説明

ウェーブ型培養装置

【課題】従来よりも、培養液を適切な温度に制御することができるウェーブ型培養装置を提供すること目的とする。
【解決手段】ウェーブ型培養装置が、培養容器が載置された培養台をシーソー運動させるウェーブ型培養装置であって、培養台の複数個所に培養容器に接するように各々配置された温度計と、温度計の測定値に基づいて培養容器の温度を制御する温度制御手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シーソー運動で揺動で培養容器の中の培養液を攪拌するとともに酸素供給及び炭酸ガス供給あるいは除去を行うウェーブ型培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動物細胞、昆虫細胞等を大量に培養する装置としては通気装置及び/又は攪拌機を備えると共にガラス或いは金属製の竪型円筒構造である培養槽を用いた培養装置が使用されていた。このような培養装置では、攪拌機の攪拌翼の回転で対流が生じ、また、通気装置のみの場合は、槽内の気泡の上昇によって培養液を均一に混合するとともに、培養液に供給される気泡を通して酸素の供給及び炭酸ガスの供給あるいは除去を行う。
そして、近年、コスト低減、操作性の向上、コンタミネーションの低減を主たる目的として、ウェーブ型培養装置が使用されるようになっている。ウェーブ型培養槽とは、シーソー運動で培養液が入った枕形状のビニール袋等の培養容器を揺動させることで、培養液に供給された栄養源等を混合するとともに液表面から酸素の供給及び炭酸ガスの供給あるいは除去を行うものである。
【0003】
このウェーブ型培養槽は、培養可能な液量範囲が広いことが特徴のひとつである。その為、竪型円筒構造培養槽を使用する場合は複数の培養槽を必要としたプロセスでも、ひとつの培養槽でプロセスを構築できるという大きなメリットがある。なお、この際、増殖可能な最少細胞濃度があるため、培養開始時の細胞濃度を一定以上とする必要がある。
このウェーブ型培養装置については、下記特許文献1、非特許文献1、非特許文献2及び非特許文献3に開示されている、
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−540323号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ザルトリウス(株) 「シングルユース培養装置 バイオスタットカルチバックRM20/50製品仕様書」
【非特許文献2】ザルトリウス(株) 「バイオスタットカルチバック RM20/50ベイシック‐操作マニュアル‐」
【非特許文献3】GEヘルスケアバイオサイエンス(株) 「GROWCELLS CELLCULTURE WAVEBIOREACTOR」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来技術のウェーブ型培養装置は、構造的に、液量が多いときと比較して、培養液の液量が少ない状態で培養する場合の温度制御の性能が悪くなってしまう。これは、ウェーブ型培養装置では、培養容器の培養液の温度を培養容器の中央部に外接するように取り付けられた温度計で測定しているが、シーソー運動中に培養液が培養容器の端に寄ってしまい、特に培養液の量が少ない場合に、培養容器内の培養液の温度ではなく、培養容器内の気体の温度を測定してしまうからである。そして、このように測定した温度に基づいて温度制御を行うと、当然、適切な温度制御ができない。この結果、ウェーブ型培養装置では、培養液の液量が多いときと少ないときとで、培養温度制御値の上限、下限が異なってしまい、特に温度に敏感な培養ではその生産性に差が出てしまう。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、従来よりも培養液を適切な温度に制御することができるウェーブ型培養装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、ウェーブ型培養装置に係る第1の解決手段として、培養容器が載置された培養台をシーソー運動させるウェーブ型培養装置であって、前記培養台の複数個所に前記培養容器に接するように各々配置された温度計と、前記温度計の測定値に基づいて前記培養容器の温度を制御する温度制御手段とを具備するという手段を採用する。
【0009】
本発明では、ウェーブ型培養装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記温度計が、前記培養台の両端及び中央に接するように配置されるという手段を採用する。
【0010】
本発明では、ウェーブ型培養装置に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、前記温度制御手段は、前記各温度計の測定値の平均値を算出し、当該平均値に基づいて培養液の温度を制御するという手段を採用する。
【0011】
本発明では、ウェーブ型培養装置に係る第4の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、前記温度制御手段は、前記培養容器内の培養液と対峙する温度計を前記培養台の運動角度に応じて選択し、当該選択した温度計の測定値に基づいて培養液の温度を制御するという手段を採用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ウェーブ型培養装置が、培養容器が載置された培養台をシーソー運動させるウェーブ型培養装置であって、培養台の複数個所に培養容器に接するように各々配置された温度計と、温度計の測定値に基づいて培養容器の温度を制御する温度制御手段とを具備する。
これにより、ウェーブ型培養装置では、従来の1個の温度計が培養容器の中央に配置されていたものと比較して、シーソー運動時に培養液が寄った状態でも、いずれかの温度計が培養容器内の培養液に対峙することができる為、培養液の液量が少なくても培養液の温度を正確に測定することができる。そして、ウェーブ型培養装置では、温度制御手段が、これら温度計の測定結果に基づいて培養液をより適切な温度に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るウェーブ型培養装置Aの外観を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るウェーブ型培養装置Aの培養台2の斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るウェーブ型培養装置Aの培養台2に配置された温度計2bの正面断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るウェーブ型培養装置Aの培養台2のシーソー運動を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。本実施形態は、シーソー運動で培養液が入った培養容器を揺動することで培養液を攪拌するウェーブ型培養装置に関する。
【0015】
まず、本実施形態に係るウェーブ型培養装置Aの概略構成について、図1を参照して、説明する。図1は、本実施形態に係るウェーブ型培養装置Aの外観を示す斜視図である。ウェーブ型培養装置Aは、例えば医薬用抗体の生成に用いられるものであり、微生物、動/植物細胞を用いることによって、細胞の培養を行うものである。すなわち、このウェーブ型培養装置Aは、培養液L中に酸素を供給しつつ、当該溶存酸素及び栄養素などを均一に混合させて、さらに炭酸ガスの供給あるいは除去を行いながら細胞の培養を行うものである。
【0016】
このようなウェーブ型培養装置Aは、図1に示すように、培養容器1、培養台2、駆動部3、コントローラ4、吸気チューブ5及び排気チューブ6を備えている。
培養容器1は、ポリプロピレンまたはポリエチレン等のプラスチック部材からなるビニール袋であり、内部に培養液Lを貯留する。この培養容器1は、枕形状であることが好ましいが、他の形状であってもよく、使用者の要求に応じて適宜寸法を変えることができる。このような培養容器1は、使い捨て可能であり、産業上の利用において生産コストを低減させるのに優れている。
【0017】
そして、培養容器1には、図1に示すように、吸気チューブ5及び排気チューブ6が接続され、吸気チューブ5を介して酸素及び炭酸ガスが供給されると共に排気チューブ6を介して内部の不要なガスが排出される。また、培養容器1は培養台2に着脱可能であり、培養容器1が培養台2に固定された状態で培養台2がシーソー運動すると、内部の培養液Lに波が生じる。そして、培養容器1内の培養液Lは、当該波で攪拌されて酸素及び炭酸ガスが供給または除去されるとともに、栄養素が均一に混合される。なお、上記培養液Lとは、培養対象となる細胞と共に当該細胞を培養する上で必要となる栄養源等を含むものである。
【0018】
次に、培養台2について、図2を参照して、説明する。図2は、本実施形態に係るウェーブ型培養装置Aの培養台2の斜視図である。
培養台2は、コントローラ4の制御の下、左右にシーソー運動することで自身に固定された培養容器1の培養液Lに波を生じさせ、当該培養液Lを攪拌する。
【0019】
そして、培養台2には、図2に示すように、ヒータ2aが埋め込まれ、温度計2bが配置される。図3は、本実施形態に係るウェーブ型培養装置Aの培養台2に配置された温度計2bの正面断面図(図1の正面方向の断面図)である。
ヒータ2aは、図2に示すように、培養台2の内部の一面に埋め込まれ、コントローラ4の制御の下、培養容器1を下から温めることで培養液Lを培養に最適な温度に制御する。
【0020】
温度計2bは、図2に示すように、培養容器1の両端及び中央に接するように培養台2の両端及び中央の合計3箇所に配置される。この温度計2bは、図3に示すように、その中央に温度センサ2b‐1を備えており、温度センサ2b‐1で培養容器1を介して培養液Lの温度を測定する。
【0021】
温度センサ2b‐1は、測定した温度を示す温度検出信号をコントローラ4に出力する。そして、温度センサ2b‐1は、温度計2bの下方に埋め込まれたヒータ2aの熱の直接的な影響を受けないように、その下側に断熱材が取り付けられている。
そして、コントローラ4は、温度センサ2b‐1から入力される温度検出信号に基づいて培養液Lの温度を判断し、培養液Lが適切な温度になるようにヒータ2aの温度を制御する。
【0022】
駆動部3は、コントローラ4の制御の下、扇形を描きながら左右に振動する。駆動部3がこの左右振動を繰り返すことで、培養台2は連続的にシーソー運動させる。
コントローラ4は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等から構成される制御回路及び操作表示部等を備えており、上記ROMに記憶されている制御プログラム、温度計2bの温度センサ2b‐1から入力される温度検出信号及び操作表示部が受け付ける操作指示に基づいて、ウェーブ型培養装置Aの全体の動作を制御するものである。
【0023】
上記操作表示部は、タッチパネルから構成されており、各種画面を表示すると共に操作指示を受け付ける操作ボタンを表示する。なお、コントローラ4の動作の詳細については、以下にウェーブ型培養装置Aの動作として説明する。
なお、ヒータ2a及びコントローラ4が、本実施形態の温度制御手段を構成する。
【0024】
吸気チューブ5は、培養容器1の上側に取り付けられており、培養容器1の中に酸素を供給する。また、排気チューブ6は、吸気チューブ5に並ぶように培養容器1の上側に取り付けられており、培養容器1の中の不要になったガスを外部に排出する。そして、これら吸気チューブ5及び排気チューブ6には、例えば0.22μmフィルタが取り付けられており、このフィルタで通過するガスに含まれる汚染物質等を除去する。
【0025】
次に、このように構成された本実施形態に係るウェーブ型培養装置Aの動作について、図4を参照して、詳しく説明する。図4は、本実施形態に係るウェーブ型培養装置Aの培養台2のシーソー運動を示す正面図である。なお、図4の太矢印は、培養台2の移動方向を示す。
まず、培養しようとするユーザは、ウェーブ型培養装置Aのコントローラ4の操作表示部の培養開始ボタンを押下する。
【0026】
そして、コントローラ4は、培養開始ボタンの押下で操作表示部が培養開始指示を受け付けると、培養台2のシーソー運動を駆動部3に開始させる。培養台2は、シーソー運動を開始すると、図4の(a)と(b)との動作を繰り返す、すなわち、駆動部3を中心に左右にシーソー運動する。このように培養台2の両端が交互に持ち上げられることで、培養容器1内の培養液Lに、図4の(a)及び(b)のような波が生じて、攪拌される。
【0027】
そして、コントローラ4は、培養台2のシーソー運動の開始と共に、培養容器1をヒータ2aに加熱させ、培養液Lの温度の測定を温度計2bに開始させる。
ウェーブ型培養装置Aでは、培養台2が左右にシーソー運動すると、図4の(a)及び(b)のように片方に培養液Lが寄った状態になるが、温度計2bが培養容器1の両端及び中央に接するように配置されている為、温度計2bは常に培養容器内の培養液Lに対峙する。
【0028】
コントローラ4は、温度計2bから温度検出信号が入力されると、3個の温度計2bの温度検出信号に基づいて、各温度計2bの測定値の平均値を算出する。そして、コントローラ4は、当該平均値を培養容器1を培養液Lの温度として、培養液Lが予め設定された温度になるようにヒータ2aに加熱させる。
【0029】
以上のような本実施形態に係るウェーブ型培養装置Aでは、温度計2bを培養容器1の両端及び中央に接するように培養台2に配置され、コントローラ4が、これら温度計2bの測定値の平均値を算出し、当該平均値を培養液Lの温度として、ヒータ2aの温度を制御する。
【0030】
これにより、従来の1個の温度計2bが培養容器1の中央に配置されていたものと比較して、シーソー運動時に図4の(a)及び(b)のように片方に培養液Lが寄った状態でも、3個のいずれかの温度計2bが培養容器1内の培養液Lに対峙することができる為、培養液Lの液量が少なくても培養液Lの温度を正確に測定することができる。そして、ウェーブ型培養装置Aでは、コントローラ4が、これら温度計2bの測定値に基づいて測定値の平均値を算出し、当該平均値に基づいてヒータ2aを制御することで、培養液をより適切な温度に制御することができる。
【0031】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、例えば以下のような変形が考えられる。
(1)上記実施形態では、コントローラ4が、3個の温度計2bの測定値の平均値を算出し、当該平均値に基づいて、ヒータ2aを制御したが、本発明はこれに限定されない。
【0032】
例えば、培養台2のシーソー運動時、培養台2の運動角度から培養容器1の中の培養液Lの偏りは推定できる為、コントローラ4が、培養台2の運動角度に応じて培養容器1内の培養液Lに対峙している温度計2bを選択し、当該選択した温度計2bの測定値を培養液Lの温度として、ヒータ2aを制御するようにしてもよい。すなわち、コントローラ4が、培養台2の運動角度に応じて培養液Lの温度を測定する温度計2bを切り替えるようにしてもよい。
【0033】
(2)上記実施形態では、3個の温度計2bが、培養容器1の両端及び中央に配置されていたが、本発明はこれに限定されない。
【0034】
例えば、温度計2bの数を3個に限定されず、さらに温度計2bを2個追加して、両端と中央とのそれぞれの間に温度計2bを配置するようにしてもよい。また、培養容器1の中央に配置される温度計2bを取り外し、コントローラ4が、培養容器1の両端の温度計2bの測定結果に基づいて、ヒータ2aを制御するようにしてもよい。すなわち、本発明は、少なくても2つ以上の温度計2bが接するように配置されていればよい。
【符号の説明】
【0035】
A…ウェーブ型培養装置、1…培養容器、2…培養台、2a…ヒータ、2b…温度計、3…駆動部、4…コントローラ、5…吸気チューブ、6…排気チューブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養容器が載置された培養台をシーソー運動させるウェーブ型培養装置であって、
前記培養台の複数個所に前記培養容器に接するように各々配置された温度計と、
前記温度計の測定値に基づいて前記培養容器の温度を制御する温度制御手段とを具備することを特徴とするウェーブ型培養装置。
【請求項2】
前記温度計が、前記培養台の両端及び中央に接するように配置されることを特徴とする請求項1に記載のウェーブ型培養装置。
【請求項3】
前記温度制御手段は、前記各温度計の測定値の平均値を算出し、当該平均値に基づいて培養液の温度を制御することを特徴とする請求項1または2に記載のウェーブ型培養装置。
【請求項4】
前記温度制御手段は、前記培養容器内の培養液と対峙する温度計を前記培養台の運動角度に応じて選択し、当該選択した温度計の測定値に基づいて培養液の温度を制御する請求項1または2に記載のウェーブ型培養装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−152077(P2011−152077A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15843(P2010−15843)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】