説明

エキスパンションジョイント床構造

【課題】可動スペースによる建物の制約を小さくすることができるとともに、建物の外側に突出する手摺などを不要にすることが可能なエキスパンションジョイント床構造を提供する。
【解決手段】両建物T1、T2の間に架け渡されて可動床として機能する可動プレート22を備える。また、可動プレート22を、一方の建物T1側に配される一端22a側に可動プレート22の架設方向Lに延びるガイドレール30を備えるとともに、他方の建物T2側に配される他端22b側にガイドリング31を備えて形成する。そして、この可動プレート22を、一方の建物T1に固設された第1ピン部材28にガイドレール30を係合させ、第1ピン部材28に案内されて進退するように一方の建物T1に繋げる。さらに、他方の建物T2に固設された第2ピン部材29にガイドリング31を係合させ、ガイドリング31を中心として水平方向に回動可能に他方の建物T2に繋げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣り合う建物の床を繋ぐように両建物の間に架け渡して設置されるエキスパンションジョイント床の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば図12に示すように、マンションなどの隣り合う建物(棟)T1、T2の間に、両建物T1、T2の床を繋ぐようにエキスパンションジョイント(エキスパンションジョイント床、可動プレート)1を架け渡して設置し、連絡路などを構築することが行われている(例えば、特許文献1参照)。このようなエキスパンションジョイント1は、両建物T1、T2に対して、建築的に繋がり、構造的に縁切りして架設されることで、地震などによって隣り合う建物T1、T2の間に相対的な変位が生じた場合においてもこの相対変位を吸収可能とされている。
【0003】
また、例えば図13に示すように、隣り合う建物T1、T2の外周側の床2、3同士を繋ぐようにエキスパンションジョイント1を設置して連絡路T3を構築する場合が多々ある。さらに、エキスパンションジョイント1には、一端1a側を一方向(X方向)に進退可能に、一方向に直交する他方向(Y方向)に固定して一方の建物T1に繋ぎ、他端1b側を他方向(Y方向)に進退可能に、一方向(X方向)に固定して他方の建物T2に繋いで構成したものがある。
【0004】
このようなエキスパンションジョイント1を隣り合う建物T1、T2の外周側の床2、3同士を繋ぐように設置する場合には、図13に示すように、一方の建物T1側にエキスパンションジョイント1の可動スペースSを設け、また、エキスパンションジョイント1の両側端側にそれぞれ、一方向(X)に沿って手摺4、5を設置し、さらに、この手摺4、5の他方の建物T2側の端部に繋げて他方向(Y)に沿って手摺6、7を設置する。
【0005】
そして、このようなエキスパンションジョイント1を備えて構成したエキスパンションジョイント床構造Aでは、図14(a)及び図14(b)に示すように、地震などによって隣り合う建物T1、T2が一方向(X)に相対変位するとともに、一方の建物T1に対してエキスパンションジョイント1が一方向(X)に進退する。これにより、隣り合う建物T1、T2が一方向(X)に相対変位した場合においても、確実にこの一方向(X)の相対変位を吸収して、連絡路T3が損傷することを防止できる。
【0006】
また、隣り合う建物T1、T2が他方向(Y)に相対変位した場合には、図15(a)及び図15(b)に示すように、他方の建物T2に対してエキスパンションジョイント1が他方向(Y)に進退する。これにより、隣り合う建物T1、T2が他方向(Y)に相対変位した場合においても、確実にこの他方向(Y)の相対変位を吸収して、連絡路T3が損傷することを防止できる。
【0007】
一方、隣り合う建物T1、T2が他方向(Y)に相対変位し、エキスパンションジョイント1が他方の建物T2に対して他方向(Y)に進退した場合には、他方の建物T2の床とエキスパンションジョイント1とが他方向(Y)にずれる。このため、他方の建物T2やエキスパンションジョイント1上の人が転落するおそれが生じるが、このエキスパンションジョイント床構造Aにおいては、エキスパンションジョイント1が他方の建物T2に対して他方向(Y)に進退するとともに、他方の建物T2の開口が他方向(Y)に沿って設置した手摺6、7で塞がれる。これにより、建物T1、T2に固設した手摺8、9、エキスパンションジョイント1の一方向(X)に沿う手摺4、5とともに、エキスパンションジョイント1に他方の建物T2の開口を塞ぐ手摺6、7を設けることによって人の転落防止が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−265575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来のエキスパンションジョイント床構造Aにおいては、エキスパンションジョイント(可動プレート)1を一方向と他方向(X方向とY方向)の二方向に進退可能にして構成されているため、特に、地震などによって生じる相対変位量が±1000mm程度以上の大変形を考慮した場合には、建物T1に非常に大きな可動スペースSが必要になる。
【0010】
また、図13に示したように、エキスパンションジョイント1を隣り合う建物T1、T2の外周側の床2、3同士を繋ぐように設置する場合には、エキスパンションジョイント1を他方向(Y)に進退可能にするために、他方向(Y)に延びるガイドレールなどの進退機構10を他方の建物T2の外周から外側に突設させる必要が生じる。さらに、建物T1、T2の相対変位時に他方の建物T2の開口を塞ぐ手摺6(7)が、通常時に、他方の建物T2の外周から外側に突出した状態で配置される。このため、特に、大変形を考慮した場合には、これら進退機構10や手摺6が大きく突出することになり、建築デザイン上、調和を欠くなどの不都合が生じてしまう。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑み、可動スペースによる建物の制約を小さくすることができるとともに、建物の外側に突出する手摺などを不要にすることが可能なエキスパンションジョイント床構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0013】
本発明のエキスパンションジョイント床構造は、隣り合う建物の床を繋ぐように両建物の間に架け渡して設置されるエキスパンションジョイント床の構造であって、前記両建物の間に架け渡されて可動床として機能する可動プレートを備え、前記可動プレートは、一方の建物側に配される一端側に前記可動プレートの架設方向に延びるガイドレールを備えるとともに、他方の建物側に配される他端側にガイドリングを備えて形成されており、該可動プレートが、前記一方の建物に固設された第1ピン部材に前記ガイドレールを係合させ、前記第1ピン部材に案内されて進退するように前記一方の建物に繋げられ、前記他方の建物に固設された第2ピン部材に前記ガイドリングを係合させ、前記ガイドリングを中心として水平方向に回動可能に前記他方の建物に繋げられていることを特徴とする。
【0014】
この発明においては、可動プレートが、第1ピン部材にガイドレールを係合させて進退可能に一方の建物に繋げられ、第2ピン部材にガイドリングを係合させてこのガイドリング(第2ピン部材)を中心として回動可能に他方の建物に繋げられている。このため、地震などによって両建物が大きく相対変位した場合においても(大変形時においても)、可動プレートが水平方向に回動可能に設置されていることにより、一方向(X方向)と他方向(Y方向)に加え、一方向(X)成分と他方向(Y)成分を含む斜め方向の全方向の相対変位を吸収することが可能になる。また、このとき、一方の建物に固設された第1ピン部材がガイドレールに係合していることで、可動プレートが第1ピン部材に案内されながら進退することになり、確実に両建物の間に架け渡した状態で相対変位を吸収することが可能になる。
【0015】
そして、このように可動プレートを進退可能且つ回動可能に設置することにより、従来のエキスパンションジョイント床構造の可動スペースを設けることなく、可動プレートを設置して相対変位を吸収することが可能になる。これにより、一方向と他方向の二方向に進退する従来のエキスパンションジョイント床構造と比較し、可動プレートの可動スペースの制約を小さくすることが可能になる。
【0016】
また、可動プレートを進退可能且つ回動可能に設置することにより、他方の建物の外周から外側に突出する従来のエキスパンションジョイント床構造の手摺や進退機構を不要にして相対変位を吸収することが可能になる。
【0017】
また、本発明のエキスパンションジョイント床構造においては、前記一方の建物と前記他方の建物にそれぞれ敷設され、前記第1ピン部材と前記第2ピン部材がそれぞれ固設された一対の下部プレートと、前記一方の建物と前記他方の建物にそれぞれ固設され、前記可動プレートの一端側と他端側をそれぞれ前記下部プレートとの間で挟み込むように設けられた一対の上部プレートとを備えており、前記可動プレートには、下方に突設され、該可動プレートを前記下部プレート上で滑動可能に支持するための滑動支持部材が設けられ、一方の上部プレートに一端部を、他方の上部プレートに他端部をそれぞれ水平方向に回動可能に接続し、前記一端部と前記他端部を結ぶ延設方向に伸縮自在に形成された手摺部材が、前記両建物の間に架け渡して設けられていることが望ましい。
【0018】
この発明においては、可動プレートが滑動支持部材を介して下部プレートに滑動可能に支持されていることにより、両建物に相対変位が生じた際に、円滑に可動プレートを進退、回動させることが可能になり、一方向と他方向に加え、一方向成分と他方向成分を含む斜め方向の全方向の相対変位を好適に吸収することが可能になる。
【0019】
また、一端部と他端部を結ぶ延設方向に伸縮自在に形成された手摺部材が一方の上部プレートと他方の上部プレートに回動可能に接続されていることにより、両建物が相対変位して可動プレートが回動する場合においても、この可動プレートに手摺部材を従動させることが可能になる。これにより、一方の建物と他方の建物に架け渡して設置した手摺部材と、可動プレートの間に隙間が生じることを防止できる。よって、建物の外側に突出する手摺などを備えることなく、確実に建物の相対変位時に人の転落防止を図ることが可能になる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のエキスパンションジョイント床構造によれば、可動プレートを、第1ピン部材にガイドレールを係合させて進退可能に一方の建物に繋ぎ、第2ピン部材にガイドリングを係合させて回動可能に他方の建物に繋いで構成することにより、従来のエキスパンションジョイント床構造の可動スペースを設けることなく、可動プレートを設置して相対変位を吸収することが可能になる。これにより、一方向と他方向の二方向に進退する従来のエキスパンションジョイント床構造と比較し、可動プレートの可動スペースの制約を小さくすることが可能になる。
【0021】
また、可動プレートを進退可能且つ回動可能に設置することにより、他方の建物の外周から外側に突出する従来のエキスパンションジョイント床構造の手摺や進退機構を不要にして相対変位を吸収することが可能になる。これにより、建築デザイン上、調和を欠くなどの不都合を解消することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るエキスパンションジョイント床構造を示す平面図である。
【図2】図1のX1−X1線矢視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るエキスパンションジョイント床構造の下部プレートを示す平面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るエキスパンションジョイント床構造の可動プレートを示す平面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るエキスパンションジョイント床構造の上部プレートを示す平面図である。
【図6】図1のM1部分の断面図であり、第1ピン部材とガイドレールを示す図である。
【図7】図1のM2部分の断面図であり、第2ピン部材とガイドリングを示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るエキスパンションジョイント床構造の通常時の状態を示す平面図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るエキスパンションジョイント床構造において、隣り合う建物がX方向(一方向)に相対変位したときの状態を示す平面図である。
【図10】本発明の一実施形態に係るエキスパンションジョイント床構造において、隣り合う建物がY方向(他方向)に相対変位したときの状態を示す平面図である。
【図11(a)】本発明の一実施形態に係るエキスパンションジョイント床構造において、隣り合う建物が斜め方向(−X,+Y)に相対変位したときの状態を示す平面図である。
【図11(b)】本発明の一実施形態に係るエキスパンションジョイント床構造において、隣り合う建物が斜め方向(−X,−Y)に相対変位したときの状態を示す平面図である。
【図11(c)】本発明の一実施形態に係るエキスパンションジョイント床構造において、隣り合う建物が斜め方向(+X,+Y)に相対変位したときの状態を示す平面図である。
【図11(d)】本発明の一実施形態に係るエキスパンションジョイント床構造において、隣り合う建物が斜め方向(+X,−Y)に相対変位したときの状態を示す平面図である。
【図12】エキスパンションジョイント床構造を設置した建物を示す正面図である。
【図13】従来のエキスパンションジョイント床構造の通常時の状態を示す平面図である。
【図14】従来のエキスパンションジョイント床構造において、隣り合う建物がX方向(一方向)に相対変位したときの状態を示す平面図である。
【図15】従来のエキスパンションジョイント床構造において、隣り合う建物がY方向(他方向)に相対変位したときの状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図1から図11を参照し、本発明の一実施形態に係るエキスパンションジョイント床構造について説明する。本実施形態は、マンションなどの隣り合う建物(棟)の外周側の間に両建物の床を繋ぐように架け渡して設置され、連絡路を形成するエキスパンションジョイント床構造に関するものである。
【0024】
本実施形態のエキスパンションジョイント床構造Bは、図1及び図2に示すように、一対の下部プレート20、21と、可動プレート(中間プレート、エキスパンションジョイント床)22と、一対の上部プレート23、24とを備えて構成されている。
【0025】
一対の下部プレート20、21は、例えば鋼製プレートであり、図1から図3に示すように、隣り合う建物T1、T2の一方の建物T1と他方の建物T2のスラブ(床)25、26上にそれぞれ敷設され、シアーコネクタ27(図3)などを用いて各スラブ25、26に固設されている。また、一方の建物T1に設けられた一方の下部プレート20には、図1から図4及び図6に示すように、連絡路T3の他方の建物T2側に、溶接などによって下端を下部プレート20の上面に繋げ、上方に突出した第1ピン部材28が固設されている。さらに、他方の建物T2に設けられた他方の下部プレート21には、図1、図3、図4及び図7に示すように、連絡路T3の一方の建物T1側に、溶接などによって下端を下部プレート21の上面に繋げ、上方に突出した第2ピン部材29が固設されている。このように、本実施形態の第1ピン部材28と第2ピン部材29は、一方の下部プレート20及びシアーコネクタ27と他方の下部プレート21及びシアーコネクタ27を介して、一方の建物T1のスラブ25と他方の建物T2のスラブ26にそれぞれ固設されている。
【0026】
可動プレート22は、例えば鋼製プレートであり、可動床として機能するものである。そして、可動プレート22は、図1及び図4に示すように、一端22a側が一方の下部プレート20に重なるようにして一方の建物T1側に配され、他端22b側が他方の下部プレート21に重なるようにして他方の建物T2側に配され、両建物T1、T2の間に架け渡して設置されている。また、本実施形態の可動プレート22は、平面視略矩形状に形成されるとともに、他端22b側の一側端22c側が架設方向(長手方向)L外側に延出して形成されている。なお、可動プレート22は、地震などによって両建物T1、T2が相対変位した際に、一方向と他方向(X方向とY方向)及び例えば45度方向などの全方向の建物間変位差に対応できるようにその形状と寸法が設定されている。
【0027】
さらに、可動プレート22の下面の一端22a側には、図1、図2、図4及び図6に示すように、幅方向(短手方向)H中央に、一端22a側から他端22b側に向けて延びる(可動プレート22の架設方向Lに延びる)ガイドレール30が設けられている。また、可動プレート22の下面には、図1、図4及び図7に示すように、他端22b側の他側端22d側にガイドリング31が設けられている。
【0028】
さらに、可動プレート22の下面には、図2に示すように、両側端22c、22d側にそれぞれ、溶接などによって上端を下面に繋げ、下方に突出しつつ一端22aから他端22bに向けて延びる矩形鋼材などを用いた滑動支持部材32が設けられている。また、これら滑動支持部材32は、下端面にテフロン(登録商標)シートなどの滑動部材32aを設けて形成されている。そして、可動プレート22は、両滑動支持部材32の滑動部材32aを一方の下部プレート20と他方の下部プレート21にそれぞれ当接させ、これら滑動支持部材32を介して各下部プレート20、21上で滑動可能に支持されている。
【0029】
このとき、可動プレート22は、図1、図2、図4、図6及び図7に示すように、一方の建物T1に固設された第1ピン部材28にガイドレール30を係合させ、第1ピン部材28に案内されて進退するように一方の建物T1に繋げられている。また、他方の建物T2に固設された第2ピン部材29にガイドリング31を係合させ、ガイドリング31(第2ピン部材29)を中心として水平方向に回動可能に他方の建物T2に繋げられている。
【0030】
一対の上部プレート23、24は、例えば鋼製プレートであり、図1、図2、図5から図7に示すように、一方の上部プレート23は、可動プレート22の一端22a側を一方の下部プレート20との間で挟み込むようにして一方の建物T1に固設され、他方の上部プレート24は、可動プレート22の他端22b側を他方の下部プレート21との間で挟み込むようにして他方の建物T2に固設されている。
【0031】
また、本実施形態のエキスパンションジョイント床構造Bにおいては、図2及び図8に示すように、一方の建物T1と他方の建物T2の外周側に固設された手摺に加えて、連絡路用の一対の手摺(手摺部材)33、34が両建物T1、T2の間に架け渡して設置されている。そして、これら一対の手摺33、34は、一方の手摺33が可動プレート22の一側端22c側に、他方の手摺34が可動プレート22の他側端22d側にそれぞれ、可動プレート22の架設方向Lに沿って配設されている。
【0032】
また、これら一対の手摺33、34はそれぞれ、一端部33a、34aが一方の上部プレート23に、他端部33b、34bが他方の上部プレート24に水平方向に回動可能に繋げられており、一端部33a、34aと他端部33b、34bを結ぶ延設方向(通常時には架設方向L)に伸縮自在に形成されている。ここで、本実施形態においては、一方の建物T1に、下端を一方の上部プレート23に繋げて回動規制用支柱35が立設されており、この回動規制用支柱35に側面が当接することによって回動が規制される回動手摺36が設けられている。この回動手摺36は、他方の建物T2と対向する一方の建物T1の外周部に沿って設置され、一端部を一方の建物T1に回動可能に繋げて設けられている。すなわち、この回動手摺36は、回動規制用支柱35によって一方の建物T1の外側への回動が規制され、一方の建物T1の内側にのみ回動可能に設けられている。他方の手摺34は、一端部34aが回動手摺36の他端部に回動可能に繋げられ、回動手摺36を介して一端部34aが一方の建物T1(一方の上部プレート23)に回動可能に繋げられている。
【0033】
そして、このように構成した本実施形態のエキスパンションジョイント床構造Bにおいては、一方の建物T1に、図12から図15に示した従来のエキスパンションジョイント床構造Aの可動スペースSを設けることなく、可動プレート22が設置されている。また、他方の建物T2の外周から外側に突出する従来のエキスパンションジョイント床構造Aの手摺6や進退機構10が不要とされている。
【0034】
ついで、上記構成からなるエキスパンションジョイント床構造Bの作用及び効果について説明する。
【0035】
図9(a)に示すように、地震などによって一方の建物T1と他方の建物T2が離れるように相対的にX方向(一方向)に大きく変位した場合、可動プレート22は、他方の建物T2に固設した第2ピン部材29がガイドリング31に係合しているため、ガイドリング31(第2ピン部材29)中心に回動することなく、両建物T1、T2の間に一方の建物T1から引き出されるように(一方の建物T1から退出するように)変位する。また、このとき、一方の建物T1に固設した第1ピン部材28にガイドレール30が係合しているため、可動プレート22が第1ピン部材28に案内されながら、確実に一方の建物T1からX方向に沿って引き出されるように変位する。さらに、可動プレート22は、滑動支持部材32の滑動部材32aによって一方の下部プレート20上で滑動可能に支持されているため、両建物T1、T2が相対的にX方向に変位するとともに、円滑に一方の建物T1から引き出されるように変位する。このように可動プレート22が変位することによって、両建物T1、T2の相対変位を吸収しつつ、確実に両建物T1、T2の間に架け渡した状態が維持される。
【0036】
また、一対の上部プレート23、24にそれぞれ一端部33a、34aと他端部33b、34bが回動可能に繋げられた一対の手摺33、34はそれぞれ、一方の建物T1と他方の建物T2がX方向に相対変位するとともに、回動することなくこの相対変位量に応じて伸びる。これにより、一方の建物T1と他方の建物T2の間隔が拡大した場合においても、一方の建物T1と他方の建物T2に架け渡した状態が維持されるとともに、一対の手摺33、34と可動プレート22との間に隙間が生じることがなく、確実に連絡路T3からの人の落下防止が図られる。
【0037】
一方、図9(b)に示すように、地震などによって一方の建物T1と他方の建物T2が近づくように相対的にX方向(一方向)に大きく変位した場合には、可動プレート22が回動することなく、一方の建物T1側に引き込まれるように(一方の建物T1側に進出するように)変位する。これにより、両建物T1、T2の相対変位を吸収しつつ、確実に両建物T1、T2の間に架け渡した状態が維持される。
【0038】
また、一方の手摺33は、一方の建物T1と他方の建物T2が相対変位するとともに、回動することなくこの相対変位量に応じて縮む。そして、一方の手摺33が可動プレート22の一側端22c側に沿った状態で維持される。これに対し、他方の手摺34は、両建物T1、T2の相対変位とともに縮み、さらに回動手摺36を押圧し、この回動手摺36が一方の建物T1の内側に回動するとともに可動プレート22の他側端22dから離れるように回動する。このように他方の手摺34が両建物T1、T2の相対変位とともに可動プレート22から離れるように回動する場合においても、一方の建物T1と他方の建物T2の間隔が縮小しているため、連絡路T3上から人が落下するようなことはない。
【0039】
ついで、図10(a)及び図10(b)に示すように、一方の建物T1と他方の建物T2が相対的にY方向(他方向)に大きく変位した場合には、可動プレート22が、第1ピン部材28に案内されながら一方の建物T1に対し進退して変位するとともに、ガイドリング31(第2ピン部材29)を中心として水平方向に回動して変位する。このとき、可動プレート22が他端22b側の一側端22c側を架設方向L外側に延出して形成されているため、図10(b)に示すように回動した場合においても、他方の建物T2と可動プレート22の他端22bとの間に隙間が生じることがない。また、可動プレート22は、滑動支持部材32の滑動部材32aによって他方の下部プレート21上で滑動可能に支持されているため、ガイドリング31を中心として円滑に回動して変位する。このように可動プレート22が変位することによって、両建物T1、T2の相対変位を吸収しつつ、確実に両建物T1、T2の間に架け渡した状態が維持される。
【0040】
さらに、一方の建物T1と他方の建物T2がY方向に相対変位した場合には、一対の手摺33、34がそれぞれ、両建物T1、T2の相対変位量に応じて伸びる。また、これら一対の手摺33、34は、可動プレート22に従動するように回動し、可動プレート22上に配されることになる。これにより、一方の建物T1と他方の建物T2に架け渡した状態が維持されるとともに、一対の手摺33、34と可動プレート22との間に隙間が生じることがなく、確実に連絡路T3からの人の落下防止が図られる。
【0041】
ついで、図11(a)から図11(d)に示すように、一方の建物T1と他方の建物T2が相対的に、X方向成分とY方向成分を含む斜め方向に大きく変位した場合には、可動プレート22が、一方の建物T1に対し第1ピン部材28に案内されながら進退して変位するとともに、ガイドリング31を中心に水平方向に回動して変位する。この場合においても、図11(b)及び図11(d)に示すように、可動プレート22が他端22b側の一側端22c側を架設方向L外側に延出して形成されていることで、他方の建物T2と可動プレート22の他端22bとの間に隙間が生じることがない。よって、両建物T1、T2の相対変位を吸収しつつ、確実に両建物T1、T2の間に架け渡した状態が維持される。
【0042】
また、一方の建物T1と他方の建物T2が斜め方向に相対変位した場合においても、一対の手摺33、34がそれぞれ、両建物T1、T2の相対変位量に応じて伸縮し、可動プレート22に従動するように回動することによって可動プレート22上に配されることになる。これにより、一方の建物T1と他方の建物T2に架け渡した状態が維持されるとともに、一対の手摺33、34と可動プレート22との間に隙間が生じることがなく、確実に連絡路T3からの人の落下防止が図られる。
【0043】
したがって、本実施形態のエキスパンションジョイント床構造Bにおいては、可動プレート22が、第1ピン部材28にガイドレール30を係合させて進退可能に一方の建物T1に繋げられ、第2ピン部材29にガイドリング31を係合させてこのガイドリング31(第2ピン部材29)を中心として回動可能に他方の建物T2に繋げられているため、地震などによって両建物T1、T2が大きく相対変位した場合においても(大変形時においても)、可動プレート22が水平方向に回動可能に設置されていることによって、X方向とY方向(一方向と他方向)に加え、X方向成分とY方向成分を含む斜め方向の全方向の相対変位を吸収することが可能になる。また、このとき、一方の建物T1に固設された第1ピン部材28がガイドレール30に係合していることで、可動プレート22が第1ピン部材28に案内されながら進退することになり、確実に両建物T1、T2の間に架け渡した状態で相対変位を吸収することが可能になる。
【0044】
そして、このように可動プレート22を進退可能且つ回動可能に設置することにより、従来のエキスパンションジョイント床構造Aの可動スペースSを設けることなく、可動プレート22を設置して相対変位を吸収することが可能になる。これにより、X方向とY方向の二方向に進退する従来のエキスパンションジョイント床構造Aと比較し、可動プレート22の可動スペースSの制約を小さくすることが可能になる。
【0045】
また、可動プレート22を進退可能且つ回動可能に設置することにより、他方の建物T2の外周から外側に突出する従来のエキスパンションジョイント床構造Aの手摺6や進退機構10を不要にして相対変位を吸収することが可能になる。これにより、建築デザイン上、調和を欠くなどの不都合を解消することが可能になる。
【0046】
さらに、可動プレート22が滑動支持部材32を介して下部プレート20、21に滑動可能に支持されていることにより、両建物T1、T2に相対変位が生じた際に、円滑に可動プレート22を進退、回動させることが可能になり、X方向とY方向に加え、X方向成分とY方向成分を含む斜め方向の全方向の相対変位を好適に吸収することが可能になる。
【0047】
また、一端部33a、34aと他端部33b、34bを結ぶ延設方向Lに伸縮自在に形成された手摺33、34が一方の上部プレート23と他方の上部プレート24に回動可能に接続されていることにより、両建物T1、T2が相対変位して可動プレート22が回動する場合においても、この可動プレート22に手摺33、34を従動させることが可能になる。これにより、一方の建物T1と他方の建物T2に架け渡して設置した手摺33、34と、可動プレート22の間に隙間が生じることを防止できる。よって、建物T2の外側に突出する手摺6などを備えることなく、確実に建物T1、T2の相対変位時に人の転落防止を図ることが可能になる。
【0048】
以上、本発明に係るエキスパンションジョイント床構造の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0049】
20 下部プレート
21 下部プレート
22 可動プレート
22a 一端
22b 他端
22c 一側端
22d 他側端
23 上部プレート
24 上部プレート
25 一方の建物のスラブ(床)
26 他方の建物のスラブ(床)
28 第1ピン部材
29 第2ピン部材
30 ガイドレール
31 ガイドリング
32 滑動支持部材
32a 滑動部材
33 一方の手摺(手摺部材)
33a 一端部
33b 他端部
34 他方の手摺(手摺部材)
34a 一端部
34b 他端部
35 回動規制用支柱
36 回動手摺
A 従来のエキスパンションジョイント床構造
B エキスパンションジョイント床構造
H 可動プレートの幅方向
L 可動プレートの架設方向(延設方向)
S 可動スペース
T1 一方の建物
T2 他方の建物
T3 連絡路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣り合う建物の床を繋ぐように両建物の間に架け渡して設置されるエキスパンションジョイント床の構造であって、
前記両建物の間に架け渡されて可動床として機能する可動プレートを備え、
前記可動プレートは、一方の建物側に配される一端側に前記可動プレートの架設方向に延びるガイドレールを備えるとともに、他方の建物側に配される他端側にガイドリングを備えて形成されており、
該可動プレートが、前記一方の建物に固設された第1ピン部材に前記ガイドレールを係合させ、前記第1ピン部材に案内されて進退するように前記一方の建物に繋げられ、前記他方の建物に固設された第2ピン部材に前記ガイドリングを係合させ、前記ガイドリングを中心として水平方向に回動可能に前記他方の建物に繋げられていることを特徴とするエキスパンションジョイント床構造。
【請求項2】
請求項1記載のエキスパンションジョイント床構造において、
前記一方の建物と前記他方の建物にそれぞれ敷設され、前記第1ピン部材と前記第2ピン部材がそれぞれ固設された一対の下部プレートと、前記一方の建物と前記他方の建物にそれぞれ固設され、前記可動プレートの一端側と他端側をそれぞれ前記下部プレートとの間で挟み込むように設けられた一対の上部プレートとを備えており、
前記可動プレートには、下方に突設され、該可動プレートを前記下部プレート上で滑動可能に支持するための滑動支持部材が設けられ、
一方の上部プレートに一端部を、他方の上部プレートに他端部をそれぞれ水平方向に回動可能に接続し、前記一端部と前記他端部を結ぶ延設方向に伸縮自在に形成された手摺部材が、前記両建物の間に架け渡して設けられていることを特徴とするエキスパンションジョイント床構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11(a)】
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【図11(b)】
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【図11(c)】
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【図11(d)】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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