説明

ウォータージェット推進装置

【課題】コイルからの発熱量を低減させてインペラを導水管に対して回転駆動させることができるウォータージェット推進装置を提供すること。
【解決手段】ウォータージェット推進装置1は、図示しない船体に配された導水管2と、導水管2の内部の一部に導水管2に沿って設けられて導水管2に対して回転する回転管部3と、回転管部3の内周面に固定されたインペラ5とを備え、さらに、導水管2に対して固定され、N極及びS極を形成する界磁コイル12が配された界磁側固定子13と、界磁コイル12が形成するN極に対向して回転管部3に設けられたN極誘導子15、及び界磁コイル12が形成するS極に対向して回転管部3に設けられたS極誘導子16と、導水管2に対して固定され、N極誘導子15及びS極誘導子16に回転磁界を作用させる電機子コイル17が配された電機子側固定子18とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水流を後方に噴出してその反動で水上を航行する船に使用されるウォータージェット推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船艇の推進方式としてプロペラ推進が一般に採用されている。ただし、高速航行時には効率が悪くなることから、高速航行に適した推進装置として、ウォータージェット推進装置が知られている。このウォータージェット推進装置は、導水管内に配されたインペラを回転することにより、水没させた吸込口から導水管内に水を吸引して加圧し、吐出口から加圧水を噴射して船艇を推進させるものとして知られている。
【0003】
このようなウォータージェット推進装置としては、回転軸に配されたインペラを回転させるものが種々提案されている。しかし、インペラを高速回転させた状態で回転軸の剛性を維持するために、回転軸が大径になってしまい、導水管内で回転軸が水の抵抗となってしまう。また、導水管内に回転軸が配置されてしまうため、導水管と回転軸とのシールが必要になり、装置が大掛かりになる。そこで、インペラの代わりにインペラが配された管状のシュラウドを誘導電動機によって回転させるものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
このウォータージェット推進装置は、内側に固定子が配されたハウジングに対して、インペラーと回転子とが配されたインペラー集合体をハウジングの中空部に配することにより、固定子と回転子とを誘導電動機として協働させ、ハウジングに対してインペラ集合体を回転駆動させている。これにより、ハウジング内に水流を発生させることができる。
【特許文献1】特開平7−187081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記ウォータージェット推進装置において、回転子に磁界を発生させるためには大電流を流す必要があり、これによる排熱量も大きくなる。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、コイルからの発熱量を低減させてインペラを導水管に対して回転駆動させることができるウォータージェット推進装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、ウォータージェット推進装置に係る第1の解決手段として、船体に配された導水管の内部に設けられて前記導水管に対して回転する回転管部の内周面にインペラが固定されたウォータージェット推進装置であって、前記導水管に対して固定され、N極及びS極を形成する界磁コイルが配された界磁側固定子と、前記界磁コイルが形成するN極に対向して前記回転管部に設けられたN極誘導子、及び前記界磁コイルが形成するS極に対向して前記回転管部に設けられたS極誘導子と、前記導水管に対して固定され、前記N極誘導子及び前記S極誘導子に回転磁界を作用させる電機子コイルが配された電機子側固定子とを備え、前記界磁コイル及び前記電機子コイルが超電導コイルであることを特徴とする手段を採用する。
【0007】
この手段は、N極誘導子にN極を誘導し、かつS極誘導子にS極を誘導することができ、電機子コイルが発生する回転磁界との間で回転管部に導水管に対する回転力を発生させることができる。この際、界磁コイル及び電機子コイルが超電導コイルなので、コイルに電流が流れても発熱量を抑えることができる。また、導水管は回転しないので、界磁コイル及び電機子コイルを固定して配置することができ、超電導コイルへの給電又は超電導コイルからの配電や冷却の際に、スリップリングやロータリージョイント等の摺動部材や回転継手部材の使用を止めることができる。さらに、N極誘導子及びS極誘導子には常に一定の磁極をそれぞれ誘導させることができ、各誘導子を永久磁石の代わりに使用することができる。
【0008】
また、ウォータージェット推進装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記N極誘導子と前記S極誘導子とが、前記界磁側固定子を間に挟んで前記回転管部の一端側と他端側とにそれぞれ分かれて周方向に複数配されていることが好ましい。
【0009】
また、ウォータージェット推進装置に係る第3の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記N極誘導子及び前記S極誘導子が、前記界磁側固定子と前記電機子側固定子との間に挟まれて配され、前記界磁側固定子と前記電機子側固定子とが、互いにそれぞれ一定の間隔を設けて、前記導水管に配されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コイルからの発熱量を低減させて、インペラを導水管に対して回転駆動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の第1の実施形態について、図1を参照して説明する。
本発明の第1の実施形態に係るウォータージェット推進装置1は、図示しない船体に配された導水管2と、導水管2の内部の一部に導水管2に沿って設けられて導水管2に対して回転する回転管部3と、回転管部3の内周面に固定されたインペラ5とを備えている。
【0012】
インペラ5の中心部には、導水管2の中心軸線C方向に沿って延びる第一支持軸6の一端6aが接続されている。第一支持軸6の他端6bは、導水管2の内周面から中心軸線C方向に延びる第二支持軸7と軸受8を介して回転自在に接続されている。即ち、回転管部3は、この軸受8を介して導水管2に対して回転自在に接続されている。導水管2と回転管部3との間には、導水管2内に導入された海水の一部が挿通可能な隙間10が形成されている。
【0013】
ウォータージェット推進装置1は、超電導電動機11を動力源として備えている。この超電導電動機11は、導水管2に対して固定され、N極及びS極を形成する界磁コイル12が配された界磁側固定子13と、界磁コイル12が形成するN極に対向して回転管部3に設けられたN極誘導子15、及び界磁コイル12が形成するS極に対向して回転管部3に設けられたS極誘導子16と、導水管2に対して固定され、N極誘導子15及びS極誘導子16に回転磁界を作用させる電機子コイル17が配された電機子側固定子18とを備えている。
【0014】
界磁側固定子13は、パーメンダー、珪素鋼板、鉄、パーマロイ等の磁性体からなり、設置面に固定されるヨーク20と、ヨーク20に埋設されて界磁コイル12を冷却する断熱冷媒容器21とを備えている。
ヨーク20は、回転管部3を取り囲むように環状に形成されている。
界磁コイル12は、ビスマス系、イットリウム系といった超電導材から構成されており、ヨーク20に沿って巻回されて断熱冷媒容器21内に収納されている。
【0015】
N極誘導子15及びS極誘導子16は、パーメンダー、珪素鋼板、鉄、パーマロイ等の磁性体から構成されており、界磁側固定子13を間に挟んで回転管部3の一端3a側と他端3b側とにそれぞれ分かれて、回転管部3の外周面の周方向に等間隔に八個ずつ配されている。
N極誘導子15の一端面15aは、界磁コイル12のN極発生位置と対向して配され、他端面15bは、後述する磁性体延長部23Aと対向するように配される。一方、S極誘導子16の一端面16aは、界磁コイル12のS極発生位置と対向して配され、他端面16bは、後述する磁性体延長部23Bと対向するように配される。
【0016】
電機子側固定子18は、FRPやステンレス等の非磁性体からなる固定子本体22と、後述する円柱状磁性体24の両端に一端面23aがそれぞれ対向するとともに、他端面23bが径方向からN極誘導子15又はS極誘導子16に対向する一対の磁性体延長部23A,23Bとを備えており、導水管2の内周面の周方向に等間隔に六個配されている。
【0017】
固定子本体22には、断熱冷媒容器21が埋設されている。この断熱冷媒容器21内には、ビスマス系、イットリウム系といった超電導材からなる電機子コイル17が配されている。電機子コイル17の中空部には、大きな界磁磁束密度を得るために、パーメンダー、珪素鋼板、鉄、パーマロイ等の高透磁性材料からなる円柱状磁性体24が配されている。
【0018】
磁性体延長部23Aの一端面23aは、電機子コイル17の円柱状磁性体24と対向して配され、他端面23bは、N極誘導子15の他端面15bと対向するように配されている。一方、磁性体延長部23Bの一端面23aは、電機子コイル17の円柱状磁性体24と対向して配され、他端面23bは、S極誘導子16の他端面16bと対向するように配されている。
【0019】
界磁コイル12には、図示しない船体に配された直流電源25が直流電気配線26を介して接続されている。また、電機子コイル17には、船体に配された交流電源27が交流電気配線28を介して接続されている。
断熱冷媒容器21には、船体に配されて液体窒素を冷媒とする冷却器30が冷却配管31を介して接続されている。この冷却器30は、不図示の駆動電源と接続されている。
【0020】
次に、本実施形態に係るウォータージェット推進装置1の作用・効果について説明する。
まず、冷却器30を駆動して、界磁コイル12及び電機子コイル17をそれぞれ液体窒素によって冷却して超電導状態とする。
【0021】
次に、直流電源25から直流電流を界磁コイル12に流す。このとき、界磁コイル12の軸方向の端面にN極及びS極が形成される。これによって、界磁コイル12のN極発生位置と対向するN極誘導子15の一端面15aにはS極が誘導され、他端面15bにN極が導出される。一方、界磁コイル12のS極発生位置と対向するS極誘導子16の一端面16aにはN極が誘導され、他端面16bにS極が導出される。
【0022】
この状態で、交流電源27から三相交流を電機子コイル17に流す。このとき、三相間の位相差によって、円柱状磁性体24のまわりに回転する回転磁界が発生する。この回転磁界は、電機子コイル17に対向する一対の磁性体延長部23A,23Bの一端面23aから一対の磁性体延長部23A,23Bに導入されて、他端面23bに導出される。
【0023】
この際、N極誘導子15及びS極誘導子16は、円周上に等間隔に八個ずつ配され、電機子コイル17は、N極誘導子15及びS極誘導子16と対向するように円周上に等間隔に六個配されているので、N極誘導子15及びS極誘導子16と電機子コイル17とは一部が重なり合うようにして対向する。従って、電機子コイル17に発生する回転磁界がN極誘導子15及びS極誘導子16に対して、中心軸線C回りの回転力を発生させる。
【0024】
こうして、回転管部3が導水管2内で中心軸線C回りに回転するのにともなってインペラ5が第一支持軸6とともに回転する。従って、導水管2及び回転管部3内に海水が導入され、インペラ5が回転することによって海水が加圧され、推進力を船体に発生させる。
【0025】
このウォータージェット推進装置1によれば、N極誘導子15にN極を誘導し、S極誘導子16にS極を誘導することができ、電機子コイル17が発生する回転磁界との間で回転管部3に導水管2に対する回転力を発生させることができる。この際、界磁コイル12及び電機子コイル17が超電導コイルなので、コイルに電流が流れても発熱量を抑えることができる。また、導水管2は回転しないので、界磁コイル12及び電機子コイル17を固定して配置することができ、超電導コイルへの給電や冷却の際に、スリップリングやロータリージョイント等の摺動部材や回転継手部材の使用を止めることができる。さらに、N極誘導子15及びS極誘導子16には常に一定の磁極をそれぞれ誘導させることができ、各誘導子15,16を永久磁石の代わりに使用することができる。
【0026】
次に、第2の実施形態について図2を参照して説明する。
なお、上述した第1の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第2の実施形態と第1の実施形態との異なる点は、本実施形態に係るウォータージェット推進装置40のN極誘導子41及びS極誘導子42が、界磁コイル12を有し、互いに対向するように導水管43の内周面から径方向内方に突出して形成された一対の界磁側固定子45A,45Bと電機子コイル17を有する電機子側固定子46との間に挟まれて配され、一対の界磁側固定子45A,45Bと電機子側固定子46とが、互いにそれぞれ一定の間隔を設けて、中心軸線Cに沿って配されているとした点である。
【0027】
一対の界磁側固定子45A,45Bは、ヨーク47と、ヨーク47に埋設されて互いに対向して配された断熱冷媒容器21とを備えている。ヨーク47は、円板状に形成され、中心部には回転管部48を回転自在に支持する軸受50が配されている。
【0028】
回転管部48には、円盤形状とされてFRPやステンレス等の非磁性体からなり、回転管部48の外周面から径方向外方に突出して形成された一対の回転子本体51A,51Bが配されている。
N極誘導子41は、回転管部48に対して点対称となる位置に、一対の回転子本体51A,51Bの板幅方向に貫通して形成されている。この際、N極誘導子41の一端面41aが、界磁コイル12のN極発生位置と対向するように、かつ、他端面41bが、電機子コイル17と対向するように配されている。
【0029】
S極誘導子42は、回転管部48に対して点対称となる位置、かつ、N極誘導子41とは90度の位相差を有する位置に、一対の回転子本体51A,51Bの板幅方向に貫通して形成されている。この際、S極誘導子42の一端面42aが、界磁コイル12のS極発生位置と対向するように、かつ、他端面42bが、電機子コイル17と対向するように配されている。
【0030】
電機子コイル17は、N極誘導子41及びS極誘導子42に対向するように、一対の界磁側固定子45A,45Bに挟まれて導水管43の内周面から径方向内方に突出して形成された電機子側固定子46に配されている。
電機子側固定子46は、FRPやステンレス等の非磁性体からなる円板状の固定子本体52を備えている。固定子本体52の中心部には、回転管部48が貫通する貫通孔52aが配されている。固定子本体52の同心円上には、断熱冷媒容器21が複数、かつ等間隔に埋設されている。この断熱冷媒容器21内に電機子コイル17が配されている。
【0031】
次に、本実施形態に係るウォータージェット推進装置40の作用・効果について説明する。
まず、冷却器30を駆動して、界磁コイル12及び電機子コイル17をそれぞれ液体窒素によって冷却して超電導状態とする。
【0032】
次に、直流電源25から直流電流を界磁コイル12に流す。このとき、例えば、界磁側固定子45Aでは、界磁コイル12の径方向外側にN極及び径方向内側にS極が形成され、界磁側固定子45Bでは、界磁コイル12の径方向内側にN極及び径方向外側にS極が形成される。このように、一対の界磁側固定子45A,45Bでは、直流電流の向きに応じてそれぞれ異なる磁極の向きを発生させる。これによって、電機子側固定子46と対向するN極誘導子41の一端面41aにはS極が誘導され、N極誘導子41の他端面41bにはN極が導出される。
一方、電機子側固定子46と対向するS極誘導子42の一端面42aにはN極が誘導され、S極誘導子42の他端面42bにはS極が導出される。
【0033】
この状態で、交流電源27から三相交流を電機子コイル17に流す。このとき、三相間の位相差によって、電機子コイル17には回転管部48のまわりに回転する回転磁界が発生する。この回転磁界がN極誘導子41及びS極誘導子42に対して、一対の回転子本体51A,51B間で同一方向の回転管部48回りの回転力を発生させる。
こうして、回転管部48が導水管43内で中心軸線C回りに回転するのにともなってインペラ5が回転し、第1の実施形態と同様に推進力を船体に発生させる。
【0034】
このウォータージェット推進装置40によれば、第1の実施形態と同様の効果を奏することができる。特に、界磁コイル12や電機子コイル17が中心軸線C方向に沿って並んで配されているので、アキシャルギャップ型の電動機として機能させることができ、高出力を発生させることができる。
【0035】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るウォータージェット推進装置の内部構造を示す断面概略図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るウォータージェット推進装置の内部構造を示す断面概略図である。
【符号の説明】
【0037】
1,40 ウォータージェット推進装置、2,43 導水管、3,48 回転管部、5 インペラ、12 界磁コイル、13,45A,45B 界磁側固定子、15,41 N極誘導子、16,42 S極誘導子、17 電機子コイル、18,46 電機子側固定子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に配された導水管の内部に設けられて前記導水管に対して回転する回転管部の内周面にインペラが固定されたウォータージェット推進装置であって、
前記導水管に対して固定され、N極及びS極を形成する界磁コイルが配された界磁側固定子と、
前記界磁コイルが形成するN極に対向して前記回転管部に設けられたN極誘導子、及び前記界磁コイルが形成するS極に対向して前記回転管部に設けられたS極誘導子と、
前記導水管に対して固定され、前記N極誘導子及び前記S極誘導子に回転磁界を作用させる電機子コイルが配された電機子側固定子とを備え、
前記界磁コイル及び前記電機子コイルが超電導コイルであることを特徴とするウォータージェット推進装置。
【請求項2】
前記N極誘導子と前記S極誘導子とが、前記界磁側固定子を間に挟んで前記回転管部の一端側と他端側とにそれぞれ分かれて周方向に複数配されていることを特徴とする請求項1に記載のウォータージェット推進装置。
【請求項3】
前記N極誘導子及び前記S極誘導子が、前記界磁側固定子と前記電機子側固定子との間に挟まれて配され、
前記界磁側固定子と前記電機子側固定子とが、互いにそれぞれ一定の間隔を設けて、前記導水管に配されていることを特徴とする請求項1に記載のウォータージェット推進装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−245948(P2007−245948A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−72838(P2006−72838)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)