説明

ウインチ装置

【課題】ドラグトルクに対抗した十分なフリーフォール速度を得る。
【解決手段】ウインチドラム1と、減速機5を介してウインチドラム1を巻上/巻下駆動する巻上用油圧モータ2と、吊り荷の負荷によるフリーフォール時に、油が封入された空間内をウインチドラム1と一体に回転する回転体12を有し、この回転体12の回転を制動するブレーキ装置10と、フリーフォール時に回転体12の回転を許容し、フリーフォールの停止時に回転体12の回転を阻止するようにブレーキ装置10を制御するブレーキ制御装置21,22と、フリーフォール時に減速機5を介さずにウインチドラム1の回転をアシストするアシスト用モータ31とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊り荷のフリーフォールが可能なウインチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吊り荷のフリーフォール時に十分な制動力を得るものとして、湿式多板式ブレーキを有するウインチ装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この公報記載の装置では、フリーフォール時にウインチの回転駆動源としての油圧モータを巻下側に強制的に回転させることにより、油の粘性抵抗(ドラグトルク)によるフリーフォール速度の不足を解消するようにしている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−47717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の装置では、ウインチの回転駆動源としての油圧モータを強制的に回転させることによりフリーフォール速度を増速するので、単なる動力降下であり、十分なフリーフォール速度を得ることが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によるウインチ装置は、ウインチドラムと、減速機を介してウインチドラムを巻上/巻下駆動する巻上用油圧モータと、吊り荷の負荷によるフリーフォール時に、油が封入された空間内をウインチドラムと一体に回転する回転体を有し、この回転体の回転を制動するブレーキ装置と、フリーフォール時に回転体の回転を許容し、フリーフォールの停止時に回転体の回転を阻止するようにブレーキ装置を制御するブレーキ制御装置と、フリーフォール時に減速機を介さずにウインチドラムの回転をアシストするアシスト用モータとを備えることを特徴とする。
減速機を遊星減速機とし、ブレーキ装置を、遊星減速機構のキャリア軸に連結された回転可能なインナディスクに、アウタディスクを圧接してインナディスクの回転を制動する湿式多板式ブレーキとして構成することが好ましい。
フリーフォール時にのみウインチドラムの回転をアシストするようにアシスト用モータを制御することもできる。
フリーフォール時にウインチドラムの回転がアシスト用モータに伝達されることによるアシスト用モータの過回転を防止するように構成することもできる。
空間内の油温を検出し、検出された油温が低いほどアシスト量が多くなるようにアシスト用モータを制御することもできる。
ブレーキ装置によって作用する制動力を検出し、検出された制動力が大きいほどアシスト量が少なくなるようにアシスト用モータを制御することもできる。
アシスト用モータを、モータと発電機とに切換可能なモータ発電機として構成し、空間内の油温が所定値以上のとき、モータ発電機をモータから発電機に切り換えるようにすることもできる。
アシスト用モータを油圧モータとして構成し、この油圧モータを駆動する圧油を蓄積するアキュムレータをさらに備えることもできる。
この場合、回転中の前記回転体に対してブレーキ装置による制動力を作用させるときに、アシスト用油圧モータの吐出側の圧力を増加させる圧力増加手段と、この増加した圧力をアキュムレータに蓄圧する蓄圧制御手段とを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、フリーフォール時に、巻上用油圧モータに連結された減速機を介さずに、アシスト用モータを用いてウインチドラムの回転をアシストするようにしたので、ブレーキ装置のドラグトルクを打ち消して十分な速度で吊り荷をフリーフォールすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
−第1の実施の形態−
以下、図1を参照して本発明によるウインチ装置の第1の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るウインチ装置の構成を示す油圧回路図である。図1に示すようにウインチ装置は、ウインチドラム1と、ウインチドラム1を駆動する油圧モータ2と、油圧モータ2に駆動圧油を供給する油圧ポンプ3と、油圧ポンプ3から油圧モータ2への圧油の流れを制御する方向制御弁4と、油圧モータ2の駆動力をウインチドラム1に伝達する遊星減速機構5と、ウインチドラム1を制動するブレーキ装置10とを有する。制御弁4は操作レバー6の操作量に応じたパイロット圧により操作される。
【0008】
油圧モータ2の出力軸2aは遊星減速機構5のサンギア51に連結されている。サンギア51にはプラネタリギア52が噛合され、プラネタリギア52にはウインチドラム1の内周側に設けられたリングギア53が噛合されている。プラネタリギア52はキャリア軸54により支持され、キャリア軸54はブレーキケース11の側壁を貫通してケース11内に達している。
【0009】
ブレーキ装置10は湿式多板ブレーキである。ブレーキケース11内において、キャリア軸54には複数枚のインナディスク12がスプライン結合により軸方向に移動可能に係合され、インナディスク12はキャリア軸54と一体に回転可能となっている。ブレーキケース11の内周面には複数枚のアウタディスク13がスプライン結合により軸方向に移動可能に係合されている。アウタディスク13とインナディスク12は軸方向に交互に配置されている。
【0010】
最外部のディスク13の側方にはブレーキディスク14が配置されている。ブレーキディスク14にはブレーキシリンダ15に内蔵されたばね16により、ディスク12,13同士を圧接するよう付勢力が作用する。これによりインナディスク12の表面に摩擦力が作用し、インナディスク12の回転が阻止される。また、ブレーキディスク14には油室15aに圧油が供給されることにより、ばね16の付勢力に対抗した油圧力(ブレーキ解除圧)が作用する。これによりディスク12,13同士の圧接力が除去され、インナディスク12が回転可能となる。
【0011】
ブレーキケース11には給油孔11aおよび排油孔11bが設けられ、この給油孔11a、排油孔11bを介して油圧源20からの油がブレーキケース11内を油が流れ、ディスク12,13が冷却される。このような湿式多板ブレーキは、ディスク12,13の面積が大きいため、吊り荷のフリーフォール作業等において十分なブレーキ力を発揮することができるが、その反面、ディスク12,13間の油の粘性による回転抵抗が大きく、フリーフォール時の速度が不足しやすい。
【0012】
ブレーキシリンダ15の油室15aは電磁切換弁21およびブレーキ弁22を介してパイロットポンプ23に接続されている。ブレーキ弁22はブレーキペダル24により操作される。ブレーキペダル24の非操作時には、パイロットポンプ23からの圧油がブレーキ弁22を介して電磁切換弁21にそのまま導かれ、ブレーキペダル24の最大踏込時には、パイロットポンプ23から電磁切換弁21への圧油の供給がブレーキ弁22により遮断される。
【0013】
電磁切換弁21は図示しないフリーフォールスイッチの操作により切り換えられる。すなわちフリーフォールスイッチがオンされると位置aに切り換えられ、オフされると位置bに切り換えられる。電磁切換弁21が位置aに切り換わった状態では、パイロットポンプ23から油室15aに圧油が供給可能となり、位置bに切り換わった状態では、油室15aにタンク圧が作用する。
【0014】
インナディスク12の回転軸には油圧モータ31の出力軸が連結され、油圧モータ31にはフリーフォール速度を増速させるような油圧ポンプ32からの圧油による駆動トルクが作用している。油圧モータ31に作用する駆動トルクはリリーフ弁33により調整される。本実施の形態では、ディスク12,13間の油の粘性抵抗によって生じるトルク、すなわちドラグトルク相当の駆動トルク(例えば10kg・m程度)が作用するようにリリーフ弁33が設定されている。
【0015】
第1の実施の形態に係るウインチ装置の主要な動作を説明する。
(1)フリーフォールスイッチオフ
フリーフォールスイッチがオフのときは、図1に示すように、電磁切換弁21は位置bに切り換えられ、ブレーキシリンダ15の油室15aはタンクに連通する。この状態ではブレーキシリンダ15にブレーキ解除圧が作用しないため、ブレーキディスク14はばね16の付勢力によりディスク12,13側に押動される。これによりアウタディスク13とインナディスク12が互いに圧接され、インナディスク12の回転が阻止されて、ブレーキ作動状態となる。この状態をネガブレーキ作動状態とも呼ぶ。なお、インナディスク12には油圧モータ31の駆動トルクが作用しているが、この駆動トルクよりもばね16の付勢によるブレーキ力の方が大きいため、油圧モータ31は回転しない。
【0016】
このようにしてブレーキ装置10が作動すると、キャリア軸54の回転が阻止され、油圧モータ2の回転はサンギア51、プラネタリギア52、リングギア53を介してウインチドラム1に伝達可能となる。ここで、操作レバー6を巻上または巻下操作して方向切換弁4のパイロットポートにパイロット圧を作用させると、方向切換弁4が中立位置から巻上側または巻下側に切り換えられ、油圧モータ2が巻上または巻下方向に回転する。これにより、ウインチドラム1が巻上または巻下駆動され、吊り荷を昇降することができる。この場合、ウインチドラム1は、ブレーキ装置10とは別に設けられた不図示のブレーキ装置により停止される。
【0017】
(2)フリーフォールスイッチオン
操作レバー6を中立位置に操作して方向切換弁4を中立位置に切り換えると、油圧モータ2への圧油の供給が遮断され、油圧モータ2の回転が停止する。この状態でフリーフォールスイッチをオン操作すると、電磁切換弁21が位置aに切り換えられる。これによりパイロットポンプ23からの圧油がブレーキ弁22、電磁切換弁21を介してブレーキシリンダ15の油室15aに作用し、この油圧力(ブレーキ解除圧)によりばね16が縮退し、ブレーキディスク14はディスク12,13から離間する。その結果、ディスク12,13に作用する圧接力が除去され、インナディスク12は回転してブレーキ解除状態となる。この状態をフリーフォール状態とも呼ぶ。
【0018】
このようにしてブレーキ装置10が解除すると、キャリア軸54の回転が許容され、ウインチドラム1は吊り荷の負荷によって自由回転状態となり、吊り荷をフリーフォールすることができる。フリーフォール時にはキャリア軸54と一体になってインナディスク12が回転するが、インナディスク12には油圧モータ31による駆動トルクが作用し、ドラム1の回転がアシストされる。そのため、ディスク12,13間の油の粘性抵抗によるドラグトルクを打ち消すことができ、軽負荷の吊り荷であっても十分な速度でフリーフォールすることができ、作業効率が向上する。また、ハンマグラブやクラムシェルなどの掘削作業も良好に行うことができる。
【0019】
フリーフォール時にブレーキペダル24を踏み込み操作すると、その操作力の増加に伴い油室15aに作用する油圧力が減少し、ブレーキディスク14がディスク12,13側に付勢される。これによりウインチドラム1に作用するブレーキ力が増加し、吊り荷のフリーフォールを停止することができる。
【0020】
このように第1の実施の形態によれば、インナディスク12の回転軸に油圧モータ31を連結し、フリーフォール時のドラグトルクに対抗した駆動トルクを油圧モータ31に付与するようにしたので、十分な速度で吊り荷をフリーフォールすることができ、作業性が高まる。すなわちウインチ駆動用の油圧モータ2とは別に、ドラグトルクを打ち消すための専用のモータ32を設けるので、モータ32の出力が遊星減速機構5を介さずに、つまり遊星減速機構5により減速されずにドラム1に伝達され、十分なフリーフォール速度を得ることができる。また、フリーフォール時に油圧モータ2の回転数を高める必要がないので、エンジン回転数をむやみに上げる必要がなく、燃費の悪化および騒音の増大を防止できる。
【0021】
−第2の実施の形態−
図2を参照して本発明によるウインチ装置の第2の実施の形態について説明する。
図2は、本発明の第2の実施の形態に係るウインチ装置の構成を示す油圧回路図である。なお、図1と同一の箇所には同一の符号を付し、以下では第1の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0022】
図2に示すように油圧モータ31の出口ポートはチェック弁35を介して入口ポート側に接続されるとともに、チェック弁36を介してブレーキケース11の給油孔11aに接続されている。これによりモータ31を流れた油はチェック弁36を介してブレーキケース11内に冷却油として導かれ、ディスク12,13を冷却する。そのためブレーキケース11に冷却油を流すための油圧源(図1の20)が不要となる。また、モータ31から流出した油の一部をチェック弁35を介してモータ31に戻すことができるので、モータ31が高速で回転した際のキャビテーションを防止できる。
【0023】
−第3の実施の形態−
図3を参照して本発明によるウインチ装置の第3の実施の形態について説明する。
図3は、本発明の第3の実施の形態に係るウインチ装置の構成を示す油圧回路図である。なお、図1と同一の箇所には同一の符号を付し、以下では第1の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0024】
図3に示すようにリリーフ弁33のベントポートには電磁弁37を介してタンクが接続され、いわゆる無負荷回路が形成されている。電磁弁37は電磁切換弁21に連動して切り換わる。すなわちフリーフォールスイッチのオンにより電磁切換弁21が位置aに切り換わると電磁弁37も位置aに切り換わる。これによりリリーフ弁33のベントポートがタンクからブロックされる。その結果、第1の実施の形態と同様、油圧モータ31にはリリーフ弁33で調整された油圧ポンプ32からの駆動トルクが作用し、油圧モータ31からのアシスト力を受けて吊り荷をフリーフォールすることができる。
【0025】
一方、フリーフォールスイッチのオフにより電磁切換弁21が位置bに切り換わると電磁弁37も位置bに切り換わる。これによりリリーフ弁33のベントポートがタンクと連通し、ポンプ32はアンロードする。このため巻上時や巻下時等、インナディスク12の回転が停止している時には油圧モータ31に油圧ポンプ32からの駆動トルクが作用せず、動力損失を低減し、経済的な運転が可能となる。
【0026】
−第4の実施の形態−
図4を参照して本発明によるウインチ装置の第4の実施の形態について説明する。
図4は、本発明の第4の実施の形態に係るウインチ装置の構成を示す油圧回路図である。なお、図1と同一の箇所には同一の符号を付し、以下では第1の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0027】
図4に示すように油圧モータ31の出力軸とインナディスク12の回転軸はワンウェイクラッチ38を介して連結されている。ワンウェイクラッチ38は、油圧モータ31に対するインナディスク12の一方向(フリーフォール方向)への相対回転を許容し、反対方向への相対回転を禁止するものである。これによりフリーフォール時にインナディスク12が油圧モータ31よりも速く回転することができる。その結果、ドラム1が高速でフリーフォール回転した場合に、そのドラム1の回転がキャリア軸54,インナディスク12を介して油圧モータ31に伝達されることによる、油圧モータ31の過回転を防止することができる。
【0028】
−第5の実施の形態−
図5を参照して本発明によるウインチ装置の第5の実施の形態について説明する。
図5は、本発明の第5の実施の形態に係るウインチ装置の構成を示す油圧回路図である。なお、図1と同一の箇所には同一の符号を付し、以下では第1の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0029】
図5に示すように油圧ポンプ32にはリリーフ弁33の代わりに電磁式可変リリーフ弁42が接続されている。ブレーキケース11内の冷却油の温度は、その流出側管路に設けられた油温センサ41により検出され、検出信号はコントローラ40に入力される。コントローラ40には予め油温が高くなるほどリリーフ圧が小さくなるような関係が記憶され、この関係に基づきコントローラ40は可変リリーフ弁42のリリーフ圧を制御する。これにより油温が低いと油圧モータ31の駆動トルクが大きくなり、油温が高いと駆動トルクは小さくなる。
【0030】
ディスク12に作用するドラグトルクの大きさは、油温に応じて変化する。すなわち油温が低いと油の粘性が高くなってドラグトルクが大きくなり、油温が高いとドラグトルクは小さくなる。この点を考慮して本実施の形態では、油温が低いほど油圧モータ31の駆動トルクを大きくするので、モータ駆動トルクを過不足なく付与することができ、ドラグトルクを適切に打ち消すことができる。
【0031】
−第6の実施の形態−
図6を参照して本発明によるウインチ装置の第6の実施の形態について説明する。
図6は、本発明の第6の実施の形態に係るウインチ装置の構成を示す油圧回路図である。なお、図1と同一の箇所には同一の符号を付し、以下では第1の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0032】
図6に示すようにブレーキシリンダ15のピストンの両側にはそれぞれ油室15a,15bが設けられ、油室15aは電磁切換弁21を介してパイロットポンプ23に接続され、油室15bはブレーキ弁22を介してパイロットポンプ23に接続されている。フリーフォールスイッチのオフにより電磁切換弁21が位置bに切り換えられた状態では、ブレーキディスクがばね16によりディスク12,13側に付勢され、ブレーキ作動状態(ネガブレーキが作動状態)となる。
【0033】
一方、フリーフォールスイッチのオンにより電磁切換弁21が位置aに切り換えられた状態では、油室15aに作用するパイロットポンプ23からの油圧力によりばね16の付勢力に抗してブレーキディスク14がディスク12,13の反対側に押動され、フリーフォール状態となる。フリーフォール状態においてブレーキペダル24を操作すると、その操作量に応じたパイロットポンプ23からの油圧力がブレーキ弁22を介して油室15bに作用し、ペダル操作によりドラム1の回転を停止できる。
【0034】
第6の実施の形態では、インナディスク12の回転軸に油圧モータ31の代わりに電動モータ71が連結され、電動モータ71によりフリーフォール時のドラグトルクが打ち消される。油室15bに作用する油圧力、すなわちフリーフォール時のブレーキ力は圧力センサ72により検出され、この圧力センサ72からの信号はコントローラ70に入力される。コントローラ70はフリーフォールスイッチのオンオフを判定し、フリーフォールスイッチのオン時には圧力センサ72の検出値に応じて電動モータ71に制御信号を出力する。すなわち圧力検出値が大きいほどフリーフォール時のドラム1の回転のアシスト量が少なくなるように電動モータ71を制御する。
【0035】
例えばブレーキペダル24が非操作時には圧力検出値が小さいため、コントローラ70はドラグトルクを打ち消すように電動モータ71を駆動する。これにより十分な速度で吊り荷をフリーフォールすることができる。一方、ブレーキペダル24の最大踏み込み時には圧力検出値が大きいため、コントローラ70は電動モータ71の駆動を停止する。これによりディスク12,13間のドラグトルクが打ち消されずに残るため、その分だけペダル操作によるブレーキ力を低減できる。なお、フリーフォールスイッチのオフ時にもコントローラ70は電動モータ71の駆動を停止する。これにより動力損失を低減できる。
【0036】
−第7の実施の形態−
図7を参照して本発明によるウインチ装置の第7の実施の形態について説明する。
図7は、本発明の第7の実施の形態に係るウインチ装置の構成を示す油圧回路図である。なお、図6と同一の箇所には同一の符号を付し、以下では第6の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0037】
図7に示すようにインナディスク12の回転軸には電動モータ71の代わりにモータ発電機75が連結されている。コントローラ70には、圧力センサ72からの信号と、ブレーキケース11内の冷却油の温度を検出する油温センサ77からの信号が入力され、これらセンサ72,77からの信号に基づきモータ発電機75を制御する。
【0038】
例えばブレーキペダル24を非操作(圧力検出値が小)で吊り荷をフリーフォールをしているときは、モータ発電機75をモータとして作用させる。これによりドラグトルクが打ち消され、十分な速度で吊り荷をフリーフォールすることができる。一方、フリーフォール時にブレーキペダル24が踏み込まれると(圧力検出値が大)、モータ発電機75を発電機として作用させる。これによりモータ発電機75によってフリーフォールの回転を止めるような制動力が作用するとともに、吊り荷の位置エネルギをモータ発電機75により電力として回収することができる。このとき得られた電力はバッテリ76に蓄電され、バッテリ76の電力を用いてモータ発電機75を駆動することができる。
【0039】
この場合、コントローラ70は、圧力検出値が所定値P以上のときにモータ発電機75をモータから発電機に切り換えるが、この所定値Pは油温に応じて変更する。すなわち油温が低いと油の粘性が大きく、ドラグトルクが大きいため、油温が高いときよりも、所定値Pを大きく設定する。これにより油温が低いときはモータ発電機75のモータから発電機への切換のタイミングが遅くなり、ドラグトルクを適切に打ち消すことができる。
【0040】
なお、冷却油温に応じてモータ発電機75を切り換えることもできる。例えば冷却油温が所定値T以上のときにモータ発電機75をモータから発電機に切り換えるようにしてもよい。この場合、圧力センサ72による検出値に応じて所定値Tを設定してもよい。すなわち圧力検出値が大きいほど所定値Tを小さく設定し、モータ発電機75を速く発電機に切り換えるようにしてもよい。
【0041】
−第8の実施の形態−
図8,9を参照して本発明によるウインチ装置の第8の実施の形態について説明する。
図8は、本発明の第8の実施の形態に係るウインチ装置の構成を示す油圧回路図である。なお、図1と同一の箇所には同一の符号を付し、以下では第1の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0042】
図8に示すようにブレーキシリンダ15の油室15aは電磁切換弁21およびブレーキ弁22を介してパイロットポンプ23に接続されている。油圧モータ31の吸込ポート31aは油圧切換弁81を介してアキュムレータ83に接続されるとともに、チェック弁86を介してタンクに接続されている。油圧モータ31の吐出ポート31bは油圧切換弁82を介してリリーフ弁84またはタンクに接続されている。油圧切換弁82とリリーフ弁84の間の管路はチェック弁85を介してアキュムレータ83に接続され、油圧切換弁82を通過した圧油がアキュムレータ83に蓄圧可能となっている。
【0043】
油圧切換弁81,82のパイロットポートは電磁切換弁21と油室15aとを接続する管路に接続され、パイロットポンプ23からのパイロット圧により油圧切換弁81,82は位置bから位置a側に切り換わる。油圧切換弁81が位置aに切り換わると油圧モータ31の吸込ポート31aがアキュムレータ83に連通し、位置bに切り換わるとアキュムレータ83から遮断する。油圧切換弁82が位置aに切り換わると油圧モータ31の吐出ポート31bがリリーフ弁84に連通し、位置bに切り換わるとタンクに連通する。ここで、後述するように油圧切換弁82は油圧切換弁81よりも小さなパイロット圧により位置aに切り換わり、油圧切換弁82が位置aに切り換わった後に油圧切換弁81が位置aに切り換わるように油圧切換弁81,82の弁特性が設定されている。
【0044】
第8の実施の形態に係るウインチ装置の主要な動作を説明する。
方向切換弁4を中立位置に操作した状態で、フリーフォールスイッチのオンにより電磁切換弁21を位置aに切り換え、ブレーキペダル24を非操作する。これにより油室15aにブレーキ解除圧が作用してブレーキが解除され、吊り荷がフリーフォールを開始し、キャリア軸54と一体にインナディスク12が回転する。このとき油圧切換弁81,82の各パイロットポートにはそれぞれパイロットポンプ23からの最大パイロット圧が作用するため、油圧切換弁81,82はそれぞれ位置aに切り換わる。
【0045】
この切換により、予めアキュムレータ83に蓄圧された圧油は電磁切換弁81を介して油圧モータ31に供給され、油圧モータ31から吐出された圧油は油圧切換弁82を介してタンクに戻される。このため、油圧モータ31にはアキュムレータ83からの蓄圧油による駆動トルクが作用し、フリーフォール時のドラム1の回転がアシストされ、ディスク12,13間の油の粘性抵抗によるドラグトルクを打ち消すことができる。
【0046】
フリーフォール時にブレーキペダル24を操作すると、油室15aに作用するブレーキ解除圧が減少し、ネガブレーキの作動によりドラム1の回転を停止することができる。このときの動作を図9により説明する。図9(a)に示すように、ブレーキ解除圧はブレーキペダル24の操作量sの増加(s1<s2<s3<s4)に伴い減少し、これに伴い油圧切換弁81,82に作用するパイロット圧も減少する。
【0047】
図9(b)に示すように、油圧切換弁82はブレーキペダル24の操作量sが所定値s1以上になると位置b側に切り換わり始め、所定値s2以上で位置bに完全に切り換わる。このとき油圧切換弁81は位置aに切り換わったままであり、油圧切換弁82を通過した圧油はチェック弁85,油圧切換弁81,油圧モータ31を循環し、油圧モータ31はフリー回転する。このため、ブレーキペダル24の操作開始時に油圧モータ31はドラム1の回転に対する大きな抵抗とならず、油圧モータ31によるブレーキトルクは小さい。
【0048】
ブレーキペダル24の操作量sが所定値s3以上になると、図9(c)に示すように油圧切換弁81は位置b側に切り換わり始め、所定値s4以上で位置bに完全に切り換わる。これによりアクチュエータ83と油圧モータ31の吸込ポート31aの連通が遮断され、油圧モータ31のポンプ作用によりチェック弁86を介して圧油が吸い込まれ、アキュムレータ83にリリーフ弁84によって規定されたリリー圧が作用する。
【0049】
このため、フリーフォール時に消費した蓄圧油を再びアキュムレータ83に蓄圧することができ、次回のフリーフォール時にこのアキュムレータ83の蓄圧油を用いて油圧モータ31を駆動し、ドラム1の回転をアシストすることができる。また、ブレーキペダル24の操作量が大きい場合には、油圧切換弁82の切換により油圧モータ31にリリーフ圧が作用するため、ドラム1の回転に対する油圧モータ31によるブレーキトルクが大きくなり、ドラム1に作用するブレーキ力を増加することができる。
【0050】
このように第8の実施の形態によれば、油圧モータ31の駆動回路にアキュムレータ83を設け、アキュムレータ31からの蓄圧油により油圧モータ31に駆動トルクを作用するようにしたので、専用の油圧ポンプを設ける必要がなく、構成を簡素化できる。また、フリーフォール中の吊り荷を停止する際に、油圧切換弁82の切換により発生したリリーフ弁84のリリーフ圧をアキュムレータ83に作用するようにしたので、吊り荷の位置エネルギがアキュムレータ33に回収され、エネルギ効率が高い。
【0051】
ブレーキペダル24の操作量sが小さい領域(s<s3)では油圧切換弁81のみを切り換えて油圧モータ31を自由回転状態とし、操作量sが大きい領域(s>s3)では油圧切換弁81,82を切り換えて油圧モータ31にポンプ作用させるようにした。これにより、ペダル操作量sが大きいほど、ドラム1の回転を停止させるような油圧モータ31によるブレーキトルクが大きくなり、操作量sが大きい領域でブレーキ力が大きく増加し、良好なブレーキ特性を得ることができる。
【0052】
なお、リリーフ弁84の代わりに電磁比例リリーフ弁を用いてもよい。この場合、吊り荷の重量,吊り荷の降下速度,アキュムレータ83の残圧,ブレーキペダル24の操作量,ブレーキペダル24の踏力等を検出し、この検出値に応じてリリーフ圧を制御することができる。例えば吊り荷の重量が重いほど、リリーフ圧を大きくすることができる。これにより吊り荷が重いほど、油圧モータ31による大きなブレーキトルクが作用し、ドラム1を容易に停止することができる。
【0053】
以上の実施の形態では、インナディスク12にアシスト用のモータ31,71,75を連結したが、アシスト用モータを他の場所に設けてもよい。例えば図10に示すようにウインチドラム1に設けたギア部1aに回転可能なギア39を噛合し、このギア39を介して油圧モータ31の駆動トルクをドラム1に伝達するようにしてもよい。この場合も、サンギア51,プラネタリギア52,リングギア53からなる遊星減速機構5を介さずにドラム1の回転がアシストされるため、ドラグトルクを打ち消して十分な速度で吊り荷をフローフォールすることができる。
【0054】
フリーフォールスイッチのオンによりフリーフォールを指令し、フリーフォールスイッチのオフあるいはブレーキペダル24の操作によりフリーフォールの停止を指令するようにしたが、これ以外の操作により指令してもよい。上記実施の形態では、湿式多板式ブレーキを用いたが、他のブレーキ装置を用いてもよい。したがって、回転体もインナディスク12に限らない。油が封入された空間内に回転体を回転可能に収容するブレーキケース11の構成も上述したものに限らない。油圧モータ2の駆動力を遊星減速機構5を介してウインチドラム1に伝達するようにしたが、他の減速機を介して伝達するようにしてもよい。電磁切換弁21の切換とブレーキ弁22の作動によりブレーキ装置10を制御するようにしたが、ブレーキ制御装置の構成はこれに限らない。
【0055】
上記実施の形態では電磁弁37の切換によりフリーフォール時にのみウインチドラムの回転をアシストするようにしたが(図3)、アシスト制御手段の構成はこれに限らない。インナディスク12と油圧モータ31をワンウェイクラッチ38を介して連結し、油圧モータ31の過回転を防止するようにしたが(図4)、過回転防止手段の構成はこれに限らない。ブレーキケース11からの冷却油の流出側管路に油温センサ41を設けるようにしたが(図5)、油温検出手段の構成はこれに限らない。また、検出された油温が低いほど可変リリーフ弁42のリリーフ圧を大きくして、ドラム1の回転のためのアシスト量を多くしたが、アシスト制御手段の構成はこれに限らない。
【0056】
圧力センサ72によりフリーフォール時の制動力を検出したが(図6)、制動検出手段の構成はこれに限らない。また、検出された制動力に応じて電動モータ71を制御し、制動力が大きいほどドラム1の回転のためのアシスト量を少なくしたが、アシスト制御手段の構成はこれに限らない。油温センサ77により検出された油温が所定値以上のときにモータ発電機75をモータから発電機に切り換えるようにしたが(図7)、切換手段の構成はこれに限らない。
【0057】
油圧モータ31の吸込ポート31aに油圧切換弁81を介してアキュムレータ83を接続したが(図8)、アキュムレータ83から発生した駆動圧により油圧モータ31を駆動するのであれば、油圧回路の構成は上述したものに限らない。圧力増加手段としてのリリーフ弁84により油圧モータ31の吐出側の圧力を増加させるとともに、蓄圧制御手段としての油圧切換弁81の切換によりアキュムレータ83に蓄圧するようにしたが、油圧回路の構成はこれに限らない。
【0058】
すなわち、本発明の特徴、機能を実現できる限り、本発明は実施の形態のウインチ装置に限定されない。なお、以上の説明はあくまで一例であり、発明を解釈する際、上記実施形態の記載事項と特許請求の範囲の記載事項の対応関係になんら限定も拘束もされない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るウインチ装置の構成を示す油圧回路図。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係るウインチ装置の構成を示す油圧回路図。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係るウインチ装置の構成を示す油圧回路図。
【図4】本発明の第4の実施の形態に係るウインチ装置の構成を示す油圧回路図。
【図5】本発明の第5の実施の形態に係るウインチ装置の構成を示す油圧回路図。
【図6】本発明の第6の実施の形態に係るウインチ装置の構成を示す油圧回路図。
【図7】本発明の第7の実施の形態に係るウインチ装置の構成を示す油圧回路図。
【図8】本発明の第8の実施の形態に係るウインチ装置の構成を示す油圧回路図。
【図9】本発明の第8の実施の形態に係るウインチ装置の動作特性を示す図。
【図10】本発明の変形例を示す油圧回路図。
【符号の説明】
【0060】
1 ウインチドラム
2 油圧モータ
5 遊星減速機構
10 ブレーキ装置
21 電磁切換弁
24 ブレーキペダル
31 油圧モータ
37 電磁弁
38 ワンウェイクラッチ
40 コントローラ
41 油温センサ
42 可変リリーフ弁
70 コントローラ
71 電動モータ
72 圧力センサ
75 モータ発電機
77 油温センサ
81,82 油圧切換弁
83 アキュムレータ
84 リリーフ弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウインチドラムと、
減速機を介して前記ウインチドラムを巻上/巻下駆動する巻上用油圧モータと、
吊り荷の負荷によるフリーフォール時に、油が封入された空間内をウインチドラムと一体に回転する回転体を有し、この回転体の回転を制動するブレーキ装置と、
フリーフォール時に前記回転体の回転を許容し、フリーフォールの停止時に前記回転体の回転を阻止するように前記ブレーキ装置を制御するブレーキ制御装置と、
フリーフォール時に前記減速機を介さずに前記ウインチドラムの回転をアシストするアシスト用モータとを備えることを特徴とするウインチ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のウインチ装置において、
前記減速機は遊星減速機であり、
前記ブレーキ装置は、前記遊星減速機構のキャリア軸に連結された回転可能なインナディスクに、アウタディスクを圧接してインナディスクの回転を制動する湿式多板式ブレーキであることを特徴とするウインチ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のウインチ装置において、
フリーフォール時にのみ前記ウインチドラムの回転をアシストするように前記アシスト用モータを制御するアシスト制御手段を有することを特徴とするウインチ装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載のウインチ装置において、
フリーフォール時に前記ウインチドラムの回転が前記アシスト用モータに伝達されることによる前記アシスト用モータの過回転を防止する過回転防止手段を有することを特徴とするウインチ装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載のウインチ装置において、
前記空間内の油温を検出する油温検出手段と、
検出された油温が低いほどアシスト量が多くなるように前記アシスト用モータを制御するアシスト制御手段とを有することを特徴とするウインチ装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載のウインチ装置において、
前記ブレーキ装置によって作用する制動力を検出する制動検出手段と、
前記制動検出手段により検出された制動力が大きいほどアシスト量が少なくなるように前記アシスト用モータを制御するアシスト制御手段とを有することを特徴とするウインチ装置。
【請求項7】
請求項1または2に記載のウインチ装置において、
前記アシスト用モータは、モータと発電機とに切換可能なモータ発電機であり、
前記空間内の油温を検出する油温検出手段と、
検出された油温が所定値以上のとき、前記モータ発電機をモータから発電機に切り換える切換手段とを有することを特徴とするウインチ装置。
【請求項8】
請求項1または2に記載のウインチ装置において、
前記アシスト用モータは油圧モータであり、この油圧モータを駆動する圧油を蓄積するアキュムレータをさらに備えることを特徴とするウインチ装置。
【請求項9】
請求項8に記載のウインチ装置において、
回転中の前記回転体に対して前記ブレーキ装置による制動力を作用させるときに、前記アシスト用油圧モータの吐出側の圧力を増加させる圧力増加手段と、
この増加した圧力を前記アキュムレータに蓄圧する蓄圧制御手段とを備えることを特徴とするウインチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−131454(P2007−131454A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−17359(P2006−17359)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【出願人】(503032946)日立住友重機械建機クレーン株式会社 (104)