説明

ウインチ制御装置

【課題】ウインチ制御装置において、吊荷の重量変化の要因を適正に判断することで吊荷
の昇降作業を円滑に行って作業性の向上を図る。
【解決手段】吊荷の重量の変動量に応じて巻取ドラム21を正逆回転させることで吊荷を
昇降させるバランサモードと、吊荷の重量の変動回数に応じて巻取ドラム21を正逆回転
させることで吊荷を昇降させるサインモードとを有し、制御装置27は、吊荷の重量の変
動量及び変動回数に応じてバランサモードまたはサインモードを選択切替する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、高所作業車において、アームの先端部にバケットと共に装着された
ウインチを操作するためのウインチ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な高所作業車は、道路を走行可能な車両の後部に伸縮あるいは折り畳み可能な複
数のアームが連結され、その先端部に作業者が搭乗するバケットが連結され、このバケッ
トにウインチが装着されて構成されている。従って、道路上に停止した車両から複数のア
ームを伸長することでバケットを上昇し、このバケットに乗った作業者がウインチを操作
することで各種の作業を行う。
【0003】
この高所作業車を用いて架空配電線工事を行う場合、作業者は、バケットに乗った状態
でこのバケットに設けられた操作装置を操作し、アームやウインチを駆動している。この
とき、作業者は、ウインチを操作して、例えば、変圧器を吊り上げて支持し、電柱の所定
の位置まで下降して設置するようにしている。
【0004】
ところが、作業者は一人でウインチの操作、変圧器の位置決め作業や固定作業などを行
わなければならず、作業が面倒なものとなって作業者にかかる負担が大きくなると共に、
作業時間も長くなってしまうという問題があった。
【0005】
なお、電動ホイストにて、その操作性の向上を図ったものとして、下記特許文献1に記
載された技術がある。この特許文献1の電動ホイスト運転制御装置は、力検出器の検出値
を一定時間サンプリングしてその平均値を力目標値として設定し、検出値と目標値の偏差
値を求め、この偏差値が0であれば揚重物を静止させ、検出値の方が大きければ揚重物の
巻下げ動作を行い、目標値の方が大きければ揚重物の巻上げ動作を行うことで、操作者が
揚重物に操作力を加えるだけで、その揚重物の位置あわせや巻上げ操作、巻下げ操作を行
うことができるようにしたものである。
【0006】
【特許文献1】特開平6−32592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の電動ホイスト運転制御装置にあっては、揚重物に作用する力の大きさを
検出し、その力の大きさにより揚重物を下降させたり、上昇させたりしている。即ち、揚
重物を上昇させたいときには、作業者が揚重物に対して上向きの力を加え、揚重物を下降
させたいときには、作業者が揚重物に対して下向きの力を加えればよい。ところが、揚重
物を所定の位置に設置したとき、この揚重物には上向きの力が作用することとなり、揚重
物が上昇してしまう。また、揚重物を下降してケース内に入れる作業をする際、この揚重
物がケースの内面と接触して磨耗が生じたとき、この揚重物に上向きの力が作用して上昇
してしまう。このように揚重物に対して作業者以外の外力が作用した場合にも、揚重物が
昇降動作してしまうことがあり、この点に改善の余地がある。
【0008】
本発明は上述した課題を解決するものであり、吊荷の重量変化の要因を適正に判断する
ことで吊荷の昇降作業を円滑に行って作業性の向上を図ったウインチ制御装置を提供する
ことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための請求項1の発明のウインチ制御装置は、本体架台と、該本
体架台に回転自在に支持された巻取ドラムと、該巻取ドラムを正逆回転可能な駆動モータ
と、基端部側が前記巻取ドラムに巻き取られて先端部に吊具が連結されたワイヤロープと
、前記吊具に吊り下げられた吊荷の重量を計測する吊荷重量計測手段と、前記吊荷重量計
測手段が計測した前記吊荷の重量の変動量に応じて前記駆動モータを駆動して前記巻取ド
ラムを正逆回転させることで前記吊荷を昇降させるバランサモード制御手段と、前記吊荷
重量計測手段が計測した前記吊荷の重量の変動回数に応じて前記駆動モータを駆動して前
記巻取ドラムを正逆回転させることで前記吊荷を昇降させるサインモード制御手段と、前
記吊荷重量計測手段が計測した前記吊荷の重量の変動量及び変動回数に応じて前記バラン
サモード制御手段または前記サインモード制御手段を選択する動作モード選択手段とを具
えたことを特徴とするものである。
【0010】
請求項2の発明のウインチ制御装置では、前記バランサモード制御手段は、前記吊荷の
重量の変動量が予め設定された第1所定値よりも増加したときに前記吊荷を下降させる一
方、前記吊荷の重量が前記第1所定値よりも減少したときに前記吊荷を上昇させることを
特徴としている。
【0011】
請求項3の発明のウインチ制御装置では、前記バランサモード制御手段は、前記吊荷が
下降中または上昇中であるとき、前記吊荷の重量の変動量が前記第1所定値より大きい第
2所定値よりも増加または減少したときに前記吊荷を停止させることを特徴としている。
【0012】
請求項4の発明のウインチ制御装置では、前記サインモード制御手段は、所定時間内に
おける前記吊荷の重量の変動回数が予め設定された第2所定回数のときに前記吊荷を予め
設定された所定時間だけ上昇させ、所定時間内における前記吊荷の重量の変動回数が予め
設定された第3所定回数のときに前記吊荷を連続して上昇させることを特徴としている。
【0013】
請求項5の発明のウインチ制御装置では、所定時間内に前記吊荷の重量の変動量が予め
設定された最大値を超えた回数が予め設定された所定回数を超えたときに前記吊荷に外部
から力が作用して外乱が発生したと判定する外乱検出手段を設け、前記バランサモード制
御手段は、前記外乱検出手段が外乱を検出したときに、現在から過去所定計測回数分の前
記吊荷の重量の移動平均値を前記吊荷の重量として各種の処理を実行することを特徴とし
ている。
【0014】
請求項6の発明のウインチ制御装置では、現在から過去所定計測回数分の前記吊荷の重
量の移動平均値を基準値として設定すると共に、現在から過去所定計測回数分の前記吊荷
の重量の標準偏差と、現在と過去所定計測回数前の前記吊荷の重量との偏差とが予め設定
された所定値より小さいときに前記基準値を書き換える基準値設定手段を設け、前記バラ
ンサモード制御手段と前記サインモード制御手段と前記動作モード選択手段は、前記基準
値設定手段が設定した基準値を前記吊荷の重量として各種の処理を実行することを特徴と
している。
【0015】
請求項7の発明のウインチ制御装置では、前記吊荷の重量が予め設定された設置判定重
量より小さくなったときに前記吊荷が設置されたと判定する設置判定手段を設け、前記バ
ランサモード制御手段は、前記設置判定手段が設置を判定したときに、前記吊荷の重量の
変動量に拘らず前記吊荷の昇降を停止することを特徴としている。
【0016】
請求項8の発明のウインチ制御装置では、昇降中における前記吊荷の重量と現在から過
去所定計測回数分の前記吊荷の重量の移動平均値との偏差が予め設定された摩擦判定値よ
り大きくなったときに前記吊荷に摩擦が作用したと判定する摩擦判定手段を設け、前記バ
ランサモード制御手段は、前記摩擦判定手段が摩擦を判定したときに、前記吊荷の逆方向
への移動を禁止することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明のウインチ制御装置によれば、吊具が連結されたワイヤロープを巻き取
る巻取ドラムを駆動モータにより正逆回転可能とし、吊具に吊り下げられた吊荷の重量を
計測する吊荷重量計測手段を設け、この吊荷の重量の変動量に応じて巻取ドラムを正逆回
転させることで吊荷を昇降させるバランサモード制御手段と、吊荷の重量の変動回数に応
じて巻取ドラムを正逆回転させることで吊荷を昇降させるサインモード制御手段とを設け
ると共に、吊荷の重量の変動量及び変動回数に応じてバランサモード制御手段またはサイ
ンモード制御手段を選択する動作モード選択手段を設けたので、バランサモードでは、吊
荷の重量の変動量に応じて吊荷が昇降し、サインモードでは、吊荷の重量の変動回数に応
じて吊荷が昇降することとなり、吊荷の昇降作業の状況に応じて各モードを切替えること
で、吊荷の重量変化の要因を適正に判断し、吊荷の昇降作業を円滑に行って作業性を向上
することができる。
【0018】
請求項2の発明のウインチ制御装置によれば、バランサモード制御手段は、吊荷の重量
の変動量が第1所定値よりも増加したときに吊荷を下降させる一方、吊荷の重量が第1所
定値よりも減少したときに吊荷を上昇させるので、作業者は吊荷に対して移動したい方向
の操作力を付与するだけで、容易に吊荷を昇降することができる。
【0019】
請求項3の発明のウインチ制御装置によれば、バランサモード制御手段は、吊荷が下降
中または上昇中であるとき、吊荷の重量の変動量が第1所定値より大きい第2所定値より
も増加または減少したときに吊荷を停止させるので、吊荷の重量が大きく変動したときに
は、これを吊荷の設置や吊荷の異常等と判断して吊荷を停止することとなり、吊荷の急な
昇降を阻止して安全性を向上することができる。
【0020】
請求項4の発明のウインチ制御装置によれば、サインモード制御手段は、吊荷の重量の
変動回数が第2所定回数のときに吊荷を所定時間だけ上昇させ、吊荷の重量の変動回数が
第3所定回数のときに吊荷を連続して上昇させるので、操作者が吊荷に付与する外力の回
数に応じて吊荷の動作を選択することができ、作業性を向上することができる。
【0021】
請求項5の発明のウインチ制御装置によれば、所定時間内に吊荷の重量の変動量が最大
値を超えた回数が所定回数を超えたときに吊荷に対する外乱を判定する外乱検出手段を設
け、バランサモード制御手段は、この外乱を検出したときに、現在から過去所定計測回数
分の吊荷の重量の移動平均値を吊荷の重量として各種の処理を実行するので、外乱が発生
していないときは、迅速に高精度なデータ処理を行うことができる一方、外乱の発生時に
は、この外乱によるデータのバラツキを抑制して適正なデータ処理を行うことができ、外
乱による吊荷の異常動作の発生を防止することができる。
【0022】
請求項6の発明のウインチ制御装置によれば、現在から過去所定計測回数分の吊荷の重
量の移動平均値を基準値として設定すると共に、現在から過去所定計測回数分の吊荷の重
量の標準偏差と、現在と過去所定計測回数前の吊荷の重量との偏差とが予め設定された所
定値より小さいときに基準値を書き換える基準値設定手段を設け、バランサモード制御手
段とサインモード制御手段と動作モード選択手段は、この基準値を吊荷の重量として各種
の処理を実行するので、吊荷の昇降動作に応じて変動する吊荷の重量を最適化して基準値
として利用することで、高精度な制御を可能とすることができる。
【0023】
請求項7の発明のウインチ制御装置によれば、吊荷の重量が設置判定重量より小さくな
ったときに吊荷が設置されたと判定する設置判定手段を設け、バランサモード制御手段は
、吊荷が設置されたときに吊荷の重量の変動量に拘らず吊荷の昇降を停止するので、重量
の変動による吊荷の上昇動作を阻止し、吊荷を設置した後の作業を適正に行うことができ
る。
【0024】
請求項8の発明のウインチ制御装置によれば、昇降中における吊荷の重量と現在から過
去所定計測回数分の吊荷の重量の移動平均値との偏差が摩擦判定値より大きくなったとき
に吊荷に摩擦が作用したと判定する摩擦判定手段を設け、バランサモード制御手段は、吊
荷に摩擦が作用したときに吊荷の逆方向への移動を禁止するので、重量の変動による吊荷
の逆方向への移動動作を阻止し、吊荷に摩擦が作用した後の作業を適正に行うことができ
る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に添付図面を参照して、本発明に係るウインチ制御装置の好適な実施例を詳細に説
明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
図1は、本発明の一実施例に係るウインチ制御装置の概略構成図、図2は、本実施例の
ウインチ制御装置によるバランサ制御開始処理のフローチャート、図3は、本実施例のウ
インチ制御装置によるバランサ制御中処理のフローチャート、図4は、外乱検出処理のフ
ローチャート、図5は、外乱モード切替処理のフローチャート、図6は、重量物判定処理
のフローチャート、図7は、基準値設定処理のフローチャート、図8は、サイン検出処理
のフローチャート、図9は、サインモード処理のフローチャート、図10は、バランサモ
ード処理における動作開始のフローチャート、図11は、バランサモード処理における動
作停止のフローチャート、図12は、設置判定処理のフローチャート、図13は、摩擦判
定処理のフローチャートである。
【0027】
本実施例のウインチ制御装置において、高所作業車の後部には伸縮あるいは折り畳み可
能な複数のアームが連結され、その先端部に作業者が搭乗可能なバケットが連結され、こ
のバケットにウインチが装着されている。即ち、図1に示すように、図示しないアームの
先端部に連結された本体架台11には、旋回台12が水平旋回自在に支持されており、こ
の旋回台12にブラケット13を介して支持アーム14が装着され、この支持アーム14
の上部には支持筒15が固定され、この支持筒15にブーム16が移動自在に支持され、
支持筒15とブーム16との間に架設されたスライドジャッキ17により移動可能となっ
ている。
【0028】
ブーム16の基端部には基板18が固定されており、この基板18にはドラム支持台1
9が水平支持軸20により上下に回動自在に支持され、このドラム支持台19上に巻取ド
ラム21が回転自在に支持されており、駆動モータ22によりこの巻取ドラム21を正逆
回転可能となっている。ワイヤロープ23は基端部側が巻取ドラム21に巻き取られる一
方、先端部側がブーム16の先端部側に繰り出され、シーブ24を介して下方に垂下し、
先端部に吊具25が連結されている。そして、基板18の先端部に形成された連結部18
aとドラム支持台19の先端部に形成された支持部19aとの間に上下方向に沿って吊荷
重量計測手段としてのロードセル26が架設されている。このロードセル26は、基板1
8とドラム支持台19との間に作用する圧縮荷重を吊具25に吊り下げられた吊荷の重量
として計測する。このロードセル26は吊荷の重量を所定のサンプリング周期で計測し、
その計測結果を制御装置27に出力しており、この制御装置27は入力した吊荷の重量に
基いて駆動モータ22を駆動し、巻取ドラム21を正回転または逆回転させることでワイ
ヤロープ23を繰り出しまたは巻き取り、吊具25に吊り下げられた吊荷を昇降させる。
【0029】
この制御装置27は、後述するが、ロードセル26が計測した吊荷の重量の変動量に応
じて吊荷を昇降させるバランサモードを実行するバランサモード制御手段と、ロードセル
26が計測した吊荷の重量の変動回数(サイン回数)を検出するサイン検出手段と、この
サイン検出手段が検出したサイン回数に応じて吊荷を昇降させるサインモードを実行する
サインモード制御手段と、吊荷の重量の変動量及び変動回数に応じてバランサモード制御
手段またはサインモード制御手段を選択する動作モード選択手段とを有している。また、
制御装置27は、吊荷に外部から力が作用して外乱が発生したことを判定する外乱検出手
段と、ロードセル26が計測した吊荷の重量の変動量や変動回数を算出するためにロード
セル26が計測した吊荷の重量から基準値を算出して書き換える基準値設定手段と、吊荷
が重量物であるかどうかを判定する重量物判定手段と、吊荷が設置されたことを判定する
設置判定手段と、吊荷に摩擦が作用したことを判定する摩擦判定手段とを有している。
【0030】
なお、以下の説明では、本実施例のウインチ制御装置の作動中は、バランサ制御モード
となり、このバランサ制御モード中に、吊荷の重量の変動量や変動回数(サイン回数)が
入力されると、バランサモードまたはサインモードが開始されるものとする。
【0031】
ここで、上述した各手段の処理方法について説明する。なお、以下の説明にて、ロード
セル26は、所定のサンプリング周期(例えば、10ms)で吊荷の重量Wを計測している
が、ロードセルアンプなどの電気的なノイズ成分やブームなどの機械的なノイズ成分が含
まれており、荷重の瞬間的な変動が大きいため、サイン検出処理などのみに用いる。そし
て、その他の処理では、ロードセル26が計測した吊荷の重量Wを移動平均化処理したり
、また、この移動平均化処理したデータを更に平均して用いる。
【0032】
即ち、ロードセル26が計測した現在から過去500ms(データ数50点)分の吊荷の
重量Wを移動平均して求めたものを50点移動平均データWAV50として表す。この50点
移動平均データWAV50は、重量Wが平均化されるためにこの重量Wに比べてノイズ成分が
軽減され、上述した各種の処理では、基本的にこの50点平均データWAV50を使用してい
る。また、50点移動平均データWAV50を過去50点分平均して求めたものを50点平均
データWAV50-50として表し、50点移動平均データWAV50を過去100点分平均して求
めたものを100点平均データWAV50-100として表す。50点平均データWAV50-50及び
100点平均データWAV50-100は、若干応答遅れが発生するものの、より安定した波形が
得られ、バランサ制御や基準値設定処理などに使用している。
【0033】
まず、外乱検出手段による外乱検出処理及び外乱モード切替処理について説明する。外
乱検出処理において、図4に示すように、ステップS11にて、吊荷の重量Wの差分値Y
を下記数式により常時計算する。
Y=WAV50−WAV50-100
ステップS12では、50点移動平均データWAV50の波形と100点平均データWAV50
-100の波形との交点を求める。即ち、差分値Y=0となる時刻Tを求める。また、ステッ
プS13では、50点移動平均データWAV50の波形と100点平均データWAV50-100の波
形との次の交点、即ち、差分値Y=0となる時刻T1を求める。
【0034】
ステップS14では、時刻Tから時刻T1の間における差分値Yの最大値YMAXを求め
、ステップS15にて、時刻Tから時刻T1までの時間が0.5秒未満で、且つ、最大値
MAXが5kgより大きいかどうかを判定する。ここで、時刻Tから時刻T1までの時間が
0.5秒を経過していたり、最大値YMAXが5kg以下であるときには、ステップS16で
時刻Tを時刻T1としてステップS13に戻り、処理を繰り返す。一方、時刻Tから時刻
T1までの時間が0.5秒未満で、且つ、最大値YMAXが5kgを越えていたら、ステップ
S17で外乱カウンタのカウント数を1つ加算する。
【0035】
そして、ステップS18にて、外乱カウンタによるカウント開始(ステップS17)か
ら2秒以内かどうかを判定し、2秒を経過していればステップS19に移行し、ここで時
刻tにおける外乱の発生は無と出力する。一方、ステップS18にて、外乱カウンタによ
るカウント開始から2秒以内であればステップS20に移行し、ここで外乱カウンタのカ
ウント数が4であるかどうかを判定する。このステップS20にて、外乱カウンタのカウ
ント数が4でなければステップS13に戻り、処理を繰り返す。一方、ステップS20で
、外乱カウンタのカウント数が4であればステップS21に移行し、ここで時刻tにおけ
る外乱の発生は有と出力する。そして、ステップS22で外乱カウンタをクリアし、カウ
ント数を0とする。
【0036】
この外乱検出処理で外乱の発生の有無が判定されると、外乱モード切替処理を実行する
。この外乱モード切替処理にて、図5に示すように、ステップS31にて、外乱の有無を
判定し、外乱が無いと判定されたらステップS32に移行し、外乱モード中であるかどう
かを判定し、外乱モードでなければモード変更せずに現在のモードを継続し、外乱モード
中であればステップS33で外乱モードを終了する。一方、ステップS31にて、外乱が
有ると判定されたらステップS34に移行し、外乱モード中であるかどうかを判定し、外
乱モード中であればモード変更せずに現在のモードを継続し、外乱モード中でなければス
テップS35で外乱モードに変更する。
【0037】
次に、重量物判定手段による重量物判定処理において、図6に示すように、ステップS
41にて、ロードセル26の計測結果に基いて算出した50点移動平均データWAV50、つ
まり、吊荷の重量が100kgを超えているかどうかを判定する。ここで、50点移動平均
データWAV50が100kgを超えていればステップS42で重量物と判定し、50点移動平
均データWAV50が100kg以下であればステップS43で重量物でないと判定する。
【0038】
基準値設定手段による基準値設定処理において、図7に示すように、ステップS51に
て、外乱検出が有ったかどうか、または重量物検出が有ったかどうかを判定する。この場
合、外乱検出は前述した外乱検出処理の判定結果を用いて判定し、重量物判定は前述した
重量物判定処理の判定結果を用いて判定する。ここで、外乱検出無で、且つ、重量物検出
無と判定されると、ステップS52に移行し、ロードセル26の計測結果に基いて算出し
た50点移動平均データWAV50の過去50点(500ms)分の標準偏差を算出する。一方
、外乱検出有または重量物検出有と判定されると、ステップS53に移行し、ロードセル
26の計測結果に基いて算出した100点平均データWAV50-100の過去50点(500ms
)分の標準偏差を算出する。
【0039】
即ち、基本的には、電気的なノイズ成分や機械的なノイズ成分が除去された50点移動
平均データWAV50を用いて標準偏差を計算するが、この平均データWAV50であっても、低
周波数のノイズや高周波数における振幅の大きいノイズを完全に除去することはできない
。吊荷に外乱が生じていたり、吊荷が重量物であるとき、この低周波数のノイズや高周波
数における振幅の大きいノイズが多く発生することから、応答性は若干低下するものの、
これらのノイズを除去して安定した波形が得られる100点平均データWAV50-100を用い
て標準偏差を計算する。
【0040】
各ステップS52,53にて標準偏差が算出されると、ステップS54では、現在の1
00点平均データWAV50-100と、50点(500ms)前の100点平均データWAV50-100
との傾き(偏差)を算出する。そして、ステップS55にて、ステップS52,53で求
めた標準偏差が0.5kgより小さく、且つ、ステップS54で求めた傾きが±4kg/sより
小さいかどうかを判定する。即ち、吊荷の重量に大きなバラツキがあったり、吊荷の重量
に大きな変化量があったときには、判定の信頼度が低いとしてステップS51に戻って再
処理を実行する。一方、吊荷の重量に大きなバラツキがなく、変化量も少ないときは、判
定に十分な信頼度があるとして、ステップS56で摩擦判定を実行してから、ステップS
57で基準値を現在の50点移動平均データWAV50に書き換える。なお、ステップS56
で摩擦判定を実行するが、この処理は後述する摩擦判定処理(図13)の判定結果に基づ
くものであり、この処理が実行されていない初期状態では、摩擦判定無と設定されている
。一方、ステップS56にて、摩擦判定有と判定されていれば、基準値の書き換えを行わ
ずにステップS51に戻って再処理を実行する。
【0041】
サイン検出手段によるサイン検出処理において、図8に示すように、ステップS61に
て、吊荷の重量Wの差分値Yを下記数式により常時計算する。
Y=W−WAV50-100
ステップS62では、この差分値Yが10kgより大きくなる時刻Tを求め、ステップS
63では、この差分値Yが10kgより小さくなる時刻T1を求め、ステップS64にて、
時刻Tから時刻T1の間における差分値Yの最大値YMAXを求める。ステップS65では
、吊荷が重量物であるかどうか判定し、前述した重量物判定処理で重量物判定有であれば
、ステップS66で、ピーク閾値を基準値×0.15(kg)と設定し、重量物判定処理で
重量物判定無であれば、ステップS67で、ピーク閾値を20kgと設定する。
【0042】
ステップS68では、時刻Tから時刻T1までの時間が0.5秒未満で、且つ、最大値
MAXがピーク閾値より大きいかどうかを判定する。ここでは、作業者が所定時間内に意
識的に吊荷に対して力を1回から3回作用させるサイン動作を検出する。ここで、時刻T
から時刻T1までの時間が0.5秒を経過していたり、最大値YMAXがピーク閾値以下で
あるときには、ステップS62に戻って処理を繰り返す。一方、時刻Tから時刻T1まで
の時間が0.5秒未満で、且つ、最大値YMAXがピーク閾値を越えていたら、ステップS
69に移行し、現在のサインカウント数が0であるかどうかを判定し、サインカウント数
が0であればステップS70でサイン判定値Y0を最大値YMAXとし、ステップS71でサ
インカウンタのカウント数を1つ加算する。そして、ステップS72にて、サインカウン
タによるカウント開始(ステップS71)から1秒経過したかどうかを判定し、1秒以内
であればステップS62に戻って処理を繰り返す。
【0043】
一方、ステップS69にて、現在のサインカウント数が0でなければステップS73に
移行し、ここで、最大値YMAXがサイン判定値Y0×0.85より大きいかどうかを判定す
る。つまり、2回目以降のサイン動作の判定は、1回目に比べてピーク閾値を低下させて
判定する。ここで、最大値YMAXがサイン判定値Y0×0.85より大きくなければ、ステ
ップS62に戻って処理を繰り返し、最大値YMAXがサイン判定値Y0×0.85より大き
ければ、ステップS71でサインカウンタのカウント数を1つ加算する。そして、ステッ
プS72にて、前述と同様に、サインカウンタによるカウント開始から1秒経過したかど
うかを判定し、1秒以内であればステップS62に戻って処理を繰り返す。
【0044】
ここでの処理を具体的に説明すると、例えば、作業者が1秒以内に吊荷に力を2回作用
させるサイン動作を実行した場合、まず初めは、ステップS61〜S71の処理を連続的
に行うことで、サインカウント数を1とし、ステップS72の判定処理でステップS62
に戻る。そして、次に、ステップS62〜S69,S73,S71の処理を連続的に行う
ことで、サインカウント数を加算して2とする。そして、ステップS72の判定処理で、
サインカウンタによるカウント開始から1秒経過したら、作業者が実行したサイン動作の
カウント数が2回であると確定する。
【0045】
そのため、ステップS74にて、サインカウント数が3回以内であるかどうかを判定し
、サインカウント数が3回以内であったときは、ステップS75で、確定したサインカウ
ント数(1回〜3回)を出力し、ステップS76で、サインカウント数を0とする。一方
、ステップS74にて、サインカウント数が4回以上であったときは誤作動であると判定
し、ステップS77でサインカウント数を0とした後、ステップS62戻って処理を繰り
返す。
【0046】
サインモード制御手段によるサインモード処理において、図9に示すように、ステップ
S81では、前述したサイン検出処理で出力したサインカウント数の判定処理を行う。こ
こで、サインカウント数が1回(第1所定回数)であるとき、ステップS82で、バラン
サモードまたはサインモードで吊荷が動作中であるかどうかを判定し、動作中であれば、
ステップS83でこの吊荷の移動動作を停止する。一方、吊荷が動作中でなければ、ステ
ップS84でバランサ制御モードであるかどうかを判定する。ここで、バランサ制御モー
ドであれば、ステップS85でこのバランサ制御モードを終了し、バランサ制御モードで
なければ、ステップS86で何もせずに現在の状態を維持する。
【0047】
また、ステップS81で、サインカウント数が2回(第2所定回数)であるとき、ステ
ップS87で、バランサモードまたはサインモードで吊荷が動作中であるかどうかを判定
し、動作中であれば、ステップS88で何もせずに現在の状態を維持する。一方、吊荷が
動作中でなければ、ステップS89でバランサ制御モードであるかどうかを判定する。こ
こで、バランサ制御モードであれば、ステップS90に移行し、ここで、一定巻上げ、つ
まり、一定時間(7秒間)だけ吊荷を上昇させる。ステップS91では、サインが1回入
力されたかどうか、または、7秒が経過したかどうかを判定し、ここで、サインが1回入
力されるか、または、7秒が経過したら、ステップS92に移行して吊荷の動作を停止す
る。一方、ステップS89にて、バランサ制御モードになければ、ステップS93でこの
バランサ制御モードを開始する。
【0048】
また、ステップS81で、サインカウント数が3回であるとき、ステップS94で、バ
ランサモードまたはサインモードで吊荷が動作中であるかどうかを判定し、動作中であれ
ば、ステップS100で何もせずに現在の状態を維持する。一方、吊荷が動作中でなけれ
ば、ステップS95でバランサ制御モードであるかどうかを判定する。ここで、バランサ
制御モードであれば、ステップS96に移行し、バランサ制御モード動作中でなければ、
ステップS100で何もせずに現在の状態を維持する。ステップS96では、吊荷が重量
物であるかどうかを判定し、重量物であれば、ステップS100で何もせずに現在の状態
を維持し、重量物でなければ、ステップS97に移行し、ここで、連続巻上げ、つまり、
連続して吊荷を上昇させる。ステップS98では、サインが1回入力されたかどうか、ま
たは、差分値Y(ステップS61)が250kgを超えたかどうかを判定し、ここで、サイ
ンが1回入力されるか、または、差分値Yが250kgを超えたら、ステップS99に移行
して吊荷の動作を停止する。
【0049】
一方、バランサモード制御手段によるバランサモード開始処理において、図10に示す
ように、ステップS101にて、外乱検出が有ったかどうか、または重量物検出が有った
かどうかを判定する。この場合、外乱検出は前述した外乱検出処理の判定結果を用いて判
定し、重量物判定は前述した重量物判定処理の判定結果を用いて判定する。ここで、外乱
検出無で、且つ、重量物検出無と判定されると、ステップS102に移行し、ロードセル
26の計測結果に基いて下記数式を用いて吊荷の荷重変動分を算出する。
Y=50点移動平均データWAV50−基準値
一方、外乱検出有または重量物検出有と判定されると、ステップS103に移行し、ロ
ードセル26の計測結果に基いて下記数式を用いて吊荷の荷重変動分を算出する。
Y=100点平均データWAV50-100−基準値
【0050】
即ち、基本的には、電気的なノイズ成分や機械的なノイズ成分が除去された50点移動
平均データWAV50を用いて荷重変動分Yを計算するが、吊荷に外乱が生じていたり、吊荷
が重量物であるときは、低周波数のノイズや高周波数における振幅の大きいノイズを除去
して安定した波形が得られる100点平均データWAV50-100を用いて計算する。
【0051】
各ステップS102,103にて荷重変動分Yが算出されると、ステップS104では
、この荷重変動分Yが5kgより大きいかまたは−5kgより小さいかどうかを判定すると共
に、荷重変動分Yが基準値×0.6より小さいかどうかを判定する。ここで、荷重変動分
Yが5kgより大きいかまたは−5kgより小さく、且つ、荷重変動分Yが基準値×0.6よ
り小さいという条件が達成されなければ、ステップS105でタイマーカウンタを0とし
てステップS101戻り、処理を繰り返す。一方、荷重変動分Yが5kgより大きいかまた
は−5kgより小さく、且つ、荷重変動分Yが基準値×0.6より小さければ、ステップS
106に移行し、タイマーを作動させる。
【0052】
ステップS107では、このタイマーのカウント時間Tが0.5秒を経過したかどうか
を判定し、経過していなければ、ステップS101に戻って処理を繰り返す。一方、タイ
マーのカウント時間Tが0.5秒を経過していれば、ステップS108に移行する。つま
り、ステップS104の条件成立が0.5秒継続することで、前述した外乱検出処理にお
ける待ち時間(ステップS15)を超え、検出した荷重変動が外乱動作でないことを確認
している。そして、ステップS108で設置判定を実行し、ステップS109で、タイマ
ーカウントを0とする。なお、この設置判定の実行処理は後述する設置判定処理(図12
)の判定結果に基づくものであるが、この処理が実行されていない初期状態では、設置判
定無と設定されている。
【0053】
そして、ステップS110にて、荷重変動分Yが5kg(第1所定値)より大きいか、ま
たは−5kg(第1所定値)より小さいかどうかを判定する。ここで、荷重変動分Yが5kg
より大きければ、ステップS111にて、巻き上げ動作後であって、基準値が書き換えら
れていないかどうかを判定する。即ち、吊荷が上昇して停止した後に吊荷に下向きの荷重
が作用した場合、作業者が吊荷を下降させるために意図的に荷重を負荷した場合と、吊荷
が周辺部材に係止して下向きの荷重が作用した場合がある。後述するが、吊荷が停止した
場合、基本的には基準値を書き換えるが、摩擦判定が有と判定されたときには、基準値の
書き換えを実行しない。この点は、前述した基準値設定処理のステップS56で説明して
いる。従って、ステップS111にて、巻き上げ動作後であって基準値が書き換えられて
いないときには、摩擦により吊荷が停止した可能性が高いと判断し、何もしないでステッ
プS101に戻り、そうでない場合に、ステップS112で吊荷の巻下げ動作を開始する

【0054】
一方、ステップS110で、荷重変動分Yが5kgより小さければ、ステップS113に
て、巻き下げ動作後であって、基準値が書き換えられていないかどうかを判定する。即ち
、前述と同様に、吊荷が下降して停止した後に吊荷に上向きの荷重が作用した場合、作業
者が吊荷を上昇させるために意図的に荷重を負荷した場合と、吊荷が周辺部材に係止して
上向きの荷重が作用した場合がある。従って、ステップS113にて、巻き下げ動作後で
あって基準値が書き換えられていないときには、摩擦により吊荷が停止した可能性が高い
と判断し、何もしないでステップS101に戻り、そうでない場合に、ステップS114
で吊荷の巻上げ動作を開始する。
【0055】
即ち、ステップS110〜S114では、吊荷が上昇または下降中であるとき、この吊
荷に摩擦が作用して停止したと判断されたときには、吊荷の逆方向への移動を禁止してい
る。
【0056】
また、バランサモード制御手段によるバランサモード停止処理において、図11に示す
ように、ステップS121にて、外乱検出が有ったかどうか、または重量物検出が有った
かどうかを判定する。ここで、外乱検出無で、且つ、重量物検出無と判定されると、ステ
ップS122に移行し、ロードセル26の計測結果に基いて下記数式を用いて吊荷の荷重
変動分を算出する。
Y=50点平均データWAV50-50−基準値
一方、外乱検出有または重量物検出有と判定されると、ステップS123に移行し、ロ
ードセル26の計測結果に基いて下記数式を用いて吊荷の荷重変動分を算出する。
Y=100点平均データWAV50-100−基準値
【0057】
そして、ステップS124にて、吊荷が巻き上げ動作中であるか、巻下げ動作中である
かどうかを判定する。ここで、吊荷が巻き上げ動作中であれば、ステップS125で、荷
重変動分Yが−3kgより大きく、且つ、±20kg(第2所定値)より大きいかどうかを判
定する。即ち、巻き上げ動作中の吊荷に対して大きな荷重が作用したときには、ステップ
S129に移行して吊荷の動作を停止し、巻き上げ動作中の吊荷に対して大きな荷重が作
用しないときには、ステップS126に移行して吊荷の巻き上げ動作を継続する。一方、
ステップS124にて、吊荷が巻下げ動作中であれば、ステップS127で、荷重変動分
Yが3kgより小さく、且つ、±20kg(第2所定値)より大きいかどうかを判定する。即
ち、巻き下げ動作中の吊荷に対して大きな荷重が作用したときには、ステップS129に
移行して吊荷の動作を停止し、巻き下げ動作中の吊荷に対して大きな荷重が作用しないと
きには、ステップS128に移行して吊荷の巻き下げ動作を継続する。
【0058】
設置判定手段による設置判定処理において、図12に示すように、ステップS131に
て、基準値設定処理(図7参照)を実行し、ステップS132にて、重量物であると判定
され、且つ、基準値が40kg(設置判定重量)より小さいかどうかを判定する。ここで、
重量物であって基準値が40kgより小さければ、ステップS133で設置有り、つまり、
吊荷がどこかに置かれたものと判定する一方、重量物でなかったり、基準値が40kg以上
であれば、ステップS134で設置無と判定する。
【0059】
摩擦判定手段による摩擦判定処理において、図13に示すように、ステップS141に
て、動作中の吊荷のデータを取得し、吊荷の重量Wと50点移動平均データWAV50の差分
の平均値を算出し、ステップS142にて、バランサ動作を終了する。そして、ステップ
S143にて、算出した平均値が2.5kg(摩擦判定値)より大きいかどうかを判定し、
平均値が2.5kg以下であれば、ステップS148で摩擦無と判定する。一方、ステップ
S143で、平均値が2.5kgより大きければ、ステップS144で、吊荷が巻き上げ動
作中であるか、巻下げ動作中であるかどうかを判定する。ここで、吊荷が巻き上げ動作中
であれば、巻き上げ動作後にステップS145に移行し、基準値が50点移動平均データ
AV50より大きければ、ステップS147で摩擦有りと判定する一方、基準値が50点移
動平均データWAV50以下であれば、ステップS148で、摩擦無と判定する。また、ステ
ップS144で、吊荷が巻き下げ動作中であれば、巻き下げ動作後にステップS146に
移行し、基準値が50点移動平均データWAV50より小さければ、ステップS147で摩擦
有りと判定する一方、基準値が50点移動平均データWAV50以上であれば、ステップS1
48で、摩擦無と判定する。
【0060】
このように各手段の処理方法について詳細に説明したが、ここで、本実施例のウインチ
制御装置の全体の制御の流れについて説明する。
【0061】
本実施例のウインチ制御装置におけるバランサ制御の開始処理において、各アームを伸
張することでバケットを所定の高さまで移動し、その後、ウインチの吊具25により吊荷
を吊り上げる。この状態で、図2に示すように、ステップS201で外乱検出処理(図4
)を実行し、ステップS202で外乱モード切替処理(図5)を実行し、ステップS20
3で基準値設定処理(図7)を実行し、ステップS204で重量物判定処理(図6)を実
行する。
【0062】
そして、ステップS205にて、制御モードの切替判定(図8のサイン検出処理、図9
のサインモード処理)を行う。即ち、初期段階では、バランサ制御モードがOFF状態に
あり、サイン検出処理(図8)でサインカウント数が2回あったときに、ステップS20
6にて、バランサ制御モードを開始する。なお、この処理は、サインモード処理(図9)
におけるステップS81,S87,S89,S93の処理と同様である。
【0063】
バランサ制御モードが開始されると、バランサ制御中の処理において、図3に示すよう
に、ステップS301で外乱検出処理(図4)を実行し、ステップS302で外乱モード
切替処理(図5)を実行し、ステップS303で基準値設定処理(図7)を実行する。そ
して、ステップS304にて、吊荷に荷重変動があったかどうかを判定し、荷重変動があ
ったときには、ステップS305にて、動作モードを選択する。即ち、吊荷の荷重変動が
バランサモードを開始する条件に適合したもの、例えば、バランサモード処理におけるス
テップS104の条件が成立したら、ステップS306に移行し、吊荷の荷重変動がサイ
ンモードを開始する条件に適合したもの、例えば、サインモード処理におけるステップS
81のサインカウント数が2回または3回の条件として成立したら、ステップS308に
移行する。
【0064】
そして、ステップS306では、バランサモード処理(図10、図11)を実行し、続
いて、ステップS307では、バランサモード動作後に判定処理(図12の設置判定処理
、図13の摩擦判定処理)を実行する。一方、ステップS308では、サインモード処理
(図9)を実行する。
【0065】
具体的に説明すると、図1において、作業者が停止中の吊荷を下方に引いて下向きの荷
重を所定時間付与すると、ロードセル26が吊荷の重量の変動量を計測し、制御装置27
は、バランサモード処理を実行することで、駆動モータ22により巻取ドラム21を回転
し、ワイヤロープ23を介して吊荷を下降させることができる。この場合、作業者が下向
き荷重の付与をやめると、吊荷の重量の変動量が減少するため、吊荷の下降動作も停止す
る。また、吊荷が所定の位置に設置されたり、周辺部材に接触して摩擦が作用すると、吊
荷の重量の変動量が大きくなって吊荷が昇降する恐れがあるが、この場合、吊荷の重量変
動により設置判定処理が吊荷の設置を検出し、また、摩擦判定処理が吊荷の摩擦を検出す
ることで、吊荷の上昇または下降動作が禁止されることとなり、吊荷をその位置に停止す
ることができる。
【0066】
このような状況下で停止した場合、作業者は、停止中の吊荷に対して所定時間内に所定
回数だけ吊荷に外力を付与、つまり、サインを送ると、制御装置27は、ロードセル26
が計測した吊荷の重量の変動回数に基いてサインモード処理を実行することで、そのサイ
ン回数に応じて駆動モータ22により巻取ドラム21を回転し、ワイヤロープ23を介し
て吊荷を上昇させることができる。
【0067】
そして、図3に示すように、ステップS309にて、制御モードの切替判定(図8のサ
イン検出処理、図9のサインモード処理)を行う。即ち、バランサ制御モードがON状態
にあり、サイン検出処理(図8)でサインカウント数が1回あったときに、ステップS3
10にて、バランサ制御モードを終了する。なお、この処理は、サインモード処理(図9
)におけるステップS81,S82,S84,S85の処理と同様である。一方、ステッ
プS309にて、サイン1が入力されなければ、ステップS301に戻って、バランサ制
御モードが継続され、バランサモード処理またはサインモード処理が実行され、吊荷が所
定の位置に設置される。
【0068】
このように本実施例のウインチ制御装置にあっては、高所作業車におけるアームの先端
部に設けられた本体架台11にブーム16を連結し、このブームの基端部に固定された基
板18にドラム支持台19を水平支持軸20により回動自在に支持し、このドラム支持台
19上に巻取ドラム21を回転自在に支持して駆動モータ22により正逆回転可能とし、
ワイヤロープ23は基端部側を巻取ドラム21に巻き取る一方、先端部側をシーブ24を
介して垂下し、先端部に吊荷を吊り下げる吊具25を連結し、基板18の先端部とドラム
支持台19の先端部との間に吊荷重量計測手段としてのロードセル26を架設することで
ウインチを構成し、制御装置27はロードセル26の計測結果に基いて駆動モータ22を
駆動し、巻取ドラム21を正回転または逆回転させることでワイヤロープ23を繰り出し
または巻き取り、吊具25に吊り下げられた吊荷を昇降させるようにしている。
ている。
【0069】
従って、基板18とドラム支持台19との間にロードセル26を架設し、このロードセ
ル26の計測結果を吊荷の重量として処理することで、吊荷の重量を適正に計測すること
ができると共に、構造を簡素化することができる。
【0070】
そして、本実施例では、吊荷の重量の変動量に応じて巻取ドラム21を正逆回転させる
ことで吊荷を昇降させるバランサモードと、吊荷の重量の変動回数に応じて巻取ドラム2
1を正逆回転させることで吊荷を昇降させるサインモードとを有し、制御装置27は、吊
荷の重量の変動量及び変動回数に応じてバランサモードまたはサインモードを選択切替す
るようにしている。
【0071】
従って、バランサモードでは、吊荷の重量の変動量に応じて吊荷が昇降し、サインモー
ドでは、吊荷の重量の変動回数に応じて吊荷が昇降することとなり、吊荷の昇降作業の状
況に応じて各モードを切替えることで、吊荷の重量変化の要因を適正に判断し、吊荷の昇
降作業を円滑に行って作業性を向上することができる。
【0072】
この場合、制御装置27は、所定時間内における吊荷の重量の変動回数、つまり、サイ
ンが2回のときにバランサ制御モードを開始し、吊荷の重量の変動量が第1所定値(例え
ば、±5kg)より増減したときにバランサモードを選択する一方、所定時間内におけるサ
インが2回または3回のときにサインモードを選択し、また、所定時間内におけるサイン
が1回のときにバランサ制御モードを終了するようにしている。従って、バランサ制御モ
ードの開始及び終了、バランサモードとサインモードの切替を容易に、且つ、適正に行う
ことができる。
【0073】
なお、制御装置27は、サインが2回のときにバランサ制御モードを開始し、サインが
1回のときにバランサ制御モードを終了するようにしたが、別途、操作レバーを設けたり
、ウインチレバーを用いて、このレバー操作によりバランサ制御モードの開始や終了を実
行するようにしても良い。
【0074】
そして、バランサモードでは、吊荷の重量の変動量が、例えば、5kgよりも増加したと
きに吊荷を下降させる一方、吊荷の重量が、例えば、−5kgよりも減少したときに吊荷を
上昇させるようにしている。従って、作業者は吊荷に対して移動したい方向の操作力を付
与するだけで、容易に吊荷を昇降することができる。
【0075】
また、バランサモードでは、吊荷の下降中または上昇中に、この吊荷の重量の変動量が
比較的大きいときには吊荷を停止させるようにしている。即ち、吊荷の重量が設置判定重
量(例えば、40kg)より小さくなったときに吊荷が設置されたと判定する設置判定手段
を設け、制御装置27は、吊荷が設置されたときに、吊荷の重量の変動量に拘らずこの吊
荷の昇降を停止している。従って、設置が原因での重量の変動による吊荷の上昇動作を阻
止し、吊荷を設置した位置で停止してその後の作業を適正に行うことができる。
【0076】
また、昇降中における吊荷の現在と過去の重量の偏差が摩擦判定値(例えば、2.5kg
)より大きくなったときに吊荷に摩擦が作用したと判定する摩擦判定手段を設け、制御装
置27は、吊荷に摩擦が作用したときには、吊荷の逆方向への移動を禁止している。従っ
て、摩擦が原因での重量の変動による吊荷の上昇動作または下降動作を禁止し、吊荷を摩
擦が発生した位置で停止してその後の作業を適正に行うことができる。その結果、吊荷の
重量が大きく変動したときには、これを吊荷の設置や吊荷の異常等と判断して吊荷を停止
することとなり、吊荷の急な昇降を阻止して安全性を向上することができる。
【0077】
一方、サインモードでは、吊荷の重量の変動回数、つまり、サインが2回のときには吊
荷を所定時間だけ上昇させ、サインが3回のときには吊荷を連続して上昇させるようにし
ている。従って、操作者が吊荷に付与するサインの回数に応じて吊荷の動作を選択するこ
とができ、作業性を向上することができる。
【0078】
また、所定時間内における吊荷の重量の変動量の最大値を算出し、この最大値が所定値
、例えば、5kgを超えた回数が所定回数(例えば、4回)を超えたときに、吊荷に対して
外乱が発生したと判定する外乱検出手段を設け、制御装置27は、外乱が検出されなかっ
たときは、50点移動平均データWAV50から基準値を減算して吊荷の変化量を算出する一
方、外乱が検出されたときには、100点平均データWAV50-100から基準値を減算して吊
荷の変化量を算出している。従って、基本的には、電気的なノイズ成分や機械的なノイズ
成分が除去された50点移動平均データWAV50を用いて標準偏差を計算するが、吊荷に外
乱が生じていたり、吊荷が重量物であるときは、低周波数のノイズや高周波数における振
幅の大きいノイズを除去して安定した波形が得られる100点平均データWAV50-100を用
いて計算するようにしており、外乱によるデータのバラツキを抑制して適正なデータ処理
を行うことができ、外乱による吊荷の異常動作の発生を防止することができる。
【0079】
更に、現在から過去所定計測回数分の吊荷の重量の移動平均値を基準値として設定する
と共に、現在から過去所定計測回数分の吊荷の重量の標準偏差と、現在と過去所定計測回
数前の吊荷の重量との偏差とが予め設定された所定値より小さいときに基準値を書き換え
る基準値設定手段を設け、制御装置27は、この基準値に基いて各種の処理を実行するよ
うにしている。従って、吊荷の昇降動作に応じて変動する吊荷の重量を最適化して基準値
として利用することで、高精度な制御を可能とすることができる。
【0080】
なお、上述した実施例にて、本発明のウインチ制御装置を高所作業車に設けられたもの
として説明したが、適用範囲はこれに限らず、吊荷の昇降を行うウインチが装着可能なも
のであれば、いずれの装置でも良く、同様の作用効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係るウインチ制御装置は、吊荷の重量の変動量及び変動回数に応じてバランサ
モードまたはサインモードを選択切替可能としたものであり、いずれの装置に適用された
ウインチにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の一実施例に係るウインチ制御装置の概略構成図である。
【図2】本実施例のウインチ制御装置によるバランサ制御開始処理のフローチャートである。
【図3】本実施例のウインチ制御装置によるバランサ制御中処理のフローチャートである。
【図4】外乱検出処理のフローチャートである。
【図5】外乱モード処理のフローチャートである。
【図6】重量物判定処理のフローチャートである。
【図7】基準値設定処理のフローチャートである。
【図8】サイン検出処理のフローチャートである。
【図9】サインモード処理のフローチャートである。
【図10】バランサモード処理における動作開始のフローチャートである。
【図11】バランサモード処理における動作停止のフローチャートである。
【図12】設置判定処理のフローチャートである。
【図13】摩擦判定処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0083】
11 架台
16 ブーム
18 基板
19 ドラム支持台
20 水平支持軸
21 巻取ドラム
22 駆動モータ
23 ワイヤロープ
25 吊具
26 ロードセル(吊荷重量計測手段)
27 制御装置(バランサモード制御手段、サインモード制御手段、動作モード選択手
段、外乱検出手段、基準値設定手段、設置判定手段、摩擦判定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体架台と、該本体架台に回転自在に支持された巻取ドラムと、該巻取ドラムを正逆回
転可能な駆動モータと、基端部側が前記巻取ドラムに巻き取られて先端部に吊具が連結さ
れたワイヤロープと、前記吊具に吊り下げられた吊荷の重量を計測する吊荷重量計測手段
と、前記吊荷重量計測手段が計測した前記吊荷の重量の変動量に応じて前記駆動モータを
駆動して前記巻取ドラムを正逆回転させることで前記吊荷を昇降させるバランサモード制
御手段と、前記吊荷重量計測手段が計測した前記吊荷の重量の変動回数に応じて前記駆動
モータを駆動して前記巻取ドラムを正逆回転させることで前記吊荷を昇降させるサインモ
ード制御手段と、前記吊荷重量計測手段が計測した前記吊荷の重量の変動量及び変動回数
に応じて前記バランサモード制御手段または前記サインモード制御手段を選択する動作モ
ード選択手段とを具えたことを特徴とするウインチ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のウインチ制御装置において、前記バランサモード制御手段は、前記吊
荷の重量の変動量が予め設定された第1所定値よりも増加したときに前記吊荷を下降させ
る一方、前記吊荷の重量が前記第1所定値よりも減少したときに前記吊荷を上昇させるこ
とを特徴とするウインチ制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のウインチ制御装置において、前記バランサモード制御手段は、前記吊
荷が下降中または上昇中であるとき、前記吊荷の重量の変動量が前記第1所定値より大き
い第2所定値よりも増加または減少したときに前記吊荷を停止させることを特徴とするウ
インチ制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のウインチ制御装置において、前記サインモード制御手段は、所定時間
内における前記吊荷の重量の変動回数が予め設定された第2所定回数のときに前記吊荷を
予め設定された所定時間だけ上昇させ、所定時間内における前記吊荷の重量の変動回数が
予め設定された第3所定回数のときに前記吊荷を連続して上昇させることを特徴とするウ
インチ制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載のウインチ制御装置において、所定時間内に前記吊荷の重量の変動量が
予め設定された最大値を超えた回数が予め設定された所定回数を超えたときに前記吊荷に
外部から力が作用して外乱が発生したと判定する外乱検出手段を設け、前記バランサモー
ド制御手段は、前記外乱検出手段が外乱を検出したときに、現在から過去所定計測回数分
の前記吊荷の重量の移動平均値を前記吊荷の重量として各種の処理を実行することを特徴
とするウインチ制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載のウインチ制御装置において、現在から過去所定計測回数分の前記吊荷
の重量の移動平均値を基準値として設定すると共に、現在から過去所定計測回数分の前記
吊荷の重量の標準偏差と、現在と過去所定計測回数前の前記吊荷の重量との偏差とが予め
設定された所定値より小さいときに前記基準値を書き換える基準値設定手段を設け、前記
バランサモード制御手段と前記サインモード制御手段と前記動作モード選択手段は、前記
基準値設定手段が設定した基準値を前記吊荷の重量として各種の処理を実行することを特
徴とするウインチ制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載のウインチ制御装置において、前記吊荷の重量が予め設定された設置判
定重量より小さくなったときに前記吊荷が設置されたと判定する設置判定手段を設け、前
記バランサモード制御手段は、前記設置判定手段が設置を判定したときに、前記吊荷の重
量の変動量に拘らず前記吊荷の昇降を停止することを特徴とするウインチ制御装置。
【請求項8】
請求項1に記載のウインチ制御装置において、昇降中における前記吊荷の重量と現在か
ら過去所定計測回数分の前記吊荷の重量の移動平均値との偏差が予め設定された摩擦判定
値より大きくなったときに前記吊荷に摩擦が作用したと判定する摩擦判定手段を設け、前
記バランサモード制御手段は、前記摩擦判定手段が摩擦を判定したときに、前記吊荷の逆
方向への移動を禁止することを特徴とするウインチ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−321594(P2006−321594A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−145106(P2005−145106)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年1月18日 中部電力株式会社がインターネットアドレス(http://www.chuden.co.jp/torikumi/kenkyu/fr news112.html)にて発表
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000219820)株式会社トーエネック (51)