説明

インフレーションフィルムの製造装置およびインフレーションフィルムの製造方法

【課題】透明性に優れるフィルムを製造することができるインフレーションフィルムの製造装置を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂を押出すための環状ダイを備えた押出機、押し出されたバブルを保温する保温部材、保温したバブルを冷却するエアリング装置、冷却されたチューブ状フィルムを巻き取るための巻取り装置からなるインフレーションフィルムの製造装置であって、前記保温部材が、円筒状であって、両開口部の直径よりも胴部の直径が大きいことを特徴とするインフレーションフィルムの製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂からなるインフレーションフィルムの製造装置および該製造装置を用いるインフレーションフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂からなるインフレーションフィルムは、包装用、農業用、規格袋等幅広い分野で用いられている。インフレーション成形においては、環状ダイから押出された溶融状態のチューブ状フィルムを冷却する必要があるため、冷却媒体を吹き付けるためのエアリング装置が環状ダイの出口に設けられた装置が用いられる。フィルムの製造速度を速めるためには、エアリング装置から吹出される冷却媒体の速度を速めて冷却効果を増加させることが必要であるが、早い速度で冷却媒体を一箇所から吹出すと、溶融状態のチューブ状フィルムが不安定となり、高速加工が困難となる、という問題があった。
このような問題を解決するためのエアリング装置として、特許文献1に記載されているような、空気の吹出口が二箇所設けられており、一方の吹出口が装置の中心線に対し垂直に向けられ、他方の吹出口が同じ中心線に対して一定の角度をもって向けられている装置が知られている。このような装置を用いることにより、装置の中心に対し垂直方向に向けられた吹出口から吹出す冷却媒体によって、溶融状態のチューブ状フィルムが急冷されて安定化するため、もう一方の吹出口から供給する冷却媒体の速度を速めることができる。
しかしながらこのような装置を用いてエチレン−α−オレフィン共重合体をインフレーション成形した場合には、得られるフィルムが透明性に劣る場合があった。
【特許文献1】特開平5−228993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、透明性に優れるフィルムを製造することができるインフレーションフィルムの製造装置、および該装置を用いるインフレーションフィルムの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち本発明は、熱可塑性樹脂を押出すための環状ダイを備えた押出機、押し出されたバブルを保温する保温部材、保温したバブルを冷却するエアリング装置、冷却されたチューブ状フィルムを巻き取るための巻取り装置からなるインフレーションフィルムの製造装置であって、前記保温部材が、円筒状であって、両開口部の直径よりも胴部の直径が大きいことを特徴とするインフレーションフィルムの製造装置である。さらに本発明は、前記インフレーションフィルムの製造装置を用いるインフレーションフィルムの製造方法であって、下記の工程(1)−(5)を順に含むことを特徴とするインフレーションフィルムの製造方法である。
(1)環状ダイを備えた押出機にて熱可塑性樹脂を溶融混練する工程
(2)前記環状ダイからバブルを押出す工程
(3)押出したバブルを、円筒状であって、両開口部の直径よりも胴部の直径が大きい保温部材の内周側を通過させる工程
(4)保温部材の内周側を通過させたバブルに、エアリング装置から冷却媒体を吹き付ける工程
(5)冷却したチューブ状フィルムを、巻取り装置にて巻き取る工程

【発明の効果】
【0005】
本発明のインフレーションフィルムの製造装置を用いてインフレーション成形することにより、透明性に優れるフィルムを製造することができる。また本発明のインフレーションフィルムの製造方法によれば、透明性に優れるフィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明のインフレーションフィルムの製造装置は、熱可塑性樹脂を押出すための環状ダイを備えた押出機、押し出されたバブルを保温する保温部材、保温したバブルを冷却するエアリング装置、冷却されたチューブ状フィルムを巻き取るための巻取り装置からなる。本発明における保温部材とは、円筒状であって、両開口部の直径よりも胴部の直径が大きい部材である。該保温部材を環状ダイ上に設置し、環状ダイから押出したバブルが該保温部材の内周側を通過するようにして成形することにより、バブルと保温部材との間の空間の温度がバブルの温度によって上昇し、その結果バブルを保温することができる。このような装置を用いると、環状ダイから押出されたバブルはその温度を維持しながら所定の直径まで拡大し、その後冷却されることになる。このような方法により得られるフィルムは、従来のバブルを冷却しながら拡大する方法で得られるフィルムよりも、透明性に優れるものとなる。
保温部材の両開口部の直径は同じでもよいが、バブルと開口部とができるだけ近くなるようにするため、環状ダイ側の開口部(バブル上流側開口部)が小さく、反対側の開口部(バブル下流側開口部)が大きいほうがよい。両開口部の直径は、バブルとは接触しないことが必要であるが、できるだけバブルに近い大きさであることが保温性の観点から好ましい。なお両開口部の直径が異なる場合の保温部材の胴部の直径は、大きい方の開口部直径よりも、さらに大きい必要がある。なお、本発明における開口部および胴部の直径とは、各部位の内径を意味する。
【0007】
保温部材胴部の直径(Db)は、環状ダイのリップ直径(D1)の1.1〜5倍であることが好ましい。保温部材の上側開口部の直径(Du)は、成形するフィルムのバブル直径によって適宜選定されるが、目的のバブルの最大直径(Df)の0.5〜1.5倍であることが好ましい。保温部材の胴部の直径は、胴部全てで同一である必要はないが、同一であることが好ましい。保温部材胴部の直径が胴部全てで同一でない場合、胴部の直径(Db)は、最も小さい内径を表す。
また保温部材は、円筒状の1つの部材であってもよく、いくつかのブロックを組み合わせて円筒状とした部材であってもよい。保温部材には、電気配線や配管等を通すために、外周面から内周面まで貫通穴を設けてもよい。
保温部材と環状ダイの間は外部の雰囲気と通じないよう密着して接合されることが好ましい。但し、保温部材と環状ダイの間に断熱材やスペーサーを挿入してもよい。
【0008】
本発明の製造装置は、前記保温部材の内周側にヒーターを備えることが好ましい。該ヒーターは赤外線ヒーターであり、パネル状のものが好ましく用いられる。ヒーターは、複数のヒーターを、保温部材の内周側を通過するバブルを取り囲むように、かつ各赤外線ヒーターの放射面がバブル中心方向となるように配置することが好ましい。ヒーターは、その放射面の最もバブル中心軸に近い位置におけるバブル中心軸からの距離が、保温部材下流側開口部の直径の1/2よりも長くなるようにして配置することが好ましい。
ヒーターから放射される赤外線は、波長3〜4μmの遠赤外線が好ましい。例えば、環状ダイのリップ直径が125mmのインフレーション製造装置の場合、縦120mm、横60mmのパネル状赤外線ヒーターを9〜10個配置することができる。
該赤外線ヒーターは熱電対等の温度センサーを組み込むことによって温度調整することが好ましい。より好ましい方式は、環状に配置された赤外線ヒーターを数グループに分割して各グループ毎に温度調整する方式であり、すべての赤外線ヒーターを独立に温度調整可能とすることがさらに好ましい。このように分割温度調整、あるいは独立温度調整をすることによって、フィルムの偏肉を矯正することが可能となる。すなわち、厚みの厚い部分に対応する赤外線ヒーターの温度をより高い温度に、厚みの薄い部分に対応する赤外線ヒーターをより低い温度に設定することにより、フィルムの偏肉を矯正することができる。
【0009】
本発明における押出機としては、公知の押出機を使用することができる。該押出機に備えられた環状ダイも、公知のスパイラルダイ方式、スパイダー方式のいずれのダイであってもよい。
本発明におけるエアリング装置としても、公知の装置を用いることができる。エアリング装置は、通常、ブロアから供給される冷却媒体を整流するエアリング本体と、該冷却媒体をバブルに吹き付ける吹出しリングを有する。さらに吹出しリング下流側に、冷却媒体の流れを制御するためのチャンバーリングを有していてもよい。冷却媒体は通常空気であり、チラー等を用いて20℃以下に温調されていることが好ましい。
該吹出しリングの吹出口の環状ダイ面からの高さ(Uh)は、環状ダイリップ径(Dl)の0.8〜5.0倍であることが好ましく、より好ましくは1.0から4.0倍、さらに好ましくは1.2倍〜3.0倍である。吹出口が、フィルム押出し方向に複数設けられている場合、前記の高さ(Uh)は保温部材下流側にあり、該保温部材と最も近い吹出口の高さである。吹出しリング先端の吹出口には、冷却媒体の吹き出し方向がバブルの流れ方向に沿うように角度を与えることが好ましい。
【0010】
本発明の製造装置では、環状ダイと保温部材との間に、エアリング装置の吹出しリングが設置されていてもよい。ただし該吹出しリングから冷却媒体をバブルへ吹き付けるのは、フィルム製造開始時に、バブルを立ち上げる際のみであり、インフレーションフィルムを連続的に製造する際には、該吹出しリングから冷却媒体をバブルへ吹き付けることはない。
【0011】
本発明のインフレーション製造装置は、通常、上向き吹出しのインフレーション成形に用いられるが、横向き吹出しのインフレーション成形や、下向き吹出しのインフレーション成形においても適用可能である。
【0012】
上記した本発明の製造装置を用いて、以下の工程(1)−(5)を順に実施することにより、インフレーションフィルムを製造することができる。
(1)環状ダイを備えた押出機にて熱可塑性樹脂を溶融混練する工程
(2)前記環状ダイからバブルを押出す工程
(3)押出したバブルを、円筒状であって、両開口部の直径よりも胴部の直径が大きい保温部材の内周側を通過させる工程
(4)保温部材の内周側を通過させたバブルに、エアリング装置から冷却媒体を吹き付ける工程
(5)冷却したチューブ状フィルムを、巻取り装置にて巻き取る工程
【0013】
工程(1)において押出機にて熱可塑性樹脂を溶融混練する際の温度は、使用する熱可塑性樹脂に応じて適宜設定すればよい。例えば熱可塑性樹脂がエチレン系樹脂の場合は120〜230℃、プロピレン系樹脂の場合は150〜250℃、ポリスチレン系樹脂の場合は150〜250℃である。環状ダイの温度も、使用する熱可塑性樹脂に応じて適宜設定すればよい。
【0014】
工程(2)では、環状ダイからバブルを押出す。さらに該バブルを、円筒状であって、両開口部の直径よりも胴部の直径が大きい保温部材の内周側を通過させ、次いで前記保温部材上に設けたエアリング装置から冷却媒体を吹き付けて冷却することにより、チューブ状フィルムを得ることができる。該チューブ状フィルムは、ロール等の巻取り装置により巻き取られる。
【0015】
環状ダイリップから押出されたバブルは、ブローアップによって徐々にその直径を増し、製造しようとする目的の最大直径まで達する。工程(4)においてバブルに冷却媒体を吹き付ける位置は、バブルの直径が、該バブルの最大直径の70%となる位置よりも下流側(バブル流れ方向)であることが好ましい。環状ダイから押出されてから前記した位置までは、保温部材によって保温し、前記した位置に達した時点で冷却を開始することにより、透明性に優れるフィルムを得ることができる。
【0016】
本発明で用いる熱可塑性樹脂は特に制限されず、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレ−ト、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどが挙げられる。これらのうち、インフレーション成形が容易であることから、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、特にエチレン系樹脂が好ましい。
【0017】
本発明でいうエチレン系樹脂とはポリエチレン結晶構造を有する熱可塑性のエチレン重合体を意味し、エチレンから誘導される構成単位を50重量%以上含有する熱可塑性のエチレン重合体であって、エチレンの単独重合体、エチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンとの共重合体、またはエチレンと少なくとも1種の他のモノマーとの共重合体である。該α−オレフィンとしてプロピレン、ブテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、デセン−1を例示することができる。該他のモノマーとして共役ジエン(例えばブタジエンやイソプレン)、非共役ジエン(例えば1,4ペンタジエン)、アクリル酸、アクリル酸エステル(例えばアクリル酸メチルやアクリル酸エチル)、メタクリル酸、メタクリル酸エステル(例えばメタクリル酸メチルやメタクリル酸エチル)および酢酸ビニルを例示することができる。
エチレン系樹脂として例えば、低密度ポリエチレン;中密度ポリエチレン;高密度ポリエチレン;エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−4−メチルペンテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−オクテン−1共重合体、エチレン−デセン−1共重合体などのエチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンとの共重合体;エチレンと共役ジエン(例えばブタジエンやイソプレン)との共重合体;エチレンと非共役ジエン(例えば1,4−ペンタジエン)との共重合体;エチレンとアクリル酸、メタクリル酸または酢酸ビニルなどとの共重合体;および、これらの樹脂を、例えばα,β−不飽和カルボン酸やその誘導体(例えばアクリル酸やアクリル酸メチル)、またはジカルボン酸やその誘導体(例えば無水マレイン酸)で変性(例えばグラフト変性)した樹脂を挙げることができる。
【0018】
本発明のインフレーションフィルムの製造方法は、次のエチレン−α−オレフィン共重合体において特に高い透明性改良効果を発揮する。すなわち、エチレンから誘導される構成単位と炭素原子数3〜20のα−オレフィンから誘導される構成単位を含むエチレン−α−オレフィン共重合体であって、流動の活性化エネルギーが50kJ/mol以上であり、メルトフローレート(MFR;単位はg/10分である。)と190℃の剪断速度100rad/secにおける溶融粘度(η;単位はPa・secである。)とが下記式(1)の関係を満たすエチレン−α−オレフィン共重合体である。
η<1550×MFR-0.25−420 式(1)
エチレンから誘導される構成単位とは、単量体であるエチレンから誘導され、エチレン−α−オレフィン共重合体に含有される単位である。炭素原子数3〜20のα−オレフィンから誘導される構成単位とは、単量体である炭素原子数3〜20のα−オレフィンから誘導され、エチレン−α−オレフィン共重合体に含有される単位である。炭素原子数3〜20のα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン等が挙げられる。より好ましくは、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンである。
【0019】
エチレンから誘導される構成単位の含有量は、エチレン−α−オレフィン共重合体の全重量(100重量%)に対して、通常50〜99重量%である。炭素原子数3〜20のα−オレフィンから誘導される構成単位の含有量は、エチレン−α−オレフィン共重合体の全重量(100重量%)に対して、通常1〜50重量%である。
【0020】
該エチレン−α−オレフィン共重合体は、上記のエチレンから誘導される構成単位および炭素原子数3〜20のα−オレフィンから誘導される構成単位以外の他の単量体から誘導される構成単位を含有していても良い。他の単量体としては、例えば、共役ジエン(例えばブタジエンやイソプレン)、非共役ジエン(例えば1,4−ペンタジエン)、アクリル酸、アクリル酸エステル(例えばアクリル酸メチルやアクリル酸エチル)、メタクリル酸、メタクリル酸エステル(例えばメタクリル酸メチルやメタクリル酸エチル)、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0021】
該エチレン−α−オレフィン共重合体として好ましくは、エチレンと炭素原子数4〜10のα−オレフィンとの共重合体であり、より好ましくは、エチレンと炭素原子数5〜10のα−オレフィンとの共重合体であり、さらに好ましくは、エチレンと炭素原子数6〜10のα−オレフィンとの共重合体である。例えば、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体等が挙げられ、好ましくはエチレン−1−ヘキセン共重合体である。また、エチレンと炭素原子数6〜10のα−オレフィンと1−ブテンとの3元共重合体も好ましく、例えばエチレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−ブテン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ブテン−1−オクテン共重合体等が挙げられ、より好ましくはエチレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体である。
【0022】
該エチレン−α−オレフィン共重合体のメルトフローレート(MFR、単位はg/10分である。)は、通常0.01〜20であり、好ましくは0.05〜10であり、より好ましくは0.1〜5であり、さらに好ましくは0.1〜1である。
【0023】
該エチレン−α−オレフィン共重合体において、メルトフローレート(MFR;単位はg/10分である。)は、JIS K7210−1995に規定された方法に従い、190℃において、荷重21.18N(2.16Kg)で測定された値である。そして、上記のメルトフローレートの測定には、予め酸化防止剤を1000ppm配合した重合体を用いる。
【0024】
該エチレン−α−オレフィン共重合体の密度は、通常、890〜970kg/m3であり、JIS K6760−1981に規定された方法に従って、測定された値である。上記の密度として、好ましくは、本発明のエチレン−α−オレフィン共重合体から得られるフィルムの剛性と衝撃強度のバランスの観点から、905〜940kg/m3であり、より好ましくは907〜930kg/m3である。
【0025】
本発明で好ましく用いられるエチレン−α−オレフィン共重合体は、流動の活性化エネルギー(Ea、単位はkJ/molである。)が50kJ/mol以上である。このようなエチレン−α−オレフィン共重合体は、長鎖分岐を有するような溶融張力に優れたエチレン−α−オレフィン共重合体である。
【0026】
該エチレン−α−オレフィン共重合体の流動の活性化エネルギー(Ea)として、より好ましくは55kJ/mol以上であり、さらに好ましくは60kJ/mol以上である。また、高温で溶融粘度を低下させずに十分な成形性を得るという観点や、外観良好なフィルムが得られるという観点から、Eaは、好ましくは100kJ/mol以下であり、より好ましくは90kJ/mol以下である。
【0027】
流動の活性化エネルギー(Ea)は、粘弾性測定装置として、Rheometrics社製Rheometrics Mechanical Spectrometer RMS−800を用いて、下記の条件(1)〜(4)で測定される各温度T(単位はKである。)における動的粘弾性データを、温度−時間重ね合わせ原理に基づいてシフトさせて190℃での動的粘度(η;単位はPa・secである。)の剪断速度(ω:単位はrad/secである。)依存性を示すマスターカーブを作成する際のシフトファクター(aT)のアレニウス型方程式から算出される数値であって、加工性の指標となるものである。
【0028】
各温度T(K)における動的粘弾性データの測定条件
(1)ジオメトリー:パラレルプレート、直径25mm、プレート間隔:1.5〜2mm
(2)ストレイン:5%
(3)剪断速度:0.1〜100rad/sec
(4)温度:190、170、150、130℃
また、サンプルには予めイルガノックス1076などの酸化防止剤を、適量(例えば1000ppm以上)配合し、測定はすべて窒素下で実施する。
【0029】
シフトファクター(aT)のアレニウス型方程式
log(aT)=Ea/R(1/T−1/T0
(Rは気体定数であり、T0は基準温度(463K)である。)
また、計算ソフトウェアには、Rheometrics社 Rhios V.4.4.4を使用し、アレニウス型プロットlog(aT)−(1/T)において、直線近似をした時に得られる相関係数r2が0.99以上であるときのEa値を、本発明におけるエチレン−α−オレフィン共重合体の流動の活性化エネルギーとする。
【0030】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体のメルトフローレート(MFR;単位はg/10分である。)と190℃の剪断速度100rad/secにおける溶融粘度(η;単位はPa・secである。)とは、式(1)の関係を満たすものである。
η<1550×MFR-0.25−420 式(1)
このようなエチレン−α−オレフィン共重合体は、押出し成形した際に押出機への負荷が小さく、加工安定性に優れるものである。
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体の190℃の剪断速度100rad/secにおける溶融粘度ηとは、前述の粘弾性測定において測定される剪断溶融粘度である。
【0031】
該エチレン−α−オレフィン共重合体が満たすメルトフローレート(MFR)と190℃の剪断速度100rad/secにおける溶融粘度ηとの関係は、式(1’)を満たすことが好ましく、式(1’’)を満たすことがより好ましく、式(1’’’)を満たすことがもっとも好ましい。
η<1500×MFR-0.25−420 式(1’)
η<1450×MFR-0.25−420 式(1’’)
η<1350×MFR-0.25−420 式(1’’’)
【0032】
該エチレン−α−オレフィン共重合体の分子量分布としては、好ましくは7.0〜25であり、より好ましくは7.5〜20であり、さらに好ましくは11〜17である。分子量分布が狭すぎる場合は、押出負荷が上昇して押出成形加工性が損なわれ、一方で、分子量分布が広すぎる場合は、フィルムの耐ブロッキング性が悪化する場合がある。上記の分子量分布とは、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定によって得られたポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とを算出し、MwをMnで除した値(Mw/Mn)である
【0033】
鎖長分布曲線は、以下の条件(1)〜(6)で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定によって得ることができる。
(1)装置:Water製Waters150C
(2)分離カラム:TOSOH TSKgelGMH−HT
(3)測定温度:145℃
(4)キャリア:オルトジクロロベンゼン
(5)流量:1.0mL/分
(6)注入量:500μL
【0034】
一般的に、エチレン−α−オレフィン共重合体のメルトフローレート(MFR)と溶融張力の間には関係があり、MFRが増大するにつれて、溶融張力が低下することが知られている。
該エチレン−α−オレフィン共重合体は、長鎖分岐を有するような溶融張力の高いエチレン−α−オレフィン共重合体であり、好ましくはメルトフローレート(MFR;単位はg/10分である。)と190℃における溶融張力(MT;単位はcNである。)とが下記式(2)の関係を満たすものである。
2×MFR-0.59<MT<40×MFR-0.59 式(2)
溶融張力が低すぎると、押出加工性が悪化することがあり、溶融張力が高すぎると、高速での引取りが困難となることがある。
【0035】
該エチレン−α−オレフィン共重合体が満たすメルトフローレート(MFR)と溶融張力(MT)の関係は、式(2’)を満たすことがより好ましく、式(2’’)を満たすことが更に好ましい。
2.2×MFR-0.59<MT<25×MFR-0.59 式(2’)
2.5×MFR-0.59<MT<15×MFR-0.59 式(2’’)
【0036】
上記の式(2)における溶融張力(MT;単位はcNである。)は、東洋精機製作所等から販売されているメルトテンションテスターを用いて、190℃、押出速度5.5mm/分のピストンで、直径2.09mmφ、長さ8mmのオリフィスから溶融樹脂ストランドを押し出し、前記ストランドを直径50mmのローラーを用いて毎分40rpm/分づつ回転速度を上昇させながら巻き取ったときに、前記ストランドが切れる直前の張力値である。
【0037】
該エチレン−α−オレフィン共重合体は、好ましくは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定によって得られた鎖長分布曲線を、少なくとも2つの対数正規分布曲線に分割して得られる対数正規分布曲線のうち、最も高分子量である成分に相当する対数正規分布曲線のピーク位置の鎖長Aと前記MFRとが下記式(3)の関係を満たすものである。
3.30<logA<−0.0815×log(MFR)+4.05 式(3)
【0038】
該エチレン−α−オレフィン共重合体が上記式(3)の関係を満たすと、溶融張力がより高く押出加工性により優れ、または、押出機負荷がより低く押出加工性により優れ、さらに得られるフィルムの外観に優れる。
【0039】
該エチレン−α−オレフィン共重合体が満たすメルトフローレート(MFR)と鎖長A(logA)の関係は、下記式(3’)を満たすことがより好ましく、式(3’’)を満たすことがさらに好ましい。
3.30<logA<−0.0815×log(MFR)+4.03 式(3’)
3.30<logA<−0.0815×log(MFR)+4.02 式(3’’)
【0040】
鎖長分布曲線は、以下の条件(1)〜(6)で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定によって得ることができる。
(1)装置:Water製Waters150C
(2)分離カラム:TOSOH TSKgelGMH−HT
(3)測定温度:145℃
(4)キャリア:オルトジクロロベンゼン
(5)流量:1.0mL/分
(6)注入量:500μL
【0041】
鎖長分布曲線の分割は以下のとおりに行う。
初めに、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定によって、鎖長Awの対数であるlogAw(x値)に対して重量割合dW/d(logAw)(y値)がプロットされた鎖長分布曲線を実測する。プロットデータ数は、連続的な分布曲線になるよう、通常少なくとも300以上ある。次に、上記のx値に対して、標準偏差0.30を有し、任意の平均値(通常、ピーク位置の鎖長Aに相当する。)を有する4つの対数正規分布曲線(x−y曲線)を任意の割合で足し合わることによって、合成曲線を作成する。さらに、実測された鎖長分布曲線と合成曲線との同一x値に対するy値の偏差平方和が最小値になるように、平均値と割合を求める。偏差平方和の最小値は、各ピークの割合がすべて0の場合の偏差平方和に対して通常0.5%以下になる。そして、偏差平方和の最小値を与える平均値と割合が得られたときに、4つの対数正規分布曲線に分割して得られる対数正規分布曲線のうち、最も高分子量である成分に相当する対数正規分布曲線のピーク位置の鎖長AからlogAが算出される。この最も高分子量である成分に相当する対数正規分布曲線のピークの割合は、通常10%以上である。
【0042】
長鎖分岐を有するようなエチレン−α−オレフィン共重合体は通常、190℃での特性緩和時間が長いが、長すぎることなく少し短めであると、溶融張力がより高く押出加工性により優れ、または、押出機負荷が低く押出加工性により優れ、さらに、フィルムの押出外観に優れる。
前記エチレン−α−オレフィン共重合体は、190℃での特性緩和時間(τ;単位はsecである。)と前記MFRとが下記式(4)の関係を満たすことが好ましい。
2<τ<8.1×MFR-0.746 式(4)
【0043】
該エチレン−α−オレフィン共重合体が満たすメルトフローレート(MFR)と特性緩和時間(τ)の関係は、下記式(4’)を満たすことがより好ましく、式(4’’)を満たすことがさらに好ましい。
2<τ<7.9×MFR-0.746 式(4’)
2<τ<7.8×MFR-0.746 式(4’’)
【0044】
190℃での特性緩和時間(τ)は、粘弾性測定装置として、Rheometrics社製Rheometrics Mechanical Spectrometer RMS−800を用いて、下記の条件(1)〜(4)で測定される各温度T(単位はKである)における動的粘弾性データを、温度−時間重ね合わせ原理に基づいてシフトさせて190℃での動的粘度(η;単位はPa・secである。)の剪断速度(ω:単位はrad/secである。)依存性を示すマスターカーブを得たのちに、そのマスターカーブを下記のクロス式で近似する際に算出される数値である。
【0045】
各温度T(K)における動的粘弾性データの測定条件
(1)ジオメトリー:パラレルプレート、直径25mm、プレート間隔:1.5〜2mm
(2)ストレイン:5%
(3)剪断速度:0.1〜100rad/sec
(4)温度:190、170、150、130℃
また、サンプルには予めイルガノックス1076などの酸化防止剤を、適量(例えば1000ppm以上)配合し、測定はすべて窒素下で実施する。
【0046】
クロスの近似式
η=η0/[1+(τ×ω)n
(η0およびnはそれぞれ、特性緩和時間τと同様に、測定に用いるエチレン−α−オレフィン共重合体ごとに求められる定数である。)
また、マスターカーブの作成やクロス式近似のための計算ソフトウェアには、Rheometrics社 Rhios V.4.4.4を使用する。
【0047】
該エチレン−α−オレフィン共重合体のメルトフローレート比(MFRR)としては、流動性の観点から高いほどよく、60以上であると、押出負荷がより低く、押出加工性により優れる。
【0048】
上記のメルトフローレート比(MFRR)は、JIS K7210−1995に規定された方法に従い、190℃、荷重211.82N(21.60kg)で測定されたメルトフローレート値を、荷重21.18N(2.16kg)で測定されたメルトフローレート値で除した値である。なお、上記のメルトフローレート測定には、予め酸化防止剤を1000ppm配合した重合体を用いる。
【0049】
該エチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法は、下記のメタロセン系オレフィン重合用触媒を用いて、エチレンとα−オレフィンとを共重合する方法である。
該エチレン−α−オレフィン共重合体の製造に用いられるメタロセン系オレフィン重合用触媒は、助触媒担体(A)、架橋型ビスインデニルジルコニウム錯体(B)、有機アルミニウム化合物(C)および電子供与性化合物(D)を接触させて得られる触媒であり、前記助触媒担体(A)はジエチル亜鉛(a)、2種類のフッ素化フェノール(b)と(c)、水(d)、無機化合物の粒子(e)および(f)トリメチルジシラザン(((CH33Si)2NH)を接触させて得られる担体である。
【0050】
2種類のフッ素化フェノール(b)と(c)として、好ましくはペンタフルオロフェノール、トリフルオロフェノールである。
無機化合物の粒子(e)として、好ましくはシリカゲルである。
【0051】
上記(a)、(b)、(c)、(d)各化合物の使用量は特に制限はないが、各化合物の使用量のモル比率を(a):(b):(c):(d)=1:x:y:zのモル比率とすると、x、yおよびzが下記の式(7)を満足することが好ましい。
|2−(x+y)−2z|≦1 式(7)
上記の式(7)における(x+y)として好ましくは0.01〜1.99の数であり、より好ましくは0.10〜1.80の数であり、さらに好ましくは0.20〜1.50の数であり、最も好ましくは0.30〜1.00の数である。
【0052】
また、(a)に対して使用する(e)の量としては、(a)と(e)との接触により得られる粒子に含まれる(a)に由来する亜鉛原子が、得られる粒子1gに含まれる亜鉛原子のモル数にして、0.1mmol以上となる量であることが好ましく、0.5〜20mmolとなる量であることがより好ましい。(e)に対して使用する(f)の量としては、(e)1gにつき(f)0.1mmol以上となる量であることが好ましく、0.5〜20mmolとなる量であることがより好ましい。
【0053】
架橋型ビスインデニルジルコニウム錯体(B)として、好ましくはラセミ−エチレンビス(1−インデニル)ジルコニウムジクロライド、ラセミ−エチレンビス(1−インデニル)ジルコニウムジフェノキシドである。
また、有機アルミニウム化合物(C)として、好ましくはトリイソブチルアルミニウム、トリノルマルオクチルアルミニウムである。
また、電子供与性化合物(D)として、好ましくはトリエチルアミン、トリノルマルオクチルアミンである。
【0054】
架橋型ビスインデニルジルコニウム錯体(B)の使用量は、助触媒担体(A)1gに対し、好ましくは5×10-6〜5×10-4molである。また有機アルミニウム化合物(C)の使用量として、好ましくは、架橋型ビスインデニルジルコニウム錯体(B)のジルコニウム原子モル数に対する有機アルミニウム化合物(C)のアルミニウム原子のモル数の比(Al/Zr)で表して、1〜2000である。
また、電子供与性化合物(D)の使用量は、有機アルミニウム化合物(C)のアルミニウム原子のモル数に対して、0.1〜10mol%である。
【0055】
重合方法として、好ましくは、エチレン−α−オレフィン共重合体の粒子の形成を伴う連続重合方法であり、例えば、連続気相重合、連続スラリー重合、連続バルク重合であり、好ましくは、連続気相重合である。
気相重合反応装置としては、通常、流動層型反応槽を有する装置であり、好ましくは、拡大部を有する流動層型反応槽を有する装置である。反応槽内に攪拌翼が設置されていてもよい。
【0056】
該エチレン−α−オレフィン共重合体の製造に用いられるメタロセン系オレフィン重合用触媒の各成分を反応槽に供給する方法としては、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス、水素、エチレン等を用いて、水分のない状態で供給する方法、各成分を溶媒に溶解または稀釈して、溶液またはスラリー状態で供給する方法が用いられる。触媒の各成分は個別に供給してもよく、任意の成分を任意の順序にあらかじめ接触させて供給してもよい。
また、本重合を実施する前に、予備重合を実施し、予備重合された予備重合触媒成分を本重合の触媒成分または触媒として使用することが好ましい。
【0057】
重合温度としては、通常、共重合体が溶融する温度未満であり、好ましくは0〜150℃であり、より好ましくは30〜100℃である。
また、共重合体の溶融流動性を調節する目的で、水素を分子量調節剤として添加してもよい。そして、混合ガス中に不活性ガスを共存させてもよい。
【0058】
前記したような方法で重合して得られるエチレン−α−オレフィン共重合体は、次の連続押出造粒方法で混練する方法によって、ペレットにすることができる。
【0059】
方法の一つは、米国特許5、451、106号公報に記載されているUtracki等が開発した伸長流動混練(EFM)ダイを備えた押出機を用いて連続的にストランドを成形し、そのストランドを連続的にカットし、ペレットとして製造する方法である。また、方法の一つは、ギアポンプを有する異方向二軸スクリューを備えた押出機を用いて連続的にストランドを成形し、そのストランドを連続的にカットし、ペレットとして製造する方法である。後者は、スクリュー部からダイまでの間に滞留部があることが好ましい。
【0060】
本発明のインフレーションフィルムの製造方法は、前記した特定のエチレン−α−オレフィン共重合体、すなわち流動の活性化エネルギーが50kJ/mol以上であり、メルトフローレート(MFR;単位はg/10分である。)と190℃の剪断速度100rad/secにおける溶融粘度(η;単位はPa・secである。)とが下記式(1)の関係を満たすエチレン−α−オレフィン共重合体(A)1〜30重量%と、前記エチレン−α−オレフィン共重合体(A)とは異なるエチレン−α−オレフィン共重合体(B)70〜99重量%との混合物においても、特に高い透明性改良効果を発揮するため、好ましく適用される。
η<1550×MFR-0.25−420 式(1)
前記エチレン−α−オレフィン共重合体(B)は、前記エチレン−α−オレフィン共重合体(A)と異なる共重合体であればよく、重合方法や物性は特に限定されるものではなく、通常MFRが0.1(g/10分)であり、密度が880〜940(kg/m3)のエチレン−α−オレフィン共重合体(B)である。
【実施例】
【0061】
次に、本発明を実施例によって説明する。
物性の評価方法は、以下のとおりである。
(1)MFR
JIS K7210−1995に規定された方法に従い、190℃において、荷重21.18N(2.16Kg)の条件によって測定した。
(2)HAZE
JIS K7105に従って測定した。この値が低いほどフィルムの透明性が良好であることを示す。
【0062】
[実施例1]
[触媒成分の調製]
(1)シリカの処理
窒素置換した撹拌機を備えた反応器に、トルエン24kgおよび窒素流通下で300℃において加熱処理したシリカ(デビソン社製 Sylopol948;平均粒子径=55μm;細孔容量=1.67ml/g;比表面積=325m2/g)2.8kgを入れて、撹拌した。その後、5℃に冷却した後、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン 0.91kgとトルエン 1.43kgの混合溶液を反応器の温度を5℃に保ちながら33分間で滴下した。滴下終了後、5℃で1時間、95℃で3時間攪拌した。その後、得られた固体生成物をトルエン 21kgで6回、洗浄を行った。その後、トルエンを 6.9kg加え、一晩静置した。
【0063】
(2)助触媒担体(A)の合成
上記で得られたスラリーに、50wt%のジエチル亜鉛のヘキサン溶液 2.05kgとヘキサン 1.3kgを投入し、攪拌した。その後、5℃に冷却した後、ペンタフルオロフェノール 0.77kgとトルエン 1.17kgの混合溶液を、反応器の温度を5℃に保ちながら61分間で滴下した。滴下終了後、5℃で1時間、40℃で1時間攪拌した。その後、H2O 0.11kgを反応器の温度を5℃に保ちながら1.5時間で滴下した。滴下終了後、5℃で1.5時間、55℃で2時間攪拌した。その後、室温にて50wt%のジエチル亜鉛のヘキサン溶液 1.4kgとヘキサン 0.8kgを投入した。5℃に冷却した後、3,4,5−トリフルオロフェノール 0.42kgとトルエン 0.77kgの混合溶液を、反応器の温度を5℃に保ちながら60分間で滴下した。滴下終了後、5℃で1時間、40℃で1時間攪拌した。その後、H2O 0.077kgを反応器の温度を5℃に保ちながら1.5時間で滴下した。滴下終了後、5℃で1.5時間、40℃で2時間、更に、80℃で2時間攪拌した。攪拌を停止し残量16Lまで上澄み液を抜き出しトルエン 11.6kgを投入し、攪拌した。95℃に昇温し、4時間攪拌した。得られた固体生成物をトルエン 20.8kgで4回、ヘキサン 24リットルで3回、洗浄を行った。その後、乾燥することで助触媒担体(A)を得た。
[予備重合触媒の調製]
予め窒素置換した内容積210リットルの撹拌機付きオートクレーブに、上記助触媒担体(A)0.55kgを投入し、常温常圧の水素として3リットルと、ブタン80リットルを仕込んだ後、オートクレーブを30℃まで昇温した。さらにエチレンをオートクレーブ内のガス相圧力で0.02MPa分だけ仕込み、系内が安定した後、トリイソブチルアルミニウム165mmolとラセミ−エチレンビス(1−インデニル)ジルコニウムジフェノキシド55mmolを投入して重合を開始した。32℃へ昇温するとともに、エチレンと水素を連続で供給しながらさらに50℃まで昇温し、合計で4時間の予備重合を実施した。重合終了後、エチレン、ブタン、水素ガスなどをパージして残った固体を室温にて真空乾燥し、上記助触媒担体(A)1g当り16gのエチレン−1−ブテン共重合体が予備重合された予備重合触媒成分を得た。
【0064】
[重合]
上記で得た予備重合触媒成分を用い、連続式流動床気相重合装置でエチレンと1−ブテンと1−ヘキセンの3元共重合を実施した。重合条件は、温度75℃、全圧2MPaエチレンに対する水素モル比は0.9%、エチレンに対する1−ヘキセンモル比は1.9%で、重合中はガス組成を一定に維持するためにエチレン、1−ヘキセン、水素を連続的に供給した。上記予備重合済触媒成分とトリイソブチルアルミニウムを連続的に供給し、流動床の総パウダー重量80kgを一定に維持するよう、平均重合時間4hr、21kg/hrの生産効率でエチレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体パウダーを得た。得られたエチレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体の物性値を表1に示す。
【0065】
[樹脂組成物の製造]
上記で得たエチレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体パウダーを、神戸製鋼所社製LCM50押出機を用いて、フィード速度50kg/hr、スクリュー回転数450rpm、ゲート開度50%、サクション圧力0.1MPa、樹脂温度200〜230℃条件で造粒することによりペレットを得た。
得られたエチレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体パウダーの物性値を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
[フィルム成形]
材料として前記エチレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体からなるペレットを用い、住友重機械モダン(株)製インフレーション成形機(環状ダイのリップの直径Dl:125mm、押出機スクリュー径:55mm)、円筒状の保温部材、エアリング装置及び巻取り装置からなるインフレーションフィルムの製造装置によりインフレーションフィルムを製造した。
使用した保温部材の環状ダイ側の開口部直径(Da)は165mm、反対側の開口部直径は246mm、胴部の直径(Db)は414mmであった。エアリング装置の吹出しリング内径は246mm、吹出しリングの吹出口の環状ダイリップ面からの高さ(Uh)は183mmであった。
前記エチレン系樹脂ペレットを押出機に投入し、150℃の温度にて溶融混練して環状ダイに導き、環状のリップから押出した。リップギャップは2mm、押出量は30kg/h、BURは2.0であった。このとき、バブルの最大直径(Df)は250mmであった。得られたフィルムの厚みは30μmであった。また、ダイ出口における樹脂温度は153℃であった。環状ダイから押出したバブルを、保温部材の内周側を通過させ、次いでエアリング装置から冷却媒体を吹き付けて冷却し、チューブ状フィルムを巻取り装置にて巻き取った。バブルに冷却媒体を吹き付けた位置のバブルの直径は、該バブルの最大直径の94%の位置であった。
得られたフィルムの物性を表2に示す。
【0068】
[実施例2]
実施例1の保温部材の内周側にセラミックス製の遠赤外線ヒーター(パネルサイズ:120(mm)×60(mm))を9枚、各々のパネル面がバブルの中心軸を向くように等間隔で配置した。実施例1と同様に成形を行いながら、遠赤外線ヒーターに通電し、通電開始から5分後に製造されたフィルムの物性を評価した。該物性を表2に示す。
【0069】
[比較例1]
保温部材を用いず、環状ダイ上にエアリング装置を設置した装置を用いた以外は実施例1と同様にして、インフレーションフィルムを製造した。得られたフィルムの物性を表2に示す。
【0070】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】従来のインフレーションフィルムの製造装置を用いたインフレーションフィルムの製造方法の一部を示す図である。
【図2】本発明のインフレーションフィルムの製造装置を用いたインフレーションフィルムの製造方法の一例の一部を示す図である。
【図3】本発明のインフレーションフィルムの製造装置を用いたインフレーションフィルムの製造方法の他の例の一部を示す図である。
【図4】(a)本発明のインフレーションフィルムの製造装置における保温部材の、開口面と垂直方向の断面図である。(b)本発明のインフレーションフィルムの製造装置における保温部材を、直径の大きい開口部面側から見た投影図である。
【図5】(a)本発明のインフレーションフィルムの製造装置におけるヒーターを備える保温部材の、開口面と垂直方向の断面図である。(b)本発明のインフレーションフィルムの製造装置におけるヒーターを備える保温部材を、直径の大きい開口部面側から見た投影図である。
【符号の説明】
【0072】
1 環状ダイ
2 保温部材
3 吹出しリング
4 エアリング本体
5 バブル
6 ヒーター
D1 環状ダイのリップ直径
Da 保温部材の上側開口部直径
Db 保温部材の胴部直径
Du 保温部材の下側開口部直径
Uh 吹出しリングの吹出口の環状ダイリップ面からの高さ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を押出すための環状ダイを備えた押出機、押し出されたバブルを保温する保温部材、保温したバブルを冷却するエアリング装置、冷却されたチューブ状フィルムを巻き取るための巻取り装置からなるインフレーションフィルムの製造装置であって、前記保温部材が、円筒状であって、両開口部の直径よりも胴部の直径が大きいことを特徴とするインフレーションフィルムの製造装置。
【請求項2】
前記保温部材の内周側に赤外線ヒーターを備えることを特徴とする請求項1に記載のインフレーションフィルムの製造装置。
【請求項3】
請求項1に記載のインフレーションフィルムの製造装置を用いるインフレーションフィルムの製造方法であって、下記の工程(1)−(5)を順に含むことを特徴とするインフレーションフィルムの製造方法。
(1)環状ダイを備えた押出機にて熱可塑性樹脂を溶融混練する工程
(2)前記環状ダイからバブルを押出す工程
(3)押出したバブルを、円筒状であって、両開口部の直径よりも胴部の直径が大きい保温部材の内周側を通過させる工程
(4)保温部材の内周側を通過させたバブルに、エアリング装置から冷却媒体を吹き付ける工程
(5)冷却したチューブ状フィルムを、巻取り装置にて巻き取る工程
【請求項4】
熱可塑性樹脂がエチレン系樹脂であることを特徴とする請求項3に記載のインフレーションフィルムの製造方法。
【請求項5】
エチレン系樹脂が、エチレンから誘導される構成単位と炭素原子数3〜20のα−オレフィンから誘導される構成単位を含むエチレン−α−オレフィン共重合体であって、流動の活性化エネルギーが50kJ/mol以上であり、メルトフローレート(MFR;単位はg/10分である。)と190℃の剪断速度100rad/secにおける溶融粘度(η;単位はPa・secである。)とが下記式(1)の関係を満たすエチレン−α−オレフィン共重合体であることを特徴とする請求項4記載のインフレーションフィルムの製造方法。
η<1550×MFR-0.25−420 式(1)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−331115(P2007−331115A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162053(P2006−162053)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】