IgA濃度をELISA法により測定した。
その結果、図1に示すように、乳酸菌試料投与群の回腸側のPR8特異的IgA濃度は、対照群に比べて有意(危険率5%)に上昇していた。
【0016】
実施例2
BALB/cマウス(各群6匹)に餌を42日間投与した後、インフルエンザウイルスPR8株をフォルムアミドで不活化したワクチン(150μg/200μl 0.2M NaHCO3)を経口投与した。餌として、対照群にはAIN97をペレット化し、γ線滅菌したものを投与し、乳酸菌試料投与群にはAIN97に上記乳酸菌試料を5質量%含有させたものをペレット化し、γ線滅菌したものを投与した。ワクチン投与後14日目にインフルエンザウイルスPR8株20LD50(84000TCID50/20μl)をBALB/cマウスに経鼻感染させ、その3日目に解剖し、小腸を切除し、大腸側(回腸側)の洗浄液中のPR8特異的IgA濃度をELISA法により測定した。
その結果、図2に示すように、乳酸菌試料投与群の回腸側のPR8特異的IgA濃度は、対照群に比べて有意に上昇していた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1の対照群および乳酸菌試料投与群におけるPR8特異的IgA濃度を測定した結果を示す図である。
【図2】実施例2の対照群および乳酸菌試料投与群におけるPR8特異的IgA濃度を測定した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・プランタラムAYA株(受託番号FERM P−21106)を有効成分として含有する、インフルエンザワクチンのアジュバント。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−47485(P2010−47485A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−210484(P2008−210484)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(000226998)株式会社日清製粉グループ本社 (125)
【Fターム(参考)】