説明

エクオールの検査方法及びエクオール産生菌の検査方法

【課題】 イソフラボノイドを含む試料中におけるエクオールの有無を容易に検査できるエクオールの検査方法、及びエクオール産生菌の有無を容易に検査できるエクオール産生菌の検査方法を提供する。
【解決手段】 エクオールの検査方法は、イソフラボノイドを含む試料中にエクオールが存在するか否かを検査する方法であり、試料を順相薄層クロマトグラフィ(順相TLC)にて分析する分析工程からなる。エクオール産生菌の検査方法は、イソフラボノイドを摂取し、一定時間後に採取される血液又は尿を用いて、腸内にエクオール産生菌が存在するか否かを検査する方法である。このエクオール産生菌の検査方法は、前記血液又は尿に由来する試料を前記分析工程にて分析する工程を含み、前記試料は前記血液又は尿中のグルクロン酸抱合イソフラボノイドを脱抱合処理することにより調製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクオールの検査方法及び該エクオールの検査方法を利用するエクオール産生菌の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆等に含まれるイソフラボノイドは、健康食品として認知され、サプリメントとしても広く供給されている。このイソフラボノイドは、エストロゲン様の活性を示すことからファイトエストロゲンとも呼ばれており、乳ガン、前立腺ガン、更年期障害、骨粗鬆症等に対する予防効果を有することが示唆されている。しかしながら、それらの効果には個人差があることも同時に示唆されている。
【0003】
このような個人差が生じる理由として、腸内フローラによるイソフラボノイド代謝系の違いが指摘されている。イソフラボノイド代謝産物の中でもエクオール(Equol)と呼ばれる物質は、大豆等に含まれるイソフラボノイドの一種のダイゼイン(Daidzein)や、レッドクローバー等に含まれるイソフラボノイドの一種のホルモノネチン(Formononetin)を、所定の腸内フローラ、即ちエクオール産生菌の働きによって代謝することにより生成される。エクオールは、ダイゼイン等よりもはるかに高いエストロゲン様活性を有することが知られている。また、エクオール産生菌保持者は、乳ガン等に対するリスクが低いとの報告もある。つまり、エクオールの産生能を高めることが、大豆イソフラボノイドを有効利用する上で非常に重要なポイントとなる。
【0004】
腸内で代謝され、体内に吸収されたイソフラボノイドの一部は、血液を介して尿中に排泄されるため、血液又は尿中のイソフラボノイドを解析することにより、腸内フローラにおけるエクオール産生菌の有無を検査することが可能となる。エクオール産生菌に関する知見は、大豆イソフラボノイドの有効利用に向けた大きな発展をもたらす。従来より、エクオールの解析には、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、高速液体クロマトグラフィ−質量分析計(LC−MS)、ガスクロマトグラフィ−質量分析計(GC−MS)などが利用されている(例えば非特許文献1参照)。
【非特許文献1】ジョハンナ W.ランペ(Johanna W.Lampe)外5名、「ふすま及び大豆蛋白を閉経前の女性が摂取しても、イソフラバンであるエクオールの尿排出を変化させない。(Wheat Bran and Soy Protein Feeding Do Not Alter Urinary Excretion of the Isoflavan Equol in Premenopausal Women)」、ジャーナル オブ ニュートリション(Journal of Nutrition)、2001 アメリカン ソサエティ フォー ニュートリショナル サイエンス(2001 American Society for Nutritional Sciences)、第131号、740〜744ページ。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
HPLC、LC−MS、GC−MS等にてエクオールを解析する際には、解析機器が高価であること、解析に熟練した技術者が必要であること、解析時間が長いこと、及び一度に解析可能な試料の数が限られることなど、多くのハードルが存在する。
【0006】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、イソフラボノイドを含む試料中におけるエクオールの有無を容易に検査することができるエクオールの検査方法、及びエクオール産生菌の有無を容易に検査することができるエクオール産生菌の検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載のエクオールの検査方法は、イソフラボノイドを含む試料中にエクオールが存在するか否かを検査するエクオールの検査方法であって、該方法は、前記試料を順相薄層クロマトグラフィにて分析する分析工程を含むことを要旨とする。
【0008】
請求項2に記載のエクオール産生菌の検査方法は、イソフラボノイドを摂取した後に採取される血液又は尿を用いて、腸内にエクオール産生菌が存在するか否かを検査するエクオール産生菌の検査方法であって、該方法は、前記血液又は尿に由来する試料を順相薄層クロマトグラフィにて分析する分析工程を含み、前記試料は前記血液又は尿中のグルクロン酸抱合イソフラボノイドを脱抱合処理することにより調製されることを要旨とする。
【0009】
請求項3に記載のエクオール産生菌の検査方法は、脊椎動物の胃腸内容物を用いて、該脊椎動物の胃腸にエクオール産生菌が存在するか否かを検査するエクオール産生菌の検査方法であって、該方法は、イソフラボノイドを含有する培地中で前記胃腸内容物を培養する培養工程と、該培養工程後の培養物に由来する試料を順相薄層クロマトグラフィにて分析する分析工程とを含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、イソフラボノイドを含む試料中におけるエクオールの有無を容易に検査することができるエクオールの検査方法、及びエクオール産生菌の有無を容易に検査することができるエクオール産生菌の検査方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のエクオールの検査方法及びエクオール産生菌の検査方法を具体化した実施形態を説明する。
実施形態のエクオールの検査方法は、イソフラボノイドを含む試料中にエクオールが存在するか否かを検査する方法であり、前記試料中におけるエクオールの有無を、極めて簡単な操作で短時間に検査することができる。このエクオールの検査方法は、前記試料を順相薄層クロマトグラフィ(順相TLC)にて分析する分析工程を含み、以下に記載するエクオール産生菌の検査や、エクオール産生菌の選抜(スクリーニング)等に応用される。
【0012】
実施形態の第1のエクオール産生菌の検査方法(以下、第1の検査方法と記載する)は、イソフラボノイドを経口摂取した後に採取される人の血液又は尿を用いて、前記イソフラボノイドを摂取した人の腸内にエクオール産生菌が存在するか否かを検査する方法である。前記イソフラボノイドを経口摂取するとは、イソフラボノイドを含む食品又は飲料品を摂食したり、イソフラボノイドを含む健康食品や薬剤(錠剤、粉末やカプセル剤等)を服用したりすることを意味する。
【0013】
エクオールは、高いエストロゲン様活性を有することから、乳ガン、前立腺ガン、更年期障害、骨粗鬆症等に対する予防効果を発揮し得る。第1の検査方法は、人の腸内フローラに前記エクオール産生菌が存在するか否かを検査することにより、乳ガン、前立腺ガン、更年期障害、骨粗鬆症等に対する罹患しやすさを把握することが可能である。ちなみに、エクオール産生菌を腸内に保有している人は、日本人の半分程度であると言われている。エクオールは、下記化1に示される構造を有するイソフラボノイドアグリコンである。
【0014】
【化1】

イソフラボノイドアグリコンは、糖分子を持たないイソフラボノイドの総称であり、植物中のイソフラボノイドの多くを占める配糖体イソフラボノイドの加水分解により生成される。大豆由来のイソフラボノイドアグリコンとしては、ゲニステイン(genistein)、ダイゼインが広く知られ、レッドクローバー由来のイソフラボノイドアグリコンとしては上記二種に加えビオカニンA(Biochanin A)、ホルモノネチンが広く知られている。エクオールは、腸内フローラの作用により、配糖体イソフラボノイドの一種であるダイジン(daidzin)やオノニン(Ononin)から、ダイゼインやホルモノネチン、更にはジヒドロダイゼイン(dihydrodaidzein)を経由して生成される。前記腸内フローラには、ジヒドロダイゼインからO−デスメチルアンゴレンシン(O-desmethylangolensin)を生成させるものも存在している。
【0015】
腸内で代謝されたイソフラボノイドの一部(エクオールを含む)は、腸管で吸収され、血液を介して尿中に排泄される。例えば、健康な成人では、イソフラボノイドを摂食してから数時間から40時間後にかけて尿中に前記イソフラボノイドが検出され、そのうちエクオール検出のピークは30〜40時間程度が一般的である。従って、イソフラボノイドを摂取した人の血液又は尿を検査することにより、その人の腸内フローラの構成、即ちエクオール産生菌の有無を把握することが可能となる。なお、前記エクオール産生菌とは、人の腸内に存在するエクオール産生能を有する菌を意味し、単一の菌株のみでエクオール産生能を発揮する場合にはその菌株を指し、複数の菌株の相互作用によりエクオール産生能を発揮する場合にはそれら複数の菌株を指すものとする。なお、この第1の検査方法では、侵襲性を伴わないため、血液よりも尿を用いて検査することが好ましい。
【0016】
この第1の検査方法では、前記血液又は尿に由来する試料を順相TLCにて分析する分析工程が実施される。分析工程は、Silica Gel60 F254(メルク社)等のTLCプレートにイソフラボノイドを含む試料をアプライし、該TLCプレートよりも極性が低い展開溶媒を用いて展開する段階を含む。前記試料としては、血液(血清)又は尿中のイソフラボノイドがグルクロン酸抱合体として存在するため、それらをアグリコン化するための脱抱合処理を行ったものが使用される。
【0017】
さらに、この分析工程には、展開後のイソフラボノイドを可視化させる可視化手段を用いて、TLCプレート上の各イソフラボノイドを同定する段階も含まれる。可視化手段としては、TLCプレートに紫外線を照射しながら、該プレート上で展開されたイソフラボノイドのスポットの移動度を把握し、その移動度から各スポットに含まれるイソフラボノイドを同定することが最も簡便である。この場合、各イソフラボノイドのスポットは、特有の色に発色するケースが多いため、TLCプレート上での移動度に加えて、各スポットの色もまた同定の際のポイントとなり得る。また、前記TLCプレート上の各イソフラボノイドは、長時間の紫外線照射(紫外線を含む自然光なども含む)を受けると褐変する性質があるため、褐変後のプレートは可視光にて各スポットの位置が視認可能となる。また、前記TLCプレートをヨウ素の蒸気に晒すことにより、可視光にて各スポットが視認可能となり、さらに紫外線を照射することにより各スポットの検出感度が更に高くなる。
【0018】
さらに、この第1の検査方法では、前記分析工程の前に精製工程を実施するのが好ましい。精製工程は、前記脱抱合処理後の試料を逆相カラムクロマトグラフィにて分画することによりイソフラボノイドを精製する工程である。前記逆相カラムクロマトグラフィは、オクタデシルシリル(ODS)基を有するシリカゲル等の担体にイソフラボノイドを吸着させた後、公知の方法により、該担体から前記イソフラボノイドを溶出することにより実施される。
【0019】
実施形態の第2のエクオール産生菌の検査方法(以下、第2の検査方法と記載する)は、脊椎動物の胃腸内容物を用いて、該脊椎動物の胃腸にエクオール産生菌が存在するか否かを検査する方法である。ヒトに限らずウシ、マウスやニワトリなどの脊椎動物の胃腸内にも、エクオール産生菌の存在が示唆されている。このため、この第2の検査方法では、エクオール産生菌がヒトの腸内に存在するか否かを直接検査することができるとともに、ヒトを含む様々な脊椎動物の胃腸内に存在するエクオール産生菌をスクリーニングするために利用することができる。なお、前記エクオール産生菌とは、脊椎動物の胃腸内容物に存在するエクオール産生能を有する菌を意味し、単一の菌株のみでエクオール産生能を発揮する場合にはその菌株を指し、複数の菌株の相互作用によりエクオール産生能を発揮する場合にはそれら複数の菌株を指すものとする。
【0020】
この第2の検査方法は、イソフラボノイドを含有する培地中で前記胃腸内容物を培養する培養工程と、該培養工程後の培養物に由来する試料を順相TLCにて分析する分析工程とを含む。なお、この第2の検査方法では、脊椎動物からエクオール産生菌自体を取り出して検査するため、脊椎動物の胃腸内容物を採取する前に、該脊椎動物にイソフラボノイドを摂取させる必要はないが、摂取させても構わない。
【0021】
脊椎動物としては、ヒト、非ヒト哺乳動物及びニワトリ等の鳥類を含む脊椎動物が含まれる。非ヒト哺乳動物としては、ウシ、ヒツジ、ヤギ等の反芻動物、サル、マウス等の非反芻動物が挙げられる。ちなみに、ニワトリ等の鳥類は、非反芻動物に含まれる。反芻動物から採取される胃腸内容物としては、通常、該動物の胃から採取されるルーメン液が用いられる。非反芻動物から採取される胃腸内容物としては、通常、該動物の腸から採取される便が用いられる。
【0022】
培養工程は、イソフラボノイドを含有する培地中で前記胃腸内容物由来の微生物を培養する段階を含む。この培養工程では、イソフラボノイドを代謝する菌の有無に関わらず微生物の増殖が起こるが、前記微生物中にエクオール産生菌が含まれている場合には、培養工程によって得られた培養物中にエクオールが産生されている。
【0023】
分析工程は、上記第1の検査方法における分析工程と同様に実施される。但し、第2の検査方法における分析工程では、前記培養物に由来する試料が用いられるが、該培養物中のイソフラボノイド(エクオールを含む)は、通常、グルクロン酸抱合体として存在していないため、脱抱合処理を実施する必要はない。また、この第2の検査方法においても、分析工程の前に上記精製工程を実施するのが好ましい。
【0024】
前記の実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 実施形態のエクオールの検査方法、並びに、第1及び第2のエクオール産生菌の検査方法はいずれも、試料中に含まれるイソフラボノイドを順相TLCにて分析することにより実施される。TLCは、HPLC、LC−MS及びGC−MSと比較して、解析機器が安価であること、解析に熟練した技術者が必要でないこと、解析時間が短いこと、及び一度に解析可能な試料の数が多いことなど、多くの利点を有する。特に、これらの従来技術では、1試料あたり約30分の検査時間がかかるうえ、同時に複数の試料を検査することが困難であるため、多数の試料の解析には非常に多くの時間がかかる。さらには、装置の安定化のため定期的に装置を稼働させる必要もある。これに対し、本実施形態の検査方法は、TLCを実施するための展開槽と紫外線照射装置を用意するだけの初期投資で済み、さらにランニングコストもTLCプレート及び展開溶媒にかかる費用のみと安く抑えられる。さらに、現在市販されている装置を用いる場合でも、一度に約20種類の試料を一時間半程度で解析できることから、多数の試料の解析も迅速に実施することができる。
【0025】
このため、本実施形態の第1の検査方法は、人の腸内フローラの構成を把握することを極めて手軽に実施することが可能となるため、乳ガン、前立腺ガン、更年期障害、骨粗鬆症等に対する予防措置を講じやすくなるなど、人類の健康に関する多くの貢献が可能となる。また、本実施形態の第2の検査方法は、人の腸内フローラの構成を把握することを極めて手軽に実施することが可能であるうえ、人及び他の動物の胃腸内容物中からエストロゲン様活性に重要なエクオール産生菌を選抜することにも有用である。従って、これら第1及び第2の検査方法は、前記予防措置を図るための今後の研究開発の進展に大きく貢献し得る。
【0026】
・ 血液、尿中及び胃腸内容物の培養物に含まれるイソフラボノイドには、ゲニステインが存在しているケースが多い。ゲニステインは、大豆に含まれる主要な配糖体イソフラボノイド、ゲニスチン(genistin)の加水分解によって得られるが、逆相TLCの担体上ではエクオールと同等の展開移動度にスポットが検出される(図1(a)参照)ため、エクオールの検出に際しては大きなノイズとなる。これに対し、本実施形態のエクオールの検査方法は、本発明者らの鋭意研究の結果、エクオールを含むイソフラボノイドの検査に順相TLCを用いることにより、ゲニステインを含む主要なイソフラボノイドと、エクオールとをTLCプレート上で確実に差別化できることを確認した(図1(b)参照)。これにより、ノイズのない確実なエクオールの検査を実施することが可能となった。
【実施例1】
【0027】
(比較例1) 図1(a)に示す逆相TLCプレート(メルク社製のRP−18 F254s)に、レーン1:エクオール(LCラボラトリーズ社製のE−5880)、レーン2:ジヒドロダイゼイン(トロントリサーチケミカルズ(Toronto Research Chemicals)社製のD449000)、レーン3:ダイゼイン(東京化成社製のD2668)及びゲニステイン(シグマ社製のG6649)の混合物をそれぞれアプライし、展開溶媒(アセトニトリル/水/酢酸=40/60/1)で展開した後、プレートを風乾した。プレートを紫外線(312nm)照射しながら写真撮影した結果を図1(a)に示す。なお、図1(a)〜(c)及び図2(a)、(b)に示す各矢印は、エクオールのスポットの位置を示す。
【0028】
(実施例1) 図1(b)、(c)に示す順相TLCのプレート(メルク社製のSilica Gel 60 F254)に、レーン1:エクオール、レーン2:ゲニステイン、レーン3:ジヒドロダイゼイン、レーン4:ダイゼインをそれぞれアプライし、展開溶媒(トルエン/アセトン=3/2)で展開した後、プレートを風乾した。プレートを紫外線(312nm)照射しながら写真撮影した結果を図1(b)に示す。また、図1(b)の写真撮影後に、同じプレートを可視光下で写真撮影した結果を図1(c)に示す。
【0029】
図1(a)、(b)に示すように、逆相TLCを用いた解析法では、エクオールとゲニステインとが同等な展開移動度を示していたが、順相TLCを用いた解析法では、ゲニステインを含む他の主要な大豆イソフラボノイドと、エクオールとを確実に分離できることが示された。さらに、図1(b)に示される順相TLCプレート上において、各イソフラボノイドのスポットは、特有の色を発色していることも確認された。また、図1(c)より、TLCプレート上で展開された各イソフラボノイドは、紫外線の照射によりTLCプレート上で褐変し、可視光でも解析及び同定が可能であることが示された。
【実施例2】
【0030】
1〜36歳の健康な被験者7名(男4名、女3名)にそれぞれ、通常の食事に加えて大豆加工食品(豆腐、納豆等)約100gを摂食させた後、約36時間後にそれぞれ尿を採取した。各尿0.9mlに、アスコルビン酸ナトリウム5mg、1.5Mの酢酸ナトリウム水溶液(pH4.1)0.1ml、及びβ−グルクロニダーゼ(シグマ社製のG−0876、97.6ユニット/μl)2μlを加え、37℃で一晩処理することにより各試料を得た。
【0031】
次に、前記β−グルクロニダーゼ処理された各試料について精製工程を実施した。即ち、メタノールで懸濁した200μlの逆相シリカゲル(和光社製のワコーゲル50C18)をスピンカラム(バイオラッド社製のMicro Bio−Spin Chromatography Columns)に充填し、10000rpmで1分間遠心分離することにより、カラム内からメタノールを除去した。その後、該カラム内を500μlの精製水で置換した。このカラムに前記各試料1.0mlを2回に分けてアプライした後、500μlの精製水でカラム内を洗浄した。続いて、500μlの30%メタノールでカラム内を3回洗浄した後、メタノール500μlでカラム内からイソフラボノイドを溶出させた。得られた溶出液を濃縮乾燥した後、その溶出液中の溶質を少量のメタノールに再溶解させた。
【0032】
次に、精製工程後のサンプルについて分析工程を実施した。即ち、前記精製工程後の各試料を図2(a)に示す順相TLCプレートのレーン1〜7にそれぞれアプライし、展開溶媒(トルエン/アセトン=3/2)で展開した後、該プレートを風乾した。プレートを紫外線(312nm)照射しながら写真撮影した結果を図2(a)に示す。
【0033】
図2の両端に見られる大きなスポット(E)は、展開されたエクオール標準品のスポットである。レーン2、3および6では、エクオールが検出されており、これらの試料提供者がエクオール産生菌保持者であることが示された。よって、尿の解析においては、逆相シリカゲルスピンカラムを用いることにより、試料からのイソフラボノイドの抽出を容易に行うことができ、さらに上記順相TLC法で解析することにより容易にその成分を解析することができた。
【実施例3】
【0034】
実施例2でエクオール産生菌保持者と判明した人から提供された便、及びウシのルーメン液(胃の内容物)をダイゼイン(1mg/100ml)含有BHI培地(DIFCO社)を用いて37℃で5日間嫌気培養することにより培養工程を実施した。次に、前記培養工程後の培養物(培養液)を用いて、実験例2と同様に精製工程を実施した後、実施例2と同様に分析工程を実施した。この分析工程では、図2(b)に示す順相TLCプレートに、レーン8:便の培養物、レーン9:ルーメン液の培養物、レーンE:エクオール標準品をそれぞれアプライした。その結果、全てのレーンでエクオールが検出された。従って、人の便の培養物を用いることによりエクオール産生菌の存在を確認することができ、さらに便やルーメン液を用いることで他の動物でもエクオール産生菌の存在を確認することができた。
【0035】
なお、本実施形態は、次のように変更して用いることも可能である。
・ 同じ試料について、順相TLC及び逆相TLCを併用して分析すること。この場合、順相TLCで得られる知見は、逆相TLCで得られる知見により検証可能となる。即ち、順相TLC及び逆相TLCの両方の知見より、エクオールの存在をより一層確実に検証することが可能となる。
【0036】
・ エクオール産生菌のスクリーニングは、例えば以下のように実施される。まず、第2の検査方法を実施し、エクオール産生菌を含む微生物の集団を得る。次に、前記微生物の集団を、寒天培地上に塗末して各微生物のコロニーを得る。なお、前記寒天培地には、イソフラボノイドが含まれていなくても構わないが、含まれていることがより好ましい。次に、得られた各コロニーについて、第2の検査方法における培養工程及び分析工程を実施することにより、エクオール産生菌をスクリーニングする。このように構成した場合、分析工程が短時間で容易に実施可能であることから、エクオール産生菌のスクリーニングを容易に実施することが可能となる。
【0037】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記分析工程の前に精製工程が実施され、該精製工程は前記試料を逆相カラムクロマトグラフィにて分画することによりイソフラボノイドを精製する工程であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のエクオール産生菌の検査方法。
【0038】
・ 前記分析工程では、順相薄層クロマトグラフィプレートに紫外線を照射するおよび/又はヨウ素蒸気に晒すことにより、該プレート上で展開されたイソフラボノイドを可視化させて分析することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のエクオール産生菌の検査方法。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)は比較例1の逆相TLCプレートに紫外線照射したときのスポットを示し、(b)は実施例1の順相TLCプレートに紫外線照射したときのスポットを示し、(c)は実施例1の順相TLCプレートに紫外線照射後、可視光で観察したときのスポットを示す。
【図2】(a)は実施例2の順相TLCプレートに紫外線照射したときのスポットを示し、(b)は実施例3の順相TLCプレートに紫外線照射したときのスポットを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソフラボノイドを含む試料中にエクオールが存在するか否かを検査するエクオールの検査方法であって、
該方法は、前記試料を順相薄層クロマトグラフィにて分析する分析工程を含むことを特徴とするエクオールの検査方法。
【請求項2】
イソフラボノイドを摂取した後に採取される血液又は尿を用いて、腸内にエクオール産生菌が存在するか否かを検査するエクオール産生菌の検査方法であって、
該方法は、前記血液又は尿に由来する試料を順相薄層クロマトグラフィにて分析する分析工程を含み、
前記試料は前記血液又は尿中のグルクロン酸抱合イソフラボノイドを脱抱合処理することにより調製されることを特徴とするエクオール産生菌の検査方法。
【請求項3】
脊椎動物の胃腸内容物を用いて、該脊椎動物の胃腸にエクオール産生菌が存在するか否かを検査するエクオール産生菌の検査方法であって、
該方法は、イソフラボノイドを含有する培地中で前記胃腸内容物を培養する培養工程と、該培養工程後の培養物に由来する試料を順相薄層クロマトグラフィにて分析する分析工程とを含むことを特徴とするエクオール産生菌の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−242602(P2006−242602A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−55058(P2005−55058)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(391016842)岐阜県 (70)
【Fターム(参考)】