説明

インプラント材料

【課題】骨髄炎の処置のための局所的に適用可能な抗生物質デポー剤としての使用に適しているインプラント材料。
【解決手段】抗生物質塩の群の少なくとも1つの構成員からなる回転対称な又は不規則に成形された成形体、前記成形体が生分解可能なフィラメント上に1mm〜25mmの間隔で配置されることによる移植のための医療用装置並びに該医療用装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、慢性骨髄炎の処置の範囲内での局所的な抗生物質デポー剤として役立つように設計された生分解可能なインプラント材料である。
【背景技術】
【0002】
骨外科学の最も困難な挑戦の1つは、現在のところ骨髄炎の処置が継続している。骨髄炎は、血行性、外傷後性又は術後性の病因を有しうる。処置するのが特に困難であるのは、骨髄炎の慢性形であり、これは極端な場合に四肢の損失及び敗血症ですらまねきうる。通常、慢性骨髄炎の処置は根治的な挫滅組織除去法(debridement)による外科的な治療を含む。これは、炎症を起こした又は壊死性の骨の広範囲にわたる除去を含む。その後に、骨小腔は、局所的な抗生物質キャリヤーで充填されるか又は吸引−リンスドレナージを用いて処置される。抗生物質キャリヤーからの大量の抗生物質の局所的放出は、十分に骨透過性の殺菌性抗生物質、例えば硫酸ゲンタマイシンが使用される場合に、隣接した骨領域中に残存している任意の病原細菌に対して有効である。
【0003】
ポリメタクリル酸メチル、二酸化ジルコニウム及び常用の水溶性抗生物質、例えば硫酸ゲンタマイシンから構成されているほぼ球形に成形された局所的な作用物質放出系は、Klaus Klemmにより1975年に初めて記載された(独国特許(DE)第23 20 373号明細書)。この構想はうまくいくことが判明したが、しかし、前記球中に含まれている作用物質のごくわずかな部分のみが放出された点で実際に不利であった。
【0004】
これらの作用物質キャリヤーのさらなる開発として、Heuser及びDingeldeinにより1978年に抗生物質の放出を改善するためにグリシン又は他のアミノ酸を添加することが提案されていた(独国特許(DE)第26 51 441号明細書)。血液又は傷分泌物と接触する際に、配合されたアミノ酸は溶解しかつ多孔系を形成し、これらから作用物質は拡散しうる。このことは作用物質の改善された放出を達成した。この原理に従って設計された作用物質キャリヤーは現在のところ、数珠つなぎに(pearl string−)成形されたSeptopal(登録商標)チェーンの形で上市されている。その場合に、作用物質キャリヤーは、ポリフィル鋼線上へ噴霧されている。遅延された放出は、ポリマーマトリックスからの作用物質の拡散に基づいている。Septopal(登録商標)チェーンの本質的な欠点は、前記チェーンが一般的に約10日後に除去される必要があることである。このことは、患者のさらなる負担と結びついており、かつ付加的なコストを引き起こす二次手術を必要とする。
【0005】
以下において、作用物質放出系を除去するという二次手術の必要性を回避するために、完全に生分解可能な、数珠つなぎに成形された局所的な作用物質放出系を開発することを目的としていた。
【0006】
例えば、独国特許出願公開(DE)第30 37 270号明細書には、本質的に生分解可能なフィラメントからなる作用物質キャリヤーが記載されており、前記フィラメント上にフィブリン製成形体が配置されている。抗生物質はフィブリン成形体中に配合されている。
【0007】
米国特許(US)第5,756,127号明細書には、硫酸カルシウム製成形体が生分解可能なフィラメント上に取り付けられている数珠つなぎに成形された作用物質キャリヤーが提案されている。この場合に、硫酸カルシウムは作用物質用のマトリックスとして利用される。しかしながら、より大量の硫酸カルシウムの移植が時折漿液腫形成を伴って観察されたことに重大に注意されなければならない。
【0008】
独国特許(DE)第102 27 935号明細書のみに、抗生物質−脂肪酸塩でコーティングされた多孔質体が記載されている。
独国特許出願公開(DE)第101 14 244号明細書(A1)は、水に易溶性の抗生物質塩と両親媒性化合物の塩(例えばアルキル硫酸塩)とからなる混合物に関するものであり、前記混合物は助剤と組合せて、成形体に成形され、かつ直接的に抗生物質の効力を有するインプラントとして利用されることができる。その場合に、水に微溶性の抗生物質塩が、水又は体液との接触の際にはじめて相互の塩交換によりインプラントの内部でその場で形成することが本質的である。
【0009】
独国特許出願公開(DE)第101 14 364号明細書(A1)には、有機又は無機の助剤を含有している成形体の製造のための結合剤としての、抗生物質−脂肪酸塩、抗生物質−有機硫酸塩又は抗生物質−有機スルホン酸塩の使用が記載されている。
【0010】
まとめると、独国特許(DE)第23 20 373号、同第26 51 441号、同第30 37 270号明細書、及び米国特許(US)第5,756,127号明細書に提案された作用物質放出系の基本原理は、作用物質がマトリックス中へ配合され、前記マトリックスから作用物質が血液又は傷分泌物の作用のために溶解によりゆっくりと放出されることであると結論付けることができる。挙げられた作用物質放出系は、かなりの困難を伴ってのみ製造されることができるか又は、その組成のために、その吸収の間に及びそれらから発生される分解生成物のために不利な副作用を引き起こしうるマトリックスが常に存在する点で不利である。
【特許文献1】独国特許(DE)第23 20 373号明細書
【特許文献2】独国特許(DE)第26 51 441号明細書
【特許文献3】独国特許(DE)第30 37 270号明細書
【特許文献4】米国特許(US)第5,756,127号明細書
【特許文献5】独国特許(DE)第102 27 935号明細書
【特許文献6】独国特許出願公開(DE)第101 14 244号明細書(A1)
【特許文献7】独国特許出願公開(DE)第101 14 364号明細書(A1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、骨髄炎の処置のための局所的に適用可能な抗生物質デポー剤としての使用に適しているインプラント材料を開発するという課題に基づいている。前記インプラント材料は、公知のゲンタマイシンを含有している数珠つなぎに成形された作用物質放出系の欠点を克服すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の課題は、水に微溶性の抗生物質塩の少なくとも1つの代表例である、ミリスチン酸ゲンタマイシン、パルミチン酸ゲンタマイシン、ステアリン酸ゲンタマイシン、ミリスチン酸トブラマイシン、パルミチン酸トブラマイシン、ステアリン酸トブラマイシン、ミリスチン酸アミカシン、パルミチン酸アミカシン、ステアリン酸アミカシン、パルミチン酸バンコマイシン、ステアリン酸バンコマイシン、パルミチン酸ラモプラニン(ramoplanin palmitate)、ステアリン酸ラモプラニン、パルミチン酸レボフロキサシン、ステアリン酸レボフロキサシン、パルミチン酸オフロキサシン、ステアリン酸オフロキサシン、パルミチン酸モキシフロキサシン、ステアリン酸モキシフロキサシン、パルミチン酸クリンダマイシン、及びステアリン酸クリンダマイシンから形成される回転対称な又は不規則に成形された成形体から製造されたインプラント材料により解決される。パルミチン酸(palmitate)、ステアリン酸(stearate)、及びミリスチン酸(myristate)という用語は、それぞれパルミチン酸、ステアリン酸、及びミリスチン酸の抗生物質塩を呼ぶと理解されるべきである。その場合に、プロトン化されたアミノ酸及び脂肪酸アニオンの好ましい比は1に等しい。しかしながら、プロトン化されたアミノ酸の一部のみが、対イオンとしての脂肪酸アニオンを有することも可能である。従って、例えばゲンタマイシンペンタキスパルミタート、ゲンタマイシンテトラキスパルミタート又はゲンタマイシントリパルミタートは、水に微溶性の抗生物質塩として使用されることができる。
【0013】
前記課題はさらに、本発明によれば、前記の回転対称な及び/又は不規則に成形された成形体が、生分解可能なフィラメント上に1mm〜25mmの間隔で配置されることによる移植のための医療用装置により解決された。フィラメント軸に沿って配置された10、20又は30個の成形体を有するこのタイプの医療用装置が好ましい。基本的には任意の吸収可能なフィラメント材料がフィラメントとしての使用に適している。意外なことに、前記の水に微溶性の抗生物質塩は、マトリックス形成性物質の付加的な使用なしに十分に安定な成形体に成形されることができる。助剤を備えることが可能であるけれども、存在する常用の無機又は有機のマトリックス形成性助剤を有することは必要条件ではない。そのような助剤は、例えば、パルミチン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、グリセリントリパルミタート、グリセリントリミリスタート又はグリセリントリステアラートであってよく、その場合に助剤含量は通常、90質量%までであってよい。
【0014】
本発明はまた、前項に記載されたような装置の製造方法にも関する。その場合に、水に微溶性の塩はフィラメント上へ公知の方法でプレスされ、ついで50〜70℃で熱処理される。
【0015】
過剰投与を防止するためにフィラメント軸に沿ってそれぞれ10mmの間隔で配置されるそれぞれ30mgの質量(成形体あたりゲンタマイシン塩基7.5mgに相当)を有しているパルミチン酸ゲンタマイシン(251の活性係数)から製造された球形に成形された成形体が、特に有用であることが判明した。このインプラント材料の特別な利点は、1つ又はそれ以上の水に微溶性の抗生物質塩からなっている成形体が、作用物質の放出に並行して溶解し、かつ個々の成形体がフィラメントにより互いに間隔が保持されることである。これは過剰投与の可能性をずっとより困難にする。数珠つなぎの配置は、相対的に小さい数の成形体でのより大きな骨小腔の充填を可能にする。本発明によるインプラント材料の本質的な利点は、マトリックス形成性物質が必要とされないということである。このことは、任意の分解生成物に関係した問題を排除する。前記インプラント材料の他の利点は、偶数の(even−numbered)脂肪酸を含有している抗生物質塩の使用である。偶数の脂肪酸、例えばパルミチン酸及びステアリン酸は、ヒト生物の天然構成要素であり、かついずれの困難なしにβ−酸化により代謝される。
【0016】
好ましくは、生分解可能なフィラメントは編組されている。前記成形体は、編組されたポリグリコリドフィラメントに特に良好に接着する。
【0017】
成形体に水に易溶性の抗生物質を添加することが可能であるけれども、本発明によればこれらにとって含まれていないことが好ましい。水に易溶性の抗生物質は、例えば、硫酸ゲンタマイシン、硫酸トブラマイシン、硫酸アミカシン、塩酸レボフロキサシン、塩酸オフロキサシン、塩酸モキシフロキサシン、及び塩酸クリンダマイシンである。水に易溶性の抗生物質の配合は通常、水性環境中へのインプラント材料の挿入後に最初の数時間での作用物質の高い初期放出の利点と結び付いている。同じ目的に利用する水溶性の抗感染薬をさらに添加することが可能である。
【0018】
本発明によれば、マトリックスを必要としない数珠つなぎに成形されたインプラント材料が提供される。
【実施例】
【0019】
本発明は次の例によって、より詳細に説明される:
例1
常用の打錠機を、パルミチン酸ゲンタマイシン粉末(251の活性係数)から35mgの質量(ゲンタマイシン塩基8.8mgに相当)を有する長円形成形体を製造するのに使用する。2つの成形体を、ゲンタマイシン放出を決定するために取り出し、かつpH 7.4のリン酸塩緩衝液20ml中で37℃で貯蔵する。放出媒体15mlを、ゲンタマイシン含量を決定するために毎日取り出し、かつ新鮮なリン酸塩緩衝液15mlにより置換する。Abbott製のTDX Analyserを、ゲンタマイシン含量を決定するのに使用する。結果は第1表に示されている。
【0020】
例2
特別製の打錠機を、パルミチン酸ゲンタマイシン粉末(251の活性係数)から製造された30mgの質量(ゲンタマイシン塩基7.5mgに相当)を有する長円形成形体を、編組されているポリグリコリドフィラメント上へそれぞれ10〜11mmの間隔でプレスするのに使用する。2つの成形体を、ゲンタマイシン放出を決定するために切り出し、かつpH 7.4のリン酸塩緩衝液20ml中で 37℃で貯蔵する。放出媒体15mlを、ゲンタマイシン含量を決定するために毎日取り出し、新鮮なリン酸塩緩衝液15mlにより置換する。Abbott製のTDX Analyserを、ゲンタマイシン含量を決定するために使用する。結果は第1表に示されている。
【0021】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗生物質塩であるミリスチン酸ゲンタマイシン、パルミチン酸ゲンタマイシン、ステアリン酸ゲンタマイシン、ミリスチン酸トブラマイシン、パルミチン酸トブラマイシン、ステアリン酸トブラマイシン、ミリスチン酸アミカシン、パルミチン酸アミカシン、ステアリン酸アミカシン、パルミチン酸バンコマイシン、ステアリン酸バンコマイシン、パルミチン酸ラモプラニン(ramoplanin palmitate)、ステアリン酸ラモプラニン、パルミチン酸レボフロキサシン、ステアリン酸レボフロキサシン、パルミチン酸オフロキサシン、ステアリン酸オフロキサシン、パルミチン酸モキシフロキサシン、ステアリン酸モキシフロキサシン、パルミチン酸クリンダマイシン、及びステアリン酸クリンダマイシンの群の少なくとも1つの構成員からなる、成形体。
【請求項2】
形状が不規則である、請求項1記載の成形体。
【請求項3】
回転対称な形状を有する、請求項1記載の成形体。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項記載の成形体が、生分解可能なフィラメント上に1mm〜25mmの間隔で配置されることを特徴とする、移植のための医療用装置。
【請求項5】
フィラメントが編組されている、請求項3記載の装置。
【請求項6】
抗生物質塩であるミリスチン酸ゲンタマイシン、パルミチン酸ゲンタマイシン、ステアリン酸ゲンタマイシン、ミリスチン酸トブラマイシン、パルミチン酸トブラマイシン、ステアリン酸トブラマイシン、ミリスチン酸アミカシン、パルミチン酸アミカシン、ステアリン酸アミカシン、パルミチン酸バンコマイシン、ステアリン酸バンコマイシン、パルミチン酸ラモプラニン、ステアリン酸ラモプラニン、パルミチン酸レボフロキサシン、ステアリン酸レボフロキサシン、パルミチン酸オフロキサシン、ステアリン酸オフロキサシン、パルミチン酸モキシフロキサシン、ステアリン酸モキシフロキサシン、パルミチン酸クリンダマイシン、及びステアリン酸クリンダマイシンの群の少なくとも1つの構成員を、フィラメント上にプレスし、その後に50〜70℃で熱処理する、請求項4又は5記載の装置の製造方法。

【公開番号】特開2007−217413(P2007−217413A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−33569(P2007−33569)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【出願人】(399011900)ヘレーウス クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (56)
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Kulzer GmbH 
【住所又は居所原語表記】Gruener Weg 11, D−63450 Hanau, Germany
【Fターム(参考)】