説明

ウイルス感染に対して抵抗性を有するニワトリの遺伝情報による選抜方法

【課題】ニワトリにおけるウイルス、特にRSV感染に対する抵抗性を評価する方法の提供。
【解決手段】少なくとも第16番染色体上に位置するMHC−B領域にあるマイクロサテライトマーカーLEI0258の多型を検出、評価することを含む、ニワトリにおけるウイルス、特にRSV感染に対する抵抗性を評価する方法の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニワトリにおけるウイルス、特にRSV感染に対する抵抗性を評価する方法およびそれを用いた当該抵抗性を有するニワトリの選抜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリ白血病ウイルス(Avian Leukosis Virus:以下、「ALV」と記載する)はトリ白血病−肉腫ウイルス(ALSV:Avian Leukosis−Sarcoma Virus)の一種であり、肉用鶏に感染して、骨髄球(骨髄性白血球の幼若型)白血症(myelocyic myeloid leucosis)、腎腫瘍(nephromas)や他の腫瘍(tumor)を発生させることが知られている。肉用鶏生産の現場では、当該ウイルスに感染してトリ白血病が発生してしまうと、鶏舎全てのニワトリの抗体価を測定し、ALV感染しているかどうかを調べ、感染ニワトリと非感染ニワトリを分け感染鶏を処分した後、鶏舎の汚染を除くために消毒操作を行いまた、長期間汚染鶏舎を用いない等、時間的、経済的に大きな負担を生じるため問題となる。
【0003】
このような問題を解決すべく、わが国では家畜改良センター(旧農林水産省白河種畜牧場)を中心に、1980年頃から約10年間にわたりニワトリのウイルス病抵抗性に関する育種事業が行われた。
【0004】
当該育種事業においては、ALV感染への抵抗性(感受性)を評価するために、ALVの代わりにラウス肉腫ウイルス(Rous Sarcoma Virus:以下、「RSV」と記載する)を用いた感染試験が行われた。
【0005】
RSVはALVのシュードタイプ(Pseudotype:疑似タイプ)であることが知られている。ALVとRSVの遺伝子構造は、gag(切断されてキャプシドプロテインになるポリプロテインを作る)、pol(逆転写酵素とウイルス遺伝子を宿主ゲノムに組み込むのに関わる酵素を作る)、env(エンベロープの糖タンパクを作る)の3つの部分において同じであり、RSVにはこれらに加えsrc(ガン遺伝子)部分が含まれる。RSVはニワトリに感染後、わずか5日程度で腫瘍を発生させることができる。これらの性質によりALV感染に対するニワトリの抵抗性(感受性)を調べる際には、ALVに代えてRSVが通常用いられている(非特許文献1)。
【0006】
ウイルス感染に対するニワトリの抵抗性には2つの種類が存在する。
【0007】
1つは、ウイルスを細胞内に受け入れないこと、すなわち非感受性による「抵抗性」である。これは、ホスト細胞表面のウイルスレセプターの変異によるレセプタータンパク質とウイルスタンパク質との親和性の低下や、タンパク質から成るウイルスのキャプシドを開裂させるのに適した酵素を持たない等によって生ずる。
【0008】
もう1つは、ウイルスに感染はするが、細胞性免疫および/または液性免疫の作用によりウイルス増加が抑制されることによる「抵抗性」である。当該「抵抗性」は、ウイルス感染によって生じる腫瘍の退行によって評価することができる。
【0009】
上記家畜改良センターが行ったRSVを用いた感染試験の結果から、白色レグホンの10種類の系統(WL01系統、WL02系統、WL04系統、WL05系統、WL06系統、WL11系統、WL12系統、WL14系統、WL15系統およびWL21系統)のうち、WL11系統において高い割合で腫瘍の退行が観察され、WL11系統がウイルス感染に対して抵抗性を有することが明らかにされた(非特許文献2)。
【0010】
しかし、WL11系統に属するニワトリの全てにおいて腫瘍の退行が観察されたわけではなく、その約50%の個体において腫瘍退行が観察されるにとどまり、残る個体においては腫瘍退行が観察されなかった。そのため、ウイルス感染に対して抵抗性を有する個体を選抜するための手法が、当該分野において切望されていた。
【0011】
本発明者らは、RSV(特に、RSV−A)感染によって生じる腫瘍の退行を伴う、ウイルス感染に対する抵抗性に関連する遺伝子がどの染色体に座乗しているかを分析した。詳細には、WL11系統と、腫瘍の退行を示さないロードアイランドレッド種の系統(以下、「RYRYS」と記載する)を交配して実験家系を造成し、これに対しRSVの感染試験を実施し、マクロサテライトを用いた連鎖解析を行った。
【0012】
その結果、当該抵抗性に関連する染色体領域が第1,2,4,16番染色体に認められ、特に第16番染色体の有意性が最も高いことを見出し報告した(非特許文献3)。
【0013】
本発明者らによる上記結果より、ウイルス感染に対する抵抗性が第16番染色体に特に高い有意性を持って依存していることが理解されたが、この情報だけでは、ウイルス感染に対して抵抗性を有する個体の選抜に十分とは言えず、当該分野においては依然として、当該抵抗性を有する個体を選抜するための新たな手法が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】鶏の白血病抗病性に対する育種 山田行雄 畜産技術(1969)7:p217−221
【非特許文献2】鶏の抗病性育種事業に関する資料(1990)農林水産省 白河種畜牧場
【非特許文献3】Y.Uemoto et al.(2009) Asian−Aust. J. Anim. Sci. 22(10):1359−1365
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、ニワトリにおけるウイルス、特にRSV感染に対する抵抗性を評価する方法およびそれを用いた当該抵抗性を有するニワトリの選抜方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、少なくとも第16番染色体上に位置するMHC−B領域にあるマイクロサテライトLEI0258(以下、「LEI0258」と記載する)の多型を検出、評価することによって、ウイルス、特にRSV感染に対して抵抗性を有するニワトリを選抜できることを見出した。さらに、上記LEI0258の多型に加えて、同じく第16番染色体上のMHC−B領域にあるTAPBP遺伝子の遺伝子多型を検出することによって、RSV感染に対して抵抗性を有するニワトリを高い精度で選抜できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
すなわち、本発明は以下の特徴を有する。
[1] ニワトリにおけるウイルス感染に対する抵抗性を評価する方法であって、第16番染色体上に位置するMHC−B領域にあるマイクロサテライトLEI0258の多型を検出し評価することを含む、上記方法。
[2] ウイルスがラウス肉腫ウイルス(RSV)である、[1]の方法。
[3] ウイルスがトリRSV−Jである、[2]の方法。
[4] マイクロサテライトLEI0258の塩基長が443bpである場合に、ウイルス感染に対する抵抗性を有すると判断する、[1]〜[3]のいずれかの方法。
[5] さらに、第16番染色体上に位置するMHC−B領域にあるBlec2遺伝子、TAPBP(TAP Binding protein)遺伝子、BLB2遺伝子、DMB1遺伝子およびTAP2遺伝子からなる群から選択される1または複数の遺伝子の遺伝子多型を検出し評価することを含む、[1]〜[4]のいずれかの方法。
[6] TAPBP(TAP Binding protein)遺伝子の遺伝子多型を検出し評価する、[5]の方法。
[7] TAPBP(TAP Binding protein)遺伝子のアミノ酸コード配列において944番目のヌクレオチドがアデニンである場合に、ウイルス感染に対する抵抗性を有すると判断する、[6]の方法。
[8] [1]〜[7]のいずれかの方法を用いる、ウイルス感染に対して抵抗性を有するニワトリを選抜する方法。
[9] [1]〜[8]のいずれかの方法において、マイクロサテライトLEI0258をPCR反応によって増幅するためのプライマーを含む、ニワトリにおけるウイルス感染に対する抵抗性を評価するための試薬キット。
[10] さらに、TAPBP遺伝子の遺伝子多型を検出するためのプライマーまたはオリゴヌクレオチドを含む、[9]の試薬キット。
【発明の効果】
【0018】
本発明を用いることにより、ニワトリにおけるウイルス、特にRSV感染に対する抵抗性を評価することが可能となり、当該抵抗性を有するニワトリを選抜することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、第16番染色体上に位置するMHC−B領域にあるLEI0258および本発明者らによって当該領域中に見いだされた35カ所の単塩基変異(SNP)の位置を示す。
【図2】図2は、PCR反応によって増幅した、WL11系統における各ハプロタイプ(WLA,WLB,WLC,RIRa,RIRb,RIRc)におけるLEI0258の電気泳動像図である。各レーンはそれぞれ以下のサンプルを示す。L:100bp〜1,000bpラダー(マーカー),1:WLAホモ(443bpホモ),2:WLBホモ(260bpホモ),3:RIRaホモ(310bpホモ),4:RIRbホモ(310bpホモ),5:RIRcホモ(357bpホモ),6:WLB,RIRaヘテロ(260bp/310bp),7:WLA,WLBヘテロ(260bp/443bp),8:WLA,RIRaヘテロ(310bp/443bp),9:WLA,RIRcヘテロ(357bp/443bp),10:WLB,RIRaヘテロ(260bp/310bp),11:WLA,RIRcヘテロ(357bp/443bp),12WLAホモ(443bpホモ)。
【図3−1】図3−1は、4つのハプロタイプRJF,B6,B24,RIRaのMHC−B領域に存在する遺伝子の方向、CDSの長さ、アミノ酸の数とWLAハプロタイプを基準としたときの同義単塩基置換および非同義単塩基置換の数を示す。
【図3−2】(図3−1の続き)
【図4−1】図4−1は、5つの異なるMHC−Bハプロタイプに存在するTAPBP遺伝子の塩基配列を示す。塩基配列中、四角で囲まれたヌクレオチドは、同義置換を示し、下線で示されたヌクレオチドは非同義置換を示す。
【図4−2】(図4−1の続き)
【図4−3】(図4−2の続き)
【図4−4】(図4−3の続き)
【図4−5】(図4−4の続き)
【図4−6】(図4−5の続き)
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、ニワトリにおけるウイルス感染に対する抵抗性を評価する方法を提供する。
【0021】
本発明において、「ウイルス」にはトリ白血病ウイルス(Avian Leukosis Virus:以下、「ALV」と記載する)およびラウス肉腫ウイルス(Rous Sarcoma Virus:以下、「RSV」と記載する)が含まれる。ALVもRSVもガンウイルスであり、そのキャプシド構造の違いから、A、B、C、D、E、F、G、H、IおよびJの10の型に分類される(Payne L.N. et al. (1992) Jounal of General Virology, 73:2995−2977)。好ましくは、本発明における「ウイルス」は、RSVであり、さらに好ましくはRSV−Jである。
【0022】
本発明において、「ウイルス感染に対する抵抗性」とは、ウイルスに感染はするが、細胞性免疫および/または液性免疫の作用によりウイルス増加が抑制されることを意味する。本発明において、当該「抵抗性」は、ウイルス感染、好ましくはRSVの感染、さらに好ましくはRSV−Jの感染、によって生じる腫瘍の退行によって評価することができる。「腫瘍の退行」とは、ニワトリにおいてウイルス感染によって生じた腫瘍が、20〜45日程度の間に縮小または消失することを意味する。したがって、本明細書においては、「ウイルス感染に対する抵抗性」を、「腫瘍の退行」や「腫瘍退行能」といった用語で表現される場合があるが、これらの用語は全て相互互換的に用いられる。
【0023】
本発明において、「ニワトリ」は特に限定されない。好ましくはWL11系統またはWL11系統に由来するニワトリである。「WL11系統に由来するニワトリ」とは、WL11系統との交配により得られたニワトリ(F1世代)に限定されることなく、F2、F3世代など(特にこれらに限定されない)後の世代のニワトリおよびこれらのニワトリと交配して得られたニワトリも含まれる。
【0024】
本発明において、ウイルス感染に対する抵抗性の評価はニワトリの遺伝子情報に基づいて行うことができる。すなわち、ニワトリDNAを含む試料において、少なくとも第16番染色体上に位置するMHC−B領域にあるマイクロサテライトマーカーLEI0258の多型を検出、評価することによって行うことができる。
【0025】
本発明において用いられる「ニワトリDNAを含む試料」は、ニワトリから単離されたあらゆる細胞(生殖細胞を除く)、組織、臓器などを材料として調製される。好ましくは、末梢血(白血球や単核球)より調製することができる。
【0026】
本明細書中において、「遺伝子多型」には、いわゆる単一ヌクレオチド多型(1塩基多型:single nucleotide polymorphism:以下、「SNP」と記載する)、および連続した複数ヌクレオチドにわたる多型、の両方を含むものとする。すなわち、集団において、ある一個体のゲノム配列を基準として、他の1または複数の個体ゲノム中の特定部位に、1または複数ヌクレオチドの置換、欠失、挿入、転位、逆位等の変異が存在するとき、その変異が当該1または複数の個体に生じた突然変異でないことが統計的に確実か、または当該個体内突然変異でなく、1%以上の頻度で集団内に存在することが家系的に証明される場合、その変異を「遺伝子多型」とする。
【0027】
LEI0258は、第16番染色体上に位置するMHC−B領域にあるマイクロサテライトとして公知であり、従来的にニワトリのMHC領域におけるハプロタイプを決定するために利用されている(Fulton et al.Immunogenetics 58:407−421(2006))。LEI0258の塩基配列は、例えば、McConnell,S.K. et al., Anim. Genet. 30 (3),183−189(1999)に記載されている。
【0028】
下記実施例にて詳細に記載するように、当該LEI0258の多型を利用して、MHC−B領域のハプロタイプ(以下、「MHC−Bハプロタイプ」と記載する)を分析することによって、50%の個体が腫瘍退行能を示すWL11系統において、3種類のMHC−Bハプロタイプ、すなわち、腫瘍退行能に有意に関連するハプロタイプ(以下、「WLA」と記載する)および腫瘍退行能に有意に関係しない2つのハプロタイプ(以下、「WLB」および「WLC」と記載する)を決定することができる。また、LEI0258の多型を利用して、腫瘍が進行するロードアイランドレッドのRIRYS系統において3種類のMHC−Bハプロタイプ、すなわち、腫瘍進行が高いハプロタイプ(以下、「RIRa」、「RIRb」と記載する)および腫瘍進行に有意に関係しないハプロタイプ(「RIRc」と記載する)を決定することができる。
【0029】
MHC−Bハプロタイプと腫瘍退行能との間には相関関係が見られ、WLAをホモに持つニワトリは90〜100%の確率で腫瘍退行能を有する。またWLAをヘテロで有するニワトリは、一方の対立遺伝子がRIRaでなければ、80〜90%の確率で腫瘍退行能を有する。
【0030】
したがって、LEI0258の多型を検出し、ニワトリにおけるMHC−Bハプロタイプを決定することによって、詳細にはWLAの存在の有無を検出することによって、当該ニワトリのウイルス感染に対する抵抗性を評価することができる。
【0031】
LEI0258の多型は、塩基長を測定することによって検出することができる。例えば、LEI0258の多型として、261bp、295bp、307bp、309bp、310bp、321bp、333bp、345bp、357bp、367bp、369bp、381bp、393bp、408bp、420bpまたは443bpの塩基長を有するものが公知である(Fulton et al.(2006)上掲)。
【0032】
LEI0258の塩基長と上記MHC−Bハプロタイプの関係を以下に示す。
【0033】

【0034】
WLAにおけるLEI0258の塩基長のみが443bpであるために、当該塩基長に基づいて、他のMHC−Bハプロタイプと区別することが可能である。
【0035】
LEI0258の塩基長の測定は、当業者に公知である一般的な手法によって行うことが可能であり、例えば、PCR法を用いて行うことができる。
【0036】
本発明方法はさらに、上記LEI0258の多型の検出に加えて、LEI0258と同じくMHC−B領域に存在する、Blec2遺伝子、TAPBP遺伝子、BLB2遺伝子、DMB1遺伝子およびTAP2遺伝子からなる群から選択される1または複数の遺伝子の遺伝子多型を検出、評価する工程を包含する。LEI0258の多型に加えて、上記遺伝子の遺伝子多型を検出することによって、WLAを高い精度で選抜することができる。
【0037】
従来的に、ニワトリのMHC−Bハプロタイプを決定するためにBF2遺伝子の遺伝子多型の検出、評価が行われており、BF2遺伝子の遺伝子多型に基づいて、非常に多くのハプロタイプ(B1−24)が検出、同定されている(Livant E. J. and S. J. Edward(2005)Animal Genet. 36:432−434.)。
【0038】
このうちB6と称されるハプロタイプは、WLAにおけるMHC−B領域と同一の塩基配列を有するものではないが、上記LEI0258の塩基長は443bpであり、WLAにおけるLEI0258のサイズと同一である。このため、LEI0258の塩基長のみではWLAをB6と区別することができない。
【0039】
下記実施例にて詳述するように、Blec2遺伝子、TAPBP遺伝子、BLB2遺伝子、DMB1遺伝子およびTAP2遺伝子の遺伝子多型は、少なくともWLAとB6との間で異なっており、WLAとB6におけるBlec2遺伝子、TAPBP遺伝子、BLB2遺伝子、DMB1遺伝子およびTAP2遺伝子からなる群から選択される1または複数の遺伝子の遺伝子多型を検出、評価することによって、両者を識別することができる。Blec2遺伝子、TAPBP遺伝子、BLB2遺伝子、DMB1遺伝子およびTAP2遺伝子は公知であり、それぞれGenBankにBAG69318.1、BAG69321、BAG69320、BAG69325およびBAG69329として登録されており、これらの遺伝子情報を利用することができる。また、各遺伝子の塩基配列は、例えば、Hosomichi,K. et al.,J. Immunol. 181 (5), 3393−3399 (2008)に開示されている。
【0040】
好ましくは、TAPBP遺伝子の遺伝子多型を検出、評価する。
【0041】
TAPBP遺伝子の遺伝子多型は配列番号2〜6によって表わされるTAPBP遺伝子の塩基配列において944番目のヌクレオチドに存在する。当該TAPBP遺伝子の遺伝子多型は、WLAとB6の間で異なっている。すなわち、WLAのTAPBP遺伝子においては944番目のヌクレオチドがアデニン(配列番号2)であるのに対して、B6では944番目のヌクレオチドがグアニンである(配列番号4)。
【0042】
したがって、TAPBP遺伝子の遺伝子多型を検出、評価することによって、WLAとB6を区別することができる。
【0043】
TAPBP遺伝子の遺伝子多型を検出、評価する方法は、当業者に公知である一般的な手法によって行うことが可能である。例えば、最も直接的な方法である標的領域の塩基配列決定法(シークエンス法)や、特定位置の塩基置換だけを検出する目的の場合に有効な、20塩基程度の合成オリゴヌクレオチドと標的塩基配列とのハイブリッド形成の有無を利用したアレル特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション法(MASA法)、標準RNAプローブと標準DNA断片とのハイブリッドをリボヌクレアーゼAで処理しミスマッチ位置でのプローブRNAの切断で塩基置換の存在とおよその位置を知るリボヌクレアーゼAミスマッチ切断法(RNaseプロテクション法)や、DNA配列をPCRで増幅する際に、その一端にGCに富んだ塩基配列(GCクランプ)をつけて変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(denaturing gradient gel electrophoresis:DGGE)を行い一塩基置換を検出する方法(PCR‐DGGE法)を用いることができる。
【0044】
また、2本鎖DNA断片を1本鎖に解離し、その塩基配列に依存した独自の高次構造をポリアクリルアミドゲル電気泳動することにより、一塩基置換を移動度の差として検出する方法(PCR‐SSCP法)や、塩基配列特異的プローブ(SSOP)を用いたハイブリダイゼーション法(PCR‐SSOP法)や、その変法(PCR‐RD法やPCR‐MPH法)や、ある領域をPCR法などで増幅した後、点突然変異が生じた部位を切断部位と認識する制限酵素で処理して点突然変異を生じなかったDNAとはサイズの違ったアリルとして検出するPCR‐RFLP法(特開平5−308999号公報)や、標的DNAの3’末端のヌクレオチド部位に隣接する核酸配列に対して検出プライマーをアニールすることと、DNAポリメラーゼを用いて、検出するヌクレオチドに対して相補性の、シングルラベルのヌクレオチド三リン酸でかかるプライマーを伸長する方法(ミニシークエンシング法)等も用いることができる。
【0045】
また、TaqManPCR法、インベーダー法等種々の公知のSNPタイピング法によっても検出することができる。
【0046】
一塩基の変異を検出できる方法であれば、上記の方法に限定されることなく、本発明に用いることができる。
【0047】
本発明方法を用いて、ニワトリにおけるウイルス感染に対する抵抗性を評価することによって、ウイルス感染に対して抵抗性を有するニワトリを選抜することが可能である。すなわち、本発明方法を用いて、WLAをホモまたはヘテロ(ただし、一方の対立遺伝子がRIRaではない)で有するニワトリをウイルス感染に対して抵抗性を有するものとして選抜する。
【0048】
本発明はまた、上記LEI0258の多型の検出方法およびTAPBP遺伝子の遺伝子多型の検出方法に用いるためのプライマーを提供する。
【0049】
LEI0258の多型を検出するためのプライマー対は、ニワトリのゲノム配列上、少なくともLEI0258を挟み込むように設計されたプライマーであることが必要である。ここで、「挟み込む」とは、フォワード(順向)プライマーおよびリバース(逆向)プライマーからなるプライマー対によって増幅されるDNA断片の塩基配列中に標的遺伝子の塩基配列含むことをいう。当該プライマーは、通常、10mer〜100merであり、好ましくは15mer〜40mer、更に好ましくは18mer〜30merである。また、当該プライマーによって増幅されるDNA領域は、WLAと他のハプロタイプのLEI0258の塩基長が区別できる限り、特に限定されないが、好ましくは増幅されるDNA断片の長さは、100bp〜1,500bp、好ましくは200bp〜700bpである。
【0050】
好ましくは、LEI0258の塩基長を検出するためのプライマーは、好ましくは遺伝子多型において共通の塩基配列に基づいて設計することができ、当業者であればLEI0258の塩基配列に基づいて、このようなプライマーを容易に設計することができる。LEI0258の塩基長を検出するためのプライマーとして、例えば、配列番号7および8で表される塩基配列を含むプライマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
また、TAPBP遺伝子の遺伝子多型を検出するためのプライマー対はTAPBP遺伝子をコードするDNAまたはその相補鎖にハイブリダイズし、かつ、標的多型部位(WLAおよびB6のTAPBP遺伝子の塩基配列をそれぞれ表わす配列番号2または配列番号4における944番目のヌクレオチド)を挟み込むように設計されたプライマーであることが必要である。「挟み込む」とは、上に定義されるとおりである。当該プライマーは、通常、10mer〜100merであり、好ましくは15mer〜40mer、更に好ましくは18mer〜30merである。また、当該プライマーによって増幅されるDNA領域の長さは、50bp〜5,000bp、好ましくは100bp〜1,500bp、更に好ましくは200bp〜700bpである。
【0052】
TAPBP遺伝子の遺伝子多型を検出するためのプライマーは、好ましくは遺伝子多型において共通の塩基配列に基づいて設計することができ、当業者であればTAPBP遺伝子の塩基配列に基づいて、このようなプライマーを容易に設計することができる。TAPBP遺伝子の遺伝子多型を検出するためのプライマーとして、例えば、配列番号11および12で表される塩基配列を含むプライマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
これらプライマーによって挟まれる領域内に、さらに別のプライマーまたはプライマー対を設計することができる。このような第二のプライマーは、配列決定などにおいて用いることができる。このような第二のプライマーは、例えば、配列番号13で表されるが、これらに限定されない。
【0054】
尚、プライマーの鋳型DNAへのハイブリダイゼーションは、当分野において通常用いられる条件下で行うことができる。プライマーは、相補的な塩基対結合を形成できること、そしてその3’末端において相補鎖合成の起点となる−OH基を与えることの2つの条件を満たしている限り、プライマーを構成する主鎖はホスホジエステル結合によるもの(例えばDNA)に限定されない。例えばリン(P)ではなく硫黄(S)をバックボーンとしたホスホチオエート体や、ペプチド結合に基づくペプチド核酸からなるものであることもできる。また、塩基は、相補的な塩基対結合を可能とするものであれば良い。天然においては、アデニン、グアニン、シトシン、チミン及びウラシルの5種類により構成されるが、例えばブロモデオキシウリジン等の類似体であることもできる。
【0055】
本発明はまた、上記TAPBP遺伝子の遺伝子多型の検出方法に用いられるオリゴヌクレオチドを提供する。このようなオリゴヌクレオチドは、好ましくは、上記TAPBP遺伝子の多型部位を含む領域に特異的にハイブリダイズするものである。ここで、「特異的」とは、上記TAPBP遺伝子の多型部位を含む領域にハイブリダイズし、他の領域にハイブリダイズしないことを意味する。このようなハイブリダイゼーションの条件は、当業者であれば適宜選択することができる。ハイブリダイゼーションの条件として、例えば低ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、5×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSの条件である。より好ましいハイブリダイゼーションの条件としては、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、0.1×SSC、0.1%SDSである。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては、温度や塩濃度等の複数の要素があり、当業者はこれらの要素を適宜選択することで、同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0056】
本発明におけるオリゴヌクレオチドは、上記多型部位を含むDNA領域にハイブリダイズする限り、その鎖長に特に制限はないが、好ましくは10mer〜200merであり、より好ましくは15mer〜100merであり、更に好ましくは15mer〜30merのオリゴヌクレオチドである。
【0057】
本発明のオリゴヌクレオチドは、前記多型を検出するためのプローブとして、および前記多型を含むDNAを精製するための吸着リガンドとして利用することができる。
【0058】
本発明のオリゴヌクレオチドは、固相に固定されていても良い。このような固相の材料としては、例えば、セルロース、ニトロセルロースなどのセルロース誘導体、セファロース、アガロース、金属、ガラス、セラミック、樹脂など(これらに限定されない)が挙げられる。固相の形状および材質は特に限定されるものではない。
【0059】
上記のプライマーおよび/またはオリゴヌクレオチドは、ニワトリのウイルス感染に対する抵抗性を評価するための検査試薬として使用することができる。さらに、これらの試薬をパッケージングし、キットとして供給することも可能である。
【0060】
尚、上記プライマー及びプローブは、当該技術分野で公知の方法によって製造することができ、例えば、DNAプライマー及びDNAプローブは、ホスホトリエチル法、ホスホジエステル法またはこれらの自動化された方法等を利用して、簡便にはDNA自動合成機等を利用して本発明で開示する塩基配列に従って合成することができる。
【0061】
以下、本発明を実施例を挙げて更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0062】
実施例1:MHC−Bハプロタイプの決定
MHC−B領域にあるマイクロサテライトマーカーLEI0258の多型、BF2の遺伝子多型および、本願発明者らがMHC−B領域に見いだした35カ所のSNPのタイプ(図1)から、腫瘍退行能を持つと考えられるWL11系統と腫瘍が進行するロードアイランドレッドのRIRYS系統におけるMHC−Bハプロタイプを決定した。また、RSVーJの感染試験を実施し、各MHC−BハプロタイプとRSV−J感染由来の腫瘍に対する退行能との関係を明らかにした(K.Suzuki et al.Poultry Science 89:651−657(2010))。
【0063】
WL11系統の個体(n=300)とRIRYS系統の個体(n=200)(いずれも独立行政法人家畜改良センターにて繋養)より、ベノジェクトIIEDTA真空採血管(TERMO, Tokyo, Japan)または等量の2%W/Vクエン酸ナトリウムで採血し、以下の3種のうちいずれかの方法でDNAを抽出・精製した。
1.血液50μlを、1×PBS(−)(GIBCO,USA)で2mlに希釈し、QuickGene DNA whole Blood kit L(FUJIFILM, Tokyo,Japan)でDNAを抽出・精製した。
2.血液5μlを1×PBS(−)で200μlに希釈し、QIAmp DNA Mini Kit(QIAGEN, Tokyo,Japan)でDNAを抽出・精製した。
3.羽毛の根元0.5mg以内を細かく裁断し、DNAエクストラクターFMキット(Wako, Tokyo,Japan)でDNAを抽出・精製した。
【0064】
なお、いずれの手法を用いてDNAを調製したとしても、以下の実験に何ら影響しない。
【0065】
各個体より得られたDNAを用いて、LEI0258およびBF2の遺伝子多型をそれぞれ以下のプライマーを用いたPCR法によって決定した。
【0066】
LEI0258増幅用プライマー
フォワードプライマー:5’−CACGCAGCAGAACTTGGTAAGG−3’(配列番号7)
リバースプライマー :5’−AGCTGTGCTCAGTCCTCAGTGC−3’(配列番号8)
BF2増幅用プライマー
フォワードプライマー:5’−GCAGAGCTCCATACCCTGCGGTA−3’(配列番号9)
リバースプライマー :5’−GCCGGTCTGGTTGTAGCGCCG−3’(配列番号10)
【0067】
PCR反応は以下の組成で行なった。20μlの容量において、10−20ng DNA/5pmol 各プライマー/0.2mM dNTP/10mM Tris−HCl [pH8.3]/50mM KCl/1.5mM MgCl/0.2U AmpliTaq−Gold polymerase (Applied Biosystems,Foster City,CA,USA)。
【0068】
反応条件は、94度10分、その後94度30秒、60度30秒、72度30秒を40サイクルで行なった。
【0069】
反応終了後、各サンプルを2%w/vアガロースを用いて電気泳動し、DNAサイズマーカーからPCR産物のサイズを算出した。なお、BF2のタイプの決定は、公知の手法(Livant E. J. and S. J. Edward(2005)上掲)に基づいて行った。
【0070】
また、上記35カ所のSNPのタイプについては、公知の手法(OkamuraN. et al. Anim. Sci. J. 79:303−313(2008))に基づいてマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析によって決定した。
【0071】
RSV−Jの感染試験は、RSV−J(HPRS−103;Payne et al, J.Gen.Virol.72:801−807(1992))を3週齢のニワトリの翼芽に皮下接種し、その後7,10,14,28および42日目に各腫瘍のサイズを計測した。
【0072】
結果、WL11系統においては3種類(WLA、WLB、WLCと称呼)、およびRIRYS系統においては3種類(RIRa、RIRb、RIRcと称呼)のハプロタイプの存在が明らかとなり、各ハプロタイプとRSV−J感染由来の腫瘍に対する退行能の関係も明らかとなった。
【0073】
LEI0258およびBF2のタイプならびに各ハプロタイプを有する個体のRSV−J感染による腫瘍に対する退行能を以下の表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
この結果より、MHC−Bハプロタイプのうち、LEI0258の塩基長が443bpとして特徴付けられるWLAが、RSV−J感染による腫瘍に対する退行能と有意に関連することが明らかとなった。
【0076】
実施例2:MHC−Bハプロタイプの組み合わせによる腫瘍進行能への影響
MHC−Bハプロタイプの組み合わせによる腫瘍進行能への影響を調べるために、WL11系統と、RYRY系統を交配して実験家系を造成し、これに対しRSV−Jの感染試験を実施した。
【0077】
WL11系統雄3羽とRYRY系統雌7羽の交配からF1世代雌雄計23羽を生産し、F1雌雄の交配によりF2世代雌雄計91羽を生産した。さらに、F2世代よりWLAホモ接合体およびRIRaホモ接合体の雌雄を選択・交配してF3世代雌雄計28羽を生産した。
【0078】
RSV−Jの感染試験は、上記実施例1と同様に行った。
【0079】
F2世代の複数の個体より、上記実施例1に記載の方法と同様にDNAを抽出した。得られたDNAを用いて、上記実施例1と同様に各個体のLEI0258の塩基長をPCR法によって検出し、上記表1の結果に基づいて各個体におけるMHC−Bハプロタイプの組み合わせを決定した。
【0080】
結果を図2に示す。LEI0258の塩基長をPCR法によって検出することによって、各個体におけるMHC−Bハプロタイプの組み合わせ(特にWLAの存在の有無)を容易に決定することができる。
【0081】
実験家系のF2世代及びF3世代に認められたMHC−Bハプロタイプの組み合わせとRSV−J感染によって生じる腫瘍の退行との関係を以下の表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
この結果より、WLAをホモに持つニワトリのほぼ100%が、RSV−J感染によって生じる腫瘍に対する退行能を示すことが明らかとなった。また、WLAをヘテロに持つニワトリであっても、もう一つの対立遺伝子がRIRaでないならば85%程度の個体がRSV−J感染によって生じる腫瘍に対する退行能を示すことが明らかとなった。さらに、RIRaをホモに持つニワトリのほぼ90%は死亡に至る程度の大きな腫瘍を形成することが明らかとなった。
【0084】
この結果より、WLAおよびRIRaを指標として、ニワトリにおけるRSV−J感染によって生じる腫瘍に対する退行能を評価できることが明らかとなった。
【0085】
実施例3:WLAおよびB6ハプロタイプの識別
LEI0258の塩基長に基づいて、MHC−Bハプロタイプを分類した場合、WLAとBF2のハプロタイプの一種であるB6は共に443bpのLEI0258が検出されるために、両者を区別することができない。また、本願発明者らがMHC−B領域に見いだした35カ所のSNPのタイプ(図1)についても両者の間で違いが見られなかった。
【0086】
B6についてはこれまでに、ウイルス感染によって生じる腫瘍に対する退行能に影響するか否か明らかにされていないが、B6に相当するB1を持つ系統はRSV−B由来の腫瘍を進行させる割合が低いことが報告されている(Schierman,L.W. et al.(1977) Immunogenetics 5, 325−332)。そこで、WLAとB6を識別することによって、WLAを高い精度で検出することができ、結果としてニワトリにおけるRSV−J感染によって生じる腫瘍に対する退行能を高い精度で評価できると考え、両者を識別できる遺伝子マーカーを探索した。
【0087】
WLAをホモに持つニワトリ個体のゲノムDNAから、BACライブラリーを構築し、WLAとRIRaについて、MHC−B領域を含む167,464bpの領域の塩基配列を決定した。そして、WLAの塩基配列と、RIRa、RJF(Red Jungle Fowl)(世界家畜辞典:監修 正田陽一 東洋書林発行p.344−345(2006))、B6およびB24の塩基配列を比較した。
【0088】
結果を図3−1〜2に示す。
【0089】
WLAとB6間の比較については、B6において既に遺伝子情報が明らかにされている14の遺伝子(BG1、Blec2、Blec1、BLB1、TAPBP、BLB2、BRD2、DMA1、DMB1、DMA2、BF1、TAP1、TAP2、BF2)のアミノ酸コード配列(CDS)の比較を行った。
【0090】
その結果、Blec2遺伝子に同義置換1カ所および非同義置換1カ所(1−1と略記 以下同順)、TAPBP遺伝子(1−1)、BLB2遺伝子(22−19)、DMB1遺伝子(2−1)、TAP2遺伝子(1−0)の計49カ所のSNPが、WLAとB6の間で異なることが認められた(図3−1〜2)。
【0091】
このことから、WLAとB6のMHC−B領域は同一ではないことが明らかとなった。
【0092】
上記14の遺伝子のCDSの中にWLAとB6と間で異なるSNPは49カ所あったが、両者の識別を可能とする遺伝子マーカーとしては、両者を同様に増幅することが出来るなど検出の容易性からSNPの数が少ない遺伝子が好ましい。この点を考慮すると、WLAとB6との間で遺伝子1つ当たり1カ所の非同義置換SNPを持つBlec2遺伝子およびTAPBP(TAP Binding protein)遺伝子が遺伝子マーカーとして利用可能である。
【0093】
Blec2遺伝子は、WLAとB24およびRIRaとの間でそれぞれ39カ所のSNPを有するため、3者を同様に増幅することが出来るなど検出の容易性から、これらの間でより少ないSNP(それぞれ3カ所、1カ所)を持つTAPBP遺伝子が目的の遺伝子マーカーとして有効であると判断される。
【0094】
WLA、RIRa、RJF、B6およびB24におけるTAPBP遺伝子のアミノ酸コード領域における塩基配列の比較結果を図4−1〜6に示す。
【0095】
TAPBP遺伝子において、WLAとB6の間で1カ所存在するSNPの位置は、944番目のヌクレオチドであり、WLAではアデニン(コドンはCAC,アミノ酸はH:ヒスチジン)、B6ではグアニン(コドンはCGC,アミノ酸はR:アルギニン)となっている。
【0096】
したがって、TAPBP遺伝子中に存在する当該SNPを検出・評価することによって、WLAとB6を識別することができる。
【0097】
上記SNPの検出は、各個体におけるTAPBP遺伝子の944番目のヌクレオチドを含む領域を配列決定することによって行った。
【0098】
ニワトリ個体のゲノムDNAおよび以下のTAPBP遺伝子増幅用プライマー:フォワードプライマー:5’−ATGAGGGCACCTACATCTGC−3’(配列番号11)
リバースプライマー:5’−TTGGGACATAGTGACATTGCTC−3’(配列番号12)
を用いて、実施例1と同様にPCR反応を行い、得られたPCR産物をPre−Sequencing Kit(USB, USA)で処理し、2μlをBigDye Terminator kit v.3.1(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)および
配列決定用プライマー:5’−GGACCGGGTGGTATTCCTAT−3’(配列番号13)を用いて配列を決定した。SNPの位置のヌクレオチドがアデニンであるか否かを評価して、WLAであるか否かを識別した。
【0099】
以上の結果より、TAPBP遺伝子中に存在する上記SNPの検出・評価をLEI0258の塩基長の検出・評価と組み合わせることによって、WLAを高い精度で検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明により、ニワトリにおけるウイルス感染に対する抵抗性を評価することができ、当該抵抗性を有するニワトリを選抜することが可能となるため、ウイルス病抵抗性を有する新たなニワトリ系統の育種に利用されることが大いに期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニワトリにおけるウイルス感染に対する抵抗性を評価する方法であって、第16番染色体上に位置するMHC−B領域にあるマイクロサテライトLEI0258の多型を検出し評価することを含む、上記方法。
【請求項2】
ウイルスがラウス肉腫ウイルス(RSV)である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ウイルスがトリRSV−Jである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
マイクロサテライトLEI0258の塩基長が443bpである場合に、ウイルス感染に対する抵抗性を有すると判断する、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
さらに、第16番染色体上に位置するMHC−B領域にあるBlec2遺伝子、TAPBP(TAP Binding protein)遺伝子、BLB2遺伝子、DMB1遺伝子およびTAP2遺伝子からなる群から選択される1または複数の遺伝子の遺伝子多型を検出し評価することを含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
TAPBP(TAP Binding protein)遺伝子の遺伝子多型を検出し評価する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
TAPBP(TAP Binding protein)遺伝子のアミノ酸コード配列において944番目のヌクレオチドがアデニンである場合に、ウイルス感染に対する抵抗性を有すると判断する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の方法を用いる、ウイルス感染に対して抵抗性を有するニワトリを選抜する方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の方法において、マイクロサテライトLEI0258をPCR反応によって増幅するためのプライマーを含む、ニワトリにおけるウイルス感染に対する抵抗性を評価するための試薬キット。
【請求項10】
さらに、TAPBP遺伝子の遺伝子多型を検出するためのプライマーまたはオリゴヌクレオチドを含む、請求項9記載の試薬キット。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図4−4】
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【図4−5】
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【図4−6】
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【公開番号】特開2012−44965(P2012−44965A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192492(P2010−192492)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼刊行物 :Poultry Science,vol.89 発行日 :平成22年4月1日 発行所 :Poultry Science Association Ink. 該当ページ :651−657 ▲2▼掲載アドレス:http://nilgs.naro.affrc.go.jp/SEIKA/2009/nilgs/ch09025.html 電気通信回線発表日:平成22年7月8日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、農林水産省、「アグリバイオ実用化・産業化研究開発」(分子遺伝子情報を利用した抗病性鶏品種実用化・産業化のための研究開発)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(301029403)独立行政法人家畜改良センター (12)
【出願人】(505068527)株式会社小松種鶏場 (1)
【Fターム(参考)】