説明

ウォータージェット推進船のスラスト計測装置

【課題】 スラストを正確且つ容易に計測できるようにする。
【解決手段】 ウォータージェット推進船の船体模型1にてウォータージェットポンプ4が設置してある船尾部の下部を、船尾部分模型3として主船体模型2とは別体に製作する。船尾部分模型3を、主船体模型2に、ガイドレール9とガイドブロック10を介して前後水平方向に変位可能に保持させる。主船体模型2にロードセル5を取り付け、ロードセル5の後端部と、船尾部分模型3の後端壁の内側上端部位置とを前後方向の連結部材11を介して連結する。ウォータージェットポンプ4の駆動により後方へ噴射させるウォータージェットの反力として生じるスラストを、船尾部分模型3から、連結部材11とロードセル6を介して主船体模型2へ伝えて、船体模型1を前進させ、この際、推進力として実際に作用しているスラストをロードセル5で直接計測させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォータージェット推進装置を装備した船の推進性能試験の1つとして、スラストを計測するために用いるウォータージェット推進船のスラスト計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船の推進性能試験を実施する場合、推進装置が発生しているスラストを計測する必要がある。
【0003】
プロペラ推進器を装備した船の場合は、一般に、プロペラが発生するスラストを、プロペラシャフトに接続したロードセルで直接計測する方法が採られている。
【0004】
一方、ウォータージェット推進装置を装備した船(以下、ウォータージェット推進船と云う。)の場合、ウォータージェット推進装置のスラストは、ウォータージェットポンプで昇圧して後方へ噴射するウォータージェットの反力(反動)としてポンプケーシングを固定している船体に対して直接発生するものであるため、上記ウォータージェットポンプのインペラ(羽根車)の駆動シャフトに接続したロードセルでは計測することができない。
【0005】
そのために、従来、ウォータージェット推進船にてウォータージェット推進装置が発生しているスラストを計測するための手法としては、ウォータージェットの噴射ノズルを、太径の部分と細径の部分を有する2段ノズルとするか、太い径における水の圧力と、細い径における水の圧力を、圧力孔等を用いてそれぞれ計測し、該太い径及び細い径で各々計測された水の圧力の計測値と、太い径及び細い径でのノズル断面積とから、ベルヌーイの式を用いて上記ウォータージェット推進装置が吐き出している水の流量と流速を算定し、該算定された水の流量と流速とから運動方程式を用いて力としてのスラストを算出するようにする手法が主として用いられてきている(たとえば、特許文献1参照)。
【0006】
なお、従来、ウォータージェット推進装置単体のスラストを計測するための試験装置として、図3に示す如く、車輪によって可動できるようにしてなる箱状の試験台車aに、試験用の所定馬力のエンジンbと、該エンジンbに中間軸dを介して連結した所定容量のウォータージェットポンプcとを交換可能に装着して、該試験台車aをプール等の水槽e内に配置すると共に、上記試験台車aの後部に取り付けたスラスト計fを、スラスト受けgを介して上記水槽eの壁面に押し付けることができるようにしてなるウォータージェット試験装置が提案されている。
【0007】
かかる構成としてあるウォータージェット試験装置によれば、上記エンジンbの運転によりウォータージェットポンプcを駆動すると、吸入口hから水槽e内の水を該ウォータージェットポンプcへ吸い込んで、噴射ノズルiから高速で噴射させることができ、この際、ウォータージェットによって発生するスラストを、上記スラスト計fで計測できるとされている。なお、jは上記ウォータージェットポンプcのインテークダクトである(たとえば、特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2005−225419号公報
【特許文献2】特開平9−142383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、ウォータージェット推進船にてウォータージェット推進装置が発生しているスラストを計測するために従来提案されている手法は、2段ノズルの径の異なる部分や、異なる径のノズルにおける水の圧力の差圧と、ノズル断面積とを基に、理論式でウォータージェットの流量と流速を求め、この流量と流速から運動方程式を用いてスラストを算出するようにしてあるため、たとえば、水の温度変化に伴う密度変化による誤差や、設計したノズルを製作する際におけるノズル径の製作誤差、複数のセンサを使用することに起因する各センサごとの誤差等、スラストを求める過程に誤差が入る要因が多いことから、ウォータージェット推進船にてウォータージェット推進装置が発生しているスラストの計測精度が余り高くないというのが実状である。
【0010】
又、ノズル差圧と流量の関係を正確に把握するために、ノズルのみを用いたキャリブレーション試験を別途実施する必要があり、このキャリブレーション試験のために、キャリブレーション専用の試験装置が別途必要になると共に、時間及び手間が嵩むという問題も生じているのが実状である。
【0011】
しかし、船の推進性能の評価は、数%の差の領域で行われるものであるため、上記のような誤差を含むウォータージェット推進船にてウォータージェット推進装置が発生しているスラストの計測を行っても、プロペラ推進機を装備した船と同様の推進性能評価を行うことができるようにはならない。
【0012】
そのため、ウォータージェット推進船の推進性能評価を正しく行うことができるようにするために、ウォータージェット推進船にてウォータージェット推進装置が発生しているスラストを、より正確に且つ簡便に計測できるようにすることが望まれている。
【0013】
なお、上記特許文献2に記載されたウォータージェット試験装置は、ウォータージェット推進装置単体のスラストを計測することはできるが、ウォータージェット推進船におけるウォータージェット推進装置が発生しているスラストの計測に適用できるものではない。
【0014】
すなわち、ウォータージェット推進船が前進するときには、ウォータージェットポンプの駆動によって船底の吸入口よりインテークダクトを通して該ウォータージェットポンプへ吸入される水の他に、ウォータージェット推進船の前進に伴って船底に沿って相対的に流れる水の一部が、船底の吸入口よりインテークダクトへ流入させられるようになるため、該インテークダクト内に生じるインフローの速度が、ウォータージェットポンプの吸入作用のみで生じるインフローよりも速くなる。又、上記ウォータージェット推進船の前進に伴って船底に沿って相対的に流れる水の流速は、船底に近付くにしたがって遅くなっているため、上記インテークダクト内のインフローに速度分布ができる。
【0015】
したがって、ウォータージェット推進船に装備されたウォータージェット推進装置のウォータージェットポンプでは、インテークダクトを通してインペラに達するインフローの流速や速度分布が、ウォータージェットポンプ単体の場合とは異なるため、インペラの効率が変化する。
【0016】
更に、上記ウォータージェット推進船の前進に伴って船底に沿って相対的に流れる水が、上記ウォータージェットポンプのインテークダクト内へ流入するときには、水の流れる方向が変わることに伴って、インテークダクト内に渦が発生することがあり、この渦がインペラに達することによってもインペラの効率は変化する。
【0017】
よって、たとえ、ウォータージェット推進装置単体でのスラストが計測できるとしても、ウォータージェット推進船に装備した状態のウォータージェット推進装置が発生しているスラストを正確に計測することはできないのである。
【0018】
しかも、ウォータージェット推進船にて、ウォータージェットポンプを駆動すると、該ウォータージェットポンプのポンプケーシング内、インテークダクト内、噴射ノズル内に水が満たされるため、上記ウォータージェット推進船の船尾部に作用する荷重が増加し、これにより、該ウォータージェット推進船の船尾部の喫水やトリムが変化して、船体抵抗が変化してしまう。
【0019】
したがって、ウォータージェット推進船のウォータージェット推進装置が発生するスラストを正確に計測するには、該ウォータージェット推進装置をウォータージェット推進船に装備させた状態でスラストを計測する必要が生じるのである。
【0020】
そこで、本発明は、ウォータージェット推進船にてウォータージェット推進装置が発生するスラストを正確に且つ容易に計測できるようにするためのウォータージェット推進船のスラスト計測装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、ウォータージェット推進船の船体模型を、ウォータージェットポンプ設置個所を含む船尾部分模型と、主船体模型との別体構造とし、該ウォータージェットポンプを装備した上記船尾部分模型を、上記主船体模型に前後水平方向に変位可能に保持させ、且つ該船尾部分模型と主船体模型との間に船尾部分模型の前向きの力の大きさを計測するロードセルを設け、上記ウォータージェットポンプの駆動により発生させるウォータージェットの反力として船尾部分模型に入力されるスラストを、上記ロードセルを通して主船体模型へ伝えると同時に計測できるようにした構成とする。
【0022】
又、上記構成において、ロードセルを、主船体模型と船尾部分模型のいずれか一方に設置すると共に、該主船体模型と船尾部分模型のいずれか他方に、上記ロードセルを連結部材を介して連結するようにした構成とする。
【0023】
更に、上記各構成において、船尾部分模型の船底外板及び船側外板の前端部と、主船体模型の船底外板及び船側外板の後端部との間に所要寸法の隙間が形成されるようにし、且つ該隙間の外側を、シール材で水密に貼り付けて、上記隙間をシールするようにした構成とする。
【0024】
上述の各構成において、船尾部分模型に装備させたウォータージェットポンプの主軸に、主船体模型に設置した駆動装置に連結してある動力伝達用のシャフトを、回転駆動力のみを伝えるようにした継手を介して連結した構成とする
【発明の効果】
【0025】
本発明のウォータージェット推進船のスラスト計測装置によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)ウォータージェット推進船の船体模型を、ウォータージェットポンプ設置個所を含む船尾部分模型と、主船体模型との別体構造とし、該ウォータージェットポンプを装備した上記船尾部分模型を、上記主船体模型に前後水平方向に変位可能に保持させ、且つ該船尾部分模型と主船体模型との間に船尾部分模型の前向きの力の大きさを計測するロードセルを設け、上記ウォータージェットポンプの駆動により発生させるウォータージェットの反力として船尾部分模型に入力されるスラストを、上記ロードセルを通して主船体模型へ伝えると同時に計測できるようにした構成、更に、ロードセルを、主船体模型と船尾部分模型のいずれか一方に設置すると共に、該主船体模型と船尾部分模型のいずれか他方に、上記ロードセルを連結部材を介して連結するようにした構成としてあるので、ウォータージェットポンプを駆動してウォータージェットを発生させ、その反力として生じるスラストを、上記船尾部分模型へ一旦入力させた後、ロードセルを介して主船体模型へ伝えることで、ウォータージェット推進船の船体模型に推進力として作用させることができて、該船体模型を水の抵抗に抗して前進させることができる。この際、上記ウォータージェット推進船の船体模型の推進力として作用している上記スラストを、上記ロードセルで計測することができるため、ウォータージェット推進船の船体模型にてウォータージェット推進装置が発生しているスラストを、精度よく計測でき、しかも、該スラストは、上記ロードセルにより直接計測できるため、スラストの計測を、複雑な演算を要しない容易なものとすることができる。
(2)船尾部分模型の船底外板及び船側外板の前端部と、主船体模型の船底外板及び船側外板の後端部との間に所要寸法の隙間が形成されるようにし、且つ該隙間の外側を、シール材で水密に貼り付けて、上記隙間をシールするようにした構成とすることにより、上記船尾部分模型に前向きの力が作用するときに、該船尾部分模型と主船体模型との隙間が前後方向に多少縮まるとしても、上記シール材の撓みにより吸収できるため、船尾部分模型の船底外板及び船側外板の前端部から、上記主船体模型における船尾側の船底外板及び船側外板の後端部への直接的な力の伝達を防止できる。したがって、ウォータージェット推進船の船体模型にてウォータージェット推進装置が発生しているスラストをより正確に計測することができる。
(3)船尾部分模型に装備させたウォータージェットポンプの主軸に、主船体模型に設置した駆動装置に連結してある動力伝達用のシャフトを、回転駆動力のみを伝えるようにした継手を介して連結した構成とすることにより、主船体模型に設置した駆動装置によりウォータージェットポンプを駆動させる場合に、該ウォータージェットポンプで発生させるウォータージェットの反力が、ウォータージェットポンプの主軸から、上記シャフトを介して主船体模型に設置してある駆動装置へ伝達されることを阻止できるため、ウォータージェット推進船の船体模型にてウォータージェット推進装置が発生しているスラストを更に正確に計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0027】
図1及び図2は本発明のウォータージェット推進船のスラスト計測装置の実施の一形態を示すもので、ウォータージェット推進船に所望する所要の船体形状の船体模型1を、ウォータージェットポンプ4の設置個所となる船尾部の下部を切り欠いた形状の主船体模型2と、上記船体模型1におけるウォータージェットポンプ4の設置個所となる船尾部の下部のみの形状を備えた船尾部分模型3からなる2分割構造として製作して、上記船尾部分模型3には、ウォータージェットポンプ4を装備させる。
【0028】
更に、上記船尾部分模型3は、上記主船体模型2に、後述するスライド機構を介して前後水平方向に変位可能に保持させると共に、該船尾部分模型3の所要個所を、上記主船体模型2の所要個所に、前後水平方向に作用する力を計測可能なロードセル5を介装して連結した構成とする。これにより、上記ウォータージェットポンプ4より噴射させる水(ウォータージェット)の反力によって該ウォータージェットポンプ4が設けてある上記船尾部分模型3へ作用するようになるスラストが、上記ロードセル5を介して主船体模型2へ伝えられるようにすると共に、このウォータージェットの反力によるスラストを、上記ロードセル5で計測することができるようにする。
【0029】
詳述すると、上記主船体模型2と船尾部分模型3は、ウォータージェット推進船の船体模型1の船尾部の下部を、水線よりも所要寸法上方で且つウォータージェットポンプ4の噴射ノズル6よりも上方となる高さ位置の水平面と、上記ウォータージェットポンプ4のインテークダクト7の船底側の開口部である吸入口8よりも所要寸法前方となる位置で船首尾方向と直交する垂直面とにより、側面から見てカギ型に切断した形状となるようにそれぞれ製作してある。
【0030】
上記主船体模型2の船尾側の上端部より上記船尾部分模型3の上方位置で後方へ張り出す船尾側突出部2aにおける左右の船側外板の下端部には、上記船尾部模型3における左右の船側外板の上端部を、スライド機構として、たとえば、前後水平方向に延びるガイドレール9と、該ガイドレール9に長手方向スライド自在に取り付けたガイドブロック10を介在させて連結してある。これにより、上記主船体模型2に対し、船尾部分模型3を前後水平方向へ変位させることができるようにしてある。
【0031】
更に、上記主船体模型2と船尾部分模型3のロードセル5を介装した連結構造としては、たとえば、主船体模型2における船尾側突出部2aの下側に、前後方向に作用する力を計測可能なロードセル5を、船尾部分模型3の内側へ所要寸法突出させるようにして取り付けると共に、該ロードセル5の後端部と、その水平方向後側に位置する上記船尾部分模型3の後端壁の内側上端部位置とを、前後方向に所要寸法延びる連結部材11を介し連結して、上記船尾部分模型3の主船体模型2に対する前後方向の相対位置を固定できるようにしてある。これにより、上記船尾部分模型3に入力される前向きの力は、上記連結部材11とロードセル5を介して主船体模型2へ伝えることができるようにしてあると共に、該船尾部分模型3より主船体模型2へ伝えられる前向きの力の大きさを、上記ロードセル5で計測できるようにしてある。
【0032】
上記のように主船体模型2と船尾部分模型3を連結部材11とロードセル5を介して連結する際には、上記船尾部分模型3の船底外板及び船側外板の前端部と、それに対向する上記主船体模型2における船尾側の船底外板及び船側外板の後端部との間に前後方向に数ミリから十数ミリ程度の寸法の隙間が形成されるようにしておき、両者間の隙間を外側から覆うように配したアルミテープ等の幅広テープ状のシール材12の前後幅方向の両端縁部を、該船尾部分模型3の船底外板及び船側外板の前端縁部と、それに対向する上記主船体模型2における船尾側の船底外板及び船側外板の後端縁部に、それぞれ水密に貼り付ける。これにより、上記船尾部分模型3の船底外板及び船側外板の前端部と、それに対向する上記主船体模型2の船底外板及び船側外板の後端部との間の防水加工を施すようにしてある。更に、上記船尾部分模型3に水平方向前向きの力が作用するときに、該船尾部分模型3と主船体模型2との隙間が前後方向に多少縮まるとしても、上記シール材12の撓みにより吸収することで、船尾部分模型3の船底外板及び船側外板の前端部から、上記主船体模型2における船尾側の船底外板及び船側外板の後端部への直接的な力の伝達を防止できるようにしてある。なお、図1では、図示する便宜上、上記シール材12の厚み寸法を厚く示してあるが、実際には、上記ウォータージェット推進船の船体模型1を用いた航行試験時に主船体模型2及び船尾部分模型3の船底外板及び船側外板に沿って生じる水の流れに対する影響をほとんど無視できる程度の厚み寸法としてあるものとする。
【0033】
上記船尾部分模型3には、船底に開口させた吸入口8と船尾端に開口させた噴射ノズル6とを連絡するインテークダクト7と、該インテークダクト7内に、軸受14を介して船体側に回転自在に支持させた主軸13と、該主軸13の先端部に取り付けた軸流ポンプを構成するためのインペラ15とからなるウォータージェットポンプ4を設ける。
【0034】
更に、上記主船体模型2の所要個所に設置した駆動装置としての駆動モータ16の出力側に連結してある動力伝達用のシャフト17の先端部に、上記ウォータージェットポンプ4の主軸13を、スラストフリー継手として、たとえば、図示しないスプライン軸とスプライン軸受とからなるスラストフリー継手18を介して連結した構成としてある。これにより、上記駆動モータ16の運転により出力される回転駆動力を上記シャフト17とスラストフリー継手18を経て上記ウォータージェットポンプ4の主軸13へ伝えて、該主軸13と一体に上記インテークダクト7内のインペラ15を回転駆動することで、船底に設けた吸入口8よりインテークダクト7内へ吸入する水を、上記回転するインペラ15で昇圧した後、噴射ノズル6より後方へウォータージェットとして噴射できるようにしてある。この際、上記ウォータージェットの反力として生じるスラストが、ウォータージェットポンプ4の主軸13に前向きの力として作用するようになるが、この主軸13に作用する前向きの力は、該主軸13とシャフト17との間に介在させたスラストフリー継手18で吸収することにより、シャフト17を経て主船体模型2側に設置してある駆動モータ16へ伝達されることがないようにしてある。
【0035】
以上の構成としてあるウォータージェット推進船のスラスト計測装置を使用する場合は、上記駆動モータ16の運転によりウォータージェットポンプ4を駆動させ、船底に設けた吸入口8よりインテークダクト7へ吸入される水をウォータージェットポンプ4で昇圧させた後、噴射ノズル6よりウォータージェットとして噴射させ、その反力(反動)でウォータージェット推進船の船体模型1を前進させるようにする。この際、上記ウォータージェットの反力として発生するスラストは、上記ウォータージェットポンプ4が設けてある船尾部分模型3に一旦入力された後、連結部材11とロードセル5を介して主船体模型2へ伝えられることで、ウォータージェット推進船の船体模型1を水の抵抗に抗して前進させるための推進力として作用していることから、上記ウォータージェットの反力として発生してウォータージェット推進船の船体模型1に推進力として実際に作用しているスラストが、上記ロードセル5によって直接計測されるようになる。
【0036】
このように、本発明のウォータージェット推進船のスラスト計測装置によれば、駆動モータ16でウォータージェットポンプ4を駆動して噴射ノズル6よりウォータージェットを噴射させるようにしてなるウォータージェット推進装置によりウォータージェット推進船の船体模型1を実際に前進させる際に、上記ウォータージェット推進船の推進力として作用している上記ウォータージェット推進装置のスラストを、ロードセル5で直接計測できることから、該スラストの値を正確に計測することができる。
【0037】
しかも、上記ウォータージェット推進装置のスラストは、上記ロードセル5における実測値として、複雑な計算を要することなく容易に求めることができる。
【0038】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、上記前後方向に作用する力を計測するためのロードセル5は、主船体模型2に前後方向へ変位可能に保持させた船尾部分模型3の所要個所と、上記主船体模型2の所要個所との間に介装させるように連結して、該船尾部分模型3の主船体模型2に対する前後方向位置を固定すると共に、上記船尾部分模型3に入力される前向きの力が、すべて該ロードセル5を経てから主船体模型2へ伝えられる構成としてあればよく、したがって、上記ロードセル5を介装してなる船尾部分模型3と主船体模型2との連結構造は、たとえば、図2(イ)に示す如く、主船体模型2の船尾側突出部2aの所要個所に取り付けたロードセル5の下端部に、その下方となる船尾部分模型3の内部の所要個所に設けた連結部19を、上下方向の連結部材20を介して連結した構成としたり、図2(ロ)に示す如く、主船体模型2の内底部所要個所に取付部材21を介して取り付けたロードセル5の後端部に、その後方となる船尾部分模型3の内底部の所要個所に設けた連結部22を、前後方向に延びるロッド状の連結部材23を介して連結した構成等としてもよい。又、ロードセル5を船尾部分模型3側に設けるようにしてもよい等、船尾部分模型3に設けるウォータージェットポンプ4や、主船体模型2に設ける駆動モータ16及びシャフト17に干渉しない範囲内において、図示した以外のいかなる構成を採用してもよい。なお、図2(イ)(ロ)では、上記した構成を図示する便宜上、ウォータージェットポンプの記載は省略してある。
【0039】
ウォータージェットポンプ4の主軸13と駆動モータ16に連結してあるシャフト17との連結に用いるスラストフリー継手18は、回転駆動力のみを伝達し、軸方向の力は伝達しない構成としてあれば、ばねを用いた形式等、スプライン軸とスプライン軸受けからなる形式以外のいかなる形式のスラストフリー継手を用いるようにしてもよい。
【0040】
船尾部分模型3を主船体模型2に前後水平方向に変位可能に保持させることができれば、前後水平方向のガイドレール9と該ガイドレール9にスライド自在に取り付けたガイドブロック10以外のいかなる構成により船尾部分模型3を主船体模型2に保持させるようにしてもよい。
【0041】
主船体模型2と船尾部分模型3とを前後方向に分割する分割面は、垂直方向より前後方向に多少傾斜していてもよい。又、主船体模型2と船尾部分模型3は、船体模型1の船尾部を、ウォータージェットポンプ4のインテークダクト7の船底における吸入口8よりも所要寸法前方となる位置で船首尾方向と直交する垂直面か、又は、垂直方向より前後方向に多少傾斜した分割面のみによって分割した形状としてもよい。この場合は、たとえば、上記主船体模型2又は船尾部分模型3の一方に、主船体模型2又は船尾部分模型3の他方の内側へ延びる前後水平方向のガイドレールを設置し、該ガイドレールに、主船体模型2又は船尾部分模型3の他方に取り付けたガイドブロックを、スライド自在に取り付ける等の構成を採用するようにすればよい。
【0042】
主船体模型2と船尾部分模型3の船底外板と船側外板同士の間の隙間を水密にシールでき、且つ上記隙間の多少の縮まりを吸収できるようにしてあれば、テープ状以外のシール材12を用いるようにしてもよい。
【0043】
ウォータージェット推進船の船体模型としては、ウォータージェットポンプ4の数が単数又は複数の形式、駆動装置を駆動モータに代えてエンジンとした形式、1つの駆動装置で複数のウォータージェットポンプを駆動するようにした形式等、いかなる形式のものにも適用できること、その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のウォータージェット推進船のスラスト計測装置の実施の一形態を示す概略切断側面図である。
【図2】(イ)(ロ)はいずれも図1の装置における船尾部分模型と主船体模型との間のロードセルを介装してなる連結構造の変形例を示す概要図である。
【図3】従来、ウォータージェット推進装置のスラストを単体で計測するために従来提案されているウォータージェット試験装置の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1 ウォータージェット推進船の船体模型
2 主船体模型
3 船尾部分模型
4 ウォータージェットポンプ
5 ロードセル
11 連結部材
12 シール材
13 主軸
16 駆動モータ(駆動装置)
17 シャフト
18 スラストフリー継手(継手)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォータージェット推進船の船体模型を、ウォータージェットポンプ設置個所を含む船尾部分模型と、主船体模型との別体構造とし、該ウォータージェットポンプを装備した上記船尾部分模型を、上記主船体模型に前後水平方向に変位可能に保持させ、且つ該船尾部分模型と主船体模型との間に船尾部分模型の前向きの力の大きさを計測するロードセルを設け、上記ウォータージェットポンプの駆動により発生させるウォータージェットの反力として船尾部分模型に入力されるスラストを、上記ロードセルを通して主船体模型へ伝えると同時に計測できるようにした構成を有することを特徴とするウォータージェット推進船のスラスト計測装置。
【請求項2】
ロードセルを、主船体模型と船尾部分模型のいずれか一方に設置すると共に、該主船体模型と船尾部分模型のいずれか他方に、上記ロードセルを連結部材を介して連結するようにした請求項1記載のウォータージェット推進船のスラスト計測装置。
【請求項3】
船尾部分模型の船底外板及び船側外板の前端部と、主船体模型の船底外板及び船側外板の後端部との間に所要寸法の隙間が形成されるようにし、且つ該隙間の外側を、シール材で水密に貼り付けて、上記隙間をシールするようにした請求項1又は2記載のウォータージェット推進船のスラスト計測装置。
【請求項4】
船尾部分模型に装備させたウォータージェットポンプの主軸に、主船体模型に設置した駆動装置に連結してある動力伝達用のシャフトを、回転駆動力のみを伝えるようにした継手を介して連結した請求項1、2又は3記載のウォータージェット推進船のスラスト計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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