説明

インフルエンザ予防・治療剤

【課題】植物成分から単離された化合物を有効成分とする、インフルエンザウイルス殺傷活性が高く、副作用が少ないインフルエンザ予防・治療剤を提供すること。
【解決手段】センダン科植物又はその抽出物を含有することを特徴とするインフルエンザ予防・治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザ予防・治療剤、特に、植物由来の成分を含有し、ヒトのインフルエンザに対して優れた効果を有するインフルエンザ予防・治療剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスはヒト、ウマ、ブタ、トリ等の動物に幅広く分布して多大な被害を与えている。特に、A型ウイルスの分布域は、トリをルーツとして人間の領域に奥深く根を張り、冬期を中心にして毎年世界的に流行し、その被害は計り知れないもので、トリの世界においてもその危害は例外ではない。例えば、今日のH5トリインフルエンザのニワトリの領域での流行は経済的にも多大な損失を与え、このウイルスの人間の世界への登場は大きな恐怖となっている。さらに、A型ウイルスだけでなく、人間の領域ではB型ウイルスも毎年のように流行している。
ウイルス感染症は治療よりもワクチンによる予防が基本的な戦略であるが、その例に漏れず、基本的なインフルエンザ戦略はワクチンによる予防が中心となっている。この手法に加えて、今日ではタミフルに代表される治療薬も利用できるようになってきたが、これはあくまでも治療薬であり、予防薬としては使用できない仕組になっている。このタミフルに加えて、アマンダジン及びリマンダジンも治療薬として認可されているが、この薬に対する耐性ウイルス出現の速度が速く、現実的には有用な治療薬とは言い難い。このような状況の中で、今日の世界において有効なインフルエンザ予防薬は未だ開発されていない。その意味で、ヒト及びトリインフルエンザ、さらにB型インフルエンザにも有効な予防用坑インフルエンザ物質の開発が急がれている。
一方、本発明者は、センダン科植物又はその抽出物が、抗腫瘍活性を有することを見出しているが(特許文献1)、これらがインフルエンザウイルス殺傷活性を有することは未だ知られていない。
【0003】
【特許文献1】特開2004-256426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、植物成分から単離された化合物を有効成分とする、インフルエンザウイルス殺傷活性が高く、副作用が少ないインフルエンザ予防・治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、植物成分における活性を研究している過程で、センダン科植物又はその抽出物が、ヒト及びトリインフルエンザウイルス、並びにB型インフルエンザウイルスを強力に殺傷する成分を含有し、これを用いると上記課題を解決できるとの知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明は、センダン科植物又はその抽出物を含有することを特徴とするインフルエンザ予防・治療剤を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、優れたインフルエンザウイルス殺傷効果を有し、副作用が少ないインフルエンザ予防・治療剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いるセンダン科植物は、センダン科(Meliaceae)に属する植物であって、太い枝先に羽状複葉をもち、円錐花序を有する常緑または落葉の高木が中心であるが、低木や草本状のものも存在している。これらのうち、特に、センダン(Melia Azedarach L.やMelia Azedarach var. subtripinnata)を用いるのが好ましい。本発明では、センダン科植物の葉、茎、枝、樹皮及び実を用いることができる。又、根皮を用いることもできる。センダン科植物自体をインフルエンザ予防・治療剤の有効成分として使用する場合には、これらを乾燥した後、微細に粉砕するか、あるいは直接に抽出して用いるのが好ましい。
【0008】
本発明では、センダン科植物の葉、茎、枝、樹皮及び実を、例えば、乾燥し、粉砕した後、又は未乾燥の生の状態で、水、例えば、蒸留水やイオン交換水で、又は親水性若しくは疎水性有機溶媒で抽出した液自体又はその乾燥物を用いることができる。ここで用いる有機溶媒としては、酢酸エチル、四塩化炭素、クロロフォルム、ジクルロメタン、メタノール、エタノール、(イソ)プロピルアルコール、ブタノール、アセトン又はDMSOがあげられる。ここで親水性溶媒は、含水形態で用いることもできる。使用する水や溶媒の量は任意とすることができるが、5分の1〜10倍量で用いるのがよく、特に約等量で用いるのが好ましい。又、抽出は、60℃以下であるのがよく、さらに室温で行うのが好ましく、特に、ミキサーなどで攪拌しながら行うのがよい。
センダン科植物の抽出物中の有効成分が、分子量10000以下のものであるのが好ましく、より好ましくは、分子量4000〜10000又は3000以下であり、最も好ましくは約5千である。
水又は溶媒抽出物は、そのままの液体状態で使用することもできるが、乾燥し、粉末、顆粒などの固形状で用いることもできる。
尚、センダン科植物又はその抽出物を含有するインフルエンザ予防・治療剤とする場合、これらに加えて、医薬上許容される各種の製剤用物質、例えば、賦形剤、希釈剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤等を補助剤として含むことができる。具体的には、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、ラクトース、マンニトール及びその他の糖類、タルク、ミルク蛋白、ゼラチン、澱粉、セルロース及びその誘導体、動物及び植物油、ポリエチレングリコール、グリセロールなどがあげられる。
【0009】
本発明のインフルエンザ予防・治療剤は、噴霧投与によるのが好ましいが、これに限定されるものではない。本発明のインフルエンザ予防・治療剤は、体重1Kg当たり、0.01〜2g程度の量で用いるのがよい。
次に本発明を実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0010】
実施例1
センダン液の抽出法
センダンの葉の部分を60℃で乾燥させ、これを布地の袋に入れて60℃で熱水抽出、さらに冷水抽出も実施した。このセンダンエキスをさらに遠心機(6500rpm、30分)で葉の混入物を除き、100万以上、30万、10万、5万、1万分子のろ過膜を用いて段階的に部分精製した。このようにして得たエキス(以下、抽出エキスという)を200nmと450nmのミノポアフィルターで滅菌して以下の試験に供した。
ウイルスの不活化試験
ウイルスの不活化にはイヌの腎臓細胞のMDCKにA/PR/8/34(H1N1)、A/モスクワ/1/00(H3N2)、B/山形/16/88及びトリインフルエンザウイルスのA/duck/Singapore-Q/F119-3/97(H5N3)株を感染させて実施した。感染方法は、直径60mmのシャーレの全面に増殖したMDCK細胞をマイナスPBS(2価イオンの入っていない燐酸緩衝食塩水)で1回洗い、そこに感染価300PFU程度のウイルスを接種、30分後の吸着時間を経て寒天の入った重層用MEM培地を加え、3日後に出現してきたプラーク数を数えた。ウイルスを接種するに際し、あらかじめ2倍段階希釈したセンダン部分精製成分(抽出エキス)をウイルスと等量混合した。混合後の反応時間は30分に設定した。ウイルス感染価の定量は、各サンプル希釈点で2枚のシャーレに出現したプラーク数の平均値を対照ウイルスで除してプラーク阻止率を算定した。
具体的には、1希釈点に2枚ずつのシャーレを設定して2枚に出現したプラーク数を算定して、その平均値を基礎にプラーク形成阻止率を調べた。結果を表1に示す。
【0011】
センダン抽出エキスを種々の倍率に希釈して用いた場合の結果を表1に示す。


表中、#は、プラーク感染価は1希釈点で2枚のシャーレに形成された平均プラーク数で
ある。−*は試験せずを意味する。
【0012】
表2.抽出エキスによるインフルエンザウイルスの増殖に与える影響

表中、*ウイルスの増殖はHA活性で調べた。被検体1には抽出エキスの16倍希釈品、被検体2には抽出エキスの32倍希釈品を与えて検査に供した。増殖実験にはA/PR/8/34ウイルスを使用した。
【0013】
表1に示されている結果から、センダン成分は4倍、8倍、16倍、32倍、64倍に希釈してもA/PR/8/34ウイルスのプラークを100%阻害し、128倍の希釈においても90%という高いウイルス不活化効果を示した。同様に、A/香港型ウイルスのA/Moscow/1/00、さらに、B型ウイルスに対しても、それぞれ64倍の希釈点において98%以上のプラーク形成阻止率を見せ、256倍に希釈しても80%以上のウイルス阻止率を示していることが明らかになった。これらのウイルスに加え、H5のトリインフルエンザウイルスも実験に採用したが、サンプルを128倍に希釈しても、依然として高いウイルス不活化効果(91.1%)を示していることが明らかになった。
以上のことから、センダンの成分はヒトや動物の領域に分布するすべてのA及びB型インフルエンザウイルスを殺傷できることが示され、インフルエンザウイルス感染の予防や消毒薬として利用できる可能性が示されたことになる。このプラーク形成阻害試験に加えて、ウイルスが増殖している所にもセンダン成分を加えて、時間とともに進んでいる増殖曲線に与える影響も調べた。その結果を表2に示したが、センダン成分を加えていないウイルス対照の増殖が感染後2日目でHA活性がすでに8倍に上がり、2日目に1024の頂点に達していることが明らかになった。これと対照的に、センダン液を16倍及び32倍に希釈した場合にもウイルス量は4日になっても全く検知されなかった。この増殖曲線から判断しても、センダンエキスは効果的にウイルスを殺傷する能力を持っていることから、抗インフルエンザ薬として幅広い製品開発に利用できる可能性が高い。
【0014】
実施例2:インフルエンザウイルス感染予防試験
4週間のメスddYマウスをバルビタールで麻酔し、20〜40マイクロリットルの被検サンプルを鼻腔内に接種して感染させた。それぞれの検体は約1000PFU(プラーク感染価)のウイルス液だけ、ウイルス液とセンダンエキス(実施例1で得た抽出エキス:未希釈品)を混合したもの、感染前のマウスの鼻にセンダン液を吹きつけたマウスの鼻腔内にウイルス接種した。試験マウス群はそれぞれ5〜7匹で構成させ、評価は終極的にマウスの体重と生存率で調べた。さらに、試験期間中に肺炎の発生率も調べた。
インフルエンザウイルス(A/PR/8/34)接種後における抽出エキス(ML1)投与後のマウスの生存率についての結果を表3に示す。
【0015】

表中の数字1、2、3、−−−は、インフルエンザ感染後の日数を示す。
表3に示されている結果から、ウイルスだけを接種したマウス群は、接種後3日目から体重が急激に減少し肺炎が強く進行していることが示唆された。その後も体重は減少し続け、7日目におけるマウスの生存率は60%、さらに9日目には40%の生存率となっていた。体重の減少から判断して、その後も生存率は小さくなっていくものと考えられる。しかしながら、感染前にセンダン成分を鼻腔内に吹きつけたマウス群の体重は、全実験期間中にわたって体重の増加は順調に推移し、肺炎の発生は未然に食い止められていることが明らかになった。また、ウイルスとセンダン成分を混合して感染させたマウス群には体重の減少は認められず、センダンの成分によるウイルスの不活化がマウスへの感染が成立させなかったことが明らかになった。このことを反映して、結局、マウスの鼻腔内へのセンダン成分の吹きつけ、さらに、感染前のウイルスへの同成分を混合されたマウスの生存率は100%となった。このようなことから、センダン成分に著しいインフルエンザウイルス感染予防効果のあることが確認された。また、感染病理学的側面から調べてみても、ウイルスとセンダン成分を混合した場合、あるいは感染前にセンダン成分を鼻腔内に吹きつけてからウイルスを感染させたマウスには肺炎所見は見られなかった。このときのウイルスだけを鼻腔に接種したマウスの肺炎所見は100%の肺面積に広がり、センダン成分で処置したマウス群の肺炎発生が全くなかったこととは対象的な違いを見せた。
【0016】
以上の結果から、センダン成分のインフルエンザウイルス予防効果は極めて有意義なものであると評価された。この知見を根拠に考えると、今日までワクチンやタミフルのようなインフルエンザ治療薬が利用できるようになったことの有利さは確かに大きな進歩といわざるを得ない。しかしながら、感染を事前に食い止めることはより重要であることに変わりはない。この意味で、本発明のセンダン成分を含有する抗インフルエンザウイルス剤はすべてのインフルエンザウイルスを殺傷する能力を持っていることが強く示唆され、鼻腔や口から侵入してくるウイルスを直接不活化するので、様々な形のインフルエンザ予防薬の開発に利用できると考えられる。例えば、鼻腔から侵入してくるインフルエンザ予防用噴霧剤やインフルエンザ予防用うがい液にも利用できることになろう。加えて、家庭用インフルエンザ予防用噴霧液、会社や病院、あるいは駅や養鶏場などの大規模施設などでの消毒薬にも利用できる可能性が十分にあり、本発明の抗インフルエンザ物質の利用価値は極めて高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センダン科植物又はその抽出物を含有することを特徴とするインフルエンザ予防・治療剤。
【請求項2】
センダン科植物の抽出物が、センダン科植物の葉、実、枝又樹皮の水性抽出物である請求項1記載のインフルエンザ予防・治療剤。
【請求項3】
センダン科植物の抽出物が、センダン科植物の葉、実、枝又樹皮の有機溶剤抽出物である請求項1記載のインフルエンザ予防・治療剤。

【公開番号】特開2007−254319(P2007−254319A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78796(P2006−78796)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(505249090)有限会社やんばるグリーンヘルス (2)
【Fターム(参考)】