説明

ウエブ部材の鉄筋固定構造、およびウエブ部材の施工方法

【課題】PCaPCウエブ部材の製作コストの高騰を招くことなく、製作時における型枠工が簡易で、運搬時に支障をきたすことのないウエブ部材の鉄筋固定構造、およびこのようなPCaPCウエブ部材を用いた施工方法を提供する。
【解決手段】プレキャストプレストレストコンクリートからなるウエブ部材10に設けられた貫通孔10a内に、床版との結合部に床版と結合する構造用連結鉄筋20を現場で挿通してウエブ部材10から突出させ、構造用連結鉄筋20が挿通された貫通孔10a内に充填硬化剤を充填して構造用連結鉄筋20をウエブ部材10に固定し、ウエブ部材10から突出させて固定された構造用連結鉄筋20を床版鉄筋と結合し、床版コンクリート30を打設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋体のプレキャストプレストレストコンクリート(以下、PCaPCと称する)ウエブ部材における構造用連結鉄筋の固定構造、およびこのようなPCaPCウエブ部材を用いた施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、PCaPCをウエブ部材として用いることによって、場所打ちコンクリートをウエブ部材として用いるよりも上部構造物自重が軽量化された、新たな構造形式の橋梁が開発され実用化されている。
【0003】
ウエブ部材としてPCaPCを用いれば、下部構造物の小型化が可能であり、工費が縮減される。また、橋台や橋脚などの下部構造物の構築と同時並行的に上部構造物の橋体を製作することができるため短工期で長大な橋梁の建設が可能となる。さらに、設備の整った工場または現場隣接製作ヤードで高品質なPCaPCウエブ部材が得られることなどの利点もある。
【0004】
このような構造形式の橋梁で、床版を場所打ちコンクリートとする場合、PCaPCウエブ部材の場所打ち床版との接合部分において、PCaPCウエブ部材から構造用連結鉄筋を突出させ、床版を形成する場所打ちコンクリートにその接合部分を埋設することによって、床版とPCaPCウエブ部材とが確実に一体化される。
【0005】
ここで、構造用連結鉄筋をPCaPCウエブ部材に固定する構造として、工場や現場隣接製作ヤードにおけるPCaPCウエブ部材の製作時に、構造用連結鉄筋を配置した上でPCaPCウエブ部材を製作することによって構造用連結鉄筋を固定する構造がある。
【0006】
ところが、この構造では、配置した構造用連結鉄筋を突出させた状態でPCaPCウエブ部材を製作することとなるため、PCaPCウエブ部材の型枠工が煩雑となる。また、製作されたPCaPCウエブ部材から構造用連結鉄筋が突出することとなるため、PCaPCウエブ部材の運搬に支障をきたす。
【0007】
このような問題点に対処する構造用連結鉄筋の固定構造として、PCaPCウエブ部材内鉄筋の端部に圧着された、例えばFDグリップ(株式会社富士ボルト製作所の商品名)のような機械継手が、そのウエブ部材の製作時に埋め込まれるように配置され、その機械継手を介して構造用連結鉄筋をPCaPCウエブ部材に現場で固定して突出させる構造が知られている(例えば、特許文献1参照。)。このような構造とすれば、PCaPCウエブ部材の製作時や運搬時に、PCaPCウエブ部材から構造用連結鉄筋が突出することが回避され、製作時における型枠工の煩雑さや、運搬時に支障をきたすことが解消される。
【特許文献1】特許第3442319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、機械継手を用いて構造用連結鉄筋をPCaPCウエブ部材に固定する構造では、そのウエブ部材から突出させる構造用連結鉄筋の本数分の多数の機械継手を用いることとなるため、PCaPCウエブ部材の製作コストの高騰を招く。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、PCaPCウエブ部材の製作コストの高騰を招くことなく、製作時における型枠工が簡易で、運搬時に支障をきたすことのないウエブ部材の鉄筋固定構造、およびこのようなPCaPCウエブ部材を用いた施工方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明のウエブ部材の鉄筋固定構造は、橋体のPCaPCウエブ部材において、床版との結合部に床版と結合する構造用連結鉄筋を挿通固定する貫通孔を設けたことを特徴とする。
【0011】
本発明のウエブ部材の鉄筋固定構造は、上記構造用連結鉄筋を挿通固定する貫通孔を設けた構造であるため、構造用連結鉄筋をPCaPCウエブ部材から突出させるための機械継手を多数配置した従来の構造に比して、PCaPCウエブ部材の製作コストの高騰を招くことが回避される。また、本発明のウエブ部材の鉄筋固定構造は、上記構造用連結鉄筋を上記貫通孔内に現場で挿通固定することによって構造用連結鉄筋を突出させる構造であるため、PCaPCウエブ部材の製作時における型枠工が簡易で、運搬時に支障をきたすことがない。
【0012】
尚、上記貫通孔は、PCaPCウエブ部材の製作時にシースなどの管を埋設して形成したものであってもよく、あるいは、PCaPCウエブ部材の製作後にドリル等を用いて形成したものであってもよい。
【0013】
ここで、上記本発明のウエブ部材の鉄筋固定構造は、上記貫通孔と部材端面との間に構造用連結鉄筋を孔軸直角方向から挿入するスリットを設けたことが好ましい。
【0014】
このような好ましい形態によれば、例えば上記構造用連結鉄筋が湾曲形状のものであっても、構造用連結鉄筋を容易に貫通孔内に配置することができる。
【0015】
また、上記目的を達成する本発明のウエブ部材の施工方法は、本発明のウエブ部材を用い、上記貫通孔内に構造用連結鉄筋を挿通し、この構造用連結鉄筋を床版鉄筋と結合し、床版コンクリートを打設することを特徴とする。
【0016】
本発明のウエブ部材の施工方法は、本発明のウエブ部材を用いる施工方法であるため、上述した本発明のウエブ部材の鉄筋固定構造の利点と同様に、PCaPCウエブ部材の製作コストの高騰を招くことなく、製作時における型枠工が簡易で、運搬時に支障をきたすことがない。
【0017】
また、本発明のウエブ部材の施工方法は、上記貫通孔内に構造用連結鉄筋を挿通することによって突出させ、突出させた構造用連結鉄筋を床版鉄筋と結合して床版コンクリートを打設する方法であるため、現場での鉄筋組み立ての作業性が良好である。
【0018】
尚、本発明のウエブ部材の施工方法は、本発明のウエブ部材を用いる施工方法であれば、上床版との結合にも下床版との結合にも適用することができる。
【0019】
ここで、上記本発明のウエブ部材の施工方法は、上記構造用連結鉄筋を上記貫通孔内に挿通後、この貫通孔内に充填硬化剤を充填して構造用連結鉄筋をウエブ部材に固定した後、床版コンクリートを打設してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のウエブ部材の鉄筋固定構造によれば、構造用連結鉄筋をPCaPCウエブ部材から突出させるための機械継手を多数配置した従来の構造に比して、PCaPCウエブ部材の製作コストの高騰を招くことが回避される。また、本発明のウエブ部材の鉄筋固定構造によれば、PCaPCウエブ部材の製作時における型枠工が簡易で、運搬時に支障をきたすことがない。
【0021】
また、本発明のウエブ部材の施工方法は、本発明のウエブ部材を用いる施工方法であるため、PCaPCウエブ部材の製作コストの高騰を招くことなく、製作時における型枠工が簡易で、運搬時に支障をきたすことがない。また、本発明のウエブ部材の施工方法によれば、現場での鉄筋組み立ての作業性が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0023】
図1は、本発明のウエブ部材の鉄筋固定構造についての第1実施形態を示すウエブ部材10の外観斜視図である。
【0024】
図1に示すウエブ部材10は、工場または現場隣接製作ヤードで製作されたプレキャストプレストレストコンクリートからなる、橋体のPCaPCウエブ部材である。
【0025】
図1に示すように、ウエブ部材10には、床版との結合部に床版と結合する構造用連結鉄筋を挿通固定する貫通孔10aが設けられている。尚、この貫通孔10aは、ウエブ部材10の製作時にシースなどの管を埋設して形成したものであってもよく、あるいは、ウエブ部材10の製作後にドリル等を用いて形成したものであってもよい。
【0026】
このような貫通孔10aが設けられたウエブ部材10の鉄筋固定構造によれば、構造用連結鉄筋をPCaPCウエブ部材から突出させるための機械継手を多数配置した従来の構造に比して、ウエブ部材10の製作コストの高騰を招くことが回避される。
【0027】
また、この鉄筋固定構造は、構造用連結鉄筋を貫通孔10a内に現場で挿通固定することによって構造用連結鉄筋を突出させる構造であるため、ウエブ部材10の製作時における型枠工が簡易で、運搬時に支障をきたすことがない。
【0028】
次に、本発明のウエブ部材の施工方法についての第1実施形態を説明する。尚、この第1実施形態は、図1を参照して説明したウエブ部材10を用いる施工方法である。
【0029】
図2は、本発明のウエブ部材の施工方法についての第1実施形態における構造用連結鉄筋挿通工程を示す外観斜視図である。
【0030】
まず、図2に示すように、ウエブ部材10に設けられた貫通孔10a内に、床版との結合部に床版と結合する構造用連結鉄筋20を現場で挿通してウエブ部材10から突出させる。
【0031】
次に、構造用連結鉄筋20が挿通された貫通孔10a内に例えば無収縮モルタル等の充填硬化剤を充填して構造用連結鉄筋20をウエブ部材10に固定する。
【0032】
図2に示すように、ウエブ部材10の一側面側を下面にして貫通孔10a内に充填硬化剤を充填すれば、充填作業を効率良くかつ確実に行うことができる。但し、貫通孔10a内に充填硬化剤を確実に充填できれば、充填時のウエブ部材10の姿勢は図2に示す姿勢に限られるものではない。
【0033】
図3は、本発明のウエブ部材の施工方法についての第1実施形態における床版コンクリート打設工程を示す外観斜視図である。また、図4は、上床版コンクリート打設工程を経て施工された橋体100の縦断面図であり、図5は、図4の線A−Aに沿った横断面図である。
【0034】
ウエブ部材10から突出させて固定された構造用連結鉄筋20を床版鉄筋と結合し、図3に示すように、床版コンクリート30を打設する。
【0035】
図4には、ウエブ部材10と、ウエブ部材10の上部から構造用連結鉄筋20を突出させて固定した接合部分を埋設してウエブ部材10と一体化された上床版31と、ウエブ部材10の上部から突出させた構造用連結鉄筋21を埋設してウエブ部材10と一体化された下床版32とを有する橋体100が示されている。また、図4,図5に示すように、ウエブ部材10には、PC鋼材11が緊張されプレストレスが導入されている。また、プレストレス導入効率改善のために圧着グリップ12が配置される場合がある。
【0036】
本発明のウエブ部材の施工方法についての第1実施形態は、図1を参照して説明したウエブ部材10を用いる施工方法であるため、上述したウエブ部材10の鉄筋固定構造の利点と同様に、ウエブ部材10の製作コストの高騰を招くことなく、製作時における型枠工が簡易で、運搬時に支障をきたすことがない。
【0037】
また、この第1実施形態の施工方法は、貫通孔10a内に構造用連結鉄筋20を挿通することによって突出させ、突出させた構造用連結鉄筋20を床版鉄筋と結合して床版コンクリート30を打設する方法であるため、現場での鉄筋組み立ての作業性が良好である。
【0038】
次に、本発明のウエブ部材の鉄筋固定構造についての第2実施形態を説明する。
【0039】
図6は、本発明のウエブ部材の鉄筋固定構造についての第2実施形態を示すウエブ部材40の外観斜視図である。
【0040】
図1に示すウエブ部材40は、工場または現場隣接製作ヤードで製作されたプレキャストプレストレストコンクリートからなる、橋体のPCaPCウエブ部材である。
【0041】
図1に示すように、ウエブ部材40には、床版との結合部に床版と結合する構造用連結鉄筋を挿通固定する貫通孔40aが設けられている。また、この貫通孔40aと部材端面40bとの間に構造用連結鉄筋を孔軸直角方向から挿入するスリット40cが設けられている。
【0042】
このような貫通孔40aおよびスリット40cが設けられたウエブ部材40の鉄筋固定構造によれば、例えば構造用連結鉄筋が湾曲形状のものであっても、構造用連結鉄筋を容易に貫通孔40a内に配置することができる。
【0043】
次に、本発明のウエブ部材の施工方法についての第2実施形態を説明する。尚、この第2実施形態は、図6を参照して説明したウエブ部材40を用いる施工方法である。
【0044】
図7は、本発明のウエブ部材の施工方法についての第2実施形態を示す外観斜視図である。
【0045】
まず、図7に示すように、ウエブ部材40に設けられたスリット40cに、床版との結合部に床版と結合する構造用連結鉄筋20を孔軸直角方向から現場で挿入することによって、その構造用連結鉄筋20を貫通孔40a内に配置し、ウエブ部材40から突出させる。
【0046】
次に、ウエブ部材40から突出させた構造用連結鉄筋20を床版鉄筋と結合し、床版コンクリート30を打設する。
【0047】
本発明のウエブ部材の施工方法についての第2実施形態によれば、貫通孔40a内およびスリット40c内に、打設したコンクリート30が充填されることによって、構造用連結鉄筋20がウエブ部材40に固定されると共に、ウエブ部材10から構造用連結鉄筋20を突出させた接合部分を埋設してウエブ部材10と床版とが一体化される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明のウエブ部材の鉄筋固定構造についての第1実施形態を示すウエブ部材の外観斜視図である。
【図2】本発明のウエブ部材の施工方法についての第1実施形態における構造用連結鉄筋挿通工程を示す外観斜視図である。
【図3】本発明のウエブ部材の施工方法についての第1実施形態における床版コンクリート打設工程を示す外観斜視図である。
【図4】上床版コンクリート打設工程を経て施工された橋体の縦断面図である。
【図5】図4の線A−Aに沿った横断面図である。
【図6】本発明のウエブ部材の鉄筋固定構造についての第2実施形態を示すウエブ部材の外観斜視図である。
【図7】本発明のウエブ部材の施工方法についての第2実施形態を示す外観斜視図である。
【符号の説明】
【0049】
10,40 ウエブ部材
10a,40a 貫通孔
40b 部材端面
40c スリット
11 PC鋼材
12 圧着グリップ
20,21 構造用連結鉄筋
30 床版コンクリート
31 上床版
32 下床版
100 橋体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋体のプレキャストプレストレストコンクリートウエブ部材において、床版との結合部に床版と結合する構造用連結鉄筋を挿通固定する貫通孔を設けたことを特徴とするウエブ部材の鉄筋固定構造。
【請求項2】
前記貫通孔と部材端面との間に構造用連結鉄筋を孔軸直角方向から挿入するスリットを設けたことを特徴とする請求項1記載のウエブ部材の鉄筋固定構造。
【請求項3】
請求項1記載のウエブ部材を用い、前記貫通孔内に構造用連結鉄筋を挿通し、該構造用連結鉄筋を床版鉄筋と結合し、床版コンクリートを打設することを特徴とするウエブ部材の施工方法。
【請求項4】
前記構造用連結鉄筋を前記貫通孔内に挿通後、該貫通孔内に充填硬化剤を充填して構造用連結鉄筋をウエブ部材に固定した後、床版コンクリートを打設することを特徴とする請求項3記載のウエブ部材の施工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−138424(P2008−138424A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324705(P2006−324705)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000112196)株式会社ピーエス三菱 (181)
【Fターム(参考)】