説明

ウシミオグロビン部分ペプチドに対する抗体、及び当該抗体を用いた検査方法並びに検査用キット

【課題】特に食品中の、牛肉に起因するウシ由来成分を簡便に検出する方法の提供。
【解決手段】ウシミオグロビンに対し高い反応性及び特異性を有するモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体、当該モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ、当該抗体を用いてタンパク質抽出溶液からウシミオグロビンを高感度かつ特異的に検出する方法、並びに該抗体を備えるキット。免疫学的測定が、ELISA法又はイムノクロマト法による、上記の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウシミオグロビン部分ペプチドに対するモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体、当該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、当該モノクローナル抗体及び/又はポリクローナル抗体を用いたウシミオグロビンの検出方法、食品中のウシ由来成分を検出する方法、並びにキットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、食品の安全性への関心が高まっている。特に食物アレルギーについては、重度の場合、致命的な障害をもたらす場合もあるため、食物アレルギー症状を有する消費者のみならず、食品製造業者・監督管庁にとっても、食品の安全性を保全する立場から極めて重要な課題である。現在までに、厚生労働省は、卵、乳、小麦、そば、落花生の5品目(以下「特定原材料」という。)を含む加工食品については、食品衛生法施行規則により、これらの特定原材料を含む旨の表示の義務を製造者に義務づけている。また、あわび、いか、いくら、えび、オレンジ、かに、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチンの20品目(以下「特定原材料に準ずるもの」という。)についても、食品衛生法施行規則により、これらを原材料として含む加工食品については、これらを原材料として含む旨を可能な限り表示するよう努めるよう推奨している(非特許文献1)。
【0003】
現在までに特定原材料5品目については、検査法が確立され、食品中に特定原材料を含むか否か、科学的に検証することができるようになっている(特許文献1、2、3、4)。しかし、特定原材料に準ずるもの20品目については十分な研究が行われておらず、科学的検証法の確立には至っていない。20品目のうち、特に牛肉においては、近年BSE問題が社会的な懸念となっていることもあり、簡便な検出方法が待ち望まれていた。
【特許文献1】特開2006−22078
【特許文献2】特開2003−294748
【特許文献3】特開2003−294738
【特許文献4】特開2003−294737
【非特許文献1】厚生労働省医薬局食品保健部企画課長・食品保健部監視安全課長通知、アレルギー物質を含む食品に関する表示について、食企発第2号 食監発第46号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特に食品中の、牛肉に起因するウシ由来成分を簡便に検出することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
加工食品から特定の食品を検出するには、食品中の指標となるタンパク質に特異的に反応する抗体を用いた免疫学的手法が利用されている。本発明においても、先ず牛肉タンパク質の中から指標となるタンパク質を選択する必要があるが、牛肉の筋原線維タンパク質や筋形質タンパク質のアミノ酸配列は他の畜種との相同性が高く、免疫原として用いた場合、多くの畜種との交差性がでる可能性が高い。食品として用いられる主な動物種としてウシ、ブタ、鶏等が挙げられるが、特にブタはウシと近縁の哺乳類であるため、交差性がでる可能性が比較的高く、当該交差性の問題を解決しないと特異的な検出は望めない。さらに、他の畜種との相同性が高いタンパク質を免疫原とした場合、免疫動物が抗原として認識せず、抗体作製ができない可能性もある。
【0006】
そこで、本発明者らは、指標とするタンパク質には肉タンパク質の中でも畜種によるアミノ酸配列相同性が低いミオグロビンを選択した。ウシとマウスにおけるミオグロビンのアミノ酸配列相同性はやや低いものの、力価が上がりにくく、アジュバンドの変更や免疫回数など様々な改善を行った。その結果、ウシミオグロビンに対するモノクローナル抗体を作製できた。ウシミオグロビンに対するポリクローナル抗体は、ウサギに免疫して得られた抗血清より調製した。その反応性を検討したところ、いずれの抗体もウシミオグロビンを認識することを見いだした。また、さらに他の畜種、特に食肉加工において使用頻度の高い豚肉と鶏肉との交差反応性をなくすのを目的に、ブタとトリのミオグロビンとアミノ酸配列が異なる部位を検索し、アミノ酸1文字表記で、aevkhlaeshan(配列番号1)及びaqykvlgfhg(配列番号2)のアミノ酸配列を有するペプチドを見いだした。さらに、当該アミノ酸配列を有するペプチドに対する抗体を作製し、これらの抗体が高い特異性及び反応性を有することを見いだした。また、上記のポリクローナル抗体、モノクローナル抗体を用いた免疫学的測定により牛肉タンパク質を特異的に検出できることを見いだし、本発明を完成させた。
【0007】
よって、本発明は、以下の項1〜9の、例えば様々な加工条件の食品中のウシミオグロビンと、高い反応性を有するモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体、当該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、当該抗体を用いてタンパク質抽出溶液からウシミオグロビンを高感度かつ特異的に検出する方法、並びに該抗体を備えるキットを提供する。
項1.aevkhlaeshan(配列番号1)又はaqykvlgfhg(配列番号2)のアミノ酸配列を有するペプチドを用いて得られる、ウシミオグロビンに対するモノクローナル抗体。
項2.受領番号FERM AP-21336のハイブリドーマから製造される、ウシミオグロビンに対するモノクローナル抗体。
項3.請求項1に記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
項4.受領番号FERM AP-21336のハイブリドーマ。
項5.aevkhlaeshan(配列番号1)又はaqykvlgfhg(配列番号2)のアミノ酸配列を有するペプチドを用いて得られる、ウシミオグロビンに対するポリクローナル抗体。
項6.請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体及び/又は請求項5に記載のポリクローナル抗体を用いた免疫学的測定により、ウシミオグロビンを検出する方法。
項7.請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体及び/又は請求項5に記載のポリクローナル抗体を用いた免疫学的測定により、食品中のウシ由来成分を検出する方法。
項8.免疫学的測定が、ELISA法又はイムノクロマト法による、請求項6又は7に記載の方法。
項9.請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体及び/又は請求項5に記載のポリクローナル抗体を含むことを特徴とする、ウシミオグロビンを検出するためのキット。
項10.請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体及び/又は請求項5に記載のポリクローナル抗体を含むことを特徴とする、食品中のウシ由来成分を検出するためのキット。
【0008】
本発明の抗体は、aevkhlaeshan(配列番号1)又はaqykvlgfhg(配列番号2)のアミノ酸配列を有するペプチドを用いて得られるモノクローナル抗体であり、好ましくは、受領番号FERM AP-21336のハイブリドーマ(当該ハイブリドーマは、受領機関:独立行政法人 産業技術総合研究所 特許微生物寄託センターに、平成19年8月10日に受領された)が産生するモノクローナル抗体である。
【0009】
本発明の抗体は、また、aevkhlaeshan(配列番号1)又はaqykvlgfhg(配列番号2)のアミノ酸配列を有するペプチドを用いて得られるポリクローナル抗体である。
【0010】
これらの本発明の抗体は、ウシミオグロビンに対し、高い反応性及び特異性を有する。本発明の抗体は、また、加熱及び化学薬品等による変性処理を加えた抽出物に含まれるウシミオグロビンに対しても、高い反応性及び特異性を有する。
【0011】
本発明のハイブリドーマは、aevkhlaeshan(配列番号1)又はaqykvlgfhg(配列番号2)のアミノ酸配列を有するペプチドを用いて得られるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマであり、好ましくは受領番号FERM AP-21336のハイブリドーマである。
【0012】
本発明の抗体及びハイブリドーマは、以下のようにして製造される。
【0013】
本発明のモノクローナル抗体は、例えば、aevkhlaeshan(配列番号1)又はaqykvlgfhg(配列番号2)のアミノ酸配列を有するペプチドを、動物に免疫して得られたハイブリドーマから産生され、好ましくは、受領番号FERM AP-21336のハイブリドーマから産生される。
【0014】
また、本発明のポリクローナル抗体は、例えば、aevkhlaeshan(配列番号1)又はaqykvlgfhg(配列番号2)のアミノ酸配列を有するペプチドを動物に免疫し、得られた抗血清より調製される。
【0015】
また、本発明のハイブリドーマは、例えば、aevkhlaeshan(配列番号1)又はaqykvlgfhg(配列番号2)のアミノ酸配列を有するペプチドを、動物に免疫して得られる、上記本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマであり、特に好ましくは受領番号FERM AP-21336のハイブリドーマである。
【0016】
免疫に用いられるペプチドは、化学的合成法、微生物等の生物を工場として用いる遺伝子組み換え法、又は無細胞合成系を用いた合成法などにより得られるが、特に化学的合成法が好ましい。
【0017】
ペプチドはそのままでは免疫応答を起こし得ないほどに分子量が小さいので、適当なタンパク質にコンジュゲートされ、免疫原として使用される。使用されるコンジュゲートとしては、ウシ血清アルブミン、卵白アルブミン、カコ貝ヘモシアニン(KLH)が挙げられるが、特にカコ貝ヘモシアニン(KLH)が好ましい。
【0018】
免疫に用いられる動物としては、例えば哺乳動物としてはマウス、ラット、ウサギ、ヤギ、サル等が挙げられるが、マウス又はウサギが特に好ましい。
【0019】
本発明のモノクローナル抗体は、例えば配列番号1又は2のアミノ酸配列を有するペプチドにKLHをコンジュゲートしたものを免疫原としてハイブリドーマを作製した後、ウシミオグロビン、さらに好ましくは変性状態のウシミオグロビンに反応する抗体を産生するハイブリドーマを選択し、これが産生するモノクローナル抗体を精製することで得られる。免疫の惹起は、通常1ng〜10mgの量の免疫原を10〜14日の日数を開けて1〜5回に分けた操作で行うことができる。十分な免疫後、抗体産生能を有する器官(脾臓やリンパ節)を動物から無菌的に摘出し、細胞融合時の親株とする。なお、摘出する器官としては、脾臓が最も好ましい。細胞融合のパートナーとしては、ミエローマ細胞が用いられる。ミエローマ細胞には、マウス由来、ラット由来、ヒト由来等があるが、マウス由来が好ましい。細胞融合には、ポリエチレングリコールを用いる方法、細胞電気融合法等が挙げられるが、ポリエチレングリコールを用いる方法が簡便で好ましい。細胞融合しなかった脾臓細胞やミエローマ細胞とハイブリドーマとの選択は、例えばHATサプリメント(ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン)を添加した血清培地で培養することで行うことができる。
【0020】
ウシミオグロビンに対する抗体を産生するハイブリドーマの選択は、前述の培養上清を採取し、ウシミオグロビン、さらに好ましくは変性状態のウシミオグロビン、を固相化したEIAプレートでの直接ELISAが好ましい。直接ELISAの結果、強い発色がみられたウェルを選択し、そのウェルの細胞をクローニングに供する。その強く発色した培養上清に対応するハイブリドーマを、ウシミオグロビン、さらに好ましくは変性状態のウシミオグロビンに反応する抗体を産生するハイブリドーマとして選択する。さらに、抗体産生ハイブリドーマを選別し単一化する作業(クローニング)が必要であり、限界希釈法、フィブリンゲル法、セルソーターを用いる方法等があるが限界希釈法が簡便で好ましい。これにより、目的とするモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを獲得することができる。
【0021】
上記方法により得られたハイブリドーマを培養することで、培養上清中にモノクローナル抗体を得ることができる。さらに、大量のモノクローナル抗体を得るには、in vivoおよびin vitroによる方法があるが、in vivoによる方法、特にマウス腹水で得る方法が好ましい。培養上清やマウス腹水からのモノクローナル抗体の精製は、硫酸アンモニウム塩折法、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー等により行われるが、精製純度や簡便性を考慮するとアフィニティークロマトグラフィーが最も好ましい。さらに高純度のモノクローナル抗体を得る必要がある場合には、アフィニティークロマトグラフィーの後に最終精製としてゲルろ過クロマトグラフィーやイオン交換クロマトグラフィー等を行うのが好ましい。
【0022】
また、本発明のモノクローナル抗体は、例えばNishinaka,S. et al. Int Arch Allergy Appl Immunol. 1989;89(4):416-9、Nishinaka,S. et al. J Vet Med Sci. 1996 Nov;58(11):1053-6等に記載の方法に従って、IgYを産生する鶏等の鳥類を用いて作製することもできる。
【0023】
本発明のポリクローナル抗体は、例えば配列番号1又は2のアミノ酸配列を有するペプチドをKLHにコンジュゲートしたものを免疫原とし、これらをウサギに免疫して、得られた抗血清より、それぞれのポリクローナル抗体を精製することで得られる。抗血清からの精製は、上記モノクローナル抗体の精製と同様の手法で行うことができる。
【0024】
また、本発明のポリクローナル抗体は、例えば特許文献(特開2002−30100)に記載の方法に従って、IgYを産生するアヒル等の鳥類を用いて作製することもできる。
【0025】
本発明の方法は、本発明のモノクローナル抗体及び/又はポリクローナル抗体を使用した免疫学的測定により、ウシミオグロビンを検出する方法に係るものである。免疫学的測定方法としては、ウエスタンブロット法(WB)、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、蛍光免疫測定法(FIA)等、検出系に西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)やアルカリ性ホスファターゼ(ALP)等の酵素、ヨウ素125 等の放射性同位元素(RI)、アクリジニウム化合物等の発光物質あるいはフルオレセインイソチオシアネート等の蛍光物質などを標識した抗体または抗原を用いる測定法等があるが、これらに限定されるものではない。本発明の方法では、特に酵素免疫測定法(EIA)の一種である酵素免疫定量法(ELISA)が好ましく用いられ、特にELISAがより好適である。また、簡便性に優れるイムノクロマト法も好適である。
【0026】
本発明のウシミオグロビンを検出する方法は、本発明の抗体と、ウシ由来成分を含む可能性のある組成物を使用する。組成物としては、例えば食品(特に加工食品)、飼料、実験用試薬、化粧品、医薬品、医薬部外品、医療用具等が挙げられる。ウシミオグロビンは、牛肉中に豊富に含まれることから、本発明の検出方法により、例えば食品(特に加工食品)、飼料、実験用試薬、化粧品、医薬品、医薬部外品、医療用具等に含まれる、牛肉に起因するウシ由来成分を検出することも可能である。
【0027】
本発明の方法は、1ng/ml以上の濃度のウシミオグロビンを検出することが可能である。特に、1〜200ng/ml、好ましくは1〜100ng/mlの濃度のウシミオグロビンを検出することが可能である。
【0028】
なお、本明細書において、「ウシミオグロビンを検出」とは、「ウシミオグロビンの存在を検出」するという意味であり、ウシミオグロビンの部分ペプチドを検出することで、ウシミオグロビンの存在を検出するという意味を含む。
【0029】
一般的に食品からのタンパク質抽出には、水、リン酸緩衝生理食塩水、アルコールなどが用いられる。しかし食品中のタンパク質は様々な加工工程を経ることで変性するため、上記溶媒だけではタンパク質抽出が困難となる場合がある。食品からのタンパク質の抽出効率改善は、上記の溶媒に尿素、SDSなどの界面活性剤、塩酸グアニジンなどのタンパク質変性剤やメルカプトエタノール、ジチオスレイトールなどの還元剤を添加することで達成することができる。そのため、本発明のウシミオグロビンを検出する方法に用いられる、食品からのタンパク質抽出は、上述の変性剤と還元剤(好ましくはSDSとメルカプトエタノール)を添加して12時間以上振盪抽出することにより行われ得る。この抽出処理により、加工条件が異なる食品中のウシミオグロビンは抽出溶液の中で変性状態になり、本発明の抗体を用いたELISAやウエスタンブロット法等の免疫学的手法により食品中のウシミオグロビンを検出することができる。
【0030】
本発明の抗体を備えた、ウシミオグロビンを検出するためのキットも、本発明の範囲に含まれる。当該キットは、本発明のモノクローナル抗体及び/又はポリクローナル抗体を備え、好ましくは使用される免疫学的測定法に必要な試薬が必要量備えられたものである。このようなキットとしては、例えば、ELISA法を用いてウシミオグロビン検出を行うためのキットであって、本発明のモノクローナル抗体及び/又はポリクローナル抗体が、固相吸着用抗体及び/又は検出用標識化抗体として用いられ、当該検出用標識化抗体はHRPにより標識され、その他のELISA法に必要となる試薬(例えばマイクロプレート、抽出溶液、緩衝液等)が備えられたキットが挙げられる。あるいは、毛細管現象により、抗体がメンブレン上を移動する際、検体中の抗原と標識抗体及び補足抗体の3者により抗原抗体反応複合体が形成され、当該標識抗体の標識を確認する測定方法であるイムノクロマト法を用いて、ウシミオグロビン検出を行うためのキットであって、本発明のモノクローナル抗体及び/又はポリクローナル抗体が、補足抗体及び/又は検出用標識抗体として用いられ、標識物質としては主には金コロイドが利用される。その他のイムノクロマト法に必要となる試薬(例えばイムノクロマト用テストプレート、抽出溶液、緩衝液等)が備えられたキットが挙げられる。
【0031】
また、ウシミオグロビンは、牛肉中に豊富に含まれることから、当該キットにより、例えば食品(特に加工食品)、飼料、実験用試薬、化粧品、医薬品、医薬部外品、医療用具等に含まれる、牛肉に起因するウシ由来成分を検出することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本実施例は本発明を何ら限定するものではない。なお、以下aevkhlaeshan(配列番号1)のアミノ酸配列を有するペプチドを「ペプチドA」と、また、aqykvlgfhg(配列番号2)のアミノ酸配列を有するペプチドを「ペプチドB」と表記する。
【0033】
実施例1:抗ペプチド抗体の作製
ウシミオグロビンから他の畜種とアミノ酸残基の異なる部分配列を2部位(ペプチドA、ペプチドB)選択し(図1)、化学合成法により、ペプチドAのN末端にさらにシステインが付加されたペプチド(アミノ酸一文字表記でcaevkhlaeshanのアミノ酸配列を有するペプチド)、及び、ペプチドBのN末端にさらにメチオニン−システインが付加されたペプチド(アミノ酸一文字表記でmcaqykvlgfhgのアミノ酸配列を有するペプチド)の、2種類の合成ペプチドを作製した。ペプチドA及びペプチドBのN末端に当該アミノ酸を付加したのは、これらのペプチドをカコ貝ヘモシアニン(KLH)にコンジュゲートさせるために、ペプチドにシステイン残基を導入する必要があるためである。モノクローナル抗体の作製においては、これらのペプチドをそれぞれカコ貝ヘモシアニン(KLH)にコンジュゲートしたものを免疫原とし、それぞれの免疫原をBalb/cマウス(雌、8週齢)に免疫した。等量のフロイント完全アジュバントと混和して免疫用エマルジョンを作製し、初回免疫では、このエマルジョンをマウスあたりKLHが50μgとなるように腹腔内投与した。二次免疫では、初回免疫から2週間後にフロイント不完全アジュバントと混和したエマルジョンをマウスあたりKLHが50μgとなるように腹腔内投与した。二次免疫から10日目に抗体力価を測定し、十分な抗体力価が得られたマウスについては、二次免疫から2週間後にマウスあたりKLHが50μgとなるように尾静脈に投与し、最終免疫を行った。
【0034】
最終免疫から2日後に脾臓を無菌的に摘出して脾臓細胞を得、培養していたミエローマ細胞と50%ポリエチレングリコール条件下で細胞融合を行い、ハイブリドーマを作製した。細胞融合後、HATサプリメントを添加した血清培地で約2週間培養してハイブリドーマを選択した後、SDSと加熱処理により変性させたウシミオグロビンを固相化したEIAプレートを用いて培養上清の抗体力価測定を行い、変性ウシミオグロビンに反応する抗体を産生するハイブリドーマの存在するウェルを選択した。
【0035】
変性ウシミオグロビンと反応する抗体を産生するハイブリドーマが存在するウェルの細胞数をカウントした後、クローニング用試薬(BM condimed H1)を10%添加した血清培地で限界希釈法によりハイブリドーマのクローニングを行い、この作業を2回繰り返すことで、変性ウシミオグロビンに反応するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをいくつか得た。最終的に、腹水からアフィニティーカラムを用いて抗ペプチドAモノクローナル抗体と抗ペプチドBモノクローナル抗体を精製した。一方、ポリクローナル抗体の作製は、KLHにコンジュゲートしたペプチドA、もしくはBを免疫原として、それぞれの免疫原をウサギに免疫し、得られた抗血清よりそれぞれのポリクローナル抗体をアフィニティーカラムで精製することで行った。
【0036】
実施例2:ウシミオグロビンの精製
ウシモモ肉を材料としてミオグロビンの精製を行った。ウシモモ肉から脂肪を取り除き、ミンチにして十分に混合した。100gを量りとり、2倍量の蒸留水を加えてよく混合し、30分間氷中で攪拌した。4,500×g、15分間、4℃で遠心した後、上清をろ過し、ろ液を肉抽出液とした。肉抽出液に硫酸アンモニウム(硫安)を濃度が90%となるように加え、1時間氷中で攪拌した。20,000×g、15分間、4℃で遠心した後、上清をろ過し、ろ液のpHを6.85に調整した後、硫安濃度が95%となるように硫安を加え、1時間氷中で攪拌した。20,000×g、15分間、4℃で遠心した後、上清を取り除き、沈殿に蒸留水を添加して溶解し、これを粗ミオグロビン画分とした。粗ミオグロビン画分を20mM Tris-HCl (pH8.3)(A液)に置換した後、同じバッファーで平衡化したQAEカラム(Toyopearl QAE 550M)にインジェクトし、A液からB液(20mM Tris-HCl、0.5M NaCl (pH8.3))のグラジエントをかけ、イオン強度により分離し、ピークのみられた画分を分取した。分取した画分は電気泳動でバンドの分子量と純度を確認後、N末端のアミノ酸配列からウシミオグロビンと同定した。
【0037】
参考例1:変性ウシミオグロビン抗体の作製
サンドイッチELISAでは固相化抗体と標識化抗体でそれぞれエピトープ部分の異なる抗体が必要となる。食品によって程度は異なるが、加工工程を経た食品中のタンパク質は変性しているため、変性タンパク質に反応する抗体が望ましい。実施例2にて精製したウシミオグロビン1mg/mlにSDSを1%となるように加えた後、95℃、10分間加熱処理を行なったものを変性ウシミオグロビンとした。これを免疫原とし、モノクローナル抗体を得るためにBalb/cマウスに免疫した。等量のフロイント完全アジュバントと混和して免疫用エマルジョンを作製し、初回免疫では、このエマルジョンをマウスあたり変性ウシミオグロビンが50μgとなるように腹腔内投与した。二次免疫では、初回免疫から2週間後にフロイント不完全アジュバントと混和したエマルジョンをマウスあたり変性ウシミオグロビンが50μgとなるように腹腔内投与した。二次免疫から10日目に抗体力価を測定し、十分な抗体力価が得られたマウスについては、二次免疫から2週間後にマウスあたり変性ウシミオグロビンが50μgとなるように尾静脈に投与し、最終免疫を行った。
【0038】
最終免疫から2日後に脾臓を無菌的に摘出して脾臓細胞を得、培養していたミエローマ細胞と50%ポリエチレングリコール条件下で細胞融合を行い、ハイブリドーマを作製した。細胞融合後、HATサプリメントを添加した血清培地で約2週間培養してハイブリドーマを選択した後、変性ウシミオグロビンを固相化したEIAプレートを用いて培養上清の抗体力価測定を行い、変性ウシミオグロビンに反応する抗体を産生するハイブリドーマの存在するウェルを選択した。変性ウシミオグロビンと反応する抗体を産生するハイブリドーマが存在するウェルの細胞数をカウントした後、クローニング用試薬(BM condimed H1)を10%添加した血清培地で限界希釈法によりハイブリドーマのクローニングを行い、この作業を2回繰り返すことで、変性ウシミオグロビンに反応するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをいくつか得た。
【0039】
最終的に、腹水からアフィニティーカラムを用いて抗変性ウシミオグロビンモノクローナル抗体を精製した。一方、ポリクローナル抗体の作製については、変性ウシミオグロビンをウサギに免疫し、得られた抗血清よりポリクローナル抗体をアフィニティーカラムで精製した。
【0040】
実施例3:ウシミオグロビンの免疫学的測定による検出
ウエスタンブロット
得られた抗ペプチド抗体の特異性を評価するために、ウエスタンブロットを行なった。ウシモモ肉、ブタモモ肉、トリモモ肉の肉抽出タンパク質は次のように調製した。すなわち、ウシモモ肉、ブタモモ肉およびトリモモ肉を、それぞれ脂肪を取り除き、ミンチにして十分に混合した。100gを量りとり、2倍量の蒸留水を加えてホモジナイズした後、凍結乾燥することでそれぞれの肉乾燥粉末を得た。それぞれの肉乾燥粉末400mgにタンパク質抽出溶液(PBS(pH7.2)、0.5%SDS、2%メルカプトエタノール、)20mlを加えて12時間以上振盪抽出し、20,000×g、15分遠心した上清をそれぞれの肉抽出タンパク質とした。また、ブタミオグロビン、トリミオグロビンは前記ウシミオグロビンの精製法と同様にして精製した。タンパク質濃度測定後、肉抽出タンパク質は1mg/ml、各種ミオグロビンは100μg/mlとなるように調製し、サンプルバッファー(0.125M Tris-HCl(pH6.8)、10%メルカプトエタノール、4%SDS、10%シュークロース、0.004%Bromophenol Blue)と等量で混合し、95℃、10分間加熱処理したものを泳動用サンプルとした。
【0041】
SDS-PAGEはLaemmliの方法(Laemmli UK, Nature. 1970;227:332-337)に従い、アクリルアミド濃度15%の分離ゲルと4.5%の濃縮ゲルを用いて行った。それぞれの肉抽出タンパク質を10μg/レーン、およびそれぞれのミオグロビンを1μg/レーンとなるようにゲルにアプライした。SDS-PAGE電気泳動した分離ゲルから、セミドライ式のブロッティング装置を用いタンパク質をPVDF膜に転写した。タンパク質を転写した膜は、Tween‐PBS(0.137M NaCl、2.7mM KCl、8.1mM Na2HPO4・12H2O、1.5mM KH2PO4、0.1%Tween)に浸し、4℃で一晩静置してブロッキングを行った。ブロッキング後、適当に希釈した抗変性ウシミオグロビンポリクローナル抗体、抗ペプチドAポリクローナル抗体、抗ペプチドBモノクローナル抗体を1時間振盪しながら反応させた。Tween‐PBSで洗浄後、二次抗体として適当に希釈したALP標識抗マウスIgG、もしくはALP標識抗ウサギIgGを用い、1時間振盪しながら反応させた。Tween‐PBSで洗浄後、0.1M Tris-HCl(pH9.5)で15分間平衡化した後、Alkaline Phosphatase Substrate Kit IV(Vecter社製、BCIP/NBT基質)を用いて発色させた。
【0042】
これらの泳動像(CBB染色)を図2−1に、抗変性ウシミオグロビンポリクローナル抗体、抗ペプチドAポリクローナル抗体、抗ペプチドBモノクローナル抗体を1次抗体に用いたウエスタンブロットの結果をそれぞれ図2−2、2−3、2−4に示す。抗ペプチドAポリクローナル抗体と抗ペプチドBモノクローナル抗体は、ウシミオグロビンにだけ反応し、ブタとトリのミオグロビンとは交差反応を示さなかった。一方、抗変性ウシミオグロビンポリクローナル抗体は、トリミオグロビンとは反応しなかったが、ブタミオグロビンとの交差反応が認められた。すなわち、ウシミオグロビンに対するポリクローナル抗体に比べ、本発明の抗体はより高い特異性を有することが証明された。
【0043】
サンドイッチELISA
得られた抗体をそれぞれプレートに固相化、およびHRP酵素標識化を行い、変性ウシミオグロビンを標準タンパク質としたサンドイッチELISAの組み合わせを調査した。さらに、ブタとトリのミオグロビンとの交差性を調査した。固相化抗体は、0.1Mリン酸ナトリウム(pH7.2)で5μg/mlに調製して、EIAプレートに100μl分注後、4℃で一晩静置し、プレートに吸着させた。その後、ブロッキング溶液を260μl加え、37℃で90分間静置した。洗浄後,前述の条件で変性させたウシ、ブタ、トリのミオグロビンを200ng/mlから2倍希釈して作製した変性ミオグロビンの標準溶液を100μlずつ各ウェルに加えた後、室温で1時間静置した。洗浄後、二次抗体として適当に希釈した標識化抗体を100μl加えて、室温で1時間静置し、固相化抗体と反応した変性ミオグロビンに反応させた。洗浄後、TMB酵素基質を100μl添加し、室温で10分間反応させた後、1M硫酸を50μl添加して酵素反応を停止させ、450nmの吸光度を測定した。
【0044】
固相化抗体に抗変性ウシミオグロビンポリクローナル抗体、標識化抗体に抗変性ウシミオグロビンポリクローナル抗体を用いた組み合わせでは、約10ng/mlまでの検量線を引くことができた。ただ、ブタミオグロビンとの交差反応が若干みられた。一般的に、固相化抗体に用いる抗体は特異性が高いものを用いることで交差反応を小さくすることができる。そこで、固相化抗体には抗ペプチド抗体を用いることとし、固相化抗体に抗ペプチドAポリクローナル抗体、標識化抗体に抗変性ウシミオグロビンポリクローナル抗体を用いた組み合わせを検討したところ、約5ng/mlまでの検量線を引くことができ、またブタとトリのミオグロビンとの交差反応もみられなかった(図3)。また、固相化抗体及び標識化抗体双方に本発明のモノクローナル抗体を使用することで、さらに感度を上げることが可能であり、約1ng/ml以上の感度でウシミオグロビンを検出することが可能であると考えられる。
以上のように、本発明の抗体を用いた免疫学的測定により、特異的かつ高感度にウシミオグロビンを検出可能であることが証明された。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、各動物のミオグロビンアミノ酸配列のマルチプルアライメントを示す。
【図2】図2は、各動物肉抽出画分及びミオグロビンのSDS−PAGE像(CBB染色)、並びに、抗変性ウシミオグロビンポリクローナル抗体、抗ペプチドAポリクローナル抗体及び抗ペプチドBモノクローナル抗体を1次抗体に用いたウエスタンブロットの結果の像を示す。
【図3】図3は、固相化抗体に抗ペプチドAポリクローナル抗体、標識化抗体に抗変性ウシミオグロビンポリクローナル抗体を用いたサンドイッチELISAの結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
aevkhlaeshan(配列番号1)又はaqykvlgfhg(配列番号2)のアミノ酸配列を有するペプチドを用いて得られる、ウシミオグロビンに対するモノクローナル抗体。
【請求項2】
受領番号FERM AP-21336のハイブリドーマから製造される、ウシミオグロビンに対するモノクローナル抗体。
【請求項3】
請求項1に記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項4】
受領番号FERM AP-21336のハイブリドーマ。
【請求項5】
aevkhlaeshan(配列番号1)又はaqykvlgfhg(配列番号2)のアミノ酸配列を有するペプチドを用いて得られる、ウシミオグロビンに対するポリクローナル抗体。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体及び/又は請求項5に記載のポリクローナル抗体を用いた免疫学的測定により、ウシミオグロビンを検出する方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体及び/又は請求項5に記載のポリクローナル抗体を用いた免疫学的測定により、食品中のウシ由来成分を検出する方法。
【請求項8】
免疫学的測定が、ELISA法又はイムノクロマト法による、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体及び/又は請求項5に記載のポリクローナル抗体を含むことを特徴とする、ウシミオグロビンを検出するためのキット。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体及び/又は請求項5に記載のポリクローナル抗体を含むことを特徴とする、食品中のウシ由来成分を検出するためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−57291(P2009−57291A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223224(P2007−223224)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(591105801)丸大食品株式会社 (19)
【出願人】(507290755)
【Fターム(参考)】