説明

インフルエンザ血球凝集素多価ワクチンの製造方法

【課題】DNA技術を用いた組換えインフルエンザワクチンを調製するための方法の提供。
【解決手段】得られるワクチンは、多価、好ましくは3価の、伝染病の可能性のあるインフルエンザウイルスからクローン化された組換え血球凝集素抗体の混合物に基づくインフルエンザワクチンである。組換え血球凝集素抗体は、全長で、分解されておらず(HA0)、培養された昆虫細胞中でのバキュロイルス発現ベクターから生成され、非変成条件下で精製された。好ましい実施態様においては、クローン化されたHA遺伝子は、続いて天然疎水性シグナルペプチド配列が欠失され、またそれらを新規バキュロイルスキチナーゼシグナルペプチドで置き換えることにより改変される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に組換えインフルエンザワクチンの領域にある。
【背景技術】
【0002】
卵中での繁殖を要求しないインフルエンザワクチンの製造方法は、好ましくない免疫反応を引き起こす恐れの少ないであろうより純粋な製品という結果となる。さらに、より純粋なワクチン繁殖は、ウイルスの不活性化またはウイルス膜成分の有機的抽出を要求しないであろうから、それにより、抗原性エピトープの変性およびワクチン中の残存化合物による安全性の懸念を回避するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
付加的には、卵繁殖なしで生産されたインフルエンザワクチンは、卵を通しての適応および継代の間に生じる遺伝的非相同性を回避するであろう。これにより、インフルエンザ伝染病株により適合したワクチンという結果となり、改善された効率となるであろう。
【0004】
従って、卵中での複製を必要としないインフルエンザワクチンの製造方法を提供することが本発明の目的である。
【0005】
迅速で、経費効率が良く、高度に精製された、インフルエンザの1次給源からのワクチン製造を可能とするインフルエンザワクチンの製造方法を提供することが本発明のさらなる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
組換えインフルエンザ血球凝集素タンパク質の、バキュロイルス発現系を用いた昆虫細胞中での発現による調製方法を提供する。得られたタンパク質は、伝染性である可能性を有するインフルエンザウイルスからクローン化された組換え血球凝集素抗原の混合物に基づく多価インフルエンザワクチンを作成するのに有用である。組換え血球凝集素抗原は、全長で、HA1およびHA2の両方のサブユニット(HA0)を有する、非変性条件下で95%より高い純度、好ましくは99%の純度まで精製された分解されていない(HA0)糖タンパク質である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
組換えインフルエンザワクチンの調製方法について記載する。インフルエンザウイルス由来の、全長の、分解されていない(HA0)血球凝集素抗原がバキュロイルス発現系により昆虫細胞中で産生され、非変性条件下で精製された。インフルエンザAおよび/またはインフルエンザB株由来の2またはより多くの精製された血球凝集素を一緒に混合して、多価インフルエンザワクチンを形成した。組換え抗原は、効率を高めるためにアジュバント担体と組み合わされても良い。
【0008】
配列番号6は、バキュロイルス61Kシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド配列に結合したA/北京/32/92のHAをコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸配列である。配列番号7は対応するアミノ酸配列であり、バキュロイルス61Kシグナルペプチド(アミノ酸1−18)に結合したHAのアミノ酸配列を示す。
【0009】
配列番号8は、バキュロイルス61Kシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド配列に結合したA/テキサス/36/91のHAをコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸配列である。配列番号9は対応するアミノ酸配列であり、バキュロイルス61Kシグナルペプチド(アミノ酸1−18)に結合したHAのアミノ酸配列を示す。
【0010】
配列番号10は、B/パナマ/45/90のHAをコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸配列である。配列番号11は対応するアミノ酸配列である。
【0011】
配列番号12は、バキュロイルス61Kシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド配列に結合したB/オランダ/13/94のHAをコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸配列である。配列番号13は対応するアミノ酸配列であり、バキュロイルス61Kシグナルペプチド(アミノ酸1−18)に結合したHAのアミノ酸配列を示す。
【0012】
配列番号14は、バキュロイルス61Kシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド配列に結合したA/山東/9/93のHAをコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸配列である。配列番号15は対応するアミノ酸配列であり、バキュロイルス61Kシグナルペプチド(アミノ酸1−18)に結合したHAのアミノ酸配列を示す。
【0013】
配列番号16は、バキュロイルス61Kシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド配列に結合したB/上海/4/94のHAをコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸配列である。配列番号17は対応するアミノ酸配列であり、バキュロイルス61Kシグナルペプチド(アミノ酸1−18)に結合したHAのアミノ酸配列を示す。
【0014】
配列番号18は、B/ハルビン/7/94のHAをコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸配列である。配列番号19は対応するアミノ酸配列である。
【0015】
配列番号20は、バキュロイルス61Kシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド配列に結合したA/ヨハネスブルグ/33/94HAをコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸配列である。配列番号21は対応するアミノ酸配列であり、バキュロイルス61Kシグナルペプチド(アミノ酸1−18)に結合したHAのアミノ酸配列を示す。
【実施例】
【0016】
実施例1
インフルエンザウイルスの繁殖と精製
以下のインフルエンザワクチン株が、FDAから鶏卵尿液中に得られた:
A/北京/353/89様(H3N2)
A/北京/32/92様(H3N2)
A/テキサス/36/91様(H1N1)
B/パナマ/45/90
実施例2
インフルエンザA/テキサス/36/91 HA遺伝子のクローニング
インフルエンザHA遺伝子の1つのためのクローニングの手順の特別な例が図2に示されている。
【0017】
実施例3
細菌プラスミドへのHA遺伝子のクローニング
PCR増幅されたrHA遺伝子はpUC様プラスミドベクター中にTAクローニングシステム(Invitrogen、Inc.)を用いてクローン化された。
【0018】
実施例4
組換えHA遺伝子の昆虫細胞中での発現
クローン化されたHA遺伝子を含むキメラ組換えプラスミドを精製し、2μgを、1μgのAcNPV野生型DNAと混合した。
【0019】
実施例5
組換えHAの生産および精製
インフルエンザA/北京/353/89の遺伝子を含むバキュロイルス発現ベクター、A8611が、A/北京/32/92血液凝集素をポリヘドリンプロモーターについて上に記載されたものと実質的に同様に作られ、S.frugiperda細胞を感染させるために用いられた。
【0020】
実施例6
rHAプロテアーゼ抵抗性の分析
成熟HAは、HAモノマーを分解するトリプシンを含む酵素に対して抵抗性である3次構造に集合する(Murphy and Webster、1990)。
【0021】
実施例7
標準化されたマウス効力アッセイを用いたrHAの免疫原性
ある抗原の免疫原性を測定するための方法の1つに、マウス中において検出可能な抗体反応を誘導するために必要な量を決定することがある(マウス効力アッセイ)。
【0022】
実施例8
アジュバントと組合せたrHAの投与および入手可能なインフルエンザワクチンとの比較
インフルエンザA/北京/353/89由来の精製されたrHAのマウス効力がアルムとともに、またはアルム無し(ニート)で試験され、市販のインフルエンザワクチンで、インフルエンザA/北京/353/89を含んでいるFluzone(登録商標)(Connaught Laboratories、Inc.Swiftwater、PA)と比較した。
【0023】
実施例9
血液凝集素阻害の研究
血液凝集素阻害(HAI)抗体は、4つの公知の抗体のうちの3つに結合し、インフルエンザの赤血球を凝集する能力を妨害する(Wilson et al.,”Structure of the hemagglutinin membrane glycoprotein of influenza virus at 3Å resolution”Nature、289:366−378(1981))。
【0024】
実施例10
1993/1994インフルエンザワクチンの系統的記述および診療効率
一連のヒト臨床試験が、組換えHAを含む実験インフルエンザワクチンのヒトでの安全性および免疫原性を特徴づけるために、および、そのようなワクチンの伝染病の季節の間の天然感染に対しての防御効果についての予備的データを得るために行われた。
【0025】
実施例11
改善されたHA0クローニングベクターを作成するための方法
成熟HAの発現のための改善されたクローニングベクターであって、HAをコードする遺伝子がキチナーゼシグナルペプチドの配列をコードする配列の直後に配置されているものが設計された。
【0026】
実施例12
1995−1996インフルエンザウイルスワクチンAおよびB3価型の調製および効果
インフルエンザウイルスワクチン、精製された組換え血球凝集素、3価、AおよびB型(A/テキサス/36/92/1(H1N1)、A/ヨハネスブルグ/33/94(H3N2)およびB/ハービン/7/94)は、精製された組換えインフルエンザ血球凝集素抗原(HA)から派生された非感染性サブユニットである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1はインフルエンザA株由来のHA遺伝子のウイルスRNA調製物からのクローニング、発現されたrHAの精製、およびrHAの生物学的な活性を示す図である。
【0028】
略語:FDA、食品薬品局;MDCK、マディン ダービー(Madin Darby)イヌ腎臓;TPCK、トシルフェニルアラニルクロロメチルケトン;RNA、リボ核酸;HA、血球凝集素;FBS、胎児ウシ血清;PCR複製連鎖反応;BV、バキュロイルス。
【図2】図2は、インフルエンザA/テキサス/36/91株のHA遺伝子のクローニングおよび発現に応用された図1の方法のより詳細な図である。インフルエンザHA遺伝子は、インフルエンザA/テキサス/36/91株に感染したMDCK細胞から精製されたRNAより、逆転写酵素およびユニバーサルプライマー(配列番号1)を用いて、続いて2ラウンドのPCR増幅およびクローニングにより得られた。示されているように、第1のラウンドのPCR反応においては、5’末端プライマー配列番号2および3’末端プライマー配列番号3が用いられた。第2ラウンドのPCR反応においては、5’末端プライマー配列番号4および3’末端プライマー配列番号5が用いられた。バキュロイルス組換えベクターはポリヘドリン(polyhedrin)プロモーター、および成熟HAタンパク質の完全コード配列が続いているバキュロイルス61K遺伝子(約61000の分子量を有するシグナルペプチドをコードしているバキュロイルス遺伝子)由来のシグナルペプチド配列を含んで構築された。この組合せのベクターは、続いてこのウイルス株からHAを生産するバキュロイルス発現ベクターを作成するために用いられた、
【図3】図3は、42日、n=5のマウスにおける抗HA免疫反応のグラフであり、rHA0−ニート(neat);Fluzone(登録商標)ワクチンおよびrHA−アルム(alum)についての抗体価を、投与量0.5μg(黒いバー)、0.1μg(影付きバー)、0.02μg(水玉バー)、0.004μg(白いバー)で図示している。
【図4a】図4aは、rHAまたは許可された3価ワクチン(1994ー1995規格)で免疫化されたマウスにおける抗HA免疫反応を、ワクチン化後の期間(週)に対するHIA力価で示す。rHA(HAI A/テキサス/36/91)(菱形)および卵中で培養された弱毒化ワクチンFLUVIRON(登録商標)(正方形)に関して図示する。
【図4b】図4bは、rHAまたは許可された3価ワクチン(1994ー1995規格)で免疫化されたマウスにおける抗HA免疫反応を、ワクチン化後の期間(週)に対するHIA力価で示す。rHA(HAI A/シャンドン(Shangdong)/9/93)(菱形)および卵中で培養された弱毒化ワクチンFLUVIRON(登録商標)(正方形)に関して図示する。
【図4c】図4cは、rHAまたは許可された3価ワクチン(1994ー1995規格)で免疫化されたマウスにおける抗HA免疫反応を、ワクチン化後の期間(週)に対するHIA力価で示す。rHA(HAI B/パナマ/45/90)(菱形)および卵中で培養された弱毒化ワクチンFLUVIRON(登録商標)(正方形)に関して図示する。
【0029】





























【特許請求の範囲】
【請求項1】
バキュロイルス発現系において昆虫細胞中で発現され、95%より高い純度まで精製された組換えインフルエンザHA0血球凝集素タンパク質であって、成熟HA0糖タンパク質であることを特徴とする組換えインフルエンザHA0血球凝集素タンパク質。
【請求項2】
前記インフルエンザがインフルエンザA株およびインフルエンザB株より成る群から選択されることを特徴とする請求項1記載のタンパク質。
【請求項3】
請求項1記載のタンパク質、ならびにアジュバント剤を含んでなるインフルエンザワクチン。
【請求項4】
培養昆虫細胞において、バキュロイルス発現系によって産生され、95%より高い純度まで精製された組換え成熟グリコシル化インフルエンザ赤血球凝集素タンパク質であって、免疫原性であって、ワクチンとして用いられた場合に防御免疫反応を誘導することを特徴とするタンパク質。
【請求項5】
請求項4記載のタンパク質を含んでなるワクチン組成物。
【請求項6】
請求項4記載のタンパク質、およびアジュバント剤を含んでなるワクチン組成物。
【請求項7】
前記インフルエンザが、インフルエンザA株およびインフルエンザB株より成る群から選択されることを特徴とする請求項4記載のタンパク質。
【請求項8】
有効量の請求項4記載のタンパク質を動物(ヒトを除く)に投与することを含んでなる、インフルエンザに対して動物にワクチン接種する方法。
【請求項9】
アジュバント剤と組み合わせて前記タンパク質を前記動物に投与することを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記インフルエンザがインフルエンザA株およびインフルエンザB株より成る群から選択されることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項11】
前記動物が、哺乳類であることを特徴とする請求項8記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【公開番号】特開2007−314538(P2007−314538A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136405(P2007−136405)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【分割の表示】特願2004−360081(P2004−360081)の分割
【原出願日】平成7年5月26日(1995.5.26)
【出願人】(504457474)プロテイン サイエンシーズ (4)
【Fターム(参考)】