説明

ウイルス不活化剤

【課題】タンパク質が存在する環境でもウイルスを不活化することができるウイルス不活化剤を提供する。
【解決手段】本発明は、ウイルス不活化剤であって、一価の銅化合物微粒子および分散媒を含むことを特徴とする。本発明のウイルス不活化剤は、極めて高い抗ウイルス性を有し、且つ、タンパク質が存在する環境下でも高い抗ウイルス性を有する。したがって、本発明によれば、様々な環境で抗ウイルス性が発現できるウイルス不活化剤を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の有無に関わらず様々なウイルスを不活化することができる一価の銅化合物微粒子を含有するウイルス不活化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SARS(重症急性呼吸器症候群)や鳥インフルエンザなどの新種ウイルス感染による死者が報告されている。さらに現在、交通の発達やウイルスの突然変異によって、世界中にウイルス感染が広がる「パンデミック(感染爆発)」の危機に直面しており、緊急の対策が必要とされている。このような事態に対応するために、ワクチンによる抗ウイルス剤の開発も急がれているが、ワクチンの場合、その特異性により、感染を防ぐことができるのは特定のウイルスに限定される。
【0003】
ここでウイルスは、脂質を含むエンベロープと呼ばれる膜で包まれているウイルスと、エンベロープを持たないウイルスに分類できる。エンベロープはその大部分が脂質からなるため、エタノール、有機溶剤、石鹸などで処理すると容易に破壊することができる。これに対し、エンベロープを持たないウイルスは上記処理剤への抵抗性が強いと言われている。
【0004】
これらの問題を解決するために、抗ウイルス効果のある金属を担持したゼオライトなどの無機多孔質物質との複合繊維を用いた抗ウイルス不織布が知られている(特許文献1)。また、抗鳥インフルエンザウイルス効果がある、冷間加工で延伸した銅の極細繊維が知られている(特許文献2)。また、エンベロープの有無に関係なく様々なウイルスに対して抗ウイルス効果を有する次亜塩素酸ナトリウムなどの水溶液を微細な水滴にして噴霧し、空気を清浄化する空気調和装置が報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−188791号公報
【特許文献2】特開2008−138323号公報
【特許文献3】特開2007−7053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ゼオライトなどの無機多孔質物質は、ウイルスよりも、タンパク質などの有機成分と優先的に結合する。そのため、両者が混在した環境下では、ウイルスへの結合能が低下したり、結合したウイルスを放出してしまう、などの問題がある。また、金属銅を用いる場合では、表面に汚れなどが付いてしまうとその抗鳥インフルエンザウイルス効果がなくなってしまう。そのため、常に特殊な洗浄をしなくてはならず、手間がかかる。さらに次亜塩素酸ナトリウムについては、被処理物に唾液や血液などが付着していると、この中に含まれる脂質やタンパク質などの有機物が次亜塩素酸ナトリウムの浸透を阻害するため、効果が低下してしまう。
【0007】
そこで本発明は、上記課題を解決するために、エンベロープの有無に関係なく、また、脂質やタンパク質の存在下でも様々なウイルスを不活化することができるウイルス不活化剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、第1の発明は一価の銅化合物微粒子および分散媒を含むことを特徴とするウイルス不活化剤である。
【0009】
また、第2の発明は、上記第1の発明において、前記一価の銅化合物微粒子が、塩化物、酢酸物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、酸化物、水酸化物、シアン化物、チオシアン酸塩、またはそれらの混合物であることを特徴とするウイルス不活化剤である。
【0010】
さらに、第3の発明は、上記第1または第2の発明において、前記一価の銅化合物微粒子が、CuCl、Cu2(CH3COO)2、CuI、CuBr、CuO2、CuOH、CuCN、CuSCNからなる群から少なくとも1種類選択されることを特徴とするウイルス不活化剤である。
【0011】
第4の発明は、上記第1から第3の発明のいずれかにおいて、前記分散媒が水および/または低級アルコールであることを特徴とするウイルス不活化剤である。
【0012】
第5の発明は、上記第1から第4のいずれかの発明のウイルス不活化剤と、噴射剤とを含むことを特徴とするエアゾール製品である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、脂質を含むエンベロープと呼ばれている膜で包まれているウイルスや、エンベロープを持たないウイルスなどの様々なウイルスを容易に不活化することができ、さらに、脂質やタンパク質の存在下においてもウイルスを不活化することができるウイルス不活化剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0015】
本実施形態のウイルス不活化剤によるウイルスの不活化機構については現在のところ必ずしも明確ではないが、一価の銅化合物微粒子にウイルスが接触したときに、一価の銅化合物微粒子の一部が空気中の水分によって、より安定な二価の銅イオンになろうとするために電子を放出し、その時に放出された電子がウイルス表面の電気的チャージやDNAなどに何らかの影響を与えることにより、不活化させるものと考えられる。
【0016】
また本実施形態のウイルス不活化剤は、一価の銅化合物が微粒子として分散媒中に分散している為、ウイルスとの接触面積が増え、従ってウイルスが一価の銅化合物と接触する確率が非常に高くなる。その上、一価の銅化合物は微粒子であるため浮遊しやすく、空気中に長時間存在することから、エアゾール化して処理できるように構成することができる。よって、被処理物の抗ウイルス性の維持が容易となる。
【0017】
本実施形態において、有効成分である一価の銅化合物微粒子の種類については特に限定されないが、塩化物、酢酸物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、酸化物、水酸化物、シアン化物、チオシアン酸塩またはそれらの混合物からなることが好ましい。このうち、一価の銅化合物が、CuCl、Cu2(CH3COO)2、CuI、CuBr、CuO、CuOH、CuCN、CuSCNからなる群から少なくとも1種類選択されることが一層好適である。
【0018】
本実施形態において、含有される一価の銅化合物微粒子の大きさは特に限定されないが、平均の粒子径が1nm以上、200μm以下とすることが好ましい。
【0019】
さらに、ウイルス不活化剤は、一価の銅化合物微粒子について、良好な分散安定性を有することが好ましい。また、エアゾール化したり噴霧器などを用いてウイルス不活化剤を基材などの被処理物に噴霧できるように構成する場合、ノズルからの良好な放出性を有していることが好ましい。このような点を考慮すると、一価の銅化合物微粒子の平均粒子径は、10nmから100μmであることが特に好ましい。
【0020】
また、本実施形態において、含有される一価の銅化合物微粒子の量としては使用する目的や用途及び微粒子の大きさを考慮して適宜設定すればよいが、含有される不揮発成分に対し0.1質量%から60質量%であることが好ましい。一価の銅化合物微粒子が0.1質量%に満たない場合は、抗ウイルス作用が十分に発現しないことがある。また、60質量%よりも多くしても60質量%の場合と比較して抗ウイルス性の効果に大差はない。
【0021】
また、本実施形態において、含有される一価の銅化合物微粒子の不活化剤全体に対する割合については特に限定されず、当業者が不活化剤の構成態様、使用態様等に応じて任意に設定することができる。
【0022】
本実施形態の一価の銅化合物微粒子および分散媒を含有するウイルス不活化剤には、分散安定性を高めるための分散剤が含まれることが好ましい。分散剤としては、例えば界面活性剤を用いることができる。具体的には、アニオン系界面活性剤とノニオン系界面活性剤を使用できる。アニオン系界面活性剤としては、親水基としてカルボン酸、スルホン酸、あるいはリン酸構造を持つものとすることができる。また、カルボン酸系としては、例えば石鹸の主成分である脂肪酸塩やコール酸塩とすることができる。また、スルホン酸系としては合成洗剤に多く使われる直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムやラウリル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。より具体的には、脂肪酸ソーダ石鹸、オレイン酸カリウム石鹸、アルキルエーテルカルボン酸塩などのカルボン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム、高級アルコール硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムなどの硫酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩などのスルホン酸塩、アルキルリン酸カリウム塩、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸などがあげられる。これらは単独または複数を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
また、ノニオン界面活性剤としては、アルキルフェノールエチレンオキシド付加物および高級アルコールエチレンオキシド付加物、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸エチレンオキシド付加物およびポリエチレングリコール脂肪酸エステル、高級アルキルアミンエチレンオキシド付加物および脂肪酸アミドエチレンオキシド付加物、ポリオキシエチレンアルキルアミンおよびポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリプロピレングリコールエチレンオキシド付加物、非イオン界面活性剤グリセリンおよびペンタエリスリトールの脂肪酸エステルソルビトールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、しょ糖の脂肪酸エステルアルキルポリグリコシド脂肪酸、アルカノールアミドなどがあげられる。これらは単独または複数を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
さらに、高分子系分散剤としては、ポリウレタンプレポリマー、スチレン・ポリカルボン酸共重合体、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース、アクリル酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、アクリルアミド、ポリビニルピロリドン、カゼイン、ゼラチン、さらに、オリゴマーおよびプレポリマーとしては、不飽和ポリエステル、不飽和アクリル、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、シリコーンアクリレート、マレイミド、ポリエン/ポリチオールや、アルコキシオリゴマーなどが用いられる。
【0025】
さらに、本実施形態のウイルス不活化剤には、無機微粒子が含まれることが好ましい。無機微粒子を添加することで、一価の銅化合物微粒子が当該無機微粒子と接触して砕かれ、より粒径の小さい一価の銅化合物微粒子が生じる。その結果、一価の無機微粒子とウイルスとの接触面積が大きくなり、より高いウイルス不活化効果を得ることができる。無機微粒子としては、無機化合物、非金属酸化物、金属酸化物、金属複合酸化物などが用いられる。また、無機微粒子の結晶性は、非晶性あるいは結晶性のどちらでも良い。非金属酸化物としては、酸化珪素が挙げられる。また、無機化合物としては、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、金属酸化物としては、酸化マグネシウム、酸化バリウム、過酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛、過酸化チタン、過酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄、水酸化鉄、酸化タングステンなどが挙げられる。また、金属複合酸化物としては、高シリカゼオライト、ソーダライト、モルデナイト、アナルサイト、エリナイトなどのゼオライト類、ハイドロキシアパタイトなどのアパタイト類、珪藻土、酸化チタンバリウム、酸化コバルトアルミニウム、TiO2−WO3、AlO−SiO、WO−ZrO、WO−SnOなどが挙げられ、これらの無機微粒子は2種以上混合して用いても良い。なお、無機微粒子の大きさは特に限定されず、当業者が任意に設定可能であるが、平均の粒子径が10nm以上、300nm以下であることが好ましい。
【0026】
また、本実施形態で用いられる無機微粒子表面には、不飽和結合部を有するシランモノマーが結合していることが、無機微粒子の分散安定性が高まり一価の銅化合物微粒子と接触する機会が増加するため、一層好ましい。不飽和結合部を有するシランモノマーとして、例えば、ビニルトリメトキシシランや、ビニルトリエトキシシランや、ビニルトリアセトキシシランや、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどや、Si(OR14(式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基を示す)で示されるアルコキシシラン化合物、例えば、テトラメトキシシランや、テトラエトキシシランなどや、R2nSi(OR34n(式中、R2は炭素数1〜6の炭化水素基、R3は炭素数1〜4のアルキル基、nは1〜3の整数を示す)で示されるアルコキシシラン化合物、例えば、メチルトリメトキシシランや、メチルトリエトキシシランや、ジメチルジエトキシシランや、フェニルトリエトキシシランや、ヘキサメチルジシラザンや、ヘキシルトリメトキシシランなどが挙げられる。なお、不飽和結合部を有するシランモノマーと無機微粒子の結合の態様は特に限定されないが、例えば脱水縮合反応によって無機微粒子と共有結合させることにより、結合させることができる。
【0027】
本実施形態におけるウイルス不活化剤は、有効成分である一価の銅化合物微粒子を分散させるための分散媒を含有する。分散媒としては、水および/または低級アルコールを用いることができる。低級アルコールとしてはメタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコールとすることができる。また、これらの分散媒は2種以上混合するようにしてもよい。なお、本実施形態において、含有される構成成分の比率は、用途や被処理物の種類等に応じて変更可能である。
【0028】
さらに、本実施形態の一価の銅化合物微粒子および分散媒を含有するウイルス不活化剤は、エアゾール化して処理するようにすることができる。具体的には、ウイルス不活化剤を噴射剤とともにスプレー缶等に封入して、ウイルスが存在する、または存在すると思われる場所に噴霧できるように、エアゾール製品として構成することができる。なお、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばウイルス不活化剤を噴霧できる装置で吹き付けて処理するように構成してもよい。
【0029】
本実施形態のウイルス不活化剤で不活化できるウイルスについては特に限定されず、ゲノムの種類や、エンベロープの有無等に係ることなく、様々なウイルスを不活化することができる。例えば、ライノウイルス・ポリオウイルス・ロタウイルス・ノロウイルス・エンテロウイルス・ヘパトウイルス・アストロウイルス・サポウイルス・E型肝炎ウイルス・A型、B型、C型インフルエンザウイルス・パラインフルエンザウイルス・ムンプスウイルス(おたふくかぜ)・麻疹ウイルス・ヒトメタニューモウイルス・RSウイルス・ニパウイルス・ヘンドラウイルス・黄熱ウイルス・デングウイルス・日本脳炎ウイルス・ウエストナイルウイルス・B型、C型肝炎ウイルス・東部および西部馬脳炎ウイルス・オニョンニョンウイルス・風疹ウイルス・ラッサウイルス・フニンウイルス・マチュポウイルス・グアナリトウイルス・サビアウイルス・クリミアコンゴ出血熱ウイルス・スナバエ熱・ハンタウイルス・シンノンブレウイルス・狂犬病ウイルス・エボラウイルス・マーブルグウイルス・コウモリリッサウイルス・ヒトT細胞白血病ウイルス・ヒト免疫不全ウイルス・ヒトコロナウイルス・SARSコロナウイルス・ヒトポルボウイルス・ポリオーマウイルス・ヒトパピローマウイルス・アデノウイルス・ヘルペスウイルス・水痘・帯状発疹ウイルス・EBウイルス・サイトメガロウイルス・天然痘ウイルス・サル痘ウイルス・牛痘ウイルス・モラシポックスウイルス・パラポックスウイルスなどを挙げることができる。
【0030】
ここで、一価の銅化合物微粒子として塩化銅(I)微粒子を挙げ、これを含む本実施形態の一価の銅化合物微粒子および分散媒を含むウイルス不活化剤の製造について、具体的に説明する。塩化銅(I)は、ジェットミル、ハンマーミル、ボールミル、振動ミルなどによりミクロンオーダーの粒子に粉砕する。次に、粉砕により得た塩化銅(I)微粒子と、不飽和結合部を有するシランモノマーが結合した無機微粒子と、および界面活性剤やモノマーやオリゴマーなどの分散剤とを、水やメタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコールなどの分散媒に混合してプレ分散する。その後、ビーズミルやボールミル、サンドミル、ロールミル、振動ミル、ホモジナイザーなどの装置を用いて分散・解砕する。これにより、塩化銅(I)微粒子と無機微粒子とを分散したスラリーを作製して本実施形態のウイルス不活化剤とすることができる。
【実施例】
【0031】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
市販の塩化銅(I)粉末(和光純薬工業株式会社製 和光一級、粒径40.9μm)を水100μlに懸濁液濃度1.0質量%、または0.25質量%になるように懸濁し、ノロウイルスの代替ウイルスであるネコカリシウイルスに対する抗ウイルス性を評価した。なお、本明細書において懸濁液濃度とは、懸濁液を構成するヨウ化物や溶媒等の全成分の質量を100%とし、その中の特定成分(例えば塩化物)の質量%を意味する。
【0033】
(実施例2)
市販のヨウ化銅(I)粉末(和光純薬工業株式会社製 和光一級、粒径5.0μm)をエタノール100μlに懸濁液濃度10質量%、または2質量%になるように懸濁し、ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス性を評価した。なお、本明細書において懸濁液濃度とは、懸濁液を構成するヨウ化物や溶媒等の全成分の質量を100%とし、その中の特定成分(例えばヨウ化物)の質量%を意味する。
【0034】
(比較例1)
市販の次亜塩素酸ナトリウムを含む殺菌消毒剤(純正化学株式会社製)の有効塩素濃度を蒸留水で4.0質量%に調整し、次に、生理食塩水にて1600ppmと800ppmに調整し、抗ウイルス性を評価した。
【0035】
(本発明の抗ウイルス性評価)
抗ウイルス性は、ノロウイルスの代替ウイルスとして一般によく用いられるネコカリシウイルスに対する抗ウイルス性を評価した。各サンプル100μlと、ブランクとしてMEM希釈液100μlとし、最終濃度が40mg/ml、20mg/ml、10mg/ml、0mg/mlになるようにタンパク質としてブイヨンタンパクを加えたウイルス液100μlを、各サンプルおよびブランクに加え、室温25℃で1分間、200rpm/分にて振蘯した。続いて、それぞれの化合物の反応を停止させるために20mg/mlのブイヨンタンパクを1800μl加えた。その後、各反応サンプルが10-2〜10-5になるまでMEM希釈液にて希釈を行い(10倍段階希釈)、コンフルエントCrFK細胞に100μl、反応後のサンプル液を接種した。90分間のウイルス吸着後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%CO2インキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い形成されたプラーク数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1ml,Log10);(PFU:plaque-forming units)を算出した。そして、実施例を用いた場合におけるウイルスの感染価とコントロールにおけるウイルス感染価とに基づき、ウイルス活性を比較した。
【0036】
(コントロール1)
サンプルを添加しないMEM希釈液を用い、コントロールとした。
【0037】
【表1】

【0038】
上記結果より、一価の銅化合物である実施例1と実施例2では、タンパク質を含まない場合、ウイルスとの接触時間1分という短時間で、不活化率99.9998%以下という非常に高い抗ウイルス性能(ウイルス不活化効果)があることが認められた。また、タンパク質を40mg/mlの高濃度になるように加えた場合でも、ウイルスとの接触時間が1分という短時間で、不活化率99.9998%以下という非常に高い抗ウイルス性能を示した。特に、実施例1は、1価の銅化合物微粒子の割合が実施例2の場合より少なくとも、高い抗ウイルス性能を示している。すなわち、1価の銅化合物微粒子として塩化銅(I)の微粒子を用いることがさらに好ましいことが、当該結果より理解される。これに対し、比較例1では、タンパク質を加えない場合、短時間に不活化率99.9998%以下という高い抗ウイルス性能を示すものの、タンパク質を加えた全ての系では、ほとんどウイルスを不活化できなかった。なお、ここでいう不活化率とは下記の式で定義された値を言う。

不活化率(%)=
100×(10ブランクのウイルス感染価−10試料のウイルス感染価)/10ブランクのウイルス感染価

【0039】
(実施例3)
実施例1(1)のウイルス不活化剤と噴射剤である液化石油ガスを混合した後、エアゾール容器に充填してエアゾール製品とした。
【0040】
(実施例4)
実施例1(1)のウイルス不活化剤をハンディータイプの噴霧器に充填した。
【0041】
(抗ウイルス性評価)
ポリプロピレンフィルム(4cm×4cm)を発泡スチロールケースに入れ、ポリプロピレンフィルムの表面全体にわたって、0.1mlのネコカリシウイルスのウイルス液(ネコカリシウイルス液)を噴霧した。同様に、インフルエンザウイルスについても、ウイルス液(インフルエンザウイルス液)を調製し、発泡スチロールケース中のポリプロピレンフィルム(4cm×4cm)に対して噴霧した。次に、ネコカリシウイルス液およびインフルエンザウイルス液を噴霧した当該フィルムそれぞれの表面全体に、実施例3のエアゾール製品、または実施例4のウイルス不活化剤を0.1ml噴霧した。1分後、反応をとめるために20mg/mlのブイヨンタンパクを1.8ml噴霧した。さらにリン酸緩衝生理食塩水3ml中にポリプロピレンフィルムを浸し、シェーカーで1分間振とうして、ウイルスをフィルムから溶出させた。このウイルス溶出液を試料原液として、その後、各反応サンプルが10-2〜10-5になるまでMEM希釈液にて希釈を行い(10倍段階希釈)、コンフルエントCrFK細胞に100μl、反応後のサンプル液を接種した。90分間のウイルス吸着後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%CO2インキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い形成されたプラーク数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1ml,Log10);(PFU:plaque-forming units)を算出した。コントロールにおけるウイルス感染価と比較し、ウイルス活性を比較した。
【0042】
(コントロール2)
ポリプロピレンフィルムにウイルス液を塗布した後、ウイルス不活化剤を塗布せずに抗ウイルス性評価を行ったものをコントロールとした。
【0043】
【表2】

【0044】
以上のことから、本実施例の一価の銅化合物微粒子および分散媒を含むウイルス不活化剤は、ウイルスに対して非常に高い抗ウイルス性能を有することが確認できた。また、本ウイルス不活化剤は、タンパク質を含む環境下でも短時間にウイルスを不活化できることから、唾液や血液などが付着している場合や、嘔吐物などが存在する場合にも、ウイルスを不活化することが可能である。すなわち、本発明によれば、様々な環境でも効果の高い抗ウイルス性が発現できるウイルス不活化剤を提供することができる。また、エンベロープを持つインフルエンザウイルスに加えて、エンベロープを持たないネコカリシウイルスに対してもこのように極めて高い抗ウイルス性能を示したことから、エンベロープの有無に係らず、様々なウイルスに対して充分な抗ウイルス性能を有することも、充分推察できる結果となった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一価の銅化合物微粒子および分散媒を含むことを特徴とするウイルス不活化剤。
【請求項2】
前記一価の銅化合物微粒子が、塩化物、酢酸物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、酸化物、水酸化物、シアン化物、チオシアン酸塩、またはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載のウイルス不活化剤。
【請求項3】
前記一価の銅化合物微粒子が、CuCl、Cu2(CH3COO)2、CuI、CuBr、CuO2、CuOH、CuCN、CuSCNからなる群から少なくとも1種類選択されることを特徴とする請求項1または2に記載のウイルス不活化剤。
【請求項4】
前記分散媒が水および/または低級アルコールであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載のウイルス不活化剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載のウイルス不活化剤と、噴射剤とを含むことを特徴とするエアゾール製品。


【公開番号】特開2010−239897(P2010−239897A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92015(P2009−92015)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(391018341)株式会社NBCメッシュテック (59)
【Fターム(参考)】