説明

ウエルド部を有するポリブチレンテレフタレート樹脂成形品

【課題】 高いウェルド強度に加え、優れた機械的強度、耐加水分解性を有し、さらに成形品が小型化・薄肉化(軽量化)されても、優れた成形品強度を発揮できる成形品を提供すること。
【解決手段】フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの等重量混合溶媒中、30℃で測定した固有粘度が、0.60〜0.78dL/gであるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対し、長さ方向に直角な断面の長径と短径の比である扁平率が2.5〜10の繊維状強化材65〜150重量部、及びエポキシ化合物(C)0〜3重量部を含有させたことを特徴とする樹脂組成物を射出成形して成るウエルド部を有する射出成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度、摺動性、耐加水分解性、成形流動性に優れた充填剤強化のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いて製造された、高いウェルド強度を有する射出成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、PBT樹脂と略記することがある。)は、機械的特性、電気特性に優れているほか、耐薬品性、耐熱性などにも優れているので、エンジニアリングプラスチックとして、自動車、鉄道車両などの車両用各種部品、各種の電気・電子機器部品、さらには一般工業製品の製造用材料として、広く使用されている。なかでもPBT樹脂に繊維状強化材を配合した、いわゆる繊維強化PBT樹脂組成物は、機械的特性が大幅に向上するため、その利用範囲が拡大している。
【0003】
しかしながら、一般的な繊維強化材を配合した繊維強化PBT樹脂組成物からなる射出成形品は、ウェルド部の強度が低く、これに起因して成形品に割れが発生することがしばしば見られる。ウェルド部の強度は、ウェルド部の密着性や強化繊維の配向などの影響を受けるため、単に配合する繊維強化材の量を多くしただけでは十分な効果が得られない場合が多い。
【0004】
ウェルド部の密着性を向上させる方法としては、PBT樹脂の分子量を下げて流動性を良くすることが考えられるが、この方法はあまり好ましい方法ではない。なぜならば、この方法では、成形時に発生する分解ガスによりウェルド部の密着性が阻害されることがあり、また加水分解による劣化で成形品の使用中に強度が低下することがあるという問題があるからである。
【0005】
特に近年の小型化・薄肉化が進んだ成形品では、いっそう高いウェルド強度を与える樹脂組成物を用いることが求められており、従来の処方では解決できない事例が多く見られるようになってきている。
【0006】
特許文献1には、通常の円形断面のガラス繊維に比して扁平な非円形断面のガラス繊維の配合が、熱可塑性樹脂組成物の強度を一層向上させること、特に繊維の配合量が多いときに補強効果が大きいことが記載されている。
【0007】
特許文献2には、断面が扁平なガラス繊維を、成形品中における平均長さが1mm以上となるように含有させると、強度に優れた成形品となることが記載されている。
特許文献3には、イソフタル酸ユニットを含有する変性PBT樹脂とポリカーボネート樹脂からなる樹脂組成物に、扁平断面を持つガラス繊維を配合することが記載されている。
然しながら、いずれの文献にも、これらの樹脂組成物を用いた成形品のウエルド部の強度に関する記載はない。
【0008】
【特許文献1】特公平2−60494号公報
【特許文献2】特開2008−95066号公報
【特許文献3】特開2008−120925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、繊維状強化材含有ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品において、高いウェルド強度に加え、優れた機械的強度、耐加水分解性を有し、さらに小型化・薄肉化(軽量化)された成形品においても、優れた強度を発揮できる成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、ポリブチレンテレフタレート樹脂の物性と、これに扁平な繊維状強化材を含有させた樹脂組成物からなる射出成形品のウエルド部、特に薄いウエルド部の強度との関係について検討した結果、特定の固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂を用いた樹脂組成物が、ウエルド部強度の大きい射出成形品を与えることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの等重量混合溶媒中、30℃で測定した固有粘度が0.60〜0.78dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対し、繊維の長さ方向に直角な断面の長径と短径との比である扁平率が2.5〜10の繊維状強化材(B)65〜150重量部、及びエポキシ化合物(C)0〜3重量部を含有させたことを特徴とする樹脂組成物から成るウエルド部を有する射出成形品に存する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る射出成形品は、特に高い強度、剛性、摺動性、耐加水分解性が要求され、且つ薄肉のウェルド部と複雑な構造を有する、自動車用内外装部品や機構部品に好適に使用でき、その産業上の利用価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の成形品に用いる樹脂組成物を構成するポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は、ブチレンテレフタレート(−OOC−C−COOーC−)を主たる構造単位とする熱可塑性樹脂である。周知のようにPBT樹脂は、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体と、1,4−ブタンジオールとを重縮合させることにより工業的に大規模に生産されている。
【0014】
PBT樹脂の製造にさいしては、上記の原料に加えて、他のカルボン酸やアルコールを少量併用し得ることも知られており、本発明ではこのようなPBT樹脂も用いることができる。このような共重合成分としては、フタル酸、メタフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジオールなどのジカルボン酸やジオール;グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、及びp−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、およびベンゾイル安息香酸などの単官能化合物;トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロールおよびペンタエリスリトールなどの三官能以上の多官能化合物などが挙げられる。
【0015】
PBT樹脂に占めるテレフタル酸単位の割合及び1,4−ブタンジオール単位の割合が低いと、PBT樹脂の結晶化度が低下し、強度や成形性が低下する。本発明では、テレフタル酸成分又は1,4−ブタンジオール成分から算出されるブチレンテレフタレート(−OOC−C−COO―C−)単位が、いずれもPBT樹脂全体の少なくとも80重量%、通常は90重量%以上を占めるものを用いる。好ましくは、この単位がいずれもPBT樹脂全体の95重量%以上、を占めるものを用いる。上記に加えて、いずれかから算出されるこの単位が98重量%以上を占めるものを用いるのが、最も好ましい。
【0016】
PBT樹脂の製造は常法に従って行えばよい。触媒としてはチタン化合物、周期率表第1族金属化合物、第2族金属化合物、スズ化合物など常用のものを用いればよい。なお触媒としてチタン化合物を用いる場合には、生成する樹脂中に残存する触媒が、チタン原子換算で10〜80ppmとなるように用いる。残存量がこれより多くても少なくても樹脂組成物の物性が低下する傾向がある。チタン原子換算の残存量は、20〜60ppm、特に30〜50ppmであるのが最も好ましい。
【0017】
触媒として周期率表第1族や第2族の金属化合物を用いる場合には、生成する樹脂中に残存する触媒が、金属原子換算で1〜50ppmとなるように用いる。多すぎると樹脂組成物の耐加水分解性が低下することがある。逆に少なすぎると、樹脂組成物から得られる成形品の表面外観が低下することがある。金属原子換算の残存量は、5〜30ppm、特に5〜20ppmであるのが好ましい。
【0018】
またスズ化合物を用いる場合には、残存量がスズ原子換算で200ppm以下となるように用いる。残存量が多いと樹脂の色調が悪化する。スズ原子換算の残存量は100ppm以下、特に10ppm以下であるのが好ましい。なお残存金属量は、湿式灰化法などで樹脂中の金属を回収し、原子発光法で測定するが、原子吸光、Inductiveiy Coupled Plasma(ICP)などで測定することもできる。
【0019】
PBT樹脂の製造に際しては、末端カルボキシル基濃度が10〜80eq/トンとなるようにするべきである。末端カルボキシル基濃度が高すぎると樹脂組成物の滞留熱安定性や耐加水分解性が低下することがある。逆に低すぎても摺動特性や耐磨耗性が低下することがある。末端カルボキシル基濃度は10〜30eq/g,特に10〜25eq/gであるのが好ましい。なお末端カルボキシル基濃度は、ベンジルアルコール25mLにPBT樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を使用して滴定法により測定することができる。
【0020】
本発明では、上記のPBT樹脂のうち、フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの重量比が1:1の混合溶媒中、30℃で測定した固有粘度が0.60〜0.78dL/gの範囲のものを用いる。固有粘度が0.60dL/g未満のものを用いたのでは、PBT樹脂の分子量が小さいためか、成形品に十分な機械的強度を与える樹脂組成物が得られない。また成形時に分解ガスが発生しやすくなるため、ウェルド部の密着が不十分になりウェルド強度が低下しやすい。
【0021】
逆に固有粘度が0.78dL/gを超えると、PBT樹脂の溶融粘度が大きくなるため、樹脂組成物を調製する混練時や樹脂組成物から成形品を製造する際に繊維状強化材が過度に破砕されるようになり、そのため成形品の機械的強度が低下する。また樹脂組成物の流動性が悪くなるため、成形時にウェルド部に十分な圧力がかからないためか、ウェルド部強度の大きい成形品が得られない。
【0022】
この現象はウエルド部の厚さが薄くなるほど著しい。固有粘度の範囲としては、0.65〜0.75dL/gがより好ましい。なおPBT樹脂は一種類でも二種以上の混合物であっても良い。例えば固有粘度が異なる二種類以上のPBT樹脂を混合して所望の固有粘度となるようにしても良い。
【0023】
本発明における繊維状強化材(B)は、本発明に係る強化樹脂組成物から得られる成形品の機械的特性(引張強度、曲げ強度、耐衝撃強度など)を向上させ、同時に成形品におけるウェルド部の強度を向上させるように機能する。
【0024】
本発明では、繊維状強化材として、繊維の長さ方向に直角な断面の長径とこれに直交する短径との比である扁平率が2.5〜10の範囲のものを用いる。このような繊維状強化材は、一般的な円形断面形状の強化材に比べ、樹脂組成物の機械的特性を向上させる作用が大きい。繊維状強化材としては、ガラス繊維、炭素繊維、玄武岩繊維、金属繊維、合成繊維、炭化珪素繊維、チタン酸カリウム繊維などが挙げられる。機械的強度の改善効果が顕著である点で、ガラス繊維、炭素繊維、玄武岩繊維が好ましく、さらには入手のしやすさなどから、ガラス繊維が最も好ましい。
【0025】
繊維状強化材B)の長さ方向に直角な断面の形状は、特開昭62−268612号公報に記載されているように、通常は長方形、長方形に近い長円形、楕円形、長手方向の中央部がくびれた繭型などである。これらのなかでも断面が繭型のものは、中央部のくびれ部分の強度が低くて中央部で割れることがあり、またこのくびれた部分が基体樹脂との密着性が劣る場合もあるので、断面が長方形、長方形に近い長円形、または楕円形のものを使用するのが好ましい。
【0026】
繊維状強化材(B)としては、扁平率が、2.5〜10.0のものを用いる。扁平率が2.5未満の繊維状強化材を用いたのでは、樹脂組成物は所望の強度の大きい成形品を与えない。また扁平率が10.0より大きい繊維状強化材を用いても、樹脂組成物の調製や成形品の製造工程などで繊維状強化材に加わる荷重で破砕され、成形品中での扁平率は小さくなる。また扁平率の大きい繊維状強化材は高価なので、いずれにしても用いる意味がない。繊維状強化材の扁平率は、2.5〜8.0、特に3.0〜6.0であるのが好ましい。
【0027】
繊維状強化材(B)長さ方向に直角な断面の面積は通常は2x10−5〜8x10−3mmの範囲である。断面積がこれよりも小さい繊維状強化材は一般に紡糸が困難で高価であり、逆に断面積がこれよりも大きいものは樹脂との接触面積が小さく、且つ剛性が大きくなって、補強材としての作用を十分に果たさなくなる。繊維状強化材の断面積は8x10−5〜8x10−4mm、特に8x10−5〜5x10−4mmの範囲にあるのが好ましい。
【0028】
繊維状強化材(B)は長いほど補強効果が大きいが、長い繊維ほど樹脂と溶融・混練して樹脂組成物を調製する際に破砕し易く、また樹脂組成物から成形品を製造する際にも破砕する。溶融・混練に供する繊維状強化材としては、通常は長さが0.5〜20.0mm程度のチョップドストランドを用いるが、溶融混練により破砕され、樹脂組成物中の繊維状強化材の長さは通常は0.3〜1.0mm程度である。
【0029】
そして成形品中の繊維状強化材の長さはこれよりも若干短く0.2〜0.9mm程度である。本発明に係るウェルド部を有する成形品を製造する際には、繊維状強化材がなるべく折損しないようにして、成形品に含まれる繊維状強化材(B)の平均長さが0.3〜0.9mm、特に0.4〜0.9mmとなるようにするのが好ましい。
【0030】
繊維状強化材(B)は、例えば、特公平3−59019号公報、特公平4−13300号公報、特公平4−32775号公報などに記載の方法によって製造することができる。例えば、底面に多数のオリフィスを有するオリフィスプレートにおいて、複数のオリフィス出口を囲み、このオリフィスプレート底面より下方に延びる凸状縁を設けたオリフィスプレート、または、単数または複数のオリフィス孔を有するノズルチップの外周部先端から、下方に延びる複数の凸状縁を設けた異形断面ガラス繊維紡糸用ノズルチップを用いて製造することができる。
【0031】
繊維状強化材(B)は、シランカップリング剤、潤滑剤、帯電防止剤、被膜形成能を有する樹脂などで表面処理したものであってもよい。シランカップリング剤としては、例えば、γーメタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γーグリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γーアミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0032】
このシランカップリング剤の付着量は、繊維状強化材の0.01重量%以上であるのが好ましい。潤滑剤としては、脂肪酸アミド化合物、シリコーンオイルなどが挙げられ、帯電防止剤としては、第4級アンモニウンム塩などが挙げられ、被膜形成能を有する樹脂としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。被膜形成能を有する樹脂には、あらかじめ熱安定剤、難燃剤などを配合しておくこともできる。
【0033】
樹脂組成物中の繊維状強化材(B)の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対し、65〜150重量部、好ましくは80〜150重量部である。含有量が65重量部未満では、成形品の強度やウェルド強度が十分ではなく、且つ常用の円形断面の繊維強化材を使用した場合と有意差が認められない。逆に含有量が150重量部を超えると、樹脂と溶融・混練して樹脂組成物を調製する際に破砕し易く、且つペレット化が困難である。また樹脂組成物から成形品を製造する際にも繊維状強化材の破砕が起こり易い。PBT樹脂100重量部に対する繊維状強化材(B)の含有量は90〜150重量部、特に90〜125重量部であるのが最も好ましい。
【0034】
エポキシ化合物(C)は、樹脂組成物の耐湿熱特性を向上させ、また成形品の、ウェルド部の強度、耐久性をより向上させるように機能する。従って本発明に係る成形品のうちでも、エポキシ化合物を含有する樹脂組成物から成る成形品は、自動車の部品など使用時に湿熱状態に曝される箇所に用いるのに好適である。
【0035】
エポキシ化合物(C)としては、一分子中に一個以上のエポキシ基を有するものであればよく、通常はアルコール、フェノール類又はカルボン酸などとエピクロロヒドリンとの反応物であるグリシジル化合物や、オレフイン性二重結合をエポキシ化した化合物を用いればよい。
【0036】
例えば次のようなエポキシ化合物を用いることができる。ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、レゾルシン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、脂環化合物型ジエポキシ化合物、グリシジルエーテル類、グリシジルエステル類、エポキシ化ポリブタジエン。脂環化合物型エポキシ化合物としては、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシドなどが挙げられる。
【0037】
グリシジルエーテル類の具体例としては、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のモノグリシジルエーテル;ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのジグリシジルエーテル類が挙げられる。
【0038】
またグリシジルエステル類としては、安息香酸グリシジルエステル、ソルビン酸グリシジルエステルなどのモノグリシジルエステル類;アジピン酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、オルトフタル酸ジグリシジルエステルなどのジグリシジルエステル類などが挙げられる。
【0039】
またエポキシ化合物(C)は、グリシジル基含有化合物を一方の成分とする共重合体であってもよい。例えばα,β−不飽和酸のグリシジルエステルと、α−オレフィン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステルからなる群より選ばれる一種または二種以上のモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0040】
エポキシ化合物(C)としては、エポキシ当量100〜500g/eq、重量平均分子量2000以下のエポキシ化合物が好ましい。エポキシ当量が100g/eq未満のものは、エポキシ基の量が多すぎるため樹脂組成物の粘度が高くなり、ウェルド部の密着性を低下させる原因となる。逆にエポキシ等量が500g/eqを超えるものは、エポキシ基の量が少なくなるため、樹脂組成物の耐湿熱特性を向上させる効果が十分に発現しない。
【0041】
また重量平均分子量が2000を超えるものは、ポリブチレンテレフタレート樹脂との相溶性が低下し、成形品の機械的強度が低下する傾向にある。エポキシ化合物としては、ビスフェノールAやノボラックとエピクロロヒドリンとの反応から得られる、ビスフェノールA型エポキシ化合物やノボラック型エポキシ化合物が好ましい。
【0042】
エポキシ化合物(C)の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対し0〜3重量部であるが、含有効果を発現させるには0.1重量部以上含有させるのが好ましい。含有量が3重量部より多いと架橋化が進行し成形時の流動性が悪くなる。エポキシ化合物(C)は、PBT樹脂100重量部に対し0.2〜2重量部含有させるのが最も好ましい。
【0043】
本発明に係る成形品を製造するための樹脂組成物には、上記(A)〜(C)の各成分に加えて、必要応じて樹脂組成物の特性を阻害しない範囲で、他の熱可塑性樹脂や常用の樹脂添加剤などを含有させても良い。
【0044】
他の熱可塑性樹脂の例としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN樹脂)などのポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリアミド類、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)などのスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルファイド、液晶ポリマーなどが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、最大でも50重量部までとすべきであり、通常は40重量部、なかでも30重量部以下とするのが好ましい。
【0045】
含有させる樹脂添加剤の例としては、脂肪酸エステル系、パラフィン系、ポリオレフィン系、ビスアミド系、シリコーン系などの離型剤、ヒンダードフェノール系、亜燐酸エステル系、硫黄含有エステル化合物系などの熱安定剤、マイカ、タルクなどの無機充填材、耐衝撃改良剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、耐候性付与剤、摺動性付与剤、染料・顔料などの着色剤、発泡剤などがある。
【0046】
本発明に係る成形品を製造するための樹脂組成物を調製するには、樹脂組成物調製の常法によればよい。好ましくは押出混練機などを使用して溶融・混練する方法を用いる。具体的には、PBT樹脂(A)、繊維状強化材(B)及びエポキシ化合物(C)、並びに所望により用いられる添加成分を所定量配合し、リボンブレンダー、V型ブレンダー、ヘンセルミキサー、ドラムブレンダーなどの混合機によって混合し、溶融・混練機によって溶融・混練する方法が挙げられる。
【0047】
溶融・混練する際には、溶融・混練機に各成分を一括フィードする方法でもよいし、逐次フィードする方法でもよい。溶融・混練機としては、各種押出機、ブラベンダープラストグラフ、ラボプラストミル、ニーダー、バンバリーミキサーなどが挙げられる。溶融・混練する際に、熱分解し易いもの、破損し易いものは途中フィードするのが好ましい。各種添加成分は、PBT樹脂や他の添加成分とあらかじめ混合しておくこともできる。繊維状強化材は、混練時に破砕し易いので、途中フィードするのが好ましい。溶融・混練する際の加熱温度は、配合する成分の種類や割合などにより決定されるが、230〜290℃の範囲とするのが好ましい。
【0048】
樹脂組成物からの成形品の製造は、常用の射出成形法によることができる。射出成形に際しては、樹脂組成物の温度を240〜280℃とし、金型温度を60〜120℃、特に80〜120℃に調節するのが好ましい。一般に流動性の確保および結晶化度の観点から、金型温度は高い方が好ましい。金型への樹脂組成物の注入方法は、成形品にウエルド部が形成される態様であればよく、注入口は単数でも複数でもよい。
【0049】
本発明に係る成形品の肉厚は任意であるが、肉厚が薄い部分を有する成形品、特にウエルド部の肉厚が薄い成形品において、強度向上の効果はより顕著である。従って肉厚が1.5mm以下、特に1mm以下である部分を有する成形品、なかでもウエルド部の肉厚が1.5mm以下、特に1mm以下である部分を有する成形品において効果が顕著である。
【0050】
本発明に係る成形品が適した用途は、ウェルド部を有し、高い機械的強度と湿熱環境下での耐久性が必要とされる部品である。具体的には、自動車用の内外装部品や機構部品であり、例えばワイパー、ドア、ミラー、ルーフレール、ウィンドウ、シート、ランプ系、操舵系、駆動系などに使用される機構・構造部品や、フェンダー、ドア、トランク、バックドアなどの外板部品、オーディオ、モニター、カメラなどの電装部品などである。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明は以下に記載した例に限定されるものではない。なお、以下に記載の例で使用した各成分は次のとおりである。
【0052】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A):
(A−1)PBT樹脂#1:固有粘度が0.70dL/gのポリブチレンテレフタレート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名:ノバデュラン5007)。
【0053】
(A−2)PBT樹脂#2:固有粘度が0.60dL/gのポリブチレンテレフタレートであり、以下の方法にて作製した。
【0054】
テレフタル酸ジメチル1.0モルに対して、1,4−ブタンジオール1.8モルの割合で、合計3,229重量部をエステル交換反応槽に供給し、テトラブチルチタネート3.14重量部を添加し、温度210℃、圧力101kPaで、3時間エステル交換反応させて、オリゴマーを得た。引き続いて、このオリゴマーを、重縮合反応槽に移送し、攪拌下に、温度250℃、圧力133Paで、2時間重縮合反応を行わせてポリマーを得た。このポリマーを重縮合反応槽から窒素圧によりストランド状に押し出し、ペレタイザーで切断することにより、ペレット状のPBT樹脂#2を得た。
【0055】
(A−3)PBT樹脂#3:固有粘度が0.85dL/gのポリブチレンテレフタレート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名:ノバデュラン5008)。
【0056】
繊維状強化材(B):
(B−1)長円形断面ガラス繊維:扁平率4、{(長径+短径)/2}=17.5μm、繊維長L=3mmの長円形断面のガラス繊維(日東紡社製、銘柄名:CSG3PA830)。
【0057】
(B−2)円形断面ガラス繊維:(日本電気硝子社製、銘柄名:ECT03T187)。
【0058】
エポキシ化合物(C):
(C−1)N型エポキシ:ノボラック型エポキシ化合物(東都化成社製、商品名:エポトートYDCN704)。
【0059】
(C−2)BA型エポキシ:ビスフェノールA型エポキシ化合物(旭電化社製、商品名:アデカサイザーEP17)。
【0060】
樹脂組成物の調製:
上記のPBT樹脂(A)、繊維状補強材(B)、及びエポキシ化合物(C)を、表−1〜表−2に記載した割合(重量部)で配合し、ヘンシェルミキサーで10分間混合した。得られた混合物を、バレル(シリンダー)温度を260℃の温度に設定した二軸押出機(日本製鋼所社製、型式:TEX−30C、バレルは9ブロックで構成されている)によって、溶融・混練してペレット化した。溶融・混練に際して、繊維状強化材は、押出機ホッパー側から5番目のブロックからサイドフィード方式で供給した。
【0061】
試験片の作製
得られたペレットを原料として、射出成形機(住友重機械社製、型式:SG−75SYCAP−MIII)を使用し、シリンダー温度を250℃、金型温度を80℃に設定して、基準引っ張り強度試験用及び中央にウエルドを有する引っ張り試験用の試験片(厚さ1mmのものと4mmのもの、図1参照)、並びにノッチ付きシャルピー衝撃強度試験用の試験片をISOに準拠して成形した。
【0062】
試験片の評価方法
(a)基準引っ張り強度(MPa):ISO527に準拠して、厚さ1mmと4mmの試験片について測定した。
【0063】
(b)ウェルド強度比(%):中央にウェルドを有する引っ張り試験片(厚さ4mm)について、INSTRON社製万能試験機5569にて引っ張り試験を行い、求めた破壊強度を基準引っ張り強度との比で表した。
【0064】
(c)薄肉ウェルド強度比(%):中央にウェルドを有する厚さ1mmの引っ張り試験片について、INSTRON社製万能試験機5544にて引っ張り試験を行い、求めた破壊強度を基準引っ張り強度との比で表した。
【0065】
(e)ノッチ付きシャルピー衝撃強度(KJ/m):ISO179−1179−2に準拠して測定した。
【0066】
(d)湿熱処理後の薄肉ウェルド強度比(%):上記の中央にウェルドを有する厚さ1mmの試験片について、平山製作所製プレッシャークッカー試験機PC−422R5Eを用いて、85℃、95%RH条件にて2000時間処理を行った後、INSTRON社製万能試験機5544にて引っ張り試験を行い、求めた破壊強度を基準引っ張り強度との比で表した。
【0067】
(f)ウェルド部を有する成形品の破壊荷重(kN):以下の方法により試験片を作成し、評価した。
【0068】
試験片の作製:
射出成形機(住友重機械社製、型式:SG−75SYCAP−MIII)を使用し、シリンダー温度を250℃、金型温度を80℃に設定して、ウェルド部を有するモデル成形品(図2参照)を成形した。モデル成形品は、直径が40mm、高さが20mm、厚みが1mmの円筒状をなし、上部に幅3mmの十字型の支柱があり、その十字型支柱の中央部に直径1mmのゲートを有する。成形時にゲートから注入された溶融樹脂は、十字型の支柱を通って円筒部に流れ込むため、流路の違いから円筒部にウェルドを生じる。
【0069】
評価試験
この円筒状成形品に対して、エー・アンド・ディ社製万能試験機RTC−1310Aを用いて、5°のテーパーの付いた鋼(S45C)製治具を挿入した際の破壊荷重(KN)を測定した。
【0070】
(g)成形品中の重量平均繊維長(mm):
上記の円筒状モデル成形品から約5gのサンプルを切り出し、温度600℃の電気炉中に2時間置いて灰化させた。残った繊維状強化材を折損しないように注意して表面活性剤水溶液(中性)中に分散させ、その分散水溶液をピペットによってスライドグラス上に移し、顕微鏡で写真撮影を行った。この写真画像について、画像解析ソフトによって、1000〜2000本の強化繊維について測定を行い、重量平均繊維長を算出した。
【0071】
実施例1〜7及び比較例1〜8
表1、および2に記載の配合比率の樹脂組成物につき、上述した各評価を行った。結果を表1、2に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
表1および表2より、次のことがわかる。
【0075】
(1)PBT樹脂に本発明で規定する扁平率のガラス繊維を含有させたものについて;
PBT樹脂の固有粘度が0.70dL/gの場合(実施例1〜実施例5)は、固有粘度が0.85dL/gの場合(比較例1〜比較例5)に比べて、基準となる引っ張り強度が向上することに加え、ウェルド強度比の向上効果が大きく、特に薄肉の場合のウェルド強度比向上効果が顕著であることがわかる。
【0076】
(2)PBT樹脂の固有粘度について;
、固有粘度が0.70dL/gの場合(実施例1)は、固有粘度が0.60dL/gの場合(実施例6)および固有粘度が0.775の場合(実施例7)に比べて、基準となる引っ張り強度や、薄肉ウェルド強度比、湿熱処理後のウェルド強度比などがやや高く、より好ましいことがわかる。
【0077】
(3)ガラス繊維の形状について;
PBT樹脂に本発明で規定する扁平率のガラス繊維を含有させた場合(実施例1)は、円形断面のガラス繊維を含有させた場合(比較例6)に比べて、基準となる引っ張り強度の向上が顕著に見られ、ウェルド強度比の向上と併せて、ウェルド強度の絶対値が高くなることがわかる。
【0078】
(4)PBT樹脂に本発明で規定する扁平率のガラス繊維を含有させたものであっても、含有量が50重量部と少ない場合は、PBT樹脂の固有粘度が0.70dL/gの場合(比較例7)と0.85dL/gの場合(比較例8)を比較しても、ウェルド強度比などにあまり差はなく、効果が見られないことがわかる。
【0079】
(5)繊維の配合量について;
、配合量が67重量部の場合(実施例3)よりも、配合量が82重量部(実施例2)の方が基準引っ張り強度が高くなり、さらに配合量が100重量部の場合(実施例1)は、基準引っ張り強度がより高くなり、ウェルド強度比に大きな差はなくても、ウェルド強度の絶対値は高くなるため、好ましいことがわかる。
【0080】
(6)エポキシ化合物の効果について;
PBT樹脂に本発明で規定する扁平率のガラス繊維を含有させ、さらにエポキシ化合物を含有させた場合(実施例1および実施例4)は、エポキシ化合物を含まない場合(実施例5)に比べて、湿熱処理後のウェルド強度比が高く、ウェルド強度の耐久性に優れ、好ましいことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】ウェルド強度測定用試験片の説明図である。
【図2】ウェルド部を有する成形品とその破壊試験方法を説明する斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの等重量混合溶媒中、30℃で測定した固有粘度が0.60〜0.78dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対し、繊維長さ方向に直角な断面の長径と短径との比である扁平率が2.5〜10の繊維状強化材(B)65〜150重量部、及びエポキシ化合物(C)0〜3重量部を含有させたことを特徴とする樹脂組成物からなるウェルド部を有する射出成形品。
【請求項2】
フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの等重量混合溶媒中、30℃で測定した固有粘度が0.60〜0.78dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対し、繊維長さ方向に直角な断面の長径と短径との比である扁平率が2.5〜10の繊維状強化材(B)65〜150重量部、及びエポキシ化合物(C)0〜3重量部を含有させたことを特徴とする樹脂組成物からなる厚さ1.5mm以下のウエルド部を有する射出成形品。
【請求項3】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)が、テレフタル酸成分又は1,4−ブタンジオール成分から算出されるブチレンテレフタレート構造単位(―OOC−C−COO―C−)の含有量がいずれも95重量%以上のものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の射出成形品。
【請求項4】
繊維状強化材の含有量が90〜125重量部であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の射出成形品。
【請求項5】
繊維状強化材の扁平率が3.0〜6.0であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の射出成形品。
【請求項6】
繊維状強化材がガラス繊維であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の射出成形品。
【請求項7】
エポキシ化合物がエポキシ当量が100〜500g/eq、重量平均分子量が2000以下のものであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の射出成形品。
【請求項8】
エポキシ化合物の含有量が0.2〜2重量部であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の射出成形品。
【請求項9】
フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの等重量混合溶媒中、30℃で測定した固有粘度が0.6〜0.78dL/gであり、且つテレフタル酸成分又は1,4−ブタンジオール成分から算出されるブチレンテレフタレート構造単位(−OOC−C−COO―C−)の含有量がいずれも95重量%以上であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対し、繊維長さ方向に直角な断面の長径と短径との比である扁平率が3.0〜6.0のガラス繊維(B)90〜125重量部、及びエポキシ当量が100〜500g/eq、重量平均分子量が2000以下のエポキシ化合物(C)0.2〜2重量部を含有させたことを特徴とする樹脂組成物を、成形品に厚さ1.5mm以下のウエルド部が形成されるように金型内に射出することを特徴とするウエルド部を有する射出成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−111816(P2010−111816A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286995(P2008−286995)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】