説明

エアバッグ用高密度織物とその製織方法

【課題】織物の幅変動や経シワなどが改良された高品質のエアバッグ用高密度織物およびその製織方法の提供すること。
【解決手段】織物の片側の最大幅変動量が6mm以下であることを特徴とするエアバッグ用高密度織物であって、該織物は、同一種の合成繊維からなる緯糸を複数本用いて、複数本のノズルからそれぞれのノズルに対応する複数の給糸パッケージの緯糸を挿入し、同一給糸パッケージからの緯糸が連続して3本以上並ばないような緯糸配置でカバーファクターが1900以上の高密度織物を製織することによって作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ用の高密度織物とその製織方法に関するものであり、さらに詳しくは、最大幅変動量の少ないエアバッグ用高密度織物とその織物を安定して作製する製織方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗り物の事故における人体への衝撃緩和のために、自動車などの車両へのエアバッグの装着が進んできている。衝突の際、ガス等により膨張し、人体への衝撃を吸収緩和するエアバッグとして、運転席用および助手席用エアバッグに加えて、側面用のカーテンエアバッグやサイドエアバッグ、また膝部用エアバッグ、カーシート間エアバッグ、後部ウィンドウ用カーテンエアバッグ、後部座席のシートベルトエアバッグなどが実用化されつつある。さらには、歩行者保護のために、車両の外側に膨張するように装着されるエアバッグなど各種のエアバッグの装着が検討されてきている。
【0003】
このエアバッグ用織物は安全部品であるがゆえに、万が一の事故の際には、エアバッグがその機能を充分に発揮できるように、エアバッグを構成する織物の品質は高度に均一であり、欠点のないことが要求される。
しかしながら、近年、エアバッグ装着は新興国の車社会の到来により益々その需要が増しており、その安全性が確保され、かつ低コストであることが重要になってきている。
【0004】
従来から、エアバッグは、平織物を袋状に縫製してエアバッグを作成する生産方式や織機の段階で袋織り構造にしてエアバッグを作成する生産方式が取られている。ここで平織物や袋織物を製織するに際して、その織物に欠点のないことや幅方向や長手方向で密度が変わりないこと、すなわち機能的には織物の強度や通気度がどこでも均一であることが安全部品でエアバッグの品質を維持させる上で重要である。また、欠点の少ないことが低コストで安定してエアバッグ用織物を生産できることにつながる。
【0005】
特に、平織物を製織する場合には、緯糸を1つの給糸パッケージから緯入れすると、給糸パッケージの変わり目で、織物上に給糸パッケージ内外層の収縮特性差を持った緯糸が隣り合わされて並ぶことになり、幅変動や経シワが生じたりすることがあり、品質上、コスト上、改善することが求められていた。また、織機の高速化につれ、緯糸の給糸パッケージからの緯糸の解舒速度が速くなるに従い、擦れによる毛羽発生や給糸パッケージから緯糸が輪状に抜ける等の不具合が生じることが多くなっている。
【0006】
これまでにも高品質のエアバッグ用織物を安定的に作製する製織方法が提案されており、経糸に工夫を凝らし、例えば、織物耳部の経糸繊度を違えたりすることで織物の幅方向の品質を均一にする方法が知られている(例えば下記特許文献1参照)。しかし、長手方向の品質にまで言及しているものではない。また、エアバッグ用織物に関して緯糸給糸方法に工夫を凝らしているものとして、2つの異なる緯入れ手段を持って繊度違いや強度違いの2種の緯糸を挿入する製織方法が知られているが(例えば下記特許文献2参照)、織物の幅方向や長手方向の品質に言及しているものではない。
【0007】
さらには、2本の緯入れノズルを持った織機において、緯入れ安定性を改良した技術が知られているものの(例えば下記特許文献3参照)、エアバッグ用の高密度織物に関して、幅方向や長手方向の双方の品質向上を図ったものは見られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3724100号公報
【特許文献2】国際公開2005/047582号パンフレット
【特許文献3】特開2001−115362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、織物の幅変動や経シワなどが改良された高品質のエアバッグ用高密度織物およびその製織方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、緯糸を織物に構成するに際し、複数の緯糸の給糸パッケージを用いて、同一の給糸パッケージから解舒される緯糸が1枚の織物平面上で3本以上隣あわないように、織機上で緯糸の打込み方式(緯入れ方式)を組むことによって、高品質のエアバッグ用織物が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち、本発明は下記の発明を提供する。
(1)織物の片側の最大幅変動量が6mm以下であることを特徴とするエアバッグ用高密度織物。
(2)通気度の幅方向のバラツキが0.3以下であることを特徴とする上記1項に記載の高密度織物。
(3)カバーファクターが1900以上の平織物であって、緯糸の給糸パッケージの変わり目での経シワ欠点が3級以上であることを特徴とする上記1または2項に記載の高密度織物。
(4)同一種の合成繊維からなる緯糸を複数本用いて、複数本のノズルからそれぞれのノズルに対応する複数の給糸パッケージの緯糸を挿入し、同一給糸パッケージからの緯糸が連続して3本以上並ばないような緯糸配置でカバーファクターが1900以上の高密度織物を製織することを特徴とするエアバッグ用高密度織物の製織方法。
(5)織物を構成する前記緯糸の総繊度が200〜490dtexであり、ウォータージェットルームで2本の緯糸挿入用ノズルを使用して、1×1方式あるいは2×2方式の緯糸挿入方式にて、製織することを特徴とする上記4項に記載の製織方法。
(6)織物を構成する前記緯糸の総繊度が200〜720dtexであり、レピアルームで緯糸挿入手段を2本使用して、1×1方式あるいは2×2方式の緯糸挿入方式にて、製織することを特徴とする上記4項に記載の製織方法。
(7)上記4〜6項のいずれか一項に記載の製織方法を用いてなるエアバッグ用高密度織物。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエアバッグ用高密度織物、および本発明の製織方法で作成したエアバッグ用高密度織物は、従来の1本の緯糸挿入ノズルあるいは手段を用いて製織した織物に比べ、緯糸の給糸パッケージの切替わり時の幅変動が少なく、通気度や強度などが均一な性能の織物となる。また、緯糸給糸パッケージ切替わり前後の経シワ欠点の発生もなく、長手方向にも高品質の織物を提供できる。さらに、複数本の緯入れノズルあるいは手段を用いて緯糸を挿入するために、緯糸の給糸パッケージからの糸の解舒速度を低く抑えられることから、緯糸の解舒張力が過大になることによるドラム巻付きによる緯入れ不良や毛羽発生、あるいは緯糸がループ状に飛び出すような解舒不良も抑えられ、製織効率も向上するという有用な作用を示す。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の製織方法を実現するための織機のノズル部分の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明において、高密度織物とは、例えば総繊度470dtex糸の場合、経糸密度および緯糸密度が共に44〜55本/2.54cm程度である織物を言う。密度がこの範囲であれば、ノンコート布として使用する場合は低通気で適度な柔軟性を持つ基布となり、またコート布として使用する場合は過度にシリコーンを塗布する必要がなく適度な柔軟性を持った基布となって、エアバッグ用途として好ましい。好ましくは48〜53本/2.54cmであり、さらに好ましくは51〜52本/2.54cmである。
【0015】
本発明の高密度織物について、織物の片側の幅変動量は最大でも6mm以下である。より好ましくは4mm以下、さらに好ましくは、2mm以下である。下限は低いほど好ましく、最も好ましくは0mm、即ち幅変動がないことである。織物の片側の幅変動量が6mmを超える場合には、経シワ欠点になりやすいことや、織物の幅方向で通気度が違ってしまい、幅方向で衝撃吸収性が異なることがある。
【0016】
本発明の高密度織物の通気度の幅方向のバラツキは0.3以下であることが好ましい。より好ましくは0.25以下、さらに好ましくは、0.15以下である。通気度の幅方向のバラツキが0.3を超えないことで、エアバッグの製品になった際に、展開したときの人体や頭部の衝撃吸収性が変化して、安全上の危険を伴う可能性を抑制できる。通気度の幅方向のバラツキは少ないほど好ましい。
【0017】
本発明の高密度織物は、緯糸の給糸パッケージの替わり目での経シワ欠点がないことが好ましい。このことによって、織物の任意の位置での型取りが可能となる。経シワ欠点がある場合にはその箇所を避けて型取りを行う必要があるが、本発明の高密度織物では効率良く布を使うことができる。また、型取りが任意の位置で出来るように、緯糸は一つの種類の糸で給糸することが好ましい。
【0018】
本発明の織物は合成繊維からなることが好ましい。合成繊維はポリアミドやポリエステルの長繊維が好ましい。特に好ましくは、ポリアミド繊維で、ポリアミド6、ポリアミド6・6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6・10、ポリアミド6・12、ポリアミド4・6、それらの共重合体およびそれらの混合物からなる繊維が挙げられる。なかでも、ポリヘキサメチレンアジパミド繊維からなるポリアミド6・6繊維が好ましい。ポリヘキサメチレンアジパミド繊維とは100%のヘキサメチレンジアミンとアジピン酸とから構成される融点が250℃以上のポリアミド繊維を指す。本発明で用いられるポリアミド繊維は、融点が250℃未満とならない範囲で、ポリヘキサメチレンアジパミドにポリアミド6、ポリアミド6・I、ポリアミド6・10、ポリアミド6・Tなどを共重合、あるいはブレンドしたポリマーからなる繊維でもよい。
【0019】
本発明の製織に用いる原糸の総繊度は200〜720dtexが好ましい。原糸総繊度が200dtex以上で高圧展開に耐える機械物性を満たすようになる。また、原糸総繊度が720dtex以下であれば、軽量で収納性の良い織物になるとともに、初期拘束性にも寄与する。より好ましい原糸総繊度は220〜490dtexであり、原糸総繊度がこの範囲にあると、ウォータージェットルームやエアジェットルームなどのように水や圧縮空気の力で緯糸を飛走させるタイプの織機では、特に高速化に対応しやすい。なお、織物加工の過程では通常熱収縮するため、織物を構成する織糸の総繊度は原糸の総繊度に対して少々大きい値となる。
【0020】
本発明の織物は、シリコーンなどのコート剤がない状態で、単位面積当たり重量が140〜260g/m2であることが好ましい。単位面積当たり重量が140g/m2以上であると、高圧展開に耐える機械物性を満たす。また、軽量という観点から、単位面積当たり重量は260g/m2以下が好ましい。より好ましい単位面積当たり重量は150〜210g/m2である。
【0021】
本発明の織物の引張強度は経緯ともに500〜900N/cmであることが好ましい。織物の引張強度が500N/cm以上であれば、高圧ガス展開に耐える耐バースト性に寄与する。織物の引張強度は、概ね構成する織糸の強力と織密度によって決まるが、低繊度織物の場合900N/cmが上限である。より好ましい織物の引張強度は600〜750N/cmである。
【0022】
織物の引張強度は上述したように概ね織物構成糸の強力と織密度によって決まってくるが、基本的にカバーファクターが高く、織り込みの上限に近い高密度織物であるため、織物構成糸の強力は相当に支配的である。織物を構成する織糸の引張強力は17.5〜25.0Nが好ましい。より好ましい織糸引張強度は18.5〜24.0Nであり、いっそう好ましくは19.0〜23.5Nである。織物構成糸の強力が17.5N以上で高いほど織物の引張強度が高くなる。
【0023】
本発明の高密度織物のカバーファクターは、1900から2400の値であることが好ましい。下限はより好ましくは2100以上、さらに好ましくは2200以上である。また、上限はより好ましくは2300以下、さらに好ましくは2250以下である。カバーファクターが1900以上であることで低通気となり、2400以下であることで織物が剛直にならずに柔軟性を有したものになる。なお、カバーファクターCFはCF=√(経糸の総繊度(dtex)×経糸密度(本/2.54cm))+√(緯糸の総繊度(dtex)×緯糸密度(本/2.54cm))である。
【0024】
織物の製織に用いる原糸は引張強度が9.8〜11.5cN/dtexであることが好ましい。原糸引張強度が9.8cN/dtex以上で大きいほど織物の引張強度が大きい。製織に適した安定した品質の原糸が得られる原糸引張強度の上限は11.5cN/dtexである。
【0025】
織物加工の過程での熱収縮の関係から、原糸の沸水収縮率は5〜12%が好ましい。原糸の沸水収縮率が5%以上であれば、熱収縮加工時に緊張処理することで織糸クリンプを抑えて織物内の織糸構造を強固にするので通気度抑制に寄与する。沸水収縮率が低すぎると、製織時の織糸クリンプがそのまま織物に反映するため、織物内の織糸構造がルーズになって通気度を抑制することが難しくなる。実質的な原糸の沸水収縮率の上限は12%である。
【0026】
なお、本発明の効果を損なわない範囲であれば、かかる繊維には原糸の製造工程や加工工程での生産性あるいは特性改善のために通常使用される各種添加剤を含んでいても良い。例えば熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料、難燃剤などを含有する原糸を織糸として用いることができる。
本発明の製織に際して、経糸準備の段階、あるいは織機上で、経糸などに集束性向上や平滑性向上のための油剤成分やWAX成分を付与してもよい。ここで付与された油剤やWAX成分は、最終的にエアバッグ用織物に含有されてもよい。また、製織時の毛羽発生や経糸切れを防止するためにサイジングを施してもよい。ただし、最も好ましいのは、原糸に何らの剤を付けずに、ノンサイジングやノンオイル・ノンWAXで織機ビームに巻き上げることである。
【0027】
次に、最大幅変動量が少なく、且つ通気度の幅方向のバラツキが少ない本発明の高密度織物の製織方法について説明する。
本発明の織物を製織するに際し、使用する織機はウォータージェットルーム、エアジェットルーム、レピアルームおよび多相織機などであり、これらを用いて織物を作製することができる。本発明において使用する織機では、緯糸を経糸開口内に飛走させるためのノズルあるいは緯糸挿入手段が2つ必要になる。3つ以上のノズルあるいは緯糸挿入手段を備えても良いが、平織りを製織する場合には2つが好ましく、袋織りを製織する場合には3つあるいは4つが好ましい。従来、エアバッグ用織物のように、高密度で基本的に1種の織糸で織られる織物において、複数ノズルを用いて製織することは各々のノズル調整を行う煩雑さがあり、緯糸挿入トラブルも増えるため実施されなかった。
【0028】
本発明では、複数ノズルで高速、高密度で織るために、ノズルあるいは緯糸挿入手段の配置について、エアジェットルームでは筬のスレー上に緯糸を飛走させるノズルが装備されており、変形筬タイプのエアジェットでは筬の緯糸案内溝内に収まるようにノズルをコンパクトに配置することが好ましい。ウォータージェットルームの場合には、ノズルは織機本体に固定されており、複数本の緯糸を使用する場合には、挿入した緯糸をカットしてノズルに残った緯糸先端同士が絡み合わないように、各ノズルの長さに差を設け、各々のノズル先端を前後に配置したり、ノズル間に簡単な仕切り板を設けることが好ましい。また、経糸開口部は小さい面積ゆえに、この経糸開口内に緯糸が飛走するには、ノズル先端はできるだけ小さな面積のものが好ましい。また、例えばノズルが2本の場合には、垂直よりも平行に配置することが製織効率上好ましい。
【0029】
本発明の製織方法では、緯糸の給糸パッケージはノズルの本数に合わせて複数組が必要である。高品質の織物を高速で製織するためには、織機上で形成される織物の緯糸が同一パッケージからの緯糸が連続して3本以上並ばないように、製織の方法を規制することが必要となる。電子制御方式の場合には、例えばパッケージAとパッケージBからの緯糸の挿入順番を、A−B−A−B…とすれば良く、機械方式制御の緯入れ方式の織機では、A−B−A−B…となる交互緯入れのカムを使えばよい。
【0030】
本発明の1×1方式の緯入れ方式とは、パッケージAとパッケージBからの緯糸の挿入順番を、A−B−A−B…とすることであり、2×2方式とはA−A−B−B…の緯入れ方式のことである。緯糸がA−B−A−B…で並ぶときは、同じパッケージからの緯糸が同一平面状の織物で連続しては並んでいない状態であり、緯糸がA−A−B−B…で並ぶときは同じパッケージからの緯糸が同一平面上の織物で連続して2本並んでいる状態となる。
【0031】
また、本発明では複数本ノズルの特性を生かし、例えばAB−AB…というように、2つのノズルから同時に緯糸を経糸開口内に挿入する緯入れ方式を取ることもでき、緯糸が平たく織物上に組織されるので、緯糸密度を少なくして通気度を下げるために有利になる。このときのAとBの各々の緯糸の種類や繊度は同じであることが好ましいが、違ったものにすることも可能である。
【0032】
従来の製織法は、緯糸給糸のパッケージが、巻き始めと巻き終わりで結び合わされて、1パッケージ毎の切り替わりとなり、1ノズルで緯糸挿入されていた。そのため、1種類の緯糸供給であっても、緯糸のパッケージの巻き始めと巻き終わりの糸物性差やパッケージ間の物性差による、経シワ欠点、通気度の幅方向のバラツキ、織物の片側の幅変動量への影響が顕著に表出していた。本発明では、緯糸挿入手段を2つ以上とし、緯糸の給糸パッケージを複数組として、複数パッケージの緯糸を混合挿入して製織する。このため、パッケージ切り替わりの糸物性差や巻き始めと巻き終わりの糸物性差が織物中で織物物性差とならず平準化されて、高品位でエアバッグ用途に適した安定性能の織物が得られる。
【0033】
1ノズルで1つの緯糸の給糸パッケージから緯入れすると、給糸パッケージの替わり目で、織物上に給糸パッケージ内層と外層の収縮特性などの物性差を持った緯糸が一気に切り替わる。その結果、織物としての物性差が大きく段状に生じ、幅変動や経シワが生じたりする。経シワが生じるとシワの影響で通気度にムラが生じやすくなる。幅変動が生じた場合は、織物の中央部では密度や経糸や緯糸の屈曲状態(クリンプ)はほとんど変わらないが、織物の両端部では経糸密度が中央部よりも混んでしまうことや経糸や緯糸の屈曲状態(クリンプ)が違ってしまうことによって幅方向の通気度バラツキが出やすくなる。
【0034】
本発明では、複数給糸パッケージの緯糸が複数ノズルから混合挿入されて混織されるため、緯糸給糸のパッケージで、巻き始めと巻き終わりで結び合わされて供給されても、結び合わされていない物性が連続した緯糸も前後に挿入され混織されるため、織物は段状の物性差を生じにくく、また、給糸パッケージ間の物性差は一気に切り替わることなく、織物物性は段状の物性差が生じにくい。そのため、織物は給糸パッケージの切り替わり部でも、給糸パッケージ内層と外層および中層部の混織であり、かつ、複数の給糸パッケージの緯糸からなる混織となって、それらの平準物性を有することで品位が安定化する。
【0035】
本発明の高密度織物の織物組織としては、平織、綾織、朱子織およびこれらの変化織や組織混合した織物、多軸織などの組織が使用されるが、これらの中でも、特に機械的特性に優れ、また地薄な面から平織が好ましい。また、平織物あるいは経糸の上下運動を制御するジャガードマシンを使用して袋織りでバッグ形状を織製しても良い。
【0036】
製織した織物は、過剰な油剤成分や汚れの除去のために精練洗浄することができる。精練工程では、温水浴でアルカリ洗浄や界面活性剤洗浄が行われるが、むしろ、精練せずに織物に仕上げてもよい。ウォータージェットルームでは油剤成分は概ね脱落し、油剤成分付着量が適度になった織物を精練せずに織物に仕上げるのが好ましい。本発明に必要な含有物の量を制御しやすいし、経済的でもある。最終的に、織物に対して平滑剤、帯電防止剤を主成分とした整経油剤や製織工程油剤が油剤成分として含有されることが好ましい。精練工程では、適度な精練温度を選定したり、あるいは、精練を実施しないことが好ましい。織糸原糸の性状、特に収縮率により適宜条件選定すればよい。
【0037】
次いで、織物を乾燥し、熱固定を行ってエアバッグ用織物に仕上げることができる。織物の乾燥および熱固定では、織物幅と経糸方向の送りについて、それぞれ収縮量や張力を制御することが好ましい。例えば、テンター式乾燥機などが用いられる。織物の引張試験における特定荷重伸度を低く保つためには、加熱処理の温度を選定し、加熱処理しながらも収縮するに任せず張力をかけながら加工することが好ましい。さらには、加熱処理後に張力をかけながら急冷することが好ましい。
【0038】
本発明におけるポリアミド織物は、油剤成分の含有量が0.01から2.0重量%であることが好ましい。0.05から1.5重量%がより好ましい。一層好ましくは0.1から0.7重量%である。ここにいう油剤成分とは、有機溶媒ヘキサンにて織物から抽出されるものであり、ポリアミド織物の重量に対する抽出物の重量の百分率である。油剤成分の含有量が0.01重量%以上であれば、織物の引裂き強力を維持、向上させることができる。特に、界面活性剤成分は、ポリアミド繊維の環状ユニマーのブリードアウトを助け、ポリアミド繊維の表面において、環状ユニマーと油剤成分が一体となって繊維同士のすべりを適度に促し、引張強力や引裂き強力の維持、向上に寄与する。すなわち、エアバッグ織物として展開時のガス耐圧性の向上が期待できるため、展開時のバースト防止に寄与する。一方で、油剤成分の織物中含有量を2.0重量%以下とし、付与量と精練除去量から含有量を制御し、織物中の織糸の引抜抵抗を適切に維持することができる。また、織物が燃焼性試験(FMVSS302)において不合格にならないように過剰な油剤成分の含有量にならないように制御することが出来る。これら油剤成分は、繊維製造工程、製織加工工程で付与された工程油剤に由来して残存するものでもよい。
【0039】
本発明のエアバッグ用織物は、樹脂やエラストマーのコーティングを施さずにエアバッグに用いることもできる。また、この織物にカレンダー加工を施しても良いが、引裂き強力の低下を招かぬような注意が必要であり、好ましくはカレンダー加工を施さずに用いることがよい。さらに、本発明のエアバッグ用織物は、樹脂やエラストマーのコーティングを施してエアバッグに用いてもよい。特に、平織物ではコーティング量が5〜35g/m2程度の軽量コーティングが好ましく、軽量コーティングで非通気性を獲得することができ、袋織物ではコーティング量が15〜35g/m2程度の軽量コーティングが好ましい。コーティングを施した場合には、通気度が極端に低くなるが、本発明のコート前の織物や製織方法を用いることによって、コーティング時に経シワ欠点を生じることがなく、幅変動も少なく、良好なエアバッグ用織物を生産することができる。
【0040】
本発明の織物を用いたエアバッグ用織物は裁断縫製されて、運転席用エアバッグ、助手席用エアバッグ、後部座席用エアバッグ、側面用エアバッグ、膝部用エアバッグ、カーシート間エアバッグ、側面用カーテン状エアバッグ、後部ウィンドウ用カーテンバッグ、歩行者保護エアバッグなどに適宜使用することができる。これらのエアバッグにおいては、インフレータ取り付け口やベントホール部分などに用いられる補強布またはバッグ展開形状を規制する部材を、該エアバッグ用織物と同一織物とすることができる。また、エアバッグの縫製にあたっては、打抜き、溶断、または裁断によって形成された1枚もしくは複数枚のかかるエアバッグ用織物を用い、その周縁部を縫製してエアバッグを形成することができ、さらには周縁部の縫製が、一重または二重縫製で構成されたエアバッグを形成することができる。
なお、エアバッグモジュールは、上記のエアバッグ用の織物を裁断縫製したエアバッグと、火薬や推薬を用いたインフレータと組み合わせて作ることができる。
【実施例】
【0041】
次に、実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。実施例中のエアバッグ用織物の特性評価などについては下記の方法にて実施した。
(1)総繊度:JIS L1013 8.3.1に準じた。
(2)織密度:JIS L1096 附属書11Aに準じて行なった。デンシメータを使用した。
【0042】
(3)織物品質:最大幅変動量、経シワ欠点、緯糸欠点の3項目について評価を行なった。評価は検反台に織物を仕掛けて行い、経シワ欠点および緯糸欠点については級付けが3級以上の場合を合格とした。
最大幅変動量(mm)は、緯糸の給糸パッケージの変わり目前後で、織物生機の端部が織機幅方向に膨らんだり縮んだりしている寸法変化を計測して幅変動量とし、両端部のどちらか片側の大きい方の幅変動を言う。
経シワ欠点については、エアバッグ業務に3年以上関わった技術者5名の5段階による級付けの平均で判断した。経シワ欠点とは、経方向に入るシワのことで、幅変動が原因で生じることが多い。ここでの級付けは、緯糸の給糸パッケージの変わり目前後で、経シワが全く見えない場合を5級、経シワではないが織物上にやや緩みが見られる場合を4級、細かな経シワが1〜2箇所で見える場合を3級、細かな経シワが3箇所以上で見える場合を2級、経シワが明確に見える場合を1級という基準で目視判定し、5人の平均を取った。
なお、緯糸の給糸パッケージを複数用いている場合には、そのいずれかのパッケージが切替わったところ(緯糸がなくなり次の新しい給糸パッケージからの給糸にかわったところ)で判断している。
緯糸欠点とは、緯入れする際に、緯糸が絡まる、折れ曲がる、あるいは緯糸に毛羽が生じたりしたものなどが織り込まれる欠点のことである。織物100mを検査し、緯糸欠点が0個の場合を5級、1〜3個の場合を4級、4〜10個の場合を3級、11〜20個の場合を2級、21個以上の場合を1級という基準で判断した。
【0043】
(4)製織性:織物を200m製織するときの織機の停止回数を調べた。ただし、停止回数は、経糸や緯糸が原因で生じた回数だけをカウントした。停止回数が1時間当たりに換算して、1回よりも少ない場合を合格とした。
【0044】
(5)通気度(動的通気度):TEXTEST社製FX3350を用い、充填圧300kPa、充填容量400ccにて測定を実施し、50kPa時の通気度を測定した。測定箇所は織物幅の中央部で測定した。
幅方向の通気度バラツキについて、幅方向の測定場所は両端より各々15cm内側で2点、幅中央で1点、幅中央点と各々15cm内側点の中間点での2点、計5箇所である。この5箇所において、緯糸の給糸パッケージの切り替わり位置から、経糸方向に5cm、10cm、15cm、20cm、25cm離れた5箇所の位置で測定し、計25箇所の通気度の最大値と最小値の差を緯糸の給糸パッケージの切り替わり前後の2箇所で調べる。次に、これら2つの通気度の最大値と最小値の差を、給糸パッケージの切り替わり前後の幅中央点の測定値である計10点の平均値で除した値の大きい方を通気度バラツキの指標とした。0.3を超える場合を問題ありとした。
【0045】
[実施例1]
織機上に2本の緯入れノズルを平行に配置した2.3m幅のウォータージェットルームを用いて製織した。2本のノズルは、図1に示すように、織前側(1)が短く、もう一方のノズル(2)は長くなっている。
経糸に原糸総繊度470dtex、フィラメント数72本のナイロン66繊維を用い、経糸はサイジングなどの処理を行わずにそのまま整経した。緯糸は経糸と同じナイロン66繊維を用い、緯糸の給糸パッケージは2組用意し、緯糸は1×1方式で緯入れした。通し幅は218cmとし、600rpmの回転数にて平織物を製織した。
得られた織物を精練すること無しに、80℃熱風乾燥し、次いでピンテンターを用いて経方向に4%のオーバーフィード、緯方向に1%の引張りの状態で150℃で1分間のヒートセットを行った。得られた織物は経糸と緯糸の織密度が共に51本/2.54cmであった。
このエアバッグ用織物の品質、製織性、通気度を測定した結果を表1に示す。
織物品質は良好で、製織性も問題なく、通気度も幅方向で安定していることがわかる。
【0046】
[実施例2]
緯入れ方式を2×2方式にした以外は、実施例1と同様に実施した。
得られた織物は経糸と緯糸の密度が共に51本/2.54cmであった。
このエアバッグ用織物の品質、製織性、通気度を測定した結果を表1に示す。織物品質は良好で、製織性も問題なく、通気度も幅方向で安定していることがわかる。
【0047】
[実施例3]
経糸密度と緯糸密度を変更した以外は実施例1と同様に実施し、経糸密度が49本/2.54cm、緯糸密度が49本/2.54cmの織物を得た。
このエアバッグ用織物の品質、製織性、通気度を測定した結果を表1に示す。織物品質は良好で、製織性も問題なく、通気度も幅方向で安定していることがわかる。
【0048】
[実施例4]
経糸密度と緯糸密度を変更した以外は実施例1と同様に実施し、経糸密度が45本/2.54cm、緯糸密度が44.5本/2.54cmの織物を得た。
このエアバッグ用織物の品質、製織性、通気度を測定した結果を表1に示す。織物品質は良好で、製織性も問題なく、通気度も幅方向で安定していることがわかる。
【0049】
[実施例5]
経糸密度と緯糸密度を変更した以外は実施例1と同様に実施し、経糸と緯糸の密度が共に42.5本/2.54cmの織物を得た。
このエアバッグ用織物の品質、製織性、通気度を測定した結果を表1に示す。織物品質は良好で、製織性も問題なく、パッケージ切替え部分での織物物性差は少なめである。しかし、通気度が大きく、またそのばらつきも大きい結果となった。
【0050】
[実施例6]
経糸密度と緯糸密度を変更した以外は実施例1と同様に実施し、経糸と緯糸の密度が共に55本/2.54cmの織物を得た。
このエアバッグ用織物の品質、製織性、通気度を測定した結果を表1に示す。織物品質は良好で、製織性も問題なく、通気度も幅方向で安定していることがわかる。
【0051】
[実施例7]
経糸密度と緯糸密度を変更した以外は実施例1と同様に実施し、経糸密度が55本/2.54cm、緯糸密度が56.5本/2.54cmの織物を得た。
このエアバッグ用織物の品質、製織性、通気度を測定した結果を表1に示す。パッケージ切替え部分での織物物性差は少なめである。織物品質は概ね良好で通気度は問題ないレベルであった。ただし、製織性は悪く、織り縮みが大きく経糸毛羽も発生した。
【0052】
[比較例1]
緯糸の給糸パッケージは1組とし、緯糸は1本のノズルから緯入れする方式とした以外は実施例1と同様に実施し、経糸密度が51.5本/2.54cm、緯糸密度が51本/2.54cmの織物を得た。
このエアバッグ用織物の品質、製織性、通気度を測定した結果を表1に示す。織物品質では最大幅変動量が大きく、経シワ欠点が出て不良であった。製織性は問題ないレベルであったが、通気度バラツキが大きい結果であった。
【0053】
[実施例8]
実施例1と同一のウォータージェットルームを用いた。
経糸に原糸総繊度235dtex、フィラメント数72本のナイロン66繊維を用い、経糸はサイジングなどの処理を行わずにそのまま整経した。緯糸は経糸と同じナイロン66繊維を用い、緯糸の給糸パッケージは2組用意し、緯糸は1×1方式で緯入れした。通し幅は218cmとし、600rpmの回転数にて平織物を製織した。 得られた織物を精練すること無しに、80℃熱風乾燥し、次いでピンテンターを用いて経方向に4%のオーバーフィード、緯方向に1%の引張りの状態で150℃で1分間のヒートセットを行った。得られた織物は経糸密度が74本/2.54cm、緯糸密度が71.5本/2.54cmであった。
このエアバッグ用織物の品質、製織性、通気度を測定した結果を表1に示す。
織物品質は良好で、製織性も問題なく、通気度も幅方向で安定していることがわかる。
【0054】
[実施例9]
織機回転数を900rpmとした以外は、実施例1と同様に実施し、経糸と緯糸の密度が共に51.5本/2.54cmの織物を得た。
このエアバッグ用織物の品質、製織性、通気度を測定した結果を表1に示す。織物品質、製織性は問題ないレベルであり、通気度は幅方向で安定している結果であった。
【0055】
[比較例2]
緯糸の給糸パッケージは1組とし、緯糸は1本のノズルから緯入れする方式とし、織機回転数を900rpmとした以外は実施例1と同様に実施し、経糸と緯糸の密度が共に51.5本/2.54cmの織物を得た。
このエアバッグ用織物の品質、製織性、通気度を測定した結果が表1であり、織物品質では幅不同欠点や経シワ欠点が出て不良であった。また、製織性も良くなく、織物の通気度バラツキが大きいという結果であった。
【0056】
[実施例10]
織機として、レピアルームを用いた以外は、実施例1と同様に実施し、経糸と緯糸の密度が共に53本/2.54cmの織物を得た。
このエアバッグ用織物の品質、製織性、通気度を測定した結果を表1に示す。
織物品質は良好で、製織性も問題なく、通気度も幅方向で安定していることがわかる。
【0057】
[実施例11]
経糸に原糸総繊度700dtex、フィラメント数105本のナイロン66繊維を用い、経糸はサイジングなどの処理を行わずにそのまま整経した。緯糸は経糸と同じナイロン66繊維を用いた。それ以外は、実施例8と同様に実施し、経糸密度が40.5本/2.54cm、緯糸密度が40本/2.54cmの織物を得た。
このエアバッグ用織物の品質、製織性、通気度を測定した結果を表1に示す。
織物品質は良好で、製織性も問題なく、通気度も幅方向で安定していることがわかる。
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の高密度織物およびその製織方法は、乗り物衝突事故における衝撃吸収で乗員安全を図るエアバッグ用の高密度織物およびその製織方法として好適である。
【符号の説明】
【0060】
1 織前側緯入れノズル
2 2本目の緯入れノズル
3 ノズル1に給される緯糸
4 ノズル2に給される緯糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織物の片側の最大幅変動量が6mm以下であることを特徴とするエアバッグ用高密度織物。
【請求項2】
通気度の幅方向のバラツキが0.3以下であることを特徴とする請求項1に記載の高密度織物。
【請求項3】
カバーファクターが1900以上の平織物であって、緯糸の給糸パッケージの変わり目での経シワ欠点が3級以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の高密度織物。
【請求項4】
同一種の合成繊維からなる緯糸を複数本用いて、複数本のノズルからそれぞれのノズルに対応する複数の給糸パッケージの緯糸を挿入し、同一給糸パッケージからの緯糸が連続して3本以上並ばないような緯糸配置でカバーファクターが1900以上の高密度織物を製織することを特徴とするエアバッグ用高密度織物の製織方法。
【請求項5】
織物を構成する前記緯糸の総繊度が200〜490dtexであり、ウォータージェットルームで2本の緯糸挿入用ノズルを使用して、1×1方式あるいは2×2方式の緯糸挿入方式にて、製織することを特徴とする請求項4に記載の製織方法。
【請求項6】
織物を構成する前記緯糸の総繊度が200〜720dtexであり、レピアルームで緯糸挿入手段を2本使用して、1×1方式あるいは2×2方式の緯糸挿入方式にて、製織することを特徴とする請求項4に記載の製織方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか一項に記載の製織方法を用いてなるエアバッグ用高密度織物。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−40415(P2013−40415A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177504(P2011−177504)
【出願日】平成23年8月15日(2011.8.15)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】