説明

ウィスカ防止方法及びその装置

【解決手段】 表面に錫メッキの施された金属端子に対してレーザ光を照射して、錫メッキの表層だけを溶融させて、ウィスカの発生を防止するウィスカ防止方法であり、レーザ光Lのパワー密度が150W/mmの時に搬送速度を1.7〜50mm/secとし、パワー密度が1800W/mmの時に搬送速度を1300mm/secとする範囲内であれば、良好にウィスカの発生を防止できる。
【効果】 効率的にウィスカの発生を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウィスカ防止方法及びその装置に関し、詳しくは、物品の表面に施された錫メッキの表層にレーザ光を照射して、上記錫メッキ表面でのウィスカの発生を防止するウィスカ防止方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、環境問題等により鉛の使用が制限され、電子部品の端子やコネクタ等の表面に施すメッキには、鉛を含まない錫メッキが使用されている。しかしながら、鉛を含まない錫メッキの場合、錫メッキの表面にウィスカが発生して、回路が当該ウィスカにより短絡してしまう等の問題が発生する。
このウィスカの発生を防止するため、従来、錫メッキの施された物品の表面に無機化合物や有機化合物を塗布し、その後レーザ光や赤外線ランプ等により、当該物品の表面に赤外線を照射することで、ウィスカの発生を防止することが行われている。(特許文献1)
【特許文献1】特開昭59−143089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1の場合、ウィスカの発生を防止するためには、物品に上記化合物を塗布しなければならず、また赤外線照射後、これらの化合物を洗浄する必要があるため、作業が煩雑となっていた。
このような問題に鑑み、本発明は効率的に上記ウィスカの発生を防止することの可能なウィスカ防止方法及びその装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、請求項1のウィスカ防止方法は、物品の表面に施された錫メッキの表層にレーザ光を照射して、上記錫メッキ表面でのウィスカの発生を防止するウィスカ防止方法において、
照射位置におけるパワー密度が150〜1800W/mmのレーザ光を、上記物品に対して1.7〜1300mm/secで相対移動させながら照射することを特徴としている。
【0005】
また請求項2のウィスカ防止方法は、物品の表面に施された錫メッキの表層にレーザ光を照射して、上記錫メッキ表面でのウィスカの発生を防止するウィスカ防止方法において、
照射位置におけるパワー密度が150〜1800W/mmのレーザ光を、上記物品に0.001〜0.6秒間照射することを特徴としている。
【0006】
さらに、請求項3におけるウィスカ防止装置は、レーザ光を照射するレーザ光照射手段と、表面に錫メッキの施された物品を保持する保持手段とを備え、上記錫メッキの表層にレーザ光を照射して、上記錫メッキ表面でのウィスカの発生を防止するウィスカ防止装置において、
上記レーザ光照射手段は、照射位置におけるパワー密度が150〜1800W/mmのレーザ光を照射し、上記レーザ光の照射位置と保持手段とを1.7〜1300mm/secで相対移動させる移動手段を備えることを特徴としている。
【0007】
そして、請求項4におけるウィスカ防止装置は、レーザ光を照射するレーザ光照射手段と、表面に錫メッキの施された物品を保持する保持手段とを備え、上記錫メッキの表層にレーザ光を照射して、上記錫メッキ表面でのウィスカの発生を防止するウィスカ防止装置において、
上記レーザ光照射手段は、照射位置におけるパワー密度が150〜1800W/mmのレーザ光を照射すると共に、上記物品に0.001〜0.6秒間、当該レーザ光を照射することを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1及び請求項3のウィスカ防止方法及びその装置によれば、上記パワー密度のレーザ光線を錫メッキの表層に照射することで、当該錫メッキの表層部だけが融解し、またレーザ光を上記速度で移動させることで、錫メッキを必要以上に溶解させずにウィスカの発生を防止することができる。
【0009】
さらに請求項2及び請求項4のウィスカ防止方法及びその装置によれば、上記パワー密度のレーザ光線を錫メッキの表層に照射することで、当該錫メッキの表層部だけが融解し、またレーザ光を上記期間照射することで、錫メッキを必要以上に溶解させずにウィスカの発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図示実施例について説明すると、図1は本実施例におけるウィスカ防止装置1を示し、物品としての金属端子2を保持・搬送する保持手段及び移動手段としての搬送手段3と、上記金属端子2にレーザ光Lを照射するレーザ光照射手段4とを備えている。
図2は、上記金属端子2の搬送状態を示した図であり、金属端子2は板厚の薄い金属製の材料で製造され、その表面にはニッケルメッキが施された後、さらにその表面に5〜20μmの厚さで錫メッキが施されている。なお、錫メッキとしては、錫合金メッキを使用することも可能である。
また、本実施例の金属端子2は、複数の金属端子2が付け根部分2aで搬送方向に向けて相互に連結され、上記付け根部分2aには搬送方向に向けて等間隔に貫通孔2bが穿設されている。
そして図1に示すように、連結された金属端子2はロール5に巻回された状態でウィスカ防止装置1に供給されるようになっている。
【0011】
上記搬送手段3は、上記金属端子2の巻回されたロール5を回転可能に保持する保持軸11と、上記ロール5から金属端子2を巻き取るロール6を保持する巻取り軸12と、これら保持軸11及び巻取り軸12の間に設けられた2つの搬送ロール13,14とを備え、上記巻取り軸12と図示右方の搬送ロール14はモータ等の駆動手段15,16によって回転するようになっている。
そして金属端子2は、保持軸11に保持されたロール5から引き出されると、搬送ロール13,14によって下方を保持され、その後、巻取り軸12に保持されたロール6に巻取られるようになっている。
また、上記搬送ロール14の外周には、上記金属端子2の付け根部分2aに穿設された貫通孔2bの間隔と同一の間隔で突起14aが形成されており、当該突起14aと上記貫通孔2bとが嵌合した状態で搬送ロール14を回転させることで、金属端子2を滑らさずに任意の搬送速度で搬送することができる。
さらに、金属端子2の搬送速度は上記搬送ロール14の回転によって定められ、上記巻取り軸12の回転速度は、巻取り径に応じて、搬送ロール14の搬送速度に同期しながら自動的に調整されるようになっている。
【0012】
そして、本実施例のレーザ光照射手段4は、レーザ光Lを水平方向に発振するレーザ発振器20と、発振されたレーザ光Lを下方に反射させる反射ミラー21と、レーザ光Lを所定の強度分布に変換する光学変換手段22と、レーザ光Lを所定の照射位置に集光する集光レンズ23とから構成されている。
上記レーザ発振器20は波長10.6μmのレーザ光Lを発振するCOレーザ発振器であり、加工に応じてCW発振又はパルス発振が可能であり、またその出力やパルスの発振周期やパルス幅等を適宜調整できるようになっている。
上記光学変換手段22はレーザ発振器20が発振したレーザ光Lの強度分布をほぼ均一なトップハットモードに変換する光学素子であり、この光学変換手段22として、例えばカライドスコープなどのビームホモジナイザを使用することができる。
この光学変換手段22を用いることにより、発振されたレーザ光を所定の強度分布に変換することができ、光軸付近にレーザ光Lの強度が集中してしまうのを防止することができる。
そして光学変換手段22によって変換されたレーザ光Lは、集光レンズ23によって上記搬送ロール13,14の中間となる所定の照射位置に、所定のパワー密度で照射される。
なお、レーザ発振器20として、発振条件や加工条件を適宜調整すれば、COレーザ発振器に代えて、半導体レーザ発振器やYAGレーザ発振器等を用いることも可能であり、またレーザ光Lの光路上にアパーチャを設けることで、レーザ光Lの断面形状を金属端子2の形状にあわせることもできる。
【0013】
上記構成を有するウィスカ防止装置1の動作について説明すると、最初に金属端子2の巻回されたロール5を保持軸11に装着し、金属端子2の一端を巻取り軸12に装着されているロール6に固定し、金属端子2の付け根部分2aに形成された貫通孔2bを、上記搬送ロール14の突起14aに嵌合させておく。
この状態からウィスカ防止装置1を作動させると、金属端子2は上記搬送ロール14と巻取り軸12とによって、巻取り軸12に装着されたロール6に金属端子2が巻き取られてゆく。このとき搬送手段3は、金属端子2を搬送速度1.7〜1300mm/secの範囲で連続的に搬送する。
一方、ウィスカ防止装置1の作動により、レーザ発振器20からはレーザ光Lが連続的にCW発振され、このレーザ光Lは反射ミラー21で反射した後、上記光学変換手段22によりトップハットモードに変換され、集光レンズ23によって所定の照射位置に照射される。
このとき、レーザ光Lの照射位置を図2に示す金属端子2の先端部分とし、当該照射位置におけるレーザ光Lのパワー密度が150〜1800W/mmの範囲となるように設定する。
レーザ光Lの照射位置を金属端子2の先端部分にするのは、錫メッキ内で応力が発生する部分にウィスカが発生しやすいからであり、本実施例の金属端子の場合、金属端子2の先端部に応力が発生するからである。
なお、金属端子2のその他の部分にも応力が発生する場合には、応力発生位置に合わせて、上記照射位置を任意に変更可能であることは言うまでもない。
【0014】
このようにして、金属端子2を上記搬送速度で搬送し、また照射位置におけるレーザ光Lのパワー密度を上記範囲に設定することで、金属端子2に施された錫メッキの表層部分だけがレーザ光Lによって溶融し、これによって錫メッキの施された部分が改質され、その後金属端子2の先端部分に応力が発生しても、錫メッキの表面にウィスカが発生するのを防止することができる。
そして、ロール5の全ての金属端子2に対してレーザ光Lの照射が行われると、一度ウィスカ防止装置1は停止し、その後作業者が巻取り軸12に装着されているロール6を取り外して、未だレーザ光Lの照射を受けていない面が上面を向くようにロール6を上記保持軸11に装着する。
ロール6から引き出した金属端子2を巻取り軸12に装着された新たなロールに取付け、再びウィスカ防止装置1を作動させると、金属端子2の先端部分に先ほどと同じ条件でレーザ光Lが照射され、これにより、金属端子2に施された両面の錫メッキが改質される。
このように、所定範囲の搬送速度で、照射位置に所定範囲のパワー密度のレーザ光Lを照射することで、錫メッキの表面に化合物を塗布することなく、ウィスカの発生を良好に防止することができる。
【0015】
図3は、実際にウィスカの発生を良好に防止できる条件について、金属端子2の搬送速度と、レーザ光Lの照射位置におけるパワー密度とをそれぞれ変化させて実験した結果を表したグラフであり、横軸に搬送速度、縦軸にパワー密度が示されている。
この図3において、○は良好にウィスカの発生を防止できた条件、×はウィスカの発生を防止できなかった条件を示しており、×となる原因として、錫メッキの下層のニッケルメッキまでも溶融してしまった場合や、錫メッキが十分に溶融しなかった場合が考えられる。
そしてこの図3から明らかなように、パワー密度が150W/mmの時に搬送速度を1.7〜50mm/secとし、パワー密度が1800W/mmの時に搬送速度を1300mm/secとする範囲内であれば、良好にウィスカの発生を防止できることが明らかとなった。
なお、金属端子2を上記搬送速度で移動させる場合、上記レーザ光照射手段4から照射されるレーザ光Lをパルス発振にしてもよい。つまり、レーザ光Lの照射位置を金属端子が通過するときだけ、レーザ光を照射させればよい。
【0016】
次に、上記実施例では搬送手段3により金属端子2を所定の搬送速度で連続的に移動させているが、金属端子2を間欠的に移動させても、ウィスカの発生を防止することが可能である。
具体的には、上記レーザ光Lの照射位置に上記実施例と同じパワー密度でレーザ光Lを照射するようにし、この状態で搬送手段3が金属端子2をレーザ光Lの照射位置に停止させたら、レーザ光照射手段4のレーザ発振器20が、レーザ光Lを0.001〜0.6秒間の範囲で発振する。
そしてレーザ光Lの照射が終了したら、搬送手段3により、金属端子2を所定距離だけ移動させる。
このようにすれば、金属端子2に施された錫メッキの表層部分だけがレーザ光Lによって溶融し、これによって錫メッキの施された部分が改質され、その後金属端子2の先端部分に応力が発生しても、錫メッキの表面にウィスカが発生するのを防止することができる。
【0017】
図4は、ウィスカの発生を良好に防止できる条件について、金属端子2へのレーザ光Lの照射時間と、レーザ光Lの照射位置でのパワー密度とをそれぞれ変化させて実験した結果を表したグラフであり、横軸にパワー密度、縦軸に照射時間が示されている。
そしてこの図4から明らかなように、パワー密度が150W/mmの時に照射時間を0.02〜0.6秒とし、パワー密度が1800W/mmの時に照射時間を0.001秒とする範囲内であれば、良好にウィスカの発生を防止できることが明らかとなった。
【0018】
さらに、上記実施例における金属端子2以外にも、錫メッキの施された物品であれば、ウィスカの発生を防止することができる。
図5は物品としてのコネクタ部品31であり、このコネクタ部品31の両端には、平行に金属製の端子32が複数露出し、この端子32の表面にはそれぞれ錫メッキが施されている。
そして錫メッキの表面にウィスカが発生すると、隣接する端子32同士で短絡してしまうおそれがあるので、ウィスカの発生を防止する必要がある。
そこで、上記実施例のようなウィスカ防止装置1を用いることで、ウィスカの発生を防止することができる。このとき上記実施例による搬送手段3に代え、保持手段及び移動手段として、従来公知のコンベヤベルト等を用いることが可能である。
【0019】
なお上記実施例では、光学変換手段22がレーザ光Lをトップハットモードに変換しているが、これに代えてレーザ光Lの強度分布がレーザ光の外周に集中するリングモードとすることも可能であり、この場合、アキシコンレンズを使用することが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施例におけるウィスカ防止装置についての配置図。
【図2】物品としての金属端子を説明する平面図。
【図3】レーザ光のパワー密度と、金属端子の搬送速度との関係を示したグラフ。
【図4】レーザ光のパワー密度と、レーザ光の照射時間との関係を示したグラフ。
【図5】物品としてのコネクタ部品についての平面図。
【符号の説明】
【0021】
1 ウィスカ防止装置 2 金属端子
3 搬送手段 4 レーザ光照射手段
22 光学変換手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品の表面に施された錫メッキの表層にレーザ光を照射して、上記錫メッキ表面でのウィスカの発生を防止するウィスカ防止方法において、
照射位置におけるパワー密度が150〜1800W/mmのレーザ光を、上記物品に対して1.7〜1300mm/secで相対移動させながら照射することを特徴とするウィスカ防止方法。
【請求項2】
物品の表面に施された錫メッキの表層にレーザ光を照射して、上記錫メッキ表面でのウィスカの発生を防止するウィスカ防止方法において、
照射位置におけるパワー密度が150〜1800W/mmのレーザ光を、上記物品に0.001〜0.6秒間照射することを特徴とするウィスカ防止方法。
【請求項3】
レーザ光を照射するレーザ光照射手段と、表面に錫メッキの施された物品を保持する保持手段とを備え、上記錫メッキの表層にレーザ光を照射して、上記錫メッキ表面でのウィスカの発生を防止するウィスカ防止装置において、
上記レーザ光照射手段は、照射位置におけるパワー密度が150〜1800W/mmのレーザ光を照射し、上記レーザ光の照射位置と保持手段とを1.7〜1300mm/secで相対移動させる移動手段を備えることを特徴とするウィスカ防止装置。
【請求項4】
レーザ光を照射するレーザ光照射手段と、表面に錫メッキの施された物品を保持する保持手段とを備え、上記錫メッキの表層にレーザ光を照射して、上記錫メッキ表面でのウィスカの発生を防止するウィスカ防止装置において、
上記レーザ光照射手段は、照射位置におけるパワー密度が150〜1800W/mmのレーザ光を照射すると共に、上記物品に0.001〜0.6秒間、当該レーザ光を照射することを特徴とするウィスカ防止装置。
【請求項5】
レーザ光照射手段が照射するレーザ光を、光強度分布がトップハットモードのレーザ光に変換する光学変換手段を設けた請求項3または請求項4のいずれかに記載のウィスカ防止装置。
【請求項6】
上記レーザ光照射手段は、COレーザ発振器を備えることを特徴とする請求項3ないし請求項5のいずれかに記載のウィスカ防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−291276(P2006−291276A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112672(P2005−112672)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000253019)澁谷工業株式会社 (503)
【Fターム(参考)】