説明

エキソ体ノルボルネンモノカルボン酸エステルの製造方法

【課題】 優れた電子材料、光学材料等として使用されるノルボルネン系ポリマーを収率良く製造することができるエキソ体のノルボルネンモノマーを提供すること。
【解決手段】 エンド体ノルボルネンモノカルボン酸エステルに塩基性触媒を作用させ、エキソ体ノルボルネンモノカルボン酸エステルに異性化させる。塩基性触媒としては、金属アルコキシドを用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエキソ体ノルボルネンモノカルボン酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ノルボルネンなどの脂環構造を有するモノマーを原料とするポリマーは透明性、耐熱性、寸法安定性などの物理的、化学的特性に優れていることが知られている。さらにヒドロキシル基またはカルボキシル基やエステル基などの極性官能基を持つノルボルネンポリマーは近年、光学・電子材料分野にて優れた素材として用いられている。
【0003】
ところで1置換ノルボルネンはその5位または6位に対する官能基の付属の仕方でエンド体およびエキソ体の2つの構造異性体に分けられる。一般的にディールス・アルダー反応によって5位または6位に官能基が付属した1置換ノルボルネン誘導体を製造するとき、エンド体含有率の多いエンド−エキソ混合物が得られることが知られている。一方、エンド位に極性官能基をもつノルボルネン誘導体が触媒の重合活性を下げていることが知られており(特許文献1参照)、極性官能基を含むノルボルネンモノマーを効率良く重合するためにはエキソ体含有率の高いノルボルネンモノマーの使用が望まれている。
【0004】
このような課題を解決する方法の一つとして、160〜300℃の高温条件下でシクロペンタジエンとアクリル酸エステルとをディールス・アルダー反応させるエキソ体ノルボルネンモノカルボン酸エステルの製造法があり、例えば、ノルボルネンモノカルボン酸メチルエステルの製造方法例が開示されている。(特許文献2参照)
【0005】
しかし、本発明者の知見によると、この製造法を適用する際、高温条件下でアクリル酸エステルが重合してしまい目的物のノルボルネンモノカルボン酸エステルの収率が低下するばかりでなく、反応が爆発的に進行するため、その生成熱を制御することが難しいといった製造工程上の安全性の見地からも大きな問題がある。なお、本出願人は、先にマレイン酸ジエステルとシクロペンタジエン等を反応させて得られる脂環式シス−ジカルボン酸ジエステルに金属アルコキシドを作用させて脂環式トランス−ジカルボン酸ジエステルを製造する方法を提案している(特許文献3参照)が、置換基が一つの脂環式化合物の異性化については検討されていなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2003−128766号公報
【特許文献2】国際公開第03/035598号パンフレット
【特許文献3】特許第3741224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、様々な官能基を持ち、重合に有利なエキソ体ノルボルネンモノマーに誘導することができる、エキソ体ノルボルネンモノカルボン酸エステルを高収率で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、かかる目的を解決すべく鋭意検討をおこなったところ、塩基性触媒を用いて異性化することにより、エンド体ノルボルネンモノカルボン酸エステルをエキソ体ノルボルネンモノカルボン酸エステルに異性化させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、一般式(1):
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Rはアルキル基またはアリール基で表され、分岐構造を有してもよい)で表されるノルボルネンモノカルボン酸エステルにおいて、エンド体を塩基性触媒の存在下でエキソ体に異性化することを特徴とするエキソ体ノルボルネンモノカルボン酸エステルの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、重合時の重合触媒の活性低下を抑制して、効率的にノルボルネンポリマーを提供できるエキソ体ノルボルネンモノカルボン酸エステル収率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の前記一般式(1)で表されるエキソ体ノルボルネンモノカルボン酸エステルの製造方法について詳細に説明する。
【0014】
本発明の製造方法に用いられる前記一般式(1)で表されるノルボルネンモノカルボン酸エステルは、アクリル酸エステルとシクロペンタジエンとをディールス・アルダー反応させることにより得られる。ディールス・アルダー反応は、特に限定されず、公知の方法で行えば良い。具体的には、例えば、窒素雰囲気下、0℃〜50℃程度にて攪拌した1モルのアクリル酸エステルにシクロペンタジエン1モルを徐々に滴下し、反応させる方法が挙げられる。反応によって得られたノルボルネンモノカルボン酸エステルは減圧蒸留により容易に単離精製することができる。なお、この反応に用いられる反応装置、反応温度、蒸留温度、減圧度等の種々の条件は目的生成物に応じて適宜に公知の最適な手段を採用すればよい。
【0015】
通常、上述の反応によってアクリル酸エステルから換算して90モル%程度の収率でノルボルネンモノカルボン酸エステルのエキソ−エンド混合物を得ることができる。
【0016】
次いで得られたエンド体ノルボルネンモノカルボン酸エステルに塩基性触媒を作用させ、異性化させることによってエキソ体ノルボルネンモノカルボン酸エステルを製造する。
【0017】
用いる触媒としては、塩基性化合物であれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、金属アルコキシド類、アミン類、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属アミド類等が挙げられる。これらの触媒の中でも、入手、取り扱いの容易さなどの点から金属アルコキシド類が好ましい。金属アルコキシドとしては、例えば、一般式(3):(RO)Mで表される化合物が挙げられる。Mは金属を表し、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、マグネシウムなどのアルカリ土類金属などが挙げら、Xは1または2である。Rは、分岐構造を有していても良い炭化水素基であり、アルキル基、芳香族基などが挙げられる。アルキル基としては、特に限定されず公知のものを用いればよく、分岐構造等を有していてもよい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。芳香族基としては、例えば、フェニル基などが挙げられる。これらの中では、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドを用いることが入手のし易さの点から好ましい。なお、一般式(3)のRと、一般式(1)のRが異なる場合には、反応中にエステル交換反応が生じ、目的物の収率が低下するおそれがあるため、一般式(3)のRと、一般式(1)のRは同じものを用いることが好ましい。
【0018】
金属アルコキシド類は、あらかじめ調製したものを使用しても良く、異性化反応の系内でアルコキシドが生成するようにしてもよい。例えば、異性化反応に用いる溶媒中、または、該反応に不活性で適当な溶媒中、アルコールと金属もしくは金属水素化物とを反応させて合成し、そのままその溶液を異性化反応に使用してもよい。塩基性触媒の使用量は、通常、原料とするノルボルネンモノカルボン酸エステル1モルに対して0.01〜1.0モル程度、好ましくは0.05〜0.50モルである。塩基性触媒の使用量が、0.01モルよりも少ないと異性化の進行が遅くなる傾向があり、また、1.0モルより多くなる場合には、副反応が起きやすくなる。
【0019】
前記異性化反応には、必ずしも溶媒を用いる必要はないが、適当な溶媒を用いることにより、反応を均一に進行させることができる。使用する溶媒としては前記原料ノルボルネンモノカルボン酸エステルを溶解することができ、異性化反応に対し不活性であれば特に限定されず公知のものを使用することができる。かかる溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類等の有機溶媒などが挙げられる。これらの中では、テトラヒドロフランやジメチルホルムアミド、ジメジルスルホキシド等の非プロトン性の極性溶媒を用いることが、異性化の進行が速やかに進むため好ましい。
【0020】
異性化の反応温度は、通常−50〜100℃程度でおこなわれる。反応温度が低すぎると反応時間が長くなり、高すぎると副反応が起こるため、10〜60℃とするのが好ましい。このとき、4〜30時間程度の反応時間で異性化は完結する。
【0021】
かかる異性化によって製造されるノルボルネンモノカルボン酸エステルは、通常、エキソ体とエンド体の総量に対するエキソ体含有率が55モル%以上となる。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また、各化合物のスペクトル測定には、次の装置を使用した。
ガスクロマトフィー(GC):GC6890(アジレント社製)
【0023】
実施例1

冷却管、温度計、滴下ロート、攪拌機を備えた反応容器にアクリル酸メチル480g(5.58モル)を仕込み、37℃まで加熱昇温した後に、DCPDの熱分解で得られたシクロペンタジエン369g(5.58モル、1.0当量)を添加した。その後、内温37〜43℃で4時間反応を行い、反応粗生成物を得た。この段階でのエキソ/エンド組成比をGC分析により計算すると26/74であった。この粗生成物を室温まで冷却し、脱水テトラヒドロフラン849g、ナトリウムメトキシド30.2g(0.56モル、0.1当量)を加え、同温度にて27時間異性化反応をおこなった。異性化反応終了後、トルエン1698gを加え、イオン交換水425gで3回洗浄をおこなった。得られた有機層を精留塔を備えた蒸留装置で減圧蒸留精製を行い、圧力1.3kPa、留出温度83〜85℃のフラクションを採取する事によりノルボルネンモノカルボン酸メチルエステル(GC分析よりエキソ/エンド組成比:55/45)742gを得た(収率87.0モル%、GC純度:99.9%)。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の製造方法は、電子材料、光学材料用ノルボルネンポリマーを効率よく製造することのできるノルボルネンモノマーを製造する方法として有用である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】


(式中、Rはアルキル基またはアリール基で表され、分岐構造を有してもよい)で表されるエンド体のノルボルネンモノカルボン酸エステルを塩基性触媒の存在下で異性化してエキソ体とすることを特徴とするエキソ体ノルボルネンモノカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項2】
塩基性触媒が金属アルコキシドである、請求項1記載の製造方法。


【公開番号】特開2007−261980(P2007−261980A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−87816(P2006−87816)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】