説明

インフルエンザワクチン

本発明は、被験体においてインフルエンザウイルス感染を治療または予防するための方法に関し、その方法は、被験体に治療有効量のγ線を照射したインフルエンザウイルスを投与する工程を含む。本発明はまた、被験体におけるインフルエンザウイルス感染を治療または予防するための方法を提供し、その方法は、治療有効量のガンマ線を照射したインフルエンザウイルスを被験体に鼻腔内投与する工程を含む。本発明の態様の一実施形態において、インフルエンザウイルス感染はインフルエンザAサブタイプH5N1感染である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザウイルスによる感染を予防および治療するための組成物および方法に関する。より具体的には、本発明は、インフルエンザウイルスに対する交差反応免疫を誘発するためのワクチン組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザは、インフルエンザウイルスでの気道の感染によって引き起こされる高度に感染性の疾患である。それは、特に幼児および老人において潜在的に命の危険性のある合併症を引き起こす可能性がある。
【0003】
同種ウイルスでの再感染に対する防御は、中和抗体によって主に媒介されるが、インフルエンザウイルス感染からの回復は、細胞障害性CD8+T(Tc)細胞応答を必要とする。インフルエンザウイルスに対する現在のワクチンは、主に不活性化された全ウイルスまたはサブユニット調製物であり、ウイルスの感染が化学的処理によって不活性化される。これらのワクチンは、ほぼ例外なく、頻繁に起こる抗原性変異(例えばHAおよびNA)を受けるウイルス表面糖タンパク質を標的とする中和抗体を誘発することによって機能する。ウイルス表面糖タンパク質によって提示される頻繁に起こる抗原性変異は、それらに対するワクチンが概して交差反応免疫応答を誘発せず、従って、複数のインフルエンザウイルスサブタイプおよび種に対する防御ができないことを意味する。従って、抗体ベースのワクチンの防御価値は制限される。つまり、インフルエンザウイルスの頻繁に起こる抗原連続変異および/または抗原不連続変異から生じる新規のサブタイプ/種に対してほとんどまたは全く防御免疫を与えない。さらに、このようなワクチンによってウイルス表面糖タンパク質に与えられる選択圧は、ワクチンを無効にする抗原性変異を高めるのを促進する。
【0004】
現在のインフルエンザワクチンの生成は、現在蔓延しているヒトインフルエンザ種と既知の単離種とを比較することによってなされる「経験に基づいた推測」に基づく。しかしながら、特定のインフルエンザの季節において感染を引き起こし得るインフルエンザ種の予測は、ウイルス変異に起因して生じる可能性のある抗原性変異のために当てることができない。さらに、継続しているウイルス変異および関連する抗原性変異は、ワクチンの効力を減少させ、間違った予測はワクチンを無効にさせる。2007年−2008年の季節に関する北半球のインフルエンザワクチン生成(A/Solomon Islands/3/2006(H1N1)様ウイルス;A/Wisconsin/67/2005(H3N2)様ウイルス;およびB/Malaysia/2506/2004様ウイルス)が、このようなシナリオを示している。米国における疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)によれば、A型H3N2ブリズベン株およびB型フロリダ株が、インフルエンザの季節の疾患の多くの原因となった。しかしながら、これらの株はワクチンに導入されていなかったため、ワクチンは効果がなかった。
【0005】
深刻なインフルエンザを軽減する際のワクチン接種によって誘発されるT細胞媒介性免疫の有益な効果は、ほとんど効き目がない。T細胞応答は、インフルエンザでの一次感染からの回復を成功させるのに重要であり、感染後初期のウイルス負荷を低下させることによって疾患の重症度を減少させる。T細胞免疫はまた、長く続き、T細胞応答を誘発するのに関与する抗原決定基は、概して、通常、ウイルスによる免疫回避を受けない保存タンパク質(例えばウイルス核タンパク質およびマトリクスタンパク質)から誘導される。従って、T細胞媒介性免疫を誘発できるワクチンが望まれ、この必要性は、現在利用可能な不活性化インフルエンザワクチン調製物によって満たされない。
【0006】
さらに、現在利用可能なインフルエンザワクチンの製造に使用される方法は、ウイルス抗原の完全性をこわす粗い処置を含む。例えば、超遠心分離法はウイルス抗原に対して損傷効果を有するが、一般に、弱毒化する前にウイルスを精製するために使用されている。さらに、化学的に不活性化されたインフルエンザワクチン調製物は、物理的および化学的因子が抗原タンパク質を損傷させる未凍結ウイルスの使用を必要とする。従って、凍結ウイルス調製物に対するウイルス不活性化法の効果は、免疫原性を高める限定した抗原分解の利点を与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Tリンパ球応答を誘発できるインフルエンザワクチンについての必要性が存在する。特に、抗原連続変異および/または抗原不連続変異から頻繁に生じる表面抗原性変異に関わらず、インフルエンザウイルスに対して交差防御免疫を誘発できるインフルエンザワクチンについての必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様において、本発明は、被験体におけるインフルエンザウイルス感染を治療または予防するための方法を提供し、その方法は、治療有効量のガンマ線を照射したウイルスを被験体に投与する工程を含む。
【0009】
第2の態様において、本発明は、被験体におけるインフルエンザウイルス感染を治療または予防するための方法を提供し、その方法は、治療有効量のガンマ線を照射したインフルエンザウイルスを被験体に鼻腔内投与する工程を含む。
【0010】
第1または第2の態様の一実施形態において、インフルエンザウイルス感染はインフルエンザAサブタイプH5N1感染である。
【0011】
第1または第2の態様の一実施形態において、インフルエンザウイルス感染はインフルエンザAサブタイプHPAI A(H5N1)感染である。
【0012】
第1または第2の態様の一実施形態において、インフルエンザウイルス感染はインフルエンザAサブタイプH1N1 09ブタインフルエンザ感染である。
【0013】
第3の態様において、本発明は、被験体において複数のインフルエンザウイルスサブタイプに対する交差反応免疫を誘発するための方法を提供し、その方法は、治療有効量のガンマ線を照射したインフルエンザウイルスを被験体に投与する工程を含む。
【0014】
第4の態様において、本発明は、被験体において複数のインフルエンザウイルスサブタイプに対する交差反応免疫を誘発または高めるための方法を提供し、その方法は、治療有効量のガンマ線を照射したインフルエンザウイルスを被験体に鼻腔内投与する工程を含む。
【0015】
第3または第4の態様の一実施形態において、交差反応免疫は、交差反応細胞性免疫を含む。交差反応細胞性免疫は、
(i)交差反応ヘルパーT細胞応答
(ii)交差反応細胞障害性T細胞応答
のいずれかまたは両方を含み得る。
【0016】
第3または第4の態様の一実施形態において、交差反応免疫は、交差反応体液性免疫を含み得る。
【0017】
第3または第4の態様の一実施形態において、複数のインフルエンザウイルスサブタイプは、ヒト、トリ、ブタ、イヌまたはウマインフルエンザウイルスのうちの1つ以上を含む。トリインフルエンザウイルスサブタイプは、インフルエンザウイルスサブタイプH5N1を含み得る。
【0018】
第3または第4の態様の一実施形態において、複数のインフルエンザウイルスサブタイプは、インフルエンザAサブタイプHPAI A(H5N1)を含む。
【0019】
第3または第4の態様の一実施形態において、複数のインフルエンザウイルスサブタイプは、インフルエンザAサブタイプH1N1 09ブタインフルエンザを含む。
【0020】
第5の態様において、本発明は、被験体においてインフルエンザウイルスに対するT細胞免疫応答を誘発または高める方法を提供し、その方法は、治療有効量のガンマ線を照射したインフルエンザウイルスを被験体に投与する工程を含む。T細胞免疫応答は、インフルエンザサブタイプH5N1に対して誘発され得るか、または高められ得る。T細胞免疫応答は、(i)ヘルパーT細胞免疫応答、(ii)細胞障害性T細胞免疫のいずれかまたは両方を含み得る。
【0021】
第5の態様の一実施形態において、T細胞免疫応答は、インフルエンザAサブタイプHPAI A(H5N1)に対して誘発され得るか、または高められ得る。
【0022】
第5の態様の一実施形態において、T細胞免疫反応は、インフルエンザAサブタイプH1N1 09ブタインフルエンザに対して誘発されるか、または高められる。
【0023】
第1、第2、第3、第4または第5の態様の一実施形態において、ガンマ線を照射したインフルエンザウイルスはインフルエンザAウイルスである。インフルエンザAウイルスは、A/WSN[H1N1]、A/PR8[H1N1]、A/JAP[H2N2]およびA/PC[H3/N2]からなる群より選択され得る。
【0024】
第1、第2、第3、第4または第5の態様の一実施形態において、ガンマ線を照射したインフルエンザウイルスは人畜共通インフルエンザウイルスである。人畜共通インフルエンザウイルスは人畜共通インフルエンザAウイルスであってもよい。
【0025】
第1、第2、第3、第4または第5の態様の一実施形態において、ガンマ線を照射したインフルエンザウイルスは凍結乾燥形態で調製される。
【0026】
第1、第2、第3、第4または第5の態様の一実施形態において、ガンマ線を照射したインフルエンザウイルスは、接線/クロスフロー濾過によって精製されたウイルスストックから調製される。
【0027】
第1、第2、第3、第4または第5の態様の一実施形態において、ガンマ線を照射したインフルエンザウイルスは、ガンマ線を照射した凍結ウイルス調製物によって生成される。
【0028】
第1、第2、第3、第4または第5の態様の一実施形態において、ガンマ線を照射したインフルエンザウイルスは、前記ウイルスを、約6.5×10rad〜約2×10radの間のガンマ線の総線量に曝露することによって生成される。
【0029】
第1、第2、第3、第4または第5の態様の別の実施形態において、ガンマ線を照射したインフルエンザウイルスは、前記ウイルスを、約1×10radのガンマ線の総線量に曝露することによって生成される。
【0030】
第1、第2、第3、第4または第5の態様のさらなる実施形態において、ガンマ線を照射したインフルエンザウイルスは、複数の別個の用量で投与される。複数の別個の用量のうちの1つ以上は、再接種のための追加免疫として投与されてもよい。
【0031】
第1、第2、第3、第4または第5の態様の別の実施形態において、治療有効量のガンマ線を照射したインフルエンザウイルスは、薬理学的に許容可能な担体、補助剤または賦形剤と一緒に投与される。
【0032】
第6の態様において、本発明は、インフルエンザワクチンを産生する方法を提供し、その方法は、ガンマ線によってインフルエンザウイルスの調製物を不活性化する工程を含む。
【0033】
第6の態様の一実施形態において、インフルエンザウイルスの調製物は、前記ガンマ線によって不活性化する工程の前に接線/クロスフロー濾過によって精製される。
【0034】
第6の態様の一実施形態において、インフルエンザウイルスの調製物は、凍結の間にガンマ線を照射される。
【0035】
第6の態様の一実施形態において、この方法は、前記ガンマ線によって不活性化する工程の後に前記ウイルスを凍結乾燥するさらなる工程を含む。
【0036】
第6の態様の一実施形態において、ワクチンは鼻腔内への注入のために処方される。
【0037】
第6の態様の一実施形態において、インフルエンザワクチンは、複数のインフルエンザウイルスサブタイプに対する交差反応免疫を誘発する。
【0038】
第6の態様の一実施形態において、複数のインフルエンザウイルスサブタイプは、インフルエンザウイルスAサブタイプHPAI A(H5N1)を含む。
【0039】
第6の態様の一実施形態において、複数のインフルエンザウイルスサブタイプは、インフルエンザAサブタイプH1N1 09ブタインフルエンザを含む。
【0040】
第6の態様の一実施形態において、不活性化する工程は、前記ウイルスを、約6.5×10rad〜約2×10radの間のガンマ線の総線量に曝露する工程を含む。
【0041】
第6の態様の一実施形態において、不活性化する工程は、前記ウイルスを、約1×10radのガンマ線の総線量に曝露する工程を含む。
【0042】
第6の態様の別の実施形態において、インフルエンザワクチンは、複数のインフルエンザウイルスサブタイプに対する交差反応免疫を誘発する。インフルエンザウイルスサブタイプは、インフルエンザウイルスサブタイプH5N1を含んでもよい。
【0043】
第6の態様の別の実施形態において、インフルエンザウイルスの調製物は、インフルエンザAウイルスを含む。
【0044】
第7の態様において、本発明は、インフルエンザウイルス感染を治療または予防するための医薬を製造するためのガンマ線を照射したインフルエンザウイルスの使用を提供する。
【0045】
第7の態様の一実施形態において、医薬は、鼻腔内への注入のために処方される。
【0046】
第7の態様の別の実施形態において、インフルエンザウイルス感染の治療または予防は、インフルエンザウイルスサブタイプH5N1感染である。
【0047】
第7の態様の一実施形態において、医薬は、複数のインフルエンザウイルスサブタイプに対する交差反応免疫を誘発する。複数のインフルエンザウイルスサブタイプは、インフルエンザAサブタイプHPAI A(H5N1)を含む。複数のインフルエンザウイルスサブタイプは、インフルエンザウイルスサブタイプH1N1 09ブタインフルエンザを含む。
【0048】
第7の態様の一実施形態において、医薬はワクチンである。ワクチンは、複数のインフルエンザウイルスサブタイプに対する交差反応免疫を誘発することができる。
【0049】
第7の態様の一実施形態において、ガンマ線を照射したインフルエンザウイルスは、インフルエンザAウイルスである。
【0050】
第8の態様において、本発明は、インフルエンザ感染の治療または予防に使用するためのガンマ線を照射したインフルエンザウイルスを提供する。
【0051】
第9の態様において、本発明は、第6の態様に従って産生されたワクチンを提供する。
【0052】
ここで、本発明の好ましい実施形態は添付の図面を参照して例示のみとして記載される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、A/JAP(50HAU/マウス)での鼻腔内感染後、静脈内にワクチンを接種された動物の体重減少を示す棒グラフである。表5に示した群からのマウスは、感染後6日に体重を測定した。
【図2】図2は、未処置のマウスおよびγ−fluのワクチンを接種されたマウス由来の免疫組織化学的に染色された肺組織の代表的な顕微鏡写真を示す。(A)未処置のマウス、(B)A/WSN後6日の未処置のマウス、(C)γ−fluでワクチンを接種され、同種のA/WSN株で抗原投与されたマウス、および(D)γ−fluでワクチンを接種され、異種のA/PC株で抗原投与されたマウスにおける、肺炎症に対するγ−flu(ガンマ線を照射したインフルエンザウイルス)ワクチン接種の効果を示す。
【図3】図3は、CD8+T細胞浸潤に対するγ−fluワクチン接種の効果を示す棒グラフである。模擬またはガンマ線を照射したインフルエンザウイルス(γ−A/WSN、γ−A/JAP、γ−A/Pc)を、動物に静脈内にワクチンを接種するために用いた。4週間後、マウスをA/WSNで鼻腔内に抗原投与した。A/WSN抗原投与後、6日に、各群から3匹のマウスを屠殺し、全肺浸潤物内のCD8+細胞の割合をFACSによって測定した。
【図4】図4は、γ−fluによって誘発された交差反応細胞障害性Tリンパ球(CTL)応答を示す一連の棒グラフを提供する。BALB/cマウスを、A/WSN、γ−A/WSN、A/PCまたはγ−A/Pcを用いて感染させるか、またはワクチンを接種し、それらの脾細胞を、(A)模擬処置した標的物、(B)A/WSNで感染させた標的物、(C)A/PCで感染させた標的物、および(D)NPPで標識したP815標的物に対する殺活性について試験した。
【図5】図5は、γ−fluによって誘発された交差反応細胞障害性T細胞応答を示す一連の棒グラフを与える。A/PR8、γ−A/PR8、A/PC、またはγ−A/PCを用いて感染させるか、またはワクチンを接種したBALB/cマウス由来の脾細胞を、模擬処置した標的物(データは示さず)、(A)A/PC[H3N2]で感染させた標的物、(B)A/PR8[H1N1]で感染させた標的物、(C)A/JAP[H2N2]で感染させた標的物、およびNPPで標識したP815標的物に対するそれらの殺活性について試験した。
【図6】図6は、致死量のA/PR8での抗原投与後のマウスの致死率を示す一連のグラフを示す。以下の群:(A)未処置(ワクチンを接種されていない)マウス、(B)A/PR8γ−fluで鼻腔内にワクチンを接種されたマウス(n=10)、(C)A/PCγ−fluで鼻腔内にワクチンを接種されたマウス(n=10)、および(D)ホルマリンで不活性化されたA/PCで鼻腔内にワクチンを接種された(n=8)マウスを、鼻腔内に3×10HAU(2×10pfu/マウス)のA/PR8を鼻腔内に抗原投与した。体重減少および致死率(E)を免疫化後21日間モニターした。個々のマウスの体重の追跡の終わりは動物の死を示す。
【図7】図7は、γ−fluでの鼻腔内ワクチン接種が、異種ウイルス抗原投与に対する優れた防御を示す一連のグラフを示す。10匹のBALB/cマウスの群は、模擬処置したマウス(A)、あるいはγ−A/PC(3.2×10PFU当量)で静脈内(B)または鼻腔内(C)にワクチン接種したマウスのいずれかであった。3週間後、マウスに、鼻腔内に致死量(6×10PFU)のA/PR8を抗原投与し、21日間、毎日体重を記録した。模倣処置、あるいは鼻腔内、静脈内、腹腔内、または皮下にワクチン接種し、(A〜C)に関して抗原投与したマウスの30%体重減少によって定義される生存率を21日間モニターした(D)。
【図8】図8は、H5N1(A/Vietnam/1203/2004)での鼻腔内感染後の体重減少を示す一連のグラフを示す。感染したマウスを、体重減少および致死率についてモニターした。個々のマウスの体重追跡の終わりは、約25%体重減少による屠殺を示す。
【図9】図9は、H5N1での抗原投与後のBALB/cマウスの体重および致死率を示す2つのグラフを示す。10匹のマウスの群は、(A)模擬処置したマウス、または(B)γ−A/PR8[H1N1]で鼻腔内にワクチン接種したマウスのいずれかであった。体重を21日間毎日記録した。
【図10】図10は、受動血清伝達が、γ線を照射したA/PCによって誘発された異種サブタイプ(heterosubtypic)免疫を、ワクチンを接種していないマウスに移すことができないことを示す一連のグラフを与える。(A、BおよびC)=体重減少;(D)=致死率;エンドポイント:25%体重減少;P<0.05対コントロール免疫前血清群;フィッシャーの正確確率検定。
【図11】図11は、B細胞欠失マウスにおける異種サブタイプ防御の欠失を示す一連のグラフを与える。(A)=未処置のマウスの体重減少;(B)=免疫化マウスの体重減少;(C)=未処置のマウス/免疫化マウスの致死率。
【図12】図12は、MHC II欠失マウスにおける異種サブタイプ防御の欠失を示す一連のグラフを提供する。(A)=未処置のマウスの体重減少;(B)=免疫化マウスの体重減少;(C)=未処置のマウス/免疫化マウスの致死率。
【図13】図13は、β2M欠失マウスにおける異種サブタイプ防御の欠失を示す一連のグラフを提供する。(A)=未処置のマウスの体重減少;(B)=免疫化マウスの体重減少;(C)=未処置のマウス/免疫化マウスの致死率。
【図14】図14は、B細胞ではなく、適合移植されたT細胞が異種サブタイプ抗原投与に対してマウスを防御することを示す一連のグラフを提供する。(A、BおよびC)=体重減少;(D)=致死率;P<0.05対コントロールゼロ群;フィッシャーの正確確率検定。
【図15】図15は、パーフォリン欠失マウスにおける異種サブタイプ防御の欠失を示す一連のグラフを提供する。(AおよびB)=体重減少;(C)=致死率。
【図16】図16は、II型IFN受容体ノックアウトマウスにおける異種サブタイプ防御を示す一連のグラフを提供する。(A、B)=体重減少;(C)=致死率;P<0.05対コントロールゼロ群;フィッシャーの正確確率検定。
【図17】図17は、免疫化マウスの血清における交差中和活性の欠失を示す2つのグラフを提供する。(A)=A/PC(H3N2)に対するウイルス中和活性;(B)=A/PR8(H1N1)に対するウイルス中和活性。
【図18】図18は、γ線を照射したA/PCによって誘発される一次Tc細胞反応の用量依存性を示す2つのグラフを提供する。(A、B)=免疫化後6日に収集した脾細胞。エラーバーは平均±S.Dのパーセントを表す。特定の溶解値を60:1のエフェクター:標的物の比における回帰曲線から補間した。
【図19】図19は、生体外での二次Tc細胞反応を示すグラフである。特定の溶解値を40:1のエフェクター:標的物の比における回帰曲線から補間した。
【図20−1】図20−1は、ガンマ線を照射したインフルエンザウイルスA/PCが、同種および異種サブタイプの抗原投与の両方に対してマウスを防御することを示す一連のグラフを提供する。(A)=模擬処置されたマウス;(B)=ホルマリンにより不活性化されたA/PCで鼻腔内に免疫化されたマウス;(C)=紫外線により不活性化されたA/PCで鼻腔内に免疫化されたマウス;(D)=γ線により不活性化されたA/PCで鼻腔内に免疫化されたマウス;(E)=20日後の生存率;P<0.05対コントロールの未処置の群;フィッシャーの正確確率検定。
【図20−2】図20−2は、ガンマ線を照射したインフルエンザウイルスA/PCが、同種および異種サブタイプの抗原投与の両方に対してマウスを防御することを示す一連のグラフを提供する。(F)=模擬処置されたマウス;(G)=ホルマリンにより不活性化されたA/PCで鼻腔内に免疫化されたマウス;(H)=紫外線により不活性化されたA/PCで鼻腔内に免疫化されたマウス;(I)=γ線により不活性化されたA/PCで鼻腔内に免疫化されたマウス;(J)=20日後の生存率;P<0.05対コントロールのワクチンを接種されていない群;フィッシャーの正確確率検定。
【図21−1】図21−1は、ホルマリンにより不活性化されたインフルエンザウイルスA/PCの複数の免疫化が、同種の防御を誘発するために必要とされることを示す一連のグラフを提供する。(A)=模擬処置されたマウス;(B)=ホルマリンにより不活性化されたA/PCで1回免疫化されたマウス;(C)=ホルマリンにより不活性化されたA/PCで2回免疫化されたマウス;(D)=ホルマリンにより不活性化されたA/PCで3回免疫化されたマウス;P<0.05対コントロールの未処置の群;フィッシャーの正確確率検定。
【図21−2】図21−2は、ホルマリンにより不活性化されたインフルエンザウイルスA/PCの複数の免疫化が、同種の防御を誘発するために必要とされることを示す一連のグラフを提供する。(F)=模擬処置されたマウス;(G)=ホルマリンにより不活性化されたA/PCで3回免疫化されたマウス;(E、H)=20日後の生存率;P<0.05対コントロールの未処置の群;フィッシャーの正確確率検定。
【図22−1】図22−1は、三価インフルエンザワクチンが連続変異した株に対して防御を与えることができないことを示す一連のグラフを提供する。(A、D)=未処置;(B、E)=免疫化された;(C)=20日後の生存率。
【図22−2】図22−2は、三価インフルエンザワクチンが連続変異した株に対して防御を与えることができないことを示す一連のグラフを提供する。(F)=20日後の生存率。
【図23】図23は、同種の抗原投与後の免疫組織化学的に染色された肺組織の代表的な顕微鏡写真を提供する。(A)=未処置の肺;(B)=ワクチンを接種されていない(感染された);(C)=ガンマ−A/PCによるワクチンを接種された(抗原投与された);(D)=ホルマリン−A/PCによるワクチンを接種された(抗原投与された);E=紫外線−A/PCによるワクチンを接種された(抗原投与された)。
【図24】図24は、異種サブタイプの抗原投与後の免疫組織化学的に染色された肺組織の代表的な顕微鏡写真を提供する。(A)=未処置の肺;(B)=ワクチンを接種されていない(感染された);(C)=ガンマ−A/PCによるワクチンを接種された(抗原投与された);(D)=ホルマリン−A/PCによるワクチンを接種された(抗原投与された);E=紫外線−A/PCによるワクチンを接種された(抗原投与された)。
【図25】図25は、種々の不活性化されたウイルス調製物がインフルエンザ感染を防御しないが、γ線により不活性化されたA/PCでの免疫化が初期のウイルスクリアランスを導くことを示すグラフである。
【図26】図26は、生きているA/PCおよび不活性化されたA/PCによって誘発されるTc細胞応答の比較を示すグラフである。1群あたり2匹のマウスの平均値±SDを示す。特定の溶解値を50:1のエフェクター:標的物の比における回帰曲線から補間した。N.D.:未検出。
【図27−1】図27−1は、γ線を照射したA/PCでの鼻腔内免疫化が、高用量のA/PR8の致死量の抗原投与に対する防御を与えることを示す一連のグラフを提供する。(A、C)=LD50 A/PR8で抗原投与されたマウス;(B、D)=5×LD50 A/PR8で抗原投与されたマウス。P<0.05対コントロールの未処置群;フィッシャーの正確確率検定。
【図27−2】図27−2は、γ線を照射したA/PCでの鼻腔内免疫化が、高用量のA/PR8の致死量の抗原投与に対する防御を与えることを示す一連のグラフを提供する。(E)=50×LD50 A/PRで抗原投与されたマウス;(F)=20日後の生存率および体重減少。P<0.05対コントロールの未処置群;フィッシャーの正確確率検定。
【図28】図28は、γ線を照射したA/PCの異種サブタイプの防御特性が凍結乾燥プロセス後に維持されることを示す一連のグラフを提供する。(A)=模擬処置;(B)=異種サブタイプ株A/PR8で抗原投与した;(C)=20日後の生存率および体重減少。P<0.05対コントロールの未処置の群;フィッシャーの正確確率検定。
【図29】図29は、γ線を照射したA/PCの異種サブタイプの防御特性が凍結乾燥プロセス後に維持されることを示す一連のグラフを提供する。(A)=模擬処置;(B)=凍結乾燥したγ線により不活性化されたA/PR8で抗原投与した;(C)=20日後の生存率および体重減少。P<0.05対コントロールの未処置の群;フィッシャーの正確確率検定。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本出願で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈が他に明確に示さない限り、複数形の言及も含む。例えば、用語「植物細胞」は複数の植物細胞も含む。
【0055】
本明細書で使用される場合、用語「含んでいる(comprising)」は「含んでいる(including)」を意味する。「含む(comprise)」および「含む(comprises)」など、用語「含んでいる(comprising)」の様々な形は、対応して変化させた意味を有する。従って、例えば、タンパク質をコードする配列を「含んでいる」ポリヌクレオチドは、その配列のみからなり得るか、または1つ以上のさらなる配列を含み得る。
【0056】
用語「交差反応免疫」および「交差防御免疫」は、本明細書で交換可能に使用され、同様の意図される意味を有する。
【0057】
本明細書で使用される場合、用語「抗体」および「抗体(複数も含む)」としては、IgG(IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を含む)、IgA(IgA1およびIgA2を含む)、IgD、IgE、またはIgMおよびIgY、一本鎖の全抗体を含む全抗体、ならびにそれらの抗原結合フラグメントが挙げられる。抗原結合抗体フラグメントとしては、限定されないが、Fab、Fab’およびF(ab’)2、Fd、一本鎖Fvs(scFv)、一本鎖抗体、ジスルフィド−5結合Fvs(sdFv)およびVLまたはVHドメインのいずれかを含むフラグメントが挙げられる。抗体は任意の動物由来であってもよい。一本鎖抗体を含む、抗原結合抗体フラグメントは、可変領域を単独、またはヒンジ領域、CH1、CH2およびCH3ドメインの全部もしくは一部と組み合わせて含み得る。また、可変領域ならびにヒンジ領域、CH1、CH2およびCH3ドメインの任意の組み合わせも含まれる。抗体は、生体分子と特異的に結合するモノクローナル、ポリクローナル、キメラ、多特異的、ヒト化、およびヒトモノクローナルおよびポリクローナル抗体であり得る。
【0058】
本明細書中の先行技術文献のあらゆる詳細、またはそれらの文献に由来するか、もしくは基づく本明細書中の記載は、それらの文献またはそれに由来する記載が、オーストラリアまたはその他の場所における関連技術の一般的知見の一部であることを認めるものではない。
【0059】
記述の目的のために、本明細書中で参照される全ての文献は他に指定されない限り参照により援用される。
【0060】
(詳細な説明)
現在利用可能なインフルエンザワクチンは、主に体液性反応(B細胞由来の抗体反応)を含む。これらの反応は、主に、突然変異に起因する頻繁な抗原性変異を受ける、ウイルス表面糖タンパク質血球凝集素(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)に対して向けられる。従って、現在のインフルエンザワクチンの目だった不利点は、頻繁な抗原連続変異および/または抗原不連続変異に由来する新規のインフルエンザサブタイプ/株に対して、少ししか、または全く防御を与えないことである。
【0061】
対照的に、インフルエンザウイルスに対するT細胞反応は、主に、内部ウイルスタンパク質に対して向けられる。それらのタンパク質は、全てのインフルエンザウイルスサブタイプの中で高度に保存され、変異の影響をほとんど受けない。従って、T細胞反応を誘発するワクチンは、交差防御免疫を与える可能性が高い。T細胞反応はまた、長く続き、インフルエンザ感染からの効果的な回復に重要である。従って、T細胞性免疫を誘発する能力は、不活性化されたインフルエンザウイルスワクチンの非常に望ましい特性である。これにも関わらず、現在利用可能なインフルエンザワクチンは、T細胞性免疫を誘発できず、従って、それらの有効性が実質的に制限される。
【0062】
本発明は、インフルエンザウイルスの保存されたタンパク質に向けられたT細胞性免疫を誘発できるインフルエンザワクチンを提供することによってこれらの不利益を克服する手段を提供する。本発明のガンマ線を照射した(γ線を照射した)インフルエンザワクチンはまた、異なるインフルエンザウイルスサブタイプおよび株に対する交差反応/交差防御免疫を誘発することが実証されている。
【0063】
特定の機構によって制限されないが、抗原構造に対するγ線の照射の減少した影響およびインフルエンザウイルス表面タンパク質の生物学的健全性は、それらの機能的ドメインをインタクトなままにするので、宿主免疫細胞によるウイルス粒子の効果的な取り込みおよび脱殻を可能にすると考えられる。次いで、これにより、十分なウイルス抗原(マトリクスおよび核タンパク質)を、T細胞性免疫の効果的な誘発のために抗原が存在する細胞の細胞質に提供できる。さらに、断片化したゲノムインフルエンザウイルスRNAの不成功の複製/翻訳は、ウイルス特異的T細胞性免疫のプライミングを可能にする。なぜなら、不完全なリボソーム産物(例えば時期を早めて終端された、および/またはミスフォールドされた)は、MHCクラスI抗原提示のウイルス抗原の主要源であるとみなされるからである。ウイルス粒子の抗原構造に対するγ線照射の減少した影響はまた、現在使用されているワクチン調製物によって誘発される体液性免疫と比較してワクチン接種者における体液性免疫の程度および/または質を改善すると考えられる。
【0064】
タンパク質の架橋と相互作用し、誘発する不活性化されたインフルエンザウイルスワクチン(例えばホルマリンまたはβ−プロピオラクトン)の生成において現在使用されている化学的処理と対照的に、γ線照射は、遺伝物質において鎖切断を生じることによって感染的にウイルスを不活性化すると考えられている。γ線照射は、生物学的物質内への、および生物学的物質を通る高侵入の化学的因子と比較してさらなる利点を有する。さらに、γ線照射は、ワクチン製造の間のウイルス抗原の保存を容易にするインフルエンザウイルスの凍結された調製物を不活性化するのに使用され得る。
【0065】
(組成物およびワクチン)
本発明は、γ線を照射したインフルエンザウイルスを含む組成物およびワクチンを提供する。その組成物およびワクチンは、γ線を照射したインフルエンザウイルスの任意のサブタイプまたは株を含んでもよい。γ線を照射したインフルエンザウイルスの2つ以上の株の混合物もまた意図される。混合物に使用される株は、同じまたは異なるインフルエンザウイルスサブタイプ由来であってもよい。
【0066】
本発明の組成物およびワクチンは、単一のγ線を照射したインフルエンザ株、または異なるγ線を照射したインフルエンザ株の混合物を含んでもよい。インフルエンザ株は、オルソミクソウイルスファミリーの任意の属由来であってもよい。例えば、インフルエンザ株は、インフルエンザA(A型)、インフルエンザB(B型)、またはインフルエンザC(C型)の属のサブタイプ由来であってもよい。
【0067】
インフルエンザAの好ましいサブタイプとしては、限定されないが、H1N1(例えばH1N1 09ブタインフルエンザ)、H1N2、H1N7、H2N2、H3N1、H3N2、H3N8、H4N8、H5N1(例えばHPAI A(H5N1))、H5N2、H5N3、H5N8、H5N9、H6N5、H7N1、H7N2、H7N3、H7N4、H7N7、H8N4、H9N2、H10N7、H11N6、H12N5、H13N6、H14N5、およびインフルエンザAウイルスの間の再分類から生じる任意の他のサブタイプが挙げられる。
【0068】
本明細書で意図される「H1N1 09ブタインフルエンザウイルス」はまた、世界保健機構によって「汎発性インフルエンザA(H1N1)」ともいわれる。
【0069】
特定の実施形態において、本発明の組成物および/またはワクチンはγ線を照射した人畜共通インフルエンザウイルス株を含む。
【0070】
本発明に従って使用するためのインフルエンザウイルスは、当該分野で公知の方法を用いて生成され得る。例えば、インフルエンザウイルスは、例えば、Coicoら,(Eds)「Current Protocols in Microbiology」,(2007),John Wiley and Sons,Inc.(特に、「Influenza:Propagation,Quantification,and Storage」という標題のUnit 15G.1を参照のこと)に記載されるように、孵化卵中の連続継代によって誘導され得る。この技術の簡単な説明を以下に提示する。
【0071】
孵化卵は、受精後9〜12日で得られ得、気嚢を見つけるために光を当てた。次いで、無菌条件下で卵に穴を開け、シリンジを用いて空隙内に種ウイルスを接種した。この処置は、手動で、または機械によって自動的に行うことができる。次いで、接種した卵を、約2〜3日間、湿気のある環境中でインキュベートした。この期間の終わりに、胚を停止させ、尿膜腔液の清澄化に役立つように、所望の場合、卵を約4℃に維持してもよい。次いで、卵の上部を取り除き、膜に穴を開け、尿膜腔液を収集した。再び、これは手動で、または自動化された機械によりなされてもよい。尿膜腔液は、例えば、細胞残屑を除去するために遠心分離によって清澄化され、および/またはγ照射によるインフルエンザウイルスの不活性化前または後にさらなる精製を受けてもよい。尿膜腔液の精製は、例えば、ニワトリ赤血球(CRBC)に対する温度依存性の吸着、ショ糖密度勾配、または透析によってなされてもよい。
【0072】
インフルエンザウイルスの生成に適切な上記のプロセスの改変はまた、米国特許出願第7270990号、PCT国際公開第02/067983号およびPCT国際公開第2005/113756号に記載されている。
【0073】
さらに、または代替として、本発明の組成物およびワクチンに使用するためのインフルエンザウイルスは、細胞培養物中で生成されてもよい(例えば、Furminger,「Vaccine Production」,Nicholsonら,(eds.),Textbook of Influenza,Chapter24,pp.324−332およびMertenら,1996,「Production of influenza virus in cell cultures for vaccine preparation」,Cohen & Shafferman(eds.),Novel Strategies in Design and Production of Vaccines,pp.141 151,米国特許第5824536号および米国特許第6344354号を参照のこと)。
【0074】
インフルエンザウイルスを増殖させるための基質として使用され得る適切な細胞株の非限定的な例としては、ベロ細胞、Madin Darbyイヌ腎臓(MDCK)細胞、PERC6細胞(例えば、米国特許第7192759号を参照のこと)、ニワトリ胚細胞(例えば、ニワトリ胚線維芽細胞)および鳥類胚細胞株(例えば、PCT国際公開第2006/108846号を参照のこと)が挙げられる。非限定的であるが、米国特許第6825036、米国特許第6455298号、およびPCT国際公開第2006/108846号に記載されるものを含む、これらの細胞株の変異体が使用されてもよい。
【0075】
細胞株を用いるインフルエンザウイルスの増殖は、一般に、既知組成培地中で所望の量まで細胞を増幅することを含む。好ましくは、培地は無血清培地である。ウイルスの増殖は、培地へのプロテアーゼの添加によって支援され得る。一般に、細胞は、インフルエンザウイルスで感染され、必要な数のウイルスを生成するのに十分な時間(例えば数日間)、インキュベートされる。感染の多様性、インキュベーション時間および温度などのパラメーターは、一般に、使用される特定の細胞株および/または増殖される特定のインフルエンザ株に最適化される必要がある。上記に参照したものを含む増殖パラメーターの最適化は、必要以上の実験をせずに当業者によって容易に決定され得る。インキュベーション時間の後、所望の場合、ウイルスを収集し、精製してもよい。
【0076】
細胞培養物中のインフルエンザウイルスの生成に適切なプロセスの非限定的な例としては、米国特許第5698433号、米国特許第5753489号、米国特許第6146873号、米国特許第6455298号および米国特許第6951752号に記載されるものが挙げられる。
【0077】
細胞培養物中のインフルエンザウイルスの収率は、例えば、タンパク質キナーゼPKRをコードする細胞遺伝子または(2’−5’)オリゴアデニル酸(2−5A)シンセターゼ遺伝子を修飾すること(例えば、米国特許第6673591号および米国特許第6686190号を参照のこと)、あるいはウイルス骨格を代替的な非構造タンパク質1(NS1)遺伝子で修飾すること(例えば、PCT国際公開第2005/024039号を参照のこと)によって向上できる。さらに、または代替的に、インフルエンザウイルスの増殖に利用される細胞株は、シアリルトランスフェラーゼを過剰発現してもよい(例えば、米国特許第7132271号を参照のこと)。
【0078】
上記の方法(または任意の他の手段)を用いて増殖されるインフルエンザウイルスは、γ線を照射する前に精製および/または濃縮されてもよい。当該分野において公知の任意の適切な方法がこの目的のために使用されてもよい。例えば、インフルエンザウイルスは、Laver(1969)「Purification of influenza virus」,HKaS NP,(ed)New York and London:Academic Press.pp.82−86に記載される方法を用いてニワトリの赤血球に対する温度依存性吸着により精製されてもよい。あるいは、インフルエンザウイルスは、密度勾配遠心分離法により精製されてもよい(例えば、Sokolovら,(1971),「Purification and concentration of influenza virus」,Archiv fiir die gesarate Virusforschung,35,356−363を参照のこと)。
【0079】
好ましくは、インフルエンザウイルスは、接線/クロスフロー濾過を用いて、γ線を照射する前に精製および/または濃縮される。例えば、ウイルスを含有する流体は、適切な細孔径(例えば約80nm未満)を有する膜などの濾過装置に付与され得る。流体は膜の表面に沿って(すなわち表面にわたって)接線方向にくみ上げられ、圧力が、膜を通して濾液側まで流体の一部に力を加える。加えられる圧力は、通常、ビリオン構造および/またはウイルス抗原の完全性に悪影響を与えない程度である。ウイルス粒子を含有する濾液は膜を通過するが、流体中の微粒子および高分子は非常に大きいので、反対側に保持される膜孔を通過できない。一般に、保持液(retentate)(すなわち保持される成分)は膜の表面に構築せず、代わりに接線流によって流される。保持液は、適切な培地(例えばデキストランおよび/またはスクロースを含有するPBS)で再希釈され得、必要な場合、濾過プロセスが繰り返される。
【0080】
γ線照射に使用されるインフルエンザウイルスを精製するための接線/クロスフロー濾過の使用は、ウイルス抗原の完全性が保存されるため、インフルエンザワクチン調製物に従来使用される精製技術(例えば超遠心分離法)よりも利点を与える。次いで、これにより、γ線を照射したウイルス調製物の免疫原性、特に複数のインフルエンザサブタイプおよび株に対する交差反応/交差防御免疫を誘発するそれらの能力が向上する。
【0081】
本発明の組成物およびワクチンに使用するためのインフルエンザウイルスはγ線を照射されている。任意の適切なγ線照射源が使用され得る。簡便なγ線放出体としては、限定されないが、Ba137、Co60、Cs137、Ir192、U235、Se75およびYb169が挙げられる。
【0082】
インフルエンザウイルスのγ線照射は、市販の装置、例えば、Atomic Energy of Canada Ltd.,カナダにより製造されたガンマセル(Gammacell)照射器(例えばガンマセル40照射器、ガンマセル220照射器、ガンマセル1000照射器、ガンマセル3000照射器)、J.L.Shepherd and Associates(サンフェルナンド、カリフォルニア州、米国)により製造されたガンマ線照射器、またはNordion Inc.(カナタ、オンタリオ州、カナダ)により製造されたNordionガンマセル1000照射器を用いて実施され得る。他の適切な装置は、例えば、米国特許第3557370号および米国特許第3567938号に記載されている。
【0083】
好ましくは、インフルエンザウイルスは、それを不活性化するのに十分なγ線照射の線量に曝露される。より好ましくは、γ線照射の線量は、ウイルス抗原の構造を実質的に分解せず、特にウイルス表面抗原の構造を実質的に分解せずにウイルスを不活性化するのに十分である。従って、抗原決定基の免疫原性はγ線を照射したウイルスにより保持され得る。
【0084】
従って、本発明の好ましい実施形態において、インフルエンザウイルスは、ウイルスの抗原構造を保持しながら、そのウイルスを不活性化できるγ線照射の線量で処理される。好ましくは、γ線照射の線量が、処理下の全てのウイルスが、ウイルス抗原決定基の構造的完全性に悪影響を与えずに曝露されるのを保証するのに一定の時間かつ十分なレベルでウイルスに照射される。
【0085】
例えば、インフルエンザウイルスは、約1×10radおよび約2×10rad(または約10Gy〜約2×10kGy)の範囲のγ線照射の総線量で曝露され得る。本発明の特定の実施形態において、インフルエンザウイルスは、約1×10rad〜約2×10rad、約1×10rad〜約1×10rad、約1×10rad〜約1×10rad、約1×10rad〜約1×10rad、約1×10rad〜約1×10rad、約1×10rad〜約1×10rad、約1×10rad〜約1×10rad、約1×10rad〜約2×10rad、約1×10rad〜約2×10rad、約1×10rad〜約2×10rad、約1×10rad〜約2×10rad、約1×10rad〜約2×10rad、約1×10rad〜約2×10rad、または約1×10rad〜約2×10radのγ線照射の総線量で曝露される。本発明の一実施形態において、インフルエンザウイルスは、約6.5×10rad〜約2×10rad(約0.65KGy〜約200kGy)のγ線の総線量で曝露される。本発明の好ましい実施形態において、インフルエンザウイルスは、約1.26×10rad(12.6KGy)のγ線照射の総線量、約1×10rad(約10kGy)のγ線照射の総線量、または約1×10rad(1KGy)のγ線照射の総線量で曝露される。
【0086】
γ線照射の最適な線量は、ウイルスが存在する培地、処理されるウイルスの量、存在するウイルスの温度、および/または処理下のウイルスのサブタイプもしくは株などの要因によって影響され得る。従って、γ線照射の総線量、γ線照射の曝露時間および/または曝露時間にわたって付与されるγ線照射のレベルは、処理の効果を高めるために最適化され得る。
【0087】
γ線照射の総線量は、一定の時間、最適化してウイルスに照射され得る。例えば、γ線照射は、必要とされるγ線照射の総線量を達成するのに十分な時間にわたって総線量より低いレベルでウイルスに照射され得る。
【0088】
一実施形態において、インフルエンザウイルス調製物は、γ線に曝露されている間、凍結状態で維持される。これにより、生物学的完全性の保存が容易にでき、ウイルス抗原の不必要な損傷を回避でき、それによって、γ線を照射されたウイルス調製物の免疫原性、特に複数のインフルエンザサブタイプおよび株に対する交差反応/交差防御免疫を誘発する能力を高める。一般に、10〜20kGyのγ線照射線量は、凍結されたウイルス調製物を処理するのに有効であり得る。
【0089】
上記のように、γ線照射での処理は、ウイルス抗原の構造を実質的に分解せずにインフルエンザウイルスを不活性化するのに十分であることが好ましい。ウイルスの不活性化は、一般に当該分野において公知の方法を用いて評価され得る。例えば、ウイルス感染性は、上記のように孵化卵および/または細胞株にワクチンを接種して、ウイルスが増殖できるか否かを決定することによって、γ線照射後に測定され得る。
【0090】
抗原決定基の完全性は、例えば、γ線照射後の凝集活性についてウイルスをアッセイすることによって評価され得る。凝集アッセイを実施する方法は当該分野において公知であり、例えば、Coicoら,(Eds)「Current Protocols in Microbiology」,(2007),John Wiley and Sons,Inc.(特に、「Influenza:Propagation,Quantification,and Storage」という標題のUnit 15G.1を参照のこと)およびSatoら,(1983),「Separation and purification of the hemagglutinins from Bordetella pertussis」,Infect.Immun.,41,313−320に記載されている。さらに、または代替として、ノイラミニダーゼアッセイが、ウイルス抗原決定基の完全性を評価するために使用されてもよい(例えば、Khorlinら,(1970),「Synthetic inhibitors of Vibrio cholerae neuraminidase and neuraminidases of some influenza virus strains」,FEBS Lett.,8:17−19およびVan Deusenら,(1983),「Micro neuraminidase−inhibition assay for classification of influenza A virus neuraminidases」Avian Dis.,27:745−50を参照のこと)。さらに、γ線を照射された調製物によって誘導される内在性タンパク質に対する細胞障害性T細胞反応が、タンパク質完全性についての指標として使用されてもよい。
【0091】
γ線を照射したインフルエンザウイルスを含む適切な組成物およびワクチンは、当業者に公知の方法に従って調製され得、それに応じて、薬学的に許容可能な担体、希釈剤および/または補助剤を含んでもよい。
【0092】
担体、希釈剤および補助剤は、組成物の他の成分との適合性に関して「許容可能」でなければならず、その受容者に対して有害であってはならない。
【0093】
補助剤は、γ線を照射したインフルエンザウイルスを含む本発明の組成物およびワクチンと組み合わされてもよいが、本明細書に提供される実験データは、同様のレベルの免疫原性が、補助剤の非存在下でγ線により不活性化されたインフルエンザ調製物を用いて得られ得ることを実証する。従って、補助剤が本発明の組成物およびワクチンに含まれてもよいが、それらは通常必要とされなくてもよいことは理解されるだろう。従って、補助剤の使用から生じる反応原性は回避され得る。
【0094】
好ましくは、補助剤は、γ線を照射したインフルエンザウイルスにより誘発および/または高められた免疫反応を向上させ、それによって、防御効果を改善する。好ましくは、補助剤は、低い線量のγ線を照射したインフルエンザウイルスを利用する防御免疫の誘発を可能にする。
【0095】
任意の適切な補助剤が本発明の組成物およびワクチンに含まれてもよい。例えば、アルミニウムベースの補助剤が利用されてもよい。適切なアルミニウムベースの補助剤としては、限定されないが、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウムおよびそれらの組み合わせが挙げられる。利用され得るアルミニウムベースの補助剤の他の特定の例は、欧州特許第1216053号および米国特許第6372223号に記載されている。
【0096】
水中油エマルションが、本発明の組成物およびワクチン中の補助剤として利用されてもよい。水中油エマルションは当該分野において周知である。一般に、水中油組成物は、代謝可能な油、例えば、魚油、植物油または合成油を含む。適切な水中油エマルションの例としては、欧州特許第0399843号、米国特許第7029678号およびPCT国際公開第2007/006939号に記載されるものが挙げられる。水中油エマルションは、他の補助剤および/または免疫刺激剤とともに利用されてもよい。
【0097】
他の適切な補助剤の非限定的な例としては、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、モノホスホリルリピドA(MPL)、コレラ毒素(CT)またはその構成サブユニット、易熱性毒素(LT)またはその構成サブユニットなどの免疫刺激剤、リポ多糖(LPS)およびその誘導体(例えばモノホスホリルリピドAおよび3−脱アシル化モノホスホリルリピドA)、ムラミールジペプチド(MDP)および呼吸器合胞体ウイルスのFタンパク質などのトール様受容体リガンド補助剤が挙げられる。
【0098】
薬学的に許容可能な担体または希釈剤としては、脱塩水または蒸留水;食塩水;ピーナッツ油、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油、ラッカセイ油またはココナッツ油などの植物ベースの油;メチルポリシロキサン、フェニルポリシロキサンおよびメチルフェニルポリシロキサン(methylphenyl polysolpoxane)などのポリシロキサンを含むシリコーン油;揮発性シリコーン;流動パラフィン、軟パラフィンまたはスクアランなどの鉱油;メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体;低級アルカノール、例えばエタノールまたはイソプロパノール;低級アラルカノール(aralkanol);低級ポリアルキレングリコールまたは低級アルキレングリコール、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールまたはグリセリン;パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピルまたはオレイン酸エチルなどの脂肪酸エステル;ポリビニルピリドン;寒天;カラギーナン;トラガカントガムまたはアカシアガム、およびワセリンが挙げられる。典型的に、担体(複数も含む)は組成物の10重量%〜99.9重量%を形成する。
【0099】
本発明の組成物およびワクチンは、限定されないが、非経口(例えば、静脈内、髄腔内、皮下または筋肉内)、経口、粘膜(例えば、鼻腔内)または局所経路を含む、標準的な経路によって投与され得る。
【0100】
本発明の組成物およびワクチンは、注射による投与に適切な形態、経口摂取に適切な製剤の形態(例えばカプセル剤、錠剤、カプレット、エリキシル剤)、局所投与に適切な軟膏、クリームまたはローションの形態、点眼剤としての送達に適切な形態、鼻腔内吸入または経口吸入などの吸入による投与に適切なエアロゾル形態、非経口投与、すなわち皮下、筋肉内または静脈内注射に適切な形態であり得る。
【0101】
組成物およびワクチンの鼻腔内への注入は、例えば、点鼻剤、スプレー、または吸入に適切な液体形態、粉末、クリームあるいはエマルションとして処方され得る。
【0102】
投与に関して、注射可能な溶液または懸濁液、非毒性の非経口的に許容可能な希釈剤または担体としては、リンガー溶液、等張食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、エタノールおよび1,2プロピレングリコールが挙げられ得る。
【0103】
経口使用のための適切な担体、希釈剤、賦形剤および補助剤のいくつかの例としては、ピーナッツ油、流動パラフィン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アカシアガム、トラガカントガム、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、ゼラチンおよびレシチンが挙げられる。さらに、それらの経口処方物は、適切な矯味矯臭剤および着色剤を含んでもよい。カプセル形態で使用される場合、そのカプセルは、分解を遅延させるモノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリルなどの化合物でコーティングされてもよい。
【0104】
典型的に、補助剤としては、皮膚軟化剤、乳化剤、増粘剤、防腐剤、殺菌剤および緩衝剤が挙げられる。別の種類の「自己補助剤」は、水溶性リポペプチドPam3Cysまたはそのジパルミトイル誘導体Pam2Cysなどの脂質に対する免疫原性ペプチドのコンジュゲーションによって提供される。そのような補助剤は、免疫原性ペプチドを抗原提示細胞(樹枝状細胞)に付随させ、それによって、増加した抗原提示および同時に細胞の活性化を生じるという利点を有する。それらの薬剤は少なくとも部分的にTOLL様受容体2により作用する(Brown LEおよびJackson DC,Lipid based self adjuvanting vaccines.Current Drug Delivery,23:83,2005を参照のこと)。
【0105】
本発明の組成物およびワクチンは、適切な補助剤などの薬学的に許容可能な賦形剤を含んでもよい。適切な補助剤は、例えば、不完全フロイントアジュバントおよび完全フロイントアジュバント(Difco Laboratories,デトロイト,ミシガン州);Merckアジュバント65(Merck and Company,Inc.,Rahway,N.J.);AS−2(SmithKline Beecham,フィラデルフィア,ペンシルベニア州);水酸化アルミニウムゲル(ミョウバン)またはリン酸アルミニウムなどのアルミニウム塩;カルシウム、鉄または亜鉛の塩;アシル化チロシンの不溶性懸濁液;アシル化糖;アニオンまたはカチオンにより誘導体化された多糖;ポリホスファゼン;生分解性ミクロスフェア;モノホスホリルリピドAおよびキル(quil)Aなどで商業的に利用可能である。GM−CSFまたはインターロイキン−2、−7、もしくは−12などのサイトカインもまた、補助剤として使用されてもよい。
【0106】
本発明の一実施態様において、補助剤組成物はTH1タイプの免疫反応を優先的に誘発できる。TH1タイプの反応を優先的に誘発するのに使用するための適切な補助剤としては、例えば、モノホスホリルリピドA、好ましくは3−O−脱アシル化(3−de−O−acylated)モノホスホリルリピドA(3D−MPL)とアルミニウム塩との組み合わせが挙げられる。例えば、組成物またはワクチンは、Thoelen,S.ら,「A prophylactic hepatitis B vaccine with a novel adjuvant system」,Vaccine(2001)19:2400−2403に記載されるような水酸化アルミニウム(ミョウバン)および3−O−脱アシル化モノホスホリル化リピドA(MPL)を含有するアジュバントAS04とともに処方されてもよい。TH1タイプの免疫反応を優先的に誘発する他の公知の補助剤としては、CpGを含むオリゴヌクレオチドが挙げられる。このオリゴヌクレオチドはCpGジヌクレオチドがメチル化されないという特徴を有する。このようなオリゴヌクレオチドは周知であり、例えばPCT国際公開第1996/02555号に記載されている。免疫活性化DNA配列もまた、例えば、Satoら,1996,「Immunostimulatory DNA sequences necessary for effective intradermal gene immunization」,Science,273:352−354に記載されている。別の好ましい補助剤は、サポニン、好ましくはQS21(Aquila Biopharmaceuticals Inc.,Framingham,Mass.)であり、他の補助剤と単独または組み合わせて使用されてもよい。例えば、強化された系は、PCT国際公開第1994/00153号に記載されるようにQS21と3D−MPLとの組み合わせなどのモノホスホリルリピドAとサポニン誘導体との組み合わせ、またはPCT国際公開第1996/33739号に記載されるようにQS21がコレステロールでクエンチされる低い反応原性組成物を含む。他の好ましい製剤は水中油エマルションおよびトコフェロールを含む。水中油エマルション中にQS21、3D−MPLおよびトコフェロールを含むアジュバント製剤は、PCT国際公開第1995/17210号に記載されている。アジュバント組成物は、PCT国際公開第1995/17210号に記載されるように、水中油エマルション中にQS21、3D−MPLおよびトコフェロールを含む製剤を含んでもよい。一実施形態において、組成物は、モンタニド(Montanide)ISA720アジュバント(M−ISA−720;Seppic,Fairfield,N.J.)、天然の代謝可能な油に基づいたアジュバントを含む。
【0107】
本発明のワクチンおよび組成物は、例えば、一般的に、PowellおよびNewmanによって編集されたPharmaceutical Biotechnology,Vol.61「Vaccine Design−the subunit and adjuvant approach」,Plenum Press,1995,ならびにVollerらによって編集された「New Trends and Developments in Vaccines」,University Park Press,Baltimore,Md.,U.S.A.1978に記載されるような標準的な方法に従って調製され得る。
【0108】
経口投与用の固形物は、ヒトおよび獣医学の薬務において許容可能な結合剤、甘味料、崩壊剤、希釈剤、矯味矯臭剤、コーティング剤、防腐剤、滑剤および/または時間遅延剤を含み得る。適切な結合剤としては、アカシアガム、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントガム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルソースまたはポリエチレングリコールが挙げられる。適切な甘味料としては、スクロース、ラクトース、グルコース、アスパルテームまたはサッカリンが挙げられる。適切な崩壊剤としては、コーンスターチ、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、グアーガム、キサンタンガム、ベントナイト、アルギン酸または寒天が挙げられる。適切な希釈剤としては、ラクトース、ソルビトール、マンニトール、デキストロース、カオリン、セルロース、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウムまたは第二リン酸カルシウムが挙げられる。適切な矯味矯臭剤としては、ペパーミント油、ウィンターグリーン油、チェリー、オレンジまたはラズベリー矯味矯臭剤が挙げられる。適切なコーティング剤としては、アクリル酸および/またはメタクリル酸および/またはそれらのエステルのポリマーまたはコポリマー、ワックス、脂肪アルコール、ゼイン、シェラックまたはグルテンが挙げられる。適切な防腐剤としては、安息香酸ナトリウム、ビタミンE、α−トコフェロール、アスコルビン酸、メチルパラベン、プロピルパラベンまたは亜硫酸水素ナトリウムが挙げられる。適切な滑剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、塩化ナトリウムまたはタルクが挙げられる。適切な時間遅延剤としては、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルが挙げられる。
【0109】
経口投与用の液状形態は、上記の薬剤に加えて液体担体を含み得る。適切な液体担体としては、水、オリーブ油などの油、ピーナッツ油、ゴマ油、ヒマワリ油、サフラワー油、ラッカセイ油、ココナッツ油、流動パラフィン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセロール、脂肪アルコール、トリグリセリドまたはそれらの混合物が挙げられる。
【0110】
経口投与用の懸濁液はさらに、分散剤および/または懸濁化剤を含み得る。適切な懸濁化剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウムまたはアセチルアルコールが挙げられる。適切な分散剤としては、レシチン、ステアリン酸などの脂肪酸のポリオキシエチレンエステル、ポリオキシエチレンソルビトールモノ−またはジ−オレエート、−ステアレートまたは−ラウレートなどが挙げられる。
【0111】
経口投与用のエマルションはさらに、1つ以上の乳化剤を含み得る。適切な乳化剤としては、上記に示した分散剤またはグアーガム、アカシアガムまたはトラガカントガムなどの天然ガムが挙げられる。
【0112】
非経口投与可能な組成物を調製する方法は、当業者に自明であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Science,15th ed.,Mack Publishing Company,Easton,Paにより詳細に記載されている。
【0113】
本発明の局所製剤は、1つ以上の許容可能な担体とともに活性成分、および必要に応じて任意の他の治療成分を含む。局所投与に適切な製剤は、皮膚を通して治療が必要とされる部位への侵入に適切な液体または半液体調製物、例えば塗布薬、ローション、クリーム、軟膏またはペースト、および眼、耳または鼻への投与に適切な点眼剤を含む。
【0114】
本発明による点眼剤は、滅菌水溶液または油性溶液または懸濁液を含み得る。それらは、殺菌剤および/または抗菌剤ならびに/あるいは任意の他の適切な防腐剤の水溶液中の活性成分を溶解することにより調製され得、必要に応じて表面活性剤を含む。次いで、得られた溶液は、濾過により清澄化され、適切な容器に移され、滅菌され得る。滅菌は、30分間、90℃〜100℃にてオートクレーブまたは維持することにより達成され得るか、あるいは濾過し、続いて無菌技術により容器に移すことにより達成され得る。点眼剤への封入に適切な殺菌剤および抗菌剤の例は、硝酸フェニル水銀または酢酸フェニル水銀(0.002%)、塩化ベンザルコニウム(0.01%)および酢酸クロルヘキシジン(0.01%)である。油性溶液の調製に適切な溶媒としては、グリセロール、希釈アルコールおよびプロピレングリコールが挙げられる。
【0115】
本発明によるローションとしては、皮膚または眼への適用に適切なものが挙げられる。点眼用ローションは、必要に応じて殺菌剤を含有する滅菌水溶液を含み得、点眼剤の調製に関して上に記載されるものと同様の方法によって調製され得る。また、皮膚の適用のためのローションまたは塗布薬としては、皮膚の乾燥を早め、冷却する薬剤、例えばアルコールまたはアセトン、および/またはグリセロールなどの保湿剤、またはヒマシ油もしくはラッカセイ油などの油が挙げられる。
【0116】
本発明によるクリーム、軟膏またはペーストは、外用のための活性成分の半固体製剤である。それらは、脂肪性または非脂肪性基剤とともに、単独または水性もしくは非水性流体の溶液もしくは懸濁液中で、微粉化または粉末化形態において活性成分を混合することによって作製され得る。基剤は、固形、軟または流動パラフィン、グリセロール、密ろう、金属せっけん、粘液などの炭化水素;アーモンド油、トウモロコシ油、ラッカセイ油、ヒマシ油またはオリーブ油などの天然起源の油;羊毛脂もしくはその誘導体、またはプロピレングリコールもしくはマクロゴールなどのアルコールと一緒のステアリン酸もしくはオレイン酸などの脂肪酸を含み得る。
【0117】
本発明の組成物およびワクチンは、ソルビタンエステルまたはそのポリオキシエチレン誘導体などのアニオン性、カチオン性または非イオン性界面活性剤などの任意の適切な界面活性剤を組み込んでもよい。天然ガムなどの懸濁化剤、セルロース誘導体、またはシリカ(silicaceous silica)などの無機物質、およびラノリンなどの他の成分も含まれてもよい。
【0118】
本発明の組成物およびワクチンはまた、リポソームの形態で投与されてもよい。リポソームは、通常、リン脂質または他の脂質物質から誘導され、水媒体に分散される単層または多層状の水和液晶によって形成される。任意の非毒性で、生理学的に許容可能でリポソームを形成できる代謝可能な脂質が形成され得る。リポソーム形態の組成物は、安定剤、防腐剤、賦形剤などを含んでもよい。好ましい脂質は、天然および合成の両方のリン脂質およびホスファチジルコリン(レシチン)である。リポソームを形成する方法は、当該分野において公知であり、この特定の参照に関しては、Prescott,Ed.,Methods in Cell Biology,Volume XIV,Academic Press,New York,N.Y.(1976),p.33(以下参照)になされている。
【0119】
(医薬およびワクチン)
また、本発明に意図されるものは、インフルエンザ感染を予防するためのワクチンを生成する方法である。その方法は、γ線を照射することによってインフルエンザウイルスの調製物を不活性化する工程を含む。ワクチン生成方法に使用するためのインフルエンザウイルス調製物は、上記のセクション(すなわち「組成物およびワクチン」)に記載されるように生成されて、γ線を照射され得る。
【0120】
インフルエンザウイルス調製物は、インフルエンザAウイルスを含み得る。インフルエンザAウイルス調製物は、通常ヒトに感染するインフルエンザAの1つ以上のサブタイプ由来の株を含み得る。インフルエンザA株は、ヒトの集団において現在蔓延している場合がある。
【0121】
好ましくは、本発明のインフルエンザワクチンは、被験体において複数のインフルエンザウイルスサブタイプに対する交差反応免疫を誘発および/または向上させる。最も好ましくは、複数のインフルエンザウイルスサブタイプは、インフルエンザウイルスサブタイプH5N1(例えばHPAIA(H5N1))および/またはH1N1(例えばH1N1 09ブタインフルエンザ)を含む。ワクチンは鼻腔内投与用に処方され得る。
【0122】
一実施形態において、インフルエンザウイルス調製物は、人畜共通のインフルエンザAウイルスの1つ以上の株を含む。
【0123】
別の実施形態において、インフルエンザワクチンは、鼻腔内投与用に処方される。
【0124】
一実施形態において、ワクチン生成方法は、γ線を照射することによってインフルエンザウイルスの調製物を不活性化する工程を含む(上記の「組成物およびワクチン」という標題のセクションを参照のこと)。
【0125】
一実施形態において、ワクチン生成方法は、γ線の照射によって不活性化する前に、接線/クロスフロー濾過によってインフルエンザウイルスを精製する工程を含む(上記の「組成物およびワクチン」という標題のセクションを参照のこと)。
【0126】
別の実施形態において、ワクチン生成方法は、インフルエンザウイルスの凍結調製物にγ線を照射する工程を含む(上記の「組成物およびワクチン」という標題のセクションを参照のこと)。
【0127】
別の実施形態において、ワクチン生成方法は、γ線照射によって不活性化する工程の後にウイルスを凍結乾燥する工程を含む(下記の「投与経路」という標題のセクションを参照のこと)。
【0128】
別の実施形態において、ワクチン生成方法は、ウイルス調製物を、約6.5×10rad〜約2×10radのγ線の総線量に曝露する工程を含む。
【0129】
別の実施形態において、本明細書に記載される生成方法に従って生成されるワクチンは、ワクチン接種に使用され得るか、または再ワクチン接種の目的のために使用され得る。
【0130】
別の実施形態において、ワクチン生成方法は、ウイルス調製物を、約1×10radのγ線の総線量に曝露する工程を含む。
【0131】
本発明の一実施形態において、ワクチンは再ワクチン接種のために使用され得る。典型的に、再ワクチン接種は、第1のワクチン接種の後、少なくとも6ヶ月、適切には第1のワクチン接種の後、8〜14ヶ月、適切には第1のワクチン接種の後、約10〜12ヶ月で行われる。再ワクチン接種(または「追加免疫」)は、薬理学的に許容可能な担体、補助剤または賦形剤と一緒に投与され得る。
【0132】
一態様において、本発明は、本明細書に記載されるワクチン生成方法に従って生成されたワクチンを提供する。
【0133】
本発明はまた、インフルエンザウイルス感染の治療および/または予防のための医薬を調製するためのγ線を照射されたインフルエンザウイルスの使用を提供する。γ線を照射されたインフルエンザウイルスは、限定されないが、インフルエンザAウイルスを含む、任意のインフルエンザウイルスであり得る。好ましくは、医薬は、複数のインフルエンザウイルスサブタイプに対する交差反応免疫を誘発する。一実施形態において、医薬は、インフルエンザウイルスサブタイプH5N1(例えばHPAI A(H5N1))および/またはH1N1(例えばH1N1 09ブタインフルエンザ)感染の治療および/または予防のためである。別の実施形態において、医薬はワクチンである。好ましい実施形態において、医薬は鼻腔内投与のために処方される。
【0134】
また、本発明によって提供されるのは、インフルエンザ感染の治療または予防に使用するためのγ線を照射されたインフルエンザウイルスである。
【0135】
(治療方法)
本発明は、被験体におけるインフルエンザウイルス感染を治療または予防する方法を提供する。その方法は、治療有効量のγ線を照射したインフルエンザウイルスを被験体に投与する工程を含む。
【0136】
γ線を照射したインフルエンザウイルスは、本発明の組成物またはワクチンの形態で被験体に投与され得る(上記の「組成物およびワクチン」という標題のセクションを参照のこと)。通常、γ線を照射したインフルエンザウイルスは免疫原性である。典型的に、その方法は、インフルエンザウイルス感染に対して被験体を免疫化する工程を含む。
【0137】
「被験体」は、哺乳動物、例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、霊長類および齧歯動物を含む、経済的、社会的または研究上重要な任意の哺乳動物である。典型的に、被験体はヒトである。被験体は、インフルエンザに感染し、インフルエンザウイルスに感染する疑いがあり、インフルエンザウイルスに以前に感染し、および/またはインフルエンザウイルスに感染する危険性があり得る。インフルエンザウイルスに感染する危険性のある被験体は、例えば、インフルエンザウイルスに感染した個体とともに作業するか、またはその個体をケアする被験体であり得る。
【0138】
本明細書で使用する場合、用語「治療有効量」は、非毒性であるが、望まれる治療効果を与えるために本発明において使用するのに十分な量の組成物またはワクチンを意味する。必要とされる正確な量は、治療されるウイルスサブタイプ/株、被験体の年齢および健康状態、治療される状態の重症度、投与される特定の年齢、および投与経路などの要因に応じて被験体ごとに変化する。従って、正確な「有効量」を特定することはできない。しかしながら、いずれかの所定の場合において、適切な「有効量」は、慣例の実験のみを用いて当業者により決定され得る。
【0139】
本発明の方法によるγ線を照射したインフルエンザウイルス(またはγ線を照射したインフルエンザウイルスを含む組成物)の治療有効量は、単回投与で被験体に投与され得るか、または複数回投与で被験体に投与され得る。
【0140】
一般に、用語「治療有効量」とは、インフルエンザウイルスの1つ以上の株に対する免疫反応を誘発および/または向上させることができる前記γ線を照射したインフルエンザウイルス(またはγ線を照射したインフルエンザウイルスを含む組成物)の量を意味する。好ましくは、免疫反応は、インフルエンザの1つ以上の異なるサブタイプ由来の株に対して誘発および/または向上される。典型的に、被験体に投与される場合、治療有効量は、被験体のインフルエンザウイルスの曝露後の感染の重症度を減少させるか、またはインフルエンザウイルスに感染された被験体に投与される場合、インフルエンザウイルスの1つ以上の症状を減少させるのに十分、被験体において免疫反応を誘発する。典型的に、インフルエンザ感染に見られる任意の1つ以上の症状の減少は、例えば、感染の持続期間の減少、熱、頭痛、咳、のどの痛み、全身の痛み、筋肉痛、鼻づまり、咳嗽、くしゃみ、赤くなった目、皮膚、口、喉および鼻、下痢、嘔吐ならびに疲れなどの1つ以上の症状の持続期間の減少を意味することを含むことが理解されるだろう。
【0141】
従って、本発明は、治療有効量のγ線を照射したインフルエンザウイルス(またはγ線を照射したインフルエンザウイルスを含む組成物)を投与することによって、そのような状態(この状態はインフルエンザウイルス感染に関連する)を治療する方法を提供する。γ線を照射したインフルエンザウイルスは、γ線を照射したインフルエンザウイルスの任意の適切なサブタイプまたは株であり得る。γ線を照射したインフルエンザウイルスの2種以上の株の混合物の投与もまた、意図される。株は、異なるインフルエンザウイルスサブタイプ由来であり得る。
【0142】
インフルエンザ株は、オルソミクソウイルス(Orthomyxoviridae)科の任意の属由来であり得る。例えば、インフルエンザ株は、インフルエンザA(A型)、インフルエンザB(B型)、またはインフルエンザC(C型)の属のサブタイプ由来であり得る。
【0143】
インフルエンザAの好ましいサブタイプとしては、限定されないが、H1N1(例えばH1N1 09ブタインフルエンザ)、H1N2、H1N7、H2N2、H3N1、H3N2、H3N8、H4N8、H5N1(例えばHPAI A(H5N1))、H5N2、H5N3、H5N8、H5N9、H6N5、H7N1、H7N2、H7N3、H7N4、H7N7、H8N4、H9N2、H10N7、H11N6、H12N5、H13N6、H14N5、およびインフルエンザAウイルス間の再分類から生じる任意の他のサブタイプが挙げられる。
【0144】
特定の実施形態において、本発明の方法に使用されるγ線を照射したインフルエンザウイルス株は、γ線を照射した人畜共通のインフルエンザウイルス株を含む。
【0145】
本発明の方法に従って使用するためのインフルエンザウイルスは当該分野において公知の方法を用いて生成される。例えば、インフルエンザウイルスは、孵化卵において連続継代によって生成され得るか、および/または細胞培地において生成され得、その技術は上記の「組成物およびワクチン」という標題のセクションに記載される。
【0146】
本発明の方法に従う使用のためのインフルエンザウイルスのγ線照射は、当該分野において公知の方法によって実施され得る。インフルエンザウイルスのγ線照射のための適切な方法の例は、上記の「組成物およびワクチン」という標題のセクションに提供される。
【0147】
好ましくは、被験体はヒトであり、投与されるγ線を照射したインフルエンザはヒトに感染することが知られているインフルエンザサブタイプを含む。あるいは、投与されるγ線を照射したインフルエンザウイルスは、ヒトに感染することが知られていないインフルエンザサブタイプを含んでもよい。投与は鼻腔内投与であり得る。γ線を照射したインフルエンザウイルスは凍結乾燥形態で調製され得る(以下の「投与経路」という標題の段落を参照のこと)。被験体に投与されるγ線を照射したインフルエンザウイルスは、上記の「組成物およびワクチン」という標題のセクションに記載される接線/クロスフロー濾過によって精製されたウイルスストックから調製されてもよい。被験体に投与されるγ線を照射したインフルエンザウイルスを調製するために使用されるウイルスストックは、γ線を照射している間、凍結されていてもよい(上記の「組成物およびワクチン」という標題のセクションを参照のこと)。
【0148】
本発明の方法によれば、γ線を照射したインフルエンザウイルスの被験体への投与は、通常、被験体におけるインフルエンザウイルスに対する免疫反応を誘発および/または向上させる。本発明の一実施形態において、免疫反応は、インフルエンザウイルスに以前に曝露されていない、免疫学的に感作されていない患者において誘発されてもよい。
【0149】
本発明の別の実施形態において、免疫反応は、特定のγ線を照射したインフルエンザウイルスサブタイプに以前に曝露されていない(または特定のγ線を照射したインフルエンザウイルスサブタイプに反応しなかった)、免疫学的に感作されていない患者において誘発されてもよい。その免疫反応は投与された株から生じる。さらに、または代替的に、免疫反応は、投与される特定のγ線を照射したインフルエンザウイルスに以前に曝露されていない(または投与される特定のγ線を照射したインフルエンザウイルスに反応しなかった)、免疫学的に感作されていない患者において誘発されてもよい。
【0150】
本発明の別の実施形態において、免疫反応は、投与される特定のγ線を照射したインフルエンザウイルス株に以前に曝露され、かつ、免疫反応を生じている被験体において向上され得る。さらに、または代替的に、免疫反応は、特定のγ線を照射したインフルエンザウイルスサブタイプ(投与される株はそのγ線を照射したインフルエンザウイルスサブタイプ由来である)に以前に曝露され、かつ、免疫反応を生じている被験体において向上され得る。
【0151】
好ましくは、被験体において誘発および/または向上される免疫反応は、交差反応免疫反応である。従って、本発明の好ましい実施形態において、γ線を照射したインフルエンザウイルスの特定のサブタイプの投与は、他のさらなるインフルエンザウイルスサブタイプに対する免疫反応を誘発および/または向上させる。好ましい実施形態において、現在蔓延しているヒトインフルエンザAサブタイプ由来の1つ以上のγ線を照射した株の調製物の投与は、トリインフルエンザサブタイプH5N1(例えばHPAI A(H5N1))および/またはH1N1(例えばH1N1 09ブタインフルエンザ)に対する免疫反応を誘発および/または向上させる。
【0152】
本発明の方法は、複数のインフルエンザウイルス株に特異的な被験体におけるT細胞反応を誘発および/または向上させるために使用されてもよい。好ましくは、株は、インフルエンザウイルスの複数の異なるサブタイプ由来である。通常、T細胞免疫反応の誘発および/または向上は、CD4+T細胞および/またはCD8+T細胞の活性の向上に関与し得る。T細胞は、ヘルパーT細胞(例えばヘルパーCD4+T細胞)または細胞障害性T細胞(例えば細胞障害性CD4+T細胞、細胞障害性CD8+T細胞)であり得る。
【0153】
被験体におけるT細胞免疫反応の誘発および/または向上は、当該分野において公知の方法を用いて検出され得る。例えば、多数のインフルエンザウイルスに特異的なT細胞は、T細胞免疫反応が向上されているか、または誘発されているという指標を与えるように測定できる。ウイルス特異的CD4+T細胞およびCD8+T細胞の計数および特徴付けの方法ならびに技術は、当該分野において公知である。インフルエンザ特異的T細胞は、例えば、Vogtら,2008,「Transcutaneous anti−influenza vaccination promotes both CD4 and CD8 T cell immune response in humans」,J.Immunol.,180:1482−1489に概して記載される方法を用いて、ELISpotアッセイによって検出され得る。さらに、または代替的に、インフルエンザウイルス特異的T細胞は、インフルエンザウイルスおよび/またはそのインフルエンザウイルス由来のタンパク質抗原での抗原投与に対するCD4+T細胞および/またはCD8+T細胞反応の割合を測定することによって検出され得る。典型的に、反応T細胞は、例えば、細胞内サイトカイン染色アッセイ(例えば、Vogtら,前出およびLonghiら,2008,「Interleukin−6 Is Crucial for Recall of Influenza−Specific Memory CD4 T Cells」,PLoS Pathog.,4(2):e1000006を参照のこと)を用いて検出され得るインフルエンザウイルス抗原(例えばIL−2、IFN−γ、TNFαおよび/またはCD40L)に対する曝露に対して1つ以上の特異的サイトカインを分泌する。インフルエンザ特異的T細胞の検出に関する他の適切なアッセイの例としては、四量体ベースのアッセイ(例えば、Longhiら,前出およびFlynnら,1999,「In vivo proliferation of naive and memory influenza−specific CD8 T cells」PNAS,96(15):8597−8602)が挙げられる。
【0154】
さらに、または代替として、本発明の方法は、インフルエンザウイルスの複数の株に特異的な被験体における体液性免疫反応を誘発および/または向上させることができる。好ましくは、株は、インフルエンザウイルスの複数の異なるサブタイプ由来である。通常、体液性免疫反応の誘発および/または向上は、B細胞の活性の向上に関する。これは、インフルエンザウイルス抗原と遭遇する際に、抗体を分泌するプラズマ細胞に分化し得る高頻度の末梢血リンパ球によって反映され得る。従って、体液性免疫反応の誘発または向上は、循環しているインフルエンザウイルス特異的抗体(例えばIgAおよびIgG)の量の増加に関与し得る。インフルエンザ特異的抗体を検出するための方法は当該分野において公知である(例えば、Sasakiら,2007,「Comparison of the influenza virus−specific effector and memory B−cell responses to immunization of children and adults with live attenuated or inactivated influenza virus vaccines」,J Virol.2007;81:215−28およびCoxら,1994,「An early humoral immune response in peripheral blood following parenteral inactivated influenza vaccination」,Vaccine,12:993−999を参照のこと)。
【0155】
好ましい実施形態において、本明細書に記載される方法によるγ線を照射したインフルエンザウイルスの投与は、被験体におけるインフルエンザウイルスに対するT細胞免疫反応および/または体液性免疫反応を誘発ならびに/あるいは向上させる。特定の好ましい実施形態において、γ線を照射したヒトインフルエンザAウイルスの1つ以上の株の投与は、被験体におけるインフルエンザH5N1(例えばHPAI A(H5N1))および/またはH1N1(例えばH1N1 09ブタインフルエンザ)に対するT細胞免疫反応および/または体液性免疫反応を誘発ならびに/あるいは向上させる。γ線を照射したヒトインフルエンザAウイルスは鼻腔内に投与され得る。
【0156】
(交差反応/交差防御免疫)
現在のインフルエンザワクチンは、変異に起因して頻繁な抗原性変異を受ける高度に可変のウイルス表面糖タンパク質を標的とする。従って、他のインフルエンザウイルスサブタイプおよび/または新規に生じるサブタイプに対して防御がほとんどまたは全く与えられないため、それらの防御価値は著しく制限される。
【0157】
本発明は、内在性インフルエンザウイルスタンパク質に対する免疫反応を誘発および/または向上させることによって上記の不都合を克服する。これらのタンパク質は、全てのインフルエンザウイルスサブタイプの中で高度に保存され、変異に左右されない。従って、本発明は、被験体における複数のインフルエンザウイルスサブタイプに対する交差反応免疫を誘発および/または向上させる方法を提供する。その方法は、治療有効量のγ線を照射したインフルエンザウイルスを被験体に投与する工程を含む。交差反応免疫は、交差反応T細胞免疫の誘発および/または向上を生じ得る。さらに、または代替として、交差反応免疫は、被験体における交差反応体液性免疫の誘発および/または向上を生じ得る。
【0158】
好ましくは、被験体はヒトであり、投与されるγ線を照射したインフルエンザウイルスは、ヒトに感染することが知られているインフルエンザサブタイプを含む。代替的に、投与されるγ線を照射したインフルエンザウイルスは、ヒトに感染することが知られていないインフルエンザサブタイプを含んでもよい。
【0159】
一実施形態において、投与されるγ線を照射したインフルエンザウイルスは人畜共通のインフルエンザウイルス株を含む。
【0160】
投与は鼻腔内投与であり得る。好ましくは、交差防御免疫は、保存されたインフルエンザウイルス抗原に対して誘発および/または向上される。最も好ましくは、交差防御免疫は、抗原不連続変異および/または抗原連続変異を受けていない保存されたインフルエンザウイルス抗原、あるいは抗原不連続変異および/または抗原連続変異をごくわずかな程度受けているインフルエンザウイルス抗原に対して誘発および/または向上される。抗原不連続変異および/または抗原連続変異のごくわずかな程度は、通常、抗原を認識し、その抗原に反応する宿主免疫細胞の能力を変化させない抗原不連続変異および/または抗原連続変異の程度である。
【0161】
本発明の好ましい実施形態において、インフルエンザウイルスに対する免疫を含む交差反応免疫は、γ線を照射したインフルエンザウイルスの被験体への鼻腔内投与によって誘発または高められる。γ線を照射したインフルエンザウイルスは、凍結乾燥形態で調製され得る(下記の「投与経路」という標題のセクションを参照のこと)。被験体に投与されるγ線を照射したインフルエンザウイルスは、上記の「組成物およびワクチン」という標題のセクションに記載される接線/クロスフロー濾過によって精製されたウイルスストックから調製され得る。被験体に投与されるγ線を照射したインフルエンザウイルスを調製するために使用されるウイルスストックは、γ線を照射する間、凍結されていてもよい(上記の「組成物およびワクチン」という標題の段落を参照のこと)。
【0162】
本発明の好ましい実施形態において、交差反応免疫は、複数のインフルエンザウイルスサブタイプに特異的な交差反応CD8+T細胞の誘発(および/または活性の向上)を生じる。
【0163】
通常、交差反応免疫反応は、1つ以上の異なるインフルエンザウイルスサブタイプと同一または実質的に類似している1つ以上のインフルエンザウイルス抗原に関する。従って、交差反応免疫細胞は、複数のウイルスサブタイプによって共有される実質的に類似または同一のウイルス抗原を認識し、かつそれらに反応する。
【0164】
本明細書に記載される方法による、γ線を照射したインフルエンザウイルスの被験体への投与により、交差反応免疫細胞を生成することができる。交差反応免疫細胞は、被験体に投与されるインフルエンザウイルスサブタイプの株を認識し、かつそれらに反応できる。さらに、交差反応免疫細胞は、被験体に投与されなかった少なくとも1つの他のさらなるインフルエンザウイルスサブタイプの株を認識し、かつそれらに反応できる。
【0165】
本発明の方法による、被験体において誘発および/または向上させる交差反応免疫は交差反応細胞免疫を含んでもよい。交差反応細胞免疫は、例えば、交差反応ヘルパーT細胞反応および/または交差反応細胞障害性T細胞反応を含んでもよい。好ましくは、相互反応細胞免疫は、相互反応細胞障害性CD8+T細胞反応を含む。特定の機構によって束縛されずに、本発明の方法によって誘発および/または向上される相互反応T細胞免疫は、γ線照射を与えられたウイルス表面タンパク質の機能的ドメイン(例えば機能的受容体および融合ドメイン)の保存された完全性に起因して、γ線を照射したインフルエンザウイルスの抗原提示細胞への効果的な取り込みを生じ得ると考えられる。次いで、これは、十分なウイルス抗原を与えるウイルス粒子(例えば基質および核タンパク質)の、抗原提示細胞の細胞質へのより効果的な取り込みおよび脱殻、ならびに主要組織適合性(MHC)タンパク質に対するウイルス抗原の効果的な提示を可能にする。さらに、または代替として、断片化したゲノムインフルエンザウイルスRNAの不成功の複製/翻訳は、MHC提示に対して主要源のウイルス抗原(すなわち時期尚早に終結および/またはミスフォールドした遺伝子産物を含む不完全なリボソーム産物)を提供することを生じ得るので、ウイルス特異的T細胞免疫を刺激する。
【0166】
交差反応細胞免疫の誘発および/または向上は、当該分野において公知の方法を用いて検出できる。例えば、交差反応T細胞(例えばヘルパーT細胞および細胞障害性T細胞)は、ELISpotアッセイ、細胞内サイトカイン染色アッセイおよび四量体ベースのアッセイ(上記)を含む、ウイルス特異的T細胞を検出するのに利用される一般的な方法を用いて検出または定量化され得る。
【0167】
被験体において誘発および/または向上される交差反応免疫は、交差反応体液性免疫を含み得る。交差反応体液性免疫は、通常、交差反応B細胞応答に関与する。次いで、これにより、被験体の循環において多数の交差反応インフルエンザウイルス特異的抗体(例えばIgAおよびIgG)が生じ得る。通常、交差反応抗体は、その抗体の産生を刺激しなかったインフルエンザウイルス抗原と反応および/または結合する能力を有する。交差反応B細胞およびそれら由来の抗体は、当該分野において公知の方法を用いて(例えばマイクロ中和アッセイ、フローサイトメトリーまたは免疫組織化学によって)検出できる。交差反応インフルエンザウイルス特異的抗体を検出するための適切な技術の特定の例は、例えば、Rotaら,1987「Comparison of the immune response to variant influenza type B hemagglutinins expressed in vaccinia virus」,Virology,161:269−75,およびHarmonら,1988,「Antibody Response in Humans to Influenza Virus Type B Host−Cell−Derived Variants after Vaccination with Standard(Egg−Derived)Vaccine or Natural Infection」,J.Clin.Microbiol.,26:333−337に記載されている。
【0168】
本発明の方法によれば、所定のインフルエンザウイルスサブタイプ由来のγ線を照射した株の投与によって誘発および/または向上される交差反応免疫は、投与されたサブタイプの株に対して交差防御を与える。好ましくは、所定のインフルエンザウイルスサブタイプ由来のγ線を照射した株の投与はまた、少なくとも1つのさらなるインフルエンザウイルスサブタイプ由来の株に対して交差防御を与える。
【0169】
従って、ヒトに感染することが知られている1つのインフルエンザAウイルスサブタイプ由来の治療有効量の所定のγ線を照射した株のヒト被験体への投与は、そのサブタイプ由来の株ならびに少なくとも1つの他のさらなるインフルエンザウイルスサブタイプ由来の株に対する免疫反応を誘発および/または向上させる。さらなるウイルスサブタイプは、インフルエンザAウイルスサブタイプ、インフルエンザBウイルスサブタイプおよび/またはインフルエンザCウイルスサブタイプであってもよい。さらなるインフルエンザウイルスサブタイプは、例えば、ヒト集団に見出される別個のインフルエンザAサブタイプ(例えば、H1N1(H1N1 09ブタインフルエンザを含む))であってもよい。さらに、または代替的に、さらなるインフルエンザウイルスサブタイプは、他の種において一般に見出され得る。例えば、さらなるインフルエンザウイルスサブタイプは、一般に、トリ(例えばAサブタイプH5N1(例えばHPAI A(H5N1))、H7N2、H7N3、H7N7およびH9N2)、ブタ(例えばAサブタイプH1N1、H1N2、H3N1、H3N2)、イヌ(例えばAサブタイプH3N8)またはウマ(例えばAサブタイプH3N8、H7N7)集団に見出され得る。さらなるインフルエンザウイルスサブタイプはまた、サブタイプ間の遺伝子組み換え型由来の組み換えウイルス株であり得る。サブタイプは、(すなわち感染している)異なる種由来であり得る。
【0170】
インフルエンザイウイルスにおける抗原不連続変異および/または抗原連続変異は、インフルエンザ大流行の知られている原因である。本明細書に記載される方法に従って、γ線を照射したインフルエンザウイルスの投与によって誘発および/または向上された交差反応免疫は、ワクチン接種によってそのような大流行を予防する有効な手段を提供する。さらに、または代替的に、大流行の間にインフルエンザに感染した個体が、本明細書に記載される方法に従って、γ線を照射したインフルエンザウイルスで治療されてもよい。
【0171】
特定の実施形態において、γ線を照射したインフルエンザウイルスの投与によって誘発または向上される交差反応免疫は、人畜共通のインフルエンザウイルス株に対する免疫を含む。
【0172】
本発明の好ましい実施形態において、γ線を照射したインフルエンザウイルスの投与によって誘発または向上される交差反応免疫は、(トリ)インフルエンザAウイルスサブタイプH5N1(例えばHPAI A(H5N1))に対する免疫を含む。現在のヒトインフルエンザAウイルスは、主に、上気道で発現されるα2,6結合型シアル酸受容体に結合する。α2,6結合型受容体に対する結合は、通常、低い毒性の高い感染性インフルエンザウイルス感染に関連する。対照的に、トリインフルエンザH5N1は、下気道において発現されるα2,3結合型受容体に結合する。α2,3結合型受容体に対する結合は、通常、低い感染性であるが、高い毒性および致死性のインフルエンザウイルス感染に関連する。従って、トリH5N1インフルエンザパンデミックは、ウイルスがα2,6結合型受容体に結合できるH5N1の血球凝集素(HA)タンパク質における変異に関連すると予想される。現在流行しているH5N1サブタイプタンパク質(すなわちα2,3結合型受容体)に対して向けられるワクチンは、α2,6結合型受容体に結合できるH5N1ウイルス変異に対する免疫を誘発できない。従って、そのようなワクチンによる抗体媒介性防御は、起こり得るトリインフルエンザパンデミックに対して本質的に効果がない。
【0173】
ヒトインフルエンザAウイルスに対して向けられるT細胞集団によるトリH5N1インフルエンザウイルス(例えばHPAI A(H5N1))の交差認識は、上記の問題を克服する手段を表す。本発明の方法によれば、γ線を照射したインフルエンザウイルスの被験体への投与は、トリH5N1インフルエンザウイルス(例えばHPAI A(H5N1))に対して、被験体における交差防御免疫を誘発および/または向上させる。被験体に投与されるγ線を照射したインフルエンザウイルスは、γ線を照射したトリH5N1インフルエンザウイルスを含んでもよいか、または含まなくてもよい。好ましくは、被験体はヒトであり、投与されるγ線を照射したインフルエンザウイルスは、ヒトに感染することが知られているインフルエンザAサブタイプを含む。投与は鼻腔内投与であり得る。好ましくは、交差防御免疫は、限定されないが、HPAI A(H5N1)ウイルス抗原を含む、保存されたトリH5N1インフルエンザウイルス抗原に対して誘発および/または向上される。最も好ましくは、交差防御免疫は、抗原不連続変異および/または抗原連続変異を受けない保存されたトリH5N1 インフルエンザウイルス抗原、あるいはわずかな程度の抗原不連続変異および/または抗原連続変異を受けるトリH5N1インフルエンザウイルス抗原に対して誘発および/または向上される。わずかな程度の抗原不連続変異および/または抗原連続変異は、通常、抗原を認識し、その抗原に反応する宿主免疫細胞の能力を変化させない程度の抗原不連続変異および/または抗原連続変異である。
【0174】
本発明の好ましい実施形態において、(トリ)インフルエンザウイルスサブタイプH5N1(例えばHPAI A(H5N1))に対する免疫を含む交差反応免疫は、γ線を照射したインフルエンザウイルスの被験体への鼻腔内投与によって誘発または向上される。γ線を照射したインフルエンザウイルスは、凍結乾燥形態で調製され得る(下記の「投与経路」という標題のセクションを参照のこと)。投与されるγ線を照射したインフルエンザウイルスは、ヒト集団由来のインフルエンザAウイルスサブタイプを含んでもよい。代替的に、投与されるγ線を照射したインフルエンザウイルスは、ヒトに感染することが知られていないインフルエンザサブタイプを含んでもよい。被験体に投与されるγ線を照射したインフルエンザウイルスは、上記の「組成物およびワクチン」という標題のセクションに記載される接線/クロスフロー濾過によって精製されたウイルスストックから調製され得る。被験体に投与されるγ線を照射したインフルエンザウイルスを調製するために使用されるウイルスストックは、γ線照射の間に凍結されていてもよい(上記の「組成物およびワクチン」という標題の段落に記載される)。
【0175】
本発明の別の好ましい実施形態において、γ線を照射したインフルエンザウイルスの投与によって誘発または向上される交差反応免疫は、H1N1 09ブタインフルエンザウイルス(その他に、世界保健機構によって「パンデミックインフルエンザA(H1N1)」と称される)に対する免疫を含む。被験体に投与されるγ線を照射したインフルエンザウイルスは、γ線を照射したH1N1 09ブタインフルエンザウイルスを含んでもよいか、または含まなくてもよい。投与されるγ線を照射したインフルエンザウイルスは、ヒトに感染することが知られているインフルエンザAサブタイプを含んでもよい。代替的に、投与されるγ線を照射したインフルエンザウイルスは、ヒトに感染することが知られていないインフルエンザサブタイプを含んでもよい。投与は鼻腔内投与であり得る。好ましくは、交差防御免疫は、保存されたH1N1 09ブタインフルエンザウイルス抗原に対して誘発および/または向上される。最も好ましくは、交差防御免疫は、抗原不連続変異および/または抗原連続変異を受けていない保存されたH1N1 09ブタインフルエンザウイルス抗原、あるいはわずかな程度の抗原不連続変異および/または抗原連続変異を受けているH1N1 09ブタインフルエンザウイルス抗原に対して誘発および/または向上される。わずかな程度の抗原不連続変異および/または抗原連続変異は、通常、抗原を認識、その抗原に反応する宿主免疫細胞の能力を変化させない程度の抗原不連続変異および/または抗原連続変異である。
【0176】
本発明の好ましい実施形態において、H1N1 09ブタインフルエンザウイルスに対する免疫を含む交差反応免疫は、γ線を照射したインフルエンザウイルスの被験体への鼻腔内投与によって誘発または向上される。γ線を照射したインフルエンザウイルスは、凍結乾燥形態で調製され得る(下記の「投与経路」という標題のセクションを参照のこと)。投与されるγ線を照射したインフルエンザウイルスは、ヒト集団由来のインフルエンザAウイルスサブタイプであってもよい。被験体に投与されるγ線を照射したインフルエンザウイルスは、上記の「組成物およびワクチン」という標題のセクションに記載される接線/クロスフロー濾過によって精製されたウイルスストックから調製され得る。被験体に投与されるγ線を照射したインフルエンザウイルスを調製するために使用されるウイルスストックは、γ線照射の間に凍結されていてもよい(上記の「組成物およびワクチン」という標題のセクションを参照のこと)。
【0177】
(用量)
本発明の方法に従って使用するためのγ線を照射したインフルエンザウイルス(またはγ線を照射したインフルエンザウイルスを含む組成物/ワクチン)の適切な用量は、種々の要因に依存する。そのような要因としては、限定されないが、被験体の身体的特徴(例えば年齢、体重、性別)、化合物が単一の薬剤または補助的治療として使用されるかどうか、患者のMHC制限のタイプ、インフルエンザ感染の進行(すなわち病理学的状態)、および当業者によって認識され得る他の要因が挙げられる。一般に、γ線を照射したインフルエンザウイルス調製物(またはγ線を照射したインフルエンザウイルス調製物を含む組成物/ワクチン)は、約50マイクログラム〜約5mgの量で患者に投与され得;約50マイクログラム〜約500マイクログラムの用量が特に好ましい。
【0178】
当業者は、慣例の実験によって、適用可能なインフルエンザウイルス感染を治療するのに必要とされるγ線を照射したインフルエンザウイルス(またはγ線を照射したインフルエンザウイルスを含む組成物/ワクチン)の有効な非毒性の量を決定できる。
【0179】
一般に、有効な用量は、24時間につき体重1kg当たり約0.0001mg〜約1000mg、典型的には、24時間につき体重1kg当たり約0.001mg〜約750mg;24時間につき体重1kg当たり約0.01mg〜約500mg;24時間につき体重1kg当たり約0.1mg〜約500mg;24時間につき体重1kg当たり約0.1mg〜約250mg;24時間につき体重1kg当たり約1.0mg〜約250mgの範囲であると予想される。より典型的には、有効な用量範囲は、24時間につき体重1kg当たり約1.0mg〜約200mg;24時間につき体重1kg当たり約1.0mg〜約100mg;24時間につき体重1kg当たり約1.0mg〜約50mg;24時間につき体重1kg当たり約1.0mg〜約25mg;24時間につき体重1kg当たり約5.0mg〜約50mg;24時間につき体重1kg当たり約5.0mg〜約20mg;24時間につき体重1kg当たり約5.0mg〜約15mgの範囲であると予想される。
【0180】
代替的に、有効な用量は約500mg/mまでであり得る。一般に、有効な用量は、約25〜約500mg/m、好ましくは約25〜約350mg/m、より好ましくは約25〜約300mg/m、さらにより好ましくは約25〜約250mg/m、なおより好ましくは約50〜約250mg/m、さらになおより好ましくは約75〜約150mg/mの範囲であると予想される。
【0181】
典型的に、治療用途において、治療は疾患状態または症状の間、持続される。さらに、個々の用量の最適量および間隔は、治療される疾患状態または症状の性質および程度、投与の形態、経路および部位、ならびに治療される特定の個体の性質によって決定される。また、そのような最適条件は従来技術によって決定され得ることは当業者に明らかであろう。
【0182】
治療の最適過程は、治療決定試験の従来の過程を用いて確定され得ることは当業者に明らかであろう。
【0183】
2つ以上の治療的実体物が被験体に「併せて」投与され、それらは、同じ部位に単一の組成物で、または同じ時間に別個の組成物で、または間隔を置いた時間に別個の組成物で投与されてもよい。
【0184】
特定の実施形態において、本発明の方法は、複数回の別個の用量におけるγ線を照射したインフルエンザウイルス(またはγ線を照射したインフルエンザウイルスを含む組成物/ワクチン)の投与に関する。従って、本明細書に記載されるインフルエンザウイルス感染を予防(すなわちワクチン接種)および治療するための方法は、規定された期間にわたる、被験体に対する複数回の別個の用量の投与を含む。従って、本明細書に開示されるインフルエンザウイルス感染を予防(すなわちワクチン接種)および治療するための方法は、本発明のγ線を照射したインフルエンザウイルス(またはγ線を照射したインフルエンザウイルスを含む組成物/ワクチン)の一次用量を投与する工程を含む。一次投与の後に、追加投与が行われてもよい。追加投与は再ワクチン接種の目的であり得る。種々の実施形態において、組成物またはワクチンは、少なくとも1回、2回、3回またはそれ以上投与される。
【0185】
本発明のγ線を照射したインフルエンザウイルス(またはγ線を照射したインフルエンザウイルスを含む組成物/ワクチン)は、単一の薬剤治療として、または生ウイルス、弱毒化ウイルスもしくは殺傷ウイルスの接種などの規定された治療あるいはインフルエンザウイルスを治療するために当該分野において公知の任意の他の治療に加えて投与されてもよい。例えば、それらは、サブユニットワクチン、分裂したインフルエンザウイルスまたは分裂したインフルエンザウイルス抗原調製物、不活性化された完全ウイルスまたは生きて弱毒化されたインフルエンザ調製物とともに投与されてもよい。
【0186】
(投与経路)
本発明は、治療有効量のγ線を照射したインフルエンザウイルス(またはγ線を照射したインフルエンザウイルスを含む組成物/ワクチン)の被験体への投与を意図する。γ線を照射したインフルエンザウイルス(または組成物/ワクチン)は、薬理学的に許容可能な担体、補助剤または賦形剤とともに投与されてもよい。
【0187】
投与は、限定されないが、非経口(例えば静脈内、皮内、皮下または筋肉内)、粘膜(例えば経口または鼻腔内)あるいは局所経路(上記の「組成物およびワクチン」という標題のセクションを参照のこと)を含む、任意の適切な経路によって実施され得る。
【0188】
従って、γ線を照射したインフルエンザウイルス(またはそれらを含む組成物/ワクチン)は、処方物の形態において、注射による投与に適切な形態において、経口接種(例えば、カプセル剤、錠剤、カプレットエリキシル剤など)に適切な処方物の形態において、局所投与に適切な軟膏、クリームまたはローションの形態において、点眼剤としての送達に適切な形態において、鼻腔内吸入または経口吸入などの吸入による投与に適切なエアロゾル形態において、非経口投与(つまり皮下、筋肉内または静脈内注射)に適切な形態において、投与されてもよい。
【0189】
好ましい実施形態において、γ線を照射したインフルエンザウイルス(またはγ線を照射したインフルエンザウイルスを含む組成物/ワクチン)は、鼻腔内経路によって被験体に投与される。γ線を照射したインフルエンザウイルス(またはそれらを含む組成物/ワクチン)の被験体への鼻腔内投与は、他の投与経路より利点を提供する。例えば、鼻腔内投与は、血清IgGより効果的に交差防御を導く、粘膜上皮において分泌性のIgA産物を誘発する。特定の機構に束縛されずに、γ線照射によるインフルエンザウイルスの不活性化は、ウイルス粒子の抗原構造に影響を与えずに、ウイルスゲノムの鎖切断を引き起こすことによってウイルスを不活性化させると考えられる。従って、γ線を照射したインフルエンザウイルスと鼻腔内投与との組み合わせは、限定されないが、以下を含むいくつかの利点を提供すると考えられる:1)組織特異的受容体に対する不活性化されたウイルスの結合を促進すること、2)組織特異的免疫反応の誘発を可能にすること、3)完全ウイルス抗原に対する全身曝露を減少させること、および4)完全ウイルスワクチンに関連する副作用を制限すること。
【0190】
一実施形態において、鼻腔内投与のためのγ線を照射したインフルエンザウイルスは、使用直前に再構成できる凍結乾燥された粉末形態で提供される。本発明のワクチンおよび組成物の粉末ワクチン製剤は、液体ベースのワクチンの安定性および送達に関連する冷蔵保存および分配の要求を克服する手段を提供する。乾燥粉末製剤は、より安定であり、また微生物の増殖を支持しないという利点を提供する。
【0191】
本明細書で実証されるように、γ線を照射して不活性化されたインフルエンザウイルスの凍結乾燥製剤は、凍結乾燥していない製剤と同様のレベルの異種サブタイプ免疫を誘発する。γ線を照射したインフルエンザウイルスは、当該分野において公知の任意の適切な技術を用いて凍結乾燥されてもよい。例えば、γ線を照射して不活性化されたインフルエンザウイルスの液体調製物は、ドライアイス−イソプロパノールスラリーで凍結されてもよく、適切な時間(例えば24時間)、フリーズドライヤー(例えばVitris Model 10−324 Bench,Gardiner,NY)で凍結乾燥されてもよい。
【0192】
一実施形態において、γ線を照射したインフルエンザウイルスの乾燥粉末経鼻ワクチン処方物は、噴霧凍結乾燥(SFD)粒子を生成することによって産生される(例えば、Costantinoら,(2002),「Protein spray freeze drying.2.Effect of formulation variables on particle size and stability」,J Pharm Sci.,91:388−395;Costantinoら,(2000),「Protein spray−freeze drying.Effect of atomization conditions on particle size and stablity」,Pharm Res.,17:1374−1383;Maaら,(1999),「Protein inhalation powders:spray drying vs spray freeze drying」,Pharm Res,16:249−254;Carrasquilloら,(2001);「Non−aqueous encapsulation of excipient−stabilized spray−freeze dried BSA into poly(lactide−co−glycolide) microspheres results in release of native protein」,J Control Release,76:199−208;Carrasquilloら,(2001),「Reduction of structural perturbations in bovine serum albumin by non−aqueous microencapsulation」,J Pharm Pharmacol.,53:115−120;および米国特許第6,569,458号を参照のこと)。例えば、γ線を照射したインフルエンザウイルスおよび10%の固形物(例えばトレハロース)を含有する水溶液は、液体窒素を含有するトレイに回収される窒素ガスおよび液滴を噴霧しながらスプレーを通過でき、次いでマニホルドフリーズドライヤーで凍結乾燥される。凍結乾燥された製剤は使用直前に再構成され得る。
【0193】
本発明の方法に従って使用するための経鼻投与は、例えば、点鼻剤、スプレーとしての液体形態、または粉末、クリームまたはエマルションとしての吸入に適切な形態で処方され得る。
【0194】
典型的に、γ線を照射したインフルエンザウイルス(またはそれを含む組成物/ワクチン)は、好ましくは肺に吸入されずに、鼻粘膜によって吸収するために鼻咽頭領域に投与される。本発明の方法による経鼻投与のための適切な装置としては噴霧装置が挙げられる。適切な市販の噴霧装置が使用されてもよい。γ線を照射したインフルエンザウイルス(またはそれを含む組成物/ワクチン)の少用量を含有する複数回投与送達装置が利用されてもよい。
【0195】
多くの変更および/または改変が、広範囲に記載される本発明の精神または範囲から逸脱せずに特定の実施形態において示される本発明に対してなされ得ることは当業者によって理解されるだろう。従って、本発明の実施形態はあらゆる点で例示とみなされ、限定とみなされるべきではない。
【実施例】
【0196】
本発明は、ここで、特定の実施例に対して参照とともに記載され、それらは、決して限定とみなされるべきではない。
【0197】
(実施例1:γ線を照射したインフルエンザAウイルスでのBALB/cマウスの静脈内ワクチン接種)
(i)材料および方法
同じ性別、かつ同様の年齢群(8〜12週齢)のBALB/cマウスを各実験に使用した。
【0198】
(ウイルスおよび免疫化)
インフルエンザウイルス株A/WSN(H1N1)、A/JAP(H2N2)およびA/PC(H3N2)を、Yapら,1977,「Cytotoxic T cells specific for influenza virus−infected target cells」,Immunology,32:151に記載されるように増殖させ、滴定した。ウイルス力価を血球凝集ユニット(HAU)として表した。A/JAPインフルエンザウイルスを、粗尿膜腔液をCo60線源(350rad/分にて60時間)からの1.26×10rad(12.6KGy)に曝露することによって、または透析された、感染性尿膜腔液を10分間紫外線(320μW/cm)に曝露することのいずれかによって不活性化させた。これらの時間のγ線または紫外線への曝露により、孵化卵において試験した場合、完全に感染性が破壊された。動物を10HAUの単一の静脈内注射によって免疫化した。
【0199】
(標的細胞)
P815チオグルコール酸誘導腹腔マクロファージ(TGM)、コンカナバリンA(con−A)およびリポ多糖(LPS)誘導リンパ芽球を、Yapら,1977,「Cytotoxic T cells specific for influenza virus−infected target cells」,Immunology,32:151,ならびにParishおよびMuellbacher,1983,「Automated colorimetric assay for T cell cytotoxicity」,J.Immunol Meth.,58:225−237に記載されるように、獲得し、調製し、感染させた。
【0200】
(エフェクター細胞の生成)
インビボにおいてインフルエンザ免疫Tc細胞を二次的に生成するためのメモリー培養物を、Muellbacher,1984,「Hyperthermia and the generation and activity of murine influenza−immune cytotoxic T cells in vitro」,J.Virol.,52,928−913に記載される方法を用いて生成した。つまり、3ヶ月前にインフルエンザウイルスで免疫化したマウス由来の8×10の脾臓細胞を、インビトロにおいて5日間、1×10のウイルス感染性刺激細胞とともに共培養した。刺激細胞を、10細胞あたり約10HAUの感染の多重度にて感染性ウイルスまたは不活性化されたウイルスで感染させた。
【0201】
(細胞障害性アッセイ)
腫瘍細胞およびマクロファージ標的物に関して使用される方法は、Yapら,1977,「Cytotoxic T cells specific for influenza virus−infected target cells」,Immunology,32:151,Parish and Muellbacher,1983,「Automated colorimetric assay for T cell cytotoxicity」,J.Immunol Meth.,58:225−237,およびMuellbacher,1984,「Hyperthermia ant the generation and activity of murine influenza−immune cytotoxic T cells in vitro」,J.Virol.,52,928−931に詳細に記載されている。アッセイの時間は6時間であった。特異的溶解の割合を以下の式を用いて算出した。
【数1】

【0202】
(ii)結果
(メモリーTc細胞についての感染性インフルエンザウイルスまたは不活性化されたインフルエンザウイルスでのBALB/cマウスの初回抗原刺激)
BALB/cマウスに、10HAUの感染性の、γ線または紫外線で不活性化されたA/JAPウイルスのいずれかを注入した。3ヶ月後、脾臓を除去し、細胞を、インビトロにおいて感染性のA/JAPにより感染させた刺激脾臓細胞で追加免疫し、Tc細胞応答を、3つのエフェクター:標的細胞の割合にて5日後に測定した。表1は、感染したP815標的細胞の特異的溶解の割合の代表的なデータを示す。明らかに、TC細胞について抗原刺激した感染ウイルスは、γ線または紫外線を照射したウイルスより効果的に反応するが、γ線を照射したウイルスは、紫外線を照射したウイルスによる非常に弱い反応と比較して、全ての3つの感染した標的細胞(A/WSN、A/JAPおよびA/PC)を用いて実質的な溶解を与えた。限界希釈条件下で、前駆体頻度解析から、感染性ウイルスで抗原刺激した動物は、γ線を照射したウイルスで抗原刺激した動物より、脾臓において約3倍高い測定値のTc細胞前駆体頻度を与えた。これは、バルク培養で得た溶解の値と一致している(表1)。
【0203】
表1.感染性の、γ線または紫外線を照射したA/JAPウイルスで以前に免疫化したマウス由来の脾臓細胞の感染性A/JAPウイルスでのインビトロにおける二次刺激
【0204】
【表1】

【0205】
示される特異的溶解の割合についての値は、感染されていないP815細胞上のエフェクター細胞による溶解の値を減ずることによって得た。3連のサンプルの標準誤差は常に、8%未満であり、通常4%未満であった。自然の51Cr放出は16〜19%の範囲であった。
【0206】
(メモリーインフルエンザ免疫Tc細胞を追加免疫する不活性化されたウイルスの能力)
3ヶ月前に感染性A/JAPウイルス(10HAU)で抗原刺激したマウスの脾臓細胞を、感染性ウイルスのγ線または紫外線を照射したウイルスのいずれかを用いて、A/JAP処置した刺激細胞でインビトロにおいて追加免疫し、Tc細胞活性アッセイ実施した。表2に示す結果は、全ての3つのウイルスが、交差反応Tcメモリー細胞を再刺激できるが、γ線を照射したウイルスは紫外線を照射したウイルスより優れていることを実証する。紫外線を照射したウイルスで追加免疫した細胞は、同種ウイルスで感染した標的細胞でのみ有意な溶解を与えた。
【0207】
表2.感染性A/JAPウイルスで以前に免疫化したマウス由来の脾臓細胞の感染性または不活性化されたA/JAPウイルスでのインビトロにおける二次刺激
【0208】
【表2】

【0209】
示される特異的溶解の割合についての値は、感染されていないP815細胞上のエフェクター細胞による溶解の値を減ずることによって得た。3連のサンプルの標準誤差は常に、8%未満であり、通常4%未満であった。自然の51Cr放出は8〜10%の範囲であった。
【0210】
(感染性および不活性化されたA/JAPウイルスでの標的細胞の感作)
不活性化されたインフルエンザウイルスが標的細胞を感作できるか否かを決定するために、P815腫瘍細胞、TGM、およびLPSならびにcon−Aリンパ芽球を、2時間、10細胞あたり10HAU(2×10細胞/ml)にて感染性、γ線または紫外線を照射したウイルスのいずれかで処理した。次いで、これらの標的物を、インビトロにおける二次的インフルエンザ免疫Tc細胞による特異的溶解について試験した(表3)。感染ウイルスのみが、標的物(特にP815およびTGM)を感作して、感染されていないコントロール標的物より有用な溶解を示した。
【0211】
表3.二次インフルエンザ免疫Tc細胞によって試験した場合の感染性A/JAPウイルスおよび不活性化されたA/JAPウイルスによる標的細胞の感作
【0212】
【表3】

【0213】
示される特異的溶解の割合についての値は、感染されていないP815細胞上のエフェクター細胞による溶解の値を減ずることによって得た。3連のサンプルの標準誤差は常に、8%未満であり、通常4%未満であった。自然の51Cr放出は:P815について10〜12%、TGMについて13〜17%、LPSについて37〜40%およびcon−A芽球について22〜25%の範囲であった。
【0214】
(不活性化されたウイルスでの致死性インフルエンザウイルスからの防御)
このような不活性化されたウイルス調製物で免疫化されたマウスが、致死性インフルエンザウイルス感染に対して防御されるか否かを調べるために、マウスを、同じまたは異なるサブタイプの生インフルエンザウイルスの致死用量を抗原投与する4〜5週間前に、感染性、γ線または紫外線を照射したA/JAPウイルスで抗原刺激した。2つの実験のうちの1つからの結果を表4に示す。3つのウイルスのいずれかで抗原刺激したマウスは、同種A/JAPおよび異種A/WSNウイルスによる抗原投与で生存したが、紫外線照射したウイルスで抗原刺激し、A/WSNで抗原投与したマウスは病気になり、1匹が死んだ。観察された主な相違はA/PCウイルスであった。紫外線を照射したウイルスで抗原刺激したマウスは、抗原刺激していない動物と同じほど感染しやすいが、γ線を照射したウイルスで抗原刺激したマウスは、感染ウイルスで抗原刺激したマウスと少なくとも同じくらい、抗原投与で生存した。感染性ウイルスまたはγ線を照射したウイルスのいずれかで抗原刺激した動物由来の免疫血清の移入が、A/WSNで感染された動物でなく、同種A/JAPウイルスで感染された動物の肺におけるウイルス力価を著しく減少させたので、抗体は、観察された交差防御に関与しないように見える。
【0215】
表4.致死用量の感染性A/WSN(H1N1)、A/JAP(H2N2)またはA/PC(H3N2)での後の抗原投与後の生存に対する、感染性、γ線または紫外線を照射したA/JAPでのマウスの予備免疫の効果
【0216】
【表4】

【0217】
以前の実験は、抗原刺激したマウスが常に、同種ウイルスによる抗原投与に耐性を示した。BALB/cマウスに、10HAUの感染性A/JAPウイルス、紫外線照射したA/JAPウイルスまたはγ線照射したA/JAPウイルスを静脈内(i.v.)注射したか、あるいは何も注射しなかった。8週間後、マウスの群(1群あたり8匹のマウス)に、致死用量のA/WSN(10のEID50)、A/JAP(3×10のEID50)またはA/PC(1.5×10のEID50)を鼻腔内接種した。マウスの死を、上記の得られた結果を用いて、20日間記録した。
【0218】
これらの結果は、γ線で不活性化されたウイルスが、感染性ウイルスと少なくとも同じくらい異種A株のウイルスによる感染に対して動物を防御することを示す。他方で、紫外線で不活性化されたウイルスは、より離れた関係にあるウイルスA/PC(H3N2)に対してこの防御を与えなかった。γ線照射が、ウイルス感染を破壊する際に交差反応Tc細胞について抗原刺激をする能力を保有するという点で、紫外線照射より効果的であるという発見は、γ線照射が、紫外線照射より少なくとも一部の内在性タンパク質の抗原構造にほとんど損傷を与えないことを示唆する。驚くべきことに、以前に、ウイルスまたはタンパク質に対するγ線照射の効果について公開された研究はほとんどない。感染性ウイルスと対照的に、γ線を照射したウイルスまたは紫外線を照射したウイルスのいずれも、ウイルス特異的Tc細胞による溶解を促進する標的細胞(活性化されたマクロファージ、リンパ芽球またはP815細胞)を感作できなかった。しかしながら、主に、静脈内注射後の照射ウイルスの抗原提示に関与する細胞が、活性化されたマクロファージまたはリンパ球のものと異なる特性を有し得ることは可能である。
【0219】
(実施例2:γ線を照射したインフルエンザA株、A/WSN[H1N1]、A/PR8[H1N1]、A/JAP[H2N2]およびA/PC[H3N2]での静脈内ワクチン接種)
(i)材料および方法
(動物およびウイルス)
インフルエンザAウイルス(株、A/WSN、A/Pr8[H1N1];A/JAP[H2N2];A/PC[H3N2])を、10日の孵化卵中で調製した。ウイルスストックを尿膜腔液から調製し、−70℃にてアリコート中に保存した。最初に、BALB/cおよびC57B1/6マウスを鼻腔内で感染させ、インフルエンザ感染の重症度を、致死率、体重損失、肺組織構造および肺浸潤の点で評価した。
【0220】
(インフルエンザ株のγ線照射)
凍結し、室温に維持したウイルスストックのγ線量反応研究を、最適免疫原性を有する滅菌ウイルス調製物を与える条件を規定するためにANSTO/Lucas Heights/NSWで行った。5×10rad(5KGy)の線量が、孵化卵中に残っている感染性ウイルスの増幅後に血球凝集(HA)アッセイによって決定された無菌を誘発するのに十分であった。完全なウイルス粒子の不活性化を守るために、1×10rad(10KGy)の線量のγ線を、γ−flu(γ線を照射したインフルエンザ)調製物について選択し、その調製物を、感染性インフルエンザで抗原投与する前に、マウスにワクチン接種するために使用した。ウイルスストックを、照射プロセスの間にわたってドライアイス上に維持した。
【0221】
(静脈内ワクチン接種および鼻腔内抗原投与)
8匹のBALB/cマウスの群を、致死量のA/JAPで鼻腔内に抗原投与する前に、4週間離して2回、静脈内にγ−fluでワクチン接種した。γ−A/WSN(6×10血球凝集ユニット(HAU)/マウス)、γ−A/PC(6×10 HAU/マウス)、およびγ−A/JAP(3×10 HAU/マウス)を静脈内に注射した。γ−fluの第2回の投与の4週間後に、マウスをA/JAP(50HAU/マウス)で抗原投与し、それらを20日間モニターした。
【0222】
(免疫組織化学)
肺を、1週間、10%の中性緩衝化ホルマリンに固定し、パラフィンに包埋した。組織形態の実験のために、4ミクロンの断片をヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した。
【0223】
(肺からのリンパ球単離およびFACS解析)
CD8+T細胞の組織浸潤に対するγ−fluでのワクチン接種の効果を評価するために、模擬およびワクチン接種したマウスからの肺を、インフルエンザウイルスでの抗原投与後6日に5%FCSを含有する氷冷MEMに収集した。振盪しながら37℃にて30分間、MEM/5%FCS中の1型コラゲナーゼ(Gibco−Life Technologies)で消化し、100μmのメッシュ組織篩を通して穏やかに押下することによってホモジナイズした。次いで、ホモジネートを、10分間、400×gにて遠心分離し、ペレットを、MEM/5%FCS中の2mLの90%Percoll(Sigma−Aldrich)に再懸濁した。懸濁液を15mLのチューブに移し、MEM中の60、40および10%のPercollで穏やかに覆った。勾配を、800×gにて45分間、遠心分離した。リンパ球を40〜60%の界面から回収し、MEM/5%FCSで2回洗浄した。A/ESNで感染(模擬およびワクチン接種の両方)したマウスの肺から新たなに単離されたリンパ球上の細胞表面マーカーの発現を、CD8(PharMingen)に特異的なAbで染色することによって測定した。単一のマウス由来の細胞を、100μLの氷冷MEM/5%FCSに懸濁し、4℃にて15分間、Fc Block(PharMingen)とともにインキュベートした。細胞を洗浄し、暗所で4℃にて30分間、関連Abとともにインキュベートし、次いで2回洗浄し、2%w/vパラホルムアルデヒドで固定し、FACScan(Becton Dickinson)を用いて解析するまで暗所で4℃にて保存した。
【0224】
(γ−fluによって誘発される交差反応CTL応答)
γ−fluが交差反応Tc細胞応答を誘発するか否かを試験するために、A/WSNおよびA/PCならびにそれらの対応するγ−flu調製物を、マウスを静脈内で感染またはワクチン接種するために使用した。10週齢のBALB/cマウスを、A/WSN、γ−A/WSN、A/PCおよびγ−A/Pcで感染またはワクチン接種のいずれかを行った。5日後、感染した動物、ワクチン接種した動物、模擬免疫化した動物由来の脾細胞を、模擬標的細胞、A/WSN感染標的細胞、A/PC感染標的細胞、および適切なKを限定した核タンパク質由来のペプチドで修飾した標的細胞(NPPで標識したP815標的)に対するそれらの殺傷活性について試験した。CTL反応を、Muellbacherら,1993,「Spontaneous mutation at position 114 in H−2Kd affects cytotoxic T cell responses to influenza virus infection」Eur.J.Immunol.29,1228−1234に記載されるCr51放出アッセイを用いて測定した。
【0225】
(統計)
全ての統計的解析を、GraphPad InStatソフトウェアを用いて実施した。One−Way−ANOVA検定を、体重損失の点で、ワクチン接種した群およびワクチン接種していない群の間の有意差についてMEANおよびSEMを比較するために使用した。
【0226】
(ii)結果
(静脈内γ−fluワクチン接種は、インフルエンザA/JAPでの致死量の抗原投与に対して防御する)
防御免疫を誘発するγ−flu調製物の能力を、γ−fluで抗原刺激したマウスに同種および異種のインフルエンザウイルスを抗原投与することによって試験した。マウスにおけるインフルエンザA/JAP(H2N2)での呼吸器感染は致死率と関連があり、LD50は、10週齢の雌のBALB/cマウスにおいて鼻腔内(i.n.)で50HAU/マウスである(表5)。
【0227】
表5.同種または異種インフルエンザA感染に対するγ−flu調製物の防御効果
【0228】
【表5】

【0229】
8匹のBALB/cマウスの群を、致死量のA/JAPでの抗原投与前に、4週間離して2回、γ−fluでワクチン接種した。γ−A/WSN(6×10 HAU/マウス)、γ−A/PC(6×10 HAU/マウス)、およびγ−A/JAP(3×10 HAU/マウス)を、第2回のγ−fluの投与後、4週間で静脈内注射し、マウスを、A/JAP(50HAU/マウス)で鼻腔内に抗原投与し、マウスを20日間、モニターした。
【0230】
γ線により不活性化した同種または異種インフルエンザA株の事前の静脈内(i.v.)注射は、LD50 A/JAPで抗原投与したマウスの生存率を高めた(表5)。ワクチン接種していないマウスと比較した場合、全てのワクチン接種した群(A、BおよびC)は、A/JAPでの静脈内感染後、体重損失の有意な減少を示した(ANOVA検定を用いて0.01より小さいP値)(図1)。未処置のワクチン接種を受けていない動物は、A/JAP抗原投与後6日で30%より大きい体重損失を示した。相対的に、全てのワクチン接種した動物のみが、10%より小さい緩やかな体重損失を示した(図1)。
【0231】
(γ−fluワクチン接種は、インフルエンザA/WSNでの抗原投与後の肺の炎症を減少させる)
A/JAP感染後の致死率および体重減少に加えて、A/WSN感染後の肺の炎症および浸潤を評価した。A/WSNでの鼻腔内感染は、重度の炎症反応によって特徴付けられ、未処置(図2A)と感染した(図2B)肺の組織構造の比較から明白である。炎症は、同種(図2C)または異種(図2D)インフルエンザウイルスで抗原投与したγ−fluでワクチン接種した動物において有意に減少している。低い全体の炎症にもかかわらず、CD8+T細胞は、優先的に、γ−fluでワクチン接種した動物の肺に浸潤した(図3)。
【0232】
(γ−fluは、交差反応細胞障害性(Tc)細胞応答を誘発する)
同種ウイルスでの感染に対するγ−fluの防御効果は、体液性免疫および細胞性免疫の両方に関与すると考えられる。観察された交差防御免疫(異種感染からの防御)に関与する機構は、少なくとも部分的に細胞障害性T(Tc)細胞媒介性であり得る。γ−fluが交差反応Tc細胞応答を誘発するか否かを試験するために、A/WSNおよびA/PCならびにそれらの対応するγ−flu調製物を、マウスを感染またはワクチン接種するために使用し、次いで、脾臓エフェクターを、模擬標的細胞、A/WSN感染標的細胞、A/JAP感染標的細胞、および適切なKを限定した核タンパク質由来のペプチド(NPP)で修飾した標的細胞に対するそれらの殺傷能力について試験した。図4に示すように、感染した動物およびワクチン接種した動物由来のエフェクター脾細胞は、同種および異種のウイルス感染P815標的物を溶解した。さらに、模擬感染したマウス由来のものを除く、全ての脾細胞は、核タンパク質ペプチドで標識した標的物に対する殺傷活性を示した。
【0233】
(実施例3:γ線を照射したインフルエンザAウイルスでの鼻腔内ワクチン接種はH5N1(トリインフルエンザ)に対して防御する)
(i)材料および方法
(動物)
10週齢のBALB/cマウスをこの実験に使用した。
【0234】
(ウイルス)
インフルエンザウイルスの2つのA株(A/PR8[H1N1]およびA/PC[H3N2])のウイルスストックを、孵化したニワトリ卵で増殖させて、ニワトリ赤血球に対する温度依存性吸着により精製して、ウイルス力価を、Madin−Darbyイヌ腎臓(MDCK)での標準的なプラークアッセイによって評価し、力価をpfu/mlと表した。
【0235】
(インフルエンザ株のγ線照射)
精製したストックを、上記の実施例2に記載したように1×10rad(10kGy)のγ線(ANSTO,Lucas Height,オーストラリア)に曝露した。照射したストックに残っているウイルス感染性を、孵化したニワトリ卵を用いて試験した。ウイルスストックは滅菌したが、照射後に血球凝集能を保有した。
【0236】
(統計)
全ての統計的解析を、GraphPad InStatソフトウェアを用いて実施した。フィッシャーの正確確率検定およびカイ二乗検定を、有意差について生存率を比較するために使用した。
【0237】
(BALB/cマウスにおける交差反応細胞障害性T細胞応答)
10週齢のBALB/cマウスを、A/PR8、γ−A/PR8、A/PC、またはγ−A/PCで感染またはワクチン接種のいずれかをした。6日後、これらのマウス由来の脾細胞を、上記の実施例1および2に記載したようにCr51放出アッセイを用いて模擬標的物、A/PC−標的物、A/PR8−標的物、A/JAP感染標的物、およびNPP−標識P815標的物に対するそれらの殺傷能力について試験した。
【0238】
(異種および同種防御についてのγ−fluでの鼻腔内ワクチン接種)
マウスの群を、γ−A/PR8(n=10)、γ−A/PC(n=10)、ホルマリン不活性化A/PC(N=8)の3.2×10pfu/マウスでワクチン接種したか、または模擬処置した(n=10)。ワクチン接種の4週間後、マウスを、2×10pfu/マウスのA/PR8で鼻腔内に抗原投与し、21日間、体重減少および致死率をモニターした。
【0239】
(鼻腔内γ−fluワクチン接種対他の投与経路)
異なる経路(鼻腔内(i.n)、静脈内(i.v.)、腹腔内(i.p.)および皮下(s.c.))の接種を、3.2×10pfu当量のγ−A/PCでBALB/cマウス(10匹のマウス/群)にワクチン接種するために使用した。ワクチン接種の3週間後、マウスを、致死量の生A/PR8(6×10pfu)で鼻腔内に抗原投与し、エンドポイントとして30%体重減少を用いて致死率および臨床症状をモニターした。
【0240】
(BALB/cマウスにおける致死量H5N1感染の基礎パラメーター)
10週齢のBALB/cマウスの群を、10倍滅菌希釈のH5N1ウイルスストックで鼻腔内に感染させた。マウスを体重減少および致死率についてモニターした。個々のマウスの体重追跡の終わりは、約25%体重減少による屠殺を示す。
【0241】
(γ−flu(γ−A/PR8[H1N1])での鼻腔内ワクチン接種を用いるH5N1に対する防御)
致死量のH5N1の抗原投与に対するγ−fluの防御効果を試験した。BALB/cマウス(10匹のマウス/群)を、模擬処置したか、または単一用量のγ−A/PR8[H1N1](3.2×10pfu当量/マウス)で鼻腔内にワクチン接種した。ワクチン接種の4週間後、マウスを、A/Vietnam/1203/2004[H5N1]の3倍のマウス感染用量50(3×MID50)で鼻腔内に抗原投与し、エンドポイントとして20%体重減少を用いて、21日間毎日、致死率および臨床症状をモニターした。
【0242】
(H5N1遺伝的荷重に対するγ−fluワクチンの効果を評価するためのリアルタイムPCR(RT−PCR))
600μlのRLT緩衝液中への100μlの肺または脳のホモジネートの添加後、RNAを、製造業者の指示書に従ってRNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて抽出した。各サンプルの全RNA濃度を分光光度法により測定し、ヌクレアーゼを含まない水で40ng μl−1に調整した。続いて、標準化量(200ng)のテンプレートを、製造業者の推奨に従って、20μlの反応物中でTaqMan逆転写試薬キット(Applied Biosystems)を用いて逆転写した。ウイルスcDNAの定量のために、ウイルスマトリクス遺伝子内由来の産物を増幅し、検出する、一般的なA型インフルエンザ特異的プライマーおよびTaqManプローブを、以前に記載されるように使用した(Heine,H.G.ら,2007「Rapid detection of highly pathogenic avian influenza H5N1 virus by TaqMan reverse transcriptase−polymerase chain reaction」Avian Dis.51:370−372を参照のこと)。
【0243】
反応を3連で実施し、反応物は、12.5μlのTaqMan 2X Universal PCR Master Mix、900nMの各プライマー、250nMのプローブ、2μlのcDNAテンプレートおよび6.8μlの水を含有した。18S rRNA(TaqManリボソームコントロール試薬、Applied Biosystems)を定量化するための別の3連の反応もまた、試験した全てのサンプル中のPCRインヒビターの存在を排除するために実施した。反応は、7500高速リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)および以下のサイクルパラメーター:50℃、2分間;95℃、10分間;95℃、15秒間および60℃、1分間の45サイクルを用いて96ウェルプレートで実施した。ウイルス遺伝的荷重の相対定量のために、標準曲線を、テンプレートとして、感染していないマウスの肺から調製した40ng μl−1のRNA中の10倍滅菌希釈の抽出ストックウイルスRNAを用いて生成した。データの解釈を容易にするために、1ユニット(1U)のウイルスRNAを、RNA分子の数と任意に定義し、逆転写され、リアルタイムPCRを受けた場合、38のC値を生じた。
【0244】
(ii)結果
(A/PR8γ−fluおよびA/PCγ−flu調製物はBALB/cマウスにおいて交差反応細胞障害性T細胞応答を誘発する)
交差反応細胞障害性T(Tc)細胞応答の誘発を、γ−fluでワクチン接種したマウスにおいて試験した。A/PR8およびA/PCならびにそれらの対応するγ−flu調製物を、マウスを感染またはワクチン接種するために使用した。6日後、感染動物、ワクチン接種動物、および模擬免疫化動物由来の脾細胞を、Cr51放出アッセイ(上記の実施例2および3に記載した)を用いて、模擬標的細胞、A/PC−標的細胞、A/PR8−感染標的細胞またはA/JAP感染標的細胞および適切なKを制限した核タンパク質由来のペプチド(NPP)で修飾した標的細胞に対するそれらの殺傷能力について試験した。図5に示すように、インフルエンザ感染動物およびγ−fluワクチン接種動物由来のエフェクター脾細胞は、使用されるウイルス株に関わらず、全てのインフルエンザ感染P815標的物に対して殺傷活性を誘発した。さらに、模擬感染マウス由来のものを除く、全ての脾細胞集団は、インフルエンザウイルス核タンパク質ペプチド標識した標的物に対して殺傷活性を示した。これらのデータは、マウスにおいて交差反応Tc細胞応答を誘発するγ−flu調製物の能力を示す。
【0245】
(鼻腔内γ−fluワクチン接種は致死量のインフルエンザA/PR8に対して防御する)
完全なウイルスワクチンが高い反応原性に起因する合併症を引き起こすこと、およびγ線照射がウイルス免疫原性に対してほとんど影響を与えない(上記に示した)ことを考慮して、γ−fluの鼻腔内投与を試験した。鼻腔内γ−fluワクチン製剤の有効性を、現在ヒトインフルエンザウイルス調製物に使用されている化学的に不活性化されたワクチン調製物のものと比較した。マウスを、鼻腔内にワクチン接種した。これらの実験において、マウスを単一の用量のみでワクチン接種し、致死量(>300×致死量50)のA/PR8で4週間後に抗原投与した。抗原投与後3週間、マウスの体重を測定し、致死率をモニターした(図6)。γ−A/PR8ワクチン接種した動物は、同種ウイルスでの抗原投与後、少しの体重減少で完全に回復した(図6B)。γ−A/PCワクチン接種した動物のA/PR8(すなわち異種ウイルス)での抗原投与により、メモリーTc細胞応答のピークと一致する4日で動物の体重減少の割合がほとんど最初まで回復した(図6C)(MuellbacherおよびTha Hla,1993,「In vivo administration of major histocompatibility complex class I−specific peptides from influenza virus induces specific cutotoxic T cell hyporesponsiveness」,Eur.J.Immunol.,23,2526−2531)。γ−A/PCワクチン接種した動物の生存率を、ワクチン接種していない群と有意に比較する(カイ二乗検定を用いてP<0.05)。ホルマリン不活性化ワクチン調製物でワクチン接種した全てのマウスは急速に体重が減少した(図6D)。致死率データ(図6E)は、γ−fluでの鼻腔内ワクチン接種が同種および異種インフルエンザA抗原投与から防御することを示し、確認した。
【0246】
(鼻腔内γ−fluワクチン接種対他の投与経路)
異なる経路(鼻腔内(i.n)、静脈内(i.v.)、腹腔内(i.p.)および皮下(s.c.))の接種を、3.2×10プラーク形成単位(PFU)当量のγ−A/PCでBALB/cマウス(10匹のマウス/群)にワクチン接種するために使用した。ワクチン接種の3週間後、マウスを、致死量の生A/PR8(6×10PFU)で鼻腔内に抗原投与し、エンドポイントとして30%体重減少を用いて致死率および臨床症状をモニターした(図7)。全ての鼻腔内ワクチン接種した動物は、異種サブタイプウイルスでの抗原投与後に体重減少があれば、少しで完全に回復した(図7C)。対照的に、ほとんどのワクチン接種していないマウス(図7A)、i.v.ワクチン接種したマウス(図7B)、i.p.ワクチン接種したマウス(データは示さず)およびs.c.ワクチン接種したマウス(データは示さず)は、感染後7日および8日で30%体重減少に達した。生存率データ(図7D)により、A/PR8の異常な高い抗原投与量の使用にもかかわらず、i.n.ワクチン接種したマウスが、生存したこと(フィッシャーの正確確率検定を用いてP<0.05)が示される。
【0247】
(BALB/cマウスにおける致死量のH5N1感染の基礎パラメーター)
BALB/cマウスにおける体重損失を、H5N1(A/Vietnam/1203/2004)での鼻腔内感染後に評価した。図8に示すように、5匹のマウスの群を、希釈剤のみ(群1)またはストックウイルスの10倍連続希釈(群2〜6、接種濃度を増加させるため)のいずれかで抗原投与した。マウスの体重を測定し、致死率を観察し、25%より大きい体重損失に到達する前に屠殺した。111 EID50で感染させたマウス(群3)および11100 EID50で感染させたマウス(群5)は、それぞれ、感染後6日および2日で体重減少を示し始めた。
【0248】
(H5N1トリインフルエンザウイルスに対する防御)
致死量のH5N1抗原投与に対するγ−fluの防御効果を試験した。BALB/cマウス(10匹のマウス/群)を、単一用量のγ−A/PR8[H1N1](3.2×10PFU当量/マウス)で鼻腔内にワクチン接種した。ワクチン接種の4週間後、マウスを、3×マウス感染用量50(3×MID50)のA/Vietnam/1203/2004[H5N1]で鼻腔内に抗原投与し、エンドポイントとして20%体重減少を用いて致死率および臨床症状をモニターした(図9)。コントロール群(模擬ワクチン接種)における10匹全てのマウスは、H5N1感染と一致する臨床症状を示し、感染後、AECによって承認されている実験的エンドポイント(20%以上の体重減少が観察された場合、いずれかの神経学的兆候が検出された場合、または感染により食物/飲料を得ることができない場合(例えば重度の猫背、重度の脱水症、無気力))に従って、DPI7日と14日の間で安楽死させた(図9A)。通常、ワクチンを接種していないマウスは、感染後4日から脂っこく/しわのよった毛になり、2匹のマウスは、異常な後肢の歩き方および後肢の弱さによって分類される神経学的兆候を示し、その時点で、それらを安楽死させ、そして他の全てのマウスは、約20%体重減少(様々な程度の抑鬱症、無気力および脱水症)時に安楽死させた。
【0249】
対照的に、ワクチン接種した全てのマウス(γ−A/PR8[H1N1])は、研究の間にわたって元気があり、活発であり、感染後21日の試験の終わりに安楽死させた(図9B)。一匹の動物のみが感染後4日で11%の体重減少を示したが、元気で活発であり、試験の終わりまでに抗原投与前の体重に回復した。通常、全てのマウスが致死量のH5N1での抗原投与で生存し、何匹かの動物がそれらの抗原投与前の体重を超えて体重を取り戻した。
【0250】
(鼻腔内γ−fluワクチン接種は肺からH5N1の迅速なクリアランスを生じる)
上に示したように、全てのワクチン接種したマウスは致死量のH5N1で生存した。従って、そのデータは、鼻腔内に投与される単一用量のγ−flu調製物が、致死量のH5N1ウイルスでの抗原投与に対してマウスにおいて交差防御免疫を誘発することを実証する。ウイルス感染性およびウイルス遺伝的荷重の定量により、トリインフルエンザに対するγ−A/PR8[H1N1]の防御効果が確認され、抗原投与後6日で肺組織からのH5N1ウイルスのクリアランスが示された(表6)。抗原投与後3日で1匹のワクチン接種した動物の肺におけるウイルス感染性およびウイルスRNAの検出により、観察された交差防御免疫が、以前に記載される(Benninkら,1978,「Influenzal pneumonia:early appearance of cross−reactive T cells in lungs of mice primed with heterologous type A viruses」,Immunology 35:503−509)ように、未処置のTc細胞のものより加速された活性化速度を表す、メモリーTc細胞によって媒介される可能性が高いことが示されたが、6日ではどれも示されなかった。
【0251】
表6.肺および脳におけるH5N1感染性およびウイルス遺伝的荷重
【0252】
【表6】

【0253】
ウイルス感染性および相対的ウイルス遺伝的荷重を、log10 TCID50−1およびlog10 U/20ngの抽出RNA(3連の反応の幾何学的平均±s.d.)としてそれぞれ表し、逆転写され、リアルタイムPCRを受けた場合、1ユニット(1U)のウイルスRNAを、任意にRNA分子の数と定義し、38のC値を生じる。
感染後の日数。
†検出不能(103.2TCID50−1(感染性)より小さいか、または1U/20ngの抽出RNA(遺伝的荷重)より小さい)。
【0254】
(実施例4:γ線不活性化インフルエンザAウイルスは細胞障害性T細胞によって最初に媒介されるマウスにおいて交差防御免疫を誘発する)
(i)材料および方法
(細胞およびウイルス)
P815肥満細胞腫およびMadin−Darbyイヌ腎臓(MDCK)細胞を、37℃にて5%COを含む加湿空気雰囲気下でEMEMプラス5%FCS中に維持した。A型インフルエンザウイルスA、A/PR/8[A/Puerto Rico/8/34(H1N1)]およびA/PC[A/Port Chalmers/1/73(H3N2)]を、10日齢の孵化ニワトリ卵中で増殖させた。各卵に、37℃にて48時間インキュベートし、次いで4℃にて一晩保持した、1血球凝集ユニット(HAU)のウイルスを含有する0.1mlの正常な生理食塩水を注入した。羊水/尿膜腔液を収集し、プールし、−80℃にて保存した。力価は、MDCL細胞でプラークアッセイを用いて10PFU/ml(A/PC)および2×10PFU/ml(A/PR8)であった。ウイルスを、記載される(Sheffieldら,(1954),「Purification of influenza virus by red−cell adsorption and elution」,British journal of experimental pathology,35;214−222)ようにワクチン調製物のためにニワトリ赤血球を用いて精製した。つまり、感染性尿膜腔液を、4℃にて45分間、赤血球とともにインキュベートし、ウイルス血球凝集素を赤血球に結合させ、次いで遠心分離して、尿膜腔液上清を除去した。ペレットを正常な生理食塩水に再懸濁し、ウイルスから赤血球を遊離するために37℃にて1時間インキュベートし、次いで遠心分離して、赤血球を除去して、上清中のウイルスを回収した。A/PCストックを精製し、力価は5×10PFU/mlであった。
【0255】
(ウイルス不活性化)
ホルマリン不活性化のために、ウイルスを、4℃にて1週間、0.2%ホルマリンとともにインキュベートした。次いで、ホルマリンを、4℃にて24時間、正常な生理食塩水を用いて圧力透析によって除去した。透析方法は免疫学における現在のプロトコル(Andrewら,(2001),「Dialysis and concentration of protein solutions」,in Current protocols in immunology,Coliganら,(eds),Appendix 3:Appendix 3Hを参照のこと)を採用した。紫外線不活性化のために、ウイルスを、10mmの流体深さを有する60mmのペトリ皿に入れた。ウイルスを、4℃にて45分間、1cmあたり4000ergに曝露した。γ線不活性化のために、インフルエンザウイルスに、60Co源(Australian Nuclear Science and Technology Organizataion−ANSTO)から10kGyの線量を与えた。ウイルスストックを、γ線照射の間、ドライアイスで凍結し続けた。ウイルス感染の損失を、卵中の不活性化されたウイルス調製物の滴定により確認した。不活性化されたウイルスストックのHAU力価を、γ線不活性化A/PCについて7.3×10HAU/ml、ホルマリンおよび紫外線不活性化A/PCについて2.4×10HAU/mlになるように決定した。
【0256】
(防御実験)
BALB/c、C57BL/6、129Sv/Ev、β2−ミクログロブリン(β2m−/−)、Ig μ−鎖(μMT−/−)、パーフォリン(Prf−/−)、IFN−γ受容体(IFN−IIR−/−)およびMHC−II−/−マウスを、特定の病原体を含まない条件下で飼育した。10〜14週齢の雌を使用した。マウスを、不活性化ウイルス調製物(3.2×10PFU当量)で鼻腔内に免疫化した。致死量の抗原投与のために、免疫化後3週間で、マウスを、A/PR8(7×10PFU)で鼻腔内に感染させた。抗原投与後20日まで、マウスの体重を測定し、致死率をモニターした。
【0257】
(養子免疫リンパ球転移実験)
10週齢のドナーBALB/cマウスを、γ線を照射したA/PC(1×10PFU当量)で静脈内に免疫化した。脾細胞を免疫後3週間で収集した。単一細胞の懸濁液を調製し、赤血球を溶解させた。脾臓リンパ細胞を、ナイロンウールカラムに細胞を通過させることによってB細胞およびT細胞集団に分離した。2mlの5×10細胞/mlをカラムに負荷し、37℃にて2時間インキュベートした。カラムを温かい(37℃)ハンクス平衡塩類溶液+5%FCSで洗浄し、最初の流出物中の非接着T細胞を収集した。次に、ナイロンウールに結合したB細胞を、冷たい(4℃)ハンクス平衡塩類溶液でカラムを洗浄することによって収集した。T細胞(82.8%+7.94%B細胞)およびB細胞(84.2%+8.3%T細胞)集団の純度を、フローサイトメトリー解析によって確認した。精製した脾細胞の小集団を2%FCSを含むPBS中で洗浄した。Fc受容体を、4℃にて20分間、マウスCD16/CD32(FCγIII/II受容体)Ab(BD Pharmingen)とのインキュベーションによってブロックした。細胞を洗浄し、蛍光結合抗CD3、抗CD8、抗CD19(BD Pharmingen)Absの混合物とともにさらにインキュベートした。死細胞を7−アミノアクチノマイシンD(Sigma−Aldrich)で標識した。染色した細胞を、FACS Calibur(Becton Dickinson)を用いて定量した。精製したT細胞またはB細胞(0.2mlの体積中に1.1×10細胞)を、レシピエントマウスに静脈内注射し、次いで養子細胞転移後3時間でA/PR8(7×10PFU)で鼻腔内に抗原投与した。抗原投与後20日まで、マウスの体重減少および致死率を測定した。
【0258】
(受動的血清転移実験)
γ線を照射したA/PCで鼻腔内免疫化したマウス由来の血清を免疫化後3週間で収集した。プールした免疫血清を56℃にて30分間加熱して、補体を不活性化した。レシピエントマウスに、200μLの免疫血清を静脈内に与えた。2時間後、レシピエントマウスをA/PR8(7×10PFU)で抗原投与した。抗原投与後20日まで、マウスの体重減少および致死率をモニターした。
【0259】
(プラーク減少アッセイ)
免疫血清を、生きている、γ線、ホルマリンまたは紫外線により不活性化されたA/PCでワクチン接種したマウスから、免疫後3週間で収集した。56℃にて30分間、血清サンプルを熱により不活性化した後、190μLの連続希釈した(×10、×30、×90、×270)血清を、ほぼ100PFU含有する10μLのウイルス(A/PCまたはA/PR8株)懸濁液と混合した。
【0260】
(細胞障害性Tリンパ球(Tc細胞)アッセイ)
インフルエンザ特異的Tc細胞を、生A/PC(約2×10PFU)または不活性化されたA/PC(γ線、ホルマリン、紫外線により不活性化された、約1×10PFU当量)のいずれかをBALB/cマウスに静脈内注射することによって生成した。脾臓を免疫後7日で収集し、赤血球を含まない細胞懸濁液をエフェクター細胞として使用するために調製した。標的細胞を、1の感染多重度(m.o.i)にて生A/PCでP815細胞を感染させることによって調製し、続いて100〜200μCiの51Crを含有する培地で1時間インキュベートした。洗浄後、標的細胞を、8時間のクロム遊離アッセイにおいて異なる割合でエフェクター細胞と混合した。上清中の放射線のレベルをγ線カウンターで測定した。特異的溶解を、3連のウェルの平均溶解パーセントとして得て、式:(実験のcpm−自然発生のcpm)/(最大放出のcpm−自然発生のcpm)×100を用いて値を算出した。エキソビボでの二次的なTc細胞応答に関して、抗原刺激したマウスに、一次免疫後3ヶ月で静脈内の二次免疫化を与え、脾細胞を、クロム遊離アッセイのために免疫後7日で収集した。
【0261】
(ii)結果
(γ線を照射したインフルエンザウイルスによって誘発される異種サブタイプ免疫における免疫血清ならびにBリンパ球およびTリンパ球の役割)
交差防御免疫における抗体の役割を決定するために、マウスを、生A/PR8(7×10PFU)またはγ線を照射したA/PC(3.2×10PFU当量)で静脈内に免疫化し、3週間後血液を収集した。未処置のマウスの群に、200μlのγ線を照射したA/PC免疫血清、過免疫血清(3週間の間隔で2回用量の生A/PR8を受容したマウス由来)または免疫前血清のいずれかで静脈内注射し、血清転移後2時間で、致死量のA/PR8ウイルス(7×10PFU)で抗原投与した。
【0262】
図10は、受動的血清転移は、γ線を照射したA/PCによって誘発される異種サブタイプの免疫を未処置のマウスに転移できないことを示す。血清サンプルを、単回用量のγ線を照射したA/PC(3.2×10PFU当量)または2回用量の生A/PR8(7×10PFU)(過免疫)のいずれかで免疫化したドナーマウスからプールした。レシピエントマウス(1群あたり9〜10匹のマウス)に、0.2mlの免疫血清またはコントロールとして免疫前血清を静脈内に与えた。血清転移後2時間で、マウスを、A/PR8(7×10PFU)で鼻腔内に抗原投与した。マウスを、体重減少(図10A、BおよびC)および致死率(図10D)に関して毎日モニターした。γ線を照射したA/PC免疫血清を受容した未処置のマウスは、免疫前血清を受容したものと同様の臨床的症状および体重減少を示した(図10A、CおよびD)。それらのマウスは、急速に体重減少し、25%のエンドポイントに到達したので、異種サブタイプ抗原投与から防御されなかった。対照的に、過免疫血清を受容したマウスは、同種A/PR8(7×10PFU)で抗原投与した場合、実質的に体重減少がなく、完全に防御された(図10BおよびD)。これらのデータは、γ線を照射したA/PCにより誘発された抗体が交差防御しないことを示す。
【0263】
第2に、B細胞欠損μMT−/−マウスを、交差防御免疫におけるB細胞の役割を評価するために使用した。10週齢のμMT−/−マウスを、γ線を照射したA/PC(3.2×10PFU当量)で鼻腔内に免疫化し、免疫後3週間で、異種サブタイプ株A/PR8(7×10PFU)で抗原投与した。マウスを、20日間毎日、体重減少および致死率についてモニターした。ワクチン接種したμMT−/−マウスは、未処置のマウス(図11A、BおよびC)のものと同様の生存率を示し、これは、B細胞用量の欠失が交差防御免疫の発達を損なうことを意味する。さらに、γ線を照射したA/PC(3.2×10PFU当量)での鼻腔内ワクチン接種は、A/PR8での異種サブタイプ抗原投与に対してMHC−II−/−マウスを防御できなかった(図12A、BおよびC)。MHCII−/−マウスを、γ線を照射したA/PC(3.2×10PFU当量)で鼻腔内に免疫化した。免疫化後3週間で、未処置および免疫化したマウス(1群あたり9〜10匹)を、異種サブタイプ株A/PR8(7×10PFU)で抗原投与した。マウスを、20日間毎日、体重減少および致死率についてモニターした。γ線を照射したA/PCでのワクチン接種は、A/PR8での異種サブタイプ抗原投与に対してMHC−II−/−マウスを防御できなかった。これは、B細胞およびCD4+T細胞が、γ線を照射したインフルエンザウイルスによる交差防御免疫の誘発に関与するという証拠を与える。
【0264】
CD8+ Tc細胞応答を欠失しているβ2M−/−マウスを、γ線を照射したA/PC(3.2×10PFU当量)での鼻腔内免疫化によって誘発される交差防御免疫におけるCD8+ T(Tc)細胞の寄与を評価するために使用した。A/PR8(7×10PFU)での異種サブタイプ抗原投与により、60%の致死率が生じ、生存しているマウスは回復する前に10%以上の体重を減少した(図13BおよびC)。コントロールの同じウイルス株で感染させたワクチン接種していないマウスは、100%の致死率を被った(図13AおよびC)。これは、γ線を照射したインフルエンザウイルスによって誘発される交差防御免疫におけるCD8+T細胞についての臨床的役割を示す。
【0265】
これらの結果は、インフルエンザに対する交差防御免疫におけるB細胞、CD4+T細胞およびCD8+T細胞についての役割を示すが、ノックアウトマウスにおける不完全な一次免疫反応は、体液性および細胞性メモリー応答の両方の交差防御の可能性を妨げ得る。エフェクター細胞の性質を評価するための代替的アプローチとして、本出願人らは、ドナー細胞として3週間早い静脈内にγ線を照射したA/PC(1×10PFU当量)で免疫化したマウス由来の脾細胞を有する養子転移モデルを使用した。脾細胞はナイロンウールで増加させたT細胞(82.8%T細胞、7.9%B細胞)またはB細胞(84.2%B細胞、8.3%T細胞)であり、未処置のマウスに静脈内に転移した。転移後3時間で、マウスを、0.1×LD50 A/PR8(7×10PFU)で抗原投与した。マウスを、20日間毎日、体重減少および致死率についてモニターした。T細胞レシピエントは、A/PR8抗原投与に対して部分的に防御した(図14A、BおよびD)。対照的に、防御はB細胞レシピエントマウスにおいて観察されず、A/PR8抗原投与後にコントロール(リンパ球転移のないワクチン接種していない)マウスと同様の疾患症状が進行した(図14A、CおよびD)。これらの養子転移研究は、A/PR8抗原投与に対する交差防御免疫において、B細胞ではなく、T細胞についての臨床的役割をさらに支持する。
【0266】
CD8+T細胞は、ウイルス感染細胞を直接殺傷すること、またはIFN−γおよびTNFなどのサイトカインを分泌することによって抗ウイルス効果を与える。T細胞のエフェクター機能が異種サブタイプ免疫を与えることを説明するために、prf−/−マウス(プロフェリン媒介性溶解機能を欠く)およびIFN−IIR−/−マウス(その免疫細胞はIFN−γに反応しない)を利用した。prf−/−マウスを、γ線を照射したA/PC(3.2×10PFU当量)で鼻腔内に免疫化した。免疫後3週間で、未処置および免疫化したマウス(1群あたり9〜10匹のマウス)を、異種サブタイプ株A/PR8(7×10PFU)で抗原投与した。マウスを、20日間毎日、体重減少および致死率についてモニターした。γ線を照射したA/PCでワクチン接種したマウスは、prf−/−マウスの有意な交差防御を与えることができなかった(図15A、BおよびC)。これは、γ線を照射したA/PCによって誘発される交差防御が、CD8+TおよびNK細胞に関連する、パーフォリン媒介性溶解機能を必要することを強く示唆する。
【0267】
対照的に、γ線を照射したA/PC(同じ条件)で免疫化したIFN−IIR−/−マウスは、致死量のA/PR8での抗原投与に対して完全に防御された(図16A、BおよびC)。従って、IFN−γの機能は、交差防御免疫の誘発に必要ではない。
【0268】
(γ線を照射したA/PC免疫化マウスの血清中の交差中和活性の欠失)
上記の実施例3に示したように、γ線を照射した(ホルマリンまたは紫外線で不活性化していない)インフルエンザウイルスでの免疫化は、交差防御免疫を誘発する。従って、同種および異種のインフルエンザAウイルスの株に対して種々に不活性化されたインフルエンザ製剤によって誘発される免疫血清の交差中和活性を試験した。A/PC(H3N2)またはA/PR8(H1N1)に対するウイルス中和活性を、生A/PC、γ線を照射したA/PC、ホルマリンで不活性化したA/PC、または紫外線で不活性化したA/PCでの免疫後3週間で収集した血清についてプラーク減少アッセイによって測定した。56℃にて30分間、血清サンプルの熱不活性化後、190μlの連続希釈した(×10、×30、×90、×270)血清を、約1×10PFUを含有する10μlのウイルス懸濁液と混合した。60分のインキュベーション後、ウイルス/血清混合物をプラークアッセイのために6つのウェルプレートに加えた。ワクチン接種した動物全てから収集した免疫血清は、同種株A/PC(H3N2)に対して高レベルの中和活性を含有した(図17A)。異種株A/PR8(H1N1)に対して試験した場合、同じ免疫血清は、未処置の血清のものと同様の中和活性のレベルを示した(図17B)。これらのデータは、γ線を照射したインフルエンザウイルスを含む、不活性化されたインフルエンザウイルス調製物での免疫化が、もしあれば、限定された交差中和活性を有する高い株特異的の中和抗体を誘発することを示す。
【0269】
(γ線を照射したA/PCによる交差反応Tc細胞応答の誘発および程度は用量依存性である)
H3N2インフルエンザウイルスとH1N1インフルエンザウイルスとの間の血清交差中和活性の欠失は、規定されたノックアウトマウスにおいて交差防御免疫を欠く、養子転移実験からの結果は、細胞性免疫が、異種サブタイプ抗原投与に対してマウスを防御することにおいて極めて重要な役割を果たすことを示す。ワクチン接種したマウスにおけるT細胞の細胞障害性機能を特徴付けるために、マウスを、生A/PCまたはγ線を照射したA/PCのいずれかの種々の用量で静脈内に免疫化し、それらの脾細胞を、免疫後6日で殺傷する特異的標的細胞に関して試験した。2匹のBALB/cマウスの群を、生A/PCまたはγ線を照射したA/PCのいずれかの種々の用量で静脈内に免疫化し、脾細胞を免疫後6日で収集した。脾細胞を、模擬処置標的細胞またはA/PC感染標的細胞またはA/PR8感染標的細胞に対するエフェクター細胞として使用した。生A/PCは、広範囲の免疫化用量より強いTc細胞応答を誘発した(図18A)。高用量(10PFU当量)のγ線を照射したA/PCでの免疫化は、A/PCおよびA/PR8で感染させた標的物に対して強いTc細胞応答を誘発した(図18B)。しかしながら、低用量(1.6×10PFU当量未満)での免疫化は、統計的に有意な交差反応Tc細胞応答を誘発しなかった。従って、γ線を照射したA/PCによるTc細胞応答の程度は免疫化用量と相関する。
【0270】
(γ線を照射したA/PCによるメモリーTc細胞の誘発)
上記の実施例3に記載したように、γ線を照射したA/PCでの免疫化は、少なくとも3ヶ月間、交差防御を与える。従って、長期間継続する防御の役割を担うメモリーT細胞の寿命を調べた。2匹のBALB/cマウスの群を、生A/PC(2×10PFU)、A/PR8(1×10PFU)またはγ線を照射したA/PC(1×10PFU当量)のいずれかで1回または2回、静脈内に免疫化した。二次免疫を抗原刺激後3週間に与えた。脾細胞を二次免疫後7日に収集し、模擬処置標的細胞、A/PC感染標的細胞、またはA/PR8感染標的細胞あるいは、Kを制限した核タンパク質由来のペプチド(NPP)で標識したP815細胞に対するエフェクター細胞として使用した。生きている異種サブタイプ株A/PR8での二次免疫は、強い二次Tc細胞応答を誘発した(図19)。対照的に、二次免疫として生きている同種株A/PCを受容したマウスは、Tc細胞有効性の増大を示さなかった(図19)。
【0271】
(iii)考察
上記の実施例に記載したように、特に鼻腔内に投与される場合、γ線を照射したインフルエンザAウイルスは、感染力の強いトリH5N1株を含む、致死量の同種および異種サブタイプのウイルス抗原投与に対して強力な防御を与える。これらのデータは、交差反応体液性免疫ではなく、交差反応細胞性免疫が、Tc細胞によって主に媒介され、γ線を照射したインフルエンザウイルスによって誘発される交差防御免疫に関与する必須要素であることを示す。この結論は、以下の証拠のいくつかの独立した系統に基づく:1)β2M−/−マウスは交差防御免疫反応を生成しなかった;2)γ線を照射したインフルエンザ免疫ドナーマウス由来の、B細胞でも免疫血清でもなく、増加したT細胞の転移が未処置のレシピエントに対して交差反応免疫を与えた;3)調製物によって誘発される交差防御免疫は、必須の細胞障害性エフェクター分子パーフォリンに依存した。
【0272】
IFN IIR−/−マウスにおいて誘発される交差防御免疫の誘発とともに、後者の観測は、細胞障害性Tc細胞が、CD8+T細胞IFN−γ媒介性ウイルスコントロールによってではなく、細胞毒性の顆粒エキソサイトーシスを介してウイルス感染細胞を殺傷することによって防御を与えることを強く示唆する。上記と一致して、γ線を照射したインフルエンザウイルスでの免疫化は、生きているウイルスによって誘発されるものに対して同様のT細胞応答を誘発できる。この交差反応T細胞の効果は、少なくとも3ヶ月間持続し、インビボでの再免疫化に際してより強い二次的Tc反応を導く。これは、γ線を照射したインフルエンザウイルスで免疫化したマウスが、少なくとも3ヶ月間、異種サブタイプの抗原投与に対して十分に防御されるという観測と相関する。しかしながら、同種株での免疫化は、二次的Tc反応を増加させなかった。この観測は、一次免疫が、同種ウイルスでの二次抗原投与を中和する高い株特異的抗体反応を誘発するので、メモリーTc細胞活性化を抑制することを示唆する。
【0273】
交差反応Tc細胞応答の誘発は、複製の生きているウイルスとは対照的にγ線を照射したウイルスで高い用量依存性であった。異種サブタイプの防御を与える際の支配的要因と識別されたTc細胞とともに、この防御反応に対するB細胞による寄与のさらにいくつかの証拠が存在した。なぜなら、μMT−/−マウスもまた、異種サブタイプ抗原投与に対して高い感受性を示したからである。血清中の交差中和抗体反応の欠失および転移された血清の防御効果の欠失は、B細胞の寄与が、それらの可溶性産物の抗体と独立していることを示唆する。特定の状況において、未処置のB細胞は、抗体依存性形態で二次感染に対してμMT−/−マウスにおける免疫を回復できると考えられる。さらに、B細胞はエフェクターTc細胞機能を促進する役割を有し得る。従って、交差防御抗体の可能性のある役割は少しだけではなく、粘膜交差中和抗体もまた、異種サブタイプ免疫に寄与し得る。統計的に有意ではないが、β2M−/−およびprf−/−マウスにおいて観測される部分的交差防御がこの考えを支持する。さらに、養子T細胞転移によって得られる受動免疫は、致死下用量の感染性の強いA/PR8に対する防御の際に部分的に成功するだけであった。従って、抗体およびTc細胞の両方は、最終的に、最適な交差防御に寄与し得る。
【0274】
(実施例5:紫外線で不活性化されたインフルエンザワクチンおよびホルマリンで不活性化されたインフルエンザワクチンと比較してγ線で不活性化されたインフルエンザワクチンの優位性)
(i)材料および方法
(マウス)
9〜10週齢の雌のBALB/cマウスをこれらの研究において慣例的に使用した。
(ウイルスおよび細胞)
P815肥満細胞腫、Madin−Darbyイヌ腎臓(MDCK)およびベビーハムスター(BHK)細胞を増殖させ、5%COを含む加湿雰囲気下中で37℃にてEMEMおよび5%FCSに維持した。A型インフルエンザウイルス、A/PR/8[A/Puerto Rico/8/34(H1N1)]およびA/PC[A/Port Chalmers1/73(H3N2)]を、10日齢の孵化ニワトリ卵中で増殖させた。各卵に、1血球凝集素ユニット(HAU)のウイルスを含有する0.1mlの生理食塩水を注入し、37℃にて48時間インキュベートし、4℃にて一晩保持した。次いで、尿膜腔液を収集し、プールし、−80℃にて保存した。力価は、MDCK細胞でプラークアッセイを用いて10PFU/ml(A/PC)および2×10PFU/ml(A/PR8)であった。ウイルスを、記載される(Sheffieldら,(1954),「Purification of influenza virus by red−cell adsorption and elurion」,British journal of experimental pathology,35:214−222)ようにワクチン製剤のためにニワトリの赤血球を用いて精製した。つまり、感染性尿膜腔液を、4℃にて45分間、赤血球細胞とともにインキュベートし、血球凝集素を赤血球に結合させ、次いで遠心分離して、尿膜腔液上清を除去した。ペレットを生理食塩水に懸濁し、37℃にて1時間インキュベートして、ウイルスから赤血球を遊離し、次いで遠心分離して、赤血球を除去し、上清中のウイルスを収集した。精製したA/PC力価は5×10PFU/mlであった。
【0275】
(ウイルス不活性化)
ホルマリン不活性化のために、ウイルスを、4℃にて1週間、0.2%ホルマリンとともにインキュベートした。次いで、ホルマリンを、4℃にて24時間、生理食塩水を用いて圧力透析により除去した。透析方法は、免疫学における現在のプロトコル(Andrewら,(2001),「Dialysis and concentration of protein solutions」,Current protocols in immunology,Coliganら(eds),Appendix 3:Appendix 3Hを参照のこと)から適合した。紫外線不活性化のために、ウイルスを、10mmの流体深さを有する60mmのペトリ皿に入れた。ウイルスを4℃にて45分間、4000erg/cmに曝露した。γ線不活性化のために、インフルエンザウイルスに、60CO線源(Australian Nuclear Science and Technology Organization−ANSTO)から10kGyの線量を与えた。ウイルスストックを、γ線照射の間にドライアイス上で凍結し続けた。ウイルス感染性の損失を、卵中の不活性化されたウイルス調製物の滴定により確認した。不活性化されたウイルスストックのHAU力価は、γ−A/PCについて7.29×10HAU/ml、ホルマリン−A/PCおよび紫外線−A/PCについて2.43×10HAU/mlになるように測定した。
【0276】
(γ線により不活性化されたインフルエンザの凍結乾燥)
凍結乾燥のために、0.5mlのγ線により不活性化されたA/PCを含有する1つのバイアルを、マニホルドフリーズドライヤー(FTS SYSTEMS,Dura−DryTM MP)に入れた。
【0277】
(血球凝集アッセイ)
生きているウイルス調製物および不活性化されたウイルス調製物を、96ウェルU底マイクロタイタープレート上で100μ容積中で連続希釈した。0.5%のニワトリ赤血球懸濁液を全てのウェルに加え、プレートを氷上で30分間インキュベートした。この方法は、微生物学における現在のプロトコル(Szretterら,(2006),「Influenza:propagation,quantification,and storage」,Current Protocols in Microbiology,Coicoら(eds),Chapter 15:Unit 15G 11を参照のこと)から適合した。
【0278】
(防御実験)
BALB/cマウスを、特定の病原体を含まない条件下で飼育した。10〜14週齢の雌を使用した。マウスを、不活性化されたウイルス調製物(3.2×10PFU当量)または三価の不活性化されたサブユニットインフルエンザワクチン(CSL fluvaxワクチン;A/Solomon Islands/3/2006 H1N1,A/Brisbane/10/2007 H3N2,B/Florida/4/2006;3mgの血球凝集素)で静脈内に免疫化した。ホルマリンにより不活性化されたA/PCでワクチン接種したマウスを、2および3週間後に1回または2回、再免疫化した。致死量の抗原投与のために、免疫後1〜3週間で、マウスを、50%のマウス致死用量(MLD50)で鼻腔内に感染させた。MLD50は、予備実験において、A/PR8およびA/PCに関して、それぞれ7×10PFUおよび3.2×10PFUになるように測定した。肺ウイルス力価の解析のために、3匹のマウスを、抗原投与後3日および6日に安楽死させた。残っている動物を、抗原投与後20日まで、体重減少および致死率についてモニターした。
【0279】
(プラークアッセイ)
肺組織サンプルを、鼻腔内抗原投与後、3日および6日で収集した。除去後、全肺を生理食塩水中でホモジナイズした。ホモジネートを、1500rpmにて5分間、遠心分離した。上清を収集し、−20℃で保存した。サンプルの連続希釈物を、6ウェル組織培養プレートで培養したMDCK細胞に接種した。1時間吸着後、細胞を、1.8%のBacto−Agarを含有するEMEM培地で覆った。2〜3日間のインキュベーション後、細胞単層を、2.5%のクリスタルバイオレット溶液で染色し、プラークを数えた。
【0280】
(肺組織構造)
肺組織サンプルを、10%の中性緩衝ホルムアルデヒド中で最大24時間、固定した。10μmの断片をヘマトキシリン−エオシンで染色し、光学顕微鏡検査により評価した。
【0281】
(細胞障害性Tリンパ球(Tc細胞)アッセイ)
インフルエンザ特異的Tc細胞を、生A/PCまたは不活性化された、10PFU当量のA/PC(γ線、ホルマリン、または紫外線で不活性化された)のいずれかをBALB/cマウスに静脈内注射することにより生成した。脾臓を、免疫後7日で収集し、赤血球を含まない細胞懸濁液を、エフェクター細胞として使用するために調製した。標的細胞を、生A/PCについて1および不活性化されたA/PCについて10の感染多重度(m.o.i)にてP815細胞を感染させることによって調製し、続いて、100〜200μCiの51Crを含有する培地中で1時間インキュベートした。洗浄後、標的細胞を、8時間のクロム遊離アッセイにおいて異なる割合でエフェクター細胞と混合した。上清中の放射線のレベルを、γ線カウンターで測定した。特定の溶解を、3連のウェルの平均溶解パーセントとして得て、式:(実験のcpm−自然発生のcpm)/(最大放出のcpm−自然発生のcpm)×100を用いて算出した。
【0282】
(ii)結果
(血球凝集活性に対するウイルス不活性化の効果)
ウイルス不活性化後の血球凝集アッセイは、滅菌処理の効果を変性させるような1つの指標を与える。精製したインフルエンザストックを、バッチ中にアリコートし、ホルマリン、紫外線またはγ線のいずれかで処理した。孵化卵中にウイルス増殖が存在しないことにより検証した感染性の完全な不活性化後、生きているウイルスと不活性化されたウイルスとの血球凝集活性を比較した(表7)。
【0283】
表7.不活性化されたインフルエンザウイルスA/PC調製物の血球凝集活性
【0284】
【表7】

【0285】
血球凝集活性は、γ線を照射したウイルスに関して3倍減少しが、ホルマリンおよび紫外線による不活性化は血球凝集価を9倍減少させた。これらの結果は、これらの3つのウイルス滅菌法のうち、γ線照射がウイルスタンパク質構造を最も少なく変性させるという証拠を与える。
【0286】
(ホルマリンまたは紫外線による不活性化ではなく、γ線を照射したウイルス調製物は異種サブタイプ免疫を誘発する)
同種および異種サブタイプの生きているウイルス抗原投与に対する、γ線を照射して不活性化されたインフルエンザウイルス調製物、ホルマリンで不活性化されたインフルエンザウイルス調製物または紫外線で不活性化されたウイルス調製物の防御効果を比較した。9〜10匹のBALB/cマウスの群を、模擬処置するか、またはホルマリンで不活性化されたA/PC、紫外線で不活性化されたA/PC、もしくはγ線で不活性化されたA/PC(3.2×10PFU当量)のいずれかで静脈内に免疫化し、免疫後3週間で、未処置のマウスおよび免疫化したマウス(1群あたり9〜10匹)を、A/PC(MLD50;3.2×10PFU)またはA/PR8(MLD50;7.0×10PFU)で静脈内に感染させた。感染させたマウスの生存を、20日間毎日モニターした。図20A、E、FおよびJに示すように、A/PCまたはA/PR8での未処置のマウスの鼻腔内感染は、90〜100%の致死率を有する急速な体重減少を生じた(エンドポイントとして25%の体重減少に基づく)。ホルマリンで不活性化されたA/PC(図20BおよびE)または紫外線で不活性化されたA/PC(図20CおよびE)のいずれかで免疫化したマウスもまた、生きている同種のウイルスで抗原投与した場合、顕著な体重減少を生じ、約70%の致死率を生じた。同様に、ワクチン接種したマウスを、異種サブタイプ株A/PR8で抗原投与し、動物は90〜100%の致死率で相当の体重を減少させた(図20G、HおよびJ)。同種および異種サブタイプの抗原投与の両方の場合において、誘発される防御は、ワクチンとして使用するのに不十分であるとみなした(P値>0.05、フィッシャーの正確確率検定)。対照的に、単一の用量のγ線で不活性化されたA/PCで免疫化したマウスは、同種のウイルス抗原投与に対して防御されなかっただけではなく、異種サブタイプの抗原投与に対しても防御されず、マウスは平均で5%のみの体重を減少した(図20D、E、IおよびJ)。従って、γ線を照射したインフルエンザウイルスは、同種および異種サブタイプインフルエンザウイルス抗原投与に対する防御免疫を誘発するための非常に最も効果的なワクチン調製物であることが判明した(P<0.05)。
【0287】
(複数回投与のホルマリンで不活性化されたインフルエンザウイルス調製物は防御効果を高めることができるか)
γ線で不活性化されたA/PCは、ホルマリンで不活性化された調製物の複数回の鼻腔内投与より、1回のみの鼻腔内投与の後、明らかにより効果的であった。次いで、ホルマリンで不活性化されたA/PCの弱い防御効果が、異なる免疫化スケジュールを試験することによって改良され得るか否かを測定した。9〜10匹のBALB/cマウスの群を、模擬処置するか、またはホルマリンで不活性化されたA/PC(9.6×10PFU当量またはγ線で不活性化されたA/PCのものと等しいHAU用量;2300HAU)で1回、2回もしくは3回のいずれかで免疫化した。模擬処置したマウスまたは単一用量で免疫化したマウスを、免疫後3週間にA/PC(MLD50;3.2×10PFU)で抗原投与した。2倍または3倍用量の免疫化したマウスを、最終免疫後1週間にA/PC(MLD50;3.2×10PFU)またはA/PR8(MLD50;7×10PFU)で静脈内に感染させた。感染させたマウスの生存を20日間毎日モニターした。単一の免疫化を受けたマウスの群は、ワクチン接種していないマウスと比較して生存率が改良されなかった(図21A、BおよびE)。対照的に、2倍の免疫化は60%(P<0.05)まで生存率が改良されたが、ほとんどのマウスはさらに、体重の顕著な減少を示し、それらのマウスが重症疾患を受けたことを示す(図21CおよびE)。ホルマリンで不活性化されたA/PCで3倍の免疫化を受けたマウスは、致死せず、ほとんど体重を減少しない完全な防御を示した(図21DおよびE)。3倍の免疫化は、異種サブタイプの抗原投与からの部分的な防御を与えた(P<0.05)(図21F、GおよびH)。このように、ホルマリンで不活性化されたA/PCは、より多くの用量を必要とし、交差防御を誘発できず、誘発された免疫が、定量的だけでなく、定性的にも、γ線により不活性化されたA/PCによって誘発されたものより実質的に劣ることを示唆する。
【0288】
(三価インフルエンザワクチンは連続変異株に対して無効である)
直接比較のために、市販の三価インフルエンザワクチンの防御効果を、本明細書に記載した実験的アプローチにおいて試験した。マウスを、三価インフルエンザワクチン(CSL fluvaxワクチン;A/Solomon Islands/3/2006 H1N1,A/Brisbane/10/2007 H3N2,B/Florida/4/2006;3μg血球凝集素)で、免疫後3週間に静脈内に1回免疫化し、未処置のマウスおよび免疫化したマウスを、A/PC(3.2×10PFU/マウス)またはA/PR8(7×10PFU)のいずれかで静脈内に抗原投与した。感染したマウスの生存率を、20日間、毎日モニターした。図22に示すように、マウスの単一の鼻腔内免疫化は、A/PC(3.2×10PFU)(図22A、BおよびC)ならびにA/PR8(7×10PFU)(図22D、EおよびF)の両方に対して統計的に有意な防御を与えなかった(P>0.05)。これは明らかに、現在のインフルエンザワクチン用量が、同じサブタイプ内の株に対してさえ、単一の用量後に感知できる交差防御を与えないことを示す。
【0289】
(γ線により不活性化されたA/PCでのワクチン接種後の最小のインフルエンザ感染により誘発された肺炎症)
γ線を照射したA/PC、ホルマリンで不活性化されたA/PCおよび紫外線で不活性化されたA/PCでのワクチン接種(3.2×10PFU当量)の3週間後、マウスを、生ウイルスのA/PC株(同種)またはA/PR8株(異種サブタイプ)のいずれかで抗原投与した。生存しているマウスの肺を抗原投与の21日後に収集し、組織構造のために肺を処理した。肺のサンプルは、与えられた免疫化のタイプに対応する、注目すべき組織構造の相違を示した。図23に示すように、ワクチン接種したマウスを同種ウイルスA/PCで抗原投与した場合、限定された炎症反応が見られた。全ての3種類のワクチン接種した群(γ線を照射したA/PC、ホルマリンで不活性化されたA/PCまたは紫外線で不活性化されたA/PC)からの肺断片を未処置の組織のものの外観と比較した(図23A、C、DおよびE)。対照的に、ワクチン接種されていないマウス、A/PC抗原投与したマウス由来の肺組織は、広範囲の炎症反応を示した(図23B)。異種サブタイプの抗原投与は、種々のワクチン接種した群の間で明白な相違を生じた。
【0290】
ホルマリン−A/PCおよび紫外線−A/PCでワクチン接種した動物における炎症反応は強く、ワクチン接種後21日にA/PR8を抗原投与した後のワクチン接種していない動物のものと同様であった(図24B、DおよびE)。対照的に、γ線を照射したA/PCでワクチン接種した動物における肺炎症は、A/PR8での異種サブタイプの抗原投与後に限られた(図24C)。それらの肺は、弱いリンパ球浸潤を有する局所性炎症を示したが、全身状態は未処置の肺のものと同様であった(図24A)。
【0291】
(γ線により不活性化されたA/PCワクチンは感染を防御しないが、ウイルスクリアランスを促進する)
A/PR8での異種サブタイプの抗原投与後の3日および6日での肺のウイルス負荷に対するワクチン接種の効果を評価した。BALB/cマウスを、γ線を照射して不活性化されたA/PC、ホルマリンで不活性化されたA/PCまたは紫外線で不活性化されたA/PC(3.2×10PFU当量)のいずれかで、免疫後3週間に、鼻腔内に免疫化し、未処置のマウスおよび免疫化したマウスをA/PR8ウイルス(MLD50)で鼻腔内に抗原投与した。感染後3日および6日に、1群あたり3匹のマウスを屠殺し、肺におけるウイルス力価を、上記のMDCK細胞を用いてプラークアッセイによって測定した。感染後、3日および6日間で、それぞれ10および10PFU/肺に達する高ウイルス力価を、ワクチン接種していないマウスにおいて検出した(図25)。ホルマリンで不活性化されたA/PCおよび紫外線で不活性化されたA/PCで免疫化したマウスの肺におけるウイルス力価は、ワクチン接種していないコントロールマウスにおいて検出されたものに匹敵した。対照的に、γ線を照射したA/PCでワクチン接種した群は、抗原投与後3日および6日の両方において、ワクチン接種していないコントロールマウスにおいて見られるものと比べてA/PR8肺ウイルス力価の100倍より大きい減少を示した(スチューデントのT検定を用いてP<0.05)。
【0292】
(ホルマリンで不活性化されたウイルスまたは紫外線で不活性化されたウイルスではなく、γ線で不活性化されたウイルスはTc細胞免疫原性を保持する)
生A/PCおよび不活性化されたA/PC(γ線、ホルマリン、紫外線)によってインフルエンザ免疫細胞障害性T(Tc)細胞応答を生じる能力を比較した。BALB/cマウスを、生A/PC、γ線を照射して不活性化されたA/PC、ホルマリンで不活性化されたA/PC、または紫外線で不活性化されたA/PCで静脈内に免疫化した。脾細胞を、免疫後7日に収集し、A/PCで感染させたP815標的細胞に対するエフェクター細胞として使用した。生きているウイルスでの感染後のTc細胞応答のピークを、免疫後7日に検出した(データは示さず)。静脈内免疫後の7日に、各群由来の2匹のマウスを評価した。生きているA/PC(10PFU)またはγ線で不活性化されたA/PC(10PFU当量)で免疫化したマウスから収集したエフェクター脾細胞は、A/PCで感染させた標的細胞を溶解させたが、ホルマリンで不活性化されたA/PCまたは紫外線で不活性化されたA/PCで免疫化したマウス由来のエフェクター細胞は溶解させなかった(図26)。
【0293】
(γ線で不活性化されたA/PCでの鼻腔内免疫化は高用量の異種サブタイプの抗原投与に対する防御を与える)
異種サブタイプの抗原投与からマウスを防御するγ線を照射したA/PCの優れた防御能力を考慮して、防御の限界を、増大させたインフルエンザウイルス用量で抗原投与することによって調べた(図27)。9〜10匹のBALB/cマウスの群を模擬処置するか、またはγ線で不活性化されたA/PC(3.2×10PFU/ml当量)で鼻腔内に免疫化し、免疫後3週間にて、LD50 A/PR8、5×LD50 A/PR8、または50×LD50A/PR8のいずれかで鼻腔内に抗原投与した。感染させたマウスの生存および体重減少を20日間モニターした。1×LD50の異種サブタイプ抗原投与を受けた免疫化マウスは全て生存し、ほとんどまたは全く体重減少しなかった(図27CおよびF)。5×LD50の抗原投与用量を与えた免疫化マウスは、抗原投与後の最初の7日間で、初めに体重減少したが、顕著ではなく、全て完全に回復した(図27DおよびF)。50×LD50を受けたマウスは平均8%の体重を減少させたが、ここでも全てのマウスは完全に回復した(図27EおよびF)。1×LD50または5×LD50を受けた未処置のマウスは徐々に体重減少し、抗原投与で生存できなかった(図27A、BおよびF)。
【0294】
(γ線により不活性化された調製物によって与えられる長期間継続する異種サブタイプ防御)
有効なインフルエンザワクチンについての重要な要件は、持続する異種サブタイプ免疫の誘発である。9〜10匹のBALB/cマウスの群を、模擬処置するか、またはγ線により不活性化されたA/PC(3.2×10PFU当量)で静脈内に免疫化し、免疫後3ヶ月にて、マウスを、MLD50 A/PR8(7×10PFU)で静脈内に抗原投与した。感染させたマウスの生存および体重減少を20日間モニターした。1×LD50 A/PR8で抗原投与したワクチン接種したマウスは、平均で10%までのみの体重を減少させ、完全に回復した(図28BおよびC)。対照的に、ほとんどの抗原投与した未処置のマウスはかなりの体重を減少させ、抗原投与後約7日で体重損失の合計25%のエンドポイントに達した(図28AおよびC)。
【0295】
(凍結乾燥用量はγ線により不活性化されたA/PCの免疫原性を破壊しない)
現在の液体ベースのインフルエンザワクチンの既知の欠点は、特に発展途上国においてワクチン分配に関する問題を課す冷蔵保存の必要性である。現在のインフルエンザワクチンの厳しい保存の必要性を克服する試みにおいて、凍結乾燥しているγ線により不活性化されたインフルエンザウイルスを、冷蔵保存の必要性を省略する手段として評価した。γ線により不活性化されたA/PCストックを凍結乾燥し、鼻腔内投与(3.2×10PFU当量)の直前に希釈した水に再懸濁した。9〜10匹のBALB/cマウスの群を、模擬処置するか、または凍結乾燥したγ線により不活性化されたA/PCで免疫化し、免疫後3週間に異種サブタイプ株A/PR8(7×10PFU)で抗原投与した。マウスの生存および体重減少を、20日間毎日モニターした。ほとんどのマウスは、10%未満の全体重減少であったが、2/10のマウスのみが10%以上の全体重を減少させ、軽度の症状を示した。全てのワクチン接種したマウスは、未処置のマウスにおける10%生存とは対照的に、A/PR8(7×10PFU)での異種サブタイプの抗原投与で生存した(図29A、BおよびC)。これらのデータは、凍結乾燥プロセスが、異種サブタイプ免疫を誘発する、γ線により不活性化されたA/PCの能力を著しく減少させないことを示唆する。
【0296】
(スプリットワクチン(split vaccine)と比較したγ線により不活性化されたインフルエンザの優位性)
以下に明らかにしたマウスにおける鼻腔内ワクチン接種後の商業的に利用可能なインフルエンザワクチン、Flu−vaxと、γ線を照射した精製したインフルエンザウイルスとの交差防御効果の比較。
【0297】
【表8】

【0298】
従って、γ線を照射したインフルエンザウイルスは、当量ウイルス用量に基づいて、商業的に利用可能なインフルエンザワクチンより少なくとも30〜100倍有効であり、品質において、存在する商業的に利用可能なインフルエンザワクチンより優れている。
【0299】
(iii)考察
本研究は、相対的設定において、1945年から現在使用されている化学的不活性化法が、インフルエンザワクチン調製物について最も適切な選択であるか否かを評価するために、3種類の不活性化療法、γ線、およびホルマリン、または紫外線による不活性化の防御効果を評価した。γ線により不活性化されたA/PC(3.2×10PFU当量、2300HAU)は、他の滅菌法と比較して優れた免疫原性を有し、同種抗原投与および異種抗原投与の両方に対して高レベルの防御を与える。この優れた防御は、100%の生存およびより少ない体重減少で反映され、感染後の肺組織の組織学的評価と相関し、未処置のマウス、およびホルマリンまたは紫外線で不活性化されたウイルスでワクチン接種したマウスと比べて肺のウイルス負荷を減少させた。同様に、単一用量の現在使用されている三価インフルエンザワクチンは、A/PCまたはA/PR8抗原投与に対して防御を与えなかった。
【0300】
3倍高い用量のホルマリンで不活性化されたA/PC(9.6×10PFU当量、2300HAU)および多重免疫化が、γ線により不活性化されたA/PCによって与えられる防御レベルを得るのに必要とされた。さらに、ホルマリンにより不活性化されたA/PCは、同種(異種サブタイプではなく)ウイルス抗原投与に対してのみ防御を与えた。従って、免疫化の用量および頻度の増加のみが、ホルマリンで不活性化されたウイルスの株特異的免疫を向上させる。不活性化されるウイルス粒子1つあたりに関して、γ線により不活性化されたウイルスは、ホルマリンで不活性化されたウイルスより免疫原性であると留意することは重要である。なぜなら、株特異的免疫を得るために、ホルマリンにより不活性化されたウイルス調製物は、γ線を照射したA/PCについての単一の抗原刺激とは対照的に、匹敵するHAUに関して3倍多いPFUおよび3倍の免疫化を必要としたからである。これらの知見は、γ線による不活性化が、他の処置と比べて優れた抗原性および免疫原性を維持することを実証する。従って、γ線により不活性化されたウイルスは、ホルマリン処置または紫外線照射によって不活性化されたウイルス調製物より定量的だけでなく、定性的にも優れた免疫を誘発できる。
【0301】
パンデミック現象において、γ線を照射したウイルスによって見込まれている単一用量の投薬計画は、複数回用量、高用量、補助剤も必要とするホルマリンで不活性化されたインフルエンザワクチンでの免疫化の投薬計画より比較にならないほど好ましい。さらに、γ線により不活性化されたインフルエンザに関して、補助剤を必要としないという事実は、副作用を引き起こす反応原性の問題に出くわす可能性が少ないことを示唆する。ミョウバンは、ヒトワクチンについて最も一般に使用される補助剤であるが、インフルエンザワクチン抗原の免疫原性を高めることに効果的でないことが証明されている。さらに、ミョウバンは、γ線により不活性化されたウイルスの有効性を減少させ得る2型ヘルパーT(Th)により支援される体液性免疫反応に対する免疫反応を歪める。なぜなら、γ線により不活性化されたウイルスは、異種サブタイプ防御と相関するTc細胞応答を含む、Th1型の細胞性免疫反応を誘発することが知られているからである。さらに、γ線を照射したインフルエンザウイルスの効果は、単一用量の鼻腔内抗原刺激後に、免疫化マウスが、誘発される強力な免疫を受けている3ヶ月までの期間、50×LD50用量までの異種サブタイプの抗原投与に抵抗性があり得るという事実によって強調される。
【0302】
γ線を照射したウイルスによって誘発される交差防御は、粘膜Tc細胞応答によって媒介されると推測される。代替の仮説は、鼻腔内ウイルスタンパク質に対する交差反応分泌型IgA抗体の誘発である。一部の分泌型IgA抗体は、感染させた上皮細胞へのトランサイトーシスの間、インフルエンザウイルスを細胞内中和でき、このデータは、不活性化されたインフルエンザウイルスの他の形態が、インフルエンザ免疫Tc細胞応答を抗原刺激できないため、交差反応Tc細胞が、本明細書において観測される交差防御に関与し得ることを示唆する。さらに、γ線不活性化は、ホルマリンまたは紫外線不活性化より血球凝集活性に対してほとんど影響を与えない。未処置の形態と同様の抗原を保有する、γ線を照射したウイルスは、少なくとも部分的に、その優れた免疫原性に関与するように見える。鼻腔内投与は、気道内の免疫を誘発するためのリンパ器官に関連する肺粘膜を標的とする。しかしながら、以前に市販されている鼻腔内投与されるインフルエンザワクチンは、ベル麻痺の症例−顔面麻痺(Mutschら,(2004),「Use of the inactivated intranasal influenza vaccine and the risk of Bell’s palsy in Switzerland」,The New England journal of medicine,350:896−903を参照のこと)の数の増加と関連し、その結果、このワクチン調製物の市場からの撤退を生じた。この有害事象は、使用される粘膜補助剤;Escherichia coli易熱性毒素によるものである。関連するこのような安全性は、γ線により不活性化されたインフルエンザワクチンに関する問題ではない。なぜなら、そのワクチン製剤において健康を害する可能性がある補助剤の含有を必要としないからである。
【0303】
観察される強力な防御効果とは別に、いくつかのさらなる要因は、インフルエンザワクチンについてのγ線照射の魅力による。第1に、凍結乾燥したγ線により不活性化されたA/PCは、その交差防御特性を維持した。乾燥粉末製剤は、パンデミック事象のワクチン分配において顕著な利点を与える種々の保存条件下で液体製剤と比較して安定性を向上する。第2に、ほとんど訓練を必要とせず、または医師を必要としない送達の鼻腔内経路は、発展途上国についてさらなる利点を与える。第3に、γ線により不活性化されたインフルエンザワクチンは比較的容易であり、他のワクチン製剤プロセスと比べて製造に対して費用がかからない。最も重要には、製造の考慮および利用可能性に関して、γ線により不活性化されたインフルエンザによって誘発される強力な異種サブタイプ防御は、廃れたインフルエンザワクチンの毎年の改質を与えることができる。
【0304】
(実施例6:γ線照射のためのインフルエンザウイルスの調製)
現在インフルエンザワクチンに使用されているウイルスは、一般に、ウイルス抗原の損失および/またはビリオン構造の破壊に関連している超遠心分離法を用いて減弱の前に精製される。γ線を照射したインフルエンザワクチンによる細胞障害性T細胞応答の誘発は、ビリオン構造の完全性を保存するγ線照射の前に、ウイルス精製(分別/接線濾過)の代替的方法からの利点を受ける。
【0305】
ウイルスストックは、低速度(約3000rpm)にて遠心分離を用いて浄化され、サイズ排除ベースの遠心分離に使用されると予想される。浄化したストックは、50〜80nmの細孔径を有する濾過装置により回転される。一般に、インフルエンザウイルスのサイズは80〜120nmである。従って、可変の細孔径(例えば80nm未満)が、濾過によって液体を得るのに必要とされる限り、4℃にて低い遠心分離速度(4000〜10000rpm)(可変速度が使用され得る)でインフルエンザウイルスを精製するために使用される。フィルターの上流側の初期のウイルスストック液体流路は、フィルター面を接線方向に通るか、または横断する。遠心分離時に、ほとんどの液体は、フィルターを通過(浸透)するが、少しの部分が、残余分(全てのウイルスを含む)として中心のリザーバーに保持される。
【0306】
残余分は、浸透圧を維持し、結果としてウイルス完全性を維持するために糖(デキストラン、スクロース)を含有し得るPBS(生理食塩水または任意の他の培地)で再希釈される。必要な場合、これらの希釈した調製物を再度濾過してもよい。最後の遠心分離工程から濃縮したウイルスは、上記の実施例に記載するようにγ線照射により処理される。アスコルビン酸塩などのフリーラジカル捕捉剤は、ウイルスタンパク質に対する起こり得る損傷を減少させるために、照射する前に精製したウイルスストックに加えられてもよいが、γ線照射の間にウイルスゲノムを不活性化させる。
【0307】
例えば、以下のプロトコルが、γ線照射に使用されるインタクトなインフルエンザウイルスの精製のために利用され得る。
1.インフルエンザウイルスストックは、孵化卵またはインビトロでの組織培養から収集され得る。
2.300Kdのカットオフを有する濾過装置を用いて、ウイルスストックは、4℃にて30分間、300gで遠心分離することによって浄化され得、インフルエンザウイルスおよび尿膜腔液のタンパク質(または組織培養培地)の両方がフィルターを通過することができる。
3.100Kdのカットオフを有する濾過装置を用いて、浄化したウイルスストックが、4℃にて30分間、300gにて精製され得る。この工程において、インフルエンザウイルスは、フィルターの片側でフィルターを通過しない(従ってウイルスを濃縮する)。
4.濃縮したウイルスは、残っているいずれかの卵タンパク質を除去するために、生理食塩水(または任意の緩衝化した培地)で洗浄され得る(洗浄は、濃縮したウイルスを生理食塩水で希釈し、上記の工程3に記載したように遠心分離することによって実施され得る)。
5.最終ウイルス濃度はインタクトなビリオンを含む。
【0308】
一般に、上記の技術に使用される濾過装置についての細孔のカットオフレベルは、80〜120nmのビリオンサイズに適合するように設計され得る。全ての手順は4℃にて実施され得、超遠心分離法は必要とされない。ウイルス感染価は、オリジナルのストックおよび最終産物について試験され得る。ウイルス力価および体積を事前に知ることで、濃度のレベルの推定を容易にすることができる。最終産物の純度は、標準的な生化学分析を用いて測定され得る。
【0309】
(参照による援用)
本出願は、2008年8月1日に出願された米国仮特許出願第61/085,802号からの優先権を主張し、その全内容は参照により本明細書に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体においてインフルエンザウイルス感染を治療または予防するための方法であって、前記方法は、前記被験体に治療有効量のγ線を照射したインフルエンザウイルスを投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
被験体においてインフルエンザウイルス感染を治療または予防するための方法であって、前記方法は、前記被験体に治療有効量のγ線を照射したインフルエンザウイルスを鼻腔内に投与する工程を含む、方法。
【請求項3】
前記インフルエンザウイルス感染はインフルエンザAサブタイプHPAI A(H5N1)感染である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記インフルエンザウイルス感染はインフルエンザAサブタイプH1N1 09ブタインフルエンザ感染である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項5】
被験体において複数のインフルエンザウイルスサブタイプに対する交差反応免疫を誘発するための方法であって、前記方法は、前記被験体に治療有効量のγ線を照射したインフルエンザウイルスを投与する工程を含む、方法。
【請求項6】
被験体において複数のインフルエンザウイルスサブタイプに対する交差反応免疫を誘発または向上させるための方法であって、前記方法は、前記被験体に治療有効量のγ線を照射したインフルエンザウイルスを鼻腔内に投与する工程を含む、方法。
【請求項7】
前記複数のインフルエンザウイルスサブタイプは、ヒト、トリ、ブタ、イヌまたはウマインフルエンザウイルスサブタイプのうちの1つ以上を含む、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記交差反応免疫は、交差反応細胞性免疫を含む、請求項5〜7のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記交差反応細胞性免疫は、
(i)交差反応ヘルパーT細胞応答
(ii)交差反応細胞障害性T細胞応答
のうちのいずれかまたは両方を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記交差反応免疫は、交差反応体液性免疫を含む、請求項5〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記複数のインフルエンザウイルスサブタイプは、インフルエンザAサブタイプHPAI A(H5N1)を含む、請求項5〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記複数のインフルエンザウイルスサブタイプは、インフルエンザAサブタイプH1N1 09ブタインフルエンザを含む、請求項5〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記γ線を照射したインフルエンザウイルスは、凍結乾燥形態で調製される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記γ線を照射したインフルエンザウイルスは、接線/クロスフロー濾過によって精製されたウイルスストックから調製される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記γ線を照射したインフルエンザウイルスは、凍結ウイルス調製物にγ線を照射することによって生成される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記γ線を照射したインフルエンザウイルスは、A/WSN[H1N1]、A/PR8[H1N1]、A/JAP[H2N2]およびA/PC[H3/N2]からなる群より選択される、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記γ線を照射したインフルエンザウイルスは、前記ウイルスを、約6.5×10rad〜約2×10radのγ線の総線量に曝露することによって生成される、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記γ線を照射したインフルエンザウイルスは、前記ウイルスを、約1×10radのγ線の総線量に曝露することによって生成される、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
インフルエンザワクチンを生成する方法であって、前記方法は、γ線を照射することによってインフルエンザウイルスの調製物を不活性化することを含む、方法。
【請求項20】
前記インフルエンザウイルスの調製物は、前記γ線を照射することによって不活性化する前に、接線/クロスフロー濾過によって精製される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記インフルエンザウイルスの調製物は、凍結の間にγ線を照射される、請求項20または請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記γ線を照射することによって不活性化した後に、前記ウイルスを凍結乾燥する追加の工程を含む、請求項19〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記インフルエンザワクチンは、鼻腔内投与用に処方される、請求項19〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記インフルエンザワクチンは、複数のインフルエンザウイルスサブタイプに対する交差反応免疫を誘発する、請求項20〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記複数のインフルエンザウイルスサブタイプは、インフルエンザAサブタイプHPAI A(H5N1)を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記複数のインフルエンザウイルスサブタイプは、インフルエンザAサブタイプH1N1 09ブタインフルエンザを含む、請求項25または請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記不活性することは、前記ウイルスを、約6.5×10rad〜約2×10radのγ線の総線量に曝露することを含む、請求項19〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記不活性化することは、前記ウイルスを、約1×10radのγ線の総線量に曝露することを含む、請求項19〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
インフルエンザウイルス感染を治療または予防するための医薬の調製のためのγ線を照射したインフルエンザウイルスの使用。
【請求項31】
前記医薬は、鼻腔内投与用に処方される、請求項30に記載の使用。
【請求項32】
前記医薬は、複数のインフルエンザウイルスサブタイプに対する交差反応免疫を誘発する、請求項30または請求項31に記載の使用。
【請求項33】
前記複数のインフルエンザウイルスサブタイプは、インフルエンザAサブタイプHPAI A(H5N1)を含む、請求項30または31に記載の使用。
【請求項34】
前記複数のインフルエンザウイルスサブタイプは、インフルエンザウイルスサブタイプH1N1 09ブタインフルエンザを含む、請求項30または31に記載の使用。
【請求項35】
請求項19〜29のいずれか一項に記載の生成されたワクチン。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20−1】
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【図20−2】
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【図21−1】
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【図21−2】
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【図22−1】
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【図22−2】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27−1】
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【図27−2】
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【図28】
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【図29】
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【公表番号】特表2011−529856(P2011−529856A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−520282(P2011−520282)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【国際出願番号】PCT/AU2009/000983
【国際公開番号】WO2010/012045
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(511025260)ガマ ワクチンズ ピーティワイ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】