説明

エアーフィルタ用濾過フィルムおよびシート

【課題】 空気中に浮遊する微粒子状汚染物などを濾過して、クリーンルーム内に清浄された気体を供給するのみでなく、クリーンルーム内に取り込まれ、あるいは内部に発生した分子汚染物をも捕集することのできる濾材及びエアーフィルタを安価で提供することを課題とする。
【解決手段】 従来の濾材を得る方法と比較して本発明の高分子樹脂フィルムにクレーズを生成してなる気体透過性フィルムは、特別な成形加工を施すことなく、また、樹脂の種類に限定されることなく、非常に簡単な方法で通気性を有する高分子樹脂フィルム或いはシートを製造することができるため、クリーンルームに要求される空気清浄に適したエアーフィルタ用濾過フィルムおよびシートを、安価で提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜フィルムを用いた、気体中に浮遊する微粒子等の不純物を濾過するエアーフィルタ用の濾過フィルムに関するものである。さらに詳しくは、半導体工業や薬品工業などのクリーンルームで使用される、気体中の浮遊微粒子等の進入を阻止するのに適した、多孔質膜フィルムを用いたエアーフィルタ用の濾過フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のエアーフィルタ用の濾材には、湿式抄造法によって作成されたものがある。この濾材は、ガラス系繊維をスラリー状混合物にした後、これをシート状や紙状に乾燥させて得られたものである。この種の濾材を用いたエアーフィルタは気体中に浮遊する微粒子状の不純物を捕集するのに適しているため、半導体製造などの工程においてもクリーンルームのエアフィルタ用濾過材として広く使用されている。
【0003】
しかしながら、特開平6‐285318号公報の記載にもあるように、クリーンルーム内で製造途中の電子デバイスが、クリーンルーム内の空気へ長時間暴露されることにより、電子デバイスの特性、特に、絶縁膜の耐電圧の低下や、ソース・ドレイン間のしきい値電圧の上昇などの現象がみられる。この現象は分子レベルの汚染が原因と言われていたが、原因の特定が充分行われていなかった。
【0004】
特開平6‐285318号公報の記載によれば、クリーンルーム内に放置したシリコンウエハの分析などの研究を行うことにより、前記現象の主な原因の一つとして、ホウ素と有機化合物がシリコンウエハ表面に付着するためであることが確認され、有機化合物の発生源が、取入れ外気、クリーンルーム内の作業者、内装材や薬品、フィルタに付着したDOP(フタル酸ジオクチル)などであること、ホウ素の主な発生源が現在のクリーンルーム用エアーフィルタのガラス繊維であることが明記されている。
【0005】
上記問題を解決るために、特開平6‐285318号公報に記載の発明では、粒子状汚染物を濾過するのみでなく、半導体等の電子分野における製品やバイオ系製品の特性劣化を招くクリーンルーム内の分子汚染物をも除去できる濾紙及びエアーフィルタを提供する方法として、石英系ガラス繊維を使用して抄紙した濾紙により、空気が通過するときに、ホウ素と有機化合物が吸着捕集させる技術が開示されている。
【0006】
また、特開2003‐093815号公報には、レシプロ方式でプリーツ加工を行ってもダメージを受けにくい、半導体クリーンルームなどの超清浄空間を実現するためのエアフィルタ濾材の、より優れた製造方法を提供することを目的として、PTFE多孔質膜と通気性支持材との積層体を含み、少なくとも一方の露出面が通気性支持材の表面により構成されたエアフィルタ濾材の製造方法が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平06‐285318号公報
【特許文献2】特開2003‐093815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらのエアフィルタ濾材に係る発明は、石英系ガラス繊維を使用して抄紙した濾紙を得る技術にしても、PTFE多孔質膜と通気性支持材との積層体にレシプロ方式でプリーツ加工を行う方法であっても、共に多数の製造工程、さらに、高い技術力を要するものであり、したがってコストの掛かる製品となっている。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、空気中に浮遊する微粒子状汚染物などを濾過して、クリーンルーム内に清浄された気体を供給するのみでなく、クリーンルーム内に取り込まれ、あるいは内部に発生した分子汚染物をも捕集することのできる濾材及びエアーフィルタを安価で提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、高分子樹脂フィルムに分子束(フィブリル)とボイド(微細な連通孔)から構成されるクレーズ領域を生成させることにより、フィルムに通気性をもたせた気体透過性フィルムであって、この気体透過性フィルムを濾過材として採用し、空気を強制的に送気、あるいは吸引して、フィルムに生成されたクレーズ領域を透過させることにより、空気中に浮遊する微粒子、有機化合物さらにウィルスなどの微生物をもフィルム面に吸着捕集させることを特徴とする気体濾過フィルムである。
【0011】
前記空気を強制的に送気、あるいは吸引して、フィルムに生成されたクレーズ領域を透過させる場合、気体透過性フィルムは強制的に送気、あるいは吸引される気体により加圧された状態となり、クレーズ領域を構成する分子束(フィブリル)とボイド(微細な連通孔)のうちボイド(微細な連通孔)が拡張され、気体透過量が増加することになる。
【0012】
高分子樹脂フィルムに生成されたクレーズは、高分子樹脂フィルムの表面に現れる表面クレーズと内部に発生する内部クレーズを含むものであって、微細なひび状の模様を有する領域を言う。このクレーズは分子束(フィブリル)と微細な連通孔(ボイド)とから構成され、このうち微細な連通孔がフィルムの厚み方向に貫通することにより、フィルムに通気性がもたらされる。
【0013】
ボイド(微細な連通孔)は、ひび割れに似た多数の微細な連通孔であり、この微細な連通孔は一定ではなくとも0.02〜0.15nm程度に、高分子樹脂フィルムの厚み方向に連通して発現させることにより、通常の状態で、気体は通すが水などの液体は通さないという特徴を持つ気体透過性フィルムが得られるが、通常の状態では、クリーンルームに適した気体透過量とはなっていないため、空気を強制的に送気、あるいは吸引して、フィルムに生成されたクレーズ領域を透過させる。
【0014】
この場合、ボイドが拡張されて気体透過量が増量されるが、空気中に浮遊する微粒子、有機化合物さらにウィルスなどの微生物はフィルム中に網羅された分子束(フィブリル)によりなおも透過が阻止される。
【0015】
請求項2に記載の発明は、気体透過性フィルムの強度を増強して、フィルムの劣化を抑止することを目的とするもので、少なくとも2枚の、クレーズが生成された高分子樹脂フィルムが、クレーズが直交する状態に積層される。これにより、フィルムの縦方向と横方向に掛かる加圧が一定となり、フィルムの変形が防止される。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明のエアーフィルタ用濾過フィルムおよびシートは、従来の石英系ガラス繊維を使用して抄紙した濾紙を得る方法、あるいは、PTFE多孔質膜と通気性支持材との積層体にレシプロ方式でプリーツ加工を行う方法などと比較して、単一の高分子樹脂フィルムにクレーズを生成させることで特別な成形加工を必要とせず、また、特に樹脂の種類を限定されることもなく、非常に簡単な方法で通気性を有する高分子樹脂フィルム或いはシートを製造することができるため、クリーンルームに要求される空気清浄に適したエアーフィルタ用濾過フィルムおよびシートを、安価で提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係るエアーフィルタ用濾過フィルムおよびシートについて詳細に説明する。本発明の気体透過性フィルムに、素材として採用される高分子樹脂としては、フィルム或いはシートの成形が容易な熱可塑性樹脂であれば特に制限されるものではなく、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、スチレン系樹脂、ポリカーボネート、ハロゲン含有熱可塑性樹脂、ニトリル樹脂などが挙げられる。
【0018】
また、クレーズの形成の容易さから、該熱可塑性樹脂のガラス転移温度が−45℃以上、好ましくは−30℃以上、特に好ましくは−15℃以上の樹脂を使用することが望ましい。組成物として使用するときや多層化して使用するときは、主な構成成分である熱可塑性樹脂のガラス転移温度が上記範囲内にあることが好ましい。これより低いガラス転移温度を示す熱可塑性樹脂の場合は、柔軟過ぎるためにクレーズの効率的な形成が難しい。
【0019】
上記熱可塑性樹脂を用いて得られる高分子樹脂フィルム又はシートは、その製造方法において特別な制約はなく、各種の成形方法を適用することにより得ることができるが、一般に広く行なわれているTダイ押出成形法やブローアップを行なうインフレーション成形法を適用して得られたものが工業的には有利である。
【0020】
また、高分子樹脂フィルムの厚みは、一般に0.5〜1,000μm、好ましくは1〜800μm、特に好ましくは2〜500μmのものが使用される。
【0021】
上記高分子樹脂フィルムは、配向度が、複屈折率で0.5×10−3以上、好ましくは1×10−3以上、特に好ましくは1.5×10−3以上にある分子配向度を有することが、クレーズの形成には有効である。この複屈折率が上記範囲外の分子配向を有するフィルムでは、目的とするクレーズを容易に形成され難い。
【0022】
配向度は、該フィルムの成形時の、樹脂温度、引き取り速度、冷却速度、樹脂の分子量、分子量分布、タクティスティ等の分子構造を、特にTダイ法であればドロー比を、特にインフレーション法であればブローアップ比等を変えることにより制御することができるので、これらを適当に制御して目的とする好ましい範囲の配向度のフィルムを製造することができる。
【0023】
ここで言う複屈折率とは、主屈折率間の差として表現されるもので、例えば、フィルムの成形方向の屈折率(n1)とそれと直角方向の屈折率(n2)の差(n1−n2)であり、分子配向の程度を表現するインデックスの一つである。これら複屈折率は、実際には、偏光顕微鏡とコンペンセーターを用いることにより測定することができ、この値が大きいほど異方性が大きくなり、クレーズが生じ易くなる。
【0024】
本発明の気体透過性フィルムには、縞状のクレーズ領域が設けられている。該縞状のクレーズは、基本的に、高分子樹脂フィルムの分子配向の方向と略平行に、幅が一般に0.5〜100μm、好ましくは1〜50μmのものである。この縞状クレーズが、フィルムの厚み方向に貫通しているクレーズの数の割合が全クレーズの数に対して10%以上、好ましくは20%以上、特に好ましくは40%以上必要であり、貫通している割合が上記範囲未満であると十分な通気性が得られ難くなる。
【0025】
該クレーズを分子配向の方向と略平行の方向に形成するのは、分子鎖の配向の方向と直角の方向に引っ張ることによってクレーズが形成され、分子鎖の配向の方向と直角の方向にクレーズを形成することが難しいからである。
【0026】
ここで言うクレーズとは、高分子樹脂フィルムの表面に現れる表面クレーズと内部に発生する内部クレーズを含むものであって、微細なひび状の模様を有する領域を言う。このクレーズは分子束〈フィブリル〉とミクロボイドから構成されており、この部分で各種ガスの通気性が生じることになる。
【0027】
上記クレーズは高分子樹脂フィルムに形成されるクレーズは、一般に0.1〜1,000μm、好ましくは1〜800μmの間隔で形成され、縞状の領域として認識できる程度の量である。
【0028】
上記の様な気体透過性フィルムは、用いる樹脂の種類により異なるが、例えばポリ弗化ビニリデンのホモ重合体を用いると、酸素及び窒素ガスのガス透過度で一般に0.3〜100,000×10cm/m・24hr・atmの範囲内のものに、透湿度で一般に10〜100,000×10g/m・24hrの範囲内のものに、引張強度で一般に50〜500kg/cm、好ましくは60〜500kg/cm、特に好ましくは75〜500kg/cmの範囲内のものにすることができる。
【0029】
本発明の気体透過性フィルムを製造するには、上記高分子樹脂フィルムを引っ張って緊張状態に保持し、この高分子樹脂フィルムの表面に先端部が鋭角な支持体を該高分子樹脂フィルムの分子配向方向と略平行に当接して、該フィルムを局部的に折り曲げ、その折り曲げ角度が140度以下、好ましくは120度以下の変形域とし、該フィルム中にクレーズの帯を形成した後、該高分子樹脂フィルムを順次相対的に徐々に移動させることにより、移動方向と略直角の方向に連続的な縞状のクレーズ領域を形成させるものである。
【0030】
上記気体透過性フィルムを製造するのに用いられる高分子樹脂フィルムは、前記複屈折率の範囲で表わされる配向度、並びに、ガラス転移温度が上記範囲の熱可塑性樹脂が使用される。また、高分子樹脂フィルムを緊張状態に保持するよう1kg/cm以上の張力で引っ張って、その表面に先端部が鋭角な支持体を該高分子樹脂フィルムの分子配向方向と略平行に当接して、該フィルムを折り曲げ角度140度以下、好ましくは120度以下にて局部的に折り曲げる。
【0031】
そして、該フィルム中にクレーズの帯を形成した後、該高分子樹脂フィルムを上記クレーズの縞の間隔で順次相対的に徐々に移動させることにより、縞状のクレーズ領域を形成させることができる。このときに、上記折り曲げ角度が大きいほど、又、引っ張り張力の大きいほど、全クレーズに対するフィルムの厚み方向に貫通しているクレーズの割合が多くなり、通気性の良好なフィルムが得られ易い。しかし、クレーズの幅が大きすぎるとフィルムが破断し易くなる。
【0032】
本発明の気体透過性フィルムの通気性の程度は、高分子樹脂フィルム中に形成されたクレーズの幅、クレーズ間の隔たり、クレーズの貫通された数の割合を変えることで調節することができる。具体的には、高分子樹脂フィルムの分子配向の度合いやクレーズを形成させる時の温度、高分子樹脂フィルムの緊張度(緊張状態における張力)、フィルムの折り曲げ角度等を調節することで、容易に通気性をコントロールすることができ、使用目的に応じた気体透過性フィルムを提供することができる。
【0033】
例えば、クレーズを形成させる時の緊張度を増大させたり、折り曲げ角度を小さくすると、生成するクレーズの間隔は小さくなり、クレーズの貫通された数の割合が増大し、その結果、通気性は増大する。この様なクレーズの幅、クレーズ間の隔たり、貫通されたクレーズの割合を変えることで調節された気体透過性フィルムは、前記酸素及び窒素ガスのガス透過度、引張強度等をコントロールすることができる。
【実施例】
【0034】
以下、この出願の発明と構成を実施例として示した図面に従って更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0035】
本発明のエアーフィルタ用濾過フィルムは、一実施例として図1および図2に示すと、エアーフィルタ用濾過フィルム14と一次濾過材16を重ね合わせてなる気体濾過材Fの表面に、加圧による気体透過材の変形を防ぐ目的の補強材18を載置し、その周縁部を、ゴム20等で固着することにより、周縁部にシーリング機能を有する、形状の安定した気体濾過材となる。補強材の形状に於いては網状のものが適しているが特に限定されるものではなく、材質にあっても、使用に適するものであれば特に限定されるものではない。
【0036】
本発明のエアーフィルタ用濾過フィルム14は、図3に示すように高分子樹脂フィルムに生成されたクレーズ22に気体24を強制的に送気、あるいは吸引して透過させることにより、空気中に浮遊する微粒子、有機化合物さらにウィルスなどの微生物をフィルム面に吸着捕集させることを特徴とするエアーフィルタ用濾過フィルムある。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】エアーフィルタ用濾過フィルムと補強材の構成を示す斜視図
【図2】シーリング機能を有する気体濾過材の説明図
【図3】エアーフィルタ用濾過フィルムの説明図
【符号の説明】
【0038】
14 エアーフィルタ用濾過フィルム
16 一次濾過材
18 補強材
20 ゴム
22 クレーズ
24 気体
F エアーフィルタ用濾過フィルムに一次濾過材を重ね合わせた気体濾過材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子樹脂フィルムにクレーズ領域を生成させることにより、フィルムに通気性をもたせた気体透過性フィルムであって、この気体透過性フィルムを濾過材として採用し、空気を強制的に送気、あるいは吸引してフィルムを透過させることにより、空気中に浮遊する微粒子、有機化合物さらにウィルスなどの微生物をもフィルム面に吸着捕集されることを特徴とする気体濾過フィルム。
【請求項2】
少なくとも2枚の、クレーズが生成された高分子樹脂フィルムが、クレーズが直交する状態に積層されてなることを特徴とする、請求項1記載の気体濾過フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−21301(P2007−21301A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204320(P2005−204320)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(397010446)有限会社中島工業 (28)
【Fターム(参考)】