説明

ウイルス粒子の3つのコンポーネントを異なる蛍光タンパク質で標識した組換えウイルス

【課題】ウイルス粒子のコンポーネントを蛍光タンパク質で標識した組換えウイルスおよび該組換えウイルスを感染させた細胞を提供する。
【解決手段】単純ヘルペスウイルス(HSV)について、ウイルス粒子を構成するカプシド、テグメントおよびエンベロープの3つのタンパク質コンポーネントがそれぞれ異なった3つの蛍光タンパク質で標識された組換えウイルス。
【効果】該組換えウイルスを感染させた細胞は、HSVウイルス粒子についての一連の成熟過程の解析、抗HSV剤の作用機序の解析および作用機序に特化した抗HSV剤のスクリーニングに利用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス粒子の3つのコンポーネントを異なる蛍光タンパク質で標識した組換えウイルスに関する。本発明はまた、当該組換えウイルスを感染させた細胞に関する。本発明はまた、当該組換えウイルスを用いた、ウイルス粒子についての一連の成熟過程の解析方法、抗ウイルス剤の作用機序の解析方法、および、作用機序に特化した抗ウイルス剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単純ヘルペスウイルス(HSV)は、ヒトに脳炎、性器ヘルペス、皮膚疾患、眼疾患、小児ヘルペスなどの多様な病態を引き起こす。ヘルペスウイルス感染症の医療費は、年間30億ドル(約3500億円)と試算されている。現在使用されている抗単純ヘルペスウイルス剤(抗HSV剤)としては、アシクロビルなどが知られている。アシクロビルはHSVのチミジンキナーゼ(TK)を標的としているが、TK遺伝子領域に変異を有する薬剤耐性ウイルスの出現が問題となっており、新たな作用機序、例えば、ウイルス粒子成熟過程を特異的に阻害するような抗HSV剤の開発が求められている。
【0003】
従来、抗HSV剤スクリーニングにおいては、ウイルスによる細胞変性効果を指標にした方法や、1種類のレポーター遺伝子を発現する組換えHSV感染細胞におけるリポータータンパク質の発現量を指標とした方法が行われている。しかし、これらのスクリーニング系では、作用機序に特化した抗HSV剤のスクリーニングは困難であった。
【0004】
HSVウイルス粒子は、カプシド、テグメント、エンベロープといった3つのコンポーネントより構成されており、まず、核でカプシドが生成され、その後、カプシドは細胞質でテグメントを付着させ、最後にエンベロープを獲得してウイルス粒子が構築される。1998年および1999年にそれぞれカプシドまたはテグメントタンパク質を蛍光タンパク質で標識した組換えウイルスによる各ウイルスタンパク質の生細胞における動態解析が報告された(P. Desai and S. Person, J. Virol., 1998, Vol.72, No.9, p.7563-7568; G. Elliott and P. O'hare, J. Virol., 1999, Vol.73, No.5, p.4110-4119)。その後、2005年にカプシドおよびテグメントをそれぞれ異なる蛍光タンパク質で標識した組換えウイルスが作成され、カプシドがテグメントを獲得する過程を解析することが可能となった(T. del Rio, et al., J. Virol., 2005, Vol.79, No.7, p.3903-3919)。しかしながら、HSV粒子は3つのコンポーネントより構成されているので、一連のHSVウイルス粒子成熟過程を解析するためには、カプシド、テグメント、エンベロープの3つの生成過程および生成後の動態を同時に解析するためには、上述の1つまたは2つのウイルス粒子コンポーネントを蛍光タンパク質で標識する実験系では不十分であった。
【0005】
一方、カプシド、テグメントおよびエンベロープの3つのウイルス粒子コンポーネントの生成過程および生成後の動態を同時に解析可能な実験系は、HSVウイルス粒子についての一連の成熟過程の解析、および作用機序に特化した抗HSV剤のスクリーニング法にも利用可能であると考えられ、そのような実験系の確立が強く求められていた。
【0006】
そのような実験系として、3つのウイルス粒子コンポーネントを異なる3つの蛍光タンパク質で標識した組換えウイルスを作製することが考えられた。しかし、上述したように、1つのウイルス粒子コンポーネントを1つの蛍光タンパク質で標識した組換えウイルスが作成されてから、2つのウイルス粒子コンポーネントを2つの異なる蛍光タンパク質で標識した組換えウイルスが作成されるまでに、約7年の年月を費やされており、ウイルス粒子コンポーネントの蛍光タンパク質による標識により、ウイルス粒子の不安定化を招くことが推測されていた。これらの事情から、3つのウイルス粒子コンポーネントを異なる3つの蛍光タンパク質で標識した組換えウイルスを作製することやそのような組換えウイルスを含む実験系の確立は困難であると予想されていた。
【非特許文献1】P. Desai and S. Person, J. Virol., 1998, Vol.72, No.9, p.7563-7568
【非特許文献2】G. Elliott and P. O'hare, J. Virol., 1999, Vol.73, No.5, p.4110-4119
【非特許文献3】T. del Rio, et al., J. Virol., 2005, Vol.79, No.7, p.3903-3919
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、以下の態様1−16を提供することを目的とする。
態様1:ウイルス粒子のコンポーネントであるカプシド、テグメントおよびエンベロープのそれぞれが、異なる3つの蛍光タンパク質で標識されている、組換えウイルス。
【0008】
態様2:ウイルスが、ヘルペスウイルス科に属するウイルスより選択される、態様1に記載の組換えウイルス。
態様3:ウイルスが、単純ヘルペスウイルス(HSV)である、態様1に記載の組換えウイルス。
【0009】
態様4:ウイルスが単純ヘルペスウイルス(HSV)であり;カプシドがUL35、UL18、UL19、UL26、およびUL38からなる群より選択され;テグメントがUL49、UL47、UL46、UL48、UL41、UL11、UL13、UL14、UL36、UL37、UL51、UL56、Us2、Us9、Us10、およびUs11からなる群より選択され;そして、エンベロープがUL27、UL1、UL10、UL22、Us6、UL44、UL53、Us4、Us5、Us7、およびUs8からなる群より選択される;態様1に記載の組換えウイルス。
【0010】
態様5:蛍光タンパク質が、Venus、mRFP1、ECFP、EGFP、EYFP、EBFP、Cerulean、Emerald、Sapphire、T−Sapphire、Citrine、PhiYFP、J−Red、Midoriishi−Cyan1、AmCyan1、Azami−Green、mAzami−Green1、CopGFP、ZsGreen1、ZsYellow1、Kusabira−Orange1、mKusabira−Orange1、mOrange、DsRed2、DsRed monomer、HcRed1、mPlum、mRaspberry、mCherry、mStrawberry、mTangerine、eqFP611、およびAsRed2からなる群より選択される、態様1ないし4のいずれか1項に記載の組換えウイルス。
【0011】
態様6:3つの異なる蛍光タンパク質が、それぞれ異なる蛍光波長を有する、態様1ないし5のいずれか1つに記載の組換えウイルス。
態様7:3つの異なるタンパク質が、ECFP、EBFP、Cerulean、Midoriishi−Cyan1、およびAmCyan1からなる群より選択される1種類;Venus、EGFP、Emerald、Sapphire、T−Sapphire、Azami−Green、mAzami−Green1、CopGFP、およびZsGreen1からなる群より選択される1種類;ならびに、mRFP1、Kusabira−Orange1、mKusabira−Orange1、mOrange、DsRed2、DsRed monomer、HcRed1、mPlum、mRaspberry、mCherry、mStrawberry、mTangerine、eqFP611、およびAsRed2からなる群より選択される1種類;の組み合わせである、態様1ないし6のいずれか1つに記載の組換えウイルス。
【0012】
態様8:3つの異なる蛍光タンパク質が、Venus、mRFP1およびECFPの組み合わせである、態様1ないし6のいずれか1つに記載の組換えウイルス。
態様9:ウイルス粒子コンポーネントのN末端、C末端、または内部に蛍光タンパク質を融合させることにより、ウイルス粒子のコンポーネントが蛍光タンパク質で標識されている、態様1ないし8のいずれか1つに記載の組換えウイルス。
【0013】
態様10:ウイルスが単純ヘルペスウイルスであり、カプシドがVenusで標識されたUL35であり、テグメントがmRFP1で標識されたUL47またはUL49であり、エンベロープがECFPで標識されたUL27である、態様1に記載の組換えウイルス。
【0014】
態様11:ウイルスが単純ヘルペスウイルスであり、カプシドがN末端をVenusで標識されたUL35であり、テグメントがN末端をmRFP1で標識されたUL47またはUL49であり、エンベロープがN末端領域の内部をECFPで標識されたUL27である、態様1に記載の組換えウイルス。
【0015】
態様12:態様1ないし11のいずれか1つに記載の組換えウイルスを感染させた細胞。
態様13:抗ウイルス剤の作用機序を解析する方法であって、以下:
(i)態様1ないし11のいずれか1つに記載の組換えウイルスで感染させた細胞に、抗ウイルス剤を接触させ;
(ii)ウイルス粒子のコンポーネントであるカプシド、テグメント、およびエンベロープを標識した各蛍光タンパク質の蛍光に基づいて、各コンポーネントの当該感染細胞における生成の挙動および/または局在を観察し;
(iii)観察された各コンポーネントの生成の挙動および/または局在について、抗ウイルス剤を接触させていない感染細胞における各コンポーネントの生成の挙動および/または局在との差異を評価し;そして
(iv)当該抗ウイルス剤は、生成の挙動および/または局在に差異があるコンポーネントが関与するウイルス粒子成熟過程に作用すると判断する;
工程を含む、前記方法。
【0016】
態様14:感染細胞におけるウイルス粒子の各コンポーネントの生成の挙動の観察を、リアルタイムイメージングにより行う、態様13に記載の方法。
態様15: 特定のウイルス粒子成熟過程を標的とする抗ウイルス剤をスクリーニングする方法であって、以下:
(i)態様1ないし11のいずれか1つに記載の組換えウイルスで感染させた細胞に、抗ウイルス剤の候補物質を接触させ;
(ii)ウイルス粒子のコンポーネントであるカプシド、テグメント、およびエンベロープを標識した各蛍光タンパク質の蛍光に基づいて、各コンポーネントの当該感染細胞における生成の挙動および/または局在を観察し;
(iii)観察された各コンポーネントの生成の挙動および/または局在について、抗ウイルス剤の候補物質を接触させていない感染細胞における各コンポーネントの生成の挙動および/または局在との差異を評価し;そして
(iv)差異を生じた場合は、当該抗ウイルス剤の候補物質を、生成の挙動および/または局在に差異があるコンポーネントが関与するウイルス粒子成熟過程を標的とする抗ウイルス剤として同定する;
工程を含む、前記方法。
【0017】
態様16:ウイルス粒子の成熟過程の解析方法であって、態様1ないし11のいずれか1つに記載の組換えウイルスで感染させた細胞において、ウイルス粒子のコンポーネントであるカプシド、テグメント、およびエンベロープを標識した各蛍光タンパク質の蛍光に基づいて、各コンポーネント当該感染細胞におけるの生成の挙動および/または局在を観察することを含む、前記方法。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは上記課題の解決のために、鋭意研究に努めた結果、本発明に想到した。
具体的には、本発明者らは、単純ヘルペスウイルスについて、ウイルス粒子を構成するカプシドタンパク質UL35、テグメントタンパク質UL47またはUL49、およびエンベロープタンパク質UL27を、それぞれ異なる蛍光タンパク質を融合させて標識することにより、3つのウイルス粒子コンポーネントがそれぞれ異なる3つの蛍光タンパク質で標識された組換え単純ヘルペスウイルスを取得することに成功した(後述の実施例を参照)。
【0019】
本発明者らはまた、当該組換え単純ヘルペスウイルスで感染させた細胞は、ウイルス粒子コンポーネントを標識したそれぞれの蛍光タンパク質を効率的に発現していることを確認した。また、当該組換え単純ヘルペスウイルスで感染させた同一の生細胞において、各ウイルス粒子構成タンパク質の発現および局在を経時的に観察するリアルタイムイメージングも可能であった。さらに、当該組換え単純ヘルペスウイルスで感染させた細胞において、1つのウイルス粒子を3色の蛍光を発する粒子として観察することにより、1ウイルス粒子レベルで観察するリアルタイムイメージングも可能であった。
【0020】
これらの実験結果から本発明者らは、ウイルス粒子を構成するカプシドタンパク質、テグメントタンパク質、およびエンベロープタンパク質が、それぞれ異なる蛍光タンパク質で標識された組換えウイルスが構築可能であることを見いだし、本発明に想到した。また、本発明の組換えウイルスで感染させた細胞においては、ウイルス粒子構成タンパク質の発現および局在を経時的に観察することができ、またウイルス粒子を1ウイルス粒子レベルで観察することもできるため、ウイルス粒子の生成過程の解析、抗ウイルス剤の作用機序の解析、および作用機序に特化した抗ウイルス剤のスクリーニングを行うための系として有用であることを見いだし、本発明に想到した。
【0021】
以上、本発明の理解のために本発明を想到するに至る経緯を説明したが、本発明の範囲は上記説明に限定されず、請求の範囲の記載によって定められる。
以下、本発明について詳述する。
【0022】
組換えウイルス
本発明は、ウイルス粒子のコンポーネントであるカプシド、テグメント、およびエンベロープのそれぞれが異なる3つの蛍光タンパク質で標識されている、組換えウイルスを提供する。
【0023】
本明細書において、ウイルス粒子コンポーネントとは、広く一般にウイルス粒子を構成する成分を意味する。ウイルス粒子コンポーネントがタンパク質である場合は、特にウイルス粒子構成タンパク質と称する場合もある。
【0024】
本発明の組換えウイルスは、ウイルス粒子コンポーネントとして、カプシド、テグメント、およびエンベロープの3つのタンパク質を含むウイルスであれば特に限定されない。そのようなウイルスとして、ヘルペスウイルス科に属するウイルスが挙げられる。
【0025】
ヘルペスウイルス科に属するウイルスのうち好ましいのは、単純ヘルペスウイルス(HSV)、水痘帯状疱疹ウイルス、ヒトサイトメガロウイルス、ブタヘルペスウイルス、ウマヘルペスウイルス、マレック病ウイルス、ウシヘルペスウイルス、トリ伝染性咽頭気管塩ウイルス、である。本発明の組換えウイルスとして特に好ましいのは、HSVである。
【0026】
本発明の組換えウイルスにおいて蛍光タンパク質で標識されるカプシドタンパク質、テグメントタンパク質、およびエンベロープタンパク質の種類は特に限定されず、組換えウイルスの種類に応じて当業者が適宜選択することが可能である。
【0027】
例えば、ウイルスが単純ヘルペスウイルスである場合、標識されるカプシドタンパク質は、UL35、UL18、UL19、UL26、およびUL38からなる群より選択され、好ましくはUL35である。また、標識されるテグメントタンパク質は、UL49、UL47、UL46、UL48、UL41、UL11、UL13、UL14、UL36、UL37、UL51、UL56、Us2、Us9、Us10、およびUs11からなる群より選択され、好ましくはUL49、UL47、UL46、UL48、UL41、UL36、およびUs11からなる群より選択され、さらに好ましくはUL47またはUL49である。そして、標識されるエンベロープタンパク質は、UL27、UL1、UL10、UL22、Us6、UL44、UL53、Us4、Us5、Us7、およびUs8からなる群より選択され、好ましくはUL27、UL22、UL44、Us6、Us7、およびUs8からなる群より選択され、さらに好ましくはUL27である。
【0028】
本発明の組換えウイルスにおいて、各ウイルス粒子コンポーネントを標識する蛍光タンパク質は、蛍光を発するタンパク質であれば特に限定されない。本発明に利用可能な蛍光タンパク質として、具体的には例えば、Venus(励起波長:515nm、蛍光波長:528nm; Nat. Biotechnol., 2002, 20(1): 87-90)、mRFP1(励起波長:584nm、蛍光波長:607nm;Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2002, 99: 7877-7882)、ECFP(励起波長:433nm、蛍光波長:475nm;Clontech)、EGFP(励起波長:488nm、蛍光波長:507nm)、EYFP(励起波長:513nm、蛍光波長:527nm)、EBFP(励起波長:380nm、蛍光波長:440nm)、Cerulean(励起波長:433nm、蛍光波長:475nm;Nat. Biotechnol., 2004, 22: 445-449)、Emerald(励起波長:487nm、蛍光波長:509nm)、Sapphire(励起波長:399nm、蛍光波長:511nm)、T−Sapphire(励起波長:399nm、蛍光波長:511nm)、Citrine(励起波長:516nm、蛍光波長:529nm)、PhiYFP(励起波長:525nm、蛍光波長:537nm;Evrogen)、J−Red(励起波長:584nm、蛍光波長:610nm;Evrogen)、Midoriishi−Cyan1(励起波長:472nm、蛍光波長:495nm;MBLまたはAmalgaam)、AmCyan1(励起波長:458nm、蛍光波長:489nm;Clontech)、Azami−Green(励起波長:492nm、蛍光波長:505nm;MBLまたはAmalgaam)、mAzami−Green1(励起波長:492nm、蛍光波長:505nm;MBLまたはAmalgaam)、CopGFP(励起波長:482nm、蛍光波長:502nm;Evrogen)、ZsGreen1(励起波長:493nm、蛍光波長:505nm;Clontech)、ZsYellow1(励起波長:529nm、蛍光波長:539nm;Clontech)、Kusabira−Orange1(励起波長:548nm、蛍光波長:561nm;MBLまたはAmalgaam)、mKusabira−Orange1(励起波長:548nm、蛍光波長:559nm;MBLまたはAmalgaam)、mOrange(励起波長:548nm、蛍光波長:562nm;Nat. Biotechnol., 2004, 22:1567-1572)、DsRed2(励起波長:563nm、蛍光波長:582nm;Clontech)、DsRed monomer(励起波長:556nm、蛍光波長:586nm;Clontech)、HcRed1(励起波長:588nm、蛍光波長:618nm;Clontech)、mPlum(励起波長:590nm、蛍光波長:649nm;Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2004, 101: 16745-16749)、mRaspberry(励起波長:598nm、蛍光波長:625nm;Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2004, 101: 16745-16749)、mCherry(励起波長:587nm、蛍光波長:610nm;Nat. Biotechnol., 2004, 22: 1567-1572)、mStrawberry(励起波長:574nm、蛍光波長:596nm;Nat. Biotechnol., 2004, 22: 1567-1572)、mTangerine(励起波長:568nm、蛍光波長:585nm;Nat. Biotechnol., 2004, 22: 1567-1572)、eqFP611(励起波長:559nm、蛍光波長:611nm;Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2002, 99: 11646-11651)、およびAsRed2(励起波長:576nm、蛍光波長:592nm;Clontech)が含まれるが、これらに限定されない。
【0029】
本発明の組換えウイルスにおいて、カプシド、テグメントおよびエンベロープはそれぞれ異なる3つの蛍光タンパク質で標識されているが、3つの異なる蛍光タンパク質は、それぞれを区別できるように検出可能な組み合わせであれば、その組み合わせは特に限定されない。3つの蛍光タンパク質のそれぞれを区別できるように検出可能とは、例えば、それぞれの蛍光タンパク質が異なる蛍光波長を有することを意味する。一般的に、互いの蛍光波長に最小で約10nmの差があれば、それぞれの蛍光タンパク質を区別できるように検出することができる。また、互いの蛍光波長に20nm以上の差があることが好ましく、30nm以上の差があることがより好ましく、50nm以上の差があることがさらに好ましい。
【0030】
本発明の組換えウイルスにおける、好ましい3つの蛍光タンパク質の組み合わせとしては、ECFP、EBFP、Cerulean、Midoriishi−Cyan1、およびAmCyan1からなる群より選択される1種類;Venus、EGFP、Emerald、Sapphire、T−Sapphire、Azami−Green、mAzami−Green1、CopGFP、およびZsGreen1からなる群より選択される1種類;ならびに、mRFP1、Kusabira−Orange1、mKusabira−Orange1、mOrange、DsRed2、DsRed monomer、HcRed1、mPlum、mRaspberry、mCherry、mStrawberry、mTangerine、eqFP611、およびAsRed2からなる群より選択される1種類;の組み合わせが挙げられる。最も好ましい組み合わせは、Venus、mFRP1、およびECFPの組み合わせである。
【0031】
本発明の組換えウイルスにおいて、ウイルス粒子コンポーネントは蛍光タンパク質で標識されているが、その標識の方法は特に限定されない。好ましくは、ウイルス粒子構成タンパク質を蛍光タンパク質との融合タンパク質とすることにより標識する。蛍光タンパク質との融合タンパク質としてウイルス粒子構成タンパク質を標識する場合、蛍光タンパク質をウイルス粒子構成タンパク質のN末端に融合させてもよく、C末端に融合させてもよく、あるいは内部に融合させてもよい。
【0032】
組換えウイルスの製造方法
本発明の組換えウイルスを製造する方法は特に限定されないが、例えば、公知の組換えウイルス作成技術を利用して製造することができる。簡単には、野生体の性状を保持したウイルスのウイルスDNAと、第一のウイルス粒子構成タンパク質と蛍光タンパク質の融合タンパク質をコードするDNAを含むプラスミドを、細胞へ同時トランスフェクションすることにより、ウイルスDNAにおいて対応するウイルス粒子構成タンパク質をコードするDNAと、前記融合タンパク質をコードするDNAとの相同組み換えを生じさせる。相同組み換えによって産生された目的の組換えウイルス(すなわち第一のウイルス構成タンパク質が蛍光タンパク質により標識されている、組換えウイルス)を、前記蛍光タンパク質の蛍光を発するプラークを採取することによって選択する。場合により、採取されたプラークに含まれる組換えウイルスを再度細胞に感染させ、産生された組換えウイルスを前記蛍光を発するプラークとして採取することを繰り返して、100%のプラークが目的の蛍光を発するまでプラーク純化を行ってもよい。
【0033】
第二のウイルス構成タンパク質についても、上記と同様にして、第二のウイルス構成タンパク質が蛍光タンパク質により標識されている組換えウイルスを作成する。第三のウイルス構成タンパク質が蛍光タンパク質により標識されている組換えウイルスについても同様に作成する。
【0034】
次いで、第一のウイルス構成タンパク質が標識されている組換えウイルスと、第二のウイルス構成タンパク質が標識されている組換えウイルスとで、細胞を共感染させる。組換えウイルスの共感染によって、細胞内で両ウイルスの相同組み換えが引き起こされ、第一および第二のウイルス構成タンパク質が標識されている組換えウイルスが産生するので、標識に用いた2つの蛍光タンパク質の蛍光を発するプラークを採取することによって選択する。所望によりプラーク純化を行ってもよい。
【0035】
そして、第一および第二のウイルス構成タンパク質が標識されている組換えウイルスと、第三のウイルス構成タンパク質が標識されている組換えウイルスとで、細胞を共感染させる。組換えウイルスの共感染によって産生された、第一、第二および第三のウイルス構成タンパク質が標識されている組換えウイルスを、それぞれを標識した3つの蛍光タンパク質の蛍光を発するプラークを採取することによって選択する。所望によりプラーク純化を行ってもよい。
【0036】
上述した一連の相同組み換えの操作により、カプシド、テグメントおよびエンベロープがそれぞれ異なる蛍光タンパク質で標識された、本発明の組換えウイルス粒子を作成することができる。
【0037】
製造の各段階において、得られた組換えウイルスが目的の組換えウイルスであることを確認するためには、目的の組換えウイルスのDNAについて、当業者に周知のサザン法により、当該組換えウイルスDNAが、導入したウイルス構成タンパク質と蛍光タンパク質の融合タンパク質をコードするDNAを有することにより確認することができる。または、当該組換えウイルスを感染させた細胞において、導入したウイルス構成タンパク質と蛍光タンパク質の融合タンパク質が発現していることを、当業者に周知のウエスタン法により感染細胞ライセートを用いて解析することにより、得られた組換えウイルスが目的の組換えウイルスであることを確認することもできる。あるいは、当該組換えウイルス粒子において、導入したウイルス構成タンパク質と蛍光タンパク質の融合タンパク質を発現していることを、当業者に周知のウエスタン法により精製した当該組換えウイルス粒子のライセートを用いて解析することにより、得られた組換えウイルスが目的の組換えウイルスであることを確認することもできる。
【0038】
組換えウイルスを感染させた細胞
本発明は、本発明の組換えウイルスを感染させた細胞を提供する。
本発明の細胞の種類は、当該組換えウイルスが感染可能な細胞であれば、特に限定されない。当業者は、組換えウイルスの種類に応じて、感染させる細胞の種類を適宜選択することができる。好ましくは、本発明の細胞は、動物細胞である。より好ましくは、本発明の細胞は、培養細胞として確立された動物細胞である。好ましい細胞の例としては、ウサギ皮膚細胞(RSC)、Vero細胞(アフリカミドリザル腎臓細胞)、HEL(ヒト胎児肺線維芽細胞)、またはHEp−2細胞(ヒトカルシノーマ細胞)などが挙げられる。
【0039】
ウイルス粒子の成熟過程の解析方法
本発明は、本発明の組換えウイルスおよび/または当該ウイルスで感染させた細胞を用いる、ウイルス粒子の成熟過程の解析方法を提供する。本発明のウイルス粒子の成熟過程の解析方法は、本発明の組換えウイルスで感染させた細胞において、ウイルス粒子のコンポーネントであるカプシド、テグメント、およびエンベロープ標識した各蛍光タンパク質の蛍光に基づいて、各コンポーネントの当該感染細胞における生成の挙動および/または局在を観察することを含む。
【0040】
本発明のウイルス粒子の成熟過程の解析方法において、ウイルス粒子コンポーネントの生成の挙動および/または局在を観察するとは、各ウイルス粒子コンポーネントの発現および/または発現後の局在を、所望により経時的に観察することを意味する。ウイルス粒子コンポーネントの生成挙動および/または局在の観察は、例えば、共焦点レーザー顕微鏡、蛍光顕微鏡、またはハイコンテンツ顕微鏡イメージングシステムなどを用いて本発明の組換えウイルスで感染させた細胞を観察することにより行うことができる。これらを用いて観察した場合、各コンポーネントの発現および局在を経時的に追跡する、リアルタイムイメージングが可能である。本発明の方法は、カプシドの生成過程、テグメント生成過程、およびエンベロープ生成過程に加えて、カプシドがテグメントを獲得する過程やエンベロープを獲得する過程などの、一連のウイルス粒子成熟過程を同一の系で解析することが可能である。
【0041】
本発明の方法によりウイルス粒子の成熟過程が解析されるウイルスは、本発明の組換えウイルスが作成可能なウイルスであれば特に限定されないが、好ましくはHSVである。
抗ウイルス剤の作用機序の解析方法
本発明は、本発明の組換えウイルスおよび/または当該ウイルスで感染させた細胞を用いる、抗ウイルス剤の作用機序の解析方法を提供する。本発明の抗ウイルス剤の作用機序の解析方法は、以下の工程:
(i)本発明の組換えウイルスで感染させた細胞に、抗ウイルス剤を接触させる工程;
(ii)ウイルス粒子コンポーネントであるカプシド、テグメント、およびエンベロープを標識した各蛍光タンパク質の蛍光に基づいて、各コンポーネントの当該感染細胞における生成の挙動および/または局在を観察する工程;
(iii)観察された各コンポーネントの生成の挙動および/または局在について、抗ウイルス剤を接触させていない感染細胞における各コンポーネントの生成の挙動および/または局在との差異を評価する工程;および
(iv)当該抗ウイルス剤は、生成の挙動および/または局在に差異があるコンポーネントが関与するウイルス粒子の成熟過程に作用すると判断する工程;
を含む。
【0042】
本発明の方法による解析の対象となる抗ウイルス剤は、抗ウイルス剤として同定されたものであれば特に限定されない。すなわち、既知の抗ウイルス剤であってもよく、または将来的に同定される抗ウイルス剤であってもよい。
【0043】
本発明の抗ウイルス剤の作用機序の解析方法において、ウイルス粒子コンポーネントの生成の挙動および/または局在を観察するとは、各ウイルス粒子コンポーネントの発現および/または発現後の局在を、所望により経時的に観察することを意味する。ウイルス粒子コンポーネントの生成挙動の観察は、例えば、共焦点レーザー顕微鏡、蛍光プレートリーダー、蛍光顕微鏡、またはハイコンテンツ顕微鏡イメージングシステムなどを用いて、作用機序を観察する抗ウイルス剤の存在下または非存在下で、本発明の組換えウイルスで感染させた細胞を観察することにより行うことができる。本発明の組換えウイルスは、カプシド、テグメント、およびエンベロープの3つのウイルス粒子コンポーネントが蛍光タンパク質で標識されているので、本発明の抗ウイルス剤の作用機序の解析方法は、カプシド、テグメント、およびエンベロープの生成過程に加えて、カプシドがテグメントを獲得する過程やさらにエンベロープを獲得する過程など、一連のウイルス粒子成熟過程のうちのどの過程に当該抗ウイルス剤が作用するのかを同定することが可能である。
【0044】
共焦点レーザー顕微鏡、蛍光顕微鏡、ハイコンテンツ顕微鏡イメージングシステムを用いて観察した場合、各コンポーネントの発現および局在を経時的に追跡することができる、リアルタイムイメージングが可能である。これにより、ウイルス粒子成熟過程を可視化することが可能であるので、抗ウイルス剤の存在下および非存在下でのウイルス粒子成熟過程を比較することにより、抗ウイルス剤の作用機序を明らかにすることが可能である。具体的には、抗ウイルス剤の存在下および非存在下でのウイルス粒子成熟過程を比較して、各コンポーネントの発現量および/または局在に差異が見られる過程に、その抗ウイルス剤は作用していると判断する。より具体的には、各コンポーネントの発現量の差異は、各コンポーネントを標識した各蛍光タンパク質の蛍光強度の差として現れる。抗ウイルス剤の存在下において、あるコンポーネントを標識している蛍光タンパク質の蛍光強度が、抗ウイルス剤の非存在下と比較して低下している場合は、当該抗ウイルス剤はそのコンポーネントの生成過程に作用すると判断する。また、各コンポーネントの局在の差異は、各コンポーネントを標識した各蛍光タンパク質の局在の違いとして現れる。ウイルスの存在下において、あるコンポーネントを標識している蛍光タンパク質の局在が、抗ウイルス剤の非存在下と比較して異なる場合は、当該蛍光タンパク質が標識するウイルス粒子コンポーネントの、成熟ウイルス粒子への移行過程に作用すると判断する。
【0045】
蛍光プレートリーダーを用いた場合は、各コンポーネントの発現の有無および/または発現の度合いを、各蛍光タンパク質の蛍光強度から評価することができる。本発明の方法においては、抗ウイルス剤の存在下および非存在下での各蛍光タンパク質の蛍光強度を比較することにより、抗ウイルス剤の作用機序を明らかにすることが可能である。具体的には、抗ウイルス剤の存在下において、カプシドを標識している蛍光タンパク質の蛍光強度が、抗ウイルス剤の非存在下と比較して低下した場合は、当該抗ウイルス剤はカプシド生成過程に作用すると判断する。または、抗ウイルス剤の存在下において、テグメントを標識している蛍光タンパク質の蛍光強度が、抗ウイルス剤の非存在下と比較して低下した場合は、当該抗ウイルス剤はテグメント生成過程に作用すると判断する。あるいは、抗ウイルス剤の存在下において、エンベロープを標識している蛍光タンパク質の蛍光強度が、抗ウイルス剤の非存在下と比較して低下している場合は、当該抗ウイルス剤はエンベロープ生成過程に作用すると判断する。
【0046】
本発明の方法により作用機序が解析される抗ウイルス剤は、本発明の方法において用いられる本発明の組換えウイルスの種類に対応する抗ウイルス剤であれば、特に限定されない。本発明の方法により作用機序が解析される好ましい抗ウイルス剤は、抗HSV剤であり、その際、本発明の方法において用いられる本発明の組換えウイルスはHSVである。
【0047】
抗ウイルス剤のスクリーニング方法
本発明は、本発明の組換えウイルスおよび/または当該ウイルスで感染させた細胞を用いる、作用機序に特化した抗ウイルス剤のスクリーニング方法を提供する。本発明のスクリーニング方法は、特定のウイルス粒子成熟過程を標的とする抗ウイルス剤をスクリーニングする方法であって、以下の工程:
(i)本発明の組換えウイルスで感染させた細胞に、抗ウイルス剤の候補物質を接触させる工程;
(ii)ウイルス粒子のコンポーネントであるカプシド、テグメント、およびエンベロープを標識した各蛍光タンパク質の蛍光に基づいて、各コンポーネントの当該感染細胞における生成の挙動および/または局在を観察する工程;
(iii)観察された各コンポーネントの生成の挙動および/または局在について、抗ウイルス剤の候補物質を接触させていない感染細胞における各コンポーネントの生成の挙動および/または局在との差異を評価する工程;および
(iv)差異を生じた場合は、当該抗ウイルス剤の候補物質を、生成の挙動および/または局在に差異があるコンポーネントが関与するウイルス粒子成熟過程を標的とする抗ウイルス剤として同定する工程;
を含む。
【0048】
本発明の方法によりスクリーニングされる抗ウイルス剤の候補物質には、小分子を含む化合物、タンパク質、ペプチド、抗体、核酸、およびそれらの誘導体などが含まれるが、これらに限定されない。
【0049】
本発明のスクリーニング方法において、ウイルス粒子コンポーネントの生成の挙動を観察するとは、各ウイルス粒子コンポーネントを標識している蛍光タンパク質の蛍光に基づいて、各ウイルスコンポーネントの発現および/または発現後の局在を所望により観察することを意味する。標識されたウイルス粒子コンポーネントの生成挙動および/または局在の観察は、例えば、ハイコンテンツ顕微鏡イメージングシステム、蛍光プレートリーダー、共焦点レーザー顕微鏡、蛍光顕微鏡などを用いて行うことができる。ハイコンテンツ顕微鏡イメージングシステムまたは蛍光プレートリーダーを用いることにより、迅速かつ大量サンプルの処理が可能である。
【0050】
本発明のスクリーニング方法では、抗ウイルス剤の候補物質の存在下および非存在下での、本発明の組換えウイルスで感染させた細胞における各コンポーネントの生成の挙動および/またはその局在の差異に基づいてスクリーニングを行う。本発明のスクリーニング方法は、抗ウイルス剤の候補物質がウイルス粒子成熟過程のどの段階に作用するかを評価しながらスクリーニングすることが可能であるため、作用機序に基づいて抗ウイルス剤をスクリーニングすることができる。本発明の組換えウイルスは、カプシド、テグメント、およびエンベロープの3つのウイルス粒子コンポーネントが蛍光タンパク質で標識されているので、本発明のスクリーニング方法は、カプシド、テグメント、およびエンベロープの生成過程に加えて、カプシドがテグメントを獲得する過程やさらにエンベロープを獲得する過程など、一連のウイルス粒子成熟過程のうち、特定の過程を標的とする抗ウイルス剤の同定が可能である。
【0051】
本発明のスクリーニング方法に、ハイコンテンツ顕微鏡イメージングシステム、共焦点レーザー顕微鏡、または蛍光顕微鏡を用いた場合、各コンポーネントの発現および局在を経時的に追跡することができる。この場合、抗ウイルス剤の候補物質の存在下および非存在下での各コンポーネントの発現および局在を観察し、差異を生じた抗ウイルス剤の候補物質を抗ウイルス剤として同定する。また、各コンポーネントの発現および局在の差異の特色から、抗ウイルス剤としての作用機序、すなわちいずれのウイルス粒子成熟過程に作用するかについても同定することができる。具体的には、各コンポーネントの発現量の差異は、各コンポーネントを標識した各蛍光タンパク質の蛍光強度の差として現れる。したがって、抗ウイルス剤の候補物質の存在下において、あるコンポーネントを標識している蛍光タンパク質の蛍光強度が、抗ウイルス剤の非存在下と比較して低下している場合は、当該抗ウイルス剤の候補物質は、そのコンポーネントの生成過程に作用する抗ウイルス剤として同定することができる。また、各コンポーネントの局在の差異は、各コンポーネントを標識した各蛍光タンパク質の感染細胞における局在の違いとして現れる。したがって、抗ウイルス剤の候補物質の存在下において、あるコンポーネントを標識している蛍光タンパク質の局在が、抗ウイルス剤の候補物質の非存在下と比較して異なる場合は、当該蛍光タンパク質が標識するウイルス粒子コンポーネントの成熟ウイルス粒子への移行過程、例えばカプシドがテグメントを獲得する過程や、それがさらにエンベロープを獲得する過程など、に作用する抗ウイルス剤として同定することができる。
【0052】
また、本発明のスクリーニング方法に蛍光プレートリーダーを用いた場合は、各コンポーネントの発現を、各コンポーネントを標識した蛍光タンパク質の蛍光強度から評価することができる。この場合、抗ウイルス剤候補の存在下および非存在下での各蛍光タンパク質の蛍光強度を比較することにより、作用機序に基づいて抗ウイルス剤をスクリーニングする。具体的には、抗ウイルス剤候補の存在下において、カプシドを標識している蛍光タンパク質の蛍光強度が、抗ウイルス剤の非存在下と比較して低下した場合は、当該抗ウイルス剤候補はカプシドの発現を抑制する抗ウイルス剤として同定することができる。または、抗ウイルス剤候補の存在下において、テグメントを標識している蛍光タンパク質の蛍光強度が、抗ウイルス剤候補の非存在下と比較して低下した場合は、当該抗ウイルス剤候補はテグメントの発現を抑制する抗ウイルス剤として同定することができる。あるいは、抗ウイルス剤候補の存在下において、エンベロープを標識している蛍光タンパク質の蛍光強度が、抗ウイルス剤候補の非存在下と比較して低下している場合は、当該抗ウイルス剤候補はエンベロープの発現を抑制する抗ウイルス剤として同定することができる。
【0053】
本発明のスクリーニング方法により同定される抗ウイルス剤は、本発明の方法において用いられる本発明の組換えウイルスの種類に対応する抗ウイルス剤である。本発明のスクリーニング方法により同定される好ましい抗ウイルス剤は、抗HSV剤であり、その際、本発明のスクリーニング方法において用いられる本発明の組換えウイルスはHSVである。
【発明の効果】
【0054】
ウイルス粒子の3つのウイルス粒子コンポーネントを3つの異なる蛍光タンパク質で標識した組換えウイルスは、作用機序を特定した新しい抗ウイルス剤、特に抗HSV剤、のスクリーニングに利用可能である。また、本発明の組換えウイルスは、抗ウイルス剤、特に抗HSV剤の作用機序の解析にも利用可能である。抗ウイルス剤の開発においては、薬剤耐性ウイルスの出現の問題が常に存在するため、新たな作用機序を有する抗ウイルス剤の効率的なスクリーニング方法および解析方法が求められていた。本発明の組換えウイルスならびに本発明のスクリーニング方法および解析方法は、抗ウイルス剤の開発の分野に、新たな効率のよいツールおよび実験系を提供するものである。
【実施例】
【0055】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を限定するためのものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0056】
実施例1:カプシドを標識した組換えウイルスの作製
(1−1)トランスファープラスミド(pVenusA207K−UL35)の構築
(i)蛍光タンパク質Venus(Nat. Biotechnol., 2002, 20(1): 87-90)の207番目のアラニン残基をリジン残基に置換した変異体VenusA207KをQuickChange site-directed mutagenesis kit(Stratagene)で作製した。
【0057】
(ii)終始コドンを含まないVenusA207Kのオープンリーディングフレーム(ORF)をPCRで増幅した。PCR増幅には以下のプライマーを用いた:GCACTAGTCGCCACCATGGTGAGCAAGGGC(配列番号1)およびGCGAATTCCTTGTACAGCTCGTCCATGC(配列番号2)。PCR産物として得られたVenusA207KをpBluescript II KS+(Stratagene)のSpeI−EcoRI部位にクローニングした。
【0058】
(iii)HSV−1 F株(J. Gen. Virol., 2:357-364, 1968)のUL35遺伝子の2番目のコドンから約1kbp(HSVゲノムについてのGenBank accession No. X14112を参照)をPCR法にて増幅した。PCRには以下のプライマーを用いた:GCGAATTCgccgtcccgcaatttcaccg(配列番号3)およびGCGAAGCTTttccgcgtcttccacaaatc(配列番号4)。そして、PCR産物として得られたUL35遺伝子を含む断片を、上記(ii)で得られた、Venus変異体がクローニングされたpBluescript II KS+ のEcoRI−HindIII部位に、VenusA207KとUL35遺伝子が融合するかたちでクローニングした。
【0059】
(iv)HSV−1 F株(同上)のUL35遺伝子の上流約1kbp(HSVゲノムについてのGenBank accession No. X14112を参照)をPCR法にて増幅した。PCRには以下のプライマーを用いた:GCACTGCGGCCGCttaaccggttcctggacctg(配列番号5)およびGCACTAGTcgggaccggaggtcgggaag(配列番号6)。そして、PCR産物として得られたUL35遺伝子の上流側を含む断片を、上記(iii)で得られた、VenusA207K−UL35遺伝子がクローニングされたpBluescript II KS+ のNotI−SpeI部位にさらにクローニングした。
【0060】
得られたプラスミドは、pBluescript II KS+のマルチプルクローニングサイト領域に、5’側から順に、UL35遺伝子の上流約1kbp、VenusA207KのORF、およびUL35遺伝子の2番目のコドンから約1kbpを含むプラスミドである。以下、得られたプラスミドをpVenusA207K−pUL35と称する。
【0061】
(1−2)組換えウイルスYK601の作製
野生体の性状を保持し、かつ、UL3−UL4遺伝子間領域にバクミド(bacmid)が挿入された組換えウイルスYK304(J. Virol., 77: 1382-1391, 2003)のウイルスDNAとpVenusA207K−pUL35をウサギ皮膚細胞(RSC)にトランスフェクトした。その後、相同組み換えによって産生された、VenusA207K遺伝子がUL35遺伝子のN末領域に挿入された組換えウイルスYK601を、蛍光顕微鏡下において、蛍光を発するプラークを採取することによって選択した。また、100%のプラークが蛍光を発するまで、蛍光顕微鏡下においてプラーク純化を行った。
【0062】
YK601が目的の組換えウイルスであることはサザン法にて確認した。具体的には、YK304およびYK601のウイルスDNAをSalIで処理後、サザン法に供した。プローブは、UL35の開始コドンから上流および下流にそれぞれ1kbpの領域(HSVゲノムについてのGenBank Accession No. X14112を参照)をPCRで増幅した断片を用いた。PCRには以下のプライマーを用いた:GCACTGCGGCCGCttaaccggttcctggacctg(配列番号5)、およびGCGAAGCTTttccgcgtcttccacaaatc(配列番号4)。UL35遺伝子を含むSalI断片がYK601ではYK304と比してVenus遺伝子分だけ大きくなっていることを確認した。
【0063】
また、感染細胞においてVenusA207K−UL35融合タンパク質が発現していることを、感染細胞ライセートを用いたウエスタン法にて確認した。また、VenusA207K−UL35融合タンパク質がウイルス粒子に取り込まれていることを、精製ウイルス粒子のライセートを用いたウエスタン法にて確認した。ウエスタン法においては、VenusA207K−UL35融合タンパク質の検出は、抗GFP抗体(MBL)および抗UL35抗体を用いて行った。抗UL35抗体は、UL35をGSTと融合させるかたちで大腸菌で発現・精製し、ウサギに免役した抗血清である。

実施例2:テグメントを標識した組換えウイルスの作製
(2−1)テグメントUL49を標識した組換えウイルス
(2−1−1)トランスファープラスミド(pmRFP1−UL49)の構築
(i)終始コドンを含まない蛍光タンパク質mRFP1(PNAS, 99: 7787-7882, 2002)のORFをPCRで増幅した。PCR増幅には以下のプライマーを用いた:GCACTAGTCGCCACCatggcctcctccgaggacgt(配列番号7)およびGCGAATTCggcgccggtggagtggcggc(配列番号8)。PCR産物として得られたmRFP1を、pBluescript II KS+ (Stratagene)のSpeI−EcoRI部位にクローニングした。
【0064】
(ii)HSV−1 F株(J. Gen. Virol., 2: 357-364, 1968)のUL49遺伝子の2番目のコドンから約1kbp(HSVゲノムについてのGenBank accession No. X14112を参照)をPCR法にて増幅した。PCRには以下のプライマーを用いた:GCGAATTCacctctcgccgctccgtgaa(配列番号9)およびGCGAAGCTTtccccgtcggattgggaaac(配列番号10)。PCR産物として得られたUL49遺伝子を、上記(i)で作製された、mRFP1がクローニングされたpBluescript II KS+ のEcoRI−HindIII部位にmRFP1とUL49遺伝子が融合するかたちでクローニングした。
【0065】
(iii)HSV−1 F株(同上)のUL49遺伝子の上流約1kbp(HSVゲノムについてのGenBank accession No. X14112を参照)をPCR法にて増幅した。PCRには以下のプライマーを用いた:GCACTGCGGCCGCtcgccaggatgtccaggaac(配列番号11)およびGCACTAGTggttccacgaacacgctagg(配列番号12)。PCR産物として得られたUL49遺伝子の上流側を含む断片を、上記(ii)で作製された、mRFP1−UL49遺伝子がクローニングされたpBluescript II KS+ のNotI−SpeI部位にさらにクローニングした。
【0066】
得られたプラスミドは、pBluescript II KS+のマルチプルクローニングサイト領域に、5’側から順に、UL49遺伝子の上流約1kbp、mRFP1のORF、およびUL49遺伝子の2番目のコドンから約1kbpを含むプラスミドである。以下、得られたプラスミドをpmRFP1−UL49と称する。
【0067】
(2−1−2)組換えウイルスYK602の作製
組換えウイルスYK304のウイルスDNAとpmRFP1−UL49をRSCにトランスフェクトした。その後、相同組み換えによって産生された、mRFP1遺伝子がUL49遺伝子のN末領域に挿入された組み換えウイルスYK602を、蛍光顕微鏡下において、蛍光を発するプラークを採取することによって選択した。また、100%のプラークが蛍光を発するまで、蛍光顕微鏡下においてプラーク純化を行った。
【0068】
YK602が目的の組み換えウイルスであることはサザン法にて確認した。具体的には、YK304およびYK602のウイルスDNAをEcoRVで処理後、サザン法に供した。プローブは、UL49の開始コドンから上流および下流にそれぞれ1kbpの領域(HSVゲノムについてのGenBank Accession No. X14112を参照)をPCRで増幅した断片を用いた。PCRには以下のプライマーを用いた:GCGAATTCacctctcgccgctccgtgaa(配列番号9)、GCACTGCGGCCGCtcgccaggatgtccaggaac(配列番号11)。UL49遺伝子を含むEcoRV断片がYK602ではYK304と比してmRFP1遺伝子分だけ大きくなっていることを確認した。
【0069】
また、感染細胞においてmRFP1−UL49融合タンパク質が発現していることを、感染細胞ライセートを用いたウエスタン法にて確認した。また、mRFP1−UL49融合タンパク質がウイルス粒子に取り込まれていることを、精製ウイルス粒子のライセートを用いたウエスタン法にて確認した。ウエスタン法においては、mRFP1−UL49融合タンパク質の検出は、抗UL49抗体(J. Virol., 79: 6947-6956, 2005)または抗mRFP1抗体(MBL)を用いて行った。
【0070】
(2−2)テグメントUL47を標識した組換えウイルス
(2−2−1)トランスファープラスミド(pmRFP1−UL47)の構築
(i)終始コドンを含まない蛍光タンパク質mRFP1(Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 2002, 99(12): 7877-7882.)のORFをPCRで増幅した。PCR増幅には以下のプライマーを用いた:GCACTAGTCGCCACCatggcctcctccgaggacgt(配列番号7)およびGCGAATTCggcgccggtggagtggcggc(配列番号8)。PCR産物として得られたmRFP1を、pBluescript II KS+ (Stratagene)のSpeI−EcoRI部位にクローニングした。
【0071】
(ii)HSV−1 F株(J. Gen. Virol., 2: 357-364, 1968)のUL47遺伝子の2番目のコドンから約1kbp(HSVゲノムについてのGenBank accession No. X14112を参照)をPCR法にて増幅した。PCRには以下のプライマーを用いた:GCGAATTCTCGGCTCGCGAACCCGCGGG(配列番号13)およびGCGAAGCTTATTGAGGCGGGCGAGCAGGG(配列番号14)。PCR産物として得られたUL47遺伝子を、上記(i)で作製された、mRFP1がクローニングされたpBluescript II KS+ のEcoRI−HindIII部位にmRFP1とUL47遺伝子が融合するかたちでクローニングした。
【0072】
(iii)HSV−1 F株(同上)のUL47遺伝子の上流約1kbp(HSVについてのGenBank accession No. X14112を参照)をPCR法にて増幅した。PCRには以下のプライマーを用いた:GCACTGCGGCCGCAGCACCTTAACCTCCCGCTG(配列番号15)およびGCACTAGTGGTGGCGATAGACGCGGGTT(配列番号16)。PCR産物として得られたUL47遺伝子の上流側を含む断片を、上記(ii)で作製された、mRFP1−UL47遺伝子がクローニングされたpBluescript II KS+ のNotI−SpeI部位にさらにクローニングした。
【0073】
得られたプラスミドは、pBluescript II KS+のマルチプルクローニングサイト領域に、5’側から順に、UL47遺伝子の上流約1kbp、mRFP1のORF、およびUL47遺伝子の2番目のコドンから約1kbpを含むプラスミドである。以下、得られたプラスミドをpmRFP1−UL47と称する。
【0074】
(2−2−2)組換えウイルスYK603の作製
組み換えウイルスYK304のウイルスDNAとpmRFP1−UL47をRSCにトランスフェクトした。その後、相同組み換えによって産生された、mRFP1遺伝子がUL47遺伝子のN末領域に挿入された組み換えウイルスYK603を、蛍光顕微鏡下において、蛍光を発するプラークを採取することによって選択した。また、100%のプラークが蛍光を発するまで、蛍光顕微鏡下においてプラーク純化を行った。
【0075】
YK603が目的の組み換えウイルスであることはサザン法にて確認した。具体的には、YK304およびYK603のウイルスDNAをEcoRVで処理後、サザン法に供した。プローブは、UL47の開始コドンから上流および下流にそれぞれ1kbpの領域(GenBank Accession No. X14112)をPCRで増幅した断片を用いた。PCRには以下のプライマーを用いた:GCGAAGCTTATTGAGGCGGGCGAGCAGGG(配列番号14)、GCACTGCGGCCGCAGCACCTTAACCTCCCGCTG(配列番号15)。UL47遺伝子を含むEcoRV断片がYK603ではYK304と比してmRFP1遺伝子分だけ大きくなっていることを確認した。
【0076】
また、感染細胞においてmRFP1−UL47融合タンパク質が発現していることを、感染細胞ライセートを用いたウエスタン法にて確認した。また、mRFP1−UL47融合タンパク質がウイルス粒子に取り込まれていることを、精製ウイルス粒子のライセートを用いたウエスタン法にて確認した。ウエスタン法においては、mRFP1−UL47融合タンパク質の検出は、抗mRFP1抗体(MBL)を用いて行った。

実施例3:エンベロープを標識した組換えウイルスの作製
(3−1)トランスファープラスミド(pECFPA207K−UL27)の構築
(i)蛍光タンパク質ECFP(Clontech)の207番目のアラニン残基をリジン残基に置換した変異体ECFPA207KをQuickChange site-directed mutagenesis kit (Stratagene)で作製した。
【0077】
(ii)HSV−1 F株(J. Gen Virol., 2: 357-364, 1968)のUL27遺伝子の開始コドンの上流約1kbpからUL27遺伝子の開始コドンの下流約1kbpまでの領域(HSVゲノムについてのGenBank accession No. X14112を参照)をPCR法にて増幅した。PCRには以下のプライマーを用いた:GCTCTAGAcctgacgaagcggtcgttgg(配列番号17)およびGCGAAGCTTgagaatcggaaggagccgcc(配列番号18)。PCR産物として得られたUL27遺伝子を含む断片を、pBluescript II KS+ のXbaI−HindIII部位にクローニングした。
【0078】
(iii)開始コドンおよび終始コドンを含まないECFPA207KのORFをPCRで増幅した。PCR増幅には以下のプライマーを用いた:GCACTGCGGCCGCagtgagcaagggcgaggagct(配列番号19)およびGCACTGCGGCCGCCTTGTACAGCTCGTCCATGC(配列番号20)。上記(ii)で作製された、UL27遺伝子の開始コドンの上流約1kbpからUL27遺伝子の開始コドンの下流約1kbpまでの領域がクローニングされたpBluescript II KS+ (Stratagene)のNotI部位に、UL27遺伝子と融合するかたちでクローニングした。
【0079】
得られたプラスミドは、pBluescript II KS+のマルチプルクローニングサイト領域に、5’側から順に、UL27の開始コドンの上流約1kbp、UL27の開始コドンから約100bp、ECFPA207KのORF、およびUL27遺伝子の開始コドンから約100bpのさらに下流約1kbpまでの領域を含むプラスミドである。以下、得られたプラスミドをpECFPA207K−UL27と称する。
【0080】
(3−2)組換えウイルスYK604の作製
組換えウイルスYK304のウイルスDNAとpECFPA207K−UL27をRSCにトランスフェクトした。その後、相同組み換えによって産生された、ECFPA207K遺伝子がUL27遺伝子のN末領域に挿入された組み換えウイルスYK604を、蛍光顕微鏡下において、蛍光を発するプラークを採取することによって選択した。また、100%のプラークが蛍光を発するまで、蛍光顕微鏡下においてプラーク純化を行った。
【0081】
YK604が目的の組み換えウイルスであることはサザン法にて確認した。具体的には、YK304およびYK604のウイルスDNAをBamHIで処理後、サザン法に供した。プローブは、UL27遺伝子の開始コドンから上流および下流にそれぞれ1kbpの領域(HSVゲノムについてのGenBank Accession No. X14112を参照)をPCRで増幅した断片を用いた。PCRには以下のプライマーを用いた:GCTCTAGAcctgacgaagcggtcgttgg(配列番号17)、GCGAAGCTTcgggccttggtggtgaggtc(配列番号21)。UL27遺伝子を含むEcoRV断片がYK604ではYK304と比してECFP遺伝子分だけ大きくなっていることを確認した。
【0082】
また、感染細胞においてECFP−UL27融合タンパク質が発現していることを、感染細胞ライセートを用いたウエスタン法にて確認した。また、ECFP−UL27融合タンパク質がウイルス粒子に取り込まれていることを、精製ウイルス粒子のライセートを用いたウエスタン法にて確認した。ウエスタン法においては、ECFP−UL27融合タンパク質の検出は、抗UL27抗体(Rumbaugh-Goodwin Institute)または抗GFP抗体(MBL)を用いて行った。

実施例4:カプシドおよびテグメントを標識した組換えウイルスの作製
(4−1)組換えウイルスYK605の作製
組み換えウイルスYK601とYK602を感染効率(MOI:multiplicity of infection) 5でVero細胞に共感染させた。その後、相同組み換えによって産生された、VenusA207K遺伝子がUL35遺伝子のN末端領域に挿入され、かつ、mRFP1遺伝子がUL49遺伝子のN末端領域に挿入された組換えウイルスYK605を、蛍光顕微鏡下において、2色の蛍光を発するプラークを採取することによって選択した。また、100%のプラークが2色の蛍光を発するまで、蛍光顕微鏡下においてプラーク純化を行った。
【0083】
YK605が目的の組換えウイルスであることはサザン法にて確認した。具体的には、YK304およびYK605のウイルスDNAをSalIで処理後、サザン法に供し、実施例1の(1−2)と同様にして、UL35遺伝子を含むSalI断片がYK605ではYK304と比してVenus遺伝子分だけ大きくなっていることを確認した。また、YK304およびYK605のウイルスDNAをEcoRVで処理後、サザン法に供し、実施例2の(2−1−2)と同様にして、UL49遺伝子を含むEcoRV断片がYK605ではYK304と比してmRFP1遺伝子分だけ大きくなっていることを確認した。
【0084】
また、感染細胞においてVenusA207K−UL35およびmRFP1−UL49融合タンパク質が発現していることを、感染細胞ライセートを用いたウエスタン法にて確認した。また、VenusA207K−UL35およびmRFP1−UL49融合タンパク質がウイルス粒子に取り込まれていることを、精製ウイルス粒子のライセートを用いたウエスタン法にて確認した。ウエスタン法におけるVenusA207K−UL35融合タンパク質およびmRFP1−UL49融合タンパク質の検出は、実施例1および2と同様に行った。
【0085】
(4−2)組換えウイルスYK606の作製
組換えウイルスYK601とYK603をMOI 5でVero細胞に共感染させた。その後、相同組み換えによって産生された、VenusA207K遺伝子がUL35遺伝子のN末端領域に挿入され、かつ、mRFP1遺伝子がUL47遺伝子のN末端領域に挿入された組換えウイルスYK606を、蛍光顕微鏡下において、2色の蛍光を発するプラークを採取することによって選択した。また、100%のプラークが2色の蛍光を発するまで、蛍光顕微鏡下においてプラーク純化を行った。
【0086】
YK606が目的の組み換えウイルスであることはサザン法にて確認した。具体的には、YK304およびYK606のウイルスDNAをSalIで処理後、サザン法に供し、実施例1の(1−2)と同様にして、UL35遺伝子を含むSalI断片がYK606ではYK304と比してVenus遺伝子分だけ大きくなっていることを確認した。また、YK304およびYK606のウイルスDNAをEcoRVで処理後、サザン法に供し、実施例2の(2−2−2)と同様にして、UL47遺伝子を含むEcoRV断片がYK606ではYK304と比してmRFP1遺伝子分だけ大きくなっていることを確認した。
【0087】
また、感染細胞においてVenusA207K−UL35およびmRFP1−UL47融合タンパク質が発現していることを、感染細胞ライセートを用いたウエスタン法にて確認した。また、VenusA207K−UL35およびmRFP1−UL47融合タンパク質がウイルス粒子に取り込まれていることを、精製ウイルス粒子のライセートを用いたウエスタン法にて確認した。ウエスタン法におけるVenusA207K−UL35融合タンパク質およびmRFP1−UL47融合タンパク質の検出は、実施例1および2と同様に行った。

実施例5:カプシド、テグメントおよびエンベロープを標識した組換えウイルスの作製
(5−1)組換えウイルスYK608の作製
組換えウイルスYK605とYK604をMOI 5でVero細胞に共感染させた。その後、相同組み換えによって産生された、VenusA207K遺伝子がUL35遺伝子のN末端領域に挿入され、mRFP1遺伝子がUL49遺伝子のN末端領域に挿入され、かつ、ECFPA207A遺伝子がUL27遺伝子のN末端領域に挿入された組み換えウイルスYK608を、蛍光顕微鏡下において、3色の蛍光を発するプラークを採取することによって選択した。また、100%のプラークが3色の蛍光を発するまで、蛍光顕微鏡下においてプラーク純化を行った。
【0088】
YK608が目的の組み換えウイルスであることはサザン法にて確認した(図2)。具体的には、YK304およびYK608のウイルスDNAをSalIで処理後、サザン法に供し、実施例1の(1−2)と同様にして、UL35遺伝子を含むSalI断片がYK608ではYK304と比してVenus遺伝子分だけ大きくなっていることを確認した。また、YK304およびYK608のウイルスDNAをEcoRVで処理後、サザン法に供し、実施例2の(2−1−2)と同様にして、UL49遺伝子を含むEcoRV断片がYK608ではYK304と比してmRFP1遺伝子分だけ大きくなっていることを確認した。そして、YK304およびYK608のウイルスDNAをBamHIで処理後、サザン法に供し、実施例3の(3−2)と同様にして、UL27遺伝子を含むEcoRV断片がYK608ではYK304と比してECFP遺伝子分だけ大きくなっていることを確認した。
【0089】
また、感染細胞においてVenusA207K−UL35、mRFP1−UL49およびECFPA207K−UL27融合タンパク質が発現していることを、感染細胞ライセートを用いたウエスタン法にて確認した(図3)。また、VenusA207K−UL35、mRFP1−UL49およびECFPA207K−UL27融合タンパク質がウイルス粒子に取り込まれていることを、精製ウイルス粒子のライセートを用いたウエスタン法にて確認した(図4)。ウェスタン法におけるVenusA207K−UL35、mRFP1−UL49およびECFPA207K−UL27融合タンパク質の検出は、実施例1ないし3と同様に行った。
【0090】
(5−2)組み換えウイルスYK609の作製
組換えウイルスYK606とYK604をMOI 5でVero細胞に共感染させた。その後、相同組み換えによって産生された、VenusA207K遺伝子がUL35遺伝子のN末端領域に挿入され、mRFP1遺伝子がUL47遺伝子のN末端領域に挿入され、かつ、ECFPA207A遺伝子がUL27遺伝子のN末端領域に挿入された組み換えウイルスYK609を、蛍光顕微鏡下において、3色の蛍光を発するプラークを採取することによって選択した。また、100%のプラークが3色の蛍光を発するまで、蛍光顕微鏡下においてプラーク純化を行った。
【0091】
YK609が目的の組み換えウイルスであることはサザン法にて確認した(図5)。具体的には、YK304およびYK609のウイルスDNAをSalIで処理後、サザン法に供し、実施例1の(1−2)と同様にして、UL35遺伝子を含むSalI断片がYK609ではYK304と比してVenus遺伝子分だけ大きくなっていることを確認した。また、YK304およびYK609のウイルスDNAをEcoRVで処理後、サザン法に供し、実施例2の(2−2−2)と同様にして、UL47遺伝子を含むEcoRV断片がYK609ではYK304と比してmRFP1遺伝子分だけ大きくなっていることを確認した。そして、YK304およびYK609のウイルスDNAをBamHIで処理後、サザン法に供し、実施例3の(3−2)と同様にして、UL27遺伝子を含むEcoRV断片がYK609ではYK304と比してECFP遺伝子分だけ大きくなっていることを確認した。
【0092】
また、感染細胞においてVenusA207K−UL35、mRFP1−UL47およびECFPA207K−UL27融合タンパク質が発現していることを、感染細胞ライセートを用いたウエスタン法にて確認した(図6)。また、VenusA207K−UL35、mRFP1−UL47およびECFPA207K−UL27融合タンパク質がウイルス粒子に取り込まれていることを、精製ウイルス粒子のライセートを用いたウエスタン法にて確認した(図7)。ウエスタン法におけるVenusA207K−UL35、mRFP1−UL47およびECFPA207K−UL27融合タンパク質の検出は、実施例1ないし3と同様に行った。

実施例6:YK608とYK609の性状解析
(i)YK304、YK608およびYK609をVero細胞にMOI 0.01またはMOI 5で感染させ、6時間ごと、24時間の各ウイルスの増殖を比較した(図8)。YK608およびYK609は野生体YK304と比して、それぞれの時点におけるウイルスタイターが低い傾向があるが、野生体と同様な増殖様式を示した。
【0093】
(ii)φ60mmのガラスボトムディッシュ(MatTek)にVero細胞を捲き、YK608およびYK609をVero細胞にMOI 5で感染させた。温度コントロールおよびCO2濃度コントロールが可能なチャンバーを搭載した共焦点レーザー顕微鏡(LSM5:Carl Zeiss)で、10分間隔で24時間のタイムラプス観察を行った。その結果、生きた感染細胞における各ウイルス粒子コンポーネント(カプシド、テグメント、エンベロープ)の生成の様子を観察することが可能であった(図10)。また、細胞外のウイルス粒子を観察することが可能であった(図9)。
【0094】
(iii)新生タンパク質の細胞内輸送を阻害する薬剤であるブレフェルディンA(Brefeldin A)またはモネンシン(Monensin)を(ii)の系に添加すると、各ウイルスコンポーネントの挙動および発現量が野生体と比して明らかに異なることが確認された(図11)。Mock処理では、カプシド、テグメント、エンベロープはウイルスファクトリーと考えられる複数のドメインで共局在する。しかし、両薬剤を添加するとウイルスファクトリーと考えられるドメインの形成が著しく阻害される。また、テグメントとエンベロープの発現量が明らかに低下する。ブレフェルディンAを処理するとHSVの増殖が阻害されることが報告されている(J. Virol., 65: 1893-1904, 1991)。

本実施例の結果は、本系が薬剤の作用機序の解析およびウイルス粒子コンポーネントの局在や発現量の変化を指標にした新しい抗ウイルス剤のスクリーニング系に有用であることを示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0095】
HSVは、ヒトに脳炎、性器ヘルペス、皮膚疾患、眼疾患、小児ヘルペスなどの多様な病態を引き起こす。ヘルペスウイルス感染症の医療費は、年間30億ドル(約3500億円)と試算されている。
【0096】
本発明の組換えウイルスおよびそれを利用した抗HSV剤スクリーニング系、抗HSV剤の作用機序解析系は、そのまま抗HSV剤開発の現場で利用可能である。抗ウイルス剤の宿命として、薬剤耐性ウイルスの出現が挙げられるが、そのために、常に新たな作用機序の抗ウイルス剤を開発することが必要であり、実際に、製薬業界においては抗HSV剤の開発が盛んに行われている。また、抗ウイルス剤を開発する際にその作用機序が明らかになっていることは、その抗ウイルス剤の安全性や信頼性を高める上で必須である。これらのことを鑑みて、本発明は抗HSV剤の開発に貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】図1は、HSV粒子の模式図(A)と、組換えウイルスYK608およびYK609のゲノム模式図(B)である。
【図2】図2は、組換えウイルスYK608のサザン法による解析結果を示す写真である。
【図3】図3は、組換えウイルスYK608を感染させた細胞のライセートのウエスタン法による解析結果を示す写真である。VenusA207K−UL35、mRFP1−UL49、およびECFPA207K−UL27融合タンパク質の発現を確認した。
【図4】図4は、組換えウイルスYK608の精製ウイルス粒子のライセートのウエスタン法による解析結果を示す写真である。VenusA207K−UL35、mRFP1−UL49、およびECFPA207K−UL27融合タンパク質がウイルス粒子に取り込まれていることを確認した。
【図5】図5は、組換えウイルスYK609のサザン法による解析結果を示す写真である。
【図6】図6は、組換えウイルスYK609を感染させた細胞のライセートのウエスタン法による解析結果を示す写真である。VenusA207K−UL35、mRFP1−UL47、およびECFPA207K−UL27融合タンパク質の発現を確認した。
【図7】図7は、組換えウイルスYK609の精製ウイルス粒子のライセートのウエスタン法による解析結果を示す写真である。VenusA207K−UL35、mRFP1−UL47、およびECFPA207K−UL27融合タンパク質がウイルス粒子に取り込まれていることを確認した。
【図8】図8は、YK304、YK608、YK609組換えウイルスを感染させたVero細胞におけるウイルスの増殖を示すグラフである。
【図9】図9は、YK608組換えウイルスを感染させたVero細胞および細胞外における各ウイルス粒子コンポーネントのリアルタイムイメージング画像である。
【図10】図10は、YK608組換えウイルスを感染させたVero細胞における各ウイルス粒子コンポーネント生成過程のリアルタイムイメージング画像である。
【図11】図11は、ブレフェルディンAまたはモネンシン存在下および非存在下での、YK608組換えウイルスを感染させたVero細胞における各ウイルス粒子コンポーネント生成過程を比較したリアルタイムイメージング画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えウイルスであって、ウイルス粒子のコンポーネントであるカプシド、テグメントおよびエンベロープのそれぞれが、異なる3つの蛍光タンパク質で標識されている、前記組換えウイルス。
【請求項2】
ウイルスが、ヘルペスウイルス科に属するウイルスより選択される、請求項1に記載の組換えウイルス。
【請求項3】
ウイルスが、単純ヘルペスウイルス(HSV)である、請求項1に記載の組換えウイルス。
【請求項4】
ウイルスが単純ヘルペスウイルス(HSV)であり;
カプシドがUL35、UL18、UL19、UL26、およびUL38からなる群より選択され;
テグメントがUL49、UL47、UL46、UL48、UL41、UL11、UL13、UL14、UL36、UL37、UL51、UL56、Us2、Us9、Us10、およびUs11からなる群より選択され;そして、
エンベロープがUL27、UL1、UL10、UL22、Us6、UL44、UL53、Us4、Us5、Us7、およびUs8からなる群より選択される;
請求項1に記載の組換えウイルス。
【請求項5】
蛍光タンパク質が、Venus、mRFP1、ECFP、EGFP、EYFP、EBFP、Cerulean、Emerald、Sapphire、T−Sapphire、Citrine、PhiYFP、J−Red、Midoriishi−Cyan1、AmCyan1、Azami−Green、mAzami−Green1、CopGFP、ZsGreen1、ZsYellow1、Kusabira−Orange1、mKusabira−Orange1、mOrange、DsRed2、DsRed monomer、HcRed1、mPlum、mRaspberry、mCherry、mStrawberry、mTangerine、eqFP611、およびAsRed2からなる群より選択される、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の組換えウイルス。
【請求項6】
ウイルスが単純ヘルペスウイルスであり、カプシドがVenusで標識されたUL35であり、テグメントがmRFP1で標識されたUL47またはUL49であり、エンベロープがECFPで標識されたUL27である、請求項1に記載の組換えウイルス。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の組換えウイルスを感染させた細胞。
【請求項8】
抗ウイルス剤の作用機序を解析する方法であって、以下:
(i)請求項1ないし6のいずれか1項に記載の組換えウイルスで感染させた細胞に、抗ウイルス剤を接触させ;
(ii)ウイルス粒子のコンポーネントであるカプシド、テグメント、およびエンベロープを標識した各蛍光タンパク質の蛍光に基づいて、各コンポーネントの当該感染細胞における生成の挙動および/または局在を観察し;
(iii)観察された各コンポーネントの生成の挙動および/または局在について、抗ウイルス剤を接触させていない感染細胞における各コンポーネントの生成の挙動および/または局在との差異を評価し;そして
(iv)当該抗ウイルス剤は、生成の挙動および/または局在に差異があるコンポーネントが関与するウイルス粒子成熟過程に作用すると判断する;
工程を含む、前記方法。
【請求項9】
感染細胞におけるウイルス粒子の各コンポーネントの生成の挙動および/または局在の観察を、リアルタイムイメージングにより行う、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
特定のウイルス粒子成熟過程を標的とする抗ウイルス剤をスクリーニングする方法であって、以下:
(i)請求項1ないし6のいずれか1項に記載の組換えウイルスで感染させた細胞に、抗ウイルス剤の候補物質を接触させ;
(ii)ウイルス粒子のコンポーネントであるカプシド、テグメント、およびエンベロープを標識した各蛍光タンパク質の蛍光に基づいて、各コンポーネントの当該感染細胞における生成の挙動および/または局在を観察し;
(iii)観察された各コンポーネントの生成の挙動および/または局在について、抗ウイルス剤の候補物質を接触させていない感染細胞における各コンポーネントの生成の挙動および/または局在との差異を評価し;そして
(iv)差異を生じた場合は、当該抗ウイルス剤の候補物質を、生成の挙動および/または局在に差異があるコンポーネントが関与するウイルス粒子成熟過程を標的とする抗ウイルス剤として同定する;
工程を含む、前記方法。

【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−131867(P2008−131867A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318534(P2006−318534)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】