説明

ウシ由来試料を鑑定する方法及びキット

【課題】ウシ由来DNAを含む試料に対して、産地を鑑定する方法、及びキットを提供する。
【解決手段】ウシ由来DNAを含む試料に対して、(1)特定の塩基配列の第439番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;(2)特定の塩基配列の第564番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;(3)特定のに示した塩基配列の第255番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;(4)特定のに示した塩基配列の第23番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;(5)特定の塩基配列の第97番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;及び(6)特定の塩基配列の第169番目のシトシンがアデニンに置換された一塩基多型等のいずれか少なくとも1つが検出された試料を日本産でないウシ由来であると鑑定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウシ由来試料を鑑定する方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本の牛肉市場でみられる牛肉はほとんどが日本産、米国産、または豪州産である。
【0003】
現在生息するウシは主に二大系統に分類できるとされる。第一の系統は、肩峰のないボス・タウラス(Bos taurus)系であり、第二の系統は、肩峰のあるボス・インディカス(Bos indicus)系である。
【0004】
米国産および豪州産のウシは、ボス・タウラス系、ボス・インディカス系、及びこれらの交雑種に属する。
【0005】
日本産のウシは主に黒毛和種およびホルスタイン種であり、いずれもボス・インディカス系に属する。なかでも日本を代表する肉用牛品種である黒毛和種は、その肉質の高さが国際的にも高く評価されており、高級牛肉として取り扱われている。一方、ホルスタイン種は肉質面では黒毛和種に劣るものの、その枝肉は安価な大衆牛肉として広く好まれている。また最近では黒毛和種とホルスタイン種を交雑させた雑種第一代(F1)も新たに登場している。F1のなかには黒毛和種に劣らないほど上質な肉質を有するものもあり、低コストで良質な牛肉として受け入れられている。
【0006】
近年、こうした日本産ウシの人気の高さに便乗して、様々な形でウシの産地が偽装して表示されるという事態が生じており、食品の安全と消費者の信頼を揺るがす大きな社会問題となっている。食品の安全と消費者の信頼を確保するため、このようないわゆる「偽装表示」を抑止する仕組みが強く求められている。
【0007】
これまで、ウシの品種を判別するための一塩基多型(SNP)マーカーの開発が行われてきた。笹崎はSNPマーカーを用いて黒毛和種とF1とを鑑定する方法を開発した(非特許文献1、2)。現在、これらのマーカーを用いた農林水産省による抜き打ち検査が実施されており、偽装表示に対する大きな抑止力となっている。しかしながら、この鑑定方法では、日本産ウシと日本産でないウシとを互いに判別することはできない。
【0008】
さらに、ミトコンドリアDNAとY染色体由来のSNPマーカー、毛色関連遺伝子のSNPマーカー、及びAFLP(Amplified Fragment Length Polymorphism)法で新たに同定したSNPマーカーを用いて、日本産ウシと豪州産ウシとを判別する鑑定方法が開発された(非特許文献3、特許文献1)。しかしながら、これらの文献は、本発明において使用されるSNPマーカーについては全く教示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008-48613号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Development of breed identification markers derived from AFLP in beef cattle. Meat Science, 67, 275-280. (2004)
【非特許文献2】Breed Discrimination Using DNA Markers Derived from AFLP in Japanese Beef Cattle. Asian-Aust. J. Anim. Sci., 19, (8), 1106-1110. (2006)
【非特許文献3】Development of DNA markers for discrimination between domestic and imported beef. Meat Science, 77, 161-166. (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、ウシ由来DNAを含む試料に対して、産地を鑑定する方法、及びキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、米国産ウシと日本産ウシの判別において有効なSNPマーカーを開発することで上記の課題を解決できるのではないかと着想し、この着想に基づいて以下の通り開発を進めた。
【0013】
第一に本発明者は、Bead Arrayを利用したウシ50K SNPパネル情報を用いて米国産ウシに特異的な多型探索を行い、8つのSNPマーカーが米国産ウシに特異的にみられることを明らかにした。そして、これらのSNPマーカーを利用することでウシ由来試料の由来が日本産ウシであるか米国産ウシであるかを鑑定することができることを実証した。
【0014】
第二に、日本産ウシと豪州産ウシとを判別できることが既に知られているSNPマーカー数種について、同様に米国産ウシと日本産ウシとの判別に利用できるか否かを検討することとした。検討したSNPマーカーは、次の通りである:
Y染色体由来のSex determining Region Y (SRY)マーカー;
ミトコンドリアDNA由来のNADH dehydrogenase subunit 4(ND4)マーカー及びNADH dehydrogenase subunit 5 (ND5)マーカー;
毛色関連遺伝子由来のmelanocortin-1 receptor (MC1R)マーカー;並びに
AFLP法により本発明者らが開発したSNPマーカーであるBIMA100、121、及び122。
豪州産ウシにおいてはこれらSNPマーカー全てに関して特異的な対立遺伝子がある程度以上の遺伝子頻度で検出されることが既に報告されている。検討の結果、まずMC1Rマーカー、並びにBIMA100、121、及び122に関しては、豪州産ウシに特異的にみられたのと同様の対立遺伝子が米国産ウシにおいても検出されるこということが明らかになった。本発明者は、これら4種のSNPマーカーと、今回新たに発見した8つのSNPマーカーとを適宜組み合わせることによっても、ウシ由来試料の由来が日本産ウシであるか米国産ウシであるかを鑑定することができることを実証した。
【0015】
それに対して、SRY、ND4及びND5のSNPマーカーに関しては、米国産ウシにおいて豪州産ウシと同様の特異的な対立遺伝子は検出されなかった。このことは、かりに豪州産ウシ特有のSNPマーカーをそのまま転用したとしても米国産ウシを判別できるとは限らないということを示唆している。
【0016】
以上の通り、本発明者は本発明を完成させた。すなわち、本発明は次の通りである。
【0017】
項1.ウシ由来DNAを含む試料が日本産でないウシ由来の試料であるか否かを鑑定する方法であって、次の(1)〜(15)からなる群より選択される少なくとも1種の一塩基多型の有無を検出し、いずれか少なくとも1つが検出された試料を日本産でないウシ由来の試料であると鑑定することを特徴とする方法:
(1)第3番目の染色体に含まれる配列番号1に示した塩基配列の第439番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(2)第7番目の染色体に含まれる配列番号2に示した塩基配列の第564番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(3)第13番目の染色体に含まれる配列番号3に示した塩基配列の第255番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;
(4)第22番目の染色体に含まれる配列番号4に示した塩基配列の第23番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(5)第3番目の染色体に含まれる配列番号5に示した塩基配列の第97番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(6)第2番目の染色体に含まれる配列番号6に示した塩基配列の第169番目のシトシンがアデニンに置換された一塩基多型;
(7)第24番目の染色体に含まれる配列番号7に示した塩基配列の第177番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(8)第5番目の染色体に含まれる配列番号8に示した塩基配列の第326番目のチミンがシトシンに置換された一塩基多型;
(9)第26番目の染色体に含まれる配列番号9に示した塩基配列の第280番目のシトシンがグアニンに置換された一塩基多型;
(10)第20番目の染色体に含まれる配列番号10に示した塩基配列の第228番目のアデニンがシトシンに置換された一塩基多型;
(11)第24番目の染色体に含まれる配列番号11に示した塩基配列の第378番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(12)配列番号12に示した塩基配列の第120番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;
(13)第6番目の染色体に含まれる配列番号13に示した塩基配列の第206番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(14)第8番目の染色体に含まれる配列番号14に示した塩基配列の第289番目のシトシンがアデニンに置換された一塩基多型;及び
(15)第17番目の染色体に含まれる配列番号15に示した塩基配列の第248番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型。
【0018】
項2.ウシ由来DNAを含む試料が日本産でないウシ由来の試料であるか否かを鑑定する方法であって、次の(1)〜(12)からなる群より選択される少なくとも1種の一塩基多型の有無を検出し、いずれか少なくとも1つが検出された試料を日本産でないウシ由来の試料であると鑑定することを特徴とする方法:
(1)第3番目の染色体に含まれる配列番号1に示した塩基配列の第439番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(2)第7番目の染色体に含まれる配列番号2に示した塩基配列の第564番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(3)第13番目の染色体に含まれる配列番号3に示した塩基配列の第255番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;
(4)第22番目の染色体に含まれる配列番号4に示した塩基配列の第23番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(5)第3番目の染色体に含まれる配列番号5に示した塩基配列の第97番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(6)第2番目の染色体に含まれる配列番号6に示した塩基配列の第169番目のシトシンがアデニンに置換された一塩基多型;
(7)第24番目の染色体に含まれる配列番号7に示した塩基配列の第177番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(8)第5番目の染色体に含まれる配列番号8に示した塩基配列の第326番目のチミンがシトシンに置換された一塩基多型;
(9)第26番目の染色体に含まれる配列番号9に示した塩基配列の第280番目のシトシンがグアニンに置換された一塩基多型;
(10)第20番目の染色体に含まれる配列番号10に示した塩基配列の第228番目のアデニンがシトシンに置換された一塩基多型;
(11)第24番目の染色体に含まれる配列番号11に示した塩基配列の第378番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;及び
(12)配列番号12に示した塩基配列の第120番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型。
【0019】
項3.前記一塩基多型としてさらに次の(16)〜(19)からなる群より選択される少なくとも1種の一塩基多型を含む項1又は2に記載の鑑定方法:
(16)配列番号16に示すmelanocortin-1 receptor(MC1R)の塩基配列の109番目のグアニンが欠失した一塩基多型;
(17)第16番目の染色体に含まれる配列番号17に示した塩基配列の第186番目のグアニンがチミンに置換された一塩基多型;
(18)配列番号18に示した塩基配列の96番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;及び
(19)第7番目の染色体に含まれる配列番号19に示した塩基配列の546番目のシトシンがグアニンに置換された一塩基多型。
【0020】
項4.前記一塩基多型として前記(1)〜(15)からなる群より選択される少なくとも4種の一塩基多型を含む、項1〜3のいずれか一項に記載の鑑定方法。
【0021】
項5.日本産でないウシが米国産のウシである、項1〜4のいずれか一項に記載の鑑定方法。
【0022】
項6.ウシ由来DNAを含む試料が日本産でないウシ由来の試料であるか否かを鑑定するキットであって、次の(1)〜(15)からなる群より選択される少なくとも1種の一塩基多型の有無を検出するために必要な材料を含むキット:
(1)第3番目の染色体に含まれる配列番号1に示した塩基配列の第439番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(2)第7番目の染色体に含まれる配列番号2に示した塩基配列の第564番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(3)第13番目の染色体に含まれる配列番号3に示した塩基配列の第255番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;
(4)第22番目の染色体に含まれる配列番号4に示した塩基配列の第23番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(5)第3番目の染色体に含まれる配列番号5に示した塩基配列の第97番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(6)第2番目の染色体に含まれる配列番号6に示した塩基配列の第169番目のシトシンがアデニンに置換された一塩基多型;
(7)第24番目の染色体に含まれる配列番号7に示した塩基配列の第177番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(8)第5番目の染色体に含まれる配列番号8に示した塩基配列の第326番目のチミンがシトシンに置換された一塩基多型;
(9)第26番目の染色体に含まれる配列番号9に示した塩基配列の第280番目のシトシンがグアニンに置換された一塩基多型;
(10)第20番目の染色体に含まれる配列番号10に示した塩基配列の第228番目のアデニンがシトシンに置換された一塩基多型;
(11)第24番目の染色体に含まれる配列番号11に示した塩基配列の第378番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(12)配列番号12に示した塩基配列の第120番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;
(13)第6番目の染色体に含まれる配列番号13に示した塩基配列の第206番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(14)第8番目の染色体に含まれる配列番号14に示した塩基配列の第289番目のシトシンがアデニンに置換された一塩基多型;及び
(15)第17番目の染色体に含まれる配列番号15に示した塩基配列の第248番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型。
【0023】
項7.ウシ由来DNAを含む試料が日本産でないウシ由来の試料であるか否かを鑑定するキットであって、次の(1)〜(12)からなる群より選択される少なくとも1種の一塩基多型の有無を検出するために必要な材料を含むキット:
(1)第3番目の染色体に含まれる配列番号1に示した塩基配列の第439番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(2)第7番目の染色体に含まれる配列番号2に示した塩基配列の第564番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(3)第13番目の染色体に含まれる配列番号3に示した塩基配列の第255番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;
(4)第22番目の染色体に含まれる配列番号4に示した塩基配列の第23番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(5)第3番目の染色体に含まれる配列番号5に示した塩基配列の第97番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(6)第2番目の染色体に含まれる配列番号6に示した塩基配列の第169番目のシトシンがアデニンに置換された一塩基多型;
(7)第24番目の染色体に含まれる配列番号7に示した塩基配列の第177番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(8)第5番目の染色体に含まれる配列番号8に示した塩基配列の第326番目のチミンがシトシンに置換された一塩基多型;
(9)第26番目の染色体に含まれる配列番号9に示した塩基配列の第280番目のシトシンがグアニンに置換された一塩基多型;
(10)第20番目の染色体に含まれる配列番号10に示した塩基配列の第228番目のアデニンがシトシンに置換された一塩基多型;
(11)第24番目の染色体に含まれる配列番号11に示した塩基配列の第378番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(12)配列番号12に示した塩基配列の第120番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型。
【0024】
項8.前記一塩基多型としてさらに次の(16)〜(19)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする項6又は7に記載の鑑定キット:
(16)配列番号16に示すmelanocortin-1 receptor(MC1R)の塩基配列の109番目のグアニンが欠失した一塩基多型;
(17)第16番目の染色体に含まれる配列番号17に示した塩基配列の第186番目のグアニンがチミンに置換された一塩基多型;
(18)配列番号18に示した塩基配列の96番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;及び
(19)第7番目の染色体に含まれる配列番号19に示した塩基配列の546番目のシトシンがグアニンに置換された一塩基多型。
【0025】
項9.一塩基多型の有無を検出するために必要な材料が、一塩基多型を含むDNA断片をPCR反応で増幅するために使用される一組のプライマーである、項6〜8のいずれか一項に記載の鑑定キット。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ウシ由来DNAを含む試料に対して、日本産でないウシ由来であるか否かを判別することができる。特に、試料が米国産ウシ由来であるか否かを判別することができる。
【0027】
特に、本発明によれば、SNPマーカーを利用するため、簡便に、低コストで、かつ短時間で鑑定を行うことができる。
【0028】
また、牛肉等に対して、本発明による牛肉等の鑑定を販売前に実施するようにすれば、社会問題と化しているいわゆる「偽装表示」を抑止することができる。本発明の有効活用により、食品の安全と消費者の信頼の確保につながることが期待される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
1.本発明の鑑定方法について
1−1.鑑定方法に供する試料の説明
本発明の鑑定方法に供する試料としては、ウシ由来DNAを含んでいる試料であればよく特に限定されない。例えば、市場で一般的に入手することのできる牛肉を用いることができる。牛肉としては例えば、もも肉、肩肉、またはロース肉等を用いることができる。その他にも、肝臓組織、リンパ節、または血液等も用いることができる。
【0030】
本発明の鑑定方法は、鑑定対象試料が非日本産ウシ由来であるか日本産ウシ由来であるかを鑑定することができる。本発明の鑑定方法は、特に鑑定対象試料が米国産ウシであるか否かをより高精度に鑑定することができる。したがって、本発明の鑑定方法に供する試料群としては、産地が全く不明である試料群であってもよいし、日本産ウシ由来の試料に米国産ウシ由来の試料が混入している、若しくは混入が疑われる試料群であれば好ましい。日本産ウシとしては、例えば、黒毛和種、ホルスタイン種、及びF1からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0031】
これらの試料からDNAを抽出および精製する方法としては、公知のいずれかの方法を利用することができる。
【0032】
1−2.SNPの検出方法の説明
SNPの検出方法は、SNPを検出できる方法であればよく特に限定されない。例えば、PCR-RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)法、RFLP法、AFLP(Amplified Fragment. Length Polymorphism)法、PCR-SSCP(Single Strand Conformation Polymorphism)法、およびインベーダーアッセイ法等が挙げられる。
【0033】
PCR-RFLP 法は、SNPの一方の型が制限酵素認識配列の一部分を構成しており、他方の型だと制限酵素認識配列を構成しない場合に有用な方法である。このような場合には、SNPの一方の型を含むDNAは切断しないが他方の型を含むDNAを切断するような制限酵素が存在することになる。PCR-RFLP 法ではこのような制限酵素認識配列、またはSNP部位においてその一塩基が変異された配列を含むDNA断片をPCR法によって増幅する。このPCR増幅産物を前記制限酵素で切断し、その断片の長さにより、多型の有無を判定することができる。断片の長さは、それぞれの断片をアガロースゲル電気泳動に供すること等によって確かめることができる。
【0034】
また、DNAシーケンサー等を用いてDNA塩基配列を決定することでSNPを検出することもできる。
【0035】
本発明で利用するSNP(1)〜(19)はいずれも後述の通り一方の型が制限酵素認識配列の一部分を構成しており、他方の型だと制限酵素認識配列を構成しない。このためPCR-RFLP法が簡便性という観点からは好ましい。
【0036】
本発明で用いるSNPを検出するにあたっては、これを含むDNA断片をあらかじめPCR法によって増幅しておくことが解析上好ましい。PCR法の条件はSNPを含むDNA断片が増幅されればよく特に限定されない。PCR法に用いるプライマーは、対象遺伝子の塩基配列に基づいて適宜設計することができる。プライマーの塩基数は、目的のDNA断片を増幅することができればよく特に限定されないが、10塩基から40塩基が好ましく、15塩基から30塩基がより好ましく、18塩基から25塩基がよりさらに好ましい。例えば、表1に記載のプライマーを用いることができる。なお、下線部はミスマッチを導入した箇所を示している。
【0037】
【表1】

【0038】
PCR反応の条件はSNPを含むDNA断片が増幅されればよく特に限定されない。例えば、90℃〜98℃で5秒〜4分、好ましくは94℃で2分の熱変性の後、90℃〜98℃で5秒〜4分、好ましく94℃で30秒の変性反応、40℃〜80℃で5秒〜4分、好ましくは55〜65℃で30秒のアニーリング反応、及び68℃〜74℃で30秒〜2分、好ましくは72℃で1分の伸長反応を1サイクルとしてこれを25〜50サイクル、好ましくは30〜35サイクル行い、その後68℃〜74℃で30秒〜10分、好ましくは72℃で 7分の伸長反応を行うことができる。
【0039】
1−3.SNPの説明
本発明で用いるSNPは次の(1)〜(19)を含む。
(1)第3番目の染色体に含まれる配列番号1に示した塩基配列の第439番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(2)第7番目の染色体に含まれる配列番号2に示した塩基配列の第564番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(3)第13番目の染色体に含まれる配列番号3に示した塩基配列の第255番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;
(4)第22番目の染色体に含まれる配列番号4に示した塩基配列の第23番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(5)第3番目の染色体に含まれる配列番号5に示した塩基配列の第97番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(6)第2番目の染色体に含まれる配列番号6に示した塩基配列の第169番目のシトシンがアデニンに置換された一塩基多型;
(7)第24番目の染色体に含まれる配列番号7に示した塩基配列の第177番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(8)第5番目の染色体に含まれる配列番号8に示した塩基配列の第326番目のチミンがシトシンに置換された一塩基多型;
(9)第26番目の染色体に含まれる配列番号9に示した塩基配列の第280番目のシトシンがグアニンに置換された一塩基多型;
(10)第20番目の染色体に含まれる配列番号10に示した塩基配列の第228番目のアデニンがシトシンに置換された一塩基多型;
(11)第24番目の染色体に含まれる配列番号11に示した塩基配列の第378番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(12)配列番号12に示した塩基配列の第120番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;
(13)第6番目の染色体に含まれる配列番号13に示した塩基配列の第206番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(14)第8番目の染色体に含まれる配列番号14に示した塩基配列の第289番目のシトシンがアデニンに置換された一塩基多型;
(15)第17番目の染色体に含まれる配列番号15に示した塩基配列の第248番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(16)配列番号16に示すmelanocortin-1 receptor(MC1R)の塩基配列の109番目のグアニンが欠失した一塩基多型;
(17)第16番目の染色体に含まれる配列番号17に示した塩基配列の第186番目のグアニンがチミンに置換された一塩基多型;
(18)配列番号18に示した塩基配列の96番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;及び
(19)第7番目の染色体に含まれる配列番号19に示した塩基配列の546番目のシトシンがグアニンに置換された一塩基多型。
【0040】
1−3−1.SNP(1)の説明
本発明で用いるSNP(1)は、ウシの第3番目の染色体に含まれる配列番号1に示した塩基配列の第439番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型である。「ARS-BFGL-NGS-57280」と呼ばれることもあるSNPである。
【0041】
本発明者が日本産のウシとして黒毛和種250頭およびホルスタイン種146頭、ならびに米国産ウシとして108頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(1)は、日本産のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(1)が米国産ウシにおいてみられる遺伝子頻度は0.250であった。
【0042】
このSNP(1)を含む前後の塩基配列ATGGTは制限酵素HpyCH4 IIIの認識部位でないのに対し、シトシンがチミンに置換されていない配列ACGGTはHpyCH4 IIIの認識部位である。したがって、HpyCH4 IIIを用いればこのSNP(1)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、この部位がHpyCH4 IIIにより切断されないDNA断片を有する試料は非日本産のウシ、好ましくは米国産のウシに由来するものであると鑑定することができる。
【0043】
1−3−2.SNP(2)の説明
本発明で用いるSNP(2)は、ウシの第7番目の染色体に含まれる配列番号2に示した塩基配列の第564番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型である。「ARS-BFGL-NGS-71949」と呼ばれることもあるSNPである。
【0044】
本発明者が日本産のウシとして黒毛和種250頭およびホルスタイン種146頭、ならびに米国産ウシとして108頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(2)は、日本産のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(2)が米国産ウシにおいてみられる遺伝子頻度は0.241であった。
【0045】
このSNP(2)を含む前後の塩基配列TTGAは制限酵素Taq Iの認識部位でないのに対し、シトシンがチミンに置換されていない配列TCGAはTaq Iの認識部位である。したがって、Taq Iを用いればこのSNP(2)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、この部位がTaq Iにより切断されないDNA断片を有する試料は非日本産のウシ、好ましくは米国産のウシに由来するものであると鑑定することができる。
【0046】
1−3−3.SNP(3)の説明
本発明で用いるSNP(3)は、ウシの第13番目の染色体に含まれる配列番号3に示した塩基配列の第255番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型である。「ARS-BFGL-NGS-30669」と呼ばれることもあるSNPである。
【0047】
本発明者が日本産のウシとして黒毛和種250頭およびホルスタイン種96頭、ならびに米国産ウシとして108頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(3)は、日本産のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(3)が米国産ウシにおいてみられる遺伝子頻度は0.204であった。
【0048】
このSNP(3)を含む前後の塩基配列ACNATは制限酵素HpyCH4 IIIの認識部位でないのに対し、グアニンがアデニンに置換されていない配列ACNGTはHpyCH4 IIIの認識部位である。したがって、HpyCH4 IIIを用いればこのSNP(3)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、この部位がHpyCH4 IIIにより切断されないDNA断片を有する試料は非日本産のウシ、好ましくは米国産のウシに由来するものであると鑑定することができる。
【0049】
1−3−4.SNP(4)の説明
本発明で用いるSNP(4)は、第22番目の染色体に含まれる配列番号4に示した塩基配列の第23番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型である。「ARS-BFGL-NGS-64438」と呼ばれることもあるSNPである。
【0050】
本発明者が日本産のウシとして黒毛和種250頭およびホルスタイン種96頭、ならびに米国産ウシとして108頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(4)は、日本産のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(4)が米国産ウシにおいてみられる遺伝子頻度は0.194であった。
【0051】
このSNP(4)を含む前後の塩基配列CAGCTTはミスマッチプライマー(配列番号26)を使用することでGAGCTTとして増幅される。このGAGCTTは制限酵素Sac Iの認識部位でないのに対し、シトシンがチミンに置換されていない配列CAGCTCが同じミスマッチプライマーによって増幅されるGAGCTCはSac Iの認識部位である。したがって、ミスマッチプライマー(配列番号26)で増幅した上でSac Iを用いればこのSNP(4)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、この部位がSac Iにより切断されないDNA断片を有する試料は非日本産のウシ、好ましくは米国産のウシに由来するものであると鑑定することができる。
【0052】
1−3−5.SNP(5)の説明
本発明で用いるSNP(5)は、第3番目の染色体に含まれる配列番号5に示した塩基配列の第97番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型である。「ARS-BFGL-NGS-11485」と呼ばれることもあるSNPである。
【0053】
本発明者が日本産のウシとして黒毛和種250頭およびホルスタイン種96頭、ならびに米国産ウシとして108頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(5)は、日本産のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(5)が米国産ウシにおいてみられる遺伝子頻度は0.190であった。
【0054】
このSNP(5)を含む前後の塩基配列TCTCは制限酵素Mnl Iの認識部位でないのに対し、シトシンがチミンに置換されていない配列CCTCはMnl Iの認識部位である。したがって、Mnl Iを用いればこのSNP(5)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、この部位がMnl Iにより切断されないDNA断片を有する試料は非日本産のウシ、好ましくは米国産のウシに由来するものであると鑑定することができる。
【0055】
1−3−6.SNP(6)の説明
本発明で用いるSNP(6)は、第2番目の染色体に含まれる配列番号6に示した塩基配列の第169番目のシトシンがアデニンに置換された一塩基多型である。「ARS-BFGL-NGS-106170」と呼ばれることもあるSNPである。
【0056】
本発明者が日本産のウシとして黒毛和種250頭およびホルスタイン種96頭、ならびに米国産ウシとして108頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(6)は、日本産のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(6)が米国産ウシにおいてみられる遺伝子頻度は0.181であった。
【0057】
このSNP(6)を含む前後の塩基配列GGGCCAは制限酵素PspOM Iの認識部位でないのに対し、シトシンがアデニンに置換されていない配列GGGCCCはPspOM Iの認識部位である。したがって、PspOM Iを用いればこのSNP(6)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、この部位がPspOM Iにより切断されないDNA断片を有する試料は非日本産のウシ、好ましくは米国産のウシに由来するものであると鑑定することができる。
【0058】
1−3−7.SNP(7)の説明
本発明で用いるSNP(7)は、第24番目の染色体に含まれる配列番号7に示した塩基配列の第177番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型である。「ARS-BFGL-NGS-19332」と呼ばれることもあるSNPである。
【0059】
本発明者が日本産のウシとして黒毛和種250頭およびホルスタイン種96頭、ならびに米国産ウシとして108頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(7)は、日本産のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(7)が米国産ウシにおいてみられる遺伝子頻度は0.171であった。
【0060】
このSNP(7)を含む前後の塩基配列TCTGはミスマッチプライマー(配列番号33)を使用することでTCGGとして増幅される。このTCGGは制限酵素Hpa IIの認識部位でないのに対し、シトシンがチミンに置換されていない配列CCTGが同じミスマッチプライマーによって増幅される配列CCGGはHpa IIの認識部位である。したがって、ミスマッチプライマー(配列番号33)で増幅した上でHpa IIを用いればこのSNP(7)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、この部位がHpa IIにより切断されないDNA断片を有する試料は非日本産のウシ、好ましくは米国産のウシに由来するものであると鑑定することができる。
【0061】
1−3−8.SNP(8)の説明
本発明で用いるSNP(8)は、ウシの第5番目の染色体に含まれる配列番号8に示した塩基配列の第326番目のチミンがシトシンに置換された一塩基多型である。「ARS-BFGL-NGS-113203」と呼ばれることもあるSNPである。
【0062】
本発明者が日本産のウシとして黒毛和種250頭およびホルスタイン種146頭、ならびに米国産ウシとして108頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(8)は、日本産のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(8)が米国産ウシにおいてみられる遺伝子頻度は0.162であった。
【0063】
このSNP(8)を含む前後の塩基配列ACGTは制限酵素HpyCH4 IVの認識部位であるのに対し、チミンがシトシンに置換されていない配列ATGTはHpyCH4 IVの認識部位ではない。したがって、HpyCH4 IVを用いればこのSNP(8)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、この部位がHpyCH4 IVにより切断されるDNA断片を有する試料は非日本産のウシ、好ましくは米国産のウシに由来するものであると鑑定することができる。
【0064】
1−3−9.SNP(9)の説明
本発明で用いるSNP(9)は、第26番目の染色体に含まれる配列番号9に示した塩基配列の第280番目のシトシンがグアニンに置換された一塩基多型である。「ARS-BFGL-NGS-21474」と呼ばれることもあるSNPである。
【0065】
本発明者が日本産のウシとして黒毛和種250頭およびホルスタイン種96頭、ならびに米国産ウシとして108頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(9)は、日本産のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(9)が米国産ウシにおいてみられる遺伝子頻度は0.148であった。
【0066】
このSNP(9)を含む前後の塩基配列CTTGはミスマッチプライマー(配列番号37)を使用することでCTAGとして増幅される。このCTAGは制限酵素FspB Iの認識部位であるのに対し、グアニンがシトシンに置換されていない配列GTTGが同じミスマッチプライマーによって増幅される配列GTAGはFspB Iの認識部位ではない。したがって、ミスマッチプライマー(配列番号37)で増幅した上でFspB Iを用いればこのSNP(9)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、この部位がFspB Iにより切断されるDNA断片を有する試料は非日本産のウシ、好ましくは米国産のウシに由来するものであると鑑定することができる。
【0067】
1−3−10.SNP(10)の説明
本発明で用いるSNP(10)は、ウシの第20番目の染色体に含まれる配列番号10に示した塩基配列の第228番目のアデニンがシトシンに置換された一塩基多型である。「BTB-01127511」と呼ばれることもあるSNPである。
【0068】
本発明者が日本産のウシとして黒毛和種250頭およびホルスタイン種146頭、ならびに米国産ウシとして108頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(10)は、日本産のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(10)が米国産ウシにおいてみられる遺伝子頻度は0.120であった。
【0069】
このSNP(10)を含む前後の塩基配列CTACCGは制限酵素Bfm Iの認識部位でないのに対し、アデニンがシトシンに置換されていない配列CTACAGはBfm Iの認識部位である。したがって、Bfm Iを用いればこのSNP(10)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、この部位がBfm Iにより切断されないDNA断片を有する試料は非日本産のウシ、好ましくは米国産のウシに由来するものであると鑑定することができる。
【0070】
1−3−11.SNP(11)の説明
本発明で用いるSNP(11)は、第24番目の染色体に含まれる配列番号11に示した塩基配列の第378番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型である。「BTA-23594-no-rs」と呼ばれることもあるSNPである。
【0071】
本発明者が日本産のウシとして黒毛和種250頭およびホルスタイン種96頭、ならびに米国産ウシとして108頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(11)は、日本産のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(11)が米国産ウシにおいてみられる遺伝子頻度は0.097であった。
【0072】
このSNP(11)を含む前後の塩基配列CTNNGGは制限酵素BsaJ Iの認識部位でないのに対し、シトシンがチミンに置換されていない配列CCNNGGはBsaJ Iの認識部位である。したがって、BsaJ Iを用いればこのSNP(11)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、この部位がBsaJ Iにより切断されないDNA断片を有する試料は非日本産のウシ、好ましくは米国産のウシに由来するものであると鑑定することができる。
【0073】
1−3−12.SNP(12)の説明
本発明で用いるSNP(12)は、配列番号12に示した塩基配列の第120番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型である。「ARS-BFGL-NGS-105175」と呼ばれることもあるSNPである。
【0074】
本発明者が日本産のウシとして黒毛和種250頭およびホルスタイン種146頭、ならびに米国産ウシとして108頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(12)は、日本産のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(12)が米国産ウシにおいてみられる遺伝子頻度は0.102であった。
【0075】
このSNP(12)を含む前後の塩基配列GGGCTCは制限酵素Sdu Iの認識部位であるのに対し、アデニンがグアニンに置換されていない配列AGGCTCはSdu Iの認識部位ではない。したがって、Sdu Iを用いればこのSNP(12)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、この部位がSdu Iにより切断されるDNA断片を有する試料は非日本産のウシ、好ましくは米国産のウシに由来するものであると鑑定することができる。
【0076】
1−3−13.SNP(13)の説明
本発明で用いるSNP(13)は、ウシの第6番目の染色体に含まれる配列番号13に示した塩基配列の第206番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型である。「ARS-BFGL-NGS-66950」と呼ばれることもあるSNPである。
【0077】
本発明者が日本産のウシとして黒毛和種250頭およびホルスタイン種146頭、ならびに米国産ウシとして108頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(13)は日本産のウシのうち黒毛和種においては全くみられなかったが、ホルスタイン種においては0.003という非常に低い遺伝子頻度でみられた。このSNP(13)が米国産ウシにおいてみられる遺伝子頻度は0.213であった。
【0078】
このSNP(13)を含む前後の塩基配列GTGCは制限酵素Hin6 Iの認識部位であるのに対し、シトシンがチミンに置換されていない配列GCGCはHin6 Iの認識部位ではない。したがって、Hin6 Iを用いればこのSNP(13)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、この部位がHin6 Iにより切断されるDNA断片を有する試料は非日本産のウシ、好ましくは米国産のウシに由来するものであると鑑定することができる。
【0079】
1−3−14.SNP(14)の説明
本発明で用いるSNP(14)は、ウシの第8番目の染色体に含まれる配列番号14に示した塩基配列の第289番目のシトシンがアデニンに置換された一塩基多型である。「BTA-80981-no-rs」と呼ばれることもあるSNPである。
【0080】
本発明者が日本産のウシとして黒毛和種250頭およびホルスタイン種146頭、ならびに米国産ウシとして108頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(14)は、日本産のウシのうち黒毛和種においては全くみられなかったが、ホルスタイン種においては0.007という非常に低い遺伝子頻度でみられた。このSNP(14)が米国産ウシにおいてみられる遺伝子頻度は0.194であった。
【0081】
このSNP(14)を含む前後の塩基配列AAGTは制限酵素HpyCH4 IVの認識部位でないのに対し、シトシンがアデニンに置換されていない配列ACGTはHpyCH4 IVの認識部位である。したがって、HpyCH4 IVを用いればこのSNP(14)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、この部位がHpyCH4 IVにより切断されないDNA断片を有する試料は非日本産のウシ、好ましくは米国産のウシに由来するものであると鑑定することができる。
【0082】
1−3−15.SNP(15)の説明
本発明で用いるSNP(15)は、ウシの第17番目の染色体に含まれる配列番号15に示した塩基配列の第248番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型である。「ARS-BFGL-NGS-103975」と呼ばれることもあるSNPである。
【0083】
本発明者が日本産のウシとして黒毛和種250頭およびホルスタイン種146頭、ならびに米国産ウシとして108頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(15)は、日本産のウシのうち黒毛和種においては0.002、ホルスタイン種においては0.003とそれぞれ非常に低い遺伝子頻度でみられた。このSNP(15)が米国産ウシにおいてみられる遺伝子頻度は0.190であった。
【0084】
このSNP(15)を含む前後の塩基配列GCTGGAは制限酵素BseY Iの認識部位でないのに対し、グアニンがアデニンに置換されていない配列GCTGGGはBseY Iの認識部位である。したがって、BseY Iを用いればこのSNP(15)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、この部位がBseY Iにより切断されないDNA断片を有する試料は非日本産のウシ、好ましくは米国産のウシに由来するものであると鑑定することができる。
【0085】
1−3−16.SNP(16)の説明
本発明で用いるSNP(16)は、配列番号16に示すmelanocortin-1 receptor(MC1R)をコードする塩基配列の109番目のグアニンが欠失した一塩基多型である。
【0086】
本発明者が米国産ウシとして108個体を用いて検討した限りにおいては、このSNP(16)が米国産ウシにおいてみられる遺伝子頻度は0.294であった。
【0087】
このSNP(16)を含む前後の塩基配列CC-G(-は欠失を示す)は制限酵素Msp Iの認識部位でないのに対し、グアニンが欠失していない配列CCGGはMsp Iの認識部位である。したがって、Msp Iを用いればこのSNP(16)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、この部位がMsp Iにより切断されないDNA断片を有する試料は非日本産のウシ、好ましくは米国産のウシに由来するものであると鑑定することができる。
【0088】
1−3−17.SNP(17)の説明
本発明で用いるSNP(17)は、ウシの第16番目の染色体に含まれる配列番号17に示した塩基配列の第186番目のグアニンがチミンに置換された一塩基多型である。このSNPは本発明者らによって発見されBIMA(Breed Identified Markers derived from AFLP)100と名付けられているものである。
【0089】
本発明者が日本産のウシとして黒毛和種250個体およびホルスタイン種146個体、ならびに米国産ウシとして107個体を用いて検討した限りにおいては、このSNP(17)が日本産のウシにおいてみられる遺伝子頻度は黒毛和種及びホルスタイン種についてそれぞれ0.000以下であった。このSNP(17)が米国産ウシにおいてみられる遺伝子頻度は0.065であった。
【0090】
このSNP(17)を含む前後の塩基配列GAATTCは制限酵素EcoR Iの認識部位であるのに対し、グアニンがチミンに置換されていない配列GAATGCはEcoR Iの認識部位でない。したがって、EcoR Iを用いればこのSNP(17)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、この部位がEcoR Iにより切断されるDNA断片を有する試料は非日本産のウシ、好ましくは米国産のウシに由来するものであると鑑定することができる。
【0091】
1−3−18.SNP(18)の説明
本発明で用いるSNP(18)は、配列番号18に示した塩基配列の96番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型である。このSNPは本発明者らによって発見されBIMA121と名付けられているものである。
【0092】
本発明者が日本産のウシとして黒毛和種250個体およびホルスタイン種146個体、ならびに米国産ウシとして106個体を用いて検討した限りにおいては、このSNP(18)が日本産のウシにおいてみられる遺伝子頻度は黒毛和種及びホルスタイン種についてそれぞれ0.000以下であった。このSNP(18)が米国産ウシにおいてみられる遺伝子頻度は0.071であった。
【0093】
このSNP(18)を含む前後の塩基配列TCGAは制限酵素TaqIの認識部位であるのに対し、アデニンがグアニンに置換されていない配列TCAAはTaqIの認識部位でない。したがって、TaqIを用いればこのSNP(18)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、この部位がTaqIにより切断されるDNA断片を有する試料は非日本産のウシ、好ましくは米国産のウシに由来するものであると鑑定することができる。
【0094】
1−3−19.SNP(19)の説明
本発明で用いるSNP(19)は、ウシの第7番目の染色体に含まれる配列番号19に示した塩基配列の546番目のシトシンがグアニンに置換された一塩基多型である。このSNPは本発明者らによって発見されBIMA122と名付けられているものである。
【0095】
本発明者が日本産のウシとして黒毛和種250個体およびホルスタイン種146個体、ならびに米国産ウシとして108個体を用いて検討した限りにおいては、このSNP(19)が日本産のウシにおいてみられる遺伝子頻度は黒毛和種及びホルスタイン種についてそれぞれ0.000以下であった。このSNP(19)が米国産ウシにおいてみられる遺伝子頻度は0.088であった。
【0096】
このSNP(19)を含む前後の塩基配列TCGAは制限酵素TaqIの認識部位であるのに対し、シトシンがグアニンに置換されていない配列TCCAはTaqIの認識部位でない。したがって、TaqIを用いればこのSNP(19)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、この部位がTaqIにより切断されるDNA断片を有する試料は非日本産のウシ、好ましくは米国産のウシに由来するものであると鑑定することができる。
【0097】
1−4.鑑定基準の説明
本発明の鑑定方法は、SNP(1)〜(15)からなる群より選択される少なくとも1種のSNPの有無を検出し、いずれか少なくとも1つが検出された試料を日本産でないウシ由来の試料であると鑑定することを特徴とする方法である(これを「鑑定方法(I)」という)。
【0098】
また、本発明の鑑定方法には、
(A)SNP(1)〜(15)からなる群より選択される少なくとも1種のSNPの有無;と併せて
(B)SNP(16)〜(19)からなる群より選択される少なくとも1種のSNPの有無
についても検出し、いずれか少なくとも1つが検出された試料を日本産でないウシ由来の試料であると鑑定することを特徴とする方法も含まれる(これを「鑑定方法(II)」という)。
【0099】
なお、本明細書において「SNP(1)〜(15)からなる群より選択される少なくとも1種のSNPの有無(またはさらにSNP(16)〜(19)からなる群より選択される少なくとも1種のSNPの有無についても)を検出し、いずれか少なくとも1つが検出された試料を日本産でないウシ由来の試料であると鑑定する」ことには、当該SNPの有無に加えてSNP(1)〜(19)に属しない別のSNPの有無についても併せて検出し、これらの検出対象SNPの中から少なくとも1種が検出された試料を日本産でないウシ由来の試料であると鑑定することも含まれる。このように解釈する理由は、SNP(1)〜(19)について既に説明した通り、SNP(1)〜(19)のうち1種でも検出されれば一定の誤判別率のもとその被検体は非日本産ウシ由来であると鑑定することができるからである。
【0100】
1−4−1.検出率の説明
非日本産ウシ試料が非日本産ウシであると鑑定される確率のことを本明細書において検出率(Pi)という。検出率を向上させることは鑑定の感度を高めることにつながる。鑑定の感度が高まることで鑑定作業の効率性が増す。検出しようとする対象となるSNP(本明細書において「検出対象SNP」ということがある。)として1種のSNPを用いる場合、検出率は、この検出対象SNPが非日本産ウシの試料由来DNAに存在している確率として算出される。非日本産ウシ試料におけるこの検出対象SNPの対立遺伝子頻度をPaとすると、この鑑定方法の検出率はPi=1-(1-Pa)2として算出される。また、検出対象SNPとしてn個(nは2以上の整数である)のSNPを用い、これらのうちいずれか1種が検出された試料を非日本産ウシ由来の試料であると鑑定する場合、検出率は、Pi (%)=1-(1-Pi1)(1-Pi2)……(1-Pin)×100%として算出される。
【0101】
1−4−2.誤判別率の説明
日本産ウシ試料が誤って非日本産ウシ試料であると鑑定される確率のことを本明細書において誤判別率(Pm)という。誤判別率を改善することは鑑定の精度を高めることにつながる。鑑定の精度が高まることでより鑑定の信頼性が増す。検出対象SNPとして1種のSNPを用いる場合、日本産ウシ試料におけるこの検出対象SNPの対立遺伝子頻度をPbとすると、この鑑定方法の誤判別率はPm =1-(1-Pb)2として算出される。また、検出対象SNPとしてn個(nは2以上の整数である)のSNPを用い、これらのうちいずれか1種が検出された試料を非日本産ウシ由来の試料であると鑑定する場合、誤判別率は、Pm (%)=1-(1-Pm1)(1-Pm2)……(1-Pmn) ×100%として算出される。
【0102】
1−4−3.鑑定方法(I)の説明
鑑定方法(I)においては、検出対象SNPとしては、どのSNPを選択するかにもよるが、鑑定の感度という観点では3〜8種のSNPが好ましく、4〜8種のSNPがより好ましく、5〜8種のSNPがさらにより好ましい。なお、作業効率の面からは検出対象SNPの種類は少ないほうがより好ましい。
【0103】
鑑定方法(I)においては、SNPが実際に検出された数がある特定の基準数(以下、「鑑定の基準数」ということがある。)以上であればその試料を日本産でないウシ由来の試料であると鑑定する。この鑑定の基準数は、鑑定の感度という観点では1〜3が好ましく、1〜2がより好ましく、1がよりさらに好ましい。
【0104】
具体的には、日本産ウシ由来の試料及び米国産ウシ由来の試料を鑑定対象とした場合、例えば、SNP(1)〜(15)のいずれか1種のみをそれぞれ検出対象としたとき、鑑定の基準数を1とすると、検出率は概ね18.5〜43.8%の範囲内であり、誤判別率は概ね0.00〜0.45%の範囲内である。なお、この場合においても検出率が比較的低いとはいえ一定の鑑定結果が得られるので鑑定方法として実施することはできる。ただし、特に高い感度が求められるときはこの限りでない。例えば、SNP(1)〜(5)を全て検出対象とすると鑑定の基準数を1としたときの検出率が91.24%程度となるので、鑑定の感度という点では好ましい。また、さらに他のSNPを検出対象に加えることによって、より検出率を向上させることができる。検出対象の組み合わせとしては、鑑定の感度という点では検出率がより高いものがより好ましい。なお、SNP(1)〜(15)のいずれか1種のみをそれぞれ検出対象としたとしても誤判別率に関しては十分に低いといえる。
【0105】
検出対象SNPとしては、鑑定の精度という観点では誤判別率が特に低いことからSNP(1)〜(12)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。例えば検出対象SNPとしてSNP(1)〜(12)からなる群より選択される少なくとも1種のSNPを用いると、誤判別率が0%程度となるので好ましい。
【0106】
1−4−4.鑑定方法(II)の説明
鑑定方法(II)は、鑑定方法(I)では使用しないSNPマーカーをさらに少なくとも1種用いる方法である。鑑定方法(I)のSNPマーカーでは検出されないような鑑定対象であっても、鑑定方法(II)で追加されたSNPマーカーによってはじめて検出されることがありうる。このようにして、鑑定方法(II)は鑑定方法(I)に比べて検出率を改善することができる。
【0107】
鑑定方法(II)においては、検出対象SNPとしては、どのSNPを選択するかにもよるが、鑑定の感度という観点では3〜19種のSNPが好ましく、4〜19種のSNPがより好ましく、5〜19種のSNPがさらにより好ましい。より具体的には、SNP(1)〜(15)からなる群より選択される2〜15種、及び(16)〜(19)からなる群より選択される1〜3種が好ましく、SNP(1)〜(15)からなる群より選択される3〜15種、及び(16)〜(19)からなる群より選択される1〜2種がより好ましく、SNP(1)〜(15)からなる群より選択される4〜15種、及び(16)〜(19)からなる群より選択される1種がよりさらに好ましい。なお、作業効率の面からは検出対象SNPの種類は少ないほうがより好ましい。
【0108】
鑑定方法(II)においては、SNPが実際に検出された数が鑑定の基準数以上であればその試料を日本産でないウシ由来の試料であると鑑定する。この鑑定の基準数は、鑑定の感度という観点では1〜3が好ましく、1〜2がより好ましく、1がよりさらに好ましい。
【0109】
検出対象SNPとしては、鑑定の精度という観点では誤判別率が特に低いことからSNP(1)〜(12)からなる群より選択される少なくとも1種、及びSNP(17)〜(19)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。また、SNP(16)〜(19)の中では、検出率が鑑定の感度という観点では特に高い(約50.2%)ことからSNP(16)が特に好ましい。
【0110】
日本産ウシ由来の試料及び米国産ウシ由来の試料を鑑定対象とした場合、具体的には次のような鑑定方法が好ましい。例えば検出対象SNPとしてSNP(1)、(2)、及び(16)を用い、鑑定の基準数を1とすると検出率が83.9%程度となるので好ましい。また、例えば検出対象SNPとしてSNP(1)、(2)、(9)、(10)、及び(12)、並びに(17)〜(19)を全て用い、鑑定の基準数を1とすると検出率が91.0%程度となるので好ましい。さらに、例えば検出対象SNPとしてSNP(1)、(2)、(9)、(10)、及び(12)、並びに(17)〜(19)からなる群より選択される少なくとも1種のSNPを用いると、誤判別率が0%程度となるので好ましい。そして、例えば検出対象SNPとしてSNP(1)、(2)、(8)、及び(10)、並びに(16)を用い、鑑定の基準数を1とすると検出率が91.2%程度、誤判別率が0.44%程度となるので好ましい。
【0111】
2.本発明の鑑定キットについての説明
以下、本発明の鑑定キットについて説明するが、鑑定キットに供する試料、SNPの検出方法、SNP、及び鑑定基準についての説明は、上記した本発明の鑑定方法についての説明と同様であるため省略する。
【0112】
2−1.SNPを検出するために必要な材料についての説明
SNPを検出するために必要な材料は、SNPの検出方法によって異なる。例えば、PCR反応によりSNPを含むDNA断片をまず増幅する必要があるような検出方法を用いる場合には、PCR反応に必要なプライマーのセットがSNPを検出するために必要となる。そのような検出方法としては例えばPCR-RFLP法及びPCR-SSCP法等が挙げられる。本発明の鑑定キットはSNPを検出するために必要な材料としてそのようなプライマー、又は一組のプライマー(プライマーセット)を含んでいてもよい。プライマーの配列は限定されず、常法に従って決定することができる。プライマーの塩基数は、目的のDNA断片を増幅することができればよく特に限定されないが、10塩基から40塩基が好ましく、15塩基から30塩基がより好ましく、18塩基から25塩基がよりさらに好ましい。プライマーとしては、例えば表1に記載のプライマーを検出対象SNPに応じて選択することができる。表1に記載のプライマーを用いる場合には、アニーリング温度を同表に記載の通りとすることによって効率的にDNA断片を増幅することができる。
【0113】
例えば、PCR-RFLP法を検出方法として用いる場合、必要な制限酵素のセットもSNPを検出するために必要となる。本発明の鑑定キットはSNPを検出するために必要な材料としてそのような制限酵素、又は一組の制限酵素を含んでいてもよい。そのような制限酵素としては、1−3.で説明した制限酵素を検出対象SNPに応じて選択すればよい。
【0114】
SNPを検出するために必要な材料にはさらに、鑑定を行う手順を示した指示書が含まれていてもよい。
【実施例】
【0115】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0116】
実施例1:鑑定方法(I)の実施
SNP(1)〜(15)からなる群より選択される少なくとも1種を検出対象とし、本発明の鑑定方法を実施した。日本産ウシ由来の試料、及び米国産ウシ由来の試料に対してそれぞれ鑑定を行った。日本産ウシ由来の試料としては黒毛和種由来の試料及びホルスタイン種由来の試料を用いた。この鑑定方法について検出率と誤判別率を算出した結果を表2に記載した。
【0117】
[方法]
(1)ゲノムDNAの精製
ウシゲノムDNAは肝臓組織、リンパ節、血液および市販牛肉より抽出し、精製した。
【0118】
(1−1)肝臓組織からのDNA精製
組織からのゲノムDNAは以下のように抽出した。組織約1.0gをホモジナイザーでホモジナイズし、TNE溶液 (10mM Tris-HCl pH7.5, 0.1M NaCl, 1mM EDTA) 20mlを加えながらガーゼを用いて濾過し、3,000rpmで10分間遠心分離した。その後上清を除き、TNE溶液を15ml加え良く混和して、再び3,000rpmで10分間遠心分離し上清を除いた。そして生理食塩水/EDTA (0.16M NaCl, 1mM EDTA) 1mlに良く混和し、ザルコシル溶液 (0.5% N-lauroylsarcosine sodium salt, 10mM Tris-HCl pH8.0, 10mM EDTA) 15mlを加えてDNAを切断しないようにゆっくりと振とうしてDNAを溶出させた。そしてProteinase K溶液 (10mg/ml in water) 200μlを加え、37℃で一晩インキュベートした。当量のTE-フェノール (フェノールを60℃で溶かし、0.1%になるように8-hydroxyquinolineを加え、TE buffer (10mM Tris-HCl ; pH8.0, 1mM EDTA) で水飽和したもの) を加え10分間ゆっくりと混和した。3,000rpm で10分間遠心分離し、水層とフェノール層の間にできる蛋白質を取らないように水層を分取した。この水層にフェノール・クロロフォルム・イソアミルアルコール (25:24:1, 0.05%の8-hydroxyquinoiineを含む) を加え、10分間遠心分離し水層を分取した。この水層に当量のクロロフォルム・イソアミルアルコール (24:1) を加え10分間混和した後、3,000rpmで5分間遠心分離した。次に水層を分取し、当量のジエチルエーテルを加え、白色になった水層が透明になるまでやや強めに振とうした後3,000rpmで数秒間遠心分離し、エーテルを通風除去した。そして10分の1量の3M酢酸ナトリウム溶液 (酢酸でpH5.2に調整) を加え、-20℃で冷却した100%エタノールを2倍量混合しDNAを沈殿させた。そのDNAは70%エタノールで洗浄し室温で乾燥させた後、2mlのTE bufferに溶解して4℃で保存した。
【0119】
(1−2)リンパ節からのDNA精製
リンパ節約0.5gをテフロン(登録商標)・ペッスルとステンレスメッシュを用いて、生理食塩水/EDTA中ですり潰しガーゼで濾過した後、3,000rpmで10分間遠心分離した。その後上清を除去して20mlの生理食塩水/EDTAを加えよく混和し、再び3,000rpmで10分間遠心分離した。そして上清を除き約1mlの生理食塩水/EDTAによく混和し、20mlのザルコシル溶液を加えてDNAを溶出させた。その後の操作は肝臓組織からのDNAの精製と同様に行った。
【0120】
(1−3)全血からのDNA精製
約10mlの全血を3,000rpmで10分間遠心分離し、パスツールピペットを用いて白血球層を分取した。40mlの0.2%NaCl溶液を加えてよく混和して血球を溶血させ、3,000rpmで10分間遠心分離し上清を除いた。その後0.5mlの0.16M NaCl/1mM EDTA溶液を加えてよく懸濁した後、20mlのザルコシル溶液を加えDNAを切断しないようにゆっくりと振とうし、DNAを溶出させた。その後の操作は肝臓組織からのDNAの精製と同様に行った。
【0121】
(1−4)牛肉からのDNA精製
組織約0.1gをハサミで細かく切断し、TNESU溶液 (10mM Tris-HCl pH7.5, 0.1M NaCl, 1mM EDTA, 1% SDS, 6M Urea) 5ml、Proteinase K溶液 200μlを加えた後、DNAを切断しないようにゆっくりと振とうして37℃で一晩インキュベートした。当量のフェノール・クロロフォルム・イソアミルアルコールを加え、3,000rpmで10分間遠心分離し水層を分取した。その際、タンパクなどの不純物が多く残っていると思われたものは再度フェノール・クロロフォルム・イソアミルアルコールによりタンパク等をさらに除去した。次に水層を分取し、当量のジエチルエーテルを加え、白色になった水層が透明になるまでやや強めに振とうした後3,000rpmで数秒間遠心分離し、エーテルを通風除去した。そして100%エタノールを2倍量混合しDNAを沈殿させた。そのDNAは70%エタノールで洗浄し室温で乾燥させた後、2mlのTE bufferに溶解して4℃で保存した。
【0122】
(2)DNAの定量
DNAの定量は260nmの吸光度の測定で行った。OD260=1.00は2本鎖のDNAが50μg/mlの濃度に相当する。また同時に280nmの吸光度も測定し、OD260/OD280比が1.8±0.1であれば、蛋白質、界面活性剤、フェノールなどの不純物のない純度の高いDNAを回収できたとみなした。
【0123】
(3)PCR-RFLP法による遺伝子型判定
開発したDNAマーカーにおいて、PCR-RFLP法を用いて遺伝子型判定を行った。
【0124】
(3−1)PCRによる遺伝子領域の増幅
ゲノムDNAを10ng/μlに調整してPCR反応の鋳型DNAとした。プライマー配列については、表1に示した。鋳型DNA(10ng/μl)2.5μl、10×Ex Taq Buffer 1.0μl、dNTPs Mixture0.8μl、Forward primer、Reverse primer(10 pmol/μl)をそれぞれ0.25μl、TaKaRa Ex Taq (登録商標)Hot Start Version(TaKaRa,Tokyo,Japan)0.05μl、超純水5.15μl加えて全量を10μlとして反応を行った。反応はサーマルサイクラーを用い、以下の条件で行った。まず94℃ 2分間の熱変性の後、94℃ 30秒間、アニーリング温度 30秒間、72℃1分間を30もしくは35サイクル行い、最後に72℃ 7分間の伸長反応を行った。なお、増幅が困難であった配列については、TaKaRa LA Taq (登録商標)with GC Buffer(TaKaRa,Tokyo,Japan)を用いた。そのPCR mixtureの組成は、鋳型DNA(10ng/μl)1.0μl、2×GC BufferI5.0μl、dNTPs Mixture 1.6μl、Forward primer、Reverse primer(10 pmol/μl)をそれぞれ0.2μl、TaKaRa LA Taq (登録商標)with GC Buffer(TaKaRa,Tokyo,Japan)0.1μl、超純水1.9μl加えて全量を10μlとして反応を行った。本研究で用いたプライマーの設計には全て、OLIGO 4.0 primer analysis programを用いた。
【0125】
(3−2)制限酵素による切断
反応はPCR産物5.0μl、10×制限酵素Buffer 1.5μl、BSA 0.15μl、制限酵素0.25μl、滅菌超純水8.1μlを加えて全量15.0μlで行い、各制限酵素の適正温度でウォーターバスを用い、8時間以上インキュベートした。
【0126】
(3−3)アガロース電気泳動
エチジウムブロマイドを加え作成した3.0%アガロースゲル(Bio-Rad Laboratories, Tokyo, Japan)にて、1×TBE bufferを満たした電気泳動装置を用いて100Vで30分間電気泳動した。PCR産物もしくは制限酵素処理したPCR産物15μlには40%グリセロール液5μlを加えて全量20μlずつアプライし、断片の大きさの指標としてはpBR322 DNA-MspIDigestマーカー(Bio-Rad Laboratories, Tokyo, Japan )を用いた。泳動後、紫外線照射してバンドを確認した。
【0127】
[結果]
結果を表2及び表3に示す。表2には、SNP(1)、(2)、(8)、(10)、及び(12)〜(15)を用いた結果を示す。また、表3には、SNP(3)〜(7)、(9)、及び(11)を用いた結果を示す。なお表中1は米国産ウシ特異的な対立遺伝子、2は日本産および米国産ウシの両方にみられる対立遺伝子、pは1の対立遺伝子頻度を示す。
【0128】
(1)SNP(1)、(2)、(8)、(10)、及び(12)〜(15)について
個々のSNPを一種ずつ検出対象とした場合、非日本産ウシの検出率は19.3〜43.8%であり、8種のSNP全てを検出対象とすると96.3%であった。個々のSNPを一種ずつ検出対象とした場合、誤判別率は0.00〜0.45%であり、8種のSNP全てを検出対象とすると1.12%であった。
【0129】
誤判別率が0.00%であるSNP(1)〜(5)の個々のSNPを一種ずつ検出対象として用いた場合、非日本産ウシの検出率は19.3〜43.8%であり、この5種のSNP全てを検出対象とすると85.8%であった。
【0130】
【表2】

【0131】
(2)SNP(3)〜(7)、(9)、及び(11)について
個々のSNPを一種ずつ検出対象とした場合、非日本産ウシの検出率は18.5〜36.59%であり、7種のSNP全てを検出対象とすると92.63%であった。個々のSNPを一種ずつ検出対象とした場合、誤判別率はいずれも0.00%であった。
【0132】
【表3】

【0133】
また、SNP(3)〜(7)、(9)、及び(11)に、誤判別率が0%であるSNP(1)、(2)、(8)、及び(10)を合わせた計11マーカーについて、検出率の優れるものから順に組み合わせて用いたときの検出率を調べたところ、表4の通りであった。
【0134】
【表4】

【0135】
実施例2:鑑定方法(II)の実施
SNP(1)、(2)、(8)、(10)、及び(12)〜(15)からなる群より選択される少なくとも1種、及びSNP(16)〜(19)からなる群より選択される少なくとも1種を検出対象とし、本発明の鑑定方法を実施した。日本産ウシ由来の試料、及び米国産ウシ由来の試料に対してそれぞれ鑑定を行った。日本産ウシ由来の試料としては黒毛和種由来の試料及びホルスタイン種由来の試料を用いた。この鑑定方法について検出率と誤判別率を算出した結果を表5に記載した。方法は実施例1に準じて行った。
【0136】
【表5】

【0137】
[結果]
SNP(1)、(2)、(8)、(10)、及び(12)〜(15)、並びにSNP(16)〜(19)を全て検出対象とした場合、非日本産ウシの検出率は98.8%、誤判別率1.55%であった。
【0138】
誤判別率が0.00%である5種のマーカーSNP(1)、(2)、(8)、(10)、及び(12)、及び誤判別率が0.00%であるSNP(17)〜(19)を全て検出対象とした場合、非日本産ウシの検出率は91.0%であった。
【0139】
SNP(16)、並びにSNP(1)、(2)、(8)、及び(10)を検出対象とした場合、検出率91.2%、誤判別率0.44%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウシ由来DNAを含む試料が日本産でないウシ由来の試料であるか否かを鑑定する方法であって、次の(1)〜(15)からなる群より選択される少なくとも1種の一塩基多型の有無を検出し、いずれか少なくとも1つが検出された試料を日本産でないウシ由来の試料であると鑑定することを特徴とする方法:
(1)第3番目の染色体に含まれる配列番号1に示した塩基配列の第439番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(2)第7番目の染色体に含まれる配列番号2に示した塩基配列の第564番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(3)第13番目の染色体に含まれる配列番号3に示した塩基配列の第255番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;
(4)第22番目の染色体に含まれる配列番号4に示した塩基配列の第23番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(5)第3番目の染色体に含まれる配列番号5に示した塩基配列の第97番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(6)第2番目の染色体に含まれる配列番号6に示した塩基配列の第169番目のシトシンがアデニンに置換された一塩基多型;
(7)第24番目の染色体に含まれる配列番号7に示した塩基配列の第177番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(8)第5番目の染色体に含まれる配列番号8に示した塩基配列の第326番目のチミンがシトシンに置換された一塩基多型;
(9)第26番目の染色体に含まれる配列番号9に示した塩基配列の第280番目のシトシンがグアニンに置換された一塩基多型;
(10)第20番目の染色体に含まれる配列番号10に示した塩基配列の第228番目のアデニンがシトシンに置換された一塩基多型;
(11)第24番目の染色体に含まれる配列番号11に示した塩基配列の第378番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(12)配列番号12に示した塩基配列の第120番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;
(13)第6番目の染色体に含まれる配列番号13に示した塩基配列の第206番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(14)第8番目の染色体に含まれる配列番号14に示した塩基配列の第289番目のシトシンがアデニンに置換された一塩基多型;及び
(15)第17番目の染色体に含まれる配列番号15に示した塩基配列の第248番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型。
【請求項2】
前記一塩基多型としてさらに次の(16)〜(19)からなる群より選択される少なくとも1種の一塩基多型を含む請求項1に記載の鑑定方法:
(16)配列番号16に示すmelanocortin-1 receptor(MC1R)の塩基配列の109番目のグアニンが欠失した一塩基多型;
(17)第16番目の染色体に含まれる配列番号17に示した塩基配列の第186番目のグアニンがチミンに置換された一塩基多型;
(18)配列番号18に示した塩基配列の96番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;及び
(19)第7番目の染色体に含まれる配列番号19に示した塩基配列の546番目のシトシンがグアニンに置換された一塩基多型。
【請求項3】
前記一塩基多型として前記(1)〜(15)からなる群より選択される少なくとも4種の一塩基多型を含む、請求項1又は2に記載の鑑定方法。
【請求項4】
日本産でないウシが米国産のウシである、請求項1〜3のいずれかに記載の鑑定方法。
【請求項5】
ウシ由来DNAを含む試料が日本産でないウシ由来の試料であるか否かを鑑定するキットであって、次の(1)〜(15)からなる群より選択される少なくとも1種の一塩基多型の有無を検出するために必要な材料を含むキット:
(1)第3番目の染色体に含まれる配列番号1に示した塩基配列の第439番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(2)第7番目の染色体に含まれる配列番号2に示した塩基配列の第564番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(3)第13番目の染色体に含まれる配列番号3に示した塩基配列の第255番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;
(4)第22番目の染色体に含まれる配列番号4に示した塩基配列の第23番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(5)第3番目の染色体に含まれる配列番号5に示した塩基配列の第97番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(6)第2番目の染色体に含まれる配列番号6に示した塩基配列の第169番目のシトシンがアデニンに置換された一塩基多型;
(7)第24番目の染色体に含まれる配列番号7に示した塩基配列の第177番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(8)第5番目の染色体に含まれる配列番号8に示した塩基配列の第326番目のチミンがシトシンに置換された一塩基多型;
(9)第26番目の染色体に含まれる配列番号9に示した塩基配列の第280番目のシトシンがグアニンに置換された一塩基多型;
(10)第20番目の染色体に含まれる配列番号10に示した塩基配列の第228番目のアデニンがシトシンに置換された一塩基多型;
(11)第24番目の染色体に含まれる配列番号11に示した塩基配列の第378番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(12)配列番号12に示した塩基配列の第120番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;
(13)第6番目の染色体に含まれる配列番号13に示した塩基配列の第206番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(14)第8番目の染色体に含まれる配列番号14に示した塩基配列の第289番目のシトシンがアデニンに置換された一塩基多型;及び
(15)第17番目の染色体に含まれる配列番号15に示した塩基配列の第248番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型。
【請求項6】
前記一塩基多型としてさらに次の(16)〜(19)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項5に記載の鑑定キット:
(16)配列番号16に示すmelanocortin-1 receptor(MC1R)の塩基配列の109番目のグアニンが欠失した一塩基多型;
(17)第16番目の染色体に含まれる配列番号17に示した塩基配列の第186番目のグアニンがチミンに置換された一塩基多型;
(18)配列番号18に示した塩基配列の96番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;及び
(19)第7番目の染色体に含まれる配列番号19に示した塩基配列の546番目のシトシンがグアニンに置換された一塩基多型。

【公開番号】特開2010−263888(P2010−263888A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95158(P2010−95158)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、農林水産省、「食品・農産物の表示の信頼性確保と機能性解析のための基盤技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】