説明

ウラシル及びシトシンの固相フッ素化

【課題】 18F−標識トレーサーの固相合成法の提供。
【解決手段】 式(I):固体担体‐リンカー‐I‐トレーサー(I)Y(式中、トレーサーは式(A)の基又はそのアミン保護誘導体であり、式(A)中、Yはアニオン、好ましくはトリフルオロメチルスルホネート(トリフレート)アニオンであり、Rは(i)CH−NP1A2A基(式中、P1A及びP2Aは各々独立に水素又は保護基である。)又は(ii)カルボニル基である。)の固体担体結合前駆体を18で処理して式(II)(式(II)中、Rは式(I)の化合物について定義した通りである。)の標識トレーサー又はそのアミン保護誘導体を生成させる。
【化1】


【化2】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射標識トレーサーの製造、特にポジトロン放出断層撮影法(PET)の放射性トレーサーとしての使用に適した18F−標識アミノ酸の製造のための新規固相法に関する。本発明は、かかる新規方法を用いた放射性医薬品キットも包含する。
【背景技術】
【0002】
PETに好ましい放射性同位元素である18Fは110分という比較的短い半減期を有する。そのため、PET用18F−標識トレーサーはできるだけ迅速に、理想的には臨床使用の1時間以内に合成・精製しなければならない。フッ素−18を導入するための標準的合成法は比較的遅く、しかも反応後に精製(例えばHPLCによる)を要するが、このことは、良好な放射化学収率で臨床用18F−標識トレーサーを得るのが難しいことを意味する。放射線被爆からオペレーターを保護するため自動化に対するニーズも存在する。多くの放射性フッ素化は手順が複雑であり、自動化を促進するには手順を単純化する必要がある。
【0003】
本発明は、迅速に高い比活性の18F−標識アミノ酸の新規固相合成法を提供するが、本方法は時間のかかる精製工程を必要とせず、得られる18F−標識トレーサーはPETでの使用に適している。固相法は自動化に適しており、製造が容易で処理能力が大きいという利点を有する。本発明はかかる方法を用いる放射性医薬品キットも包含し、放射性医薬品調剤師又は臨床医に18F−標識アミノ酸の簡便な製造手段を提供する。
【0004】
本願出願人の国際特許出願PCT/GB02/02505号には、固相求核フッ素化法に関して記載されている。
【特許文献1】国際公開第03/002157号パンフレット
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様では、本発明は、18F標識トレーサーの製造方法であって、式(I)
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、トレーサーは式(A)の基又はそのアミン保護誘導体である。
【0008】
【化2】

【0009】
式中、Yはアニオン、好ましくはトリフルオロメチルスルホネート(トリフレート)アニオンであり、Rは(i)CH−NP1A2A基(式中、P1A及びP2Aは各々独立に水素又は保護基である。)又は(ii)カルボニル基である。)
の固体担体結合前駆体を18で処理して式(II)
【0010】
【化3】

【0011】
(式中、Rは式(I)の化合物について定義した通りである。)
の標識トレーサー又はそのアミン保護誘導体を生成させ、次いで、適宜
(i)過剰18の、例えばイオン交換クロマトグラフィーによる除去、及び/又は
(ii)保護基の除去、及び/又は
(iii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iv)得られた式(II)の化合物の水溶液としての処方
を行う方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
式(I)の化合物は、Merrifield樹脂又はWang樹脂のような市販の官能化樹脂から簡便に製造し得る。好適には、リンカー基を含むヒドロキシヨードアリール(ヨードフェノールなど)を炭酸セシウムのような無機塩基で処理し、次いでN,N−ジメチルホルムアミドのような不活性溶媒で予め膨潤させておいた樹脂に添加し、昇温下(例えば30〜80℃)で反応させる。過剰の試薬は追加の不活性溶媒で樹脂を洗浄することによって除去し得る。得られたヨードフェノール官能化樹脂を、過酸化水素のような酸化剤の存在下で、酢酸アニオン源(酢酸、無水酢酸又は塩化アセチルなど)で処理して対応ジアセトキシヨードフェニル官能化樹脂を得る。ジアセトキシヨードフェニル官能化樹脂を、塩酸、トリフルオロメタンスルホン酸又は酢酸のような酸の存在下、ジクロロメタンのような不活性溶媒中で低温(好適には−40℃〜10℃)で撹拌してから、トレーサー、好適には適度な温度で樹脂にカップリングし得るホウ酸もしくはトリ有機スズ(トリアルキルスズ)誘導体として官能化したものを添加する。前段と同様、式(I)の所望の化合物は濾過及び不活性溶媒での洗浄によって分離し得る。
【0013】
式(II)の18F−標識トレーサーは固相から溶液中に取り出され、未反応前駆体はすべて樹脂に結合したまま残り、簡単な濾過で分離できるので、HPLCなどによる面倒な精製の必要性がなくなる。式(II)の18F−標識トレーサーは、イオン交換クロマトグラフィーなどによる過剰Fの除去及び/又は有機溶媒の除去によって純度を高めることができる。得られた式(II)の18F−標識トレーサーはさらに臨床用水性処方とすることができる。
【0014】
式(I)及び本発明の以下の具体的態様の化合物において、「固体担体」は、当該プロセスで使用する溶媒には不溶であるが、リンカー及び/又はトレーサーを共有結合させることができる適当な固相担体であればよい。適当な固体担体の具体例としては、ポリスチレン(ポリエチレングリコールなどとのブロックグラフトでもよい)、ポリアクリルアミド又はポリプロピレンのようなポリマー、或いはかかるポリマーで被覆したガラス又はケイ素が挙げられる。固体担体はビーズやピンのような小さな離散粒子の形態でもよいし、或いはカートリッジの内面又はマイクロ加工容器のコーティングでもよい。
【0015】
式(I)及び本発明の以下の具体的態様の化合物において、「リンカー」は、固体担体構造から反応性部位を十分に離隔して反応性を最大限に発揮させるのに適した有機基であればよい。好適には、リンカーは、0〜4個のアリール基(好適にはフェニル)及び/又はC1−16アルキル(好適にはC1−6アルキル)又はC1−16ハロアルキル(好適にはC1−6ハロアルキル)、典型的にはC1−16フルオロアルキル(好適にはC1−6フルオロアルキル)、又はC1−16アルコキシ又はC1−16ハロアルコキシ(好適にはC1−6アルコキシ又はC1−6ハロアルコキシ)、典型的にはC1−16フルオロアルコキシ(好適にはC1−6フルオロアルコキシ)からなり、適宜、アミド又はスルホンアミド基のような1〜4個の官能基を含む。かかるリンカーの具体例は固相化学の当業者には周知であり、以下のものが挙げられる。
【0016】
【化4】

【0017】
各例において、kは0〜3の整数であり、nは1〜16の整数であり、Rは水素又はC1−6アルキルである。
【0018】
式(I)及び本発明の以下の具体的態様の化合物において、リンカーは上記で定義した通りであるが、好適にはIに隣接してアリール基(好適にはフェニル)を含む。好ましい具体例は以下の通りである。
【0019】
【化5】

【0020】
別の態様では、本発明は、5[18F]フルオロウラシルの製造方法であって、式(Ia)
【0021】
【化6】

【0022】
(式中、Yはアニオン、好ましくはトリフルオロメチルスルホネート(トリフレート)アニオンである。)
の固体担体結合前駆体を18で処理して式(IIa)
【0023】
【化7】

【0024】
の標識トレーサー又はそのアミン保護誘導体を生成させ、次いで、適宜
(i)過剰18の、例えばイオン交換クロマトグラフィーによる除去、及び/又は
(ii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iii)保護基の除去、及び/又は
(iv)得られた式(IIa)の化合物の水溶液としての処方
を行う方法を提供する。
【0025】
別の態様では、本発明は、5[18F]フルオロシトシンの製造方法であって、式(Ib)
【0026】
【化8】

【0027】
(式中、Yはアニオン、好ましくはトリフルオロメチルスルホネート(トリフレート)アニオンであり、P1A及びP2Aは各々独立に水素又は保護基である。)
の固体担体結合前駆体を18で処理して式(IIb)
【0028】
【化9】

【0029】
の標識トレーサー又はそのアミン保護誘導体を生成させ、次いで、適宜
(i)過剰18の、例えばイオン交換クロマトグラフィーによる除去、及び/又は
(ii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iii)保護基の除去、及び/又は
(iv)得られた式(IIb)の化合物の水溶液としての処方
を行う方法を提供する。
【0030】
当業者には自明であろうが、放射性標識プロセスに際して、不要な反応を避けるためトレーサーの官能基を保護することが必要とされることがある。かかる保護は保護基化学の常法で達成し得る。放射性標識の完了後、保護基は簡単なしかも当技術分野での常法で除去し得る。適当な保護及び脱保護の方法論は、例えばProtecting Group in Organic Syntheses,Theodora W.Greene and Peter G.M.Wuts,published by John Wiley & Sons Inc.に記載されている。例えば、式(I)の化合物のアミン官能基は、エステル、好適にはC1−6アルキル又はC1−6ハロアルキルエステル、好ましくはt−ブトキシカルボニルのようなアシルエステル、或いはエーテル、好ましくはC1−6アルキルエーテルによって、或いはアミド、好適にはホルミルアミドのようなC1−6アルキルアミドとして、保護することができる。かかる保護基は、例えば、酸又は塩基の存在下での加水分解によって簡便に除去し得る。かかる脱保護は固体に担持した酸又は塩基触媒を用いて実施でき、脱保護後の中和は不要である。
【0031】
18による式(I)、(Ia)又は(Ib)の化合物の処理は、Na18F、K18F、Cs18F、フッ化18Fテトラアルキルアンモニウム又はフッ化18Fテトラアルキルホスホニウムのような適当な18源での処理によって実施し得る。フッ化物の反応性を高めるため、4,7,13,16,21,24−ヘキサオキサ−1,10−ジアザビシクロ[8.8.8]ヘキサコサンのような相間移動触媒を添加して、反応を非プロトン性溶媒中で実施してもよい。こうした条件下で反応性フッ素イオンが得られる。18での処理は、好適には、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、スルホラン、N−メチルピロリジノンのような適当な有機溶媒の存在下で適度な温度(例えば15℃〜180℃)、好ましくは昇温下で実施する。反応が完了したら、溶媒中に溶解した式(II)の18F−標識トレーサーを濾過によって簡便に固相から分離する。本発明の他の態様でも同様のフッ素化法を使用し得る。
【0032】
過剰18はイオン交換クロマトグラフィー又は固相吸着剤などの適当な手段によって18F−トレーサーの溶液から除去し得る。適当なイオン交換樹脂としては、BIO−RAD AG1−X8又はWaters QMAが挙げられ、適当な固相吸着剤としてはアルミナが挙げられる。過剰18は非プロトン性溶媒中でこうした固相を用いて室温で除去し得る。
【0033】
有機溶媒は、昇温真空下での蒸発或いは窒素又はアルゴンのような不活性ガス流を溶液に流すなどの常法によって除去し得る。
【0034】
18F−標識トレーサーの使用前に、無菌等張食塩水に18F−標識トレーサーを溶解した水溶液などに処方するのが適切なこともあり、無菌等張食塩水はエタノールのような10%以下の適当な有機溶媒又はリン酸緩衝液のような適当な緩衝液を含んでいてもよい。その他、放射線分解を低減するためアスコルビン酸のような添加剤を加えてもよい。
【0035】
式(I)の化合物は新規なものであるので、本発明の別の態様をなす。したがって、例えば、式(Ia)及び(Ib)の化合物も、本発明の別の態様をなす。
【0036】
上述の通り、18F標識トレーサーのかかる固相合成法の利点としては、方法の相対的速さ、単純化された精製方法、及び自動化の簡易性を挙げることができ、これらすべてが、該方法が、PET用18F標識トレーサーの製造に好適であることを意味する。
【0037】
したがって、本発明は、式(II)、(IIa)又は(IIb)のPET用18F標識トレーサーの製造方法を提供する。
【0038】
本発明の別の態様では、式(II)、(IIa)又は(IIb)の化合物は同様の液相法でも製造できる。したがって、18F標識トレーサーの製造方法であって、式(III)、(IIIa)又は(IIIb)
【0039】
【化10】

【0040】
(式中、R、P2A、P1A及びYは式(I)で定義した通りであり、フェニル環Bは適宜ハロゲン、C1−6アルキル、C1−6ハロアルキル、ヒドロキシ、C1−6アルコキシ、アミノ、C1−6ヒドロキシアルキル及びニトロから独立に選択される1〜5個の置換基で置換されていてもよい。)
の化合物又はそのアミン保護誘導体を18で処理してそれぞれ上記の式(II)、(IIa)又は(IIb)の標識トレーサー又はそのアミン保護誘導体を生成させ、次いで、適宜
(i)過剰18の、例えばイオン交換クロマトグラフィーによる除去、及び/又は
(ii)保護基の除去、及び/又は
(iii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iv)得られた式(II)、(IIa)又は(IIb)の化合物の水溶液としての処方
を行う方法も提供する。
【0041】
簡便には、式(I)の固体担体結合前駆体、又は式(III)、(IIIa)もしくは(IIIb)の化合物、又はこれらのアミン保護誘導体は、放射線医薬品調剤室向けのキットの一部として提供できる。キットは適当な自動化合成機に装着できるカートリッジを含んでいてもよい。カートリッジは、前駆体化合物とは別に、不要フッ素イオンを除去するためのカラム、反応混合物を蒸発させて生成物を必要に応じて処方することができるように連結された適当な容器を含んでいてもよい。試薬、溶媒その他合成に必要な消耗品を、放射能濃度、体積、送達時間などに関する顧客条件に合致するように合成機を操作できるようにするソフトウエアを記録したコンパクトディスクと共に含んでいてもよい。
【0042】
簡便には、キットの部品はすべて作業間の汚染のおそれを最小限とし、無菌及び品質を保証するため使い捨てとする。
【0043】
本発明は、さらに、PET用18標識トレーサーの製造用放射性医薬品キットであって、
(i)式(I)、(Ia)、(Ib)、(III)、(IIIa)もしくは(IIIb)の化合物又はそれらのアミン保護誘導体を収容した容器、及び
(ii)18源で上記容器を溶出する手段、
(iii)過剰18の除去のためのアニオン交換カートリッジ、及び、適宜
(iv)得られた式(II)、(IIa)又は(IIb)の生成物の固相脱保護用カートリッジ
を備えるキットを提供する。
【0044】
本発明は、さらに、PET用18標識トレーサー製造のための放射性医薬品キット用カートリッジであって、
(i)式(I)、(Ia)、(Ib)、(III)、(IIIa)もしくは(IIIb)の化合物又はそれらのアミン保護誘導体を収容した容器、及び
(ii)18源で上記容器を溶出する手段、
を備えるカートリッジを提供する。
【0045】
本発明の別の態様では、診断用PET画像を取得する方法であって、上記の放射性医薬品キット又は放射性医薬品キット用カートリッジを使用するステップを含む方法を提供する。
【実施例】
【0046】
以下の実施例で本発明を例示する。
【0047】
実施例を通して用いた略号は以下の通りである。
DMF: N,N−ジメチルホルムアミド
w/v: 重量/体積
h: 時間
tlc: 薄層クロマトグラフィー
THF: テトラヒドロフラン
eq.: 当量。
【0048】
実施例1 5[18F]−フルオロウラシルの合成
実施例1(i) PSヨード−フェニルベンジルエーテルの合成
【0049】
【化11】

【0050】
予めDMF(2ml)で膨潤しておいたWang樹脂の懸濁液に、炭酸セシウム及びヨードフェノールのDMF溶液を添加した。混合物を60℃、3時間攪拌し、次いで室温に一晩放置した。濾過後、樹脂をメタノール、ジクロロメタン、DMF及びTHFで順次洗浄し、次いで高真空下で乾燥させた。
実施例1(ii) PSジアセトキシ−ヨード−フェニルベンジルエーテルの合成
【0051】
【化12】

【0052】
上記の樹脂懸濁液を4:1無水酢酸/過酸化水素溶液(S. Ficht, Tetrahedron, 57(2001)4863記載の方法参照)で40℃一晩処理した。樹脂を濾過し、メタノールで十分に洗浄し、高真空下で乾燥させた。
【0053】
実施例1(iii) 5[18F]−フルオロウラシル用の固体担体結合前駆体の合成
【0054】
【化13】

【0055】
実施例1(ii)に記載のジクロロメタン懸濁液に、トリフルオロメタンスルホン酸を−30℃で15分間滴下した。混合物をさらに15分間0℃に加温してから、室温で一晩攪拌した。懸濁液を次いで−30℃に冷却し、5−ジヒドロキシボラニル−1H−ピリミジン−2,4−ジオン(Schinazi et al, Tetrahedron Lett.;1978,4981)を添加し、次いで懸濁液を1時間攪拌し、室温まで温めてからさらに一晩攪拌した。混合物を濾過し、ジクロロメタンとジエチルエーテルで洗浄し、高真空下で乾燥させた。
【0056】
実施例1(iv)5[18F]−フルオロウラシルを製造するための放射性フッ素化
カートリッジに収容した実施例1(iii)の樹脂の一部に、クリプトフィックス、炭酸カリウム及び[18F]−フッ素の乾燥アセトニトリル溶液を加える。懸濁液を85℃で10分間加熱し、溶液を濾別する。樹脂をアセトニトリル(1ml)で洗浄し、内容物をすべて回収してから、溶媒を蒸発させ、処方する。
【0057】
実施例2:ポリマー担持5−ウラシルヨードニウム塩の合成
【0058】
【化14】

【0059】
実施例2(i)ポリ(スチレン)のリチウム化
参考文献 J. Org. Chem, 1976,41, 3877。
【0060】
不活性ガス雰囲気下、2.8gの2%架橋ポリ(スチレン)(I)を、25mmolのTMEDA(テトラメチルエチレンジアミン)及び33.75mmolのブチルリチウムを含有する20〜25mlのn−へプタン中に懸濁した。反応混合物を迅速に攪拌し、60〜65℃に加温して約5時間攪拌した。この間に反応混合物は深いオレンジ色になった。混合物を室温にさまし、上清をデカンテーションによって除去した。残ったオレンジ色の残留物をn−ヘプタンで洗浄し(2×20ml)、真空下で乾燥させた。
【0061】
実施例2(ii)ヨードフェニル末端ポリ(スチレン)の製造
参考文献: Polymer 2000,41, 4005。
【0062】
リチウム化ポリ(スチレン)(実施例2(i)記載の方法で製造)を乾燥トルエン(20ml)及び5.6mmolの1,4−ジヨードベンゼンで処理し、混合物を不活性ガス雰囲気下で約48時間攪拌した。残留した黄色/オレンジ混合物を濾過し、固形残留物をジエチルエーテル、水、メタノール及びヘキサン各20mlで洗浄した。残留黄色固形物を真空下、60℃で2時間乾燥させ、淡黄色の流動性固体を得た。
【0063】
単離物収率:3.205g(約82%)元素分析:13.02%l(1.03mmol/gのヨウ素導入量に対応)。
【0064】
実施例2(iii)ヨードフェニル末端ポリ(スチレン)の対応ヨード酢酸への酸化
参考文献 Synth. Commun. 2001,31, 111。
【0065】
30mlの無水酢酸を入れたフラスコに、攪拌しながら40℃で35%過酸化水素溶液7.5mlをゆっくりと添加した。混合物を4時間40℃に(45℃を超えないように)保ち、その後0.875gのポリマー(実施例2(ii)記載の方法で得たもの)を少量ずつ加え、混合物を40℃で12時間攪拌した。得られた非常に薄い黄色の反応混合物を室温に冷却し、ポリマーを濾過によって単離した。標記のポリマーを各10mlのメタノール、水及びジエチルエーテルで順次洗浄し、次いで真空遮光下で乾燥させた。
【0066】
単離物収率:0.66g(FT−IR及び文献との比較による分析)。
実施例2(iv)ポリマー担持5−ウラシルヨードニウム塩
参考文献: Chem. Heterocyclic Compounds 1973,4, 510。
【0067】
報文記載の液相化学反応から敷衍して、ポリマー結合ウラシル誘導体の合成を試みた。
【0068】
0.50gのポリマー結合ヨード酢酸(実施例2(iii)記載の方法で製造)のDMF溶液懸濁液8mlに、0.55mmolのPTSA(パラ−トルエンスルホン酸)を添加し、混合物を迅速に攪拌しながら100℃に加熱した。混合物は100℃での酸の添加によって明るい黄色になり、これに0.55mmolのウラシルを添加し、さらに1時間攪拌した。得られた黄色い混合物を室温に冷却し、水を添加してポリマーを沈殿させ、濾過によって標記の生成物を得た。
【0069】
単離物収率は0.35gであった。生成物ポリマーは1800〜1400cm−1のIR分光分析で幅広いバンドを示したが、これはフェニル誘導体分子について報告された知見と一致した。生成物の段階的分析(PS−I(OAc)からPS−I(OH)OTs、さらにPS−I(ウラシル)OTsへ)から、1760〜1680cm−1域でのPTSA添加におけるCOバンドの消失と、さらにウラシルとの反応後に上記領域に幅広いバンドが再度現れることが観察された。
【0070】
得られたポリマー結合ウラシルヨードニウム塩は、実施例1(iv)に記載の方法と同様の方法で放射性フッ素化し得る。
【0071】
実施例3:N,N−ジアセチル−5−ヨードウラシルの合成
250mlのフラスコに5−ヨードウラシル(3.5g、14.7mmol)及び無水1,4−ジオキサン(25ml)を加え、混合物を氷浴中で冷却した。窒素下でKOHから新たに蒸留したトリエチルアミン(4.3ml、30.9mmol)をフラスコに添加し、反応混合物を迅速に5分間攪拌した後、混合物に塩化アセチル(3.24ml、45.6mmol)を非常にゆっくりと添加した。得られた混合物を室温で一晩攪拌した。その後溶媒を除去し、真空下で揮発させてオレンジ/黄色の残留物を得た。残留物を水(100ml)で処理し、ベンゼンで抽出した(4×50ml)。ベンゼン抽出物を一緒にし、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過後、溶媒を真空下で除去し、黄色い粗残留物をヘキサン:酢酸エチル(3:1)を用いたカラムクロマトグラフィーで精製し、2.75g(58%)のN,N−ジアセチル−5−ヨードウラシルを白色固体として得た。
【0072】
TLC(ヘキサン:エタノール 3:1)のRは0.26であった。H−NMR(CDCI)δ8.64(S,1H,ビニルH)、2.75(S,3H,N−1−アセチル−CH)、2.59(S,3H,N−3−アセチル−CH)であった。
【0073】
アミンで保護したウラシル又はシトシンのヨードニウム塩誘導体の合成法との類似性から、この化学反応を上記の放射性フッ素化反応に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
18F標識トレーサーの製造方法であって、式(I)
【化1】

(式中、トレーサーは式(A)の基又はそのアミン保護誘導体である。
【化2】

式中、Yはアニオン、好ましくはトリフルオロメチルスルホネート(トリフレート)アニオンであり、Rは(i)CH−NP1A2A基(式中、P1A及びP2Aは各々独立に水素又は保護基である。)又は(ii)カルボニル基である。)
の固体担体結合前駆体を18で処理して式(II)
【化3】

(式中、Rは式(I)の化合物について定義した通りである。)
の標識トレーサー又はそのアミン保護誘導体を生成させ、次いで、適宜
(i)過剰18の、例えばイオン交換クロマトグラフィーによる除去、及び/又は
(ii)保護基の除去、及び/又は
(iii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iv)得られた式(II)の化合物の水溶液としての処方
を行う、方法。
【請求項2】
5[18F]フルオロウラシルの製造のための請求項1記載の方法であって、式(Ia)
【化4】

(式中、Yはアニオン、好ましくはトリフルオロメチルスルホネート(トリフレート)アニオンである。)
の固体担体結合前駆体を18で処理して式(IIa)
【化5】

の標識トレーサー又はそのアミン保護誘導体を生成させ、次いで、適宜
(i)過剰18の、例えばイオン交換クロマトグラフィーによる除去、及び/又は
(ii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iii)保護基の除去、及び/又は
(iv)得られた式(IIa)の化合物の水溶液としての処方
を行う、方法。
【請求項3】
5[18F]フルオロシトシンの製造のための請求項1記載の方法であって、式(Ib)
【化6】

(式中、Yはアニオン、好ましくはトリフルオロメチルスルホネート(トリフレート)アニオンであり、P1A及びP2Aは各々独立に水素又は保護基である。)
の固体担体結合前駆体を18で処理して式(IIb)
【化7】

の標識トレーサー又はそのアミン保護誘導体を生成させ、次いで、適宜
(i)過剰18の、例えばイオン交換クロマトグラフィーによる除去、及び/又は
(ii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iii)保護基の除去、及び/又は
(iv)得られた式(IIb)の化合物の水溶液としての処方
を行う、方法。
【請求項4】
18F標識トレーサーの製造方法であって、式(III)、(IIIa)又は(IIIb)
【化8】

(式中、R、P2A、P1A及びYは請求項1で定義した通りであり、フェニル環Bは適宜ハロゲン、C1−6アルキル、C1−6ハロアルキル、ヒドロキシ、C1−6アルコキシ、アミノ、C1−6ヒドロキシアルキル及びニトロから独立に選択される1〜5個の置換基で置換されていてもよい。)
の化合物又はそのアミン保護誘導体を18で処理してそれぞれ請求項1乃至3記載の式(II)、(IIa)又は(IIb)の標識トレーサー又はそのアミン保護誘導体を生成させ、次いで、適宜
(i)過剰18の、例えばイオン交換クロマトグラフィーによる除去、及び/又は
(ii)保護基の除去、及び/又は
(iii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iv)得られた式(II)、(IIa)又は(IIb)の化合物の水溶液としての処方
を行う、方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の式(II)、(IIa)又は(IIb)のPET用18F標識トレーサーの製造方法。
【請求項6】
次の式(I)の化合物又はそのアミン保護誘導体。
【化9】

式中、トレーサーは式(A)の基又はそのアミン保護誘導体である。
【化10】

式中、Yはアニオン、好ましくはトリフルオロメチルスルホネート(トリフレート)アニオンであり、Rは(i)CH−NP1A2A基(式中、P1A及びP2Aは各々独立に水素又は保護基である。)又は(ii)カルボニル基である。
【請求項7】
次の式(Ia)の化合物又はそのアミン保護誘導体。
【化11】

式中、Yはアニオン、好ましくはトリフルオロメチルスルホネート(トリフレート)アニオンである。
【請求項8】
次の式(Ib)の化合物又はそのアミン保護誘導体。
【化12】

式中、Yはアニオン、好ましくはトリフルオロメチルスルホネート(トリフレート)アニオンであり、P1A及びP2Aは各々独立に水素又は保護基である。
【請求項9】
PET用18標識トレーサーの製造用放射性医薬品キットであって、
(i)請求項1乃至3のいずれか1項記載の式(I)、(Ia)又は(Ib)の化合物、又は請求項4記載の式(III)、(IIIa)又は(IIIb)の化合物、或いはそれらのアミン保護誘導体を収容した容器、及び
(ii)18源で上記容器を溶出する手段、
(iii)過剰18の除去のためのアニオン交換カートリッジ、及び、適宜
(iv)得られた請求項1乃至3のいずれか1項記載の式(II)、(IIa)又は(IIb)の生成物の固相脱保護用カートリッジ
を備えるキット。
【請求項10】
PET用18標識トレーサー製造のための放射性医薬品キット用カートリッジであって、
(i)請求項1乃至3のいずれか1項記載の式(I)、(Ia)又は(Ib)の化合物、又は請求項4記載の式(III)、(IIIa)又は(IIIb)の化合物、或いはそれらのアミン保護誘導体を収容した容器、及び
(ii)18源で上記容器を溶出する手段、
を備えるカートリッジ。
【請求項11】
診断用PET画像を取得する方法であって、請求項9記載の放射性医薬品キット又は請求項10記載の放射性医薬品キット用カートリッジを使用するステップを含む方法。

【公表番号】特表2006−510707(P2006−510707A)
【公表日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−561655(P2004−561655)
【出願日】平成15年12月19日(2003.12.19)
【国際出願番号】PCT/GB2003/005577
【国際公開番号】WO2004/056400
【国際公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(504000591)ハマースミス・イメイネット・リミテッド (26)
【氏名又は名称原語表記】Hammersmith Imanet Ltd
【Fターム(参考)】